JP2010172109A - 回転電機制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】回転電機制御において、回転電機の回転数が急変しても過大電流を抑制し、過電圧を防止することである。
【解決手段】ハイブリッド車両用の回転電機制御装置50は、回転電機16,18の回転数について予め定めた閾値変動値を超えて変動するか否かを判断する回転数変動判断部52と、インバータ40,42の制御として、予め定めた手順に従って正弦波電流制御モードと過変調電流制御モードと矩形波電圧位相制御モードの間で切替を行うモード切替モジュール56と、回転電機16,18の回転数が閾値変動値を超えて変動し、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードに切り替える場合に、電圧指令を演算する際に用いる回転電機回転数を、電圧指令値演算時に取得した回転数よりも小さい回転数を用いて電圧指令を演算する電圧指令演算モジュール58を含んで構成される。
【選択図】図1

Description

本発明は、回転電機制御装置に係り、特に、回転電機に接続されるインバータを正弦波電流制御モードと過変調電流制御モードと矩形波電圧位相制御モードとの間で制御を切り替える回転電機制御装置に関する。
近年、環境に配慮した自動車としてハイブリッド自動車、電気自動車および燃料自動車が注目を集めている。そして、ハイブリッド自動車は実用化に入っている。このハイブリッド自動車は、従来のエンジンに加え、直流電源とインバータとインバータによって作動する回転電機とを動力源とする自動車である。つまり、エンジンを駆動することにより動力源を得るとともに、直流電源からの直流電力をインバータによって交流電力に変換し、その変換した交流電力で回転電機を回転することによって動力源を得るものである。
ところで、ハイブリッド自動車である車両がスリップすると、路面抵抗がなくなるので同じトルクで車輪を回転させていると車輪の回転数が上昇する。トルク×回転数に出力パワーは比例するので、スリップが発生すると車輪を駆動させる回転電機において多くの出力パワーが消費される。このため、より多くの電力を回転電機に供給するように制御が行われる。
一方、スリップ状態のあとで車輪が再び路面に接触すると、路面抵抗によって車輪の回転数が急激に低下する。そして、車輪の回転数の低下に従って回転電機の回転に必要な出力パワーが少なくなるので、そのままではインバータへの供給電力が過多となる。
例えば、特許文献1には、車両の制御装置として、車両が同じトルクで走行してスリップすると車輪の回転数が上がるので電力消費が多くなり、その後グリップ状態に戻ると車輪の回転数が急激に低下して昇圧コンバータからインバータに供給する電力消費が過多となることが述べられている。このような場合、昇圧コンバータの目標電圧を低下させるために、ここでは、インバータからモータに流れる電流に応じて、矩形波制御から過変調制御に制御を緊急的に切り替えることが開示されている。
また、特許文献2には、モータ電流がフィードバックされる交流モータの駆動システムとして、同一のモータ電流振幅に対し出力トルクが最大となる最適な電流位相となるようにトルク指令値に応じてモータ電流指令が生成される最適効率特性線が述べられている。そして、車輪のスリップ・グリップ等により瞬間的に多量の発電が交流モータで行われたとき等の過剰な発電電力が発生したときに、交流モータでの電流損失を意図的に増大させるため、最適効率特性線上から損失増加特性線上へ電流位相を変化させるようにトルク指令に応じてモータ電流指令が生成されることが開示されている。
特開2007−20383号公報 特開2007−151336号公報
このように、スリップからグリップへ復帰する場合のように、回転電機の回転数が急変するときに、インバータへの供給電力が過多となることがある。このような場合、従来技術では、特許文献1のように、インバータへの供給電圧を低下させることが行われ、あるいは特許文献2のように、回転電機での電流損失を意図的に増大させることが行われる。前者の場合、車両のとしての駆動力が低下することになり、後者の場合、回転電機の効率が低下する。
本発明の目的は、回転電機の回転数が急変しても過大電流を抑制し、過電圧を防止できる回転電機制御装置を提供することである。他の目的は、矩形波電圧位相制御から過変調電流制御に切り替えた際に回転数が急変しても過大電流を抑制し、過電圧を防止できる回転電機制御装置を提供することである。以下の手段は、上記目的の少なくとも1つに貢献する。
本発明に係る回転電機制御装置は、回転電機に接続されるインバータについて正弦波電流制御モードと過変調電流制御モードと矩形波電圧位相制御モードとの間で制御を切り替えるインバータ制御手段と、回転電機の回転数が予め定めた閾値変動値を超えて変動するか否かを判断する回転数急変判断手段と、を備え、インバータ制御手段は、回転電機の回転数が閾値変動値を超えて変動し、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードに切り替える場合に、電圧指令を演算する際に用いる回転電機回転数を、電圧指令値演算時に取得した回転数よりも小さい回転数を用いて電圧指令を演算することを特徴とする。
また、本発明に係る回転電機制御装置において、インバータ制御手段は、回転数の変動の割合に基いて、今回の電圧指令演算時に取得した回転数である今回演算時回転数から次回の電圧指令演算時における回転数である次回演算時推定回転数を推定し、今回演算時回転数と次回演算時推定回転数との間の中間回転数を用いて、今回の電圧指令を演算することが好ましい。
上記構成により、回転電機制御装置は、回転電機の回転数が予め定めた閾値変動値を超えて変動し、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードに切り替える場合に、電圧指令を演算する際に用いる回転電機回転数を、電圧指令値演算時に取得した回転数よりも小さい回転数を用いて電圧指令を演算する。
例えば、回転電機の回転数が急変して低速となるときは、それまで矩形波電圧位相制御モードで制御していた場合、制御性のよい過変調電流制御モードに切り換わる。この際に、回転数の急減によって回転電機における逆起電圧が小さくなり、回転数の急減とあいまってq軸電圧が低くなる。ところが、このことがq軸電圧指令演算のあとで生じると、演算されたq軸電圧指令値は、必要以上に高い値となるので、q軸電流が急増する。この変化に対して追従するように電力供給制御が行われるが、次に応答性のよい正弦波電流制御モードにさらに切り替わってq軸電流をq軸電流指令値に合わせるように追従すると、この電力供給の増加分が電源回路系のコンデンサに跳ね返ってきて過電圧となる。
上記構成によれば、過変調電流制御モードに切り替わる際に、電圧指令を演算するのに用いる回転数を実際に取得した値よりも小さめの値を用いる。これによって電圧指令演算のあとで回転数が低下しても、必要以上に高いq軸電圧指令となることを抑制し、q軸電流の過大を防止し、結果的に電源回路系の過電圧を防止できる。
また、回転電機制御装置において、回転数の変動の割合に基いて、今回の電圧指令演算時に取得した回転数である今回演算時回転数から次回の電圧指令演算時における回転数である次回演算時推定回転数を推定し、今回演算時回転数と次回演算時推定回転数との間の中間回転数を用いて、今回の電圧指令を演算する。これにより、今回電圧指令演算の後で回転数の低下があっても、必要以上に高いq軸電圧指令となることを抑制し、q軸電流の過大を防止し、結果的に電源回路系の過電圧を防止できる。
本発明に係る実施の形態における回転電機制御装置が搭載されるハイブリッド車両の動力系の構成を示す図である。 本発明に係る実施の形態において、回転数が変動するときの回転電機のフィードバック制御の手順を説明するフローチャートである。 本発明に係る実施の形態において、回転電機の回転数が低下して、矩形波制御から過変調制御、正弦波制御と切り替えられるときのd軸電流、q軸電流、システム電圧の変化の様子を示す図である。 本発明に係る実施の形態において、矩形波制御から過変調制御に切り替えたときに、回転数が低下する場合のq軸電流の変動をd−q平面で説明する図である。 本発明に係る実施の形態において、q軸電流の変動を抑制するための電圧指令演算に用いられる回転電機の回転数について説明する図である。
以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、回転電機制御装置が用いられるものとして回転電機が搭載されるハイブリッド車両を説明するが、これは例示であって、正弦波電流制御モードと過変調電流制御モードと矩形波電圧位相制御モードとの間で制御を切り替える回転電機制御装置を用いるものであればよい。また、この車両には、車両には、回転電機として、モータ機能を主に用いるモータ・ジェネレータを1台、発電機機能を主に用いるモータ・ジェネレータを1台の合計2台のモータ・ジェネレータを用いるものとして説明するが、モータ機能と発電機機能とを有するモータ・ジェネレータを1台用いるものとしてもよく、3台以上用いるものとしてもよい。
また、回転電機に接続される電源回路として、蓄電装置、電圧変換器、インバータ、平滑コンデンサを含む構成を説明するが、勿論、これ以外の要素を含むものとしてもよい。例えば、システムメインリレー、低電圧用DC/DCコンデンサ等を含むものとしてもよい。
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
図1は、回転電機と回転電機制御装置が搭載されるハイブリッド車両の動力系10の構成を示す図である。この動力系10は、エンジン12と、蓄電装置32を含む電源回路30と、第1の回転電機(MG1)16と第2の回転電機(MG2)18とを動力源として備え、さらに、エンジン12と第1の回転電機16と第2の回転電機18との間でプラネタリ比である1:ρの比に基いて動力分配を行うための動力分配機構14と、動力分配機構14と第2の回転電機18との間に設けられる変速機20と、変速機20から駆動力を受け取る車輪あるいはタイヤ22と、回転電機制御装置50を備えて構成される。
この中で、エンジン12、動力分配機構14、変速機20、車輪またはタイヤ22は、ハイブリッド車両等によく用いられる要素であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
第1の回転電機(MG1)16と第2の回転電機(MG2)18は、車両に搭載されるモータ・ジェネレータ(MG)であって、電源回路30の蓄電装置32から電力が供給されるときはモータとして機能し、エンジン12による駆動時、あるいは車両の制動時には発電機として機能する3相同期型回転電機である。
ここで、第1の回転電機(MG1)16は、エンジン12によって駆動されて発電機として用いられ、発電された電力をMG1側のインバータ40、電圧変換器36を介して蓄電装置32に供給するものとして用いられる。また、第2の回転電機(MG2)18は、車両走行のために用いられ、力行時には蓄電装置32から直流電力の供給を受けて電圧変換器36、MG2側のインバータ42を介して変換された交流電力によってモータとして機能して車両のタイヤ22を駆動し、制動時には発電機として機能して回生エネルギを回収し、MG2側のインバータ42、電圧変換器36を介して蓄電装置32に供給するものとできる。
電源回路30を構成する蓄電装置32は、充放電可能な高電圧用2次電池である。蓄電装置32としては、例えば、約200Vの端子電圧を有するリチウムイオン組電池あるいはニッケル水素組電池、またはキャパシタ等を用いることができる。
電圧変換器36は、蓄電装置32とインバータ40,42の間に配置され、電圧変換機能を有する回路である。電圧変換器36としては、リアクトルと回転電機制御装置50の制御の下で作動するスイッチング素子等を含んで構成することができる。電圧変換機能としては、蓄電装置側の電圧をリアクトルのエネルギ蓄積作用を利用して昇圧しインバータ40,42側に供給する昇圧機能と、インバータ側からの電力を蓄電装置32側に降圧して充電電力として供給する降圧機能とを有する。昇圧機能に着目するときは、電圧変換器36を昇圧回路と呼ぶことができる。
蓄電装置32と電圧変換器36の間に設けられる蓄電装置側平滑コンデンサ34と、電圧変換器36とインバータ40,42の間に設けられるインバータ側平滑コンデンサ38は、それぞれ、蓄電装置32側およびインバータ40,42側の電圧、電流の変動を抑制し平滑化する機能を有する。電圧変換器36の蓄電装置32側は低電圧側、インバータ40,42側は高圧側であるので、蓄電装置側平滑コンデンサ34を低圧側コンデンサ、インバータ側平滑コンデンサ38を高圧側コンデンサと呼ぶこともできる。インバータ側平滑コンデンサ38の両端電圧Vは、回転電機16,18を作動させるときのインバータ40,42の入力直流電圧であり、これはシステム電圧と呼ばれることが多い、
インバータ40,42は、交流電力と直流電力との間の電力変換を行う回路である。インバータ40,42は、回転電機制御装置50の制御の下で作動する複数のスイッチング素子を含んで構成される。MG1側のインバータ40は、第1の回転電機16を発電機として機能させるときに、第1の回転電機16からの交流三相回生電力を直流電力に変換し、蓄電装置32側に充電電流として供給する交直変換機能を有する。また、MG2側のインバータ42は、車両が力行するために第2の回転電機18を電動機として機能させるときは、蓄電装置32側からの直流電力を交流三相駆動電力に変換し、第2の回転電機18に駆動電力として供給する直交変換機能と、車両が制動されるとき、逆に回転電機18からの交流三相回生電力を直流電力に変換し、蓄電装置32側に充電電流として供給する交直変換機能とを有する。
回転電機制御装置50は、回転電機16,18に関連する各要素の作動を全体として制御する機能を有する。かかる回転電機制御装置50は、車両の搭載に適した制御装置、例えば車載用コンピュータによって構成することができる。回転電機制御装置50を1つのコンピュータで構成することもできるが、必要な処理速度が各構成要素によって異なること等を考慮し、複数のコンピュータにこれらの機能を分担させることもできる。例えば、2つの回転電機16,18の作動を制御する機能をMG−ECUに分担させ、電源回路30の作動を制御する機能をPCU(Power Control Unit)に分担させるものとしてよい。また、回転電機制御装置50の機能を車両に搭載される別のコンピュータの機能としてもよい。例えば、ハイブリッドCPUの機能に回転電機制御装置50の機能を含ませるものとできる。
図1において、回転電機制御装置50は、これらの機能のうち、特に回転電機制御機能として、回転電機16,18の回転数が急変するときに、回転電機16,18が過電流となることを抑制し、電源回路30の各要素等が過電圧となることを抑制するための機能を有する部分が示されている。すなわち、回転電機制御装置50は、回転電機16,18の回転数について予め定めた閾値変動値を超えて変動するか否かを判断する回転数変動判断部52と、インバータ40,42の制御として、予め定めた手順に従って正弦波電流制御モードと過変調電流制御モードと矩形波電圧位相制御モードの間で切替を行うモード切替モジュール56と、回転電機16,18の回転数が閾値変動値を超えて変動し、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードに切り替える場合に、電圧指令を演算する際に用いる回転電機回転数を、電圧指令値演算時に取得した回転数よりも小さい回転数を用いて電圧指令を演算する電圧指令演算モジュール58を含んで構成される。
これらの機能は、ソフトウェアを実行することで実現でき、具体的には、回転電機制御プログラムを実行することで実現できる。これらの機能の一部をハードウェアによって実現するものとしてもよい。
上記構成の作用、特に回転電機制御装置50の各機能について以下に詳細に説明する。なお、2つの回転電機16,18において、回転数の急変が生じやすいのは、第2の回転電機(MG2)18の方であるので、以下では、第2の回転電機(MG2)18、MG2側のインバータ42に代表させて、その回転数の急変の際の制御等について説明する。
最初に、正弦波電流制御モード、過変調電流制御モード、矩形波電圧位相制御モードについて説明する。
正弦波電流制御モードと過変調電流制御モードとは、電流フィードバック制御であり、電圧指令と搬送波(キャリア)とを比較することでパルス幅変調(Pulse Width Modulation:PWM)パターンを回転電機18に出力する制御である。一方、矩形波電圧位相制御モードは、電気角に応じて1パルススイッチング波形を回転電機18に出力する制御であり、電圧振幅は最大値に固定され、位相を制御することでトルクをフィードバック制御している。
正弦波電流制御モード、過変調電流制御モード、矩形波電圧位相制御モードの3つのモードの間の切替は、変調率、あるいは変調率に相当する電圧指令振幅によって行われる。変調率とは、インバータの出力電圧に対する信号振幅の比である。正弦波と三角波の比較によるPWM方式の場合は、変調率が{(3)1/2}/2{(2)1/2}=0.61であり、矩形波を信号振幅とするときの変調率が{(6)1/2}/π=0.78である。
このように、回転電機18を高出力にするには、変調率を大きくできる矩形波電圧位相制御の方が向いている。一方で、正弦波電流制御モード、過変調電流制御モードにおいては、PWM技術によって形成される擬似正弦波を用いるので、矩形波電圧位相制御モードに比べ、応答を速くすることができる。これらのことから、低速領域では、正弦波電流制御モード、中速領域では過変調電流制御モード、高速領域で矩形波電圧位相制御モードを用いることが好ましい。
したがって、車両において、スリップ状態からグリップ状態に戻るときの場合のように回転数が低下して低速領域となる場合には、矩形波電圧位相制御モードにあればこれを過変調電流制御モードに切り替え、過変調電流制御モードにあればこれを正弦波電流制御モードに切り替えられる。なお、以下では、場合によって、矩形波電圧位相制御モードのことを、矩形波制御とし、過変調電流制御モードのことを、過変調制御とし、正弦波電流制御モードのことを、正弦波制御として呼ぶことにする。
次に、回転電機18のフィードバック制御に関連してベクトル制御について説明する。回転電機のフィードバック制御としては、交流量であるU相電流IU、V相電流IV、W相電流IWについてその指令値にその実測値あるいは計算推定値をフィードバックし、その偏差をゼロに近づける各相PI制御方式が知られている。これに対し、ベクトル制御は、直流量であるd軸電流Id、q軸電流Iqについてその指令値にその実測値あるいは計算推定値をフィードバックし、その偏差をゼロに近づける方式である。各相PI制御方式は、交流電流指令の周波数が高周波となるが、ベクトル制御方式はそのようなことがない。
回転界磁型の3相同期型電動機に用いられるベクトル制御では、回転子の磁極が形成する磁束の方向がd軸にとられ、d軸に直交する軸がq軸に取られる。dq平面は、このd軸とq軸とを直交する座標軸として構成される平面である。
ここで、回転電機18のd軸インダクタンスをLd、q軸インダクタンスをLq、巻線抵抗をR、電気角速度をω、逆起電力定数をψ、d軸電流をId、q軸電流をIq、d軸電圧をVd、q軸電圧をVqとすると、回転電機の理論式は以下のように示すことができる。
すなわち、d軸電圧Vdは、Vd=R×Id−ω×Lq×Iqで与えられる。また、q軸電圧Vqは、Vq=R×Iq+ω×Ld×Id+ωψで与えられる。また、回転電機18の極数をpとして、トルクτは、τ=pψIq+p(Ld−Lq)Idqで与えられる。
このような理論式に基き、回転電機のベクトル制御では、回転電機に対するトルク指令が与えられると、これをd軸電圧指令、q軸電圧指令、およびd軸電流指令、q電流指令に換算する。そして、回転電機のフィードバック制御としては、上記のように、d軸電流指令、q電流指令に対し、それぞれd軸電流実測値あるいは計算推定値、q軸電流実測値あるいは計算推定値がフィードバックされる。
以上で、回転電機18の3つの制御モードの内容と、ベクトル制御の内容が説明されたので、次に、回転電機18のグリップ状態において回転数が変動するときの制御の内容を説明する。図2は、グリップ状態において回転数が変動するときの回転電機18のフィードバック制御の手順を説明するフローチャートであり、図3から図5は、図3の手順の内容を説明する図である。
特に図3は、回転電機18の回転数が低下して、矩形波制御から過変調制御、正弦波制御と切り替えられるときのd軸電流、q軸電流、システム電圧の変化の様子を示す図である。図4は、矩形波制御から過変調制御に切り替えたときに、回転数が低下する場合のq軸電流の変動をd−q平面で説明する図である。図5は、q軸電流の変動を抑制するための電圧指令演算に用いられる回転電機18の回転数について説明する図である。
回転電機18において、スリップ状態からグリップ状態に移ると、回転数が低下して低速領域となる。そして、予め定めた切替基準に達すると、高速領域の矩形波制御から、より応答性のよい過変調制御に切り替わる(S10)。この切替は、回転電機制御装置50のインバータ制御部54のモード切替モジュール56の機能によって実行される。
過変調制御に切り替わると、回転数変動量が算出される(S12)。具体的には、制御モードが切り替わる直前の回転電機18の回転数を基準回転数として、時々刻々の回転数と基準回転数との偏差を回転数変動量として算出される。回転電機18の回転数は、適当な回転数検出手段によって検出され、検出データが適当な信号線で回転電機制御装置50に伝送されるので、これを取得して回転数変動量が算出される。
そして、算出された回転数変動量が予め定めた閾値変動値Arpmを超えるか否かが判断される(S14)。この手順は、回転電機制御装置50の回転数変動判断部52の機能によって実行される。回転電機18に回転数変動が生じると、トルク指令値が一定のままとして、q軸電流が変動することが生じ得るので、閾値変動値Arpmとしては、予め回転数変動とq軸電流の増加との関係を求め、q軸電流の増加が、通常の制御許容範囲を超える場合に対応する回転数を閾値変動値Arpmとすることができる。
例えば、通常の制御において、q軸電流の変動幅を±5%として、これに対応する回転数変動が基準回転数を5,000rpmのときに50rpmであるとすると、閾値変動値Arpm=50rpmと設定することができる。これらの数値は説明のための1例であって、勿論、これ以外の値に閾値変動値Arpmを設定することができる。
S14の判断が肯定されると、次に、モード切替経過時間が予め定めた設定経過時間Bms(ミリ秒)未満であるか否かが判断される(S16)。換言すれば、閾値変動値Arpmは、設定経過時間Bmsの間に変動する回転数に対して比較されることになる。設定経過時間Bmsは、q軸電流変動が回転電機18の電流変動の大部分を占めるとして、閾値変動値Arpmに対応するq軸電流許容変動値とBmsとの積で求まる電荷量Qと、インバータ側平滑コンデンサ38の容量値とに基いて設定される。
例えば、インバータ側平滑コンデンサ38の容量値が小さいときは、電荷量Qによって生じる過電圧が大きくなる。したがって、インバータ側平滑コンデンサ38における許容
過電圧と、インバータ側平滑コンデンサ38の容量値と、上記の閾値変動値Arpmに対応するq軸電流許容変動値とBmsとの積で求まる電荷量Qとに基いて、設定経過時間Bmsが設定される。一例を上げると、設定経過時間Bmsを数ms程度とすることができる。
S16の判断が肯定されるとS18の手順に進むが、従来技術ではS18の手順が行われない。そこで、図3、図4を用いて、S18の手順が行われない従来技術の場合の状況を説明する。図3は、横軸に時間を取り、縦軸に電源回路30のシステム電圧、回転電機18の回転数、回転電機18のd軸電流、回転電機18のq軸電流の変化を示す図である。回転電機18の回転数は、実測生データである生値と、フィルタ処理を行ってある程度平滑化した後のフィルタ値とが示されている。時間は、矩形波制御から過変調制御に切り替わる時点を中心に取られている。なお、図3において、システム電圧の大小を示す方向と、回転数、d軸電流、q軸電流の大小を示す方向とを逆向きとして示してある。
図3に示されるように、回転電機18が当初矩形波制御の状態にあって、例えばスリップ状態からグリップ状態へ移るときのように、回転数が段階的に低下してゆき、予め定めてある切替基準に合致すると、過変調制御に切り替わる。その際に、回転数変動があると、q軸電流が増加し、電流値が大幅に乱れる現象60が生じる。
そして、さらに回転数が低下してゆき、さらなる低速領域となって、予め定めた切替基準に合致すると、過変調制御からさらに追従性のよい正弦波制御に切り替わる。このとき、矩形波制御から過変調制御に切り替わったときのq軸電流の増加がq軸電流指令値と比較されてその偏差をゼロにするように、追従性のよい制御が行われる。図3では、正弦波制御に切り替わるとすぐに、q軸電流の乱れが抑制され、q軸電流指令値と一致することが示されている。
このように、過変調制御に切り替わったことによるq軸電流の増加が、正弦波制御によって一気にq軸電流指令値まで戻されると、回転電機18の作動に必要なインバータ電流値が減少することになる。したがって、余剰の電流がインバータ側平滑コンデンサ38を急充電することになり、その両端電圧であるシステム電圧Vが上昇する。図3では、正弦波制御に入った後に、システム電圧Vが上昇する現象62が示されている。このシステム電圧の上昇によって、インバータ側平滑コンデンサ38、インバータ40,42が過電圧となることが生じる。
このように、従来技術によれば、矩形波制御から過変調制御に切り替わり、その際に回転変動、具体的には回転数の低下があると、回転電機18のq軸電流が増加し、電流値が乱れる。そして、過変調制御から追従性のよい正弦波制御に切り替わると、q軸電流の増加による過大な電流によって消費過多となっていた電力が、インバータ側平滑コンデンサ38に跳ね返ってくるため、システム電圧Vが急上昇する。つまり、ここでは、正弦波制御に切り替わるときに、増大していたq軸電流が一気に減少することで電力過多となり、これによって過電圧が生じる。
矩形波制御から過変調制御に移る際にq軸電流が増加する様子をd−q平面を用いて図4で説明する。図4は、横軸にd軸電流・電圧をとり、これに直交する縦軸にq軸電流・電圧をとり、現在の電圧指令ベクトル63、現在の電流指令ベクトル64、q軸電圧成分の変化の現象65、電流指令ベクトルの変化の現象66を示したものである。
回転電機18のフィードバック制御では、予め定めた制御サイクルタイムごとにd軸電圧指令、q軸電圧指令が演算されて更新される。つまり、制御サイクルタイムの間隔で設定された制御タイミングで、電圧指令演算が繰り返し行われる。
いま、1つの制御サイクルタイムの間で、回転電機18の回転数が変動したとする。具体的には、現在の制御タイミングのあと、次の制御タイミングまでの制御サイクルタイムの間に、回転電機18の回転数が低下したとする。ベクトル制御の説明で述べたように、d軸電圧Vdは、Vd=R×Id−ω×Lq×Iqで与えられ、q軸電圧Vqは、Vq=R×Iq+ω×Ld×Id+ωψで与えられ、また、トルクτは、τ=pψIq+p(Ld−Lq)Idqで与えられる。
これらの式、特にq軸電圧Vqの式から、回転電機18の回転数が低下した場合、q軸電圧Vqの電流に依存しない逆起電圧ωψが減少することがわかる。図4では、逆起電圧が低下する現象65が示されている。また、回転数が低下するのでωも小さくなり、q軸電圧Vqが低下する。
このq軸電圧Vqの低下は、現在の制御タイミングのあとに生じているので、現在のq軸電圧指令は、これを反映していない。つまり、現在の制御タイミングで生成されたq軸電圧指令は、必要以上に高い電圧値となっている。これにより、q軸電流が急増することになる。図4では、電流ベクトルの変化が示されており、ここでは、特にq軸電流が急増する現象66が示されている。
このように、矩形波制御から過変調制御に移る際に、制御サイクルタイムの間に、回転電機18の回転数が低下した場合には、q軸電圧指令が必要以上に過多となり、q軸電流が増加することになる。
再び図2に戻り、矩形波制御から過変調制御に移り(S10)、回転数変動が閾値変動値を超え(S14)、モード切替経過時間が設定経過時間未満である(S16)場合にはS18に進む。そして、ここでは、従来技術と異なり、今回の制御タイミングと次回の制御タイミングとの間の中間における回転電機18の回転数を推定することが行われる(S18)。
その様子を図5に従って説明する。図5の横軸は時間、縦軸は回転電機18の回転数に関する値である。ここでは、回転電機18の実際の回転数の変化特性70が実線で示されている。横軸は、前回の制御タイミング、今回の制御タイミング、次回の制御タイミングに渡る時間帯で示されている。そして、前回の制御タイミングのときの実際の回転数72と、今回の制御タイミングのときの実際の回転数74を用いて回転数変動推定線76が求められる。この回転数変動推定線76に基づく次回の制御タイミングにおける推定回転数78は、必ずしも次回の制御タイミングにおける実際の回転数79と一致しない。
そして、回転数変動推定線76を用いて、今回の制御タイミングと次回の制御タイミングの間の任意の時間における推定回転数80を求める。任意の時間は、推定回転数80が
今回の制御タイミングにおける実際の回転数74よりも小さな値となる時間であれば、どのように設定してもよいが、例えば、今回の制御タイミングと次回の制御タイミングの間のちょうど中間の時間とすることができる。
この推定回転数80は、今回の制御タイミングにおける実際の回転数74よりは小さな値であるが、次回の制御タイミングにおける実際の回転数79よりは大きくなる。つまり、推定回転数80は、今回演算時の回転数74と次回演算時の推定回転数78との間の中間回転数である。この推定回転数80を、今回の制御タイミングのq軸電圧指令の算出に必要なωのために用いる。つまり、今回の制御タイミングにおいて算出されるq軸電圧指令は、実際に今回制御タイミングの際に認識される回転数よりも小さい回転数を用いて算出されることになる。同様に、次回の制御タイミングにおいて算出されるq軸電圧指令は、実際に次回制御タイミングの際に認識される回転数よりも小さい回転数を用いて算出されることになる。
再び図2に戻り、このようにして求められた推定回転数80を用いて、電流フィードバック演算(S20)、同期PWM演算(S21)、電圧振幅リニア補正(S24)等が行われて、d軸電圧指令とq軸電圧指令演算が実行される(S26)。これらの手順が各制御タイミングについて繰り返し行われる。
このように、現在の制御タイミングにおいて電圧指令の演算に用いる回転数を、実際に取得された回転数よりも小さな値とすることで、制御タイミングの間に回転数の低下があっても、q軸電圧指令が必要以上に高くなることを抑制し、全体として電圧の過不足が解消され、過大電流を抑制でき、最終的には過電圧を防止できる。
10 ハイブリッド車両の動力系、12 エンジン、14 動力分配機構、16,18 回転電機、20 変速機、22 タイヤ、30 電源回路、32 蓄電装置、34 蓄電装置側平滑コンデンサ、36 電圧変換器、38 インバータ側平滑コンデンサ、40,42 インバータ、50 回転電機制御装置、52 回転数変動判断部、54 インバータ制御部、56 モード切替モジュール、58 電圧指令演算モジュール、60,62,65,66 現象、63 電圧指令ベクトル、64 電流指令ベクトル、70 回転数の変化特性、72,74,79 回転数、76 回転数変動推定線、78,80 推定回転数。

Claims (2)

  1. 回転電機に接続されるインバータについて正弦波電流制御モードと過変調電流制御モードと矩形波電圧位相制御モードとの間で制御を切り替えるインバータ制御手段と、
    回転電機の回転数が予め定めた閾値変動値を超えて変動するか否かを判断する回転数急変判断手段と、
    を備え、
    インバータ制御手段は、
    回転電機の回転数が閾値変動値を超えて変動し、矩形波電圧位相制御モードから過変調電流制御モードに切り替える場合に、電圧指令を演算する際に用いる回転電機回転数を、電圧指令値演算時に取得した回転数よりも小さい回転数を用いて電圧指令を演算することを特徴とする回転電機制御装置。
  2. 請求項1に記載の回転電機制御装置において、
    インバータ制御手段は、
    回転数の変動の割合に基いて、今回の電圧指令演算時に取得した回転数である今回演算時回転数から次回の電圧指令演算時における回転数である次回演算時推定回転数を推定し、今回演算時回転数と次回演算時推定回転数との間の中間回転数を用いて、今回の電圧指令を演算することを特徴とする回転電機制御装置。
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