JP2010156585A - 抗原抗体反応を利用した標的物質検出用流路チップ - Google Patents

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正人 田中
Toshihiko Oya
利彦 大家
Masatoshi Kataoka
正俊 片岡
Kiyomoto Yashiro
聖基 八代
Hantoku Nakahara
伴徳 中原
Yuji Yamachoshi
勇次 山瓶子
Mami Hino
真美 日野
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Abstract

【課題】一度に多数、多種類の標的物質を高感度及び高精度で検出、定量可能な、標的物質検出用チップの提供。
【解決手段】標的物質を検出するためのチップであって、
該チップは、標的物質を含有する試料を通過させるマイクロ流路を有し、さらに、該マイクロ流路の一端に、試料をマイクロ流路に供給するための試料注入部を有し、
該マイクロ流路は、標的物質を抗原抗体反応により認識する検出用タンパク質を固定化した検出領域を1又は2以上有し、
検出用タンパク質を固定化する領域は、固定化前にレーザー照射がなされている、
標的物質検出用チップ。
【選択図】なし

Description

本発明は、標的物質検出用チップに関し、より詳細には、抗原抗体反応により標的物質を検出するためのチップに関する。
ヒトゲノムの解読により、ヒト遺伝子数は3万程度と推定されるに至り、この成果を元に各種遺伝病及び多因子病の治療、予防が可能になることが期待されている。ただ、ゲノムは生命の設計図であり、遺伝情報が蓄積されたものであって、多くの生命現象は、その設計図を元に細胞で生産されるタンパク質によって担われている。タンパク質は、そのほとんどが他のタンパク質、核酸分子、その他の高分子あるいは低分子化合物等と相互作用してその機能を発揮していると考えられており、生命現象の解明のため、タンパク質とその他の分子との相互作用解析が精力的に行われている。
しかしながら、各種タンパク質間、あるいはタンパク質及びその他の分子間の相互作用の種類は天文学的数字に及び、できるだけ多数を一度に感度良く検出するためのツールが望まれている。
またさらに、タンパク質とりわけ抗体はその調整に非常に手間と労力がかかり、たとえ市販されていたとしても高価であるため、できるだけ少量のタンパク質で多数の相互作用を感度良く検出することも重要である。
このような需要を解決し得ると期待され、これまでに検討されてきたものにプロテインチップがある。例えば、特許文献1(特開2005−069988)には、インクジェット法によりタンパク質溶液を液滴として固相に付着させる方法が開示されており、この方法によりタンパク質が基板上に安定に固定され且つ該タンパク質の機能・活性が失活することなく安定に保持される旨が記載されている。
また、特許文献2(特開2001−116750)にも、インクジェット法を用いた反応性材料の固定化技術が開示されている。
しかしながら、これらの技術は、測定に使用するサンプル及び試薬を減らすと、検出感度が低下するという問題点を有しており、さらなる感度及び精度の向上が求められている。
特開2005−069988 特開2001−116750
本発明は、一度に多数、多種類の標的物質を高感度及び高精度で検出、定量可能な、標的物質検出用チップを提供することを課題とする。
本発明者らは、驚くべき事に、マイクロ流路にレーザーを照射した後標的物質を認識する検出用タンパク質を固定化することにより、当該マイクロ流路に流した試料中の標的物質を高感度で検出し得ること見出した。また、レーザー照射後タンパク質固定化前に、流路を水で洗浄すれば、標的物質をさらに高感度で検出できることを見出した。そして、これらの知見をもとに、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は例えば以下の項の標的物質検出用チップ、標的物質検出方法、及び標的物質検出用キットに係るものである。
項A−1.
標的物質を検出するためのチップであって、
該チップは、標的物質を含有する試料を通過させるマイクロ流路を有し、さらに、該マイクロ流路の一端に、試料をマイクロ流路に供給するための試料注入部を有し、
該マイクロ流路は、標的物質を抗原抗体反応により認識する検出用タンパク質を固定化した検出領域を1又は2以上有し、
検出用タンパク質を固定化する領域は、固定化前にレーザー照射がなされている、
標的物質検出用チップ。
項A−2.
マイクロ流路が、チップ内部に形成された管路状の流路である、項A−1に記載の標的物質検出用チップ。
項A−3.
検出用タンパク質を固定化する領域は、固定化前にレーザー照射及び水洗浄がなされている、項A−1又はA−2に記載の標的物質検出用チップ。
項A−4.
検出用タンパク質を固定化する領域がCOC樹脂又はPMMA樹脂からなる、項A−1〜A−3のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
項A−5.
レーザー照射が、吸収長が100ミクロンメートル以下であるレーザー光によりなされる、項A−1〜A−4のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
項A−6.
マイクロ流路のもう一端に、さらに試料が貯留される試料貯留部を有する、項A−1〜A−5のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
項B−1.
標的物質を検出するためのチップであって、
該チップは、固相基板表面に形成されたマイクロ溝の開口部がカバー部材に被覆されてなるマイクロ流路を備え、該マイクロ流路は標的物質を含有する試料を通過させ、
該マイクロ流路の一端に、試料をマイクロ流路に供給するための試料注入部を有し、
さらに、該マイクロ流路は、標的物質を抗原抗体反応により認識する検出用タンパク質を固定化した検出領域を1又は2以上有し、該検出領域はマイクロ溝上に形成され、
検出用タンパク質を固定化する領域は、固定化前にレーザー照射がなされている、
標的物質検出用チップ。
項B−2.
検出用タンパク質を固定化する領域は、固定化前にレーザー照射及び水洗浄がなされている、項B−1に記載の標的物質検出用チップ。
項B−3.
固相基板がCOC樹脂基板又はPMMA樹脂基板である、項B−1又はB−2に記載の標的物質検出用チップ。
項B−4.
レーザー照射が、吸収長が100ミクロンメートル以下であるレーザー光によりなされる、項B−1〜B−3のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
項B−5.
カバー部材が、アクリルシートである、項B−1〜B−4にいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
項B−6.
マイクロ流路のもう一端に、さらに試料が貯留される試料貯留部を有する、項B−1〜B−5のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
項C−1.
試料に含まれる標的物質を検出する方法であって、
項A−1〜A−5、B−1〜B−6のいずれかに記載の標的物質検出用チップの検出領域に試料を接触させ、該検出領域内の検出用タンパク質と試料中の標的物質とを結合させる第一工程、
検出用タンパク質と結合した標的物質を検出する第二工程
を含む、標的物質検出方法。
項C−2.
第一工程と第二工程の間に、検出用タンパク質と未結合の物質を除去する工程をさらに含む、項C−1に記載の標的物質検出方法。
項D−1.
項A−1〜A−5、B−1〜B−6のいずれかに記載の標的物質検出用チップを備える、標的物質検出用キット。
本発明に係る標的物質検出チップによれば、一度に1又は2種以上の標的物質を高感度及び高精度に検出することができる。これにより、例えば従来は分析不可能であった程の少量の標的物質を、一度に複数種検出及び定量することが可能となり、タンパク質間相互作用及びタンパク質と他の分子との相互作用の解析が促進され得る。また、医療現場においても、POCT(Point Of Care Testing)検査として利用できることから、自宅やベッドサイドで病気の予防及び診断のために利用すること等ができる。
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
1.標的物質検出用マイクロ流路チップ
本発明のチップは検出用タンパク質が固定化できるものであれば、固定化するタンパク質、標的物質の検出のために使用する標識物の検出手段等に応じて、適宜設定できるが、固相基板を用いて製造するのが好ましい。固相基板のなかでも、ポリマー樹脂基板等が好適であり、特にポリマー樹脂のなかでも透明性が高いもの、例えばCOC樹脂、PMMA樹脂等が好ましく用いられる。
また、チップの大きさは特に制限されるものではないが、実験室のベンチやベッドサイド等で手軽かつ簡便に扱えるようにするためには、小型であることが好ましい。通常、縦×横が1〜20cm×1〜20cmであり、好ましくは5〜15cm×5〜15cmである。例えば、スライドグラス程度の大きさのものが好ましい。
なお、チップの厚さは、後述するマイクロ流路の深さ等を考慮し、適宜設定することができる。
本発明のチップは、1又は2以上のマイクロ流路を有する。当該マイクロ流路は、微量の試料を流す微少な流路であって、その幅が数μm以上数千μm以下、深さが数μm以上数千μm以下のものである。なお、当該マイクロ流路は、チップ表面に溝として存在してもよいが、チップ内部に管路状で存在するものであることが好ましい。
マイクロ流路の形状は特に限定されず、マイクロ流路における試料の流れに直行する面の断面形状として、例えば、円形、半円形(弦が上部)、四角形(ある1辺が上部)、三角形(ある1辺が上部)等のものであってよい。流路製造加工のし易さ、マイクロ流路が有する検出領域の製造のし易さ等を考慮すると、半円形又は四角形のものが好ましい。
また、マイクロ流路の流路軸形状は、流路に試料を流したときに試料の流れが滞ることが無い限り特に制限されず、例えば直線状、曲線状等の形状であってよいが、直線状が好ましい。最も試料の流れが滞りにくいからである。なお、流路軸とはマイクロ流路における流体(試料)の流れ方向の軸を意味する。
このようなマイクロ流路は、チップに様々な態様で存在し得る。例えば、チップ表面に形成されたマイクロ溝を、マイクロ流路とすることができる。またさらに、チップ内部に形成された管路状の流路をマイクロ流路とすることもできる。
マイクロ流路の幅及び高さは目的等により上記の範囲内で適宜設定することができるが、試料を流したときに毛細管現象により試料が流れ得る程度のものであることが必要である。マイクロ流路の幅は、10μm以上1000μm以下のものが好ましく、50μm以上500μm以下のものがより好ましい。また、マイクロ流路の高さは、10μm以上1000μm以下のものが好ましく、50μm以上500μm以下のものがより好ましい。
マイクロ流路をチップに形成する方法としては、例えば射出成形など、固相基板の微細加工に用いられる公知の方法を用いることができる。マイクロ流路がチップ表面に存在するマイクロ溝である場合は、このような公知の方法により、基板表面にマイクロ溝を作製すればよい。また、マイクロ流路がチップ内部に存在する管路状のものである場合は、基板内部を切削加工等により管路状にくり抜くなどして形成することも可能であるが、後述する検出用タンパク質の固定化を容易に行うため、例えば次のようにして形成することが好適である。すなわち、例えばまず基板表面にマイクロ溝を形成し、次に当該マイクロ溝の開口部をフィルム又は基板等のカバー部材でカバー(被覆)することにより、チップ内部にマイクロ流路を形成することができる。
ここでカバー部材としては特に限定されるものではないが、検出物質の検出に光学的手法を使用可能とするため、透光性を有するものが好ましい。また、該カバー部材の厚さは透光性を確保する点からも薄いものが好ましい。また、マイクロ流路に注入する試料溶液が漏れ出さないよう、密着性に優れるものが好ましい。例えば、PMMA製で抗原抗体反応を妨げない粘着剤の付いたシート又は基板等でできたカバー部材(例えばアクリルシート、アクリル板、PMMAシート、PMMA板、COCシート、COC板など)を、基板に形成したマイクロ溝全体にわたって貼り付けて被覆することができる。例えば、東洋インキ製造株式会社からアクリルシート(品名BT-1、アクリル33μm厚、粘着剤10μm厚)を購入して使用することができる。
なお、例えば、住友ベークライト(株)より射出成型によって好適なマイクロ溝が形成された基板が販売されており、特にBS-X2322基板等を本発明のチップの製造に好適に用いることができる。
本発明のチップが有するマイクロ流路は、標的物質を含有する試料が通過できるように構成されており、標的物質を抗原抗体反応により認識する検出用タンパク質を固定化した1又は2以上の検出領域を有する。
標的物質は、検出対象となるものであり、抗原抗体反応により検出用タンパク質と結合し得るものであれば、特に制限されるものではなく、タンパク質、核酸、糖鎖、細胞、種々の高分子化合物、低分子化合物などが例示できる。
検出領域は、マイクロ流路の検出用タンパク質を固定化する部分にレーザーを照射して照射領域を作製し、さらに当該照射領域内に検出用タンパク質を固定化して作製される。例えば、マイクロ流路を作製するにあたって基板にマイクロ溝を形成させる場合は、当該溝にレーザー照射を行い、検出用タンパク質を固定化してから、当該溝の開口部をフィルム等でカバーしてマイクロ流路を形成することができる。
照射領域を作製するために用いるレーザーの条件としては、レーザー処理後のマイクロ流路に検出用タンパク質を固定化できるものであれば、特に制限されるものではないが、マイクロ流路が形成された固相基板に対し、表面の比較的浅い範囲での光の吸収を起こすものが好ましい。例えば、固相基板が透明なポリマー樹脂でできている場合は、表面の比較的浅い範囲で光の吸収を起こすためには、紫外線又は赤外線が好ましい。具体的には、吸収長(入射した光が1/e強度になる距離)が100μm以下となる光が好ましい。
また、レーザー光の波長は例えばPMMAについては通常190〜400nm、好ましくは190〜280nmであり、フルーエンス(単位パルスの単位面積当たりのエネルギー)は通常5J/cm以下、好ましくは2J/cm以下である。また、パルス幅はレーザーのフォトン量により適宜設定できるが、通常1n秒〜1m秒、好ましくは3n秒〜1μ秒である。
用いるレーザーの種類としては、例えばArFエキシマレーザー(193nm)、XeFエキシマレーザー(351nm)、XeClエキシマレーザー(308nm)、KrFエキシマレーザー(248nm)、F2レーザー(157nm)、3倍波Nd:YAGレーザー(355nm)、4倍波Nd:YAGレーザー(266nm)、5倍波Nd:YAGレーザー(213nm)等が挙げられる。
特に、レーザーとしてArFエキシマレーザーを、基板としてCOC樹脂基板又はPMMA樹脂基板を用いて照射領域、ひいては検出領域を作製した場合は、高感度に標的物質の検出が可能である。
なお、レーザー照射後、検出用タンパク質を固定化する前に、マイクロ流路を水で洗浄することが好ましい。当該洗浄により、シグナル強度をより強く検出することができるようになる。マイクロ流路の作製に当たり、基板にマイクロ溝を形成させた後に当該溝の開口部をフィルム又は基板等のカバー部材でカバーする場合は、当該溝を水で洗浄してから検出用タンパク質を固定化すればよい。
具体的な洗浄方法としては、例えば、チップを超純水中で10秒〜10分程度超音波洗浄する方法等が好適である。
検出用タンパク質は、標的物質を抗体抗原反応により結合し得るタンパク質であれば、特に制限されず、抗原であっても、抗体であってもよい。
検出用タンパク質が抗原である場合は、当該抗原は抗体で認識され得るものであれば特に制限されず、ポリペプチドであっても抗体で認識され得るものであれば、本発明の検出用タンパク質として使用することができる。なお、ポリペプチドとはアミノ酸が数個〜数十個結合したものをいい、アミノ酸が10個以上、好ましくは15個以上結合したものは本発明の検出用タンパク質として使用し得る。
また、検出用タンパク質が抗原である場合は、標的物質は抗体であり、チップのマイクロ流路に供される試料中に、検出用タンパク質(抗原)を認識し得る標的物質(抗体)が存在する場合、抗体抗原反応が起こる。当該抗体抗原反応が起こった後、当該標的物質(抗体)に特異的に結合する標識物(例えば標的物質を特異的に認識する標識化二次抗体)を適用し、この標識物を検出することで、標的物質を検出することができる。
検出用タンパク質が抗体である場合は、標的物質は当該抗体が認識し得る抗原であり、チップのマイクロ流路に供される試料中に、検出用タンパク質(抗体)が認識しえる抗原が存在する場合、抗体抗原反応が起こる。当該抗体抗原反応が起こった後、当該標的物質(抗原)に特異的に結合する標識物(例えば標的物質を特異的に認識する標識化二次抗体)を適用し、この標識物を検出することで、標的物質を検出することができる。
標識物としては、検出用タンパク質が抗原である場合、あるいは抗体である場合の、いずれの場合においても、標的物質に特異的に結合し得る分子に標識を施したものであって、検出用タンパク質と標的物質の結合を妨げないものであれば利用することができる。例えば、前述した標識化二次抗体の他、標識化アプタマー等が挙げられる。また、この他にも、特定の標的物質に特異的に結合することがよく知られているタンパク質、核酸、化合物等に標識を施したものも、当該特定の標的物質を検出する標識物として利用可能である。
標識物に施される標識としては、例えば、通常抗原抗体反応を検出するための二次抗体に用いられる標識を用いることができ、蛍光標識、ペルオキシダーゼ標識、アルカリホスファターゼ標識、β-ガラクトシダーゼ標識、グルコースオキシダーゼ標識、ウレアーゼ
標識、ビオチン標識、ストレプトアビジン標識、マグネット粒子標識、金・金コロイド標識、放射性物質標識、量子ドット標識等が好ましく例示できる。蛍光標識に用いる蛍光物質としては、検出用タンパク質と標的物質の結合を妨げないものであれば特に制限されず、フィコビリプロテイン類、各種フルオレセイン、各種シアニン色素等、試薬会社が販売する蛍光化合物はもちろん、GFP等の蛍光タンパク質も適宜選択して使用することができる。
また、これらの標識物を検出する方法としては、用いた標識に応じて適宜選択することができ、検出方法の簡便さから蛍光標識や酵素類であればペルオキシダーゼ標識やアルカリホスファターゼ標識が特に好ましい。
なお、本発明において抗体とは、検出用タンパク質、標的物質、標識物として用いる標識化二次抗体、いずれに利用する場合おいても、抗原との結合能を有するタンパク質であれば特に制限されるものではなく、哺乳類又は鳥類由来のポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の他、人工的に作製されたキメラ抗体やヒト化抗体、可変領域を構造に有し特定の分子を特異的に認識する人工タンパク質等も、本発明における抗体として用いることができる。また、ある特定の分子に特異的結合能を有するタンパク質(例えばプロテインA、プロテインG)、アプタマー等も本発明の抗体の代わりに利用できる。
検出用タンパク質をマイクロ流路に固定化する方法としては、例えば、検出用タンパク質を、タンパク質の立体構造をできるだけ安定に保ち得る液体(例えばリン酸緩衝液、PBS等)に溶解させ、これをインクジェット方式でマイクロ流路内へ吐出する方法が挙げられる。当該方法を用いる場合は、例えば、基板に形成されたマイクロ溝へ吐出して固定化した後、フィルム又は基板等のカバー部材で当該マイクロ溝の開口部を被覆して、マイクロ流路とするのが好ましい。検出用タンパク質を溶解させた吐出用の溶液の濃度としては、使用する検出用タンパク質等に応じて適宜設定できるが、5〜500μg/mlであることが好ましく、50〜100μg/mlがさらに好ましい。また、吐出される1滴の溶液量も、使用する検出用タンパク質等に応じて適宜設定できるが、前述の好ましい検出用タンパク質濃度の溶液を吐出する場合は、0.1〜1000pl(ピコリットル)、特に0.3〜500pl、なかでも0.5〜200plであることが好ましい。このような液滴を、一点に連続的に吐出する。液が接触した領域で液中の検出用タンパク質が固定化されることになる。すなわち、液が接触した領域が検出領域となる。1つの検出領域の面積としては、0.0001〜1mm、特に0.001〜0.1mm程度であることが好ましい。
なお、特に制限されるものではないが、各検出領域は、マイクロ流路中にほぼ等間隔で存在することが好ましい。すなわち、一のマイクロ流路において、検出領域と検出領域との間の距離は、ほぼ同じであることが好ましい。
また、このようにしてタンパク質溶液を吐出した後、例えば、室温で4〜24時間静置することでタンパク質を基板に固定し、次にブロッキング液に浸して0.5〜2時間振とう後洗浄し、基板を風乾させることで、タンパク質の基板への非特異的吸着を抑える。ブロッキング液としては、スキムミルク溶液、BSA溶液、プロテインフリーの高分子ポリマーや化学合成剤等が好適である。
本発明のチップは、さらに、マイクロ流路の一端に、試料を注入するための試料注入部を有する。試料注入部への試料の注入方法は特に制限されないが、ピペット、マイクロピペット、シリンジ等、少量の溶液試料の注入に好ましい用具を用いて行い得る。
試料注入部は、検査したい試料を注入する部位であり、ここに注入された試料は、マイクロ流路へ流入するように構成されている。マイクロ流路への流入は、落下、気圧、電荷等を操作することにより行われてもよいが、特に毛細管現象により起こることが好ましい。なお、マイクロ流路へ流入した試料が、マイクロ流路を流れ各検出領域を通過するのも、例えば上述したマイクロ流路への流入と同じ方法で行われ得、特に毛細管現象により起こることが好ましい。
本発明のチップは、さらに、マイクロ流路の試料注入部と逆端に、試料貯留部を有してもよい。試料貯留部は、マイクロ流路を流れてきた試料が貯留される部位である。試料注入部に注入された試料が毛細管現象により全量又はその一部が当該部位まで流れ、貯留される。従って、試料貯留部は、マイクロ流路の端(試料注入部とは異なる端)に存在する。なお、毛細管現象によりマイクロ流路へと供給された溶液は、その後、シリンジ等を用い空気圧により試料貯留部へと排出されてもよい。試料貯留部に貯留された試料は、その後適宜回収され、再利用あるいは廃棄等され得る。当該回収方法は特に制限されないが、ピペット、マイクロピペット、シリンジ等、少量の溶液試料の回収に好ましい用具を用いて行い得る。
このように、マイクロ流路の一方の端には試料注入部が存在する。そして、もう一方の端に試料貯留部を有していてもよい。なお、試料注入部は、試料全量の注入が可能となる容積を有することが好ましい。また、試料貯留部は、試料全量の貯留が可能となる容積を有することが好ましい。通常、試料注入部及び試料貯留部は貫通していない穴であり、円筒状である場合、例えばその直径は0.5〜3mm、好ましくは1〜2mmである。穴の深さは、基板の厚み及びマイクロ流路の位置に応じて適宜設定することができる。
試料注入部及び試料貯留部は、例えば射出成形や切削加工など、固相基板の微細加工に用いられる公知の方法により、基板を貫通しない穴をマイクロ流路に接続して形成することで作製できる。また、例えば、固相基板を貫通する穴を作製し、当該穴をカバー部材でカバー(被覆)して貫通を無くすることで、試料注入部及び試料貯留部を作製することができる。
なお、上述のように、例えばまず基板表面にマイクロ溝を形成し、次に当該マイクロ溝の開口部を、フィルム又は基板等のカバー部材でカバー(被覆)することにより、チップ内部にマイクロ流路を形成することができるが、このとき基板において当該マイクロ溝の両端に貫通穴を作製しておけば、当該マイクロ溝及び貫通穴をカバー部材で被覆することで、両端に試料注入部及び試料貯留部を備えたマイクロ流路を有するチップを製造することができる。当該チップは、カバー部材側を下にして、カバー部材が試料注入部、試料貯留部、マイクロ流路の底になるようにして使用する。
カバー部材としては、例えば上述のものを使用できる。
本発明に係るチップ、例えば、基板上に形成したマイクロ溝にレーザー照射を行ってから検出用タンパク質の固定を行い、さらに当該溝をカバーフィルム等で被覆することにより製造されるマイクロ流路を有する、標的物質を検出するためのチップは、流路に親水性などを付与してタンパク質固定化効率を高めるためのポリマーコーティングがなされたチップと同等、あるいはそれ以上の検出の感度及び定量性を実現する。
また、1のマイクロ流路中に2以上の検出領域を設けることも可能であるから、例えば1のマイクロ流路中のそれぞれの検出領域において、異なった検出用タンパク質を固定化し、同一の標識で標識された標識物で検出を行えば、ある試料中に存在する複数種の検出物質を一度に検出することも可能となる。また、1のマイクロ流路中のそれぞれの検出領域において、異なった量の同一検出用タンパク質を固定化すれば、試料中の検出物質の定量的検出も可能である。
さらに、レーザー処理はドライプロセスであり、有害物の排出が非常に少なく済む。また、レーザー処理後エッチング処理を行う場合でも、レーザー照射部のみに作用することから、エッチング液の消耗もわずかであり、環境負荷も少なくてすむ。さらに、レーザー処理であれば、ポリマーコーティング処理とは異なり、必要な箇所のみに高いタンパク質固定化能を付与することができる。このため、処理対象領域以外の領域の物性等に影響を与えるおそれもなく、チップのその後の加工(例えば接着、融着等)に影響しない。
2.本発明のチップを用いた標的分子検出方法
本発明は、本発明のチップを用いて、特定の標的物質を検出する方法も提供する。
本発明のチップであれば、少量の検出用タンパク質を用いて高感度及び高精度に標的タンパク質の定量測定が可能であり、大量入手が困難な希少タンパク質を検出用タンパク質として用い、これに結合する分子(標的物質)を探索、測定するときには特に有用である。
具体的には、本発明のチップの判定領域に標的物質を含み得る試料(例えば、体液、血液、細胞破砕液、その他の抗原を含み得る溶液、等)を適用し、必要に応じて試料中の抗原抗体反応を起こさなかった分子を洗浄して除いた後、標的物質を特異的に検出し得る標識物(例えば標識化二次抗体)を用いて標的物質を定性的及び定量的に分析し得る。
本発明の標的分子検出方法は、
試料に含まれる標的物質を検出する方法であって、
本発明に係る標的物質検出用チップの検出領域に試料を接触させ、該検出領域内の検出用タンパク質と試料中の標的物質とを結合させる第一工程、
検出用タンパク質と結合した標的物質を検出する第二工程
を含む、標的物質検出方法
にかかる。
前記第一工程で用いる試料としては、標的物質の検出が望まれるものであれば特に制限されないが、標識物質を抗原抗体反応により検出用タンパク質に結合させるために、液体であることが好ましい。例えば、体液、血液、細胞破砕液等が好ましく用いられる。また、標識物質の検出が望まれるものが固体である場合、これを水やPBS等に溶解させた溶液として用いることも可能である。
また、検出領域に試料を接触させる方法としては、試料をチップの試料注入部に注入し、これが例えば毛細管現象によってマイクロ流路を流れていくことで当該接触が達成される方法が好ましい。
なお、1のマイクロ流路に2以上の検出領域がある場合も、試料が順次それぞれの検出領域上を通過し、それぞれの検出領域において当該接触が達成される。
前記第二工程では、第一工程で検出用タンパク質と結合した標的物質の検出を行う。当該検出の方法としては、標的物質を特異的に検出できるものであれば特に制限されず、例えば、標的物質に特異的に結合する標識物を適用し、当該標識物を検出することで行う検出方法が挙げられる。
なお、適用方法としては、第一工程でマイクロ流路を流れて試料貯留部に溜まった試料を除去した後、試料注入部へ標識物を含む溶液を注入し、例えば毛細管現象により当該溶液をマイクロ流路に流してそれぞれの検出領域へ到達させ、標識物を標的物質に結合させる方法が好適である。
使用する標識物としては、標的物質に特異的に結合し得、検出用タンパク質と標的物質との結合を阻害するものでなければ特に制限されず、例えば前述したように、標識化二次抗体、標識化アプタマー等を用いることができる。また、この他にも、特定の標的物質に特異的に結合することがよく知られているタンパク質、核酸、化合物等に標識を施したものも、当該特定の標的物質を検出する標識物として利用可能である。標識物に施される標識としても、例えば前述したものが好ましく用いられ得る。
なお、標的物質に特異的に結合する物質(特異的結合物質)を標的物質に適用した後、当該特異的結合物質に特異的に結合する標識物を適用することでも、本発明の標的物質の検出は行い得る。このような検出においては、例えば特異的結合物質として標的物質と結合する抗体(二次抗体)が、標識物としては当該二次抗体に特異的に結合する標識化抗体(三次抗体)が挙げられる。
また、標的物質が標識物である場合もあり得、この場合は当該標識物を検出してもよい。
標識物を検出する方法としては、前述するように、用いた標識に応じて適宜選択することができる。例えば、ペルオキシダーゼを標識物の標識として用いた場合は、適当な基質を適用し、当該基質がペルオキシダーゼと反応するのを、化学的あるいは光学的に検出することができる。このような基質は多種多様なものが販売されており、適宜選択して使用することが可能である。特に、蛍光標識物を使用すれば、酵素反応時間分を短縮でき、より迅速に標的物質を検出することが可能であり、好ましい。
なお、標的物質に標識物を適用する前(すなわち、第一工程と第二工程の間)に、検出用タンパク質と未結合の試料中の分子を除去する工程を有することが好ましい。この操作を行うことで、標識物の非特異的な結合を抑制でき、検出精度を上げることができる。検出用タンパク質と未結合の試料中の分子を除去する方法としては、当該除去が可能であり、検出用タンパク質と標的物質との結合を阻害するものでなければ特に制限されず、例えばPBS(リン酸緩衝生理食塩水)+0.05%TritonX-100を用いて洗浄する方法が挙げられる。
3.本発明のチップを備える標的分子検出用キット
また、本発明のチップをその一部として備える、抗原抗体反応検出用キットも、本発明に含まれる。このようなキットとしては、本発明のチップの他、抗原抗体反応検出実験に用いられる各種試薬を備えたものが好ましい。例えば、検出用タンパク質が抗原である場合は、緩衝液、洗浄液の他、標的物質である各動物種の抗体を特異的に認識する標識物(例えば標識化二次抗体)、及び必要であれば該標識物の標識を検出するために必要な試薬等を備えるものである。また、検出用タンパク質が抗体である場合は、緩衝液、洗浄液の他、標的物質である抗原を認識する標識物(例えば標識化二次抗体)、及び必要であれば該標識物の標識を検出するために必要な試薬等を備えるものである。
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
実施例1:標的物質検出用チップの作製
1−1:マイクロ溝を有する基板の調製
住友ベークライト(株)より、表面処理無しCOC樹脂マイクロ溝有り射出成型基板BS-X2322(サイズ:縦70mm、横30mm、厚さ1mm)を購入して検討に用いた。
当該基板のマイクロ溝は全長6cmの直線状(溝の形状:四角形、溝幅:0.3mm、溝深さ:0.1mm)であり、この両端に、円形状の貫通穴を有する(後述のように、当該両端の貫通穴は試料注入部及び試料貯留部となる)。両端の貫通穴はいずれも直径1mmの円筒状である。なお、一の基板には当該マイクロ溝が並行に4本作製されている(図1)。なお、それぞれのマイクロ溝をLane1、Lane2、Lane3、Lane4とする。
1−2:レーザー照射
次に、マイクロ溝にArFエキシマレーザー(LAMBDA PHYSIK社製LPX205i-S)を照射した。横(試料の流れと垂直な方向)450μm、縦(試料の流れ方向)1000μmの長方形の領域にレーザー照射がなされるようレーザーを設定した。(この長方形の領域を照射領域とする)。また、各照射領域間(すなわち照射領域中心から隣の照射領域中心までの間)が4mmになるよう、各照射領域はマイクロ溝に沿って等間隔に作製した。具体的には、一方の貫通穴の中心から10mmの地点を中心とする照射領域を照射出力0%でArfエキシマレーザーを照射して作製し、ここから順次中心が4mm離れた照射領域を、照射出力を順に25%、50%、75%、100%として作製した。また、もう一方の貫通穴の中心から10mmの地点を中心とする照射領域を照射出力100%でArfエキシマレーザーを照射して作製し、ここから順次中心が4mm離れた照射領域を、照射出力を順に75%、50%、25%、0%として作製した(図2)。なお、これらのレーザー照射の条件をまとめると、以下の通りである。
<レーザー照射条件>
波長:193nm
パルス幅:20ns
周波数:1Hz
マスクサイズ:横450μm,縦1000μm
Power:0%、25%、50%、75%及び100% (100%が88mWに相当)
(フルーエンスは、0%、25%、50%、75%、100%時にそれぞれ0、0.44、0.88、1.32、1.76(J/cm2)である。)
なお、Powerの変化にはアッテネータを用いた。
図3に作製された照射領域のイメージを示す。
1−3:検出用タンパク質の固定化
レーザー照射後、一方の貫通穴(試料注入部となる貫通穴)側の5つの照射領域にPICP抗体を、もう一方の貫通穴(試料貯留部となる貫通穴)側の5つの照射領域にH−FABP抗体を、それぞれ固定化した。
具体的には、まず、一方の貫通穴(試料注入部となる貫通穴)側の5つの各照射領域に対し、濃度0.1mg/mlのPICP抗体(製品名: Anti-Human Procollagen Type I C-peptide (PIP),Monoclonal (Clone PC8-7); タカラバイオ(株)社製)を含む固相液(住友ベークライト(株)社製)溶液を、インクジェット方式[ヘッド部分(クラスターテクノロジー(株)社製パルスインジェクター)、駆動回路部分(WaveBuilderTM)]を用いて200滴吐出した。また、同様にして、当該PICP抗体と同じ免疫動物種(マウス)由来で、同じくヒトのタンパク質を認識するH-FABP(製品名;Monoclonal mouse anti-human fatty acid binding protein (FABP), 10E1; HyTest社製)溶液(濃度0.1mg/ml)を、もう一方の貫通穴(試料貯留部となる貫通穴)側の5つの各照射領域に対し、200滴吐出した。なお、1滴は約92pl(ピコリットル)である。
そして、室温で4時間静置してタンパク質を照射領域に固定し、次に基板をブロッキング液(住友ベークライト)に浸して0.5〜2時間振とう後洗浄し、基板を風乾させた。
さらに、該マイクロ溝及び両端の貫通穴がカバー(被覆)されるように、アクリルシート(東洋インキ製造株式会社:品名BT-1、アクリル33μm厚、粘着剤10μm厚)を貼り付け、マイクロ流路並びに試料注入部及び試料貯留部を作製した。
このようにして作製されたチップの模式図を図4に示す。
さらに、マイクロ溝内の各照射領域に吐出された検出用タンパク質溶液(吐出直後)の写真を図5に示す。
なお、検出用タンパク質溶液を吐出され、検出用タンパク質が固定化された領域を、「検出領域」とする。
実施例2:標的物質検出用チップを用いた標的物質の測定
実施例1で作製したチップを、抗体吐出4時間室温にて放置後、ブロッキング液(住友ベークライト)をマイクロピペットにて3μLを各レーン(Lane 1〜4)の試料注入部にのせ、毛細管現象により各マイクロ試料排出部まで流すことにより、流路内部をブロッキング液で満たした。室温にて1時間静置後、流路内部の溶液をシリンジを用い空気圧で排出させた後、同様の方法で洗浄液(PBS, 0.05% Triton X-100)を流路内部に導入し洗浄を行った。当該洗浄は3回行った。
次に市販のPICP ELISAキット(製品名:PIP(Procollagen typeI C-peptide)EIA Kit(Precoated);タカラバイオ(株)社製;製品コードMK101)のプロトコールに従い、濃度640ng/ml のPICP抗原(製品名: ヒト培養細胞由来プロコラーゲン; タカラバイオ(株)社製)を、標識抗体液(製品名: ペルオキシダーゼ標識抗 PIP モノクローナル抗体; タカラバイオ(株)社製)にて6倍希釈した溶液を試料液とした。
この試料液3μLをマイクロピペットにて試料注入部にのせ、毛細管現象により各マイクロ試料排出部まで流し、流路内部を溶液で満たした。室温にて30分静置後、流路内部の溶液をシリンジを用い空気圧で排出させた後、同様の方法で洗浄液(PBS, 0.05% Triton X-100)を流路内部に導入し洗浄を行った。当該洗浄は5回行った。
さらに、ペルオキシダーゼの基質としてSuperSignal West Dura Extended Draton Substrate(PIERCE社)を用い、化学発光検出を行った。
なお、当該実験においては、試料の注入時はアクリルシート部をチップの底とした。また、化学発光検出は、アクリルシート部をチップ上部とし、アクリルシート側から発光測定を行った。当該一連の実験の流れの概要を、チップのLane1の流路軸に沿った断面図を用いて図6に示す。
ペルオキシダーゼ活性により生じた化学発光は、ATTO社Light-Capture AE-6971のCCDカメラにて検出(露光時間5分)した.また、得られた化学発光シグナル強度を、ATTO CS Analyzer software ver2.0を用いて定量化した。
CCDカメラで得られたイメージを図7に示す。また、化学発光シグナル強度を定量化し、グラフに表したものを図8に示す。なお、レーザー照射を行わない点以外は実施例1と同様にして作製したチップ(すなわち表面処理及びレーザー照射無しのチップ)、及び親水性を高める表面処理有りCOC樹脂基板(住友ベークライト(株)社製:表面処理KP57、BS−X2321)を用い、レーザー照射を行わない点以外は実施例1と同様にして作製したチップ(すなわち表面処理有り、レーザー照射無しのチップ)、を用いて、同様の実験を行った結果も、図8に示す。
図8に示されるように、レーザー照射を行って検出用タンパク質固定化を行ったチップは、表面処理無し及びレーザー照射無しのチップよりも得られたシグナル強度が高かった。また、レーザー出力を強めて作製したチップほどシグナル強度が高くなったが、レーザー出力25%であっても、比較対象として用いた表面処理有りCOC基板(レーザー照射無し)を用いて作製したチップと比較して検出シグナル強度に遜色はなく、検出に十分なシグナル強度を得られることがわかった。
実施例3:レーザー照射後の水洗浄による影響の検討
チップ作製において、レーザー照射後検出用タンパク質を固定化する前に、水でマイクロ流路内を洗浄することにより、どのような影響があるかを検討した。
3−1:マイクロ溝のを有する基板の調製
上記「1−1:マイクロ溝を有する基板の調製」と同様にして、マイクロ溝を有する基板を調製した。
3−2:レーザー照射
次に、マイクロ溝にArfエキシマレーザーを照射した。横(試料の流れと垂直な方向)450μm、縦(試料の流れ方向)1000μmの長方形の領域にレーザー照射がなされるようレーザーを設定した。(この長方形の領域を照射領域とする)。また、各照射領域の中心から中心までが5mmになるよう、各照射領域はマイクロ溝に沿って等間隔に作製した。具体的には、試料注入部の中心から10mmの地点を中心とする照射領域を照射出力25%でArfエキシマレーザーを照射して作製し、ここから順次中心が5mm離れた照射領域を、いずれも照射出力を25%としてさらに5領域作製した。さらに、このようにして作製した照射領域中最も試料注入部から離れた照射領域から10mm離れた地点にさらに照射出力を25%として照射領域を作製した。なお、レーザー照射はいずれも1shotであり、照射出力に応じたフルーエンスは上記「1−2:レーザー照射」と同様である。
3−3:検出用タンパク質の固定化
レーザー照射後、チップを超純水中に浸し、1分間超音波洗浄を行った。なお、レーザー照射までは全く同様にして作製したチップをもう1枚用意し、これはコントロールとして当該超純水洗浄は行わなかった。
超純水洗浄の後、試料注入部側から6つの照射領域にPICP抗体を、残りの1つの照射領域にH−FABP抗体を、実施例1(1−3に記載)と同様にして、それぞれ固定化した。但し、固定化においては、吐出した検出用タンパク質溶液の液滴はそれぞれ100滴とした。さらに、実施例1(1−3に記載)と同様にマイクロ溝及び両端の貫通穴をカバー(被覆)し、マイクロ流路並びに試料注入部及び試料貯留部を形成した。
このようにして検出領域が作製されたチップの模式図を図9に示す。さらに、マイクロ溝内の各照射領域に吐出された検出用タンパク質溶液(吐出直後)のイメージを図10(超純水洗浄あり)及び図11(超純水洗浄なし)に示す。
3−4:標的物質の測定
実施例2と同様の流路内ブロッキング操作を行った後、市販のPICP ELISAキット(製品名:PIP(Procollagen typeI C-peptide)EIA Kit(Precoated);タカラバイオ(株)社製;製品コードMK101)のプロトコールに従い、濃度0(レーン4)、150(レーン3)、300(レーン2)、600(レーン1)ng/ml のPICP抗原(製品名: ヒト培養細胞由来プロコラーゲン; タカラバイオ(株)社製)を、標識抗体液(製品名: ペルオキシダーゼ標識抗 PIP モノクローナル抗体; タカラバイオ(株))にて6倍希釈した溶液を試料液とし、流路内に導入した。
そして、実施例2と同様の操作を行い、ペルオキシダーゼ活性により生じた化学発光は、ATTO社Light-Capture AE-6971のCCDカメラにて検出(露光時間15分)した。また、得られた化学発光シグナル強度を、ATTO CS Analyzer software ver2.0を用いて定量化した。なお、超純水洗浄を行わなかったチップも同様に検討した。
CCDカメラで得られたイメージを図12a(超純水洗浄ありチップ)及び図12b(超純水洗浄なしチップ)に示す。また、化学発光シグナル強度を定量化し、グラフに表したものを図13に示す。
図13に示されるように、水洗浄を行ったチップの方が、行わなかったチップに比べて、シグナル強度が強くなることがわかった。なお、試料中の標的物質(本検討ではPICP)濃度が高いほど、シグナル強度の向上幅は大きくなった。
以上のことから、照射領域作製後、検出用タンパク質固定化を行う前に、照射領域を水洗浄した方が、より高いシグナル強度が得られ、感度が高いことが確認できた。さらに、どちらのチップであっても、シグナル強度を示すグラフはほぼ直線状となり(図13)、すなわち濃度に比例してシグナル強度が強くなっており、濃度の定量も高精度行えることがわかった。
マイクロ溝及び貫通穴が形成された固相基板の模式図を示す。 実施例1において作製した、チップの照射領域の模式図を示す。なお、%で示す数値は、レーザー照射出力を示しており、レーザー照射の詳細な条件は次の通りである。<照射条件>23kV 1Hz 1shot; Power 0%,25%,50%,75%,100%; マスクサイズ0.45mmx1mm; なおPower100%は88mWに相当する。また、Powerの変化にはアッテネータを用いた。 各レーザー照射出力による照射領域のイメージを示す。 実施例1で作製した、検出領域を有するマイクロ流路を備えたチップの模式図を示す。 マイクロ溝内の各照射領域に吐出された検出用タンパク質溶液を示す。 マイクロ溝及び貫通穴を備えた基板にシートを貼り付け、マイクロ流路並びに試料注入部及び試料貯留部を備える標的物質検出用チップとし、当該チップを用いて標的物質の測定を行う際の、一連の実験の流れの概要を示す。 図4に模式図を示したチップを用いて、標的物質(PICP)を化学発光シグナルにて検出したときのイメージを示す。 図4に模式図を示したチップを用いて、標的物質(PICP)を化学発光シグナルにて検出したときの、シグナル強度を表すグラフを示す。 実施例3で作製した、検出領域を有するマイクロ流路を備えたチップの模式図を示す。なお、照射領域作製のためのレーザー照射の詳細な条件は次の通りである。<照射条件>23kV 1Hz 1shot フルーエンス 0.44J/cm2 Power 25% 水洗浄がなされたマイクロ溝内の各照射領域に吐出された検出用タンパク質溶液のイメージを示す。 水洗浄がなされていないマイクロ溝内の各照射領域に吐出された検出用タンパク質溶液のイメージを示す。 検出タンパク質固定化前に水洗浄がなされた、図9に模式図を示したチップを用いて、標的物質(PICP)を化学発光シグナルにて検出したときのイメージを示す。 検出タンパク質固定化前に水洗浄がなされていない、図9に模式図を示したチップを用いて、標的物質(PICP)を化学発光シグナルにて検出したときのイメージを示す。 図9に模式図を示したチップを用いて、標的物質(PICP)を化学発光シグナルにて検出したときの、シグナル強度を表すグラフを示す。
符号の説明
1:チップ
11:マイクロ流路
12:試料注入部
13:試料貯留部
14:シート
15:検出領域

Claims (6)

  1. 標的物質を検出するためのチップであって、
    該チップは、標的物質を含有する試料を通過させるマイクロ流路を有し、さらに、該マイクロ流路の一端に、試料をマイクロ流路に供給するための試料注入部を有し、
    該マイクロ流路は、標的物質を抗原抗体反応により認識する検出用タンパク質を固定化した検出領域を1又は2以上有し、
    検出用タンパク質を固定化する領域は、固定化前にレーザー照射がなされている、
    標的物質検出用チップ。
  2. マイクロ流路が、チップ内部に形成された管路状の流路である、請求項1に記載の標的物質検出用チップ。
  3. 検出用タンパク質を固定化する領域は、固定化前にレーザー照射及び水洗浄がなされている、請求項1又は2に記載の標的物質検出用チップ。
  4. 試料に含まれる標的物質を検出する方法であって、
    請求項1〜3のいずれかに記載の標的物質検出用チップの検出領域に試料を接触させ、該検出領域内の検出用タンパク質と試料中の標的物質とを結合させる第一工程、
    検出用タンパク質と結合した標的物質を検出する第二工程
    を含む、標的物質検出方法。
  5. 第一工程と第二工程の間に、検出用タンパク質と未結合の物質を除去する工程をさらに含む、請求項4に記載の標的物質検出方法。
  6. 請求項1〜3のいずれかに記載の標的物質検出用チップを備える、標的物質検出用キット。
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