本発明のゴルフボールは、コアと、前記コアを被覆する少なくとも一以上の中間層および前記中間層を被覆するカバーを有するゴルフボールであって、前記中間層の少なくとも一片または一層が、樹脂成分として、(A)基材樹脂として、(a−1)エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の二元共重合体の金属イオン中和物、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物、または、これらの混合物からなるアイオノマー樹脂、および/または、(a−2)エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の二元共重合体、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体、または、これらの混合物からなる非イオン性樹脂と;(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルとを含有し、前記(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記(A)基材樹脂100質量部に対して1質量部〜45質量部であって、スラブ硬度(Hm)が、ショアD硬度で35〜57である高流動性中間層用組成物から形成されており、前記中間層の厚みが0.5mm〜1.6mmであり、前記カバーの厚みが0.3mm〜1.6mmであり、該カバーを形成するカバー用組成物のスラブ硬度(Hc)が、ショアD硬度で56以上であることを特徴とする。
まず、高流動性中間層用組成物について説明する。
前記高流動性中間層用組成物の樹脂成分の(A)基材樹脂として用いる「(a−1)アイオノマー樹脂」について説明する。
前記(a−1)アイオノマー樹脂は、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の二元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、または、これらの混合物からなるものである。
前記炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸などが挙げられ、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸などのメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステルなどが用いられ、特にアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。
前記エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体や、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を中和する金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価のアルカリ金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられるが、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオンが好ましく、亜鉛、マグネシウムがより好ましい。2価の金属イオンを採用することによって、得られるゴルフボールの耐久性および低温耐久性が向上するからである。
これらの中でも、本発明で使用する(a−1)アイオノマー樹脂としては、エチレンと(メタ)アクリル酸との二元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、エチレンと(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、または、これらの混合物からなるものを使用することが好ましい。なお、本願において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸、および/または、メタクリル酸を示す。
さらに、本発明で使用する(a−1)アイオノマー樹脂としては、(a−1−1)エチレンと(メタ)アクリル酸との二元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を1価の金属イオンで中和したもの、または、エチレンと(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を1価の金属イオンで中和したものと、(a−1−2)エチレンと(メタ)アクリル酸との二元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を2価の金属イオンで中和したもの、または、エチレンと(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を2価の金属イオンで中和したものとを混合してなるアイオノマー樹脂を使用することが好ましい態様である。
上述のようなアイオノマー樹脂の混合物を使用することによって、カバー用組成物の反発弾性率をより向上させることができる。前記1価の金属イオンとしては、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが好ましく、前記2価の金属イオンとしては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ベリリウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムが好ましい。またこの場合、(a−1−1)と(a−1−2)との配合割合は、(a−1−1)/(a−1−2)=20質量%〜80質量%/80質量%〜20質量%が好ましく、より好ましくは25質量%〜77質量%/75質量%〜23質量%、さらに好ましくは30質量%〜75質量%/70質量%〜25質量%である。
前記(a−1)アイオノマー樹脂中の炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率は、2質量%以上が好ましく、より好ましくは3質量%以上であり、30質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以下である。
また、前記(a−1)アイオノマー樹脂のカルボキシル基の中和度は、20モル%以上が好ましく、より好ましくは30モル%以上であり、90モル%以下が好ましく、より好ましくは85モル%以下である。中和度が20モル%以上であれば、得られるカバーの反発性および耐久性が良好になり、90モル%以下であれば、カバー用組成物の流動性が良好になる(成形性が良い)。なお、(a−1)アイオノマー樹脂のカルボキシル基の中和度は、下記式で求めることができる。
アイオノマー樹脂の中和度=100×アイオノマー樹脂中の中和されているカルボキシル基のモル数/アイオノマー樹脂中のカルボキシル基の総モル数
前記(a−1)アイオノマー樹脂の具体例を商品名で例示すると、三井デュポンポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(Himilan)(登録商標)(例えば、ハイミラン1555(Na)、ハイミラン1557(Zn)、ハイミラン1605(Na)、ハイミラン1702(Zn)、ハイミラン1706(Zn)、ハイミラン1707(Na)、ハイミランAM7311(Mg)、ハイミランAM7329(Zn)、ハイミラン1856(Na)、ハイミラン1855(Zn)など)」が挙げられる。
さらにデュポン社から市販されているアイオノマー樹脂としては、「サーリン(Surlyn)(登録商標)(例えば、サーリン8945(Na)、サーリン9945(Zn)、サーリン8140(Na)、サーリン8150(Na)、サーリン9120(Zn)、サーリン9150(Zn)、サーリン6910(Mg)、サーリン6120(Mg)、サーリン7930(Li)、サーリン7940(Li)、サーリンAD8546(Li)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、サーリン6320(Mg)、サーリン8120(Na)、サーリン8320(Na)、サーリン9320(Zn)、サーリン9320W(Zn)など)」、「HPF 1000(Mg)、HPF 2000(Mg)」が挙げられる。
またエクソンモービル化学(株)から市販されているアイオノマー樹脂としては、「アイオテック(Iotek)(登録商標)(例えば、アイオテック8000(Na)、アイオテック8030(Na)、アイオテック7010(Zn)、アイオテック7030(Zn)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、アイオテック7510(Zn)、アイオテック7520(Zn)など)」が挙げられる。なお、商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Li、Mgなどは、これらの中和金属イオンの金属種を示している。
前記高流動性中間層用組成物の樹脂成分の(A)基材樹脂として用い得る「(a−2)非イオン性樹脂」について説明する。
前記(a−2)非イオン性樹脂は、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体のカルボキシル基が中和されていないもの、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基が中和されていないもの、または、これらの混合物からなるものである。
前記炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸、α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、「(a−1)アイオノマー樹脂」を構成するものとして例示したものと同一のもの使用することができる。
これらの中でも、本発明で使用する(a−2)非イオン性樹脂としては、エチレンと(メタ)アクリル酸との二元共重合体、エチレンと(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの三元共重合体、または、これらの混合物からなるものを使用することが好ましい。
前記(a−2)非イオン性樹脂中の炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率は、2質量%以上が好ましく、より好ましくは3質量%以上であり、30質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以下である。
前記(a−2)非イオン性樹脂の具体例を商品名で例示すると、例えば、三井デュポンポリケミカル社製の「ニュクレル(NUCREL)(登録商標)(例えば、ニュクレルAN4214C、ニュクレルAN4225C、ニュクレルAN4318、ニュクレルAN42115C、ニュクレルN0903HC、ニュクレルN0908C、ニュクレルAN42012C、ニュクレルN410、ニュクレルN1035、ニュクレルN1050H、ニュクレルN2050H、ニュクレルN1108C、ニュクレルN1110H、ニュクレルN1207C、ニュクレルN1214、ニュクレルAN4221C、ニュクレルN1525、ニュクレルN1560、ニュクレルN0200H、ニュクレルAN4228C、ニュクレルN4213C、ニュクレルN035Cなど)」で市販されているエチレン−メタクリル酸共重合体、ダウケミカル社から商品名「PRIMACOR(登録商標)5990I」で市販されているエチレン−アクリル酸共重合体などを挙げることができる。
前記(A)基材樹脂としては、前記(a−1)アイオノマー樹脂または(a−2)非イオン性樹脂を単独で用いてもよいし、これらを併用してもよい。(A)基材樹脂として、(a−1)アイオノマー樹脂と(a−2)非イオン性樹脂とを併用する場合、これらの配合比は(a−1)アイオノマー樹脂/(a−2)非イオン性樹脂=1質量%〜90質量%/99質量%〜10質量%が好ましく、より好ましくは5質量%〜80質量%/95質量%〜20質量%、さらに好ましくは10質量%〜70質量%/90質量%〜30質量%である。前記配合比を上記範囲とすることにより、ゴルフボールへの成形性が向上し、特に中間層の薄肉成形が容易に行うことができる。
高流動性中間層用組成物に使用する「(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル」について説明する。
前記(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルとは、ポリグリセリン分子中の水酸基の少なくとも一部が脂肪酸によりエステル化された化合物である。なお、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルは、高流動性中間層用組成物を構成する樹脂成分には含まれない。
前記(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、下記式(1)で表されるものが好ましい。
[式中、R1、R2、R3は、同一または異なって、水素原子、または、炭素数6〜30の脂肪酸残基を表し、nは1〜20の整数を表す。なお、nが2以上の場合、複数存在するR3は、同一でも異なっていてもよい。]
このように、ポリグリセリン骨格が直鎖状構造であって、脂肪酸残基の炭素数が6〜30であれば、(A)基材樹脂との相溶性が高くなり、カバー成形後に(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルがブリードアウトしにくくなるため、塗膜密着性がより向上する。
上記式における前記炭素数6〜30の脂肪酸残基としては、例えば、ヘキサン酸残基、ヘプタン酸残基、オクタン酸残基、ペラルゴン酸残基、デカン酸残基、ラウリン酸残基、ミリスチン酸残基、パルミチン酸残基、ヘプタデカン酸残基、ステアリン酸残基、イコサン酸残基、ベヘン酸残基、リグノセリン酸残基、セロチン酸残基などの飽和脂肪酸残基;パルミトレイン酸残基、オレイン酸残基、リノール酸残基、α−リノレン酸残基、γ−リノレン酸残基、アラキドン酸残基などの不飽和脂肪酸残基などが挙げられる。これらの中でも、飽和脂肪酸残基が好ましく、より好ましくはステアリン酸残基、ベヘン酸残基である。
上記式においてnで示されるグリセリンの重合度は、2以上であれば特に限定されないが、3以上が好ましく、より好ましくは4以上であり、20以下が好ましく、より好ましくは18以下である。グリセリンの重合度を2以上20以下とすることにより、カバー成形後にブリードアウトしにくくなり、塗膜密着性がより向上する。
本発明に用いられる(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLB(Hydrophile−Lipophile Balance)が、0以上であることが好ましく、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1以上であり、10以下であることが好ましく、より好ましくは9以下、さらに好ましくは8以下である。(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBを上記範囲内とすることにより、(A)基材樹脂成分との相溶性が良くなり、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルが(A)基材樹脂成分に均一に分散するようになり、カバー用組成物の流動性がより向上する。
なお、本発明において(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは、HLB=20×{1−(S/A)}(S:ポリグリセリン脂肪酸エステルのケン化価、A:ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の酸価)で求めることができる。
前記(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ジグリセリンモノステアレート、テトラグリセリンペンタステアレート、ヘキサグリセリンペンタステアレート、デカグリセリントリステアレート、デカグリセリンデカステアレート、デカグリセリンヘプタベヘネート、ヘキサグリセリンジベヘネート、ヘキサグリセリンテトラベヘネート、ヘキサグリセリンヘキサベヘネート、ヘキサグリセリンオクタベヘネートおよびデカグリセリンドデカベヘネートよりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
前記(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルの具体例を商品名で例示すると、例えば、阪本薬品工業社の「SYグリスター DAS−7S(デカグリセリンデカステアレート)」、「SYグリスター PS−5S(ヘキサグリセリンペンタステアレート)」、「SYグリスター PS−3S(テトラグリセリンペンタステアレート)」、「SYグリスター HB−750(デカグリセリンヘプタベヘネート)」、「SYグリスター TS−7S(デカグリセリントリステアレート)」、「SYグリスター MS−150(ジグリセリンモノステアレート)」などが挙げられる。
前記高流動性中間層用組成物中の(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、(A)基材樹脂100質量部に対して、1質量部以上、好ましくは1.5質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、45質量部以下、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が上記範囲であれば、高流動性中間層用組成物の流動性が向上し、中間層の薄肉化が可能になる。その結果、得られるゴルフボールの反発性や耐久性なども向上する。
前記高流動性中間層用組成物は、さらに、前記(A)基材樹脂中のカルボキシル基を中和することができる(C)金属イオン源を、前記(A)基材樹脂100質量部に対して0.1質量部〜10質量部含有することが好ましい。
前記(C)金属イオン源は、前記(A)基材樹脂中の未中和のカルボキシル基を中和することができる塩基性金属化合物である。なお、(C)金属イオン源は、高流動性中間層用組成物を構成する樹脂成分には含まれない。
前記(C)金属イオン源としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化銅などの金属水酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅などの金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムなどの金属炭酸化物が挙げられる。これらの(C)金属イオン源は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、(C)金属イオン源としては、金属水酸化物が好ましく、特に水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムが好適である。
また、前記高流動性中間層用組成物中の(C)金属イオン源の含有量は、(A)基材樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは0.2質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上であり、10質量部以下が好ましく、より好ましくは9質量部以下、さらに好ましくは8質量部以下である。(C)金属イオン源の含有量が上記範囲であれば、得られるゴルフボールの反発性能がより向上する。また、高流動性中間層用組成物のゴルフボールへの成形性も向上する。
また、(C)成分の含有量は、(A)基材樹脂が有する全てのカルボキシル基の中和度が50モル%以上となるように調整することが好ましく、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上である。
本発明において、前記高流動性中間層用組成物は、樹脂成分として(A)基材樹脂のみを含有することが好ましい態様であるが、本発明の効果を損なわない程度に、さらに(A)基材樹脂以外の(D)熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂を含有してもよい。
この場合、樹脂成分中の(D)熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂の含有量は、(A)基材樹脂100質量部に対して、0質量部超が好ましく、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上であり、100質量部以下が好ましく、より好ましくは70質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下である。(D)熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂の含有量が上記範囲であれば、所望する高流動性中間層用組成物の硬度や反発特性などの物性が得やすい。
前記(D)熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂としては、例えば、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)(例えば、「ペバックス2533」)」で市販されている熱可塑性ポリアミド系エラストマー;東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー;三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)(例えば、「ラバロンT3221C」)」で市販されている熱可塑性ポリスチレン系エラストマーまたは商品名「プリマロイ(登録商標)(例えば、「プリマロイB1942N」)」で市販されている熱可塑性ポリエステル系エラストマー;BASFポリウレタンエラストマーズ社から商品名「エラストラン(登録商標)(例えば、「エラストランET880」)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマーなどの熱可塑性樹脂;ゴム組成物を硫黄、有機過酸化物などで架橋してなる樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を挙げることができる。
本発明において、高流動性中間層用組成物は、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(酸化チタン)、青色顔料、赤色顔料などの顔料成分、比重調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、本発明の効果を損なわない範囲で含有してもよい。
前記白色顔料(酸化チタン)の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であって、10質量部以下、より好ましくは8質量部以下であることが望ましい。白色顔料の含有量を、樹脂成分100質量部に対して0.5質量部以上とすることによって、中間層に隠蔽性を付与することができる。また、白色顔料の含有量が、樹脂成分100質量部に対して10質量部超になると、得られる中間層の耐久性が低下する場合がある。
前記比重調整剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン、モリブデンなどが挙げられる。前記比重調整剤の配合量は、中間層用組成物の樹脂成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上であり、50質量部以下が好ましく、より好ましくは47質量部以下、さらに好ましくは44質量部以下である。比重調整剤の配合量が1質量部以上であれば、中間層用組成物の密度をより容易に調整することができ、50質量部以下であれば、樹脂成分に対する分散性が良好となる。
前記中間層の密度は、1.10g/cm3以上が好ましく、より好ましくは1.15g/cm3以上、さらに好ましくは1.20g/cm3以上であり、1.50g/cm3以下が好ましく、より好ましくは1.45g/cm3以下、さらに好ましくは1.40g/cm3以下である。中間層の密度が1.10g/cm3以上であれば、ゴルフボールの慣性モーメントをより高めることができ、ドライバーなどのショットに対するバックスピンやサイドスピンの低スピン化の効果がより大きくなり、飛距離および方向安定性がより向上する。また、中間層の密度が1.50g/cm3以下であれば、配合する比重調整剤の量が多くなりすぎず、得られるゴルフボールの反発性が良好となる。密度の高い中間層は、出来る限りゴルフボールの外側に配置することが好ましい。ここで、中間層の密度は後述する方法により測定する。
なお、この場合、後述するコアの密度は、1.15g/cm3以下が好ましく、より好ましくは1.13g/cm3以下、さらに好ましくは1.10g/cm3以下である。前記コアの密度が1.15g/cm3以下であれば、ゴルフボールの慣性モーメントをより高めることができる。また、後述するカバー用組成物の密度は、0.96g/cm3以上が好ましく、より好ましくは0.98g/cm3以上、さらに好ましくは1.00g/cm3以上である。なお、カバー用組成物の密度は、高いことが好ましいが、通常高比重充填剤は有着色物であるため、カバー用組成物に多量に配合することは好ましくない。
前記高流動性中間層用組成物のメルトフローレイト(190℃×2.16kg)は、1g/10min以上が好ましく、より好ましくは2g/10min以上、さらに好ましくは3g/10min以上であり、70g/10min以下が好ましく、より好ましくは60g/10min以下、さらに好ましくは50g/10min以下である。高流動性中間層用組成物のメルトフローレイトが1g/10min以上であれば、成形性が高くなり、中間層の薄肉化がより容易に行うことができる。
前記高流動性中間層用組成物の曲げ剛性率は、100MPa以上が好ましく、より好ましくは110MPa以上、さらに好ましくは120MPa以上であり、450MPa以下が好ましく、より好ましくは420MPa以下、さらに好ましくは400MPa以下である。高流動性中間層用組成物の曲げ剛性率が100MPa以上であれば、得られるゴルフボールを外剛内柔構造とすることができ、飛距離が向上する。また、高流動性中間層用組成物の曲げ剛性率が450MPa以下であれば、得られるゴルフボールが適度に柔らかくなって、打球感が良好となる。
前記高流動性中間層用組成物の反発弾性率は、40%以上が好ましく、より好ましくは41%以上、さらに好ましくは42%以上である。高流動性中間層用組成物の反発弾性率を、40%以上とすることにより、得られるゴルフボールの飛距離が大きくなる。ここで、高流動性中間層用組成物の曲げ剛性率および反発弾性率とは、高流動性中間層用組成物をシート状に成形して測定した曲げ剛性率および反発弾性率であり、後述する測定方法により測定する。
前記高流動性中間層用組成物のスラブ硬度(Hm)は、ショアD硬度で35以上が好ましく、より好ましくは40以上、さらに好ましくは45以上であり、57以下が好ましく、より好ましくは55以下、さらに好ましくは52以下である。高流動性中間層用組成物のスラブ硬度(Hm)がショアD硬度で35以上であれば、得られる中間層の剛性が高まり、反発性(飛距離)により優れるゴルフボールが得られる。一方、高流動性中間層用組成物のスラブ硬度(Hm)がショアD硬度で57以下であれば、得られるゴルフボールの打球感が一層向上する。ここで、高流動性中間層用組成物のスラブ硬度(Hm)とは、高流動性中間層用組成物をシート状に成形して測定した硬度であり、後述する測定方法により測定する。
なお、前記高流動性中間層用組成物のメルトフローレイト、曲げ弾性率、反発弾性率およびスラブ硬度は、前記(A)基材樹脂、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル、(C)金属イオン源、および、(D)熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂の組合せ、添加剤の含有量などを適宜選択することによって、調整することができる。
前記高流動性中間層用組成物を用いて中間層を成形する方法としては、例えば、コアを前記高流動性中間層用組成物で被覆して中間層を成形する。中間層を成形する方法は、例えば、高流動性中間層用組成物をコア上に直接射出成形する方法、あるいは、高流動性中間層用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する方法(好ましくは、高流動性中間層用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)を挙げることができる。
前記高流動性中間層用組成物をコア上に射出成形して中間層を成形する場合、中間層成形用上下金型としては、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねているものを使用することが好ましい。射出成形による中間層の成形は、上記ホールドピンを突き出し、コアを投入してホールドさせた後、加熱溶融された高流動性中間層用組成物を注入して、冷却することにより中間層を成形することができ、例えば、980kPa〜1,500kPaの圧力で型締めした金型内に、150℃〜230℃に加熱溶融した高流動性中間層用組成物を0.1秒〜1秒で注入し、15秒〜60秒間冷却して型開きすることにより行う。
圧縮成形法により中間層を成形する場合、ハーフシェルの成形は、圧縮成形法または射出成形法のいずれの方法によっても行うことができるが、圧縮成形法が好適である。高流動性中間層用組成物を圧縮成形してハーフシェルに成形する条件としては、例えば、1MPa以上、20MPa以下の圧力で、高流動中間層用組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、+70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みをもつハーフシェルを成形できる。ハーフシェルを用いて中間層を成形する方法としては、例えば、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法を挙げることができる。ハーフシェルを圧縮成形して中間層に成形する条件としては、例えば、0.5MPa以上、25MPa以下の成形圧力で、高流動性中間層用組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、+70℃以下の成形温度を挙げることができる。上記成形条件とすることによって、均一な厚みを有する中間層を成形できる。
なお、前記成形温度とは、型締めから型開きの間に、下型の凹部の表面が到達する最高温度を意味する。また高流動性中間層用組成物の流動開始温度は、島津製作所の「フローテスター CFT−500」を用いて、ペレット状の中間層用組成物を、プランジャー面積:1cm2、DIE LENGTH:1mm、DIE DIA:1mm、荷重:588.399N、開始温度:30℃、昇温速度:3℃/分の条件で測定することができる。
前記中間層の厚みは、0.5mm以上、好ましくは0.6mm以上、より好ましくは0.7mm以上であり、1.6mm以下、好ましくは1.2mm以下、より好ましくは1.0mm以下である。中間層の厚みが0.5mm以上であれば、得られるゴルフボールの耐久性がより向上する。また、中間層の厚みが1.6mm以下であれば、相対的にコアが大径化されることとなり、得られるゴルフボールの反発性や打球感がより良好となる。
前記中間層により後述するコアを被覆する態様としては、例えば、コアを単層の中間層により被覆する態様;コアを複数片もしくは複数層の中間層により被覆する態様などを挙げることができる。
コアを中間層により被覆した後の形状としては、球状であることが好ましい。中間層の形状が球状でない場合には、カバーの厚みが不均一になる。その結果、部分的にカバー性能が低下する箇所が生じるからである。一方、コアの形状としては、球状が一般的であるが、球状コアの表面を分割するように突条が設けられていても良く、例えば、球状コアの表面を均等に分割するように突条が設けられていても良い。前記突条を設ける態様としては、例えば、包囲層の表面に包囲層と一体的に突条を設ける態様、あるいは、球状センターの表面に突条の包囲層を設ける態様などを挙げることができる。
前記突条は、例えば、球状コアを地球とみなした場合に、赤道と球状コア表面を均等に分割する任意の子午線とに沿って設けられることが好ましい。例えば、球状コア表面を8分割する場合には、赤道と、任意の子午線(経度0度)、および、斯かる経度0度の子午線を基準として、東経90度、西経90度、東経(西経)180度の子午線に沿って設けるようにすれば良い。コア表面に突条を設ける場合には、突条によって仕切られる凹部を、複数の中間層、あるいは、それぞれの凹部を被覆するような単層の中間層によって充填するようにして、球形とするようにすることが好ましい。前記突条の断面形状は、特に限定されることなく、例えば、円弧状、あるいは、略円弧状(例えば、互いに交差あるいは直交する部分において切欠部を設けた形状)などを挙げることができる。
そして、前記中間層としては、前記コアを単層もしくは複数層の中間層で被覆している場合には、その中間層のうちの少なくとも一層が、センターの表面に設けられた突条によって仕切られる凹部を、複数片の中間層によって充填するような場合には、その複数片の中間層のうち少なくとも一片が、前記高流動性中間層用組成物から形成されている。なお、コアを、複数片もしくは複数層の中間層により被覆する場合には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記高流動性中間層用組成物以外の中間層用組成物から形成される中間層を有していてもよい。この場合には、最も外側に位置する中間層が、前記高流動性中間層用組成物から形成された中間層とすることが好ましく、複数片もしくは複数層の中間層のすべてが、前記高流動性中間層用組成物から形成されていることがより好ましい。
前記高流動性中間層用組成物以外の中間層用組成物としては、例えば、後述するセンター用ゴム組成物や、前記(a−1)成分として例示したアイオノマー樹脂(例えば、「サーリン(登録商標)」)、前記(a−2)成分として例示したエチレン−メタクリル酸共重合体(例えば、「ニュクレル(登録商標)」)のほか、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)(例えば、「ペバックス2533」)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、BASFジャパン社から商品名「エラストラン(登録商標)(例えば、「エラストランXNY97A」)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリスチレンエラストマーなどが挙げられ、さらに、硫酸バリウム、タングステンなどの比重調整剤、老化防止剤、顔料などが配合されていてもよい。
次に、本発明のゴルフボールのカバーについて説明する。
前記カバーを形成するカバー用組成物の樹脂成分としては、ポリウレタン樹脂、上記(a−1)成分として例示したアイオノマー樹脂(例えば、「サーリン(登録商標)8945」、「ハイミラン(登録商標)AM7329」など)、前記(a−2)成分として例示したエチレン−メタクリル酸共重合体(例えば、「ニュクレル(登録商標)N1050H」など)のほか、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)(例えば、「ペバックス2533」)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)(例えば、「ラバロンT3221C」)」で市販されている熱可塑性ポリスチレンエラストマーなどが挙げられる。これらの樹脂成分は単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。上記の中でも、反発性の観点から、樹脂成分として、アイオノマー樹脂とエチレン−メタクリル酸共重合体とを混合する;あるいは、アイオノマー樹脂と熱可塑性ポリスチレンエラストマーとを混合することが好ましい。
本発明において、前記カバーは、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(酸化チタン)、青色顔料(ウルトラマリンブルー)、赤色顔料などの顔料成分、酸化亜鉛、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの比重調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、カバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
前記白色顔料(酸化チタン)の含有量は、カバーを構成する樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であって、10質量部以下、より好ましくは8質量部以下であることが望ましい。白色顔料の含有量を0.5質量部以上とすることによって、カバーに隠蔽性を付与することができる。また、白色顔料の含有量が10質量部超になると、得られるカバーの耐久性が低下する場合があるからである。
前記カバー用組成物のスラブ硬度(Hc)は、ショアD硬度で56以上、好ましくは58以上、より好ましくは59以上であり、65以下、好ましくは64以下、より好ましくは63以下である。カバー用組成物のスラブ硬度(Hc)が、ショアD硬度で56以上であれば、ドライバーなどのショットに対して低スピン化を図ることができ、飛距離が向上する。また、カバー用組成物のスラブ硬度(Hc)が、ショアD硬度で65以下であれば、打球感が向上する。
前記カバー用組成物を用いてカバーを形成する方法としては、例えば、前記中間層を前記カバー用組成物で被覆してカバーを成形する。カバーを成形する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、カバー用組成物を予め半球殻状のハーフシェルに成形し、それを2枚用いて中間層を包み加圧成形するか、または前記カバー用組成物を直接中間層上に射出成形して中間層を包み込む方法などが用いられる。
カバーを被覆してゴルフボール本体を作製する際には、通常、表面にディンプルと呼ばれるくぼみが形成される。図1はゴルフボール2のディンプルを例示する拡大断面図である。この図には、ディンプル10の最深箇所Deおよびゴルフボール2の中心を通過する断面が示されている。図1における上下方向は、ディンプル10の深さ方向である。深さ方向は、ディンプル10の面積重心からゴルフボール2の中心へ向かう方向である。図1において二点鎖線14は、仮想球を示している。仮想球14の表面は、ディンプル10が存在しないと仮定されたときのゴルフボール2の表面である。ディンプル10は、仮想球14から凹陥している。ランド12の表面は、仮想球14の表面と一致している。
カバーに形成されるディンプルの総数は、200個以上500個以下が好ましい。ディンプルの総数が200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、ディンプルの総数が500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
また、カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、塗膜やマークを形成することもできる。前記塗膜の膜厚は、特に限定されないが5μm以上、より好ましくは7μm以上、25μm以下、より好ましくは18μm以下であることが望ましい。膜厚が5μm未満になると継続的な使用により塗膜が摩耗消失しやすくなり、膜厚が25μmを超えるとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下するからである。
前記カバーの厚みは、0.3mm以上、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.7mm以上であり、1.6mm以下、好ましくは1.2mm以下、より好ましくは1.0mm以下である。カバーの厚みが0.3mm以上であれば、カバーの成形がより容易となる。また、カバーの厚みが1.6mm以下であれば、相対的にコアが大径化されることとなり、得られるゴルフボールの反発性が良好となる。なお、カバーの厚みとは、ディンプルが形成されていない部分、すなわち、ランド12(図1参照)の直下におけるカバーの厚みを、少なくとも4点測定して得られる平均値である。
次に、本発明のゴルフボールに用いられるコアについて説明する。
本発明のゴルフボールのコアは、少なくとも一層からなるものであれば、特に限定されない。前記コアの構造としては、例えば、単層コア;センターと前記センターを被覆する包囲層とからなる多層コアなどを挙げることができる。これらの中でも、単層コアが好ましい。
前記単層コアの本体、または、センターと前記センターを被覆する包囲層とからなる多層コアにおけるセンターについて説明する。
前記単層コアまたはセンターには、従来公知のゴム組成物(以下、単に「コア用ゴム組成物」という場合がある)を採用することができ、例えば、基材ゴム、架橋開始剤、共架橋剤および充填剤を含むゴム組成物を加熱プレスして成形することができる。
前記基材ゴムとしては、天然ゴムおよび/または合成ゴムを使用することができ、例えば、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などを使用できる。これらの中でも、特に、反発に有利なシス結合が40質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上のハイシスポリブタジエンを用いることが好ましい。
前記架橋開始剤は、基材ゴム成分を架橋するために配合されるものである。前記架橋開始剤としては、有機過酸化物が好適である。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。架橋開始剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.3質量部以上が好ましく、より好ましくは0.4質量部以上であって、5質量部以下が好ましく、より好ましくは3質量部以下である。0.3質量部未満では、コアが柔らかくなりすぎて、反発性が低下する傾向があり、5質量部を超えると、適切な硬さにするために、共架橋剤の使用量を増加する必要があり、反発性が不足気味になる。
前記共架橋剤としては、基材ゴム分子鎖にグラフト重合することによって、ゴム分子を架橋する作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸またはその金属塩を使用することができ、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸またはこれらの金属塩を挙げることができる。前記金属塩を構成する金属としては、例えば、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムなどを挙げることができ、反発性が高くなるということから、亜鉛を使用することが好ましい。
前記共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、より好ましくは15質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上であり、55質量部以下が好ましく、より好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは48質量部以下である。共架橋剤の使用量が10質量部未満では、適当な硬さとするために架橋開始剤の量を増加しなければならず、反発性が低下する傾向がある。一方、共架橋剤の使用量が55質量部を超えると、コアが硬くなりすぎて、打球感が低下するおそれがある。
コア用ゴム組成物に含有される充填剤としては、主として最終製品として得られるゴルフボールの比重を1.0〜1.5の範囲に調整するための比重調整剤として配合されるものであり、必要に応じて配合すれば良い。前記充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。前記充填剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であって、30質量部以下、より好ましくは20質量部以下であることが望ましい。充填剤の配合量が0.5質量部未満では、重量調整が難しくなり、30質量部を超えるとゴム成分の重量分率が小さくなり反発性が低下する傾向があるからである。
前記コア用ゴム組成物には、基材ゴム、架橋開始剤、共架橋剤および充填剤に加えて、さらに、有機硫黄化合物、老化防止剤、しゃく解剤などを適宜配合することができる。
前記有機硫黄化合物としては、ジフェニルジスルフィド類を好適に使用することができる。前記ジフェニルジスルフィド類としては、例えば、ジフェニルジスルフィド;ビス(4−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(4−フルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ヨードフェニル)ジスルフィド,ビス(4−シアノフェニル)ジスルフィドなどのモノ置換体;ビス(2,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−クロロ−5−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−5−ブロモフェニル)ジスルフィドなどのジ置換体;ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−4−クロロ−6−ブロモフェニル)ジスルフィドなどのトリ置換体;ビス(2,3,5,6−テトラクロロフェニル)ジスルフィドなどのテトラ置換体;ビス(2,3,4,5,6−ペンタクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)ジスルフィドなどのペンタ置換体などが挙げられる。これらのジフェニルジスルフィド類はゴム加硫体の加硫状態に何らかの影響を与えて、反発性を高めることができる。これらの中でも、特に高反発性のゴルフボールが得られるという点から、ジフェニルジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィドを用いることが好ましい。前記有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは3.0質量部以下である。
前記老化防止剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下であることが好ましい。また、しゃく解剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、5質量部以下であることが好ましい。
前記単層コアまたはセンターは、前述のゴム組成物を混合、混練し、金型内で成形することにより得ることができる。この際の条件は、特に限定されないが、例えば、前記ゴム組成物を130℃〜200℃で10分間〜60分間加熱するか、あるいは、130℃〜150℃で20分間〜40分間加熱した後、160℃〜180℃で5分間〜15分間の2段階で加熱することが好ましい。
センターと前記センターを被覆する包囲層とからなる多層コアにおける包囲層について説明する。
前記包囲層を形成する包囲層用組成物としては、例えば、前述したコア用ゴム組成物や、前記(a−1)成分として例示したアイオノマー樹脂、前記(a−2)成分として例示したエチレン−メタクリル酸共重合体のほか、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)(例えば、「ペバックス2533」)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、BASFジャパン社から商品名「エラストラン(登録商標)(例えば、「エラストランXNY97A」)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)(例えば、「ラバロンT3221C」)」で市販されている熱可塑性ポリスチレンエラストマーなどが挙げられ、さらに、硫酸バリウム、タングステンなどの比重調整剤、老化防止剤、顔料などが配合されていてもよい。
前記コアの直径は、38.0mm以上が好ましく、より好ましくは38.5mm以上、さらに好ましくは39.0mm以上である。前記コアの直径が38.0mm以上であれば、コアが大きくなり反発性がより良好となる。また、コアが大きくなれば、相対的に高比重中間層がゴルフボールの外側に配置され、ゴルフボールがより外重内軽化となるため、さらなる低スピン化が図られ、飛距離が向上する。一方、コアの直径は40.7mm以下が好ましく、より好ましくは40.5mm以下、さらに好ましくは40.1mm以下である。コアの直径が40.7mm以下であれは、中間層またはカバー層が薄くなりすぎず、中間層またはカバー層の機能がより発揮される。
本発明のゴルフボールのコアとして、表面硬度(Hs)が中心硬度(Ho)より大きいコアを使用することも好ましい態様である。コアの表面硬度(Hs)と中心硬度(Ho)との硬度差(Hs−Ho)は、ショアD硬度で7以上であることが好ましく、より好ましくは10以上、さらに好ましくは13以上である。コアの表面硬度を中心硬度より大きくすることによって、低スピン化の効果がより大きくなり、飛距離がより向上する。また、コアの表面硬度と中心硬度とのショアD硬度差は、25以下であることが好ましく、より好ましくは20以下、さらに好ましくは17以下である。硬度差が大きくなりすぎると、耐久性が低下するおそれがあるからである。前記コアの硬度差は、コアの加熱成形条件を適宜選択する、または、多層コアにすることによって設けることができる。
前記コアの中心硬度(Ho)は、ショアD硬度で30以上であることが好ましく、より好ましくは33以上であり、さらに好ましくは36以上である。コアの中心硬度(Ho)をショアD硬度で36以上とすることにより、コアが軟らかくなり過ぎることがなく、良好な反発性が得られる。また、コアの中心硬度(Ho)は、ショアD硬度で50以下であることが好ましく、より好ましくは47以下であり、さらに好ましくは43以下である。前記中心硬度(Ho)をショアD硬度で50以下とすることにより、コアが硬くなり過ぎず、良好な打球感が得られる。本発明において、コアの中心硬度とは、コアを2等分に切断して、その切断面の中心点についてスプリング式硬度計ショアD型で測定した硬度を意味する。
前記コアの表面硬度(Hs)は、ショアD硬度で44以上が好ましく、より好ましくは47以上、さらに好ましくは50以上である。前記表面硬度(Hs)をショアD硬度で44以上とすることにより、コアが軟らかくなり過ぎることがなく、良好な反発性が得られる。また、コアの表面硬度(Hs)は、ショアD硬度で60以下が好ましく、より好ましくは57以下、さらに好ましくは55以下である。前記表面硬度(Hs)をショアD硬度で60以下とすることにより、コアが硬くなり過ぎず、良好な打球感が得られる。
本発明のゴルフボールは、コアと、前記コアを被覆する少なくとも一以上の中間層および前記中間層を被覆するカバーを有するものであれば、特に限定されない。
本発明のゴルフボールの構造の具体例としては、単層コアと、前記単層コアを被覆する単層の中間層と、前記中間層を被覆するカバーとを有するスリーピースゴルフボール;センターと前記センターを被覆する包囲層とからなる2層コアと、前記コアを被覆する単層の中間層と、前記中間層を被覆するカバーとを有するフォーピースゴルフボール;単層コアと、前記単層コアを被覆する複数片もしくは複数層の中間層と、前記中間層を被覆するカバーを有するマルチピースゴルフボールを挙げることができる。これらの中でも本発明は、単層コアと、前記単層コアを被覆する中間層と、前記中間層を被覆するカバーとを有するスリーピースゴルフボールが好ましい。
本発明のゴルフボールが、糸巻きゴルフボールの場合、コアとして糸巻きコアを用いれば良い。斯かる場合、糸巻きコアとしては、例えば、上述したコア用ゴム組成物を硬化させてなるセンターとそのセンターの周囲に糸ゴムを延伸状態で巻き付けることによって形成した糸ゴム層とから成るものを使用すればよい。また、前記センター上に巻き付ける糸ゴムは、糸巻きゴルフボールの糸巻き層に従来から使用されているものと同様のものを使用することができ、例えば、天然ゴムまたは天然ゴムと合成ポリイソプレンに硫黄、加硫助剤、加硫促進剤、老化防止剤などを配合したゴム組成物を加硫することによって得られたものを用いてもよい。糸ゴムはセンター上に約10倍に引き伸ばして巻きつけて糸巻きコアを作製する。
本発明のゴルフボールは、直径40mm〜45mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮変形量(圧縮方向にゴルフボールが縮む量)が、2.5mm以上が好ましく、より好ましくは2.7mm以上、さらに好ましくは2.9mm以上であり、4.0mm以下が好ましく、より好ましくは3.8mm以下、さらに好ましくは3.5mm以下である。前記圧縮変形量を、2.5mm以上とすることにより良好な打球感が得られ、また、4.0mm以下とすることにより、良好な反発性が得られる。
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲に含まれる。
(1)コア硬度(ショアD硬度)
ASTM−D2240に規定するスプリング式硬度計ショアD型を備えた高分子計器社製自動ゴム硬度計P1型を用いて、コアの表面部において測定したショアD硬度をコア表面硬度とし、コアを半球状に切断し、切断面の中心において測定したショアD硬度をコア中心硬度とした。
(2)中間層用組成物のスラブ硬度、カバー用組成物のスラブ硬度(ショアD硬度)
カバー用組成物または中間層用組成物を用いて、熱プレス成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。このシートを、測定基板などの影響が出ないように、3枚以上重ねた状態で、ASTM−D2240に規定するスプリング式硬度計ショアD型を備えた高分子計器社製自動ゴム硬度計P1型を用いて測定した。
(3)メルトフローレイト(MFR)(g/10min)
MFRは、フローテスター(島津製作所社製、島津フローテスターCFT−100C)を用いて、JIS K7210に準じて測定した。なお、測定は、測定温度190℃、荷重2.16kgの条件で行った。
(4)曲げ剛性率(MPa)
カバー用組成物または中間層用組成物を用いて、熱プレス成形にて厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。曲げ剛性率を、JIS K 7106に準じて測定した。測定は、温度23℃、湿度50%RHで行った。
(5)反発弾性率(%)
カバー用組成物または中間層用組成物を用いて、熱プレス成形にて厚み約2mmのシートを作製し、当該シートから直径28mmの円形状に打抜いたものを6枚重ねることにより、厚さ約12mm、直径28mmの円柱状試験片を作製した。この試験片についてリュプケ式反発弾性試験(試験温湿度23℃、50RH%)を行った。なお、試験片の作製および試験方法は、JIS K6255に準じて行った。
(6)中間層の密度
中間層用組成物を用いてペレットを作製し、このペレットの密度を測定した。測定は、Chyo balance Corporation製、ARCHIMEDESを用いて行い、測定温度は23℃、溶媒にはエタノールを用いた。
(7)圧縮変形量(mm)
ゴルフボールに初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1274Nを負荷したときまでの圧縮方向の変形量(圧縮方向にゴルフボールが縮む量)を測定した。
(8)飛距離
ツルーテンパー社製のスイングロボットに、W#1ドライバー(SRIスポーツ社製、XXIO S ロフト10°)を取り付け、ヘッドスピード45m/秒でゴルフボールを打撃し、飛距離(発射始点から静止地点までの距離)を測定した。測定は、各ゴルフボールについて10回ずつ行って、その平均値をそのゴルフボールの測定値とした。
(9)耐久性
各ゴルフボールを作製後、23℃で1ヶ月保管した。
ツルーテンパー社製のスイングロボットに、メタルヘッド製W#1ドライバーを取り付け、ヘッドスピードを45m/秒に設定して、23℃で保管した各ゴルフボールを打撃し、ゴルフボールが壊れるまでの繰返し打撃回数を測定した。なお、外見上は壊れていなくとも、中間層に割れが生じている場合もあるが、このような場合には、ゴルフボールの変形や打球音の違いから、壊れているかどうかを判断した。
各ゴルフボールの耐久性は、ゴルフボールNo.2の打撃回数を100として、各ゴルフボールについての打撃回数を指数化した値で示した。指数化された値が大きいほど、ゴルフボールが耐久性に優れていることを示す。
(10)打球感
アマチュアゴルファー(上級者)10人による、ドライバーを用いた実打テストを行い、打撃時の打球感を下記の4段階で評価させた。
◎:極めて良好(ソフト)
○:良好(ややソフト)
△:やや不良(やや硬い)
×:不良(硬い)
[ゴルフボールの作製]
(1)コアの作製
表1に示す配合のゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で、170℃で20分間加熱プレスすることによりセンターを得た。なお、硫酸バリウムは、得られるゴルフボールの質量が、45.4gとなるように適量加えた。
BR−730:JSR社製、「BR730(ハイシスポリブタジエン)」
アクリル酸亜鉛:日本蒸溜工業社製、「ZNDA−90S」
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺(登録商標)R」
硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」
ジフェニルジスルフィド:住友精化社製
ジクミルパーオキサイド:日油社製、「パークミル(登録商標)D」
(2)カバー用組成物および中間層用組成物の調製
表2、表4に示した配合材料を用いて、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状の中間層用組成物およびカバー用組成物をそれぞれ調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で160〜230℃に加熱された。
サーリン8945:デュポン社製のナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
ハイミランAM7329:三井・デュポンポリケミカル社製の亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
ニュクレルN1050H:三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン・メタクリル酸共重合体
ラバロンT3221C:三菱化学社製のスチレン系エラストマー
ウルトラマリンブルー:第一化成工業社製、群青No.1500
(3)ゴルフボール本体の作製
上記で得た中間層用組成物を、前述のようにして得たコア上に射出成形することにより、前記コアを被覆する中間層を形成して、球状コアを作製した。続いて、前記球状コア上にカバー用組成物を射出成型することによりカバーを形成して、ゴルフボールを作製した。中間層およびカバーを成形するための成形用上下金型は、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねている。
中間層成形時には、上記ホールドピンを突き出し、センターを投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に260℃に加熱した中間層用組成物を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きしてコアを取り出した。
カバー成形時には、上記ホールドピンを突き出し、コアを投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に210℃に加熱した樹脂を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きしてゴルフボールを取り出した。得られたゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、クリアーペイントを塗布し、40℃のオーブンで塗料を乾燥させ、直径42.8mm、質量45.4gのゴルフボールを得た。
ゴルフボールの表面には、表3及び図2、図3に示したディンプルパターンを形成した。なお、表3中のディンプルの「直径」は図1におけるDiを、「深さ」は接線Tと最深箇所Deとの距離を意味する。また、「曲率半径」はディンプルのボトム曲面の曲率半径であり、「面積」は、面積=(Di/2)2×πによって算出される。「占有率」は全てのディンプル10の面積の合計が仮想球14の表面積に占める比率である。
得られたゴルフボール圧縮変形量、飛距離、耐久性および打球感について評価した結果を表4に示した。
ハイミラン1555:三井・デュポンポリケミカル社製、ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):10g/10min)
サーリン8150:デュポン社製、ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):4.5g/10min)
ハイミランAM7329:三井・デュポンポリケミカル社製、亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):5g/10min)
サーリン9150:デュポン社製、亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):4.5g/10min)
サーリン6320:デュポン社製、マグネシウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):1.1g/10min)
HPF1000:デュポン社製、マグネシウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):0.65g/10min)
ニュクレルN2050H:三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン・メタクリル酸共重合体(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):500g/10min)
ニュクレルAN4318:三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン・メタクリル酸共重合体(メルトフローレイト(190℃×2.16kg):30g/10min)
ラバロンT3221C:三菱化学社製のスチレン系エラストマー
PS−3S:阪本薬品工業社製、テトラグリセリンペンタステアレート(HLB:2.6)
HB−750:阪本薬品工業社製、デカグリセリンヘプタベヘネート(HLB:3.5)
MS−150:阪本薬品工業社製、ジグリセリンモノステアレート(HLB:5.5)
ベヘン酸:日油社製、「NAA−222S粉末」
ステアリン酸:日油社製、「粉末ステアリン酸つばき」
Mg(OH)
2:米山薬品工業社製
Ca(OH)
2:米山薬品工業社製
タングステン:アライドマテリアル社製、タングステン粉末C50G
ゴルフボールNo.1〜9は、中間層が、高流動性中間層用組成物から形成されており、中間層の厚みが0.5mm〜1.6mm、前記カバーの厚みが0.3mm〜1.6mmであり、該カバーを形成するカバー用組成物のスラブ硬度(Hc)が、ショアD硬度で、56以上である場合である。これらはいずれも、飛距離、耐久性および打球感に優れている。
ゴルフボールNo.10は、中間層用組成物のスラブ硬度(Hm)がショアD硬度で57を超える場合であるが、飛距離には優れるものの、耐久性および打球感が劣る。ゴルフボールNo.11は、中間層用組成物が(B)成分および脂肪酸などの低分子材料を含有しない場合であるが、流動性が悪く、中間層を成形することができなかった。
ゴルフボールNo.12,13は、中間層用組成物が(B)成分に代えて脂肪酸を含有し、且つ、スラブ硬度(Hm)がショアD硬度で57を超える場合である。これらのゴルフボールは、飛距離には優れるものの、耐久性および打球感が劣る。また、これらのゴルフボールでは、中間層成形時に脂肪酸がブリードアウトしていると推測されるが、この脂肪酸のブリードアウトも耐久性の低下の要因と考えられる。
ゴルフボールNo.14〜16は、前記ゴルフボールNo.4と同様の高流動性中間層用組成物を用いているが、カバー用組成物のスラブ硬度(Hc)がショアD硬度で56未満の場合(ゴルフボールNo.14)、中間層の厚みが1.6mmを超える場合(ゴルフボールNo.15)、カバーの厚みが1.6mmを超える場合(ゴルフボールNo.16)である。ゴルフボールNo.14は、耐久性および打球感に優れるものの、飛距離が劣る。ゴルフボールNo.15,16は、耐久性には優れるものの、飛距離が劣り、また打球感も若干劣る。
2:ゴルフボール、10:ディンプル、12:ランド、14:仮想球、A:ディンプルA、B:ディンプルB、C:ディンプルC、D:ディンプルD、E:ディンプルE、F:ディンプルF、G:ディンプルG、H:ディンプルH、De:ディンプルの最深箇所、Di:ディンプルの直径、Ed:エッジ、P:極点、T:接線