以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下の図において同様の機能部分には同じ符号を付して説明する。
図1は磁気記録再生装置の概念図であり、図1(a)は平面模式図、図1(b)は断面模式図である。磁気記録再生装置は、モータ1によって回転する磁気ディスク(磁気記録媒体)2上の所定位置に、サスペンションアーム3の先端に固定されたスライダー4に搭載された磁気ヘッドによって磁化信号の記録再生を行う。ロータリーアクチュエータ5を駆動することにより、磁気ヘッドの磁気ディスク半径方向位置(トラック)を選択することができる。磁気ヘッドへの記録信号及び磁気ヘッドからの読み出し信号は信号処理回路6a,6bにて処理される。
図2は、垂直磁気ヘッド7と磁気ディスク2との関係及び垂直記録の概略を示す図である。本発明の垂直磁気ヘッド7は、ヘッドの走行方向側(リーディング側)から、下部再生シールド8、再生素子9、上部再生シールド10、補助磁極11、薄膜コイル12、主磁極13の順に積層されている。下部再生シールド8、再生素子9、上部再生シールド10は再生ヘッド14を構成し、補助磁極11、薄膜コイル12、主磁極13は記録ヘッド(単磁極ヘッド)15を構成する。主磁極13は、記録トラック幅を規定するトラック部と、そのトラック部と一体に形成され素子高さ方向に向かって次第に幅の広がるフレア部とを有する。主磁極13のトレーリング側とトラック幅方向両側にはラップアラウンドシールド16が形成されている。主磁極13のトラック部の浮上面形状は、ヘッドにスキュー角がついた場合を考慮して、リーディング側の幅が狭い逆台形形状になっている。記録ヘッド15の主磁極13から出た磁界は、磁気ディスク2の磁気記録層17、軟磁性裏打ち層18を通り、補助磁極11に入る磁気回路を形成し、磁気記録層17に磁化パターン19を記録する。このとき、ディスク回転方向との関係から、主磁極13が磁気ディスクのある点から最後に離れる部分、即ち主磁極のトラック部の上面(トレーリング側)及び、側面の形状が磁化パターンの形状に大きな影響を及ぼす。磁気ディスク2の磁気記録層17と軟磁性裏打ち層18の間には中間層が形成されている場合もある。再生ヘッド14の再生素子9には、巨大磁気抵抗効果素子(GMR)やトンネル磁気抵抗効果型素子(TMR)などが用いられる。
図3に、本発明の垂直記録磁気ヘッドの素子高さ方向の断面図を示す。ヨーク20にはバックギャップ21を介して補助磁極11が接続されている。図示した垂直記録磁気ヘッドは、薄膜コイル12が主磁極13とヨーク20の周りを周回するヘリカルコイル構造であるが、バックギャップ21を周回するパンケーキ構造の垂直記録磁気ヘッドもあり、本発明は両方の構造に適用可能である。
図4は、本発明の垂直記録磁気ヘッドの主磁極付近の構造を示した断面模式図である。本発明の垂直記録磁気ヘッドは、主磁極13のフレア部の上に、磁界補助磁極22及び非磁性層23が積層されている。この積層膜の浮上面方向の端部形状は、磁界勾配やプロセス精度の確保の点で、図4(a)に示すように、素子高さ方向に向かって積層膜の膜厚が次第に増加するテーパー形状にするのが望ましいが、図4(b)のように2つの積層膜を垂直形状加工したり、図4(c)のように別々に、非磁性層23を垂直形状とし、磁界補助磁極22をテーパー形状にしても良い。
テーパー形状を有した磁界補助磁極22と非磁性層23の浮上面側の側面には、トレーリングギャップ25を介して、非磁性部24が形成される。非磁性部24の上面は、図4(a)に示すように、非磁性部24の先端位置から、非磁性層23の浮上面側上端部に向けて角度を有して形成される。この点は本発明のポイントである。非磁性部24の先端位置は、浮上面に出ることはない。
ラップアラウンドシールド16は、この非磁性部24とめっき下地膜29上に形成されるために、その形状は、トレーリングギャップ25上のラップアラウンドシールド深さをTH1、ラップアラウンドシールドの後端部をTH2と定義すると、図4(a)に示すようにTH1<TH2の関係を有したシールド形状となる。主磁極13と磁界補助磁極22を合わせた主磁極磁性体とラップアラウンドシールド16の間の間隔は、浮上面から素子高さ方向に見て非磁性部の先端位置まではほぼ一定で狭い間隔を維持しているが、非磁性部24が形成されているフレアポイントの付近から次第に両者の間隔が広がり、ラップアラウンドシールドの後端部では、ほぼ非磁性層23の膜厚分だけ離れている。この構造により、主磁極のトラック部ではラップアラウンドシールドとの間隔が狭く、ラップアラウンドシールドはトラック部から発生される磁束が効率的に吸い込まれる。一方、主磁極のトラック部から離れた領域では、非磁性部24及び非磁性層23の存在により、主磁極とシールド16の間隔が広がり、ラップアラウンドシールドに吸い込まれる磁界を低減することで磁界ロスが防止され、結果として、磁気記録膜の位置における磁界強度及び磁界勾配が向上する。
図5に素子面からみた、磁界補助磁極パターンと主磁極パターンの位置関係を示す。後述するが、トラック幅精度の確保の観点からも、磁界補助磁極22パターンは主磁極13のパターンの内側、特にフレア部のパターンの内側に配置することが望ましい。またパターン形状は、主磁極パターンに合わせた形状が良い。非磁性部24は、図5に示すように、磁界補助磁極22のフレア形状に沿って形成される。
図6は、トレーリングギャップ上のラップアラウンドシールド深さTH1を変えた場合の磁界強度及び磁界勾配を計算した図である。横軸は、トレーリングギャップ上のラップアラウンドシールド深さTH1、縦軸に主磁極のトラック幅センターの位置での磁界強度及び磁界勾配を示す。本計算結果から、TH1を小さくした方が、磁界強度が増加し、更に磁界勾配も大きくなることがわかった。TH1を長くすることは、図4に示される非磁性部24の断面積が減少することと同じことを意味するために、非磁性部24と、その形状が反映されたラップアラウンドシールド形状重要であることがわかる。
図7は、トレーリングギャップ25上のラップアラウンドシールド後端部の角度TSA、及び磁界補助磁極22と非磁性層23の積層膜の浮上面側の端部のテーパー角度TETAと、主磁極のトラック幅センターの位置での磁界勾配の関係を示した図である。TETAが30゜、45゜、60゜の場合について、横軸をラップアラウンドシールド後端部の角度TSAとし、縦軸を磁界強度で規格化した磁界勾配として示してある。この図は、TSAを大きく、TETAを小さくした方が、磁界強度で規格化した磁界勾配が大きくなることを示しており、このようにすることにより、高トラック密度化と高線記録密度化が実現できる。
図8は、トレーリングギャップ上のラップアラウンドシールド後端部の角度TSA及び磁界補助磁極22と非磁性層23の積層膜の浮上面側の端部のテーパー角度TETAと、主磁極のトラック幅センターの位置での、記録幅で規格化した磁界強度を示した図である。本計算結果から、TSAを大きく、TETAを小さくしたほうが、狭小な領域に強い磁界を収束できることを示しており、これは、高トラック密度化と高信号品質を両立できることを示している。
図9は、磁界補助磁極の膜厚と磁界強度の関係を示した図である。横軸に、磁界補助磁極先端の浮上面からの位置、縦軸に主磁極のトラック幅センター位置での磁界強度を示す。図には、磁界補助磁極が無い場合(conv)及び、磁界補助磁極の膜厚が30nm、60nm、100nmの場合についての計算結果を示してある。本計算結果から、磁界強度は、磁界補助磁極を付加しない構造と比較すると磁界補助磁極を設けた構造の方が向上しており、磁界補助磁極の膜厚が厚いほど、磁界強度が向上する傾向がある。よって、磁界補助磁極は、プロセス精度が確保できる範囲で厚くした方が良い。
図10は、磁界補助磁極先端の浮上面からの位置と磁界強度の関係を示した図である。横軸に、磁界補助磁極の浮上面からの位置、縦軸に主磁極のトラック幅センター位置での磁界強度を示す。図には、磁界補助磁極が無い場合(conv)と、磁界補助磁極の膜厚が30nmの場合についての計算結果を示した。本計算結果から、磁界補助磁極の先端を浮上面に近づけるほど磁界強度が向上する。よって、磁界補助磁極は、なるべく浮上面に近づけて設けた方が良い。
図11は、素子面から見た磁界補助磁極22のパターンと主磁極のパターンの位置関係を示した図である。磁界補助磁極は、主磁極のフレア部の上に形成される。
磁界補助磁極22パターンは、主磁極のフレア部に倣ったフレア形状のため、浮上面側は三角形の頂点となる。トラック幅の中央から磁界補助磁極の先端までの距離をTETd1、トラック幅端部から磁界補助磁極22まで距離をTETd2とすると、TETd1<TETd2となる。TETd1の距離が小さいことから、本パターン形状からも、トラックセンターの磁界強度及び磁界勾配が高くなることが期待される。
図12は、主磁極の平面形状とラップアラウンドシールド16の平面形状(点線で示す)を表した図である。ラップアラウンドシールド16の平面形状は、図に示すようにトラック幅方向に離れるに従って、主磁極のフレアに近づく方向に広がる形状をしている。このため、主磁極上に形成される非磁性部24が、主磁極のフレア部後方にも主磁極の縁にそうようにあることで、主磁極からの磁界が、フレアポイントより後方でラップアラウンドに漏洩するのを防ぐ効果がある。
図13は、主磁極上に磁界補助磁極を設けた場合の、フレア長さに対する影響度を示した図である。横軸に、フレアの長さ、縦軸に磁界強度を示す。計算条件は、磁界補助磁極の膜厚60nm、磁界補助磁極の先端位置をフレアポイントと同じ位置で計算を行った。損結果フレアの長さ60nmで、主磁極のみの通常構造と、主磁極上に磁界補助磁極を付加した構造とで比較すると、磁界強度は、磁界補助磁極を付加した構造が約1kOe高い。これは、フレアポイント換算で約20nm長くできることを示しており、本発明の構造は記録特性の改善のみならず、量産歩留まり向上が期待できる。
図14、図15は、本発明の垂直記録磁気ヘッドを製造するためのプロセスフロー図である。図14(a)は、平坦面上に主磁極13の層、磁界補助磁極22の層及び非磁性層23を連続して成膜した図である。主磁極13層は、NiCr下地膜上に、FeCo/Cr/FeCo反強磁性結合積層膜、Ni−Fe膜、FeCo/Cr/FeCo反強磁性結合積層膜を順に連続して成膜し、さらにその上にNiCr保護膜を連続して成膜した。上記FeCo/Cr/FeCo反強磁性結合積層膜は、残留磁化を低減することでポールイレージャを抑制している。FeCo膜より自発磁化の小さいNiFe膜、NiCr膜等を挟むことで磁気的結合を弱めたFeCo/Cr/FeCo反強磁性結合積層膜を複数設けることで、各々のFeCo膜を薄くすると反強磁性結合が強まり、残留磁化を低減できるため、ここではNiFeを介して、FeCo/Cr/FeCo反強磁性結合積層膜を2回成膜しているが、さらにNiFe膜等を介してFeCo/Cr/FeCo反強磁性結合積層膜を増やしてもよい。
また、その上に磁界補助磁極22用の膜として、FeCo単層膜を成膜した。このとき、上記のようにFeCo単層膜をFeCo/Cr/FeCo反強磁性結合積層膜とすると、ポールイレージャを抑制できるため好ましい。更に非磁性層23としてNiCrを連続して成膜した。この非磁性層は、NiCrの他、Ta,Cr,Ruなどであっても良い。またアルミナ等の酸化物、レジスト等の有機膜であっても良い。
図14(b)は、素子高さ方向にフレア部を有した磁界磁極用フォトレジストパターン26を、非磁性層23上に形成した図である。磁界補助磁極22の素子高さ方向の先端位置は、浮上面から近い位置に配置した方がよい。パターン位置精度は、フォトプロセスで使用する露光機の合わせずれ精度が支配的である。磁界補助磁極22を形成する場合には、最もこの位置合わせ精度の高いArFスキャナー(ドライ)を用い、ドライのArFフォトレジストを用いた。このレジストに、露光量9.5mj/cm2、フォーカス0.2μmの条件で露光すると所望のパターン形状が得られた。もっとも重要な合わせずれ精度は、±20nmである。
次に、図14(c)に示すように、磁界磁極用フォトレジストパターン26をマスクに、イオンミリングを使用して非磁性層23及び磁界補助磁極22層までエッチングを行い、主磁極13層でイオンミリングをストップする。非磁性層23及び磁界補助磁極22層の側面のテーパー形状は、イオンミリングの入射角で決定される。本プロセスにおいては、入射角−30°で基板を回転させてエッチングした結果、20〜30°のテーパー角(α)が得られた。次に、図14(d)に示すように、レジスト26を除去した。次に、図14(e)に示すように、主磁極を形成用のマスク層25を形成する。マスク層25の内訳は、トレーリングギャップ25aとなるアルミナ、エッチングストッパー用の無機絶縁物25b、これは例えばDLC等のCを含む無機絶縁物、SiO2,Si3N4等の材料であっても良い。更に、ミリングエンドポイント用の非磁性材料の層25cがあり、この材料にはTa,Cr,Ta2O5等が望ましい。そして、主磁極のミリング用マスクである例えばアルミナ等の無機絶縁層25dである。 図15(a)は、ミリングを用いて主磁極13を逆台形形状に加工するための有機膜27を形成した図である。この有機膜27をマスクにイオンミリングにて加工を行った。その結果、浮上面からみると、図15(a’)に示すような逆台形形状の主磁極が形成できる。図15(b)は、有機マスクを除去した図である。主磁極加工は、本工程で終了する。
図16に、主磁極13のパターンと磁界補助磁極22のパターンを示す。磁界補助磁極22のパターンは、主磁極13を構成するフレア部のパターンの内側にある。主磁極13のパターンに対して、磁界補助磁極22のパターンを内側に配置しているために、イオンミリングによる主磁極パターンに対しての影響を最小限にすることが可能である。
図15(c)は、サイドギャップとなるアルミナ28を形成した図である。図15(c’)は、浮上面からみた図である。サイドギャップ形成に使用するアルミナ28は、膜厚精度が必要なためにALD(Atomic Layer Deposition)を使用した。本設備を適用することにより、図15(c’)に示すようなアルミナ28の付きまわり形状となり、更にそのアルミナの膜厚のバラツキが1%以下の膜厚精度を得ることが出来る。
図15(d)は、イオンミリングを使用して、主磁極13上部のトレーリングギャップ部に平坦化加工を施した結果の図である。イオンミリンリグの入射角度は55°とした。これは、図17に示したエッチングレートの差異のデータから決定した。本実験結果から入射角度54°付近のミリングレートが最も早く、その前後の角度のミリングレートは遅くなる傾向となることがわかる。なおミリングのストップには、非磁性材料の層25cを利用したエンドポイント検出を行い、高精度にミリングを終了することができる。また、次にエッチングストッパー層25bを完全に除去することにより、トレーリングギャップ25aに影響なく形成できる。本条件を使用すると、図15(d’)に示すような、主磁極上部の平坦化形状を実現することができる。
このとき、図15(d)に示すように、磁界補助磁極22と非磁性層23の側面のテーパー形状には、ギャップ形成するためのアルミナなどを含む非磁性部24が残存する。これは、上述したように入射角度に対するアルミナのエッチングレートの差異によるものである。本加工条件を用いると、必然的に非磁性部24が残存する。主磁極のマスク材である、25b,25cが埋め込まれるために、この非磁性部の材料は、アルミナや、DLCを含むCを含む無機化合物、又はSiO2,Si3N4などの材料、Ta,Ta2O5,Cr等の非磁性体などである。この非磁性部24の形状は、本プロセスの最も特徴的な形状である。
図15(e)は、ラップアラウンドシールドをめっきにて形成した図である。図に示すように、シールド形状は、前工程で残存したアルミナなどを含む非磁性部24上に形成するために、非磁性部を反映したシールド形状となる。このように、図14及び図15に示した製造工程を実行することにより、図15(e)に示した構造を作製することができた。
本発明によると、主磁極上の浮上面から後退した位置に磁界補助磁極22を形成することにより、記録トラック幅の狭小に伴う主磁極膜の薄膜化による磁界強度低下を防止することできる。更に、磁界補助磁極22の膜厚を厚く、その位置を浮上面にできるだけ近づけて形成することにより磁界強度を向上することが可能となる。また、非磁性層23と磁界補助磁極22と非磁性層23の側面に形成されたアルミナなどを含む非磁性部24は、ラップアラウンドシールド16と主磁極13及び磁界補助磁極22との間のスペーサとなるために、磁界ロスを防止することができる。また、本構造のラップアラウンドシールド16は、磁界飽和を防止でき、磁界勾配向上が期待できる。
製造面からみても、主磁極13用の膜に磁界補助磁極22用の層、非磁性層23を連続して形成し、平坦化された面上で、磁界補助磁極フォトパターンを形成するので、位置合わせ精度を上げることができる。また、主磁極13の形成工程の前工程に、磁界補助磁極22と非磁性層23を形成する工程を実行することにより、主磁極13をイオンミリングに影響することなく加工することができトラック幅精度も確保することができた。
この垂直記録用磁気ヘッドを搭載することにより、トラック及び線密度を向上させることができ、面記録密度750Gbit/in2の磁気記録再生装置を作製できた。
1…モータ、2…磁気ディスク、3…サスペンションアーム、4…スライダー、5…ロータリーアクチュエータ、6…信号処理回路、7…垂直磁気ヘッド、8…下部再生シールド、9…再生素子、10…上部再生シールド、11…補助磁極、12…薄膜コイル、13…主磁極、14…再生ヘッド、15…記録ヘッド、16…ラップアラウンドシールド、17…磁気記録層、18…軟磁性裏打ち層、19…磁化パターン、20…ヨーク、21…バックギャップ、22…磁界補助磁極、23…非磁性層、24…非磁性部、25…主磁極形成用のマスク層、25a…トレーリングギャップ層、25b…エッチングストッパー層、25c…エンドポイント用非磁性層、25d…主磁極ミリング用マスク、26…フォトレジスト、27…有機膜、28…アルミナ、29…めっき下地膜