JP2010144873A - 免震構造体用プラグおよびそのプラグを用いた免震構造体 - Google Patents

免震構造体用プラグおよびそのプラグを用いた免震構造体 Download PDF

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Abstract

【課題】プラグの形状や積層体への圧入時期を制限することなく圧入時の損傷発生を防止できる、十分な減衰性能、変位追従性等を有する免震構造体用プラグを提供する。
【解決手段】エラストマー成分に補強性充填剤を配合してなるエラストマー組成物と、粉体とを含有するプラグ用組成物から製造されるプラグ材と、そのプラグ材の少なくとも外周面をコーティングする、摩擦係数が該プラグ材より小さいコーティング層とを具えてなる、免震構造体用プラグである。
【選択図】図1

Description

本発明は、免震構造体用プラグ、および該プラグを用いた免震構造体に関するものである。
従来、ゴム等の粘弾性的性質を有する軟質板と鋼板等の硬質板とを交互に積層した免震構造体が、免震装置の支承等として使用されている。このような免震構造体の中には、例えば、軟質板と硬質板とからなる積層体の中心に中空部を形成し、そして該中空部の内部に、均一組成となるように成形したプラグを圧入したものがある。
上記プラグとしては、全体が鉛からなるプラグが使用されることが多く、積層体がせん断変形する際に、該プラグが塑性変形することで振動のエネルギーを吸収する。しかしながら、鉛は、環境負荷が大きく、また廃棄時等に要するコストが大きい。このため、鉛プラグは環境負荷の問題から代替材料を用いたプラグへと変更されようとしており、鉛の代替材料を用いて、十分な減衰性能、変位追従性等を有するプラグを開発することが試みられている。例えば特開昭64−1843号には、鉛プラグに代えて、積層体の中空部に低弾性の材料を介して粘性体を充填した免震装置が提案されている。また、例えば、特公平7−84815号には、鉛プラグに代えて、積層体の中空部に固体物質と、鉱物油、植物油等の液状物質からなる粘性体とを封入し、固体物質の隙間を粘性体で充填するようにした免震装置が提案されている。
しかし、粘性体として鉱物油、植物油等の液状物質を使用したこの免震装置では、長期の使用では液状物質中で固体物質が沈殿してしまい、分散性が悪化してしまう。その結果、局所的に減衰性能が変化して、安定した減衰性能を発揮できない恐れがあった。
これに対して、特開2006−316990号公報には、塑性流動材と、金属、硬質樹脂、硬質繊維等からなる硬質充填材とを、組成が均一となるように積層体の中空部に充填した免震装置が開示されており、その塑性流動材としては、せん断降伏応力が特定の範囲にある材料が好ましいことが開示されている。
特開昭64−1843号公報 特公平7−84815号公報 特開2006−316990号公報
しかし、上記のような従来の代替技術では、プラグとして十分な減衰特性、変位追従性等を有する免震構造体用プラグを得ることができないため、性能面で改善の余地がある。
これに対し、本発明者らは、十分な減衰特性、変位追従性を有する免震構造体用プラグとして、エラストマー成分に補強性充填剤を配合してなるエラストマー組成物と、粉体とを含有するプラグ用組成物から製造されるプラグを新たに創作した。しかしながら、この様なプラグを積層体の中空部に鉛プラグ代替材料として充填する場合には、プラグと免震構造体との間に隙間が生じないように中空部より体積の大きいプラグを強制的に圧入する必要があるところ、圧入時のプラグの損傷を防止するために、プラグおよび中空部をテーパー状にしたり、積層体を加硫した直後にプラグを圧入したりする必要があった。そのため、本発明者らが新たに創作した上述のプラグには、プラグの形状や積層体への圧入時期を制限することなく圧入時の損傷発生を防止できるプラグにするという点において、更に改善の余地があった。
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、この発明の免震構造体用プラグは、エラストマー成分に補強性充填剤を配合してなるエラストマー組成物と、粉体とを含有するプラグ用組成物から製造されるプラグ材と、前記プラグ材の少なくとも外周面をコーティングする、摩擦係数が該プラグ材より小さいコーティング層とを具えてなることを特徴とする。このようにエラストマー成分に補強性充填剤を配合してなるエラストマー組成物と、粉体とを含有するプラグ用組成物を使用することにより、十分な減衰性能、変位追従性等を有する免震構造体の提供が可能な免震構造体用プラグを得ることができる。また、プラグ材の少なくとも外周面を摩擦係数が該プラグ材の摩擦係数より小さいコーティング層で被覆することにより、免震構造体の中空部への圧入が容易で、且つプラグの形状や積層体への圧入時期を制限することなく圧入時のプラグの損傷を防止可能な免震構造体用プラグを得ることができる。更に、このような免震構造体用プラグでは、プラグ材をコーティング層で覆っているので、コーティング層を設けていないプラグと比較して、プラグの保管中にプラグ材中の粉体およびエラストマー成分が劣化(酸化)し難い。なお、本発明の免震構造体用プラグは、円柱のほか、三角柱、四角柱等の多角柱といった任意の形状とすることができる。また、水や酸素の透過を防止するという劣化防止の観点からは、本発明の免震構造体用プラグは、プラグ材の表面全体をコーティング層で覆うことが好ましい。
ここで、摩擦係数とは、摺動試験により測定して得られる値である。具体的には、下板に免震構造体に用いる積層ゴムと同じゴム板(例えば弾性率0.4Mpa)を、上板にコーティング層で被覆した直径25mmのプラグを用い、互いに接触させた後に面圧9.8Nをかけ、速度1cm/secにて摺動させた際の1サイクル目の水平方向の荷重の平均値F(N)から求められる、動摩擦係数μ(=F/9.8)の値である。そして、本発明の免震構造体用プラグは、前記コーティング層の前記摩擦係数が1以下であることが好ましく、更に好ましくは0.01〜1である。摩擦係数が1以下であれば積層体へのプラグの圧入がより容易になる。
本発明の免震構造体用プラグは、前記粉体が金属粉および/または金属化合物粉であることが好ましく、鉄粉であることが特に好ましい。鉄粉は、安価である上、破壊強度が高く、また、鉄粉を使用することで、プラグが優れた減衰性能を長期に渡って発揮することが可能となる。
本発明の免震構造体用プラグは、前記プラグ材の横断面積Sが、前記コーティング層の横断面積Aの4倍以上、10000倍以下(4≦S/A≦10000)であることが好ましい。この場合、S/Aが4以上であればプラグの減衰性能を殆ど低下させることがない。更に、S/Aが10000以下であればプラグ材中の粉体等が劣化し難い。なお、前記コーティング層の厚みは、10μm〜10mmであることが更に好ましい。10mm以下の厚みのコーティング層であれば、減衰性能を殆ど低下させることがない。更に、10μm以上の厚みのコーティング層であれば、プラグ材中の粉体等が劣化し難いからであるからである。ここで、コーティング層の厚みとは、免震構造体用プラグの径Rとプラグ材の径rとの差(R−r)の1/2を指す。
更に、本発明の免震構造体用プラグは、前記コーティング層の酸素透過率が1.0×10−9cm・cm/cm・sec・cmHg以下であることが好ましい。コーティング層の酸素透過率が1.0×10−9cm・cm/cm・sec・cmHg以下であれば、プラグ材中のエラストマー成分および粉体の酸化による劣化をより確実に防ぐことができ、例えば粉体として錆び易い鉄粉を使用した場合でも、厳重な梱包および管理をすることなくプラグを保管することが可能となる。ここで、酸素透過率は、JIS K7126により測定して得られる値である。
本発明の免震構造体用プラグの他の好適例においては、前記補強性充填剤がカーボンブラックおよび/またはシリカである。カーボンブラックおよびシリカは、エラストマー成分との相互作用によってエラストマー組成物の粘度を向上させる効果が大きいため、プラグの流動抵抗が大きくなり、結果として、プラグの減衰効果が大きくなる。
本発明の免震構造体用プラグの別の好適例においては、前記エラストマー成分の少なくとも一部が未架橋である。この場合、プラグが大変形の履歴を受けた後、プラグの位置が再び原点に戻った際に、プラグが元の形状に戻ることができ、その結果、初期と同等の性能を長期に渡って維持することが可能となる。
本発明の免震構造体用プラグの更に他の好適例においては、前記粉体の含有量が50〜74体積%である。この場合、変形時の粉体同士の摩擦および粉体と他の成分との間の流動抵抗が十分大きいため、十分な減衰効果が得られる上、繰り返し耐久性も十分確保されており、更には、成形加工性も良好である。
本発明の免震構造体用プラグの更に別の好適例においては、前記エラストマー組成物における前記補強性充填剤の配合量が、前記エラストマー成分100質量部に対して60〜150質量部である。この場合、エラストマー組成物の粘度および流動抵抗が十分高く、プラグが十分な減衰効果を発揮できる上、混練が容易で、均一な組成物を容易に得ることができ、また、プラグの繰り返し安定性も良好である。
本発明の免震構造体用プラグのその他の好適例においては、前記粉体の粒径が0.1μm〜2 mmであることが好ましく、1μm〜150μmであることが更に好ましい。この場合、粉体の取り扱いが容易である上、プラグの減衰性能も十分に高い。ここで、粉体の粒径は、レーザー回折による粒子径測定(JIS Z8825−1)で求められ、該レーザー回折による方法において、粉体の粒子の長軸−短軸の平均(球形と捉えられる)を測定して得られる値である。
また、本発明の免震構造体は、剛性を有する剛性板と弾性を有する弾性板とが交互に積層されてなり、該積層方向に延びる中空部を有する積層体と、該積層体の中空部に設けられたプラグとを具える免震構造体において、該プラグが上記免震構造体用プラグであることを特徴とする。
本発明によれば、プラグの形状や積層体への圧入時期を制限することなく圧入時の損傷発生を防止できる、十分な減衰性能、変位追従性等を有する免震構造体用プラグを提供することができる。また、該プラグを用いた免震構造体を提供することができる。
<プラグ用組成物>
以下に、本発明の免震構造体用プラグを構成するプラグ材の製造に使用されるプラグ用組成物を詳細に説明する。このプラグ用組成物は、エラストマー成分に補強性充填剤を配合してなるエラストマー組成物と、粉体とを含有することを特徴とする。
本発明者らは、十分な減衰性能、変位追従性等を有する免震構造体用プラグを提供するために、種々の粉体のみからプラグを作製し、該プラグを免震構造体に使用してみたが、粉体同士が擦れて割れてしまい、十分な耐久性を有するプラグが得られなかった。この問題点を解決すべく、本発明者らは、更に検討を進めた結果、エラストマー成分に補強性充填剤を配合してなるエラストマー組成物と、粉体とを含有する組成物からプラグを作製し、該プラグを免震構造体に使用することで、十分な耐久性、減衰特性、変位追従性等を有する免震構造体用プラグが得られることを見出した。なお、補強性充填剤を含まないエラストマー組成物を使用すると、プラグによる減衰効果が小さいため、本発明のプラグ用組成物は、補強性充填剤を含むことを要する。
このプラグ用組成物に用いるエラストマー成分としては、室温でゴム弾性を呈するもの、例えば、天然ゴムや合成ゴム等のゴム、熱可塑性エラストマーを使用することができ、これらの中でも、天然ゴムや合成ゴム等のゴムを使用することが好ましい。天然ゴムや合成ゴム系のポリマーは、粘弾性体で若干の弾性は示すものの塑性が大きく、大変形にも追従でき、振動後、原点に戻ったときには再び同じ状態に再凝集できる。また、エラストマー成分がゴムの場合(即ち、エラストマー組成物がゴム組成物の場合)、プラグの減衰性能が向上する上、耐久性も向上する。上記エラストマー成分として、より具体的には、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン−プロピレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリルゴム、ポリウレタン、シリコーンゴム、フッ化ゴム、多硫化ゴム、ハイパロン、エチレン酢酸ビニルゴム、エピクロルヒドリンゴム、エチレン−メチルアクリレート共重合体、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー等が挙げられる。これらエラストマー成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上をブレンドして用いてもよい。
上記エラストマー成分は、少なくとも一部、好ましくは全てが未架橋であることが好ましく、より具体的には未加硫であることが好ましい。エラストマー成分が完全に架橋されている場合、大変形を受けた際には変形するものの、変形時に粉体の位置が変わることができず、ある限界点をもって変形への追従が不可能となり、架橋エラストマー部分が破断、或いは、架橋エラストマー部分の反発力で元の形状に戻ろうとする。架橋エラストマー部分が破断してしまうと、プラグの位置が原点に戻ってもプラグが元の形状に戻らないため、減衰性能が徐々に低下してしまい、また、架橋エラストマー部分の反発力が働くと、本来の減衰性能が発揮できなくなる。一方、エラストマー成分が未架橋であれば、変形への追従が可能であり、また、プラグが大変形の履歴を受けた後、再び原点に戻った際に、プラグ全体には静水圧がかかっているため、プラグが元の形状に戻ることができ、その結果、初期と同等の性能を長期に渡って維持することが可能となる。なお、架橋点が非常に少ない場合、または、プラグの表面のみが架橋されている場合は、プラグが変形した後に、元の形状に戻れるため、本発明において未架橋とは、架橋反応を未だ完全には経ていない状態をさし、部分的に架橋された状態も包含する。
プラグ用組成物に用いる補強性充填剤とは、エラストマー成分に対する補強を行っており、自身の凝集力とエラストマー成分との結合力を強く有する物質であり、エラストマー成分に配合されることによって、該結合力によりエラストマー組成物全体の粘度を上昇させ、その結果としてプラグの減衰性能を向上させる作用を有する。一般に、免震構造体のプラグは、地震で発生したエネルギーを吸収する(例えば、熱等に変換する)ことで減衰効果を発揮するため、プラグの流動抵抗が大きくなるに従って、減衰効果が大きくなる。これに対し、エラストマー成分に補強性充填剤を配合した場合、エラストマー組成物の流動抵抗が大きくなり、十分な減衰性能、変位追従性等を有するプラグを得ることが可能となる。
上記補強性充填剤としては、エラストマー成分との相互作用によってエラストマー組成物の粘度を向上させる効果が大きい点で、カーボンブラック及びシリカが好ましく、カーボンブラックが特に好ましい。ここで、カーボンブラッックとしては、SAF、ISAF、HAFグレードのもの等が挙げられ、これらの中でも、SAF、ISAFグレードのもの等の微粒子で表面積が大きいものが好ましい。また、シリカとしては、湿式シリカ、乾式シリカ、及びコロイダルシリカ等が挙げられる。これら補強性充填剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記エラストマー組成物における補強性充填剤の配合量は、上記エラストマー成分100質量部に対して60〜150質量部の範囲が好ましい。補強性充填剤の配合量が60質量部未満では、エラストマー組成物の粘度及び流動抵抗が低く、プラグの減衰性能が不十分となり易い。一方、補強性充填剤の配合量が150質量部を超えると、混練が難しく、均一な組成物を得難くなる上、プラグの繰り返し安定性が低下する。
上記エラストマー組成物には、更に樹脂を配合することが好ましい。上記エラストマー組成物は、補強性充填剤を含むものの、それだけではプラグの大変形の際、減衰性能が低下する傾向がある。これに対して、エラストマー組成物が補強性充填剤に加えて樹脂を含む場合、大変形の際にも、プラグの減衰性能を向上させることができる。また、樹脂は、加工助剤としても作用し、プラグ組成物の混練を容易にすることができる。
上記樹脂としては、粘着付与剤としての作用を有するものが好ましく、より具体的には、フェノール樹脂、ロジン樹脂、ジシクロペンダジエン(DCPD)樹脂、ジシクロペンダジエン−イソプレン共重合体、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、脂環式系石油樹脂、C5留分とC9留分を共重合して得られる石油樹脂、キシレン樹脂、テルペン樹脂、ケトン樹脂、及びこれらの樹脂の変性樹脂等が挙げられる。これら樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、エラストマー組成物における樹脂の配合量は、上記エラストマー成分100質量部に対して20〜100質量部の範囲が好ましい。樹脂の配合量が20質量部未満では、プラグの減衰性能を向上させる効果が小さく、一方、100質量部を超えると、エラストマー組成物の加工性が低下する。
上記エラストマー組成物には、上記エラストマー成分、補強性充填剤、樹脂の他に、老化防止剤、ワックス、可塑剤、軟化剤等のエラストマー組成物に一般に添加される添加剤も配合できる。エラストマー組成物に老化防止剤を配合することにより、長期間経過した後でもプラグの物性変化を小さく抑えることが可能となる。なおそのような目的のために、老化防止剤と共に、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、安定剤、難燃剤等を配合することはとりわけ有効である。
上記可塑剤としては、フタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、テトラヒドロフタル酸、セバシン酸、アゼライン酸、マレイン酸、フマル酸、トリメリット酸、クエン酸、イタコン酸、オレイン酸、リシノール酸、ステアリン酸、リン酸、スルホン酸等の誘導体(例えば、エステル);グリコール、グリセリン、エポキシの誘導体、重合系可塑剤が挙げられる。これら可塑剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上をブレンドして用いてもよい。
上記軟化剤(オイル)としては、アロマ系オイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル等の鉱物油系軟化剤;ヒマシ油、綿実油、アマニ油、ナタネ油、大豆油、パーム油、落花生油、ロジン、パインオイル等の植物油系軟化剤;シリコーン油等の低分子量オイルを挙げることができる。これら軟化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上をブレンドして用いてもよい。
上記のプラグ用組成物に用いる粉体は、プラグの減衰性能を主として担う材料であり、具体的には、粉体同士の摩擦及び粉体とエラストマー成分との摩擦により振動を減衰させる。ここで粉体とは、補強性充填剤以外のものを指し、例えば、金属粉、炭化ケイ素粉等を包含する。なお、プラグ用組成物が粉体を含まない場合、プラグの減衰性能が大幅に低下して、十分な減衰性能、変位追従性等を得ることができない。
上記粉体としては、金属粉が好ましく、また、該金属粉としては、環境への負荷が小さいものが好ましく、例えば、鉄粉、ステンレス粉、ジルコニウム粉、タングステン粉、青銅(CuSn)粉、アルミニウム粉、金粉、銀粉、錫粉、炭化タングステン粉、タンタル粉、チタン粉、銅粉、ニッケル粉、ニオブ粉、鉄−ニッケル合金粉、亜鉛粉、モリブデン粉等が挙げられ、これら金属粉は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、これら金属粉は、金属酸化物粉でもよいため、上記粉体としては、金属酸化物粉等の金属化合物粉も好適に使用できる。これら粉体の中でも、鉄粉が特に好ましい。鉄粉は、安価である上、他の金属粉と対比して破壊強度が高く、また、鉄粉を主成分とする免震構造体用プラグは、固すぎることも脆すぎることもないため、優れた減衰性能を長期に渡って発揮することができる。なお、鉄粉としては、還元鉄粉、電解鉄粉、噴霧鉄粉、純鉄粉、鋳鉄粉等が挙げられるが、これらの中でも、還元鉄粉が好ましい。
プラグ用組成物において上記粉体の含有量は、50〜74体積%の範囲が好ましい。プラグ用組成物中の粉体の含有量が50体積%未満では、粉体間の距離が広すぎ、変形時の粉体同士の摩擦、及び粉体と他の成分との間の流動抵抗が小さくなるため、減衰性能が不十分である。一方、プラグ用組成物中の粉体の含有量が74体積%を超えると、粉体同士の接触が増え、繰り返し耐久性が低下する上、プラグ用組成物からプラグを成形する際に、プラグ用組成物から空気を十分に除くことが難しく、プラグの体積が理想体積(空気の混入が無い場合の体積)より大幅に大きくなり、プラグの減衰性能が低下する。
上記粉体の粒径は、0.1μm〜2 mmの範囲が好ましく、1μm〜150μmの範囲が更に好ましい。粉体の粒径が0.1μm未満では、取り扱いが困難であり、一方、粉体の粒径が2 mmを超えると、粉体同士の摩擦が減少して減衰効果が低下する傾向がある。なお、粉体の粒径が1μm以上であれば、取り扱いが容易であり、粉体の粒径が150μm以下であれば、プラグの減衰性能が十分に高い。
また、上記粉体の形状は、不定形であることが好ましい。ここで、不定形とは、球状などの1種類の形状のみではなく、凹凸を有するものや突起を有するものなど、種々の形態を有する形状が混在していることを意味する。バルクを粉砕することなどによって得られる粉体の形状は当然に不定形であるが、球状の粉体を用いた場合と比較したところ、不定形の粉体を用いた方が良好な減衰効果が得られた。これは、不定形の粉体を使用すると、粉体同士、粉体−エラストマー成分間の摩擦の際に引っ掛かり効果のようなものが生じ、球状のもの等を使用した場合と比較して摩擦が大きくなって、減衰性能が良好になるためであると考えられる。
上述のプラグ用組成物は、エラストマー成分に補強性充填剤を配合してなるエラストマー組成物と、粉体とを用いる以外特に制限はなく、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、第一工程において、エラストマー成分に、補強性充填剤と、必要に応じて適宜選択した各種配合剤とを加えて混練して、エラストマー組成物を調製する。
次に、第二工程において、上記エラストマー組成物に粉体を加えて更に混練する。第二工程においては、粉体を複数回に分けて配合することが好ましく、粉体を複数回に分けて配合することで、均一なプラグ用組成物を製造することが可能となる。
上記プラグ用組成物の製造の第一および第二工程には、ニーダー、バンバリーミキサー等の通常の混練装置を用いることができる。また、混練の条件も、特に限定されるものではなく、当該技術分野において通常用いられている条件を適宜改変して本発明の組成物が十分に混練されるような条件を設定することができる。例えば、第二工程の混練条件としては、回転数が20〜40 rpmの範囲で、温度は100℃程度が好ましい。エラストマー成分の粘度低下を抑えるためには、回転数は低い方が好ましい。また、温度については、エラストマー組成物への粉体の分散を良くするために、エラストマー組成物を軟化させるのに十分な温度が好ましいが、温度が高過ぎると、エラストマー成分が劣化したり、冷却に時間がかかり過ぎて生産性が低下したりする。なお、混練された組成物を排出する前に、圧力を開放して無加圧で混練することが好ましく、無加圧で混練することによって、組成物が固まりにならず、組成物の取り出しが容易となる。
<プラグ材>
本発明の免震構造体用プラグを構成するプラグ材は、上述したプラグ用組成物から製造でき、十分な減衰性能、変位追従性等を有する。そして、このプラグ材は、上記プラグ用組成物を用いて、例えば、以下のようにして製造することができる。
上記のようにして調製したプラグ用組成物を混練装置から取り出して、成型装置に移し、温度と圧力をかけることによって、プラグ材へとプレス加工する。この工程で使用するプレス機としては、当該技術分野において通常使用されているものを採用することができる。また、プレス加工の条件も、特に限定されるものではなく、当該技術分野において通常に用いられている条件を適宜改変してプラグの成型に適した条件を設定することができる。例えば、プレス加工の条件としては、プレス温度は常温〜150℃の範囲が好ましく、成形圧力は0.7 t/cm2以上が好ましい。なお、プラグ材は、異なる組成のプラグ用組成物をプレス加工したものを積層して成形しても良い。
<コーティング層>
本発明の免震構造体用プラグを構成するコーティング層には、モンタンワックスなどの鉱物系蝋、カルナバワックス、ハゼ蝋、ウルシ蝋、サトウキビロウ、パーム蝋などの植物系蝋、蜜蝋(ビーズワックス)、鯨蝋(マッコウクジラ油)、鯨蝋(ツチクジラ油)、イボタ蝋、羊毛蝋などの動物系蝋、パラフィンワックス、脂肪酸エステル系ワックス、脂肪酸アミド(ステアリン酸アミド)系ワックス、硬化ひまし油、ケトン類(ジヘプタデシルケトン等)などの合成ワックス等のワックス、エポキシ皮膜、シリコーン皮膜、NBR皮膜等の塗装皮膜、またはポリオレフィンシート、ウレタンシート、PTFEシート、ナイロンシート等のシート材を用いることができる。
<免震構造体用プラグ>
本発明の免震構造体用プラグは、上述したプラグ用組成物から製造されたプラグ材と、該プラグ材をコーティングするコーティング層とを具え、十分な減衰性能、変位追従性等を有する。
そして、本発明の免震構造体用プラグは、例えば、コーティング層に用い得る上述のシート材をプラグ材に既知の接着剤で接着することにより製造することができる。
また、本発明の免震構造体用プラグは、上述したワックスや皮膜材料等のコーティング材をはけ塗りやディップ(浸漬)等によりプラグ材に塗布してプラグ材にコーティング層を設けることによっても製造することができる。
なお、上述した方法以外にも、本発明の免震構造体用プラグは、プラグ用組成物にコーティング材を混練してからプラグ材の成形を行い、コーティング材をプラグ材表面にブリードアウト(浮き出し)させることにより製造することもできる。なお、この場合、例えばワックスをプラグ用組成物に10phr〜50phrの割合で配合すればブリードアウトさせることができる
<免震構造体>
本発明の免震構造体は、剛性を有する剛性板と弾性を有する弾性板とが交互に積層されてなり、該積層方向に延びる中空部を有する積層体と、該積層体の中空部に設けられたプラグとを具え、該プラグが上述の免震構造体用プラグであることを特徴とし、減衰性能、変位追従性等が高い。以下に、図面を参照しながら本発明の免震構造体を詳細に説明する。
図1に示す免震構造体1は、略ドーナツ板状の、剛性を有する剛性板2と弾性を有する弾性板3とが交互に積層されてなり、該積層方向(鉛直方向)に延びる円筒状の中空部を中心部に有する積層体4と、該積層体4の中空部に設けられたプラグ5と、積層体4及びプラグ5の両端(上端及び下端)に固定された、略ドーナツ板状のフランジ板61および円盤状の封止板62よりなるフランジ6とを具え、積層体4の外周面は積層体被覆材7で覆われている。
積層体4を構成する剛性板2と弾性板3とは、例えば、加硫接着により、あるいは接着剤により強固に貼り合わされている。なお、加硫接着においては、剛性板2と未加硫ゴム組成物とを積層してから加硫を行い、未加硫ゴム組成物の加硫物が弾性板3となる。ここで、剛性板2としては、鋼板等の金属板、セラミックス板、FRP等の強化プラスチックス板等を使用することができる。一方、弾性板3としては、加硫ゴム製の板等を使用することができる。また、本発明の免震構造体を構成する積層体は、積層体被覆材7で覆われていなくてもよいが、積層体4の外周面が積層体被覆材7で覆われている場合、積層体4に外部から雨や光が届かなくなり、酸素やオゾン、紫外線による積層体4の劣化を防止できる。なお、積層体被覆材7としては、弾性板3と同一の材料、例えば、加硫ゴム等を使用できる。
そして積層体4は、振動により水平方向のせん断力を受けた際には、せん断変形して、振動のエネルギーを吸収する。また、積層体4は、剛性板2と弾性板3とが交互に積層されてなるため、積層方向(鉛直方向)に荷重が作用しても、圧縮が抑制されている。
プラグ5は、エラストマー成分に補強性充填剤を配合してなるエラストマー組成物と、粉体とを含有する組成物から製造したプラグ材51の外周面を、ポリオレフィンシート材からなるコーティング層52で被覆したものであり、免震構造体1に十分な減衰性能、変位追従性をもたらすものである。
そしてプラグ5が積層体4の中空部に圧入された上記免震構造体1は、振動により水平方向のせん断力を受けた際には、積層体4と共にプラグ5がせん断変形して、振動のエネルギーを効果的に吸収して、振動を速やかに減衰することができる。
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1〜6)
ニーダーを用いて、表1に示す配合処方のエラストマー組成物を調製し、次に、該エラストマー組成物と表1に示す粉体とを所定の体積比(エラストマー組成物:粉体=40:60)で混練してプラグ用組成物を調製した。次に、該プラグ用組成物を温度100℃、圧力1.3 ton/cm2でプレス加工して表1に示す横断面積の円柱状のプラグ材を作製した。そして、そのプラグ材にコーティング材を塗布して表1に示す組成・厚みのコーティング層を設け、直径45mmの免震構造体用プラグを作製した。
(比較例1)
ニーダーを用いて、表1に示す配合処方のエラストマー組成物を調製し、次に、該エラストマー組成物と表1に示す粉体とを所定の体積比(エラストマー組成物:粉体=40:60)で混練してプラグ用組成物を調製した。次に、該プラグ用組成物を温度100℃、圧力1.3 ton/cm2でプレス加工して直径45mmの円柱状の免震構造体用プラグを作製した。
<評価>
中央に円筒状の中空部を有し、外径が225 mmで、剛性を有する剛性板[鉄板]と弾性を有する弾性板[加硫ゴム(G'=0.4 MPa)]とが交互に積層されてなる積層体の中空部に、上記免震構造体用プラグを圧入して、図1に示すような構造の免震構造体を作製した。なお、プラグの体積は、積層体の中空部の体積の1.01倍とした。上記免震構造体用プラグに対して、下記の方法で減衰性能、追従性、圧入し易さ、摩擦係数及びコーティング層の酸素透過率を評価した。結果を表1に示す。
(減衰性能)
上記免震構造体に対し、動的試験機を用いて鉛直方向に基準面圧をかけた状態で水平方向に加振して規定変位のせん断変形を生じさせた。なお、加振変位は、積層体の総厚さを100%として、歪50〜250%とし、加振周波数は0.33 Hzとし、垂直面圧は10 MPaとした。図2に、水平方向の変形変位(δ)と免震構造体の水平方向荷重(Q)との関係を示す。図2中のヒステリシス曲線で囲まれた領域の面積ΔWが広くなるほど、振動のエネルギーを多く吸収できることを意味する。ここでは、簡便のため、歪200%における切片荷重Qd(変位0における水平荷重値)でプラグの減衰性能を評価した。なお、切片荷重Qdは、ヒステリシス曲線が縦軸と交差する点での荷重Qd1、Qd2を用いて、下記式:
d=(Qd1+Qd2)/2
から計算した。Qdが大きくなる程、ヒステリシス曲線で囲まれた領域の面積が広くなり、減衰性能が優れることを示す。
(追従性)
積層体がせん断変形した際に、プラグがその変形に追従できるか否かを評価し、プラグが変形に追従できる場合を○(非常に良好)、追従できるが塑性変形する場合を△(良好)、追従できない場合を×(不良)とした。
(圧入し易さ)
免震構造体の作製時に、中空部へのプラグの圧入のし易さを評価し、コーティング層を設けていないプラグ(比較例1)を基準として、より容易に圧入できる場合を○(良好)、同程度の圧入し易さの場合を△(同等)、圧入し難い場合を×(不良)とした。
(摩擦係数)
積層体と免震構造体用プラグとの間の摩擦係数を、下板に免震構造体に用いる積層ゴムと同じゴム板を、上板にコーティング層で被覆した直径25mmのプラグを用い、互いに接触させた後に面圧9.8Nをかけ、速度1cm/secにて摺動させた際の1サイクル目の水平方向の荷重の平均値F(N)から求めた(動摩擦係数μ=F/9.8)。摩擦係数が1以下の場合を○(非常に良好)、1より大きくプラグ材より小さい場合を△(良好)とした。
(酸素透過率)
コーティング層の酸素透過率をJIS K7126に従い測定した。酸素透過率が1.0×10−9cm・cm/cm・sec・cmHg以下の場合を○(良好)とした。
Figure 2010144873
*1 天然ゴム, 未加硫, RSS#4
*2 ポリブタジエンゴム(低シス), 未加硫, 旭化成製「ジエンNF35R」
*3 カーボンブラック, ISAF, 東海カーボン製「シースト6P」
*4 樹脂, 日本ゼオン製「ゼオファイン」、新日本石油化学製「日石ネオポリマー140」、丸善石油化学製「マルカレッツM−890A」, 「ゼオファイン」:「日石ネオポリマー140」:「マルカレッツM−890A」=40:40:20(質量比)
*5 可塑剤, ジオクチルアジペート(DOA)
*6 その他の配合剤, 亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤[住友化学製「アンステージ6C]、ワックス[新日本石油製「プロトワックス1」], 亜鉛華:ステアリン酸:老化防止剤:ワックス=4:5:3:1(質量比)
*7 鉄粉1, 粒径=40μm, 不定形還元鉄粉
*8 新日本石油製「プロトワックス1」
*9 アルプス化学製「アルボンEX-330A」
*10 日本アチソン製「Emralon8370APA」
*11 LOAD製「HPC-5B」
*12 東レダウコーニング製「SE1980」
*13 エチレンプロピレンシート
表1の実施例1〜6および比較例1より、プラグ材の外周面にコーティング層を設けることにより、圧入がし易くなることが明らかとなった。
本発明の免震構造体の一例の断面図である。 プラグを使用した免震構造体における、水平方向の変形変位(δ)と水平方向荷重(Q)との関係を示すグラフである。
符号の説明
1 免震構造体
2 剛性板
3 弾性板
4 積層体
5 プラグ
6 フランジ
7 積層体被覆材
51 プラグ材
52 コーティング層
61 フランジ板
62 封止板

Claims (7)

  1. エラストマー成分に補強性充填剤を配合してなるエラストマー組成物と、粉体とを含有するプラグ用組成物から製造されるプラグ材と、
    前記プラグ材の少なくとも外周面をコーティングする、摩擦係数が該プラグ材より小さいコーティング層とを具えてなる、免震構造体用プラグ。
  2. 前記粉体が鉄粉である、請求項1に記載の免震構造体用プラグ。
  3. 前記摩擦係数が1以下である、請求項1に記載の免震構造体用プラグ。
  4. 前記プラグ材の横断面積が、前記コーティング層の横断面積の4倍以上、10000倍以下である、請求項1に記載の免震構造体用プラグ。
  5. 免震構造体用プラグの半径方向における前記コーティング層の厚みが10μm〜10mmである、請求項1に記載の免震構造体用プラグ。
  6. 前記コーティング層の酸素透過率が1.0×10−9cm・cm/cm・sec・cmHg以下である、請求項1または2に記載の免震構造体用プラグ。
  7. 剛性を有する剛性板と弾性を有する弾性板とが交互に積層されてなり、該積層方向に延びる中空部を有する積層体と、該積層体の中空部に設けられたプラグとを具える免震構造体において、
    前記プラグが請求項1〜6の何れかに記載の免震構造体用プラグであることを特徴とする、免震構造体。
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