JP2010139500A - 輸送係数の算出方法、輸送係数の算出装置、および輸送係数の算出プログラム - Google Patents

輸送係数の算出方法、輸送係数の算出装置、および輸送係数の算出プログラム Download PDF

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Abstract

【課題】複雑な分子構造を有する材料系において、精度よく短時間で熱伝導率を定量的に評価することができる輸送係数の算出方法、輸送係数の算出装置、および輸送係数の算出プログラムを得る。
【解決手段】平衡分子動力学法から得られる熱流束の自己相関関数に対して、先ず、低周波数透過フィルターを適用し、熱流束の自己相関関数の中から熱伝導特性に寄与しない高周波の格子振動を自己相関関数から除去し、次に、低周波数透過フィルターを適用した自己相関関数に関する周波数積分値を求め、さらに、低周波数透過フィルターのカットオフ周波数のゼロ極限を求めることによって外挿値を求めることにより熱伝導率を高精度に安定して算出する。
【選択図】図1

Description

本発明は、複雑な分子構造を有する材料系、とりわけ樹脂材料系の平衡分子動力学法による計算から、高精度で安定して熱伝導率を求める算出方法、算出装置に関し、さらにこの方法をコンピュータに実行させるための算出プログラムに関する。
絶縁性材料の熱伝導率は、格子振動によって熱の移動が行われることにより規定される。そして、この格子振動は、材料を構成する各々の原子の動きで表現でき、材料の熱伝導率を算出するためには、材料を構成する多数の原子の動きを計算する必要がある。多数の原子の動きを計算する手法として、分子動力学法が知られている。
分子動力学法には、大別して非平衡分子動力学法(NEMD、Non−Equilibrium Molecular Dynamics)、および平衡分子動力学法(EMD、Equilibrium Molecular Dynamics)に基づく研究開発が行われている。NEMD法による熱伝導率シミュレーションは、計算モデルに対して温度勾配を与えた条件で熱流束を計算し、フーリエの法則に基づき、温度勾配と熱流束の関係から熱伝導率を算出する。一方、EMD法による熱伝導率シミュレーションは、熱平衡系で熱流束を計算し、グリーン−久保公式に基づき、熱流束の自己相関関数から熱伝導率を算出する。
NEMD法は、系に直接温度勾配を与えるために、系の熱移動を直接評価できることがメリットである。一方、NEMD法では、系に温度勾配を課すため、複雑な材料では境界条件の取り扱いが難しい。例えば、NEMD法では、熱浴系と測定系の境界が非物理的な接触面となる。NEMD法では、この非物理的な境界効果を除去する必要があるため、基本的に計算モデルを大きくとる必要がある。それでもなお、実際に計算可能なモデルサイズでは、非現実的な境界条件(超薄膜に大きな温度差を印加した条件)に相当する問題が残される。
また、系の温度勾配を安定化させるために長時間計算を要することも、NEMD法の弱点である。これらの問題があるために、NEMD法による熱伝導率シミュレーションは、比較的簡単な分子構造であるカーボンナノチューブの1本鎖等への適用に限定されている。このように、現状では、NEMD法は、複雑な樹脂材料のマクロな熱伝導率を算出するためには課題が多いといえる。
これに対して、EMD法は、周期境界条件下の熱平衡系でシミュレーションできるため、材料のマクロな熱伝導率を評価できることが主な特徴である。また、EMD法は、NEMDに比して小さなモデルサイズでも熱伝導率が評価できるため、現実的な計算時間内で熱伝導率を評価できることがメリットである。従って、複雑な構造を有する樹脂材料の熱伝導を評価するためには、EMD法によるシミュレーション手法が適していると考えられる。
ただし、EMD法で実際に熱伝導率を評価する場合には、熱流束の自己相関関数を計算し、その時間挙動を評価解析することによって、熱伝導率を算出する必要がある。ここで、EMD法を用いた各時刻tに対する熱流束J(t)の出力データから熱伝導率を算出する式について簡単に説明する。熱伝導率λは、熱流束J(t)の自己相関関数<J(t)・J(0)>から、グリーン−久保公式に基づき、下式(14)の関係で結びつけられる。
Figure 2010139500
上式(14)において、Vは体積、Tは温度、kBはボルツマン定数、<>はサンプル平均を表している。熱流束J(t)は、EMD法によって計算することができる。熱流束J(t)は、下式(15)で表されるベクトル量である。
Figure 2010139500
上式(15)において、Σiは、粒子数をNとしたときの、i=1からNまでの総和を表す。E(t)は、時刻tにおける粒子iのエネルギー、rij(t)=r(t)−r(t)は、時刻tにおける粒子iと粒子jの位置ベクトル差、v(t)は時刻tにおける粒子iの速度ベクトル、Fij(t)=F(t)−F(t)は時刻tにおける粒子iと粒子jの力ベクトル差である。
しかし、EMD法において、実際に計算できるステップ数は、有限であり、上式(14)の積分範囲も有限な区間で行うことしかできない。このため、上式(14)の算出方法では、積分範囲に熱伝導率λの計算値が依存することが問題となる。特に、熱伝導率λは、自己相関関数<J(t)・J(0)>の長時間の挙動に支配されるため、時間の大きい側の積分区間の区切りに対して、計算値は敏感になる。
そこで、実際のEMD計算では、有限時間しか取り扱えないことに起因して、積分区間の選択を試行錯誤して熱伝導率λを算出することを想定し、本問題を作業性の観点から課題と捉えている。これを解決するために、コンピュータ上の表示処理を工夫し、積分範囲を効率的に選択できる算出装置がある(例えば、特許文献1参照)。
また、EMD法によって出力される自己相関関数<J(t)・J(0)>は、全ての振動モード(フォノン)の情報が含まれるため、複雑で激しい振動形状を示すことが知られている。
例えば、ダイヤモンド結晶のEMD計算を行い、自己相関関数<J(t)・J(0)>を算出している従来技術がある(例えば、非特許文献1参照)。自己相関関数<J(t)・J(0)>のt依存性は、非常に激しい振動を呈する結果が示されている。自己相関関数の振動は、音響フォノンと光学フォノンの熱振動が自己相関関数<J(t)・J(0)>に混合して現れているためであり、激しい振動は、ダイヤモンド結晶の光学フォノンに相当する。
熱伝導率λは、音響フォノンに起因しており、光学フォノンに基づく激しい振動成分を除去する必要がある。非特許文献1では、自己相関関数<J(t)・J(0)>を、音響フォノンと光学フォノンを独立した緩和過程で表現する簡易なモデル化を行い、自己相関関数から音響フォノンを選択的に抽出し、ダイヤモンド結晶の熱伝導率を定量的に求める算出方法を開示している。
特開平5−151191号公報
J.Che、T.Cagin、W.Deng、and W.A.Goddard III、J.Chem.Phys.、113 6888 (2000).
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1で問題として取り上げられている通り、実際のEMD計算では、有限時間しか取り扱えないため、上式(14)では、積分範囲の取り方に熱伝導率の計算結果が強く依存する。この特許文献1では、コンピュータ上の表示処理を工夫することで、本問題の解決を作業性の観点から図っている。しかしながら、熱伝導率を定量的に算出する算出方法として、上式(14)の算出方法に係わる抜本的な問題解決は、図られていない。
また、非特許文献1で示されたダイヤモンド結晶のような比較的単純な分子構造であっても、自己相関関数<J(t)・J(0)>は、複雑な時間依存性を示す。特に、自己相関関数<J(t)・J(0)>の複雑な時間依存性は、計算対象の分子構造の複雑さと相関している。従って、複雑な内部構造を有する樹脂材料系においては、自己相関関数<J(t)・J(0)>は、ダイヤモンド結晶と比べて、さらに複雑な挙動を示す。このため、自己相関関数<J(t)・J(0)>の簡易なモデル化手法、およびこのようなモデルを複雑化した手法では、熱伝導率を定量的に算出することが困難と考えられる。
従って、実際のEMD計算では、有限のステップ数しか取り扱えないことに起因する問題と、計算対象の分子構造に起因する自己相関関数<J(t)・J(0)>の複雑な挙動を評価解析する困難さの問題、の2つの課題がある。
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、複雑な分子構造を有する材料系において、精度よく短時間で熱伝導率を定量的に評価することができる輸送係数の算出方法、輸送係数の算出装置、および輸送係数の算出プログラムを得ることを目的とする。
本発明に係る輸送係数の算出方法は、原子あるいは分子の構造データおよび温度計算条件を入力するステップと、所定の時間tに対して力学量J(t)を算出するステップと、力学量J(t)を用いて下式(16)
Figure 2010139500
に基づいて周波数スペクトルΠ(ω、ω)を算出するステップと、周波数スペクトルΠ(ω、ω)を用いて下式(17)
Figure 2010139500
に基づいて重み付き周波数成分S(ω)を算出するステップと、重み付き周波数成分S(ω)を用いて下式(18)
Figure 2010139500
に基づいて輸送係数Kを算出するステップとを備えたものである。
なお、輸送係数として熱伝導率を算出する場合、力学量J(t)は上式(15)で現れる力学量を用い、上式(17)の定数Cは、下式(19)を用いる。
Figure 2010139500
本発明に係る輸送係数の算出方法、輸送係数の算出装置、および輸送係数の算出プログラムによれば、平衡分子動力学法から得られる熱流束の自己相関関数に対して、先ず、低周波数透過フィルターを適用し、熱流束の自己相関関数の中から熱伝導特性に寄与しない高周波の格子振動を自己相関関数から除去し、次に、低周波数透過フィルターを適用した自己相関関数に関する周波数積分値を求め、さらに、低周波数透過フィルターのカットオフ周波数のゼロ極限を求めることによって外挿値を求めることにより、複雑な分子構造を有する材料系において、精度よく短時間で熱伝導率を定量的に評価することができる輸送係数の算出方法、輸送係数の算出装置、および輸送係数の算出プログラムを得ることができる。
本発明の実施の形態2における輸送係数の算出方法のフローチャートである。 本発明の実施の形態2における輸送係数の算出装置の構成図である。 本発明の実施の形態3における平衡分子動力学シミュレータの処理ステップS101によって出力されたポリエチレンのモデル結晶における熱流束J(t)の自己相関関数<J(t)・J(0)>の計算結果である。 本発明の実施の形態3において、図3の自己相関関数<J(t)・J(0)>を、非特許文献1の算出方法に従ってフィティングした結果を示した図である。 本発明の実施の形態3における熱伝導率の算出方法を、ポリエチレンのモデル結晶における結晶状態での自己相関関数<J(t)・J(0)>へ適用した結果を示した図である。 本発明の実施の形態3における熱伝導率の算出方法を、ポリエチレンのモデル結晶におけるアモルファス状態での自己相関関数<J(t)・J(0)>へ適用した結果を示した図である。 本発明の実施の形態3において用いた低周波数透過フィルターの周波数特性を示した図である。 本発明の実施の形態4における輸送係数の算出方法のフローチャートである。 本発明の実施の形態4における輸送係数の算出装置の構成図である。 本発明の実施の形態6における輸送係数の算出方法のフローチャートである。 本発明の実施の形態6における輸送係数の算出装置の構成図である。 本発明の実施の形態7における輸送係数の算出方法のフローチャートである。 本発明の実施の形態7における輸送係数の算出装置の構成図である。
以下、本発明の輸送係数の算出方法、輸送係数の算出装置、および輸送係数の算出プログラムの好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
実施の形態1.
本実施の形態1では、輸送係数として熱伝導率λを算出する例を示す。熱伝導率λを算出する手法として、上式(16)のΠ(ω、ω)について、単純にωに関するゼロ極限を求める手法を用いることも考えられる。しかしながら、複雑な内部構造を有する樹脂材料では、低周波透過フィルターfω(t)だけでは、熱伝導率λに寄与しない格子振動を完全には除去できない。このため、Π(ω、ω)について単純にωに対するゼロ極限を求める方法は、数値的に安定しないことを、我々は確認している。
また、実際のEMD計算では有限時間しか取り扱えないため、実際に周波数ωをゼロに十分に近づけることが難しい。この問題は、上式(14)に基づく算出方法において、実際のEMD計算では有限の積分区間しか取扱えないことに起因した熱伝導率λの数値的不安定さと本質的には同じ問題である。
これを解決するためには、長時間計算が必要となるが、それでもなお、実際には有限の計算時間しか取り扱えない。このため、EMD計算部の長時間計算は、特許文献1と同様に、本質的な解決手段とはならない。このため、Π(ω、ω)に対して単純にωのゼロ極限を求める手法だけでは、熱伝導率を定量的に求めることは容易でない。
一方、本発明の場合、上式(17)において積分されるΠ(ω、ω)は、低周波透過フィルターによってωの高周波数成分が減じられている。このため、上式(17)において有限な積分区間しか取れないことに起因するS(ω)の不定性は、ほとんどない。つまり、上式(17)によるS(ω)は、数値的に安定して算出することができる。
また、本実施の形態1では、低周波透過フィルターでも完全には除去できない熱運動による格子振動も含めた積分値S(ω)を算出し、ωについて外挿を行う。すなわち、本工程は、熱伝導に寄与しないが容易に自己相関関数から取り除けない格子振動を徐々に除去していくことを意味している。従って、本発明に係わる上式(17)の算出方法においては、計算モデルの複雑な内部構造に起因する自己相関関数<J(t)・J(0)>の複雑な挙動が、S(ω)に多少含まれていてもよい。
さらに、本実施の形態1は、S(ω)のカットオフ周波数ωについて外挿する。このため、実際のEMD計算では有限時間しか取り扱えない問題に、強く影響されない。この結果、比較的短時間のEMD計算により求められた自己相関関数<J(t)・J(0)>から、精度よく熱伝導率λを算出することができる。
以上のように、実施の形態1によれば、実際のEMD計算において有限時間しか取り扱えないことに起因する問題と、計算対象の複雑な分子構造に起因する自己相関関数<J(t)・J(0)>の複雑な挙動を評価解析する困難さの問題とを、同時に解決することができる。
実施の形態2.
先の実施の形態1では、数式に基づいて、本発明の輸送係数の算出方法、輸送係数の算出装置、および輸送係数の算出プログラムを説明した。これに対して、本実施の形態2では、図面に基づいて、本発明の輸送係数の算出方法、輸送係数の算出装置、および輸送係数の算出プログラムについて、詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態2における輸送係数の算出方法のフローチャートであり、輸送係数として熱伝導率λを算出する場合を示している。この図1のフローチャートは、平衡分子動力学法シミュレータによる処理ステップS101と、熱伝導率計算シミュレータの処理ステップS201とで構成されている。
さらに、処理ステップS101は、S11〜S14に細分化され、処理ステップS201は、S21〜S26に細分化されている。処理ステップS101における平衡分子動力学法シミュレータは、原子・分子の構造データと温度などの計算条件を入力し(ステップS11、S12)、平衡分子動力学計算を実施する(ステップS13)。そして、平衡分子動力学計算によって算出される熱流束J(t)の時系列データを熱伝導算出シミュレータの処理ステップS201に対して出力する(ステップS14)。この時系列データを入力することで、処理ステップS201により熱伝導率が算出される。
このように、処理ステップS101における平衡分子動力学法シミュレータは、原子の初期座標、初期速度、原子間ポテンシャル関数、原子の質量、原子の電荷等を入力し、平衡分子動力学法に基づいて、原子・分子の座標や速度などの時間発展(時系列データ)を出力するものである。なお、平衡分子動力学法の計算手法は、一般的な教科書に記述されているので説明を省略する。
次に、処理ステップS201における熱伝導算出シミュレータ内の各ステップS21〜S26について説明する。ステップS21は、熱流束J(t)の自己相関関数のサンプル平均値<J(t)・J(0)>を算出するステップである。また、ステップS22は、低周波数透過フィルターのカットオフ周波数ωを入力するステップである。そして、ステップS23は、本発明に係わる上式(16)を用いて低周波数透過フィルターを適用された自己相関関数の周波数スペクトルΠ(ω、ω)を算出するステップである。
次に、ステップS24は、本発明に係わる上式(17)を用いて低周波数透過フィルターのカットオフ周波数ωに対してS(ω)を算出するステップである。次に、ステップS25は、本発明に係わる上式(18)を用いて、複数のカットオフ周波数ωに対して計算されたS(ω)から、低周波数透過フィルターのカットオフ周波数ωに対するゼロ極限値を外挿するステップである。さらに、ステップS26は、求められた熱伝導率λを出力するステップである。
図2は、本発明の実施の形態2における輸送係数の算出装置の構成図であり、図1のフローチャートに対応した処理を行う装置構成を示している。この図2における輸送係数の算出装置は、入力部10、処理部20、および出力部30で構成されている。さらに、処理部20は、4つの算出部21〜24(第1算出部〜第4算出部に相当)で構成されている。
入力部10は、原子あるいは分子の少なくとも座標データおよび計算条件等の入力部であり、図1のステップS11、S12に相当する。処理部20内の第1算出部21は、力学量J(t)を算出するための平衡分子動力学法に基づく熱流束J(t)を求める算出部であり、図1のステップS13、S14に相当する。
第2算出部22は、熱流束J(t)の自己相関関数のサンプル平均値<J(t)・J(0)>の算出結果と、低周波数透過フィルターのカットオフ周波数ωとを用いて、上式(16)に基づく周波数スペクトルΠ(ω、ω)を求める算出部であり、図1のステップS21〜S23に相当する。
第3算出部23は、周波数スペクトルΠ(ω、ω)を用いて上式(17)に基づく重み付き周波数成分S(ω)を求める算出部であり、図1のステップS24に相当する。第4算出部24は、重み付き周波数成分S(ω)を用いて上式(18)に基づいて熱伝導率λを求める算出部であり、図1のステップS25に相当する。さらに、出力部30は、熱伝導率λの出力部であり、図1のステップS26に相当する。
なお、本発明に係る熱伝導算出装置は、図2に示した詳細な構成に限定されるものではない。例えば、平衡分子動力学法に基づく熱流束J(t)の第1算出部21から得られる熱流束の時系列データを、外部記憶媒体に出力し、出力された熱流束J(t)の時系列データを改めて入力する入力処理部を備えることでも実現できる。
この場合には、入力した時系列データを用いて、処理部20内の第2算出部22〜第4算出部24で演算処理することで、出力部30から熱伝導率λを出力できる。
以上のように、実施の形態2によれば、実際のEMD計算において有限時間しか取り扱えないことに起因する問題と、計算対象の複雑な分子構造に起因する自己相関関数<J(t)・J(0)>の複雑な挙動を評価解析する困難さの問題とを、同時に解決することができる。
実施の形態3.
本実施の形態3では、本発明を汎用樹脂材料であるポリエチレン材料に適用した例を述べる。ポリエチレン材料は、マクロな形態として、結晶状態と非晶質(アモルファス)状態を取ることが知られている。このため、結晶状態とアモルファス状態の両者について、本発明を適用した。なお、本発明の算出方法を適用する材料系としては、高分子化合物、分子集合体、高分子集合体、結晶性化合物、および非結晶性化合物を挙げることができ、分子の形態に係わらず、本発明に係わる算出方法を適用することができる。
そこで、まず始めに、ポリエチレン材料の結晶状態について本発明を適用した例を述べる。ポリエチレン結晶のモデル結晶は、周期境界条件を課したセルサイズ(162.3Å×9.6Å×14.8Å)に原子数3072、ポリマー数8のポリエチレン鎖を配置、質量密度1.0g/ccの計算モデルを用いた。
これらの原子・分子データを先の図1におけるステップS11を通じて平衡分子動力学計算のステップS13へ入力した。平衡分子動力学計算のステップS13は、NVTアンサンブル(粒子数(N)、体積(V)、温度(T)を一定とした熱力学的条件)において、温度300K、時間刻み幅は1fsの計算条件で実行した。この計算条件において、系を熱平衡状態にするために、平衡分子動力学計算をステップ数5×10ステップ、熱伝導率を算出するために平衡分子動力学計算をステップ数3×10ステップ実行した。
図3は、本発明の実施の形態3における平衡分子動力学シミュレータの処理ステップS101によって出力されたポリエチレンのモデル結晶における熱流束J(t)の自己相関関数<J(t)・J(0)>の計算結果である。図3から、先に説明したように、自己相関関数<J(t)・J(0)>は、複雑な挙動を示すことが確認できる。
図3のように、激しい振動を呈する自己相関関数<J(t)・J(0)>を、上式(14)に基づいて単純に時間積分したとしても、激しい振動積分自体が精度よく求められない。このことからも、上式(14)に基づいた熱伝導率の評価解析手法(例えば、特許文献1)では、熱伝導率を定量的に算出できないことが容易に理解できる。
また、図3のような激しい振動を有する自己相関関数<J(t)・J(0)>を、何らかのモデル式で近似し、自己相関関数<J(t)・J(0)>をモデル式に対してフィティングする計算方法を用いた場合にも、熱伝導率の定量的算出の困難さが容易に想像できる。
図4は、本発明の実施の形態3において、図3の自己相関関数<J(t)・J(0)>を、非特許文献1の算出方法に従ってフィティングした結果を示した図である。図4に示すように、フィティングの対象となるデータのばらつきが大きいため、熱伝導率の定量的算出が困難であることが確認できる。実際に、非特許文献1の方法を適用して熱伝導率を算出すると、0.9W/(m・K)となる。ポリエチレン結晶の実験値は、測定サンプルの作成方法等に強く依存するが、概ね10W/(m・K)以上であり、非特許文献1の方法による計算値は、実験値とよく一致しない結果となる。
これに対して、図5は、本発明の実施の形態3における熱伝導率の算出方法を、ポリエチレンのモデル結晶における結晶状態での自己相関関数<J(t)・J(0)>へ適用した結果を示した図である。より具体的には、上式(16)を用いた先の図1におけるステップS23の算出を行った後、上式(17)を用いた先の図1におけるステップS24の算出を行った結果であり、横軸に低周波数透過フィルターのカットオフ周波数ωc、縦軸に上式(17)の左辺S(ω)をプロットしたものである。
先の図1におけるステップS25に示したように、上式(18)から、図5においてカットオフ周波数ωのゼロ極限を外挿する算出方法を適用することで、熱伝導率λが算出される。このため、実際にステップS25の算出方法を適用して熱伝導率λを算出するためには、図5に示される計算結果のばらつきが小さいことが重要である。図5に示すとおり、S(ω)は、ωに対してばらつきが少ないデータとなっていることが確認できる。
実際に、図5の計算結果をωに対して外挿、すなわち、S(ω)のωゼロ極限を求めた結果、ポリエチレンのモデル結晶の熱伝導率は、11.8W/(m・K)となった。本発明に係わる算出方法を適用した計算値は、概ね10W/(m・K)以上となった実験値と良好に一致している。このように、先の実施の形態1、2で説明した本発明の算出方法により、ポリエチレン結晶の熱伝導率を定量的に算出できることが確認できた。
次に、ポリエチレン材料のアモルファス状態に本発明を適用した例を述べる。ポリエチレンアモルファスのモデル非晶質は、周期境界条件を課したセルサイズ(36.8Å×36.8Å×36.8Å)に原子数1536、ポリマー数4のポリエチレン鎖を配置、質量密度0.95g/ccの計算モデルを用いた。
これらの原子・分子データを先の図1におけるステップS11を通じて平衡分子動力学計算S13へ入力した。平衡分子動力学計算のステップS13は、NVTアンサンブル(粒子数(N)、体積(V)、温度(T)を一定とした熱力学的条件)において、温度300K、時間刻み幅は1fsの計算条件で実行した。この計算条件において、系を熱平衡状態にするために、平衡分子動力学計算をステップ数5×10ステップ、熱伝導率を算出するために平衡分子動力学計算をステップ数3×10ステップ実行した。
図6は、本発明の実施の形態3における熱伝導率の算出方法をポリエチレンのモデル結晶におけるアモルファス状態での自己相関関数<J(t)・J(0)>へ適用した結果を示した図である。より具体的には、上式(16)を用いた先の図1におけるステップS23の算出を行った後、上式(17)を用いた先の図1におけるステップS24の算出を行った結果であり、横軸に低周波数透過フィルターのカットオフ周波数ωc、縦軸に(17)式の左辺S(ω)をプロットしたものである。
図6から、S(ω)は、ωに対してばらつきが少ないデータとなっていることが確認できる。従って、先の図1におけるステップS25に示したように、カットオフ周波数ωのゼロ極限を外挿する算出方法を適用することにより、精度よく外挿値を求めることが実現可能であることが確認できた。
実際に、図6の計算結果をωに対してフィティングして、S(ω)のωゼロ極限を求めた結果、ポリエチレンのアモルファスモデルの熱伝導率は、0.36W/(m・K)となった。ポリエチレンアモルファスの熱伝導率の実験値は、測定サンプルの作成方法等に依存して多少のばらつきがあるが、概ね0.4W/(m・K)程度であり、計算値は、実験値と良好に一致している。ポリエチレンアモルファスについても、本発明に係わる算出方法により熱伝導率を定量的に算出できることが確認できた。
以上のように、実施の形態3によれば、本発明の算出方法を用いることで、ポリエチレン材料のマクロな形態、すなわち、結晶状態やアモルファス状態の熱伝導特性の差を明確に再現きることが確認できた。
なお、図7は、本発明の実施の形態3において用いた低周波数透過フィルターの周波数特性を示した図である。しかしながら、本発明に係る算出方法は、低周波数透過フィルターのゲイン特性の詳細に依存するものではなく、図7に示した低周波数透過フィルターに限定されるものではない。
実施の形態4.
上述した実施の形態1〜3は、熱伝導率を算出するために時系列データとして熱流束J(t)の時系列データを想定している。このため、熱流束J(t)の時系列データから熱伝導率を算出する処理ステップS201を、便宜上、熱伝導率計算シミュレータと称していた。しかしながら、本発明に係る算出方法を含む処理ステップS201は、熱伝導率の算出方法だけに限定されるものではない。
この処理ステップS201は、例えば、体積粘性率、電気伝導率、ずれ粘性係数などの輸送係数の定量的算出にも、一般的に適用できるものである。この場合、分子動力学法シミュレータから出力される時系列データは、算出する輸送係数と対応した力学量となる。算出する輸送係数と力学量との対応関係は、一般的な教科書に記述されている内容であるが、例えば、電気伝導率の場合、時系列でデータJ(t)は、下式(20)となる。
Figure 2010139500
図8は、本発明の実施の形態4における輸送係数の算出方法のフローチャートである。また、図9は、本発明の実施の形態4における輸送係数の算出装置の構成図であり、図8のフローチャートに対応した処理を行う装置構成を示している。
本実施の形態4の図8における輸送係数を算出するフローチャート、および図9における算出装置の構成と、先の図1における熱伝導率を算出するフローチャート、および図2における算出装置の構成との差異は、図8、図9において添字aが付された部分である。より具体的には、本実施の形態4における図8、図9では、力学量に応じた輸送係数Kの定数Cを扱っている点が異なっている。
定数Cは、平衡分子動力学シミュレータにおける温度や体積などの原子・分子データや、計算条件からの数値と自然定数で構成される。輸送係数の算出装置も同様に、求めたい輸送係数Kに対応する力学量を計算する力学量算出処理部が有ればよい。
以上のように、実施の形態4によれば、体積粘性率、電気伝導率、ずれ粘性係数などの輸送係数の定量的算出においても、実際のEMD計算において有限時間しか取り扱えないことに起因する問題と、計算対象の複雑な分子構造に起因する自己相関関数<J(t)・J(0)>の複雑な挙動を評価解析する困難さの問題とを、同時に解決することができ、熱伝導率の場合と同様の効果を得ることができる。
実施の形態5.
先の実施の形態1〜4は、系全体の輸送係数、すなわち、系全体の熱伝導率あるいは電機伝導率の算出方法について説明した。これに対して、本実施の形態5では、輸送係数と分子構造との関係を把握するために、原子毎もしくは原子団毎における輸送係数の割合(原子毎の輸送係数)を算出する計算方法を、数式に基づいて説明する。なお、図面を用いた具体的な説明は、実施の形態6以降で行う。
平衡分子動力学計算によって算出される原子毎の力学量J(t)の時系列データを、熱伝導率算出シミュレータS301に入力することで輸送係数を算出する。例えば、原子毎の力学量J(t)が熱流束の場合、下式(21)となる。
Figure 2010139500
熱伝導率算出シミュレータS301では、原子毎の熱流束J(t)から、下式(22)に基づいて、原子間周波数スペクトルΠij(ω;ω )を算出する。ここで、ω は、系全体の計算で用いたカットオフ周波数の中のm個目(mは、1以上の整数)のカットオフ周波数を意味している。
Figure 2010139500
次に、上式(22)の原子間周波数スペクトルを用いて、下式(23)に基づいて、原子間重み付き原子間周波数成分Sij(ω )を算出する。
Figure 2010139500
上式(23)におけるCは、計算したい輸送係数と力学量を関係づける定数であり、熱伝導率の場合は、上式(19)を用いる。ここまでの工程は、先の実施の形態1における系全体の輸送係数を算出する方法において、対応する物理量を原子間および原子間毎に算出しているのみの違いである。
原子毎の輸送係数を求めるためには、系全体の輸送係数を算出する際の自己相関関数の時間相関抽出に加え、空間相関を各原子に対して射影する必要がある。
一般的には、空間相関を分離するためには、複数のカットオフ周波数に対して、上式(23)の原子間について空間相関を分離すればよい。すなわち、複数のカットオフ周波数に対して、上式(23)の原子iと原子jについて構成された行列を数値的に行列対角化すればよい。しかしながら、樹脂材料のような複雑な構造を有する材料では、輸送係数の計算に必要な原子数が大きいため、行列が大規模となる。このため、行列の数値対角化計算に膨大な計算量が必要となることが予想される。
実際に、本願発明者らは、全てのカットオフ周波数に対する空間相関を各原子に射影するための数値対角化計算が、計算量の観点から困難であることを見出した。このため、本実施の形態5では、膨大な計算量を必要とせず、同時に、定量的に原子毎の輸送係数を求める手段を説明する。
上式(23)の原子間周波数スペクトルにおいて、系全体の計算で用いたカットオフ周波数の中から(K個の中から)、カットオフ周波数ω における原子間相関行列Aij(ω )を、下式(24)に基づいて算出する(ただし、k=1〜Kで表される整数)。
Figure 2010139500
カットオフ周波数ω は、系全体の計算で用いた複数のカットオフ周波数の中の1つのカットオフ周波数を選択することが望ましく、好ましくは、系全体の計算で用いた複数のカットオフ周波数の平均値に最も近い1つを選択することが望ましい。カットオフ周波数ω が系全体の計算で用いた複数のカットオフ周波数と著しく異なる場合には、以下に説明する周波数相関・原子相関射影係数の近似精度が悪化する。
上式(24)の原子間相関行列の数値対角化計算によって得られる固有ベクトルu〜uから構成される下式(25)の射影演算子Uを算出することができる。
Figure 2010139500
行列の数値対角化法は、一般的な教科書に記述されているので説明を省略する。
上式(25)の射影演算子Uを用いて、複数のカットオフ周波数に対して周波数相関・原子相関射影係数を、下式(26)に基づいて算出する。
Figure 2010139500
上式(26)のβ(ω )は、周波数相関において空間相関が混ざりあった状態から、空間相関に係わる射影演算子Uを通じて、ある特定の原子i成分の割合を抽出することができることを意味している。
上式(18)の系全体の熱伝導率λのカットオフ周波数依存性、すなわち、重み付き周波数成分S(ω )から、上式(26)の周波数相関・原子相関射影係数β(ω )を用いて、下式(27)に基づき、カットオフ周波数ゼロの外挿値を求めることによって、原子毎の熱伝導率λを求めることができる。
Figure 2010139500
以上のように、実施の形態5によれば、空間相関の射影演算子の計算を1回だけで処理し、さらに系全体の熱伝導率の計算結果を利用してカットオフ周波数相関ゼロの外挿値を求めている。この結果、定量的に、かつ、効率よく原子毎の熱伝導率を算出することが可能となる。
実施の形態6.
先の実施の形態5では、数式に基づいて、本発明の原子毎の輸送係数の算出方法、原子毎の輸送係数の算出装置、および輸送係数の算出プログラムを説明した。これに対して、本実施の形態6では、図面に基づいて、本発明の原子毎の輸送係数の算出方法、原子毎の輸送係数の算出装置、および原子毎の輸送係数の算出プログラムについて、詳細に説明する。
図10は、本発明の実施の形態6における輸送係数の算出方法のフローチャートであり、原子毎の輸送係数として原子毎の熱伝導率λを算出する場合を示している。この図10のフローチャートは、平衡分子動力学法シミュレータによる処理ステップS101と、原子毎の熱伝導率計算シミュレータの処理ステップS301とで構成されている。
さらに、処理ステップS101は、S11〜S15に細分化され、処理ステップS301は、S31〜S38に細分化されている。処理ステップS101における平衡分子動力学法シミュレータは、原子・分子の構造データと温度などの計算条件を入力し(ステップS11、S12)、平衡分子動力学計算を実施する(ステップS13)。
そして、平衡分子動力学計算によって算出される熱流束J(t)の時系列データを熱伝導算出シミュレータの処理ステップS201に対して出力する(ステップS15)。この時系列データを入力することで、処理ステップS301により原子毎の熱伝導率が算出される。
このように、処理ステップS101における平衡分子動力学法シミュレータは、原子の初期座標、初期速度、原子間ポテンシャル関数、原子の質量、原子の電荷等を入力し、平衡分子動力学法に基づいて、原子・分子の座標や速度などの時間発展(時系列データ)を出力するものである。本実施の形態6の図10におけるS101は、先の実施の形態2の図1におけるS101と比較すると、時系列データを出力するステップが、ステップS14からステップS15に代わっている点が異なっている。
次に、処理ステップS301における原子毎の熱伝導算出シミュレータ内の各ステップS31〜S38について説明する。ステップ31は、原子毎の熱流束J(t)の自己相関関数のサンプル平均値<J(t)・J(0)>を算出するステップである。また、ステップS22は、低周波数透過フィルターのカットオフ周波数ωを入力するステップである。そして、ステップS33は、本発明に係わる上式(22)を用いて低周波数透過フィルターを適用された自己相関関数の原子間周波数スペクトルΠij(ω;ω )を算出するステップである。
次に、ステップS34は、本発明に係わる上式(23)を用いて低周波数透過フィルターのカットオフ周波数ω に対してSij(ω )を算出するステップである。次に、ステップS35は、本発明に係わる上式(24)を用いて、Aij(ω )を算出するステップである。さらに、ステップS35は、本発明に係わるAij(ω )を数値的に行列対角化することより、射影演算子Uを算出するステップでもある。次に、ステップS36は、本発明に係わる上式(26)を用いて、複数のカットオフ周波数に対して、β(ω )を算出するステップである。
次に、ステップS37は、本発明に係わる上式(27)を用いて複数のカットオフ周波数に対して計算されたβ(ω )と、本発明に係わる上式(18)を用いて複数のカットオフ周波数に対して計算された重み付き周波数成分S(ω )から、低周波数透過フィルターのカットオフ周波数ω に対するゼロ極限値を外挿するステップである。さらに、ステップS38は、求められた原子毎の熱伝導率λを出力するステップである。
図11は、本発明の実施の形態6における輸送係数の算出装置の構成図であり、図10のフローチャートに対応した処理を行う装置構成を示している。この図11における輸送係数の算出装置は、入力部10、処理部40、および出力部50で構成されている。さらに、処理部40は、7つの算出部41〜47(第1算出部〜第7算出部に相当)で構成されている。
入力部10は、原子あるいは分子の少なくとも座標データおよび計算条件等の入力部であり、図10のステップS11、S12に相当する。処理部40内の第1算出部41は、原子毎の力学量J(t)を算出するための平衡分子動力学法に基づく熱流束J(t)を求める算出部であり、図10のステップS13、S15に相当する。本実施の形態6の図11における入力部10は、先の実施の形態2における図2の入力部10と比較すると、時系列データを出力するステップが、ステップS14からステップS15に代わっている点が異なっている。
第2算出部42は、原子毎の熱流束J(t)の原子毎の自己相関関数のサンプル平均値<J(t)・J(0)>の算出結果と、低周波数透過フィルターのカットオフ周波数ω とを用いて、上式(22)に基づく周波数スペクトルΠij(ω;ω )を求める算出部であり、図10のステップS31、S33、およびS22に相当する。
第3算出部43は、周波数スペクトルΠij(ω;ω )を用いて上式(23)に基づく原子間重み付き周波数成分Sij(ω )を求める算出部であり、図10のステップS34に相当する。第4算出部44は、重み付き周波数成分Sij(ω )を用いて上式(24)に基づいて原子間相関行列Aij(ω )を求める算出部であり、図10のステップS35に相当する。
第5算出部45は、原子間相関行列Aij(ω )の数値対角化を行うことによって上式(25)の射影演算子Uを求める算出部であり、図10のステップS35に対応する。第5算出部45は、上式(26)に基づく波数相関・原子相関射影係数β(ω )を求める算出部であり、図10のステップS36に相当する。第6算出部46は、上式(27)に基づく原子毎の熱伝導率λを求める算出部であり、図10のステップS37に相当する。さらに、出力部50は、熱伝導率λの出力部であり、図10のステップS38に相当する。
なお、本発明に係る熱伝導算出装置は、図11に示した詳細な構成に限定されるものではない。例えば、平衡分子動力学法に基づく熱流束J(t)の第1算出部41から得られる熱流束の時系列データを、外部記憶媒体に出力し、出力された熱流束J(t)の時系列データを改めて入力する入力処理部を備えることでも実現できる。
この場合には、入力した時系列データを用いて、処理部40内の第2算出部42〜第7算出部47で演算処理することで、出力部50から熱伝導率λを出力できる。
以上のように、実施の形態6によれば、空間相関の射影演算子の計算を1回だけで処理し、さらに系全体の熱伝導率の計算結果を利用してカットオフ周波数相関ゼロの外挿値を求めている。この結果、定量的に、かつ、効率よく原子毎の熱伝導率を算出することが可能となる。
実施の形態7.
上述した実施の形態6は、原子毎の熱伝導率を算出するために時系列データとして、原子毎の熱流束J(t)の時系列データを想定している。このため、原子毎の熱流束J(t)の時系列データから原子毎の熱伝導率を算出する処理ステップS301を、便宜上、原子毎の熱伝導シミュレータと称していた。しかしながら、本発明に係る算出方法を含む処理ステップS301は、原子毎の熱伝導率の算出方法だけに限定されるものではない。
この処理ステップS301は、例えば、原子毎の体積粘性率、原子毎の電気伝導率、原子毎のずれ粘性係数などの、原子毎の輸送係数の定量的算出にも、一般的に適用できるものである。この場合、分子動力学法シミュレータから出力される時系列データは、算出する輸送係数と対応した力学量となる。算出する輸送係数と力学量との対応関係は、一般的な教科書に記述されている内容であるが、例えば、電気伝導率の場合、原子毎の時系列でデータJ(t)は、下式(28)となる。
Figure 2010139500
図12は、本発明の実施の形態6における輸送係数の算出方法のフローチャートである。また、図13は、本発明の実施の形態6における輸送係数の算出装置の構成図であり、図12のフローチャートに対応した処理を行う装置構成を示している。
本実施の形態6の図12における輸送係数を算出するフローチャート、および図13における算出装置の構成と、先の図10における熱伝導率を算出するフローチャート、および図11における算出装置の構成との差異は、図12、図13において添字aが付された部分である。より具体的には、本実施の形態5における図12、図13では、力学量に応じた輸送係数Kの定数Cを扱っている点が異なっている。
定数Cは、平衡分子動力学シミュレータにおける温度や体積などの原子・分子データや、計算条件からの数値と自然定数で構成される。輸送係数の算出装置も同様に、求めたい輸送係数Kに対応する力学量を計算する力学量算出処理部が有ればよい。
以上のように、実施の形態7によれば、空間相関の射影演算子の計算を1回だけで処理し、さらに系全体の熱伝導率の計算結果を利用してカットオフ周波数相関ゼロの外挿値を求めている。この結果、定量的に、かつ、効率よく原子毎の熱伝導率を算出することが可能となる。
なお、本発明は、平衡分子動力学シミュレータの処理ステップS101の詳細に依存しない。すなわち、本発明は、入力する原子・分子データ(計算材料)に限定されるものではない。さらに、本発明は、平衡分子動力学法シミュレータに入力する計算条件にも限定されるものではない。
さらに、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更などがあっても本発明に含まれる。例えば、熱伝導率を計算する工程を、コンピュータにより実現するためのプログラム自体、および、このプログラムをコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータに読み込ませることにより、各機能を実現してもよい。
10 入力部、20 処理部、21 第1算出部、22 第2算出部、23 第3算出部、24 第4算出部、30 出力部、40 処理部、41 第1算出部、42 第2算出部、43 第3算出部、44 第4算出部、45 第5算出部、46 第6算出部、47 第7算出部、50 処理部。

Claims (10)

  1. 原子あるいは分子の構造データおよび温度計算条件を入力するステップと、
    所定の時間tに対して力学量J(t)を算出するステップと、
    前記力学量J(t)を用いて下式(1)
    Figure 2010139500
    に基づいて周波数スペクトルΠ(ω、ω)を算出するステップと、
    前記周波数スペクトルΠ(ω、ω)を用いて下式(2)
    Figure 2010139500
    に基づいて重み付き周波数成分S(ω)を算出するステップと、
    前記重み付き周波数成分S(ω)を用いて下式(3)
    Figure 2010139500
    に基づいて輸送係数Kを算出するステップと
    を備えたことを特徴とする輸送係数の算出方法。
  2. 請求項1に記載の輸送係数の算出方法において、
    前記力学量J(t)として、熱流束を示す下式(4)
    Figure 2010139500
    を用いることを特徴とする輸送係数の算出方法。
  3. 請求項1に記載の輸送係数の算出方法において、
    前記力学量J(t)として、電流密度を示す下式(5)
    Figure 2010139500
    を用いることを特徴とする輸送係数の算出方法。
  4. 原子あるいは分子の構造データおよび温度計算条件の入力部と、
    所定の時間tに対する力学量J(t)を算出する第1算出部と、
    前記力学量J(t)を用いて下式(1)
    Figure 2010139500
    に基づいて周波数スペクトルΠ(ω、ω)を算出する第2算出部と、
    前記周波数スペクトルΠ(ω、ω)を用いて下式(2)
    Figure 2010139500
    に基づいて重み付き周波数成分S(ω)を算出する第3算出部と、
    前記重み付き周波数成分S(ω)を用いて下式(3)
    Figure 2010139500
    に基づいて輸送係数Kを算出する第4算出部と
    を備えたことを特徴とする輸送係数の算出装置。
  5. 輸送係数の算出装置に用いられる輸送係数の算出プログラムであって、
    コンピュータに、
    原子あるいは分子の構造データおよび温度計算条件を入力する入力部と、
    所定の時間tに対する力学量J(t)を算出する第1算出部と、
    前記力学量J(t)を用いて下式(1)
    Figure 2010139500
    に基づいて周波数スペクトルΠ(ω、ω)を算出する第2算出部と、
    前記周波数スペクトルΠ(ω、ω)を用いて下式(2)
    Figure 2010139500
    に基づいて重み付き周波数成分S(ω)を算出する第3算出部と、
    前記重み付き周波数成分S(ω)を用いて下式(3)
    Figure 2010139500
    に基づいて輸送係数Kを算出する第4算出部と
    を機能させるための輸送係数の算出プログラム。
  6. 原子あるいは分子の構造データおよび温度計算条件を入力するステップと、
    所定の時間tに対して原子毎の力学量J(t)を算出するステップと、
    前記力学量J(t)を用いて下式(6)
    Figure 2010139500
    に基づいて原子間周波数スペクトルΠij(ω;ω )を算出するステップと、
    前記原子間周波数スペクトルΠij(ω;ω )を用いて下式(7)
    Figure 2010139500
    に基づいて原子間重み付き原子間周波数成分Sij(ω )を算出するステップと、
    前記原子間重み付き原子間周波数成分Sij(ω )を用いて下式(8)
    Figure 2010139500
    に基づいて重み付き原子間相関行列算出部Aij(ω )を算出するステップと、
    前記重み付き原子間相関算出部Aij (ω )を対角化することによって算出される下式(9)
    Figure 2010139500
    の射影演算子Uを算出する計算ステップと、
    前記射影演算子Uと前記原子間重み付き原子間周波数成分Sij(ω )を用いて下式(10)
    Figure 2010139500
    に基づいて周波数相関・原子間相関射影係数β(ω )を算出する計算ステップと、
    前記周波数相関・原子相関射影係数β(ω )、および複数のカットオフ周波数に対して計算された重み付き周波数成分S(ω )を用いて下式(11)
    Figure 2010139500
    に基づいて原子毎の輸送係数Kを算出する計算ステップと
    を備えたことを特徴とする原子毎の輸送係数の算出方法。
  7. 請求項6に記載の輸送係数の算出方法において、
    前記原子毎の力学量J(t)として、原子毎の熱流束を示す下式(12)
    Figure 2010139500
    を用いることを特徴とする原子毎の輸送係数の算出方法。
  8. 請求項6に記載の輸送係数の算出方法において、
    前記原子毎の力学量J(t)として、原子毎の電流密度を示す下式(13)
    Figure 2010139500
    を用いること特徴とする原子毎の輸送係数の算出方法。
  9. 原子あるいは分子の少なくとも座標データおよび所定の温度の入力部と、
    所定の時間tに対する原子毎の力学量J(t)の算出部と、
    前記力学量J(t)を用いて下式(6)
    Figure 2010139500
    に基づいて原子間周波数スペクトルルΠij(ω;ω )を算出する第2算出部と、
    前記原子間周波数スペクトルルΠij(ω;ω )を用いて下式(7)
    Figure 2010139500
    に基づいて原子間重み付き周波数成分Sij(ω )を算出する第3算出部と、
    前記原子間重み付き周波数成分Sij(ω )を用いて下式(8)
    Figure 2010139500
    に基づいて重み付き原子間相関行列Aij(ω )を算出する算4出部と、
    前記重み付き原子間相関行列Aij(ω )の行列対角化によって得られる固有ベクトルから構成される下式(9)
    Figure 2010139500
    の射影演算子Uを算出する第5算出部と
    前記射影演算子Uと前記重み付き周波数成分S(ω )を用いて下式(10)
    Figure 2010139500
    に基づいて周波数相関・原子間相関射影係数β(ω )を算出する第6算出部と、
    前記周波数相関・原子間相関射影係数β(ω )を用いて下式(11)
    Figure 2010139500
    に基づいて原子毎の輸送係数Kを算出する第7算出部と
    を備えた原子毎の輸送係数の算出装置。
  10. 原子毎の輸送係数の算出装置に用いられる原子毎の輸送係数の算出プログラムであって、
    コンピュータに、
    原子あるいは分子の少なくとも座標データおよび温度計算条件を入力する入力部と、
    所定の時間tに対する原子毎の力学量J(t)を算出する第1算出部と、
    前記原子毎の力学量J(t)を用いて下式(6)
    Figure 2010139500
    に基づいて原子間周波数スペクトルΠij(ω、ω )を算出する第2算出部と、
    前記原子間周波数スペクトルΠij(ω、ω)を用いて下式(7)
    Figure 2010139500
    に基づいて原子間重み付き周波数成分Sij(ω)を算出する第3算出部と、
    前記原子間重み付き周波数成分Sij(ω)を用いて下式(8)
    Figure 2010139500
    に基づいて重み付き原子間相関行列Aij(ω )を算出する第4算出部と、
    前記重み付き原子間相関行列Aij(ω )の行列対角化によって得られる固有ベクトルから構成される下式(9)
    Figure 2010139500
    の射影演算子Uを算出する第5算出部と、
    前記原子間重み付き周波数成分Sij(ω )と前記射影演算子Uを用いて下式(10)
    Figure 2010139500
    に基づいて周波数相関・原子相関射影係数β(ω )を算出する第6算出部と、
    複数のカットオフ周波数に対して計算された重み付き周波数成分S(ω )と前記周波数相関・原子間相関射影係数β(ω )を用いて下式(11)
    Figure 2010139500
    に基づいて原子毎の輸送係数Kを算出する第7算出部と
    を機能させるための原子毎の輸送係数の算出プログラム。
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