ところで、変速部が多段式の変速部である場合、コースト走行時において、例えば第3変速段から第1変速段へのダウン変速などの跳びコーストダウン変速が実行される場合がある。このような場合、変速部の入力軸回転速度が、飛び変速の間に設定されている中間変速段(例えば第3変速段から第1変速段への跳び変速にあっては第2変速段)の同期回転速度付近に達すると、変速部の係合装置を構成する摩擦材の引き摺りによって変速部の出力軸トルクが変動し、ドライバビリティーが悪化する可能性があった。なお、上記課題は未公知であったため、上記課題を解決する方法は何ら見出されていなかった。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、車両の走行状態に応じて変速される変速部を備えると共に、変速部が変速されるに際して、変速部の回転同期制御が実施される同期制御手段を有する車両用動力伝達装置の制御装置において、コースト走行時に跳びダウン変速が実行されるに際して、出力軸トルクのトルク変動を抑制することでドライバビリティーを向上することができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)車両の走行状態に応じて変速される変速部と、その変速部の入力軸に動力伝達可能に連結された電動機と、前記変速部の入力軸回転速度を変速後に設定される同期回転速度に同期させる同期制御手段とを、備える車両用動力伝達装置の制御装置において、(b)前記変速部のコースト走行中に跳び変速が実施されるに際して、前記変速部の入力軸回転速度が中間変速段の同期回転速度付近になると、その入力軸回転速度の変化速度を緩和させる緩変化制御手段を有することを特徴とする。
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記緩変化制御手段による前記入力軸回転速度の緩和量および緩和期間は、前記変速部の作動油温に応じて変更されることを特徴とする。
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記緩変化制御手段による前記入力軸回転速度の緩和量および緩和期間は、車両減速度に応じて変更されることを特徴とする。
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記緩変化制御手段による前記入力軸回転速度の緩和量および緩和期間は、前記変速部の油圧制御部品や作動油の経時変化に応じて変更されることを特徴とする。
また、上記目的を達成するための請求項5にかかる発明の要旨とするところは、(a)車両の走行状態に応じて変速される変速部と、その変速部の入力軸に動力伝達可能に連結された電動機と、その電動機によって前記変速部の入力軸回転速度を変速後に設定される同期回転速度に同期させる同期制御手段とを、備える車両用動力伝達装置の制御装置において、(b)前記変速部のコースト走行中の跳び変速が実施されるに際して、前記変速部の入力軸回転速度が中間変速段の同期回転速度付近になると、前記変速部の出力軸と駆動輪との間の動力伝達経路に負トルクを付与する負トルク付与手段を有することを特徴とする。
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項5の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記負トルクは、車輪に設けられたホイールブレーキの制動力であることを特徴とする。
また、請求項7にかかる発明の要旨とするところは、請求項6の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記ホイールブレーキの制動力は、電気的に制御可能に構成されていることを特徴とする。
また、請求項8にかかる発明の要旨とするところは、請求項6または7の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記ホイールブレーキの制動力は、前記変速部の出力軸から出力されるトルク変動を相殺するように出力されることを特徴とする。
また、請求項9にかかる発明の要旨とするところは、請求項7または8の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記ホイールブレーキの制動力は、前記変速部の作動油温に応じて変更されることを特徴とする。
また、請求項10にかかる発明の要旨とするところは、請求項7または8の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記ホイールブレーキの制動力は、車両減速度に応じて変更されることを特徴とする。
また、請求項11にかかる発明の要旨とするところは、請求項7または8の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記ホイールブレーキの制動力は、前記変速部の油圧制御部品や作動油の経時変化に応じて変更されることを特徴とする。
また、請求項12にかかる発明の要旨とするところは、請求項5の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記負トルクは、変速部の出力軸と駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された出力軸電動機の制動力であることを特徴とする。
また、請求項13にかかる発明の要旨とするところは、請求項12の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記出力軸電動機は、車両のプロペラシャフトまたはドライブシャフトに連結されていることを特徴とする。
また、請求項14にかかる発明の要旨とするところは、請求項12または13の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記出力軸電動機の制動力は、前記変速部の出力軸から出力されるトルク変動を相殺するように出力されることを特徴とする。
また、請求項15にかかる発明の要旨とするところは、請求項12乃至14のいずれか1つの車両用動力伝達装置の制御装置において、前記出力軸電動機の制動力は、前記変速部の作動油温に応じて変更されることを特徴とする。
また、請求項16にかかる発明の要旨とするところは、請求項12乃至14のいずれか1つの車両用動力伝達装置の制御装置において、前記出力軸電動機の制動力は、車両減速度に応じて変更されることを特徴とする。
また、請求項17にかかる発明の要旨とするところは、請求項12乃至14のいずれか1つの車両用動力伝達装置の制御装置において、前記出力軸電動機の制動力は、前記変速部の油圧制御部品や作動油の経時変化に応じて変更されることを特徴とする。
また、請求項18にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至17のいずれか1つの車両用動力伝達装置の制御装置において、前記変速部の入力軸の回転同期制御は、前記電動機またはエンジンによるトルク制御によって実施されることを特徴とする。
また、請求項19にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至18のいずれか1つの車両用動力伝達装置の制御装置において、前記変速部の入力軸の同期制御中は、前記変速部が動力伝達遮断状態とされることを特徴とする。
また、請求項20にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至19のいずれか1つ車両用動力伝達装置の制御装置において、エンジンと変速部との間には、動力伝達可能に連結された差動機構と第1電動機と第2電動機とを有しその第1電動機及び第2電動機の一方または両方の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部が配設されていることを特徴とする。
請求項1にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記変速部のコースト走行中に跳び変速が実施されるに際して、前記変速部の入力軸回転速度が中間変速段の同期回転速度付近になると、緩変化制御手段は、入力軸回転速度の変化速度を緩和させるため、入力軸回転速度が中間変速段の同期回転速度付近に達したときに、係合装置の摩擦材間の引き摺りによって生じる引き摺りトルクが低減される。したがって、変速部の出力軸のトルク変動を低減することができ、ドライバビリティーを向上させることができる。
また、請求項2にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記緩変化制御手段による前記入力軸回転速度の緩和量および緩和期間は、前記変速部の作動油温に応じて変更されるため、上記作動油温に応じて緩和量および緩和期間が好適に設定される。例えば、作動油温が高くなると粘度が高くなって引き摺りトルクが増加する。このような場合、緩和量を大きくし、緩和期間を長くすることで、引き摺りトルクが低減されて、トルク変動が効果的に低減される。
また、請求項3にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記緩変化制御手段による前記入力軸回転速度の緩和量および緩和期間は、車両減速度に応じて変更されるため、上記減速度に応じて緩和量および緩和期間が好適に設定される。例えば、車両減速度が大きくなるに従って、緩和量を大きくし、緩和期間を長くすることで、引き摺りトルクが低減されて、トルク変動が効果的に低減される。
また、請求項4にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記緩変化制御手段による前記入力軸回転速度の緩和量および緩和期間は、前記変速部の油圧制御部品や作動油の経時変化に応じて変更されるため、上記経時変化に応じて緩和量および緩和期間が好適に設定される。例えば、作動油は時間が経過すると粘度が低下するので、引き摺りトルクが低下する。このような場合、緩和量を小さくし、緩和期間を短くしても引き摺りトルクが小さくなるので、トルク変動が低減される。
また、請求項5にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記変速部のコースト走行中の跳び変速が実施されるに際して、前記変速部の入力軸回転速度が中間変速段の同期回転速度付近になると、負トルク付与手段は、前記変速部の出力軸と駆動輪との間の動力伝達経路に負トルクを付与するため、変速部の出力軸のトルク変動を低減することができる。したがって、変速ショックを抑制することができ、ドライバビリティーを向上させることができる。
また、請求項6にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記負トルクは、車輪に設けられたホイールブレーキの制動力であるため、ホイールブレーキの制動力によって負トルクを発生させることができ、変速部の出力軸のトルク変動を低減することができる。
また、請求項7にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記ホイールブレーキの制動力は、電気的に制御可能に構成されているため、負トルクを精度良く制御することができる。したがって、変速部の出力軸のトルク変動を効果的に低減することができる。
また、請求項8にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記ホイールブレーキの制動力は、前記変速部の出力軸のトルク変動を相殺するように出力されるため、トルク変動が効果的に低減される。
また、請求項9にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記ホイールブレーキの制動力は、前記変速部の作動油温に応じて変更されるため、作動油温に応じて制動力が好適に設定される。
また、請求項10にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記ホイールブレーキの制動力は、車両減速度に応じて変更されるため、車両減速度に応じて制動力が好適に設定される。
また、請求項11にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記ホイールブレーキの制動力は、前記変速部の油圧制御部品や作動油の経時変化に応じて変更されるため、経時変化に応じて制動力が好適に設定される。
また、請求項12にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記負トルクは、変速部の出力軸から駆動輪への動力伝達経路に動力伝達可能に連結された出力軸電動機の制動力であるため、出力軸電動機の制動力によって負トルクを発生させることができ、変速部の出力軸のトルク変動を低減することができる。
また、請求項13にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記出力軸電動機は、車両のプロペラシャフトまたはドライブシャフトに連結されているため、プロペラシャフトまたはドライブシャフトに伝達される出力軸のトルク変動を低減することができる。
また、請求項14にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記出力軸電動機の制動力は、前記変速部の出力軸のトルクを相殺するように出力されるため、トルク変動が効果的に低減される。
また、請求項15にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記出力軸電動機の制動力は、前記変速部の作動油温に応じて変更されるため、作動油温に応じて出力軸電動機による負トルクが好適に設定される。
また、請求項16にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記出力軸電動機の制動力は、車両減速度に応じて変更されるため、車両減速度に応じて出力軸電動機による負トルクが好適に設定される。
また、請求項17にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記出力軸電動機の制動力は、前記変速部の油圧制御部品や作動油の経時変化に応じて変更されるため、経時変化に応じて出力軸電動機による負トルクが好適に設定される。
また、請求項18にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記変速部の入力軸の同期制御は、前記電動機またはエンジンによるトルク制御によって実施されるため、電動機またはエンジンのトルクを好適に制御することで、変速部の入力軸の同期制御を実施することができる。
また、請求項19にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記変速部の入力軸の同期制御中は、前記変速部が動力伝達遮断状態とされるため、同期制御時の変速部の変速進行による影響を回避することができる。
また、請求項20にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、エンジンと変速部との間には、動力伝達可能に連結された差動機構と第1電動機と第2電動機とを有しその第1電動機及び第2電動機の一方または両方の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部が配設されているため、例えば第2電動機によって変速部の入力軸の同期制御を実施することができる。
図1は、本発明が適用されたハイブリッド車両の動力伝達装置の一部を構成する変速機構10(本発明の車両用動力伝達装置に対応)を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接的に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11から駆動輪34(図6参照)への動力伝達経路で伝達部材18を介して直列に連結されている動力伝達部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この変速機構10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34(図6参照)との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図6参照)および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。
このように、本実施例の変速機構10においては、エンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介すことなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。
本発明の電気式差動部に対応する差動部11は、エンジン8と駆動輪34との間の動力伝達経路に連結されており、動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、出力軸として機能する伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機M2と、を備えている。本実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、第1電動機M1および第2電動機M2は、変速機構10の筐体であるケース12内に備えられ、変速機構10の作動流体である自動変速部20の作動油により冷却される。
本発明の差動機構に対応する動力分配機構16は、所定のギヤ比ρ0(=0.416)を有するシングルピニオン型の差動遊星歯車装置24を主体として構成されている。この差動遊星歯車装置24は、差動サンギヤS0、差動遊星歯車P0、その差動遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する差動キャリヤCA0、差動遊星歯車P0を介して差動サンギヤS0と噛み合う差動リングギヤR0を回転要素として備えている。なお、差動サンギヤS0の歯数をZS0、差動リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
この動力分配機構16においては、差動キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結されて第1回転要素RE1を構成し、差動サンギヤS0は第1電動機M1に連結されて第2回転要素RE2を構成し、差動リングギヤR0は伝達部材18に連結されて第3回転要素RE3を構成している。このように構成された動力分配機構16は、差動遊星歯車装置24の3要素である差動サンギヤS0、差動キャリヤCA0、差動リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能すなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18に分配されると共に、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、入力軸14の回転速度NINと出力軸として機能する伝達部材の回転速度N18との差動状態が制御されることにより、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。
本発明の変速部に対応する自動変速部20(変速部)は、エンジン8と駆動輪34との間の動力伝達経路の一部を構成しており、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28を備え、有段式の自動変速部として機能する遊星歯車式の多段変速機である。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、所定のギヤ比ρ1(=0.488)を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、所定のギヤ比ρ2(=0.455)を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2である。
自動変速部20では、第1サンギヤS1は第3クラッチC3を介して伝達部材18に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2サンギヤS2が第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。さらに第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とは一方向クラッチF1を介して非回転部材であるケース12に連結されてエンジン8と同方向の回転が許容される一方、逆方向の回転が禁止されている。これにより、第1キャリヤCA1および第2リングギヤR2は、逆回転不能な回転部材として機能する。
また、この自動変速部20は、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とによりクラッチツウクラッチ変速が実行されて複数のギヤ段(変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γ(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。例えば、図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1の係合および一方向クラッチF1により変速比が「3.20」程度となる第1速ギヤ段が成立させられる。また、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により変速比が「1.72」程度となる第2速ギヤ速段が成立させられる。また、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により変速比が「1.00」程度となる第3速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第1ブレーキB1の係合により変速比が「0.67」程度となる第4速ギヤ段が成立させられる。また、第3クラッチC3および第2ブレーキB2の係合により変速比が「2.04」程度となる後進ギヤ段が成立させられる。また、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2の解放によりニュートラル「N」状態とされる。また、第1速ギヤ段のエンジンブレーキの際には、第2ブレーキB2が係合させられる。
このように、自動変速部20内の動力伝達経路は、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2の係合と解放との作動の組合せにより、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態との間で切り換えられる。つまり、第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段および後進ギヤ段の何れかが成立させられることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、何れのギヤ段も成立させられないことで例えばニュートラル「N」状態が成立させられることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
以上のように構成された変速機構10において、無段変速機として機能する差動部11と自動変速部20とで無段変速機が構成される。また、差動部11の変速比を一定となるように制御することにより、差動部11と自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
具体的には、差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度(以下、自動変速部20の入力回転速度)すなわち伝達部材18の回転速度(以下、伝達部材回転速度N18)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、変速機構10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、変速機構10において無段変速機が構成される。この変速機構10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される変速機構10全体としてのトータル変速比γTである。
例えば、図2の係合作動表に示される自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対し伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、変速機構10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
また、差動部11の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチCおよびブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速機構10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。したがって、変速機構10において有段変速機と同等の状態が構成される。
図3は、差動部11と自動変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、X3が差動部11から自動変速部20に入力される後述する第3回転要素RE3の回転速度を示している。
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応する第2サンギヤS2を、第5回転要素RE5に対応する相互に連結された第1リングギヤR1および第2キャリヤCA2を、第6回転要素RE6に対応する相互に連結された第1キャリヤCA1および第2リングギヤR2を、第7回転要素RE7に対応する第1サンギヤS1をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2遊星歯車装置26、28のギヤ比ρ1、ρ2に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2遊星歯車装置26、28毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結され、第3回転要素(差動リングギヤR0)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動サンギヤS0の回転速度と差動リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
例えば、差動部11においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動キャリヤCA0の回転速度すなわちエンジン回転速度NEが上昇或いは下降させられる。
また、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動サンギヤS0の回転がエンジン回転速度NEと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で差動リングギヤR0の回転速度すなわち伝達部材18が回転させられる。或いは、差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動サンギヤS0の回転が零とされると、直線L0は図3に示す状態とされ、エンジン回転速度NEよりも増速されて伝達部材18が回転させられる。
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は第3クラッチC3を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結される。
自動変速部20では、例えば差動部11において第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動サンギヤS0の回転速度を略零とすると、直線L0は図3に示す状態とされ、エンジン回転速度NEよりも増速されて第3回転要素RE3に出力される。そして図3に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第4回転要素RE4の回転速度を示す縦線Y4と横線X3との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第2クラッチC2と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L4と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。
図4は、本実施例の変速機構10を制御するための制御装置である電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1電動機M1、第2電動機M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温TEMPWを表す信号、シフトレバー52(図5参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、車速センサ46(図1参照)により検出される出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速V及び車両の進行方向を表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、レゾルバなどの回転速度センサ42により検出される第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」と表す)及びその回転方向を表す信号、レゾルバなどの回転速度センサ44(図1参照)により検出される第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」と表す)及びその回転方向を表す信号、各電動機M1,M2との間でインバータ54を介して充放電を行う蓄電装置56(図6参照)の充電残量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。なお、上記回転速度センサ42、44及び車速センサ46は回転速度だけでなく回転方向をも検出できるセンサであり、車両走行中に自動変速部20が中立ポジションである場合には車速センサ46によって車両の進行方向が検出される。
また、上記電子制御装置80からは、エンジン8の出力PE(単位は例えば「kW」。以下、「エンジン出力PE」と表す。)を制御するエンジン出力制御装置58(図6参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1、M2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図6参照)に含まれる電磁弁(リニアソレノイドバルブ)を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
図5は複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
そのシフトレバー52は、変速機構10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、変速機構10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、自動変速モードを成立させて差動部11の無段的な変速比幅と自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる変速機構10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または手動変速走行モード(手動モード)を成立させて自動変速部20における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
上記シフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1乃至第3クラッチC3のいずれもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1乃至第3クラッチC3による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1乃至第3クラッチC3の少なくとも1つが係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1乃至第3クラッチC3による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
図6は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御手段82は、図7に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数として予め記憶されたアップシフト線(実線)およびダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断しすなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。なお、アクセル開度Accと自動変速部20の要求出力トルクTOUT(図7の縦軸)とはアクセル開度Accが大きくなるほどそれに応じて上記要求出力トルクTOUTも大きくなる対応関係にあることから、図7の変速線図の縦軸はアクセル開度Accであっても差し支えない。
このとき、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力(要求エンジン出力)PERを算出し、その目標エンジン出力PERが得られるエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
例えば、ハイブリッド制御手段84は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められた図8の破線に示すようなエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力PEを発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、変速機構10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度NE及びエンジントルクTEなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。
このとき、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
また、ハイブリッド制御手段84は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。また、ハイブリッド制御手段84は、自動変速部20の変速方向に対して、その変速を打ち消すように差動部11を反対方向に変速させることで、自動変速部20の変速前後のトータル変速比γTを一定に維持することができる。
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段84は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段84は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度NEを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度NEを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
また、ハイブリッド制御手段84は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力PEを発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。
例えば、ハイブリッド制御手段84は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、このエンジン出力制御装置58は、ハイブリッド制御手段84による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、第2電動機M2を走行用の駆動力源とするモータ走行をさせることができる。例えば、ハイブリッド制御手段84は、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域において、モータ走行を実行する。また、ハイブリッド制御手段84は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御して例えば第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させて、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)により必要に応じてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行うエンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行にはエンジン8を走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8及び第2電動機M2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。そして、本実施例のモータ走行とはエンジン8を停止して第2電動機M2を走行用の駆動力源とする走行である。
また、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
また、ハイブリッド制御手段84は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上させるために車両の運動エネルギすなわち駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機M2を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する回生制御手段としての機能を有する。この回生制御は、蓄電装置56の充電残量SOCやブレーキペダル操作量に応じた制動力を得るための油圧ブレーキによる制動力の制動力配分等に基づいて決定された回生量となるように制御される。
また、アクセルペダルを踏み込まないコースト走行中において、車速Vの減速に伴ってダウン変速が実施される(所謂コーストダウン変速)とき、同期制御手段86は、自動変速部20のトルク容量を動力伝達遮断状態と略等しい所定値以下に維持させた状態で、第2電動機M2によって、自動変速部20の入力軸としても機能する伝達部材18の回転速度N18をダウン変速後に設定される同期回転速度に向かって制御(フィードバック制御)する。具体的には、現在の伝達部材回転速度N18(=第2電動機回転速度NM2)と目標回転速度(同期回転速度)との偏差から、比例項、微分項、または積分項からなる制御式によって得られる第2電動機M2の制御量(出力トルク)を算出し、その制御量が得られるように、第2電動機M2の出力トルクが制御される。そして、伝達部材18の回転速度N18が同期回転速度に到達すると、有段変速制御手段82は、自動変速部20の係合側摩擦係合装置の係合油圧を急激に上昇させて係合させることにより、変速を完了させる。上記より、係合側摩擦係合装置の係合に伴う回転速度変化が低減されるため、変速ショックが抑制される。
ところで、本実施例のような自動変速部20においては、車両の減速度が大きくなることにより、コースト走行中において例えば第3速ギヤ段から第1速ギヤ段への跳び変速(跳びコーストダウン変速)が実施されることがある。このとき、自動変速部20の入力軸回転速度が中間ギヤ段の同期回転速度付近になると、自動変速部20の係合装置において引き摺りトルクが発生するため、自動変速部20の出力軸トルクが変動し、ドライバビリティーが悪化する可能性があった。
上記第3速ギヤ段から第1速ギヤ段への跳びコーストダウン変速について、さらに具体的に説明する。図9は、第3速ギヤ段から第1速ギヤ段への跳びコーストダウン変速が実施された際の自動変速部20の回転状態を示す共線図である。なお、図9は前述した図3の共線図と同様の構成であるため、詳細な説明を省略する。図9に示す直線L3に示す第3速ギヤ段の回転状態において、第1速ギヤ段へのダウン変速が開始されると、直線L1に示す回転状態となる。すなわち、出力軸22に連結された第5回転要素RE5を中心として、第4回転要素RE4の回転速度が上昇させられると共に、第7回転要素RE7の回転速度が低下させられる。なお、第4回転要素RE4に対応するY4と直線L1との交点が、第1速ギヤ段への変速後の同期回転速度NS1に対応しており、同期制御手段86は、上記同期回転速度NS1を目標に自動変速部20の入力軸(本実施例において伝達部材18に相当)の回転速度制御を実施する。
ここで、第7回転要素RE7である第1サンギヤS1の回転速度が正の回転速度から負の回転速度まで引き下げる過渡期において、破線L2に示すように、第1サンギヤS1の回転速度が零になるときがある。上記破線L2は、第2速ギヤ段に変速された状態を示しており、第1サンギヤS1がこの回転速度(零回転)を通過するとき、自動変速部20の出力軸22のトルク変動が発生することがある。
上記トルク変動が発生する理由を図10を用いて説明する。図10は、自動変速部20の係合装置における図示しない互いの摩擦板の差回転に応じて発生する引き摺りトルクを示すものである。第3速ギヤ段から第1速ギヤ段へのコーストダウン変速が実施されるに際して、中間ギヤ段(中間変速段)である第2速ギヤ段が成立される場合に係合される第1ブレーキB1は係合されないものの、互いの摩擦板間には、作動油が充填された状態となっている。したがって、変速に伴って第1ブレーキB1の互いの摩擦板が相対回転させられると、図10に示すように互いの摩擦板間に充填されている作動油の粘度によって引き摺りトルクが発生することとなる。これに伴い、第1ブレーキB1は所定のトルク容量を有することと同様の状態となるため、第1サンギヤS1の回転速度が回転速度零付近になると、差動部11と自動変速部20の出力軸22とは、僅かながら動力伝達可能状態となる。これより、第2電動機M2によるの同期制御の影響が自動変速部20の出力軸22に伝達されてトルク変動が生じることとなる。
これに対して、緩変化制御手段88は、同期制御手段86による自動変速部20の入力軸回転速度(伝達部材回転速度N18、第2電動機回転速度NM2)が中間変速段の同期回転速度付近になると、入力軸回転速度の変化速度を同期制御手段86実施に比べて緩和させることで、出力軸22から出力されるトルク変動を低減する。以下、上記制御について説明する。なお、入力軸回転速度は、本実施例において実質的に伝達部材回転速度N18および第2電動機回転速度NM2に相当するため、必要に応じて、入力軸回転速度(N18、NM2)と記載する。
図6に戻り、緩変化制御手段88は、コースト走行中の跳び変速過渡期に実行される。そこで、跳び変速判定手段90は、コースト走行中の跳びダウン変速が実施されるか否かを判定する。跳び変速判定手段90は、アクセルペダルの踏み込み量であるアクセル開度Accが零であるか否かに基づいて、コースト走行を判定する。また、跳び変速判定手段90は、図7に示す変速線図や車両の減速度に基づいて、自動変速部20が例えば第3速ギヤ段から第1速ギヤ段など中間変速段(第2速ギヤ段)を跳ばした跳びダウン変速が実施されるか否かを判定する。
また、緩変化制御手段88および同期制御手段86は、第2電動機M2によって伝達部材18の回転速度N18を制御するものであるため、第2電動機M2の出力可能パワーが制限されると、本制御が実施不能となる。そこで、電動機出力制限判定手段92(以下、出力制限判定手段92と記載する)は、第2電動機M2の出力可能パワーが緩変化制御手段86および同期制御手段86が実施可能となる所定値PAを越えるか否かを判定する。出力制限判定手段92は、例えば第2電動機M2や蓄電装置56の温度、並びに、蓄電装置56の充電容量SOCから、予め定格的に設定されている出力マップ等に基づいて第2電動機M2の出力可能パワーを算出し、その出力可能パワーが所定値PAを越える否かを判定する。なお、上記所定値PAは、予め実験的に設定され、緩変化制御手段86および同期制御手段86が実施可能となる値に設定される。
なお、第2電動機M2による代替手段として、緩変化制御手段86および同期制御手段86をエンジン8および第1電動機M1によって実施することもできる。例えば、エンジン8の回転速度NEおよび第1電動機回転速度NM1の制御により、入力軸回転速度(N18、NM2)を同期回転速度NS1まで同期させることができる。この場合、第1電動機M1を逆転駆動(逆転力行)させることがあるため、出力制限判定手段92は、上記第1電動機M1の出力可能パワーが、上記制御を実施可能な所定値を越えるか否かを判定する。
ここで、第1電動機M1および第2電動機M2の出力可能パワーが所定値PA未満と判定されると、同期制御手段86および緩変化制御手段88による回転速度制御が不可能と判定され、自動変速部20の油圧制御によるクラッチツウクラッチ制御に切り換えられる。
そして、出力制限判定手段92によって、緩変化制御手段86および同期制御手段86が実施可能と判定されると、上記制御が実施される。同期制御手段86は、例えば第3速ギヤ段から第1速ギヤ段へのコーストダウン変速が実施される場合、車速V(出力軸回転速度NOUT)および第1速ギヤ段の変速比γ1に基づいて、変速後の自動変速部20の入力軸(伝達部材18)の同期回転速度NS1(=NOUT×γ1)を算出し、その同期回転速度NS1と現在の入力軸回転速度(N18、NM2)との偏差に基づくフィードバック制御を実施する。そして、入力軸回転速度が第2速ギヤ段の変速比γ2に基づいて算出される同期回転速度NS2(=NOUT×γ2)付近になると、緩変化制御手段88が実行される。
緩変化制御手段88は、例えば入力軸回転速度(N18、NM2)と同期回転速度NM2との回転速度差が所定の範囲内(例えば同期回転速度NS2の前後100rpm)となると、入力軸回転速度(N18、NM2)の変化速度(変化勾配、変化率)の上限値αを設定することで、上記変化速度を緩和させる。そして、同期回転速度NS2を通過する際の入力軸回転速度(N18、NM2)の変化速度が緩和されると、第7回転要素RE7である第1サンギヤS1の回転変化速度も同様に緩和される。上記のように変化速度が緩和されると、図10に示す引き摺りトルクの関係から、第1ブレーキB1で発生する引き摺りトルクが低減されて自動変速部20の出力軸22のトルク変動が低減される。なお、上記変化速度の上限値αは、例えば図10の引き摺りトルクが十分に小さくなる値(運転者に変速の際にトルク変動を感じさせない程度)に設定される。また、上記変化速度の上限値αを、例えば入力軸回転速度が同期回転速度NS2に近づくに従ってさらに小さく設定することで、同期回転速度NS2通過時の引き摺りトルクが効果的に低減され、自動変速部20の出力軸22のトルク変動が抑制される。
また、上記引き摺りトルクは、作動油の作動油温TOILに応じて変化するものである。図10の破線で示すように、作動油温TOILが高温になるに従って引き摺りトルクは低下する一方、一点鎖線で示すように低温になるに従って引き摺りトルクが増加する。そこで、緩変化制御手段88は、上記作動油温TOILに応じて入力軸回転速度の緩和量および緩和期間を適宜変更する。ここで、緩和量は入力軸回転速度(N18、NM2)の変化速度の大きさで定義され、緩和量が大きくなると、入力軸回転速度の変化速度が速くなり、緩和量が小さくなると、入力軸回転速度の変化速度が遅くなるものとする。また、緩和期間は、後述する図12において、t2時点〜t5時点の間の間隔に相当し、緩和期間が短くなると上記間隔が短くなり、緩和期間が長くなると上記間隔が長くなる。
例えば、作動油温TOILが高温となるに従って、図10に示すように引き摺りトルクが小さくなるため、緩和量を小さくし、緩和期間を短くする。具体的には、作動油温TOILが高温になるに従って前記上限値αを大きく設定することで、入力軸回転速度の変化速度が低温時に比べて速くなり、緩和量が低減される。また、作動油温TOILが高温になるに従って緩変化制御が実施される緩和期間を短くする。例えば、緩変化制御手段88が実施される入力軸回転速度(N18、NM2)と同期回転速度NS2との回転速度差範囲を小さくする(例えば100rpmを50rpmへ変更)ことで、緩和期間が短くされる。上記のように制御した場合であっても、引き摺りトルクが小さいので、トルク変動が抑制される。また、同期制御が速やかに実施されることとなる。
一方、作動油温TOILが低温となるに従って、図10に示すように引き摺りトルクが大きくなるため、緩和量を大きくし、緩和期間を長く設定する。具体的には、作動油温TOILが低温になるに従って、上記上限値αを小さくすることで、入力軸回転速度の変化速度が高温時に比べて緩やかとなり、緩和量が増加する。また、作動油温TOILが高温になるに従って、緩変化制御が実施される入力軸回転速度の回転速度領域を広く設定することで、幅広い回転速度領域において入力軸回転速度の変化速度が緩和され、緩和期間が長くなる。上記のように制御されると、入力軸回転速度の変化速度が小さくなるに従って、引き摺りトルクが低下するため、トルク変動が抑制される。なお、作動油温TOILに基づく入力軸回転速度の緩和量および緩和期間は、例えば予め実験的に求められて記憶されている緩和量および緩和期間のマップや関係式等に基づいて設定される。
また、作動油温TOILが所定値を越えると、引き摺りトルクが十分に小さくなるため、入力軸回転速度(N18、NM2)の緩変化制御を実施しなくともトルク変動が抑制される。したがって、作動油温TOILが所定値TAを越えるとき、緩変化制御手段88による制御を必要としない。そこで、作動油温判定手段94は、油圧制御回路70の設けられている油温センサ72によって作動油温TOILを検出し、検出された作動油温TOILが所定値TAを越えるか否かを判定する。そして、作動油温TOILが所定値TAを越えるとき、引き摺りトルクが十分に小さくなることから、緩変化制御手段88を実施しない。なお、上記所定値TAは、予め実験的または解析的に求められ、引き摺りトルクが十分に小さくなることで、自動変速部20の出力軸のトルク変動を運転者に感じさせないような値に設定される。
また、車両の減速度GRに応じて入力軸回転速度の緩和量および緩和期間を適宜変更することもできる。例えば車両減速度GRが大きくなるに従って、緩和量を大きくし、緩和期間を長く設定する。具体的には、車両減速度GRが大きくなるに従って、上限値αを小さくすることで、入力軸回転速度の変化速度がさらに緩やかとなり、緩和量が増大する。また、車両減速度GRが大きくなるに従って、緩変化制御が実施される入力軸回転速度の緩和期間を長くすることで、幅広い回転速度領域において入力軸回転速度の変化速度が緩和され、緩和期間が長くなる。上記より、引き摺りトルクが低減されるので、トルク変動が抑制される。なお、車両減速度GRに基づく入力軸回転速度の緩和量および緩和期間は、例えば予め実験や解析等により求められた車両減速度GRに対する緩和量および緩和期間のマップや関係式等に基づいて設定される。
また、自動変速部20の油圧制御回路70を構成する油圧制御部品や作動油の経時変化に応じて入力軸回転速度の緩和量および緩和期間を適宜変更することもできる。なお、油圧制御部品は、例えばクラッチやブレーキの摩擦板、クラッチプレート、ピストン、リターンスプリング等の引き摺りトルクに関係する部品が該当する。そして、上記の各部品や作動油毎に予め実験的に求めた引き摺りトルクと経時変化との関係から好適な緩和量および緩和期間が設定される。
例えば、摩擦板が長時間使用されると摩耗されるに伴い、摩擦板表面の摩擦係数が変化するため、引き摺りトルクが変化することとなる。上記のような変化に応じて入力軸回転速度の緩和量および緩和期間を適宜変更することで、緩変化制御が効果的に実施される。また、例えば作動油が長時間使用されると作動油の粘度が変化するに伴い、引き摺りトルクが変化する。上記のような変化に応じて入力軸回転速度の緩和量および緩和期間を適宜変更することで、緩変化制御が効果的に実施される。なお、作動油は長時間使用されると粘度が低下するため、引き摺りトルクが低下する。したがって、作動油が長時間使用されるに従って、入力軸回転速度の緩和量が小さくなるとと共に、緩和期間が短くなるように設定される。そして、上記各種条件を考慮して、好適な入力軸回転速度の緩和量および緩和期間が設定される。
図11は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちコースト走行中に跳びダウン変速が実施されるに際して、トルク変動を抑制してドライバビリティーを向上させるための制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実施されるものである。
先ず、跳び変速判定手段90に対応するステップSA1(以下、ステップを省略する)において、例えば第3速ギヤ段から第1速ギヤ段へのコースト走行中の跳びダウン変速(跳びコーストダウン変速)が実施されるが否かが判定される。SA1が否定されると本ルーチンは終了させられる。一方、SA1が肯定されると、出力制限判定手段92に対応するSA2において、第2電動機M2および第1電動機M1の出力可能パワーが所定値以上であるか否かが判定される。SA2が否定される場合、電動機による同期制御が実施不能と判定され、有段変速制御手段82に対応するSA6において、クラッチツウクラッチによる変速制御が実施される。一方、SA2が肯定されると、作動油温判定手段94に対応するSA3において、作動油温TOILが所定値TA以下か否かが判定される。SA3が否定されると、引き摺りトルクが十分に小さいと判断され、同期制御手段86に対応するSA5において、通常時の回転同期制御が実施される。一方、SA3が肯定されると、緩変化制御手段88に対応するSA4において、入力軸回転速度(N18、NM2)が中間変速段(第3速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウン変速にあっては第2速ギヤ段)の同期回転速度付近となると、入力軸回転速度の緩変化制御が実施される。
図12は、跳びコーストダウン変速中に緩変化制御が実施される際の制御作動を説明するタイムチャートであり、図11のフローチャートの制御作動に対応するものである。なお、図12においては、第3速ギヤ段から第1速ギヤ段への跳びコーストダウン変速が一例に示されている。t1時点において、第3速ギヤ段から第1速ギヤ段への跳びコーストダウン変速が開始されると、一点鎖線で示す自動変速部20の解放側摩擦係合装置の解放油圧(指令圧)が零にされることで、自動変速部20が動力伝達遮断状態にさせられる。なお、係合側摩擦係合要素については、トルク容量を有さない程度の油圧で定圧待機させられる。次いで、同期制御手段86による入力軸回転速度(N18、NM2)の同期制御が開始される。具体的には、入力軸回転速度と第1速ギヤ段への変速後に設定される同期回転速度NS1との偏差に基づいて、第2電動機M2の操作量(出力トルク)が制御されるフィードバック制御が実施される。これに伴い、入力軸回転速度(N18、NM2)が第2電動機M2によって引き上げられる。なお、エンジン8および第1電動機M1による同期制御でも構わない。
そして、t2時点において、緩変化制御手段88が開始される。なお、t2時点は、例えば中間変速段である第2速ギヤ段の同期回転速度NS2と現在の入力軸回転速度との回転速度差が所定範囲内に入ったとき、或いは変速開始時からのタイマ制御等によって設定される。t2時点〜t5時点においては、入力軸回転速度の変化速度(変化勾配、変化率)の上限値αが設定され、それを越えないように入力軸回転速度(N18、NM2)が制御されるため、入力軸回転速度の回転速度勾配が緩和される。なお、上記緩和制御は第2電動機M2によるトルク制御によって実施されるため、t2時点〜t5時点において、自動変速部20の入力軸トルク(AT入力軸トルク)が低下することとなる。上記のように入力軸回転速度の回転変化速度が緩和されることで、引き摺りトルクが低下するに伴い、自動変速部20の出力軸22のトルク変動が抑制される。そして、t5時点になると、緩変化制御が終了し、t7時点において、入力軸回転速度が同期回転速度NS1に到達すると、係合側摩擦係合装置の係合油圧が急激に増圧されて変速が完了する。なお、t5時点においてもt2時点と同様に、例えば中間変速段である第2速ギヤ段の同期回転速度NS2と現在の入力軸回転速度(N18、NM2)との回転速度差が予め設定された所定範囲を外れたとき、或いは、変速開始時点(t1時点)を基準とするタイマ制御等によって設定される。ここで、緩変化制御が実施されない場合を破線で示すが、破線で示すように、入力軸回転速度が同期回転速度NS2付近に到達する(t3時点)と、引き摺りトルクによって出力軸トルクの変動が大きくなる。なお、緩変化制御が実施されない場合、t6時点において係合側摩擦係合装置の係合油圧が急激に増圧されて変速が完了する。
上述のように、本実施例によれば、自動変速部20のコースト走行中に跳び変速が実施されるに際して、自動変速部20の入力軸回転速度が中間変速段の同期回転速度付近になると、緩変化制御手段88は、入力軸回転速度の変化速度を緩和させるため、入力軸回転速度が中間変速段の同期回転速度付近に達したときに、係合装置の摩擦材間の引き摺りによって生じる引き摺りトルクが低減される。したがって、自動変速部20の出力軸22のトルク変動を低減することができ、ドライバビリティーを向上させることができる。
また、本実施例によれば、緩変化制御手段88による入力軸回転速度の緩和量および緩和期間は、自動変速部20の作動油温TOILに応じて変更されるため、上記作動油温TOILに応じて緩和量および緩和期間が好適に設定される。例えば、作動油温TOILが高くなると粘度が高くなって引き摺りトルクが増加する。このような場合、緩和量を大きくし、緩和期間を長くすることで、引き摺りトルクが低減されて、トルク変動が効果的に低減される。
また、本実施例によれば、緩変化制御手段88による入力軸回転速度の緩和量および緩和期間は、車両減速度GRに応じて変更されるため、車両減速度GRに応じて緩和量および緩和期間が好適に設定される。例えば、車両減速度GRが大きくなるに従って、緩和量を大きくし、緩和期間を長くすることで、引き摺りトルクが低減されて、トルク変動が効果的に低減される。
また、本実施例によれば、緩変化制御手段88による入力軸回転速度の緩和量および緩和期間は、自動変速部20の油圧制御部品や作動油の経時変化に応じて変更されるため、経時変化に応じて緩和量および緩和期間が好適に設定される。例えば、作動油は時間が経過すると粘度が低下するので、引き摺りトルクが低下する。このような場合、緩和量を小さくし、緩和期間を短くしても引き摺りトルクが小さくなるので、トルク変動が低減される。
また、本実施例によれば、自動変速部20の入力軸(伝達部材18)の同期制御は、第2電動機M2、またはエンジン8および第1電動機M1によるトルク制御によって実施されるため、電動機M1、M2並びにエンジン8のトルクを好適に制御することで、自動変速部20の入力軸の同期制御を実施することができる。
また、本実施例によれば、自動変速部20の入力軸(伝達部材18)の同期制御中は、自動変速部20が動力伝達遮断状態とされるため、同期制御時の自動変速部20の変速進行による影響を回避することができる。
また、本実施例によれば、エンジン8と自動変速部20との間には、動力伝達可能に連結された動力分配機構16と第1電動機M1と第2電動機M2とを有しその第1電動機M1及び第2電動機M2の一方または両方の運転状態が制御されることによりその動力分配機構16の差動状態が制御される差動部11が配設されているため、例えば第2電動機M2によって自動変速部20の入力軸の同期制御を実施することができる。
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図16は、電子制御装置80による制御作動の要部を説明するさらに他の機能ブロック線図である。なお、図6および図13の機能ブロックと共通する手段(同期制御手段86など)は、前述した実施例と同様の作動を行うため、その説明を省略する。図16の機能ブロック線図においては、跳びコーストダウン変速が実施されたときに発生するトルク変動を負トルク付与手段152によって抑制するものであるため、以下、負トルク付与手段152を中心に説明する。
本実施例の変速機構150においては、自動変速部20の出力軸22として機能するプロペラシャフト22に出力軸電動機M3が動力伝達可能に連結されている。上記出力軸電動機M3は、駆動および回生可能なモータジェネレータであり、プロペラシャフト22に対して駆動トルクおよび制動トルク(負トルク)を出力することが可能となる。
そして、跳びコーストダウン変速に際して、同期制御手段86による入力軸回転速度の同期制御が実施され、入力軸回転速度(N18、NM2)が中間変速段の同期回転速度NS2付近となると、負トルク付与手段152が実行される。負トルク付与手段152は、出力軸電動機M3によって負トルクを付与することにより、自動変速部20の出力軸22から出力されるトルク変動を抑制する。ここで、負トルク付与手段152によって制御される出力軸電動機M3の負トルクは、跳びコーストダウン変速中に自動変速部20の出力軸22から出力されるトルク変動を相殺するように出力される。例えば、変速パターン等の各条件に応じて出力されるトルク変動を予め実験的や解析的に求め、そのトルク変動を相殺するように出力軸電動機M3による負トルクが出力される。上記負トルクの大きさおよびトルク付与期間は、前述した実施例と同様に、変速パターンの他、例えば、作動油の作動油温TOIL、車両減速度GR、油圧制御部品および作動油の経時変化等の各条件毎に、実験や解析によってトルク変動を相殺する最適な値が予め設定されて記憶されおり、上記各走行条件に応じて制動力が適宜変更される。なお、変速機構150において、出力軸電動機M3はプロペラシャフト22に接続されているが、プロペラシャフト22に限定されず、例えば差動歯車装置32と駆動輪34との間の動力を伝達するドライブシャフト36に動力伝達可能に連結されても構わない。すなわち、自動変速部20から出力されるトルク変動を相殺可能な構成、具体的には、出力軸22に対して動力伝達可能に連結された構成であれば、出力軸電動機M3の連結位置および電動機の個数は特に限定されない。
図17は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちコースト走行中に跳びダウン変速が実施されるに際して、トルク変動を抑制してドライバビリティーを向上させるための制御作動を説明するさらに他のフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。なお、ステップSA1〜SA3、SA5、SA6は、前述の実施例と同様であるため、その説明を説明する。
図17において、作動油温判定手段94に対応するSA3が肯定されると、負トルク付与手段152に対応するSC4において、出力軸電動機M3よる負トルクが好適に付与されることにより、トルク変動が抑制される。なお、上記負トルクは、例えば予め実験または解析的に求められた設定値に基づいて制御される。
図18は、跳びコーストダウン変速中に出力軸電動機M3による負トルク制御が実施される際の制御作動を説明するタイムチャートであり、図17のフローチャートの作動制御に対応するものである。t1時点において、第3速ギヤ段から第1速ギヤ段への跳びコーストダウン変速が開始されると、一点鎖線で示す自動変速部20の解放側摩擦係合装置の解放油圧(指令圧)が零にされることで、自動変速部20が動力伝達遮断状態にさせられる。なお、係合側摩擦係合要素については、トルク容量を有さない程度の油圧で定圧待機させられる。次いで、第2電動機M2による入力軸回転速度(N18、NM2)の同期制御が開始される。具体的には、入力軸回転速度と第1速ギヤ段への変速後に設定される同期回転速度NS1との偏差に基づいて、第2電動機M2の操作量(出力トルク)が制御されるフィードバック制御が実施される。これに伴い、入力軸回転速度(N18、NM2)が第2電動機M2によって引き上げられる。なお、エンジン8および第1電動機M1による同期制御でも構わない。
そして、t2時点において出力軸電動機M3によるトルク制御(負トルク付与)が開始される。なお、t2時点は、例えば中間変速段である第2速ギヤ段の同期回転速度NS2と現在の入力軸回転速度との回転速度差が所定範囲内に入ったとき、或いは、変速開始時点(t1時点)を基準とするタイム制御等によって設定される。t2時点〜t5時点においては、出力軸電動機M3の負トルクが自動変速部20の出力軸22から出力されるトルク変動を相殺するように出力される。したがって、破線で示す従来の出力軸トルクに対して、実線で示すように出力軸トルクが抑制される。そして、t5時点になると、出力軸電動機M3による負トルク付与制御が終了し、t6時点において、入力軸回転速度が同期回転速度NS1に到達すると、係合側摩擦係合装置の係合油圧が急激に増圧されて変速が完了する。なお、t5時点においてもt2時点と同様に、例えば中間変速段である第2速ギヤ段の同期回転速度NS2と現在の入力軸回転速度(N18、NM2)との回転速度差が予め設定された所定範囲を外れたとき、或いは、変速開始時点(t1時点)を基準とするタイマ制御等によって設定される。
上述のように、本実施例によれば、自動変速部20のコースト走行中の跳び変速が実施されるに際して、自動変速部20の入力軸回転速度が中間変速段の同期回転速度付近になると、負トルク付与手段152は、自動変速部20の出力軸22と車輪34(駆動輪34)との間の動力伝達経路に負トルクを付与するため、自動変速部20の出力軸22のトルク変動を低減することができる。したがって、変速ショックを抑制することができ、ドライバビリティーを向上させることができる。
また、本実施例によれば、前記負トルクは、自動変速部20の出力軸22から駆動輪34への動力伝達経路に動力伝達可能に連結された出力軸電動機M3の制動力であるため、出力軸電動機M3の制動力によって負トルクを発生させることができ、自動変速部20の出力軸22のトルク変動を低減することができる。
また、本実施例によれば、出力軸電動機M3は、車両のプロペラシャフト22またはドライブシャフト36に連結されているため、プロペラシャフト22またはドライブシャフト36に伝達される出力軸22のトルク変動を低減することができる。
また、本実施例によれば、出力軸電動機M3の制動力は、自動変速部20の出力軸22のトルクを相殺するように出力されるため、トルク変動が効果的に低減される。
また、本実施例によれば、出力軸電動機M3の制動力は、自動変速部20の作動油温TOILに応じて変更されるため、作動油温TOILに応じて出力軸電動機M3による負トルクが好適に設定される。
また、本実施例によれば、出力軸電動機M3の制動力は、車両減速度GRに応じて変更されるため、車両減速度GRに応じて出力軸電動機M3による負トルクが好適に設定される。
また、本実施例によれば、出力軸電動機M3の制動力は、自動変速部20の油圧制御部品や作動油の経時変化に応じて変更されるため、経時変化に応じて出力軸電動機M3による負トルクが好適に設定される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、各実施例が独立して実施されているが、上記は必ずしも独立して実施する必要はなく、適宜組み合わせて実施しても構わない。
また、前述の実施例において、緩変化制御手段88および負トルク付与手段102、152の開始時期および終了時期は、入力軸回転速度と中間変速段の同期回転速度との回転速度差が予め設定された所定範囲内になったとき、或いはタイマ制御で予め設定された時間内に設定されているが、例えば入力軸回転速度が同期回転速度に到達したときから緩変化制御を開始するなどしても構わない。
また、前述の実施例において、緩変化制御手段88による緩変化量、緩変化期間および負トルク付与手段102、152による負トルクの大きさ、付与期間を例えば学習制御等によって適宜変更するものであっても構わない。
また、前述の実施例において、第3速ギヤ段から第1速ギヤ段への跳びコーストダウン変速を一例に説明が為されているが、例えば第4速ギヤ段から第2速ギヤ段への跳びコーストダウン変速であっても構わない。すなわち、同期制御が実施される跳び変速であれば本発明を適宜適用することができる。
また、前述の実施例において、作動油TOILが所定値TAを越えると緩変化制御手段88および負トルク付与手段102、152を実施しないように設定されているが、作動油温TOILだけでなく、例えば車両減速度GRが所定値を下回るとき、或いは油圧制御部品、並びに作動油の経時変化が所定時間を超えるときに、緩変化制御手段88および負トルク付与手段102、152を実施させないものであっても構わない。
また、前述の実施例では、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11はその変速比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、たとえば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであっても本発明は適用することができる。
また、前述の実施例において、差動部11は、動力分配機構16に設けられて差動作用を制限することにより少なくとも前進2段の有段変速機としても作動させられる差動制限装置を備えたものであってもよい。
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
また、前述の実施例では、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、たとえばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
また、前述の実施例では、第1電動機M1および第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、たとえばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
また、前述の実施例では、第1クラッチC1や第2クラッチC2などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁紛)クラッチ、電磁クラッチ、噛合型のドグクラッチなどの磁紛式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。たとえば電磁クラッチであるような場合には、油圧制御回路70は油路を切り換える弁装置ではなく電磁クラッチへの電気的な指令信号回路を切り換えるスイッチング装置や電磁切換装置等により構成される。
また、前述の実施例では、自動変速部20は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20とは、たとえば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
また、前述の実施例の差動機構として動力分配機構16は、たとえばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1および伝達部材18(第2電動機M2)に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
また、前述の実施例ではエンジン8と差動部11とが直接連結されているが、必ずしも直接連結される必要はなく、エンジン8と差動部11との間にクラッチを介して連結されていてもよい。
また、前述の実施例では、差動部11と自動変速部20とが直列接続されたような構成となっているが、特にこのような構成に限定されず、変速機構10全体として電気式差動を行う機能と、変速機構10全体として電気式差動による変速とは異なる原理で変速を行う機能と、を備えた構成であれば本発明は適用可能であり、機械的に独立している必要はない。また、これらの配設位置や配設順序も特に限定されない。要するに、自動変速部20は、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成するように設けられておればよい。
また、前述の実施例の動力分配機構16は、1組の遊星歯車装置(差動部遊星歯車装置24)から構成されていたが2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。また、差動部遊星歯車装置24はシングルピニオン型に限られたものではなくダブルピニオン型の遊星歯車装置であってもよい。また、このような2以上の遊星歯車装置から構成された場合においても、これらの遊星歯車装置の各回転要素にエンジン8、第1および第2電動機M1、M2、伝達部材18、構成によっては出力軸22が動力伝達可能に連結され、さらに遊星歯車装置の各回転要素に接続されたクラッチCおよびブレーキBの制御により有段変速と無段変速とが切り換えられるような構成であっても構わない。
また、前述の実施例のシフト操作装置50は、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えていたが、そのシフトレバー52に替えて、たとえば押しボタン式のスイッチやスライド式スイッチ等の複数種類のシフトポジションPSHを選択可能なスイッチ、或いは手動操作に因らず運転者の音声に反応して複数種類のシフトポジションPSHを切り換えられる装置や足の操作により複数種類のシフトポジションPSHが切り換えられる装置等であってもよい。また、シフトレバー52が「M」ポジションに操作されることにより、変速レンジが設定されるものであったが、ギヤ段が設定されることすなわち各変速レンジの最高速ギヤ段がギヤ段として設定されてもよい。この場合、自動変速部20ではギヤ段が切り換えられて変速が実行される。たとえば、シフトレバー52が「M」ポジションにおけるアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ手動操作されると、自動変速部20では第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段のいずれかがシフトレバー52の操作に応じて設定される。
また、前述の実施例の変速機構10、100、150において第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
また、前述の実施例において、変速機構10、100、150は、差動部11を備えたハイブリッド型式の車両用動力伝達装置であったが、例えば電気トルコンや1モータ式のハイブリッド機構を備えた車両用動力伝達装置であっても本発明を適用することができる。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。