JP2010131700A - 微粒子構造体/基体複合部材及びその製造方法 - Google Patents

微粒子構造体/基体複合部材及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 ナノ粒子などの微粒子の集合体が基体上で三次元隆起構造などの微小構造を形成している微粒子構造体/基体複合部材、及び、高温に加熱する工程を必要としない、その製造方法を提供すること。
【解決手段】 滑らかな表面を有する基板1を用意する工程と、その表面に沿って微粒子2が密に並んでいる微粒子層4を形成する工程と、微粒子2に置換分子4を結合させることによって、微粒子層4を、置換分子4が結合した微粒子2からなる微粒子集合体層6に変化させ、隣り合う微粒子間の中心間距離を増加させることによって、一部の領域に微粒子集合体層6が表面から隆起してなる三次元微小構造7を生成させるか、または、隣り合う微粒子間の中心間距離を減少させることによって、表面の一部の領域において微粒子集合体層6が欠落し、この欠落部8において基板1が露出している微小構造を生成させる工程とを行い、微粒子構造体/基体複合部材を作製する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、ナノ粒子などの微粒子の集合体が基体上で三次元隆起構造などの微小構造を形成している微粒子構造体/基体複合部材及びその製造方法に関するものである。
近年、ナノサイエンスおよびナノテクノロジーに代表される、極めて微小な材料を対象とする科学技術の発展の中で、数nm程度の大きさで原子、分子、あるいはそれらの集合体の構造をデザインすることにより、種々の新しい機能や性質をもつ材料やデバイスを作製することが可能であることが実証されてきている。この場合、所望の機能や性質を引き出すためには、原子や分子の配列状態および集合状態を精密にコントロールすることが重要である。
この要求を満たす材料として、数nm程度の大きさをもつ微粒子、いわゆるナノ粒子が注目されている。ナノ粒子であることの特徴をより効果的に発現させるためには、ナノ粒子が互いに凝集せず、1個1個が単独で存在する、分散性のよいものであることが重要である。なお、本明細書では、1nm〜1μm未満、典型的には数nm〜数十nm程度の大きさをナノサイズと呼び、ナノサイズの大きさをもつ部材を、例えばナノ粒子というように、接頭辞「ナノ」を付して呼ぶことにする。
ナノ粒子の製造方法に関して、種々の検討がなされてきている。現在、種々の溶液法あるいは気相法による合成によって、粒子径が制御できるだけでなく、大きさのそろった単分散なものを得ることが可能である。特に、10nm以下の粒径を有する微粒子では、単位質量当たりの表面積が非常に大きくなるだけでなく、バルク材料とは異なり、量子サイズ効果と呼ばれる、大きさに起因する特異な性質が発現する。このため、色々な材料を用いて合成が試みられており、新しい現象の解明などの基礎研究とともに、センサ、光学材料、電子材料、電池材料、触媒などの応用に向けた取り組みもなされている。
ナノ粒子からなる材料やデバイスの特性は、個々の微粒子自体がもつ性質によって決まる場合もあるが、微粒子表面に結合した物質や微粒子の配置、さらには微粒子の集合体の構造や大きさが、特性に大きな影響を与えたり、効果的な性能向上に寄与したりする場合も多い。
例えば、ナノ粒子を用いた光学材料や導電材料では、微粒子間の距離が特性を左右する重要な因子となる。また、センサにおいては、液相中や気相中の被センシング物質とナノ粒子との衝突頻度が大きくなる構造が有利であり、また、触媒においては、反応物質とナノ粒子との衝突頻度が大きくなる構造が有利であると考えられている。また、ナノサイズの触媒金属微粒子を起点としたカーボンナノチューブの化学的気相成長においては、金属微粒子の配置によって直接的にナノチューブの配置が決定される(例えば、特開2003−183012号公報参照。)。
従って、ナノ粒子などの微粒子の応用を考えた場合、微粒子自体の合成に加え、それを基板上に配置する技術が重要となってくる。
微粒子に対してもリソグラフィ法やプローブ描画法に代表されるようなトップダウン的な微細加工技術は有効である。例えば、微粒子に対する相互作用の異なる表面を有するように基板自体に自己組織化膜などの微細パターンを形成し、続いて微粒子層を相互作用の強い表面にのみ固定させるという方法で、基板上の特定の領域に選択的に微粒子を配置することが可能である。
一方、ボトムアップ的なアプローチとしては、後述の非特許文献1に示されているインプリント法や、後述の非特許文献2に示されているマイクロコンタクト法に代表される、非常に小さな鋳型を利用する方法が用いられている。
S.Y.Chou,P.R.Krauss and P.J.Renstrom,Appl.Phys.Lett.,67,3114(1995) A. Kumar and G.M.Whitesides,Appl.Phys.Lett.,63,2002(1993)
リソグラフィ法やプローブ描画法に代表されるようなトップダウン的な微細加工技術は、微細パターンを確実に再現性よく作り得る点で優れているが、大掛かりな装置を必要とする問題点がある。一方、ボトムアップ的なアプローチは、ナノサイズの微細パターンを安価に作製することができる点で有利であるが、鋳型の耐久性などの信頼性が課題である。
従来の微細パターンの形成方法は、半導体の微細加工に用いられているものと同様の方法である。このため、基本的には、平滑な基板上に二次元的なナノ粒子集合体の微細パターンを形成するのに適した方法であって、中空構造などの三次元的な微小構造を作製するのには適していない。また、微粒子集合体の微細パターンの形成方法としてこれらの方法を応用する場合、微粒子は高温に加熱すると微粒子同士が熱で融着してしまうので、高温に加熱する工程を必要とする方法を用いることはできない。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、ナノ粒子などの微粒子の集合体が基体上で三次元隆起構造などの微小構造を形成している微粒子構造体/基体複合部材、及び、高温に加熱する工程を必要としない、その製造方法を提供することにある。
即ち、本発明は、
滑らかな表面を有する基体を用意する工程と、
微粒子が前記表面に沿って密に並んでいる微粒子層を形成する工程と、
前記微粒子に特定の分子を結合させることによって、前記特定の分子が結合した前記 微粒子からなる微粒子集合体層に前記微粒子層を変化させ、
隣り合う前記微粒子間の中心間距離を増加させることによって、一部の領域に前記 微粒子集合体層が前記表面から隆起してなる三次元微小構造を生成させるか、
又は、
隣り合う前記微粒子間の中心間距離を減少させることによって、前記表面の一部の 領域において前記微粒子集合体層が欠落し、この欠落部において前記基体が露出して いる微小構造を生成させる
工程と
を有する、微粒子構造体/基体複合部材の製造方法に係わるものである。
また、
滑らかな表面を有する基体と、
前記表面に沿って微粒子が密に並んでいる微粒子層において、前記微粒子に特定の分 子が結合することによって生じ、
隣り合う前記微粒子間の中心間距離が増加することによって、一部の領域に層が前 記表面から隆起してなる三次元微小構造が形成されているか、
又は、
隣り合う前記微粒子間の中心間距離が減少することによって、前記表面の一部の領 域において層が欠落し、この欠落部において前記基体が露出している微小構造が形成 されているか
のいずれか一方である、前記特定の分子が結合した前記微粒子からなる微粒子集合体層 と
を有する、微粒子構造体/基体複合部材に係わるものである。
本発明の微粒子構造体/基体複合部材の製造方法では、まず、
滑らかな表面を有する基体を用意する工程と、
微粒子が前記表面に沿って密に並んでいる微粒子層を形成する工程と
を行う。前記基体の前記表面は、隣り合う前記微粒子同士が互いに十分に接触できる程度に滑らかであることが必要である。次に、このように準備された前記微粒子層に特定の分子を作用させることによって、前記微粒子層を、表面に前記特定の分子が結合した前記微粒子からなる微粒子集合体層に変化させる。このとき、前記特定の分子の分子長に応じて、前記微粒子集合体層において隣り合う前記微粒子間の中心間距離が変化する。
この隣り合う前記微粒子間の中心間距離が、前記微粒子層における前記微粒子間の中心間距離に比べて増加する場合には、前記微粒子集合体層の表面積は前記微粒子層の表面積に比べて大きくなる。この前記微粒子集合体層が前記微粒子層と同じ面積の前記基体表面上に配置されるため、応力を生ずる。この結果、応力を解消するように一部の領域で前記微粒子集合体層が前記表面から隆起して、三次元微小構造が自発的に形成される。
又、隣り合う前記微粒子間の中心間距離が、前記微粒子層における前記微粒子間の中心間距離に比べて減少する場合には、前記微粒子集合体層の表面積は前記微粒子層の表面積に比べて小さくなる。この結果、前記微粒子集合体層は前記微粒子層と同じ面積の前記基体表面のすべてを被覆することができず、前記表面の一部の領域において前記微粒子集合体層が欠落し、この欠落部において前記基体が露出する微小構造が自発的に形成される。
以上のように、前記微粒子に適度な大きさの前記特別の分子を結合させることにより、高温に加熱する工程を必要とせず、非常に簡易なプロセスで、前記微粒子集合体層が前記基体表面から隆起した三次元微小構造や、前記微粒子集合体層の前記欠落部で前記基体が露出している微小構造を、前記微粒子集合体層に自発的に作らせることができる。前記三次元微小構造や前記欠落部の大きさや形状は、前記微粒子の大きさや粒径分布、前記微粒子層の厚さ、前記特別の分子の構造(長さやかさ高さなど)及び柔軟性、前記基体の前記表面を予め化学的に修飾しておく処理などの各種条件によって変化する。従って、これらの条件の組合せによって、種々の微小構造を前記基体表面に形成することが可能である。
本発明の微粒子構造体/基体複合部材は、本発明の微粒子構造体/基体複合部材の製造方法によって、簡易に作製可能な微粒子構造体/基体複合部材である。この部材は、前記微粒子集合体層が前記表面から隆起してなる前記三次元微小構造が形成されている場合には、前記微粒子集合体層が大きな表面積をもち、また、前記微粒子集合体層と前記基体との間に多数の微小な中空構造が存在するため、前記微粒子及び/又は前記特別の分子の材料を適宜選択することによって、導電性や表面濡れ性など、前記微粒子集合体層の表面物性を利用する部材や、センサや触媒装置など、前記微粒子集合体層表面や上記中空構造を反応場として利用する部材として用いることができる。また、前記表面の一部の領域において前記微粒子集合体層が欠落し、この欠落部において前記基体が露出している場合には、前記基体の機能が前記欠落部においてだけ発揮される部材として用いることができる。
本発明の微粒子構造体/基体複合部材及びその製造方法において、前記微粒子として、微粒子同士の凝集又は融着を防止する保護膜分子で被覆した微粒子を用い、この保護膜分子を前記特定の分子で置換するのがよい。微粒子同士の凝集や融着を防止するために、前記微粒子は、通常、保護膜分子で被覆された状態のもの、あるいは、微粒子の表面を改質するための表面修飾剤からなる膜が形成されたものなどが用いられる。本明細書では、表面修飾剤も広い意味での保護膜分子とみなし、前記保護膜分子に含めるものとする。なお、前記保護膜分子で被覆されていなくても微粒子同士の凝集や融着が起こらない場合には、前記保護膜分子は必ずしも必要ではない。
また、前記微粒子として、粒子径がナノサイズであるナノ粒子を用いるのがよい。ナノ粒子では、単位質量当たりの表面積が非常に大きくなるため、表面における反応などを効率よく行わせることができ、センサ、電極、及び触媒などの性能を向上させることができる。また、量子サイズ効果と呼ばれる、大きさに起因する特異な性質によって、新規なセンサ、光学材料、電子材料、電池材料、触媒などへの応用も期待される。なお、繰り返しになるが、本明細書では、1nm〜1μm未満、典型的には数nm〜数十nm程度の大きさをナノサイズと呼び、ナノサイズの大きさをもつ部材を、例えばナノ粒子というように、接頭辞「ナノ」を付して呼ぶことにする。
また、前記特定の分子として、前記微粒子に結合する結合部位としてスルファニル基−SH、ジスルファニル基−S−S−、イソシアノ基−NC、チオシアナト基−SCN、カルボキシル基−COOH、アミノ基−NH2 、シアノ基−CN、セラニル基−SeH、テラニル基−TeH、又はホスフィノ基−PR12(R1およびR2はHまたは有機基)を有する分子を用いるのがよい。後述するように、これらの官能基は種々の微粒子に対して強い結合力を示す。
また、前記特定の分子として機能性分子を用いるのがよい。
例えば、本発明の微粒子構造体/基体複合部材において、前記微粒子及び前記機能性分子が導電性を有するのがよい。この際、前記三次元微小構造が形成されている前記微粒子集合体層が電極として用いられるのがよい。
また、前記機能性分子がフッ素含有分子であって、前記微粒子集合体層が超撥水性表面を形成しているのがよい。
また、前記微粒子及び/又は前記機能性分子が触媒機能を有し、前記三次元微小構造が形成されている前記微粒子集合体層が触媒として機能するのがよい。
また、前記基体が電極であり、前記微粒子及び前記機能性分子に導電性がなく、前記欠落部において前記電極が露出しているのがよい。本発明によれば、リソグラフィなどの方法を用いなくても、前記欠落部において前記電極が露出している構造を簡易に作製することができる。このような、多数の微小電極が表面に配置されている構造は、微小電極アレイとして用いることができる。微小電極アレイでは、通常の、微小構造が形成されていない電極に比べ、溶液から電極への物質供給速度を速くすることができる。この結果、微小電極アレイを用いると、例えば、高感度な電気化学的測定が可能になるので、微小電極アレイを微量分析用電極として用いることができる。
本発明の微粒子構造体/基体複合部材の製造方法において、前記微粒子層を塗布法、印刷法、ラングミュア−ブロジェット法、スタンプ法、キャスティング法、リフトオフ法、又は浸漬法によって形成するのがよい。
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的かつ詳細に説明する。本実施の形態では、主として、請求項7、8に記載した微粒子構造体/基体複合部材、および請求項1、2に記載したその製造方法の例について説明する。
図1(a)および(b)は、本実施の形態に基づく微粒子構造体/基体複合部材の一例の断面を示す概念図であり、図1(x)はそのもとになる微粒子層4の断面を示す概念図である。図1は、微粒子層4が単層であり、微粒子層4から形成される微粒子集合体層6aまたは6bも単層である場合を示している。
図1(x)に示すように、初め、微粒子2は、保護膜分子3で表面を被覆された状態で基板1上に配置される。これは、ナノサイズの微粒子2は微粒子同士で互いに凝集して、凝集体を作る傾向が強いからである。このため、微粒子2同士の凝集や融着を防止するために、微粒子2は、通常、保護膜分子3で被覆された状態のもの、あるいは、微粒子2の表面を改質するための表面修飾剤からなる膜が形成されたものなどが用いられる。本実施の形態では、表面修飾剤も広い意味での保護膜分子3とみなし、微粒子2の表面に保護膜分子3からなる保護膜が形成されている場合について説明する。
基板1の表面は、微粒子層4において隣り合う微粒子2同士が互いに十分に接触できる程度に滑らかであることが必要である。保護膜分子3で被覆された微粒子2は、この基板1の表面に沿って密に、例えば、最密充填状態または最密充填に近い状態で配置される。従って、微粒子層4において隣り合う2個の微粒子2間の間隔(隣り合う2個の微粒子2の表面間の最短距離)は、保護膜分子3によって2個の微粒子2の表面に形成される保護膜の厚さの合計(各保護膜の厚さの2倍)にほぼ等しい。従って、保護膜分子3の分子長を適宜選択することによって、隣り合う微粒子2間の間隔を適切に制御することができる。
このように準備された微粒子層4に前記特定の分子として置換分子5を作用させ、保護膜分子3を置換分子5によって置換し、微粒子層4を、置換分子5が結合した微粒子2からなる微粒子集合体層6に変化させ、微粒子集合体層6に三次元隆起構造7または欠落部8を生成させる。
置換分子5は、微粒子2との結合部位を少なくとも1つもっている必要がある。図1(a)および(b)は、置換分子5aおよび5bが、微粒子2との結合部位を1つもつ場合を示している。この場合、置換分子5は、この結合部位で微粒子2に結合し、別の端部で、隣の微粒子2に結合している置換分子5の端部と分子間力などで結合する。
図1(a)は、概ね、置換分子5aの分子長が保護膜分子3の分子長に比べて長い場合である。この場合、隣り合う微粒子2の間に侵入してくる長い置換分子5aによって微粒子2間の間隔が押し広げられ、微粒子集合体層6aにおける微粒子2の中心間の距離は、微粒子層4における微粒子2の中心間の距離よりも大きくなる。従って、微粒子集合体層6aの表面積も、もとの微粒子層4の表面積よりも大きくなる。この微粒子集合体層6aを微粒子層4と同じ面積の基板1上に配置すると、平面上に納まりきらなくなった微粒子集合体層6aの一部が部分的に隆起する立体的形状をとらざるを得ない。この結果、ドーナツ状、円形状、ハニカム状などの立体的な三次元隆起構造7が自発的に形成される。
一方、図1(b)は、概ね、置換分子5bの分子長が保護膜分子3の分子長に比べて短い場合である。この場合、隣り合う微粒子2の間を短い置換分子5bが占めるため、微粒子間の間隔が縮小する。この結果、微粒子集合体層6bにおける微粒子の中心間の距離は、微粒子層4における微粒子の中心間の距離よりも小さくなり、微粒子集合体層6bの表面積も、もとの微粒子層4の表面積よりも小さくなる。このため、微粒子集合体層6bは微粒子層4と同じ面積の基板1の表面のすべてを被覆することができず、表面の一部の領域において微粒子集合体層6bが欠落する。この結果、微粒子集合体層6bの各所に部分的な亀裂や隙間などの欠落部8が生じ、この欠落部8において基板1が露出する微小構造が自発的に形成される。
図2(c)および(d)は、本実施の形態に基づく微粒子構造体/基体複合部材の別の例の断面を示す概念図である。図2(c)および(d)は、置換分子5cおよび5dが、微粒子2との結合部位を2つもつ場合を示している。この場合、一部の置換分子5は、結合部位の一つで微粒子2に結合し、もう一つの結合部位で隣の微粒子2に結合する。このように、置換分子5が、2個の微粒子間を橋架けするように微粒子2に結合する場合には、結合部位が1つの場合に比べ、機械的により強固で、安定な微粒子集合体層6が形成される。なお、図2は、図1と同様、微粒子層4が単層であり、これから形成される微粒子集合体層6cまたは6dも単層である場合を示している。
結合部位が2つの場合でも、結合部位が1つの場合と同様、置換分子5の分子長の長短によって、2つに大別される、異なる型の微小構造が形成される。
すなわち、図2(c)は、概ね、置換分子5cの分子長が、保護膜分子3の分子長の2倍の長さ(微粒子層4において隣り合う微粒子2間の間隔)に比べて長い場合である。この場合、隣り合う微粒子2の間に侵入してくる長い置換分子5cによって微粒子2間の間隔が押し広げられ、微粒子集合体層6cにおける微粒子2の中心間の距離は、微粒子層4における微粒子2の中心間の距離よりも大きくなる。この結果、微粒子集合体層6cの一部が部分的に隆起し、ドーナツ状、円形状、ハニカム状などの立体的な三次元隆起構造7が自発的に形成される。
一方、図2(d)は、概ね、置換分子5dの分子長が保護膜分子3の分子長の2倍の長さに比べて短い場合である。この場合、隣り合う微粒子2の間を短い置換分子5dが占めるため、微粒子間の間隔が縮小し、微粒子集合体層6dにおける微粒子2の中心間の距離は、微粒子層4における微粒子2の中心間の距離よりも小さくなる。この結果、微粒子集合体層6dは微粒子層4と同じ面積の基板1の表面のすべてを被覆することができず、表面の一部の領域において微粒子集合体層6dが欠落し、微粒子集合体層6dの各所に部分的な亀裂や隙間などの欠落部8が生じ、この欠落部8において基板1が露出する微小構造が自発的に形成される。
例えば、後述の実施例のように、保護膜分子3からなる保護膜の厚さが0.6nm程度の金微粒子を微粒子2として用いる場合、保護膜同士が密接すると、隣り合う微粒子間の間隔(表面間の最短距離)は0.6nm×2=1.2nm程度になる。一方、置換分子5として直鎖のアルカンジチオールHS(CH2)nSHを用いる場合、炭素数nが8のオクタンジチオールの分子長は約1.2nmであり、上記の間隔とほぼ一致する。従って、オクタンジチオールを用いて保護膜分子3を置換した場合、隣接微粒子間の間隔の変化が最も小さくなると考えられる。これに対し、1<n<8の場合には、図2(d)に示すように微粒子集合体層6dに欠落部8が形成され、8<n(<20)の場合には、図2(c)に示すように微粒子集合体層6cに三次元隆起構造7が形成される。
図3は、本実施の形態に基づく微粒子構造体/基体複合部材の更に別の例の断面を示す概念図である。図3(y)は微粒子層4eの断面を示し、図3(e)は微粒子集合体層6eの断面を示す。この例は、微粒子層4eが複数の微粒子2が積層された多層構造を有し、微粒子層4eから形成される微粒子集合体層6eも多層構造を有する場合である。なお、図3には、図1に示した例と同様、置換分子5eが微粒子2との結合部位を1つもつ例を示した。置換分子5が微粒子2との結合部位を2つ以上もつ場合は、単層の例を示した図2の場合と同様と考えればよい。
微粒子層4が多層構造を有する場合でも、単層の場合と同様、置換分子5の分子長と保護膜分子3の分子長との長短によって、形成される微小構造は2つに大別される。すなわち、置換分子5eの方が保護膜分子3に比べて分子長が長い場合には、概ね、図3に示すように、微粒子集合体層6eの一部が部分的に隆起し、ドーナツ状、円形状、ハニカム状などの立体的な三次元隆起構造7が形成される。但し、微粒子層4が多層膜である場合、必要量の置換分子5が微粒子層4の表面から(基板1と接触している)最下層にまで浸透できる程度に、多層膜が薄いことが必要である。
一方、図示は省略したが、置換分子5の方が保護膜分子3に比べて分子長が短い場合には、概ね、微粒子集合体層6の各所に部分的な亀裂や隙間などの欠落部8が形成され、この場所では基板1が露出する。
基板1の材料としては、金属、半導体、および絶縁体のいずれの材料でも適宜選択できる。ただし、基板1の表面は、微粒子層4において隣り合う微粒子2同士が互いに十分に接触できる程度に滑らかである必要がある。また、微粒子集合体層6の三次元隆起構造7および欠落部8は、微粒子2の保護膜分子3が置換分子5によって置換される際に、微粒子2が基板1の表面上で変位することによって形成される。従って、基板上で微粒子2が変位できなくなるほど強い相互作用が微粒子2との間に生じる基板は、基板1として用いることができない。
三次元隆起構造7および欠落部8は、基板1と、微粒子2、あるいは保護膜分子3や置換分子5との間の相互作用の強さによって変化する。このため、基板1の表面を性質の異なる2種類以上の領域にパターニングしておくことで、各領域に異なる三次元隆起構造7または欠落部8を有する微粒子集合体層6を形成することができる。
微粒子2は直径100nm程度以下のナノ粒子である。微粒子2の材料は、形成しようとする微粒子集合体層6の性質によって、金属、半導体、および絶縁体のいずれの材料でも適宜選択できる。ただし、微粒子集合体層6として導電性の高い微粒子層を形成しようとする場合には、金属からなる微粒子であっても直径が量子サイズ効果を示す程度まで小さくなると導電性が低下するので、粒子径が5nm程度以上の大きさの微粒子2を用いる必要がある。また、微粒子2の大きさのばらつきが小さいほど、規則的な構造を有する三次元隆起構造7および欠落部8が形成されやすい。
保護膜分子3や表面修飾剤は、置換分子5によって置き換えられるのに好適なように、微粒子2に結合する強さが、置換分子5が微粒子2に結合する強さよりも弱いことが必要である。このため、保護膜分子3として、例えば、脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸、脂肪族エステル、および脂肪族ホスフィンなどを用いることが好ましい。
置換分子5が、微粒子2との結合部位としてもつ官能基は、例えば、スルファニル基−SH、ジスルフィド基−S−S−、セレノール基−SeH、テルロール基−TeH、アミノ基−NH2、ホスフィノ基−PR12(但し、R1およびR2は水素原子または有機基)、シアノ基−CN、チオイソシアニド基−SCN、イソシアノ基−NC、カルボキシル基−COOHなどである。これらの官能基と、官能基が結合できる微粒子2の構成材料との組合せの例を挙げると、下記の通りである。
−SH …Au、Ag、Pt、Pd、Cu、Fe、SnS、SnSe、SnTe、PbS、
PbSe、PbTe、InP、InAs、InSb、GaP、GaAs、GaSb、
ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe
−S−S−…Au、Ag、Pt、Pd、Cu、Fe、SnS、SnSe、SnTe、PbS、
PbSe、PbTe、InP、InAs、InSb、GaP、GaAs、GaSb、
ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe
−SeH …Au、Ag、Pt、Pd、Cu、Fe、SnS、SnSe、SnTe、PbS、
PbSe、PbTe、InP、InAs、InSb、GaP、GaAs、GaSb、
ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe
−TeH …Au、Ag、Pt、Pd、Cu、Fe、SnS、SnSe、SnTe、PbS、
PbSe、PbTe、InP、InAs、InSb、GaP、GaAs、GaSb、
ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe
−NH2 …Au、Ag、Pt、Pd、Cu、Fe、SnS、SnSe、SnTe、PbS、
PbSe、PbTe、InP、InAs、InSb、GaP、GaAs、GaSb、
ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、TiO2、ZnO、
In23、NiO、VO2、SnO2
−PR12 …Au、Pd、Pt、Rh、Ni、TiO2、ZnO、In23、NiO、VO2
SnO2
−CN …Au
−SCN …Au、Ag、Pt、Pd、Cu、Fe
−NC …Au、Ag、Pt、Pd
−COOH…Au、Ag、TiO2、ZnO、In23、NiO、VO2、SnO2
これらの官能基を有し、微粒子2に化学吸着される分子を、保護膜分子3あるいは表面修飾剤として用いることも可能である。但しこの場合、置換分子5による置換反応を阻害しないように、保護膜分子3あるいは表面修飾剤の微粒子2への結合力は、後から結合させる置換分子5が微粒子2に結合する強さよりも弱いことが必要である。
例えば、微粒子2が金の微粒子である場合、金とスルファニル基−SHとの結合は強いので、アミノ基−NH2やホスフィノ基−PR12をもつ分子をスルファニル基をもつ分子で置換することができる。従って、アミノ基やホスフィノ基をもつ分子を保護膜分子3として用い、スルファニル基をもつ分子を置換分子5として用いることが可能である。このような置換反応についてはすでに詳細な報告がある(Marvin G. Warner,James E.Hutchison(2003)In:Marie-Isabelle Baratoned (ed.),Synthesis and assembly of functionalized Gold Nanoparticles,“Synthesis Functionalization and Surface Treatment of Nanoparticles”,American Scientific Publishers,USA,p.67-89 参照。)。
本実施の形態に基づく微粒子構造体/基体複合部材は、微粒子集合体層6が基板1の表面から隆起した三次元隆起構造7が形成されている場合には、微粒子集合体層6が大きな表面積をもち、また、微粒子集合体層6と基板1との間に多数の微小な中空構造が存在する。
微粒子2及び/又は置換分子5の材料を適宜選択することによって、導電性や表面濡れ性など、微粒子集合体層6の表面物性を利用する部材として用いることができる。例えば、微粒子集合体層6の電気伝導性は、微粒子2の材料や大きさ、結合させる置換分子5の種類や長さなどによって制御できる。従って、微粒子集合体層6を利用することで、所望の静電気防止効果を有する表面を得ることができる。特に、微粒子2が金属からなり、微粒子2と結合する置換分子5が共役系分子のように電気伝導性が高い分子である場合、微粒子集合体層6の電気伝導性も高くなるので、三次元隆起構造7が形成された微粒子集合体層6を表面積の大きい電極として応用することができる。
また、微粒子集合体層6の表面の濡れ性は、置換分子5の性質によって制御することができる。従って、微粒子集合体層6を利用することで、所望の濡れ性を有する表面を得ることができる。また、固体表面の撥水性は、表面自由エネルギーと表面の微小構造とによって決まるが、置換分子5として、例えば表面エネルギーの大きいフッ素含有分子を用い、かつ、三次元隆起構造7を形成させることで超撥水性表面を得ることができる。
また、微粒子2及び/又は置換分子5の材料を適宜選択することによって、センサや触媒装置など、大きな表面積を有する微粒子集合体層6の表面、あるいは微粒子集合体層6と基板1との間に形成された中空構造を、反応効率の高い化学反応場として機能させることによって、利用する部材として用いることができる。反応効率の高い化学反応場として機能させることによって、微粒子構造体/基体複合部材を高性能の化学反応リアクタとして利用することができる。
特に、微粒子2や置換分子5に触媒作用を有する材料を用いた場合、上記の反応場において触媒化学反応を進行させることができ、微粒子構造体/基体複合部材を触媒反応装置として機能させることができる。また、置換分子5が触媒作用を有しない場合でも、触媒として働く分子を追加して微粒子2などに結合させて用いることもできる。この際、触媒活性を有する置換分子5または追加して加える分子として、酵素を用いることもできる。
また、本実施の形態に基づく微粒子構造体/基体複合部材は、基板1の表面の一部の領域において微粒子集合体層6が欠落し、この欠落部8において基板1が露出している場合には、基板1の機能が欠落部8においてだけ発揮される部材として用いることができる。例えば、基板1として電気伝導性の高い材料からなる基板を用い、これを電極とし、微粒子2および微粒子2に結合する置換分子5に電気伝導性の低い材料を用いることによって、電極がナノサイズの幅で部分的に露出した構造を形成することができる。
図4は、本実施の形態に基づく、三次元隆起構造を有する微粒子構造体/基体複合部材の作製工程のフローを示す概略断面図である。
まず、図4(a)に示すように、例えば、表面が鏡面仕上げされ、表面に熱酸化膜が形成されたシリコン基板などの清浄な基板1を用意する。他方、微粒子2を、表面が保護膜分子3で被覆された状態で、適当な溶媒に分散させた分散液11を調製する。溶媒は特に限定されるものではないが、例えば、トルエンやシクロヘキサンやクロロフォルムなどを用いる。
次に、図4(b)に示すように、分散液11を用いて、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子層4を基板1上に形成する。微粒子層4を形成する方法は特に限定されないが、塗布法、印刷法、ラングミュア−ブロジェット法(LB法)、スタンプ法、キャスティング法、リフトオフ法、又は浸漬法などを適宜用いる。
LB法では、静置した水面上に、保護膜分子3で被覆された金属微粒子2をトルエンやクロロフォルムなどの溶媒に分散させた分散液11を展開した後、溶媒を蒸発させ、保護膜分子3で被覆された金属微粒子2からなる微粒子層を水面上に形成する。次に、水面下降法などによって、水面下に配置した基板1上にこの微粒子層を転写する。LB法では、水面上に展開させる分散液11の濃度や量、表面圧などで膜厚を容易に制御できる利点があり、保護膜分子3で被覆された微粒子2の単層膜を形成することも可能である。
スタンプ法では、まず、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子膜を、固体表面や水面にキャスティング法やLB法によって形成する。この微粒子膜をいったんポリジメチルシロキサンなどからなる転写媒体の表面に転写し、その転写媒体をスタンプのように基板1の上に押しつけて、基板1の表面に微粒子層4を配置する。
上記以外の方法では、分散液11を基板1の上に配置した後、溶媒を蒸発させて、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子層4を基板1上に直接形成する。分散液11を基板1上に配置する方法は特に限定されないが、塗布法では、キャストコーター法、スプレーコーター法、スピンコート法などを用いることができ、印刷法では、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法などを用いることができる。キャスティング法では、分散液11を基板1上に滴下し、徐々に溶媒を蒸発させる。浸漬法では、基板1を分散液11に数分間〜数時間浸漬した後、溶媒を蒸発させる。リフトオフ法では、予め基板1上にフォトレジスト層をリソグラフィなどによりパターニングして形成しておき、フォトレジスト層を含む基板1の全面に微粒子層を形成した後、上記フォトレジスト層をその上に堆積した微粒子層とともに除去して、基板1上に直接堆積した微粒子層を選択的に残すことで、パターニングされた微粒子層を得る。
次に、図4(c)に示すように、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子層4が形成された基板1を、置換分子5を含む溶液またはガスに接触させる。この処理によって保護膜分子3が置換分子5aによって置換される。この結果、微粒子2間の距離が変化し、三次元隆起構造7を有する微粒子集合体層6aが形成される。
保護膜分子3は、微粒子2同士の融合や凝集を防止する目的で用いられる。従って、微粒子2が、微粒子同士で互いに集合して、融合や凝集を起こす性質のない微粒子である場合には、保護膜分子3を用いる必要はない。この場合、前記特別の分子は、微粒子2に先に結合している保護膜分子3を置換して追い出す必要がないので、前記特別の分子の選択はより容易になる(微粒子2に結合する結合力は、後で微粒子2に結合する置換分子5の方が、先に微粒子2に結合する保護膜分子3よりも強いことが必要であるという制約がなくなる。)。
図5は、本実施の形態の微粒子構造体/基体複合部材の作製に用いる置換分子5の例を示す構造式である。図5(a)および(b)にそれぞれ示す置換分子AおよびBは、微粒子2と結合する結合部位としてスルファニル基−SHを1つもつ置換分子の例である。図5(c)に示す置換分子Cは、微粒子2と結合する結合部位としてスルファニル基を2つもつ置換分子の例である。
置換分子AおよびBは、微粒子2と結合する結合部位を1つしかもたないため、微粒子集合体層6において、分子の一端(結合部位)で微粒子2に結合し、もう一方の端部で、隣の微粒子2に結合している置換分子の端部と分子間力などで結合する。この場合、三次元隆起構造7の機械的な強度が、置換分子Cのように分子の両端で2個の微粒子間を橋架けするように微粒子2に結合する場合に比べて弱くなる弱点がある。
このような置換分子であっても、もう一方の端部が置換分子同士を化学結合で連結する連結基として機能する場合には、結合部位を2つもつ置換分子と同様の機械的強度を有する三次元隆起構造を形成することができる。例えば、置換分子AおよびBのもう一方の端部は、有機金属錯体の配位子となり得るテルピリジル基である。この場合、錯体構造を形成するために必要な中心金属イオンを補い、隣り合う置換分子5間で錯体構造を形成させ、化学結合で置換分子5間を連結することができる(例えば、特開2008−153257号公報参照)。
図6は、上記錯体構造を形成させるために、図4に示した微粒子構造体/基体複合部材の作製工程に追加する、置換分子5の後処理工程を示す構造式である。この工程では、置換分子AおよびBなどの置換分子5を微粒子2に結合させた後に、中心金属イオンを含むエタノール溶液などに基板1を浸漬する。配位子がテルピリジル基である置換分子AまたはBでは、中心金属イオンとしてMn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Ru2+などを補い、ビステルピリジル錯体を形成させ、微粒子2間を架橋する。
本実施の形態の製造方法によって、基板1上に形成された微粒子層4に置換分子5を作用させるという、非常に簡易なプロセスにより、微粒子集合体層6がドーナツ状、円形状、またはハニカム状などに隆起した三次元微小構造、あるいはナノサイズの亀裂や隙間などの欠徐部を有する微小構造を基板1上に形成させることが可能になる。
実施例では、種々の基板の表面上に、実施の形態で説明した微粒子集合体層を作製し、走査電子顕微鏡(SEM)および原子間力顕微鏡(AFM)を用いて微粒子集合体層および三次元隆起構造を観察した結果について説明する。この際、走査電子顕微鏡観察像から見積もられた直径が4.7±1.1nmである金微粒子を、微粒子2として用いた。また、分子長が約0.6nmのアルキルアミンを保護膜分子3として用い、厚さが0.6nm程度の保護膜3によって被覆された金微粒子2を用いた。
実施例1
実施例1では、熱酸化膜が形成されたシリコン基板の表面に微粒子集合体層6を形成した。
初めに、基板1として、表面が鏡面仕上げされ、表面に熱酸化膜が形成されたシリコン基板を用意した。
次に、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子膜をラングミュアーブロジェット(LB)法によって作製した。まず、保護膜分子3で被覆された金微粒子2を30質量%の濃度でトルエンに分散させた。この分散液20μLをピペットにて水面にキャストした後、トルエンを蒸発させ、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子膜を水面に生成させた。なお、上記30質量%は保護膜分子を含んだ質量百分率であるが、その主たる分は金微粒子の質量によるものである。
続いて、この微粒子膜をシリコン基板1上に転写し、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子層4eを得た。
次に、置換分子5として置換分子A(図5(a)参照;n=7)を1mMの濃度でメタノールに溶解させた。微粒子層4が形成された基板1をこの溶液に所定の時間浸漬した。その後、取り出し、メタノールで洗浄した。この処理によって保護膜分子3が置換分子Aによって置換され、三次元隆起構造7を有する微粒子集合体層6eが生成する。
図7(a)および(b)は、上記のようにして得られた微粒子集合体層6eのSEM観察像である。図7(a)は浸漬時間が2時間の場合で、図7(b)は浸漬時間が18時間の場合である。
置換分子Aの分子長は約1.8nmであり、保護膜の厚さ(保護膜分子の分子長)約0.6nmに比べて大きい。実施例1は、図3に示した、置換分子5eの分子長が、保護膜分子3の分子長に比べて長い場合の例である。この場合、隣り合う微粒子2の間に侵入してくる長い置換分子5eによって微粒子2間の間隔が押し広げられる。この結果、微粒子集合体層6eにおける微粒子2の中心間の距離は、微粒子層4における微粒子2の中心間の距離よりも大きくなる。従って、微粒子集合体層6eの表面積も、もとの微粒子層4の表面積よりも大きくなる。これを微粒子層4と同じ面積の基板1上に配置すると、平面上に納まりきらない微粒子集合体層6eの一部が部分的に隆起する立体的形状をとらざるを得ない。この結果、ドーナツ状、円形状、ハニカム状などの三次元隆起構造7が形成される。
実際、図7(a)および(b)のいずれでも、微粒子集合体層6eにドーナツ状に隆起した三次元隆起構造7が観察されており、その密度は浸漬時間の増加によって増加することが分かった。図7(c)は、ドーナツ状に隆起した三次元隆起構造7のAFM観察像である。三次元隆起構造7の高さは5μm程度である。
図8は、同様な条件で得られた、ハニカム状に隆起した三次元隆起構造7を有する微粒子集合体層6eのSEM観察像(a)、およびAFM観察像(b)である。AFM観察像から、ハニカム状に隆起した三次元隆起構造7の高さは5〜10μm程度であることがわかった。
現在のところ、図7に示したドーナツ状構造と、図8に示したハニカム状構造とを作りわける条件は、完全には分かっていない。ドーナツ状構造は比較的基板のどこにでも形成されるのに対し、ハニカム状構造は基板の中心部分に多く形成される傾向がある。また、それぞれの構造ができやすい浸漬時間に多少の違いがあるが、浸漬時間の調節のみによって一方の構造が必ず生じるように制御することはできない。
実施例2
実施例2では、金層が形成されている領域と熱酸化膜が露出している領域とにパターニングされたシリコン基板の表面に微粒子集合体層6eを形成した。
初めに、表面が鏡面仕上げされ、表面に熱酸化膜が形成されたシリコン基板を用意した。真空蒸着法によってシリコン基板の表面の一部に金を蒸着し、シリコン基板の表面を、金層が配置されている領域と熱酸化膜が露出している領域とにパターニングした。このシリコン基板を基板1とした。
次に、実施例1とほぼ同様にして、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子膜をLB法によって作製した。すなわち、前述の分散液15μLをピペットにて水面にキャストした後、溶媒を蒸発させ、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子膜を水面に生成させた。
続いて、この微粒子膜をシリコン基板1上に転写し、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子層4を得た。この際、金層が形成されている領域と、熱酸化膜が露出している領域との両方にまたがるように微粒子膜を配置した。
次に、実施例1と同様に、微粒子層4が形成された基板1を、置換分子Aのメタノール溶液に22時間浸漬した。その後、取り出し、メタノールで洗浄した。この工程によって保護膜分子3が置換分子Aによって置換され、三次元隆起構造7を有する微粒子集合体層6eが生成する。
図9(a)は、上記のようにして得られた微粒子集合体層6eのSEM観察像である。金層が形成された領域では、ほぼ円形状に隆起した三次元隆起構造7を有する微粒子集合体層6eが形成されていた。一方、熱酸化膜が露出している領域では、より複雑な形に隆起した三次元隆起構造7を有する微粒子集合体層6eが形成されていた。このように、基板1の表面を構成している材料や性質が異なると、異なる三次元隆起構造7が形成されることが示された。
図9(b)は、微粒子集合体層6eが形成された基板1を熱酸化膜が露出している領域で割り、その断面をSEMで観察した観察像である。微粒子集合体層6eが隆起し、中空構造を有する三次元隆起構造7が形成されている様子がわかる。
実施例3
実施例3では、全面に金層が形成されているマイカ基板の表面に種々の自己組織化単分子膜を形成し、この単分子膜の上に微粒子集合体層6eを形成した。
初めに、真空蒸着法によってマイカ基板の全面に金を蒸着し、さらにその上に種々の自己組織化単分子膜を形成した。形成した自己組織化単分子膜は、
(a)1,10-デカンジチオール、
(b)4-スルファニルピリジン、
(c)2-ニトロ-4-トリフルオロメチルベンゼン-1-チオール
の3種類の分子の単分子膜である。この3つの基板をそれぞれ基板1とした。
次に、実施例2と同様にして、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子膜をLB法によって作製した。すなわち、前述の分散液15μLをピペットにて水面にキャストした後、溶媒を蒸発させ、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子膜を水面に生成させた。
続いて、この微粒子膜をシリコン基板1上に転写し、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子層4eを得た。
次に、実施例2と同様に、微粒子層4eが形成された基板1を、置換分子Aのメタノール溶液に22時間浸漬した。その後、取り出し、メタノールで洗浄した。この工程によって保護膜分子3が置換分子Aによって置換され、三次元隆起構造7を有する微粒子集合体層6eが生成する。
図10(x)は、置換分子Aで置換する前の、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子層4eのSEM観察像である。また、図10(a)〜(c)は、上記(a)〜(c)の自己組織化単分子膜の上に形成された微粒子層4の保護膜分子3を置換分子Aで置換した後の、微粒子集合体層6eをSEMで観察した観察像である。
図10(a)および図10(c)において、明るく(白っぽく)観察されている部分が隆起した部分である。図10(a)では網目状の隆起構造が生成しているのに対し、図10(c)ではわずかに湾曲しながら長く伸びる線状の隆起構造が生成している。図10(b)では隆起した部分の幅が大きく、上部が開裂した隆起構造が生成している。図10(x)と比べると、置換分子Aによる置換によって、微粒子集合体層6eに隆起構造の凹凸が形成されていることが明らかである。これらの三次元隆起構造7は、下地の自己組織化単分子膜の種類によって異なっている。このことは、単分子膜を構成する分子の種類(末端官能基の種類)などによって、三次元隆起構造7の形状を制御できることを示している。
実施例4
実施例4では、厚さ0.1mm程度のへき開したマイカ(雲母)基板上に微粒子集合体層を形成した。
初めに、基板1として、上記マイカ(雲母)基板を用意した。
次に、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子膜をLB法によって作製した。まず、保護膜分子3で被覆された金微粒子2を2質量%の濃度でシクロヘキサンに分散させた。この分散液60μLをピペットにて水面にキャストした後、溶媒を蒸発させ、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子膜を水面に生成させた。
続いて、この微粒子膜をマイカ(雲母)基板1上に転写し、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子層4eを得た。
次に、置換分子5として、置換分子C(図4(c)参照;ブタンジチオール)を1mMの濃度でメタノールに溶解させた。微粒子層4eが形成された基板1をこの溶液に84時間浸漬した。その後、取り出し、メタノールで洗浄した。この処理によって保護膜分子3が置換分子Cによって置換され、欠落部8を有する微粒子集合体層が形成される。
図11(x)は、置換分子Cで置換する前の、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子層4eのSEM観察像である。また、図11(a)は、微粒子層4eの保護膜分子3を置換分子Cで置換した後の、微粒子集合体層をSEMで観察した観察像である。
置換分子Cの分子長は約0.6nmであり、微粒子層4eにおいて隣り合う微粒子2間の間隔約1.2nmに比べて小さい。実施例4は、両端に結合部位をもつ置換分子5の分子長が、保護膜分子3の分子長の2倍の長さに比べて短い場合の例である。この場合、隣り合う微粒子2の間に侵入してくる短い置換分子Cによって微粒子2間の間隔が縮小される。この結果、微粒子集合体層における微粒子2の中心間の距離は、微粒子層4eにおける微粒子2の中心間の距離よりも小さくなる。従って、微粒子集合体層の表面積も、もとの微粒子層4eの表面積よりも小さくなる。このため微粒子集合体層は微粒子層4eと同じ基板面積を被覆することができず、微粒子集合体層の各所に部分的な亀裂や隙間などの欠落部が形成され、この場所では基板1が露出する。
実際、置換分子Cで置換した後の微粒子集合体層の観察像(図11(a))では、置換分子Cで置換する前の微粒子層4eの観察像(図11(x))に比べると、微粒子集合体層6の各所に生じた部分的な亀裂や隙間などの欠落部が暗い領域として観察されている。
以上、本発明を実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
本発明の微粒子構造体/基体複合部材の製造方法では、リソグラフィなどを用いず、簡易に、特徴的な三次元微小構造を有する微粒子集合体層を作製できる。この三次元微小構造を有する微粒子構造体/基体複合部材は、微粒子の材質とサイズ、および基体の材質に応じて、新規なセンサなどの電子材料、電極などの電気化学材料、および触媒などとして利用可能である。
本発明の実施の形態に基づく微粒子構造体/基体複合部材の一例の断面を示す概念図である。 同、微粒子構造体/基体複合部材の別の例の断面を示す概念図である。 同、微粒子構造体/基体複合部材の更に別の例の断面を示す概念図である。 同、微粒子構造体/基体複合部材の作製工程のフローを示す概略断面図である。 同、微粒子構造体/基体複合部材の作製に用いる置換分子の例を示す構造式である。 同、微粒子構造体/基体複合部材の作製工程に追加する、置換分子の後処理工程の一例を示す構造式である。 本発明の実施例1で得られた微粒子集合体層の走査電子顕微鏡(SEM)による観察像(a、b)、および三次元隆起構造の原子間力顕微鏡(AFM)による観察像(c)である。 同、別の微粒子集合体層のSEM観察像(a)、および三次元隆起構造のAFM観察像(b)である。 本発明の実施例2で得られた微粒子集合体層のSEM観察像(a)、および三次元隆起構造の断面のSEM観察像(b)である。 本発明の実施例3で得られた、微粒子層および種々の微粒子集合体層のSEM観察像である。 本発明の実施例4で得られた、微粒子層および微粒子集合体層のSEM観察像である。
符号の説明
1…基板、2…微粒子(金のナノ粒子など)、3…保護膜分子、
4、4e…保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子層、
5a〜5e…置換分子、6a〜6e…微粒子集合体層、7…三次元隆起構造、
8…欠落部、11…保護膜分子3で被覆された微粒子2の分散液

Claims (16)

  1. 滑らかな表面を有する基体を用意する工程と、
    微粒子が前記表面に沿って密に並んでいる微粒子層を形成する工程と、
    前記微粒子に特定の分子を結合させることによって、前記特定の分子が結合した前記 微粒子からなる微粒子集合体層に前記微粒子層を変化させ、
    隣り合う前記微粒子間の中心間距離を増加させることによって、一部の領域に前記 微粒子集合体層が前記表面から隆起してなる三次元微小構造を生成させるか、
    又は、
    隣り合う前記微粒子間の中心間距離を減少させることによって、前記表面の一部の 領域において前記微粒子集合体層が欠落し、この欠落部において前記基体が露出して いる微小構造を生成させる
    工程と
    を有する、微粒子構造体/基体複合部材の製造方法。
  2. 前記微粒子として、微粒子同士の凝集又は融着を防止する保護膜分子で被覆した微粒子を用い、この保護膜分子を前記特定の分子で置換する、請求項1に記載した微粒子構造体/基体複合部材の製造方法。
  3. 前記微粒子として、粒子径がナノサイズであるナノ粒子を用いる、請求項1に記載した微粒子構造体/基体複合部材の製造方法。
  4. 前記特定の分子として、前記微粒子に結合する結合部位としてスルファニル基−SH、ジスルファニル基−S−S−、イソシアノ基−NC、チオシアナト基−SCN、カルボキシル基−COOH、アミノ基−NH2 、シアノ基−CN、セラニル基−SeH、テラニル基−TeH、又はホスフィノ基−PR12(R1およびR2はHまたは有機基)を有する分子を用いる、請求項1に記載した微粒子構造体/基体複合部材の製造方法。
  5. 前記特定の分子として機能性分子を用いる、請求項1に記載した微粒子構造体/基体複合部材の製造方法。
  6. 前記微粒子層を塗布法、印刷法、ラングミュア−ブロジェット法、スタンプ法、キャスティング法、リフトオフ法、又は浸漬法によって形成する、請求項1に記載した微粒子構造体/基体複合部材の製造方法。
  7. 滑らかな表面を有する基体と、
    前記表面に沿って微粒子が密に並んでいる微粒子層において、前記微粒子に特定の分 子が結合することによって生じ、
    隣り合う前記微粒子間の中心間距離が増加することによって、一部の領域に層が前 記表面から隆起してなる三次元微小構造が形成されているか、
    又は、
    隣り合う前記微粒子間の中心間距離が減少することによって、前記表面の一部の領 域において層が欠落し、この欠落部において前記基体が露出している微小構造が形成 されているか
    のいずれか一方である、前記特定の分子が結合した前記微粒子からなる微粒子集合体層 と
    を有する、微粒子構造体/基体複合部材。
  8. 前記微粒子層において前記微粒子は微粒子同士の凝集又は融着を防止する保護膜分子で被覆されており、この保護膜分子が前記特定の分子で置換されている、請求項7に記載した微粒子構造体/基体複合部材。
  9. 前記微粒子が、粒子径がナノサイズのナノ粒子である、請求項7に記載した微粒子構造体/基体複合部材。
  10. 前記特定の分子が、前記微粒子に結合する結合部位としてスルファニル基−SH、ジスルファニル基−S−S−、イソシアノ基−NC、チオシアナト基−SCN、カルボキシル基−COOH、アミノ基−NH2 、シアノ基−CN、セラニル基−SeH、テラニル基−TeH、又はホスフィノ基−PR12(R1およびR2はHまたは有機基)を有する分子である、請求項7に記載した微粒子構造体/基体複合部材。
  11. 前記特定の分子が機能性分子である、請求項7に記載した微粒子構造体/基体複合部材。
  12. 前記微粒子及び前記機能性分子が導電性を有する、請求項11に記載した微粒子構造体/基体複合部材。
  13. 前記三次元微小構造が形成されている前記微粒子集合体層が電極として用いられる、請求項12に記載した微粒子構造体/基体複合部材。
  14. 前記機能性分子がフッ素含有分子であって、前記微粒子集合体層が超撥水性表面を形成している、請求項11に記載した微粒子構造体/基体複合部材。
  15. 前記微粒子及び/又は前記機能性分子が触媒機能を有し、前記三次元微小構造が形成されている前記微粒子集合体層が触媒として機能する、請求項11に記載した微粒子構造体/基体複合部材。
  16. 前記基体が電極であり、前記微粒子及び前記機能性分子に導電性がなく、前記欠落部において前記電極が露出している、請求項7に記載した微粒子構造体/基体複合部材。
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