[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る燃料電池用ガス拡散層(燃料電池用GDL)は、多孔質材料層と、前記多孔質材料層の表面上または中に存在する導電性炭素層または導電性炭素粒子を含む、燃料電池用ガス拡散層である。そして、前記導電性炭素層または導電性炭素粒子において、ラマン散乱分光分析より測定されたD−バンドピーク強度IDとG−バンドピーク強度IGの強度比R(ID/IG)が1.3以上である。加えて、前記導電性炭素層のラマン散乱分光分析による回転異方性測定により測定された平均ピークが、2回対称パターンを示す。
後述するように、前記多孔質材料層は、炭素繊維、金属繊維及び有機繊維よりなる群から選択される1種以上を含みうる。導電性が十分でないものとして、炭素繊維では黒鉛化されていないが、炭素化まで行われている炭素繊維が該当する。かような炭素繊維は主に、建物の強度補強部材などに使用されており、黒鉛化された炭素繊維と比較して有意に安価であるが、導電性に劣るという技術的課題がある。一方、金属繊維では、例えば貴金属で構成される繊維ならば導電性は十分に高いが、非常に高価であり実用に沿わない。これに対し、安価な金属で構成される金属繊維自体では、表面の酸化皮膜形成による導電性の不足が生じうる。換言すれば、酸化皮膜による導電性の不足が金属繊維を使用する際の技術的課題である。
このような技術的課題に鑑みて、本発明の技術的原理は以下の通りである。即ち、前記多孔質材料層を、導電性の十分でない安価な繊維で形成したとしても、導電性炭素層または導電性炭素粒子を前記繊維に被覆(表面処理)することによって、燃料電池に適用可能なGDLを得ることである。すなわち、本発明に係る燃料電池用GDLは、高導電性と低コストとを共に実現するGDLである。
なお、本明細書では、多孔質材料層が炭素繊維を含む場合の当該繊維を構成する導電性の炭素を、「多孔質材料層を構成する導電性の炭素」と称する。一方、多孔質材料層に被覆する導電性の炭素(導電性炭素層または導電性炭素粒子)を、単に「導電性の炭素」とも称し、双方の導電性の炭素を区別する。
本実施形態によれば、多孔質材料層上に導電性炭素層または導電性炭素粒子を配置してなる燃料電池用GDLと、隣接する部材との接触抵抗が有意に低減する。また、導電性炭素層または導電性炭素粒子の配置によって、多孔質材料層を構成する多孔質材料の細孔径コントロールが可能となり、燃料電池内の気液排出向上に効果的である。なお、前記導電性炭素層は多孔質材料層の表面上に存在するか、多孔質材料層(繊維質)の中(内部)に存在する。一方、導電性炭素粒子は多孔質材料層(繊維質)の中(内部)に存在する場合がほとんどである。
以下、添付した図面を参照して本発明を適用した最良の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
図1は、本発明の一の実施形態に係る固体高分子型燃料電池(PEFC)1の基本構成を示す概略図である。
水素イオンを選択的に輸送する固体高分子電解質膜2の両面には、アノード触媒層3a及びカソード触媒層3cがそれぞれ密着して配置されている。なお、触媒層(3a、3c)は、一般に、白金系の金属触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする。さらに、触媒層(3a、3c)の外面にはそれぞれ、ガス透過性と導電性とを兼ね備えた、アノードガス拡散層4a及びカソードガス拡散層4cが密着して配置されている。上記ガス拡散層はガス拡散電極を構成する。また、前記ガス拡散層(4a、4c)及び固体高分子電解質膜2から膜電極接合体(MEA)10が構成される。
ガス拡散層(4a、4c)は、セパレータのガス流路(6a、6c)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層(3a、3c)への拡散を促進する機能、及び電子伝導パスとしての機能を有する。
前記ガス拡散電極の外側には、膜電極接合体(MEA)10を機械的に接合するとともに、隣接するMEA同士を、互いに電気的に直列となるよう接続する導電性アノードセパレータ5a及びカソードセパレータ5cが配置されている。かかるアノードセパレータ5a及びカソードセパレータ5cの一方の面にはそれぞれ、前記ガス拡散電極に反応ガスを供給し、反応により発生した水及び過剰なガスを運び去るためのアノードガス流路6a及びカソードガス流路6cが形成されている。このようにして作製される単電池を一方向に積み重ねて積層体を構成している。
ここで、ガス拡散層(4a、4c)として、本実施形態に係る燃料電池用GDLを用いることにより、高導電性と低コストとを共に実現することができる。ひいては、高性能かつ安価な固体高分子型燃料電池(PEFC)1を得ることができる。
図2は、図1のうち、ガス拡散層(4a、4c)の部分の概略構成を示す断面図である。本実施形態において、ガス拡散層51は、導電部材として多孔質材料層52及び導電性炭素層54を必須に有する。そして、これらの層間には、必須ではないが、中間層56が介在している。ここで、図2におけるガス拡散層の断面図は、多孔質材料層の上に中間層及び導電性炭素層が積層された構造を示している。しかし、本実施形態の断面図はこれに限られず、その他として、繊維で構成される多孔質材料層の中(内部)に中間層及び導電性炭素層が「積層」されたような構造などもありうる。ここで、本明細書における「積層」とは、ある層の上(または下)に積まれた層を意味する場合に限らず、ある層の中(内部)に構成される層を意味する場合もある。そして、本実施形態ではいずれか一方の「積層」形態のみならず、両方の「積層」形態を共に有する1つのガス拡散層であってもよい。
また、図2には親水化層58も示されているが、これについては後述する。なお、PEFC1において、セパレータ(5a、5c)は、導電性炭素層54がMEA10側に位置するように、配置される。以下、燃料電池用GDLの各構成要素について詳説する。
<多孔質材料層>
多孔質材料層52は、シート状の多孔質材料を基本的な構成とする。そして、場合によって、多孔質材料層は、後述するような導電性炭素層及び/または導電性炭素粒子、並びに/あるいは金属で構成される中間層及び/または前記金属を含む。
多孔質材料層52は、炭素繊維、金属繊維及び有機繊維よりなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。かような場合、多孔質材料層の製造の際の焼成工程において、繊維同士が融着する際に、それらの界面における電気抵抗を低減することができる。換言すれば、かような場合、繊維同士の融着によって導電性が有意に高くなるという利点がある。
図3は、多孔質材料層の表面を微視的に表した概略図である。スパッタによる導電性炭素層の成膜(積層)は、ターゲット(導電性の炭素)がスパッタリングによって多孔質材料層に対し直線状に向かってくる。そのため、導電性炭素層または導電性炭素粒子は、スパッタ方向に対して露出した繊維表面にのみ積層(堆積)されうる。したがって、繊維基材自体の角度を変えること、言い換えれば細孔径を適宜調節することにより、当該表面のうち、より広い面上に導電性炭素層または導電性炭素粒子を配置することができる。
また、図3に示されるように、炭素繊維などで構成される多孔質材料層52は、多数の繊維(カーボンファイバー(CF)53)が重なったような状態にある。多孔質材料層52に対して導電性炭素層54をスパッタにより成膜(積層)すると、図3(矢印)に示すように、多孔質材料層52の主表面へターゲット(導電性の炭素)がスパッタされることとなる。すなわち、導電性炭素層は、多孔質材料層の最表面のみならず、その近傍(多孔質材料層の表面に露出している部分)にも形成されうる。換言すれば、導電性炭素層は、図2に示すような多孔質材料層の表面上に積層される形態のみならず、多孔質材料層の中のみに存在する形態、並びに多孔質材料層の表面上及び多孔質材料層の中の双方に存在する形態も採り得る。
また、多孔質材料層を構成する繊維同士の配置関係として、繊維径(太さ)を適当に調節することにより、導電性の向上と圧損の防止とを共に実現できうる。具体的には、繊維径が大きいほど(繊維の1本が太いほど)、繊維中の空隙が大きくなる反面、繊維1本1本の接点の数が減少する。そのため、導電性はより低下するが圧損はより防止しうる。反対に、繊維径が小さいほど(繊維の1本が細いほど)、繊維中の空隙が小さくなる反面、繊維1本1本の接点の数が増大する。そのため、導電性はより上昇するが圧損の影響がより大きくなりうる。したがって、繊維径を適度な範囲に調節することが好ましい。
本明細書における「炭素繊維」とは、原料である繊維を不活性雰囲気中1000℃以上の温度にて焼成して得られる繊維を意味する。かかる炭素繊維としては、以下に限定されることはないが、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、及び気相成長による炭素繊維などが挙げられる。PAN系炭素繊維とは、PANが主成分の合成繊維を原料とする繊維である。一方、ピッチ系炭素繊維とは、石油・石炭・合成ピッチ等を原料とする繊維である。
炭素繊維の平均繊維径は、原料となるPANやピッチの仕様や製造方法によって好ましい範囲が異なる。なお、従来より市販されているもののうち、平均繊維径の範囲として、PAN系では5〜10μm、ピッチ系では5〜20μm、気相成長では数μmである各炭素繊維を用いることができる。一方、本発明に係る燃料電池用GDLに使用可能な炭素繊維の平均繊維長は、特に制限されないが、一般に使用される10mm以下(より好ましくは3〜6mm)のチョップドファイバーを抄紙して用いることができる。
炭素繊維は、電気抵抗率が低いため、多孔質材料層に含まれると、触媒層で発生する電荷をより効率的に集電できうる。また、炭素繊維はその優れた比強度・比弾性率から、宇宙航空などの幅広い分野において、各種複合材の強化材として従来より工業的に利用されている。なかでも工業上広く利用されている炭素繊維であるが故に、PAN系炭素繊維またはピッチ系炭素繊維が好ましい。
さらにいえば、汎用性、コストパフォーマンスや高導電性という観点より、多孔質材料層は、PAN系もしくはピッチ系炭素繊維であって黒鉛化(脱炭素化)された繊維を含まない炭素化された繊維であることが特に好ましい。ここで、前記「黒鉛化(脱炭素化)された繊維を含まない」とは、繊維を形成する炭素原子鎖の途中に炭素以外の元素(N、O等)が含まれないことを意味する。以下、かかる繊維が特に好ましい理由を説明する。
PAN系炭素繊維は主に強度や伸度に優れる反面、難黒鉛化性であるため、弾性率が低いという問題がある。弾性率向上を図るため、一般に約2200〜3000℃という高温での焼成が必要不可欠となるが、同時に強度が低下してしまうという問題がある。また高温焼成による炉の低寿命化など、高コスト化を避けることは極めて困難であり、工業的規模では不利になりうる。
一方、ピッチ系炭素繊維については、等方性ピッチ由来のものと異方性ピッチ由来のものとに大別できるが、高性能を発現する上で、一般に異方性ピッチが用いられる。異方性ピッチ由来の炭素繊維は、その原料(異方性ピッチ)の易黒鉛化の性質から弾性や強度に優れる反面、伸度が低くなるという問題がある。そのため、工業的には炭素繊維の生産性や複合化の際のハンドリング性に劣る可能性がある。
これらのPAN系炭素繊維やピッチ系炭素繊維に存する問題に鑑みて、PAN系炭素繊維とピッチ系炭素繊維の両者の欠点を補うために、両者の複合化の検討が種々なされている。しかし、工程の複雑化に起因するコストアップや品質の低下等、多くの問題があり、工業上利用することは困難であるというのが現実である。
これに対し、本実施形態では、PAN系もしくはピッチ系炭素繊維であって黒鉛化(脱炭素化)された繊維を含まない炭素化された繊維で多孔質材料層を構成することにより、上記のような問題は生じない。そして、黒鉛化繊維を含まないPAN系もしくはピッチ系炭素繊維で構成される多孔質材料層において低コストを図る代償としての導電性の低下については、後述する導電性炭素層の存在によってカバーすることができる。このようにして、本実施形態に係る燃料電池用ガス拡散層は、高導電性と低コストとを共に実現することができる。なお、本明細書における「黒鉛化繊維」とは、炭素繊維の弾性率を向上させる目的で、不活性ガス雰囲気中2000℃以上の温度で焼成して得られる繊維を意味する。
図4は、PAN系炭素繊維の製造の各工程における繊維の変化を示す概略図である。従来より、PAN系炭素繊維に高い導電性を付与するために、最終的に黒鉛化処理を施すことにより結晶化させている。このような、PAN系炭素繊維の製造に際して、従来より行われている黒鉛化処理は、多孔質材料層の大幅な導電性向上を実現する反面、多孔質材料自体が大幅にコストアップしてしまう。すなわち、PAN系炭素繊維の製造の中でも、黒鉛化処理に大部分のコストが費やされる。これに対し、本実施形態に係るガス拡散層がPAN系炭素繊維を含む場合、PAN系炭素繊維の製造において黒鉛化処理を行わない。したがって、図4に示すように、変化した繊維は黒鉛化繊維ではなく炭素化繊維と言い得る。しかし、前記炭素化繊維には、「炭素−炭素」結合の途中に窒素原子が存在するため、PAN系炭素繊維としての導電性は、黒鉛化繊維よりも炭素化繊維の方がはるかに劣る。
そこで、本実施形態によれば、前記多孔質材料層の表面上または中に存在する導電性炭素層または導電性炭素粒子を含むことによって、黒鉛化処理を実施しなくても、結果的に高い導電性を得ることができる。これにより、高い導電性と大幅なコストダウンとを共に実現できる。さらに、従来より行われている黒鉛化処理によって、多孔質材料層中の気孔率が上がりすぎる場合がある。これに対し、本実施形態によれば、前記多孔質材料層の表面上または中に存在する導電性炭素層または導電性炭素粒子を含むという構成によって、黒鉛化処理の省略が可能となり、余計な高気孔率化を防止できる。
有機繊維とは、導電化した樹脂繊維を意味する。前記導電化した樹脂繊維とは、炭素原子を多く含み、焼成によって容易に炭素化されて炭素繊維を形成し、その結果、導電性が発現する繊維のことである。有機繊維としては、以下に制限されることはないが、例えば、フェノール系樹脂繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維やポリブチレンテレフタレート繊維などが挙げられる。なかでも、一層確実に導電性を確保できるという観点より、多孔質材料層はフェノール系樹脂繊維を含むことが好ましい。
有機繊維の繊維径の範囲として、以下に限定されることはないが、好ましくは50〜5μm、より好ましくは30〜10μmである。一方、本発明に係る燃料電池用GDLに使用可能な有機繊維の繊維長は、有機繊維の状態ではチョップドされないことから、特に制限されない。
金属繊維としては、以下に限定されることはなく、例えば、鉄、チタン、アルミニウム及び銅並びにこれらの合金;ステンレス;金や銀などの貴金属の繊維が挙げられる。なかでも、機械的強度、汎用性、コスト面、加工容易性や高導電性の観点からいえば、多孔質材料層52はステンレス、アルミニウムまたはアルミニウム合金の繊維を含むことが好ましい。特に、機械的強度、汎用性、コスト面、加工容易性や高導電性のみならず、燃料電池セル内の酸性雰囲気に十分な耐性を有するため、多孔質材料層52はステンレスの繊維を含むことが一層好ましい。なお、多孔質材料層がステンレス繊維を含む場合、セパレータを構成する多孔質材料層との接触面の導電性が十分に確保されうる。その結果、たとえリブ肩部の膜の隙間などに水分が浸入したとしても、ステンレスから構成される多孔質材料層自体に生じる酸化皮膜の有する耐食性によって、セパレータの耐久性が維持されうるという波及的な効果を奏する。
金属繊維の繊維径の範囲として、以下に限定されることはないが、好ましくは100〜1μm、より好ましくは50〜5μm、さらに好ましくは20〜5μmである。一方、本発明に係る燃料電池用GDLに使用可能な金属繊維の繊維長は、特に制限されないが、一般に使用される10mm以下(より好ましくは10〜5mm)のチョップドファイバーを抄紙して用いることができる。
ステンレスとしては、オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト・フェライト系、析出硬化系などが挙げられる。オーステナイト系としては、SUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS316(L)、SUS317が挙げられる。オーステナイト・フェライト系としては、SUS329J1が挙げられる。マルテンサイト系としては、SUS403、SUS420が挙げられる。フェライト系としては、SUS405、SUS430、SUS430LXが挙げられる。析出硬化系としては、SUS630が挙げられる。なかでも、SUS304、SUS316等のオーステナイト系ステンレスを用いることがより好ましい。また、ステンレス中の鉄(Fe)の含有率は、好ましくは60〜84質量%であり、より好ましくは65〜72質量%である。さらに、ステンレス中のクロム(Cr)の含有率は、好ましくは16〜20質量%であり、より好ましくは16〜18質量%である。
アルミニウム合金としては、純アルミニウム系、及びアルミニウム・マンガン系、アルミニウム・マグネシウム系などが挙げられる。アルミニウム合金中におけるアルミニウム以外の元素については、アルミニウム合金として一般に使用可能なものであれば特に制限されることはない。例えば、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛及びニッケルなどがアルミニウム合金に含まれうる。アルミニウム合金の具体例として、純アルミニウム系としてはA1050、A1050Pが挙げられ、アルミニウム・マンガン系としてはA3003P、A3004Pが挙げられ、アルミニウム・マグネシウム系としてはA5052P、A5083Pが挙げられる。一方で、セパレータには機械的な強度や成形性も求められるため、上記の合金種に加えて、合金の調質も適宜選択されうる。なお、多孔質材料層52がチタンやアルミニウムの単体から構成される場合、当該チタンやアルミニウムの純度は、好ましくは95質量%以上であり、より好ましくは97質量%以上であり、さらに好ましくは99質量%以上である。
ここで、前記多孔質材料層は、炭素繊維、金属繊維及び有機繊維よりなる群から選択される2種以上を含んでもよい。前記多孔質材料層を構成する繊維が、炭素繊維及び金属繊維からなる場合を例に説明する。これら炭素繊維及び金属繊維の関係は、繊維の任意の1本が炭素繊維であって他の1本が金属繊維であるような形態でもよいし、1本の炭素繊維を被覆するように、外周縁に金属繊維が存在する形態であってもよい。
また、前記多孔質材料層は、導電性を有さない繊維その他の成分を含んでもよい。しかし、本実施形態に係るガス拡散層が十分な導電性を有するという観点から、多孔質材料層の構成成分を100質量%とした場合に、前記導電性を有さない成分の含有量は50質量%以下であることが好ましい。また、10質量%以下であることがより好ましく、多孔質材料層が導電性を有さない成分を実質的に含まないことが特に好ましい。
<導電性炭素層>
導電性炭素層54は、導電性炭素を含む層である。そして、上述のように、多孔質材料層において低コストを図る代償としての導電性の低下を、導電性炭素層の存在によってカバーすることができる。これは、特に炭素繊維(なかでもPAN系もしくはピッチ系炭素繊維)の場合が該当する。また、多孔質材料層として金属繊維を用いた場合には、導電性炭素層の存在により、ガス拡散層としての導電性を確保しつつ、多孔質材料層52のみの場合と比較して耐食性が改善されうる。
本実施形態における導電性炭素層または導電性炭素粒子において、ラマン散乱分光分析より測定されたD−バンドピーク強度IDとG−バンドピーク強度IGの強度比R(ID/IG)が1.3以上である。加えて、前記導電性炭素層のラマン散乱分光分析による回転異方性測定により測定された平均ピークが、2回対称パターンを示す。
後述するが、強度比R(ID/IG)が1.3以上である前記導電性炭素層または導電性炭素粒子の大部分は、多孔質材料層の表面上または中に導電性炭素層であって、多結晶グラファイトとして存在する。そして、前記「多結晶グラファイト」とは、グラフェン面(六角網面)が積層した異方性のグラファイト結晶構造(グラファイトクラスター)を有する。したがって、前記導電性炭素層または導電性炭素粒子の少なくとも大部分は、その強度比R(ID/IG)が1.3以上であるが故に、導電性炭素層を構成し、より具体的にはグラフェン面を有する積層体を構成する。
炭素材料をラマン分光法により分析すると、通常1350cm−1付近及び1584cm−1付近にピークが生じる。結晶性の高いグラファイトは、1584cm−1付近にシングルピークを有し、このピークは通常、「Gバンド」と称される。一方、結晶性が低くなる(結晶構造欠陥が増す)につれて、1350cm−1付近のピークが現れてくる。このピークは通常、「Dバンド」と称される(なお、ダイヤモンドのピークは厳密には1333cm−1であり、上記Dバンドとは区別される)。Dバンドピーク強度(ID)とGバンドピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)は、炭素材料のグラファイトクラスターサイズやグラファイト構造の乱れ具合(結晶構造欠陥性)、sp2結合比率などの指標として用いられる。すなわち、本発明においては、導電性炭素層54の接触抵抗の指標とすることができ、導電性炭素層54の導電性を制御する膜質パラメータとして用いることができる。
R(ID/IG)値は、顕微ラマン分光器を用いて、炭素材料のラマンスペクトルを計測することにより算出される。具体的には、Dバンドと呼ばれる1300〜1400cm−1のピーク強度(ID)と、Gバンドと呼ばれる1500〜1600cm−1のピーク強度(IG)との相対的強度比(ピーク面積比(ID/IG))を算出することにより求められる。
上述したように、本実施形態において、R値は1.3以上である。また、好ましい実施形態において、R値は、好ましくは1.4〜2.0であり、より好ましくは1.4〜1.9であり、さらに好ましくは1.5〜1.8である。R値が1.3以上であれば、積層方向の導電性が十分に確保された導電性炭素層を得ることができる。また、R値が2.0以下であれば、グラファイト成分の減少、すなわちグラファイト構造の乱れ度合を効果的に抑制できる。さらに、導電性炭素層自体の内部応力の増大をも抑制でき、下地である多孔質材料層(後述する中間層が存在する場合には中間層)との密着性を一層向上させることができる。
なお、本実施形態のようにR値を1.3以上とすることによって上述の作用効果が得られるメカニズムは、以下のように推定されている。ただし、以下の推定メカニズムは本発明の技術的範囲を何ら限定するものではない。
上述したように、Dバンドピーク強度が大きくなる(すなわち、R値が大きくなる)ことは、グラファイト構造における結晶構造欠陥の増加を意味する。換言すれば、ほぼsp2炭素のみからなる高結晶性グラファイトにおいてsp3炭素が増加することを意味する。ここで、R=1.0〜1.2の導電性炭素層を有する導電部材(導電部材A)の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した写真(倍率:40万倍)を図5Aに示す。同様に、R=1.6の導電性炭素層を有する導電部材(導電部材B)の断面をTEMにより観察した写真(倍率:40万倍)を図5Bに示す。なお、これらの導電部材A及び導電部材Bは、多孔質材料層としてSUS316Lを用い、この表面にクロム(Cr)からなる中間層(厚さ:0.2μm)及び導電性炭素層(厚さ:0.2μm)をスパッタリング法によって順次形成することにより作製した。また、導電部材Aにおける導電性炭素層の作製時において多孔質材料層に対して印加したバイアス電圧は0Vであり、導電部材Bにおける導電性炭素層の作製時において多孔質材料層に対して印加したバイアス電圧は−140Vであった。
図5Bに示すように、導電部材Bの導電性炭素層は、多結晶グラファイトの構造を有することがわかる。一方で、図5Aに示す導電部材Aの導電性炭素層においては、かような多結晶グラファイトの構造は確認できない。
ここで、「多結晶グラファイト」とは、微視的にはグラフェン面(六角網面)が積層した異方性のグラファイト結晶構造(グラファイトクラスター)を有するが、巨視的には多数の当該グラファイト構造が集合した等方性結晶体である。したがって、多結晶グラファイトは、ダイヤモンド様カーボン(DLC;Diamond−Like Carbon)の1種であるということもできる。通常、単結晶グラファイトは、HOPG(高配向熱分解黒鉛)に代表されるような、巨視的にみてもグラフェン面が積層された乱れのない構造を示す。一方、多結晶グラファイトにおいては、個々のクラスターとしてグラファイト構造が存在しており、乱層構造を有している。R値を上述の値に制御することで、この乱れ具合(グラファイトクラスター量やサイズ)が適度に確保され、導電性炭素層54の一方の面から他方の面への導電パスが確保されうる。その結果、多孔質材料層52に加えて導電性炭素層54を別途設けたことによる導電性の低下が防止されうると考えられる。
多結晶グラファイトにおいては、グラファイトクラスターを構成するsp2炭素原子の結合によりグラフェン面が形成されていることから、当該グラフェン面の面方向に導電性が確保される。また、多結晶グラファイトは実質的に炭素原子のみから構成され、比表面積が小さく、結合した官能基の量も少ない。このため、多結晶グラファイトは酸性水等による腐食に対して優れた耐性を有する。なお、カーボンブラック等の粉末においても、1次粒子を形成しているのはグラファイトクラスターの集合体である場合が多く、これにより導電性が発揮される。しかしながら、個々の粒子が分離しているため、表面に形成されている官能基が多く、酸性水等による腐食が生じやすい。また、カーボンブラックにより導電性炭素層を成膜しても、保護膜としての緻密性に欠けるという問題もある。
ここで、本実施形態の導電性炭素層54が多結晶グラファイトから構成される場合、多結晶グラファイトを構成するグラファイトクラスターのサイズは特に制限されない。一例を挙げると、グラファイトクラスターの平均直径は、好ましくは1〜50nm程度であり、より好ましくは2〜10nmである。グラファイトクラスターの平均直径がかような範囲内の値であると、多結晶グラファイトの結晶構造を維持しつつ、導電性炭素層54の厚膜化を防止することが可能である。ここで、グラファイトクラスターの「直径」とは、当該クラスターの輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。また、グラファイトクラスターの平均直径の値は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察されるクラスターの直径の平均値として算出されうる。
なお、本実施形態では導電性炭素層54は多結晶グラファイトのみから構成されてもよいが、導電性炭素層54は多結晶グラファイト以外の材料をも含みうる。導電性炭素層54に含まれうる多結晶グラファイト以外の炭素材料としては、カーボンブラック等のグラファイト粒子、並びにフラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン及びカーボンフィブリル等が挙げられる。また、カーボンブラックの具体例として、以下に制限されることはないが、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラックやサーマルブラック等が挙げられる。なお、カーボンブラックは、グラファイト化処理が施されていてもよい。また、導電性炭素層54に含まれうる炭素以外の材料として、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)等の貴金属が挙げられる。また、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水性物質、及び導電性酸化物なども挙げられる。多結晶グラファイト以外の材料は、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。そして、このような多結晶グラファイト以外の材料が多結晶グラファイトと併用されてもよいことはいうまでもない。
導電性炭素層54の厚さは、特に制限されない。ただし、好ましくは1〜1000nmであり、より好ましくは2〜500nmであり、さらに好ましくは5〜200nmである。導電性炭素層の厚さがかような範囲内の値であれば、ガス拡散層を構成する多孔質材料層とセパレータとの間に十分な導電性を確保することができる。また、多孔質材料層に対して高い耐食機能を持たせることができるという有利な効果を奏しうる。
以下、本実施形態における導電性炭素層54について、より好ましい実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。
まず、導電性炭素層54のラマン散乱分光分析について、他の観点からは、ラマン散乱分光分析の回転異方性測定により測定された平均ピークが、2回対称パターンを示す。以下、回転異方性測定の測定原理について、簡単に説明する。
ラマン散乱分光分析の回転異方性測定は、測定サンプルを水平方向に360度回転させながら、ラマン散乱分光測定を実施することにより行われる。具体的には、測定サンプルの表面に対してレーザー光を照射し、通常のラマンスペクトルを測定する。次いで、測定サンプルを10°回転させて、同様にラマンスペクトルを測定する。この操作を、測定サンプルが360°回転するまで行う。そして、それぞれの角度での測定において得られたピーク強度の平均値を算出し、中心がピーク強度ゼロとなる、1周360°の極座標表示とすることにより、平均ピークが得られる。そして、例えば、グラフェン面がサンプルの面方向と平行となるように、グラファイト層がサンプル表面に存在する場合には、図6Aに示すような3回対称パターンが見られる。一方、グラフェン面がサンプルの面方向と垂直となるように、グラファイト層がサンプル表面に存在する場合には、図6Bに示すような2回対称パターンが見られる。なお、明確な結晶構造が存在しない非晶質(アモルファス)状の炭素層がサンプル表面に存在する場合には、図6Cに示すような対称性を示さないパターンが見られる。したがって、回転異方性測定により測定された平均ピークが2回対称パターンを示すということは、導電性炭素層54を構成するグラフェン面の面方向が、導電性炭素層54の積層方向とほぼ一致していることを意味する。かような形態によれば、導電性炭素層54における導電性が最短のパスによって確保されることとなるため、好ましいのである。
ここで、上述した導電部材Bについて当該回転異方性測定を行った結果を図7A及び図7Bに示す。図7Aは、導電部材Bを測定サンプルとして用い、当該サンプルの回転角をそれぞれ0°、60°、及び180°としたときのラマンスペクトルを示す。また、図7Bは、上述した手法により得られた、導電部材Bについての回転異方性測定の平均ピークを示す。図7Bに示すように、導電部材Bの回転異方性測定においては、0°及び180°の位置にピークが見られた。これは、図7Bに示す2回対称パターンに相当する。なお、本明細書において、ラマン散乱分光分析の回転異方性測定により測定された平均ピークが「2回対称パターンを示す」の定義を以下に示す。即ち、図6B及び図7Bに示すように、平均ピークにおいて、ピーク強度が0である点を基準として180°対向する2つのピークが存在することを意味することである。3回対称パターンで見られるピーク強度と2回対称パターンで見られるピーク強度とは原理的には同程度の値を示すとされているため、かような定義が可能となる。
好ましい実施形態では、導電性炭素層54のビッカース硬度が規定される。「ビッカース硬度(Hv)」とは、物質の硬さを規定する値であり、物質に固有の値である。本明細書において、ビッカース硬度は、ナノインデンテーション法により測定された値を意味する。ナノインデンテーション法とは、サンプル表面に対して超微小な荷重でダイヤモンド圧子を連続的に負荷及び除荷し、得られた荷重−変位曲線から硬さを測定するという手法であり、Hvが大きいほどその物質は硬いことを意味する。好ましい実施形態において、具体的には、導電性炭素層54のビッカース硬度は、好ましくは1500Hv以下であり、より好ましくは1200Hv以下であり、さらに好ましくは1000Hv以下であり、特に好ましくは800Hv以下である。ビッカース硬度がかような範囲内の値であれば、導電性を有しないsp3炭素の過剰な混入が抑制され、導電性炭素層54の導電性の低下が防止されうる。一方、ビッカース硬度の下限値について特に制限はないが、ビッカース硬度が50Hv以上であれば、導電性炭素層54の硬度が十分に確保される。その結果、外部からの接触や摩擦等の衝撃にも耐えることができ、多孔質材料層52との密着性にも優れた導電部材(セパレータ)が提供されうる。かような観点から、導電性炭素層54のビッカース硬度は、より好ましくは80Hv以上であり、さらに好ましくは100Hv以上であり、特に好ましくは200Hv以上である。
ここで、導電部材の金属基材層としてSUS316Lを準備し、この表面にCrからなる中間層(厚さ:0.2μm)及び導電性炭素層(厚さ:0.2μm)をスパッタリング法によって順次形成することにより作製した。この際、バイアス電圧及び成膜方式を制御することにより、導電性炭素層のビッカース硬度を変化させた。これにより得られた導電部材における導電性炭素層のビッカース硬度と導電性炭素層におけるsp3比の値との関係を図8に示す。なお、図8では、ダイヤモンドはsp3比=100%であり、Hv10000となる。図8に示す結果から、導電性炭素層のビッカース硬度が1500Hv以下であると、sp3比の値が大きく低下することがわかる。また、sp3比の値が低下することで、導電部材の接触抵抗の値もこれに伴って低下することが推測される。
さらに他の観点からは、導電性炭素層54に含まれる水素原子の量もまた、考慮することが好ましい。すなわち、導電性炭素層54に水素原子が含まれる場合、当該水素原子は炭素原子と結合する。そうすると、水素原子が結合した炭素原子の混成軌道はsp2からsp3へと変化して導電性を喪失し、導電性炭素層54の導電性が低下することとなる。また、多結晶グラファイトにおけるC−H結合が増加すると、結合の連続性が失われ、導電性炭素層54の硬度が低下し、最終的には導電部材の機械的強度や耐食性が低下してしまう。かような観点から、導電性炭素層54における水素原子の含有量は、導電性炭素層54を構成する全原子に対して、好ましくは30原子%以下であり、より好ましくは20原子%以下であり、さらに好ましくは10原子%以下である。ここで、導電性炭素層54における水素原子の含有量の値としては、弾性反跳散乱分析法(ERDA)により得られる値を採用するものとする。この方法では、測定サンプルを傾け、ヘリウムイオンビームを浅く入射することによって、前方に弾き出された元素を検出する。水素原子の原子核は、入射されるヘリウムイオンよりも軽いため、水素原子が存在するとその原子核は前方に弾き出される。かような散乱は弾性散乱であることから、弾き出された原子のエネルギースペクトルはその原子核の質量を反映することになる。したがって、弾き出された水素原子の原子核の数を固体検出器によって測定することにより、測定サンプルにおける水素原子の含有量が測定されうる。
ここで、図9は、上述したR値が1.3以上であるものの、水素原子の含有量が異なる導電性炭素層を有するいくつかの導電部材について、接触抵抗を測定した結果を示すグラフである。図9に示すように、導電性炭素層における水素原子の含有量が30原子%以下であると、導電部材の接触抵抗の値は顕著に低下する。なお、図9に示す実験において、導電部材の金属基材層としてはSUS316Lを用い、この表面にCrからなる中間層(厚さ:0.2μm)及び導電性炭素層(厚さ:0.2μm)をスパッタリング法によって順次形成することにより作製した。この際、成膜方式や炭化水素ガス量を制御することにより、導電性炭素層における水素原子の含有量を変化させた。
本実施形態においては、多孔質材料層52の面全体が、直接的に、または中間層56を介して間接的に、導電性炭素層54によって被覆(表面処理)される。換言すれば、本実施形態では、導電性炭素層54により多孔質材料層52が被覆された面積の割合(被覆率)は100%である。ただし、かような形態のみには限定されず、被覆率は100%未満であってもよい。
多孔質材料層52が金属繊維を含む場合(特に多孔質材料層52が金属繊維からなる場合)、導電性炭素層54による多孔質材料層52の被覆率は、好ましくは50%以上である。換言すれば、金属繊維を含む多孔質材料層52(特に金属繊維からなる多孔質材料層52)の表面の50%以上を「導電性の炭素」、すなわち導電性炭素層または導電性炭素粒子が被覆することが好ましい。また、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、最も好ましくは100%である。かような構成とすることにより、導電性炭素層52により被覆されていない、多孔質材料層52の露出部への酸化皮膜の形成に伴う導電性・耐食性の低下が効果的に抑制されうる。
一方、多孔質材料層52が炭素繊維を含む場合(特に多孔質材料層52が炭素繊維からなる場合)、導電性炭素層54による多孔質材料層52の被覆率は、好ましくは85%以上である。また、より好ましくは90%以上であり、最も好ましくは92%である。かような構成とすることにより、特に前記炭素繊維がPAN系もしくはピッチ系炭素繊維である場合には、黒鉛化された炭素繊維で構成される多孔質材料と同程度の接触抵抗を確保できる。
なお、本実施形態のように、後述する中間層56が多孔質材料層52と導電性炭素層54との間に介在する場合、上記被覆率は、ガス拡散層(5a、5c)を積層方向から見た場合に導電性炭素層54と重複する多孔質材料層52の面積の割合を意味する。
<中間層>
まず第1として、上述の図2に示すように、本実施形態における導電性炭素層54は多孔質材料層52の表面上に存在し、導電性炭素層54と多孔質材料層との間に、金属で構成される中間層56をさらに有してもよい。次に第2として、多孔質材料層52及び導電性炭素層54の少なくとも一方の中(内部)に前記金属が存在してもよい(図示せず)。
このように、本実施形態の燃料電池用ガス拡散層(燃料電池用GDL)は、導電部材として中間層56を有してもよい。中間層56は、多孔質材料層52と導電性炭素層54との密着性を向上させるという機能や、多孔質材料層52からのイオンの溶出を防止するという機能を有する。特に、R値が上述した好ましい範囲の上限値を超える場合に、中間層56を設けることによる効果は顕著に発現する。ただし、R値が上述した好ましい範囲に含まれる場合であっても中間層が設けられうることは当然である。他の観点からは、中間層56の設置による上述した作用効果は、多孔質材料層52がアルミニウムまたはその合金から構成される場合にも顕著に発現する。なお、本発明において、中間層は任意の層であり、必ずしも中間層は存在しなくてもよい。以下、導電部材が中間層を含む場合の好ましい形態について簡単に説明する。
中間層56を構成する材料としては、上記の密着性を付与するものであれば特に制限はない。例えば、周期律表の第4族の金属(Ti、Zr、Nf)、第5族の金属(V、Nb、Ta)、第6族の金属(Cr、Mo、W)、並びにこれらの炭化物、窒化物及び炭窒化物などが挙げられる。なかでも好ましくは、クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)もしくはハフニウム(Hf)といったイオン溶出の少ない金属、またはこれらの窒化物、炭化物もしくは炭窒化物が用いられる。より好ましくは、CrもしくはTi、またはこれらの炭化物もしくは窒化物が用いられる。特に、上述したイオン溶出の少ない金属またはその炭化物もしくは窒化物を用いた場合、セパレータの耐食性を有意に向上させることができる。
中間層56の厚さは、特に制限されないが、0.005〜10μmであることが好ましく、0.005〜0.1μmであることがより好ましく、0.005〜0.01μmであることがさらに好ましい。中間層自体は導電性炭素層と繊維間の熱膨張による剥離を抑えることや、繊維を構成する金属の耐食性が弱い場合の防食という点で効果がある。10μm以上では中間層の厚さによって多孔質層の空孔が閉塞する可能性が高くなり、0.005μm以下は、分光学的な計測手段では精度の良い結果が得られる下限以下になる。なお、前記中間層の厚さは、AESの深さ分析により計測したものである。
また、中間層56の、導電性炭素層54側の表面は、ナノレベルで粗れていることが好ましい。かような形態によれば、中間層56上に成膜される導電性炭素層54の、中間層56に対する密着性をより一層向上させうる。
さらに、中間層56の熱膨張率が、多孔質材料層52を構成する金属の熱膨張率と近い値であると、中間層56と多孔質材料層52との密着性は向上する。ただし、かような形態では中間層56と導電性炭素層54との密着性が低下する場合がある。同様に、中間層56の熱膨張率が導電性炭素層54の熱膨張率と近い値であると、中間層56と多孔質材料層52との密着性が低下する場合がある。これらを考慮して、中間層の熱膨張率(αmid)、多孔質材料層の熱膨張率(αsub)、及び導電性炭素層の熱膨張率を(αc)は、αsub≧αmid>αcの関係を満足することが好ましい。なお、αsubとαmidとが同一の値である場合とは、多孔質材料層のうち金属繊維の構成金属、及び中間層の構成金属が共に同一である場合に相当する。
なお、中間層56は、多孔質材料層52の少なくとも一方の表面上に存在すればよい。また、導電性炭素層が多孔質材料層の両面に存在する場合には、中間層は、多孔質材料層と双方の導電性炭素層との間にそれぞれ介在することが好ましい。多孔質材料層といずれか一方の導電性炭素層との間にのみ中間層が存在する場合には、当該中間層は、PEFCにおいてMEA側に配置されることとなる導電性炭素層と多孔質材料層との間に存在することが好ましい。
<親水化層>
上述のように、導電性炭素層54は、多孔質材料層52の表面上に存在してもよい。かかる場合、図2に示すように、導電性炭素層54上に金属、金属窒化物、金属炭化物及び金属酸化物よりなる群から選択される1種以上で構成される親水化層58をさらに有してもよい。そして、親水化層58は、多孔質材料層52のセパレータと向かい合う側に存在する導電性炭素層上に、セパレータと隣接する状態で配置されることが好ましい。図1で示すならば、親水化層は、ガス拡散層(4a、4c)のうち、セパレータ(5a、5c)が存在する側の表面に配置されることが好ましい。かような親水化層の機能について以下に説明する。電池の発電によって水が発生するが、この水は速やかにセパレータへと運ばれて排出されることが極めて望ましい。その際、親水化層がガス拡散層(4a、4c)のうち、セパレータ(5a、5c)が存在する側の表面に配置されていると、セパレータの界面における親水性が向上して触媒層(3a、3c)からセパレータ側への速やかな水の排出を促進できる。
このような親水化層の機能の観点より、図1において、セパレータ(5a、5c)に存在する複数の凹部によって構成される溝状の流路が排水に関与する。そのため、セパレータ(5a、5c)側のガス拡散層(4a、4c)の親水化層のうち、前記凹部と接する親水化層の部分は、高い親水度を有するようにするため、金属で構成されることが好ましい。一方、前記凸部と接する親水化層の部分は、親水性は重要でないといえるため、金属、金属窒化物、金属炭化物及び金属酸化物よりなる群から選択される1種以上で構成されればよい。さらにいえば、前記凸部と接する親水化層の部分にはこのような親水化層は存在しなくてもよい。かかる場合、親水化層は金属が分散してガス拡散層の面上に存在する部分的な(不連続的な)「層」形態を採りうる。
前記金属は、貴金属または金属セパレータ基材を構成する金属元素、及びセパレータの表面処理に含まれる金属元素よりなる群から選択される1種以上を有してもよい。金属セパレータ基材を構成する金属元素としては、以下に限定されることはないが、例えば、鉄、チタン、アルミニウム及び銅並びにこれらの合金が挙げられる。ここで、鉄合金にはステンレスが含まれる。各元素や各合金(ステンレスを含む)の例示については、上述した例示がそのまま引用される。前記金属が貴金属であると、親水化向上のみならず、接触抵抗を有意に低下できる。また、前記金属が金属セパレータ基材を構成する金属元素や、セパレータの表面処理に含まれる金属元素であると、異種金属同士が接する場合に生じうる腐食を効果的に防止できる。なお、金属窒化物、金属炭化物や金属酸化物は、上記した金属の窒化物、炭化物や酸化物の全てを含みうる。
上述の図2に、親水化層58を示している。図2では、一例として、親水化層58を連続的な層として表しているが、不連続な層形態、即ち上述したような金属の分散した層形態を採ってもよい。また、図2では、導電部材として、必須の多孔質材料層52及び導電性炭素層54、並びに任意の中間層56及び親水化層58が存在している。しかし、本実施形態において、中間層56及び親水化層58は、いずれも存在しなくてよいし、少なくともいずれか一方が存在していてもよい。
ここで、図2におけるガス拡散層の断面図は、多孔質材料層の上に中間層及び導電性炭素層が積層された構造を示している。しかし、本実施形態の断面図はこれに限られず、その他として、繊維で構成される多孔質材料層の中(内部)に中間層及び導電性炭素層が「積層」されたような構造などもありうる。ここまでは上述した通りであるが、親水化層については補足の説明が必要である。すなわち、親水化層の機能はセパレータ側への速やかな水の排出を促進する点にあるため、導電性炭素層(及び中間層)が多孔質材料層との関係でどのような位置関係を採ったとしても、親水化層だけは多孔質材料層の上に存在する必要がある。
<ガス拡散電極(ガス拡散層)>
ガス拡散電極(ガス拡散層)は、その厚さ方向の電気抵抗値が1mΩ・cm2以下であることが好ましい。ガス拡散電極の厚さ方向の電気抵抗値が2.0mΩ以下の場合、電池性能が上昇しやすくなる上に、発熱によるガス拡散電極の構成成分の脆化を効果的に防止でき得る。ここで、厚さ方向の電気抵抗値とは、金メッキした2枚の50mm角(厚さ10mm)の試験用電極でガス拡散電極を圧力1MPaで挟み、両試験用電極間で測定した電気抵抗値(mΩ)のことである。
ガス拡散層は、その厚さが300〜100μmのものを一般的に使用しているが、セルの形状や性能を鑑みて適宜厚さを調整することができる。
上述したようなガス拡散層(ガス拡散電極)においては、繊維成分が導電性を有する上、繊維同士が互いに融着するため、当該ガス拡散層の導電性も高くなりうる。
[第2実施形態]
上述した第1実施形態のガス拡散層を製造する方法について特に制限はなく、従来公知の手法を適宜参照することにより製造することが可能である。以下、ガス拡散層を製造するための好ましい実施形態を記載するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。また、ガス拡散層を構成する各部材の材質などの諸条件については、上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。
本発明の第2実施形態に係る燃料電池用ガス拡散層(燃料電池用GDL)の製造方法は、多孔質材料層の表面上または中に、導電性炭素層または導電性炭素粒子を形成する工程を含む。なお、多孔質材料層については、市販品を用いることができる。しかし、本発明における多孔質材料層の中には、例えば、黒鉛化処理を施さないPAN系もしくはピッチ系炭素繊維のように、現状では市販品として流通していないようなものもある。そこで、上記の特殊なPAN系もしくはピッチ系炭素繊維については、その製造方法や条件について後述する。
前記導電性炭素層または導電性炭素粒子を形成する工程(イ)は、導電性の炭素(例えば、グラファイト)をターゲットとして、多孔質材料層上に導電性炭素を含む層を原子レベルで積層(成膜)することにより、導電性炭素層を形成することができる。このようにして、直接付着した導電性炭素層と多孔質材料層との界面(その近傍を含む)は、分子間力や僅かな炭素原子の進入によって、長期間にわたって密着性が保持されうる。
導電性炭素を積層(成膜)するのに好適な手法として、例えば、スパッタリング法もしくはイオンプレーティング法などの物理気相成長(PVD)法、またはフィルタードカソーディックバキュームアーク(FCVA)法等のイオンビーム蒸着法等が挙げられる。スパッタリング法としては、マグネトロンスパッタリング法、アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法、デュアルマグネトロンスパッタ法、ECRスパッタリング法などが挙げられる。また、イオンプレーティング法としては、アークイオンプレーティング法などが挙げられる。なかでも、スパッタリング法及びイオンプレーティング法を用いることが好ましく、スパッタリング法を用いることが特に好ましい。かような手法によれば、水素含有量の少ない炭素層を形成することができる。その結果、炭素原子同士の結合(sp2混成炭素)の割合を増加させることができ、優れた導電性が達成されうる。これに加えて、比較的低温で成膜が可能であり、多孔質材料層へのダメージを最小限に抑えることができるという利点もある。さらに、スパッタリング法によれば、バイアス電圧等を制御することで、成膜される層の膜質をコントロールできるという利点がある。また、導電性炭素層をスパッタリング法によって形成(成膜)することにより、連続的かつ効率的に導電性炭素層を製造できるという利点もある。
なお、多孔質材料層が金属繊維を含むような場合、アルゴン(Ar)プラズマによるスパッタによって、多孔質材料層(金属繊維)表面の酸化皮膜を除去しておくことが好ましい。
図10は、スパッタリング法を用いた、多孔質材料層の表面上または中への中間層や導電性炭素層の成膜(積層)装置を示す概略図である。導電性炭素層の成膜をスパッタリング法により行う場合、チャンバー64の真空度は、以下に限定されることはないが、3〜10Pa程度までガス排気口66より排気することが好ましい。その後、好ましくはArを0.1〜1Pa程度、雰囲気ガス導入口68より導入する。燃料電池用ガス拡散層(GDL)自体の温度は、室温〜200℃程度の範囲であれば特に制限されることはないが、好ましくは、GDL(特に多孔質材料層)の材質に応じて適宜、温度を設定する。そして、スパッタリングは、ターゲット70から多孔質材料層72へとターゲット材料(Crや黒鉛など)をはじき出すことにより行う。
ここで、導電性炭素層の成膜をスパッタリング法により行う場合には、スパッタリング時に多孔質材料層に対して負のバイアス電圧を印加するとよい。かような形態によれば、イオン照射効果によって、グラファイトクラスターが緻密に集合した構造の導電性炭素層が成膜されうる。このような導電性炭素層は優れた導電性を発揮しうることから、他の部材(例えば、MEA)との接触抵抗の小さい導電部材(ガス拡散層)が提供されうる。当該形態において、印加される負のバイアス電圧の大きさ(絶対値)は特に制限されず、導電性炭素層を成膜可能な電圧が採用されうる。一例として、印加される電圧の大きさは、好ましくは50〜500Vであり、より好ましくは100〜300Vである。なお、成膜時のその他の条件等の具体的な形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。また、UBMS法により導電性炭素層54を成膜する場合には、予め中間層を形成しておき、その上に導電性炭素層を形成することが好ましい。これにより、下地層との密着性に優れる導電性炭素層が形成されうる。ただし、他の手法によって導電性炭素層を形成する場合には、中間層が存在しない場合であっても、多孔質材料層との密着性に優れる導電性炭素層が形成されうる。
上述した手法によれば、多孔質材料層52の一方の表面に導電性炭素層54が形成された導電部材が製造されうる。多孔質材料層52の両面に導電性炭素層54が形成されてなる導電部材を製造するには、多孔質材料層52の他方の表面に対して、上述したのと同様の手法によって、導電性炭素層を形成すればよい。
図2に示すような、中間層56を有するガス拡散層を製造するには、上述した導電性炭素層の成膜工程の前に、多孔質材料層の少なくとも一方の表面に中間層を成膜する工程を行う。この際、中間層を成膜する手法としては、導電性炭素層の成膜について上述したのと同様の手法が採用されうる。ただし、ターゲットを中間層の構成材料に変更する必要がある。
続いて、上記工程により成膜された中間層の導電性炭素層と対向する表面とは異なる方の表面に、導電性炭素層を成膜する工程を行えばよい。中間層の表面に導電性炭素層を成膜する手法としても、多孔質材料層の表面への導電性炭素層の成膜について上述したのと同様の手法が採用されうる。
また、工程(イ)の以後に、金属、金属窒化物、金属炭化物及び金属酸化物よりなる群から選択される1種以上をターゲットとするスパッタ法、または前記工程(イ)の後に、金属のメッキ処理、のいずれかの方法(処理)を用いる。そして、かような方法(処理)によって、親水化層を形成する工程(ロ)を行ってもよい。セパレータと向かい合う側のガス拡散層の表面に親水化層を形成する際、所定の金属などをスパッタリングすることによって、工程(イ)から工程(ロ)までを簡易かつ連続的に行うことができる。一方、工程(ロ)をメッキ処理によって行う場合に、多孔質材料層が連続したシート状であると、溶液中においてロール トゥ ロール(Roll−to−Roll)方式で処理できるため、効率的かつ低コストで製造できるという利点がある。
また、工程の順序について言及すると、工程(イ)の後に工程(ロ)を行うことにより、所望のガス拡散層を形成できる。一方、工程(イ)と工程(ロ)を(ほぼ)同時に行うことによっても、ガス拡散層のセパレータ側表面に親水化層を形成することができ、さらには製造時間の大幅な短縮という利点がある。なお、同時に行う場合、親水化層を構成する親水化部材はガス拡散層のセパレータ側表面のみならず、ガス拡散層全体に存在しうる。しかし、第1実施形態において説明したように、親水化層は不連続な層形態、すなわち金属の分散した層形態を採ってもよいのである。したがって、製造時間の大幅な短縮に起因するコストや労力の低減という利点を考慮すれば、工程(イ)と工程(ロ)を同時(殆ど同時)に行うことの意義は十分にあるといえる。
前記メッキ処理の際に用いられる金属は、貴金属または金属セパレータ基材を構成する金属元素であることが好ましい。金属セパレータ基材を構成する金属元素としては、上記第1実施形態で言及した例示がそのまま引用される。前記金属が貴金属であると、親水化向上のみならず、接触抵抗を有意に低下できる。また、前記金属が金属セパレータ基材を構成する金属元素であると、異種金属同士が接する場合に生じうる腐食を効果的に防止できる。
上記の工程(イ)及び工程(ロ)を以下のように換言することができる。まず、スパッタ法を用いて、導電性炭素層もしくは導電性炭素粒子、及び/または親水化層(親水性部材により形成される層)を形成することができる。一方、親水化層の形成については、スパッタ法の代わりにメッキ処理を用いることができる。
第1実施形態(図4)でも述べたように、ポリアクリロニトリル(PAN)系もしくはピッチ系炭素繊維を製造することにより多孔質材料層を得ようとする際、黒鉛化処理まで行わずに炭素化処理で終了することが好ましい。これは、コストの大幅な低減をもたらしうる。図11は、一般的なPAN系炭素繊維の製造工程及び本発明におけるPAN系炭素繊維の製造工程を示す図である。図11中、本実施形態では黒鉛化処理を行わない点に最大の特徴がある。図11のフローチャートより簡潔に言えば、炭素化処理後、黒鉛化処理を行うことなく表面処理やサイジングからなる仕上げ(フィラメントの切断)処理を行う。この処理により得られたチョップドファイバーを抄紙化する際、好ましくはファイバーの表面を従来公知のフッ素系液体を用いて撥水処理加工を行う。そして、最後に焼成してガス拡散層のロール状シートを得ることができる。本発明における「特殊なPAN系炭素繊維」(以下、「PAN系炭素化繊維」とも称する)の各製造工程(処理)の方法や条件については、図11に示すような従来公知のものを適用すればよい。以下、本発明におけるPAN系炭素繊維の各製造工程(処理)の方法や条件の一例を示すが、本発明におけるPAN系炭素繊維の製造方法は以下に制限されることはなく、適宜方法や条件の変更等を行ってもよい。
まず、アクリロニトリルを主成分とする単量体を重合してPAN系重合体を得る。続いて、PAN系重合体を湿式、乾式または乾湿式により紡糸してPAN系前駆体繊維を製造する。
PAN系重合体は、以下に限定されないが、単量体のうち主成分であるアクリロニトリルを、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上含有する。なお、必要に応じて、アクリロニトリルと共重合可能なその他の単量体を加えて共重合してもよい。前記重合体(共重合体を含む)は、紡糸に際し、溶媒に溶解した紡糸原液として使用できる。なお、前記その他の単量体としては、アクリロニトリルと共重合可能なものであれば特に限定されないが、例えば、ブタジエン、スチレン等が挙げられる。
上記重合体の溶媒としては、以下に限定されないが、例えば、塩化亜鉛やチオシアン酸ナトリウム等の無機塩系溶媒、あるいはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドやN−メチルピロリドン等の有機系溶媒が挙げられる。
かかる重合体を溶媒に溶解した紡糸原液は、一般に、湿式、乾式または乾湿式により紡糸して繊維化する。必要により加圧スチームなどの加熱熱媒中で延伸して、配向を調整たり、場合によっては130〜200℃の熱処理をさらに施し、巻き取ってPAN系前駆体繊維を得ることができる。なお、前記PAN系前駆体繊維の基本骨格は図4(一番上)に示している。ここで、前記PAN系前駆体繊維の重量平均分子量(Mw)としては、以下に制限されない。
続いて、PAN系前駆体繊維から、本発明におけるPAN系炭素繊維を製造する。
詳細にいえば、まず、PAN系前駆体繊維を安定化処理する。安定化処理では、空気などの酸化性雰囲気中、以下に限定されないが、好ましくは200〜350℃、より好ましくは200〜300℃、さらに好ましくは230〜270℃で加熱しつつ、0.95〜1.05倍に延伸する。これにより、PAN系前駆体繊維を耐炎化繊維へと変換させる。その際、処理時間は、特に限定されないが、例えば80〜160分であり、加圧度は、特に限定されないが、例えば1.3g/cm3超である。なお、前記耐炎化繊維の基本骨格は図4(上から2番目)に示している。その後、任意の段階として、得られた耐炎化繊維を、空気などの酸化性雰囲気中、以下に限定されないが、好ましくは800〜1200℃で加熱しつつ賦活化することにより活性炭素繊維を得る。
続いて、得られた活性炭素繊維(または耐炎化繊維)を炭素化処理する。窒素等の不活性雰囲気中、最高温度として、以下に限定されないが、好ましくは600〜900℃、より好ましくは700〜800℃で加熱しつつ、1.0〜1.1倍に延伸する。次に、窒素等の不活性雰囲気中、最高温度として、以下に限定されないが、好ましくは1000〜1800℃、より好ましくは1200〜1500℃で加熱しつつ、0.95〜1.0倍に延伸することにより炭素化繊維が得られる。なお、前記耐炎化繊維の基本骨格は図4(上から3番目)に示している。図4に示すように、炭素化繊維は、「炭素−炭素」結合の途中に窒素原子が存在するため、その導電性は、黒鉛化処理後の黒鉛化繊維(結晶)の導電性と比較して、有意に低い。
本発明におけるPAN系炭素繊維の製造方法では行わないが、一般的なPAN系炭素繊維の製造方法では必須に行われる黒鉛化処理について、念のため説明する。前記炭素化繊維を、窒素等の不活性雰囲気中、最高温度として、以下に限定されないが、好ましくは2000〜3000℃、より好ましくは2200〜3000℃、さらに好ましくは2200〜2800℃で加熱しつつ、1.01〜1.2倍に延伸する。その際、処理時間は、特に限定されないが、例えば150〜400秒である。なお、前記黒鉛化繊維の基本骨格は図4(一番下)に示している。このようにして得られた黒鉛化繊維に対して、表面酸化処理、好ましくは酸又はアルカリ水溶液中で10〜200クーロン/gの電解酸化処理を行い、繊維表面に接着性を高める官能基を生じさせる場合がある。
本発明では、上述したように、炭素化処理後、そのまま表面処理やサイジングからなる仕上げ(フィラメントの切断)処理を行う。この処理により得られたチョップドファイバーを、紙を作るのと同様に抄紙化する。抄紙化の方法や条件については従来公知のものを適用すればよい。用いる材料としては、以下に限定されないが、多孔質材料層の構成成分(炭素繊維など)、活性炭、パルプ(セルロース繊維など)、人造黒鉛微粉などが挙げられる。各材料の添加割合は抄紙化可能な範囲であれば、特に制限されることはない。得られる抄紙(シート)の寸法、重さについても特に制限されることはない。続いて行う前記抄紙(シート)焼成の条件としては、抄紙に含まれる材料の黒鉛化が実現できる最適な温度及び時間で実施する限り、特に限定されない。一例として、1000〜2500℃で1〜48時間がありうる。
ここで、抄紙化する際、好ましくはファイバーの表面を従来公知のフッ素系液体を用いて撥水処理加工を行う。抄紙化されたシートは、以下に制限されないが、厚みが0.2〜2mm/枚で、かつ100〜250g/m2の密度を有することが好ましい。このシートを好ましくは1〜5枚積層して、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で焼成する。焼成は上記シートの反りを防止するため、例えば黒鉛板の間に挟んで行ってもよい。焼成の昇温は、以下に制限されないが、約800℃以下(最高到達温度)で5〜100時間行うのが好ましい。焼成の最終温度は特に制限されない。これにより、ガス拡散層のロール状シートを得ることができる。
ここで、前記撥水処理加工についてより詳細に説明する。ガス拡散層に対しては、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を用いることが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒子径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性及び電子伝導性のバランスを考慮して、質量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
[第3実施形態]
本発明の第2実施形態に係る固体高分子型燃料電池について、各構成部材を説明する。まず、一方の面にアノード(酸化剤側)触媒層が形成され、他方の面にカソード(燃料ガス剤側)触媒層が形成された固体高分子電解質膜を備える。次に、各触媒層の外側に配置されたガス拡散層を備える。ここで、前記アノード触媒層及びカソード触媒層の外側に配置された前記ガス拡散層のうち少なくとも一方が、上記第1実施形態のガス拡散層または上記第2実施形態の製造方法により得られたガス拡散層である。好ましくは、Pt触媒層の外側に配置されたガス拡散層が少なくとも、上記第1実施形態のガス拡散層または上記第2実施形態の製造方法により得られたガス拡散層である。また、前記ガス拡散層の両側それぞれに設けられたガスケットを備える。また、前記ガスケットの両側それぞれに設けられ、アノードまたはカソードの集電板としての性能を有するガス不透過性カーボンセパレータまたは金属セパレータを備える。
なかでも、本実施形態における燃料電池用ガス拡散層は、種々の用途に用いられうる。その代表例が、図1に示すPEFCのガス拡散層(4a、4c)である。
図1に示したように、PEFC1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3a及びカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4a及びカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)及び一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で膜電極接合体(MEA)10を構成する。
PEFC1において、MEA10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ5a及びカソードセパレータ5c)により挟持されている。図1において、セパレータ(5a、5c)は、図示したMEA10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、図1ではこれらの記載を省略する。
セパレータ(5a、5c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図1に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凸部はMEA10と接触している。これにより、MEA10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ5cのガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
一方、セパレータ(5a、5c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
ただし、本実施形態における燃料電池用ガス拡散層の用途はこれに限られることはない。例えば、PEFC以外にも、リン酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体電解質形燃料電池(SOFC)またはアルカリ形燃料電池(AFC)などの各種の燃料電池用ガス拡散層としても好適に使用可能である。これらの燃料電池に共通して、導電性の向上や大幅なコストダウンを図ることができる。
以下、図1を参照しつつ、本実施形態の導電部材から構成されるガス拡散層を用いたPEFCの構成要素について説明する。ただし、本発明はガス拡散層に特徴を有するものである。よって、PEFCにおけるガス拡散層の形状等の具体的な形態や、燃料電池を構成するガス拡散層以外の部材の具体的な形態については、従来公知の知見を参照しつつ、適宜、改変が施されうる。
<セパレータ>
燃料電池のスタック(セルを重ねたもの)の中で、セルとセルの間に挟まれる板状の部材である。電気を伝えつつ、燃料ガスや空気を遮断する役割を有する。セルをシールするだけでなく、ガスの流れを確保して燃料ガスや空気を送る機能も有する。
高い導電性が要求される燃料電池用セパレータの構成材料としては、従来、金属、カーボン、または導電性樹脂などが知られている。近年では、車載用PEFCなどにおいて、燃料電池スタックの小型化が可能となるセパレータであって、導電性を確保しつつ、耐食性をも向上させるものが好適に用いられる。上記した金属、カーボン、または導電性樹脂といったセパレータについては、従来公知のものが使用できるため、ここでは説明を省略する。
<電解質層>
電解質層は、例えば、図1に示す形態のように固体高分子電解質膜2から構成される。この固体高分子電解質膜2は、PEFC1の運転時にアノード触媒層3aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層3cへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜2は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
固体高分子電解質膜2は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質膜と炭化水素系高分子電解質膜とに大別される。フッ素系高分子電解質膜を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能を向上させるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質膜が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜が用いられる。
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質膜が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
電解質層の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質層の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質層の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性及び使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
<触媒層>
触媒層(アノード触媒層3a、カソード触媒層3c)は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層3aでは水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層3cでは酸素の還元反応が進行する。
触媒層は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体、及び電解質を含む。以下、触媒担体に触媒成分が担持されてなる複合体を「電極触媒」とも称する。
アノード触媒層に用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層に用いられる触媒成分もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属及びこれらの合金などから選択されうる。
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒成分及びカソード触媒層に用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用及びカソード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義である。よって、一括して「触媒成分」と称する。しかしながら、アノード触媒層及びカソード触媒層の触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状及び大きさが採用されうる。ただし、触媒成分の形状は、粒状であることが好ましい。この際、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nmである。触媒粒子の平均粒子径がかような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御されうる。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過形電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として測定されうる。
触媒担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、及び触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。
触媒担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであることが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
触媒担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m2/g、より好ましくは80〜1200m2/gである。触媒担体の比表面積がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御されうる。
触媒担体のサイズについても特に限定されないが、担持の簡便さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径を5〜200nm程度、好ましくは10〜100nm程度とするとよい。
触媒担体に触媒成分が担持されてなる電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。触媒成分の担持量がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御されうる。なお、電極触媒における触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって測定されうる。
触媒層には、電極触媒に加えて、イオン伝導性の高分子電解質が含まれる。当該高分子電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、上述した電解質層を構成するイオン交換樹脂が、高分子電解質として触媒層に添加されうる。
<燃料電池の製造方法>
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して膜電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態に係る車両は、上記第3実施形態の固体高分子型燃料電池(PEFC)を用いてなる。換言すれば、本実施形態のPEFC1やこれを用いた燃料電池スタックは、車両に駆動用電源として搭載されうる。
図12は、上述した実施形態の燃料電池スタックを搭載した車両の概略図である。図12に示すように、燃料電池スタック62を燃料電池車61のような車両に搭載するには、例えば、燃料電池車61の車体中央部の座席下に搭載すればよい。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができる。場合によっては、燃料電池スタック62を搭載する場所は、座席下に限らず、後部トランクルームの下部でもよいし、車両前方のエンジンルームであってもよい。このように、上述した形態のPEFC1や燃料電池スタック62を搭載した車両もまた、本発明の技術的範囲に包含される。
ここで、上述したPEFC1や燃料電池スタックは、上記実施形態で述べたガス拡散層(4a、4c)を用いている。したがって、当該PEFC1や燃料電池スタックは長期間にわたって良好な発電性能を維持することができ、かつ顕著なコストダウンを図ることができる。本実施形態におけるPEFC1やこれを用いた燃料電池スタックは、車両に駆動用電源として好適に搭載されうる。このように、上述した形態のPEFC1や燃料電池スタックを搭載した車両もまた、本発明の技術的範囲に包含される。上述したPEFC1や燃料電池スタックは特に、発電性能に優れる。したがって、低コストで、かつ長期間にわたって信頼性の高い燃料電池搭載車両が提供されうる。