JP2010115151A - 調製粉乳の製造方法 - Google Patents
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Abstract
油脂、特に不飽和脂肪酸を含有させた場合でも、香気成分が抑制された調製粉乳を提供すること。
【解決手段】
乳原料、糖類、及び油脂類を含む調乳液原料が混合されて調製された調乳液に、少なくとも銅酵母を含む銅原料を添加する工程、銅原料を添加した調乳液を乾燥する工程、を含む、香気成分の抑制がされた調製粉乳を製造する方法。
【選択図】 なし
Description
[1]
香気成分の抑制がされた調製粉乳を製造する方法であって、
乳原料、糖類、及び油脂類を含む調乳液原料が混合されて調製された調乳液に、少なくとも銅酵母を含む銅原料を添加する工程、
銅原料を添加した調乳液を乾燥する工程、
を含む、製造方法。
[2]
調乳液原料が、乳原料、糖類、油脂類、ビタミン類及びミネラル類(ただし銅原料を除く)を含む、[1]に記載の方法。
[3]
銅原料を添加する工程中の調乳液が、殺菌された調乳液である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
香気成分の抑制が、製造後の調製粉乳を溶解した際に発生する香気成分の抑制である、[1]〜[3]の何れかに記載の方法。
[5]
香気成分が、ヘキサナール及び/又はペンタナールである、[1]〜[4]の何れかに記載の方法。
[6]
香気成分の抑制がされた調製粉乳が、次の条件:
X:37℃での調製粉乳の保存期間(月)
Z:調製粉乳を溶解した際のヘキサナール量(ppm)
Z≦0.199e0.802X
を満たす、[1]〜[5]の何れかに記載の方法。
[7]
油脂類が、不飽和脂肪酸を含む油脂類である[1]〜[6]の何れかに記載の方法。
[8]
銅酵母を含む銅原料が、銅原料に含まれる銅に対して、銅酵母に含まれる銅が60質量%以上の銅原料である、[1]〜[7]の何れかに記載の方法。
[9]
銅酵母を含む銅原料が、
銅原料に対して、銅酵母が80質量%以上の銅原料である、[1]〜[8]の何れかに記載の方法。
[10]
調製粉乳が、銅を1〜1500μg/100g含む、[1]〜[9]の何れかに記載の方法。
[11]
香気成分の抑制がされた調製粉乳が、次の条件:
X:37℃での調製粉乳の保存期間(月)
Y:調製粉乳の過酸化物価(meq/kg)
Y≦0.806X
を満たす、[1]〜[10]の何れかに記載の方法。
[12]
[1]〜[11]の何れかに記載の方法によって製造された、香気成分の抑制がされた調製粉乳。
[13]
次の条件:
X:37℃での調製粉乳の保存期間(月)
Y:調製粉乳の過酸化物価(meq/kg)
Y≦0.806X
を満たす、[12]に記載の調製粉乳。
[14]
次の条件:
X:37℃での調製粉乳の保存期間(月)
Z:調製粉乳を溶解した際のヘキサナール量(ppm)
Z≦0.199e0.802X
を満たす、[12]に記載の調製粉乳。
[15]
銅を1〜1500μg/100g含む、[12]〜[14]の何れかに記載の調製粉乳。
[16]
調乳液に、銅酵母を含む銅原料を添加する工程、の前に、
調乳液を殺菌する工程、が設けられた、[1]〜[11]の何れかに記載の方法。
[17]
製造後の調製粉乳を溶解した際に発生する香気成分の抑制をする、香気成分抑制方法であって、
調乳液に、銅酵母を含む銅原料を添加する工程、
銅原料を添加した調乳液を乾燥する工程、
を含む、方法。
[18]
油脂類と添加されたミネラルとを含有する飲食品の製造において、香気成分の生成を抑制する方法であって、
ミネラルを酵母に封入して添加する工程、
を含むことを特徴とする、香気成分抑制方法。
[19]
ミネラルが銅であり、
ミネラルを酵母に封入して添加する工程、が、銅酵母を含む銅原料を添加する工程である、[18]に記載の方法。
[20]
油脂類に不飽和脂肪酸が含まれる[17]〜[19]に記載の方法。
1)ミネラル及び油脂類、特に不飽和脂肪酸を配合する調製粉乳において、香気成分の発生を効果的に抑制することができる。
2)銅原料と不飽和脂肪酸を同時に混合した場合であっても、製造された調製粉乳の香気成分が抑制できるため、すべての原料の添加が完了した調乳液を一括して乾燥できる等の点で、調製粉乳の製造が簡易であり、工程が複雑化することがない。
3)調製粉乳の風味劣化の抑制、及び保存期間の延長を図ることができる。
4)ミネラル、特に金属元素を含有する飲食品、飼料、医薬品の製造等に広く使用することができる。
[調製粉乳]
調製粉乳は、乳等省令において、「生乳、牛乳、特別牛乳、またはこれらを原料として製造した食品を加工し、または主要原料とし、乳幼児に必要な栄養分を加え粉末状にしたもの」と定義されている。また、一般に、調製粉乳は、乳幼児の哺育のために各種のミネラル類、ビタミン類、蛋白質等の栄養成分を配合して人乳に近づけ、さらに粉末状に加工したものをいう。本発明の調製粉乳は、これらのいずれの定義も含んでいる。
本発明における調製粉乳は、乳児用調製粉乳、乳幼児用調製粉乳(フォローアップミルク)のほか、妊産婦・授乳婦用調製粉乳、成人用栄養粉末、高齢者用栄養粉末等を含んだものと定義する。
調製粉乳の原料としては、乳原料、糖類、油脂類の他、製品設計や栄養所要量の充足等を考慮して、種々のミネラル類、ビタミン類等の微量成分を添加することができる。
本発明における調製粉乳の溶解とは、粉末状の調製粉乳を、溶媒にて所定の濃度に溶解することを意味するものであって、溶解する際の温度は適宜設定することができる。
溶媒としては、通常、冷水や温水等の飲用水を用いるが、牛乳、乳飲料、清涼飲料水、ジュース等を用いることもできる。飲用水を用いる時は、煮沸済みの水や無菌状態に調製された水、乳幼児用に調製された水等を使用することが好ましい。
溶媒の温度は、調製粉乳の溶解度や調製粉乳に対する一定の殺菌効果を有することから30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましい。溶媒で溶解した後は、30〜40℃に冷ましてから飲用に供することが好ましい。
調製粉乳の濃度は、栄養成分の必要摂取量、風味、溶解性、粘度等を総合考慮して適宜調製することができるが、6〜30%程度に調製されることが好ましい。
本発明の好適な実施の一態様において、調製粉乳は、以下に例示する工程を含んで製造することができる。
乳原料、糖類、及び油脂類等を含む調乳液原料を混合して、調乳液を調製する。調乳液原料のうち、乳原料、糖類は溶解水に溶解する。油脂類には植物油脂やバターの他、DHA等の不飽和脂肪酸が含まれていてもよい。不飽和脂肪酸を含有した油脂類を使用した場合、本発明の製造方法の効果をより発揮できることから、好ましい。調乳液は、水相と油相の分離を防止するために均質されることが好ましい。
調乳液は75〜150℃で加熱殺菌されることが好ましい。殺菌後は、脂肪球をより好ましい状態に整えるために均質化してもよい。
殺菌された調乳液に銅原料を添加する。本発明の調製粉乳の製造方法は、少なくとも銅酵母を含む銅原料を使用することで、製造された調製粉乳の香気成分を抑制することができる。ここでは、銅原料のほか、その他のミネラル、特に金属元素として、鉄や亜鉛の化合物を添加してもよい。また、銅原料の添加前に調乳液を濃縮して濃縮液としてもよい。
乾燥工程では、熱風による噴霧乾燥や凍結乾燥を実施することができる。得られた粉末は、新たに成分を加えることなく、充填し、製品とすることができる。
本発明の調製粉乳の製造方法は、銅酵母を添加するだけの簡便な方法であり、ミネラル、特に金属元素を含有する粉状の食品、医薬品、飼料等の製造方法にも応用することができる。
調乳液は、調製粉乳の原料の全部又は一部を溶解、混合したものである。調乳液の原料(調乳液原料)としては、乳原料、糖類、油脂類、ビタミン類及びミネラル類を挙げることができる。具体的に例示すると、調乳液原料には、カゼイン、ホエイ等の乳蛋白質やこれらの分解物、乳糖やデキストリン等の糖類、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の酸化触媒作用を有しないミネラル原料、ビタミンB群、ビタミンC等の水溶性ビタミン、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE等の脂溶性ビタミン、バター、植物油脂等の油脂等が含まれる。
乳原料とは生乳、牛乳、特別牛乳を原料として製造された原料のことであり、例えば、カゼイン、ホエイ等の乳蛋白質やこれらの分解物、乳糖、バター等が含まれる。
本発明の油脂類とは食用の油脂であり、乳脂肪等の動物性油脂、植物油脂のいずれをも含む概念である。油脂類には飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸が含まれる。不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸よりも酸化されやすいという特徴がある。本発明の調製粉乳の製造方法においては、油脂にDHA等の不飽和脂肪酸が含まれることが、本発明の特徴をより発揮できることから、望ましい。
本発明の不飽和脂肪酸は、不飽和の炭素‐炭素結合を有する脂肪酸のうち、食品、または食品として使用される可能性のあるものをいう。不飽和脂肪酸は、例えば、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等を挙げることができる。本発明によれば、飲食品等に添加される不飽和脂肪酸について特に限定することなく、使用することができる。
本発明では、各種のミネラルのなかから銅のみを、銅酵母を含む銅原料として添加することによって、優れた酸化抑制を達成している。好適な実施の態様において、銅酵母を含む銅原料が、銅原料に含まれる銅に対して、銅酵母に含まれる銅が10質量%以上、好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上、特に好ましくは銅酵母のみ(100%)の銅原料とすることができる。
あるいは、銅原料に含まれる銅に対して、銅酵母に含まれる銅を10〜100質量%、10〜90質量%、10〜80質量%、10〜70質量%、10〜60質量%、20〜100質量%、20〜90質量%、20〜80質量%、20〜70質量%、20〜60質量%、30〜100質量%、30〜90質量%、30〜80質量%、30〜70質量%、30〜60質量%、40〜100質量%、40〜90質量%、40〜80質量%、40〜70質量%、40〜60質量%、50〜100質量%、50〜90質量%、50〜80質量%、50〜70質量%、50〜60質量%、60〜100質量%、60〜90質量%、60〜80質量%、60〜70質量%を含む範囲とすることができる。また、銅原料の質量に対する銅酵母の質量の割合として好ましい範囲を設定することができる。銅酵母中の銅含有量は0.1〜5%であることから、銅原料に対して銅酵母を80質量%以上とすることが好ましく、88質量%以上とすることが好ましく、99質量%以上とすることがさらに好ましい。
銅原料は、銅酵母に加えて、別な銅源を含ませることができる。このような銅源は、飲食品に使用できるものであれば特に制限はないが、例えば、硫酸銅、グルコン酸銅、などを挙げることができる。
本発明の銅酵母は、酵母中に銅が取り込まれた状態の酵母を指す。銅酵母の原料に使用可能な酵母としては、食用酵母として使用されている酵母であれば特に制限はなく、例えば、食用酵母として使用されているSaccharomyces 属のパン酵母、ビ−ル酵母、ワイン酵母、清酒酵母、味噌醤油酵母等を挙げることができ、さらにその他種々の酵母が使用可能で、例えば、Torulopsis属、Mycotorula属、Torulaspora 属、Candida 属等に属する酵母も使用可能である。
銅以外のミネラルとして、例えば、マンガン、鉄、クロム、亜鉛等を挙げることができる。従って、銅酵母の他、マンガン酵母、鉄酵母、クロム酵母、亜鉛酵母を用いることによって、一層の香気成分抑制効果を達成することができる。ただし、これらの中で、銅酵母を単独で用いることによって、十分に効果的な香気成分抑制を達成可能であることは、本発明が示している通りである。
本発明の調製粉乳の香気成分抑制は、調製粉乳の過酸化物価(POV。以下、POVと略記することがある)の低減でも表現することができる。POVは、油脂の酸化の度合いを評価するための数値であり、数値が低いほど酸化の度合いが低いことを示す。酸化はいったん始まると、連鎖的に進行する。酸化を完全に抑制することは困難であるから、酸化の連鎖反応の開始を遅らせることは、酸化の進行を遅らせるために特に重要である。通常、POVは製造直後では検出されないことが多く、保存期間が長くなるにつれ上昇する。好適な実施の一態様において、調製粉乳の保存期間中のPOV値は、好ましくは0〜3meq/kgの範囲、さらに好ましくは0〜2meq/kgの範囲、さらに好ましくは0〜1.5meq/kgの範囲とすることができ、特にPOVが0〜1meq/kgの範囲であれば、製造直後と風味にほとんど差がないことから最も好ましい。
Y≦0.806X (式I)
X:37℃での調製粉乳の保存期間(月)
Y:過酸化物価(meq/kg)
好適な実施の一態様において、本発明の調製粉乳は、XとYとの関係が、図1のグラフの直線から下の範囲を満たすものとすることができる。Yは、好ましくは次の式Ia:
Y≦0.806X (式Ia)
さらに好ましくは次の式Ib:
Y≦0.621X (式Ib)
さらに好ましくは次の式Ic:
Y≦0.437X (式Ic)
を満たすものとすることができる。
なお、測定値の誤差を考え、個々の値に対する95%信頼区間の上限値までが権利範囲に含まれるものとする。POVは徐々に上昇し、やがて食用に適さないほどに酸化が進行するため、POVは3meq/kgを超えないことが望ましく、2meq/kgを越えないことがより好ましく、1.5meq/kgを越えないことがさらに望ましい。本発明の好適な実施の一態様において、Yは、0(meq/kg)以上、0.05(meq/kg)以上、0.1(meq/kg)以上、0.2(meq/kg)以上とすることができる。また、Yは、好ましくは次の式Id:
0.001X≦Y (式Id)
さらに好ましくは次の式Ie:
0.010X≦Y (式Ie)
さらに好ましくは次の式If:
0.100X≦Y (式If)
さらに好ましくは次の式Ig:
0.200X≦Y (式Ig)
さらに好ましくは次の式Ih:
0.400X≦Y (式Ih)
を満たすものとすることができる。
Y≦0.199e0.802X(式II)
X:37℃での調製粉乳の保存期間(月)
Z:調製粉乳を溶解した際のヘキサナール量(ppm)
Z≦0.199e0.802X (式IIa)
さらに好ましくは次の式IIb:
Z≦0.158e0.749X (式IIb)
さらに好ましくは次の式IIc:
Z≦0.167e0.577X (式IIc)
を満たすものとすることができる。なお、測定値の誤差を考え、個々の値に対する95%信頼区間の上限値までが権利範囲に含まれるものとする。
ヘキサナールは徐々に上昇し、やがて食用に適さないほどに生成するため、ヘキサナールは4ppmを超えないことが望ましく、3ppmを越えないことがより好ましく、2.5ppmを越えないことがさらに望ましい。本発明の好適な実施の一態様において、Zは、0(ppm)以上、0.01(ppm)以上、0.05(ppm)以上、0.1(ppm)以上とすることができる。また、Yは、好ましくは次の式IId:
0.100e0.100X≦Z (式IId)
さらに好ましくは次の式IIe:
0.120e0.200X≦Z (式IIe)
さらに好ましくは次の式IIf:
0.140e0.400X≦Z (式IIf)
さらに好ましくは次の式IIg:
0.150e0.500X≦Z (式IIg)
を満たすものとすることができる。
本発明において酵母で封入するミネラルとしては、灰分の中でも金属元素が好適である。また、金属元素の中では、油脂、特に不飽和脂肪酸の酸化促進作用(油脂、特に不飽和脂肪酸の酸化反応速度を上昇させる作用)を有する金属元素が、ミネラル酵母の形態での添加によって、特に好適に使用できる。ミネラルのうちの金属元素としては、例えば、銅、マンガン、鉄、クロム、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、セレンを例示することができる。
本発明の酵母とは、子嚢菌類の球形または楕円形の単細胞の菌である。通常、出芽によって増殖し、アルコール発酵を行うので、酒の醸造やパン製造に利用される。本発明の酵母としては、パン酵母、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、味噌酵母、醤油酵母等を使用することができるが、銅を封入することのできる酵母であればいずれの酵母も使用することができる。
本発明の酵母は、ミネラルを封入するために使用されることが好ましく、鉄、銅、亜鉛を封入するために使用されることがより好ましく、銅を封入するために使用されることがさらに好ましい。
本発明の封入とは、銅等のミネラルを酵母の中に閉じ込めた状態に加工することを示す。例えば、銅について行う場合には、銅原料と酵母を使用し、両者を含む系でこれらを作用させ、銅を酵母で封入した状態に調製することができる。また、予め銅を封入した酵母、すなわち銅酵母を原料に使用してもよい。なかでも、銅酵母を使用することが好ましい。
本発明の試験例では、調製粉乳の保存性を評価する指標として、過酸化物価(POV)の測定、香気成分の測定及び官能評価を実施した。
過酸化物価(POV。以下、POVと記載することがある)の測定は、日本油化学協会の公定法であるヨウ素滴定法(日本食品工業学会食品分析法編集委員会編、「食品分析法」、第552ページ、光琳、昭和57年)に準じて試験することができる。
香気成分は、粉末の試料を温度調整した水に溶解した際に発生した香気成分を、固相マイクロ抽出ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)で分析することができる。本発明においては、発生した香気成分の指標として、ペンタナール量とヘキサナール量を測定して、評価をすることができる。ここで、香気成分の数値は測定されたクロマトグラム上の面積を数値化したものである。この数値は誤差を最小限にするため、測定ごとに別の香気成分(コントロール)を添加して毎回の測定値にばらつきが生じないように測定を実施した。ヘキサナールは、数値化した面積を内部標準法によって定量した。
香気成分の分析条件は以下の通りである。
・GC:AGILENT社製、6890型
・MS:AGILENT社製、5973型
・カラム:INNOWAX(商品名、AGILENT社製)
膜厚:0.5μm 長さ:30m 口径:0.25mm
・SPMEファイバー:SUPELCO社製
2.香気成分の分離濃縮方法
・固相マイクロ抽出法(SPME):50℃、30分 ヘッ ドスペース法
3.測定条件
・GC 注入口温度:265℃
・ ガス流量:1.2ml/分
・ヘリウムガスオーブン昇温条件:
40℃、2分 4℃/分(120分まで)6℃/分(240分まで)、
10分保持
・MS 測定モード:SCAN 2.32 SCAN/秒
本発明における官能評価とは、5〜10名のパネラーにより、保存後の試料を固形分として13.0g/100mlとなるようにお湯で溶解して試料溶液を調製し、風味及び外観について評価するものである。具体的には、食感(酸化臭)について、「非常に良好」、「良好」、「不良」の3段階評価とした。また、外観は褐変、オイルオフ等の有無を確認した。
1)試料の調製
脱脂乳(森永乳業製)1160g、脱塩ホエー粉(ドモ社製)500g、乳糖(ミライ社製)59g、及びデキストリン(東洋精糖製)52gを、水2380gに溶解し、予め所定のアルカリで溶解し、脱臭した10%カゼイン溶液143gと混合し、更に魚油配合調整油脂(日本油脂製。魚油を油脂100g当たり1.5g含有)240g及び無塩バター(森永乳業製)33gを混合し、125℃にて2秒間殺菌し、150kg/cm2 の圧力条件で均質化処理し、50%の固形分含量に濃縮した。
次にピロリン酸第二鉄(富田製薬製)307mg、硫酸亜鉛(富田製薬製)104mg、及び銅酵母(オリエンタル酵母製。銅含有量0.3%)1.01gを水50gに溶解し、10℃以下に冷却した溶液を、濃縮液に添加した。これを噴霧乾燥し、粉乳約900gを得た。これを試験試料1とした。
試験試料1、対照試料1及び対照試料2をそれぞれ遮光性を有する複数のアルミ袋に入れて密封した。これを、5℃、37℃の各温度に保たれた恒温室に保存した。各試験試料の保存期間は3ヶ月とし、期間経過後に各試料のPOVの測定、香気成分の測定及び官能評価を実施した。
試験試料1では、5℃、3ヶ月の保存条件でPOVが0meq/kgであり、37℃、3ヶ月の保存条件でPOVが0.94meq/kgであった(表1)。このように、試験試料1では、本試験でのすべての保存条件においてPOVが1meq/kg以下となった。また、銅酵母を用いた場合の官能評価の結果は、いずれの条件でも「非常に良好」であった。
一方、対照試料1では、37℃、3ヶ月の保存条件でPOVが4.90meq/kgとなり、かなり酸化が進行した。また、対照試料2では、37℃で3ヶ月の条件においてPOVが3.63meq/kgとなり、酸化が進行した。
対照試料1及び2の官能評価の結果は、いずれも37℃、3ヶ月で「不良」であった。
銅酵母を使用した試験試料1は37℃、3ヶ月においてもヘキサナール、ペンタナールの増加が効果的に抑制されていた。一方、対照試料1では、ヘキサナール、ペンタナールの数値が大きく上昇した。これらの香気成分の数値の増加と官能評価の結果は相関性が認められ、香気成分の上昇に伴って酸化の進行がみられた。
この結果から、銅酵母を用いた場合は、他の銅原料と比較してPOVや酸化指標とした香気成分の数値が顕著に低く、官能評価の結果からも風味劣化が大きく抑制されることが確認された。
本試験は、銅酵母の使用による香気成分抑制効果と、銅原料中に占める銅酵母の量との関係を検討することを目的とした。
脱脂乳(森永乳業製)4640g、脱塩ホエー粉(ドモ社製)2000g、乳糖(ミライ社製)236g、及びデキストリン(東洋精糖製)208gを、水9520gに溶解し、予め所定のアルカリで溶解し、脱臭した10%カゼイン溶液572gと混合し、更に魚油配合調整油脂(日本油脂製。魚油を油脂100g当たり1.5g含有)960g及び無塩バター(森永乳業製)132gを混合し、125℃にて2秒間殺菌し、150kg/cm2 の圧力条件で均質化処理し、50%の固形分含量に濃縮した。
次にピロリン酸第二鉄(富田製薬製)1228mg及び硫酸亜鉛(富田製薬製)416mgを水100gに溶解又は懸濁し、10℃以下に冷却した溶液を、濃縮液に添加した。
濃縮液は、十分に攪拌した後に4等分した。
このときの銅原料の添加量は、銅酵母のみの場合では1.01gであり、硫酸銅のみの場合では12mgである。
これらの銅原料を水50gに溶解又は懸濁し、10℃以下に冷却してから濃縮液に添加した。
銅原料添加後の濃縮液はそれぞれ噴霧乾燥し、それぞれ約900gの粉乳を得た。これらを銅原料中の銅酵母配合量の高い順に試験試料2、試験試料3、試験試料4、試験試料5とした。
試験試料2〜5を遮光性を有するアルミ袋に入れて密封し、37℃に保たれた恒温室に保存した。保存を開始して1ヶ月経過毎に各試料について、POVの測定、香気成分の測定及び官能評価を実施した。
表3に37℃、3ヶ月の保存条件での試験結果を示す。官能評価の評価方法は表1と同様である。
また、銅原料を混合使用した場合についてみると、試験試料3のPOVが1.94meq/kg、試験試料4のPOVが2.68meq/kgとなり、銅酵母のみを使用した場合よりも油脂の酸化が進んでいることが確認された。官能評価の結果は、いずれも「良好」であった。
一方、硫酸銅を100%使用した試験試料5では、POVが4.90meq/kg、官能評価が「不良」となり、油脂の酸化の度合いが最も高かった。
この結果から、銅原料中に含まれる銅のうち、銅酵母に含まれる銅が60%または80%であった場合であっても、硫酸銅を100%使用した場合と比較して調製粉乳の酸化が大きく抑制されていることが明らかになった。
従って、銅原料の一部を銅酵母に置換することによって、それに対応した効果を得られることが確認された。
これらの結果より、X軸は保存経過期間(月)、Y軸はヘキサナール値(ppm)としてグラフを作成し、図2に示した。
本試験は、本発明の調製粉乳の製造方法による効果と、ポリアミンを用いた調製粉乳の酸化の抑制方法による効果を比較検討することを目的とした。
脱脂乳(森永乳業製)1160g、脱塩ホエー粉(ドモ社製)500g、乳糖(ミライ社製)59g、及びデキストリン(東洋精糖製)52gを、水2380gに溶解し、予め所定のアルカリで溶解し、脱臭した10%カゼイン溶液143gと混合し、更に魚油配合調整油脂(日本油脂製。魚油を油脂100g当たり1.5g含有)240g及び無塩バター(森永乳業製)33gを混合し、125℃、2秒間殺菌し、150kg/cm2 の圧力条件で均質化処理し、50%の固形分含量に濃縮した。
次にピロリン酸第二鉄(冨田製薬製)307mg、硫酸亜鉛(富田製薬製)104mg、及び銅酵母(オリエンタル酵母製)1.01gを水100gに溶解し、10℃以下に冷却した溶液を、濃縮液に添加した。これを噴霧乾燥し、粉乳約900gを得た。これを試験試料6とした。
一方、脱脂乳(森永乳業製)1160g、脱塩ホエー粉(ドモ社製)500g、乳糖(ミライ社製)59g、及びデキストリン(東洋精糖製)52gを、水2380gに溶解し、予め所定のアルカリで溶解し、脱臭した10%カゼイン溶液143gと混合し、更に魚油配合調整油脂(日本油脂製。魚油を油脂100g当たり1.5g含有)240g及び無塩バター(森永乳業製)33g及びポリアミンとしてスペルミン(シグマ社製)130mgを混合し、125℃、2秒間殺菌し、150kg/cm2 の圧力条件で均質化処理し、50%の固形分含量に濃縮した。
次にピロリン酸第二鉄(富田製薬製)307mg、硫酸亜鉛(富田製薬製)104mg、及び硫酸銅(冨田製薬製)12mgを水100gに溶解し、10℃以下に冷却した溶液を、濃縮液に添加した。これを噴霧乾燥し、粉乳約900gを得た。これを対照試料3とした。
試験試料6、対照試料3をそれぞれ遮光性を有するアルミ袋に入れ密封し、37℃に保たれた恒温室に保存した。保存を開始して3ヶ月経過後の各試料について、過酸化物価(POV)の測定、香気成分の測定及び官能評価を実施した。測定方法及び試験方法は、試験例1に準じた。
試験試料6において、37℃、3ヶ月の保存条件でPOVは1.06meq/kgであった(表4)。また、官能評価の結果は「非常に良好」であった。
一方、対照試料3において、37℃、3ヶ月の保存条件でPOVが4.90meq/kgとなり、酸化の進んでいることが確認された。官能評価の結果は「不良」であった。
このように、銅酵母を用いた場合は、スペルミン及び硫酸銅を用いた場合と比較してPOVが顕著に低く、官能評価の結果からも、風味劣化が抑制されることが判明した。
脱塩ホエー粉(ドモ社製)50.0kg、乳糖(ミライ社製)5.9kg、デキストリン(東洋精糖製)5.2kg、及び脱脂乳116.0kgを、水238kgに溶解し、あらかじめ所定のアルカリで溶解し、脱臭した10%カゼイン溶液14.3kgと混合し、更に魚油配合調整油脂(日本油脂製。魚油を油脂100g当たり1.5g含有)24.0kg及び無塩バター(森永乳業製)3.3kgを混合し、125℃にて2秒間殺菌し、150kg/cm2 の圧力条件で均質化処理し、50%の固形分含量に濃縮し、貯蔵した。
脱脂粉乳(森永乳業製)10.0kg、脱塩ホエー粉(ドモ製)43.2kg、デキストリン(東洋精糖製)15.0kgを水238kgに溶解し、予め所定のアルカリで溶解して脱臭した10%カゼイン溶液80.0kgと混合し、水溶性ビタミン類(アスコルビン酸ナトリウム181g、葉酸を含む)0.2kgを添加した溶液に、更にミネラル類(鉄、銅、亜鉛を除く)2.2kgを水10kgに溶解し、添加した。この溶液に魚油配合調整油脂(日本油脂製。魚油を油脂100g当たり1.5g含有)20.0kg、及び脂溶性ビタミン類0.1kgを混合し、125℃にて2秒間殺菌し、150kg/cm2の圧力条件で均質化し、50%の固形分含量に濃縮し、貯蔵した。
Claims (7)
- 香気成分の抑制がされた調製粉乳を製造する方法であって、
乳原料、糖類、及び油脂類を含む調乳液原料が混合されて調製された調乳液に、少なくとも銅酵母を含む銅原料を添加する工程、
銅原料を添加した調乳液を乾燥する工程、
を含む、製造方法。 - 香気成分の抑制が、調製粉乳を溶解した際に発生する香気成分の抑制である、請求項1に記載の方法。
- 香気成分が、ヘキサナール及び/又はペンタナールである、請求項1又は2に記載の方法。
- 香気成分の抑制がされた調製粉乳が、次の条件:
X:37℃での調製粉乳の保存期間(月)
Y:調製粉乳を溶解した際のヘキサナール量(ppm)
Z≦0.199e0.802X
を満たす、請求項1〜3の何れかに記載の方法。 - 油脂類が、不飽和脂肪酸を含む油脂類である請求項1〜4の何れかに記載の方法。
- 調製粉乳が、銅を1〜1500μg/100g含む、請求項1〜5の何れかに記載の方法。
- 請求項1〜6の何れかに記載の方法によって製造された、香気成分の抑制がされた調製粉乳。
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