以下、本発明に係る各実施形態を図面を参照して以下に説明する。
「第1実施形態」
本発明に係る第1実施形態であるピストンリングおよび揺動型圧縮機を図1〜図7に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る第1実施形態のピストンリングを含む揺動型圧縮機の全体構成を示す断面図である。図2は、本発明に係る第1実施形態のピストンリングを含む揺動型圧縮機を示す図1のII−II断面図である。図3は、本発明に係る第1実施形態のピストンの要部の分解斜視図である。図4は、本発明に係る第1実施形態のピストンリングを示すもので、(a)は平面図、(b)は(a)のX1−X1断面図、(c)は(a)のY1−Y1断面図である。図5は、本発明に係る第1実施形態のピストンリングを示す、図4のX1−X1拡大断面図である。図6は、本発明に係る第1実施形態のピストンリングを示す斜視図である。図7は、本発明に係る第1実施形態のピストンリングとシリンダとの関係を示す断面図で、(a)は圧縮行程における最大揺動状態、(b)は圧縮完了状態、(c)は吸込行程における最大揺動状態をそれぞれ示している。
揺動型圧縮機10は、気体(流体)を吸引し圧縮して吐出するものである。図1および図2に示すように、揺動型圧縮機10は、クランクケース(ケース)11を有しており、クランクケース11は、内部がクランク室12とされている。このクランクケース11には、図1に示すように電動モータ15が取り付けられている。電動モータ15は、胴部16と底部17とを有する有底筒状をなし開口側がクランクケース11に連結されるモータハウジング18と、モータハウジング18の胴部16の内側に取り付けられたステータ19と、モータハウジング18の底部17の軸受保持部20に保持された軸受21と、クランクケース11の軸受保持部22に保持された軸受23と、これら軸受21,23に回転可能に支持された出力軸24を含むロータ25とを有している。
そして、電動モータ15の出力軸24の一端側がクランク室12内に突出しており、この部分に、電動モータ15の出力軸24とでクランク軸(偏心回転軸)28を構成するクランク部材29が偏心状態で固定されている。出力軸24にはキー溝31が形成されており、クランク部材29には、外周部に対し偏心して出力軸24を嵌合させる嵌合穴32が形成されるとともにこの嵌合穴32にキー溝33が形成されていて、これらキー溝31,33にキー34が嵌合されることで、出力軸24にクランク部材29が一体化されている。これにより、クランクケース11は、軸受23を介してクランク軸28を支持する。
また、電動モータ15の出力軸24にはその中間位置にクランク部材29に当接してバランスウェイト37が、出力軸24に螺合されるナット38で固定されており、出力軸24の先端位置には冷却ファン39が固定されている。なお、バランスウェイト37にも、出力軸24を嵌合させる嵌合穴40およびキー溝41が形成されており、このキー溝41に上記したキー34が嵌合されることで、バランスウェイト37が出力軸24に一体化される。
クランクケース11上には、円筒状のシリンダ45が基端側において取り付けられている。このシリンダ45は、その内周面46が軸方向位置にかかわらず一定径をなしており、その基端側がクランク室12内に開口する。また、シリンダ45の先端側には弁座板48およびシリンダヘッド本体49からなるシリンダヘッド50が搭載されている。
シリンダヘッド本体49には、図2に示すように、外部に連通する吸込口51と、吸込口51に連通する吸込室52と、外部に連通する吐出口53と、吐出口53に連通する吐出室54とが画成されている。
弁座板48は、シリンダ45とシリンダヘッド本体49との間に介装されるもので、この弁座板48には、吸込室52をシリンダ45側の圧縮室55に連通させる吸込穴57と、吐出室54を圧縮室55に連通させる吐出穴58とが形成されている。また、弁座板48にはリード弁としての吸込弁59および吐出弁60が取り付けられ、これら吸込弁59および吐出弁60は、基端側がネジ等を介して弁座板48に固定された固定端となり、先端側は自由端となって、吸込穴57、吐出穴58をそれぞれ開閉する。
シリンダ45内には、揺動式のピストン63が摺動可能に挿嵌されている。このピストン63は、その一端側にあって、クランク室12内に位置して偏心回転するクランク部材29に対して軸受64を介して回転可能に連結される円環状の連結部65と、この連結部65に一体形成されてシリンダ45内へと伸長したピストンロッド部66と、ピストン63の他端側にあってピストンロッド部66にこれと直交するように一体形成されてシリンダ45内に配置される円板状のリング受67とを有するピストン本体68と、このピストン本体68とは別体に設けられリング受67にネジ69で固定されてシリンダ45内に配置される、リング受67と略同径の円板状のリテーナ70とを有している。ピストン本体68は、リング受67の中心軸線とピストンロッド部66の中心軸線とが一致しており、ピストンロッド部66の中心軸線が連結部65の中心軸線に直交している。また、ピストンロッド部66は連結部65の中心軸線に沿う方向の厚さがこれと直交する方向の幅よりも狭くなっている。なお、リテーナ70は、中心軸線をリング受67の中心軸線およびピストンロッド部66の中心軸線に一致させてピストン本体68に取り付けられてピストン63を構成することになる。
ここで、ピストン63の他端側に設けられたリング受67とリテーナ70とが、シリンダ45内を揺動しつつ往復動してシリンダヘッド17との間に圧縮室55を画成する円盤部71を構成しており、この円盤部71にピストン63とシリンダ45との隙間をシールするピストンリング72が保持されている。ピストンリング72の外周側は、シリンダ45の内周面46を摺動する。
ピストン63は、連結部65がクランク部材29によって偏心運動させられることによって、シリンダ45内の円盤部71が、保持したピストンリング72をシリンダ45内で摺動させながら往復動することになり、その際に、連結部65、ピストンロッド部66および円盤部71が一体であることから、クランク軸28の中心軸線に直交し且つシリンダ45の中心軸線に直交する方向に揺動する。このクランク軸28の中心軸線に直交し且つシリンダ45の中心軸線に直交する方向を揺動方向とする。他方、ピストン63は、クランク軸28の軸線方向には揺動しない。このクランク軸28の軸線方向を非揺動方向とする。
ここで、具体的に、ピストン63の揺動について説明すると、ピストン63を揺動方向とは直交するクランク軸方向に沿って見た場合に、下死点ではピストンロッド部66が揺動方向(左右方向)の中央に位置するとともに円盤部71は水平をなしており、この状態からクランク部材29が圧縮行程を行うべく回転してピストン63を上昇させると、上死点と下死点との間の中間までピストンロッド部66の下部が揺動方向の片側(例えば右側)に移動しながら上昇し、上死点と下死点との間の中央(例えば3時の位置)で最も揺動方向の片側(例えば右側)に位置する。このとき、円盤部71は、この片側とは反対となる揺動方向一方側(例えば左側)を揺動方向他方側(例えば右側)に対して下側に位置させて、最も水平に対し傾斜し、水平に対する角度(シリンダ軸直交方向に対する角度)である揺動角を最大とすることになる。
続いて、上死点に向かうにしたがってピストンロッド部66の下部は揺動方向の中央に戻ることになり、上死点ではピストンロッド部66が揺動方向の中央に位置するとともに円盤部71が水平となって圧縮行程が終了する。
円盤部71が上死点にある状態からクランク部材29が吸込行程を行うべく回転するとピストン63を下降させることになり、上死点と下死点との中間まで、ピストンロッド部66の下部が揺動方向の逆の片側(例えば左側)に移動しながら下降し、上死点と下死点との間の中央(例えば9時の位置)で最も揺動方向の逆の片側(例えば左側)に位置する。このとき、円盤部71は、この揺動方向の逆の片側とは反対となる揺動方向他方側(例えば右側)を揺動方向一方側(例えば左側)に対して下側に位置させて、最も水平に対し上記とは逆向きに傾斜し、揺動角を最大とすることになる。
続いて、下死点に向かうにしたがってピストンロッド部66の下部は揺動方向の中央に戻ることになり、下死点ではピストンロッド部66が揺動方向の中央に位置するとともに円盤部71が水平となって吸込行程が終了する。
リング受67には、図3に示すように、外径側且つピストンロッド部66とは反対側に円環状の段差部75がピストンロッド部66の中心軸線と同心状に形成されており、また、中央に平面視円形状をなして凹む嵌合凹部76がピストンロッド部66の中心軸線と同心状に形成されている。
リング受67は、その上面部67Aがピストンロッド部66の中心軸線に直交する平面内に配置されており、ピストンロッド部66の中心軸線を中心とする円環状をなしている。段差部75は、この上面部67Aの外周縁部から垂直に下がる外向きの円筒面部75Aと、この円筒面部75Aの下端縁部から垂直に径方向外側に広がる平面部75Bとからなっている。円筒面部75Aは、ピストンロッド部66の中心軸線を中心とする円筒状をなしている。平面部75Bは、ピストンロッド部66の中心軸線に直交する平面内に配置されており、ピストンロッド部66の中心軸線を中心とする円環状をなしている。リング受67には、平面部75Bの外周縁部から下方に延出して、その最大外径部を構成する円筒面部67Bが形成されている。
嵌合凹部76は、上面部67Aの内周縁部から垂直に下がる内向きの円筒面部76Aと、この円筒面部76Aの下端縁部から径方向内側に広がる底面部76Bとからなっている。円筒面部76Aは、ピストンロッド部66の中心軸線を中心とする円筒状をなしている。底面部76Bは、ピストンロッド部66の中心軸線に直交する平面内に配置されており、ピストンロッド部66の中心軸線を中心とする円形状をなしている。嵌合凹部76の底面部76Bの中央には、ネジ穴77が軸線方向に形成されている。
リテーナ70は、円板状をなす主板部80と、主板部80の中央からその軸線方向に沿って一側に突出する嵌合凸部81とを有しており、主板部80には、嵌合凸部81とは反対側に、主板部80の中心を通って径方向に抜ける溝部82が形成されている
嵌合凸部81は、主板部80から下方に延出する外向きの円筒面部81Aと円筒面部81Aの下端縁部から嵌合凸部81の中心軸線に直交して径方向内側に広がる円形状の下面部81Bとを有している。
主板部80は、嵌合凸部81の中心軸線に直交する平面内に配置されて嵌合凸部81の周囲で嵌合凸部81と同心をなす円環状の下面部80Aと、下面部80Aの外周縁部から垂直に嵌合凸部81とは反対側に立ち上がってリテーナ70の最大外径部を構成する円筒面部80Bと、円筒面部80Bの中心軸線に直交する平面内に配置されて円筒面部80Bの直径上に一定幅をなして延在する溝底面82Aと、溝底面82Aの両端縁部から立ち上がる一対の溝壁面82Bと、円筒面部80Bの中心軸線に直交する平面内に配置されて円筒面部80Bの上端縁部と溝壁面82Bの上端縁部とで囲まれた部分に形成される一対の上面部80Cとを有している。ここで、溝底面82Aおよび一対の溝壁面82Bによって溝部82が揺動方向に形成されていて、吸込弁59および吐出弁60との接触を防いでいる。リテーナ70の溝底面82Aの中央にはテーパ状の座ぐり穴83が軸線方向に形成されている。
主板部80の下面部80Aの外端部には、溝部82の両外端部と90度異なる位置に、主板部80から下方に垂直に突出する突起部(回止機構)84が形成されている。
そして、上記したリテーナ70が、嵌合凸部81を嵌合凹部76に嵌合させることでピストン本体68のリング受67に搭載され、この状態でネジ69が座ぐり穴83に挿通されてネジ穴77に螺合されることでリテーナ70がリング受67に固定されて円盤部71を構成することになる。このとき、リテーナ70は、溝部82の延在方向をピストン本体68のピストンロッド部66の幅方向つまり上記揺動方向に一致させて取り付けられることになり、その結果、突起部84は円盤部71における非揺動方向の端部に配置されることになる。
このようにして形成された円盤部71には、その外周側に、リング受67の段差部75の平面部75Bおよび円筒面部75Aとリテーナ70の主板部80の下面部80Aとで、半径方向内方に凹む円環状のリング溝85が同心状に形成されることになる。そして、上記した突起部84はこのリング溝85に形成されている。そして、このリング溝85に、ピストン63とシリンダ45との間をシールする上記したピストンリング72が装着されることになる。
ピストンリング72は、耐摩耗性および自己潤滑性に優れたバネ性を有する樹脂材料によって略円環状に一体成形されている。ピストンリング72は、略円弧状の主環部88と、主環部88の一端部に、主環部88の半分の厚さで軸線方向一側に偏って形成された円弧状の合口部89と、主環部88の他端部に、主環部88の半分の厚さで軸線方向逆側に偏って形成された円弧状の合口部90とを有している。ここで、両側の合口部89,90は、円周方向に同長さで、互いに軸線方向に重なるようにして配置されている。ピストンリング72は、自然状態で、主環部88の一端側の合口部89と主環部88の他端部との間には円周方向の隙間が形成されることになり、主環部88の他端側の合口部90と主環部88の一端部との間にも同様の隙間が形成されることになる。主環部88の合口部89,90の略180度反対となる中間位置の内周側には、軸方向一側に中心軸線方向に凹む切欠部91が形成されている。
このようなピストンリング72が、リテーナ70を取り付ける前にリング受67の段差部75に、切欠部91を非揺動側かつ上側にして配置され、この状態でリテーナ70がその突起部84を切欠部91に嵌合させながら上記のようにしてピストン本体68のリング受67に固定されることで、リング溝85にピストンリング72が保持されることになる。このとき、ピストンリング72の切欠部91にリテーナ70の突起部84を嵌合させることで、ピストンリング72の円盤部71に対する回転が規制されるようになっている。よって、突起部84がピストンリング72を回り止めする。そして、リング溝85に装着された状態で合口部89,90が非揺動方向に配置されている。
このようにリング溝85に装着された状態で、ピストン63の揺動時に、ピストンリング72は、合口部89,90同士が円周方向にずれることでシリンダ45の内径に沿うように拡縮径可能となり、その際に、合口部89,90が常に摺接することでシール性を維持する。
ここで、ピストンリング72は、合口部89,90が主環部88から離間する自然状態(拡径状態)にあるとき、図4に示す外形がシリンダ45の内径とシリンダ45に対するピストンリング72の最大揺動角とで決まるオーバル形状となっている。また、ピストンリング72は、合口部89,90が主環部88に当接する縮径状態にあるとき、外形が、中心軸線を一致させたシリンダ45の内周面46に密着する円形状となる。つまり、シリンダ内径をd1とした場合、最大揺動角θとなる位置では、シリンダは長径d2がd2=d1/cosθの楕円となる。これに合わせて、ピストンリング72は、短径がシリンダ内径と等しいd1とされ、最大揺動角θに対して、自然状態での長径d2がd2=d1/cosθを満足するように設定されている。
環状のピストンリング72は、揺動方向の一方側の上部(上死点側端部)の外隅部にピストン63の上昇行程である圧縮行程の最大揺動角度に対応したシール向上加工が施され、揺動方向の他方側の下部(下死点側端部)の外隅部にピストン63の圧縮行程の最大揺動角度に対応したシール向上加工が施されている。なお、揺動方向の一方側においては上部の外隅部のみにシール向上加工が施され、下部の外隅部にはシール向上加工は施されていない。また、揺動方向の他方側においては下部の外隅部のみにシール向上加工が施され、上部の外隅部にはシール向上加工は施されていない。
つまり、ピストンリング72は、シール向上加工を施す前においては、主環部88が全周にわたって、中心軸線を含む平面で切断した断面が矩形となっており、主環部88の揺動方向一方側の上部の外隅部にシール向上加工が施されることでピストン63の最大揺動角度θと同じ角度θの図4〜図6に示すテーパ面72Aが形成され、主環部88の揺動方向他方側の下部の外隅部にシール向上加工が施されることでピストン63の最大揺動角度θと同じ角度θのテーパ面72Bが形成されている。主ピストンリング72は、主環部88の揺動方向一方側の下部の外隅部および揺動方向他方側の上部の外隅部にはテーパ面が形成されないことから、主環部88が全周にわたって、軸線を含む平面で切断した断面が略矩形となっている。また、テーパ面72A(72B)が形成されていない、主環状部88の断面略矩形の他の角は、テーパ面72Bより小さく面取り加工が施されていても構わない。
ここで、上記したシール向上加工は、両側とも同様の加工が、ピストンリング72の重心に対して点対称に施される。その結果、両側のテーパ面72A,72Bが点対称形状をなす。
また、上記したシール向上加工は、揺動方向の外隅部位置が最も加工量が大きく、非揺動側に近づくにつれてその加工量が徐々に小さくなるように、ピストンリング72の非揺動方向の両端部位置よりも手前まで半周弱の範囲で施される。これにより、テーパ面72A,72Bは、揺動方向の端部位置が半径方向の幅および軸線方向高さの両方が最大で、非揺動側に近づくにつれて半径方向の幅および軸線方向高さの両方が徐々に小さくなる形状をなしてピストンリング72の半周弱の範囲に形成されている。ここで、両側のテーパ面72A,72Bは、ピストンリング72内において互い交じり合うことなく独立して形成されている。また、両側のテーパ面72A,72Bは、シリンダ45の内径と同等径を有する略同一円筒面内に配置される。
ここで、ピストンリング72は、主環部88の揺動方向一方側の下部の外隅部および揺動方向他方側の上部の外隅部にテーパ面72A,72Bが形成されていないことから、その軸線方向厚さが、テーパ面72A,72Bの最大の軸線方向高さよりも大きくされており、その結果、外周全周に、ピストンリング72の軸線方向に沿う外周側平滑面72Cが形成されている。また、ピストンリング72は、上面部72Dおよび下面部72Eも合口部89,90を除く全周にわたって軸直交方向に沿う平坦面とされている。また、ピストンリング72は、内周全周にも、ピストンリング72の軸線方向に沿う内周側平滑面72Fが形成されている。
ここで、ピストンリング72は、テーパ面72A,72Bが形成されていない非揺動方向の外周側平滑面72Cの軸方向寸法が最大となっている。また、テーパ面72A,72Bの最大の軸方向高さは、外周側平滑面72Cの最小軸方向高さと同等とされている。また、ピストンリング72重心に対して点対称にテーパ面72A,72Bが形成されることで、外形寸法の最大部である外周側平滑面72Cの軸方向中心位置が、揺動方向の一方側と他方側とで異なることになる。具体的には、揺動方向の一方側の外周側平滑面72Cの軸方向中心位置が、揺動方向の他方側の外周側平滑面72Cの軸方向中心位置に対して下側にずれている。そして、テーパ面72Aは、外形寸法の最大部である外周側平滑面72Cの揺動方向の一方側から継続して形成されており、テーパ面72Bも、外形寸法の最大部である外周側平滑面72Cの揺動方向の他方側から継続して形成されている。
ここで、上記したピストンリング72のシール向上加工は、例えば、以下のようにして行うことができる。
主環部88が全周にわたって、軸線を含む平面で切断した断面が矩形となっているピストンリング72の素材を自然状態で変形不可となるように回転治具の回転中心上に、回転中心に対して最大揺動角度θだけ傾斜させた状態で取り付ける。そして、回転中心に切刃を向け、この切刃を回転中心に対して近接・離間可能とした工具を、回転治具を回転させながら、ピストンリング72に近づけて所定量切削する。このとき、切刃の先端と回転中心との距離をシリンダの内径の半径と同等長さとすることで、自然状態にあるときの両側のテーパ面を、シリンダ内径と同等径を有する同一円筒面内に配置することができる。
第1実施形態に係る揺動型圧縮機は上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
電動モータ15が回転駆動されると、その出力軸24に固定されたクランク部材29が偏心回転運動を行う。すると、このクランク部材29に軸受64を介して回転可能に連結されたピストン63が、その円盤部71およびピストンリング72をシリンダ45内で往復動させる。そして、吸込行程では、円盤部71およびピストンリング72のシリンダヘッド17とは反対方向への移動で圧縮室55が拡大し吐出弁60は閉状態のまま吸込弁59を開いて気体を吸込口51および吸込室52から圧縮室55に導入する。続く圧縮行程では、円盤部71およびピストンリング72のシリンダヘッド17の方向への移動で圧縮室55が縮小し吸込弁59は閉状態のまま吐出弁60を開いて圧縮室55から圧縮気体を吐出室54および吐出口53に吐出する。
以上の作動中、円盤部71およびピストンリング72は、シリンダ45内で揺動しながら往復動する。
つまり、ピストン63の揺動方向とは直交する方向(シリンダ軸方向)に沿って見た場合に、最も圧縮室55を拡大した下死点ではピストンロッド部66が左右方向の中央に位置するとともに円盤部71およびピストンリング72は水平をなしている。よって、ピストンリング72は、シリンダ45の内周面46で押圧されて円形状に縮径され、外周側平滑面72Cが軸線方向長さを持って全面的に内周面46に密着している。これにより、円盤部71とシリンダ45との間を十分にシールできる。
この状態から圧縮行程を行うべくクランク部材29が回転し、ピストン63を上昇させ圧縮室55を縮小させる方向に円盤部71およびピストンリング72を移動させると、上死点と下死点との中間までピストンロッド部66の下部は左右方向一側に移動しながら上昇し、上死点と下死点との中央(例えば3時の位置)で最もピストンロッド部66の下部が左右方向の一方の外側に位置する。このとき、円盤部71およびピストンリング72は、最も水平に対し揺動し傾斜することになる。このとき、ピストンリング72は、揺動により拡大する揺動方向のシリンダ45との隙間の拡大に追従して、揺動方向に拡径してオーバル状態となり、シリンダ45の内周面46に、非揺動方向では外周側平滑面72Cが、揺動方向では図7(a)に示すようにテーパ面72A,テーパ面72Bが密着して、クランク室12への漏れを規制する。これにより、円盤部71とシリンダ45との間を十分にシールできる。また、下死点から最大揺動位置までの間、ピストンリング72は、シリンダ45の内周面46に対して環状の線接触となるものの、テーパ面72A,テーパ面72Bがシリンダ45の内周面46と平行に近い状態になるので実質的に面接触と同様の作用が得られ、円盤部71とシリンダ45との間を十分にシールできることになる。
続いて、上死点に向かうにしたがってピストンロッド部66の下部は左右方向の中央に戻ることになり、最も圧縮室55を縮小した上死点ではピストンロッド部66が左右方向の中央に位置するとともに円盤部71およびピストンリング72は水平となって圧縮行程が終了する。このとき、ピストンリング72は、シリンダ45の内周面46で押圧されて円形状に縮径され、図7(b)に示すように外周側平滑面72Cが全面的に内周面46に密着することになり、圧縮室55内の気体の高い圧力に対してクランク室12への漏れを規制する。これにより、円盤部71とシリンダ45との間を十分にシールできる。また、最大揺動位置から上死点までの間、ピストンリング72は、シリンダ45の内周面46に対して環状の線接触となるものの、テーパ面72A,テーパ面72Bがシリンダ45の内周面46と平行に近い状態になるので実質的に面接触と同様の作用が得られ、十分にシールできることになる。
以上の圧縮行程においては、圧縮室55内の圧力がリング溝85内に導入され、ピストンリング72には背圧が加わってシリンダ45の内周面46に押し付けられることになり、シール性を確保する。また、この押し付け力が最大の上死点で、ピストンリング72がシリンダ45の内周面46に面接触することになり、よって、面圧が低く抑えられ、摩耗を小さく抑えることになる。
円盤部71が上死点にある状態からクランク部材29が吸込行程を行うべく回転するとピストン63は圧縮室55を拡大させる方向に円盤部71およびピストンリング72を移動させることになり、上死点と下死点との中間まで、ピストンロッド部66の下部が左右方向逆側に移動しながら下降し、上死点と下死点との中央(例えば9時の位置)で最もピストンロッド部66の下部が左右方向の他方の外側に位置する。このとき、円盤部71およびピストンリング72は最も水平に対し上記とは逆向きに傾斜することになり、図7(c)に示すように、ピストンリング72はシリンダ45の内周面46に環状に線接触する。
続いて、下死点に向かうにしたがってピストンロッド部66の下部は左右方向の中央に戻ることになり、最も圧縮室55を拡大した下死点ではピストンロッド部66が左右方向の中央に位置するとともに円盤部71が水平をなして吸込行程が終了する。
ここで、吸込行程においては、上死点と下死点との間でピストンリング72がシリンダ45の内周面46に環状に線接触することになり、シール性が低下するものの、吸込行程は圧縮室55の圧力が低いことから支障はない。また、吸込行程において、ピストンリング72は、主環部88の揺動方向一方側の下部の直角の外隅部および揺動方向他方側の上部の直角の外隅部がシリンダ45の内周面46に接触することになるので、受圧面積が小さくなり、荷重は高くなるものの、圧縮室55の圧力が低いことから、大きく摩耗することもない。
上記の間、ピストンリング72がシリンダ45の内周面46に常時摺接することにより、ピストン63とシリンダ45との間を気密にシールし、圧縮室55内の気体がクランク室12に向けて漏洩するのを防止する。特に、圧縮室55の気体の圧力が高まる圧縮行程における揺動による隙間の拡大に対して、ピストンリング72は揺動方向に拡径しつつテーパ面72A,72Bでシリンダ45に面接触することになり、シール性を高める。
ここで、前述した特許文献1等を含む従来の技術では、ピストンが揺動することから、揺動時に、ピストンリングがシリンダに対して線接触になり、圧縮室からクランク室に気体が漏れ、損失が発生して、圧縮効率が低下してしまうという問題があった。
これに対して、上記したピストンリング72では、揺動方向の一方側の上部の外隅部にピストン63の上昇行程の最大揺動角度に対応したシール向上加工が施され、揺動方向の他方側の下部の外隅部にピストン63の上昇行程の最大揺動角度に対応したシール向上加工が施されているため、ピストン63の上昇行程の揺動時に、ピストンリング72のシール向上加工が施された両側部分をシリンダ45に対して接触させることができ、損失発生を抑制して、圧縮効率を向上可能となる。よって、ピストンリング72を、その軸方向両側に面取りを形成する場合よりも軸方向高さを低くすることができ、シリンダ45の高さおよびピストンリング72の材料費を低減することができる。
また、ピストンリング72は、揺動方向の一方側と他方側とにおける外形寸法の最大部の軸方向中心位置が前記一方側と前記他方側とで異なることから、外形寸法の最大部に継続する部分が外形寸法の小さくなり、ピストン63の揺動時に、この外形寸法が小さい部分をシリンダ45に対して接触させることができ、損失発生を抑制して、圧縮効率を向上可能となる。
また、揺動型圧縮機10は、ピストン63の円盤部71の外周側に設けられたリング溝85に、ピストン63とシリンダ45との間をシールする環状で断面略矩形のピストンリング72を装着し、このピストンリング72が、合口部89,90を有してピストン63の揺動時にシリンダ45の内径に沿うように拡縮径可能に装着され、揺動方向の一方側の上部の外隅部にピストン63の圧縮行程の最大揺動角度に対応したシール向上加工が施され、揺動方向の他方側の下部の外隅部にピストン63の圧縮行程の最大揺動角度に対応したシール向上加工が施されているため、ピストン63の上昇行程の揺動時に、ピストンリング72のシール向上加工が施された両側部分をシリンダ45に対して接触させることができ、損失発生を抑制して、圧縮効率を向上可能となる。
また、シール向上加工は、その加工量が揺動方向の外隅部を最大として非揺動側に近づくにつれて徐々に小さくなるため、シリンダ45の形状に合って密着可能となり、さらに、圧縮効率を向上可能となる。
また、ピストンリング72には、外周全周にわたって平滑面72Cが設けられているため、シリンダ45に対し傾斜しない上死点位置(圧縮室55内の圧力が最大となる位置)でシリンダ45の内周面46に平滑面72Cにて密着できシール性を高めることができる。よって、さらに圧縮効率を向上可能となる。しかも、シール面圧を低減できるため、ピストンリング72の摩耗を抑えて寿命を延長できる。
また、ピストンリング72は、非揺動方向の平滑面72Cの軸方向寸法が最大であり、揺動方向の平滑面72Cの軸方向寸法が最小であるため、シリンダ45との間の隙間の変化が小さい非揺動方向については、最大の平滑面72Cでシリンダ45の内周面46に密着できる。よって、さらに圧縮効率を向上可能となる。
また、ピストンリング72は、自然状態でオーバル形状であるため、ピストン63の揺動時に、ピストンリング72によるシリンダ45のシール部分の形状がオーバル形状となることに対して、ピストンリング72が追従でき、シリンダ45の内周面46に密着できる。よって、さらに圧縮効率を向上可能となる。
また、ピストンリング72は、周上の一部に合口部89,90が設けられているため、シール性を維持しつつ拡縮径可能となる。よって、さらに圧縮効率を向上可能となる。
また、ピストンリング72は、外形寸法の最大部72Cと継続する面72A,72Bがピストンリング72重心に対して点対称形状であることから、ピストン63の揺動時に、シリンダ45の内周面46にこれらの面72A,72Bを良好に密着させることができる。よって、さらに圧縮効率を向上可能となる。
また、ピストンリング72は、外形寸法の最大部72Cと継続する面72A,72Bがテーパ面形状であるため、ピストン63の揺動時に、シリンダ45の内周面46にこれらの面72A,72Bを良好に密着させることができる。よって、さらに圧縮効率を向上可能となる。
また、ピストン63にピストンリング72の回止機構84を設けているため、ピストンリング72を常に適正な位置に保持できる。よって、さらに圧縮効率を向上可能となる。
合口部89,90が非揺動方向に配置されているため、合口部89,90によるシール性低下を抑制できる。よって、さらに圧縮効率を向上可能となる。
「第2実施形態」
次に、第2実施形態を主に図8〜図11に基づいて説明する。図8は、本発明に係る第2実施形態のピストンリングを示す平面図である。図9は、本発明に係る第2実施形態のピストンリングを示す、図8のX2−X2拡大断面図である。図10は、本発明に係る第2実施形態のピストンリングの創成面の図8に示す各角度毎の断面形状を示す図である。図11は、本発明に係る第2実施形態のピストンリングの製造装置の一例を示す側面図である。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
図8に示す第2実施形態のピストンリング72’は、第1実施形態と同様に、揺動方向の一方側の上部(上死点側端部)の外隅部にピストン63の上昇行程である圧縮行程の最大揺動角度に対応したシール向上加工が施され、揺動方向の他方側の下部(下死点側端部)の外隅部にピストン63の圧縮行程の最大揺動角度に対応したシール向上加工が施されているが、これらのシール向上加工が第1実施形態とは相違している。なお、第2実施形態においても、揺動方向の一方側においては上部の外隅部のみにシール向上加工が施され、下部の外隅部にはシール向上加工は施されていない。また、揺動方向の他方側においては下部の外隅部のみにシール向上加工が施され、上部の外隅部にはシール向上加工は施されていない。
第2実施形態のピストンリング72’も、シール向上加工を施す前の素材は、第1実施形態と同じ素材であり、主環部88が全周にわたって軸線を含む平面で切断した断面が矩形となっている。そして、第2実施形態のピストンリング72’は、主環部88の揺動方向一方側の上部の外隅部に第1実施形態とは異なるシール向上加工が施されることで、圧縮行程の位置毎に変化する揺動角に対応した面取りを連続させて創成される湾曲形状の創成面72A’が形成され、主環部88の揺動方向他方側の下部の外隅部にも同様のシール向上加工が施されることで、圧縮行程の位置毎に変化する揺動角に対応した面取りを連続させて創成される湾曲形状の創成面72B’が形成されている。
つまり、図9に示す創成面72A’,72B’は、圧縮行程における位置毎にシリンダ45となす角が変化するピストンリング72’の外周部に、シリンダ45の内周面46となす角が0度で内周面46に接触するようなテーパ面を揺動角度と同様に変化させながら順次連続的にピストンリング72’に創成した形状をなしている。なお、このとき、揺動角度毎にピストンリング72’の径が変化することも加味して創成面72A’,72B’を設定する。
言い換えれば、創成面72A’,72B’は、圧縮行程において下死点位置で揺動方向に縮径状態にあり、揺動角度が最大となる中間位置まで徐々に揺動方向に拡径して、さらに上死点位置に向かうにしたがって徐々に揺動方向に縮径するピストンリング72’が、常にシリンダ45の内周面46と接触できる形状となっている。また、ピストンリング72’を各揺動角度で切断し且つ揺動方向の径をそれぞれの揺動角度での径に合わせた場合に、それぞれの揺動角度で切ったシリンダ45の内周面46の断面形状と同じ断面形状が得られる形状となっている。
ピストンリング72は、主環部88の揺動方向一方側の下部の外隅部および揺動方向他方側の上部の外隅部には創成面72A’,72B’が形成されないことから、主環部88が全周にわたって、軸線を含む平面で切断した断面が略矩形となっている。
ここで、上記したシール向上加工は、両側とも同様の加工が、ピストンリング72重心に対して点対称に施される。その結果、両側の創成面72A’,72B’が点対称形状をなす。
また、上記したシール向上加工は、図10に示すように、揺動方向の端部位置(図8,図10の90°の位置)が最も加工量が大きく(言い換えれば創成面の軸方向高さおよび径方向幅が大きく)、非揺動側に近づくにつれて(図8,図10の90°→75°→60°→45°→30°→15°→0°となるにつれて)その加工量が徐々に小さくなって(言い換えれば創成面の軸方向高さおよび径方向幅が徐々に小さくなって)、非揺動側の端部位置(図8,図10の0°の位置)では加工量が0となる(言い換えれば創成面の軸方向高さおよび径方向幅が0となる)ように、ピストンリング72の非揺動方向の両端部位置よりも手前まで半周弱の範囲で施される。これにより、創成面72A’,72B’は、揺動方向の端部位置が径方向幅および軸線方向高さの両方が最大で、非揺動側に近づくにつれて径方向幅および軸線方向高さの両方が徐々に小さくなる形状をなしてピストンリング72’の半周弱の範囲に形成されている。ここで、両側の創成面72A’,72B’は、ピストンリング72’内において互いに交じり合うことがないように独立して形成されている。
ピストンリング72’は、主環部88の揺動方向一方側の下部の外隅部および揺動方向他方側の上部の外隅部に創成面72A’,72B’が形成されていないことから、その軸線方向厚さが、創成面72A’,72B’の最大の軸線方向高さよりも大きくされており、その結果、外周全周に、ピストンリング72’の軸線方向に沿う外周側平滑面72Cが形成されている。また、ピストンリング72’は、第1実施形態と同様、上面部72Dおよび下面部72Eが、合口部89,90を除く全周にわたって軸直交方向に沿う平坦面とされ、内周全周に軸線方向に沿う内周側平滑面72Fが形成されている。
ここで、ピストンリング72’も、創成面72A’,72B’が形成されていない非揺動方向の外周側平滑面72Cの軸方向寸法が最大となっている。また、創成面72A’,72B’の軸方向の最大高さは、外周側平滑面72Cの軸方向の最小高さと同等とされている。また、点対称に創成面72A’,72B’が形成されることで、外形寸法の最大部である外周側平滑面72Cの軸方向中心位置が、揺動方向の一方側と他方側とで異なることになる。具体的には、揺動方向の一方側の外周側平滑面72Cの軸方向中心位置が、揺動方向の他方側の外周側平滑面72Cの軸方向中心位置に対して下側にずれている。そして、創成面72A’は、外形寸法の最大部である外周側平滑面72Cの揺動方向の一方側から継続して形成されており、創成面72B’も、外形寸法の最大部である外周側平滑面72Cの揺動方向の他方側から継続して形成されている。
ここで、上記したピストンリング72’のシール向上加工は、外周加工用の円筒状の切削工具をピストンリング72’のシール向上加工前の素材の外径に沿ってピストンリング72’の素材に対して相対的に移動させるとともに、ピストンリング72’の素材を切削工具に対して相対的に揺動させることで行われることになり、例えば、以下の製造装置を用いて行うことができる。
図11に示す製造装置100は、内側に切刃が配置された円筒状の切削工具101を回転可能に保持する工具保持台102と、工具保持台102の側方に設けられて、工具保持台102に保持された切削工具101の内径側でピストンリング72’を揺動型圧縮機10への搭載時と同様に揺動させる揺動機構103とを有している。
揺動機構103は、工具保持台102に保持された円筒状の切削工具101の中心軸線に平行に移動する移動台105と、移動台105に設けられて切削工具101の中心軸線に直交する旋回軸106を中心に回転する回転板107と、この回転板107に旋回軸106と平行をなして自転可能に設けられた揺動軸108と、切削工具101の中心軸線を含み且つ旋回軸106に直交する平面内に配置されて揺動軸108に保持された支持軸109と、支持軸109の先端においてピストンリング72’を保持するワーク保持部110とを有している。旋回軸106および揺動軸108は、それぞれの自転の角度が制御可能となっている。
そして、上記の揺動機構103は、ピストンリング72’の素材を、揺動型圧縮機10への搭載時の圧縮行程と同様に動かすことで、円筒状の切削工具101によって、ピストンリング72’の素材に創成面72A’,72B’を加工し形成する。ワーク保持部110を揺動型圧縮機10への搭載時と同様に動かした場合、切削工具101の中心軸線に対する旋回軸106と揺動軸108とを結んだ線のなす角度をθ、旋回軸106と揺動軸108との距離をr、揺動軸108とピストンリング72’との距離をLとすると、切削工具101の中心軸線とピストンリング72’の中心軸線とのなす角度βは、次式で表される。
β=sin−1(r/L×sinθ)
揺動機構103は、上記関係を基本として、ピストンリング72’を作動させる。具体的に、工具保持台102により自転する切削工具101に対して、ピストンリング72’を同軸上に配置して、旋回軸106に対し揺動軸108を切削工具101とは反対側に配置した状態とする。ここで、ピストンリング72’の素材は外径がシリンダ45の内径と略同径とされている。この状態から、移動台105を移動させてピストンリング72’の素材を切削工具101の内側に挿入し、その後、移動台105を停止した状態で、ピストンリング72’を、切削工具101に対して同軸上で移動させながら、旋回軸106および揺動軸108の制御で、揺動型圧縮機10への搭載時と同様に揺動させて切削工具101内で前進させる。このとき、ワーク保持部110は、ピストンリング72’を揺動型圧縮機10への搭載時と同様に最大揺動角度で自然状態となるように徐々に拡径させる。このようにして、ピストンリング72’に創成面72A’,72B’が形成される。
以上に述べた第2実施形態のピストンリング72’によれば、シール向上加工が、圧縮行程(上昇行程)の位置毎に変化する揺動角に対応した面取りとされ、その結果、外形寸法の最大部と継続する部分に、ピストン63の揺動角に合わせた創成面形状の創成面72A’,72B’が形成されることになるため、ピストン63の圧縮行程の揺動時に、ピストンリング72’のシール向上加工が施された両側部分をシリンダ45の接触部の断面形状の変化に対して追従させて接触させることができ、損失発生を抑制して、圧縮効率を向上可能となる。
なお、第1実施形態において、図12に示すように、ピストンリング72を非揺動側の端部同士を結ぶ切断面で2つの分割体72a,72bに分割し、これら分割体72a,72bの間にこれらを離間する方向に付勢するバネ部材115を設けても良い。また、第2実施形態においても、同様に、ピストンリング72’を非揺動側の端部同士を結ぶ切断面で2つの分割体に分割し、これら分割体の間にこれらを離間する方向に付勢するバネ部材を設けても良い。
また、第1実施形態および第2実施形態は揺動型圧縮機を例にとり説明したが、ピストンがシリンダ内を揺動しながら往復動するものであれば、他の揺動型シリンダ装置にも適用可能である。
また、第1実施形態および第2実施形態では、ピストンリング72の断面略矩形の一部にシール向上加工および創生面加工を施す内容を説明したが、ピストンリング72の断面略矩形の他面には、狭い範囲での面取り加工等を施すことも可能である。
また、ピストンリングの加工方法として、切削工具をピストンリングの外径に沿って回転移動させて、ピストンリングを切削工具に対して相対的に揺動させることで説明したが、切削工具をピストンリングに対して相対的に揺動させることも可能である。