JP2010065269A - 合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で,C:0.03〜0.12%,Si:0.02〜0.50%,Mn:2.0〜4.0%,P:0.1%以下,S:0.01%以下,sol.Al:0.01〜1.0%およびN:0.01%以下を含有し,さらに,Ti:0.50%以下およびNb:0.50%以下の1種または2種を下記式(1)を満足する範囲で含有し,残部がFe及び不純物からなる化学組成を有するとともに,フェライトの面積率が60%以上であり,フェライトの平均粒径が1.0〜6.0μmである鋼組織を有し,前記合金化溶融亜鉛めっき層は,質量%で,Fe:8〜15%及びAl:0.08〜0.50%を含有し,残部がZnおよび不純物からなる。Ti+Nb/2≧0.03・・・(1)
【選択図】図1
Description
さらに、本発明の鋼板を、形状や金型の調整を含めて、自動車用補強部材の代表例であるクロスメンバー等の、より高強度かつ極めて複雑な形状の部品に適用するためには、所望の曲げ性、延性さらには材質安定性を達成しつつ、引張強度が590MPa以上、穴拡げ率が80%以上であることが好ましい。形状や金型の調整に頼ることなく、自由度の高い設計のもとで、より高強度かつ複雑な形状のクロスメンバー等を製作するためには、引張強度が590MPa以上、穴拡げ性は80%以上、TS×El値が14000MPa・%以上、ΔTSは60MPa以下であることがさらに好ましい。
Ti+Nb/2≧0.03 (1)
下記(A)〜(C)の工程を備えることを特徴とする、曲げ性に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法:
(A)上記化学組成を有する溶鋼を下記式(2)を満足する条件で冷却して鋼塊とする鋳造工程;
(B)前記鋼塊に、圧延開始温度:1050℃〜1300℃、仕上温度:800℃〜950℃、巻取温度:450〜750℃の熱間圧延を施して熱延鋼板とするとともに、前記鋼塊からの総圧下率が98.80%以上になる圧延を施して合金化溶融亜鉛めっき鋼板用の原板とする圧延工程;および
(C)前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板用の原板に、還元雰囲気中でAc3点〜950℃の温度域に5〜200秒保持する還元焼鈍を施し、次いで750℃から600℃までの平均冷却速度を1〜50℃/秒として[亜鉛めっき浴温度−20℃]〜[亜鉛めっき浴温度+100℃]の温度域まで冷却し、引き続いて前記温度域に10〜1000秒保持するとともに、0.08〜0.20質量%のAlを含有する溶融亜鉛めっき浴に浸漬後、鋼板表面の亜鉛付着量を制御する付着量を制御し、その後460〜540℃の温度域で合金化処理する焼鈍−合金化溶融亜鉛めっき工程。
ΔTD/V≧20 (2)
ここで、ΔTD(℃)は平衡状態図においてδ相が出現する温度区間であり、V(℃/秒)は鋼塊表面から10mmの深さ位置におけるデンドライト二次アーム間隔から算出される凝固冷却速度を示す。
はじめに、本発明に係る鋼板の化学組成を上述したように規定する理由を説明する。
(C:0.03%以上0.12%以下)
Cは、鋼の強度を確保するために0.03%以上含有させる。しかし、過剰な含有はδ相の安定域を狭めるために、鋳造の際に式(2)を満足する条件で冷却することを困難にするだけでなく、残留オーステナイトの生成に作用し、曲げ性と穴拡げ性を劣化させるため、C含有量を0.12%以下とする。なお、C含有量が0.04%未満であり、かつ後述するように、Mn含有量が2.3%未満であると590MPa以上の引張強度を確保することが困難になる。一方、C含有量が0.06%を超えると残留オーステナイト中のC含有量が高くなり、穴拡げ性が低下する傾向を示すようになる。このため、特に優れた穴拡げ性を求める場合にはC含有量を0.04%以上0.06%以下とすることが好ましい。
Siは、合金化処理過程において、鋼板粒界から被膜のめっき層中へFeが拡散するのを助長する反面、粒内からめっき層中へFeが拡散するのを抑制することによって粒界と粒内との合金化速度の差を大きくして、この速度差によって粒界部分と粒内部分とのめっき厚みを変化させ、その結果として母材とめっき層との界面の凹凸を増加させることで、母材の鋼板とめっき層との界面密着強度を増加させる重要な元素である。
Mnは、固溶強化により強度を向上させるとともに、鋼のAc3点を下げて好適な焼鈍温度範囲を広げる効果も有するので、Mn含有量を2.0%以上とする。しかし、過剰な含有は、偏析に起因する不均一組織を助長し、曲げ性を劣化させるだけではなく、フェライト変態を抑制して延性を劣化させるため、Mn含有量を4.0%以下とする。なお、上述したように、C含有量が0.04%以上であっても、Mn含有量が2.3%未満であれば、590MPa以上の引張強度を確保することが困難になるので、特に高い引張強度を求める場合には、Mn含有量を2.3%以上4.0%以下とすることが好ましい。
Pは、一般には不純物として含有されるが、固溶強化元素でもあり、鋼板の強化に有効であるので、本発明においては含有させても構わない。しかし、過剰な含有はめっきの密着性や溶接性を劣化させるので、P含有量を0.1%以下とする。固溶強化を目的とする場合には、P含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
Sは、不純物として含有され、曲げ性、穴拡げ性さらには溶接性の観点からその含有量は低いほど好ましい。そのため、S含有量を0.01%以下とする。好ましくは0.005%以下である。
Alは、鋼を脱酸する作用を有し、Ti等の炭窒化物形成元素の歩留まりを向上させることに有効であるので、sol.Al含有量を0.01%以上とする。
Nは、一般には不可避的に含有されるが、本発明では、鋼板中にTi系、Nb系、またはTi−Nb複合系の窒化物や炭窒化物を形成して鋼板の強度を高めることに有効であるので、積極的に含有しても構わない。しかし、過剰に含有すると粗大なTiNを形成し、曲げ性および穴拡げ性を劣化させるので、N含有量を0.01%以下とする。鋼板の強度を上昇させる目的で含有する場合には、N含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。
TiおよびNbは、1種を単独で、または2種を複合して含有し、炭化物、窒化物または炭窒化物を形成し、鋼板の高強度化に寄与する。また、上述したC含有量と、後述するような焼鈍条件とを組み合わせると、フェライト変態を促進する効果を有し、鋼板の延性の改善に有効であるとともに、結晶粒径を顕著に微細化する効果を有し、鋼板の曲げ性の改善に有効である。このような効果を発現するためには、TiおよびNbの1種または2種を含有させ、Ti+Nb/2の値を0.03以上とする。これらの元素は、さらに、残留オーステナイトの生成を抑制し、鋼板の穴拡げ性の改善にも有効な元素である。なお、穴拡げ性改善に作用させるためには、Ti+Nb/2の値を0.05以上とすることが好ましく、0.1以上とすればさらに好ましい。
A={(Ti+Nb/2)−(48/14)N−(48/32)S}/48
B=C/12
Ca、Mg、REM(希土類元素)およびZrは、いずれも、任意に含有させることができる元素であり、これらを適量含有させることによって、介在物制御、特に微細分散化に寄与し、穴拡げ性をさらに好ましいレベルにすることができる。したがって、これらの元素の1種または2種以上を、合計量で0.001%以上となるように含有させることが好ましい。しかし、過剰な含有は延性を劣化させるため、各元素の含有量を、それぞれ0.01%以下とする。
次に、本発明に係る鋼板の鋼組織を上述したように規定する理由を説明する。
本発明に係る鋼板の鋼組織は、本明細書の実施例において記載される観察方法によって観察したときの各組織の面積率で評価した分率(以下、「面積率」と略記する。)で、フェライトの割合が60%以上である。フェライトを面積率で60%以上含むことにより、良好な曲げ性、さらには穴拡げ性や延性を確保しつつ、540MPa以上の高い引張強度を確保することが可能になる。このため、フェライトの面積率を60%以上とする。
本発明に係る鋼板の鋼組織は、フェライトの平均粒径が1.0μm以上6.0μm以下である。フェライトの平均粒径を6.0μm以下とすることにより、曲げ性および穴拡げ性が向上する。ただし、平均粒径が1.0μm未満になると、加工硬化し難くなり、曲げ性および延性が劣化する。このため、フェライトの平均粒径を1.0μm以上6.0μm以下とする。
次に、本発明に係る鋼板の被膜となるめっき層の化学組成を上述したように規定する理由を説明する。
被膜となる合金化溶融亜鉛めっき層中のFe含有量が8%未満では、合金化処理後のめっき層の表層部に軟質部位が形成されやすくなり、摺動性が低下して被膜のめっき層が母材の鋼板との界面から剥離することによるフレーク状の剥離が増加する。したがって、Fe含有量を8%以上とする。好ましくは9.5%以上である。一方、Fe含有量が15%を超えると、鋼板に曲げ加工が施された場合に、曲げ部の内側で合金化溶融亜鉛めっき層が圧縮変形を受けることによるパウダリング剥離量が増加する。このため、Fe含有量を15%以下とする。好ましくは14%以下である。
被膜となる合金化溶融亜鉛めっき層中のAl含有量が0.08%未満では、めっき浴中における合金層の発達の抑制効果が不十分となり、めっき付着量の制御が困難となる。したがって、Al含有量は0.08%以上とする。好ましくは0.20%以上、さらに好ましくは0.25%以上である。一方、Al含有量が0.50%を超えると、合金化速度の低下が著しくなり、通常のライン速度では上記Fe含有量を実現するために合金化処理温度を540℃超とせざるを得なくなる場合があり、後述するように鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度を20MPa以上とすることが困難になる。したがって、Al含有量を0.50%以下とする。好ましくは0.45%以下、さらに好ましくは0.40%以下である。
本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板について上記の化学組成および組織を有し、めっき層について上記の化学組成を有するのであれば、いかなる製造方法により製造されてもよい。ただし、以下の製造方法を採用することによって、本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板をより効率的かつ安定的に製造することが実現される。
(ΔTD/V≧20)
上述した化学組成を有する溶鋼を転炉や電気炉等の周知慣用の溶製方法により溶製して鋳造する。鋳造法としては、生産性の観点から連続鋳造法を採用することが好ましい。なお、造塊法、薄スラブ鋳造法等を採用してもよい。
ΔTD/V≧20 (2)
このようにして得られる鋼塊に熱間圧延を施して熱延鋼板とする。熱間圧延は、鋳造された鋼塊を室温まで冷却せず温片のまま加熱炉に装入して加熱した後に圧延する直送圧延、あるいは、わずかの保熱を行った後、直ちに圧延する直接圧延を行うか、あるいは、一旦、鋼素材を冷却した後に再加熱して圧延を行ってもよい。このとき、粗圧延後、仕上圧延前の粗バーに対して、誘導加熱等により全長の温度均一化を図ると、特性変動をさらに抑制することができるので好ましい。
鋼塊を再加熱する場合には、曲げ性および穴拡げ性を劣化させないためにTiCやNbCを再固溶させることが有効である。このような効果は、一旦冷却された鋼素材については、1050℃以上に加熱することで認められる。ただし、1300℃超に加熱すると上記効果が飽和するだけでなく、スケールロスが増加する。このため、鋼塊の再加熱温度は1050℃以上1300℃以下とする。換言すれば、熱間圧延の開始温度は1050℃以上1300℃以下である。
熱間圧延の仕上温度は800℃以上950℃以下とする。
仕上温度が800℃未満では、変形抵抗が過大となって圧延が困難となる。一方、仕上温度が950℃を超えると、析出物が粗大化し、最終製品において目的とする強度を確保することが困難になるだけでなく、鋼板表面におけるスケール生成が著しくなり、巻取温度を制御することが困難になる。
巻取温度は450℃以上750℃以下とする。
巻取温度が450℃未満では、硬質なベイナイトやマルテンサイトが生成し、その後に冷間圧延を施すことが困難になる。一方、巻取温度が750℃を超えると、析出物が粗大化し、最終製品において目的とする強度を確保することが困難になるだけでなく、表面のスケールが発達し、その後の酸洗でのスケール除去が困難になり、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観が劣化する。
圧延工程において熱間圧延および冷間圧延の双方併せた総圧下率を98.80%以上とする。この総圧下率が98.80%未満であると、残存するミクロ偏析の影響が現れ易くなり、曲げ性が劣化する。熱間圧延における総圧下率が98.80%以上であれば、冷間圧延を行わなくともよい。なお、連続焼鈍後の鋼板の組織を微細化するためには、冷間圧延を施すとともにその圧下率を30%以上とすることが好ましい。
このようにして得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板用の原板は、本発明によれば、還元雰囲気中でAc3点〜950℃の温度域に5〜200秒間保持する還元焼鈍を施し、次いで750℃から600℃までの平均冷却速度を1〜50℃/秒として[亜鉛めっき浴温度−20℃]〜[亜鉛めっき浴温度+100℃]の温度域まで冷却し、引き続いて前記温度域に10〜1000秒間保持するとともに、0.08〜0.20質量%のAlを含有する溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、その後460〜540℃で合金化処理する。これらの焼鈍熱処理と溶融亜鉛めっき処理とは、連続溶融亜鉛めっきラインで行うことが好ましい。以下、この処理を連続溶融亜鉛めっきラインで行う場合を例にとって説明する。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板用の原板には、圧延油や鉄粉が付着している。それゆえ、めっき外観を向上させる等の観点から、冷間圧延後の鋼板をアルカリ脱脂槽に入れてアルカリ脱脂することにより、洗浄してもよい。その後、水素を含有する還元雰囲気中で、鋼板を以下に記載する温度まで上昇させることにより、還元焼鈍を行う。
Ac3点以上950℃以下の温度域で焼鈍を施す。
焼鈍温度がAc3点未満であると、未再結晶が残存し、均一な組織が得られなくなり、曲げ性、延性さらには穴拡げ性が低下するとともに、良好な材質安定性を確保することが困難になる。一方、焼鈍温度が950℃を超えると析出物が粗大化し、微細な析出物が得られなくなり、最終製品において目的とする強度の確保が困難になるだけでなく、連続焼鈍炉が損傷しやすくなり、大量生産できない。なお、連続焼鈍後の鋼板の組織を微細化するためには、焼鈍温度にまで加熱する際に、750℃以上Ac3点以下までの温度域における昇温速度を2℃/秒以上10℃/秒以下とすることが好ましい。
上述した焼鈍温度で5秒間以上200秒間以下保持することにより焼鈍を施す。この焼鈍時間が5秒間未満であると、加工フェライトからオーステナイトへの変態が十分に進行しないため、未再結晶が残存し、均一な組織が得られなくなり、曲げ性、延性さらには穴拡げ性が低下する。一方、焼鈍時間が200秒間を超えると、粒成長によって組織が粗大化し、穴拡げ性が低下する。生産性の観点からは、焼鈍時間は120秒間以内とすることが好ましい。
焼鈍後の冷却は、750℃から600℃までの平均冷却速度を1℃/秒以上50℃/秒以下とする。平均冷却速度を750℃から600℃までの温度域で規定する理由は、Tiおよび/またはNbを多量に含有している場合には上記温度域でオーステナイトがフェライトに変態しやすいため、上記温度域の冷却速度を制御することによって、組織の主相であるフェライトの性状を制御でき、強度、曲げ性さらには延性を制御できるためである。上記平均冷却速度が1℃/秒未満であると、粒成長によって組織が粗大化し、不均一変形が助長され、曲げ性や穴拡げ性が低下する。一方、上記平均冷却速度が50℃/秒を超えると、軟質なフェライトが得られなくなるために延性が劣化するだけでなく、不均一変形が助長され、曲げ性も劣化する。なお、前述したように、PEQ値を0.8超とすることにより、このような操業上想定される広い冷却速度範囲で熱処理しても、引張強度の変動を抑制することを容易とし、さらに良好な材質安定性を確保することができる。
本発明では、冷却停止温度を[亜鉛めっき浴温度−20℃]以上[亜鉛めっき浴温度+100℃]以下の温度域とする。冷却停止温度が[亜鉛めっき浴温度−20℃]未満であると、その後の溶融亜鉛めっき浴への浸漬時の抜熱が大きく、操業が困難となる。一方、冷却停止温度が[亜鉛めっき浴温度+100℃]よりも高いと、操業が困難であるとともに、粗大なセメンタイトが生成して穴拡げ性が低下する。
溶融亜鉛めっきは、常法に従って、400℃以上500℃以下の溶融亜鉛めっき浴中に焼鈍した鋼板を浸漬することにより行う。
上述した温度域で冷却を停止した後、引き続いて同じ温度域に、10秒間以上1000秒間以下保持する。
保持時間が10秒間未満であると、オーステナイトが十分に分解せず残留オーステナイトが生成し、穴拡げ性が劣化する。したがって、保持時間は10秒間以上とする。好ましくは20秒間以上である。一方、保持時間が1000秒間を超えると、粗大なセメンタイトが生成して穴拡げ性が劣化する。したがって、保持時間は1000秒間以内とする。生産性の観点からは、200秒間以内とすることが好ましい。
なお、上記保持時間には、後述する溶融亜鉛めっき浴への浸漬工程および溶融亜鉛めっきの付着量制御工程に要する時間も含まれる。
溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度が0.08%未満の場合、合金化処理前の溶融亜鉛めっき浴中において既に過剰のFe−Zn界面合金層が形成されてしまう。このため、付着量の制御が困難となる。したがって、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度は0.08%以上とする。好ましくは0.09%以上である。
さらに、溶融亜鉛めっき浴浸漬後に460℃以上540℃以下で合金化処理することによって、穴拡げ性が向上する。
合金化処理温度が460℃未満であるとζ相の粗大結晶が合金化溶融亜鉛めっき層の表層部に形成されやすく、合金化溶融亜鉛めっき層中のFeの含有量が8%未満となってしまう場合がある。したがって、合金化処理温度は460℃以上とする。好ましくは470℃以上であり、さらに好ましくは480℃以上である。
このように、化学組成の調整、鋳造、圧延、その後の焼鈍−溶融亜鉛めっき条件の適正化によって、フェライトを面積率で60%以上、フェライトの平均粒径が1.0μm以上6.0μm以下となる鋼組織を得ることができ、引張強度540MPa以上と高強度で、曲げ性とめっき密着性が良好な合金化溶融亜鉛めっき鋼板、さらには、穴拡げ性、延性、材質安定性も良好な合金化溶融亜鉛めっき鋼板も得られる。以下に各特性について良好と判断される評価基準について記載する。
めっき密着性:以下の実施例に記載する界面密着強度で評価し、強度が20MPa以上のもの良好とする。
表1に示す化学組成を有する鋼を転炉で溶製し、連続鋳造により245mm厚のスラブとした。凝固時の平均冷却速度を算出するために、得られたスラブの一部を切り出した。なお、δ相が出現する温度区間は、表1に示す化学組成のうち、微量添加元素を除いて主要元素となるC、Si、Mn、Ti、Nb量だけを考慮し、平衡状態図計算ソフト(THERMO−CALC)を用い、熱力学計算を行うことによって、算出した。
(凝固冷却速度の算出)
得られたスラブの断面をピクリン酸にてエッチングし、鋼塊表面から10mmの深さ位置にて、5箇所のデンドライト二次アーム間隔λ(μm)を測定し、下記式に基づいて、それらの平均値から液相線温度〜固相線温度における凝固冷却速度A(℃/分)を算出した。
λ=710×A−0.39
表1に示す化学組成を有する冷延鋼板を用い、10℃/秒の昇温速度で加熱した際の膨張率変化を解析することによって、各供試鋼のAc3点を測定した。
各合金化溶融亜鉛めっき鋼板から圧延方向、および圧延方向と直角方向に試験片を採取し、圧延方向断面の組織、および圧延方向と直角方向の断面の組織を光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡で撮影し、画像解析により各相の分率および各相の粒径を測定した。フェライト粒径の測定は、圧延方向断面および圧延方向と直角方向断面で板厚の全厚について、JISG0552の交差線分法の規定に準拠して測定し、それらの平均値で表した。
各合金化溶融亜鉛めっき鋼板に0.3mm分減厚するための化学研磨を施し、化学研磨後の表面に対しX線回折を施し、得られたプロファイルを解析し、残留オーステナイトの面積率と残留オーステナイト中のC含有量を算出した。
各合金化溶融亜鉛めっき鋼板について圧延直角方向からJIS5号引張試験片を採取し、降伏応力(YS)、引張強度(TS)、伸び(El)を測定した。穴拡げ率(HER)はJFS T 1001に規定の方法で測定した。
各合金化溶融亜鉛めっき鋼板から、曲げ稜線が圧延方向となるように、圧延直角方向を長手方向とする曲げ試験片(幅40mm×長さ100mm×板厚1.2mm)を採取した。その際、板厚が3.0mmの合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、曲げ内側となる面を研削し、板厚1.2mmの試験片とした。密着曲げ(先端角度が180°のU曲げ試験)を実施し、割れの有無を目視にて確認するとともに、表面の凹凸の有無を目視にて確認した。割れと凹凸が有るものを不良、無いものを良好とした。
操業する上で連続焼鈍過程における冷却速度を精緻に制御することは困難である。そこで、上述したようにして得られた焼鈍を施していない冷延鋼板に対し、700℃まで10℃/秒の昇温速度で加熱し、表2に示す温度で焼鈍した。焼鈍温度から冷却停止温度まで1℃、5℃、10℃、50℃で冷却し、それ以降は合金化溶融亜鉛めっき鋼板製造時の熱処理を模擬するように、表2に示す冷却停止温度での保持、めっき浴への浸漬、合金化熱処理を模擬し、焼鈍冷延鋼板を作製した。すなわち、各種供試鋼について、冷却速度だけを変化させた4条件の焼鈍冷延鋼板を作製し、それらTSの最大値と最小値の差をΔTSとし、材質安定性の指標とした。
(めっき層の組成分析)
合金化処理後の試料から25mmφの試料片を採取し、0.5vol%インヒビター(商品名:朝日化学製「イビット710N」)を含有した10%HCl水溶液でめっき層を溶解し、これをICP法でめっき層の組成分析に供した。
合金化処理を施したサンプルを長手方向が圧延方向となるように20mm×100mmに裁断し、サンスター(株)製の一液型エポキシ系構造用接着剤(商品名:E−6973)を接着剤として用い、重ね代:12.5mm、接着剤膜厚:200μm、焼付条件:180×20分、引張速度:5mm/分、室温下の条件で長手方向に引張試験を実施した。本試験の界面密着強度は、母材変形も加わるため基板強度の影響を受けるが、今回のようにYPが350MPa以上の母材では、殆ど無視できる。試験の結果、界面密着強度が20MPa以上のものをめっき密着性が良好であるとし、20MPa未満のものをめっき密着性が不良であるとした。
その結果、引張強度が540MPa以上の高強度あるにもかかわらず、密着曲げした場合にも、表面に割れや凹凸が発生しないという優れた曲げ性を有し、なおかつ、めっき密着性に優れる。
Claims (7)
- 鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、
前記鋼板は、質量%で、C:0.03〜0.12%、Si:0.02〜0.50%、Mn:2.0〜4.0%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.01〜1.0%およびN:0.01%以下を含有し、さらに、Ti:0.50%以下およびNb:0.50%以下の1種または2種を下記式(1)を満足する範囲で含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有するとともに、フェライトの面積率が60%以上であり、フェライトの平均粒径が1.0〜6.0μmである鋼組織を有し、
前記合金化溶融亜鉛めっき層は、質量%で、Fe:8〜15%およびAl:0.08〜0.50%を含有し、残部がZnおよび不純物からなり、
前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、引張強度が540MPa以上であり、曲げ性に優れることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
Ti+Nb/2≧0.03 (1) - 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、さらにCa:0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- 前記鋼組織における残留オーステナイトの面積率が3.0%以下である、請求項1または請求項2に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- JFS T 1001に規定される方法により測定した穴拡げ率が50%以上である、請求項3に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- 引張強度×伸びの値が12000MPa・%以上である、請求項4に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- 下記(A)〜(C)の工程を備えることを特徴とする、曲げ性に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法:
(A)請求項1または請求項2に記載の化学組成を有する溶鋼を下記式(2)を満足する条件で冷却して鋼塊とする鋳造工程;
(B)前記鋼塊に、圧延開始温度:1050℃〜1300℃、仕上温度:800℃〜950℃、巻取温度:450〜750℃の熱間圧延を施して熱延鋼板とするとともに、前記鋼塊からの総圧下率が98.80%以上になる圧延を施して合金化溶融亜鉛めっき鋼板用の原板とする圧延工程;および
(C)前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板用の原板に、
還元雰囲気中でAc3点〜950℃の温度域に5〜200秒保持する還元焼鈍を施し、次いで750℃から600℃までの平均冷却速度を1〜50℃/秒として[亜鉛めっき浴温度−20℃]〜[亜鉛めっき浴温度+100℃]の温度域まで冷却し、引き続いて前記温度域に10〜1000秒間保持するとともに、0.08〜0.20質量%のAlを含有する溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、その後460〜540℃の温度域で合金化処理する焼鈍−合金化溶融亜鉛めっき工程。
ΔTD/V≧20 (2)
ここで、ΔTD(℃)は平衡状態図においてδ相が出現する温度区間であり、V(℃/秒)は鋼塊表面から10mmの深さ位置におけるデンドライト二次アーム間隔から算出される凝固冷却速度を示す。 - 前記鋳造工程が連続鋳造により鋳造を行うものであり、前記鋳造の際に、連続鋳造機の鋳型内の溶鋼に移動磁場による攪拌を施すことを特徴とする請求項6記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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