JP2010053926A - ディスクブレーキロータ及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐食性及び耐摩耗性を向上させるディスクブレーキロータを提供する。
【解決手段】ディスクブレーキロータ1は、鋳鉄製の母材11の表面に、Fe−C−N系化合物を主材とし、前記鋳鉄よりも硬質の硬質材料を分散して含有する表面層12を形成している。
【選択図】図1

Description

本発明は、鋳鉄製の車両用のディスクブレーキロータ及びその製造方法に係り、特に、耐食性と耐摩耗性に優れたディスクブレーキロータ及びその製造方法に関する。
従来から、車両の制動装置としてディスクブレーキ装置が用いられている。該ディスクブレーキ装置は、車両のシャフトにブレーキロータを連結し、該ブレーキロータの回転を制動することにより、車両を制動するものである。
例えば、前記ディスクブレーキ装置の一例として、図3に示すような油圧式のディスクブレーキ装置60が挙げられる。該ディスクブレーキ装置60は、シャフト50に連結されたディスク状のブレーキロータ(ディスクブレーキロータ)61と、該ディスクブレーキロータ61の回転を制動させる油圧式のキャリパー64とを少なくとも備えている。該キャリパー64には、運転者のブレーキペダル(図示せず)の踏み込みに応じてディスクブレーキロータ61に向って作動する一対のピストン65,65が設けられており、各ピストン65の先端にはブレーキパッド66が配置されている。
このように構成されたブレーキ装置60は、運転者のブレーキペダルの踏み込みより一対ピストン65,65が移動し、移動したピストン65,65がブレーキパッド66,66を介して挟み込むようにディスクブレーキロータ61の摩擦面62を押圧し、その結果、ディスクブレーキロータ61の回転を制動することができる。
ところで、ディスクブレーキロータを鋳鉄材料により製造した場合には、ディスクブレーキロータの摩擦面(接触面)は錆び易く、この摩擦面の錆の発生により摩擦面は、さらに磨耗し易い。そこで、ディスクブレーキロータの摩擦面に対して、塗装を行ったり、リン酸亜鉛皮膜を形成したりするなどして、ディスクブレーキロータの摩擦面の耐食性を図ることも可能であるが、これらの処理を行った皮膜等は、長期の使用より摩耗してしまい、ディスクブレーキロータの耐食性を確保することは難しい。
上記課題を鑑みて、例えば、鋳鉄製のディスクブレーキロータの表面層に、軟窒化処理を施して、Fe−C−N系化合物を主材とした表面層を形成したディスクブレーキロータが提案されている(特許文献1参照)。このようなディスクブレーキロータは、摩擦面含む表面層は、Fe−C−N系化合物を含むので、耐食性に優れると共に、耐摩耗性も向上する。
特開平6−307471号公報
しかしながら、特許文献1に開示されたディスクブレーキロータは、Fe−C−N系化合物の表面層が防錆被膜として作用するため、ディスクブレーキロータの錆の発生は抑制されるが、ディスクブレーキロータの耐摩耗性は充分なものであるとは言えなかった。すなわち、表面層を構成するFe−C−N系化合物そのものは硬質であるが、ディスクブレーキロータがブレーキパッドと接触する際に、Fe−C−N系化合物自体が脆性であるため、その表面層から粒子状にFe−C−N系化合物が脱離するような現象が確認されている。このような現象により、ディスクブレーキロータの表面層の摩耗が促進される。
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐食性及び耐摩耗性に優れたディスクブレーキロータ及びその製造方法を提供することにある。
前記課題を解決すべく、発明者らが鋭意検討を重ねた結果、この軟窒化処理層に粒子状の硬質材料を分散させることにより、この硬質材料が結合材となって、軟窒化処理層のFe−C−N系化合物の前述したような脱離を抑制することができるとの新たな知見を得た。
本発明は、この新たな知見に基づきものであり、本発明に係るディスクブレーキロータは、鋳鉄製の母材の表面に、Fe−C−N系化合物を主材とし、前記鋳鉄よりも硬質の硬質材料を分散して含有する表面層を形成したことを特徴とする。
本発明によれば、ディスクブレーキロータの表面層にFe−C−N系化合物を含むことによりディスクブレーキロータの錆を抑制することができる。さらに、Fe−C−N系化合物の表面層に母材の鋳鉄よりも硬質の硬質材料を分散して含有することにより、Fe−C−N系化合物の表面層からの脱離を抑制することができる。これにより、ディスクブレーキロータの表面層の耐食性を確保し、さらには、耐食性を有した表面層の耐摩耗性を向上させることができる。
また、本発明に係るディスクブレーキロータの硬質材料は、ニオブ炭化物、バナジウム炭化物、及びステダイトの少なくとも1種を含む材料であることがより好ましい。本発明によれば、ニオブ炭化物、バナジウム炭化物、及びステダイトは、ディスクブレーキロータを鋳造時に容易に析出させることができ、これらの材料は、Fe−C−N系化合物の脱離を抑制するに好適な材料である。これらの硬質材料は、粒子または相として表面層に分散して含有されるものである。
ここで、本発明にいう「ステダイト」とは、リンと鉄とを化合して得られる共晶体であり、Fe,FeP及びFeCからなる三元共晶体のことをいい、鋳鉄内部に相を形成する。このステダイトは、鋳鉄よりも硬質であるため、その硬質により鋳鉄の耐摩耗性を図るために生成されることが一般的であるが、本発明では、これに加えて、Fe−C−N系化合物にステダイトを介在させることにより、表面層からのFe−C−N系化合物の脱離を抑制するように作用するものである。
本発明として、前記ディスクブレーキロータを好適に製造するに好適なディスクブレーキロータの製造方法をも開示する。本発明に係るディスクブレーキロータは、鋳鉄製の母材の少なくとも表面層に、前記鋳鉄よりも硬質の硬質材料が分散して析出するように、ディスクブレーキロータを鋳造する工程と、該鋳造されたディスクブレーキロータの前記表面層に、軟窒化処理を行う工程と、を含むことを特徴とする。
本発明によれば、所定量の遷移金属等を含有した溶湯からディスクブレーキロータを鋳造する際に、成形されるディスクブレーキロータの冷却温度及び冷却速度をコントロールして、硬質材料(硬質粒子または硬質相)を、ディスクブレーキロータの表面層(少なくとも摩擦面を含む表面層)に、分散して析出させる。
さらに、この表面層に、軟窒化処理を行うことにより、ディスクブレーキロータの表面層は、Fe−C−N系化合物を主材とし、前記鋳鉄よりも硬質の硬質材料を分散して含有させることができる。このようにディスクブレーキロータの鋳造時に、硬質材料を析出させ、その後、軟窒化処理によりFe−C−N系化合物を主材とした軟窒化処理層が形成されるので、摩擦面においてFe−C−N系化合物の脱離を抑制できる。このようにして、耐食性及び耐摩耗性を有したディスクブレーキロータを得ることができる。
また、軟窒化処理として、アンモニアガスを含む気相で行う方法や、シアン化物等の塩浴中で行う方法等を挙げることができるが、塩浴中で軟窒化処理を行うことがより好ましい。塩浴中で行うことにより、気相で行う場合に比べて、低温条件で層厚さの厚いFe−C−N系化合物の表面層(軟窒化処理層)をディスクブレーキロータの表面に形成することができる。
また、本発明に係るディスクブレーキロータは、前記析出させる硬質材料が、ニオブ炭化物、バナジウム炭化物、及びステダイトの少なくとも1種を含む材料であることがより好ましい。本発明によれば、鋳造時の溶湯に、所定量のニオブ、バナジウム、又はリンを添加することにより、ニオブ炭化物、バナジウム炭化物、及びステダイトを分散して析出させることができる。
本発明によれば、ディスクブレーキロータの表面層を軟窒化処理処理によりFe−C−N系化合物を形成すると共に、この表面層に硬質材料を分散させることにより、ディスクブレーキロータの耐食性及び耐摩耗性を向上させることができる。
以下に、図面を参照して、本発明に係るディスクブレーキロータの実施形態に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係るディスクブレーキロータを含む制動装置の要部を示した図である。なお、製造装置の構成に関しては、図3を用いて、既に説明したので、以下に詳細な説明は省略する。
図1に示すように、ディスクブレーキは、回転するディスクブレーキロータ1と、非回転のブレーキパッド5を備えている。ブレーキ作動時には、ブレーキパッド5は、回転するディスクブレーキロータ1に押し付けられる。従来と同様に、ディスクブレーキロータ1の母材11は鋳鉄であり、ブレーキパッド5は焼結体又は摩擦材を樹脂等で結合させた成形体からなる。
ディスクブレーキロータ1は、ブレーキパッドが押し付けられる摩擦面を有しており、ディスクブレーキロータ1は、鋳鉄製のディスクブレーキロータであり、前述したように、ブレーキパッド5が押圧されることにより、ディスクブレーキロータ1の回転が制動される。
このディスクブレーキロータ1の母材11の表面には、表面層12が形成されている。この表面層12は、Fe−C−N系化合物を主材とし、鋳鉄よりも硬質の硬質材料(図中の粒子状の点)を分散して含有しており、母材11にも、硬質材料が分散していてもよい。この硬質材料は、ニオブ炭化物の粒子、バナジウム炭化物の粒子、及びステダイトの相の少なくとも一種を含む材料である。
このようなディスクブレーキロータ1は、溶湯に、ニオブ、バナジウム、又はリンを添加し、所定の冷却温度及び冷却速度で、鋳型内において鋳造することにより、硬質材料である、ニオブ炭化物、バナジウム炭化物、又はステダイトを析出させる。本実施形態では、これらの材料のいずれか一種を含んでいるが、これらの硬質材料を全て含んでいてもよく、これらの2種を含んでいてもよい。
例えば、鋳鉄材料(JIS規格:FC200)である場合、鋳鉄材料にニオブ炭化物を析出するには、この鋳鉄材料の溶湯にニオブを0.1〜0.5質量%添加することがより好ましい。また、鋳鉄材料にバナジウム炭化物を析出するには、この鋳鉄材料の溶湯にバナジウムを0.1〜0.5質量%添加することがより好ましい。さらに、鋳鉄材料にステダイトを析出させる場合には、この鋳鉄材料の溶湯にリンを0.5〜2.0質量%添加することが好ましい。
次に、鋳造されたディスクブレーキロータに対して、軟窒化処理を行う。具体的には、軟窒化処理は、溶融シアン化物の塩浴中に、ディスクブレーキロータを所定時間浸漬させることにより行う。塩浴中で行うことにより、ディスクブレーキロータに、低温かつ短時間で5〜40μmの厚さを有したFe−C−N系化合物を含む軟窒化処理層を得ることができる。
このようにして得られたディスクブレーキロータ1は、軟窒化処理をディスクブレーキロータ1の表面層12にFe−C−N系化合物を含むことによりディスクブレーキロータの錆を抑制することができる。さらに、鋳造時に、鋳鉄よりも硬質の硬質材料は、ニオブ炭化物の粒子、バナジウム炭化物の粒子、及びステダイトの相の少なくとも一種を含む材料を分散して析出させたので、表面層12にも、これらの材料も分散して析出する。
そして、表面層12に、析出させた硬質材料を分散して含有することにより、Fe−C−N系化合物の表面層12からの脱離を抑制することができる。これにより、ディスクブレーキロータ1の表面層12の耐食性を確保し、さらには、耐食性を有した表面層12の耐摩耗性を向上させることができる。
本発明に以下の実施例に基づいて説明する。
(実施例)
まず、ディスクブレーキロータの素材となる鋳鉄材料(JIS規格:FC200)を準備した。そして、鋳鉄材料(JIS規格:FC200)を溶融して溶湯とし、この溶湯にニオブを0.1〜0.5質量%、バナジウムを0.1〜0.5質量%、リンを0.5〜2.0質量%添加して、ディスクブレーキロータの鋳型内にこの溶湯を射出成形し、冷却温度を制御して、少なくとも表面層に、ニオブ炭化物、バナジウム炭化物、及びステダイトを鋳造品(ディスクブレーキロータ)内に分散して析出させた。
次に、鋳造したディスクブレーキロータを、所定の温度で溶融したシアン化物の塩浴内に60分間浸漬させて、ディスクブレーキロータの表面層に軟窒化処理を行った。この結果、ディスクブレーキロータの表面層として、Fe−C−N系化合物を主材として、ニオブ炭化物の粒子、バナジウム炭化物の粒子、及びステダイトの相が分散して析出した層を得た。
[評価方法]
JIS Z 2371に基づく5%塩水噴霧テストにより実施したもので、初速度:50km/h ,減速度:0.15G,温度:100℃、制動回数:2000回で、防錆試験を含む摩擦試験を行った。そして、ディスクブレーキロータの錆の面積率を測定した。この結果を、図2に示す。
(比較例1)
実施例と同じように、ディスクブレーキロータを製作した。実施例と相違する点は、溶湯にニオブ、バナジウム、及びリンを添加せずに鋳造を行った点と、ディスクブレーキロータの表面に軟窒化処理を行う替わりに、リン酸皮膜処理を行った点である。そして、実施例と同じ条件で摩擦試験を行った。この結果を図2に示す。
(比較例2)
実施例と同じように、ディスクブレーキロータを製作した。実施例と相違する点は、ディスクブレーキロータの表面に軟窒化処理を行っていない点(表面層に硬質材料のみを析出させた点)である。そして、実施例と同じ条件で摩擦試験を行った。この結果を図2に示す。
(比較例3)
実施例と同じように、ディスクブレーキロータを製作した。実施例と相違する点は、溶湯にニオブ、バナジウム、及びリンを添加せずに鋳造を行った点(軟窒化処理のみを行った点)である。そして、実施例と同じ条件で摩擦試験を行った。この結果を図2に示す。
[結果及び考察]
比較例1〜3に比べて、実施例1のディスクブレーキロータは、ロータの摩耗量も少なく、錆面積率も低かった。
[考察]
この結果から、比較例1のリン酸皮膜処理をしたものは、評価試験の初期の段階では、耐食性があるので錆難いが、このリン酸皮膜が試験を進めるに従って摩耗し、これにより、実施例に比べ、錆面積率が高くなったものと考えられる。また、比較例2のように硬質材料を析出させたものは、その表面の耐食性が充分であるものとは言えず、これにより、実施例に比べ錆面積率は高くなったものと考えられる。さらに、比較例3のように軟窒化処理を行ったものは、耐食性は優れているが、前述した摩耗形態により表面の摩耗が進み、これにより、実施例に比べ、摩耗量が多くなったと考えられる。
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、硬質材料として、ニオブ炭化物、バナジウム炭化物、又はステダイトのいずれかを表面層に含んでいたが、表面層には、これらの硬質材料を全て含んでいてもよく、これらの2種を含んでいてもよい。
また、本実施形態は、ディスクブレーキロータ及びその製造方法について述べたが、耐食性及び耐摩耗性が要求されるブレーキドラム、クラッチのプレッシャープレート、フライホイール等に利用してもよい。
本実施形態に係るディスクブレーキロータを含む制動装置の要部を示した図。 実施例及び比較例1〜3に係る防錆試験を含む摩擦試験の結果を示した図。 従来のディスクブレーキロータを含む制動装置の全体構成図。
符号の説明
1:ディスクブレーキロータ、11:母材、12:表面層

Claims (4)

  1. 鋳鉄製の母材の表面に、Fe−C−N系化合物を主材とし、前記鋳鉄よりも硬質の硬質材料を分散して含有する表面層を形成したことを特徴とするディスクブレーキロータ。
  2. 前記硬質材料は、ニオブ炭化物、バナジウム炭化物、及びステダイトの少なくとも一種を含む材料であることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキロータ。
  3. 鋳鉄製の母材の少なくとも表面層に、前記鋳鉄よりも硬質の硬質材料が分散して析出するように、ディスクブレーキロータを鋳造する工程と、
    該鋳造されたディスクブレーキロータの前記表面層に、軟窒化処理を行う工程と、を含むことを特徴とするディスクブレーキロータの製造方法。
  4. 前記析出させる硬質材料は、ニオブ炭化物、バナジウム炭化物、及びステダイトの少なくとも一種を含む材料であることを特徴とする請求項3に記載のディスクブレーキロータの製造方法。
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