JP2010053422A - 酸化物体とその製造方法、及び圧電素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】高圧を要することなく、Bi欠陥を抑制でき、数十μm程度と比較的厚くかつ緻密な構造を得ることが可能な、Bi系ペロブスカイト型酸化物を主成分する酸化物体を提供する。
【解決手段】酸化物体13は、基材11上に形成され、AサイトがBiを主成分とするBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とするものであり、下地12との界面及びその近傍にアンカーリング層が形成されている。酸化物体13は、エアロゾル化されたセラミックス原料粉を基材11上に衝突させて、原料粉の破砕物を基材11上に堆積させる堆積工程を有する製造方法により製造されたものである。
【選択図】図1
【解決手段】酸化物体13は、基材11上に形成され、AサイトがBiを主成分とするBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とするものであり、下地12との界面及びその近傍にアンカーリング層が形成されている。酸化物体13は、エアロゾル化されたセラミックス原料粉を基材11上に衝突させて、原料粉の破砕物を基材11上に堆積させる堆積工程を有する製造方法により製造されたものである。
【選択図】図1
Description
本発明は、AサイトがBiを主成分とするBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とする酸化物体、及びこれを用いた圧電素子に関するものである。
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等のペロブスカイト型酸化物は良好な圧電性及び強誘電性を有し、圧電アクチュエータ及び強誘電体メモリ(FeRAM)等の用途に利用されている。環境負荷を考慮すれば、Pb含有量は少ないことが好ましく、Pbを含まない非鉛系がより好ましい。
非鉛系のペロブスカイト型酸化物において、より高圧電性能を有する新規材料開発が進められている。例えば、AサイトがBiを主成分とする非鉛系のBi系ペロブスカイト型酸化物は、理論上鉛系代替の高圧電特性が期待できる材料として注目されている。しかしながら、その殆どは常圧での高温焼成ではペロブスカイト型構造を取りにくく、取り得ないものもある。
現在、バルクセラミックスにおいて、常圧にて製造可能なBi系ペロブスカイト型酸化物はBiFeO3だけである。BiFeO3は優れた強誘電性を有する材料であり、上記用途への応用が期待されている。BiFeO3は磁性体でもあり、マルチフェロイック材料としても注目を集めている。各種デバイスへの応用を考えた場合、バルクセラミックスよりも膜として形成できることが好ましい。非特許文献1,2には、TiドープBiFeO3膜が報告されている。
非特許文献3のp.506表1に、高圧合成法によってのみ製造可能なペロブスカイト型酸化物の例が挙げられている。この表には、BiCoO3,BiZn1/2Ti1/2O3,BiNiO3,BiScO3,BiCrO3,BiMnO3,BiInO3,BiAlO3,BiNi1/2Mn1/2O3,BiCo1/2Mn1/2O3,BiMg1/2Ti1/2O3,及びBiAg1/2Ti1/2O3が挙げられている。この表には、これらBi系ペロブスカイト型酸化物の製造には4〜15GPaの高圧が必要であることが記載されている。しかしながら、高圧下での焼成は装置構成が複雑であり、またそのプロセスは容易でない。
非特許文献4には、高圧合成法によるBiCoO3−BiFeO3系におけるMPB組成の決定に関する研究が報告されている。
非特許文献4には、高圧合成法によるBiCoO3−BiFeO3系におけるMPB組成の決定に関する研究が報告されている。
高圧下での焼成でないとペロブスカイト型の結晶構造を取り得ないBi系酸化物を、常圧でのバルク焼成及び薄膜にてペロブスカイト構造をとりやすいBiFeO3との固溶体とすることによりペロブスカイト型の結晶構造を作り出すことが試みられている。非特許文献5には、SrTiO3基板上に、BiFeO3にBiAlO3を0−50モル%の範囲で固溶させたペロブスカイト型構造のBi(Fe,Al)O3膜が報告されている。非特許文献6には、SrTiO3基板上に、BiFeO3にBiCoO3を0−33モル%の範囲で固溶させたペロブスカイト型構造のBi(Fe,Co)O3膜が報告されている。
非鉛系のペロブスカイト型酸化物として、チタン酸バリウム(BaTiO3)が知られている。特許文献1には、BaTiO3にBiFeO3を固溶させたペロブスカイト型酸化物膜が開示されている。特許文献1に記載のペロブスカイト型酸化物は下記式で表されるものである。
(Bi1−x,Bax)(Fe1−x,Tix)O3
上記式中、0<x<1であり、実施例では0.05≦x≦0.60の範囲で成膜が行われている(特許文献1の請求項1、段落0060)。
特開2007-287745号公報
APPLIED PHYSICS LETTERS 89, 052903, 2006
J.Phys.D: Appl. Phys. 40, 7530-7533, 2007
セラミックス 2008.7 vol.43, 505-510
強誘電体応用会議FMA25(2008)予稿集P191
M.Okada et al, Japanese J. of Applied Physics, Vol. 43, 9B, p.6609-6645, 2004
S. Yasui et al, Japanese J. of Applied Physics, Vol. 46, 10B, p.6948-6951, 2007
(Bi1−x,Bax)(Fe1−x,Tix)O3
上記式中、0<x<1であり、実施例では0.05≦x≦0.60の範囲で成膜が行われている(特許文献1の請求項1、段落0060)。
従来、ペロブスカイト型酸化物膜の成膜方法としては、スパッタ法、パルスレーザデポジション法(PLD法)、及び化学気相成長法(CVD法)等の気相法、あるいはゾルゲル法等の液相法が一般的である。
超音波モータ等の用途では、ペロブスカイト型酸化物膜に数十μm程度の比較的厚い膜厚が求められる。しかしながら、上記一般的な気相法では膜厚を厚くするのが難しい傾向にあり、数十μm程度の膜厚を得るのは難しい。液相法では、比較的膜厚を厚くできるものの、焼成時に開気孔(オープンエア)ができるため、緻密膜が得られにくい傾向にある。
通常の気相法でBi系ペロブスカイト型酸化物を製造しようとする場合、Biが揮発しやすく、Bi欠陥が生じやすい傾向にあり、所望組成を得ることが難しいと考えられる。
通常の気相法でBi系ペロブスカイト型酸化物を製造しようとする場合、Biが揮発しやすく、Bi欠陥が生じやすい傾向にあり、所望組成を得ることが難しいと考えられる。
また、BiFeO3を除けば、公知の多くのBi系ペロブスカイト型酸化物は高圧合成法によらなければ製造することができない。上記したように、高圧下での焼成は装置構成が複雑であり、またそのプロセスは容易でない。しかも、製造条件のパラメータに圧力が増える分、好適な製造条件を見つけるのが難しい。好適な製造条件を見出せても、温度及び圧力の制御が難しいため、相分離が起こりやすく、完全な固溶体を得ることが難しい。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高圧を要することなく、Bi欠陥を抑制でき、数十μm程度と比較的厚くかつ緻密な構造を得ることが可能な、Bi系ペロブスカイト型酸化物を主成分する酸化物体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明はまた、圧電性能に優れたBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分する酸化物体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明はまた、圧電性能に優れたBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分する酸化物体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明の第1の酸化物体は、基材上に形成され、AサイトがBiを主成分とするBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とする酸化物体において、
下地との界面及びその近傍にアンカーリング層が形成されていることを特徴とするものである。
下地との界面及びその近傍にアンカーリング層が形成されていることを特徴とするものである。
基材としては各種基板が挙げられる。基材上には電極等の層が形成されていても構わない。
本明細書において、「Aサイトの主成分」はAサイト中80モル%以上の成分と定義する。「酸化物体の主成分」は、80モル%以上の成分と定義する。
本発明の第1の酸化物体は、一般にセラミックスの製造において、焼成温度を下げるあるいは焼結しやすくする等の目的で添加される各種助剤等の添加剤、その他の任意の成分を含むことができる。
本明細書において、「Aサイトの主成分」はAサイト中80モル%以上の成分と定義する。「酸化物体の主成分」は、80モル%以上の成分と定義する。
本発明の第1の酸化物体は、一般にセラミックスの製造において、焼成温度を下げるあるいは焼結しやすくする等の目的で添加される各種助剤等の添加剤、その他の任意の成分を含むことができる。
本発明の第1の酸化物体は、平均結晶粒径が1.0μm以下であることが好ましい。
本明細書において、「平均結晶粒径」はwinroofを用いて算出するものとする。はじめに断面SEM像を得、これに含まれる多数の結晶粒の円相当径を各々計測して、その平均値を算出し、この値を結晶平均粒径と定義する。円相当径の計測の際には、バックグランド処理・ノイズ除去・閾値による2値化・穴埋め処理を行うものとする。
本明細書において、「平均結晶粒径」はwinroofを用いて算出するものとする。はじめに断面SEM像を得、これに含まれる多数の結晶粒の円相当径を各々計測して、その平均値を算出し、この値を結晶平均粒径と定義する。円相当径の計測の際には、バックグランド処理・ノイズ除去・閾値による2値化・穴埋め処理を行うものとする。
本発明の第1の酸化物体において、前記Bi系ペロブスカイト型酸化物は、BサイトがFeを含むことが好ましい。
本発明の第1の酸化物体において、前記Bi系ペロブスカイト型酸化物は下記一般式(P)で表されることが好ましい。
(Aa,Bb)(Cc,Dd,Xx)O3 ・・・(P)
(式(P)中、符号等の条件は以下の通りである。
A:Aサイト元素である。A=Bi、0.8≦a。
B:1種又は複数種のAサイト元素である。BはK,Ba,及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。0≦b<1.0。
C:Bサイト元素である。C=Fe、0<c<1.0。
D:1種又は複数種のBサイト元素である。DはAl,Co,Sc,Ga,Y,In,Mn(III),Zn,Cr,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。0≦d<1.0。
0<b+d。
X:1種又は複数種のBサイト元素である。CとDの化学式上の平均価数よりも化学式上の平均価数が大きい元素である。0≦x<1.0。
O:酸素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
本発明の第1の酸化物体において、前記Bi系ペロブスカイト型酸化物は下記一般式(P)で表されることが好ましい。
(Aa,Bb)(Cc,Dd,Xx)O3 ・・・(P)
(式(P)中、符号等の条件は以下の通りである。
A:Aサイト元素である。A=Bi、0.8≦a。
B:1種又は複数種のAサイト元素である。BはK,Ba,及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。0≦b<1.0。
C:Bサイト元素である。C=Fe、0<c<1.0。
D:1種又は複数種のBサイト元素である。DはAl,Co,Sc,Ga,Y,In,Mn(III),Zn,Cr,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。0≦d<1.0。
0<b+d。
X:1種又は複数種のBサイト元素である。CとDの化学式上の平均価数よりも化学式上の平均価数が大きい元素である。0≦x<1.0。
O:酸素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
前記一般式(P)で表されるBi系ペロブスカイト型酸化物の好適な態様としては、d>0であり、DがAl,Co,Mn(III),及びZnからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むものが挙げられる。
前記一般式(P)で表されるBi系ペロブスカイト型酸化物の好適な態様としては、b>0であり、Bがランタニド元素を含むものが挙げられる。かかる態様において、BがSm,Nd,La,及びDyからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むものが好ましい。
前記一般式(P)で表されるBi系ペロブスカイト型酸化物の好適な態様としては、x>0であり、XがSi,Ti,Mn(IV),Zr,Ge,Nb,W,Mo,Ta,Hf,及びSnからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むものが挙げられる。
Bサイト元素であるDとXの選択肢にはいずれもMnが含まれているが、()内に価数を明記してあるように、DとしてのMnは3価であり、XとしてのMnは4価である。
Bサイト元素であるDとXの選択肢にはいずれもMnが含まれているが、()内に価数を明記してあるように、DとしてのMnは3価であり、XとしてのMnは4価である。
本発明の第1の酸化物体は、モルフォトロピック相境界又はその近傍の組成を有することが好ましい。
「MPBの近傍」とは、電界をかけた時に相転移する領域のことである。
本発明の第1の酸化物体は、電界印加により少なくとも一部の結晶相が相転移可能なものであることが好ましい。
本発明の第1の酸化物体の形態としては、酸化物膜が挙げられる。
「MPBの近傍」とは、電界をかけた時に相転移する領域のことである。
本発明の第1の酸化物体は、電界印加により少なくとも一部の結晶相が相転移可能なものであることが好ましい。
本発明の第1の酸化物体の形態としては、酸化物膜が挙げられる。
本発明の酸化物体の製造方法は、
AサイトがBiを主成分とするBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とする酸化物体の製造方法において、
エアロゾル化されたセラミックス原料粉を基材上に衝突させて、前記原料粉の破砕物を前記基材上に堆積させる堆積工程を有することを特徴とするものである。
AサイトがBiを主成分とするBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とする酸化物体の製造方法において、
エアロゾル化されたセラミックス原料粉を基材上に衝突させて、前記原料粉の破砕物を前記基材上に堆積させる堆積工程を有することを特徴とするものである。
本発明の第2の酸化物体は、AサイトがBiを主成分とするBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とする酸化物体において、
エアロゾル化されたセラミックス原料粉を基材上に衝突させて、前記原料粉の破砕物を前記基材上に堆積させる堆積工程を有する製造方法により製造されたものであることを特徴とするものである。
エアロゾル化されたセラミックス原料粉を基材上に衝突させて、前記原料粉の破砕物を前記基材上に堆積させる堆積工程を有する製造方法により製造されたものであることを特徴とするものである。
本発明の圧電素子は、上記本発明の第1又は第2の酸化物体と、該酸化物体に対して電界を印加する電極とを備えたことを特徴とするものである。
本発明によれば、高圧を要することなく、Bi欠陥を抑制でき、数十μm程度と比較的厚くかつ緻密な構造を容易に得ることが可能な、Bi系ペロブスカイト型酸化物を主成分する酸化物体及びその製造方法を提供することができる。
本発明によれば、圧電性能に優れたBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分する酸化物体及びその製造方法を提供することができる。
本発明によれば、圧電性能に優れたBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分する酸化物体及びその製造方法を提供することができる。
「酸化物体」
本発明者は、Bi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とする酸化物体をエアロゾルデポジション法(AD法)により製造することに成功した(後記実施例1,2を参照)。
本発明の第1の酸化物体は、基材上に形成され、AサイトがBiを主成分とするBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とする酸化物体において、
下地との界面及びその近傍にアンカーリング層が形成されていることを特徴とするものである。
本発明の第2の酸化物体は、AサイトがBiを主成分とするBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とする酸化物体において、
エアロゾル化されたセラミックス原料粉を基材上に衝突させて、前記原料粉の破砕物を前記基材上に堆積させる堆積工程を有する製造方法(=AD法)により製造されたものであることを特徴とするものである。
本発明の第1,第2の酸化物体の形態としては、酸化物膜等が挙げられる。
本発明者は、Bi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とする酸化物体をエアロゾルデポジション法(AD法)により製造することに成功した(後記実施例1,2を参照)。
本発明の第1の酸化物体は、基材上に形成され、AサイトがBiを主成分とするBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とする酸化物体において、
下地との界面及びその近傍にアンカーリング層が形成されていることを特徴とするものである。
本発明の第2の酸化物体は、AサイトがBiを主成分とするBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とする酸化物体において、
エアロゾル化されたセラミックス原料粉を基材上に衝突させて、前記原料粉の破砕物を前記基材上に堆積させる堆積工程を有する製造方法(=AD法)により製造されたものであることを特徴とするものである。
本発明の第1,第2の酸化物体の形態としては、酸化物膜等が挙げられる。
本発明の酸化物体の製造方法は、AサイトがBiを主成分とするBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とする酸化物体の製造方法において、
エアロゾル化されたセラミックス原料粉を基材上に衝突させて、前記原料粉の破砕物を前記基材上に堆積させる堆積工程を有することを特徴とするものである。
エアロゾル化されたセラミックス原料粉を基材上に衝突させて、前記原料粉の破砕物を前記基材上に堆積させる堆積工程を有することを特徴とするものである。
「エアロゾル」とは、気体中に浮遊している固体や液体の微粒子のことを言う。AD法は焼結プロセスが必須ではなく、比較的低温でセラミックス等の膜を成膜できる方法として知られている。AD法は、噴射堆積法又はガスデポジション法とも呼ばれる。AD法では、原料粉を下地の表面に衝突させるので、原料粉あるいはその破砕物が下地の表層に食い込んで、アンカーリング層と称される層が形成される。本発明の第1の酸化物体は、本発明の第2の酸化物体を換言したものである。
AD法によって製造された酸化物体は、AD法に特有な様々な特徴を有するものとなる。上述したように、AD法では、原料粉を下地の表面に衝突させるので、原料粉あるいはその破砕物が下地の表層に食い込んで、下地との界面付近に凹凸・食込みが生じる。この現象は「アンカーリング」と呼ばれ、下地との界面及びその近傍にアンカーリング層と称される層が形成される。通常の気相法や液相法では、このような下地への凹凸・食込みは見られない。
原料粉あるいはその破砕物が下地の表層に食い込む深さは、下地の材質、原料粉の組成、原料粉の平均粉子径、及び原料粉の衝突速度等の条件により異なるが、例えば10〜300nm程度である。すなわち、アンカーリング層の凹凸差は例えば10〜300nm程度である。
例えば、SEM等により基材/酸化物体の断面を観察して、基材/酸化物体の界面近傍のアンカーリング層の有無を見ることで、酸化物体がAD法により製造されたものであるかどうかを識別することができる。SEM断面観察用のサンプルは、基材/酸化物体の劈開あるいはFIB等により調製できる。アンカーリング層については、図4の劈開サンプルのSEM断面写真を参照されたい。
AD法により製造された酸化物体では、アンカーリング層部分とそれ以外の部分との間に、TEMによる電子線回折像に違いが出る可能性がある。アンカーリング層では、原料粉の結晶構造が比較的保持されやすいと考えられる。そのため、アンカーリング層部分ではTEM電子線回折像にスポットが見られ、それ以外の部分(例えば、酸化物体の中央部)ではTEM電子線回折像がハローになるという違いが出る可能性がある。
AD法による非鉛系のペロブスカイト型酸化物の製造は、下記の特許文献及び非特許文献において報告されている。下記特許文献2,3及び非特許文献7,8には、AD法による(Na,K,Li)NbO3の製造が報告されている。非特許文献9には、AD法による(Na,K,Li,Ba,Sr)(Nb,Ta,Zr)O3の製造が報告されている。いずれもAサイトがK及びNaを含みBサイトがNbを含むKNN系であり、AD法によるBi系ペロブスカイト型酸化物の製造は過去に報告されていない。
特許文献2:特開2007-42740号公報(請求項1及び請求項11等)、
特許文献3:特開2007-324538号公報(請求項1)、
非特許文献7:APL90-152901-2007、
非特許文献8:APL92-012905-2008、
非特許文献9:第115回電子セラミック・プロセス研究会 鶴見敬章 「非鉛圧電材料とその応用」 配布資料。
特許文献2:特開2007-42740号公報(請求項1及び請求項11等)、
特許文献3:特開2007-324538号公報(請求項1)、
非特許文献7:APL90-152901-2007、
非特許文献8:APL92-012905-2008、
非特許文献9:第115回電子セラミック・プロセス研究会 鶴見敬章 「非鉛圧電材料とその応用」 配布資料。
本発明では、原料粉をエアロゾル化させ、これを基材上に衝突させて原料粉中の一次粒子を破砕せしめ、原料粉の破砕物を基材上に堆積させる。AD法では、原料粉を含むエアロゾルが基材に対して大きな運動エネルギーで衝突する。この際、多くの一次粒子が破砕されて、より細かい粒子径の破砕物となって、基材上に堆積する。AD法では、これら微細な破砕物の堆積によって、開気孔(オープンポア)がない若しくは極めて少ない非常に緻密な酸化物体を基材に対して密着性良く形成することができる。
「緻密の度合い」は相対密度を指標として評価できる。「相対密度」とは、理論密度に対する実測密度の割合を表すものであり、次式で表される。
相対密度=(実測密度/理論密度)×100(%)
実測密度はアルキメデス法によって測定することが可能であり、測定装置としては例えば、AlfaMirage社のSD200Lを用いることができる。
本発明では例えば、相対密度が95%以上の緻密な酸化物体を形成することができる。
相対密度=(実測密度/理論密度)×100(%)
実測密度はアルキメデス法によって測定することが可能であり、測定装置としては例えば、AlfaMirage社のSD200Lを用いることができる。
本発明では例えば、相対密度が95%以上の緻密な酸化物体を形成することができる。
原料粉の平均一次粒子径は特に制限されない。原料粉は必要に応じて、あらかじめAD法に適した平均一次粒子径及び粒度分布となるよう分級してから、堆積工程を実施することができる。AD法では、原料粉の基材に対する衝突エネルギーにより、原料粉中の一次粒子が破砕される。破砕物の粒径が小さくなる程、より緻密な酸化物体が得られる。エアロゾルの噴射速度等の他のAD条件が同一であれば、原料粉の一次粒子径が大きい程、その運動エネルギーが大きくなるので、基材に対する衝突エネルギーが大きくなる傾向にある。原料粉の平均一次粒子径は特に制限されず、例えば0.1〜1.5μmが好ましく、0.3〜1.5μm程度がより好ましい。
本明細書において、「原料粉の平均一次粒子径及び粒度分布」は、日機装株式会社製の粒度分布測定機(MICROTRAC−MT−3000)を用いて、粒度分布測定を行うものとする。この粒度分布測定機は、測定原理として、マイクロトラック法(レーザ回折・散乱法又は光散乱法とも呼ばれる)を利用している。マイクロトラック法とは、粒子に光を照射した場合に、散乱される光量及びパターンが粒径に応じて異なるという現象を利用した粒度分布測定方法であり、乾式又は湿式で測定することができる。本明細書においては、特に明記しない限り、分散媒体として、0.1質量%のヘキサメタリン酸水溶液を用いた湿式により測定を行うものとする。
堆積工程の基材温度及び圧力は特に制限されず、所望組成に応じて適宜設計できる。AD法では、常圧若しくは比較的常圧に近い圧力下で、通常の気相法に比較してより低温で酸化物体を製造することができる。
堆積工程後に、堆積工程よりも高い温度で熱処理するアニール工程を実施しても構わない。アニール工程を実施すると、結晶粒の粒成長が起こり、平均結晶粒径は大きくなる。したがって、必要に応じてアニール工程を実施して結晶粒径を調整することができる。かかるアニール処理を施すことで、より高機能が発現する場合がある。
本発明の酸化物体の平均結晶粒径は特に制限されない。本発明の酸化物体の平均結晶粒径は小さい方が好ましい。平均結晶粒径が小さい方が個々のドメインが小さくなり、全体に占めるドメインウォールの量が大きくなり、より大きな圧電性能が得られる。本発明の酸化物体の平均結晶粒径は例えば2.0μm以下が好ましく、1.0μm以下が好ましい。
近年の圧電体の研究では、隣接するドメイン間に形成されるドメインウォールは外部電界に対して敏感に反応して格子歪みを発生させるため、ドメインよりもドメインウォールにおいて大きな圧電性能が得られることが報告されている。
例えば、山梨大学の和田智志准教授は、2008年6月26日北トピアにて行われた「圧電材料における基礎・応用・評価法とドメインエンジニアリング技術」(新技術情報センター主催セミナー、http://www.singijutu.com/005524.html)において、ドメインウォールに関する研究報告を行っている。和田智志准教授は、BaTiO3の単結晶もしくはバルクセラミックスについて熱処理と印加電界を工夫することでドメイン構造を制御し、通常のドメインとドメインウォールとの体積比の異なる複数のサンプルを調製している。そして、通常のドメインとドメインウォールとの体積比と圧電定数の測定結果とから通常のドメインとドメインウォールの圧電定数を各々求めており、通常のドメイン領域ではd33=90〜224pC/Nであるのに対し、ドメインウォール領域ではd33≒80,000pC/Nにも達すると報告している。
本発明の酸化物体の平均結晶粒径は0.3μm以上が好ましい。本発明はAD法を採用しているので、原料粉の平均一次粒子径及び粒度分布、原料粉の基材に対する衝突条件、及び必要に応じてアニール工程等を制御することで、酸化物体の平均結晶粒径を調整することができる。
AD法では、高圧を要することなく、数十μm程度と比較的厚く、かつ緻密な構造のBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分する酸化物体を製造することができる。AD法ではランダム配向な酸化物体が得られる。
本発明では、所望組成に合わせて原料粉を用意することで、任意の組成のBi系酸化物体を得ることができる。本発明の酸化物体はBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とするものであるので、所望組成に合わせて、原料粉として1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物粉を用いて、堆積工程を実施することができる。原料のペロブスカイト型酸化物粉としては、通常の固相法により製造されたもの、及び/又は高圧合成法により製造されたものを用いることができる。組成の異なる原料粉を適宜組み合わせることで、組成設計を自由に行うことができる。
本発明では、原料粉として高圧合成法によってのみ製造可能な1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物粉を用いて酸化物体を製造することができる。原料粉として高圧合成法によって製造されたペロブスカイト型酸化物粉と、通常の固相法により製造されたペロブスカイト型酸化物粉とを組み合わせて酸化物体を製造することもできる。原料粉として高圧合成法によってのみしか製造できないペロブスカイト型酸化物粉を用いることで、従来にはない新規な組成のBi系ペロブスカイト型酸化物体を製造することができる。例えば、高圧合成法によってのみしか製造できないが、理論上高圧電性能が得られるBi系ペロブスカイト型酸化物体を製造することができる。原料粉として高圧合成法によって製造されたペロブスカイト型酸化物粉を用いる場合も、堆積工程には高圧を必要としないので、プロセスは容易で低コストである。
本発明者は、AD法によれば、通常の気相法では製造が難しい組成についても、相分離のない完全固溶構造が得られやすいことを見出している。これは、すでにペロブスカイト型構造になっている原料粉を用いることで、通常の気相法では製造が難しい組成についても、ペロブスカイト構造を実現しやすいと考えられる。また、原料粉の各一次粒子が基材に吹き付けられた瞬間に破砕して新規な活性面ができ、瞬時にかつランダムに破砕物の粒子同士が再結合することで、完全固溶構造が得られやすいと考えられる。
複数種類の原料粉を用いる場合、これらをあらかじめ混合してからエアロゾル化させて堆積工程を実施することができる。各原料粉についてエアロゾルを別々に生成させて、これらエアロゾルを同時に基材に噴射させて堆積工程を実施することもできる。後者の場合、別々に生成された複数種類のエアロゾルを異なる噴射ノズルからそれぞれ基材に向けて噴射するようにしてよいし、噴射ノズルの手前で、別々に生成された複数種類のエアロゾルを合流させてから、同じ噴射ノズルから基材に噴射するようにしてよい。
PZT等の公知のペロブスカイト型酸化物において、モルフォトロピック相境界(MPB)及びその近傍で高い圧電性能を示すと言われている。以降、単に「MPB組成」と記載する箇所があるが、MPB及びその近傍の組成を意味するものとする。
本発明の酸化物体はMPB組成に限定されるものではないが、MPB組成とすることで、より高圧電性能が期待でき、好ましい。本発明ではMPB組成の設計も容易である。MPB組成は、Aサイト及びBサイトの構成金属元素のイオン半径の関係から設計・推定することができる。本発明者は先に、AサイトがBiを主成分とする非鉛系ペロブスカイト型酸化物のMPB組成設計に関する特許を出願している(特願2007-10185号)。MPB組成設計についてはこの文献を参照されたい。
本発明の酸化物体はMPB組成に限定されるものではないが、MPB組成とすることで、より高圧電性能が期待でき、好ましい。本発明ではMPB組成の設計も容易である。MPB組成は、Aサイト及びBサイトの構成金属元素のイオン半径の関係から設計・推定することができる。本発明者は先に、AサイトがBiを主成分とする非鉛系ペロブスカイト型酸化物のMPB組成設計に関する特許を出願している(特願2007-10185号)。MPB組成設計についてはこの文献を参照されたい。
AD法では原料粉の組成が製造される酸化物体にそのまま転写されるので、通常の気相法に比べて、所望組成からの組成ずれが起こりにくい。例えば、通常の気相法でBi系ペロブスカイト型酸化物を製造しようとする場合、Biが揮発しやすく、Bi欠陥が生じやすい傾向にあり、所望組成を得ることが難しい傾向にある。AD法では通常の気相法よりも低い温度で酸化物体を製造できるので、Bi欠陥がない若しくは極めて少ない設計通りの組成の酸化物体を安定的に得ることができる。所望組成を安定的に得られることは、圧電性能等の性能が安定的に得られることを意味する。
本発明の酸化物体は、電界印加により少なくとも一部の結晶相が相転移可能なものであることが好ましい。かかる構成では、相転移による体積変化が起こるので、大きな圧電歪が得られ、好ましい。MPB組成とすることで、相転移が起こりやすく、好ましい。
(組成)
以下、本発明の酸化物体の好適な組成について説明する。
本発明の酸化物体において、主成分であるBi系ペロブスカイト型酸化物は、BサイトがFeを含むことが好ましい。
Bi系ペロブスカイト型酸化物としては、BiFeO3が挙げられる。BiFeO3単成分系においては、化学式上は3価であるFeの価数が変動しやすく、Feの一部が2価で存在することが知られている(「背景技術」の項で挙げた非特許文献1のFIG.5を参照)。BiFeO3では、Feの上記価数変動が生じるので、電気的中性条件を満たすために、2価のFe分に対応した酸素欠陥が生じ、これによってリーク電流の問題が生じてしまう。BiFeO3では、Feの価数変動を補償するために、Bサイト元素であるFeの化学式上の平均価数よりも化学式上の平均価数が大きいドナーXをドープすることが好ましい。ドナーXの例示は下記一般式(P)で表されるBi系ペロブスカイト型酸化物のX成分と同様である。
以下、本発明の酸化物体の好適な組成について説明する。
本発明の酸化物体において、主成分であるBi系ペロブスカイト型酸化物は、BサイトがFeを含むことが好ましい。
Bi系ペロブスカイト型酸化物としては、BiFeO3が挙げられる。BiFeO3単成分系においては、化学式上は3価であるFeの価数が変動しやすく、Feの一部が2価で存在することが知られている(「背景技術」の項で挙げた非特許文献1のFIG.5を参照)。BiFeO3では、Feの上記価数変動が生じるので、電気的中性条件を満たすために、2価のFe分に対応した酸素欠陥が生じ、これによってリーク電流の問題が生じてしまう。BiFeO3では、Feの価数変動を補償するために、Bサイト元素であるFeの化学式上の平均価数よりも化学式上の平均価数が大きいドナーXをドープすることが好ましい。ドナーXの例示は下記一般式(P)で表されるBi系ペロブスカイト型酸化物のX成分と同様である。
本発明の酸化物体において、主成分であるBi系ペロブスカイト型酸化物は下記一般式(P)で表されることが好ましい。以下、一般式(P)で表されるBi系ペロブスカイト型酸化物をBi系ペロブスカイト型酸化物(P)と表記する。
(Aa,Bb)(Cc,Dd,Xx)O3 ・・・(P)
(式(P)中、符号等の条件は以下の通りである。
A:Aサイト元素である。A=Bi、0.8≦a。
B:1種又は複数種のAサイト元素である。BはK,Ba,及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。0≦b<1.0。
C:Bサイト元素である。C=Fe、0<c<1.0。
D:1種又は複数種のBサイト元素である。DはAl,Co,Sc,Ga,Y,In,Mn(III),Zn,Cr,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。0≦d<1.0。
0<b+d。
X:1種又は複数種のBサイト元素である。CとDの化学式上の平均価数よりも化学式上の平均価数が大きい元素である。0≦x<1.0。
O:酸素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
(Aa,Bb)(Cc,Dd,Xx)O3 ・・・(P)
(式(P)中、符号等の条件は以下の通りである。
A:Aサイト元素である。A=Bi、0.8≦a。
B:1種又は複数種のAサイト元素である。BはK,Ba,及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。0≦b<1.0。
C:Bサイト元素である。C=Fe、0<c<1.0。
D:1種又は複数種のBサイト元素である。DはAl,Co,Sc,Ga,Y,In,Mn(III),Zn,Cr,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。0≦d<1.0。
0<b+d。
X:1種又は複数種のBサイト元素である。CとDの化学式上の平均価数よりも化学式上の平均価数が大きい元素である。0≦x<1.0。
O:酸素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
ペロブスカイト型酸化物(P)において、AサイトはBi以外の金属元素Bを含んでいても含んでいなくてもよい。本発明は、基本的にはAサイトがPbを含まない非鉛系を対象としているが、Aサイト元素BはPbを含んでいても構わない。Aサイト元素BがPbを含む場合も、PZT等の鉛系に比較してPb含有量を少なくできる。したがって、ペロブスカイト型酸化物(P)は環境に優しい材料である。
BサイトはFe以外の金属元素Dを含んでいても含んでいなくてもよい。ただし、Bi系ペロブスカイト型酸化物(P)において、金属元素Bと金属元素Dとのうち少なくとも一方は必須である。すなわち、ペロブスカイト型酸化物(P)は、BiFeO3に対して、BiDO3,BFeO3,及びBDO3からなる群より選択された少なくとも1種のペロブスカイト型酸化物を固溶させた複数成分系である。
ペロブスカイト型酸化物(P)において、金属元素Xを含んでいても含んでいなくてもよい。金属元素Xは金属元素Cと金属元素Dの化学式上の平均価数よりも化学式上の平均価数が大きいドナー元素である。
本発明者は、上記Feの価数変動はBiFeO3に対して他の成分を固溶させた複数成分系でも同様に起こり得ることを見出している。Bi系ペロブスカイト型酸化物(P)において、Feの価数変動を補償するために、Bサイト元素CとDの化学式上の平均価数よりも化学式上の平均価数が大きいドナーXをドープすることが好ましい。
本明細書において、「リーク電流が発生しやすい」とは、(1)バイポーラ分極−電界ヒステリシス測定で、測定温度=室温、測定周波数=5Hz、印加電界E=200kV/cmの条件において、誘電性が確認できない、若しくは、(2)リーク電流測定(I−V測定)において、印加電界E=200kV/cmの条件において、1.0×10−5A/cm2のリーク電流が発生することにより定義されるものとする。
本発明のペロブスカイト型酸化物の相構造は特に制限されない。従って、複数のペロブスカイト型酸化物の成分が共存した2相〜4相の混晶構造になる場合もあるし、複数のペロブスカイト型酸化物の成分が完全固溶して1つの相になる場合もあるし、その他の構造もあり得る。
Bi系ペロブスカイト型酸化物(P)の好適な態様としては、d>0であり、DがAl,Co,Mn(III),及びZnからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むものが挙げられる。
Bi系ペロブスカイト型酸化物(P)の好適な態様としては、b>0であり、Bがランタニド元素を含むものが挙げられる。かかる態様において、BがSm,Nd,La,及びDyからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むものが好ましい。
Bi系ペロブスカイト型酸化物(P)の好適な態様としては、x>0であり、XがSi,Ti,Mn(IV),Zr,Ge,Nb,W,Mo,Ta,Hf,及びSnからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むものが挙げられる。
ペロブスカイト型酸化物(P)が金属元素Bと金属元素Dとの両方を含む場合、BDO3がペロブスカイト型となるよう、金属元素Bの化学式上の平均価数と金属元素Dの化学式上の平均価数との合計が6価となるよう組成設計することが好ましい。
ペロブスカイト型酸化物(P)の態様としては、以下の(PX)〜(PZ)が挙げられる。以下の(PX)〜(PZ)は組成自体も新規である。
<1>Bia(Fec,Dd,Xx)O3 (式中、d>0,x≧0)・・・(PX)
<2>(Bia,Bb)(Fe,Xx)O3 (式中、b>0,x≧0)・・・(PY)
<3>(Bi,Bb)(Fe,Dd,Xx)O3 (式中、b>0,d>0,x≧0)・・・(PZ)
<2>(Bia,Bb)(Fe,Xx)O3 (式中、b>0,x≧0)・・・(PY)
<3>(Bi,Bb)(Fe,Dd,Xx)O3 (式中、b>0,d>0,x≧0)・・・(PZ)
以下、各態様についてより詳しく説明する。
<1>Bia(Fec,Dd,Xx)O3 (式中、d>0,x≧0)・・・(PX)
BiFeO3は、常圧でのバルク焼成においてもペロブスカイト構造を取り得るものであり、薄膜においてもペロブスカイト構造を容易に取ることができる。
Dは上記式(P)の条件を充足するものであれば特に制限されない。BiDO3は、常圧においてペロブスカイト構造を取り得ない/又は取りにくい酸化物を含むことが好ましい。
<1>Bia(Fec,Dd,Xx)O3 (式中、d>0,x≧0)・・・(PX)
BiFeO3は、常圧でのバルク焼成においてもペロブスカイト構造を取り得るものであり、薄膜においてもペロブスカイト構造を容易に取ることができる。
Dは上記式(P)の条件を充足するものであれば特に制限されない。BiDO3は、常圧においてペロブスカイト構造を取り得ない/又は取りにくい酸化物を含むことが好ましい。
本明細書において「常圧」とは、大気圧近傍の圧力、及び薄膜の成膜方法において一般的な圧力の範囲内での圧力範囲を意味する。圧電体膜の成膜方法は、スパッタ法、パルスレーザデポジション法(PLD法)、及び化学気相成長法(CVD法)等の気相法と、ゾルゲル法等の液相法とに大別され、気相法では10−4〜103Pa(7.6×10−4mTorr〜7.6×103mTorr)程度の範囲、液相法では大気圧下(約105Pa(760Torr))の成膜環境が一般的とされている。
本明細書において、「ペロブスカイト型構造を取り得ない/又は取りにくい」とは、常圧での固相焼結法を用いて、焼結体を作製した場合にペロブスカイト構造を実現できない、またはペロブスカイト構造の他にも異相が確認されるものをさす。その際のペロブスカイト構造の評価は、X線回折(XRD)によって評価を行うものとする。本発明での、XRD測定は、リガク製UltimaIII、標準Cu管球を用いた2θ/ωスキャン(θ・2θスキャン)により行い、膜厚は500nm程度として一般的な方法で測定している。詳細条件は、表1に示すとおりである。
常圧においてBiとペロブスカイト構造を取り得ない/又は取りにくい金属元素としては、Al,Co,Sc,Ga,Y,In,Mn,Zn,Cr,及びNi等が挙げられる。すなわち、DはAl,Co,Sc,Ga,Y,In,Mn(III),Zn,Cr,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。
Bi及びFeの化学式上の価数が3価であることを考慮すれば、Dの平均価数が3価であることが好ましい。Dは、3価の金属元素のみから構成されていてもよいし、平均価数が3価となる、3価より価数の小さい金属元素と3価より価数の大きい金属元素との組合せであってもよいし、平均価数が3価となる、3価より価数の小さい金属元素と3価より価数の大きい金属元素と3価の金属元素との組合せでもよい。
常圧においてBiとペロブスカイト構造を取り得ない/又は取りにくい3価の金属元素としては、Al,Co,Sc,Ga,Y,及びInが挙げられる。常圧においてBiとペロブスカイト構造を取り得ない/又は取りにくい、3価より価数の小さい金属元素と3価より価数の大きい金属元素との組合せとしては、(Zn2+ 0.5Ti4+ 0.5)、(Zn2+ 0.5Zr4+ 0.5)、(Zn2+ 0.5Sn4+ 0.5)、及び(Zn2+ 0.5Nb4+ 0.5)等の2価の金属元素と4価の金属元素との組合せが挙げられる。
x>0の場合、ドナーXによりBサイト全体の平均価数を調整できるので、ペロブスカイト型構造を取る範囲内において、Dの平均価数は3価からずれても構わない。ペロブスカイト型酸化物(PX)の好ましい態様としては、DがAl,Co,Mn(III),及びZnからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む態様が挙げられる。ペロブスカイト型酸化物(PX)はXを含むことが好ましく、XはSi,Ti,及びMn(IV)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが特に好ましい。
ペロブスカイト型酸化物(PX)の具体的な組成としては、
Bia(Fec,Ald)O3、Bia(Fec,Cod)O3、Bia(Fec,Znd)O3、Bia(Fec,(Al,Sc)d)O3、Bia(Fec,Znd)O3、
Bia(Fec,Ald,Six)O3、Bia(Fec,Cod,Six)O3、Bia(Fec,Cod,Tix)O3、Bia(Fec,Znd,Tix)O3、Bia(Fec,(Al,Sc)d,Tix)O3、Bia(Fec,Znd,(Ti,Si)x)O3、及びBia(Fec,Cod,Mnx)O3等が挙げられる。
Bia(Fec,Ald)O3、Bia(Fec,Cod)O3、Bia(Fec,Znd)O3、Bia(Fec,(Al,Sc)d)O3、Bia(Fec,Znd)O3、
Bia(Fec,Ald,Six)O3、Bia(Fec,Cod,Six)O3、Bia(Fec,Cod,Tix)O3、Bia(Fec,Znd,Tix)O3、Bia(Fec,(Al,Sc)d,Tix)O3、Bia(Fec,Znd,(Ti,Si)x)O3、及びBia(Fec,Cod,Mnx)O3等が挙げられる。
単独でペロブスカイト型構造を取りやすいBiFeO3と、単独では常圧においてペロブスカイト型構造を取り得ない/又は取りにくいが、理論上圧電性能及び強誘電性能に優れたペロブスカイト型酸化物となりうる酸化物を含むBDO3とを固溶させることにより、高圧プロセスを要することなく、圧電性能及び強誘電性能に優れた新規組成のペロブスカイト型酸化物を提供することができる。
<2>(Bia,Bb)(Fe,Xx)O3 (式中、b>0,x≧0)・・・(PY)
Aサイト元素Bは、Feとペロブスカイト構造を取る、Biとは異なる少なくとも1種の金属元素であれば特に制限されない。Aサイト元素Bは、平均価数3価の少なくとも1種の金属元素でもよいし、平均価数が3価以外の少なくとも1種の金属元素でもよい。
Aサイト元素Bは、Feとペロブスカイト構造を取る、Biとは異なる少なくとも1種の金属元素であれば特に制限されない。Aサイト元素Bは、平均価数3価の少なくとも1種の金属元素でもよいし、平均価数が3価以外の少なくとも1種の金属元素でもよい。
BがK,Ba,及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。ペロブスカイト型酸化物(PY)はXを含むことが好ましく、XはSi,Ti,Mn(IV),Zr,Ge,Nb,W,Mo,Ta,Hf,及びSnからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。
ペロブスカイト型酸化物(PY)の好ましい態様としては、Bがランタニド元素を含むペロブスカイト型酸化物が挙げられる。中でも、BがSm,Nd,La,及びDyからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。ペロブスカイト型酸化物(PY)はXを含むことが好ましく、XはSi,Ti,及びMn(IV)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが特に好ましい。
ペロブスカイト型酸化物(PY)の具体的な組成としては、
(Bia,Smb)FeO3、(Bia,Lab)FeO3、
(Bia,Smb)(Fec,Six)O3、及び(Bia,Lab)(Fec,Tix)O3等が挙げられる。
(Bia,Smb)FeO3、(Bia,Lab)FeO3、
(Bia,Smb)(Fec,Six)O3、及び(Bia,Lab)(Fec,Tix)O3等が挙げられる。
<3>(Bi,Bb)(Fe,Dd,Xx)O3 (式中、b>0,d>0,x≧0)・・・(PZ)
ペロブスカイト型酸化物(PZ)において、金属元素Dはペロブスカイト型酸化物(PX)のDと同様であり、金属元素Bはペロブスカイト型酸化物(PY)のBと同様である。
ペロブスカイト型酸化物(PZ)において、金属元素Dはペロブスカイト型酸化物(PX)のDと同様であり、金属元素Bはペロブスカイト型酸化物(PY)のBと同様である。
すなわち、BがK,Ba,及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含み、
DがAl,Co,Sc,Ga,Y,In,Mn(III),Zn,Cr,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。
DがAl,Co,Sc,Ga,Y,In,Mn(III),Zn,Cr,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。
Bサイト元素Dとしては、Biとペロブスカイト構造を取り得ない/又は取りにくい元素を含むことが好ましい。この場合、Biとペロブスカイト構造を取り得ない/又は取りにくいBサイト元素Dが、よりペロブスカイト構造を取りやすくするためにAサイト元素Bを添加することができる。かかる材料設計では、Aサイト元素Bが、Bサイト元素Feとペロブスカイト構造を取り得ない/又は取りにくいものであることが好ましい。かかる金属元素としては、Sm,La,Nd,及びDy等が挙げられる。
すなわち、DがAl,Co,Sc,Ga,Y,In,Mn(III),Zn,Cr,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含み、BがSm,Nd,La,及びDyからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。
ペロブスカイト型酸化物(PZ)はXを含むことが好ましく、XはSi,Ti,Mn(IV),Zr,Ge,Nb,W,Mo,Ta,Hf,及びSnからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。XはSi,Ti,及びMn(IV)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが特に好ましい。
ペロブスカイト型酸化物(PZ)の具体的な組成としては、
(Bia,Smb)(Fec,Ald)O3、(Bia,Lab)(Fec,Ald)O3、
(Bia,Smb)(Fec,Ald,Six)O3、及び(Bia,Lab)(Fec,Ald,Tix)O3、等が挙げられる。
(Bia,Smb)(Fec,Ald)O3、(Bia,Lab)(Fec,Ald)O3、
(Bia,Smb)(Fec,Ald,Six)O3、及び(Bia,Lab)(Fec,Ald,Tix)O3、等が挙げられる。
ペロブスカイト型酸化物(PX)〜(PZ)はMPB組成に限定されるものではないが、MPB組成とすることで、より高圧電性能が期待でき、好ましい。
本発明の酸化物体は、主成分であるBi系ペロブスカイト型酸化物以外に、他のペロブスカイト型酸化物、他の酸化物、各種添加元素、及び焼結助剤などの任意成分を含むことができる。
本発明によれば、高圧を要することなく、Bi欠陥を抑制でき、数十μm程度と比較的厚くかつ緻密な構造を得ることが可能な、Bi系ペロブスカイト型酸化物を主成分する酸化物体及びその製造方法を提供することができる。
本発明によれば、組成の設計自由度が高く、しかもBi欠陥を抑制できるので、圧電性能及び強誘電性能に優れたBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分する酸化物体及びその製造方法を提供することができる。
本発明によれば、組成の設計自由度が高く、しかもBi欠陥を抑制できるので、圧電性能及び強誘電性能に優れたBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分する酸化物体及びその製造方法を提供することができる。
本発明によれば、圧電性能を有する酸化物体(=圧電体(圧電体膜等))を提供することができる。本発明の圧電体は、超音波モータ,インクジェット(IJ)式記録ヘッド,磁気記録再生ヘッド,MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)デバイス,マイクロポンプ,超音波探触子等に搭載される圧電アクチュエータ等の用途に好ましく利用できる。
本発明によれば、強誘電性能を有する酸化物体(=強誘電体(強誘電体膜等))を提供することができる。本発明の強誘電体は、強誘電体メモリ(FeRAM)等の強誘電体素子に好ましく利用できる。
本発明によれば、強誘電性能を有する酸化物体(=強誘電体(強誘電体膜等))を提供することができる。本発明の強誘電体は、強誘電体メモリ(FeRAM)等の強誘電体素子に好ましく利用できる。
「圧電素子」
図面を参照して、本発明に係る実施形態の酸化物体、及びこれを備えた圧電素子の構造について説明する。図1は圧電素子の要部断面図(厚み方向の断面図)である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
図面を参照して、本発明に係る実施形態の酸化物体、及びこれを備えた圧電素子の構造について説明する。図1は圧電素子の要部断面図(厚み方向の断面図)である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
図1に示す圧電素子1は、基材11の表面に、下部電極12と圧電体膜13と上部電極14とが順次積層された素子である。圧電体膜13には、下部電極12と上部電極14とにより厚み方向に電界が印加されるようになっている。
基材11としては特に制限なく、シリコン,ガラス,ステンレス(SUS),イットリウム安定化ジルコニア(YSZ),アルミナ,サファイヤ,SiC,及びSrTiO3等の基板が挙げられる。基材11としては、シリコン基板上にSiO2膜とSi活性層とが順次積層されたSOI基板等の積層基板を用いてもよい。
下部電極12の主成分としては特に制限なく、Au,Pt,Ir,IrO2,RuO2,LaNiO3,及びSrRuO3等の金属又は金属酸化物、及びこれらの組合せが挙げられる。上部電極14の主成分としては特に制限なく、下部電極12で例示した材料,Al,Ta,Cr,Cu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、及びこれらの組合せが挙げられる。下部電極12と上部電極14の厚みは特に制限なく、50〜500nmであることが好ましい。
圧電素子1は本発明の酸化物体からなる圧電体膜13を備えたものである。圧電体膜13の膜厚は特に制限されず、500nm〜数十μm程度が好ましい。本発明によれば、数十μm程度の圧電体膜13も容易に得られる。圧電素子1において、圧電体膜13の下地は下部電極12である。圧電体膜13と下部電極12との界面及びその近傍にアンカーリング層が形成されている。
圧電素子1は以上のように構成されている。
圧電素子1は以上のように構成されている。
「AD成膜装置」
図2を参照して、本発明の酸化物体の製造に用いて好適なAD成膜装置の構成例について説明する。上記圧電素子1の圧電体膜13を製造する場合を例として説明する。ここでは説明の簡略化のために、下部電極12が形成された基材11のことを単に「基材11」と記載してある。
図2を参照して、本発明の酸化物体の製造に用いて好適なAD成膜装置の構成例について説明する。上記圧電素子1の圧電体膜13を製造する場合を例として説明する。ここでは説明の簡略化のために、下部電極12が形成された基材11のことを単に「基材11」と記載してある。
図2に示すAD成膜装置2は、エアロゾルの生成が行われるエアロゾル生成部20と、成膜部40と、両者を接続しているエアロゾル搬送管30と、各部の動作を制御する制御部50とを備えている。
エアロゾル生成部20は、エアロゾル生成容器21と、振動台22と、巻き上げガスノズル23と、圧力調整ガスノズル24とを備えている。エアロゾル生成容器21内に原料粉60が仕込まれ、ここでエアロゾルの生成が行われる。エアロゾル生成容器21は、原料粉60を攪拌して効率的にエアロゾルを生成するために、所定の周波数で振動する振動台22の上に設置されている。
巻き上げガスノズル23は、外部のガスボンベから供給されるキャリアガスをエアロゾル生成容器21内に導入することにより、サイクロン流を生成するものである。それにより、エアロゾル生成容器21内の原料粉60が巻き上げられて分散し、エアロゾルが生成される。圧力調整ガスノズル24は、外部のガスボンベから供給されるキャリアガスをエアロゾル生成容器21内に導入することにより、エアロゾル生成容器21内のガス圧を調整するものである。それにより、エアロゾル生成容器21内の圧力と成膜室41内の圧力との差が調整される。
巻き上げガスノズル23及び圧力調整ガスノズル24によって導入されるガスの流量は、流量調整部23a,24aによって調節される。ガスノズル23,24によって供給されるキャリアガスとしては、He、O2、N2、Ar、又はこれらの混合ガス、又は乾燥空気等が用いられる。
エアロゾル生成部20で生成されたエアロゾルは、エアロゾル搬送管30を介して成膜部40に搬送される。成膜室41において、エアロゾル搬送管30はエアロゾルを噴射する噴射ノズル42に接続されている。
成膜部40は、成膜室41と噴射ノズル42とステージ48と排気管49とを備えている。成膜室41の内部は、排気管49に接続されている排気ポンプによって排気可能とされている。成膜時には、成膜室41の内部は所定の減圧状態、好ましくは100Pa以下の減圧状態に保たれる。噴射ノズル42は、所定の形状及び大きさの開口を有しており、エアロゾル生成容器21からエアロゾル搬送管30を介して供給される原料粉のエアロゾルを、基材11に向けて噴射する。噴射ノズル42から噴射されるエアロゾルの速度は、エアロゾル生成容器21と成膜室41との間の圧力差によって決定される。
基材11が固定されるステージ48は、基材11と噴射ノズル42との相対位置及び相対速度を制御するための3次元的に移動可能なステージである。この相対速度を調節することにより、1往復あたりに形成される膜の厚さが制御される。本実施形態においては、ステージ48側を移動させることにより、噴射ノズル42と基材11との相対位置を変化させているが、基材11の位置を固定して噴射ノズル42側を移動させるようにしてもよい。
成膜に際しては、原料粉60がエアロゾル生成容器21内に配置されると共に、基材11がステージ48上に配置される。成膜装置2を駆動すると、エアロゾル生成容器21において生成されたエアロゾルがエアロゾル搬送管30を通って成膜室41に導入され、噴射ノズル42から噴射されて基材11に吹き付けられる。このエアロゾル中の原料粉60が基材11に衝突して破砕され、この破砕物が基材11に堆積する。その際に、制御部50の制御の下で、ステージ48を所定の速度で移動させることにより、ステージ48の移動速度(噴射ノズル42と基材11との相対速度)に応じたレートで、原料粉60と同じ組成を有する圧電体膜(酸化物体)13が成膜される。
エアロゾル生成部20の替わりに、図3に示すエアロゾル生成装置3を用いてもよい。図3Aはエアロゾル生成装置の構成を示す断面図であり、図3Bはエアロゾル生成装置の内部を示す平面図である。
図3A及び図3Bに示すエアロゾル生成装置3は、粉体収納室70及びエアロゾル生成部80を備えている。粉体収納室70は粉体を収納するチャンバであり、その上底部には粉体供給口70aが設けられており、下底部には開口71が形成されている。この開口71を介して、粉体収納室70とエアロゾル生成部80とが連結されている。
粉体収納室70には、モータによって駆動されることにより回転する攪拌羽72が備えられている。この攪拌羽72の回転軸73にはO−リング73aがはめ込まれており、それによって粉体収納室70内の気密が確保される。そのような粉体収納室70に粉体を収納し、攪拌羽72によって粉体を攪拌する。それにより、粉体が開口71から落下し、エアロゾル生成部80に導出される。また、粉体収納室70には、粉体が開口71から導出されるのを補助又は促進するために、アシストガス導入部74が設けられている。アシストガス導入部74は配管及びバルブを含んでおり、配管の先には例えばガスボンベが接続されている。
エアロゾル生成部80には、モータによって駆動されることにより回転する回転盤81が備えられている。回転盤81の回転軸82にはO−リング82aがはめ込まれており、それによってエアロゾル生成部80内の気密が確保される。回転盤81には、所定の幅及び深さを有する溝83が円周に沿って形成されている。回転盤81は、溝83が粉体収納室70の開口71に対向するように配置されている。このような回転盤81は、開口71から落下した粉体を溝83によって受けながら回転することにより、粉体を一定の割合で搬送する。
さらに、エアロゾル生成部80には、分散ガス導入部84及びエアロゾル供給管85が設けられている。分散ガス導入部84は配管及びバルブを含んでおり、配管の先には例えばガスボンベが接続されている。アシストガス及び分散ガスとしては、N2、O2、He、Ar、又はこれらの混合ガス、あるいは乾燥空気等が用いられる。
図3Aに示すように、分散ガス導入部84によってエアロゾル生成部80内に導入される分散ガスの吹き出し口は、回転盤81の溝83に対向するように設けられている。エアロゾル供給管85は、先端の開口部が溝83に対向するように配置された管であり、その他端は、例えばフレキシブルな材料によって形成された配管を介して、図2に示すエアロゾル搬送管30に接続される。
このようなエアロゾル生成装置3において、粉体収納室70に所望の粉体を収納して攪拌羽72を駆動すると共に、エアロゾル生成部80において回転盤81を回転させ、回転盤81の溝83に対して分散ガスを吹き付ける。粉体収納室70に収納された粉体は、攪拌羽72によって攪拌されながら、開口71を通って溝83に落下する。その際に、粉体収納室70にアシストガスを導入することにより、開口71内に気流を形成する。この気流が、粉体の導出を補助又は促進する駆動力として作用する。それにより、粉体は、よりスムーズに開口71から溝83に落下する。溝83に落下した粉体は、回転盤82の回転速度に応じて堆積して搬送される。アシストガスの導入は、連続的でも間欠的でもよい。
一方、回転盤82の溝83においては、そこに吹き付けられた分散ガスが溝83に沿って流れることにより気流が形成されている。この分散ガスは、エアロゾル供給管85の先端部の開口からその内部に流れ込む。その際に、エアロゾル供給管85の周囲には、エアロゾル供給管85の内部に向かう吸引力が発生する。この吸引力により、溝83に堆積していた粉体が分散ガスと共にエアロゾル供給管85に流れ込む。このようにして生成されたエアロゾルは、エアロゾル供給管85からエアロゾル搬送管30(図2)に供給され、エアロゾル搬送管30を介して成膜部40に導入される。
(設計変更)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
本発明に係る実施例について説明する。
(実施例1)BiFeO3
市販のBiFeO3粉を平均一次粒径が0.3〜1.0μm程度になるように分級した。この原料粉を用いて、AD法による成膜を実施した。成膜条件は以下の通りとした。
基板:Pt/Ti/SiO2/Si基板(Si基板上にSiO2とTiとPtとが順次積層された基板)、
基板温度:600℃、
成膜圧力:20Pa、
キャリアガス:酸素。
市販のBiFeO3粉を平均一次粒径が0.3〜1.0μm程度になるように分級した。この原料粉を用いて、AD法による成膜を実施した。成膜条件は以下の通りとした。
基板:Pt/Ti/SiO2/Si基板(Si基板上にSiO2とTiとPtとが順次積層された基板)、
基板温度:600℃、
成膜圧力:20Pa、
キャリアガス:酸素。
成膜後のSEM断面写真を図4に示す。図にはBiFeO3膜と下地であるPt膜との界面及びその近傍にアンカーリング層が形成されていることが示されている。
得られた膜についてX線回折(XRD)測定を行ったところ、結晶性は悪いもののペロブスカイト単相構造であることが確認された。XRDパターンを図5に示す。
基板をPt/Ti/YSZ基板(YSZ基板上にTiとPtとが順次積層された基板)に変えても同様の結果が得られた。
得られた膜についてX線回折(XRD)測定を行ったところ、結晶性は悪いもののペロブスカイト単相構造であることが確認された。XRDパターンを図5に示す。
基板をPt/Ti/YSZ基板(YSZ基板上にTiとPtとが順次積層された基板)に変えても同様の結果が得られた。
(実施例2)Bi(Fe,Co,Mn)O3
通常の固相法によりBi(Fe,Mn)O3粉を製造し、高圧合成法によりペロブスカイト型構造のBiCoO3粉を製造した。いずれについても平均一次粒径が0.3〜1.0μm程度になるように分級した。これら2種類の粉を混合し、最終的にFe/Co/Mn=0.81/0.09/0.10のモル比になるように調整した。得られた原料粉を用いて、AD法による成膜を実施した。成膜条件は以下の通りとした。
基板:Pt/Ti/SiO2/Si基板(Si基板上にSiO2とTiとPtとが順次積層された基板)、
基板温度:600℃、
成膜圧力:20Pa、
キャリアガス:酸素。
成膜後のSEM断面観察を実施したところ、実施例1と同様、Bi(Fe,Co,Mn)O3膜とPt膜との界面及びその近傍にアンカーリング層が形成されていることが確認された。また、得られた膜についてXRD測定を行ったところ、実施例1と同様、結晶性は悪いもののペロブスカイト単相構造であることが確認された。
基板をPt/Ti/YSZ基板(YSZ基板上にTiとPtとが順次積層された基板)に変えても同様の結果が得られた。
通常の固相法によりBi(Fe,Mn)O3粉を製造し、高圧合成法によりペロブスカイト型構造のBiCoO3粉を製造した。いずれについても平均一次粒径が0.3〜1.0μm程度になるように分級した。これら2種類の粉を混合し、最終的にFe/Co/Mn=0.81/0.09/0.10のモル比になるように調整した。得られた原料粉を用いて、AD法による成膜を実施した。成膜条件は以下の通りとした。
基板:Pt/Ti/SiO2/Si基板(Si基板上にSiO2とTiとPtとが順次積層された基板)、
基板温度:600℃、
成膜圧力:20Pa、
キャリアガス:酸素。
成膜後のSEM断面観察を実施したところ、実施例1と同様、Bi(Fe,Co,Mn)O3膜とPt膜との界面及びその近傍にアンカーリング層が形成されていることが確認された。また、得られた膜についてXRD測定を行ったところ、実施例1と同様、結晶性は悪いもののペロブスカイト単相構造であることが確認された。
基板をPt/Ti/YSZ基板(YSZ基板上にTiとPtとが順次積層された基板)に変えても同様の結果が得られた。
本発明の酸化物体は、超音波モータ,インクジェット式記録ヘッド,磁気記録再生ヘッド,MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)デバイス,マイクロポンプ,超音波探触子等に搭載される圧電アクチュエータ、及び強誘電体メモリ等の強誘電体素子に好ましく利用できる。
1 圧電素子
11 基材
12 下部電極(下地)
13 圧電体膜(酸化物体)
14 上部電極
11 基材
12 下部電極(下地)
13 圧電体膜(酸化物体)
14 上部電極
Claims (16)
- 基材上に形成され、AサイトがBiを主成分とするBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とする酸化物体において、
下地との界面及びその近傍にアンカーリング層が形成されていることを特徴とする酸化物体。 - 平均結晶粒径が1.0μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物体。
- 前記Bi系ペロブスカイト型酸化物は、BサイトがFeを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物体。
- 前記Bi系ペロブスカイト型酸化物は下記一般式(P)で表されることを特徴とする請求項3に記載の酸化物体。
(Aa,Bb)(Cc,Dd,Xx)O3 ・・・(P)
(式(P)中、符号等の条件は以下の通りである。
A:Aサイト元素である。A=Bi、0.8≦a。
B:1種又は複数種のAサイト元素である。BはK,Ba,及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。0≦b<1.0。
C:Bサイト元素である。C=Fe、0<c<1.0。
D:1種又は複数種のBサイト元素である。DはAl,Co,Sc,Ga,Y,In,Mn(III),Zn,Cr,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。0≦d<1.0。
0<b+d。
X:1種又は複数種のBサイト元素である。CとDの化学式上の平均価数よりも化学式上の平均価数が大きい元素である。0≦x<1.0。
O:酸素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。) - 前記一般式(P)で表されるBi系ペロブスカイト型酸化物は、
d>0であり、DがAl,Co,Mn(III),及びZnからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項4に記載の酸化物体。 - 前記一般式(P)で表されるBi系ペロブスカイト型酸化物は、
b>0であり、Bがランタニド元素を含むことを特徴とする請求項4に記載の酸化物体。 - 前記一般式(P)で表されるBi系ペロブスカイト型酸化物は、
BがSm,Nd,La,及びDyからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項6に記載の酸化物体。 - 前記一般式(P)で表されるBi系ペロブスカイト型酸化物は、
x>0であり、XがSi,Ti,Mn(IV),Zr,Ge,Nb,W,Mo,Ta,Hf,及びSnからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項4に記載の酸化物体。 - モルフォトロピック相境界又はその近傍の組成を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の酸化物体。
- 電界印加により少なくとも一部の結晶相が相転移可能なものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の酸化物体。
- 酸化物膜であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の酸化物体。
- AサイトがBiを主成分とするBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とする酸化物体の製造方法において、
エアロゾル化されたセラミックス原料粉を基材上に衝突させて、前記原料粉の破砕物を前記基材上に堆積させる堆積工程を有することを特徴とする酸化物体の製造方法。 - 前記原料粉として1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物粉を用いて、前記堆積工程を実施することを特徴とする請求項12に記載の酸化物体の製造方法。
- 前記原料粉として高圧合成により製造された1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物粉を用いて、前記堆積工程を実施することを特徴とする請求項13に記載の酸化物体の製造方法。
- AサイトがBiを主成分とするBi系ペロブスカイト型酸化物を主成分とする酸化物体において、
エアロゾル化されたセラミックス原料粉を基材上に衝突させて、前記原料粉の破砕物を前記基材上に堆積させる堆積工程を有する製造方法により製造されたものであることを特徴とする酸化物体。 - 請求項1〜11のいずれかに記載の酸化物体と、該酸化物体に対して電界を印加する電極とを備えたことを特徴とする圧電素子。
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2008221785A JP2010053422A (ja) | 2008-08-29 | 2008-08-29 | 酸化物体とその製造方法、及び圧電素子 |
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2011235502A (ja) * | 2010-05-07 | 2011-11-24 | Seiko Epson Corp | 液体噴射ヘッド、液体噴射装置、及び圧電素子 |
US8783837B2 (en) | 2011-09-06 | 2014-07-22 | Seiko Epson Corporation | Liquid jet head, liquid jet apparatus, and piezoelectric element |
WO2015060003A1 (ja) * | 2013-10-24 | 2015-04-30 | 三菱マテリアル株式会社 | 非鉛誘電体薄膜形成用液組成物及びその薄膜の形成方法並びにその方法で形成された非鉛誘電体薄膜 |
US9257634B2 (en) | 2014-06-16 | 2016-02-09 | Seiko Epson Corporation | Piezoelectric element, liquid ejecting head, liquid ejecting apparatus, actuator, sensor, and piezoelectric material |
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-
2008
- 2008-08-29 JP JP2008221785A patent/JP2010053422A/ja not_active Withdrawn
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