JP2010045970A - 複合磁性部材およびモータ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 強磁性素材の外周側に複数の連結部が形成される如き空隙を有し、前記連結部は、非溶融のオーステナイトを主体とする金属組織に内部より加熱変態させた弱磁性部であり、且つ、前記弱磁性部は、複数の全ての連結部の中央部を含む領域に形成されている複合磁性部材。
【選択図】 図5
Description
この現象を利用して、フェライト+炭化物相でなる素材を部分的に高温加熱してオーステナイト化すると、強磁性体中に弱磁性部を具備した複合磁性部材を得ることができる。この複合磁性部材は、単一組成でなる部材中に、磁束を通す強磁性部と磁束を通さない(通し難い)弱磁性部を併せ持つことができるので、磁気回路用の部材として適している。また、磁気回路を製造する際にも、強磁性の部材と弱磁性の部材を別々に準備する必要が無く、更に、これらの別部材を接合や溶接によって一体化する必要も無いので、製造工程が簡略化できて便利である。
固定子からの界磁により回転子が磁化されると、d軸方向のインダクタンスLdは、q軸方向のインダクタンスLqと比較して大きくなる。リラクタンスモータにおいて高いトルクを得るためには、突極比と呼ばれるLd/Lq値を大きくする必要がある。
上述した特許文献2では、回転子に複合磁性部材を用いて連結部(2)を弱磁性化し、回転子の機械的強度を損なうことなくLd/Lq値を大きくすることを提案した。この提案は、リラクタンスモータにおいて、高効率と高強度の特性を両立させたという点で優れた技術である。
この部分的な加熱方法として、従来、弱磁性化箇所に局所的にレーザ照射する方法が行われており、上述した特許文献2においても、回転子外周の連結部(2)は、レーザ照射により弱磁性化することを提案している。
レーザ照射は、高密度のエネルギーを局所に集中させる方法であり、弱磁性部を形成する際の有力な手段の一つである。
また、特許文献2には加熱手段として高周波加熱の紹介もあるが、狭い領域の部分加熱にはあまり有効ではないという認識である。
さらに、特開平9−093885号公報(特許文献3)として「リラクタンスモータ」に関する発明、特開2000−225474号公報(特許文献4)として「高周波誘導加熱方法及びその装置」に関する発明、特開2002−129294号公報(特許文献5)として「高飽和磁束密度複合磁性部材及び該部材を用いて成るモータ」に関する発明、及び、特開2002−008916号公報(特許文献6)として「複合磁性部材とその製造方法」に関する発明が知られている。
溶融を伴う熱処理を行うと、溶融後の凝固時に引けが生じる場合や、溶融時に肉盛りが生じる場合があり、弱磁性部において巨視的な割れや変形が生じるという問題がある。また、溶融凝固組織にはデンドライトが形成され、ミクロ偏析等の凝固欠陥が生じるので、回転子の機械的強度の点からも問題となる。更には、レーザ照射では、複合磁性部材用素材の外部より入射するレーザ光のエネルギーによる加熱なので、レーザ照射した側の面と、その反対側の面とでは、形成される弱磁性部の幅が異なるという問題がある。
例えば、モータ回転子のように精密な形状と寸法精度が要求される用途に複合磁性部材を実用化するに当たっては、この弱磁性部における巨視的な割れや変形、寸法精度の悪さが問題となっており、改善が望まれていた。また、レーザ照射では複数の弱磁性部を同時に加熱することが難しいので生産効率が悪く、また設備コストも高いことから、より生産効率が高く、低コストな加熱方法による複合磁性部材が望まれていた。
本発明の目的は、複合磁性部材の弱磁性部における巨視的な割れや変形、寸法精度の問題を解決し、更に生産効率が高く、比較的低コストな複合磁性部材およびこれを用いたモータを提供することである。
即ち本発明は、強磁性素材の外周側に複数の連結部が形成される如き空隙を有し、前記連結部は、非溶融のオーステナイトを主体とする金属組織に内部より加熱変態させた弱磁性部であり、且つ、前記弱磁性部は、複数の全ての連結部の中央部を含む領域に形成されている複合磁性部材である。
更に好ましくは、強磁性部の飽和磁化量が1.2T以上、弱磁性部の飽和磁化量が0.5T以下とする複合磁性部材である。
更に好ましくは、強磁性素材は、同形状で複数枚の板状であって、連結部が一致するように積層されている複合磁性部材である。
本発明に用いる強磁性素材の好ましい化学組成は、質量%でC:0.30〜1.20%、Si:0.10〜2.0%、Mn:0.10〜4.0%、Ni:4.0%以下(0を含む)、Cr:4.0〜20.0%、Al:2.0%以下(0を含む)、残部が実質的にFeの組成でなる複合磁性部材である。
本発明の複合磁性部材は、内部より加熱変態させた弱磁性部を形成しているという特徴をもつ。製造方法については後に詳述するが、外部から局所的にエネルギーを与えるレーザや、高周波コイルを近接させ近接部表面のみを発熱させる局所的な加熱ではなく、図3に示すように、高周波コイルにより、強磁性素材の外周を囲み、高周波を印可して高周波による誘起電流と、空隙に起因する抵抗と、空隙による熱の拡散の阻害によって、複数の全ての連結部を内部より加熱変態できたものである。
そして、図5に示すように、高周波コイルの加熱により、連結部の中央部を含む領域を非溶融のオーステナイトを主体とする金属組織とすることができ、寸法精度の高い複合磁性材料となるものである。
なお、本発明の複合磁性部材やモータにおいて、空隙は、空隙のままであっても良いが、強度向上のためなどに樹脂などを充填して用いても良い。また、上述したように磁石を内装しても良いものである。
従来のレーザ照射では、必然的に照射した側の面が広く、その反対側の面は狭くなってしまうのとは異なる効果である。具体的には、弱磁性部の外周側の幅Wθ1と内周側の幅Wθ2の比Wθ1/Wθ2を0.9〜1.1とすることもできる。
図5及び図6は弱磁性部を形成した複合磁性部材の上面からの顕微鏡写真であり、平面研磨後に王水によるエッチングを行ったものであり、白く見える場所が弱磁性部である。その両側には熱影響部(薄い灰色に見える)が存在し、強磁性部(灰色に見える)となっている。
図5及び図6に示す弱磁性部の形状から、本発明の弱磁性部は割れや変形もないことが分かる。
なお、化学組成を本発明で規定する好ましい範囲に調整することで、強磁性部の飽和磁化量は1.4T以上とすることができ、また弱磁性部の飽和磁化量は0.3T以下とすることも可能である。
C:0.30〜1.20%
Cは、オーステナイト形成元素として、弱磁性部の形成に有効な元素である。但し、0.30%未満では効果が小さく、逆に1.20%を超える範囲では、素材の加工性が悪くなるので、0.30〜1.20%に規定した。
Si:0.10〜2.0%
Siは、素材の軟磁気特性を向上させる効果がある元素である。但し、0.10%未満では効果が小さく、逆に2.0%を超える範囲では、素材の加工性が悪くなるので、0.10〜2.0%に規定した。
Mnは、オーステナイト形成元素として、弱磁性部の形成に有効な元素である。但し、0.10%未満では効果が小さく、逆に4.0%を超える範囲では、素材の加工性が悪くなるので、0.10〜4.0%に規定した。
Ni:4.0%以下(0を含む)
Niも、オーステナイト形成元素として、弱磁性部の形成に有効な元素であり、特定量の範囲で添加が可能である。但し、素材コストを上げるので、コストを抑えたい場合には無添加でも構わない。Niを添加する場合、4.0%を超えると素材の加工性が著しく悪くなるので、Niの範囲は、4.0%以下(0を含む)とした。
Crは、素材の耐食性を高め、更に電気抵抗率を高める効果がある。また、弱磁性部の残留オーステナイトを安定化させる効果もある。但し、4.0%未満では、それぞれの効果が小さく、また20.0%を超える範囲では、素材の飽和磁化量が著しく低下するとともに、加工性が悪くなるので、4.0〜20.0%に規定した。
Al:2.0%以下(0を含む)
Alは、Siと同様に、素材の軟磁気特性を向上させる効果がある元素であり、特定量の範囲で添加が可能である。但し、介在物を形成して素材の加工性を悪くするので、無添加でも良い。また、2.0%を超える範囲では、素材の加工性が悪くなるので、2.0%以下(0を含む)と規定した。
なお、複合磁性部材用素材の組成は、残部が実質的にFeでなることとするが、不可避不純物としてのP、S、O、Nは当然含まれる。これらの元素は、素材の磁気特性や加工性に特に影響しない範囲として、各々、0.1%以下の範囲で含有しても良い。
本発明では、弱磁性部の形成方法として高周波加熱を選択し、弱磁性部における巨視的な割れや変形、寸法精度の問題を解決する。
まず、弱磁性部を形成するための加熱方法として、高周波による加熱とした第一の理由は、前述したように、非溶融の加熱方法により弱磁性部を形成し、弱磁性部における巨視的な割れや変形をなくし、更に寸法精度を高めることができる最良の方法であるからである。
高周波による加熱では被加熱体(本発明では複合磁性部材用の素材)の表面に発生する誘起電流と素材の電気抵抗によりジュール熱が発生する。このジュール熱により素材は自己発熱する。この自己発熱方式は、表面焼入れのように非溶融の熱処理が可能な方法である。
従って、レーザ加工のように複合磁性部材用の強磁性素材を溶融させることなく、強磁性素材の一部に弱磁性部を形成することができる。
上述したように、高周波を印可すると被加熱体には、誘起電流が発生するが、外周側、すなわち高周波を印可される側に、連結部が形成される如き形状となっていると、空隙部分は電流が流れることができないため、連結部を流れる電流密度が、他の部分を流れる電流密度よりも高くなる。そのため、連結部のみを高温にすることができる。
この方法によれば、複合磁性部材用素材の外部からレーザ照射して弱磁性部を形成する場合と比較して、格段に寸法精度の高い弱磁性部を形成できるし、また、加熱方法を高周波加熱とすると製造コストを安価にできるという利点も有る。
なお、強磁性素材は空隙を形成し易い形状のものを用いるのが良く、プレス打抜きやエッチング等の加工によって空隙部が形成し易い板状の強磁性素材とするのが良い。
高周波による加熱は、高周波の発生源からの距離の影響を受けるため、効率を考えると、同一外径をもつ板材の強磁性素材を使用して、積層方向から見て同一の形状とすることが望ましい。また、個々の板材の板厚も同じとすることが製造上は有利である。
なお、積層状態での加熱を行う場合には、場所による加熱ムラをなくすために、強磁性材料を相対的に移動させることが好ましい。相対的にとは、材料側でも高周波発生側でも良いという意味である。なお、モータのロータコアとする場合は、円板形状の積層した素材に対して、外周側に高周波コイルを設置し、素材を回転させながら、さらに上下方向に移動させて加熱することがより望ましいものとなる。
モータのロータコアとして本発明を適用する場合は、モータのロータコアとして前記強磁性素材を用い、弱磁性部はロータコア内の磁束遮断域とすることになる。
いわゆるリラクタンス型のモータのロータコアでは、本発明の空隙をフラックスバリアとして適用することで、空隙と弱磁性部でロータコアの外周までフラックスバリアを連続させることができるようになる。これにより、リラクタンスモータの性能の評価値である突極比(Ld/Lq値)を大きくすることが可能となる。
また、例えば内部磁石型のモータのロータコアとして適用する場合は、空隙は磁石の設置空間やフラックスバリアとすることができ、空隙とそれに続く弱磁性部でロータコアの外周までフラックスバリアを連続させることができるようになる。
例えば、最外周からの弱磁性化箇所の幅Wrとした場合、複合磁性部材用の強磁性素材の外周部に発生する誘起電流の浸透深さP(mm)は、高周波加熱時の素材の電気抵抗率をρ(μΩ・m)、高周波加熱時の素材の比透磁率をμr、高周波加熱時の周波数をf[Hz]とすると、下記の式により表される。
P=1.6×{(ρ×105)/(μr×f)}1/2
P=1.6×(ρ×105/f)1/2
また、外周部の弱磁性化しない箇所に発生したジュール熱は、熱伝導により複合磁性部材用素材の内部に拡散するのに対し、弱磁性化箇所に発生したジュール熱は拡散し難い。その理由は、空隙が存在するからである。この点からも弱磁性化したい箇所の温度は高温となり易い。
Wr≦1.6×(ρ×105/f)1/2
なお、好ましい周波数fの範囲は、3,000(Hz)から1,000,000(Hz)の範囲である。
また、振動試料型磁束計により、1T(テスラ)の外部磁場を印加した際の飽和磁化量は1.51Tであり強磁性を示していた。
なお、弱磁性化箇所の連結部(2)と隣り合う箇所には、電気絶縁体領域(3)として、プレス打ち抜きで空隙部も形成した。図2の強磁性素材において、最外周からの弱磁性化箇所の幅Wr(mm)は、1.2mmである。
高周波加熱により、8ヶ所の連結部(2)が同時に自己発熱を起こし、連結部の中央部を含む領域が赤くなる様子が観察された。放射温度計により発熱した連結部(2)の温度を測温したところ、約1200℃に昇温していた。
表1の複合磁性部材用素材の1200℃での電気抵抗率ρは、1.2(μΩ・m)である。従って、この条件下で複合磁性部材用素材の外周部に生じている誘起電流の浸透深さP(mm)は、上記式より、P=1.6×(ρ×105/f)1/2=3.5(mm)となる。
本実施例では、最外周からの弱磁性化箇所の幅Wr(mm)を1.2mmとしており、複合磁性部材用素材が関係式Wr≦1.6×(ρ×105/f)1/2を満たすように形成されている。それ故、上述した連結部(2)のみの優先的な自己発熱が可能であった。
この時の複合磁性材の強磁性素材は、予め同形状として連結部が一致するように積層した状態とした。
場所による加熱ムラをなくすため、積層した素材を500rpmの速度で回転させながら、上下方向に4mm/Sの速度で移動させた。加熱後の外観を確認したところ、1枚の素材を加熱した時と同様に、8ヶ所の連結部(2)のみが、自己発熱していた。
振動試料型磁束計を用いて、1T(テスラ)の外部磁場を印加した際の各箇所の飽和磁化量を測定したところ、連結部(2)の飽和磁化量は0.20Tであり、連結部(2)と隣り合う外周部の強磁性部の飽和磁化量は1.51Tであった。
上述の製造方法により、本実施例の複合磁性部材用素材は、一体の部材中に強磁性部と弱磁性部を併せ持つ複合磁性部材となった。強磁性部と弱磁性部のそれぞれの飽和磁化量が上記のレベルであれば、例えば、モータ回転子としても、十分に使用できるものとなっていた。
また、強磁性部の金属組織も確認したところ、強磁性素材と同様の(フェライト+M23C6型炭化物)相となっていた。
また、図5に示すように弱磁性部には巨視的な割れや変形は無いことが分かる。更に、弱磁性部の外周側の幅Wθ1は3.44mmであり、内周側の幅Wθ2は3.36mmであるので、両者の比Wθ1/Wθ2は1.02となっていた。
複合磁性部材用素材の形状も図2の形状と同様とし、100枚の素材を積層して外周部に位置する連結部を弱磁性化箇所した。
CO2レーザの入熱量は、70(J/mm2)であった。CO2レーザを用いた製造方法では、積層した素材の側面からレーザビームを照射し、連結部全体を溶融凝固させた。
溶融凝固後の連結部の飽和磁化量は0.18Tであり、弱磁性部は形成された。
図6より、この方法により作製した複合磁性部材では、凝固時の引けや溶融時の肉盛りが生じており、結果として弱磁性部に巨視的な割れや変形が生じている。また、弱磁性部の外周側の幅Wθ1は1.83mmであり、内周側の幅Wθ2は1.59mmであるので、両者の比Wθ1/Wθ2は1.15となっており、本発明方法を適用した複合磁性部材と比較し、弱磁性部の外側と内側との幅にバラツキが大きいものとなっていた。
以上の実施例から、本発明の高周波加熱による製造方法では、非溶融の加熱によって弱磁性部を形成することができ、ひいては弱磁性部における巨視的な割れや変形が無く、寸法精度も高い複合磁性部材を製造できることが分かる。一方、比較例のレーザを用いた製造方法では、溶融を伴う熱処理であるため、弱磁性部における巨視的な割れや変形が発生し、寸法精度も劣っている。
回転子は、リラクタンスモータ用であり、空隙はリラクタンスモータ用ロータコアのフラックスバリアとし、弱磁性部の連結部は突極部域とした。
この回転子は、弱磁性部において巨視的な割れや変形が無く、狙い通りの寸法精度が得られているので、複合磁性部材を用いた回転子の特徴である高い突極比(Ld/Lq値)と高い強度特性を最大限に発揮することができる。それ故、この回転子を有するモータは、高効率モータとして実用に供することが、十分可能である。
Claims (6)
- 強磁性素材の外周側に複数の連結部が形成される如き空隙を有し、前記連結部は、非溶融のオーステナイトを主体とする金属組織に内部より加熱変態させた弱磁性部であり、且つ、前記弱磁性部は、複数の全ての連結部の中央部を含む領域に形成されていることを特徴とする複合磁性部材。
- 強磁性素材は板状であることを特徴とする請求項1に記載の複合磁性部材。
- 強磁性部の飽和磁化量が1.2T以上、弱磁性部の飽和磁化量が0.5T以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載の複合磁性部材。
- 強磁性素材は、同形状で複数枚の板状であって、連結部が一致するように積層されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の複合磁性部材。
- 強磁性素材は、質量%でC:0.30〜1.20%、Si:0.10〜2.0%、Mn:0.10〜4.0%、Ni:4.0%以下(0を含む)、Cr:4.0〜20.0%、Al:2.0%以下(0を含む)、残部が実質的にFeの組成でなることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の複合磁性部材。
- 前記複合磁性部材をモータのロータコアとし、弱磁性部はロータコア内の磁束遮断域とすることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載される複合磁性部材を用いたモータ。
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