JP2010035510A - イネ白葉枯病圃場抵抗性遺伝子及びその利用 - Google Patents

イネ白葉枯病圃場抵抗性遺伝子及びその利用 Download PDF

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秀之 青木
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Abstract

【課題】イネ白葉枯病に対する圃場抵抗性機構に関わる遺伝子を単離同定し、この遺伝子をイネ白葉枯病圃場抵抗性植物の育種に利用する方法を提供する。
【解決手段】以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子、該遺伝子を用いてイネ白葉枯病圃場抵抗性植物を作成する方法、及び得られた植物:(a)特定のアミノ酸配列からなるタンパク質;(b)上記特定のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質;(c)上記特定のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質。
【選択図】なし

Description

本発明はイネ白葉枯病圃場抵抗性遺伝子、該遺伝子を導入したイネ白葉枯病圃場抵抗性を有する形質転換植物、該形質転換植物の作成方法、および植物にイネ白葉枯病圃場抵抗性を付与する方法に関する。
植物の病害に対する抵抗性は、過敏感反応の有無によって真性抵抗性と圃場抵抗性がある。真性抵抗性は、病原菌に感染するか否かを決めるものであって、病原菌のレースに対する特異性が高く、質的な抵抗性(病斑の形成の有無や病斑の型のような質的な違いによって表される抵抗性)であり、その効果が大きい。しかしながら、真性抵抗性遺伝子の導入では、突然変異による耐性菌が出現することによって、抵抗性の崩壊が起こり、数年でその効果がなくなることが経験的に知られている。これに対して、圃場抵抗性は、病原菌に感染した場合のその感染の程度を決めるものであって、病原菌のレースに対する特異性が低く、量的な抵抗性(病斑数や病斑面積など量的に表すことのできる抵抗性)である。圃場抵抗性は、真性抵抗性に比べて効果が小さいものの、レースに対する特異性が低いことから品種に持続性のある抵抗性を付与できる点において実用的である。従って、効果は緩やかであるが、持続性や実用性に優れた圃場抵抗性品種の育種が求められている。
イネ白葉枯病はXanthomonas oryzae pv. oryzae(キサントモナス・オリーゼ)という細菌によって引き起こされるイネの主要病害である。イネ白葉枯病の真性抵抗性に関する研究では近年2種類の遺伝子(Xa21,Xa1)が単離されている。Xa21遺伝子はイネ「IRBB21」からポジショナルクローニングによって単離された白葉枯病菌、Xanthomonas oryzae pv. oryzaeレース6(Xoo race 6)に対する低抗性遺伝子であり、翻訳されるアミノ酸配列内にロイシン-リッチリピートやセリン-スレオニンキナーゼ様ドメインが存在し、細胞表面で病原菌を認識して細胞内の抵抗性機構を発動させると考えられている(非特許文献1)。また、Xal遺伝子はイネ「黄玉」から白葉枯病菌レース1(Xoo race 1)の抵抗性遺伝子として単離されたが、Xa21とは異なるアミノ酸構造を有していた(非特許文献2)。真性抵抗性遺伝子は通常は植物内で恒常的に発現している場合が多いが、Xa21は白葉枯病菌の接種や傷害によって誘導されることが分かっている。
このように、イネ白葉枯病の真性抵抗性遺伝子は複数発見されている一方で、イネ白葉枯病の圃場抵抗性に関連する遺伝子は各種の感染特異的タンパク質(PR-protein)遺伝子やサリチル酸のレギュレーター遺伝子(NPR1)等の研究が行われているが、未だ圃場抵抗性の実態解明に結びつく支配的な遺伝予は単離されておらず、圃場抵抗性の機構も不明である(非特許文献3)。
一方、有用遺伝子の単離および機能解析において挿入因子による遺伝子破壊は重要な手段となっており、挿入因子として、T-DNAおよびトランスポゾンが用いられている。T-DNAの場合、アグロバクテリアを用いてTiプラスミドを形質転換させると、Tiプラスミドの一部であるT-DNAが植物染色体に挿入され、遺伝子が破壊される。トランスポゾンの場合、形質転換の過程もしくはその後の転移の過程で遺伝子破壊が生じる。イネに内在するレトロトランスポゾンTos17は、最も良く研究されている植物中のクラスIに属するトランスポゾンである。Tos17は、Ty1-copia群レトロ要素の間の逆転写酵素ドメインの保存アミノ酸配列を基に作成された縮重プライマーを用いたRT-PCR法によりクローン化された(非特許文献4)。Tos17は、4.3kb長さの、2つの同じ138bpのLTR(長鎖末端反復)および開始メチオニンtRNAの3'末端に相補的なPBS(プライマー結合部位)を持つ(非特許文献5)。Tos17転写は、組織培養により強く活性化され、そして培養時間とともにそのコピー数を増加する。ゲノム研究のモデルジャポニカ品種である日本晴では、Tos17の当初のコピー数は2であるが、組織培養後、再生した植物では、5〜30コピーに増加している(非特許文献5)。酵母およびショウジョウバエで特徴付けられたクラスIIトランスポゾンとは異なり、Tos17は、染色体中をランダムな様式で転移し、遺伝子内に挿入され、そして安定な変異を引き起こす。それ故、イネにおける遺伝子の機能解析の逆遺伝学(Reverse Genetics)における強力なツールを提供する(非特許文献6、非特許文献7)。本発明者らはイネ白葉枯病に対して圃場抵抗性型の抵抗性を持つ品種「日本晴」でレトロトランスポゾンTos17を増幅させて作出した突然変異集団(ミュータントパネル)の中から、「日本晴」が持つイネ白葉枯病の抵抗性が失われて病斑が進展する突然変異系統を選抜したが(非特許文献8)、その原因遺伝子の同定には至っていない。
Song, W.Y. et al. 1995. Sience 270: 1804-1806. Yoshimura, S. et al. 1998. Proc-Natl. Acad. Sci. USA 95: 1663-1668. Chem, M.S. et al. 2001. Plant J. 27: 101-113. Hirochika et al. 1992. Mol. Gen. Genet. 233: 209-216. Hirochika et al. 1996. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 7783-7788 Hirochika et al. 1997. Plant Mol. Biol. 35: 231-240 Molecular Biology of Rice(K.Shimamoto編集、Springer-Verlag、43-58)。 青木秀之ら2006. 北陸作物学会報 41: 24-28
本発明の課題は、イネ白葉枯病に対する圃場抵抗性機構に関わる遺伝子を単離同定し、この遺伝子をイネ白葉枯病圃場抵抗性植物の育種に利用することを目的とする。
発明者らは、上記課題を解決すべく、イネにおいて新たに転移したTos17コピーを持つ植物の表現型およびTos17標的部位の隣接配列の系統的な分析を重ねた結果、Tos17挿入により「日本晴」が持つイネ白葉枯病圃場抵抗性が失われた特徴を示すイネ変異体を発見し、さらにこの変異の原因遺伝子を単離することに成功し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子。
(a) 配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質
(2) 以下の(d)〜(f)のいずれかに示すDNAからなる遺伝子。
(d) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNA
(e) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f) 配列番号1に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質をコードするDNA
(3) 以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質。
(a) 配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質
(c) 配列番号2に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質
(4) (1)又は(2)に記載の遺伝子を含む組換えベクター。
(5) (1)若しくは(2)に記載の遺伝子、又は(4)に記載の組換えベクターを導入したイネ白葉枯病圃場抵抗性を有する形質転換植物。
(6) 植物が、植物体、植物器官、植物組織、又は植物培養細胞である、(5)に記載の形質転換植物。
(7) 植物がイネである、(5)又は(6)に記載の形質転換植物。
(8) (1)又は(2)に記載の遺伝子を含む発現ベクターを構築する工程、該発現ベクターで植物を形質転換する工程、及び得られる形質転換体から植物体を再生する工程を含むことを特徴とする、イネ白葉枯病圃場抵抗性植物の作成方法。
(9) (1)又は(2)に記載の遺伝子を植物体内で過剰発現させることを特徴とする、植物にイネ白葉枯病圃場抵抗性を付与する方法。
本発明によれば、イネ白葉枯病圃場抵抗性遺伝子が初めて単離・同定された。本発明の遺伝子を植物に導入することによって、イネ白葉枯病に対する安定した圃場抵抗性を植物に付与することができる。その結果、イネ白葉枯病が効果的に防除でき、減農薬栽培可能となる。また、単一の遺伝子が関係している真正抵抗性とは異なって、圃場抵抗性は、通常複数の因子によるものであるから、耐性菌の出現の可能性も低い。従って、本発明の遺伝子は、イネ白葉枯病圃場抵抗性植物に非常に有用である。
1.イネ白葉枯病圃場抵抗性遺伝子XC20
本発明の遺伝子は、イネ白葉枯病に対して圃場抵抗性型の抵抗性を有する品種「日本晴」由来のレトロトランスポゾンTos17を増殖させた突然変異集団(ミュータントパネル)から「日本晴」が持つイネ白葉枯病の抵抗性が失われて病斑が進展する突然変異個体XC20を選抜し、該選抜系統から単離・同定された遺伝子である。
本発明の遺伝子(以下、「XC20遺伝子」という)は、配列番号1に示す塩基配列を有し、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする。
本発明のXC20遺伝子には、配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。
ここで、「イネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性」とは、イネ白葉枯病菌に対して圃場抵抗型の抵抗性(過敏感反応に基づかない抵抗性)を植物に誘導し、付与する活性をいう。また、「イネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有する」とは、上記の活性が、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質が有する活性と実質的に同等であることをいう。
上記の「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」について、欠失、置換若しくは付加されてもよいアミノ酸の数としては、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により欠失、置換、若しくは付加できる程度の数をいい、前記した活性を保持する限り、その個数は制限されないが、通常は、たとえば、1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個をいう。また、ここにいう「変異」は、主には公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異であってもよい。
本発明のXC20遺伝子には、配列番号2に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質をコードする遺伝子もまた含まれる。上記80%以上の相同性は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性をいう。
本発明の遺伝子はまた、配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む。
上記の「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、相同性が高い核酸、すなわち配列番号1に示す塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の相同性を有する核酸の相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常はナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。上記のハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,3rd Ed,, Cold Spring Harbor Laboratory(2001)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。なお、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり、より相同性の高いポリヌクレオチドを単離できる。
アミノ酸配列や塩基配列の配列の相同性は、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-2268, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTN(核酸レベル)やBLASTX(アミノ酸レベル)と呼ばれるプログラムが開発されており、これらが利用できる。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
XC20遺伝子は、配列番号1に基づいて設計したプライマーを用いて、cDNAライブラリーまたはゲノムDNAライブラリー等由来の核酸を鋳型としたPCR増幅を行うことにより、核酸断片として得ることができる。また当該遺伝子は、上記ライブラリー等由来の核酸を鋳型とし、当該遺伝子の一部であるDNA断片をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより、核酸断片として得ることができる。あるいは当該遺伝子は、化学合成法等の当技術分野で公知の各種の核酸配列合成法によって、核酸断片として合成してもよい。
また、当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、XC20のホモログ遺伝子を容易に取得することができる。
たとえば、アミノ酸の欠失、付加、及び置換は、上記タンパク質をコードする遺伝子に、当該技術分野で公知の手法によって変異を導入することによって行うことができる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法または Gapped duplex法等の公知手法またはこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを利用することができる。
変異を導入したタンパク質がイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を持つかどうかは、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質の機能を失わせ、表現型を変化させた植物に、変異を導入したタンパク質をコードする遺伝子を導入し、それにより表現型が回復するかどうかを調べることにより判断できる。
2.XC20タンパク質およびその製造方法
上記1.のXC20遺伝子によってコードされるタンパク質も本発明に含まれる。本発明のタンパク質は、上記1.のXC20遺伝子をプラスミド DNA、ファージ DNA等の宿主中で複製可能な組換えベクターに連結(挿入)し、該ベクターを大腸菌、酵母などの植物宿主以外の宿主細胞に導入して形質転換体を得、該形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。宿主細胞の培養又は生育は、その宿主細胞の種類に応じた方法に従って行うことができる。タンパク質の採取は常法に従って行うことができ、例えば、培養物等から濾過、遠心分離、細胞の破砕、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー等により回収、精製することにより、目的のタンパク質を得ることができる。
3. 組換えベクター
植物形質転換に用いる本発明の組換えベクターは、上記1.のXC20遺伝子(以下、「目的遺伝子」ともいう)を適当なベクターに導入することにより構築することができる。本発明の組換えベクターは、目的遺伝子を含むが、必ずしも目的遺伝子の全長を含む必要はなく、目的遺伝子の一部だけを含むものであってもよい。ここで、「目的遺伝子の一部」とは、目的遺伝子のイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を持つDNA断片をいう。
上記ベクターとしては、例えば、アグロバクテリウムを介して植物に目的遺伝子を導入することができる、pBI系、pPZP系、pSMA系のベクターなどが好適に用いられる。特にpBI系のバイナリーベクターまたは中間ベクター系が好適に用いられ、例えば、pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3等が挙げられる。バイナリーベクターとは大腸菌(Escherichia coli)及びアグロバクテリウムにおいて複製可能なシャトルベクターで、バイナリーベクターを保持するアグロバクテリムを植物に感染させると、ベクター上にあるLB配列とRB配列より成るボーダー配列で囲まれた部分のDNAを植物核DNAに組み込むことが可能である。一方、pUC系のベクターは、植物に遺伝子を直接導入することができ、例えば、pUC18、pUC19、pUC9等が挙げられる。また、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)等の植物ウイルスベクターも用いることができる。
バイナリーベクター系プラスミドを用いる場合、上記のバイナリーベクターの境界配列(LB,RB)間に、目的遺伝子を挿入し、この組換えベクターを大腸菌中で増幅する。次いで、増幅した組換えベクターをAgrobacterium tumefaciens GV3101、C58、LBA4404、EHA101、EHA105あるいはAgrobacterium rhizogenes LBA1334等に、エレクトロポレーション法等により導入し、該アグロバクテリウムを植物の形質導入に用いる。
ベクターに目的遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクター DNAの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
また、本発明の組換えベクターには、目的遺伝子の上流、内部、あるいは下流に、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、バイナリーベクター系を使用するための複製開始点(TiまたはRiプラスミド由来の複製開始点など)、選抜マーカー遺伝子などを含めることができる。
「プロモーター」としては、植物細胞において機能し、植物の特定の組織内あるいは特定の発育段階において発現を導くことのできるDNAであれば、植物由来のものでなくてもよい。具体例としては、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来PRタンパク質プロモーター、タバコ由来のリブロースビスリン酸カルボキシラーゼ(RuBisCO)プロモーター等が挙げられる。
エンハンサーとしては、例えば、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域などが挙げられる。
ターミネーターとしては、プロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結できる配列であればよく、例えば、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーター、オクトピン合成酵素(OCS)遺伝子のターミネーター、CaMV 35S RNA遺伝子のターミネーター等が挙げられる。
選抜マーカー遺伝子としては、例えば、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ビアラホス耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子などが挙げられる。これらの選抜マーカー遺伝子を利用して例えば、アンピシリン、ネオマイシン、ハイグロマイシ、ビアラホス、クロラムフェニコール等の選抜薬剤を含む培地上で目的遺伝子が導入された組換え体を簡単に選抜できるようになる。
また、選抜マーカー遺伝子は、上記のように目的遺伝子とともに同一のプラスミドに連結させて組換えベクターを調製してもよいが、あるいは、選抜マーカー遺伝子をプラスミドに連結して得られる組換えベクターと、目的遺伝子をプラスミドに連結して得られる組換えベクターとを別々に調製してもよい。別々に調製した場合は、各ベクターを宿主にコトランスフェクト(共導入)する。
4.形質転換植物及びその作出方法
本発明の形質転換植物は、上記組換えベクターを対象植物に導入することによって作出することができる。本発明において「遺伝子の導入」とは、例えば公知の遺伝子工学的手法により、目的遺伝子を上記宿主植物の細胞内に発現可能な形で導入することを意味する。ここで導入された遺伝子は、宿主植物のゲノムDNA中に組み込まれてもよいし、外来ベクターに含有されたままで存在していてもよい。
上記組換えベクターを植物中に導入する方法としては、既に報告され、確立されている種々の方法を適宜利用することができ、例えば、アグロバクテリウム法、PEG−リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法等が挙げられる。アグロバクテリウム法を用いる場合は、プロトプラストを用いる場合、組織片を用いる場合、及び植物体そのものを用いる場合(in planta法)がある。プロトプラストを用いる場合は、TiプラスミドないしはRiプラスミドをもつアグロバクテリウム(それぞれAgrobacterium tumefaciensまたはAgrobacterium rhizogenes)と共存培養する方法、スフェロプラスト化したアグロバクテリウムと融合する方法(スフェロプラスト法)、組織片を用いる場合は、対象植物の無菌培養葉片(リーフディスク)に感染させる方法やカルス(未分化培養細胞)に感染させる等により行うことができる。また種子あるいは植物体を用いるin planta法を適用する場合、すなわち植物ホルモン添加の組織培養を介さない系では、吸水種子、幼植物(芽生え)、鉢植え植物などへのアグロバクテリウムの直接処理等にて実施可能である。これらの植物形質転換法は、「島本功、岡田清孝 監修、新版 モデル植物の実験プロトコール 遺伝学的手法からゲノム解析まで(2001)、秀潤社」などの一般的な教科書の記載に従って行うことができる。
遺伝子が植物体に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、ウェスタンブロッティング法等により行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、XC20遺伝子特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRを行った後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応等により増幅産物を確認する方法でもよい。
あるいは、種々のレポーター遺伝子、例えばベータグルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ(LUC)、グリーンフルオレッセントプロテイン(GFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ベータガラクトシダーゼ(LacZ)等の遺伝子をXC20遺伝子の下流域に連結したベクターを作製し、該ベクター導入したアグロバクテリムを用いて上記と同様にして植物を形質転換させ、該レポーター遺伝子の発現を測定することによっても確認できる。
本発明において形質転換に用いられる植物としては、代表的にはイネであるが、Xanthomonas campestrisにより白葉枯病、黒腐病、斑点細菌病などの病害を受ける植物であれば単子葉植物又は双子葉植物のいずれであってもよい。例えば、クサヨシ、マコモ、ネギ、カブ、カリフラワー、キャベツ、ダイコン、ナタネ、ハクサイ、ルタバガ、ニンジン、カンキツ、アンスリウム、ダイズ、キヅタ、マンゴー、ディーフェンバキア、ダイズ、スズメノカタビラ、プリムラ類、アンズ、スモモ、モモ、トウガラシ、トマト、ピーマン、レタスなどが挙げられるが、これらに限定はされない。
本発明において、形質転換の対象とする植物材料としては、茎、葉、種子、胚、胚珠、子房、茎頂等の植物器官、葯、花粉等の植物組織やその切片、未分化のカルス、それを酵素処置して細胞壁を除いたプロプラスト等の植物培養細胞のいずれであってもよい。またin planta法適用の場合、吸水種子や植物体全体を利用できる。
本発明において、形質転換植物とは、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、穀実、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)、または植物培養細胞(例えばカルス)のいずれをも意味するものである。
植物培養細胞を対象とする場合において、得られた形質転換細胞から形質転換体を再生させるためには既知の組織培養法により器官または個体を再生させればよい。このような操作は、植物細胞から植物体への再生方法として一般的に知られている方法により、当業者であれば容易に行うことができる。植物細胞から植物体への再生については、例えば、以下のように行うことができる。
まず、形質転換の対象とする植物材料として植物組織またはプロトプラストを用いた場合、これらを無機要素、ビタミン、炭素源、エネルギー源としての糖類、植物生長調節物質(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノステロイド等の植物ホルモン)等を加えて滅菌したカルス形成用培地中で培養し、不定形に増殖する脱分化したカルスを形成させる(以下「カルス誘導」という)。このように形成されたカルスをオーキシン等の植物生長調節物質を含む新しい培地に移しかえて更に増殖(継代培養)させる。
カルス誘導は寒天等の固型培地で行い、継代培養は例えば液体培養で行うと、それぞれの培養を効率良くかつ大量に行うことができる。次に、上記の継代培養により増殖したカルスを適当な条件下で培養することにより器官の再分化を誘導し(以下、「再分化誘導」という)、最終的に完全な植物体を再生させる。再分化誘導は、培地におけるオーキシン等の植物生長調節物質、炭素源等の各種成分の種類や量、光、温度等を適切に設定することにより行うことができる。かかる再分化誘導により、不定胚、不定根、不定芽、不定茎葉等が形成され、更に完全な植物体へと育成させる。あるいは、完全な植物体になる前の状態(例えばカプセル化された人工種子、乾燥胚、凍結乾燥細胞及び組織等)で貯蔵等を行ってもよい。
本発明の形質転換植物は、XC20遺伝子を導入した植物体(形質転換された細胞やカルスから再生された植物体を含む)の有性生殖または無性生殖により得られる子孫の植物体、及びその子孫植物体の組織や器官等の一部(種子、プロトプラストなど)も包含するものとする。
上記のようにして得られる形質転換植物は、XC20遺伝子が過剰発現される結果、イネ白葉枯病圃場抵抗性を有する。従って、本発明によれば、XC20遺伝子やそのホモログ遺伝子を植物に導入し、植物体内で過剰発現させることにより植物にイネ白葉枯病圃場抵抗性を付与する方法もまた提供される。イネ白葉枯病に対して圃場抵抗性が高められているか否かは、特定のイネ白葉枯病菌のレースを接種した場合の過敏感反応の有無や病斑形成の程度、発病率を調べることによって可能である。
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
(実施例1)培養によるTos17の活性化
イネ品種「日本晴」の完熟種子を供試し、カルス培養および細胞懸濁培養を行った。Tos17の活性化はTsugawaおよびSuzuki(2000、Plant Cell Reports 19、371−375)の方法に従い、次のようにして行った。イネの完熟種子を1mg/mlの2,4−D(2,4−ジクロロフェノキシ酢酸)を添加したMS培地(MurashigeおよびSkoog、1962、Physiol.Plant.、15、473−479)上で25℃、1週間の培養を行った後に、KSP培地(TsugawaおよびSuzuki、前述)で3週間の培養を行い、カルス誘導を行った。得られたカルスを1mg/lの2,4−Dを添加したKSP液体培地(TsugawaおよびSuzuki、前述)で約3ヶ月間の懸濁培養を行った。さらにPR培地(TsugawaおよびSuzuki、前述)に移し、約1週間前培養を行った後、再分化R培地(TsugawaおよびSuzuki、前述)に移し、再分化イネ(R0世代植物)を得た。
(実施例2)イネ白葉枯病圃場抵抗性が失われた突然変異体系統の選抜
約6,000個体の再分化イネを自殖させ第1世代(R1)植物を得て、さらにこれを自殖させて得られた約6000系統の突然変異系統第2世代(R2)を供試材料とした。これらの突然変異系統を圃場栽培し、止葉が出現する時期にイネ白葉枯病菌(レースIIIA T7133)を剪葉接種した。接種3−4週間後の突然変異系統に現れたイネ白葉枯病斑の進展を調査し、イネ白葉枯病菌に対する圃場抵抗性が失われた突然変異体系統を選抜した(青木秀之ら2006. 北陸作物学会報 41: 24−28.)。突然変異体系統の1つXC20と命名した系統(図1の(M))は、図1に示すように日本晴品種(図1の(W))と比較してイネ白葉枯病の病斑が進展した。以後、この変異をXC20変異と述べる。
(実施例3)XC20遺伝子の単離およびmRNAの発現
XC20変異の原因遺伝子を同定単離するために、XC20変異が分離するヘテロ集団から、XC20変異を示す個体と、正常個体を識別し、それぞれの葉身から、CTAB法(MurrayおよびThompson、1980、NucleicAcids Res.8、4321−4325)により核DNAを抽出した。抽出したDNAを制限酵素XbaIで切断し、Tos17をプローブとしたゲノミックサザン分析(Southern、1975、J.Mol.Biol.、98、503)を行った。このゲノミックサザン分析によって目的遺伝子の存在を同定し、この遺伝子を含むDNA断片をテンプレートDNAとして、Inverse PCRによりTos17挿入部位に隣接するDNA塩基配列を決定した。
XC20変異を示す個体と正常個体から得られたDNAを、それぞれ制限酵素XbaIで切断し、アガロース電気泳動後、ナイロンメンブレンに吸着させた。Tos17部分配列(約1,000bp)をプローブとして用い、サザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、XC20変異を示す個体では、新規挿入Tos17のシグナル(約6,500bp)がホモとして観察されたが、正常個体ではホモとして観察されず、そして挿入Tos17のバンドがXC20変異表現型と完全に連鎖していたことがわかった。これらの結果より、標準のTos17プローブとハイブリダイズするシグナルで示されるDNAがXC20変異を引き起こす原因遺伝子を含み、このシグナルで表されるゲノム領域にTos17が挿入し、遺伝子型がホモになる際にXC20変異体が生じると結論された。そこで、このDNAを鋳型としてInverse PCR(Ochman,H.ら、1988、Genetics、120、621−625)によりTos17に隣接する配列、つまりXC20変異の原因遺伝子の一部の単離を行った。
まず、新たなTos17標的部位を持つ再生植物からの総DNAを抽出し、制限酵素XbaIで切断した後、電気泳動を行い、Tos17標的部位の核DNA断片を切り出し、これを鋳型として、Tos17に特異的なプライマーINVTos1:TTGCACTAGAGAACTGAGTA(配列番号3)およびINVTos2:CAAGTCGCTGATTTCTTCACCAAGG(配列番号4)プライマーを用いるInverse PCRにより増幅反応を行った。次にInverse PCR産物をアガロースで電気泳動を行い、目的のDNA断片を精製した。このDNAをQIAGEN PCR Cloning Kit(QIAGEN社)にて回収し、CEQ8000 Genetic Analysis System(BECKMAN COULTER社)でTos17に隣接する目的遺伝子のDNA配列を決定した(図2)。
得られた塩基配列をもとに目的遺伝子に特異的なプライマーXC20 5−1:ACTAGTCCACTGCAGCAGCA(配列番号5)およびXC20 3−1:ATACCATGTTTTGCAGCTGCCA(配列番号6)を設計し、常法にしたがって、PCR法によって目的遺伝子の断片を増幅した。得られた断片(約1,000bp)をプローブとして用い、日本晴イネゲノムDNAから作製したゲノムライブラリー(λEMBL3のBam HI−Bam HIにクローニングしたライブラリー)からスクリーニングし、目的遺伝子を含むDNAをプラスミドpBluescript SK(−)のマルチクローニング部位中(Sma I−Xba I)にクローニングした。そしてクローニングしたDNAの全塩基配列を常法に従い決定し、このDNAから推定されるアミノ酸配列をコードする遺伝子をXC20と命名した。このDNAクローンインサートは、全長2152塩基で、432塩基(144アミノ酸残基に相当)を有するアミノ酸翻訳領域をコードしていた(図2)。以後、この432塩基の遺伝子をXC20遺伝子と述べる。
XC20遺伝子のPCR増幅産物をプローブとして用い、野生型の核DNA抽出物についてサザン分析を行ったところ、1つの強いシグナルと1つの弱いシグナルが観察された。XC20遺伝子はイネ核ゲノムに1コピー存在し、類似の配列を持つ遺伝子が少なくとも1コピー以上存在することが明らかになった(図3)。
またXC20遺伝子と日本データバンク(DDBJ)に登録されている全遺伝子を対象とした相同性検索を実施した結果、XC20遺伝子は第9染色体の21298360−21298791に存在することが分かった。さらに第9染色体のXC20遺伝子の前後に部分的に相同性の高い領域がいくつか存在した。相同性の高い遺伝子の中で既に機能が判明している遺伝子は存在しなかった。またXC20遺伝子から翻訳されるタンパク質(XC20タンパク質)と日本データバンク(DDBJ)に登録されている全タンパク質を対象とした相同性検索を実施した結果、XC20タンパク質と相同性の高いタンパク質として多数の推定タンパク質が検出され、実際に単離されているタンパク質ではトウモロコシZmSAUR2及びZmSAUR3、コショウupa5等が検出された(図4)。トウモロコシZmSAUR2及びZmSAUR3はオーキシンで誘導されるタンパク質であり、コショウupa5はコショウ斑点細菌病(Xanthomonas campastris pv.vesicatoria)のタイプIIIエフェクタータンパク(AvrBs3)によって誘導されるタンパク質である。ZmSAUR2及びupa5の具体的機能は不明であるが、同じXanthomonas属細菌の感染によってシロイヌナズナにオーキシンの集積が観察されることから(O'Donnell et al. 2003 Plant J. 33: 245-257.)、XC20もまた植物の病害抵抗性に関与していることが推測され、それをコードする遺伝子は新規遺伝子であると結論付けられた。
イネ白葉枯病菌を接種した「日本晴」の葉身から全RNAを抽出し、XC20遺伝子断片をプローブとして用いRT−PCR法による分析を行ったところ、XC20遺伝子のmRNAはイネ白葉枯病菌の接種によって誘導されて発現していることが分かった(図5)。同様にノーザン法による分析も行ったところ、接種後9日目からXC20遺伝子のmRNAが検出された(図5)。
(実施例4)XC20遺伝子をXC20変異個体に再導入した形質転換植物の作出
クローニングしたXC20遺伝子の機能を確認するために、XC20遺伝子をバイナリーベクターpPZP202に導入し、形質転換ベクターを構築した(図6)。XC20遺伝子としては、プロモーター領域を含む約1kb上流のSma I部位から終止コドンより約0.5kb下流のXba I部位までの約2.1kbの領域を、バイナリーベクターpPZP202の中のSma I−Xba I部位に挿入した。さらに選抜マーカーとしてハイグロマイシン抵抗性遺伝子(HPT遺伝子)をPZP202のHin dIII部位に挿入した。
得られた形質転換ベクターを用いて、エレクトロポレーションにより、20mg/lのカナマイシンおよび100mg/lスペクチノマイシンの選択下でAgrobacterium tumefaciens EHA101株を形質転換した。得られたアグロバクテリウム株は、使用するまで凍結保存した。
XC20突然変異系統の種子から穎を除き玄米とし、これを70%エタノールで3分間殺菌し、殺菌蒸留水で3回洗浄した後、さらに50%の次亜塩酸ナトリウム溶液で30分間殺菌し、そして殺菌蒸留水で5回洗浄した。この玄米を、30g/lシュクロース、0.3g/lカザミノ酸、2.8g/lのプロリン、2.0mg/lの2,4−Dを添加し、4.0g/lのゲルライトで固化させたN6培地(Chuら、1975、Sci.Sinica、18、659−668)を含むカルス誘導培地上に置いた。なお、培地pHはオートクレーブ前にpH5.8に調整した。玄米は、28℃で4週間、明所で生育させ、約5mmの大きさのカルスを得た。このカルスをアグロバクテリウム感染に用いた。
グリセロール中で凍結保存した上記のアグロバクテリウムを、20mg/lのカナマシイン、5100mg/lのスペクノマイシンを含むLB培地上で、暗所で28℃3日間の培養を行った。アグロバクテリウム菌体を集め、10mg/lのアセトンシリンゴン(Hieiら、1994、Plant J.、6、271−282)を含む殺菌蒸留水に懸濁した。得られた懸濁液の中に上記のカルスを2分間浸漬した後、殺菌したペーパータオルで余分の水分を除き、これを10mg/lアセトンシリンゴンを含む上記のカルス誘導培地に置き、暗所で28℃、3日間の共存培養を行い、アグロバクテリウムを感染させた。得られた感染カルスを殺菌蒸留水で10回洗浄し、最後に500mg/lのカルベニシリンを含む殺菌蒸留水で1回洗浄した後、殺菌したペーパータオルで余分の水分を除いた。このカルスを10mg/lアセトンシリンゴン、50mg/lハイグロマイシン、300mg/lカルベニシリンを含む上記のカルス誘導培地で28℃、2週間の培養を行い、さらに50mg/lハイグロマイシン、100mg/lカルベニシリンを含むカルス誘導培地で4週間の培養を行った。ハイグロマイシン耐性カルスを選択し、30g/lのシュクロース、30g/lのソルビトール、2g/lのカザミノ酸、2.2mg/lのカイネチン、1.0mg/lのNAA、100mg/lのカルベニシリン、50mg/lのハイグロマイシンおよび4g/lのゲルライトを含むpH5.8のMS基礎培地(MurashigeおよびSkoog、1962、Physiol.Plant.、15、473−497)を含む再生培地に移した。
形質転換体は、ハイグロマイシンを含む再生培地で容易に再生し、土壌に移して栽培した。XC20突然変異系統のイネにXC20遺伝子を再導入して作出した再分化当代(T0)の形質転換イネ(T2−2,T6−2)の生育は、XC20突然変異系統と同等であり形質に差異は見いだされなかった。
XC20遺伝子を再導入した形質転換イネ(T0)の葉身から、上記と同様にゲノムDNAを抽出し、XC20遺伝子断片をプローブとして用いサザン分析を行ったところ、T2−2,T6−2共に1コピーのXC20遺伝子が導入されていることが判明した(図7矢印)。また、「日本晴」、XC20突然変異系統、形質転換イネ(T0)の葉身から全RNAを抽出し、RT−PCR法による分析を行った(図8)。「日本晴」および形質転換イネではXC20遺伝子のmRNAが発現していたのに対し、XC20突然変異系統ではXC20遺伝子のmRNAは検出されなかった(データは示さず)。
(実施例5)XC20遺伝子をXC20変異個体に再導入した形質転換植物のイネ白葉枯病圃場抵抗性の回復
「日本晴」、XC20突然変異系統、形質転換イネ(T0)の葉身にイネ白葉枯病菌を剪葉接種して4週間後の病斑長を測定し、それぞれのイネ白葉枯病に対する抵抗性を比較した(図9)。また、それぞれの個体で測定した10葉の病斑長の平均値を求めた(図10)。「日本晴」では4週間後の病斑長が平均約8cmであるのに対し、圃場抵抗性が失われたXC20突然変異系統では病斑長は平均約12cmに進展した。ところがXC20遺伝子を再導入した形質転換イネ(T0)(T2−2,T6−2)では圃場抵抗性が回復し、病斑長は平均約7−10cmになった。
以上の様に、XC20遺伝子をXC20変異個体に再導入し、XC20遺伝子のmRNAが再び発現する様になった植物形質転換体は、突然変異によって失われたイネ白葉枯病に対する圃場抵抗性が回復することが判明した。従って、XC20遺伝子はイネが持っているイネ白葉枯病圃場抵抗性のメカニズムに大きな影響を与えることが確認された。また本発明により提供される形質転換植物は、新しい品種開発の材料として利用可能である。
イネ白葉枯病圃場抵抗性が失われた系統(XC20)で観察されたイネ白葉枯病菌接種4週間後の病斑の写真である。MはXC20変異系統で観察された病斑、Wは「日本晴」で観察された病斑を示す。 XC20遺伝子の塩基配列および推定されるアミノ酸配列を示す図である。 日本晴内でのXC20遺伝子のコピー数の調査を示した図である。日本晴からゲノムDNAを調製し、Bam HI、Eco RI、Xba Iの制限酵素でそれぞれ処理し、XC20遺伝子をプローブに用いてゲノミックサザン法を行った(M:分子量マーカー、B:Bam HI、E:Eco RI、X:Xba Iで処理)。 XC20タンパク質と既知のタンパク質との相同性を比較した図である。「.」はXC20タンパク質と同一のアミノ酸、「−」はギャップを示す。XC20タンパク質とZmSAUR2、ZmSAUR3、upa5の相同性はそれぞれ59%、58%、39%である。 イネ白葉枯病菌の接種によるXC20遺伝子のmRNAの発現を示す図である。Mは分子量マーカーである。0、3、5、7、9、14はイネ白葉枯病菌を接種して0、3、5、7、9、14日後の「日本晴」の葉身から単離した全RNAである。AはRT−PCR法、Bはノーザン法によってXC20遺伝子のmRNAの発現を調査した結果である。 XC20変異系統に再導入したXC20遺伝子の領域を示す図である。「日本晴」のゲノムライブラリーから単離したXC20のゲノムクローンのSma I−XbaIの約2.2kbの領域を再導入した。 XC20遺伝子をXC20変異系統に再導入した形質転換イネ(T)と「日本晴」(W)およびXC20変異系統(20)におけるXC20遺伝子のコピー数の比較を示す図である。Mは分子量マーカーである。T2−2、T6−2は形質転換イネの個体名である。矢印は導入されたXC20遺伝子を示す。 XC20遺伝子をXC20変異系統に再導入した形質転換イネ(T2−2、T6−2)と「日本晴」(W)およびXC20変異系統(XC20)におけるXC20遺伝子のmRNAの発現の比較をRT−PCR法で示した図である。Mは分子量マーカーである。 XC20遺伝子をXC20変異系統に再導入した形質転換イネ(T)と「日本晴」(W)およびXC20変異系統(M)にイネ白葉枯病菌を剪葉接種して4週間後の病斑を示した図である。T2−2、T6−2は形質転換イネの個体名である。 XC20遺伝子をXC20変異系統に再導入した形質転換イネ(T2−2、T6−2)と「日本晴」(WT)およびXC20変異系統(XC20)にイネ白葉枯病菌を剪葉接種して4週間後の病斑長を測定した図である。病斑長は10葉の平均値を示している。T2−2、T6−2は形質転換イネの個体名である。

Claims (9)

  1. 以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子。
    (a) 配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b) 配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質
    (c) 配列番号2に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質
  2. 以下の(d)〜(f)のいずれかに示すDNAからなる遺伝子。
    (d) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNA
    (e) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質をコードするDNA
    (f) 配列番号1に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質をコードするDNA
  3. 以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質。
    (a) 配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b) 配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質
    (c) 配列番号2に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつイネ白葉枯病圃場抵抗性誘導活性を有するタンパク質
  4. 請求項1又は2に記載の遺伝子を含む組換えベクター。
  5. 請求項1若しくは2に記載の遺伝子、又は請求項4に記載の組換えベクターを導入したイネ白葉枯病圃場抵抗性を有する形質転換植物。
  6. 植物が、植物体、植物器官、植物組織、又は植物培養細胞である請求項5に記載の形質転換植物。
  7. 植物がイネである、請求項5又は6に記載の形質転換植物。
  8. 請求項1又は2に記載の遺伝子を含む発現ベクターを構築する工程、該発現ベクターで植物を形質転換する工程、及び得られる形質転換体から植物体を再生する工程を含むことを特徴とする、イネ白葉枯病圃場抵抗性植物の作成方法。
  9. 請求項1又は2に記載の遺伝子を植物体内で過剰発現させることを特徴とする、植物にイネ白葉枯病圃場抵抗性を付与する方法。
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