JP2010031835A - 内燃機関用オイルリング及びピストン - Google Patents
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Abstract
【解決手段】オイルリングRoの外周面に、硬質炭素、CrN、TiNの少なくとも1種を被覆すると共に、外周先端における摺動方向の曲率半径rを0.3mm以上のものとし、このようなオイルリングRoを内燃機関用ピストンにコンプレッションリングと共に配設する。
【選択図】図1
Description
例えば、内燃機関におけるピストンとシリンダーボア間の常用域における摩擦損失は、内燃機関全体の機械損失の実に20〜30%にも達するとされており、特にピストンリングとシリンダーボア間の摩擦を減らすために、リング張力を低減する手法が広く用いられている。
しかしながら、従来では、単に表面処理の置き換えに留まり、耐摩耗性向上に伴う形状変更等について工夫された例はほとんど見当たらない。したがって、これによる初期の張力設定が低減された分、ピストンリングとシリンダーボア間の摩擦力は低減するものの、それ以上の効果について期待できないことが発明者らの解析により明らかになった。
一方、高硬度で耐摩耗性に優れたCrN膜などの硬質表面処理を施した場合、摩耗速度が著しく減少し、リング外周部の先端形状は、通常使用の範囲では平坦化することはなく、初期のまま維持されることとなる。
また、オイル掻き落し性能だけでなく、摩擦力低減の観点からも、リング外周部の凸形状を維持することは、シリンダーボア面との接触幅を抑えられるため、摺動時のオイルの粘性抵抗が小さくなり、摩耗して平坦化する場合に比べて理想的な形状と考えられている。
すなわち、オイルリング単独で考えた場合には、上記の説が成り立つが、オイルリングのオイル掻き落し性能が高いほど、コンプレッションリングに供給されるオイル量が減少し、コンプレッションリングとシリンダーボア間の油膜形成に悪影響を及ぼすこととなる。
一方、エンジンが燃焼状態でのピストンのコンプレッションリングとシリンダーボア間の油膜は幾何学的に算出される厚さに比べ、実際はかなり薄いことが報告されている。つまり、過去の試験例は実際のエンジンと異なり、オイルの供給量が潤沢のため、コンプレッションリングへの影響を正確に反映していない可能性がある。
また、このようなオイルリングをコンプレッションリングと共に備え、シリンダーボアとの間の摩擦力を低減することができる内燃機関用ピストンを提供することにある。
また、本発明の内燃機関用ピストンにおいては、上記オイルリングとコンプレッションリングとをそれぞれ少なくとも1本備えたことを特徴としている。
すなわち、オイルリングの先端外周面の曲率半径rが0.3mm以上であることによって、シリンダーボア面の潤滑油がオイルリングによって完全に掻き落とされることなく、適度に残存して、コンプレッションリングとの間の摩擦を減じ、ピストン全体の摩擦力が低減することになる。
一方、曲率半径rが大きくなっても、ピストン全体の摩擦力が増大することはないが、過度に大きくなるとオイルリングのボア面に対する接触抵抗が増大し、オイルリング本来の機能が損なわれる可能性があることから、曲率半径rは6mm以下が望ましく、3mm以下であることがより望ましい。
r=Z/2+(2×104)/8Z (単位:μm) ・・・ (1)
すなわち、オイルリングの先端外周面の曲率半径rが0.3mm以上6mm以下、さらには0.3mm以上3mm以下であることによって、シリンダーボア面の潤滑油がオイルリングによって完全に掻き落とされることなく、適度に残存して、ピストン全体の摩擦力を低減できることになる。
すなわち、オイルリングの外周面硬さが2000Hvに満たない場合、初期のリング外周形状を0.3mm以上の曲率半径に平坦化させても、走行距離に比例してリング外周部の摩耗が進み、更なる平坦化によって摩擦力が増大し、オイル消費量も増大するおそれがある。
このとき、DLC膜中の水素含有量が増加すると、硬さが低下すると共に、摩擦係数が増す傾向があることから、DLC膜の水素含有量を10at%とすることが望ましい。そして、さらに硬さを向上させ、潤滑油中における摩擦係数をさらに減少させてより安定した摺動特性を確保するためには、5at%以下、さらには1at%以下とすることが好ましい。
JIS G 3506(硬鋼線材)に規定される炭素鋼材料SWRH72を冷間で線引きした後、焼入れ焼戻し処理を施し、0.4×2.0mmの矩形断面のうち、0.4mm幅の1面を図1(b)に示す外周面の曲率半径r(0.2〜2mm)とする線材を得た。次いで、この線材を外形(呼び径)93mmのリング状に成形し、合口となる部分を切削した。
次に、歪取り熱処理を実施し、外周研磨を行った後、イオンプレーティング法によって、それぞれの外周面にCrN膜又はDLC膜による被膜処理を施し、さらに仕上げ研磨によってそれぞれの表面粗さを得た。なお、DLC膜の水素含有量については、原料中の水素濃度を変更することによって調整した。
上記の要領で作製した2枚のサイドレールaの間に、図1(b)に示すように、SUS304からなるスペーサーbを組合せることで、組み込み時20Nの張力を持つオイルリングとした。
JIS G 3561(弁ばね用オイルテンパー線)に規定されるCr−V系耐熱バネ材料SWOSC−Vを冷間で線引きした後、焼入れ焼戻し理を施し、1.2×2.5mmの矩形断面を有する線材を得た。
次いで、この線材を内径93mmのシリンダライナーへの組み込み時10Nの張力を持つようリング形状に成形し、合口となる部分を切削し、図2に示すようなコンプレッションリングとした。上記オイルリングと同様の方法により、その外周面にCrN膜又はDLC膜による被膜処理を行った。
ねずみ鋳鉄を切削加工により、断面形状1.5×2.5mmで内径93mmのシリンダライナーへの組み込み時10Nの張力を持つよう、合口を切除したリング形状に加工した。
図3に示すように、自動車用エンジンのピストンとして、日産自動車製VQ30DEエンジン向けのピストンPを用意し、そのリング溝G1及びG2に、上記により作製したうちの2本のコンプレッションリングRc,Rcをトップリング及びセカンドリングとして装着した。そして、その下方側のリング溝G3に上記により作製したうちの1本のオイルリングRoを装着して、単体摩擦摩耗試験機によるピストン−ボア間の摺動試験を行った。
その結果を、コンプレッションリングRc及びオイルリングRo仕様の組合せと共に、表1に示す。
外周面にビッカース硬さ2000HvのCrN膜が施され、その表面粗さRaが0.15μmである2本のコンプレッションリングRcと、外周面が摺動方向の幅200μmにおける平均の先端曲率半径rが0.2mmのバレルフェース形をなし、同じくビッカース硬さ2000Hvで、表面粗さRaが0.15μmのCrN膜が施されたオイルリングRoを組合わせたピストンの場合、その平均摩擦力は35Nであった。
上記比較例1と同じコンプレッションリングRcと、同様の被膜処理がなされ、外周面先端の平均曲率半径rが0.25mmのオイルリングRoを組合わせたピストンの場合、その平均摩擦力は37Nであり、上記比較例1より僅かに摩擦力が増加する結果となった。
比較例1と同様のピストン、ボア、単体摩擦摩耗試験機を用いて、比較例1と同様のコンプレッションリングと、表面硬さが2000HvのCrNで、その粗さがRa0.05μmで、外周の先端rが0.25mmであるオイルリングを装着し、700回/分の振動を加え、その平均摩擦力を測定した。
その結果、平均摩擦力は36Nであり、比較例2より僅かに摩擦力は減少した。
上記比較例1と同じコンプレッションリングRcと、同様の被膜処理がなされ、外周面先端の平均曲率半径rが0.3mmのオイルリングRoとを組合わせたピストンの場合、その平均摩擦力は30Nであり、上記比較例より摩擦力が低減することが判明した。
上記比較例1と同じコンプレッションリングRcと、同様の被膜処理がなされ、外周面先端の曲率半径rが0.5mmのオイルリングRoを使用することにより、平均摩擦力が24Nとなり、上記実施例より摩擦力がさらに低減することが確認された。
上記比較例1と同じコンプレッションリングRcと、同様の被膜処理がなされ、オイルリングRoの外周先端面の曲率半径を2mmとすることによって、平均摩擦力は28Nとなり、上記比較例に比較すれば摩擦力が低減するものの、実施例2に較べると摩擦力が増加する結果となった。
外周面にビッカース硬さ2000HvのCrN膜が施され、その表面粗さRaが0.1μmである以外は比較例1と同様のコンプレッションリングRcと、外周面が摺動方向の幅200μmにおける平均の先端曲率半径rが0.5mmのバレルフェース形をなし、同じくビッカース硬さ2000Hvで、表面粗さRaが0.1μmのCrN膜が施されたオイルリングRoとを組合わせた。この場合、その平均摩擦力は23Nであり、実施例2と較べ僅かに摩擦力が低減することが確認された。
比較例1と同様のコンプレッションリングRcと、外周面が摺動方向の幅200μmにおける平均の先端曲率半径rが0.5mmのバレルフェース形をなし、同じくビッカース硬さ2000Hvで、表面粗さRaが0.05μmのCrN膜が施されたオイルリングRoとを組合わせた。この場合、その平均摩擦力は23Nであり、実施例2と較べ僅かに摩擦力が低減することが確認された。また表面粗さが同じ比較例3と比べ、大幅に摩擦力が低減している。
その表面粗さRaが0.05μmである以外は比較例1と同様のコンプレッションリングRcと、外周面が摺動方向の幅200μmにおける平均の先端曲率半径rが0.5mmのバレルフェース形をなし、同じくビッカース硬さ2000Hvで、表面粗さRaが0.05μmのCrN膜が施されたオイルリングRoとを組合わせた。この場合、その平均摩擦力は22Nであり、実施例5と較べさらに摩擦力が低減することが確認された。
その表面粗さRaが0.05μmである以外は比較例1と同様のコンプレッションリングRcと、外周面が摺動方向の幅200μmにおける平均の先端曲率半径rが0.5mmのバレルフェース形をなし、ビッカース硬さ3000Hvで、表面粗さRaが0.05μmのDLC膜(水素含有量:15at%)が施されたオイルリングRoとを組合わせた。この場合、その平均摩擦力は22Nであり、実施例5と較べさらに摩擦力が低減することが確認された。
外周面にビッカース硬さ7000HvのDLC膜(水素含有量:0.5at%)が施され、その表面粗さRaが0.05μmである2本のコンプレッションリングRcと、外周面が摺動方向の幅200μmにおける平均の先端曲率半径rが0.5mmのバレルフェース形をなし、ビッカース硬さ2000Hvで、表面粗さRaが0.05μmのCrN膜が施されたオイルリングRoを組合わせたピストンの場合、その平均摩擦力は19Nとなって上記実施例6や7のピストンに較べて、摩擦力がさらに低減する結果となった。
外周面にビッカース硬さ7000HvのDLC膜(水素含有量:0.5at%)が施され、その表面粗さRaが0.05μmである2本のコンプレッションリングRcと、外周面が摺動方向の幅200μmにおける平均の先端曲率半径rが0.5mmのバレルフェース形をなし、ビッカース硬さ4000Hvで、表面粗さRaが0.05μmのDLC膜(水素含有量:10at%)が施されたオイルリングRoを組合わせたピストンの場合、その平均摩擦力は19Nとなって上記実施例6や7のピストンに較べて、摩擦力がさらに低減する結果となった。
外周面にビッカース硬さ7000HvのDLC膜(水素含有量:0.5at%)が施され、その表面粗さRaが0.05μmである2本のコンプレッションリングRcと、外周面が摺動方向の幅200μmにおける平均の先端曲率半径rが0.5mmのバレルフェース形をなし、ビッカース硬さ5000Hvで、表面粗さRaが0.05μmのDLC膜(水素含有量:5at%)が施されたオイルリングRoを組合わせたピストンの場合、その平均摩擦力は18Nとなって実施例9よりもさらに低減する結果となった。
外周面にビッカース硬さ7000HvのDLC膜(水素含有量:0.5at%)が施され、その表面粗さRaが0.05μmである2本のコンプレッションリングRcと、外周面が摺動方向の幅200μmにおける平均の先端曲率半径rが0.5mmのバレルフェース形をなし、ビッカース硬さ7000Hvで、表面粗さRaが0.05μmのDLC膜(水素含有量:0.5at%)が施されたオイルリングRoを組合わせたピストンの場合、その平均摩擦力は17Nとなって実施例10よりもさらに低減する結果となった。
外周面にビッカース硬さ2000HvのCrN膜が施され、その表面粗さRaが0.15μmである2本のコンプレッションリングRcと、外周面が摺動方向の幅200μmにおける平均の先端曲率半径rが0.5mmのバレルフェース形をなし、同じくビッカース硬さ2000Hvで、表面粗さRaが0.1μmのCrN膜が施されたオイルリングRoを組合わせたピストンの場合、その平均摩擦力は24Nとなって上記実施例1に較べて摩擦力が低減することが判明した。
比較例1と同様のコンプレッションリングRcと、外周面が摺動方向の幅200μmにおける平均の先端曲率半径rが0.5mmのバレルフェース形をなし、ビッカース硬さ5000Hvで、表面粗さRaが0.05μmのDLC膜(水素含有量:5at%)が施されたオイルリングRoとを組合わせた。この場合、その平均摩擦力は21Nとなって上記実施例12よりもさらに低減する結果となった。
比較例1と同様のコンプレッションリングRcと、外周面が摺動方向の幅200μmにおける平均の先端曲率半径rが0.5mmのバレルフェース形をなし、ビッカース硬さ7000Hvで、表面粗さRaが0.05μmのDLC膜(水素含有量:0.5at%)が施されたオイルリングRoとを組合わせた。この場合、その平均摩擦力は20Nとなって上記実施例12や13に較べてさらに低減することが確認された。
比較例1と同様のコンプレッションリングRcと、外周面が摺動方向の幅200μmにおける平均の先端曲率半径rが1.4mmのバレルフェース形をなし、同じくビッカース硬さ2000Hvで、表面粗さRaが0.15μmのCrN膜が施されたオイルリングRoを組合わせたピストンの場合、その平均摩擦力は26Nであった。
比較例1と同様のコンプレッションリングRcと、外周面が摺動方向の幅200μmにおける平均の先端曲率半径rが6mmのバレルフェース形をなし、同じくビッカース硬さ2000Hvで、表面粗さRaが0.15μmのCrN膜が施されたオイルリングRoを組合わせたピストンの場合、その平均摩擦力は31Nであった。
この図4から明らかなように、オイルリング外周面の摺動方向の幅200μmにおける平均先端曲率半径rが0.3mm以上の場合に平均摩擦力が著しく低減されることとなる。
b オイルリングのスペーサー
t サイドレール外周の最大径となる頂点
Z バレルフェース高低差
Ro オイルリング
Rc コンプレッションリング
P ピストン(内燃機関用ピストン)
Claims (9)
- 外周面に硬質炭素、CrN及びTiNから成る群より選ばれた少なくとも1種を被覆して成り、外周先端における摺動方向の曲率半径rが0.3mm以上であることを特徴とする内燃機関用オイルリング。
- 上記曲率半径rが6mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用オイルリング。
- 上記曲率半径rが3mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用オイルリング。
- 外周面の硬さが2000Hv以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の内燃機関用オイルリング。
- 外周面の粗さがRa0.1μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の内燃機関用オイルリング。
- 外周面にダイヤモンドライクカーボンを被覆して成り、当該ダイヤモンドライクカーボン膜に含まれる水素量が10at%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の内燃機関用オイルリング。
- 請求項1〜6のいずれか1つの項に記載のオイルリングと、コンプレッションリングの少なくとも2本のピストンリングを備えたことを特徴とする内燃機関用ピストン。
- 上記コンプレッションリングの外周面にダイヤモンドライクカーボン膜を備えていることを特徴とする請求項7に記載の内燃機関用ピストン。
- 上記ダイヤモンドライクカーボン膜に含まれる水素量が10at%以下であることを特徴とする請求項8に記載の内燃機関用ピストン。
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