以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
本発明は、例えば、露光装置や顕微鏡などにおいて、部分コヒーレント結像に基づいた光学系の結像計算(部分コヒーレント結像計算)に適用することができる。また、本発明は、IC、LSIなどの半導体チップ、液晶パネルなどの表示素子、磁気ヘッドなどの検出素子、CCDなどの撮像素子といった各種デバイスの製造やマイクロメカニクスで用いる原版のデータの生成に適用することもできる。なお、マイクロメカニクスとは、半導体集積回路製造技術を微細構造体の製作に応用して、高度な機能を有するミクロン単位の機械システムを作成する技術や、かかる機械システム自体をいう。
また、本発明で開示される概念は、数学的にモデル化することができる。従って、本発明は、コンピュータ・システムのソフトウエア機能として実装することができる。コンピュータ・システムのソフトウエア機能は、実行可能なソフトウエア・コードを有するプログラミングを含み、本実施形態では、部分コヒーレント結像計算を実行する。ソフトウエア・コードは、コンピュータ・システムのプロセッサによって実行される。ソフトウエア・コード動作中において、コード又は関連データ記録は、コンピュータ・プラットフォームに格納される。但し、ソフトウエア・コードは、他の場所に格納される、或いは、適切なコンピュータ・システムにロードされることもある。従って、ソフトウエア・コードは、1つ又は複数のモジュールとして、少なくとも1つのコンピュータ読み取り可能な記録媒体で保持することができる。本発明は、上述したコードという形式で記述することが可能であり、1つ又は複数のソフトウエア製品として機能させることができる。
まず、本実施形態における露光装置の座標系について説明する。露光装置の座標系は、本実施形態では、2つに大別される。
第1の座標系は、マスク面(投影光学系の物体面)及びウエハ面(投影光学系の像面)における座標であって、本実施形態では、(x、y)で表す。マスク面上のパターンの大きさとウエハ面上のパターンの大きさとは、投影光学系の倍率だけ異なる。但し、以下では、説明を簡単にするために、マスク面上のパターンの大きさに投影光学系の倍率をかけて、マスク面上のパターンの大きさとウエハ面上のパターンの大きさを1:1で対応させる。これにより、マスク面の座標系とウエハ面の座標系も1:1で対応する。
第2の座標系は、投影光学系の瞳面における座標であって、本実施形態では、(f、g)で表す。また、投影光学系の瞳面における座標(f、g)は、投影光学系の瞳の大きさが1となるように規格化した座標系である。
露光装置では、投影光学系の物体面にマスクを配置しない状態において、投影光学系の瞳面に形成される光強度分布を有効光源と呼び、本実施形態では、S(f、g)で表す。また、投影光学系の瞳は、本実施形態では、瞳関数P(f、g)で表す。一般的に、瞳関数には収差や偏光の影響(情報)を組み込むことができ、本実施形態の瞳関数P(f、g)にも収差や偏光の影響を含ませることが可能である。
露光装置は、部分コヒーレント照明でマスクを照明して、マスクのパターン(マスクパターン)をウエハに投影する。本実施形態では、透過率及び位相情報を含むマスクパターンをo(x、y)で定義し、ウエハ面に形成される光強度分布(空中像)をI(x、y)で定義する。また、マスクパターンで回折された回折光の振幅は、投影光学系の瞳面で定義され、本実施形態では、a(f、g)とする。
ここで、従来の部分コヒーレント結像計算について説明する。従来の部分コヒーレント結像計算(投影光学系の像面における光強度分布の計算)は、3種類の計算方法に大別することができる。
第1の計算方法は、所謂、Abbeの方法である。具体的には、Abbeの方法は、以下の数式1に示すように、光強度分布I(x、y)を算出する。
数式1において、N1は数値計算上の点光源の数を表し、Fはフーリエ変換を表す。
第2の計算方法は、相互透過係数(TCC)を固有値分解せずに計算する方法である。TCCは、以下の数式2に示すように定義される。
数式2を参照するに、TCCは、4次元関数であることがわかる。光強度分布I(x、y)は、TCCを用いることで、以下の数式3から算出することができる。
数式3において、N2は、i、j、k、lがとりうる種類(数)を表し、数値計算上の瞳分割数に依存する。
第3の計算方法は、SOCSと呼ばれる方法であって、数式2に示すTCCを複数の固有値及び固有関数に分解する。第i番目の固有値をλ1、第i番目の固有関数をΨiとすると、光強度分布I(x、y)は、以下の数式4で算出される。
数式4において、N3は、数値計算上の点光源の数を表す。
Abbeの方法は、小規模計算(小規模シミュレーション)に好適である。具体的には、Abbeの方法は、マスクの一部分に関するシミュレーションをしたり、光学的な設定(有効光源、収差、偏光など)の違いによって結像性能がどのように変化するのかを調べたりする場合に好適である。
TCCを用いた計算方法、すなわち、数式3を用いた計算方法は、Abbeの方法及びSOCSと比較して計算速度が遅い。数式3において4重積分を実行する必要があるからである。そこで、数式3における4重積分を実行せずに光強度分布を求める方法としてSOCSがある。SOCSは、大規模計算(大規模シミュレーション)に好適である。
大規模計算では、マスクを複数の領域に分割して計算する。もし、光学的な設定(有効光源、収差、偏光など)が変化しなければ、数式2に示すTCCは変化しないため、数式4における固有関数Ψiも変化しない。従って、固有値λi及び固有関数Ψiを一度求めた後は単純計算の繰り返しであるため、SOCSは大規模計算に好適である。但し、SOCSは、小規模計算には適していない。
一方、数式2から理解されるように、TCCを算出するためには2重積分が必要である(即ち、TCCが4次元関数である)ため、SOCSでは、TCCの算出に時間がかかると共に、膨大なコンピュータ・メモリが必要となる。また、SOCSは、固有値λi及び固有関数Ψiの算出にも時間がかかってしまう。更に、SOCSは、光学的な設定(有効光源、収差、偏光など)が変化すると、TCCを算出しなおさなければならないため、光学的な設定を変化させて結像性能の変化を調べる場合には適していない。
以上のように、従来の計算方法は、シミュレーションに多大な時間を必要としていた。また、従来技術では、計算対象(即ち、小規模計算であるのか、或いは、大規模計算であるのか)に応じて、Abbeの方法とSOCSとを使い分ける必要がある。
図1は、本発明の一側面としての算出方法を実行する処理装置1の構成を示す概略ブロック図である。
処理装置1は、例えば、汎用のコンピュータで構成され、図1に示すように、バス配線10と、制御部20と、表示部30と、記憶部40と、入力部50と、媒体インターフェース60とを有する。
バス配線10は、制御部20、表示部30、記憶部40、入力部50及び媒体インターフェース60を相互に接続する。
制御部20は、CPU、GPU、DSP又はマイコンで構成され、一時記憶のためのキャッシュメモリなどを含む。
表示部30は、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイなどの表示デバイスで構成される。
記憶部40は、例えば、メモリやハードディスクで構成される。記憶部40は、本実施形態では、パターンデータ401と、有効光源情報402と、NA情報403と、λ情報404と、収差情報405と、偏光情報406と、レジスト情報407とを記憶する。更に、記憶部40は、P演算子408と、空中像409と、マスクデータ410と、空中像計算プログラム411とを記憶する。
パターンデータ401は、集積回路などの設計において、レイアウト設計されたパターン(レイアウトパターン又は目標パターン)のデータである。
有効光源情報402は、露光装置の投影光学系の瞳面に形成される光強度分布(有効光源)に関する情報である。
NA情報403は、露光装置の投影光学系の像側の開口数に関する情報である。
λ情報404は、露光装置の光源から射出される光(露光光)の波長に関する情報である。
収差情報405は、露光装置の投影光学系の収差に関する情報である。
偏光情報406は、露光装置の照明装置(照明光学系)で形成される光の偏光(照明光の偏光状態)に関する情報である。
レジスト情報407は、ウエハに塗布されるレジストに関する情報である。
P演算子408は、後で詳細に説明するように、ウエハ面に形成される光強度分布である空中像を算出する過程(即ち、空中像計算プログラム411)で必要となる行列である。
空中像409は、空中像計算プログラム411による空中像(光強度分布)の算出結果である。
マスクデータ410は、実際の原版であるマスク(レチクル)のデータである。なお、マスクデータ410は、一般的に、パターンデータ401と異なる。
空中像計算プログラム411は、空中像(光強度分布)を算出するためのプログラムである。
入力部50は、例えば、キーボードやマウスなどを含む。
媒体インターフェース60は、例えば、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、CD−ROMドライブやUSBインターフェースなどを含み、記憶媒体70と接続可能に構成される。なお、記憶媒体70は、フロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROMやUSBメモリなどである。
以下、空中像計算プログラム411による空中像409の算出について、特に、P演算子408に注目して説明する。なお、本実施形態では、露光光の波長をλとし、投影光学系の像側の開口数をNAとする。また、照明光学系からマスク面に入射する照明光の開口数と投影光学系の物体側の開口数との比をσとする。
露光装置におけるマスクパターンと空中像との関係は、部分コヒーレント結像の関係にある。部分コヒーレント結像計算は、上述したように、3種類(数式1、数式3及び数式4参照)に大別された。数式1及び数式4では、フーリエ変換Fが用いられているため、フーリエ光学の観点から、平面波の足し合わせが空中像を形成していると考えることができる。なお、平面波は、exp[−i2π(fx+gy)]で表される。また、数式3では、フーリエ変換Fが明確に現われていないが、exp[−i2π(fx+gy)]が含まれているため、同様に、平面波の足し合わせであると考えることができる。
このように、部分コヒーレント結像は、光学的には、平面波exp[−i2π(fx+gy)]を基本としていると考えることができる。一方、exp[−i2π(fx+gy)]は、数学的には、完全直交系である。そこで、本実施形態では、平面波を完全直交系として扱うことによって、空中像409をより短い時間で算出することを実現している。
まず、1次元の空中像(光強度分布)を算出する場合を例に説明する。この場合、平面波は、exp(−i2πfx)で表すことができる。また、以下の数式5に示すように、完全直交系をベクトルで定義する。
数式5において、Mは、fの範囲を−2≦f≦2とした場合に、数値計算でfの範囲を何分割したかを表す。
ここで、P演算子408について説明する。なお、本実施形態では、数式5におけるMを7としているため、図2に示すように、f1=−2、f2=−4/3、f3=−2/3、f4=0、f5=2/3、f6=4/3、f7=2となる。図2は、1次元の平面波(完全直交系)を模式的に示す図である。
マスクパターンで回折された回折光の分布(回折光分布)は、a(fi)exp(−i2πfix)で表すことができるため、回折光分布のベクトル|φ’>は、以下の数式6で表すことができる。
数式6において、Aは、回折光の振幅a(fi)を対角成分に有する対角行列である。
投影光学系が無収差である場合、投影光学系の瞳は、−1≦f≦1の範囲に存在する回折光をそのまま透過させ、|f|>1の範囲に存在する回折光を遮光する機能を有する。有効光源上の1点f’から射出した光は、投影光学系の瞳をf’だけずらす(シフトする)ことと同等であると考えられる。従って、有効光源上の1点f’から射出した光がマスクパターンで回折された場合、−1≦f−f’≦1の範囲に存在する回折光が投影光学系の瞳を通過し、|f−f’|>1の範囲に存在する回折光が投影光学系の瞳で遮光される。
例えば、有効光源上でf=f4=0から射出した光がマスクパターンで回折され、投影光学系の瞳で絞られた場合、投影光学系の瞳を透過した後の回折光の振幅|φ1>は、以下の数式7で表すことができる。
投影光学系の瞳を透過した後の回折光の振幅の絶対値を2乗すれば、ウエハ面上の光強度を算出することができるため、f=f4=0の点光源がウエハ面に形成する光強度分布I1(x)は、以下の数式8で表される。
但し、数式8において、<φ1|は、|φ1>の転置共役(アジョイント)行列を表す。
同様に、有効光源上でf=f3から射出した光がマスクパターンで回折され、投影光学系の瞳で絞られた場合、投影光学系の瞳を透過した後の回折光の振幅|φ2>は、以下の数式9で表すことができる。
従って、f=f3の点光源がウエハ面に形成する光強度分布I2(x)は、以下の数式10で表される。
また、部分コヒーレント照明は、インコヒーレントな点光源の集まりと考えることができる。例えば、有効光源上に2つの点光源が存在し、かかる点光源の座標をf=0、f=f3とする。2つの点光源はインコヒーレントであるため、かかる2つの点光源によってウエハ面に形成される光強度分布I(x)は、I1(x)+I2(x)(即ち、ウエハ面上の光強度の加算)となる。
ここで、以下の数式11に示すように、P演算子PIDを定義する。
数式11を参照するに、P演算子P1Dの各行は、有効光源上に存在する点光源の位置に応じて投影光学系の瞳をずらした(シフトさせた)ベクトルである。具体的には、投影光学系の瞳面における中心位置と点光源の位置との差分だけ投影光学系の瞳をずらせばよい。P演算子P1Dを用いれば、ウエハ面に形成される光強度I(x)は、以下の数式12で表すことが可能となる。
但し、数式12において、「+」記号は、ある行列の転置共役行列を表す。数式12を参照するに、光強度分布I(x)がI1(x)+I2(x)になっていることを確認することができる。換言すれば、P演算子P1Dを用いることによって、ウエハ面に形成される光強度分布である空中像を簡単に表すことができる。
数式12を変形すれば、以下の数式13を得ることができる。
但し、T1Dは、以下の数式14で定義される行列である。
数式14で定義される行列T1Dは、TCCを表している。P1Dの算出においては、投影光学系の瞳をずらす(シフトさせる)だけであり、掛け算や足し算を必要としない。従って、P1Dを、より短い時間で算出することができる。また、P1DとP1Dの転置共役との掛け算からTCCを算出することができるため、P演算子408を用いることで、TCCもより短い時間で算出することが可能となる。
なお、P1Dは、正方行列ではない。そこで、特異値展開(Singular Value Decomposition)を用いて、以下の数式15に示すように、P1Dを変形する。
数式15において、Sは対角行列であり、W及びVはユニタリー行列である。数式15を数式12に代入して、W+Wが単位行列になるという特異値展開の性質を用いれば、以下の数式16を得ることができる。
従来の部分コヒーレント結像計算の1つの計算方法であるSOCSは、上述したように、TCCを固有値及び固有関数に分解する。TCCは非常に大きな行列であるため、TCCの算出には多大な時間とコンピュータ・メモリを必要とする。更には、固有値及び固有関数の分解にも多大な時間が必要となる。
一方、本実施形態では、P演算子408を特異値展開している。数式14を参照するに、P演算子408の要素数は、TCCの要素数よりも明らかに少ないため、特異値展開にかかる時間が少なくてすむ。更に、P演算子408の算出には、掛け算や足し算を必要としないため、P演算子408をより少ない時間で算出することができる。換言すれば、P演算子408を用いることで、SOCSより少ない計算量及び小容量のコンピュータ・メモリで固有値及び固有関数を算出することができる。その結果、ウエハ面に形成される光強度分布である空中像409をより短い時間で算出することができる。また、数式14を用いれば、TCCをより短い時間で算出することも可能である。
これまでは、1次元の空中像(光強度分布)を算出する場合を説明したが、以下では、2次元の空中像(光強度分布)を算出する場合を説明する。
離散化された投影光学系の瞳面における座標を(fi、gj)とする。但し、i及びjの範囲は、1からMとする。回折光分布のベクトル|φ’2D>は、以下の数式17に示すように、1次元に並べて表される。
|φ’2D>を具体的に表すために、floorは小数点以下切り捨てを表すものとする。|φ’2D>の第n行は、j=floor[(n−1)÷M]+1、i=n−(j−1)×Mとして、a(fi、gj)exp[−i2π(fix+gjy)]である。このように、2次元の完全直交系を表す。
有効光源上の第1の点光源の座標を(f1、g1)とすると、第1の点光源から射出した光は、投影光学系の瞳を示す瞳関数P(f、g)を(f1、g1)だけずらすことと同等であると考えられる。そのため、回折光に作用する瞳関数P1(f、g)は、P(f+f1、g+g1)で表される。瞳関数P1(f、g)の各要素を、数式17に示したように1次元に並べる。これにより、以下の数式18に示すように、瞳関数P1(f、g)を1次元のベクトルで表現することができる。
P1を具体的に表すために、floorは小数点以下切り捨てを表すものとする。P1の第n列は、j=floor[(n−1)÷M]+1、i=n−(j−1)×Mとして、P1(fi、gi)である。このように、2次元の完全直交系を表す。
有効光源上の第2の点光源の座標を(f2、g2)とすると、第2の点光源から射出した光に作用する瞳関数P2(f、g)は、P(f、g)を(f2、g2)だけずらして、P(f+f2、g+g2)で表される。瞳関数P2(f、g)は、瞳関数P1(f、g)と同様に、以下の数式19に示すような1次元のベクトルで表現することができる。
有効光源にN個の点光源が存在する場合、以下の数式20に示すように、2次元のP演算子408を定義することが可能となる。
|φ’2D>及びP2Dを用いれば、ウエハ面に形成される2次元の光強度分布I(x、y)は、以下の数式21を用いて算出することができる。
数式21において、P2Dを特異値展開すれば、以下の数式22を得ることができる。
このように、2次元の空中像(光強度分布)を算出する場合であっても、P演算子408の要素数は、TCCの要素数よりも少なく、且つ、P演算子408の算出に複雑な計算を必要としない。その結果、ウエハ面に形成される光強度分布である空中像409をより短い時間で算出することができる。
なお、マスクパターンで回折された2次元の回折光の集合は、以下の数式23に示すように表すことができる。
数式23を参照するに、Ψ2Dは、M行M列の行列であって、M2個の要素を含む。ここで、M行M列の行列を一定の法則で1行M2列の行列に変換する(即ち、並び替える)演算子(スタッキング演算子)Yを導入する。スタッキング演算子Yの導入によって、2次元の回折光分布のベクトル|φ’2D>は、以下の数式24で表される。
有効光源上の第1の点光源の座標を(f1、g1)とすると、第1の点光源から射出した光は、投影光学系の瞳をずらすことと同等であると考えられるため、回折光に作用する瞳関数P1(f、g)は、P(f+f1,g+g1)で表される。従って、瞳関数P1(f,g)は、以下の数式25に示すように表すことができる。
同様に、有効光源上の第2の点光源の座標を(f2、g2)とすると、第2の点光源から射出した光に作用する瞳関数P2(f、g)は、P(f+f2、g+g2)で表される。従って、瞳関数P2(f、g)は、瞳関数P1(f、g)と同様に、以下の数式26に示すように表すことができる。
有効光源上にN個の点光源が存在する場合、2次元のP演算子408は、スタッキング演算子Yを用いて、以下の数式27のように表すことができる。
数式24及び数式27からウエハ面に形成される光強度分布である空中像を算出する場合には、数式21又は数式22を用いればよい。
また、TCCを算出する場合には、以下の数式28を用いればよい。
これまでは、数式20や数式27に示したように、行方向に点光源が形成されるように投影光学系の瞳をずらしたP演算子408について説明した。但し、以下の数式29に示すように、列方向に点光源が形成されるように投影光学系の瞳をずらしたP演算子408であっても本質的には変わらない。従って、P演算子408を数式29に示すように表した場合であっても、直交関数系の記述を整合させればよい。
図3は、空中像計算プログラム411による空中像409の算出処理を具体的に説明するためのフローチャートである。なお、空中像計算プログラム411は、媒体インターフェース60に接続された記憶媒体70からインストールされ、制御部20を介して記憶部40に記憶されているものとする。また、空中像計算プログラム411は、入力部50から入力されるユーザの起動命令に従って起動され、制御部20によって実行される。
ステップS1002において、制御部20は、有効光源情報402、NA情報403、λ情報404、収差情報405、偏光情報406、レジスト情報407及びマスクデータ410を含む空中像算出用情報を決定する。具体的には、ユーザは、入力部50を介して、有効光源情報「四重極照明」、NA情報「0.73」、λ情報「248nm」、収差情報「無収差」、偏光情報「無偏光」、レジスト情報「考慮しない」及びマスクデータ「コンタクトホール」を入力(選択)する。そして、制御部20は、空中像計算プログラム411に従って、ユーザによって入力(選択)された空中像算出用情報を表示部30に表示して空中像算出用情報を決定する。なお、本実施形態では、空中像算出用情報は予め記憶部40に記憶されており、ユーザは記憶部40に記憶された空中像算出用情報を入力(選択)する場合を例に説明する。但し、ユーザは記憶部40に記憶されていない空中像算出用情報を入力することも可能である。
ステップS1004において、制御部20は、P演算子408を算出する。具体的には、制御部20は、ユーザによって入力(選択)された空中像算出用情報を記憶部40から受け取り、かかる空中像算出用情報に基づいて、例えば、数式20や数式27からP演算子408を算出する。また、制御部20は、算出したP演算子408を記憶部40に記憶させる。
ステップS1006において、制御部20は、空中像409を算出する。具体的には、制御部20は、ユーザによって入力(選択)された空中像算出用情報、P演算子408を用いて、例えば、数式21や数式22から空中像409を算出する。また、制御部20は、空中像409を表示部30に表示させると共に、記憶部40に記憶させる。
このように、空中像計算プログラム411による空中像409の算出処理では、P演算子408を用いて空中像409を算出することができる。換言すれば、空中像計算プログラム411による空中像409の算出処理は、SOCSでは必要となるTCCを算出することなく、空中像409を算出することができため、計算を全体的に簡素化して空中像409の算出にかかる時間を短縮することができる。
空中像計算プログラム411による空中像409の算出結果は、必要に応じて分析される。空中像の分析は、例えば、空中像の目視確認、空中像の傾斜(Normalized Intensity Log Slope; NILS)、コントラスト、デフォーカス特性(DOF特性)、パターンデータ401との一致具合の確認などを含む。また、空中像409がどのようにレジストに作用するかなどを確認することもできる。なお、空中像の分析に関しては、当業界で周知のいかなる方法を適用してもよい。
更に、空中像計算プログラム411による空中像409の算出処理を応用して、様々なモデルベース超解像技術に適用することも可能である。
以下、各実施例において、空中像計算プログラム411による空中像409の算出処理の効果やモデルベース超解像技術への適用などについて詳細に説明する。
実施例1は、空中像計算プログラム411による空中像409の算出処理の効果について説明する。実施例1では、処理装置1の制御部20を構成するCPUとしてOpteron(登録商標)64bitを使用し、記憶部40として約10GByteのメモリを使用した。MATLAB(登録商標)を用いて空中像計算プログラム411を作成し、空中像409の算出にかかる時間(算出時間)を従来技術(SOCS)と比較した。
また、実施例1では、露光装置として、投影光学系のNAが0.73であり(NA情報403に相当)、露光光の波長が248nmである(λ情報404に相当)場合を考える。更に、投影光学系は無収差(収差情報405に相当)、照明光は無偏光(偏光情報406に相当)、ウエハに塗布されるレジストは考慮しない(レジスト情報407に相当)ものとする。有効光源は、図4(a)に示すような四重極照明を用いる。パターンデータ(目標パターン)401は、2つのコンタクトホールパターンで構成される。また、それぞれのコンタクトホールパターンの直径は120nmとし、それぞれのコンタクトホールパターンの中心は(−120nm、0nm)、(120nm、0nm)とする。従って、マスクデータ410は、図4(b)に示すようになる。また、投影光学系の瞳の分割数を31とし、フーリエ変換を実行する際の分割数を1024にした。
制御部20は、上述した空中像算出用情報に基づいて、P演算子408を算出する。この際、P演算子408の算出にかかった時間は、0.1秒以下であった。また、制御部20は、P演算子408を特異値展開(即ち、固有値及び固有関数に分解)する。この際、P演算子408の特異値展開にかかった時間は、0.4秒であった。更に、全ての固有関数を足し合わせて完全な空中像を算出したところ、図4(c)に示すような空中像409が得られ、空中像409の算出にかかった時間は約33.0秒であった。但し、図4(c)に示す空中像409は、最大値が1になるように規格化されている。
次に、SOCSを用いて空中像を算出した。まず、制御部20は、数式2に基づいて、TCCを算出する。この際、TCCの算出にかかった時間は約1152秒であった。また、制御部20は、数式4に基づいてTCCを固有値及び固有関数に分解する(第1の算出ステップ)。この際、TCCを固有値及び固有関数に分解するのにかかった時間は、約4.9秒であった。更に、全ての固有関数を足し合わせて完全な空中像を算出したところ(第2の算出ステップ)、図4(d)に示すような空中像が得られ、空中像の算出にかかった時間は約1209秒であった。但し、図4(d)に示す空中像は、最大値が1になるように規格化されている。
このように、空中像計算プログラム411による空中像409の算出処理は、従来技術のSOCSよりも短い時間で空中像を算出することができる。なお、図4(c)に示す空中像409と図4(d)に示す空中像とを比較すると、1.0×10−15のオーダーで一致し、正しいシミュレーション結果が得られていることが分かる。
また、空中像計算プログラム411によれば、TCCをより短い時間で算出することも可能である。上述したように、SOCSでは、TCCの算出に約1152秒かかった。一方、制御部20がP演算子408を算出した後、数式28に基づいてTCCを算出したところ、約0.9秒しかかからなかった。
実施例2では、投影光学系の収差を考慮する場合や照明光に偏光が設定されている場合における空中像409の算出処理について説明する。更に、実施例2では、有効光源に光強度のむらがある(発光部の光強度が均一でない)場合やマスクパターンからの回折光の回折効率が変化する場合における空中像409の算出処理についても説明する。
投影光学系の収差を考慮する場合には、かかる収差を瞳関数に組み込み、数式27を用いてP演算子408を算出すればよい。この場合、P演算子408の各要素は、投影光学系の収差に応じた複素数の要素を含むことになる。このようにして、数式27におけるP’iに投影光学系の収差を組み込むことができる。
収差情報405を除く空中像算出用情報は、実施例1と同じであるとする。また、収差情報405として、Fringe Zernike多項式の第5項(低次のコマ収差)に50mλの収差情報を設定した。空中像計算プログラム411に従って、図4(b)に示すマスクデータ410に対して、P演算子408を用いて空中像409を算出した結果を図5に示す。図5を参照するに、2つのコンタクトホールパターンで大きさが異なり、左側のコンタクトホールパターンが大きくなっていることがわかる。投影光学系の収差として低次のコマ収差が設定されているためである。
また、デフォーカスは波面収差の一種であるため、空中像計算プログラム411による空中像409の算出処理に組み込むことが可能である。また、ウエハに塗布されるレジストを平行平板とみなせば、レジストは球面収差を発生させると考えることができる。従って、レジストに起因する収差を空中像計算プログラム411による空中像409の算出処理に組み込むことも可能である。
照明光に偏光が設定されている場合には、有効光源でσ=1を投影光学系のNAと対応させ、偏光を3次元的に表せばよい。具体的には、瞳関数に偏光に起因する因子をかければよい。偏光に起因する因子は、x偏光がx偏光になる効果の因子、x偏光がy偏光になる効果の因子、x偏光がz偏光になる効果の因子、y偏光がx偏光になる効果の因子、y偏光がy偏光になる効果の因子及びy偏光がz偏光になる効果の因子を含む。従って、x偏光用のP演算子、y偏光用のP演算子及びz偏光用のP演算子の3種類のP演算子が導出される。
x偏光用のP演算子、y偏光用のP演算子及びz偏光用のP演算子のそれぞれを、Px、Py及びPzとすれば、ウエハ面に形成される光強度分布I(x、y)は、以下の数式30から算出することができる。
偏光情報406を除く空中像算出用情報は、実施例1と同じであるとする。また、偏光情報406として、全ての点光源がx方向に偏光していると設定した。空中像計算プログラム411に従って、x偏光用のP演算子Px、y偏光用のP演算子Py及びz偏光用のP演算子Pzを用いて空中像409を算出した結果を図6に示す。図6と図4(c)とを比較するに、照明光に偏光が設定されている場合には、露光光が無偏光である場合よりも、空中像409がぼけていることがわかる。
更に、P演算子を、以下の数式31に示すように定義する。
数式31において、Ppolは、偏光の効果を含むP演算子である。Ppolの要素数はTCCの要素数よりも少ないため、Ppolを用いることによって、SOCSよりも短い時間で空中像409を算出することが可能である。
ここで、1つの重大な結論を導くことができる。それは、これまではP演算子は1つの行列で定義されていたが、複数のP演算子を定義してもよいということである。例えば、実施例2では、偏光を考慮して、1つのP演算子Ppolを定義したが、偏光成分に分けて3種類のP演算子を定義することもできる。また、有効光源を複数の領域に分割して、複数のP演算子を定義してもよい。
一方、有効光源に光強度のむらがある(発光部の光強度が均一でない)場合には、各点光源の強度をP演算子に組み込めばよい。例えば、i番目の点光源の強度がSiであれば、P演算子は、以下の数式32で定義される。
また、マスクパターンの微細化に伴い、垂直入射時の回折光分布と斜入射時の回折光分布とが異なる(即ち、回折効率が変化する)場合がある。このような場合には、数式27を以下の数式33に示すように変換すればよい。
但し、数式33におけるP’’iには、i番目の点光源から斜入射する場合の回折効率が含まれている。
実施例3では、空中像計算プログラム411による空中像409の算出処理をモデルベース超解像技術に適用する場合を説明する。超解像技術の基本的な手法として、光学近接効果補正(OPC:Optical Proximity Correction)が知られている。
マスクデータ410を除く空中像算出用情報は、実施例1と同じであるとする。実施例3では、マスクデータ410として、図7(a)に示すような、幅120nm、長さ840nmの5つのバーを考える。この場合、空中像計算プログラム411によって算出される空中像409を図7(b)に示す。図7(a)と図7(b)とを比較するに、マスクデータ410と空中像計算プログラム411によって算出される空中像409とが異なっていることがわかる。そこで、OPCに基づいて、空中像計算プログラム411によって算出される空中像409(即ち、露光されたパターン)がパターンデータ401に近づくように、マスクデータ410を変化させる。
OPCにおいて、最適なマスクデータ410を決定するためには、マスクデータ410を変化させて空中像409を算出するループを、空中像409とパターンデータ401との差分が小さくなるまで繰り返す必要がある。従って、空中像409の算出に時間がかかってしまうと、最適なマスクデータ410を決定するまでに時間がかかってしまう。但し、空中像計算プログラム411は、より短い時間で空中像409を算出することができるため、OPCに好適である。
具体的には、制御部20は、上述した5つのバーに対して、最適なマスクデータ410を決定するために、空中像計算プログラム411による空中像409の算出処理を繰り返し、マスクデータ410を変化させる。これにより、最終的なマスクデータ410では、一番左のバー及び一番右のバーは幅134nm、長さ968nm、左から2番目のバー及び右から2番目のバーは幅127nm、長さ930nm、中央のバーは幅120nm、長さ929nmとなる。かかるマスクデータ410を用いて、空中像計算プログラム411によって算出される空中像409を図7(c)に示す。図7(b)と図7(c)とを比較するに、図7(c)に示す空中像409は、図7(b)に示す空中像409よりも、パターンデータ401に近いことがわかる。
このように、空中像計算プログラム411による空中像409の算出処理をOPCに適用することで、マスクデータ410をより短い時間で生成することが可能となる。
実施例4では、空中像計算プログラム411による空中像409の算出処理において、空中像409を更に短い時間で算出する方法について説明する。
2次元の空中像409を算出する場合、P演算子408は、上述したように、数式27で表すことができる。瞳分割数をL、点光源の数をNとすると、P演算子はN行(2L)2列の行列である。P演算子の各行は独立しているため、P演算子の階数(Rank)は、Nである。換言すれば、P演算子を特異値展開すると、N種類の固有値及びN種類の固有関数が算出される。従って、完全な空中像409を算出するためには、N種類の固有値及びN種類の固有関数が必要となる。但し、後述するように、実際には、N種類の固有値及びN種類の固有関数を使用する必要はない。
マスクデータ410を除く空中像算出用情報は、実施例1と同じであるとする。実施例4では、マスクデータ410として、図7(a)に示すような、幅120nm、長さ840nmの5つのバーを考える。
図4(a)に示す有効光源は、数値計算上、92個の点光源を有する。従って、92種類の固有値及び92種類の固有関数が存在する。固有値の2乗が大きい順番に、固有値と対応する固有関数を並び替える。
図8(a)は、一番大きい固有値の2乗を1に規格化して、各固有値の2乗をプロットした図である。固有値は、上述したように、92種類存在し、iを固有値の番号、即ち、第i番目の固有値とすると、図8(a)に示すように、iが10以上である場合には、固有値の2乗は0.01以下になる。また、iが49以上である場合には、固有値の2乗は0.001以下になる。このように、固有値の2乗は、固有値の番号iの増加に伴って急速に減衰していく。
ここで、全ての固有値の2乗和をEとし、第i番目までの固有値の2乗和をEiとする。Ei/E=1であれば、完全な空中像409を算出することができる。完全な空中像409において、y=0断面における中央のバーの線幅が120nmになるように光強度を設定すると、一番左のバーの線幅は98.44nmであった。
固有値の2乗は、固有値の番号iの増加に伴って急速に減衰し、且つ、固有関数は固有値の番号iの増加に伴って空間周波数が増大する。従って、固有値の番号iが大きくなればなるほど、空中像の形成への寄与が少ない。図8(b)は、完全な空中像と近似された空中像(即ち、一部の固有値及び固有関数から算出された空中像)との差を示す図である。図8(b)では、横軸に固有値の番号iを採用し、縦軸にi番目までの固有関数および固有値を用いて空中像を計算した場合における、一番左のバーの線幅を採用する。図8(b)を参照するに、Ei/E=0.96以上(即ち、固有値の番号iが14以上)である場合、完全な空中像との差が0.1nm以下になっている。従って、92種類の固有値及び92種類の固有関数を使わなくとも、14種類の固有値及び14種類の固有関数を使用すれば、完全な空中像と略等しい空中像を算出することが可能である。この場合、空中像の算出にかかる時間を約85%低減することができる。
なお、必要となる空中像の精度は、評価対象によって異なるが、本発明者は、様々なケースを検討し、Ei/Eが0.96以上であれば、実用上問題ないことを確かめた。更に、Ei/Eが0.98以上であれば、ほぼ全ての評価対象で問題のないことを確かめた。
このように、空中像計算プログラム411による空中像409の算出処理においては、評価対象に応じてEi/Eを調節することによって、空中像409を更に短い時間で算出することが可能となる。
一方、また、空中像409を更に短い時間で算出する方法として、P演算子408を圧縮する方法が挙げられる。例えば、1次元結像を考える。もし、P演算子408の第j列の全ての成分が0であれば、P演算子408の第j列は全く必要ない。そこで、P演算子408において、以下の数式34に示すように、全ての成分が0である列を取り除くことで、P演算子408を圧縮することができる。
数式34を参照するに、2行7列だったP演算子408が、2行4列に圧縮されていることがわかる。
同様に、2次元結像でもP演算子408を圧縮することが可能である。具体的には、P演算子408において、全ての成分が0である列を取り除くことで、P演算子408を圧縮することができる。このようにして圧縮されたP演算子408を用いれば、更に短い時間で特異値展開することが可能となり、その結果、空中像409を更に短い時間で算出することができる。
P演算子408を圧縮した場合の例を具体的に説明する。有効光源は、図9(a)に示すように、四重極照明であるとし、712個の点光源を含むものとする。空中像計算プログラム411に従って、通常に算出された(即ち、圧縮されていない)P演算子408を図9(b)に示す。図9(b)に示すP演算子408は、712行16129列の行列であって、白が1、黒が0である。また、所定の処理を経て圧縮されたP演算子408を図9(c)に示す。図9(c)に示すP演算子408は、712行10641列の行列であって、白が1、黒が0である。
図9(b)に示すP演算子408を特異値展開するのにかかった時間は、約34.0秒であった。一方、図9(c)に示すP演算子408を特異値展開するのにかかった時間は、約24.3秒であった。このように、P演算子408を圧縮することによって、P演算子408を特異値展開する速度が向上していることがわかる。
実施例5では、P演算子408を用いたモデルベース超解像技術、特に、空中像計算プログラム411による空中像409の算出処理を用いたマスクデータ410の生成方法について説明する。かかる生成方法は、露光するべきパターンに対して補助パターンを挿入してマスクデータ410を生成する。
図10は、実施例5における処理装置1の構成を示す概略ブロック図である。図10に示す処理装置1は、基本的には、図1に示す処理装置1と同じ構成を有するが、記憶部40がマスク関数412、Pマップ413及びマスク生成プログラム414を更に記憶する。なお、以下では、有効光源情報402、NA情報403、λ情報404、収差情報405、偏光情報406、レジスト情報407、マスクデータ410及びマスク関数412をPマップ算出用情報と称する。
マスク関数412は、後述するPマップ413を作成するための変数であって、パターンデータ401そのもの、或いは、パターンデータ401を一定の規則で変形させたものである。
Pマップ413は、P演算子408の固有関数に回折光分布をかけてフーリエ変換したもの、或いは、それらを足し合わせたものであって、部分コヒーレントマップである。
ここで、Pマップ413の算出処理と空中像409の算出処理との違いについて説明する。空中像409の算出処理は、P演算子408の固有関数にマスクデータ410の回折光分布をかけてフーリエ変換し、それらの絶対値を2乗する。更に、絶対値を2乗した値に対応する固有値の絶対値の2乗をかけて加算する。これにより、空中像409が算出される。一方、Pマップ413は、P演算子408の固有関数にマスクデータ410の回折光分布をかけてフーリエ変換し、それらに対応する固有値をかけて加算することで算出される。従って、空中像409は必ず正の値になるが、Pマップ413は正の値になるとは限らない。Pマップ413は、投影光学系の物体面にパターンを構成する複数の要素が配置された場合の、該要素間の影響を示すマップ(関数)を示す。
マスク生成プログラム414は、Pマップ413に基づいて、マスクデータ410を生成するプログラムである。
以下、マスク生成プログラム414によるマスクデータ410の生成処理について、特に、補助パターンの挿入に注目して説明する。
実施例5では、露光装置として、投影光学系のNAが0.73であり(NA情報403に相当)、露光光の波長が248nmである(λ情報404に相当)場合を考える。更に、投影光学系は無収差(収差情報405に相当)、照明光は無偏光(偏光情報406に相当)、ウエハに塗布されるレジストは考慮しない(レジスト情報407に相当)ものとする。有効光源(有効光源情報402に相当)は、図11(a)に示すように、四重極照明を用いる。パターンデータ(目標パターン)401は、図11(b)に示すように、孤立コンタクトホールパターンであって、かかる孤立コンタクトホールパターンの一辺は120nmであるとする。
また、実施例5では、所謂、抜きパターンを考える。従って、露光光が照射されたレジストの部分がパターンを形成する。
なお、露光装置では、露光光の波長λ及び投影光学系の開口数NAに様々な値を設定することができるため、マスクのパターンサイズを(λ/NA)で規格化することが好ましい。例えば、λが248nm、NAが0.73の場合、100nmのパターンは、上述した規格化によって、0.29となる。このような規格化をk1換算と称する。
120nmの径を有する孤立コンタクトホールパターンをk1換算すれば、約0.35である。k1換算した値が0.5以下の場合、空中像は正弦波的な形状になる。正弦波の特徴を最大限に利用するために、従来技術では、孤立コンタクトホールパターンの径を周期の半分として補助パターンを挿入していた。例えば、所望パターンである孤立コンタクトホールパターンの中心が(0、0)に存在する場合、(±240、0)、(0、±240)、(240、±240)及び(−240、±240)の8箇所に補助パターンを挿入していた。
マスク生成プログラム414では、まず、マスク関数412を目標パターンそのもの、即ち、120nmの孤立コンタクトホールパターンとする。
実施例4で説明したように、P演算子408の固有値が大きければ大きいほど、P演算子408の固有関数の空中像409の形成に対する寄与が大きくなる。そこで、P演算子408の固有値の2乗が大きくなる順番に、固有値を並び替える。こうして並び替えた第i番目の固有値に対応する固有関数を第i番目の固有関数と呼ぶ。
P演算子408の第1番目の固有関数は、空中像409の形成に対する寄与がもっとも大きい。そこで、P演算子408の第1の固有関数だけを考える。P演算子408の第1の固有関数に、マスク関数412の回折光分布をかけてフーリエ変換する。このようにして算出されたPマップ413を図11(c)に示す。
図11(c)では、白い点線で囲んだ領域AR1乃至AR8における値が大きくなっている。つまり、領域AR1乃至8からの回折光は目標パターンからの回折光と干渉して像強度を向上させる。従って、白い点線で囲んだ領域AR1乃至AR8に開口パターンを配置すれば、(0、0)の位置における像強度が大きくなる。
そこで、図11(d)に示すように、白い点線で囲んだ領域AR1乃至AR8に補助パターンHP1乃至HP8を挿入する。上述したように、(0、0)に中心を有する孤立コンタクトホールパターンを露光することが本来の目的であり、Pマップ413を解析すると、(0、0)にPマップ413がピークとなる位置がある。従って、パターンデータ401と同じ大きさの主パターンSPを、その中心が(0、0)の位置となるように配置する。そして、図11(d)に示すマスクパターンをマスクデータ410としてマスクを作成すればよい。これにより、補助パターンHP1乃至HP8による回折光が主パターンSPによる回折光に作用し、目標パターンである孤立コンタクトホールパターンを精度よく転写することができ、解像性能が向上する。
図12は、補助パターンがないマスク、従来技術によって補助パターンが挿入されたマスク及び実施例5(即ち、マスク生成プログラム414)によって補助パターンが挿入されたマスクの結像性能を比較した図である。図12では、横軸にデフォーカス量を、縦軸にコンタクトホールパターンの径(CD)を採用し、デフォーカス変動に対する孤立コンタクトホールパターンの径(CD)の変化でマスクの結像性能を評価した。また、従来技術における補助パターンの大きさは、90nm×90nmである。なお、実施例5における補助パターンの大きさについては後述する。
図12を参照して、補助パターンがないマスクの結像性能と従来技術によって補助パターンが挿入されたマスクの結像性能とを比較する。この場合、従来技術によって補助パターンが挿入されたマスクの方がデフォーカスの変動に対して孤立コンタクトホールパターンの径の変化が著しく少なくなっている。換言すれば、従来技術によって補助パターンが挿入されたマスクは、補助パターンがないマスクよりも結像特性が向上している。
同様に、従来技術によって補助パターンが挿入されたマスクの結像性能と実施例5によって補助パターンが挿入されたマスクの結像性能とを比較する。図12を参照するに、実施例5によって補助パターンが挿入されたマスクは、従来技術によって補助パターンが挿入されたマスクよりも結像特性が向上していることがわかる。
なお、図11(c)に示すPマップ413について詳細に説明する。図11(c)で示すPマップ413において、一定の閾値を超えていて、且つ、ピークをとる第1の位置を探す。ピークをとる位置とは、Pマップ413を位置で微分した値が零となる位置である。第1の位置は、距離及び方向の情報を含んでいるため、ベクトルである。実施例5では、第1の位置は(±285、0)、(0、±285)、(±320、320)及び(±320、−320)の8箇所である。但し、図11(c)では、最大値が1になるように規格化してあり、閾値を0.03とした。第1の位置を求めたら、Pマップ413の光強度分布になるべく忠実に補助パターンを挿入する。実施例5では、70nm×120nmの長方形を回転させて8箇所に補助パターンを挿入(配置)している。
なお、数値計算でピーク位置を求めることは困難である。そこで、ピーク位置と重心の位置がほとんど変わらないことを利用して、Pマップ413において、一定の閾値を越えている領域内で重心を求め、かかる重心を第1の位置としてもよい。
例えば、図11(c)に示すPマップ413において、閾値0.03以上の領域を1、閾値0.03未満の領域を0として表示すると図11(e)のようになる。図11(e)において、領域SRは、孤立コンタクトホールパターン(所望パターン)である主パターンSPに対応している。領域HR1乃至HR8は、補助パターンを挿入(配置)するべき領域(即ち、領域AR1乃至AR8)に対応している。従って、領域HR1乃至HR8の各々について重心を求めて、補助パターンを配置すればよい。
実施例6では、パターンデータ(目標パターン)401がn個のコンタクトホールパターンで構成されたパターンである場合におけるマスクデータ410の生成方法について説明する。
Pマップ413を用いてマスクデータ410を生成することによって、孤立コンタクトホールパターンを有するマスクの結像性能が向上することは実施例5で説明した通りである。同様に、Pマップ413を用いてマスクデータ410を生成することによって、n個のコンタクトホールパターンで構成されたパターンを有するマスクの結像性能も向上させることができる。
マスク関数412を除くPマップ算出用情報は、実施例5と同じであるとする。パターンデータ(目標パターン)401は、図13(a)に示すように、120nm四方の3つのコンタクトホールパターンを含むパターンである。3つのコンタクトホールパターンの中心は、(0、0)、(320、320)及び(640、−350)である。なお、実施例5と同様に、マスク関数412を目標パターンそのもの、即ち、120nmの径を有する3つのコンタクトホールパターンとする。
P演算子408の第1番目の固有関数は、空中像409の形成に対する寄与がもっとも大きい。そこで、P演算子408の第1の固有関数だけを考える。P演算子408の第1の固有関数に、マスク関数412の回折光分布をかけてフーリエ変換する。このようにして算出されたPマップ413を図13(b)に示す。
図13(b)において、白い点線で囲んだ領域は、ある閾値(実施例5では0.025)以上、且つ、ピーク位置である。従って、図13(b)に示す白い点線で囲んだ領域に補助パターンを挿入(配置)すればよい。
次に、パターンデータ401に対応する主パターンの決定について説明する。まず、(0、0)の位置に中心を有するパターンデータに注目する。Pマップ413を解析すると、(0、0)から(δx、δy)だけずれた位置にピークを有している。従って、(0、0)の位置に中心を有する120nm四方の主パターンを配置すると、光近接効果によって(δx、δy)だけ位置がずれて露光されてしまう。
そこで、(−δx、−δy)の位置に中心を有する主パターンを配置すれば、位置ずれをキャンセルすることができる。同様に、(320、320)及び(640、−350)の位置に中心を有するコンタクトホールパターンについても、位置ずれを考慮して、パターンデータ401の位置とは異なる位置に主パターンを挿入(配置)する。
また、Pマップ413を解析することで、主パターンがどれだけ歪むか予測することも可能である。従って、主パターンの歪みに基づいて主パターンの形状を決定することもできる。
なお、Pマップ413に基づいて、主パターンをパターンデータ401が示すパターンそのものとして決定した後、OPCを適用して主パターンの位置ずれや形状を補正してもよい。
なお、コンタクトホールパターンの配置に依存するが、補助パターン同士が著しく隣接する場合がある。この場合、隣接する補助パターンの近傍に、1つの補助パターンを挿入(配置)すればよい。また、補助パターンと所望パターンが近接する場合には、かかる補助パターンを取り除く必要がある。
マスク生成プログラム414は、正方形形状のコンタクトホールパターンを有するマスクに限定されるものではなく、長方形形状のコンタクトホールパターンやラインパターンを有するマスクにも適用することができる。実施例7では、マスク生成プログラム414を用いて、孤立ラインパターンを有するマスクのマスクデータ410を生成する場合について説明する。
有効光源情報402及びマスク関数412を除くPマップ算出用情報は、実施例5と同じであるとする。有効光源(有効光源情報402に相当)は、図14(a)に示すように、二重極照明を用いる。パターンデータ(目標パターン)401は、幅が120nmの孤立ラインパターンであるとする。
また、実施例7では、露光光が照射され、光強度がある閾値以下のレジストの部分でパターンを形成する、所謂、残しパターンを考える。
まず、マスク関数412を目標パターンそのもの、即ち、120nmの孤立ラインパターンとする。一般的に、ラインパターンを露光する場合には、ライン部分だけにレジストを残す。従って、マスク関数412は、バックグラウンド透過率が100%で、120nmの孤立ラインパターンの遮光部を有するマスクを表現する。
上述したPマップ算出用情報から算出されたPマップ413を図14(b)に示す。図14(b)に示すPマップ413において、一定の閾値より小さく、且つ、ピークになる位置に補助パターンを挿入(配置)してマスクデータ410を生成すれば、マスクの結像特性が向上する。
図14(b)に示すPマップ413は、孤立ラインパターンの中心から約290nmの位置にピークを有する。そこで、図14(c)に示すように、孤立ラインパターンの中心から290nmの位置に補助パターンが配置されたマスクを用いれば結像性能が向上する。図14(c)において、dは、孤立ラインパターンの中心からの距離を示し、実施例7では、290nmである。
また、以下のようにして補助パターンを挿入(配置)しても孤立ラインパターンを有するマスクのマスクデータ410を生成することができる。
まず、抜きパターンとして算出したPマップ413をPM1(x、y)とする。ここで、PM1(x、y)の最大値を1に規格化する。次に、PM2(x、y)=1−PM1(x、y)として新たなPマップ413であるPM2(x、y)を算出する。このようにして算出されたPM2(x、y)において、一定の閾値より小さい領域で、且つ、ピークの位置(又は重心位置)に補助パターンを挿入(配置)してマスクデータ410を生成する。また、PM1(x、y)において、一定の閾値を越える領域で、且つ、ピークの位置(又は重心位置)に残しパターンを形成する補助パターンを挿入(配置)してもよい。
実施例8では、マスク関数412について詳細に説明する。
Pマップ算出用情報は、実施例5と同じであるとする。パターンデータ(目標パターン)401は、120nm四方の孤立コンタクトホールパターンであるとする。
マスク関数412を目標パターンそのものとして算出したPマップ413を図15(a)及び図15(b)に示す。なお、図15(a)は、Pマップ413そのものを示す。また、図15(b)は、図15(a)に示すPマップ413において、正の値を有する位置を1、負の値を有する位置を−1として表示したものである。
また、マスク関数412を60nm四方の孤立コンタクトホールパターンとして算出したPマップ413を図15(c)及び図15(d)に示す。なお、図15(c)は、Pマップ413そのものを示す。また、図15(d)は、図15(c)に示すPマップ413において、正の値を有する位置を1、負の値を有する位置を−1として表示したものである。
更に、マスク関数412を1nm四方の孤立コンタクトホールパターンとして算出したPマップ413を図15(e)及び図15(f)に示す。なお、図15(e)はPマップ413そのものを示す。また、図15(f)は、図15(e)に示すPマップ413において、正の値を有する位置を1、負の値を有する位置を−1として表示したものである。
マスク関数412を小さなパターンにすると、かかる小さなパターンに光が集中するように補助パターンが挿入(配置)されるため、露光裕度が大きくなる。但し、図15(a)乃至図15(f)から理解されるように、マスク形状は複雑になる。一方、マスク関数412を大きなパターンにすると、マスク形状は単純になる。本発明者が検討した結果、マスク関数412は、目標パターンと同等、或いは、目標パターンよりも小さくするとよい。
また、Pマップ413の算出を単純化するためには、コンタクトホールパターンを点(例えば、1nmのコンタクトホールパターン)、ラインパターンを線(例えば、幅1nm)としてマスク関数412とすればよい。長方形形状のコンタクトホールパターンの場合は、長手方向に伸びる線(例えば、長さが長手方向と同じ長さで、幅が1nm)をマスク関数412とすればよい。
例えば、実施例5の場合には、マスク関数412を1nmの孤立コンタクトホールパターンとすればよい。実施例6の場合には、マスク関数412を2つの1nmのコンタクトホールパターンとすればよい。実施例7の場合には、幅が1nmのラインパターンをマスク関数412とすればよい。
マスク関数412は、上述したように、目標パターンと同等、或いは、目標パターンよりも小さくするとよいため、0よりも大きく1以下の縮小倍率を予め設定しておき、かかる縮小倍率を目標パターンにかけたものをマスク関数412としてもよい。
例えば、縮小倍率を0.75に設定した場合、実施例5では、90nm(120nm×0.75)の孤立コンタクトホールパターンをマスク関数412とすればよい。また、実施例7では、幅90nmのラインパターンをマスク関数412とすればよい。なお、実施例5乃至実施例7は、縮小倍率を1に設定した場合の例であると言える。
ラインパターン及び長方形形状のパターンにおいては、一般的に、短手方向の解像が困難であるため、短手方向の解像に注目する必要がある。そこで、目標パターンの短手方向だけに縮小倍率をかけたものをマスク関数412とし、Pマップ413を算出してもよい。
実施例9では、Pマップ413において、負の値を有する領域(位置)に挿入(配置)する補助パターンについて説明する。
Pマップ413は、負の値を有する領域を含む。これは、Pマップ413には空中像の形成を打ち消そうとする領域があることを示している。
空中像の形成を打ち消す効果は、位相が反転している(即ち、位相差が180度である)と解釈することができる。従って、Pマップ413における負の値を有する領域に、所望パターンを透過した光の位相と補助パターンを透過した光の位相との位相差が180度になるように補助パターンを挿入(配置)することで、結像特性を向上させることが可能となる。
Pマップ算出用情報は、実施例5と同じであるとする。パターンデータ(目標データ)401は、孤立コンタクトホールパターンであって、かかる孤立コンタクトホールパターンの径は120nmであるとする。
上述したPマップ算出用情報からは、実施例5で説明したように、図11(c)に示すPマップ413が算出される。図11(c)に示す白い点線で囲んだ領域AR1乃至AR8に所望パターンと同位相(位相差が0度)の補助パターンを挿入(配置)すれば、マスクの結像特性は向上する。但し、図11(c)に示すPマップ413は、図16(a)に示すように、白い点線で囲んだ領域AR9乃至AR12に大きな負のピーク値を有する。図16(a)に示すPマップ413において、白い点線で囲んだ領域AR9乃至AR12の中心は、(±225、225)及び(±225、−225)の4箇所である。そこで、白い点線で囲んだ領域AR9乃至AR12に、所望パターンとの位相差が180度となる補助パターンAP1乃至AP4を挿入(配置)し、図16(b)に示すマスクデータ410を生成する。図16(b)において、補助パターンAP1乃至AP4は、所望パターンとの位相差が180度になっており、その大きさは90nm×90nmである。
図17は、図11(d)に示すマスクデータ410(即ち、実施例5)のマスクの結像性能と図16(b)に示すマスクデータ410(即ち、実施例9)のマスクの結像性能を比較した図である。図17では、横軸にデフォーカス量を、縦軸に孤立コンタクトホールパターンの径(CD)を採用し、デフォーカス変動に対する孤立コンタクトホールパターンの径(CD)の変化でマスクの結像性能を評価した。図17を参照するに、図16(b)に示すマスクデータ410のマスクは、図11(d)に示すマスクデータ410よりも結像性能がよい。
このように、Pマップ413において、負の値を有する領域に、所望パターンとの位相差が180度となる補助パターンを挿入(配置)することによって、マスクの結像性能を向上させることができる。従って、Pマップ413において、正の閾値を超えて、且つ、ピークとなる領域に所望パターンと同位相の補助パターンを挿入し、負の閾値より小さく、且つ、ピークとなる位置に所望パターンとの位相差が180度の補助パターンを挿入すればよい。なお、実施例9では、正の閾値を0.03とし、負の閾値を−0.018とした。
実施例5や実施例9で説明したように、Pマップ413に基づいてマスクデータ410を生成することによって、マスクの結像性能を向上させることができる。但し、Pマップ413に忠実に補助パターンを挿入(配置)した場合、マスク形状が複雑になってしまう。現在のマスク作成技術であれば、図11(d)に示すマスクデータ410のマスクや図16(b)に示すマスクデータ410のマスクを作成することは可能である。それでも、マスクの作成にかかる負担を低減することは非常に有意義である。
マスク作成にかかる負担を減らすためには、Pマップ413において、一定の閾値を超え、且つ、ピークになる位置に露光すべきパターンと略相似な補助パターンを挿入すればよい。Pマップ413は、補助パターンを挿入(配置)する位置を示すことが最大の特徴であるため、補助パターンの形状を変化させても結像性能に対する影響は少ない。
Pマップ算出用情報は、実施例5と同じであるとする。パターンデータ(目標データ)401は、孤立コンタクトホールパターンであって、かかる孤立コンタクトホールパターンの径は120nmであるとする。
実施例5で説明したように、上述したPマップ算出用情報から算出されるPマップ413において、正の閾値以上で、且つ、ピークをとる位置は(±285、0)、(0、±285)、(±320、320)及び(±320、−320)の8箇所であった。かかる8箇所に露光すべきパターンと同じ位相の補助パターンを挿入する。但し、補助パターンの形状は露光すべき所望のパターンである孤立コンタクトホールパターンと相似な形状であり、補助パターンの大きさは90nm×90nmとする。
次に、実施例9で説明したように、(±225、225)及び(±225、−225)の4箇所に露光すべきパターンからの回折光との位相差が180度となる補助パターンを挿入する。但し、補助パターンの形状は露光すべき所望のパターンである孤立コンタクトホールパターンと相似な形状であり、補助パターンの大きさは90nm×90nmとする。
このようにして生成されたマスクデータ410を図18に示す。図18において、補助パターンAP5乃至AP12は、(±285、0)、(0、±285)、(±320、320)及び(±320、−320)に挿入(配置)された、露光すべきパターンと同じ位相の補助パターンである。補助パターンAP13乃至AP16は、(±225、225)及び(±225、−225)に挿入(配置)された露光すべきパターンとの位相差が180度となる補助パターンである。図18に示すマスクデータ410のマスクは、補助パターンAP5乃至AP16の形状が正方形形状(即ち、所望パターンと相似)であるため、図16(b)に示すマスクデータ410のマスクよりも容易に作成することができる。
図19は、図16(b)に示すマスクデータ410(即ち、実施例5)のマスクの結像性能と図18に示すマスクデータ410(即ち、実施例10)のマスクの結像性能を比較した図である。図19を参照するに、図16(b)に示すマスクデータ410のマスクと図18に示すマスクデータ410のマスクでは、結像性能にほとんど差がないことがわかる。このように、Pマップ413において、一定の閾値を超え、且つ、ピークになる位置に露光すべきパターンと略相似な補助パターンを挿入(配置)することで、マスクの作成にかかる負荷を低減することができる。また、従来技術によって作成されたマスクよりも結像性能を向上させることができる。なお、補助パターンの形状は、所望パターンと略相似な形状に限定されず、マスクを作成することが容易となる形状であればよい。
補助パターンの形状が露光すべきパターンと略相似な形状である場合、補助パターンのサイズは、露光すべきコンタクトホールパターンのサイズの75%近傍であることが好ましい。ここで、サイズとは面積ではなく、パターンの一辺の長さである。例えば、120nmのコンタクトホールパターンを露光するために、1辺が120nmの正方形形状のパターンをマスクに設けた場合には、補助パターンの1辺の長さは90nm程度であればよい。但し、Pマップ413は、補助パターンを挿入(配置)すべき位置を的確に示しているため、補助パターンを挿入(配置)すれば、少ながらず解像力の向上につながる。従って、補助パターンのサイズを露光すべきコンタクトホールパターンのサイズの75%に固定する必要はない。本発明者が検討した結果、補助パターンのサイズが露光すべきコンタクトホールパターンのサイズの50%乃至85%であっても、十分な効果を得ることができる。
コンタクトホールパターンが長方形形状である場合は、長方形形状の補助パターンを挿入(配置)すればよい。かかる補助パターンの短手方向の辺の長さは、露光すべきコンタクトホールパターンの短手方向の長さの50%乃至80%にすればよい。
露光すべきパターンがラインパターンである場合には、ライン形状の補助パターンを挿入すればよい。ライン形状のパターンは解像しやすいため、補助パターンの幅は、露光すべきラインパターンの幅の35%乃至70%であることが好ましい。
本実施例では、Pマップ413を用いた多重露光について説明する。微細パターンを露光するための露光方法の1つとして、広義の多重露光が知られている。広義の多重露光は、狭義の多重露光と複数回露光とを含む。狭義の多重露光では、現像プロセスを経ることなく潜像パターンを足し合わせる。例えば、代表的な2重露光では、マスクパターンを密なパターンと疎なパターンの2種類のパターンに分けて2重露光する。また、ラインパターンを縦方向と横方向に分けて、それらを別々に露光して所望のラインパターンを形成する2重露光もある。一方、複数回露光では、現像プロセスを経て潜像パターンを足し合わせる。これらは、k1ファクターを小さくする方法の1つであって、以下では、狭義の多重露光と複数回露光とを含むものとして、単に「多重露光」と称する。
Pマップ413は、上述したように、負の値を有する領域を含み、かかる領域は、結像(即ち、空中像の形成)を打ち消す機能を有する。
Pマップ算出用情報は、実施例5と同じであるとする。Pマップ算出用情報から算出されるPマップ413において、正の値の位置に露光すべきパターンと同位相の補助パターンを挿入(配置)した場合、負の値の位置に露光すべきパターンと同位相の補助パターンを挿入した場合のデフォーカス特性を図20に示す。図20には、比較のために、補助パターンがない場合のデフォーカス特性も示す。図20では、横軸にデフォーカス量を、縦軸にコンタクトホールパターンの径(CD)を採用している。
図20を参照するに、Pマップ413において、正の値の位置に補助パターンを挿入(配置)した場合は、補助パターンがない場合よりもデフォーカス特性がよい。但し、Pマップ413において、負の値の位置に補助パターンを挿入(配置)した場合は、補助パターンがない場合よりデフォーカス特性が悪化している。このように、従来技術では、露光すべきパターンに対して補助パターンを配置すれば配置するほどよいとされてきたが、必ずしもそうではないということを図20は示している。
Pマップ413において、負の値の位置は、フォービッデンピッチを示していると考えられる。Pマップ413において、負の値の位置は、距離及び方向に依存しているため、ベクトルである。この場合、(±225、225)及び(±225、−225)の4種類のベクトルがフォービッデンピッチを示すベクトルとなる。かかるベクトルは、Pマップ413において、原点から可干渉性が閾値以下の領域に至るベクトルである。
フォービッデンピッチを示すベクトルを基準ベクトルとし、フォービッデンピッチを避けるようにパターンデータ401を分割すれば、フォービッデンピッチがないパターンデータ401の生成が可能となる。
図21を参照して、マスク生成プログラム414によるフォービッデンピッチがないパターンデータ401の生成処理を具体的に説明する。なお、Pマップ算出用情報は、ユーザによって、入力部50を介して予め入力され、記憶部40に記憶されているものとする。また、マスク生成プログラム414は、媒体インターフェース60に接続された記憶媒体70からインストールされ、制御部20を介して記憶部40に記憶されているものとする。マスク生成プログラム414は、入力部50から入力されるユーザの起動命令に従って起動され、制御部20によって実行される。
ステップS1102では、制御部20は、Pマップ算出用情報に基づいて、Pマップ413を算出する。但し、ステップS1102において、マスク関数412は、パターンデータ(目標パターン)401の全体ではなく、目標パターンの一要素だけを対象とする。具体的には、対象となる目標パターンの一要素に、所定の処理(例えば、縮小倍率をかけるなど)を施してマスク関数412とする。
ステップS1104では、制御部20は、ステップS1102で算出したPマップ413からフォービッデンピッチを示す基準ベクトルを特定する。具体的には、Pマップ413において、原点から、閾値以下で、且つ、負のピークに至るベクトル量を抽出することで、基準ベクトルを特定する。
ステップS1106では、制御部20は、後述するステップで生成するパターンデータ401の整理番号iに初期値「1」を設定する。なお、以下では、整理番号iの第iパターンデータと称する。
ステップS1108では、制御部20は、パターンデータ401にフォービッデンピッチがあるかどうかを判定する。具体的には、パターンデータ401を対象として、パターンデータ401の複数の要素から注目要素を選択し、選択された注目要素の中心を始点として基準ベクトルを配置した際に、基準ベクトルの終点付近に要素が存在するかどうかを判断する。そして、基準ベクトルの終点付近に要素が存在すると判断した場合、制御部20は、パターンデータ401にフォービッデンピッチがあると判定する。一方、基準ベクトルの終点付近に要素が存在しないと判断した場合、制御部20は、パターンデータ401にフォービッデンピッチがないと判定する。
制御部20は、パターンデータ401にフォービッデンピッチがあると判定した場合、ステップS1110に処理を進め、パターンデータ401にフォービッデンピッチがないと判定した場合、ステップS1112に処理を進める。
ステップS1110では、制御部20は、基準ベクトルの終点付近にある要素をパターンデータ401から取り除き、取り除いた要素の情報をキャッシュメモリに一時記憶する。
ステップS1112では、制御部20は、パターンデータ401の複数の要素のうち、ステップS1110で取り除かれなかった全ての要素についてステップS1108の判定を行ったかどうかを判定する。
制御部20は、全ての要素についてステップS1108の判定を行ったと判定した場合、ステップS1114に処理を進め、全ての要素についてステップS1108の判定を行っていないと判定した場合、ステップS1108に処理を戻す。
ステップS1114では、制御部20は、第iパターンデータを生成する(第1のデータ生成ステップ)。具体的には、i=1の場合には、基準ベクトルの終点付近にある全ての要素をパターンデータ401から取り除いたものを第iパターンデータとする。また、i≧2の場合には、基準ベクトルの終点付近にある全ての要素を第i−1パターンデータから取り除いたものを第iパターンデータとする。
ステップS1116では、制御部20は、パターンデータの整理番号iに1を加算したもの(i+1)を新たにiとして設定する。
ステップS1118では、制御部20は、Pマップ413を算出する。詳細には、パターンデータ401に補助パターンを挿入(配置)する前段階としてPマップ413を算出する。ステップS1118において、マスク関数412は、第iパターンデータの全体の要素を対象に決定される。換言すれば、第iパターンデータの全体の要素に、所定の処理(例えば、縮小倍率をかけるなど)を施してマスク関数412とし、Pマップ413を算出する。ステップS1102におけるマスク関数412とステップS1118におけるマスク関数412とが異なるため、ステップS1102とステップS1118でPマップ413を算出する必要がある。
ステップS1120では、制御部20は、補助パターンを挿入(配置)して、マスクデータ410を生成する。具体的には、ステップS1118で算出したPマップ413に基づいて、一定の閾値を超え、且つ、ピークになる位置に補助パターンを挿入(配置)する。そして、マスクデータ410に補助パターンの情報を含めたデータを新たなマスクデータ410とする。この際、制御部20は、パターンデータ401に代えて、マスクデータ410を表示部30に表示させてもよい。
ステップS1122では、制御部20は、キャッシュメモリを参照し、パターンデータ401から取り除かれた要素があるかどうかを判定する。
制御部20は、パターンデータ401から取り除かれた要素があると判定した場合、ステップS1124に処理を進め、パターンデータ401から取り除かれた要素がないと判定した場合、処理を終了する。
ステップS1124では、制御部20は、第iパターンデータを生成する際に取り除かれた要素からなるパターンデータ401を新たな処理対象として生成する(第2のデータ生成ステップ)。
Pマップ413を用いたパターンデータ401の分割の一例を示す。Pマップ算出用情報は、実施例5と同じであるとする。図22(a)に示すパターンデータ401が処理対象である場合を考える。図22(a)に示すパターンデータ401は、3つのコンタクトホールCP1乃至CP3を有する。3つのコンタクトホールCP1乃至CP3のそれぞれの大きさ(径)は、120nmである。
コンタクトホールCP2は、コンタクトホールCP1からy方向に−280nm離れている。コンタクトホールCP3は、コンタクトホールCP2からx方向に225nm、y方向に−225nm離れている。
制御部20は、1つの要素(即ち、3つのコンタクトホールCP1乃至CP3のうちの1つ)をマスク関数412として、Pマップ413を算出する。本実施例では、コンタクトホールCP1をマスク関数412とする。Pマップ413は、マスク上の(±280、0)及び(0、±280)の位置で正のピークを有する。また、Pマップ413は、マスク上の(±225、225)及び(±225、−225)の位置で負のピークを有する。
また、制御部20は、Pマップ413から、例えば、フォービッデンピッチを示す基準ベクトルを特定する。ここで、基準ベクトルは、(225、225)、(225、−225)、(−225、225)及び(−225、−225)の4種類である。
制御部20は、図22(a)に示すパターンデータ401を処理対象として、コンタクトホール(要素)CP2を注目要素として選択する。この場合、選択された注目要素であるコンタクトホールCP2の位置を始点とするように基準ベクトルを配置すると、基準ベクトルの終点付近にコンタクトホール(要素)CP3が存在する。従って、コンタクトホールCP2とコンタクトホールCP3とは、フォービッデンピッチの関係にある。
そこで、制御部20は、基準ベクトルの終点付近にあるコンタクトホール(要素)CP3を図22(a)に示すパターンデータ401から取り除き、図22(b)に示す第1のパターンデータを生成する。また、制御部20は、コンタクトホール(要素)CP3から、図22(c)に示す第2のパターンデータを生成する。これにより、図22(c)に示すパターンデータ401は、図22(b)に示す第1のパターンデータと、図22(c)に示す第2のパターンデータとに分割されたことになる。このような分割によって、フォービッデンピッチがない2つのマスクのマスクデータを生成することができる。
また、実施例5や実施例9で説明したように、Pマップ413に基づいて補助パターンを挿入(配置)すると、マスクの結像特性が向上する。従って、図22(b)に示す第1パターンデータ及び図22(c)に示す第2パターンデータに最適な補助パターンを挿入(配置)して、図22(d)及び図22(e)に示すパターンデータとすることで、単純な2重露光よりも結像特性を向上させることができる。
図22(d)に示すマスクデータ及び図22(e)に示すマスクのデータを、EB描画装置に入力させれば、図22(d)に示すマスクデータ及び図22(e)に示すマスクデータに基づいた2つのマスクが作成される。かかる2つのマスクを用いて2重露光を行えば、図22(a)に示すパターンデータと同一のマスクで露光するよりも、コンタクトホールCP1乃至CP3を高精度に形成することができる。
本実施例では、有効光源の最適化について説明する。有効光源の最適化においては、Pマップ413におけるピーク(一定の閾値以上の領域)がパターンデータ401の要素の位置に重なるように、有効光源を決定すればよい。
有効光源情報402を除くPマップ算出用情報は、実施例5と同じであるとする。図23(a)に示すような、3つのコンタクトホールCP11乃至CP13を有するパターンデータ(目標データ)401に対する有効光源の最適化について考える。3つのコンタクトホールCP11乃至CP13は、間隔dd=300nmで配置されている。また、3つのコンタクトホールCP11乃至CP13のそれぞれの大きさは、120nmである。
図23(b)は、有効光源(有効光源情報402)の初期値を示す図である。図23(b)において、白い円はσ=1を示し、白抜き部は光照射部を示す。瞳座標を規格化したとき、中心から各ポール(光照射部)の中心への距離を、x方向には0.45、y方向には0.45に設定し、各ポール(光照射部)の直径を0.3と設定する。
制御部20は、図23(b)に示す有効光源の初期値に基づいて、図23(c)に示すPマップ413を算出する。図23(c)に示すPマップ413は、(0、±300)及び(±300、0)の位置で正のピークを有する。図23(c)に示すPマップ413は、図23(a)に示すパターンデータ401のマスクに対して好適である。これは、図23(a)に示すパターンデータ401のマスクは、隣り合うコンタクトホールの間隔ddが300nmだからである。
制御部20は、マスク関数412を設定しなおして(例えば、目標パターンそのものとして)、新たにPマップ413を算出する。かかるPマップ413において、一定の閾値以上で、且つ、ピークである位置に補助パターンを挿入(配置)すれば、図23(d)に示すようなマスクデータ410を得ることができる。図23(d)に示すマスクデータ410のマスクを用いれば、コンタクトホールCP11乃至CP13を高精度に形成することができる。
図24は、マスク生成プログラム414によるマスクデータ410の生成処理を説明するためのフローチャートである。
ステップS1202では、制御部20は、有効光源情報402を設定する。
ステップS1204では、制御部20は、マスク関数412を設定する。なお、マスク関数412は、目標パターンの全体ではなく、目標パターンの一要素だけを対象とする。そして、かかる一要素に、所定の処理(例えば、縮小倍率をかけるなど)を施してマスク関数412とする。
ステップS1206では、制御部20は、ステップS1204で設定したマスク関数412に基づいて、Pマップ413を算出する。
ステップS1208では、制御部20は、露光すべき所望のパターンであるコンタクトホールCP11乃至CP13とPマップ413とを重ね合わせる。
ステップS1210では、制御部20は、所望のパターンであるコンタクトホールCP11乃至CP13がPマップ413におけるピーク(一定の閾値以上の領域)に重なっているかどうかを判定する。所望パターンであるコンタクトホールCP11乃至CP13がPマップ413におけるピークに重なっていると判定した場合、制御部20は、ステップS1212に処理を進める。所望パターンであるコンタクトホールCP11乃至CP13がPマップ413におけるピークに重なっていないと判定した場合、制御部20は、ステップS1202に処理を戻す。
ステップS1212では、制御部20は、マスク関数412を変更する。
ステップS1204では、目標パターンの一要素に注目してマスク関数412を設定したが、ステップS1212では、マスク関数412として、目標パターンの全体の要素を設定する。そこで、目標パターンの全体の要素に、所定の処理(例えば、縮小倍率をかけるなど)を施してマスク関数412を設定する。
ステップS1214では、制御部20は、ステップS1212で設定したマスク関数412に基づいて、Pマップ413を算出する。
ステップS1216では、制御部20は、ステップS1214で算出されたPマップ413に基づいて補助パターンを挿入(配置)して、マスクデータ410を生成し、処理を終了する。
有効光源を最適化するためには、図24に示すステップS1202乃至S1210を繰り返す(即ち、ループさせる)必要がある。ステップS1201乃至S1210のループを速く終わらせるためには、有効光源(有効光源情報402)の初期設定が重要となる。そこで、以下では、ステップS1201乃至S1210のループを速く終わらせることができる有効光源の初期設定を、簡易に、且つ、短時間に求める方法について説明する。
マスクパターンで回折された回折光は、投影光学系の瞳面上で回折光分布を形成する。かかる回折光の振幅を、上述したように、a(f、g)とする。また、投影光学系の瞳面の座標(f、g)も、上述したように、投影光学系の瞳の大きさ(瞳半径)が1となるように規格化されている。circ(f−f’、g−g’)は、(f’、g’)を中心に半径1以内では1で、それ以外では0の関数とする。更に、回折光の重み関数をw(f、g)とする。
まず、制御部20は、以下の数式35に示す重積分を、|f’|≦2、|g’|≦2の範囲で演算する。
次に、制御部20は、以下の数式36を演算する。
そして、制御部20は、数式36から算出されたS(f、g)を、有効光源の設定値とする。
例えば、図25(a)に示すように、5行5列のコンタクトホールパターンが縦横方向に周期300nmで配置されているパターンデータ401を考える。なお、図25(a)において、縦軸はマスク面のy座標であり、横軸はマスク面のx座標であり、それぞれの単位はnmであるとする。また、実施例12でも、露光装置として、投影光学系のNAが0.73であり(NA情報403に相当)、露光光の波長が248nmである(λ情報404に相当)場合を考える。
制御部20は、数式35及び数式36に基づいて、有効光源を示す関数S(f、g)を算出する。制御部20によって算出された関数S(f、g)で示される有効光源を図25(b)に示す。なお、本実施例では、重み関数w(f、g)を、w(0、0)=0.1、且つ、w(2、2)=1となる2次関数とした。図25(b)において、縦軸はx方向のσを示し、横軸はy方向のσを示す。
図25(b)を参照するに、関数S(f、g)で示される有効光源が連続的に変化していることがわかる。図25(b)に示す有効光源は、図23(b)に示す有効光源に近い。従って、図25(b)に示す有効光源は、有効光源を最適化するためのステップS1202乃至S1210のループにおいて、ステップS1202で設定される有効光源情報402の初期値(有効光源の設定値)として好適である。
本実施例では、上述した実施例で生成されたマスクデータ410に基づいて作成されたマスク130を用いて、露光処理を実行する露光装置100について説明する。ここで、図26は、露光装置100の構成を示す概略ブロック図である。
露光装置100は、投影光学系140とウエハ150との間に供給される液体LWを介して、マスク130のパターンをステップ・アンド・スキャン方式でウエハ150に露光する液浸露光装置である。但し、露光装置100は、ステップ・アンド・リピート方式やその他の露光方式も適用することができる。
露光装置100は、図26に示すように、光源110と、照明光学系120と、マスク130を載置するマスクステージ135と、投影光学系140と、ウエハ150を載置するウエハステージ155と、液体供給回収部160と、主制御システム170とを備える。なお、光源110及び照明光学系120は、転写用の回路パターンが形成されたマスク130を照明する照明装置を構成する。
光源110は、波長約193nmのArFエキシマレーザー、波長約248nmのKrFエキシマレーザーなどのエキシマレーザーを使用する。但し、光源110の種類及び個数は限定されず、例えば、波長約157nmのF2レーザーを光源110として使用することもできる。
照明光学系120は、光源110からの光束を用いてマスク130を照明する光学系である。照明光学系120は、本実施形態では、ビーム整形光学系121と、集光光学系122と、偏光制御部123と、オプティカルインテグレーター124と、開口絞り125とを含む。更に、照明光学系120は、集光レンズ126と、折り曲げミラー127と、マスキングブレード128と、結像レンズ129とを含む。照明光学系は、従来の照明、図4(a)や図14(a)に示す変形照明(四重極照明や二重極照明)など様々な照明モードを実現することができる。
ビーム整形光学系121は、例えば、複数のシリンドリカルレンズを含むビームエクスパンダ等を使用する。ビーム整形光学系121は、光源110からの平行光の断面形状の縦横比率を所定の値に変換する(例えば、断面形状を長方形から正方形にする)。ビーム整形光学系121は、本実施形態では、オプティカルインテグレーター124を照明するために必要な大きさ及び発散角を有する光束に整形する。
集光光学系122は、複数の光学素子を含み、ビーム整形光学系121で整形された光をオプティカルインテグレーター124に効率よく導光する。集光光学系122は、例えば、ズームレンズシステムを含み、オプティカルインテグレーター124に入射する光束の形状及び角度の分配を調整する。
偏光制御部123は、例えば、偏光素子を含み、投影光学系140の瞳面142と略共役な位置に配置される。偏光制御部123は、投影光学系140の瞳面142に形成される有効光源の所定領域の偏光状態を制御する。
オプティカルインテグレーター124は、マスク130を照明する照明光を均一化し、入射光の角度分布を位置分布に変換して射出する機能を有する。オプティカルインテグレーター124は、例えば、入射面と射出面とがフーリエ変換の関係に維持されたハエの目レンズを使用する。なお、ハエの目レンズは、複数のロッドレンズ(即ち、微小レンズ素子)を組み合わせることによって構成される。但し、オプティカルインテグレーター124は、ハエの目レンズに限定されず、光学ロッド、回折格子、各組が直交するように配置されたシリンドリカルレンズアレイ板などを使用してもよい。
開口絞り125は、オプティカルインテグレーター124の射出面の直後の位置であって、投影光学系140の瞳面142に形成される有効光源と略共役な位置に配置される。開口絞り125の開口形状は、投影光学系140の瞳面に形成される光強度分布(即ち、有効光源)に相当する。換言すれば、開口絞り125は、有効光源を制御する。開口絞り125は、照明モードに応じて切り替え可能に構成される。なお、開口絞りを使用せずに、オプティカルインテグレーター124の前段に回折光学素子(CGHなど)やプリズム(円錐プリズムなど)を配置して有効光源を形成してもよい。
集光レンズ126は、オプティカルインテグレーター124の射出面近傍に形成される2次光源から射出して開口絞り125を通過した光束を集光し、折り曲げミラー127を介して、マスキングブレード128を均一に照明する。
マスキングブレード128は、マスク130と略共役な位置に配置され、複数の可動遮光板で構成される。マスキングブレード128は、投影光学系140の有効面積に対応する略矩形形状の開口を形成する。マスキングブレード128を通過した光束は、マスク130を照明する照明光として使用される。
結像レンズ129は、マスキングブレード128の開口を通過した光束をレチクル30に結像させる。
マスク130は、上述した処理装置1(マスク作成プログラム)によって生成されたマスクデータに基づいてEB描画装置等のマスク作成装置により作成され、転写すべき回路パターンと補助パターンとを有する。なお、マスク130のパターンには、上述のマスク作成プログラムによって作成されたマスクのパターン以外のパターンを含んでいても良い。マスク130は、マスクステージ135に支持及び駆動される。マスク130から発せられた回折光は、投影光学系140を介して、ウエハ150に投影される。マスク130とウエハ150とは、光学的に共役の関係に配置される。露光装置100はステップ・アンド・スキャン方式の露光装置であるため、マスク130とウエハ150とを同期走査することによって、マスク130の転写すべき回路パターンをウエハ150に転写する。なお、露光装置100がステップ・アンド・リピート方式の露光装置であれば、マスク130とウエハ150とを静止させた状態で露光する。
マスクステージ135は、マスクチャックを介してマスク130を支持し、図示しない駆動機構に接続されている。図示しない駆動機構は、例えば、リニアモーターなどで構成され、X軸方向、Y軸方向、X軸方向及び各軸の回転方向にマスクステージ135を駆動する。なお、マスク130又はウエハ150の面内で走査方向をY軸、それに垂直な方向をX軸、マスク130又はウエハ150の面に垂直な方向をZ軸とする。
投影光学系140は、マスク130の回路パターンをウエハ150に投影する光学系である。投影光学系140は、屈折系、反射屈折系、或いは、反射系を使用することができる。投影光学系140の最終レンズ(最終面)には、液体供給回収部160から供給される液体LWによる影響を低減(保護)するためのコーティングが施されている。
ウエハ150は、マスク130の回路パターンが投影(転写)される基板である。但し、ウエハ150は、ガラスプレートやその他の基板に置換することもできる。ウエハ150には、レジストが塗布されている。
ウエハステージ155は、ウエハ150を支持し、マスクステージ135と同様に、リニアモーターを利用して、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向及び各軸の回転方向にウエハ150を移動させる。
液体供給回収部160は、投影光学系140の最終レンズ(最終面)とウエハ150との間の空間に液体LWを供給する機能を有する。また、液体供給回収部160は、投影光学系140の最終レンズとウエハ150との間の空間に供給された液体LWを回収する機能を有する。液体LWには、露光光に対して高い透過率を有し、投影光学系140(の最終レンズ)に汚れを付着させず、レジストプロセスとのマッチングがよい物質を選択する。
主制御システム170は、CPUやメモリを有し、露光装置100の動作を制御する。例えば、主制御システム170は、マスクステージ135、ウエハステージ155及び液体供給回収部160と電気的に接続し、マスクステージ135とウエハステージ155との同期走査を制御する。また、主制御システム170は、露光時のウエハステージ155の走査方向及び速度などに基づいて、液体LWの供給と回収、或いは、停止の切り替えを制御する。更に、主制御システム170には、上述の実施例における有効光源の情報が入力され、開口絞りや回折光学素子、プリズム等を制御して、有効光源を形成する。なお、有効光源の情報の入力は、ユーザーによって入力されてもよいし、処理装置1と露光装置100をデータ通信可能に接続して、処理装置1から有効光源の情報を露光装置100に送信することによって行っても良い。処理装置1と露光装置100をデータ通信可能に接続する場合は、露光装置100に周知のデータ受信手段を備え、処理装置1には周知のデータ送信手段を備える。
上述した処理装置1としては、露光装置100の外部に配置されたコンピュータを用いることができるが、主制御システム170が上述した処理装置1の機能を備えることもできる。その場合、主制御システム170によって、P演算子を用いてウエハ面に形成される光強度分布(空中像)をより短い時間で算出することができる。換言すれば、主制御システム170は、部分コヒーレント結像計算の計算速度を向上させ、モデルベース超解像技術にかかる時間を短縮することができる。従って、露光装置100においては、露光条件の最適化(例えば、マスク130に対する有効光源の最適化)を短時間で行うことができ、スループットを向上させることができる。また、主制御システム170は、Pマップを用いて、従来よりも結像性能に優れたマスクデータを生成することもできる。マスク130は、
露光において、光源110から発せられた光束は、照明光学系120によりマスク130を照明する。マスク130を通過して回路パターンを反映する光束は、投影光学系140により、液体LWを介してウエハ150に結像される。露光装置100は、優れた結像性能を有し、高いスループットで経済性よくデバイス(半導体素子、LCD素子、撮像素子(CCDなど)、薄膜磁気ヘッドなど)を提供することができる。
図27及び図28を参照して、露光装置100を利用したデバイス製造方法の実施例を説明する。図27は、デバイス(ICやLSIなどの半導体チップ、LCD、CCD等)の製造を説明するためのフローチャートである。ここでは、半導体チップの製造を例に説明する。ステップ1(回路設計)では、デバイスの回路設計を行う。ステップ2(マスク製作)では、設計した回路パターンを形成したマスクを製作する。具体的には、処理装置1によって生成されたマスクデータに基づいてマスクを製作する。ステップ3(ウエハ製造)では、シリコンなどの材料を用いてウエハを製造する。ステップ4(ウエハプロセス)は、前工程と呼ばれ、レチクルとウエハを用いてリソグラフィー技術によってウエハ上に実際の回路を形成する。ステップ5(組み立て)は、後工程と呼ばれ、ステップ4によって作成されたウエハを用いて半導体チップ化する工程であり、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)、パッケージング工程(チップ封入)等の工程を含む。ステップ6(検査)では、ステップ5で作成された半導体デバイスの動作確認テスト、耐久性テストなどの検査を行う。こうした工程を経て半導体デバイスが完成し、これが出荷(ステップ7)される。
図28は、ステップ4のウエハプロセスの詳細なフローチャートである。ステップ11(酸化)では、ウエハの表面を酸化させる。ステップ12(CVD)では、ウエハの表面に絶縁膜を形成する。ステップ13(電極形成)では、ウエハ上に電極を蒸着などによって形成する。ステップ14(イオン打ち込み)では、ウエハにイオンを打ち込む。ステップ15(レジスト処理)では、ウエハに感光剤を塗布する。ステップ16(露光)では、露光装置100によってレチクルの回路パターンをウエハに露光する。ステップ17(現像)では、露光したウエハを現像する。ステップ18(エッチング)では、現像したレジスト像以外の部分を削り取る。ステップ19(レジスト剥離)では、エッチングが済んで不要となったレジストを取り除く。これらのステップを繰り返し行うことによってウエハ上に多重の回路パターンが形成される。かかるデバイス製造方法によれば、高品位のデバイスを高いスループットで製造することができる。このように、露光装置100を使用するデバイス製造方法、並びに結果物としてのデバイスも本発明の一側面を構成する。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。