JP2010018868A - 表面層を備えた部材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】
表面に硼素化合物が微細に析出した表面層を備えた部材、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
表面層を備えた部材の製造方法は、NiまたはCoにBを溶かして、NiまたはCo、Bの融点より低い低融点2元合金素材を形成し、低融点2元合金素材をアトマイズ法で2元合金粉末にし、2元合金粉末に、硼素化合物を形成できる高融点元素の粉末を混合し、混合粉末を形成し、対象とする基礎部材表面に混合粉末を溶射し、溶射層を形成し、低融点2元合金素材の融点以上の温度に溶射層を加熱し、硼素化合物を生成、析出させた表面層とする。
【選択図】 図1
表面に硼素化合物が微細に析出した表面層を備えた部材、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
表面層を備えた部材の製造方法は、NiまたはCoにBを溶かして、NiまたはCo、Bの融点より低い低融点2元合金素材を形成し、低融点2元合金素材をアトマイズ法で2元合金粉末にし、2元合金粉末に、硼素化合物を形成できる高融点元素の粉末を混合し、混合粉末を形成し、対象とする基礎部材表面に混合粉末を溶射し、溶射層を形成し、低融点2元合金素材の融点以上の温度に溶射層を加熱し、硼素化合物を生成、析出させた表面層とする。
【選択図】 図1
Description
本発明は、表面に耐磨耗層を備えた部材およびその製造方法に関し、特に硼素化合物の表面層を備えた部材およびその製造方法に関する。
金属材料の硬さや耐摩耗性を向上させるために、金属母材中に種々の析出物を分散析出させる方法がある。例えば、工具鋼の強度を上げるために、熱処理により炭化物を微細に分散析出させて所望の硬さや耐摩耗性を得る。
種々の表面処理により表面に硬質粒子からなる硬化層を設けて耐摩耗性を上げた部材およびその製造方法も知られている。コストパフォーマンスの良さからその適用が拡がっている。例えば、機械構造用部材に超硬材料の被覆を高速フレーム溶射(ハイベロシティオキシジェンフレーム、HVOF)やプラズマ溶射によって設けたり、セラミックス溶射によって設けることが行われる。
硬質材料の被覆を溶射で設けるには、硬質材料の粒子を準備しておく必要がある。硬質粒子の代表例は、酸化物や炭化物である。これらは、自身が硬く、耐摩耗性があるが、高速の摩擦摺動部で相手材とかじる欠点がある。同様の硬質材料として硼素化合物がある。硼素化合物は、高速摩擦摺動部での対かじり性が良いと言われる。
特開平2−173237号は、Bを4−6wt%含むCoまたはCo−Ni合金粉末またはNi合金粉末に、1)Ti,V,Crの粉末をBの4倍以下、および2)Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wの粉末をBの2倍以下、混合した後、成形して、共晶温度に加熱して表面硬化用焼結合金を得ることを提案する。硼化物の密度が小さいTi,V,Crは体積収縮率が小さく、硼化物の密度が大きいW,Mo,Zr,Nb,Hf,Taは体積収縮率が大きい現象を利用している。
特開平9−13161号は、Bを2−12wt%含むCo合金粉末に、Mo炭化物,W炭化物を10wt%以上、かつC量の合計がモル比でB量の1.5倍以下となるように配合した混合粉末を被処理物の表面に溶射した後、これを加熱処理して遊離炭素を析出させることを提案する。Co合金中のBがMo,Wと反応して複硼化物となり、Cが遊離し、析出する。全炭化物が硼化物と反応することはないので、炭化物の下限と炭素量の上限が規定されている。
特開平2−173237号公報
特開平9−13161号公報
Co−B合金またはNi−B合金にMoやWの炭化物を添加すると、硼素化合物の生成が容易でなくなることがある。炭素析出物は、潤滑性を向上するが、常に必要なわけではない。部材表面に耐摩耗性を与える表面層を形成することが臨まれる場合もある。WBやMoB等の硼素化合物は、高い耐磨耗性を有するが、融点が超高温で取り扱いが容易でない。
本発明の目的は、表面に硼素化合物が微細に析出した表面層を備えた部材、およびその製造方法を提供することである。
本発明の1観点によれば、
耐摩耗性を必要とする表面を有する基礎部材と、
前記表面に形成された表面層であり、NiまたはCoからほぼ構成される領域中に硼素化合物が微細に析出している析出領域を多数含む表面層と、
を有する表面層を備えた部材
が提供される。
耐摩耗性を必要とする表面を有する基礎部材と、
前記表面に形成された表面層であり、NiまたはCoからほぼ構成される領域中に硼素化合物が微細に析出している析出領域を多数含む表面層と、
を有する表面層を備えた部材
が提供される。
本発明の他の観点によれば、
NiまたはCoにBを溶かして、NiまたはCo、Bの融点より低い低融点2元合金素材を形成する工程と、
前記低融点2元合金素材をアトマイズ法で2元合金粉末にする工程と、
前記2元合金粉末に、硼素化合物を形成できる高融点元素の粉末を混合し、混合粉末を形成する工程と、
対象とする基礎部材表面に前記混合粉末を溶射し、溶射層を形成する工程と、
前記低融点2元合金素材の融点以上の温度に前記溶射層を加熱し、硼素化合物を生成、析出させた表面層とする工程と、
を含む表面層を備えた部材の製造方法
が提供される。
NiまたはCoにBを溶かして、NiまたはCo、Bの融点より低い低融点2元合金素材を形成する工程と、
前記低融点2元合金素材をアトマイズ法で2元合金粉末にする工程と、
前記2元合金粉末に、硼素化合物を形成できる高融点元素の粉末を混合し、混合粉末を形成する工程と、
対象とする基礎部材表面に前記混合粉末を溶射し、溶射層を形成する工程と、
前記低融点2元合金素材の融点以上の温度に前記溶射層を加熱し、硼素化合物を生成、析出させた表面層とする工程と、
を含む表面層を備えた部材の製造方法
が提供される。
CoまたはNiの領域に、硼素化合物が微細に析出した表面層が得られる。
本発明者らは、WまたはMoの硼素化合物WBまたはMoBを含む被覆を製造することを考えた。
図3A、3Bは、W−B合金系およびMo−B合金系の相図を示す。横軸がB組成を示し、縦軸が温度を示す。WBの融点は、2670℃、2665℃であり、MoBの融点は約2600℃である。安定な化合物であるWBやMoBを作成しようとすると極めて高温の処理が必要となろう。
このような高温を扱うことなく、WBまたはMoBを含む表面層を作成することを考える。BはCo,Niと共晶合金を形成し、またWやMoとの親和性が高いことが知られている。
図1Aは、実施例によるWまたはMoの硼素化合物の被覆製造方法のフローチャートである。工程S1において、Co−B2元合金粉末、またはNi−B2元合金粉末を準備する。
図2Aは、Co−B合金系の相図を示す。B組成4wt%、10wt%、22wt%に共晶組成があり、融点は1110℃、1250℃、1350℃となる。Coの原子量58.93と較べて、Bの原子量は10.81と小さいので、atm%は、wt%よりかなり大きな数値となる。B組成4wt%、10wt%を対象とすると、融点はそれぞれ1110℃、1250℃となる。BおよびCoの融点は図中両端に示す2092℃、1495℃であるが、B組成4−10wt%であれば、融点は1280℃以下である。共晶組成近傍であれば、低融点を実現できる。
図2Bは、Ni−B合金系の相図を示す。B組成3.6wt%、7.3wt%、10.7wt%、13.2wt%に共晶組成が認められる。B組成3.6wt%、7.3wt%、10.7wt%を対象とすると、融点はそれぞれ1090℃、1125℃、1018℃となる。B組成3.6−10.7wt%であれば、融点は1156℃以下である。Co−B合金系同様、共晶組成近傍であれば、低融点を実現できる。
図1Bは、工程S1のサブ工程の例を示すフローチャートである。サブ工程SS11において、Co−B2元合金またはNi−B2元合金のB組成を選択する。所望のB量を確保し、低融点を実現することが望まれる。サブ工程SS12において、選択したB組成に基づき、B粉末、およびCoまたはNiの粉末を秤量する。サブ工程SS13において、秤量したB粉末、およびCoまたはNiの粉末を混合し、成形する。サブ工程SS14において、成形した混合物をアトマイズ法で粉末化する。
例えば、共晶組成の成形物を共晶温度近傍まで加熱すると、共晶組成の液相が現れる。液相は広がり全体に及ぶ。アトマイズ法により、誘導炉やガス炉で成形物を溶解し、ノズルから流出する溶湯にジェット気流を吹き付けて溶湯を粉砕し、液滴とした後凝固させて、粉末を作成する。2元合金の粉末は、低融点を有する。低融点の2元合金粉末を原料粉末1と呼ぶ。
図1に戻り、工程S2において、W粉末、またはMo粉末を準備する。市販材料を利用できる。これを原料粉末2と呼ぶ。原料粉末1と原料粉末2を混合し、混合粉末原料とする。
工程S3において、対象とする部材の所望の表面に、混合粉末原料を溶射し、該表面上に被覆を形成する。例えば、プラズマ溶射を用いることができる。溶射工程において、WやMoを溶融する必要はない。溶融した2元合金にWやMoの粉末が含まれて被覆を形成できればよい。
工程S4において、作成した被覆を原料粉末1の融点以上に加熱する。融点は高々1280℃の温度であり、容易に加熱可能である。2元合金の融点以上に加熱されると、被覆中の2元合金成分が溶融し、液相となる。Bは、Co,Niよりも、W,Moと親和性が高い。液相中のBが、添加したWまたはMoと反応し、WB、またはMoBを生成する。
このようにして、2500℃を超える高温を扱うことなく、WBやMoBを含む被覆を製造することができる。以下、本実施例による例を説明する。
例
10wt%のBを含むCo−B2元合金の粉末(粒径125μm以下)を準備した。これをCo−10Bと表記する。Co−10B粉末の化学組成は、単位をwt%として、C:0.045、Si:0.02,Ni:0.02、Al:0.001以下、B:9.62,Fe:0.15,O:60ppm、N:12ppm,Co:残部であった。Co,B以外は、意図せず{不可避的}に含まれた不純物の組成である。0.01wt%以下の組成は、実質的に含まないものと考えることができよう。例えば、Co−10B粉末は、実質的にC、Siを含まない。Co−10B粉末にW粉末を加える。準備したW粉末(粒径75−150μm)の化学組成は、単位をwt%として、W:99.8以上、O:0.01、Fe:0.009、不揮発成分(Ca,Al,Mg,Si):0.002であった。W粉末も、実質的にC,Siを含まない。Co−10B粉末とW粉末を混合して混合粉末原料とし、対象部材の所望表面上にプラズマ溶射で溶射した。溶射層の目標厚さを2mmとした。溶射条件は以下の通りである。
10wt%のBを含むCo−B2元合金の粉末(粒径125μm以下)を準備した。これをCo−10Bと表記する。Co−10B粉末の化学組成は、単位をwt%として、C:0.045、Si:0.02,Ni:0.02、Al:0.001以下、B:9.62,Fe:0.15,O:60ppm、N:12ppm,Co:残部であった。Co,B以外は、意図せず{不可避的}に含まれた不純物の組成である。0.01wt%以下の組成は、実質的に含まないものと考えることができよう。例えば、Co−10B粉末は、実質的にC、Siを含まない。Co−10B粉末にW粉末を加える。準備したW粉末(粒径75−150μm)の化学組成は、単位をwt%として、W:99.8以上、O:0.01、Fe:0.009、不揮発成分(Ca,Al,Mg,Si):0.002であった。W粉末も、実質的にC,Siを含まない。Co−10B粉末とW粉末を混合して混合粉末原料とし、対象部材の所望表面上にプラズマ溶射で溶射した。溶射層の目標厚さを2mmとした。溶射条件は以下の通りである。
電流: 500A,
電圧: 67V,
ガス種: Ar,H2,
回転数: 215rpm、
横送り速度: 20mm/sec、
供給粉末量: 190g/min。
電圧: 67V,
ガス種: Ar,H2,
回転数: 215rpm、
横送り速度: 20mm/sec、
供給粉末量: 190g/min。
以上のプロセスで得られた溶射層を1270℃に加熱し、30分保持した。1270℃は、作成したCo−10B粉末の融点と判断される温度以上の温度である。
図4A,4Bは、加熱工程前後の溶射層の顕微鏡写真である。左右方向の2枚の写真は異なる領域を示す。図4Aに示す加熱前の溶射層の写真によれば、Co−10Bの領域に、W粒子が含まれていると判断される。白い領域がWであり、原料のW粉末の粒径75−150μmを反映している。灰色の領域がCo−10Bの領域である。
エネルギ分散型X線(EDX)分析も行った。図5Aは分析位置を示す顕微鏡写真である。図5Aの白い領域を分析位置とした。図5BはEDX分析結果を示すグラフである。Coピーク、Bピーク、Wピーク等が検出されている。ほぼWとBとCoからなる領域であることが判る。溶射層には、W−Co−Bの複硼化物が析出していると判断される。
図4Bは、1270℃の加熱処理後の溶射層の顕微鏡写真である。Co領域中に微細なWB領域が多数析出している。1270℃は、Co−10Bの融点より高い温度である。溶射層が1270℃に加熱されると、Co−10Bが溶融し、液相が生じる。液相中のBは、化学的活性度が高くなる。Bは、Wとの親和性が、Coとの親和性より高い。液相中のBがWと化合し、WBを生成し、多数の析出領域を高密度で生成していると考えられる。多数析出したWB領域の平均径は300μm以下である。
Co−Bの2元合金粉末とW粉末の混合粉末を対象部材の表面上に溶射し、2元合金の融点以上に加熱する場合を説明したが、Co−Bの2元合金粉末とMo粉末を用いて溶射すれば、微細なMoB析出領域をCo領域中に高密度に含む表面層が得られると期待される。Ni−Bの2元合金粉末とW粉末の混合粉末、Ni−Bの2元合金粉末とMo粉末の混合粉末を用いれば、Ni領域中にWBまたはMoBの微細析出領域を高密度に含む表面層が得られると期待される。
共晶組成近傍の2元合金を用いた場合を説明したが、2元合金は融点を下げる可能性を示すものである。組成を共晶組成からずらしても、同様の現象が生じるであろう。
溶融した2元合金中のBの化学反応を容易にし、かつ過剰の化学反応を抑制するためには、2元合金中のB組成は5−10wt%が好ましい。
さらに、2元合金に添加する元素は、硼素化合物を形成できる高融点元素であればよい。表面層を形成する基礎部材は、溶射、その後の加熱に耐えるものであれば、どのようなものであってもよい。
以上、実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、プラズマ溶射以外の溶射層を用いても良い。その他、種々の変更、置換、組み合わせ、改良等が可能なことは当業者に自明であろう。
S 工程
SS サブ工程
SS サブ工程
Claims (7)
- 耐摩耗性を必要とする表面を有する基礎部材と、
前記表面に形成された表面層であり、NiまたはCoからほぼ構成される領域中に硼素化合物が微細に析出している析出領域を多数含む表面層と、
を有する表面層を備えた部材。 - 前記硼素化合物がWBまたはMoBである請求項1記載の表面層を備えた部材。
- 前記表面層が、Niからほぼ構成されるNi領域またはCoからほぼ構成されるCo領域中に、WBまたはMoBの析出領域を含み、NiまたはCoとBとの和に対するBの組成が5−10wt%である請求項2記載の表面層を備えた部材。
- 前記表面層中の析出領域の平均径が、300μm以下である請求項2または3記載の表面層を備えた部材。
- NiまたはCoにBを溶かして、NiまたはCo、Bの融点より低い低融点2元合金素材を形成する工程と、
前記低融点2元合金素材をアトマイズ法で2元合金粉末にする工程と、
前記2元合金粉末に、硼素化合物を形成できる高融点元素の粉末を混合し、混合粉末を形成する工程と、
対象とする基礎部材表面に前記混合粉末を溶射し、溶射層を形成する工程と、
前記低融点2元合金素材の融点以上の温度に前記溶射層を加熱し、硼素化合物を生成、析出させた表面層とする工程と、
を含む表面層を備えた部材の製造方法。 - 前記高融点元素がWまたはMoである請求項5記載の表面層を備えた部材の製造方法。
- 前記表面層が、実質的にNiから構成されるNi領域または実質的にCoから構成されるCo領域中にWBまたはMoBの析出領域を多数含み、前記低融点2元合金素材がNi−B2元合金またはCo−B2元合金であり、そのB組成が5−10wt%である請求項6記載の表面層を備えた部材の製造方法。
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JP2008182501A JP2010018868A (ja) | 2008-07-14 | 2008-07-14 | 表面層を備えた部材およびその製造方法 |
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---|---|---|---|---|
JP2018111851A (ja) * | 2017-01-11 | 2018-07-19 | 株式会社日本製鋼所 | 耐摩耗性及び耐食性に優れたライニング材 |
Citations (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPH02173237A (ja) * | 1988-12-27 | 1990-07-04 | Kazuo Ichii | 表面硬化用燒結合金 |
JPH11209863A (ja) * | 1998-01-27 | 1999-08-03 | Asahi Glass Co Ltd | 耐摩耗部品の製造方法 |
JP2006177697A (ja) * | 2004-12-21 | 2006-07-06 | Taiheiyo Cement Corp | 中性子吸収材及びその製造方法 |
-
2008
- 2008-07-14 JP JP2008182501A patent/JP2010018868A/ja active Pending
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