以下本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して説明する。
図1に示す内燃機関(以下「エンジン」という)3は、車両(図示せず)に搭載された、例えば4気筒(1つのみ図示)のディーゼルエンジンである。各気筒3aのピストン3bとシリンダヘッド3cの間には、燃焼室3dが形成されている。燃焼室3dには、吸気管4(吸気系)および排気管5が接続されており、これらの吸気ポートおよび排気ポートには、吸気弁および排気弁(いずれも図示せず)がそれぞれ設けられている。また、シリンダヘッド3cには、燃料噴射弁(以下「インジェクタ」という)6および筒内圧センサ21が、燃焼室3dに臨むように取り付けられている。
インジェクタ6は、シリンダヘッド3cの中央に配置されており、コモンレールを介して高圧ポンプ(いずれも図示せず)に接続されている。燃料タンク(図示せず)の燃料は、高圧ポンプで昇圧された後、コモンレールを介してインジェクタ6に送られ、インジェクタ6から燃焼室3dに噴射される。インジェクタ6の噴射圧力Pe、噴射時間(開弁時間)Deおよび噴射タイミング(開弁タイミング)TMeは、図2に示される電子制御ユニット(以下「ECU」という)2からの制御信号によって制御される。以下の説明では図2も合わせて参照する。
筒内圧センサ21(燃焼状態検出手段)は、例えば圧電素子タイプのものであり、燃焼室3d内の圧力(以下「筒内圧」という)Pの変化に応じて、圧電素子(図示せず)が変位することにより、筒内圧Pの変化量ΔPを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、この検出信号を積分することによって、筒内圧Pを求める。
また、エンジン3のクランクシャフト3eには、マグネットロー夕22aが取り付けられている。このマグネットロータ22aとMREピックアップ22bによって、クランク角センサ22(回転数検出手段)が構成されている。クランク角センサ22は、クランクシャフト3eの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。
CRK信号は、所定のクランク角(例えば30度)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)Neを求める。TDC信号は、各気筒のピストン3bが吸気行程開始時のTDC(上死点)付近の所定クランク角度位置にあることを表す信号であり、4気筒タイプの本例では、クランク角180度ごとに出力される。
吸気管4の吸気マニホルド4aの集合部よりも上流側には、スロットル弁7(吸入量制御手段)が設けられており、スロットル弁7には、これを駆動するアクチュエータ8が連結されている。アクチュエータ8は、モータやギヤ機構(いずれも図示せず)などで構成されており、その動作がECU2からの制御信号で制御されることにより、スロットル弁7の開度(以下「スロットル弁開度」という)THが変化し、それに応じて、燃焼室3dに吸入される吸入空気量が制御される。スロットル弁開度THは、スロットル弁開度センサ23によって検出され、その検出信号はECU2に出力される。
吸気マニホルド4aには、吸気圧センサ24および吸気温センサ25が設けられている。吸気圧センサ24は、吸気マニホルド4a内の圧力(以下「インマニ圧」という)Piを検出し、吸気温センサ25は、サーミスタなどで構成され、吸気マニホルド4a内の温度(以下「インマニ温度」という)Tsを検出し、それらの検出信号はECU2に出力される。エンジン3の本体には、エンジン水温センサ26が取り付けられている。エンジン水温センサ26は、サーミスタなどで構成され、エンジン3の本体内を循環する冷却水の温度(以下「エンジン水温」という)Twを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
また、吸気管4には過給装置9が設けられている。過給装置9は、夕ーボチャージャ式の過給機10と、これに連結されたアクチュエータ11と、べーン開度制御弁12を備えている。過給機10は、吸気管4のスロットル弁7よりも上流側に設けられた回転自在のコンプレッサブレード10aと、排気管5の途中に設けられたタービンブレード10bおよび複数の回動自在の可変ベーン10c(2つのみ図示)と、これらのブレード10a,10bを一体に連結するシャフト10dを有している。過給機10は、排気管5内の排ガスによってタービンブレード10bが回転駆動されるのに伴い、これと一体のコンプレッサブレード10aが回転駆動されることによって、過給動作を行う。
各可変べーン10cは、アクチュエータ11に連結されており、その開度(以下「ベーン開度」という)VOがアクチュエータ11を介して制御される。アクチュエータ11は、負圧によって作動するダイアフラム式のものであり、負圧ポンプ(図示せず)に接続されていて、その途中に前記べーン開度制御弁12が設けられている。負圧ポンプは、エンジン3を動力源として作動し、発生した負圧をアクチュエータ11に供給する。ベーン開度制御弁12は、電磁弁で構成されており、その弁開度がECU2からの制御信号で制御されることにより、アクチュエータ11に供給される負圧が変化し、それに伴い、可変べーン10cのべーン開度VOが変化することによって、過給圧が制御される。
また、吸気管4の過給機10よりも上流側には、エアフローセンサ27(吸入空気量検出手段)が設けられている。エアフローセンサ27は、吸気管4内を流れる吸入空気量Faを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
さらに、吸気管4の吸気マニホールド4aは、その集合部から分岐部にわたって、スワール通路4bとバイパス通路4cに仕切られている。バイパス通路4cには、燃焼室3d内にスワールを発生させるためのスワール装置13が設けられている。スワール装置13は、スワール弁13a、これを駆動するアクチュエータ13b、およびスワール制御弁13cを備えている。アクチュエータ13bおよびスワール制御弁13cはそれぞれ、過給装置9のアクチュエータ11およびベーン開度制御弁12と同様に構成されており、スワール制御弁13cは前記負圧ポンプに接続されている。以上の構成により、スワール制御弁13cの弁開度がECU2からの制御信号で制御されることにより、アクチュエータ13bに供給される負圧が変化し、スワール弁13aの開度SVOが変化することによって、スワールの強さが制御される。
また、吸気マニホルド4aのスワール通路4bの集合部の部分と、排気管5の後述する酸化触媒15のすぐ下流側との間には、排ガス還流管(以下「EGR管」という)14aが接続されており、このEGR管14aとその途中に設けられた排ガス還流制御弁(以下「EGR制御弁」という)14bによって、排ガス還流装置(以下「EGR装置」という)14が構成されている。このEGR管14aを介して、エンジン3の排ガスの一部が還流排ガスとして吸気管4に還流される。EGR制御弁14bは、リニア電磁弁で構成されており、その開度(以下「EGR弁開度」、という)LEがECU2からの制御信号に応じて制御されることによって、還流排ガス流量Feが制御される。EGR弁開度LEは、EGR弁開度センサ28によって検出され、その検出信号はECU2に出力される。
また、排気管5の過給機10よりも下流側には、上流側から順に、酸化触媒15およびNOx吸収触媒16が設けられている。酸化触媒15は、排ガス中のHCおよびCOを酸化し、排ガスを浄化する。また、NOx吸収触媒16は、リーンな酸化雰囲気下において、排ガス中のNOxを吸収するとともに、吸収したNOxを、リッチな還元雰囲気下において還元する。
さらに、排気管5の過給機10と酸化触媒15との間には、酸素濃度センサ29が設けられている。酸素濃度センサ29は、排ガス中の酸素濃度λをリニアに検出し、その検出信号をECU2に出力する。ECU2は、この酸素濃度λに基づいて、燃焼室3dで燃焼されるガスの空燃比A/Fを算出する。ECU2にはさらに、アクセル開度センサ30(アクセル踏み込み量検出手段)から、エンジン3により駆動される車両のアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が出力される。
ECU2は、本実施形態において、吸入空気量制御手段の一部、還流排ガス流量推定手段、気筒内酸素量推定手段、回転数検出手段、燃料噴射パラメータ決定手段、インジェクタ制御手段、及び空気調節パラメータ算出手段を構成する。ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどからなるマイクロコンピュータで構成されており、前述した各種センサ21〜30からの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムなどに従って、各種の演算処理を実行する。具体的には、上記の検出信号からエンジン3の運転状態を判別し、その判別結果に基づいてエンジン3の燃焼モードを決定するとともに、決定した燃焼モードなどに応じ、スロットル弁開度THを介して吸入空気量を制御するとともに、インジェクタ6による燃料噴射などを制御する。
上記のエンジン3の燃焼モードは、低温燃焼モードと、それ以外の通常燃焼モードに大別される。低温燃焼モードは、エンジン3の暖機終了後、低負荷域で実行されるものであり、ー方、通常燃焼モードは、それよりも高い負荷域で実行される。また、両燃焼モードでは、空燃比を理論空燃比よりもリーン側に制御したリーン運転が通常、行われるとともに、NOx吸収触媒16に吸収されたNOxを還元するため、あるいはNOx吸収触媒16に付着した燃料中のイオウを脱離するために、空燃比を理論空燃比よりもリッチ化するリッチ運転が適宜、行われる。低温燃焼モードでは、以下に説明する主として気筒内酸素量及びエンジン回転数Neに基づく燃料噴射制御(以下「O2基準LTC制御」という)が実行され、通常燃焼モードでは、スロットル弁開度TH及びEGR弁開度LEの変更により吸入空気量の制御が可能な低負荷側で、主として気筒内酸素量及びエンジン回転数Neに基づく燃料噴射制御(以下「O2基準STD制御」という)が実行され、スロットル弁7を全開とし、EGR制御弁14bを全閉とする高負荷側で、アクセル開度AP及びエンジン回転数Neに基づく燃料噴射制御(以下「ペダル基準STD制御」という)が実行される。
以下、ECU2で実行される処理について説明する。ECU2は、エンジン回転数Ne及びアクセル開度APに応じて図3に示すA*マップを検索し、空気調節パラメータA*を決定する。空気調節パラメータA*は、目標スロットル弁開度THR、目標EGR弁開度LER、目標ベーン開度VOR及び目標スワール弁開度SVORを要素とするベクトルである。A*マップ上の番地i,jの格子点には、対応するエンジン回転数Ne及びアクセル開度APに適した目標スロットル弁開度THR、目標EGR弁開度LER、目標ベーン開度VOR及び目標スワール弁開度SVOが設定されている。そしてECU2は、実際のスロットル弁開度TH,EGR弁開度LE,ベーン開度VO,及びスワール弁開度SVOが、A*マップから検索された目標開度となるように対応するアクチュエータを駆動する。これにより、エンジン回転数Ne及びアクセル開度APに応じた吸入空気量、還流排ガス流量、過給圧、及びスワールの制御が行われる。
なお、A*マップは、上述したO2基準LTC制御、O2基準STD制御、及びペダル基準STD制御のそれぞれに対応して設けられており、さらにこれらの各制御毎に、通常リーン運転用マップ、PM(Particulate Matter)酸化用マップ、NOx還元用マップ、及びイオウ脱離用マップが設定されている。通常リーン運転用マップ、PM酸化用マップ、NOx還元用マップ、及びイオウ脱離用マップを用いたときの設定空燃比をそれぞれA/FLN,A/FLP,A/FRN,及びA/FRSとすると、A/FLN>A/FLP>A/FRS>A/FRNなる関係が成立する。
次にECU2による燃料噴射制御について説明する。図4は、O2基準LTC制御及びO2基準STD制御に用いられる気筒内状態パラメータ[O2]の算出処理を示している。この気筒内状態パラメータ[O2]は、燃料の噴射直前における気筒3a内の状態を表すものであり、気筒内酸素量mo2、気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiの計3つのパラメータで構成される。この気筒内酸素量mo2は、燃料の噴射前に気筒3a内に存在する酸素の量を表し、気筒内不活性ガス量mint は、燃料の噴射前に気筒3a内に存在する不活性ガス(酸素以外の燃焼に寄与しないガス)の量を表し、また、実インマニ温度Tiは、吸気マニホルド4aの実際の温度を表す。このうち、気筒内酸素量mo2は、燃焼に主要な影響を及ぼす主パラメータである。これに対し、気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiは、気筒内酸素量mo2を補完する副パラメータであり、エンジン3の定常状態では、気筒内酸素量mo2に応じてほぼ一義的に定まるとともに、過渡状態では、後述するように、気筒内酸素量mo2を補正するのに用いられる。
この処理ではまず、吸気温センサ25で検出されたインマニ温度Tsから、実インマニ温度Tiを次式(1)によって算出する(ステップ31)。
Ti=Ts(τo・s+1) (1)
ここで、τo:吸気温センサの時定数
s :ラプラス変換演算子
このような算出によって、吸気温センサ25の検出結果に基づき、その応答遅れを補償しながら、実インマニ温度Tiをリアルタイムで正しく推定することができる。
次に、気筒内酸素量mo2を推定によって算出する(ステップ32)。この算出は、エアフローセンサ27で検出された吸入空気量Fa、吸気圧センサ24で検出されたインマニ圧Pi、およびステップ31で推定された実インマニ温度Tiに応じ、さらに後述するEGRモデルを用いて、次の手順で行われる。
A.EGR率Riの推定
B.気筒内酸素量mo2の推定
A.EGR率Riの推定
EGR率Riの基本式は、次式(2)で与えられる。
Ri=Fe_hat/Fi (2)
ここで、Fiは、気筒に流入する総ガス流量、Fe_hatは、気筒3aに流入する還流排ガス流量の予測値(推定した還流排ガス流量)であり、リーン運転とリッチ運転の間の過渡状態におけるEGR装置14の応答遅れを考慮して求められる。
式(2)中の総ガス流量Fiは、周知のスピードデンシティの式から、次式(3)で算出される。
Fi=Ne・Vd・Pi・ηv/(60×2R・Ti) (3)
ここで、Ne:エンジン回転数(rpm)
Vd:エンジンの押しのけ容積
Pi:インマニ圧
ηv:エンジンの体積効率
R :気体定数
Ti:インマニ温度
なお、上記の体積効率ηvは、例えば、実験結果に基づいてあらかじめ設定したマップから、エンジン回転数Neおよびインマニ圧Piに応じてマップ値を求めるとともに、求めたマップ値を実インマニ温度Tiに応じて補正することによって求められる。
一方、吸気マニホルド4aに対して、一定温度の条件の下で、理想気体の法則を適用すると、還流排ガス流量Fe、吸入空気量Faおよび総ガス流量Fiの間には、次式(4)の関係が成立する。
dPi/dt=(R・Ti/Vi)・(Fe+Fa−Fi) (4)
ここで、Vi:インマニ容積
式(4)を還流排ガス流量Feについて解くと、次式(5)が得られる。
Fe=(dPi/dt)・Vi/(R・Ti)−Fa+Fi (5)
また、ラプラス変換演算子sを導入し(dPi/dt=sPi)、式(5)を書き換えると、次式(6)が得られる。
Fe=s・Pi・Vi/(R・Ti)−Fa+Fi (6)
一方、還流排ガス流量の予測値Fe_hatは、EGR装置14の応答の一次遅れを考慮すると、次式(7)で表される。
Fe_hat=(1/(τs+1))・Fe (7)
したがって、還流排ガス流量の予測値Fe_hatは、両式(6)(7)から、次式(8)のように求められる。
Fe_hat=(s・Pi/(τs+1))(Vi/(R・Ti))
−(1/(τs+1))・Fa+(1/(τs+1))・Fi
(8)
ここで、s・Pi/(τs+1)は、数値差分フィルタs/(τs+1)を用いたdPi/dtの近似値であり、時定数τは、実験結果に基づいて決定される。
したがって、式(3)で算出した総ガス流量Fiと、式(8)で算出した過渡状態での還流排ガス流量の予測値Fe_hatを、式(2)に代入することによって、過渡状態でのEGR率Riを算出することができる。
また、定常状態では、次式(9)が成立するので、
Fe_hat=Fe=Fi−Fa (9)
この式(9)と式(2)から、定常状態でのEGR率Riは次式(10)によって算出される。
Ri=(Fi−Fa)/Fi (10)
B.気筒内酸素量mo2の推定
次いで、上記のようにして求めた総ガス流量FiおよびEGR率Riなどに基づいて、気筒内酸素量mo2を推定する。
気筒内酸素量mo2の基本式は、次式(11)で与えられる。
mo2=ma×φ(O2)a +me×φ(O2)e (11)
ここで、ma :各燃焼サイクルにおいて気筒に流入する空気量
me :各燃焼サイクルにおいて気筒に流入する還流排ガス量
φ(O2)a :空気中の酸素濃度(定数)
φ(O2)e :還流排ガス中の酸素濃度
式(11)の空気量ma および還流排ガス量me は、総ガス流量FiおよびEGR率Riから、それぞれ次式(12)(13)によって算出される。
ma = (Fi×(1−Ri)×60×2)/(Ne×ncyl) (12)
me = (Fi×Ri×60×2)/(Ne×ncyl) (13)
ここで、ncyl:エンジンの気筒数
また、還流排ガス中の酸素濃度φ(O2)e は、EGR装置14の応答遅れを考慮すると次式(14)によって算出できる。
ここで、iは燃焼サイクルを表す添え字であり(累乗を意味するものではない)、a0,a1,a2,…anは、実験結果に基づき、エンジン3の運転状態および排気マニホルドの容積によって決定される重み係数である。
また、φ(O2)exh は、排ガス中の酸素濃度であり、リーン運転においては、次式(15)によって算出される。
ここで、mf は気筒に噴射される燃料量、Lstは、燃料のタイプに応じて決定される理論空燃比である。すなわち、式(15)中のmf×Lst×φ(O2)a は、リーン運転において噴射燃料量mf の完全燃焼により消費される酸素量に相当する。なお、式(14)(15)によれば、還流排ガス中の酸素濃度φ(O2)e を算出するには、排ガス中の酸素濃度φ(O2)exh の初期値が必要である。このφ(O2)exh の初期値は、例えば、エンジン3の始動直後にEGR動作を停止するという条件が設定されている場合には、φ(O2)e =0であることから、そのときの吸入空気量Faおよび燃料噴射量mf などに応じ、式(14)などを用いて求めることができる。
したがって、式(14)で算出した還流排ガス中の酸素濃度φ(O2)e と、式(12)(13)で算出した空気量ma および還流排ガス量me を、式(11)に代入することによって、リーン運転での気筒内酸素量mo2を算出することができる。また、リッチ運転では、気筒内酸素が燃焼によって完全に消費されることで、φ(O2)exh =0になるので、これを式(14)に代入することによって、還流排ガス中の酸素濃度φ(O2)e が求められ、気筒内酸素量mo2を算出することができる。
図4に戻り、前記ステップ32に続くステップ33では、気筒内不活性ガス量mint を算出する。前述したように、気筒内不活性ガスは、気筒3a内に存在するガスのうちの、酸素以外のガスであるので、気筒内不活性ガス量mint は、ステップ32で求めた気筒内酸素量mo2を用いて、次式(16)によって算出される。
mint =(ma+me)−mo2 (16)
次いで、ステップ31〜33でそれぞれ推定した実インマニ温度Ti、気筒内酸素量mo2および気筒内不活性ガス量mint を1組として、気筒内状態パラメータ[O2]を決定し(ステップ34)、本処理を終了する。
以上から明らかなように、この気筒内状態パラメータ[O2〕の算出処理では、エアフローセンサ27で検出された吸入空気量Fa、吸気圧センサ24で検出されたインマニ圧Pi、吸気温センサ25で検出されたインマニ温度Ts、およびEGRモデルを用い、過渡状態を含むすべての運転状態において、気筒内酸素量mo2、気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiが推定される。そして、これらの3つのパラメータを1組として、燃料の噴射直前における気筒3a内の状態を表す気筒内状態パラメータ[O2]が決定される。なお、気筒内状態パラメータ[O2]は、上記のように燃料の噴射直前における気筒3a内の状態を表すので、これにエンジン水温Twを含めてもよい。
図5は、Q*i,jマップの設定処理を示している。このQ*i,jマップは、定常状態において、気筒内状態パラメータ[O2〕およびエンジン回転数Neに対して最適な燃料噴射パラメータQ*i,jを定めるものである。燃料噴射パラメータQ*i,jは、インジェクタ6の噴射圧力Pe、噴射時間Deおよび噴射タイミングTMeの計3つの制御パラメータで構成され、添え字iは、エンジン回転数Neの番地を、添え字jは、気筒内状態パラメータ[O2]の番地を、それぞれ表す。この設定処理は、ベンチ試験(ベンチマーク試験)においてあらかじめ実行される。
この処理ではまず、アクセル開度AP、ベーン開度制御弁12の開度やEGR弁開度LEなどをある一定の値に制御しながら、燃料噴射パラメータQ* 、すなわち噴射圧力Pe、噴射時間Teおよび噴射タイミングTMeをチューニング(調整)する(ステップ41)。次いで、この状態で、燃焼状態が最適になったか否かを判定する(ステップ42)。この判定は、適当な所定の1つの基準、例えば、NOxの排出量が最小(NOxベスト)、燃費が最良(燃費ベスト)、または出力が最大(出力ベスト)などの基準に基づいて行われる。あるいは、これらの複数の基準ごとに、判定を行い、燃料噴射パラメータQ* を設定してもよい。
ステップ42の答がYESで、燃焼状態が最適になったときには、そのときのエンジン回転数Neおよび気筒内状態パラメータ[O2]に対応する番地i,jに対し、そのときの燃料噴射パラメータQ* を割り当てる(ステップ43)。これにより、1つの燃料噴射パラメータQ*i,jが決定される。次いで、Ne値および[O2]値のすべての番地i、jに対して、燃料噴射パラメータQ* の割当てが完了したか否かを判別する(ステップ44)。この答がNOのときには、前記ステップ41〜43を繰り返し、YESになったときに、本処理を終了する。これにより、図6に示すようなQ*i,jマップが得られ、エンジン回転数Neおよび気筒内状態パラメータ[O2]に対応するすべての番地i,jに対して、燃料噴射パラメータQ*i,jが割り当てられる。
したがって、エンジン3の定常状態において、エンジン回転数Neおよび気筒内状態パラメータ[O2]が求まれば、それらの番地i,jに対応する燃料噴射パラメータQ*i,jをQ*i,jマップから読み出すことによって、そのときの燃焼室3dの状態に最適な燃料噴射パラメータQ* 、すなわち噴射圧力Pe、噴射時間Teおよび噴射タイミングTMeを、一義的に決定することができる。また、燃料噴射パラメータQ*i,jが決定されると、そのときに得られるエンジン3のトルクTも、番地i,jを関数として一義的に決定され、決定したトルクTi,jは、Ti,jマップとして記憶される(図示せず)。
なお、これらのQ*i,jマップおよびTi,jマップは、リーン運転用およびリッチ運転用に別個に設定されている。リーン運転用マップとしては、通常リーン運転用マップ及びPM(Particulate Matter)酸化用マップが設けられ、リッチ運転用マップとしては、NOx還元用マップおよびイオウ脱離用マップが設けられている。通常リーン運転用マップ、PM酸化用マップ、NOx還元用マップ、及びイオウ脱離用マップを用いたときの設定空燃比をそれぞれA/FLN,A/FLP,A/FRN,及びA/FRSとすると、A/FLN>A/FLP>A/FRS>A/FRNなる関係が成立する。
また、本実施形態のエンジン制御では、燃料噴射パラメータQ* およびトルクTを含むすべての制御パラメータが、番地i,jを基準として設定される。
上記のQ*i,jマップは、エンジン3が定常状態にあることを前提にして設定されている。これは、定常状態であれば、ある気筒内酸素量mo2に対して、気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiがほぼ一義的に定まり、三者間の関係がほぼ一定とみなせることから、これらの三者によって代表される燃焼室3dの状態に対し、最適な燃料噴射パラメータQ* もまた一義的に定まるためである。しかし、過渡状態では、上記の三者の関係が定常状態からずれてしまい、例えば気筒内酸素量mo2が同じであっても、気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiが定常状態とは異なる値になるため、それに応じて燃焼状態も変化する。このため、過渡状態では、Q*i,jマップを参照しただけでは、最適な燃料噴射パラメータQ* を求めることができない。
以上の観点から、過渡状態において気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiのずれが燃焼に及ぼす影響を定量的に補償するために、次式(17)で表される補正関数f(α,β)i,jが導入される。
f(α,β)i,j=(mint /mints)-αi,j×(Ti/Tis)βi,j (17)
この補正関数f(α,β)i,jは、次式(18)に示すように、過渡状態における実際の気筒内酸素量mo2を、それと等価な定常状態での気筒内酸素量(以下「仮想気筒内酸素量」という)mo2v に変換するのに用いられる。
mo2v =mo2×f(α,β)i,j (18)
式(17)中のmints、Tis はそれぞれ、定常状態における気筒内不活性ガス量および実インマニ温度である。また、同式中のmint 、Tiはそれぞれ、前述した手法によって算出される過渡状態での実際の気筒内不活性ガス量および実インマニ温度である。すなわち、同式中の第1項(mint /mints)-αi,jは、気筒内不活性ガス量のずれによる燃焼への影響度合を表し、第2項(Ti/Tis)βi,jは、インマニ温度のずれによる燃焼への影響度合を表す。また、αi,j、βi,jは、これらの影響度合を規定するための補正変数である。このため、EGR装置14が停止されていて、気筒内不活性ガス量の影響がないとみなされる運転状態では、補正変数αは値0に設定される。
図7は、補正変数αi,j、βi,jの設定処理を示している。この処理は、前述したQ*i,jマップの設定処理と同様、ベンチ試験においてあらかじめ実行される。この処理ではまず、エンジン3が一定のエンジン回転数Neおよび気筒内状態パラメータ[O2]で運転されている定常状態から、ベーン開度制御弁12の開度および/またはEGR弁開度LEを変化させることによって、気筒内不活性ガス量mint のみをオフセットする(少量変化させる)(ステップ61)。次いで、このオフセット状態で、燃料噴射パラメータQ* をチューニングしながら、燃焼状態が最適になったか否かを判定する(ステップ62)。この判定は、Q*i,jマップの設定に用いた前述した基準と同じ基準に基づいて行われる。
ステップ62の答がYESになったときには、そのときの燃焼状態に最も近い定常状態での燃焼状態を、仮想燃焼状態として、Q*i,jマップから選択する(ステップ63)。この選択は、例えば、Q*i,jマップ上の各番地i,jにおける熱発生率の近似関数をあらかじめ求めておき、オフセット前のエンジン回転数Neに相当する番地i上において、そのときの熱発生率に最も近い近似関数値を有する番地jを特定することによって行われる。このように番地i,jが特定されると、気筒内状態パラメータ[O2〕もまた特定され、そのうちの気筒内酸素量mo2が仮想気筒内酸素量mo2v として求められる。
次いで、補正変数αを算出する(ステップ64)。この算出は次のようにして行われる。すなわち、上記ステップ63で仮想気筒内酸素量mo2vが求められ、気筒内酸素量mo2は、式(11)から随時、算出されるので、これらのmo2v 値、mo2値と式(18)から、次式(19)によって、補正関数f(α,β)i,jが求められる。
f(α,β)i,j =mo2v/mo2 (19)
一方、式(17)中の気筒内不活性ガス量mint は式(16)によって随時、算出され、定常状態での気筒内不活性ガス量mintsは、オフセット前の番地jから既知であるとともに、Ti/Tis は、実インマニ温度Tiをオフセットしていないことから、値1に等しい。したがって、次式(20)が成立し、この式(20)と式(19)から、補正変数αを算出することができる。
f(α,β)i,j =(mint /mints)-αi,j (20)
次いで、補正変数βを算出するために、定常状態から、べーン開度制御弁12の開度および/またはEGR弁開度LEを変化させることによって、実インマニ温度Tiのみをオフセットする(ステップ65)。以下、ステップ62〜64と同様にして、燃焼状態が最適になったか否かを判定し(ステップ66)、最適な燃焼状態に最も近い定常での燃焼状態を仮想燃焼状態として選択する(ステップ67)とともに、選択した仮想燃焼状態と式(17)(18)から、補正変数βを算出する(ステップ68)。以上により、1つ番地i,jに対して補正関数α、βが設定される。次いで、Ne値および[O2]値のすべての番地i,jに対して、補正関数α、βの算出が完了したか否かを判別する(ステップ69)。この答がNOのときには、前記ステップ61〜68を繰り返し、YESになったときに、本処理を終了する。以上により、すべての番地i,jに対して、補正変数α、βが設定され、αi,jマップおよびβi,jマップとして記憶されるとともに、αi,jおよびβi,jに応じて補正関数f(α,β)i,jが設定される。
図8は、以上のようにしてあらかじめ設定したQ*i,jマップおよび補正関数f(α,β)i,jを用い、エンジン3の運転中において燃料噴射パラメータQ*i,jを決定する処理を示す。まず、エンジン3が過渡状態にあるか否かを判別する(ステップ71)。この答がNOで、エンジン3が定常状態のときには、前述した手法によって、定常状態での気筒内状態パラメータ[O2]s (気筒内酸素量mo2s 、気筒内不活性ガス量mints および実インマニ温度Tis)を算出する(ステップ72)。次に、エンジン回転数Neおよび算出した気筒内状態パラメータ[O2]に対応する番地i,jを決定する(ステップ73)とともに、決定した番地i,jに対応する燃料噴射パラメータQ*i,jをQ*i,jマップから読み出し、燃料噴射パラメータQ* として決定する(ステップ74)。また、αi,jマップおよびβi,jを検索することによって、補正変数α、βを決定する(ステップ75)。
前記ステップ71の答がYESで、エンジン3が定常状態から過渡状態に移行したときには、過渡状態での気筒内状態パラメータ[O2](mo2、mint およびTi)を算出する(ステップ76)。そして、算出したmint 値およびTi値、ステップ72で算出した定常状態でのmints値およびTis値と、ステップ75で決定した補正変数α、βを用い、式(17)によって、補正関数f(α,β)を算出する(ステップ77)。次いで、算出した補正関数f(α,β)と、ステップ76で算出した気筒内酸素量mo2を用い、式(18)によって、仮想気筒内酸素量mo2v を算出する(ステップ78)。これにより、過渡状態における実際の気筒内酸素量mo2が、定常状態における仮想気筒内酸素量mo2v に変換される。次に、同じ番地i上において、算出した仮想気筒内酸素量mo2v に最も近い気筒内酸素量mo2を含む気筒内状態パラメータ[O2]を選択し、それに対応する番地i,jを仮想番地i,jvとして決定する(ステップ79)。これにより、図9に示すように、Q*i,jマップ上において、気筒内状態パラメータ[O2]の番地が定常状態のjから仮想番地jvに移動する。そして、仮想番地i,jvに対応する燃料噴射パラメータQ*i,jv をQ*i,jマップから読み出し、燃料噴射パラメータQ* として決定する(ステップ80)。また、燃料噴射パラメータQ*i,jv が決定されると、そのときに得られるエンジン3のトルクTは、Ti,j マップから、T=Ti,jvとして決定することができる。
図10は、エンジン3の2つの燃焼モード、すなわち低温燃焼モード及び通常燃焼モードに対応した制御領域を、エンジン回転数Ne及びアクセル開度APに応じた要求トルクTdにより定義される座標平面上に示したものである。低負荷側から順にO2基準LTC制御領域、O2基準STD制御領域、及びペダル基準STD制御領域が設定されている。すなわち、O2基準LTC制御領域、O2基準STD制御領域、及びペダル基準STD制御領域は、それぞれエンジン3の低負荷運転領域、中負荷運転領域、及び高負荷運転領域に対応している。またO2基準LTC制御領域が低温燃焼モードに対応し、O2基準STD制御領域及びペダル基準STD制御領域が、通常燃焼モードに対応する。図10に示される曲線LTHは、スロットル弁7が全開でEGR弁14bが全閉である状態、すなわち空気調節パラメータA*の変更により吸入空気量をこれ以上増加させることができない状態に対応している。
O2基準LTC制御領域及びO2基準STD制御領域では、上述したエンジン回転数Ne及び気筒内状態パラメータ[O2]に基づく燃料噴射パラメータQ*の算出が行われる。以下の説明では、O2基準LTC制御領域で使用される燃料噴射パラメータ算出マップを「Q*O2LTCマップ」といい、O2基準STD制御領域で使用される燃料噴射パラメータ算出マップを「Q*O2STDマップ」という。また、O2基準LTC制御領域及びO2基準STD制御領域では、これらの制御領域に対応した空気調整パラメータA*を算出するためのマップが設定されており、O2基準LTC制御領域で使用される空気調整パラメータ算出マップを「A*LTCマップ」といい、O2基準STD制御領域で使用される空気調整パラメータ算出マップを「A*STDマップ」という。A*LTCマップは、A*STDマップと比較すると、EGR率がより大きくなるように設定されている。
またペダル基準STD制御領域では、エンジン回転数Ne及びアクセル開度APに応じた燃料噴射パラメータ算出マップが用いられる。以下このマップを、「Q*PDSTDマップ」という。
Q*O2LTCマップ、Q*O2STDマップ、及びQ*PDSTDマップは、それぞれのマップの設定値に応じた燃料噴射によって実現される空燃比が、互いに異なるように設定されている。
次にO2基準LTC制御からO2基準STD制御へ移行するときの移行制御、及びO2基準STD制御からO2基準LTC制御へ移行するときの移行制御について説明する。図11は、この移行制御を説明するための図であり、O2基準LTC制御を実行している場合において、実線L1で示されるように、要求トルクTd(アクセル開度AP)の増加に伴って気筒内酸素量mo2が増加していくときには、気筒内酸素量mo2が、第1A*切換閾値Oxy1に達した時点で、空気調節パラメータA*を算出するマップを、A*LTCマップからA*STDマップに切り換える。そしてエンジン3の出力トルクをほぼ一定値THに維持しつつ、気筒内酸素量mo2を増加させる。このとき、燃料噴射パラメータQ*は、出力トルクがほぼ一定値THとなるようにQ*O2LTCマップを用いて決定される。
気筒内酸素量mo2が増加して、第1Q*マップ切換閾値Oxy3(>Oxy1)に達すると、燃料噴射パラメータQ*を算出するマップを、Q*O2LTCマップからQ*O2STDマップに切り換える。
一方O2基準STD制御を実行している場合において、破線L2で示されるように、要求トルクTdの減少に伴って気筒内酸素量mo2が減少していくときには、気筒内酸素量mo2が、出力トルクTHより小さい出力トルクTLに対応する第2A*切換閾値Oxy2に達した時点で、空気調節パラメータA*を算出するマップを、A*STDマップからA*LTCマップに切り換える。そしてエンジン3の出力トルクをほぼ一定値TLに維持しつつ、気筒内酸素量mo2を減少させる。このとき、燃料噴射パラメータQ*は出力トルクがほぼ一定値TLとなるようにQ*O2STDマップを用いて決定される。ここで第2A*切換閾値Oxy2は、第1Q*マップ切換閾値Oxy3より小さな値に設定される。
気筒内酸素量mo2が減少して、第2Q*マップ切換閾値Oxy4(<Oxy2)に達すると、燃料噴射パラメータQ*を算出するマップを、Q*O2STDマップからQ*O2LTCマップに切り換える。ここで第2Q*切換閾値Oxy4は、第1A*切換閾値Oxy1より小さな値に設定される。
このように本実施形態では、O2基準LTC制御からO2基準STD制御へ移行する場合には、気筒内酸素量mo2が第1A*切換閾値Oxy1に達したときに、空気調節パラメータA*の算出に使用するマップが切り換えられ、次いでエンジン出力トルクをほぼ一定に維持しつつ気筒内酸素量(吸入空気量)を増加させ、気筒内酸素量mo2が第1Q*切換閾値Oxy3に達したときに、燃料噴射パラメータQ*の算出に使用するマップが切り換えられる。またO2基準STD制御からO2基準LTC制御へ移行する場合には、気筒内酸素量mo2が第2A*切換閾値Oxy2に達したときに、空気調節パラメータA*の算出に使用するマップが切り換えられ、次いでエンジン出力トルクをほぼ一定に維持しつつ気筒内酸素量(吸入空気量)を減少させ、気筒内酸素量mo2が第2Q*切換閾値Oxy4に達したときに、燃料噴射パラメータQ*の算出に使用するマップが切り換えられる。これにより、O2基準LTC制御からO2基準STD制御への移行を、トルク変動を伴わずに円滑に行うことができるとともに、僅かなアクセル操作に起因する過剰な制御モードの切換を防止することができる。
なお、第1及び第2A*切換閾値Oxy1,Oxy2、並びに第1及び第2Q*切換閾値Oxy3,Oxy4は、ベンチ試験により最適な値に設定される。また、気筒内酸素量mo2を第1A*切換閾値Oxy1から第1Q*切換閾値Oxy3まで増加させるのに要する時間を短縮するためには、空気調節パラメータA*を適度なオーバシュートを付けて変更することが望ましい。気筒内酸素量mo2を第2A*切換閾値Oxy2から第2Q*切換閾値Oxy4まで減少させるのに要する時間を短縮する場合も同様である。
次にO2基準STD制御と、ペダル基準STD制御との間の移行制御について説明する。
図12(a)は、O2基準STD制御からペダル基準STD制御への移行制御(加速時の移行制御)を説明するための図であり、O2基準STD制御領域と、ペダル基準STD制御領域との間に第1移行制御領域が設定されている。この第1移行制御領域では、基本的には実線L3で示す第1移行制御用基準マップ(以下「Q*O2PDマップ」という)を用いて、燃料噴射パラメータQ*を算出する。Q*O2PDマップは、エンジン回転数Ne及びアクセル開度APに応じて設定されたマップであり、点P1に対応する基準アクセル開度APBから、点P2に対応するゼロEGR開度APEGRZまでのアクセル開度APについて設定されている。基準アクセル開度APBは、基準としたエンジン運転状態(以下「基準運転状態」という)において、気筒内酸素量mo2が臨界酸素量mo2cとなるアクセル開度APであり、ゼロEGR開度APEGRZは、基準運転状態において、EGR弁14bを全閉とするアクセル開度APである。臨界酸素量mo2cは、O2基準STD制御領域における最大の気筒内酸素量mo2であり、臨界酸素量mo2cに対応する燃料噴射パラメータQ*が臨界燃料噴射パラメータQ*cである。
実際のエンジン運転状態は、基準運転状態からずれるので、気筒内酸素量mo2が臨界酸素量mo2cに達するアクセル開度(以下「臨界アクセル開度」という)APcは、例えば図12(a)に示すように、基準アクセル開度APBと異なる値をとる。したがって、この場合には実線L3で示すQ*O2PDマップをそのまま参照することはできない。そこで、本実施形態では、第1移行制御領域におけるアクセル開度APを、マップ検索用開度APMに変換し、マップ検索用開度APM及びエンジン回転数Neに応じて、Q*O2PDマップを検索するようにしている。これにより、実質的に破線L4で示す補正マップを用いることと等価となる。
具体的には、検出されるアクセル開度APを、例えば下記式(21)により、マップ検索用開度APMに変換し、Q*O2PDマップの検索を行って、燃料噴射パラメータQ*を算出する。そして、アクセル開度APがゼロEGR開度APEGRZに達すると、燃料噴射制御は、第1移行制御からペダル基準STD制御に切り換えられる。
この第1移行制御によれば、アクセルペダルが踏み込まれていく加速時に、O2基準STD制御からペダル基準STD制御へ円滑に移行させることができる。また、気筒内酸素量mo2が臨界酸素量mo2cとなったときのアクセル開度である臨界アクセル開度APcに応じて、検出されるアクセル開度APをマップ検索用開度APMに変換して、Q*O2PDマップ検索を行うようにしたので、エンジン運転状態が基準運転状態からずれていても、円滑な移行が可能となる。
図12(b)は、ペダル基準STD制御からO2基準STD制御への移行制御(減速時の移行制御)を説明するための図であり、O2基準STD制御領域と、ペダル基準STD制御領域との間に第2移行制御領域が設定されている。この第2移行制御領域では、基本的には実線L5で示す第2移行制御基準マップ(以下「Q*PDO2マップ」という)を用いて、燃料噴射パラメータQ*を算出する。Q*PDO2マップは、エンジン回転数Ne及び気筒内酸素量mo2に応じて設定されたマップであり、点P3に対応する基準ゼロEGR酸素量mo2EGRBから、点P4に対応する臨界酸素量mo2cまでの気筒内酸素量mo2について設定されている。基準ゼロEGR酸素量mo2EGRBは、基準運転状態において、アクセル開度APがゼロEGR開度APEGRZであるときの気筒内酸素量mo2である。
実際のエンジン運転状態は、基準運転状態からずれるので、アクセル開度APがゼロEGR開度APEGRZとなったときの気筒内酸素量(以下「ゼロEGR酸素量」という)mo2EGRZは、例えば図に示すように基準ゼロEGR酸素量mo2EGRBと異なる値をとる。したがって、この場合には実線L5で示すQ*PDO2マップをそのまま参照することはできない。そこで、本実施形態では、第2移行制御領域における気筒内酸素量mo2を、マップ検索用酸素量mo2Mに変換し、マップ検索用酸素量mo2M及びエンジン回転数Neに応じて、Q*PDO2マップを検索するようにしている。これにより、実質的に破線L6で示す補正マップを用いることと等価となる。
具体的には、算出される気筒内酸素量mo2を、例えば下記式(22)により、マップ検索用酸素量mo2Mに変換し、Q*PDO2マップの検索を行って、燃料噴射パラメータQ*を算出する。そして、気筒内酸素量mo2が臨界酸素量mo2cに達すると、燃料噴射制御は、第2移行制御からO2基準STD制御に切り換えられる。
この第2移行制御によれば、アクセルペダルが戻されている減速時に、ペダル基準STD制御からO2基準STD制御へ円滑に移行させることができる。また、アクセル開度APがゼロEGR開度APEGRZcとなったときの気筒内酸素量であるゼロEGR酸素量mo2EGRZに応じて、随時算出される気筒内酸素量mo2をマップ検索用酸素量mo2Mに変換して、Q*PDO2マップ検索を行うようにしたので、エンジン運転状態が基準運転状態からずれていても、円滑な移行が可能となる。
第1移行制御または第2移行制御の実行中にアクセルペダルが停止したときは、その停止した時点の燃料噴射パラメータQ*が保持され、アクセルペダルが次に動き始めたときには、アクセル開度APの時間微分値の極性に応じて、以後の移行制御の向きが決定される。すなわち第1移行制御実行中にアクセルペダルが停止し、次にアクセル開度APがまた増加を始めれば、点P2に向かう移行制御が続行される一方、停止後アクセル開度APが減少し始めたときは、点P1に戻る移行制御が実行される。また第2移行制御実行中にアクセルペダルが停止し、次にアクセル開度APがまた減少を始めれば、点P4に向かう移行制御が続行される一方、停止後アクセル開度APが増加し始めたときは、点P3に戻る移行制御が実行される。
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、燃料噴射パラメータQ*は、噴射時間De、噴射タイミングTMe及び噴射圧Peで構成されているが、これらの1つまたは2つであってもよい。さらに、上述した実施形態ではディーゼルエンジンの制御に本発明を適用した例を示したが、本発明は、ガソリンエンジンの制御にも適用可能である。
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの制御にも適用が可能である。