JP2009293660A - すべり軸受及びそのすべり軸受を組み付けた軸受装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 内燃機関運転時にすべり軸受の鋼裏金の外側背面に形成された被覆層が局部的に凝集することがなく、もって軸との強当りが発生し難いすべり軸受及び軸受装置を提供する。
【解決手段】 鋼裏金6の内側に軸受合金層7が形成されたすべり軸受1において、軸受合金層7と反対側の鋼裏金6の外側背面に、MoS2、WS2、黒鉛、h−BNの少なくとも1種以上からなる固体潤滑剤9の被覆層8によって被覆され、被覆層8は、鋼裏金6の外側背面での前記固体潤滑剤9の面積率が30〜90%となるように鋼裏金6の背面に対して固体潤滑剤9が凹凸状態となるように被覆されていることにより、これら固体潤滑剤9は、金属系、樹脂系の固体潤滑剤のように軟化や溶融せず、また、摩耗粉が細かくなる特性により、すべり軸受の外側背面と軸受ハウジングの内面間で流動し局部的に凝集することが起こり難いという利点がある。
【選択図】 図1
【解決手段】 鋼裏金6の内側に軸受合金層7が形成されたすべり軸受1において、軸受合金層7と反対側の鋼裏金6の外側背面に、MoS2、WS2、黒鉛、h−BNの少なくとも1種以上からなる固体潤滑剤9の被覆層8によって被覆され、被覆層8は、鋼裏金6の外側背面での前記固体潤滑剤9の面積率が30〜90%となるように鋼裏金6の背面に対して固体潤滑剤9が凹凸状態となるように被覆されていることにより、これら固体潤滑剤9は、金属系、樹脂系の固体潤滑剤のように軟化や溶融せず、また、摩耗粉が細かくなる特性により、すべり軸受の外側背面と軸受ハウジングの内面間で流動し局部的に凝集することが起こり難いという利点がある。
【選択図】 図1
Description
本発明は、鋼裏金の内側に摺動面としての軸受合金層が形成された円筒形状若しくは一対の半割形状を組み合わせて円筒形状となるすべり軸受、及び該すべり軸受を軸受ハウジングに組み付けた軸受装置に関するものである。
従来の内燃機関用のすべり軸受では、動荷重負荷による軸受ハウジングの変形により軸受ハウジング内面と軸受背面間で繰り返し起こる相対的なすべりによりすべり軸受の外側背面や軸受ハウジングの内面にフレッチング損傷がおこる場合があった。耐フレッチング性を改善する目的で、例えば、特許文献1に示されるように、軸受ハウジングの内面とすべり軸受の外側背面との直接の接触を防いだり、特許文献2に示されるように、軸受ハウジングの内面とすべり軸受の外側背面間の摩擦を低減するため摺動性に優れる金属や固体潤滑剤を含む樹脂の被膜をすべり軸受の外側背面や軸受ハウジングの内面に形成するすべり軸受が提案されてきた。さらに、特許文献2のような固体潤滑剤を含む樹脂被膜自身のフレッチング損傷を防ぐために、特許文献3に示されるように、樹脂からなる被膜を形成した軸受の提案もなされてきた。
特開平7−054834号公報(段落[0010])
特開平4−282013号公報(段落[0024])
特開平7−103238号公報(段落[0013])
また、図2に示すように、すべり軸受1は、例えば、内燃機関のクランク軸に連接されるコンロッド2とコンロッドキャップ3からなる軸受ハウジングの内面に嵌合されて使用される。しかして、内燃機関運転での動荷重負荷により、コンロッド2側とコンロッドキャップ3の軸受ハウジングには圧縮と引張の繰り返し応力が負荷されるが、特に近年の内燃機関の軽量化を目的としたコンロッドの低剛性化に伴い当該軸受ハウジングの弾性変形量が大きくなり、すべり軸受1の背面と軸受ハウジング内面間で相対的すべり量が大きくなる。これに伴い、軸受背面に摺動層を形成した軸受では、摺動膜自身の剥離や摩耗がおきやすくなり、それらがすべり軸受1の背面と軸受ハウジング内面間での相対的すべりによる応力により流動し、図3(A)(B)にデフォルメして示すように、ハウジング剛性の低い部分に局部的に凝集した凝集部4が形成され、該凝集部4がすべり軸受1の軸受摺動面を内面側に盛り上げて軸と強当りして、すべり軸受が焼付や疲労するという問題が発生するようになってきた。
本発明は、上記した問題点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、内燃機関運転時にすべり軸受の鋼裏金の外側背面に形成された被覆層が局部的に凝集することがなく、もって軸との強当りが発生し難いすべり軸受及び軸受装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、鋼裏金の内側に摺動面としての軸受合金層が形成された円筒形状若しくは一対の半割形状を組み合わせて円筒形状となるすべり軸受において、前記軸受合金層と反対側の前記鋼裏金の外側背面に、MoS2、WS2、黒鉛、h−BNの少なくとも1種以上からなる固体潤滑剤の被覆層によって被覆され、前記被覆層は、当該鋼裏金の背面に対して前記固体潤滑剤が凹凸状態となるように被覆されると共に、前記鋼裏金の外側背面での前記固体潤滑剤の面積率が30〜90%となるように被覆されていることを特徴とする。
また、請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記固体潤滑剤は、付着形態で前記鋼裏金の外側背面に被覆されていることを特徴とする。
また、請求項3に係る発明は、鋼裏金の内側に摺動面としての軸受合金層が形成された円筒形状若しくは一対の半割形状を組み合わせて円筒形状となるすべり軸受を軸受ハウジングに組み付けた軸受装置において、前記軸受合金層と反対側の前記鋼裏金の外側背面又は前記軸受ハウジングの内面に、MoS2、WS2、黒鉛、h−BNの少なくとも1種以上からなる固体潤滑剤の被覆層によって被覆され、前記被覆層は、当該鋼裏金の背面又は当該軸受ハウジングの内面に対して前記固体潤滑剤が凹凸状態となるように被覆されると共に、前記鋼裏金の外側背面での前記固体潤滑剤の面積率が30〜90%となるように被覆され、前記すべり軸受を前記軸受ハウジングに嵌合組み付けしたときに、当該すべり軸受の鋼裏金の外側背面及び軸受ハウジングの内面を前記固体潤滑剤で弾性変形させることにより、前記固体潤滑剤と鋼裏金の外側背面及び軸受ハウジングの内面との隙間が実質的に無となることを特徴とする。
また、請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明において、前記固体潤滑剤は、付着形態で前記鋼裏金の外側背面又は前記軸受ハウジングの内面に被覆されていることを特徴とする。
従来技術のように、すべり軸受の外側背面の全面に被覆膜を形成すると、軸受ハウジングの内面とすべり軸受の外側背面との摩擦係数が過度に下がり相対的すべり量が多くなり、また、被覆層自身の摩耗、剥離がおきやすく、さらにそれらの相対的すべりによる応力により流動し局部的に凝集し、すべり軸受の内面を軸受の内径側にもり上げる。これに対し、請求項1に係る発明においては、すべり軸受の外側背面に、固体潤滑剤の被覆層を当該鋼裏金の背面に対して固体潤滑剤が凹凸状態となるように被覆し、前記鋼裏金の外側背面での前記固体潤滑剤の面積率が30〜90%となるように被覆することにより、従来のすべり軸受のように過度に摩擦係数を下げない。なお、本願において、固体潤滑剤の被覆層を鋼裏金の背面に対して固体潤滑剤が凹凸状態となるように被覆した状態とは、鋼裏金の背面に固体潤滑剤を分散させ被覆したことによる凸状部と、鋼裏金面の背面に固体潤滑剤を被覆させない面とにより形成される凹部とが混在した状態を意味する。
これによりすべり軸受背面の鋼裏金の外側背面と軸受ハウジングの内面との直接接触する面が形成されてすべり軸受背面の鋼裏金の外側背面と軸受ハウジングの内面の相対的なすべり量が少なくなるので固体潤滑剤で形成される被覆層の摩耗量が少なくなる。また、すべり軸受の外側背面と軸受ハウジングの内面間の相対的すべりにより被覆層内に剪断応力が発生するが、剪断応力が被覆層の凹部で遮断され分散されるので、被覆層を剥離させるほどの局部的な応力集中がおき難い。さらに、すべり軸受の外側背面と軸受ハウジングの内面との相対的すべりを完全に無くすことはできないので、僅かに被覆層の摩耗粉や剥離片は発生するが、それらはすべり軸受背面の鋼裏金の外側背面と軸受ハウジングの内面との直接接触部により拘束されて流動し難いので局部的に凝集し、すべり軸受の内面を軸受の内径側にもり上げるようなことがない。したがって、請求項1に係る発明は、上記の効果を有し、さらに、凹凸状態で被覆される固体潤滑剤の被膜層がすべり軸受の外側背面と軸受ハウジングの内面との摩擦を下げることにより、摩擦熱によるすべり軸受の外側背面または軸受ハウジングの内面の金属面が酸化する形態のフレッチング損傷を防止することができる。
また、請求項1に係る発明は、すべり軸受背面の鋼裏金外側背面における固体潤滑剤の面積率が30%未満では耐フレッチング性が不十分であり、90%を越えるとすべり軸受の外側背面と軸受ハウジングの内面間の相対的すべりが起き易くなるため固体潤滑剤の被覆層の摩耗量が多くなり、また、その摩耗粉が流動しやすくなるので、局部的な凝集が起こる場合がある。鋼裏金の外側背面における固体潤滑剤の面積率は30〜90%が好ましく、40%〜70%であるとより好ましい。
また、請求項1に係る発明において、固体潤滑剤は、MoS2、WS2、黒鉛、h−BNの少なくとも1種以上としている。これは、これらの固体潤滑剤は結晶構造が六方晶型であるため、自身の結晶が細かく剪断されることにより摩擦を下げることができ、これによってすべり軸受の外側背面と軸受ハウジングの内面間のように無潤滑下での摩擦面間の相対的すべりが原因で起こるフレッチング損傷を好適に防ぐことができる。さらに、これら固体潤滑剤は、金属系、樹脂系の固体潤滑剤のように軟化や溶融せず、また、前述したように摩耗粉が細かくなる特性により、すべり軸受の外側背面と軸受ハウジングの内面間で流動し局部的に凝集することが起こり難いという利点がある。
また、すべり軸受背面の鋼裏金の外側背面に対して凹凸状態となるように固体潤滑剤の被膜層を形成する方法としては、一般的な投射法等により形成することが可能である。固体潤滑剤粒子を室温もしくは固体潤滑剤が分解しない温度に加熱した状態で圧縮気体の力により鋼裏金の外側背面に衝突させ被覆する一般的な投射法を用い、固体潤滑剤の粒子径、投射速度、投射時間、圧縮気体圧力等の条件の調整によりすべり軸受背面の鋼裏金の外側背面に凹凸状態となるように固体潤滑剤の被覆層を形成することができる。この投射法による場合、固体潤滑剤粒子と金属との接合強度が弱いため固体潤滑剤粒子の運動エネルギーを高めて金属に埋め込ませることにより固体潤滑剤の保持性を高めることが一般的に行なわれてきた。しかし、すべり軸受背面の鋼裏金の外側背面に固体潤滑剤の粒子を埋め込ませると、固体潤滑剤の粒子が埋め込まれた周囲の金属が塑性変形する。塑性変形した金属の組織には結晶欠陥が多数発生するために活性化して酸化物が形成されやすい状態となるのでフレッチング損傷がおきやすくなる。したがって、請求項2に係る発明のように、固体潤滑剤の粒子をすべり軸受背面の鋼裏金の外側背面を塑性変形させることなく、付着形態で固体潤滑剤の被覆層を形成したほうがフレッチング損傷防止に効果的である。
また、請求項3に係る発明においては、すべり軸受を軸受ハウジングに嵌合組み付けしたときに、当該すべり軸受の鋼裏金の外側背面及び軸受ハウジングの内面を弾性変形させることにより、凹凸状態の固体潤滑剤と鋼裏金の外側背面及び軸受ハウジングの内面との隙間が実質的に無となる。即ち、すべり軸受の外径寸法を軸受ハウジング内径寸法に対して僅かに大きくすることにより、すべり軸受を軸受ハウジングに固定する。このときに、すべり軸受の半径方向に発生する軸受半径方向応力により軸受背面の鋼裏金の外側背面及び軸受ハウジングの内面を弾性変形内で変形させて凹凸状態の固体潤滑剤と鋼裏金の外側背面及び軸受ハウジングの内面との隙間を実質的に無とする。そして、MoS2、WS2、黒鉛、h−BN等の固体潤滑剤は、すべり軸受の裏金の鋼や軸受ハウジングとして一般的なFe系合金、Al系合金、Ti系合金などの金属との接合強度が非常に弱いところ、凹凸状態の固体潤滑剤の被覆層は、鋼裏金の外側背面と軸受ハウジングの内面との弾性変形した接触面により拘束、保持されるため容易に剥離や脱落するようなことは無い。なお、凹凸状態の固体潤滑剤と鋼裏金の外側背面及び軸受ハウジングの内面との隙間を実質的に無とする制御は、具体的には、すべり軸受の外径寸法を調整して軸受ハウジングに固定する時の軸受の半径方向応力を5〜40MPaとすることにより可能となる。この応力内であれば鋼裏金や軸受ハウジング材質として一般的なFe系合金、Al系合金、Ti系合金等の金属が弾性変形して厚さ10μm程度までの凹凸状態の固体潤滑剤と鋼裏金の外側背面及び軸受ハウジングの内面との隙間を無くすことができる。半径方向応力が5MPa未満の応力であると隙間が形成されてしまう場合があり、固体潤滑剤を十分に拘束、保持することが困難となる。半径方向応力が40MPaを越えると固体潤滑剤付近の鋼裏金面や軸受ハウジング内面の金属が塑性変形して耐フレッチング性が低下してしまう場合がある。
なお、請求項4に係る発明によって奏される効果は、上記した請求項2によって奏される効果と同じである。
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1(A)に示すように、鋼裏金6と軸受合金7からなる平板形状の複層の軸受材料をプレス成形し、鋼裏金6が外周面となるように半割形状すべり軸受1を製造した後、投射法等によりMoS2、WS2、黒鉛、h−BNの少なくとも1種以上からなる固体潤滑剤9の粒子を圧縮気体の力により衝突させて被覆層8を半割形状すべり軸受1の鋼裏金6の背面に形成する。被覆層8は、図1(A),(B)に示すように、鋼裏金6の外側背面に対して固体潤滑剤9が均質に分散又は点在した凹凸状態となるように被覆されている。また、この被覆層8における固体潤滑剤9の面積率が30〜90%となるように投射時間により調整した。面積率の制御は、圧縮気体の圧力等によっても調整することは可能である。また、固体潤滑剤9の粒子を投射法により衝突させる場合に、衝突のエネルギーが過度に大きくなると、図1(C)に示すように、固体潤滑剤9が鋼裏金6の外側背面を塑性変形させて埋め込まれた状態となるため、塑性変形した金属の組織に結晶欠陥が多数発生し、これによって活性化して酸化物が形成されやすい状態となるのでフレッチング損傷がおきやすくなる。すべり軸受1の外側背面を塑性変形させず固体潤滑剤9の被覆層8を付着形態で被覆させるには、衝突のエネルギーが過度に大きくならないように固体潤滑剤9の粒子の径を0.1〜50μm程度とすることが好ましい。また、個々の固体潤滑剤9の凸状部の表面積は5.0×10-11〜6.5×10-3mm2とすることが好ましい。
上記の説明では、固体潤滑剤9の被覆層8をすべり軸受1の鋼裏金6の外側背面に形成したものとして説明したが、この鋼裏金6の外側背面に形成することに代えて、図2に示す軸受ハウジングとしてのコンロッド2及びコンロッドキャップ3の内側面に、前記と同様の投射法により固体潤滑剤9が均質に分散又は点在した凹凸状態となる被覆層を形成してもよい。
また、すべり軸受1を軸受ハウジング2,3に嵌合組み付けしたときに、図4に示すように、すべり軸受1の鋼裏金6の外側背面及び軸受ハウジング2,3の内面を弾性変形させることにより、凹凸状態の固体潤滑剤9とすべり軸受1の鋼裏金6の外側背面及び軸受ハウジング2,3の内面との隙間が実質的に無となる。即ち、すべり軸受1の外径寸法を軸受ハウジング2,3の内径寸法に対して僅かに大きくすることにより、すべり軸受1を軸受ハウジング2,3に固定する。このときに、すべり軸受1の半径方向に発生する軸受半径方向応力によりすべり軸受背面の鋼裏金6の外側背面及び軸受ハウジング2,3の内面を弾性変形内で変形させて凹凸状態の固体潤滑剤9とすべり軸受1の鋼裏金6の外側背面及び軸受ハウジング2,3の内面との隙間を実質的に無とする。これにより、凹凸状態の固体潤滑剤9は、鋼裏金6の外側背面と軸受ハウジング2,3の内面との弾性変形した接触面により拘束され保持されるため容易に剥離や脱落するようなことは無い。
次に、上記のようにして製造したすべり軸受1の軸受試験の試験結果について表1、表2を参照して説明する。
表1に示す実施例1〜5は、低炭素鋼(材質JIS SPCC)の鋼裏金とAl系合金軸受摺動層からなる軸受材料をプレス成形して半割形状のすべり軸受を製造したのち、該すべり軸受の背面である鋼裏金の外側背面に表1に示す組成の固体潤滑剤を、表1に示す固体潤滑剤の面積率となるように凹凸状態で被覆した。被覆方法としては、固体潤滑剤の粒子を圧縮気体の力によりすべり軸受の鋼裏金の外側背面に衝突させる一般的な投射法を用いた。すべり軸受背面の固体潤滑剤の面積率の制御は投射時間により調整した。そして、すべり軸受背面の鋼裏金の外側背面に均質に分散、点在した凹凸状態となるように固体潤滑剤の被覆層を形成することができた。
実施例6は、Fe合金(材質JIS S45C)からなる割型のコンロッドの内面に表1に示す組成の固体潤滑剤を、表1に示す面積率となるように実施例1〜5と同じ方法で凹凸状態となるように被覆した。
比較例1〜7は、実施例1〜5とおなじ軸受材料をプレス成形し半割形状のすべり軸受を製造したものである。比較例1は、すべり軸受の背面に被覆層を形成せず、比較例2は、表1に示す組成の樹脂系被覆層をスプレー法により塗布した後に乾燥、焼成してすべり軸受の外側背面の全面に被覆し、比較例3は、電気めっき法により表1に示す組成の金属系被覆層をすべり軸受の外側背面の全面に被覆した。比較例4は、実施例1〜5と同じ方法ですべり軸の外側背面の全面に表1に示す固体潤滑剤の被覆層を形成し、比較例5、6は、実施例1〜5と同じ方法で表1に示す固体潤滑剤の被覆層を固体潤滑剤の面積率が本発明の範囲外となるように製造した。比較例7は、本願の実施例1〜5と同じ方法で表1に示す固体潤滑剤を表1に示す面積率となるようにすべり軸受背面の鋼裏金の外側背面に被覆したが、固体潤滑剤粒子の投射ガス圧力を高めて鋼裏金の背面に固体潤滑剤を埋込ませて製造した点が本願の実施例と異なる。なお、固体潤滑剤がすべり軸受背面の鋼裏金の外側背面に付着形態で形成されているか否かは、すべり軸受背面の被覆層を形成した部分を断面組織観察し、鋼裏金背面が平滑で塑性変形していない場合を付着形態とし、局部的に塑性変形している場合を埋め込み形態とし、その結果を表1の被覆層形成形態に示す。
上記のように構成される実施例1〜6、及び比較例1〜7のそれぞれの半割形状すべり軸受2個を一対とし図2に示すようにFe合金製(JIS S45C)の割型の内燃機関のコンロッド2及びコンロッドキャップ3に挿入した後にボルトで締結した状態で、内燃機関に組付け、軸受試験を実施した。内燃機関には直列4気筒、排気量2000ccのエンジン(最高出力150PS、7000R.P.M.)を用い表2に示す試験条件で試験し、フレッチング損傷の有無、および、凝集部形成による軸との強当り部の有無を確認した。フレッチング損傷の有無は軸受試験後のすべり軸受背面、軸受ハウジング内面にFe系合金のフレッチング損傷の特徴である赤錆(酸化第2鉄)の発生の有無を目視観察により評価した。凝集部形成による軸との強当り部の有無は軸受ハウジング剛性が最も低く相対的すべり量が最も大きくなると考えられる軸受中心を通る水平線を0°としたときに45°及び135°の付近(図3(A)参照)で最も凝集が起こるため、同部におけるすべり軸受内面の軸との直接、接触による金属光沢の有無を目視により確認し評価した。それらの結果を表1に示す。なお、実施例1〜6は、半割形状すべり軸受の製造時に外径寸法を調整し、割型軸受ハウジングに組み付けたときに、すべり軸受の軸受半径方向に10MPaの応力を発生させて凹凸状態の固体潤滑剤とすべり軸受の鋼裏金外側背面および軸受けハウジング内面との隙間が無となるようしてある。比較例1〜7の半割すべり軸受もすべり軸受の軸受半径方向に10MPaの応力が発生するようにした。
まず、すべり軸受背面または軸受ハウジング内面に固体潤滑剤を付着形態で30〜90%の面積率の凹凸状態で被覆した実施例1〜6は、すべり軸受背面にも軸受ハウジング内面にもフレッチング損傷は起こらないが、比較例1は、すべり軸受背面と軸受ハウジング内面の何れにも固体潤滑剤の被覆層を被覆していないため軸受ハウジングの変形による軸受ハウジング内面とすべり軸受背面との相対的すべりによりすべり軸受背面の鋼裏金面が酸化する形態のフレッチング損傷が起こっていた。また、固体潤滑剤の面積率が本願の下限値より低い面積率の凹凸状態で被覆した比較例5は、相対的すべりの摩擦を緩和する効果が不十分なためすべり軸受背面の鋼裏金の外側背面が酸化する形態のフレッチング損傷が起こっていた。また、比較例7は、実施例2と対比した場合に、固体潤滑剤粒子をすべり軸受背面の鋼裏金の外側背面に埋め込ませた点が異なるが、固体潤滑剤粒子の埋め込み時に鋼が塑性変形して鋼組織中に多数の結晶欠陥が発生し活性化したため、この部分の鋼が酸化する形態のフレッチング損傷が起こっていたと考えられる。これに対し、本願の実施例1〜6においては、固体潤滑剤を付着形態で被覆し、すべり軸受背面の鋼裏金面やハウジング内面の金属を塑性変形させないのでフレッチング損傷の発生が見られず、耐フレッチング性に優れている。
次に、比較例2は、特許文献3に記載される技術を具体化したもの、比較例3は、特許文献1の被覆膜をすべり軸受背面の全面に形成したものにそれぞれ相当する。この比較例2,3においては、フレッチング損傷は起こらないものの、すべり軸受の内面に軸との強当り部が発生する。これらはすべり軸受背面に被覆した被覆層の表面と軸受ハウジング内面との摩擦が低くなりすぎて相対的なすべり量が多くなるために被覆層の摩耗量が多くなり、さらに比較例2では、固体潤滑剤を保持するためのバインダ樹脂自身が、比較例3では、被覆層である金属自身がそれぞれ軟化し流動するようになると考えられるため、これらが局部的に凝集し、軸受内面を軸受内径側に盛り上げるので軸表面との隙間が狭くなり軸との強当りが起こる。
比較例4は、実施例と同じ固体潤滑剤の被覆層をすべり軸受背面の全面に形成し、比較例6は、実施例と同じ固体潤滑剤の被覆層をすべり軸受の背面に本願の面積率の上限を超えた面積率で形成したものである。これらもすべり軸受背面に被覆した固体潤滑剤の面積率が高すぎるので軸受ハウジングとの摩擦が低くなりすぎて相対的なすべり量が多くなるために被覆層の摩耗量が多くなる。さらに、固体潤滑剤の摩耗粉を拘束、保持する機能と同時に、すべり軸受の外側背面と軸受ハウジングの内面間の相対的すべりにより固体潤滑剤の被覆層内部にかかる剪断応力を遮断し分散させ、被覆層の剥離を防ぐ機能をも有するすべり軸受背面の鋼裏金の外側背面と軸受ハウジングの内面との直接接触部が、比較例4では全く形成されず、比較例6では不十分にしか形成されないので、被覆層の摩耗粉、剥離片の発生量が多くなり、それらが局部的に凝集し、すべり軸受の内面を軸受内径側に盛り上げて軸表面との隙間が小さくなるので軸との強当りが起こっている。
これに対し、すべり軸受背面の鋼裏金の外側背面又は軸受ハウジングの内面に固体潤滑剤を付着形態で30〜90%の面積率の凹凸状態で被覆した実施例1〜6は、いずれも被覆層の摩耗粉の局部的な凝集が起こらないために、すべり軸受の内面と軸との強当りを防ぐことができる。
なお、実施例1〜6では、被覆層の被覆方法は投射法についてのみ説明したが、すべり軸受の外側背面や軸受ハウジングの内面に固体潤滑剤の被覆層を凹凸状態で形成でき、その面積率や付着形態を制御可能な他の被覆方法を用いてもよい。また、本発明は、実施例で示した内燃機関用のコンロッドに用いられる半割形状すべり軸受に限定されず、軸受ハウジングに組み付けて用いられる他用途のすべり軸受に適用できる。
1 半割形状すべり軸受
2 コンロッド
3 コンロッドキャップ
4 凝集部
6 鋼裏金
7 軸受合金
8 被覆層
9 固体潤滑剤
2 コンロッド
3 コンロッドキャップ
4 凝集部
6 鋼裏金
7 軸受合金
8 被覆層
9 固体潤滑剤
Claims (4)
- 鋼裏金の内側に摺動面としての軸受合金層が形成された円筒形状若しくは一対の半割形状を組み合わせて円筒形状となるすべり軸受において、
前記軸受合金層と反対側の前記鋼裏金の外側背面に、MoS2、WS2、黒鉛、h−BNの少なくとも1種以上からなる固体潤滑剤の被覆層によって被覆され、
前記被覆層は、当該鋼裏金の背面に対して前記固体潤滑剤が凹凸状態となるように被覆されると共に、前記鋼裏金の外側背面での前記固体潤滑剤の面積率が30〜90%となるように被覆されていることを特徴とするすべり軸受。 - 前記固体潤滑剤は、付着形態で前記鋼裏金の外側背面に被覆されていることを特徴とする請求項1記載のすべり軸受。
- 鋼裏金の内側に摺動面としての軸受合金層が形成された円筒形状若しくは一対の半割形状を組み合わせて円筒形状となるすべり軸受を軸受ハウジングに組み付けた軸受装置において、
前記軸受合金層と反対側の前記鋼裏金の外側背面又は前記軸受ハウジングの内面に、MoS2、WS2、黒鉛、h−BNの少なくとも1種以上からなる固体潤滑剤の被覆層によって被覆され、
前記被覆層は、当該鋼裏金の背面又は当該軸受ハウジングの内面に対して前記固体潤滑剤が凹凸状態となるように被覆されると共に、前記鋼裏金の外側背面又は前記軸受ハウジングの内面での前記固体潤滑剤の面積率が30〜90%となるように被覆され、
前記すべり軸受を前記軸受ハウジングに嵌合組み付けしたときに、当該すべり軸受の鋼裏金の外側背面及び軸受ハウジングの内面を弾性変形させることにより、前記凹凸状態の固体潤滑剤と鋼裏金の外側背面及び軸受ハウジングの内面との隙間が実質的に無となることを特徴とする軸受装置。 - 前記固体潤滑剤は、付着形態で前記鋼裏金の外側背面又は前記軸受ハウジングの内面に被覆されていることを特徴とする請求項3記載の軸受装置。
Priority Applications (1)
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JP2008145703A JP2009293660A (ja) | 2008-06-03 | 2008-06-03 | すべり軸受及びそのすべり軸受を組み付けた軸受装置 |
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---|---|---|---|---|
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JP2016169861A (ja) * | 2015-03-13 | 2016-09-23 | キヤノン株式会社 | 摺動部材、摺動機構及び搬送装置 |
JP2020159532A (ja) * | 2019-03-28 | 2020-10-01 | 大同メタル工業株式会社 | 内燃機関のクランク軸用の半割スラスト軸受 |
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-
2008
- 2008-06-03 JP JP2008145703A patent/JP2009293660A/ja active Pending
Cited By (7)
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