以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る光学素子を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す光学素子のII―II線に沿った断面図である。図3は、図1に示す光学素子のIII―III線に沿った断面図である。なお、図1乃至図3において、X方向は光学素子10の主面に平行な方向であり、Y方向は光学素子10の主面に平行であり且つX方向に対して垂直な方向であり、Z方向はX方向及びY方向に対して垂直な方向である。
この光学素子10は、例えば、真正品であることが確認されるべき物品に支持させる表示体である。光学素子10は、基材11と反射層12と中間層13と液晶層14とアンカー層15と有色パターン層16とを含んでいる。光学素子10の前面は、有色パターン層16側の面である。
基材11は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの樹脂からなるフィルム又はシートである。基材11は光透過性を有していてもよく、有していなくてもよい。また、基材11は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。基材11は、省略することができる。
反射層12は、光散乱性を有している反射層である。反射層12は、基材11の前面の全体を被覆している。反射層12は、基材11の前面の一部のみを被覆していてもよい。或いは、反射層12は、基材11の背面を少なくとも部分的に被覆していてもよい。この場合、基材11は、反射層12に対応した位置の少なくとも一部で光透過性とする。典型的には、基材11として、反射層12に対応した位置の少なくとも一部で透明なものを使用する。
反射層12は、金属反射面を含んでいる。反射層12は、例えば、アルミニウムなどの金属からなる細片を樹脂中に分散させてなる層である。
この金属細片としては、例えば、フレーク状に加工したアルミニウムを顔料として含んだアルミペーストを使用することができる。アルミペーストには、リーフィングタイプとノンリーフィングタイプとがある。リーフィングタイプのアルミペーストを使用すると、アルミフレークが表面領域で膜面に対して平行に配列し、鏡面反射に近い光沢面を有する反射層が得られる。ノンリーフィングタイプのアルミペーストを使用すると、アルミフレークが塗膜で一様に分散し、散乱反射面を有する反射層が得られる。ここでは、散乱反射面が得られるノンリーフィングタイプを使用することが望ましい。なお、金属細片として、銀及びステンレスなどのアルミニウム以外の金属又は合金からなる細片を使用することも可能である。
反射層12が含み得る樹脂は、光透過性を有しており、典型的には透明である。この樹脂の材料としては、例えば熱可塑性樹脂を使用することができる。この樹脂又はその材料としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂又はビニル樹脂を、単独で又は複合して使用することができる。
ここでは、一例として、反射層12は、アルミニウム細片を樹脂中に分散させてなり、基材11の前面の全体を被覆していることとする。このような反射層12は、アルミニウム細片が入射光を様々な方向に乱反射するため光散乱性を有している。
液晶層14は、反射層12の前面と向き合っている。液晶層14は、液晶材料を固化してなる。典型的には、液晶層14は、流動性を有する重合性液晶材料を紫外線又は熱により硬化させてなる高分子複屈折性層である。
液晶層14は、メソゲンの配向方向が異なる複数の液晶部分142乃至144を含んでいる。ここでは、一例として、メソゲンの配向方向は、液晶部分142ではX方向に略平行であり、液晶部分143ではY方向に略平行であるとする。そして、ここでは、液晶部分144では、メソゲンの配向方向は、前面側から光学素子10を見た場合にX方向に対して時計回りに45°の角度を為しているとする。液晶部分142乃至144は、潜像を形成しており、この潜像は、偏光子を介して観察したときに可視化する。メソゲンの配向方向が異なる複数の領域を形成する方法、及び、これら領域が形成している潜像の視覚効果については、後で説明する。
中間層13は、反射層12と液晶層14との間に介在している。中間層13は、光透過性を有しており、典型的には透明である。中間層13は、例えば樹脂を含んでいる。中間層13は、反射層12と液晶層14との密着を向上させる役割を果たす。
中間層13の材料としては、例えば熱可塑性樹脂などの樹脂を使用することができる。中間層13が含んでいる樹脂又はその材料としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂又はビニル樹脂を、単独で又は複合して使用することができる。
中間層13は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。中間層13は、省略することができる。
アンカー層15は、液晶層14の前面を被覆している。アンカー層15は、光透過性を有しており、典型的には透明である。この場合、アンカー層15は、無色透明であってもよく、有色透明であってもよい。
アンカー層15は、液晶層14などの損傷や光劣化を生じ難くして、光学素子10が表示する像の劣化を抑制する保護層としての役割を果たす。加えて、アンカー層15は、有色パターン層16に用いられるインキの液晶層14に対する密着性を向上させる役割を果たす。アンカー層15は、省略することができる。
アンカー層15は、例えば樹脂からなる。アンカー層15の材料としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂及びポリイミド樹脂などの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は紫外線若しくは電子線硬化樹脂を、単独で又は混合して使用することができる。
有色パターン層16は、アンカー層15上に形成されている。有色パターン層16は、アンカー層15と液晶層14と中間層13とを間に挟んで反射層12の前面の一部と向き合っている。有色パターン層16は、光透過性を有していてもよく、有していなくてもよい。
有色パターン層16は、肉眼で観察した場合に知覚可能な可視像又はその一部を光学素子10に表示させる役割を果たす。ここでは、光学素子10は、肉眼で観察した場合に文字列「TP」を表示する。有色パターン層16を用いて光学素子10に表示させる可視像は、文字列若しくは文字、記号、図形又はそれらの組み合わせであってもよい。
有色パターン層16の材料としては、例えばインキを使用することができる。このインキとしては、例えば、凸版印刷用インキ、オフセット印刷用インキ、スクリーン印刷用インキ、フレキソ印刷用インキ、紫外線硬化型インキ、熱転写インキ、紫外線吸収インキ、赤外線吸収インキ又は蛍光インキを使用することができる。このインキとして、観察角度によって異なる色相を呈する光学可変インキ、例えば、OVIインキ(Optically Variable Ink)又はパールインキを使用してもよい。そのようなインキを使用すると、より優れた偽造防止効果、装飾効果及び/又は美的効果を達成できる。ここでは、一例として、紫外線硬化型の有色インキを用いることとする。
この表示体10は、例えば以下の方法により製造することができる。
図4は、図1乃至図3に示す光学素子の製造プロセスの一例において得られる中間製品を概略的に示す平面図である。図5は、図4に示す中間製品のV−V線に沿った断面図である。
図1乃至図3に示す光学素子10の製造においては、まず、図4及び図5に示す中間製品20を製造する。この中間製品20は、基材21と配向層22と液晶層14とを含んでいる。
中間製品20の製造に際しては、まず、基材21を準備する。基材21は、例えば、PETなどの樹脂からなるフィルム又はシートである。基材21は光透過性を有していてもよく、有していなくてもよい。また、基材21は単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。
次に、基材21の一方の主面上に、配向層22を形成する。配向層22の表面は、領域A2乃至A4を含んでいる。領域A2乃至A4は、それぞれ液晶部分142乃至144に対応している。
領域A2乃至A4の各々には、長さ方向が揃い且つこの長さ方向と交差する方向に隣り合った複数の溝が設けられている。領域A2では、溝の長さ方向は、X方向に略平行である。領域A3では、溝の長さ方向は、Y方向に略平行である。領域A4では、溝の長さ方向は、液晶層14側から中間製品20を見た場合に、X方向に対して反時計回りに45°の角度を為している。このような溝を設けると、後で詳しく説明するように、メソゲンが溝の長さ方向に沿って配向した液晶層14が得られる。
ここで、配向層22に採用可能な構造及びその形成方法について詳しく説明する。
図6は、配向層の表面に採用可能な構造の一例を概略的に示す平面図である。図7は、配向層の表面に採用可能な構造の他の例を概略的に示す平面図である。図8は、配向層の表面に採用可能な構造の更に他の例を概略的に示す平面図である。図9は、配向層の表面に採用可能な構造の更に他の例を概略的に示す平面図である。
領域A2乃至A4の各々には、例えば、図6に示すように、複数の溝を幅方向に等間隔で平行に並べた構造を採用することができる。
これら溝は、図7に示すように、互いに平行でなくてもよい。但し、これら溝が平行に近いほど、液晶部分142乃至144の各々において、液晶分子又はそれらのメソゲンの長軸が揃い易くなる。これら溝が為す角度は、例えば5°以下とし、典型的には3°以下とする。
領域A2乃至A4の各々において、これら溝は、縦横に並べてもよい。また、溝の長さは、互いに等しくてもよく、互いに異なっていてもよい。また、長さ方向に隣り合う溝間の距離は均一であってもよく、不均一であってもよい。更に、幅方向に隣り合う溝間の距離は均一であってもよく、不均一であってもよい。例えば、図8に示すように、領域A2乃至A4の各々には、互いに長さが等しい溝を縦横に並べてもよい。或いは、図9に示すように、様々な長さの溝をランダムに並べてもよい。
配向層22は、例えば、感光性樹脂材料に、二光束干渉法を用いてホログラムパターンを記録する方法や、電子ビームによってパターンを描画する方法により形成することができる。或いは、表面レリーフ型ホログラムの製造で行われているように、複数の線状凸部を設けた金型を樹脂に押し付けることにより形成することができる。例えば、配向層22は、基材21上に形成された熱可塑性樹脂層に、複数の線状凸部が設けられた原版を、熱を印加しながら押し当てる方法、即ち、熱エンボス加工法により得られる。或いは、配向層22は、基材21上に紫外線硬化樹脂を塗布し、これに原版を押し当てながら基材21側から紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化させ、その後、原版を取り除く方法により形成することも可能である。
これらの方法によれば、1つの面内に溝の長さ方向が異なる複数の領域を形成することができる。また、これらの方法によると、1つの面内に溝の深さ、幅、及び/又は溝などが異なる複数の領域を形成することもできる。
先の原版は、例えば、二光束干渉法を用いてホログラムパターンを記録する方法、電子ビームによってパターンを描画する方法、又はバイトによって切削する方法により得られた母型の電鋳を行うことにより得られる。配向層22に上記のような多様性をもたせない場合は、ラビング加工により溝を形成してもよい。
これら溝の深さは、例えば、0.05μm乃至1μmの範囲とする。また、溝の長さは、例えば、0.5μm以上とする。溝のピッチは、例えば0.1μm以上であり、典型的には0.75μm以上である。また、溝のピッチは、例えば10μm以下であり、典型的には2μm以下である。液晶分子又はそのメソゲンを高い秩序度で配向させるには、溝のピッチは小さいことが有利である。
上述した方法により形成した配向層22上には、液晶層14を形成する。液晶層14は、液晶材料を固化してなる。
例えば、配向層22上に、流動性を有する光重合性ネマチック液晶材料を塗布する。配向層22に液晶材料を塗布すると、液晶材料のメソゲンは溝の長さ方向に沿って並ぶ。なお、必要な場合には、加熱によってメソゲンの配向を促す。次いで、メソゲンの配向状態をほぼ維持したまま液晶材料を固化させる。例えば、液晶材料に紫外線を照射して、それらの重合を生じさせる。
メソゲンの配向状態をほぼ維持したまま液晶材料を固化させると、遅相軸の向きが異なる液晶部分142乃至144が得られる。この例では、メソゲンがX方向に配向した液晶部分142と、メソゲンがY方向に配向した液晶部分143と、基材21側から中間製品20を見た場合にメソゲンがX方向に対して時計回りに45°の角度を為す方向に配向した液晶部分144とが得られる。
メソゲンの配向方向についての屈折率は異常光線屈折率neであり、この配向方向と直交する方向についての屈折率は常光線屈折率noである。そして、屈折率neは屈折率noより大きい。それゆえ、液晶部分142の遅相軸はX方向と平行であり、進相軸はY方向と平行である。また、液晶部分143の遅相軸はY方向と平行であり、進相軸はX方向と平行である。そして、基材21側から中間製品20を見た場合に、液晶部分144の遅相軸はX方向に対して時計回りに45°の角度を為しており、進相軸はX方向に対して反時計回りに45°の角度を為している。
また、このような方法により得られる液晶層14の配向層22との対向面には、配向層22の表面に設けられた複数の溝に対応して、複数の線状凸部が設けられている。図6乃至図8に示す構造を配向層22に採用した場合、溝を略平行とし且つピッチを適宜設定することなどにより、液晶層14の表面に設けられた線状凸部又は溝で回折格子を構成することができる。図9に示す構造を採用した場合、液晶層14の表面に設けられた線状凸部又は溝で一方向性拡散パターンを形成することができる。なお、この一方向性拡散パターンは、線状凸部又は溝の長さ方向に垂直な面内での拡散能が、液晶層14の主面に垂直であり且つ線状凸部又は溝の長さ方向に平行な面内での拡散能と比較してより大きい光拡散特性、即ち、光散乱異方性を示すパターンである。ここでは、一例として、液晶部分142乃至144の各々に設けられた線状凸部又は溝は、回折格子を構成していることとする。
以上のようにして、液晶分子又はメソゲンの長軸の向きが固定化された液晶層23を得る。なお、ここでは、液晶層23の材料としてネマチック液晶材料を用いているが、コレステリック液晶材料やスメクチック液晶材料を用いてもよい。また、液晶層23の材料は、熱重合性であってもよい。この場合、液晶材料は、加熱によって硬化させてもよい。
次に、この中間製品20の液晶層14を用いて、図1乃至図3に示す光学素子10を製造する。即ち、基材11と液晶層14とを、反射層12及び中間層13を間に挟んで貼り合せる。なお、配向層22及び基材11は、適当な段階で液晶層14から除去する。その後、液晶層14上にアンカー層15及び有色パターン層16を順次形成することにより、図1乃至図3に示す光学素子10を得る。
次に、この光学素子10に白色光を照射し、これを肉眼で観察した場合に見える画像について説明する。なお、白色光とは、可視領域内の全ての波長の非偏光からなる光である。また、図1乃至図3及び他の図面において、参照符号101乃至104は、光学素子10をZ方向に平行な境界に沿って分割することにより得られる表示部を表している。具体的には、光学素子10のうち有色パターン層16に対応した部分が表示部101であり、光学素子10の残りの部分のうち、液晶部分142に対応した部分が表示部102であり、液晶部分143に対応した部分が表示部103であり、液晶部分144に対応した部分が表示部104である。
光学素子10に白色光を照射し、これを肉眼で観察した場合、図1に示すように、表示部102乃至104は互いからの判別が不可能又は困難であり、表示部101は表示部102乃至104からの判別が容易である。従って、有色パターン16に対応した像を観察できる。これについて、より詳細に説明する。
表示部102に入射した照明光としての白色光は、図2に示すアンカー層15と液晶部分142とをこの順に透過する。液晶部分142の前面には、回折格子が形成されているので、この入射光の一部は、回折光として中間層13を透過し、反射層12によって反射される。反射層12は光散乱性を有しているので、この反射光は散乱光である。この散乱光は、中間層13と液晶部分142とアンカー層15とをこの順に透過する。液晶部分142の前面には回折格子が形成されているが、反射層12からの反射光が散乱光であるのに加え、通常の環境中では照明光の入射角も様々である。それゆえ、観察者は、この散乱光を表示色として知覚する。従って、表示部102は銀白色に見える。
表示部102乃至104は、メソゲンの配向方向が異なっているが、観察者はその違いは知覚できない。また、表示部102乃至104は回折格子の溝の長さ方向が異なっているが、先の説明から明らかなように、表示部102を肉眼で観察した場合、回折格子は表示色や明るさに影響を与えない。従って、表示部103及び104も銀白色に見える。
そして、表示部101は、有色パターン層16を含んでいる点で、表示部104とは異なっている。従って、表示部104は、有色パターン層16に由来する色に見える。即ち、有色パターン層16が光透過性である場合には、表示部104は、白色光で照明したときに有色パターン層16が透過させる光に対応した色に見える。そして、有色パターン層16が遮光性である場合には、表示部104は、白色光で照明したときに有色パターン層16が反射する光に対応した色に見える。
このように、表示部102乃至104は銀白色に見え、表示部101は有色パターン層16に由来する色に見える。そして、表示部102乃至104は、明るさがほぼ等しい。従って、光学素子10に白色光を照射し、これを正面から肉眼で観察した場合、図1に示すように、表示部102乃至104は互いからの判別が不可能又は困難であり、表示部101は表示部102乃至104からの判別が容易である。
次に、偏光子を介して光学素子10を観察した場合に見える画像について説明する。ここでは、一例として、偏光子として直線偏光フィルムを使用することとする。
図10は、図1乃至図3に示す光学素子と直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な像の一例を概略的に示す平面図である。
図10では、図1乃至図3に示す光学素子10と吸収型の直線偏光フィルム50とを、偏光フィルム50側から光学素子10を見た場合に、偏光フィルム50の透過軸がX方向に対して時計回りに45°の角度を為すように重ねている。このような配置を採用し、これを正面から観察すると、図10に示すように、表示部101乃至103は表示部104からの判別が容易であり、表示部102及び103は表示部101からの判別が容易であり且つ互いからの判別が不可能又は困難である。これについてより詳細に説明する。
偏光フィルム50に照明光として白色光を照射すると、直線偏光フィルム50は、その透過軸に平行な偏光面(電場ベクトルの振動面)を有する直線偏光を透過させ、その透過軸に垂直な偏光面を有する直線偏光を吸収する。
表示部102に入射した直線偏光は、図2に示すアンカー層15と液晶部分142とをこの順に透過する。液晶部分142では、メソゲンはX方向と略平行に配向している。即ち、偏光フィルム50側から見て、液晶部分142の遅相軸は、偏光フィルム50の透過軸に対して反時計回りに45°回転させた方向に平行である。従って、例えば、先の直線偏光のうち、或る特定波長λ0の光成分は、液晶部分142を透過することにより右円偏光へ変換され、残りの光成分は、液晶部分142を透過することにより右楕円偏光へ変換される。
これら右円偏光及び右楕円偏光は、中間層13を透過し、反射層12に入射する。液晶部分142の前面には回折格子が形成されているので、この入射光の一部は、回折光として反射層12に入射する。
反射層12に入射した回折光としての右円偏光及び右楕円偏光は、反射層12によって反射される。右円偏光及び右楕円偏光は、それぞれ、反射層12によって反射されることにより、左円偏光及び左楕円偏光に変換される。また、反射層12は光散乱性を有しているので、この反射光は散乱光である。
この散乱光としての左円偏光及び左楕円偏光は、中間層13を透過し、液晶部分142に入射する。液晶部分142の前面には回折格子が形成されているが、反射層12からの反射光が散乱光であるのに加え、通常の環境中では照明光の入射角も様々である。それゆえ、反射層12からの反射光は、散乱光として液晶部分142及びアンカー層15をこの順に透過する。
また、この入射光は、散乱光であるので、正面方向へ進行する光成分と、斜め方向へ進行する光成分とを含んでいる。正面方向へ進行する光成分のうち、特定波長λ0の左円偏光は、液晶部分142を透過することにより、偏光面が偏光フィルム50の透過軸に対して垂直な直線偏光へと変換される。そして、残りの光成分は、液晶部分142を透過することにより、左楕円偏光若しくは左円偏光又は右楕円偏光若しくは右円偏光へと変換される。
即ち、偏光フィルム50の透過軸に対して平行な偏光面を有する光成分のみに着目した場合、表示部102に入射する光成分の強度に対する表示部102が射出する光成分の強度の比は、波長依存性を有することとなる。換言すれば、偏光フィルム50に入射する照明光の強度に対する、偏光フィルム50が射出する表示光の強度の比は、波長依存性を有することとなる。従って、表示部102は着色して見える。なお、表示部102が着色して見える理由については、後で数式を参照しながら説明する。
表示部103と表示部102とは、回折格子を構成している溝の長さ方向が90°異なり、メソゲンの配向方向が90°異なっている点でのみ相違している。それゆえ、表示部103は、円偏光又は楕円偏光の偏光面の回転方向が逆であること以外は、表示部102について説明したのと同様に振舞う。従って、表示部103は、表示部102と同様に着色して見える。
表示部104と表示部102とは、回折格子を構成している溝の長さ方向が45°異なり、メソゲンの配向方向が45°異なっている点でのみ相違している。即ち、表示部104では、メソゲンの配向方向は、偏光フィルム50の透過軸に対して平行である。それゆえ、液晶部分144の複屈折性は、表示に影響を与えない。従って、表示部104は、表示部102及び103とは異なり、着色せずに銀白色に見える。
そして、表示部101は、有色パターン層16を含んでいる点で、表示部104とは異なっている。従って、表示部104は、有色パターン層16に由来する色に見える。
このように、表示部102及び103は着色して見え、表示部104は銀白色に見え、表示部101は有色パターン層16に由来する色に見える。そして、表示部102及び103は、明るさがほぼ等しい。従って、光学素子10に偏光フィルム50を重ね、これに白色光を照射して正面から観察した場合、図10に示すように、表示部101乃至103は表示部104からの判別が容易であり、表示部102及び103は、表示部101からの判別が容易であり且つ互いからの判別が不可能又は困難である。
なお、このとき、表示部102及び103の互いからの判別は理論的には不可能である。しかしながら、偏光フィルム50や配向層22に設けた溝の精度に起因して、表示部102及び103間で表示光のスペクトルに相違を生じ、その結果、それらを互いから判別可能となることがある。
ここで、表示部102が着色して見える理由について、数式を参照しながら説明する。なお、液晶部分142は、波長λ0の光に対して四分の一波長板としての役割を果たすとする。
偏光フィルム50が法線方向に射出した波長λ0の直線偏光は、偏光面がX方向に垂直な直線偏光成分と偏光面がY方向に垂直な直線偏光成分との和であると考えることができる。上記の通り、液晶部分142のX方向についての屈折率は異常光線屈折率neであり、Y方向についての屈折率は常光線屈折率noである。従って、液晶部分142は、これら直線偏光成分に、往路と復路の各々でλ0/4の位相差を与える。即ち、液晶部分142は、これら直線偏光成分に合計でλ0/2の位相差を与える。そのため、表示部102が法線方向に射出する波長λ0の光は、偏光フィルム50を透過できない。
ところで、リターデイションReは、下記等式(1)に示すように、液晶層の膜厚dとその複屈折Δnとに依存する。
Re=Δn×d …(1)
ここで、Δn=ne−noである。
一対の直線偏光フィルムをそれらの透過軸が直交するように向かい合わせ、それらの間に液晶層をその光学軸が直線偏光フィルムの透過軸に対して45°の角度を為すように介在させる。一方の直線偏光フィルムをその法線方向から波長λの光で照明した場合、液晶層に入射する光の強度をI0とし、他方の直線偏光フィルムを透過する光の強度をIとすると、強度Iは、下記等式(2)で表すことができる。
I=I0×sin2(Re×π/λ) …(2)
複屈折Δnは波長依存性を有しており、複屈折Δnと波長nとは比例関係にはない。それゆえ、等式(2)から明らかなように、透過光のスペクトルは、入射光のスペクトルとは異なるプロファイルを有することとなる。
このように、液晶層を一対の直線偏光フィルムで挟むと、入射光とはスペクトルのプロファイルが異なる透過光を得ることができる。これと同様に、液晶層を直線偏光フィルムと反射層とで挟んだ場合にも、入射光とはスペクトルのプロファイルが異なる反射光を得ることができる。このような理由で、表示部102は着色して見える。
図11は、図1乃至図3に示す光学素子が表示する像の他の例を示す斜視図である。
図11に示すように、図10に示す状態において観察方向をX方向に垂直な面内で傾けると、表示部102及び103の表示色が互いに異なる色へと変化する。その結果、表示部102及び103の互いからの判別が容易になる。例えば、法線方向から観察した場合に表示部102及び103は紫色に見えていたとすると、観察方向をX方向に垂直な面内で傾けることにより、表示部102の色は赤色へと変化し、表示部103は緑色へと変化する。表示部102及び103で生じる色変化の理由を以下に説明する。
観察角度θを傾けると、液晶層の実効的な複屈折Δn’が複屈折Δnから変化するのに加え、以下の等式(3)に示す液晶層の実効的な膜厚d’が液晶層の実際の膜厚dの2倍よりも大きくなる。
d’=2d/cosθ …(3)
即ち、観察角度に応じて、上記等式(1)に示すリターデイションReが変化し、それゆえ、上記等式(2)に示す強度Iが変化する。その結果、観察角度に応じて、表示光のスペクトルのプロファイルが変化する。
複屈折Δn’は、照明光の入射角と、照明光の伝搬方向に平行な直線の液晶層主面上への投影が液晶層の光学軸に対して為す角度とに依存する。具体的には、液晶部分142の複屈折Δn’は、その光学軸はX方向と平行であるので、観察方向をX方向に垂直な面内で傾けても変化しない。これに対し、液晶部分143の複屈折Δn’は、その光学軸はY方向に平行であるので、観察方向をX方向に垂直な面内で傾けるのに伴って変化する。
このように、表示部102は、観察方向をX方向に垂直な面内で傾けた場合、実効的な膜厚d’の変化に起因した色変化を生じる。これに対し、表示部103は、観察方向をX方向に垂直な面内で傾けた場合、実効的な膜厚d’の変化と実効的な複屈折Δn’の変化とに起因した色変化を生じる。このため、観察方向をX方向に垂直な面内で傾けると、表示部102及び103の表示色は互いに異なる色へと変化し、その結果、表示部102及び103の互いからの判別が可能となる。
図12は、図1乃至図3に示す光学素子が表示する像の更に他の例を示す斜視図である。
図12には、図11に示す状態において、光学素子10と偏光フィルム50とを重ねたまま、その法線の周りで90°回転させた場合に観察可能な像を描いている。観察方向を斜めとしたまま、光学素子10を偏光フィルム50と共にその法線の周りで90°回転させると、表示部102と表示部103の間で表示色が入れ替わる。なお、図12を参照しながら説明した色変化は、図11に示す状態において、光学素子10のみを法線の周りで90°回転させた場合にも生じる。
このように、図1乃至図3に示す光学素子10が表示する像は、以下に例示するように、観察条件に応じて多様に変化する。
・表示部102及び103は、偏光フィルム50なしで法線方向から観察した場合に、互いに等しい色を表示する。
・表示部102及び103は、偏光フィルム50なしで法線方向から観察した場合と、偏光フィルム50なしで斜め方向から観察した場合とで同じ色を表示する。
・表示部102及び103は、偏光フィルム50を介して法線方向から観察した場合に、互いにほぼ等しい色を表示する。
・表示部102及び103は、偏光フィルム50を介して斜め方向から観察した場合に、互いに異なる色を表示する。
・表示部102及び103は、偏光フィルム50を介して法線方向から観察した場合と、偏光フィルムを介して斜め方向から観察した場合とで異なる色を表示する。
・表示部102及び103は、偏光フィルム50の位置及び方位を固定し、光学素子10をその法線の周りで回転させながら偏光フィルム50を介して斜め方向から観察した場合に色変化を生じる。
・表示部102及び103は、光学素子10の位置及び方位を固定し、偏光フィルム50をその法線の周りで回転させながら、これを介して斜め方向から観察した場合に色変化を生じる。
・表示部102及び103は、偏光フィルム50の位置及び方位を固定し、光学素子10をその法線の周りで回転させながら、偏光フィルム50を介して斜め方向から観察した場合に、表示色が入れ替わる。
・表示部102及び103は、光学素子10と偏光フィルム50との相対的な配置を固定し、それらをその法線の周りで回転させながら、偏光フィルム50を介して斜め方向から観察した場合に、表示色が入れ替わる。
・表示部104は、偏光フィルム50なしで法線方向から観察した場合に、表示部102及び103と同じ色を表示する。
・表示部104は、偏光フィルム50なしで法線方向から観察した場合と、偏光フィルム50なしで斜め方向から観察した場合とで同じ色を表示する。
・表示部104は、偏光フィルム50なしで光学素子10をその法線の周りで回転させながら斜め方向から観察した場合に色変化を生じない。
・表示部104は、偏光フィルム50をその法線の周りで回転させながら、これを介して斜め方向から観察した場合に色変化を生じる。
・表示部101は、偏光フィルム50なしで観察した場合と、偏光フィルム50を介して観察した場合のいずれにおいても、観察角度に応じて色及び明るさが変化しない。
・表示部101は、偏光フィルム50をその法線の周りで回転させながら、これを介して斜め方向から観察した場合に、色変化を生じない。
上記のように、図1乃至図3に示す光学素子10が表示する像は観察条件に応じて多様に変化する。そして、この光学素子10は、有色パターン層16を設けているため、偏光フィルム50なしで観察した場合にも像を表示する。従って、この光学素子10は、優れた偽造防止効果、装飾効果及び/又は美的効果を提供する。
例えば、この光学素子10とこれを支持した物品とを含んだラベル付き物品を真正品とした場合、真正であるか否かが未知の物品が上述した特徴の1つ以上を示さないときには、その物品は非真正品であると判断することができる。即ち、真正であるか否かが未知の物品を真正品と非真正品との間で判別することができる。従って、例えば、有価証券、銀行券、身分証明書などの証明書、及びクレジットカードなどの印刷物や美術品などの高級品の偽造を防止又は抑制することができる。また、この光学素子10と偏光フィルム50とを含んだ光学キットは、先の真偽判定に利用可能であるのに加え、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
この光学素子10には、後で説明するように、偏光フィルム50を介して観察した場合に又は肉眼で観察した場合に、表示部104と表示部102乃至103の一部との組み合わせが1つの像、例えば、文字、文字列、記号、図形又はそれらの組み合わせを表示する構成を採用してもよい。こうすると、より複雑な視覚効果を達成することができ、より優れた偽造防止効果、装飾効果及び/又は美的効果を実現することができる。
また、有色パターン層16に光学可変インキを使用すると、偏光フィルムを介して斜め方向から観察したときに、表示部102及び103だけでなく、表示部101でも観察角度に応じた色変化を生じさせることができる。従って、この場合も、より複雑な視覚効果を達成することができ、より優れた偽造防止効果、装飾効果及び/又は美的効果を実現することができる。
次に、本発明の第2態様について説明する。
図13は、本発明の第2態様に係る光学素子を概略的に示す平面図である。図14は、図13に示す光学素子のXIV―XIV線に沿った断面図である。
この光学素子10は、以下の構成を採用したこと以外は、図1乃至図3を参照しながら説明した光学素子10と同様の構成を有している。即ち、この光学素子10では、液晶層14は、液晶部分142の代わりに液晶部分145を含んでいる。液晶部分145は、部分142と比較してより厚い。また、液晶部分145の前面には、液晶部分143の前面に設けられているのと同様の溝、即ち、長さ方向がY方向に平行であり、X方向に配列した複数の溝が設けられている。そして、液晶部分145では、メソゲンはY方向に配向している。なお、図13及び図14において参照符号105を付している部分は、この光学素子10のうち液晶部分145に対応した部分である。
この光学素子10は、肉眼で観察した場合には、図1を参照しながら説明したのと同様の像を表示する。但し、この光学素子10は、偏光子を介して観察した場合に、図1乃至図3を参照しながら説明した光学素子10とは異なる像を表示する。
図15は、図13及び図14に示す光学素子と直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な像の一例を概略的に示す平面図である。図16は、図13及び図14に示す光学素子が表示する像の他の例を示す斜視図である。図17は、図13及び図14に示す光学素子が表示する像の更に他の例を示す斜視図である。
図15乃至図17では、図13及び図14に示す光学素子10と吸収型の直線偏光フィルム50とを、偏光フィルム50側から光学素子10を見た場合に、偏光フィルム50の透過軸がX方向に対して時計回りに45°の角度を為すように重ねている。このような配置を採用し、これを正面から観察すると、図15に示すように、表示部101及び103乃至105は互いからの判別が容易である。これについて、より詳細に説明する。なお、表示部101及び104は、図10を参照しながら説明した条件のもとで観察した場合と同じ色に見えるので、ここでは説明を省略する。
等式(1)及び(2)を用いた説明から明らかなように、光学素子10と偏光フィルム50とを重ね、これらを正面から観察したときに表示部103及び105が表示する色は、液晶部分143及び145の厚さdに依存する。液晶部分143と液晶部分145とは厚さが異なっているので、表示部103及び105は異なる色を表示する。例えば、表示部103は緑色に見え、表示部105は黄色に見える。このように、光学素子10に偏光フィルム50を重ねて正面から観察した場合、表示部103及び105は、異なる色を表示する。
また、図16に示すように、図15に示す状態において観察方向をX方向に垂直な面内で傾けると、表示部105では、表示部103と同様に、実効的な膜厚d’の変化に起因した色変化を生じる。即ち、表示部105は、図1乃至図3に示す光学素子10の表示部102とは異なる色変化を生じる。
そして、図17に示すように、図16に示す状態において光学素子10と偏光フィルム50とを重ねたままその法線の周りで90°回転させると、表示部105では、表示部103と同様に、実効的な膜厚d’の変化と実効的な複屈折Δn’の変化とに起因した色変化を生じる。但し、表示部105と表示部103とでは、実際の膜厚dが異なっている。従って、表示部105は、図1乃至図3に示す光学素子10の表示部102とは異なる色変化を生じる。
即ち、この光学素子10は、図1乃至図3を参照しながら説明した光学素子10とは異なり、以下の特徴を有していない。
・表示部105及び103は、偏光フィルム50を介して法線方向から観察した場合に、互いにほぼ同じ色を表示する。
・表示部105及び103は、偏光フィルム50の位置及び方位を固定し、光学素子10をその法線の周りで回転させながら、偏光フィルム50を介して斜め方向から観察した場合に、表示色が入れ替わる。
・表示部105及び103は、光学素子10と偏光フィルム50との相対的な配置を固定し、それらをその法線の周りで回転させながら、偏光フィルム50を介して斜め方向から観察した場合に、表示色が入れ替わる。
その代わりに、この光学素子10は、以下の特徴を有している。
・表示部105及び103は、偏光フィルム50を介して法線方向から観察した場合に、異なる色を表示する。
・表示部105及び103は、偏光フィルム50の位置及び方位を固定し、光学素子10をその法線の周りで回転させながら、偏光フィルム50を介して斜め方向から観察した場合に、互いに異なる色を表示しながら色変化を生じる。
・表示部105及び103は、光学素子10と偏光フィルム50との相対的な位置を固定し、偏光フィルム50をその法線の周りで回転させながら、これを介して斜め方向から観察した場合に、互いに異なる色を表示しながら色変化を生じる。
従って、この光学素子10も、図1乃至図3を参照しながら説明した光学素子10と同様に、例えば、優れた偽造防止効果、装飾効果及び又は美的効果を提供する。それゆえ、この光学素子10とこれを支持した印刷物とを含んだラベル付き物品を真正品とした場合、真正であるか否かが未知の物品が上述した特徴の1つ以上を示さないときには、その物品は非真正品であると判断することができる。即ち、真正であるか否かが未知の物品を真正品と非真正品との間で判別することができる。また、この光学素子10と偏光フィルム50とを含む光学キットは、先の真偽判定に利用可能であるのに加え、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
液晶部分143と液晶部分145とで厚さを異ならしめる場合、それらの厚さの差は、例えば、0.1μm乃至5μmの範囲内とする。この差が小さいと、偏光フィルム50を介して観察した場合に、表示部105と表示部103とを互いから判別することが難しくなる。この差が大きいと、より厚い液晶部分において、高い秩序度でメソゲンを配向させることが難しくなる。その結果、偏光フィルム50を介して観察した場合に、設計通りの色を表示させることが難しくなる。
次に、本発明の第3態様について説明する。
図18は、本発明の第3態様に係る光学素子を概略的に示す平面図である。
この光学素子10は、以下の構成を採用したこと以外は、図1乃至図3を参照しながら説明した光学素子10と同様の構成を有している。即ち、この光学素子10では、表示部103を省略している。そして、この光学素子10は、偏光子を使用する特定の条件のもとで観察した場合に、表示部101及び102が同じ色を表示するように設計している。例えば、有色パターン層16の透過スペクトル及び反射スペクトル、液晶部分142におけるメソゲンの配向方向、液晶部分142の膜厚、並びに反射層12の反射率及び光散乱能などを最適化することにより、偏光子を使用する特定の条件のもとで観察した場合に、表示部101及び102が同じ色を表示するようにしている。
この光学素子10は、肉眼で観察した場合には、表示部101に対応した像を表示する。そして、偏光子を使用する特定の条件のもとで観察した場合には、以下に説明するように、表示部101と表示部102との組み合わせに対応した像を表示する。
図19は、図18に示す光学素子と直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な像の一例を概略的に示す平面図である。
図19では、図18に示す光学素子10と吸収型の直線偏光フィルム50とを、偏光フィルム50側から光学素子10を見た場合に、偏光フィルム50の透過軸がX方向に対して時計回りに45°の角度を為すように重ねている。このような配置を採用し、これを正面から観察すると、表示部102は着色して見える。表示部101の色と表示部102の色とが同じであれば、図19に示すように、表示部101と表示部102とを互いから識別することが困難となる。逆に言えば、表示部101と表示部102とを1つの表示部として見ることが容易になる。
従って、肉眼で観察した場合には、図18に示すように文字「P」を表示させ、偏光子を使用する特定の条件のもとで観察した場合にのみ図19に示すように文字「B」を表示させることができる。即ち、表示部101が構成している可視像と表示部102が構成している潜像とで1つの情報を表示させることができる。
この情報は、光学素子10を肉眼で観察した場合には読み取ることはできない。そして、偏光フィルム50を使用した場合であっても、特定の条件のもとで観察しない限り、表示部101と表示部102とが同じ色に見えることはない。従って、この情報は、不正に読み取られ難い。
上述した光学素子10には、様々な変形が可能である。
例えば、反射層12として、微細な凹凸構造が設けられた金属反射面を有する層を使用してもよい。例えば、基材11の前面に、微細な凹凸構造を設けておく。なお、この場合、基材11は光透過性を有していてもよく、有していなくてもよい。そして、基材11の前面上に、例えば真空蒸着法やスパッタリング法などの気相堆積法により金属又は合金からなる層を形成する。金属又は合金としては、例えば、アルミニウム、銀、ニッケル、クロム又はそれらの合金を使用することができる。以上のようにして、反射層12を得る。このようにして得られる反射層12は、基材11の前面に設けられた微細な凹凸構造に由来した凹凸構造を前面に含んでいるため、光散乱性を有している。
反射層12は、前面に微細な凹凸構造が設けられた1層又は多層の誘電体膜であってもよい。反射層12として、例えば、硫化亜鉛からなる単層の誘電体膜を使用した場合、肉眼で光学素子10を観察したときに反射層12の背景の色を知覚することができる。また、偏光子を介して光学素子10を観察したときには、液晶層12が与える視覚効果に、反射層12の背景の色が与える視覚効果を加えることができる。反射層12として多層誘電体膜を使用した場合には、光学素子10に波長選択性を与えることができる。従って、反射層12として金属蒸着層や単層の誘電体膜を使用した場合とは異なる視覚効果を得ることができる。多層誘電体膜は、基材11上に、例えば、硫化亜鉛などの高屈折率材料と、フッ化マグネシウムなどの低屈折率材料とを交互に蒸着することによって得られる。
光学素子10は、以下に説明する保護層や粘着層を更に含んでいてもよい。
図20は、図1乃至図3に示す光学素子の一変形例を示す断面図である。
図20に示す光学素子10は、有色パターン層16を被覆した保護層17を更に含んでいること以外は、図1乃至図3を参照しながら説明した光学素子10と同様の構造を有している。保護層17を設けると、液晶層15などの損傷や光劣化を生じ難くすることができ、光学素子10が表示する像の劣化を抑制することができる。加えて、有色パターン層16の剥がれ等を防止することができる。
保護層17の材料としては、例えば、耐傷性に優れたハードコート材料を使用することができる。或いは、保護層17の材料としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂及びポリイミド樹脂などの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は紫外線若しくは電子線硬化樹脂を、単独で又は混合して用いることができる。これら樹脂には、耐摩擦性等を付与するために、ポリエチレンワッス、カルナバワックス及びシリコンワックス等のワックス類、炭酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、シリカ、アルミナ及びタルク等の体質顔料、又はシリコーン油脂等の油脂類を、樹脂の透明性を損なわない範囲で添加することができる。保護層17は、無色透明であってもよく、有色透明であってもよい。
図21は、図1乃至図3に示す光学素子の他の変形例を示す断面図である。
図21に示す光学素子10は、基材11の裏面を被覆した粘着層18を更に含んでいること以外は、図20を参照しながら説明した光学素子10と同様の構造を有している。この光学素子10は、物品に貼り付けて使用する用途に適している。なお、粘着層18は、剥離紙で被覆してもよい。
偏光子として、偏光フィルム50を使用する代わりに、板状の偏光子などの他の形態の偏光子を使用してもよい。また、直線偏光子の代わりに、円偏光子又は楕円偏光子を使用してもよい。この場合、直線偏光子を利用した場合とは異なる色変化を観察できる。従って、より複雑な視覚効果が得られる。
10…光学素子、11…基材、12…反射層、13…中間層、14…液晶層、15…アンカー層、16…有色パターン層、17…保護層、18…粘着層、20…中間製品、21…基材、22…配向層、50…偏光フィルム、142…液晶部分、143…液晶部分、144…液晶部分、101…表示部、102…表示部、103…表示部、104…表示部、105…表示部、A2…領域、A3…領域、A4…領域。