以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様または類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
図1は、本発明の第1実施形態のセキュリティデバイスを概略的に示す平面図である。図2は、図1に示すセキュリティデバイスのII−II線に沿った概略断面図である。図3は、図1に示すセキュリティデバイスのIII−III線に沿った概略断面図である。図4(1)、(2)、(3)および(4)は、図1に示すセキュリティデバイスの凹部形成領域に採用可能な構造の例を示す概略平面図である。図5は、図1に示すセキュリティデバイスの固体液晶層が含み得る液晶分子の一例を示す概略図である。
このセキュリティデバイス10は、真正品であることが確認されるべき物品に支持させる。
セキュリティデバイス10は、基材1と反射層2と凹部形成層3と液晶層4とを含んでおり、これらはこの順で積層されている。セキュリティデバイス10の前面は、液晶層4側の面である。
基材1は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。基材1の前面は、微細な凹凸が設けられている。基材1は、光透過性を有していてもよく、有していなくてもよい。
反射層2は、例えば、アルミニウム蒸着層などの金属蒸着層である。反射層2の前面は、基材1の前面の構造を反映して微細な凹凸構造を有している。反射層2は、前面の微細な凹凸構造により、入射光を様々な方向に乱反射する。この反射光を散乱反射光と呼ぶ。
白色光を照射して反射層2を観察した場合、その前面で様々な光源からの光が乱反射するので、観察者はそれらの散乱反射光を同時に知覚する。それにより、反射層2は銀白色に見える。なお、ここで白色光とは、可視領域内の全ての波長の非偏光からなる光であるとする。
凹部形成層3は、光透過性である。また、凹部形成層3は、前面の一部に複数の溝が設けられている。これら複数の溝は、長手方向が第1方向100に揃い、第1方向100と交差する方向に配列している。凹部形成層3の前面のうち、上記複数の溝が形成された領域を凹部形成領域31と呼ぶ。
凹部形成領域31には、様々な構造を採用することができる。例えば、図4(1)に示すように、凹部形成領域31には、各々が凹部形成領域31の一端から他端まで延びた複数の溝を互いに平行におよび等間隔で並べた構造を採用することができる。
これら溝は、図4(2)に示すように、互いに平行でなくてもよい。ただし、これらの溝が平行に近いほど、凹部形成領域31上に形成する液晶層4が含んだ液晶分子またはそれらのメソゲン基の長軸が揃いやすくなる。これらの溝の任意の2つがなす角度は、例えば、5°以下とし、好ましくは3°以下とする。
各溝は、凹部形成領域31の一端から他端まで延びていなくてもよい。また、溝の長さは、互いに等しくてもよく、互いに異なっていてもよい。また、長さ方向に隣り合う溝間の距離は均一であってもよく、不均一であってもよい。さらに、幅方向に隣り合う溝間の距離は均一であってもよく、不均一であってもよい。例えば、図4(3)に示すように、各々が凹部形成領域31の寸法と比較してより短くかつ互いに長さが等しい複数の溝を並べてもよい。あるいは、図4(4)に示すように、様々な長さの複数の溝を凹部形成領域31にランダムに並べてもよい。
なお、図4(1)ないし(3)に示す構造を採用した場合、溝をほぼ平行としかつ溝のピッチを適宜設定することなどにより、これら溝で回折格子を構成することができる。また、例えば、図4(3)に示す構造を採用した場合、凹部形成層3のうち凹部形成領域31に対応した部分を、溝に垂直な面内での拡散能が凹部形成領域31に垂直でありかつ溝に平行な面内での拡散能と比較してより大きい一方向性拡散層とすることができる。以下、一方向性拡散性を与える溝のパターンを一方向性拡散パターンと呼ぶ。
液晶層4は、例えば、ネマチック液晶材料からなる固体液晶層である。固体液晶層は、流動性を有する液晶材料を非流動化してなる。固体液晶層は、例えば、流動性を有する重合性液晶材料を紫外線または熱により硬化させてなる高分子液晶層である。例えば、光重合性を有するネマチック液晶材料を凹部形成層3上に塗布し、液晶分子またはそれらのメソゲン基の長軸を揃えた後、塗布した液晶材料に紫外線を照射して重合させることで、液晶分子またはそれらのメソゲン基の長軸の向きが固定された液晶層4を得ることができる。液晶層4のうち凹部形成領域31上に形成された部分を第1液晶部分41と呼び、液晶層4の第1液晶部分41以外の部分を第2液晶部分42と呼ぶ。
第1液晶部分41および第2液晶部分42の各々では、液晶分子またはそれらのメソゲン基の長軸が揃っている。ここでは、一例として、第1液晶部分41は図5に示すように分子の長軸が揃った液晶分子400を含み、第2液晶部分42は第1液晶部分41が含んでいるのと同一の液晶分子400を含んでいることとする。ここで、第1方向100と第2方向200とに対して垂直な方向,すなわち、セキュリティデバイス10の主面に垂直な方向,を第3方向300と呼ぶ。
第1凹部形成領域31の溝は、その近傍の液晶分子400を、それらの長軸が凹部形成領域31の溝に沿うように並べる。したがって、第1液晶部分41では、液晶分子400の長軸は、凹部形成領域13に設けられた溝に沿う方向,すなわち、第1方向100,に揃っている。複数の液晶分子の長軸の方向が揃っていることを「配向している」といい、配向している方向を「配向方向」と呼ぶ。
液晶分子400からなる層は、複屈折性を有している。第1液晶部分41では液晶分子400は第1方向100に配向しているので、その第1方向100についての屈折率は異常光線屈折率neであり、第1方向と直交する方向,すなわち、第2方向200,についての屈折率は常光線屈折率noである。この場合では、屈折率neは屈折率noより大きいので、液晶分子400の遅相軸OD41は第1方向100と平行であり、進相軸(図示せず)は第2方向200と平行である。
第1液晶部分41に偏光面(電場ベクトルの振動面)が進相軸に対して斜めの直線偏光が入射した場合を考えると、第1液晶部分41が射出する光は、偏光面が遅相軸OD41に平行な第1成分と、偏光面が進相軸に平行でありかつ第1直線偏光から位相が進んだ第2成分とに分けて考えることができる。第1液晶部分41が第1成分と第2成分とに与える位相差は、屈折率neと、屈折率noと、光の波長とに依存する。
第2液晶部分42では、液晶分子400を、第1方向100と交差する方向に配向させる。ここでは、一例として、第2液晶部分42では、液晶分子400は、第1方向100と直交する方向に配向していることとする。それゆえ、第2液晶部分42は、第1液晶部分41の遅相軸OD41に垂直な遅相軸OD42と、この遅相軸OD42と直交する進相軸(図示せず)とを有している。
第2液晶部分42が含んだ液晶分子は、例えば、液晶層42を形成する前に、凹部形成層3の前面のうち凹部形成領域31以外の領域32にラビング処理などの配向処理を行うことで配向させることができる。あるいは、第2液晶部分42が含んだ液晶分子は、方向OD42に長手方向が揃った複数の溝を領域32に設けることで配向させることもできる。ここでは、一例として、方向OD42に長手方向が揃った複数の溝を領域32に設けることとする。
次に、このセキュリティデバイス10に白色光を照射し、これを肉眼で観察した場合に見える画像について図面を参照しながら説明する。なお、セキュリティデバイス10の前面のうち、第1液晶部分41に対応した領域を第1表示領域11と呼び、第2液晶部分42に対応した領域を第2表示領域12と呼ぶ。
図6(1)は、参考例のセキュリティデバイスに白色光を照射した場合の光反射の一例を示す概略図である。図6(2)は、図1ないし図3に示すセキュリティデバイスに白色光を照射した場合の光反射の一例を示す概略図である。
図6(1)に示すセキュリティデバイスは、基材1bの前面と反射層2bの前面とが微細な凹凸構造を有していないこと以外は、図1ないし図3に示すセキュリティデバイス10と同様である。なお、図6(1)および図6(2)に示すセキュリティデバイスでは、凹部形成層3の前面に設けられた複数の溝は回折格子を形成している。
液晶層4に光源Aから白色光を照射すると、液晶層4は、この白色光を透過させる。液晶層4を透過した光は、凹部形成層3の前面で回折されて、凹部形成層3と反射層2との界面Bで反射される。反射層2の前面は微細な凹凸構造を有しているので、この反射光は散乱反射光である。この反射光は、凹部形成層3の前面で再度回折されて液晶層4を透過する。
反射層の前面が入射光を乱反射しない場合,すなわち、図6(1)の場合,では、凹部形成層3の前面で回折された光は、分光された状態を保ったままそれぞれ反射層2bで反射される。反射光は復路でも凹部形成層3に設けられている溝により回折され、波長に応じて異なる角度で液晶層4を透過する。したがって、位置Cにいる観察者は、セキュリティデバイス10の前面が虹色に見える。これを以下、「回折光が見える」という。凹部形成層3に形成された溝の方位やピッチ等が異なれば、観察者が知覚する光のスペクトルも異なるので、観察者は凹部形成層3に設けられた溝パターンの違いによる画像を認識することができる。すなわち、観察者は第1表示領域11と第2表示領域12とを互いから判別することができる。
これに対し、反射層の前面が入射光を乱反射する場合,すなわち、図6(2)の場合,は、照射光が往路で回折されて波長に応じて分光されても、これら光は、光散乱性反射層2で反射される際に散乱されて散乱反射光となり、復路で再度回折する際に複数の波長成分が混ざり合う。つまり、位置Cにいる観察者は、理論上、光源Aからセキュリティデバイス10に照射された光の全波長成分を観察することになる。また、このセキュリティデバイス10に照射された光成分は、液晶層4を透過する際にいくらかの位相差(リターデイション)を与えられるが、人間の目ではこの位相差を知覚することはできない。したがって、凹部形成層3に設けられた複数の溝の向きや構造にかかわらず、セキュリティデバイス10の前面全体が同じように銀白色に見え、第1表示領域11と第2表示領域12との違いは、その境界も含めて認識できない。すなわち、第1表示領域11と第2表示領域12とは潜像を形成している。なお、反射層2は等方的に光を乱反射するので、この潜像は、セキュリティデバイス10に対して観察方向がなす方位および角度を変化させても可視化しない。すなわち、この潜像は、セキュリティデバイス10に対する視点位置を変化させても可視化しない。
次に、直線偏光子を介してセキュリティデバイス10を観察した場合に見える画像について説明する。ここでは、一例として、直線偏光子として直線偏光フィルムを使用することとする。
図7は、図1ないし図3に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な画像の一例を概略的に示す平面図である。図8は、図1ないし図3に示すセキュリティデバイスの第1液晶部分における光透過の一例を模式的に示す図である。図9は、図1ないし図3に示すセキュリティデバイスの第2液晶部分における光透過の一例を模式的に示す図である。図10は、図1ないし図3に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な画像の他の例を概略的に示す斜視図である。図11は、図1ないし図3に示すセキュリティデバイスの第1液晶部分における光透過の他の例を模式的に示す図である。図12は、図1ないし図3に示すセキュリティデバイスの第2液晶部分における光透過の他の例を模式的に示す図である。図13は、図1ないし図3に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な画像のさらに他の例を概略的に示す斜視図である。
直線偏光フィルム50は、例えば、吸収型の偏光フィルムである。この場合、直線偏光フィルム50は、その透過軸OPと平行な偏光面を持つ直線偏光は透過させ、透過軸OPと直交する偏光面を持つ直線偏光を吸収する。図7では、セキュリティデバイス10と直線偏光フィルム50とを、直線偏光フィルム50の光透過軸OPが第1液晶部分41の遅相軸OD41と45°の角度をなすように配置している。
セキュリティデバイス10と直線偏光フィルム50とを図7のように重ね、白色光を照射し、これらを略垂直方向から観察すると、第1表示領域11と第2表示領域12は、互いに識別可能であるが、ほぼ同じ色に見える。この理由を以下に説明する。
直線偏光フィルム50に入射し、これを透過した直線偏光は、液晶層4および凹部形成層3を透過して、凹部形成層3と反射層2との界面で反射される。反射層2の前面は微細な凹凸構造を有しているので、この反射光は散乱反射光である。この反射光は、凹部形成層3および液晶層4を透過する。
液晶層4は、凹部形成層3に設けられた複数の溝に沿って液晶分子が配向しているため、光学的に異方性を有しており、複屈折性を示す。従って、直線偏光フィルム50から射出され液晶層4に入射した直線偏光は、液晶層4を透過することにより位相差を与えられ、その波長により円偏光または楕円偏光となる。
この円偏光または楕円偏光は、その偏光性を保ったまま反射層2で反射され、液晶層4に再度入射し、透過することで、その直線偏光成分に位相差が与えられる。
そして、直線偏光フィルム50を透過できる成分,すなわち、光透過軸OPと平行な偏光面を有する直線偏光成分,のみがセキュリティデバイス10から射出し、観察者に届く。
例えば、理論上、セキュリティデバイス10が直線偏光フィルム50に向けて放出する光のうち、液晶層4を往路および復路で透過することによりπ/2の位相差が与えられた特定波長の光(液晶層4を1回のみ透過することによって4分の1波長の位相差が与えられる光)は、直線偏光フィルム50の光透過軸OPと直交する偏光面を有する直線偏光であるため、この直線偏光フィルムを透過できない。
リターデイションReは、下記式(1)から明らかなように、液晶層4の膜厚dと複屈折性Δnとに依存する。
Re=Δn×d (1)
ここで、Δn=ne−noである。
図8(1)に示すように、neは液晶分子400の配向方向についての屈折率,すなわち、異常光線屈折率,であり、noは液晶分子400の配向方向と直交する短軸方向についての屈折率,すなわち、常光線屈折率,である。
液晶層を一対の直線偏光フィルムで挟んだ場合、I0を入射光の強度とし、Iを透過光の強度とすると、強度Iは、下記式(2)で表すことができる。
I=I0×sin2(Re×π/λ) (2)
式(2)から明らかなように、リターデイションReが変化すると、透過光のスペクトルが変化する。
この関係は、透過光が反射され液晶層を往復した場合も同じである。
このように、直線偏光フィルムを透過する光量は波長ごとに異なるので、セキュリティデバイス10の前面は着色して観察される。
ここで、第1表示領域11に対応した第1液晶部分41の液晶分子配向方向と第2表示領域12に対応した第2液晶部分42の液晶分子配向方向とは互いに直交している。そして、第1液晶部分41の遅相軸OD41と直線偏光フィルム50の透過軸OPとが為す角度は、第2液晶部分42の遅相軸OD42と直線偏光フィルム50の透過軸OPとが為す角度と等しい。
すなわち、直線偏光フィルム50を介してセキュリティデバイス10を略垂直方向から観察した場合、直線偏光フィルム50からセキュリティデバイス10へ向けて放出された直線偏光のうち、第1液晶部分41に入射した光と、第2液晶部分42に入射した光とは、偏光面に対して遅相軸が為す角度が互いに等しくかつ膜厚が互いに等しい液晶層を往復で透過することになる。直線偏光に対して与えられるリターデイションReは、先に述べたように液晶層の膜厚,すなわち、光路長,と複屈折性Δnとによって定まる。第3方向300に進行する直線偏光を考えた場合、第1液晶部分41と第2液晶部分42とは、光路長dが互いに等しく、図8および図9から明らかなように複屈折性Δnが互いに等しい。したがって、直線偏光フィルム50を透過する第1液晶部分41からの光と、直線偏光フィルム50を透過する第2液晶部分42からの光とは、波長および光量が互いに等しい。直線偏光フィルム50を透過する第1液晶部分41からの光と、直線偏光フィルム50を透過する第2液晶部分42からの光との間には位相差を生じるが、人間の目はこの位相差を知覚できない。それゆえ、第1表示領域11および第2表示領域12は同じ明るさの同じ色に見える。
なお、このとき、理論的には、第1表示領域11と第2表示領域12とが形成している潜像が可視化することはない。しかしながら、実際には、偏光子の精度や凹部形成層3に設けられた複数の溝の精度によって、透過光の波長および光量に違いが現れ、互いの領域を識別可能となる。
セキュリティデバイス10と直線偏光フィルム50とを図7を参照しながら説明したのと同様に重ね、これらを図10に示すように斜め方向から観察すると、第1表示領域11および第2表示領域12は、略垂直方向から観察した色とはそれぞれ異なる色に変化し、互いからの識別が容易になる。例えば、略垂直方向から観察した場合は第1表示領域11と第2表示領域12はともにオレンジ色であったものが、第1表示領域11は赤色に見え、第2表示領域は緑色に見える。この理由を以下に説明する。
直線偏光フィルム50を透過して観察者に届く光の波長およびその光量は、セキュリティデバイス10がこれに入射した光に与える位相差によって決まる。この位相差は、液晶層4の膜厚(光路長)と液晶層4の複屈折性とによって変化する。つまり、直線偏光フィルム50が同一であっても、液晶層4の光路長と複屈折性とが変化すれば、直線偏光フィルム50を透過する光の波長および光量も変化する。
図10に示すように第2方向200に垂直な面内で観察方向を傾けた場合、観察可能な光についての液晶層4の光路長は次のように変化する。
光の入射角をθとすると、液晶層4の光路長d’は、以下のように求められる。
d’=2d/cosθ (3)
入射角θで入射する直線偏光に液晶層4が与えるリターデイションReは、液晶層4の光路長と複屈折性とによって定まる。第1液晶部分41と第2液晶部分42とは膜厚dが同じであるため、観察方向を傾けることにともなう光路長の変化は等しい。一方、第1液晶部分41と第2液晶部分42とでは、観察方向を傾けることにともなう複屈折性の変化が互いに異なる。
観察方向を傾けることにともない、液晶層4に入射する直線偏光の入射角θは大きくなる。第1液晶部分41では、入射角θを大きくすると、図11に示すように、液晶分子の配向方向である第1方向100に光路長が伸びる。このとき、直線偏光が透過する液晶層4の屈折率は、第2方向200についてはnoのままで変化しない。一方、第1方向100についての屈折率は、入射角をゼロから角度θへと変化させるのにともない、異常光線屈折率neからこれとは異なる屈折率n1へと変化する。したがって、第1液晶部分41の複屈折性Δn1は(n1−no)で与えられる。
これと同様に、第2液晶部分42でも、入射角θを大きくすると、図12に示すように、光路長が第1方向100に伸びる。しかし、第2液晶部分42では、第1方向100は液晶分子の配向方向に対して垂直となっている。このとき、直線光線が透過する液晶層の屈折率は、第2方向200についてはneのままで変化しない。一方、第1方向100についての屈折率は、入射角をゼロから角度θへと変化させるのにともない、常光線屈折率noからこれとは異なる屈折率n2へと変化する。したがって、第2液晶部分42の複屈折性Δn2は(ne−n2)で与えられる。
このように、観察方向を傾けると、第1液晶部分41と第2液晶部分42とに複屈折性の相違を生じ、それゆえ、第1液晶部分41が直線偏光に与える位相差と第2液晶部分42が直線偏光に与える位相差とにも相違を生じる。したがって、直線偏光フィルム50を透過する第1液晶部分41からの光と直線偏光フィルム50を透過する第2液晶部分42からの光とは波長および光量が異なり、観察者により観察される色も異なる。
このため、第1表示領域11および第2表示領域12は、異なる色に見える。すなわち、第1表示領域11および第2表示領域12は互いからの識別が可能となり、それらが形成している潜像が可視化する。
図13に示すように、観察角度を一定としたまま、図10に示す状態からセキュリティデバイス10および直線偏光フィルム50をそれら法線の周りで90°回転させると、第1表示領域11は緑色に、第2表示領域12は赤色に変化する。すなわち、第1表示領域11と第2表示領域12とで色が入れ替わる。この理由は、観察方向と直線偏光フィルム50の透過軸OPおよび液晶層4の遅相軸との関係が第1液晶部分41と第2液晶部分42との間で入れ替わり、その結果、それらの間で直線偏光フィルム50を透過するセキュリティデバイス10からの光の波長および光量がそれぞれ入れ替わるためである。
また、観察角度と直線偏光フィルム50の方位とを一定としたまま、図10に示す状態からセキュリティデバイス10だけをその法線の周りで90°回転させても、第1表示領域11は緑色に、第2表示領域12は赤色に変化する。この理由は、観察方向および直線偏光フィルム50の透過軸OPと液晶層4の遅相軸との関係が、第1液晶部分41と第2液晶部分42との間で入れ替わり、その結果、それらの間で直線偏光フィルム50を透過するセキュリティデバイス10からの光の波長および光量が入れ替わるためである。
したがって、このようなセキュリティデバイス10を支持させた物品と偽造品などの非真正品とを肉眼で判別できない場合であっても、直線偏光フィルム50を使用することによりそれらを判別することができる。すなわち、真正であるか否かが未知の物品が、これに直線偏光フィルム50を重ねかつこれらを略垂直方向から第1方向100に傾けた視点から観察した場合に可視化する潜像を含んでいない場合には、その物品は非真正品であると判断できる。
このような表示画像の変化は、セキュリティデバイス10の複写物で再現することはできない。また、セキュリティデバイス10の複製は困難である。
なお、ここでは反射層2が散乱性反射層である場合を例に挙げて説明したが、偏光子を介してセキュリティデバイスを観察する場合にセキュリティデバイスが示す色変化は、反射層2が入射光線の偏光性を保ったまま反射できれば、反射光線が散乱性であるか否か(すなわち、反射層2が鏡面であるか否か)によって違いはない。しかし、反射層2が鏡面である場合は、反射光が散乱されず、回折光が観察者に届くため、潜像の効果を得ることはできない。
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
図14は、本発明の第2実施形態のセキュリティデバイスを概略的に示す平面図である。図15は、図14に示すセキュリティデバイスのXV−XV線に沿った断面図である。図16は、図14に示すセキュリティデバイスのXVI−XVI線に沿った断面図である。図17は、図14に示すセキュリティデバイスのXVII−XVII線に沿った断面図である。
図14ないし図17に示すセキュリティデバイス10は、以下の構成を採用したこと以外は、図1ないし図3に示すセキュリティデバイス10と同様である。すなわち、このセキュリティデバイス10では、複数の溝が設けられている凹部形成層3の前面は、領域33をさらに含んでいる。
領域33は、領域31および32と隣り合っている。領域33は、液晶分子またはメソゲン基を領域31および32とは異なる方向に配向させる。
領域33には、領域32について説明したのと同様の構造を採用することができる。すなわち、領域33には、ラビング処理などの配向処理を施してもよい。あるいは、領域33には、第1方向100に対して斜めの方向に長手方向が揃った複数の溝を設けてもよい。ここでは、一例として、領域33に、第1方向100に対して45°の角度をなす方向OD43に長手方向が揃った複数の溝を設けた構造とする。
液晶層4は、第1液晶部分41および第2液晶部分42に加えて、第3液晶部分43をさらに含んでいる。第3液晶部分43が含んだ液晶分子は、方向OD43に配向している。
次に、このセキュリティデバイス10に自然光を照射し、これを肉眼で観察した場合に見える画像について説明する。なお、このセキュリティデバイス10の前面のうち、第3液晶部分43に対応した領域を第3表示領域13と呼ぶ。
液晶層4に白色光を照射すると、液晶層4は、この白色光を透過させる。液晶層4を透過した光は、図6(2)を参照しながら説明したのと同様、凹部形成層3を透過して、凹部形成層3と反射層2との界面で反射される。反射層2の前面は微細な凹凸構造を有しているので、この反射光は散乱反射光である。この反射光は、凹部形成層3および液晶層4を透過する。
凹部形成層3の前面に設けられた複数の溝が回折格子を形成している場合、凹部形成層3を透過した光は、回折格子によって波長に応じた回折角で回折され、液晶層4を通って観察者に届く。しかし、凹部形成層3の前面で分光される光の成分はもとが散乱光であるため、様々な波長の光が同じ方向に射出されて混ざり合い、結局、分光していない状態に近いものとなる。つまり、理論上、セキュリティデバイス10に入射した光の全波長成分が観察者に届く。また、このセキュリティデバイス10に入射した光線は、液晶層4を透過することにより位相差を与えられるが、人間の目ではこの位相差を知覚することはできない。したがって、白色光を入射させれば、セキュリティデバイス10の前面は銀白色に見えることになる。
このように、凹部形成層3に設けられた複数の溝の向きや構造にかかわらず、セキュリティデバイス10が放出する光は散乱光であるため、セキュリティデバイス10の前面全体が同じように見え、第1表示領域11、第2表示領域12および第3表示領域13の違いは、その境界も含めて認識できない。すなわち、第1表示領域11および第3表示領域13は潜像を形成しており、第2表示領域12および第3表示領域13もまた別の潜像を形成している。なお、反射層2は等方的に光を乱反射するので、この潜像は、セキュリティデバイス10に対して観察方向がなす方位および角度を変化させても可視化しない。すなわち、この潜像は、セキュリティデバイス10に対する視点位置を変化させても可視化しない。
次に、直線偏光子を介してセキュリティデバイス10を観察した場合に見える画像について説明する。ここでは、第1実施形態と同様に、直線偏光子として直線偏光フィルムを使用することとする。
図18は、図14ないし図17に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な画像の一例を概略的に示す平面図である。図19は、図14ないし図17に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な画像の他の例を概略的に示す斜視図である。図20は、図14ないし図17に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な画像のさらに他の例を概略的に示す斜視図である。
図18では、セキュリティデバイス10と直線偏光フィルム50とを直線偏光フィルム50の光透過軸OPが第3液晶部分43の遅相軸OD43と平行になるように配置している。
セキュリティデバイス10と直線偏光フィルム50とを図18のように重ね、白色光を照射し、これらを略垂直方向から観察すると、第1表示領域11および第2表示領域12は、図7を参照しながら説明したのと同様に、互いに識別可能であるがほぼ同じ色に見える。しかし、第3表示領域13は、偏光子を重ねる前と同様に銀白色に見える。第3表示領域13が銀白色に見える理由を以下に説明する。
第3液晶部分43では、液晶分子の長軸は第1方向100および第2方向200の双方に対して45°傾いており、その遅相軸OD43は第1方向100および第2方向200に対して45°の角度をなしている。そして、第3液晶部分43に入射する直線偏光の偏光面は、第3液晶部分43の遅相軸OD43に対して平行である。したがって、第3表示領域13が直線偏光フィルム50に向けて放出する光は、全ての波長で、直線偏光フィルム50の光透過軸OPに対して平行な偏光面を有する直線偏光のみを含んでいる。この光は、直線偏光フィルム50を透過できる。それゆえ、第3表示領域13は銀白色に見える。
このように、直線偏光フィルム50を介してセキュリティデバイス10を略垂直方向から観察した場合、第1表示領域11および第2表示領域12は白色ではないがほぼ同じ色に見え、第3表示領域13は銀白色に見える。
セキュリティデバイス10と直線偏光フィルム50とを図18を参照しながら説明したのと同様に重ね、これらを図19に示すように第2方向200に垂直な面内の斜め方向から観察すると、第1表示領域11および第2表示領域12は、図10を参照しながら説明したのと同様に、図18に示した画像からの色変化を生じる。これに対し、第3表示領域13は、色変化を生じることなく銀白色に見える。すなわち、偏光フィルム50の透過軸OPは第3液晶部分43の遅相軸OD43に対して平行であるので、第3表示領域13が直線偏光フィルム50に向けて放出する全ての光は、直線偏光フィルム50を透過する。したがって、第3表示領域13は、色変化を生じず、銀白色に見える。
図20に示すように、観察角度を一定としたまま、図20に示す状態からセキュリティデバイス10および直線偏光フィルム50をそれら法線の周りで90°回転させると、第1表示領域11と第2表示領域12とで色が入れ替わる。これに対し、第3表示領域13は、色変化を生じずに白色に見える。
このように、第3表示領域13を設けた場合、第3表示領域13を省略した場合と比較してより複雑な視覚効果が得られる。
次に、本発明のさらに他の実施形態について説明する。
図21は、本発明の第3実施形態のセキュリティデバイスを概略的に示す平面図である。図22は、図21に示すセキュリティデバイスのXXII−XXII線に沿った断面図である。
図21および図22に示すセキュリティデバイス10は、以下の構成を採用したこと以外は、図14ないし図17に示したセキュリティデバイス10と同様である。すなわち、このセキュリティデバイス10では、凹部形成層3の前面は、第2凹部形成領域32の代わりに第4凹部形成領域34を含んでいる。第4凹部形成領域34には、長手方向が第1方向100に揃い、第2方向200に配列した複数の溝が設けられている。また、第4凹部形成領域34は、第1凹部形成領域31よりもセキュリティデバイス10の前面側に位置している。
液晶層4は、第2液晶部分42の代わりに第4液晶部分44を含んでいる。第4凹部形成領域34の溝は、その近傍の液晶分子を、それらの長軸が第4凹部形成領域34の溝に沿うように並べる。したがって、第4液晶部分44では、液晶分子は第1方向100に配向している。それゆえ、第4液晶部分44は、第1液晶部分41の遅相軸OD41に対して平行な遅相軸OD44と、この遅相軸OD44と直交する進相軸(図示せず)とを有している。
また、上記の通り、第4凹部形成領域34は、第1凹部形成領域31よりもセキュリティデバイス10の前面側に位置している。これに対応して、第4液晶部分44の膜厚T44は、第1液晶部分41の膜厚T41よりも小さい。例えば、膜厚T41と膜厚T44との差は、0.1ないし5μmである。なお、このセキュリティデバイス10の前面のうち、第4液晶部分44に対応した領域を第4表示領域14と呼ぶ。
液晶層4に白色光を照射すると、液晶層4は、この白色光を透過させる。偏光子を介さない状態で観察した場合では、第1および第2実施形態と同様、凹部形成層3に設けられた複数の溝の向きや構造にかかわらず、セキュリティデバイス10からの射出光は散乱光であるため、セキュリティデバイス10の前面全体が同じように銀白色に見え、第1表示領域11、第3表示領域13および第4表示領域14は、その境界も含めて互いに識別できない。すなわち、第1表示領域11および第3表示領域13は潜像を形成しており、第4表示領域14および第3表示領域13もまた別の潜像を形成している。なお、反射層2は等方的に光を乱反射するので、この潜像は、セキュリティデバイス10に対して観察方向がなす方位および角度を変化させても可視化しない。すなわち、この潜像は、セキュリティデバイス10に対する視点位置を変化させても可視化しない。
次に、直線偏光子を介してセキュリティデバイス10を観察した場合に見える画像について説明する。ここでは、第1実施形態と同様に、直線偏光子として直線偏光フィルムを使用することとする。
図23(1)は、図21および図22に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な画像の一例を概略的に示す平面図である。図23(2)は、図21および図22に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な画像の他の例を概略的に示す斜視図である。
図23(1)および(2)では、セキュリティデバイス10と直線偏光フィルム50とを直線偏光フィルム50の光透過軸OPが第3液晶部分43の遅相軸OD43と平行になるように配置している。
セキュリティデバイス10と直線偏光フィルム50とを図23(1)のように重ね、白色光を照射し、これらを略垂直方向から観察すると、第1表示領域11および第4表示領域14は、異なる色に見え、互いに識別可能である。第3表示領域13は第2実施形態と同様に銀白色に見える。
ここで、第1表示領域11および第4表示領域14が、異なる色に見え、互いに識別可能となる理由を以下に説明する。
直線偏光フィルム50に入射し、これを透過した直線偏光は、液晶層4および凹部形成層3を透過して、凹部形成層3と反射層2との界面で反射され、凹部形成層3および液晶層4を透過して観察者に届く。
第1実施形態と同様に、直線偏光は、液晶層4を透過することにより、波長に応じて異なる位相差を与えられる。したがって、セキュリティデバイス10が直線偏光フィルム50へ向けて放出する光のうち、偏光面が直線偏光フィルム50の光透過軸OPと直交する光成分は、波長に応じた強度分布を有している。これら光成分は直線偏光フィルム50に吸収されるので、直線偏光フィルム50を透過する光量は波長に応じた分布を有している。そのため、セキュリティデバイス10の前面のうち、第1表示領域11と第4表示領域14とは着色して観察される。
ここで、第1表示領域11に対応した第1液晶部分41の液晶分子配向方向と第4表示領域14に対応した第4液晶部分44の液晶分子配向方向とは平行であり、それらの遅相軸OD41およびOD44も平行である。それゆえ、第1液晶部分41の遅相軸OD41と直線偏光フィルム50の透過軸OPとが為す角度は、第4液晶部分44の遅相軸OD44と直線偏光フィルム50の透過軸OPとが為す角度と等しい。
すなわち、直線偏光フィルム50を介してセキュリティデバイス10を略垂直方向から観察した場合、直線偏光フィルム50がセキュリティデバイス10へ向けて放出した直線偏光の偏光面が液晶分子の配向方向に対してなす角度は、第1液晶部分41と第2液晶部分44とで等しい。しかし、第1液晶部分41と第4液晶部分44とは、それらの膜厚が互いに異なる。直線偏光に与えられるリターデイションReは、先に述べたように、液晶層の膜厚(光路長)dと複屈折性Δnとによって定まる。つまり、第1液晶部分41と第4液晶部分42とでは、複屈折性Δnは等しいが、液晶層の膜厚dが異なるため、復路において直線偏光フィルム50を透過する光成分の波長および光量は異なる。それゆえ、第1表示領域11および第4表示領域14は互いに識別可能な異なる色に見える。
このように、液晶層の膜厚を変更することによって、任意の色を観察することが可能なセキュリティデバイスとすることができる。理論的には、例えば、液晶層の膜厚を調節することで、第1表示領域11と第4表示領域14とがほぼ同じ明るさの同じ色に見えるようにすることもできる。
セキュリティデバイス10と直線偏光フィルム50とを図23(1)を参照しながら説明したのと同様に重ね、これらを図23(2)に示すように斜め方向から観察すると、第1表示領域11および第4表示領域14は、略垂直方向から観察した色とはそれぞれ異なる色に変化する。例えば、第1表示領域11はオレンジ色から赤色に変化し、第4表示領域44は、青色から黄色に変化して見える。この理由は、第1実施形態について説明したのと同様に、セキュリティデバイス10を斜め方向から観察することで、液晶層4の光路長が変化し、それにより入射光に対する液晶層の複屈折性が変化したためである。このように、観察方向を傾けることにより、直線偏光が液晶層4を透過することにより与えられる位相差が変化するため、直線偏光フィルムを透過する光成分の波長および光量が変化し、観察者により観察される色も変化することになる。
また、第3表示領域13については、第2実施形態と同様の理由でほぼ銀白色に観察される。
このように、第4表示領域14を設けた場合、第4表示領域を設けない場合と比較してより複雑な視覚効果が得られる。
次に、本発明のさらに他の実施形態について説明する。
図24は、本発明の第4実施形態のセキュリティデバイスを概略的に示す平面図である。図25は、図24に示すセキュリティデバイスのXXV−XXV線に沿った断面図である。
図24および図25に示すセキュリティデバイス10は、以下の構成を採用したこと以外は、図1ないし図3に示したセキュリティデバイス10と同様である。すなわち、このセキュリティデバイス10では、凹部形成層3の前面は、第2凹部形成領域32の代わりに第5領域35を含んでいる。第5領域35の前面は、平坦であり、溝が設けられていない。
液晶層4は、第2液晶部分42の代わりに第5液晶部分45を含んでいる。第5領域35は平坦であるので、その近傍の液晶分子の配向に影響を及ぼさない。
なお、このセキュリティデバイス10の前面のうち、第5液晶部分45に対応した領域を第5表示領域15と呼ぶ。
凹部形成層3の前面に溝が設けられている場合、その上に形成される液晶分子の配向は、溝による影響が大きく、塗布の方向によっては影響を受けない。しかし、凹部形成層3の前面のうち溝が形成されていない領域に液晶層4を形成する場合、液晶層4の形成方法,例えば、液晶材料を一方向に沿って塗布する形成方法,によっては、液晶層4が含んだ液晶分子は多少配向する。このような液晶層に対応する表示領域は、偏光子を介して観察した場合、全くの銀白色ではなく、薄く着色して見える。例えば、図24および図25に示すセキュリティデバイス10において、液晶材料を第2方向200と平行に塗布して液晶層4を形成すると、第5液晶部分45では第2方向200と平行に緩やかに液晶分子が配向し、第5表示領域15は、図1ないし図3に示したセキュリティデバイス10の第2表示領域12と似た挙動を示すようになる。しかし、凹部形成領域に溝を備えている表示領域の着色とは明確に異なるので、偏光子を介して観察することで、これらを互いに識別することができる。
液晶層4に白色光を照射すると、液晶層4は、この白色光を透過させる。セキュリティデバイス10を肉眼で観察した場合、第1ないし第3実施形態と同様、凹部形成層3に設けられた複数の溝の向きや構造にかかわらず、液晶層4から射出された光は散乱光であるため、セキュリティデバイス10の前面全体が同じように銀白色に見え、第1表示領域11と第5表示領域15とは互いに識別できず、その境界も認識できない。すなわち、第1表示領域11と第5表示領域15とは潜像を形成している。なお、反射層2は等方的に光を乱反射するので、この潜像は、セキュリティデバイス10に対して観察方向がなす方位および角度を変化させても可視化しない。すなわち、この潜像は、セキュリティデバイス10に対する視点位置を変化させても可視化しない。
次に、直線偏光子を介してセキュリティデバイス10を観察した場合に見える画像について説明する。ここでは、第1実施形態と同様に、直線偏光子として直線偏光フィルムを使用することとする。
図26は、図24および図25に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な画像の一例を概略的に示す平面図である。図27は、図24および図25に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な画像の他の例を概略的に示す斜視図である。図28は、図24および図25に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な画像のさらに他の例を概略的に示す斜視図である。
図26では、セキュリティデバイス10と直線偏光フィルム50とを、直線偏光フィルム50の光透過軸OPが第1液晶部分41の遅相軸OD41と45°の角度をなすように配置している。
セキュリティデバイス10と直線偏光フィルム50とを図26のように重ね、白色光を照射しながら、これらを略垂直方向から観察すると、第1表示領域11および第5表示領域15は、互いに異なる色に見え、識別可能である。第1表示領域11は、第1実施形態と同様に着色して見える。第5表示領域15は、第2実施形態における第3表示領域と類似して、第1表示領域11と類似した色味であるが薄く見える。
第5表示領域15が薄い色に見える理由を以下に説明する。
直線偏光フィルム50に入射し、これを透過した直線偏光は、液晶層4および凹部形成層3を透過して、凹部形成層3と反射層2との界面で反射され、凹部形成層3および液晶層4を透過して観察者に届く。
第1実施形態と同様に、直線偏光は、液晶層4を透過する際に、波長に応じて異なる位相差を与えられる。したがって、復路においてセキュリティデバイス10が直線偏光フィルム50へ向けて放出する光のうち、偏光面が直線偏光フィルム50の透過軸OPと直交する光成分は、波長に応じた強度分布を有している。これら光成分は直線偏光フィルム50に吸収されてしまうので、直線偏光フィルムを透過する光量は波長に応じた分布を有している。そのために、セキュリティデバイス10の前面のうち、第1表示領域11は着色して観察される。
第5表示領域15に対応した第5液晶部分45では、巨視的に見れば液晶分子が第2方向200に方向に穏やかに配向している。これは、第5液晶部分45の複屈折性が第1液晶部分41と比べて小さいということを意味している。
先に述べたように、複屈折性が異なれば、セキュリティデバイス10が直線偏光フィルム10へ向けて放出する光のうち、直線偏光フィルムを透過する光の波長および光量が変化するため、観察者により観察される色も変化することになる。したがって、直線偏光が液晶層4を透過することにより位相差を与えられ、これによって着色して観察されるという点は第1表示領域11と同じであるが、第5液晶部分45を透過する光が与えられる位相差は第1液晶部分41を透過する光が与えられる位相差に比べて非常に小さい。さらに、液晶分子は完全には一方向に配向していないため、透過する場所によって与えられる位相差にばらつきが生ずる。それゆえ、第5表示領域15は、さまざまな波長の光が混ざり合い、少し白みがかった薄い色に見える。
このように、直線偏光フィルム50を介してセキュリティデバイス10を略垂直方向から観察した場合、第1表示領域11は着色して見え、第5表示領域15は第1実施形態で説明した第2表示領域12に比べて薄い色に見える。
セキュリティデバイス10と直線偏光フィルム50とを図26を参照しながら説明したのと同様に重ね、これらを図27に示すように第2方向200に垂直な面内の斜め方向から観察すると、第1表示領域11および第5表示領域15は、図10を参照しながら説明したのと同様に、図26に示した画像からの色変化を生じる。ただし、第5表示領域15は、色変化を生じるものの、薄い色に見える。
すなわち、第5表示領域では第5液晶部分45が含んでいる液晶分子は巨視的には穏やかに配向しているため、観察角度が変化すると、光路長が変化するのに加え、液晶層4の複屈折性も第1実施形態の第2液晶部分42と同様に変化するが、その複屈折性は小さいので、与えられるリターデイションもわずかである。また、第5液晶部分45は微視的には様々な配向方向の液晶分子を含んでいるので、これが直線偏光に与えるリターデイションにばらつきが生じる。したがって、第5表示領域15は、色変化を生じるものの、薄い色に見える。
また、図27の配置から、観察者の位置を固定し、直線偏光フィルム50とセキュリティデバイス10とを一緒にそれらの法線を軸に90°回転させると、図28に示すように、第1表示領域11は、例えば、赤色から緑色に変化し、第5表示領域15は薄い緑色から薄い赤色に変化する。この理由は、第1表示領域11については第1実施形態と同様に、セキュリティデバイス10へ入射した光の復路において直線偏光フィルム50を透過する波長および光量が入れ替わるためである。
また、視点位置と直線偏光フィルム50の位置とを図27に示す配置のまま固定し、セキュリティデバイス10だけをその法線を軸に90°回転させた場合も、同様の理由により、第1表示領域1は赤色から緑色に変化し、第5表示領域は薄い緑色から薄い赤色に変化する。
ここで、直線偏光フィルム50の透過軸OPを、第1液晶部分41の遅相軸OD41と90°の角度をなすように配置すると、第1表示部分11は、第2実施形態や第3実施形態においてセキュリティデバイスを直線偏光フィルムを介して観察した場合の第3表示領域13と同様に、銀白色に見える。このとき、第5表示領域15は、第5液晶部分45の遅相軸OD45と直線偏光フィルム50の透過軸OPとが平行になるが、第5液晶部分45の液晶分子の配向方向にはばらつきがあるため、完全に着色が消えず、例えば、薄いオレンジ色に見える。
このように、第5表示領域15を設けた場合、第5表示領域を設けない場合と比較してより複雑な視覚効果が得られる。
液晶層4は、互いに膜厚の異なる3つ以上の液晶部分を含んでもよい。その場合、最も厚いものと最も薄いものの膜厚の差は、例えば、0.1μm以上5μm以下とする。膜厚の差が0.1μm以上であると、偏光子を介して観察した場合に表示領域の違いを目視で認識しやすくなる。また、5μm以下であれば、最も液晶層が厚い液晶部分であっても液晶分子が配向しやすく、偏光子を用いて検証した際に、良好な発色を保つことができる。
第1実施形態、第2実施形態または第4実施形態と第3実施形態とは、組み合わせることができる。すなわち、図1ないし図3に示したセキュリティデバイス10、図14ないし図17に示したセキュリティデバイス10または図24および図25に示したセキュリティデバイス10では、液晶層4は、第1液晶部分41、第2液晶部分42、第3液晶部分43および/または第5液晶部分45と、これとは膜厚が異なる液晶部分とを含んでいてもよい。
また、これらセキュリティデバイス10では、反射層2の前面の一部を、微細な凹凸構造を有していない平坦な鏡面としてもよい。この場合、凹部形成層の前面のうち反射層2の鏡面領域に対応した領域に長手方向が揃いかつこの長手方向と交差する方向に配列した複数の溝が設けられていると、反射層2の鏡面領域に対応した表示領域(以下、鏡面表示領域と呼ぶ)は、偏光子を介さずに観察した場合であっても、溝のパターンの違いにより、その他の領域との識別が可能となることがある。これは、これら溝が回折格子を形成している場合、この回折格子によって回折された光が混ざり合うことはなく、それゆえ、回折光を見ることが可能であるからである。
このような鏡面表示領域を備えたセキュリティデバイスを偏光子を介して観察すると、鏡面表示領域は、偏光子を介さない状態で観察した色とは全く異なる色に見える。このときに観察できる色は、第1乃至第4実施形態で説明したのと同様である。すなわち、液晶層4を透過する光は、液晶層4が含んだ液晶分子の配向による複屈折性と液晶層4の光路長とによって決定される位相差を与えられるので、復路で偏光子を透過できる光量は波長に応じた分布を有し、鏡面表示領域は着色して観察される。この見え方は、回折とは別の原理によるものである。
このように、反射層の前面に微細な凹凸が設けられた領域と鏡面をなす領域とを設けると、潜像効果および色変換効果に加えて、回折光による意匠性を付与することができ、さらに複雑な視覚効果を得ることができる。
これらセキュリティデバイス10は、様々な方法で製造することができる。
反射層2は、例えば、基材1上に金属を蒸着することにより形成することができる。
反射層2は、前面に微細な凹凸構造が設けられた一層または多層の誘電体膜であってもよい。
反射層2を、例えば、ZnOからなる一層の誘電体膜とすれば、透明反射層となる。この場合、肉眼でセキュリティデバイス10を観察すれば基材1の色を観察することができる。また、このセキュリティデバイスを偏光子を介して観察すると、基材1の色に加えて、液晶層2と偏光子とによって光量が波長に応じた分布を有している射出光を観察することができる。すなわち、この場合、反射層2が金属薄膜である場合とは異なる視覚効果を得ることができる。
また、反射層2を多層誘電体膜とすれば、セキュリティデバイス10に波長選択性を与えられるため、金属や単層の誘電体膜を反射層とした場合とは異なる視覚効果を得ることができる。多層誘電体膜は、基材1の前面上に、例えば、硫化亜鉛などの高屈折率材料とフッ化マグネシウムなどの低屈折率の材料とを交互に蒸着することによって得られる。
複数の溝が設けられた凹部形成層3は、例えば、感光性樹脂材料に、二光束干渉法を用いてホログラムパターンを記録する方法や、電子ビームによってパターンを描画する方法により形成することができる。あるいは、表面レリーフ型ホログラムの作製のように、微細な線状の凸部を設けた金属型を樹脂に押し付けることで形成することができる。すなわち、所望のパターンで線状の凸部が設けられた原版を、例えば、フィルム上に積層された熱可塑性樹脂に熱をかけながら押し当てる、いわゆる、熱エンボス加工法により、所定の溝が設けられた凹部形成層を大量に得ることができる。また、フィルム等の透明基材に紫外線硬化樹脂を塗布し、これに原版を押し当てながら基材側から紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化させ、その後、原版を取り除くという手順によっても、所定の溝が設けられた凹部形成層を得ることができる。
これらの方法によれば、1つの面内に溝の長手方向が異なる複数の凹部形成領域を形成することができる。また、これらの方法によると、1つの面内に溝の深さ、幅、および/または溝などが異なる複数の凹部形成領域を形成することもできる。
先の原版は、例えば、二光束干渉法を用いてホログラムパターンを記録する方法、電子ビームによってパターンを描画する方法、またはバイトによって切削する方法により得られた母型の電鋳を行うことにより得られる。凹部形成層に上記のような多様性をもたせない場合は、ラビング加工により溝を形成してもよい。
これら溝は、例えば、深さを0.05μm以上1μm以下の範囲とすることができる。また、溝の長さは、溝の幅よりも長ければ液晶分子を配向させることができるため特に制限はないが、0.5μm以上であることが望ましい。溝のピッチは、10μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以下である。溝のピッチは、小さいほうが液晶分子を配向させやすい。これよりピッチが大きい場合は、液晶分子が配向しにくくなる。また、溝のピッチは0.1μm以上が好ましく、より好ましくは0.75μm以上である。
こうして凹部形成層に設けられた複数の溝は、回折格子や一方向性拡散パターン(指向性拡散パターン)を形成していてもよい。
液晶層4は、例えば、光重合性のネマチック液晶材料を凹部形成層3の前面に塗布し、この塗膜を紫外線ランプ等で露光することにより形成することができる。液晶層4の材料としては、このほか、コレステリック液晶材料やスメクチック液晶材料を用いることもできる。
上述したセキュリティデバイス10には、様々な変形が可能である。
液晶層4は、紫外線や物理衝撃から保護するために、光透過性の保護層で被覆されていてもよい。
また、反射層2と凹部形成層3との密着性向上のため、あるいは反射層2の前面に設けられた凹凸が凹部形成層3に影響するのを防ぐために、反射層2と凹部形成層3との間に樹脂層を設けてもよい。
本発明のセキュリティデバイス10の検証には、偏光子として、円偏光子または楕円偏光子を用いてもよい。この場合、直線偏光子を介して観察した場合とは異なる色の変化をするため、より複雑な視覚効果が得られる。
これらセキュリティデバイス10は、物品に支持させ、その物品が真正品であることを確認するためのラベルとして利用することができる。例えば、これらセキュリティデバイス10は、印刷物に支持させることにより、ラベル付き印刷物とすることができる。この印刷物は、例えば、有価証券、銀行券、身分証明書などの証明書、クレジットカードである。
セキュリティデバイス10は、上述した特徴的な視覚効果を有している。したがって、この視覚効果を、真正品であるか否かが未知の物品の真正品と非真正品との間での判別に利用することができる。すなわち、先の視覚効果を確認できない場合は、その物品は非真正品であると判断することができる。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]長手方向が揃いかつ前記長手方向と交差する方向に配列した複数の溝が設けられた凹部形成領域を一方の主面が含んだ光透過性の凹部形成層と、前記一方の主面に支持された固体液晶層と、前記凹部形成層の他方の主面と向き合った光散乱性反射層とを含んだことを特徴とするセキュリティデバイス。
[2]前記一方の主面は、前記凹部形成領域を複数含み、それら凹部形成領域は前記長手方向が互いに異なっていることを特徴とする[1]記載のセキュリティデバイス。
[3]前記固体液晶層は、膜厚が互いに異なる複数の部分を含んだことを特徴とする[1]または[2]記載のセキュリティデバイス。
[4]前記複数の部分のうち最も厚いものと最も薄いものとの膜厚の差は0.1〜5μmであることを特徴とする[3]記載のセキュリティデバイス。
[5]前記光散乱性反射層の前記他方の主面と向き合った面は金属反射面を含んでいることを特徴とする[1]から[4]のいずれか記載のセキュリティデバイス。
[6]前記光散乱性反射層の前記他方の主面と向き合った面は一層または多層の誘電体膜を含んでいることを特徴とする[1]から[4]のいずれか記載のセキュリティデバイス。
[7]前記固体液晶層を被覆した保護層をさらに含んだことを特徴とする[1]から[6]のいずれか記載のセキュリティデバイス。
[8]前記固体液晶層はネマチック液晶材料からなることを特徴とする[1]から[7]のいずれか記載のセキュリティデバイス。
[9]前記凹部形成領域または前記複数の凹部形成領域の各々において、前記複数の溝は、深さが0.05〜1μmであり、0.1〜10μmのピッチで配列していることを特徴とする[1]から[8]のいずれか記載のセキュリティデバイス。
[10]前記凹部形成領域または前記複数の凹部形成領域の各々において、前記複数の溝は回折格子を形成していることを特徴とする[1]から[9]のいずれか記載のセキュリティデバイス。
[11][1]から[10]のいずれか記載のセキュリティデバイスと、これを支持した印刷物とを含んだことを特徴とするラベル付き印刷物。
[12]真正であるか否かが未知の物品を偏光子を用いて真正品と非真正品との間で判別する方法であって、前記真正品は[1]から[10]のいずれか記載のセキュリティデバイスを支持した物品であり、前記真正であるか否かが未知の物品が、前記偏光子なしで前記一方の主面に対して垂直な方向から観察した場合と前記偏光子なしで前記一方の主面に対して傾いた方向から観察した場合とのいずれにおいても可視化せず、前記偏光子を介して前記一方の主面に対して垂直な方向から観察した場合および前記偏光子を介して前記一方の主面に対して傾いた方向から観察した場合には可視化する潜像を含んでいない場合には、前記真正であるか否かが未知の物品は非真正品であると判断することを含んだことを特徴とする判別方法。
[13]前記真正であるか否かが未知の物品が前記潜像を含んでいた場合であって、前記真正であるか否かが未知の物品を前記一方の主面に対して傾いた方向から観察することにより知覚される視覚効果が、この物品を観察する方向を前記一方の主面の法線を軸にして前記物品および前記偏光子に対して相対的に回転させることで変化しない場合には、前記真正であるか未知の物品は非真正品であると判断することをさらに含んだことを特徴とする[12]記載の判別方法。
1…基材、2…反射層、3…凹部形成層、4…液晶層、10…セキュリティデバイス、11…第1表示領域、12…第2表示領域、13…第3表示領域、14…第4表示領域、15…第5表示領域、31…凹部形成領域、32…第2凹部形成領域、33…領域、34…第4凹部形成領域、35…領域、41…第1液晶部分、42…第2液晶部分、43…第3液晶部分、44…第4液晶部分、45…第5液晶部分、50…直線偏光フィルム、100…第1方向、200…第2方向、300…第3方向、400…液晶分子。