JP2009274998A - 遺伝子導入剤及びその製造方法並びに核酸複合体 - Google Patents

遺伝子導入剤及びその製造方法並びに核酸複合体 Download PDF

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Abstract

【課題】遺伝子導入効率がさらに向上した遺伝子導入剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】芳香環に、分岐鎖としてのN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基が3個以上導入された芳香族化合物をイニファターとし、このイニファターの分岐鎖にビニル系モノマーを光照射リビング重合させて分岐型重合体とし、この分岐型重合体の分岐鎖を架橋反応させて架橋反応生成物を得、該架橋反応生成物を分子量分画して得た、前記分岐型重合体とほぼ同等の分子量を有した画分よりなることを特徴とする遺伝子導入剤。
【選択図】図1

Description

本発明は、遺伝子導入剤及びその製造方法に関する。
安全性、品質安定性、製造コストに問題があるウイルスベクターに代わる遺伝子導入技術として、合成高分子ベクター、カチオン性脂質ベクターが研究開発されている。
本出願人らは、合成高分子ベクターとして、ベンゼンなどの芳香環を核としてカチオン性ポリマー鎖が放射状に伸延する分岐構造のベクターが、DNAを高密度で凝縮させて小さな核酸複合体微粒子を形成させ、効率良く細胞へ遺伝子導入できることを見出し、先に特許出願した(下記特許文献1)。この複合体微粒子が細胞膜を透過するメカニズムとしては、カチオン性ポリマー鎖による陽電荷が細胞膜表面の陰電荷と静電的に結合し、エンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれる作用に大きく依存していると考えられる。
WO2004/092388
本発明は、遺伝子導入効率がさらに向上した遺伝子導入剤及びその製造方法と、この遺伝子導入剤を用いた核酸複合体を提供することを目的とする。
本発明(請求項1)の遺伝子導入剤は、芳香環に、分岐鎖としてのN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基が3個以上導入された芳香族化合物をイニファターとし、このイニファターの分岐鎖にビニル系モノマーを光照射リビング重合させて分岐型重合体とし、この分岐型重合体の分岐鎖を架橋反応させて架橋反応生成物を得、該架橋反応生成物を分子量分画して得た、前記分岐型重合体とほぼ同等の分子量を有した画分よりなることを特徴とするものである。
請求項2の遺伝子導入剤は、請求項1において、該遺伝子導入剤の数平均分子量Mと、前記分岐型重合体の数平均分子量Mとの比M/Mが0.8〜1.5であることを特徴とするものである。
請求項3の遺伝子導入剤は、請求項1又は2において、該分岐鎖に光照射することにより、前記分岐鎖を架橋反応させることを特徴とするものである。
請求項4の遺伝子導入剤は、請求項1ないし3のいずれか1項において、該N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基がN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基であることを特徴とするものである。
請求項5の遺伝子導入剤は、請求項3又は4において、前記分岐型重合体をフィルム状に成形して光照射することを特徴とするものである。
請求項6の遺伝子導入剤は、請求項5において、フィルム状の該分岐型重合体を液状エーテルに浸漬させた状態で光照射することにより架橋反応を行うことを特徴とするものである。
請求項7の遺伝子導入剤は、請求項6において、該液状エーテルは、ジエチルエーテル、ジオクチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、ビス(メチルベンジル)エーテル、メチルブチルエーテル、ブチルヘキシルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、及びクラウンエーテルよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするものである。
請求項8の遺伝子導入剤は、請求項1ないし7のいずれか1項において、前記イニファターが、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基が結合していることを特徴とするものである。
請求項9の遺伝子導入剤は、請求項1ないし8のいずれか1項において、前記ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、及び/又は、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートであることを特徴とするものである。
請求項10の遺伝子導入剤は、請求項1ないし9のいずれか1項において、前記分岐型重合体の分岐鎖のN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基に含まれるジチオカルバミル基が架橋点として寄与していることを特徴とするものである。
請求項11の遺伝子導入剤は、請求項1ないし10のいずれか1項において、前記N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基に含まれるジチオカルバミル基に由来する紫外線吸収ピークが実質的に不検出であるか、前記分岐型重合体の該吸収ピークよりも減少していることを特徴とするものである。
本発明(請求項12)の遺伝子導入剤の製造方法は、芳香環に、分岐鎖としてのN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基が3個以上導入された芳香族化合物をイニファターとし、このイニファターの分岐鎖にビニル系モノマーを光照射リビング重合させて分岐型重合体を製造する工程と、得られた分岐型重合体の分岐鎖を架橋反応させて架橋反応生成物を得る工程と、該架橋反応生成物を分子量分画して、前記分岐型重合体とほぼ同等の分子量を有した画分を分取する工程とを有することを特徴とするものである。
本発明(請求項13)の核酸複合体は、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の遺伝子導入剤と核酸とを複合させてなるものである。
本発明(請求項14)の核酸複合体は、請求項12の遺伝子導入剤の製造方法で製造された遺伝子導入剤と核酸とを複合させてなるものである。
本発明の遺伝子導入剤は、N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を有する芳香族化合物をイニファクターとし、これにビニル系モノマーをリビング重合させて合成した、芳香環を核として、分岐鎖が放射状に伸延する分岐型重合体(以下「第1次分岐型重合体」ということがある。)に光を照射するなどして分岐鎖を架橋させて架橋反応生成物を得、この架橋反応生成物から第1次分岐型重合体とほぼ同等の分子量画分を分取して得た合成高分子ベクターであり、高い遺伝子導入活性を示す。
この遺伝子導入剤は、第1次分岐型重合体の末端のN,N−ジ置換ジチオカルバミル基が架橋点として寄与してその第1次分岐型重合体の分岐鎖の途中又はその第1次分岐型重合体の他の分岐鎖の末端に架橋してなる分子内架橋体であると推察されるが、種々の研究の結果、この遺伝子導入剤は、第1次分岐型重合体よりもDNAなどの核酸を高密度に凝縮することができることが認められた。
架橋反応生成物を分子量分画して得られる本発明の遺伝子導入剤の数平均分子量Mは、架橋前の第1次分岐型重合体の数平均分子量Mに対して、分子量比M/Mが0.8〜1.5であることが好ましい(請求項2)。
また、イニファターが有するN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基としてはN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基が好ましく(請求項4)、特にイニファターは、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基が結合しているものが好ましい(請求項8)。また、イニファターの分岐鎖に光照射リビング重合させるビニル系モノマーとしては、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、及び/又は、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートが好ましい(請求項9)。
本発明においては、第1次分岐型重合体の分岐鎖に光照射することにより、分岐鎖を架橋反応させて架橋反応生成物を得ることが好ましく(請求項3)、この場合において、第1次分岐型重合体をフィルム状に成形し(請求項5)、さらには、このフィルム状の該分岐型重合体を液状エーテルに浸漬させた状態で光照射することにより架橋反応を行うことが好ましい(請求項6)。
ここで用いる液状エーテルとしては、ジエチルエーテル、ジオクチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、ビス(メチルベンジル)エーテル、メチルブチルエーテル、ブチルヘキシルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、及びクラウンエーテルよりなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる(請求項7)。
このように、フィルム状の第1次分岐型重合体を液状エーテルに浸漬させた状態で光照射することにより、架橋反応の際に生成するジスルフィド化合物を固相からエーテル中へ抽出除去することができるため、効率よく架橋を行うことが可能となると考えられる。使用する液状エーテルは窒素ガスのバブリングで溶存酸素を追い出すことで、酸素分子によるラジカル捕捉反応を抑制し、さらに効率良く均質なポリマー架橋を行うことが可能となる。また、フィルム状の第1次分岐型重合体に光を照射することにより、分子間架橋よりも分子内架橋を優先させて、本発明の遺伝子導入剤を効率的に製造することができるようになる。
本発明の遺伝子導入剤は、第1次分岐型重合体の分岐鎖のN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基に含まれるジチオカルバミル基が架橋点として寄与することにより、分子内架橋体となったものであり(請求項10)、この結果、N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基に含まれるジチオカルバミル基に由来する紫外線吸収ピークが実質的に不検出であるか、第1次分岐型重合体の該吸収ピークよりも減少したものとなる(請求項11)。
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明の遺伝子導入剤は、芳香環に分岐鎖としてのN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基が3個以上導入された芳香族化合物をイニファターとし、このイニファターの分岐鎖にビニル系モノマーを光照射リビング重合させて得たスター形の第1次分岐型重合体を架橋反応させ、この架橋反応生成物から第1次分岐型重合体とほぼ同一分子量の画分を分取して得たものである。
即ち、第1次分岐型重合体に光を照射するなどして架橋反応させると、複数の第1次分岐型重合体が分子間架橋して、分子量の異なる様々な分子間架橋体が生成する。
本発明者らは、この架橋反応生成物を分子量分画して、分子量毎に架橋体を分画し、分子量と遺伝子導入活性との関係を調べたところ、架橋前の第1次分岐型重合体と同等の分子量を有する架橋体が高い遺伝子導入活性を示すことを見出した。
この架橋前の第1次分岐型重合体と同等の分子量を有する架橋体は、分子量は架橋前の第1次分岐型重合体とほぼ同等であるものの、分岐鎖のN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基のジチオカルバミル基に由来する特異的な波長280nmの紫外線(UV)吸収ピーク(以下「UV280nmピーク」と称す。)が消失しているか、或いは、架橋前の第1次分岐型重合体に比べてUV280nmピークが大幅に減少していることから、架橋反応しなかった未反応第1次分岐型重合体ではなく、第1次分岐型重合体の分岐鎖の末端ジチオカルバミル基が、当該分岐鎖の途中又は同一分子内の他の分岐鎖の途中若しくは他の分岐鎖の末端と架橋してループ状分岐鎖を形成した分子内架橋体であると推察された。
このような分子内架橋体(以下「自己環化ポリマー」と称す場合がある。)が高い遺伝子導入活性を示す理由の詳細は明らかではないが、ループ状分岐鎖という特異的な構造的優位性による効果であると推測される。特に、本発明の遺伝子導入剤は、血管内皮細胞への遺伝子導入活性に優れ、架橋前の第1次分岐型重合体の血管内皮細胞への遺伝子導入活性と比較して10倍程度の高い遺伝子導入活性を示す。
本発明はこのような知見に基いて達成されたものである。
なお、第1次分岐型重合体を架橋して得られる架橋反応生成物を分子量分画して得られる画分には、本発明の遺伝子導入剤のように、架橋前の第1次分岐型重合体とほぼ同等の分子量を有する画分であって、架橋前の第1次分岐型重合体よりもはるかに高い遺伝子導入活性を有する分子内架橋体と、架橋前の第1次分岐型重合体よりも分子量が大きく(例えば、第1次分岐型重合体の分子量の2〜10倍)かつ、第1次分岐型重合体よりも遺伝子導入活性が高い画分の分子間架橋体とがあり、分子内架橋体である本発明の遺伝子導入剤は、架橋前の第1次分岐型重合体に比べて通常2〜5倍、遺伝子の種類によっては10倍程度の遺伝子導入活性の向上が認められる一方で、分子間架橋体には、架橋前の第1次分岐型重合体に比べて、約10倍の遺伝子導入活性の向上が認められるものがある。
従って、遺伝子導入活性の面では、分子間架橋体の方が、本発明に係る分子内架橋体よりも有利であるともみられるが、分子量が過度に大きな分子間架橋体は、代謝性、生分解性に劣る傾向があり、特に遺伝子治療、再生医療、細胞治療、細胞診断などの生体内での利用を目的とした場合、この問題は大きな障壁となる場合がある。
これに対して、本発明に係る分子内架橋体は分子量が小さく、代謝性、生分解性に優れるため、特に遺伝子治療、再生医療、細胞治療、細胞診断などの生体内での利用に適している。
<第1次分岐型重合体>
本発明に係る第1次分岐型重合体は、N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する芳香族化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体(以下「スター形分岐型重合体」或いは「スター形ポリマー」と称す場合がある。)である。
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
イニファターとなるN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する芳香族化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基、好ましくはN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖化合物としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖化合物としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖化合物としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンが挙げられる。なお、ここで、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基に含まれるジアルキル部分のアルキル基としては、エチル基等の炭素数2〜18個のアルキル基が好ましいが、アルキル基に限らず、フェニル基など芳香族系の炭化水素基であっても構わない。即ち、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基に限らず、N,N−ジアリールジチオカルバミルメチル基等を含む、脂肪族炭化水素基及び/又は芳香族炭化水素基で置換されたN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基であれば目的を達成することができる。
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化炭化水素が好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン、中でも特にトルエンが好適である。
このイニファターに重合させるビニル系モノマーとしては、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等のビニル系モノマーが好適であり、具体的には3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CH、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、4−N,N-ジメチルアミノスチレン、及び4−アミノスチレンの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられ、特に、耐加水分解性に優れることから、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CH、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート等のカチオン性ビニル系モノマーが好ましい。これらのビニル系モノマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
イニファターと上記ビニル系モノマーとを反応させるには、イニファター及びビニル系モノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対しビニル系モノマーが結合した反応生成物を生成させる。
該原料溶液中のビニル系モノマーの濃度は0.5M以上、例えば0.5M〜2.5Mが好適である。また、原料溶液中のイニファターの濃度は0.1〜100mM程度が好適である。
照射する光の波長は300〜400nmが好適であり、例えば低圧水銀灯や高圧水銀灯などを用いることができる。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜60分程度が好適であり、1μW/cm〜10mW/cm程度の低い照射強度で1分〜30分程度が特に好適である。
この光照射により、反応液中に目的とする分岐型重合体が生成するので、必要に応じ精製して第1次分岐型重合体としてのホモポリマーを得る。
この第1次分岐型重合体の数平均分子量は分岐鎖の鎖数によるが、2,000〜500,000、特に2,000〜150,000、とりわけ2,000〜100,000程度が好ましい。
なお、本明細書において、分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリエチレングリコール換算の数平均分子量をさす。
本発明に係る第1次分岐型重合体は、このホモポリマーであってもよく、さらに異なるモノマーを導入したブロック共重合体又はランダム共重合体であってもよい。例えば、上記ホモポリマーに対し、ホモポリマーの合成に用いたビニル系モノマーとは異なるビニル系モノマー、例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレートなどを導入してもよい。また、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させて温度感応性ポリマーブロックを導入してもよい。
即ち、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマー鎖は、低温度では親水性、高温では疎水性となる温度依存性を有する。これにより遺伝子導入剤が上記温度応答性を具備するようになる。
なお、先にN,N−ジメチルアクリルアミド又はN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマーよりなる分岐鎖を有した分岐型重合体を形成し、その後、各分岐鎖の先端側に前述のカチオン性ビニル系モノマーよりなるポリマーブロックを導入するようにしてもよい。
カチオン性ポリマーブロックにN,N−ジメチルアクリルアミドあるいはN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させるには、上記のようにして合成した分岐型重合体を好ましくはアルコール例えばメタノール等の溶媒に溶解させ、これにN,N−ジメチルアクリルアミド又はN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体を混合し、光を照射して重合させればよい。この重合反応を開始する際の溶液中における分岐型重合体の濃度は0.01〜10重量%程度が好適であり、N,N−ジメチルアクリルアミド又はN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体の濃度は0.3〜30重量%程度が好適である。光の照射条件は、光波長250〜400nm、照射時間1〜150分、照射強度100〜10,000μW/cm程度が好適である。
このように分岐鎖をブロック又はランダム共重合体にて構成したスター形分岐型共重合体(スター形コポリマー)を第1次分岐型重合体として用いる場合、その数平均分子量は3,000〜600,000、特に3,000〜150,000であることが好ましい。
<第1次分岐型重合体の架橋>
本発明では、上記のように合成した第1次分岐型重合体を架橋反応させ、その後、架橋反応生成物から第1次分岐型重合体とほぼ同一分子量の画分を分取することにより、目的とする遺伝子導入剤を得る。この第1次分岐型重合体の架橋を行うには、次のi),ii),iii),iv)の方法を採用することができるが、架橋効率及び架橋精度の点においてiv)の方法を採用することが好ましい。
i)第1次分岐型重合体をメタノールなど適宜の溶媒に溶解させ、加熱するか、光を照射することにより、分岐型重合体同士を架橋する。この架橋反応を開始させる際の溶液中の第1次分岐型重合体の濃度は0.01〜10重量%程度が好適である。加熱条件は、30〜300℃、1分〜30,000時間程度が好適である。
ii)第1次分岐型重合体へ直接光照射や加熱処理を行うことによって分岐型重合体を架橋させる。この場合、i)の溶媒へ溶解した溶液への処理と相違して、分岐型重合体の主鎖及び又は側鎖へ発生したラジカルが溶媒によって捕捉され、分岐型重合体の架橋反応が阻害されることを抑制することが可能となる。直接光照射を行う場合は、凍結乾燥粉末を霧状に攪拌して、ここへ光を照射することで均質な処理が可能となる。なお、第1次分岐型重合体をフィルム状に加工し、このフィルムへ処理を行うことも均質な架橋体を得る方法として好ましい。具体的には、ガラス板、金属板などの上へ第1次分岐型重合体の溶液、例えば、クロロホルム溶液を流延させ、ドクターナイフなどで液切りして均一な厚みとし、これを乾燥させることで均質なフィルムを形成させることが可能である。この場合の溶媒としては揮発性が高いメタノール、クロロホルムが好適である。
iii)常温又は冷却下に長期間保持することによって第1次分岐型重合体を架橋させる。例えば、4℃、−20℃などの冷却下においても15,000時間程度の時間を経過すれば十分に架橋の効果が現れる。この場合、第1次分岐型重合体は凍結乾燥フィルムまたはフィルム状態で経時変化させることが好ましく、遮光状態でも蛍光灯程度の光が迷光として暴露されていても良い。凍結乾燥状態で経時変化をさせるのであれば、高分子量成分の乾燥重量で1.5g/50mL程度の密度とすることで均質な架橋体を得ることが可能である。
iv)固体状態の第1次分岐型重合体、好ましくはフィルム状の第1次分岐型重合体を液状エーテルに浸漬させた状態で光照射することにより、第1次分岐型重合体同士を架橋させる。
この場合の液状エーテルとしては、ジエチルエーテル、ジエチルエーテル、ジオクチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、ビス(メチルベンジル)エーテル、メチルブチルエーテル、ブチルヘキシルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、クラウンエーテル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
液状エーテルに浸漬させる際の前記第1次分岐型重合体の形状としては、フィルム状、粉末状、塊状、フレーク上、ゲル状等が挙げられるが、分子間架橋よりも本発明で目的とする分子内架橋が優先して起こりやすいことから、フィルム状とすることが好ましい。
第1次分岐型重合体の形状としてフィルム状を採用した場合、フィルムの厚さは10μm〜2000μm程度、特に50μm〜1000μm程度が好ましい。極端にフィルムが薄いと遺伝子導入剤の製造効率が悪く、また極端にフィルムが厚いと光照射の効果及び光架橋反応においてジチオカルバミル基から脱離して生成するジスルフィド化合物のエーテル中への拡散・抽出除去の効果が十分に得られない。
また、第1次分岐型重合体の形状を粉末状にした場合、粉末の粒径は0.1〜1000μm程度特に100〜500μm程度が好ましい。粒径を極端に小さくすることは困難であるが、逆に粒径を大きくした場合は光照射の効果及び光架橋反応においてジチオカルバミル基から脱離して生成するジスルフィド化合物のエーテル中への拡散・抽出除去の効果が十分に得られない。
さらに、第1次分岐型重合体の形状を塊状、フレーク状やフレーク状にした場合は、光暴露量の均質性や光架橋反応においてジチオカルバミル基から脱離して生成するジスルフィド化合物のエーテル中への拡散性を十分に考慮して行う必要ある。
光の照射条件は、光波長300〜400nm、照射時間1〜300分、照射強度0.1〜10mW/cm程度が好適である。なおこの光照射条件は、i)、ii)においても同様である。
iv)の架橋方法によれば、架橋反応の際に生成すると考えられるジスルフィド化合物を固層からエーテル中へ抽出除去することにより、効率的に架橋反応を行うことができる。従って、反応を行う際に液状エーテルを撹拌することが好ましい。これにより生成したジスルフィド化合物をより効率的に液状エーテル中へ抽出除去することができる。
さらに効率的に架橋反応を行うには、第1次分岐型重合体の浸漬時間を1〜300分程度、液状エーテルの液温を20〜60℃程度にすることが好ましい。
この架橋反応では、第1次分岐型重合体の分岐鎖のジスルフィド化合物のチオ基が開いて分岐鎖同士が架橋するものと推察される。この架橋反応により、第1次分岐型重合体が2〜10個、特に2〜5個程度架橋した高次分岐型重合体(分子間架橋体)が生成するが、同時に、この架橋反応により、1つの第1次分岐型重合体内において、その分岐鎖の末端のジチオカルバミル基が当該分岐鎖の途中又は同一第1次分岐型重合体内の他の分岐鎖の途中若しくは他の分岐鎖の末端と架橋してループ状分岐鎖を有した分子内架橋体も生成する。なお、このようにループ状分岐鎖を有した分岐鎖が生成したことは、生成物を分子量分画することにより、第1次分岐型重合体とほぼ同一分子量の画分が得られること、この画分の生成物は実質的にジチオカルバミル基を有していないか、或いは、第1次分岐型重合体よりもジチオカルバミル基量が大幅に低減していることから十分に推認される。
なお、この架橋反応で得られる架橋反応生成物の数平均分子量には特に制限はないが、通常20,000〜80,000程度である。
<分子量分画>
本発明では、上記のように第1次分岐型重合体を架橋させて得られた架橋反応生成物を分子量分画し、第1次分岐型重合体とほぼ同一分子量の画分を分取する。
この分子量分画は、液体クロマトグラフィー、電気泳動、貧溶媒/良溶媒グラジエント溶出技術などによって行うことができる。
分子量分画を液体クロマトグラフィーで行う場合、使用する移動相、カラムに応じてゲル浸透、サイズ排除、イオン排除、イオン抑制法などを組み合わせ、常法に従ってカラム分離能が適切に設定された条件で、当業者に自明の方法で行うことができる。
液体クロマトグラフィーにおけるカラム温度は40〜60℃とすることが移動層溶液の粘度を下げ、圧力損失を低く、段数の高い状態で分離が行われ、かつ、通常の室温と比較して温度差があるため温度制御が安定して行うことができ、結果、分離も安定して行うことができるので好ましい。
なお、上記の「ほぼ同一の分子量の画分」とは、第1次分岐型重合体の数平均分子量をMとし、分取した画分の架橋体の数平均分子量をMとした場合、M/Mが0.8〜1.5特に0.9〜1.2の範囲にあることをいう。ここで、本発明でいうM/Mが1.0以下、すなわち、架橋前よりも分子量が小さくなるのは、ポリマー末端の分子団が架橋反応に消費されて外れていることと、測定精度上の問題も含むものである。M/Mがこの範囲外であると、遺伝子導入活性に優れた遺伝子導入剤を得ることができない。ここで、数平均分子量とはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリエチレングリコール換算の値である。
本発明では、このようにして得られた、架橋前の第1次分岐型重合体とほぼ同一分子量の画分を遺伝子導入剤とする。
<核酸複合体>
上述のようにして得られた本発明の遺伝子導入剤(ベクター)が核酸を核酸含有複合体として包囲することによって、生体内の酵素による核酸の失活、分解を抑制することができる。
上記遺伝子導入剤と核酸とを複合させるには、遺伝子導入剤の濃度1〜1000μg/mL程度の溶液に対し、核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対して遺伝子導入剤を過剰量添加し、遺伝子導入剤中のカチオン性ポリマーを核酸に対し飽和状態に核酸含有複合体として複合化させるのが好ましい。
なお、前記の通り、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させた遺伝子導入剤は、約30℃よりも高い温度で疎水性であり、約30℃よりも低い温度で親水性である。従って、30℃よりも低い温度で核酸と遺伝子導入剤の水溶液とを混合して遺伝子導入剤に核酸を複合させることができる。
約30℃よりも高い温度では、核酸を複合した遺伝子導入剤は、温度感応性核酸よりなる疎水性部分を有し、水不溶性となる。
核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子),p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子,IL−2遺伝子,IL−4遺伝子,HLA−B7/IL−2遺伝子,HLA−B7/B2M遺伝子,IL−7遺伝子,GM−CSF遺伝子,IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100,MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
また、VEGF遺伝子,HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス,c−mybアンチセンス,cdc2キナーゼアンチセンス,PCNAアンチセンス,E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
核酸複合体の粒径は50〜400nm程度が好適である。この粒径は、例えばレーザを用いた動的光散乱法によって測定される。粒径がこれよりも小さいと、核酸複合体内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれ、あるいは腎臓にて濾過排出されるおそれがある。また、これよりも大きいと、細胞に導入されにくくなるおそれがある。
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
本発明において、核酸を導入する対象として望ましい「細胞」としては、当該核酸の機能発現が求められるものであり、このような細胞としては、例えば使用する核酸(すなわちその機能)に応じて種々選択され、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞、骨髄細胞、骨細胞、血球幹細胞、血球細胞等が挙げられる。また、単球、樹状細胞、マクロファージ、組織球、クッパー細胞、破骨細胞、滑膜A細胞、小膠細胞、ランゲルハンス細胞、類上皮細胞、多核巨細胞等、消化管上皮細胞・尿細管上皮細胞などである。
本発明の核酸複合体は培養試験に用いるほか、任意の方法で生体に投与することができる。
生体への投与方法としては静脈内又は動脈内への注入が特に好ましいが、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与の他に病変組織内に直接投与することも可能である。
この核酸複合体を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(浸透圧調整剤、安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら担体は公知のものが使用できる。
また、この核酸複合体を有効成分とする医薬は、含まれる核酸の種類が異なる2種以上の核酸含有複合体を含めたものも包含される。このような複数の治療目的を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に有用である。
投与量としては、動物、特にヒトに投与される用量は目的の核酸、投与方法および治療される特定部位等、種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分であるべきである。
この核酸複合体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の病変を生じる循環器領域での疾患に加え、癌(悪性黒色腫、脳腫瘍、転移性悪性腫瘍、乳癌等)、感染症(HIV等)、単一遺伝病(嚢胞性線維症、慢性肉芽腫、α1−アンチトリプシン欠損症、Gaucher病等)等が挙げられる。
また、この核酸を複合した遺伝子導入剤の水溶液を基材に塗布などにより付着させ、必要に応じ乾燥させることにより、核酸を担持したポリマーのコーティング等が形成される。
上記の核酸複合遺伝子導入剤を基材に付着させる場合、基材としてはシート状のものが好適である。このシート状基材の厚さは0.05〜10mm程度であることが好ましく、シート面の大きさは、方形の場合、一辺が1〜20mmであり他辺が1〜20mmであり、円形又は楕円形の場合、径は1〜20mm程度が好ましい。基材の材料としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、シリコン樹脂、フッ素樹脂などの合成樹脂が好適である。この基材は多孔質であってもよい。
この基材に対する核酸複合遺伝子導入剤の付着量は、基材表面1cm当り0.001〜10mg程度が好ましい。
核酸複合遺伝子導入剤を担持させた基材よりなる遺伝子導入材料は、皮下組織、心筋組織、病変組織、病変血管を包囲するようにシート状基材を配置したり、カバードステントのフィルムへ塗布することによって生体内に配置したり、生体外面に粘着テープを用いて貼り付けたりするようにして用いられる。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
[実施例1]
<(a)イニファターの合成>
イニファターとしての1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)5.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム34.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下にて室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、3リットルのメタノールへ投入して30分間攪拌して濾過した。この操作を繰り返して合計4回行った。沈殿物をトルエン200mLへ溶解した後、100mLのメタノールを加えて50℃に加温し、冷蔵庫中で15時間保管して再結晶させ、結晶を濾別後に大量のメタノールで洗浄した。結晶を室温で減圧乾燥して、白色の1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
H NMR(in CDCl)の測定結果はδ1.26−1.31ppm(t,24H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)となった。
Figure 2009274998
<(b)4分岐型スター形重合体よりなるカチオン性ホモポリマーの光重合による合成>
3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドをカチオン性ビニル系モノマーとして用い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAmと記載することがある。)よりなるカチオン性ホモポリマーの合成を行った。
即ち、上記(a)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(3−N,N−DMAPAAm)3.9gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、300Wショートアークキセノンランプ(朝日分光社製、MAX−301)で波長250nm〜400nmの混合紫外線を30分間照射した。照射強度はウシオ電機社のUIT−150へUVD−C405(検出波長範囲320nm〜470nm)を装着して2.5mW/cmに調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿を繰り返して精製し、エーテルを蒸散させた後に少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター形ホモポリマーpDMAPAAmよりなるカチオン性ホモポリマーを得た(重合率32%)。このカチオン性ホモポリマーの数平均分子量はGPCにより、28,000(Mw/Mn=1.33)と測定された。
H NMR(in DO)の測定結果は、δ1.5−1.8ppm(br,2H,−CHCHCH−),δ2.1−2.2ppm(br,6H,N−CH),δ2.2−2.4ppm(br,2H,CH−N),δ3.0−3.4ppm(br,2H,NH−CH),δ7.4−7.8ppm(br,1H,−NH−)となった。
Figure 2009274998
<(c)カチオン性ホモポリマーフィルムの作製>
1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)−ポリ−(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼンのポリマーフィルムを50mm縦×50mm横×1mm厚の平滑面ガラス板上へ形成させた。即ち、上記(b)で合成した分子量28,000の4分岐型pDMAPAAmホモポリマー0.3gを10mLクロロホルムへ溶解し、1mm厚ガラス板上へ100μm厚に流延し、60℃オーブン中で溶媒を乾燥させてフィルムを形成させた。
<(d)カチオン性ホモポリマーの光架橋反応>
100mm縦×100mm横×2mm厚の平滑な面を有する直方体容器中で1mm厚ガラス板を垂直に固定した。この1mm厚ガラス板は直方体容器壁と接触しており、ポリマーフィルムは容器の壁との接触面の反応側のガラス板面に配置した。この容器内へジエチルエーテル中を入れ、マグネットスターラーで攪拌し、ポリマーフィルムをジエチルエーテルで抽出洗浄できる状態とした。このジエチルエーテル中へ高純度窒素ガスをパージしながら(2L/分)光照射を行った。照射強度は3mmガラス(容器厚さとガラス板厚さとの合計)透過後で1.0mW/cmとなるように調整し、光照射時間は240分で行った。照射終了後、フィルムを50mLのメタノールへ投入すると不溶性のゲル状成分が生成していた。このメタノール液を#2の濾紙で濾過した後、エバポレーターで濃縮し、濃縮物をジエチルエーテルへ滴下してポリマー成分を沈殿させた。その後、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿処理を行って精製した。得られた架橋体の数平均分子量はGPCにより46,000(Mw/Mn=2.5)と測定され、光架橋により数平均分子量の増大と分子量分布のブロード化が確認された。また、光照射により得られた光架橋反応生成物ではUV280nmピークは消失していた。
<(e)カチオン性ポリマー光架橋体のフラクション分離と特定分子量分画の採取>
島津製作所高速液体クロマトグラフシステムLC10Avpを使用し、上記(d)で合成したカチオン性ポリマーの光架橋反応生成物のフラクション分離を行った。
移動相は臭化リチウム30mMのN,N−ジメチルアクリルアミド溶液を使用した。カラムにはAsahipackGF−510HQとAsahipack710HQを連結したものを用い、カラム温度40℃でサイズ排除分離を行った。フラクション分離はフラクションコレクターFRC−10Aを使用して行った。得られた画分からGPCによる数平均分子量28,000の分画を採取し、N,N−ジメチルアクリルアミドを高真空エバポレーターで留去し、ジエチルエーテル中へ滴下してポリマー成分と電解質成分を沈殿させ、超遠心限外濾過キット(アミネックスス)を使用して脱塩し、凍結乾燥することでポリマー成分を分離精製した。
<(f)遺伝子導入活性>
インビトロでの細胞遺伝子導入実験を行った。細胞にはCOS-1細胞とEC(血管内皮細胞)を使用し、DNAにはpGL3コントロールベクターを使用した。いずれも24Well培養皿へ播種し、培養24時間後に遺伝子導入を行った。
上記(e)で採取した光架橋前と同一分子量を有するカチオン性ポリマー分子内架橋体を遺伝子導入剤として使用した。遺伝子導入剤中の単位重量あたりの陽電荷数はカチオン性ポリマーのモノマー単位の分子量156から計算して求めた。DNA中の単位重量あたりの陰電荷数は配列マップによる塩基対数と核酸塩基の平均的分子量660とから計算した。
この遺伝子導入剤をDNAと150μLのOPTI−MEM中で30分間インキュベートした。混合比は電荷数の関係が陽電荷数が陰電荷数の20倍となるように調整し、0.5μgのDNAが各Wellへ投与されるように溶液を調整し、培養細胞へ加えた。トランスフェクションの48時間後にルシフェラーゼアッセにより遺伝子導入活性の評価を行った(プロメガ社、アッセイキット試薬)。補正はタンパク濃度で行い、タンパク定量はBioRad社のBradford試薬で行った。結果を図1,2に示す。
[比較例1]
実施例1の(b)で合成したカチオン性ホモポリマーを遺伝子導入剤として使用する以外は、実施例1における(f)に準拠して遺伝子導入活性を評価した。結果を図1,2に示す。
[比較例2]
実施例1の(b)で合成したカチオン性ホモポリマー0.1グラムを50mL滅菌瓶へ入れ、1N水酸化ナトリウム溶液80mLへ溶解し、121℃で40分間高圧蒸気滅菌処理を行った。処理直後の溶液は、若干白濁して硫黄化合物独特の臭気を有していた。
放冷後、溶液を透析膜へ移し、1N水酸化ナトリウムで2日間、精製水で5日間透析し、凍結乾燥を行った。得られたカチオン性ホモポリマーの加水分解処理粉末のGPCによる分子量測定結果は処理前と変化は確認されず、13,000回積算のNMR解析においても、主鎖、側鎖には処理前と変化はなく、ポリマー末端のジチオカルバミル基のピークのみが消失していることが確認された。このものはUV280nmピークも消失しており、加水分解によりカチオン性ホモポリマーの末端のジチオカルバミル基が脱離したものであることが示唆された。
このカチオン性ホモポリマー加水分解処理粉末を遺伝子導入剤として使用する以外は、実施例1における(f)に準拠して遺伝子導入活性を評価した。結果を図1,2に示す。
図1,2より、次のことが分かる。
実施例1、比較例1及び比較例2で用いた遺伝子導入剤は、いずれも同一分子量のカチオン性ホモポリマーである。実施例1と比較例2のものは、ポリマー末端のジチオカルバミル基が存在しない。比較例1のものではNMRの解析、GPC、UV吸収の解析より、1分子当たりに平均して4.03個のジチオカルバミル基が存在することが確認されている。
これらのカチオン性ホモポリマーの遺伝子導入活性を比較すると、実施例1のものが遺伝子導入活性が高いのは、ポリマー末端の作用でなく、光照射により自己環化(分子内架橋)された構造的な優位性によるものと考えられる。活性の向上は2倍以上であり、5倍程度の向上効果が確認されるケースもある。
また、血管内皮細胞の場合には、COS細胞での遺伝子導入活性と比較して、本発明の効果はより顕著に現れた。細胞との相性、選択性が発現される理由は不明であるが、本発明は、通常遺伝子導入が行いにくい内皮系細胞、樹状細胞、幹細胞への応用に期待できる技術であると推定される。
実施例1、比較例1及び比較例2のカチオン性ホモポリマーによるCOS細胞への遺伝子導入活性の評価結果を示すグラフである。 実施例1、比較例1及び比較例2のカチオン性ホモポリマーによる血管内皮細胞への遺伝子導入活性の評価結果を示すグラフである。

Claims (14)

  1. 芳香環に、分岐鎖としてのN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基が3個以上導入された芳香族化合物をイニファターとし、このイニファターの分岐鎖にビニル系モノマーを光照射リビング重合させて分岐型重合体とし、
    この分岐型重合体の分岐鎖を架橋反応させて架橋反応生成物を得、
    該架橋反応生成物を分子量分画して得た、前記分岐型重合体とほぼ同等の分子量を有した画分よりなることを特徴とする遺伝子導入剤。
  2. 請求項1において、該遺伝子導入剤の数平均分子量Mと、前記分岐型重合体の数平均分子量Mとの比M/Mが0.8〜1.5であることを特徴とする遺伝子導入剤。
  3. 請求項1又は2において、該分岐鎖に光照射することにより、前記分岐鎖を架橋反応させることを特徴とする遺伝子導入剤。
  4. 請求項1ないし3のいずれか1項において、該N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基がN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基であることを特徴とする遺伝子導入剤。
  5. 請求項3又は4において、前記分岐型重合体をフィルム状に成形して光照射することにより架橋反応を行うことを特徴とする遺伝子導入剤。
  6. 請求項5において、フィルム状の該分岐型重合体を液状エーテルに浸漬させた状態で光照射することにより架橋反応を行うことを特徴とする遺伝子導入剤。
  7. 請求項6において、該液状エーテルは、ジエチルエーテル、ジオクチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、ビス(メチルベンジル)エーテル、メチルブチルエーテル、ブチルヘキシルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、及びクラウンエーテルよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする遺伝子導入剤。
  8. 請求項1ないし7のいずれか1項において、前記イニファターが、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基が結合していることを特徴とする遺伝子導入剤。
  9. 請求項1ないし8のいずれか1項において、前記ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、及び/又は、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートであることを特徴とする遺伝子導入剤。
  10. 請求項1ないし9のいずれか1項において、前記分岐型重合体の分岐鎖のN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基に含まれるジチオカルバミル基が架橋点として寄与していることを特徴とする遺伝子導入剤。
  11. 請求項1ないし10のいずれか1項において、前記N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基に含まれるジチオカルバミル基に由来する紫外線吸収ピークが実質的に不検出であるか、前記分岐型重合体の該吸収ピークよりも減少していることを特徴とする遺伝子導入剤。
  12. 芳香環に、分岐鎖としてのN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基が3個以上導入された芳香族化合物をイニファターとし、このイニファターの分岐鎖にビニル系モノマーを光照射リビング重合させて分岐型重合体を製造する工程と、
    得られた分岐型重合体の分岐鎖を架橋反応させて架橋反応生成物を得る工程と、
    該架橋反応生成物を分子量分画して、前記分岐型重合体とほぼ同等の分子量を有した画分を分取する工程とを有することを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
  13. 請求項1ないし11のいずれか1項に記載の遺伝子導入剤と核酸とを複合させてなる核酸複合体。
  14. 請求項12の遺伝子導入剤の製造方法で製造された遺伝子導入剤と核酸とを複合させてなる核酸複合体。
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