JP2011083243A - 遺伝子導入剤、遺伝子導入剤の製造方法、及び核酸複合体並びに遺伝子導入方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】血清を含む培地において、より効率的に、細胞に遺伝子を導入することができる遺伝子導入剤と、この遺伝子導入剤の製造方法、及びこの遺伝子導入剤と核酸との核酸複合体、並びに血清を含む培地における遺伝子の導入方法を提供する。
【解決手段】分岐鎖を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤において、該分岐鎖は、少なくとも2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド及び/又はその誘導体を重合してなる重合体よりなることを特徴とする。
【選択図】図1
【解決手段】分岐鎖を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤において、該分岐鎖は、少なくとも2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド及び/又はその誘導体を重合してなる重合体よりなることを特徴とする。
【選択図】図1
Description
本発明は、遺伝子導入剤と、この遺伝子導入剤の製造方法、及び遺伝子導入剤と核酸とからなる核酸複合体、並びにこの核酸複合体を用いた遺伝子導入方法に関する。
近年、ヒト疾患の分子遺伝学的要因が明らかになるにつれ、遺伝子治療研究がますます重要視されている。遺伝子治療法は標的とする部位でのDNAの発現を目的としており、いかにDNAを標的部位に到達させるか、いかにDNAを標的部位に効率的に導入し、当該部位で機能的に発現させるかということが重要となる。外来DNAの導入のためのベクターとして、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ付随ウイルス、レンチウイルス、センダイウイルス又はヘルペスウイルスを含む多くのウイルスが、治療用遺伝子を運搬するように改変されて、遺伝子治療のヒトの臨床試験に使用されている。しかし感染及び免疫反応の危険性は依然として残されている。
安全性、品質安定性、製造コストに問題があるウイルスベクターに代わる遺伝子導入技術として、合成高分子ベクター、カチオン性脂質ベクターが研究開発されている。本出願人らは、前述の合成高分子ベクターとして、ベンゼンなどの芳香環を核としてカチオン性ポリマー鎖が放射状に伸延する分岐構造のベクターがDNAを高密度で凝縮させて小さな核酸複合体微粒子を形成させ、効率良く細胞へ遺伝子導入できることを見出し、先に特許出願した(特許文献1,2)。
本出願人らはまた、血清を含む培地における遺伝子導入方法として、所定温度(T)未満ではカチオン性を示すが、所定温度(T)以上では疎水性を示す感温性カチオン性ポリマーからなる遺伝子導入剤を用い、この遺伝子導入剤と核酸とを含む溶液を所定温度(T)未満で混合した後、該溶液を所定温度(T)以上に加温して、遺伝子導入剤と核酸とを複合させることにより核酸複合体を得、この核酸複合体と細胞とを、血清を含む培地において、該所定温度(T)以上で接触させて、細胞に遺伝子を導入する遺伝子導入方法を提案した(特許文献3)。
なお、特許文献1〜3において、遺伝子導入剤は、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、このイニファターに対して、ビニル系モノマーを光照射リビング重合することにより製造されており、その場合の光照射条件としては、例えば、特許文献3の実施例では、波長320〜470nmの光を2.5mW/cm2で60分間照射している。
上記特許文献1,2に記載されるベンゼン環から放射状にポリマー鎖が伸延する分岐構造のベクターからなる遺伝子導入剤は、同じモノマーユニットからなる線形ポリマーと比較して、その構造上、電荷密度を高く配置することが可能である。このため、DNAやRNAなどの核酸との複合体をより強く凝集させることが可能であり、より粒子径の小さい微細なポリプレックス粒子を形成させることができる。
しかしながら、上述のカチオン性ポリマーを含む遺伝子導入剤は、血清を含む培地において、血清中のアニオン性のタンパクなども吸着・凝集してマクロ粒子を形成してしまい、細胞内に取り込まれにくくなったり、DNAがトランスポーターに認識されにくくなる場合がある。
本出願人らは、この問題を回避するための遺伝子導入方法として、所定温度(T)未満ではカチオン性を示し、所定温度(T)以上では疎水性を示す感温性カチオン性ポリマーを遺伝子導入剤として用いる上記特許文献3に記載される方法を提案した。
この特許文献3の遺伝子導入方法は、遺伝子導入剤が所定温度(T)未満ではカチオン性を示すため、遺伝子導入剤と核酸とを効率的に混合することができ、所定温度(T)以上では、遺伝子導入剤が疎水性、即ち、非イオン性に変化するため、所定温度(T)以上でこの遺伝子導入剤と核酸とを複合させ、次いで、この核酸複合体と細胞とを接触させることにより、核酸複合体と血清中のアニオン性物質との複合化を防ぐことができ、結果として、遺伝子導入効率が向上した。
しかしながら、この遺伝子導入方法には、次の(1)〜(4)について改良が求められている。
(1) 温度を所定温度(T)以上とすることにより、遺伝子導入剤が疎水性に変化し、この遺伝子導入剤と核酸とからなる核酸複合体も疎水性に変化するため、血清中のアニオン性タンパクなどの影響を受けにくくなるが、反面、血清中の疎水性物質と凝集し易くなるおそれがある。
(2) 遺伝子導入剤が疎水性に変化することにより、血清中に含まれるコレステロールやアルブミンなどの疎水性物質を可溶化する成分やイオン性脂質の影響を受けるおそれがある。
(3) 細胞培養に一般的に用いられるポリスチレン製シャーレは、水接触角が70°程度の疎水性であるため、この疎水性のポリスチレン製シャーレに疎水性の遺伝子導入剤が吸着されやすくなる可能性がある。
(4) 疎水性に変化した遺伝子導入剤からなる核酸複合体同士が、水溶液中において凝集しやすくなる。この疎水凝集現象は、培養細胞への遺伝子の導入において、導入効率が低下する要因となる。さらに、血管内投与を目的とした場合は、生成した凝集塊が血管を閉塞する危険性がある。
(1) 温度を所定温度(T)以上とすることにより、遺伝子導入剤が疎水性に変化し、この遺伝子導入剤と核酸とからなる核酸複合体も疎水性に変化するため、血清中のアニオン性タンパクなどの影響を受けにくくなるが、反面、血清中の疎水性物質と凝集し易くなるおそれがある。
(2) 遺伝子導入剤が疎水性に変化することにより、血清中に含まれるコレステロールやアルブミンなどの疎水性物質を可溶化する成分やイオン性脂質の影響を受けるおそれがある。
(3) 細胞培養に一般的に用いられるポリスチレン製シャーレは、水接触角が70°程度の疎水性であるため、この疎水性のポリスチレン製シャーレに疎水性の遺伝子導入剤が吸着されやすくなる可能性がある。
(4) 疎水性に変化した遺伝子導入剤からなる核酸複合体同士が、水溶液中において凝集しやすくなる。この疎水凝集現象は、培養細胞への遺伝子の導入において、導入効率が低下する要因となる。さらに、血管内投与を目的とした場合は、生成した凝集塊が血管を閉塞する危険性がある。
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、血清を含む培地において、より効率的に、細胞に遺伝子を導入することができる遺伝子導入剤、及びこの遺伝子導入剤の製造方法を提供することを目的とする。
本発明はまた、この遺伝子導入剤と核酸との核酸複合体、並びに血清を含む培地における遺伝子の導入方法を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、検討を重ねる過程で、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドを合成し、この2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドのポリマー鎖を遺伝子導入剤の分岐鎖に導入することを試みた。しかしながら、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドはそれ自体反応性が低く、遺伝子導入剤として機能し得る高分子量のポリマー鎖を合成することが困難であった。
そこで、本発明者らは、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドの重合方法について、更に、検討を重ねた結果、従来にない低照射強度の光で長時間の光照射リビング重合を行うことにより、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドのポリマー鎖を有する遺伝子導入剤の高分子量化が可能であること、また2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドのポリマー鎖を導入した遺伝子導入剤が血清を含む培地における遺伝子導入活性に優れることを見出した。
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
本発明(請求項1)の遺伝子導入剤は、分岐鎖を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤において、該分岐鎖は、少なくとも2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド及び/又はその誘導体を重合してなる重合体よりなることを特徴とするものである。
請求項2の遺伝子導入剤は、請求項1において、前記遺伝子導入剤は、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくとも前記2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド及び/又はその誘導体を光照射リビング重合させてなる分岐型重合体であることを特徴とするものである。
請求項3の遺伝子導入剤は、請求項2において、前記N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合したものであることを特徴とするものである。
請求項4の遺伝子導入剤は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記遺伝子導入剤に含まれる2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド及び/又はその誘導体由来の構成単位の分子量が、7,000〜700,000であることを特徴とするものである。
請求項5の遺伝子導入剤は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記分岐鎖は、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド及び/又はその誘導体のみを重合してなる重合体よりなることを特徴とするものである。
請求項6の遺伝子導入剤は、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記分岐鎖の1本当たりの分子量が、1,500〜150,000であることを特徴とするものである。
請求項7の遺伝子導入剤は、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記遺伝子導入剤の分子量が、10,000〜10,000,000であることを特徴とするものである。
本発明(請求項8)の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の遺伝子導入剤を製造する方法であって、少なくとも、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物からなるイニファターと、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド及び/又はその誘導体とを含む溶液に対し、波長が360〜390nmであり、照射強度が0.5mW/cm2以下である光を5時間以上照射することを特徴とするものである。
請求項9の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項8において、前記光は、波長が365〜375nmであり、照射強度が0.03〜0.3mW/cm2であることを特徴とするものである。
請求項10の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項8又は9において、前記溶液に対し前記光を10〜500時間照射することを特徴とするものである。
本発明(請求項11)の核酸複合体は、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の遺伝子導入剤と核酸とを複合させてなるものである。
本発明(請求項12)の遺伝子導入方法は、請求項11に記載の核酸複合体と細胞とを血清存在下で接触させることにより細胞に遺伝子を導入するものである。
本発明の遺伝子導入剤は、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド及び/又はその誘導体(以下、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド及び/又は誘導体を、単に「DMAEMAm」と略記する場合がある。)を重合してなる重合体を分岐鎖として有するものであるため、血清を含む培地においても遺伝子の導入効率が高い。
即ち、DMAEMAmは、加水分解されにくいという性質、及び温度の変化により化合物の性質が変化しにくいという性質を備えており、さらに、pKaの値が中性を示すため、血清を含む培地において、アニオン性のタンパクの影響を受けにくく、効率的に細胞に対して遺伝子を導入することができる。
本発明の遺伝子導入剤は、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくとも前記DMAEMAmを光照射リビング重合させてなる分岐型重合体であることが好ましく(請求項2)、このN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合したものであることが好ましい(請求項3)。
本発明の遺伝子導入剤に含まれるDMAEMAm由来の構成単位(以下、DMAEMAm由来の構成単位を、単にDMAEMAm単位と略記する。)の分子量は、7,000〜700,000であることが好ましい(請求項4)。DMAEMAm単位の分子量が上記範囲内であると、より遺伝子導入活性が高い遺伝子導入剤となる。
前記分岐鎖は、DMAEMAmのみを重合してなる重合体よりなることが好ましい(請求項5)。
本発明の遺伝子導入剤において、前記分岐鎖の1本当たりの分子量は、1,500〜150,000であることが好ましく(請求項6)、遺伝子導入剤の分子量は、10,000〜10,000,000であることが好ましい(請求項7)。分子量が上記範囲内であると、血清を含む培地においても効率的に細胞に遺伝子を導入することができる。
このような遺伝子導入剤は、少なくとも、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物からなるイニファターと、DMAEMAmとを含む溶液に対し、波長が360〜390nmであり、照射強度が0.5mW/cm2以下である光を5時間以上照射する本発明の遺伝子導入剤の製造方法により容易に製造することができる。
前記イニファターに対してDMAEMAmを光照射リビング重合する場合において、後述の光照射リビング重合において常用される照射強度の照射光を用いると、遺伝子導入剤として機能し得る高分子量の分岐型重合体を得ることができない。この理由の詳細は明らかではないが、一つに次のようなことが推察される。
前述の特許文献1〜3に記載される遺伝子導入剤は、イニファターの光開裂性を利用し、光照射リビング重合により製造されている。この光照射リビング重合において常用される照射強度の照射光には、重合反応(正反応)を生じさせる波長370nm付近の光と、分解反応(逆反応)を生じさせる波長330〜350nm程度の光と、重合反応に寄与しないがアミノ基の酸化を促進する380nm以上の波長の光が含まれている。即ち、用いた光源の中心波長が370nm付近であっても、一般的には320〜470nmの波長が検出される。つまり、用いたい波長の光の照射強度を上げれば、相対的に逆反応やアミノ基の酸化促進にしか寄与しない光の照射強度を上げることを意味する。特許文献1〜3に記載されるビニル系モノマーを用いたリビング重合反応では、逆反応よりも正反応の反応速度の方が格段に速いため、モノマーの重合度を上げ、分子量の大きい遺伝子導入剤を得ることができる。重合度を上げるには照射強度を上げるなど当業者に自明の方法で行うことができる。しかしながら、DMAEMAmは、それ自体の反応性が低いため、これをモノマーとして用いたリビング重合反応で、照射強度を上げた条件では、相対的に増強された不利益な波長の作用によって、正反応と逆反応の反応速度が拮抗し、分子量が十分に大きい遺伝子導入剤を得ることが困難であった。
本発明の遺伝子導入剤の製造方法によれば、照射強度を0.5mW/cm2以下と低く設定することにより、正反応を生じさせる360〜390nmの波長を有効に照射し、一方で、このような照射強度の低い光を用いることによる照射量の低下を、照射時間を5時間以上の長時間とすることにより補って、DMAEMAmの重合度を上げ、分子量の大きい遺伝子導入剤を得る(請求項8)。
この照射光の波長は、365〜375nmであり、照射強度が0.03〜0.3mW/cm2であることが好ましく(請求項9)、照射時間は、10〜500時間であることが好ましい(請求項10)。
本発明の核酸複合体は、このような本発明の遺伝子導入剤と核酸とを複合させてなるものである(請求項11)。
本発明の遺伝子導入方法は、この核酸複合体と細胞とを血清存在下で接触させることにより細胞に遺伝子を導入するものである(請求項12)。
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[遺伝子導入剤、及びこの遺伝子導入剤の製造方法]
本発明の遺伝子導入剤は、分岐鎖を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤において、該分岐鎖が、少なくともDMAEMAmを重合してなる重合体よりなるものである。
本発明の遺伝子導入剤は、分岐鎖を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤において、該分岐鎖が、少なくともDMAEMAmを重合してなる重合体よりなるものである。
本発明の遺伝子導入剤は、DMAEMAmを重合してなる重合体を分岐鎖として有しているため、血清中のアニオン性タンパクや、脂質を吸着することが少なく、血清を含む培地であっても、効率的に遺伝子を導入することができる。本発明において用いるDMAEMAm、即ち、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドは、pKaの値が中性であるが、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートとは異なり、加水分解されにくいという性質、及び温度の変化により化合物の性質が変化しにくいという性質を備えている。従って、このDMAEMAmを重合してなる重合体を分岐鎖に有する遺伝子導入剤は、血清を含む培地において、アニオン性のタンパクの影響を受けずに高い遺伝子導入活性を示す。
このような本発明の遺伝子導入剤を製造する方法に特に制限はないが、少なくとも、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物からなるイニファターと、DMAEMAmとを含む溶液に対し、波長が360〜390nmであり、照射強度が0.5mW/cm2以下である光を5時間以上照射する本発明の遺伝子導入剤の製造方法により製造することが好ましい。
以下に、本発明の遺伝子導入剤を、本発明の遺伝子導入剤の製造方法により製造する場合の製造手順に従って説明するが、本発明の遺伝子導入剤の製造方法は、何ら以下の方法に限定されるものではない。
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
前記イニファターとなるN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する芳香族化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基、好ましくはN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖化合物としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖化合物としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖化合物としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンが挙げられる。なお、ここで、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基に含まれるジアルキル部分のアルキル基としては、エチル基等の炭素数2〜18個のアルキル基が好ましいが、アルキル基に限らず、フェニル基など芳香族系の炭化水素基であっても構わない。即ち、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基に限らず、N,N−ジアリールジチオカルバミルメチル基等を含む、脂肪族炭化水素基及び/又は芳香族炭化水素基で置換されたN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基であれば目的を達成することができる。
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンが好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン特にトルエンが好適である。
イニファターと前記DMAEMAmとを反応させるには、イニファター、及びDMAEMAmを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対し、DMAEMAmが結合した反応生成物を生成させる。
該原料溶液中のDMAEMAmの濃度は0.05M以上、例えば0.05M〜2.5Mが好適であり、イニファターの濃度は0.5〜20mM程度が好適である。
照射する光の波長は360〜390nm程度が好適であり、例えばショートアークキセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯などを用いることができ、光の照射強度としては、0.5mW/cm2以下が好ましく、特に0.03〜0.3mW/cm2程度が好ましい。照射強度を高くすると、逆反応を生じさせる330〜350nm程度の影響が大きくなるため好ましくない。また、照射強度が低いと、重合時間を著しく長くする必要があるため、効率的ではない。
光の照射時間としては、5時間以上で、用いた光の照射強度、目的とするDMAEMAmの重合度(遺伝子導入剤の分子量)に応じて適宜設定されるが、通常、10〜500時間、特に24〜168時間程度が好ましい。照射強度を低く設定した場合は、重合反応が緩やかに進行するため照射時間を長めに設定することが好ましいが、照射時間が徒に長いと、製造効率が低下する。
この光照射により、反応液中に目的とする分岐鎖を有する分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤が生成するので、必要に応じ精製することにより、分岐鎖部分にDMAEMAm単位よりなるポリマー鎖が導入され、分岐鎖の末端がN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基であるホモポリマーを得る。
この分岐型重合体の分岐鎖の1本当たりの分子量としては、1,500〜150,000程度、特に3,000〜100,000程度が好ましい。この分子量は、光照射の時間を制御することにより調整することができる。即ち、照射時間を長くすることにより、重合反応を進行させて分子量の大きい分岐型重合体を得ることができる。
なお、本明細書において、分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリエチレングリコール換算の数平均分子量をさす。
本発明に係る分岐型重合体の分岐鎖は、前述のDMAEMAmをモノマーとする1種のモノマーのみからなるホモポリマーであることが好ましいが、DMAEMAmとDMAEMAmとは異なる1種以上のモノマーを導入したブロックコポリマー又はランダムコポリマーであってもよい。
この場合の他のモノマーとしては、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等のビニル系モノマーが好適であり、具体的には、N,N−ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、4−N,N-ジメチルアミノスチレン、及び4−アミノスチレンの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のビニル系モノマーが挙げられ、特に、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のカチオン性ビニル系モノマーが好ましい。これらのビニル系モノマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明の遺伝子導入剤に含まれるDMAEMAm単位の合計の分子量は、分岐鎖の鎖数にもよるが、7,000〜700,000程度、特に100,000〜500,000程度が好ましく、遺伝子導入剤の分子量としては、10,000〜10,000,000程度、特に150,000〜600,000程度が好ましい。分子量が小さいと、効率的に遺伝子を導入することができず、分子量が大きすぎると、生体内において異物として認識されるおそれがある。
[核酸複合体]
上記の本発明の遺伝子導入剤(ベクター)が核酸を包接することにより、生体内の酵素による核酸の失活、分解を抑制することができる。
上記の本発明の遺伝子導入剤(ベクター)が核酸を包接することにより、生体内の酵素による核酸の失活、分解を抑制することができる。
上記遺伝子導入剤と核酸とを複合させるには、遺伝子導入剤の濃度0.1〜1000μg/mL程度の溶液に対し、核酸を添加し混合すればよい。核酸に対して遺伝子導入剤を過剰量添加し、核酸に対して遺伝子導入剤を飽和状態にして遺伝子導入剤と核酸とを複合化することが好ましい。
核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子),p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子,IL−2遺伝子,IL−4遺伝子,HLA−B7/IL−2遺伝子,HLA−B7/B2M遺伝子,IL−7遺伝子,GM−CSF遺伝子,IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100,MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
また、VEGF遺伝子,HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス,c−mybアンチセンス,cdc2キナーゼアンチセンス,PCNAアンチセンス,E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
核酸複合体の粒子径は50〜400nm程度が好適である。この粒子径は、例えばレーザを用いた動的光散乱法によって測定される。粒子径がこれよりも小さいと、核酸複合体内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれ、あるいは腎臓にて濾過排出されるおそれがある。また、これよりも大きいと、細胞に導入されにくくなるおそれがある。本発明の核酸複合体の特に好適な粒子径は、150〜300nmである。即ち、小さい粒子ほど細胞内へ取り込まれやすく、当業者においては、核酸複合体の粒子径は一般に100nm以下が好ましいとされ、従来、このような粒子径が核酸複合体の設計に広く利用されている。これに対して、本発明者らの検討により、その理由の詳細は未だ明らかとなってはいないが、核酸複合体の粒子径は100μmより大きく、150〜300nmが好ましいことが判明した。
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
[遺伝子導入方法]
本発明の遺伝子導入方法では、核酸複合体と細胞とを血清存在下で接触させることにより細胞に遺伝子を導入する。核酸複合体と細胞とを血清存在下で接触させることにより、細胞に負担をかけることなく核酸を細胞に移行させることができる。
本発明の遺伝子導入方法では、核酸複合体と細胞とを血清存在下で接触させることにより細胞に遺伝子を導入する。核酸複合体と細胞とを血清存在下で接触させることにより、細胞に負担をかけることなく核酸を細胞に移行させることができる。
本発明において、核酸を導入する対象として望ましい「細胞」としては、当該核酸の機能発現が求められるものであり、このような細胞としては、例えば使用する核酸(すなわちその機能)に応じて種々選択され、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞、骨髄細胞、骨細胞、血球幹細胞、血球細胞等が挙げられる。また、単球、樹状細胞、マクロファージ、組織球、クッパー細胞、破骨細胞、滑膜A細胞、小膠細胞、ランゲルハンス細胞、類上皮細胞、多核巨細胞等、消化管上皮細胞・尿細管上皮細胞などである。
本発明の核酸複合体は培養試験に用いるほか、任意の方法で生体に投与することができる。
生体への投与方法としては静脈内又は動脈内への注入が特に好ましいが、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与の他に病変組織内に直接投与することも可能である。
この核酸複合体を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら担体は公知のものが使用できる。
また、この核酸複合体を有効成分とする医薬は、含まれる核酸の種類が異なる2種以上の核酸含有複合体を含めたものも包含される。このような複数の治療目的を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に有用である。
投与量としては、動物、特にヒトに投与される用量は目的の核酸、投与方法および治療される特定部位等、種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分であるべきである。
この核酸複合体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の病変を生じる循環器領域での疾患に加え、癌(悪性黒色腫、脳腫瘍、転移性悪性腫瘍、乳癌等)、感染症(HIV等)、単一遺伝病(嚢胞性線維症、慢性肉芽腫、α1−アンチトリプシン欠損症、Gaucher病等)等が挙げられる。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(1) 2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド(DMAEMAm)の合成
2−N,N−ジメチルアミノエチルアミンに硫酸マグネシウムを加え、24時間静置した後、窒素雰囲気下で硫酸マグネシウムを濾別した。濾液である2−N,N−ジメチルアミノエチルアミンは氷冷した。500mLの3口フラスコを250℃で加熱乾燥処理を行った後、高純度窒素雰囲気下で室温まで冷却した。次いで、この500mLの3口フラスコに塩化メタクリロイル100gを加えて窒素置換を行いながら氷冷した。塩化メタクリロイルを撹拌しながら、窒素雰囲気下で前記2−N,N−ジメチルアミノエチルアミンを滴下漏斗により滴下した。2−N,N−ジメチルアミノエチルアミンの滴下終了後、液温を徐々に室温まで戻し、液温が室温に達した時点から、さらに6時間撹拌を行った。この溶液に対して、脱水ピリジンを50mL加え、沈殿を濾別し、濾液の減圧蒸留を行うことにより、ピリジン、未反応の2−N,N−ジメチルアミノエチルアミンを分留し、目的とするモノマー成分である2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドを得た。この2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドは無色透明であった。
2−N,N−ジメチルアミノエチルアミンに硫酸マグネシウムを加え、24時間静置した後、窒素雰囲気下で硫酸マグネシウムを濾別した。濾液である2−N,N−ジメチルアミノエチルアミンは氷冷した。500mLの3口フラスコを250℃で加熱乾燥処理を行った後、高純度窒素雰囲気下で室温まで冷却した。次いで、この500mLの3口フラスコに塩化メタクリロイル100gを加えて窒素置換を行いながら氷冷した。塩化メタクリロイルを撹拌しながら、窒素雰囲気下で前記2−N,N−ジメチルアミノエチルアミンを滴下漏斗により滴下した。2−N,N−ジメチルアミノエチルアミンの滴下終了後、液温を徐々に室温まで戻し、液温が室温に達した時点から、さらに6時間撹拌を行った。この溶液に対して、脱水ピリジンを50mL加え、沈殿を濾別し、濾液の減圧蒸留を行うことにより、ピリジン、未反応の2−N,N−ジメチルアミノエチルアミンを分留し、目的とするモノマー成分である2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドを得た。この2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドは無色透明であった。
1H−NMR(in CDCl3)の測定結果は、δ1.9ppm(s,3H),δ2.2ppm(s,6H),δ2.5ppm(t,2H),δ3.4ppm(t,2H),δ5.2ppm(s,1H),δ5.7ppm(s,1H),δ6.5ppm(br,1H)であった。
(2) イニファターの合成
イニファターとしての1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
イニファターとしての1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)5.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム34.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下、室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、3Lのメタノール中に投入して30分間攪拌した後、濾過した。この操作を繰り返し合計4回行った。沈殿物をトルエン200mLへ溶解した後、100mLのメタノールを加えて50℃に加温し、冷蔵庫内で15時間保管して再結晶させ、結晶を濾別後に大量のメタノールで洗浄した。結晶を室温で減圧乾燥して、白色の1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
1H−NMR(in CDCl3)の測定結果は、δ1.26−1.31ppm(t,24H,CH2CH3),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CH2CH3)2),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CH2CH3)2),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH2),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)であった。
(3) DMAEMAmを重合してなる分岐鎖を有する分岐型重合体の合成(実施例1)
2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドをモノマーとして用い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド)−メチル]ベンゼンよりなる分岐型重合体の合成を行った。
2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドをモノマーとして用い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド)−メチル]ベンゼンよりなる分岐型重合体の合成を行った。
即ち、上記(2)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、(1)において合成した2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド(DMAEMAm)9.0gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで10分間パージした後、密栓した。このガラスセルに対して、300Wショートアークキセノンランプ(朝日分光社製、MAX−301)にHQBPフィルター370を装着した装置を用い、波長370±5nmの光のみを18時間照射した。照射強度は、ウシオ電機社のUIT−150にUVD−C405(検出波長範囲320〜470nm)を装着して0.25mW/cm2に調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、n−ヘキサンで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/n−ヘキサン系で6回再沈殿を繰り返して精製し、n−ヘキサンを蒸散させ、重合体を得た。この重合体を少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過した後、凍結乾燥させて目的とする4分岐型重合体よりなる非感温性非加水分解性弱塩基性ホモポリマーを得た。このホモポリマーのポリエチレングリコールを標準物質とした数平均分子量は、GPCにより、19,000(Mw/Mn=1.8)と測定された。また、計算により分岐鎖1本当たりの分子量は、4569であることが分かった。
(4) DMAEMAmを重合してなる分岐鎖を有する分岐型重合体の合成(参考例1〜16)
2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドをモノマーとして用い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド)−メチル]ベンゼンよりなる分岐型重合体の合成を行った。
2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドをモノマーとして用い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド)−メチル]ベンゼンよりなる分岐型重合体の合成を行った。
上記(2)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン22.8mgを20mLのトルエンへ溶解し、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド9.0gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで10分間パージした後に、300Wショートアークキセノンランプ(朝日分光社製、MAX−301)で、波長250〜400nmの混合紫外線を2時間照射した。照射強度は、ウシオ電機社のUIT−150にUVD−C405(検出波長範囲320〜470nm)を装着して2.5mW/cm2に調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、n−ヘキサンで重合物を再沈殿させ、実施例1と同様の精製操作を行うことにより目的とする参考例1の分岐型重合体を得た。
1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの配合量、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドの配合量、混合紫外線の照射時間、混合紫外線の照射強度を表1に示す通り変化させたこと以外は、参考例1と同様の操作を行い、目的とする参考例2〜16の分岐型重合体を得た。
参考例1〜16のホモポリマーのポリエチレングリコールを標準物質とした数平均分子量は、GPCにより、3,000〜6,700(Mw/Mn=1.5〜1.8)と測定された。また、計算により分岐鎖1本当たりの分子量は、704〜1494であることが分かった。
(5) DMAEMAmを重合してなる分岐鎖を有する分岐型重合体の合成(実施例2)
上記(2)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド9.0gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル(直径50mm)中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで10分間パージした後に密栓した。丸管型(O字形)蛍光灯(東芝製、FCL30L)の中央部にガラスセルとマグネットスターラーを配置し、ガラスセルの全周方向から蛍光灯の光を96時間照射した。照射後の溶液の色は、薄い黄色であった。この重合溶液をエバポレーターで濃縮し、n−ヘキサンで重合物を再沈殿させ、実施例1と同様の精製操作を行うことにより目的とする重合体を得た。
上記(2)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド9.0gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル(直径50mm)中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで10分間パージした後に密栓した。丸管型(O字形)蛍光灯(東芝製、FCL30L)の中央部にガラスセルとマグネットスターラーを配置し、ガラスセルの全周方向から蛍光灯の光を96時間照射した。照射後の溶液の色は、薄い黄色であった。この重合溶液をエバポレーターで濃縮し、n−ヘキサンで重合物を再沈殿させ、実施例1と同様の精製操作を行うことにより目的とする重合体を得た。
このホモポリマーのポリエチレングリコールを標準物質とした数平均分子量は、GPCにより、26,000(Mw/Mn=2.0)と測定された。また、計算により分岐鎖1本当たりの分子量は、6319であることが分かった。
(6) 3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドを重合してなる分岐鎖を有する分岐型重合体の合成(比較例1)
3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドをカチオン性ビニル系モノマーとして用い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼンよりなる分岐型重合体の合成を行った。
3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドをカチオン性ビニル系モノマーとして用い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼンよりなる分岐型重合体の合成を行った。
即ち、上記(2)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド3.4gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後、300Wショートアークキセノンランプ(朝日分光社製、MAX−301)で250nm〜400nmの混合紫外線を15分間照射した。照射強度はウシオ電機社のUIT−150にUVD−C405(検出波長範囲320nm〜470nm)を装着して2.5mW/cm2に調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿を繰り返して精製し、エーテルを蒸散させた後に少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて目的とする4分岐型重合体よりなる非感温性カチオン性ホモポリマーを得た。この非感温性カチオン性ホモポリマーの数平均分子量は、GPCにより13,000(Mw/Mn=1.3)と測定された。なお、この非感温性カチオン性ホモポリマーを比較例1の遺伝子導入剤とする。
1H NMR(in D2O)の測定結果は、δ1.5−1.8ppm(br,2H,−CH2CH2CH2−),δ2.1−2.2ppm(br,6H,N−CH3),δ2.2−2.4ppm(br,2H,CH2−N),δ3.0−3.4ppm(br,2H,NH−CH2),δ7.4−7.8ppm(br,1H,−NH−)であった。
(7) 2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートを重合してなる分岐鎖を有する分岐型重合体の合成(比較例2)
2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートをカチオン性ビニル系モノマーとして用い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)−メチル]ベンゼンよりなる分岐型重合体の合成を行った。
2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートをカチオン性ビニル系モノマーとして用い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)−メチル]ベンゼンよりなる分岐型重合体の合成を行った。
即ち、上記(2)にて合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート8.5gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで10分間パージした後に、300Wショートアークキセノンランプ(朝日分光社製、MAX−301)で、波長250〜400nmの混合紫外線を60分間照射した。照射強度は、ウシオ電機社のUIT−150にUVD−C405(検出波長範囲320〜470nm)を装着して2.5mW/cm2に調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、n−ヘキサンで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/n−ヘキサン系で3回再沈殿を繰り返して精製し、n−ヘキサンを蒸散させた後に少量のベンゼンへ溶解し、0.2μmフィルターで濾過した後、凍結乾燥させて、目的とする4分岐型スター型重合体よりなる感温性カチオン性ホモポリマーを得た。この感温性カチオン性ホモポリマーのポリエチレングリコールを標準物質とした数平均分子量は、GPCにより、11,000(Mw/Mn=1.4)と測定された。
1H−NMR(in CD3OD)の測定結果は、δ0.8−1.2ppm(br,3H,−CH2−CH3−),δ1.6−2.0ppm(br,2H,−CH2−CH3−),δ2.2−2.4ppm(br,6H,N−CH3),δ2.5−2.7ppm(br,2H,CH2−N),δ4.0−4.2ppm(br,2H,O−CH2)であった。
なお、上記(3),(6),(7)においてモノマーとして用いた化合物の特性は次の表2の通りである。
(8) In Vitro系での遺伝子導入活性の評価
次の(I)〜(III)の手順に従って、遺伝子導入剤の溶液を調製し、遺伝子導入活性の評価を行った。
次の(I)〜(III)の手順に従って、遺伝子導入剤の溶液を調製し、遺伝子導入活性の評価を行った。
(I) 遺伝子導入剤の溶液の調製
細胞にはアフリカミドリサル腎細胞の由来のCOS-1を使用し、DNAにはpGL3コントロールベクターを使用した。COS-1細胞は細胞数を4万個/mLに調整して24Well培養皿へ播種し、培養24時間後に遺伝子導入を行った。上記(3),(6),(7)において合成した分岐型重合体よりなるポリマーを遺伝子導入剤として、それぞれ生理食塩水へ溶解し、濃度(ポリマー/食塩水)を8μg/60μLのポリマー溶液とした。DNAはTEバッフアーへ溶解し、濃度(DNA/バッファー)を3μg/90μLとした。
細胞にはアフリカミドリサル腎細胞の由来のCOS-1を使用し、DNAにはpGL3コントロールベクターを使用した。COS-1細胞は細胞数を4万個/mLに調整して24Well培養皿へ播種し、培養24時間後に遺伝子導入を行った。上記(3),(6),(7)において合成した分岐型重合体よりなるポリマーを遺伝子導入剤として、それぞれ生理食塩水へ溶解し、濃度(ポリマー/食塩水)を8μg/60μLのポリマー溶液とした。DNAはTEバッフアーへ溶解し、濃度(DNA/バッファー)を3μg/90μLとした。
(II) 血清を含む培地における遺伝子導入活性評価
上記(I)において調製した各ポリマー溶液とDNA溶液とを室温(25℃)で混合した後、溶液を37℃に加温して核酸複合体を形成させた。この核酸複合体25μLを1mLの完全培地(DMEM+10重量%FCS+抗生物質)へ加え、30分間インキュベートした。この約1mLの核酸複合体完全培地溶液と、37℃のPBSで洗浄した培養細胞とを接触させ、48時間培養を行った。48時間後、ルシフェラーゼアッセにより遺伝子導入活性の評価を行った(プロメガ社製アッセイキット試薬)。補正はタンパク濃度で行い、タンパク定量はBioRad社のBradford試薬で行った。
上記(I)において調製した各ポリマー溶液とDNA溶液とを室温(25℃)で混合した後、溶液を37℃に加温して核酸複合体を形成させた。この核酸複合体25μLを1mLの完全培地(DMEM+10重量%FCS+抗生物質)へ加え、30分間インキュベートした。この約1mLの核酸複合体完全培地溶液と、37℃のPBSで洗浄した培養細胞とを接触させ、48時間培養を行った。48時間後、ルシフェラーゼアッセにより遺伝子導入活性の評価を行った(プロメガ社製アッセイキット試薬)。補正はタンパク濃度で行い、タンパク定量はBioRad社のBradford試薬で行った。
(III) 血清を含まない培地における遺伝子導入活性の評価
上記(I)で調製した各ポリマー溶液と、DNA溶液とを室温(25℃)で混合した後、溶液を37℃に加温して核酸複合体を形成させた。この核酸複合体25μLを200μLの無血清培地(OPTI−MEM)へ加えて30分間インキュベートした。37℃のPBSで洗浄した培養細胞へこの核酸複合体のOPTI−MEM溶液約200μLを加え、3時間トランスフェクションした後に完全培地1mLを加え、さらに45時間培養を行った。45時間後、ルシフェラーゼアッセにより遺伝子導入活性の評価を行った(プロメガ社アッセイキット試薬)。補正はタンパク濃度で行い、タンパク定量はBioRad社のBradford試薬で行った。
上記(I)で調製した各ポリマー溶液と、DNA溶液とを室温(25℃)で混合した後、溶液を37℃に加温して核酸複合体を形成させた。この核酸複合体25μLを200μLの無血清培地(OPTI−MEM)へ加えて30分間インキュベートした。37℃のPBSで洗浄した培養細胞へこの核酸複合体のOPTI−MEM溶液約200μLを加え、3時間トランスフェクションした後に完全培地1mLを加え、さらに45時間培養を行った。45時間後、ルシフェラーゼアッセにより遺伝子導入活性の評価を行った(プロメガ社アッセイキット試薬)。補正はタンパク濃度で行い、タンパク定量はBioRad社のBradford試薬で行った。
上記(II),(III)の遺伝子導入活性の評価結果を図1,2に示す。
[考察]
(1) 実施例1,2、参考例1〜16の分岐型重合体に関する考察
一般的な光照射リビング重合おける反応性の制御方法としては、光照射強度を上げる、光照射時間を長くする、モノマー濃度を高くする、イニファター濃度を低くする、温度を上げて溶液粘度を下げる等の方法が挙げられる。しかしながら、参考例1〜16の結果より明らかなように、モノマーとして2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドを用いた場合には、前記反応性の制御方法の検討を行っても分子量が10,000を超える分岐型重合体を得ることはできなかった。
(1) 実施例1,2、参考例1〜16の分岐型重合体に関する考察
一般的な光照射リビング重合おける反応性の制御方法としては、光照射強度を上げる、光照射時間を長くする、モノマー濃度を高くする、イニファター濃度を低くする、温度を上げて溶液粘度を下げる等の方法が挙げられる。しかしながら、参考例1〜16の結果より明らかなように、モノマーとして2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミドを用いた場合には、前記反応性の制御方法の検討を行っても分子量が10,000を超える分岐型重合体を得ることはできなかった。
これは、光照射リビング重合に用いる一般的な照射強度の照射光が、正反応を生じさせる波長の光と逆反応を生じさせる波長の光とを含み、正反応の反応速度と、逆反応の反応速度とが拮抗しているためであると考えられる。また、他の要因として、DMAEMAmをモノマーとして用いる光照射リビング重合では、成長ラジカルの連鎖移動が生じにくい、イニファターが分解しやすくなる、ジチオカルバメート基の不可逆的な解離が拮抗する等が考えられる。
これに対して、実施例1では、波長370±5nmの光のみを0.25mW/cm2という低照射強度で18時間照射することにより、細胞に対して遺伝子を導入するのに十分な19,000という数平均分子量を有する遺伝子導入剤を効率的に得ている。
実施例2では、可視光を放出する一般的な蛍光灯を用いている。このような蛍光灯は、可視光の他に、人体に影響がない程度に365nmの近紫外光も放出しているため、この365nmの波長の光によりリビング重合が進行したと考えられる。この蛍光灯が放出する365nmの光の照射強度は、蛍光灯の相対強度から算出すると、0.1mW/cm2程度と予測される。
(2) 実施例1、比較例1,2の分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤の遺伝子導入活性に関する考察
他の2つのモノマーに比べて高pKaモノマーを用いた比較例1の遺伝子導入剤は、血清を含まない培地においては高い遺伝子導入活性を示したが、血清を含む培地においては遺伝子導入活性が低下した。これは、高pKaのカチオン性ポリマーは効率よくDNAを濃縮することができるが、血清を含む培地では、血清中のアニオン性タンパクなどの作用を受けるためであると考えられる。比較例1に比べて低pKaモノマーを用いた比較例2の遺伝子導入剤は、血清を含む培地、血清を含まない培地のいずれにおいても同程度の遺伝子導入活性を示した。これは、低pKaのモノマーよりなる遺伝子導入剤が、培養環境のpH条件下においても電荷量が少なく、血清に含まれるアニオン性タンパクなどの影響を受けにくいためであると考えられる。一方、実施例1の遺伝子導入剤は、血清を含まない培地、血清を含む培地のいずれにおいても、比較例2の遺伝子導入剤より高い遺伝子導入活性を示し、且つ血清を含まない培地に比べて血清を含む培地の方が遺伝子導入活性が高い。これは、実施例1の遺伝子導入剤が、低pKaであり、加水分解されにくく、温度の変化により性質が変化しにくいDMAEMAmにより構成されているためであると考えられる。
他の2つのモノマーに比べて高pKaモノマーを用いた比較例1の遺伝子導入剤は、血清を含まない培地においては高い遺伝子導入活性を示したが、血清を含む培地においては遺伝子導入活性が低下した。これは、高pKaのカチオン性ポリマーは効率よくDNAを濃縮することができるが、血清を含む培地では、血清中のアニオン性タンパクなどの作用を受けるためであると考えられる。比較例1に比べて低pKaモノマーを用いた比較例2の遺伝子導入剤は、血清を含む培地、血清を含まない培地のいずれにおいても同程度の遺伝子導入活性を示した。これは、低pKaのモノマーよりなる遺伝子導入剤が、培養環境のpH条件下においても電荷量が少なく、血清に含まれるアニオン性タンパクなどの影響を受けにくいためであると考えられる。一方、実施例1の遺伝子導入剤は、血清を含まない培地、血清を含む培地のいずれにおいても、比較例2の遺伝子導入剤より高い遺伝子導入活性を示し、且つ血清を含まない培地に比べて血清を含む培地の方が遺伝子導入活性が高い。これは、実施例1の遺伝子導入剤が、低pKaであり、加水分解されにくく、温度の変化により性質が変化しにくいDMAEMAmにより構成されているためであると考えられる。
(3) 分岐鎖を構成するモノマーが加水分解性を備えないことの利点
前記分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤は、ジチオカルバメート基の光開裂性を利用して合成を行っているため、分岐鎖の末端はジチオカルバメート基となる。このジチオカルバメート基は、前記分岐型重合体同士を架橋するのに利用することができるといった利点があるものの、光によるラジカルの発生に伴う分子内/分子間での架橋、及び分子鎖を切断する分解反応など、意図しない反応が生じ、経時変化の要因となる。このジチオカルバメート基を失活させる方法として、ジチオカルバメート基を加水分解によりSH基に官能基変換を行う方法があるが、分岐鎖が容易に加水分解されるモノマーよりなる場合、この方法を用いることはできない。つまり、加水分解されにくいDMAEMAmをモノマーとして用いる本発明の遺伝子導入剤は、ジチオカルバメート基を加水分解によりSH基に官能基変換を行うことが可能であるため、遺伝子導入剤を長期に渡って保存することができる。
前記分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤は、ジチオカルバメート基の光開裂性を利用して合成を行っているため、分岐鎖の末端はジチオカルバメート基となる。このジチオカルバメート基は、前記分岐型重合体同士を架橋するのに利用することができるといった利点があるものの、光によるラジカルの発生に伴う分子内/分子間での架橋、及び分子鎖を切断する分解反応など、意図しない反応が生じ、経時変化の要因となる。このジチオカルバメート基を失活させる方法として、ジチオカルバメート基を加水分解によりSH基に官能基変換を行う方法があるが、分岐鎖が容易に加水分解されるモノマーよりなる場合、この方法を用いることはできない。つまり、加水分解されにくいDMAEMAmをモノマーとして用いる本発明の遺伝子導入剤は、ジチオカルバメート基を加水分解によりSH基に官能基変換を行うことが可能であるため、遺伝子導入剤を長期に渡って保存することができる。
(4) 分岐鎖を構成するモノマーが温度感応性を示さないことの利点
温度感応性を示すモノマーを構成単位として有する温度感応性の遺伝子導入剤には、生体内のターゲット付近の温度で最も活性が高くなるように設計することができるという利点があるが、生体内のターゲット付近の温度が常に一定であるとは限らないという問題点もある。これに対して、本発明の遺伝子導入剤の分岐鎖に用いるモノマーであるDMAEMAmは、温度感応性を示さないため生体内においても遺伝子導入剤の性質が変化することがない。
温度感応性を示すモノマーを構成単位として有する温度感応性の遺伝子導入剤には、生体内のターゲット付近の温度で最も活性が高くなるように設計することができるという利点があるが、生体内のターゲット付近の温度が常に一定であるとは限らないという問題点もある。これに対して、本発明の遺伝子導入剤の分岐鎖に用いるモノマーであるDMAEMAmは、温度感応性を示さないため生体内においても遺伝子導入剤の性質が変化することがない。
Claims (12)
- 分岐鎖を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤において、
該分岐鎖は、少なくとも2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド及び/又はその誘導体を重合してなる重合体よりなることを特徴とする遺伝子導入剤。 - 請求項1において、前記遺伝子導入剤は、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくとも前記2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド及び/又はその誘導体を光照射リビング重合させてなる分岐型重合体であることを特徴とする遺伝子導入剤。
- 請求項2において、前記N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合したものであることを特徴とする遺伝子導入剤。
- 請求項1ないし3のいずれか1項において、前記遺伝子導入剤に含まれる2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド及び/又はその誘導体由来の構成単位の分子量が、7,000〜700,000であることを特徴とする遺伝子導入剤。
- 請求項1ないし4のいずれか1項において、前記分岐鎖は、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド及び/又はその誘導体のみを重合してなる重合体よりなることを特徴とする遺伝子導入剤。
- 請求項1ないし5のいずれか1項において、前記分岐鎖の1本当たりの分子量が、1,500〜150,000であることを特徴とする遺伝子導入剤。
- 請求項1ないし6のいずれか1項において、前記遺伝子導入剤の分子量が、10,000〜10,000,000であることを特徴とする遺伝子導入剤。
- 請求項1ないし7のいずれか1項に記載の遺伝子導入剤を製造する方法であって、
少なくとも、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物からなるイニファターと、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド及び/又はその誘導体とを含む溶液に対し、波長が360〜390nmであり、照射強度が0.5mW/cm2以下である光を5時間以上照射することを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。 - 請求項8において、前記光は、波長が365〜375nmであり、照射強度が0.03〜0.3mW/cm2であることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
- 請求項8又は9において、前記溶液に対し前記光を10〜500時間照射することを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
- 請求項1ないし7のいずれか1項に記載の遺伝子導入剤と核酸とを複合させてなる核酸複合体。
- 請求項11に記載の核酸複合体と細胞とを血清存在下で接触させることにより細胞に遺伝子を導入する遺伝子導入方法。
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JP2009239496A JP2011083243A (ja) | 2009-10-16 | 2009-10-16 | 遺伝子導入剤、遺伝子導入剤の製造方法、及び核酸複合体並びに遺伝子導入方法 |
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WO2011108624A1 (ja) * | 2010-03-03 | 2011-09-09 | 独立行政法人国立循環器病研究センター | 含窒素化合物重合体及びその製造方法、並びに遺伝子導入剤 |
JPWO2013099924A1 (ja) * | 2011-12-28 | 2015-05-07 | 独立行政法人国立循環器病研究センター | 核酸導入された細胞の製造方法 |
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2009
- 2009-10-16 JP JP2009239496A patent/JP2011083243A/ja not_active Withdrawn
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