JP2009242889A - 多硫化物の製造に用いる電解槽の停止・保持方法及び多硫化物の製造方法 - Google Patents

多硫化物の製造に用いる電解槽の停止・保持方法及び多硫化物の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】パルプ製造工程における白液から電解法により高濃度の多硫化硫黄を含む蒸解液を高効率かつ低電力で製造する方法において、電解槽の性能を維持するのに重要な停止・保持方法を得る。
【解決手段】多孔性アノードを配するアノード室と、カソード室と、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有し、アノード室に硫化物イオンを含む水溶液を導入し、カソード室に苛性ソーダを含む水溶液を導入して、電解酸化で多硫化硫黄を含む多硫化物の製造ための電解槽において、電解酸化を停止する際に硫化物イオン濃度が0.1wt%以下、かつ炭酸イオン濃度が0.1wt%以下であるアルカリ性水溶液で該アノード室を置換する。
【選択図】図2

Description

本発明は、電解酸化による多硫化物の製造に用いる電解槽の停止・保持方法に関し、またパルプ製造のために使用する多硫化物を効率的に製造する方法に関する。
木材資源の有効利用として、化学パルプの高収率化は重要な課題である。この化学パルプの主流をなすクラフトパルプの高収率化技術の一つとして多硫化物蒸解プロセスがある。多硫化物蒸解プロセスにおける蒸解薬液は、硫化ナトリウムを含むアルカリ性水溶液、いわゆる白液を、下記反応式(1)のように活性炭等の触媒の存在下で空気等の分子状酸素により酸化することにより製造される(特許文献1〜2)。
この方法により硫化物イオンベースで転化率60%、選択率60%程度で多硫化硫黄濃度が5g/L程度の多硫化物蒸解液を得ることができる。しかし、この方法では転化率を上げた場合に、下記反応式(2)、(3)で示される副反応により蒸解には全く寄与しないチオ硫酸イオンが多く副生するため、高濃度の多硫化硫黄を含む蒸解液を高選択率で製造することは困難であった。
Figure 2009242889
ここで多硫化硫黄とは、ポリサルファイドサルファ(PS−S)とも称し、例えば、多硫化ナトリウムNa2Xにおける価数0の硫黄、すなわち、原子(x−1)個分の硫黄をいう。また、多硫化物イオン中の酸化数−2の硫黄に相当する硫黄(Sx2-またはNa2Xにつき1原子分の硫黄)及び硫化物イオン(S2-)を総称したものを本明細書中ではNa2S態硫黄と表す。なお、本明細書では容量の単位リットルをLで表す。
また、特許文献3には多硫化物蒸解液の電解製造方法が開示されている。この方法は、少なくとも表面がニッケルまたはニッケルを50wt%(wt%=質量%。以下同じ)以上含有するニッケル合金からなる物理的に連続な三次元の網目構造を有し、かつアノード室の単位体積当りのアノードの表面積が500〜20000m2/m3である多孔性アノードを配するアノード室と、カソードを配するカソード室と、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有する電解槽のアノード室に硫化物イオンを含有する溶液を導入し、電解酸化により多硫化物イオンを得ることを特徴とする多硫化物の製造方法である。
特開昭61−259754号公報 特開昭53−92981号公報 特開平11−343106号公報
しかしながら、そのような電解槽による多硫化物の製造方法において、電解酸化を停止・保持した後、再び電解酸化を開始する際に、電解酸化に要する電圧が停止前よりも高くなるという問題があった。この問題は、多硫化物の製造に要する電力の上昇をもたらすので、経済的に好ましくない。
本発明は、上記課題を解決する多硫化物の製造に用いる電解槽の停止・保持方法及び多硫化物の製造方法を提供することを目的とし、より具体的には、多孔性アノードを配するアノード室と、カソード室と、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有し、溶液中の硫化物イオンから電解法により高濃度の多硫化硫黄を得ることを可能とする電解槽、特に、パルプ製造工程における白液または緑液から電解法により高濃度の多硫化硫黄を含む蒸解液を、チオ硫酸イオンの副生を極めて少なくして高選択率でかつ低電力で製造することを可能とする電解槽において、電解槽の性能を維持するのに重要な電解酸化の停止・保持方法、および、その停止・保持方法を利用ないし組み込んだ多硫化物の製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明においては、前記課題を、多孔性アノードを配するアノード室と、カソード室と、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有し、アノード室に硫化物イオンを含む水溶液を導入し、カソード室に苛性ソーダを含む水溶液を導入して、電解酸化で多硫化硫黄を含む多硫化物の製造ための電解槽において、電解酸化を停止する際に硫化物イオン濃度が0.1wt%以下、かつ炭酸イオン濃度が0.1wt%以下であるアルカリ性水溶液で該アノード室を置換することによって解決するものである。
すなわち、本発明(1)は、多孔性アノードを配するアノード室と、カソード室と、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有し、アノード室に硫化物イオンを含む水溶液を導入し、カソード室に苛性ソーダを含む水溶液を導入して、電解酸化で多硫化硫黄を含む多硫化物を製造するための電解槽において、電解酸化を停止する際に硫化物イオン濃度が0.1wt%以下、かつ炭酸イオン濃度が0.1wt%以下であるアルカリ性水溶液で該アノード室を置換することを特徴とする電解槽の停止・保持方法である。
また、本発明(2)は、多孔性アノードを配するアノード室と、カソード室と、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有する電解槽のアノード室に硫化物イオンを含む溶液を導入し、該電解槽のカソード室に苛性ソーダを含む水溶液を導入して、電解酸化で多硫化硫黄を含む多硫化物を製造する方法において、電解酸化を停止する際に硫化物イオン濃度0.1wt%以下、かつ炭酸イオン濃度0.1wt%以下のアルカリ性水溶液で該アノード室を置換して、電解酸化を停止・保持した後に、電解を再開することを特徴とする多硫化物の製造方法である。
なお、本明細書中、本発明について言う“電解槽の停止・保持”、“電解酸化を停止・保持”とは、電解槽による電解酸化を停止する際に上記のとおり所定条件で停止し、電解酸化を再び開始するまで、その停止状態を保持することを意味し、この点“停止・保持”との用語を用いた同種の表現についても同様である。
本発明によれば、電解槽における電解酸化を停止・保持した後、再び電解酸化を開始する際に、電解酸化に要する電圧が停止前よりも上昇することが抑制され、さらにチオ硫酸、硫酸、酸素などの副生物が増加することもない。
本発明の停止・保持方法の対象となる電解槽は、多孔性アノードを配するアノード室と、カソード室と、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有する電解槽であり、アノード室に硫化物イオンを含む水溶液を導入し、電解酸化で多硫化硫黄を含む多硫化物を得ることが可能であれば特に限定されない。
多孔性アノードは、表面がニッケルまたはニッケルを50wt%以上含有するニッケル合金からなる物理的に連続な三次元の網目構造を有し、かつアノード室の単位体積当りのアノードの表面積が500〜20000m2/m3であるものが好ましい。アノードの表面積が500m2/m3より小さいと、アノード表面における電流密度が大きくなり、チオ硫酸イオンのような好ましくない副生物が生成し易くなるだけではなく、ニッケルがアノード溶解を起こし易くなる。アノードの表面積が20000m2/m3を超えると、液の圧力損失が大きくなるといった電解操作上の問題が生じる可能性があり好ましくない。また、アノードの網目の平均孔径は0.1〜5mmが好ましい。
アノード室に導入する硫化物イオンを含む水溶液としては、特に限定するものではないが、化学パルプ製造工程における白液や緑液が適している。白液の組成は、例えば、現在通常行われているクラフトパルプ蒸解に用いられている白液の場合、アルカリ金属イオンとして2〜6mol/Lを含有し、さらにその90wt%以上はナトリウムイオンであり、残りはほぼカリウムイオンである。
また、アニオンとしては、水酸化物イオン、硫化物イオン、炭酸イオンを主成分とし、他に硫酸イオン、チオ硫酸イオン、塩素イオン、亜硫酸イオンを含有する。さらにカルシウム、ケイ素、アルミニウム、リン、マグネシウム、銅、マンガン、鉄のような微量成分を含有する。すなわち、硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムを主成分とする。
一方、緑液の組成は、白液の主成分が硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムであるのに対して、硫化ナトリウムと炭酸ナトリウムが主成分である。緑液中のその他のアニオンや微量成分については白液と同様である。
このような白液または緑液を本発明によるアノード室に供給して電解酸化を行った場合、硫化物イオンが酸化されて多硫化物イオンが生成する。また、それに伴いアルカリ金属イオンが隔膜を通してカソード室に移動する。
カソード室の反応は、種々選択することができるが、水から水素ガスが生成する反応を利用するのが好適である。その結果生成する水酸化物イオンとアノード室から移動してきたアルカリ金属イオンから、水酸化アルカリが生成する。カソード室に導入される溶液は、実質的にアルカリ金属水酸化物の水溶液が好ましく、特に水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液であるのが好ましい。アルカリ金属水酸化物の濃度は限定しないが、例えば、1〜15mol/L、好ましくは2〜5mol/Lである。
本発明の対象となる電解槽では、電解酸化を停止・保持すると、再び電解酸化を開始する際に、電解酸化に要する電圧が停止前よりも上昇するという問題があった。この問題は、多硫化物の製造に要する電力の上昇をもたらすので、経済的に好ましくない。
また、電解酸化の停止・保持及び再開が繰り返されると、電解酸化に要する電圧が段階的に上昇する。この場合、前述した経済的な問題だけでなく、チオ硫酸、硫酸、酸素などの副生物の増加、ひいてはアノード溶解を起こす恐れがある。
上述した、電解酸化に要する電圧が停止・保持を経て上昇するという問題の原因は明らかではないが、アノード室に導入する溶液由来の硫化物イオンや炭酸イオン、あるいは電解酸化で得られる多硫化硫黄などが、電解酸化を停止・保持している間に硫化物や炭酸化物としてアノード或いは隔膜に析出することが原因と考えられる。
従って、電解酸化に要する電圧が停止・保持を経て上昇するという問題を回避するためには、電解酸化の停止・保持中に、アノード室に存在している硫化物イオンや炭酸イオンの濃度を低下させることが重要である。
これを達成するには、電解酸化を停止する際に硫化物イオンや炭酸イオンの濃度が低い液体でアノード室を置換することが有効であることは当然であるが、その際に、硫化物イオン濃度及び炭酸イオン濃度の小さいアルカリ性水溶液で置換するのが好ましい。従って、本発明では硫化物イオン濃度が0.1wt%以下、及び炭酸イオン濃度が0.1wt%以下であるアルカリ性水溶液でアノード室を置換する。硫化物イオンが存在しているアノード室を酸性水溶液で置換をすると、硫化水素が発生するので好ましくない。
上述の、アノード室を置換するために用いるアルカリ性水溶液に含有されるアルカリは特に限定されないが、6〜10wt%の苛性ソーダを含有するものが好ましい。このような苛性ソーダを含有するアルカリ性水溶液でアノード室を置換すると、停止・保持中に膜のアノード側とカソード側がほぼ同一組成の液体で満たされることとなるので好ましい。
苛性ソーダとしては、電解酸化においてカソード室で製造される苛性ソーダを用いるのが好ましい。この場合では、電解酸化を停止する際にアノード室を置換する液体、およびそのような液体を導入する設備を新たに用意する必要がない、という利点がある。
以下に実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〈比較例1〉
下記の組成をもつ白液を電解酸化により酸化した。電解条件は以下のとおりとした。アノードとしてニッケル多孔体(アノード室体積当りのアノード表面積:5600m2/m3、網目の平均孔径:0.51mm、隔膜面積に対する表面積:28m2/m2)、カソードとして鉄のエクスパンジョンメタル、隔膜としてフッ素樹脂系カチオン交換膜とから成る2室型の電解槽を組み立てた。この電解槽に下記の組成の白液を導入し、電解温度:85℃、隔膜での電流密度:6kA/m2の条件下で電解を行い、電流効率95%で多硫化硫黄(ポリサルファイドサルファ)濃度が9g/Lの多硫化物(ポリサルファイド)液を得た。また、カソード側では電流効率80%でNaOHが生成し、添加水量を調整して10wt%濃度のNaOH水溶液を得た。
〔白液組成〕
NaOH濃度;10.0wt%、Na2S濃度;3.9wt%、Na2CO3濃度;3.8wt%。
上記の電解条件で電解槽を19日間運転した後に、電解酸化を停止した。アノード室には電解酸化を停止した際の白液(多硫化物が含まれる)をそのまま満たした状態で24時間停止・保持した後に、電解酸化を再開し、更に11日間運転した。電解酸化中の電解電圧の推移を図1に示す。
〈実施例1〉
比較例1と同一の組成を持つ白液を比較例1と同様の条件、電解槽で20日間運転した後に、電解酸化を停止した。停止後速やかに、下記の組成を持つカソード液をアルカリ性水溶液としてアノード室に通液し、アノード室の入り口と出口の液組成が同様となった後に通液を停止した。24時間停止・保持後に、アノード室を白液で置換し、電解酸化を再開し、更に10日間運転した。電解酸化中の電解電圧の推移を図2に示す。
〔カソード液組成〕
NaOH濃度;9.9wt%、硫化物イオン濃度;5ppm(wt)未満、炭酸イオン濃度;5ppm(wt)未満。
〈実施例2〉
比較例1と同一の組成を持つ白液を比較例1と同様の条件、電解槽で21日間運転した後に、電解酸化を停止した。停止後速やかに、下記の組成を持つ苛性ソーダ水溶液をアルカリ性水溶液としてアノード室に通液し、アノード室の入り口と出口の液組成が同様となった後に通液を停止した。24時間停止・保持後に、アノード室を白液で置換し、電解酸化を再開し、更に9日間運転した。電解酸化中の電解電圧の推移を図3に示す。
〔苛性ソーダ水溶液組成〕
NaOH濃度;9.0wt%、硫化物イオン濃度;0.05wt%、炭酸イオン濃度;0.05wt%。
〈比較例2〉
比較例1と同一の組成を持つ白液を比較例1と同様の条件、電解槽で20日間運転した後に、電解酸化を停止した。停止後速やかに、下記の組成を持つ苛性ソーダ水溶液をアルカリ性水溶液としてアノード室に通液し、アノード室の入り口と出口の液組成が同様となった後に通液を停止した。24時間停止・保持後に、アノード室を白液で置換し、電解酸化を再開し、更に10日間運転した。電解酸化中の電解電圧の推移を図4に示す。
〔苛性ソーダ水溶液組成〕
NaOH濃度;9.0wt%、硫化物イオン濃度;0.2wt%、炭酸イオン濃度;0.2wt%。
図1〜4において実施例と比較例を比べると、電解酸化を停止した後に何らの処置をしなかった場合(比較例1)や、電解酸化を停止する際にアノード室を硫化物イオン濃度や炭酸イオン濃度が0.2wt%であるような苛性ソーダ水溶液で置換した場合(比較例2)においては、電解酸化を再開した後に電解電圧が停止前よりも高くなることが分かる。これに対して、電解酸化停止の際に硫化物イオン濃度および炭酸イオン濃度が0.1wt%以下のカソード液でアノード室を置換した場合(実施例1)や、硫化物イオン濃度および炭酸イオン濃度が0.1wt%以下の苛性ソーダ水溶液でアノード室を置換した場合(実施例2)においては、電解酸化を再開した後の電解電圧は電解酸化停止の前後でほとんど変わらないことが分かる。
比較例1の電解酸化中の電解電圧の推移を示す図 実施例1の電解酸化中の電解電圧の推移を示す図 実施例2の電解酸化中の電解電圧の推移を示す図 比較例2の電解酸化中の電解電圧の推移を示す図

Claims (4)

  1. 多孔性アノードを配するアノード室と、カソード室と、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有し、アノード室に硫化物イオンを含む水溶液を導入し、カソード室に苛性ソーダを含む水溶液を導入して、電解酸化で多硫化硫黄を含む多硫化物を製造するための電解槽において、電解酸化を停止する際に硫化物イオン濃度が0.1wt%以下、かつ炭酸イオン濃度が0.1wt%以下であるアルカリ性水溶液で該アノード室を置換することを特徴とする電解槽の停止・保持方法。
  2. 前記アノード室の置換に使用するアルカリ性水溶液が6〜10wt%の苛性ソーダを含有することを特徴とする請求項1記載の電解槽の停止・保持方法。
  3. 前記アノード室の置換に使用するアルカリ性水溶液が、前記電解槽のカソード室で製造される苛性ソーダを含む水溶液であることを特徴とする請求項2記載の電解槽の停止・保持方法。
  4. 多孔性アノードを配するアノード室と、カソード室と、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有する電解槽のアノード室に硫化物イオンを含む溶液を導入し、該電解槽のカソード室に苛性ソーダを含む水溶液を導入して、電解酸化で多硫化硫黄を含む多硫化物を製造する方法において、電解酸化を停止する際に硫化物イオン濃度0.1wt%以下、かつ炭酸イオン濃度0.1wt%以下のアルカリ性水溶液で該アノード室を置換して、電解を停止・保持した後に、電解を再開することを特徴とする多硫化物の製造方法。
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