JP2009238442A - PtRu触媒の製造方法、該製造方法により製造させた触媒、該触媒を用いた燃料電池および膜電極接合体 - Google Patents
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Abstract
【課題】PtRu触媒の触媒活性を更に高めることおよびPtRu触媒の耐久性を向上させる。
【解決手段】燃料電池の陽極触媒として用いられるPtRu触媒の製造方法であって、担体を液体に分散させるステップと、錯化剤を前記液体に添加するステップと、Pt供給源とRu供給源を前記液体に添加するステップと、前記担体、前記錯化剤、前記Pt供給源および前記Ru供給源が予め添加された前記液体に対して電子線を照射するステップと、を備える。
【選択図】図2
【解決手段】燃料電池の陽極触媒として用いられるPtRu触媒の製造方法であって、担体を液体に分散させるステップと、錯化剤を前記液体に添加するステップと、Pt供給源とRu供給源を前記液体に添加するステップと、前記担体、前記錯化剤、前記Pt供給源および前記Ru供給源が予め添加された前記液体に対して電子線を照射するステップと、を備える。
【選択図】図2
Description
本発明は、PtRu触媒の製造方法、該製造方法により製造させた触媒、該触媒を用いた燃料電池および膜電極接合体に関する。
近年、燃料電池に関する技術の進展が著しい。燃料電池は、水素/メタノールといった燃料と酸素を化学反応させて電気を発生させる。この仕組みにより、燃料電池は、従来の発電方法と比較して様々な利点を有する。
例えば、燃料電池は、水力発電のように大規模なダム施設に伴って自然破壊をもたらすこともない。同様に、燃料電池は火力発電のように石油/石炭/天然ガス等を大量に使用することもない。同様に、燃料電池は原子力発電のように事故の際の放射能汚染および寿命を迎えた原子炉の廃炉といった問題も生じさせない。
大規模な施設を必要とせず、環境汚染も起こさない発電方法として風力発電や太陽光発電が世界各国で利用されている。我が国でも一部の地域で実際に風力発電や太陽光発電が実用化されているが、これらの発電方法はその発電効率が自然現象に大きく左右され、安定した電力供給能力に欠けるという欠点がある。
常温から100℃以下の温度で作動する燃料電池として、水素ガスを燃料とするものとメタノールを燃料とするものが知られている。前者は固体高分子型燃料電池(PEFC, Polymer Electrolyte Fuel Cell)、後者は、直接メタノール型燃料電池(DMFC, Direct Methanol Fuel Cell)と呼ばれている。
水素ガスは石油を改質することにより得られ、物質量当たりに含まれる化学エネルギー量が大きい。水素ガスを燃料として使用するPEFCの場合、有害物質や地球温暖化の原因となっている二酸化炭素を発生しない。しかし、水素は引火性が極めて高く、その取り扱いには厳重な注意が必要である。このため、水素ガス供給スタンドの建設は殆ど進まず、水素燃料電池は未だ実用段階には達していない。
一方、直接DMFCは液状のメタノールを燃料として使用する。メタノールは、貯蔵性と燃料の取り扱い性に優れるため、DMFCは、家庭用や産業用の比較的小出力規模の電源として期待されている。メタノール/酸素の燃料電池の熱力学的電池電圧は水素を燃料とするものとほぼ同じ1.2 V (25 ℃)であり、原理的には同様の特性が期待できる。
PEFCとDMFCは、2つの電極触媒層がプロトン導電性有機膜の両側を挟んだ構造を有する。また、2つの電極触媒層とは、燃料極触媒層(以下、燃料極と称する。)と酸素極触媒層(以下、酸素極と称する。)である。各電極触媒層は、白金(Pt)系の触媒をカーボン(C)に担持させた触媒層を有している。そして、電極触媒層間に挟持されるプロトン導電性有機膜はプロトン導電性を有し、電解質層として機能する。
以下、DMFCにおける発電メカニズムについて概略的に説明する。
燃料(メタノールと水の混合溶液)が燃料極(メタノール極、陽極ともいう)へ供給されると、白金系触媒により式(1)の反応が起こる。
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- ・・・・・・(1)
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- ・・・・・・(1)
式(1)の反応により得られたプロトンは、燃料極と酸素極の間に挟持されたプロトン導電性有機膜を通じて酸素極側へと流れる。また、式(1)の反応により得られた電子は外部回路を通じて酸素極へ運ばれる。
酸素極では式(2)の反応によって水が生成される。
O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O ・・・・・・(2)
O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O ・・・・・・(2)
燃料電池全体としては式(3)に示されるような反応が進行し、この時に外部回路を流れる電子を電子機器の電源に使用する。
CH3OH + 3/2O2 → CO2 + 2H2O ・・・・・・(3)
CH3OH + 3/2O2 → CO2 + 2H2O ・・・・・・(3)
しかし、燃料極では式(4)で示すようにメタノール酸化反応の中間物である一酸化炭素(CO)が白金触媒表面に化学吸着し、Pt触媒の触媒機能を失活させる問題がある。この問題はPt触媒のCO被毒と呼ばれている。
Pt+CH3OH → Pt-CO +4H++ 4e- ・・・・・・(4)
Pt+CH3OH → Pt-CO +4H++ 4e- ・・・・・・(4)
この問題を解決するため、現在では燃料極の触媒としては白金-ルテニウム(PtRu)からなる触媒が一般的に使用されている。Ruは親水性が高く、式(5)に示されるように水と反応してRu−OHを生成する。生成したRu−OHは式(6)に従ってPt上に吸着したCOにアタックし、速やかにCO2に酸化する。このRuの添加によるPt触媒の劣化軽減機構は、Bi-functional mechanismと呼ばれている。これは渡辺らによって提唱されたものである(非特許文献1参照)。この機構は、Ru−OHがPtに化学吸着したCOを攻撃することによって進行する。そのため、この機構を十分に機能させるにはPtRu触媒粒子表面でPt原子とRu原子が十分混合した原子配列が必要である。
Ru + H2O → Ru-OH + H+ + e- ・・・・・・(5)
Pt-CO + Ru-OH → CO2 + H+ + e- + Pt + Ru ・・・・・・(6)
Ru + H2O → Ru-OH + H+ + e- ・・・・・・(5)
Pt-CO + Ru-OH → CO2 + H+ + e- + Pt + Ru ・・・・・・(6)
また、Ptは極めて高価な貴金属であるため、最小限のPt使用量で最大限の電気出力を得ることが望まれる。特許文献1には、PtRu触媒にSiを混合させる技術が開示されている。これはPtにおいてメタノール酸化活性が高い(100)面を優先的に露出させ、メタノール酸化反応を促進させるものである。また、非特許文献2には非金属元素であるリン(P)をPtRu触媒に添加する技術が開示されている。これはP添加によってPtRu触媒を微細化し、比表面積の増大によってメタノール酸化活性を高めるものである。
特開2006−278217号公報
M. Watanabe and S. Motoo, Electrocatalysis by Ad-atoms Part II. Enhancement of the Oxidation of Methanol on Platinum by Ruthenium Ad-atom, J. Electroanal. Chem. Interfacial Electrochem., 60, 267 (1975).
H. Daimon and Y. Kurobe, Size Reduction of PtRu Catalyst Particle Deposited on Carbon Support by Addition of Non-Metallic Elements, Catalysis Today, 111, 182 (2006).
従来の水系におけるPtRu系触媒の合成は、Pt前駆体とRu前駆体を含む水溶液に還元剤性を有する物質を作用させ、水溶液中に存在するPtイオンとRuイオンを還元させて行われる。しかし、従来の水系の合手法では、Ptイオンの還元電位がRuイオンのそれよりも大きいため、PtRu触媒を合成するとPtイオンがRuイオンよりも優先的に還元され、その結果、Ptコア/Ruシェル構造の触媒粒子が生成しやすい。
前述したように、Bi-functional mechanism(Ruの添加によりPt触媒の劣化を抑制する機構)を十分機能させるためには、触媒粒子表面でPtとRu原子が十分混合隣接した原子配列で配列する必要がある。しかし、前述したように、従来の水系合成法で得られ易いPtコア/Ruシェル構造では、触媒粒子表面でPtとRu原子が十分混在隣接した原子配置は実現されない。このため、Bi-functional mechanismが十分機能せず、PtRu触媒の活性を十分高めることができない。
また、Ptは極めて高価な貴金属であり、Ptの触媒活性劣化を補うため、Ptの使用量を増加させることはできない。従って、上述したBi-functional mechanismを十分に機能させることによって触媒活性を高め、Pt使用量を削減することが必要である。また、燃料電池を長期間に渡って安定に運転を行うため、触媒の耐久性を高めることも望まれている。
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、PtRu系触媒の触媒活性および耐久性を高めることを目的とする。
本発明にかかる燃料電池の陽極触媒として用いられるPtRu触媒の製造方法は、担体を液体に分散させるステップと、錯化剤を前記液体に添加するステップと、Pt供給源とRu供給源を前記液体に添加するステップと、前記担体、前記錯化剤、前記Pt供給源および前記Ru供給源が予め添加された前記液体に対して電子線を照射するステップと、を備える。
また、前記溶液のpHを調整するステップを更に備え、前記pHを調整するステップが、前記担体、前記錯化剤、前記Pt供給源および前記Ru供給源を添加するステップの後に設けられることが好ましい。
さらに、還元補助剤を前記液体に添加するステップを更に備え、前記還元補助剤を添加するステップが、前記溶液のpHを調整するステップの後に設けられることが好ましい。
また、単位時間当たりの電子線量が0.01kGy/s以上10kGy/s以下であることが好ましい。
本発明にかかる燃料電池の陽極PtRu触媒は、上述のいずれかの製造方法により製造される。
本発明にかかる燃料電池は、少なくとも、陽極と、負極と、前記陽極と前記負極との間に間挿された固体高分子電解質膜を有する燃料電池であって、前記陽極は上述のPtRu触媒を含む。
本発明にかかる膜電極接合体は、陽極触媒層と、負極触媒層と、前記陽極触媒層と前記負極触媒層との間に間挿された固体高分子電解質膜とからなる膜電極接合体であって、前記陽極触媒層は上述の前記PtRu触媒を含む。
本発明によれば、PtRu系触媒の触媒活性および耐久性を高めることができる。
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
はじめに本実施形態にかかる触媒が用いられる燃料電池について説明する。図1に、燃料電池の概略的な構成を示す模式図を示す。なお、通常の燃料電池は、燃料セル100が積層されることによって構成される。
図1に示すように、セル100は、紙面に向かって左から右へ、セパレータ1、集電層2、陽極触媒層3、高分子電解質膜(固体高分子電解質膜、プロトン導電性有機膜)4、負極触媒層5、集電層6およびセパレータ7を有する。燃料極(陽極)は、セパレータ1、集電層2および陽極触媒層3から形成される。酸素極(負極)は、負極触媒層5、集電層6およびセパレータ7から形成される。
通常、陽極触媒層3、高分子電解質膜4および負極触媒層5は熱圧着され、積層体として一体化される。以下、この積層体を膜電極接合体と呼ぶ。
セパレータ1は、導電性の薄層(カーボンシート、金属膜等)であって、膜電極接合体の左面上に形成される。セパレータ1は、複数の孔8を有する。本実施形態では、メタノールと水の混合溶液を燃料として用いる。燃料は、セパレータ1の孔8を介して膜電極接合体に導入される。
集電層2は、導電性の薄層(カーボンペーパー、カーボン布等)であって、陽極触媒層3の左面上に形成される。集電層2は、所定の厚みを有し、陽極触媒層3を支持する。集電層2は、燃料の通過経路を形成する共に、陽極触媒層3で生成する電子の移動経路を形成する。
陽極触媒層3は、PtRu触媒を担持したカーボン担体およびプロトン導電性高分子からなる薄層であって、高分子電解質膜4の左面上に形成される。
陽極触媒層3に含まれるカーボン担体はカーボンブラックで、カーボン担体は触媒で生成した電子を集電し、集電層2に電子を渡す。このカーボン担体に担持されたPtRu触媒の表面では次の式(1)の反応が起こる。また、PtRu触媒では、次の式(4)のPtの触媒活性の劣化が次の式(5)、(6)のBi-functional mechanismによって抑制される。
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- ・・・・・・(1)
Pt+CH3OH → Pt-CO +4H++ 4e- ・・・・・・(4)
Ru + H2O → Ru-OH + H+ + e- ・・・・・・(5)
Pt-CO + Ru-OH → CO2 + H+ + e- + Pt + Ru ・・・・・・(6)
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- ・・・・・・(1)
Pt+CH3OH → Pt-CO +4H++ 4e- ・・・・・・(4)
Ru + H2O → Ru-OH + H+ + e- ・・・・・・(5)
Pt-CO + Ru-OH → CO2 + H+ + e- + Pt + Ru ・・・・・・(6)
後述の説明から明らかなように、本実施形態にかかるPtRu触媒ではPtとRu原子が十分に混合され、かつその粒子サイズが小さい。従って、本実施形態にかかるPtRu触媒は既存のPtRu系触媒と比べて高活性で耐久性が高い。触媒の活性を高めることにより電池特性を向上させることができ、触媒の耐久性向上により、陽極触媒層3の寿命を長くすることができる。従って、膜電極接合体の寿命を長くすることができる。本実施形態にかかる触媒の製造方法については後述する。
高分子電解質膜4はフッ素樹脂系のプロトン交換膜である。高分子電解質膜4は水素イオン(プロトン)の透過性に優れている。上記の式(1)で生成した水素イオンは、陽極触媒層3から負極触媒層5に高分子電解質膜4を介して移動する。なお、高分子電解質膜4は陽極触媒層3で生成される電子を反対側へ透過させない。また、高分子電解質膜4は、上述の燃料を透過させない。
高分子電解質膜4としては、一般的にデュポン(E.I. DuPont de Namours and Company)社製のナフィオン(Nafion)(登録商標)膜が用いられる。ナフィオン膜はパーフルオロスルホン酸である。スルホン酸の水素原子はフッ素の高い電気陰性度により、プロトン(H+)として容易にスルホン酸から解離する。従って、ナフィオン膜は高いプロトン導電性を有する。プロトン導電性が高いことは、同時にナフィオン膜が高い酸性を示すことを意味する。
負極触媒層5は、Pt触媒を担持したカーボン担体およびプロトン導電性高分子からなる薄膜であって、高分子電解質膜4の右面上に形成される。カーボン担体はいわゆるカーボンブラックである。
陽極触媒層3で生成した水素イオンは、高分子電解質膜4を介して負極触媒層5に供給される。陽極触媒層3で生成した電子は、集電層2、セパレータ1、負荷(図示省略)、セパレータ7、集電層6を介して負極触媒層5に供給される。負極触媒層5に含まれるPt触媒の表面では式(2)の反応が起こる。このように燃料側電極の陽極触媒層3で生成した電子は酸素側電極の負極触媒層5で消費される。
O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O ・・・・・・(2)
O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O ・・・・・・(2)
集電層6は、導電性の薄層(カーボンペーパー、カーボン布等)であって、負極触媒層5の右面上に形成される。集電層6は、所定の厚みを有し、負極触媒層5を支持する。セパレータ7から供給される電子は、集電層6を介して負極触媒層5に供給される。集電層6は、酸素の通過経路を形成すると共に、負極触媒層5で消費される電子の移動経路を形成する。
セパレータ7は、導電性の薄層(カーボンシート、金属膜等)であって、膜電極接合体の右面上に形成される。セパレータ7は、複数の孔9を有する。本実施形態では、酸素ガスを酸素源として用いる。酸素ガスはセパレータ7の孔9を介して膜電極接合体に導入される。また、セパレータ7は負荷を介してセパレータ1に接続される。従って、セパレータ7には負荷を介してセパレータ1にて生成された電子が供給される。
セル100は、全体として式(3)の酸化還元反応が起こり、セパレータ1とセパレータ7間には負荷が接続され、セル100はその電源として機能する。
CH3OH + 3/2O2 → CO2 + 2H2O ・・・・・・(3)
CH3OH + 3/2O2 → CO2 + 2H2O ・・・・・・(3)
より具体的には、メタノール燃料はセパレータ1、集電層2を介して陽極触媒層3に導入される。陽極触媒層3に含まれるPtRu触媒の表面では、上記した式(1)の反応が進行し、水素イオンと電子が生成する。水素イオンは高分子電解質膜4を介して陽極触媒層3から負極触媒層5に移動する。電子は集電層2およびセパレータ1を介して負荷(不図示)に供給される。
負極触媒層5には陽極触媒層3から高分子電解質膜4を介して水素イオンが供給される。また、負極触媒層5には陽極触媒層3で生成した電子が集電層2、セパレータ1、負荷(不図示)、セパレータ7および集電層6を介して供給される。負極触媒層5に含まれるPt触媒の表面では、上記した式(2)の反応が生じて水が生成される。このように、セル100は酸化還元反応から電気エネルギーを発生させる。
以下、図2を参照して、上述の陽極触媒層3で使用するPtRu触媒の製造方法について具体的に説明する。
まず図2(a)に示すように、100mlのバイアル瓶15にイオン交換水50mlを入れる。
次に、図2(b)に示すように、イオン交換水にカーボン担体(担体)、錯化剤、Pt供給源、Ru供給源及び還元補助剤をこの順で添加する。これにより、イオン交換水にカーボン担体が分散され、錯化剤、Pt供給源、Ru供給源及び還元補助剤が溶解される。
Pt供給源としては、水溶性の前駆体として六塩化白金酸(H2PtCl6)、六塩化白金酸塩(K2PtCl6)、四塩化白金酸(H2PtCl4)および四塩化白金酸塩(K2PtCl4)等を用いるとよい。これらの白金塩は、単独で使用されてもよい。また、2種類以上の白金塩が併用されてもよい。
Ru供給源としては、水溶性のルテニウム前駆体として塩化ルテニウム(RuCl3)、硝酸ルテニウム(Ru(NO3)3)等を用いるとよい。これらのルテニウム化合物は単独で使用されてもよい。また、2種類以上のルテニウム化合物が併用されてもよい。
錯化剤としては、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、マレイン酸、ニトリロ三酢酸及びこれらの塩を用いることができる。これらの錯化剤は単独で使用されてもよい。また、2種類以上の錯化剤が併用されてもよい。
これらの錯化剤は、PtイオンとRuイオンにキレート配位子として作用する。そのため、これらの錯化剤は、各々のイオンの安定度を高めると同時に、両イオン間の還元電位差を狭める機能を有している。従って、電子線照射による還元法に際し、これらの錯化剤を添加することにより、よりPtとRuとが混合隣接したPtRu触媒を合成することができる。
これらの錯化剤は、プロトンが外れたアニオンの状態において、錯化剤として機能する。上述した錯化剤は酸であるが、プロトンを解離する度合いが塩酸や硫酸に比べて小さい。そこで、錯化剤が溶液中においてアニオンとして存在する比率を高めるため、錯化剤添加後の溶液のpHを高めたほうがよい。そのため、本発明の実施の形態では、錯化剤を添加した後に、溶液のpHを調整するステップが導入されている。溶液のpHは、添加する錯化剤のpKaによって異なるが、3より大きく好ましくは5以上に調整されるとよい。さらに好ましくは、溶液のpHは7以上に調整されるとよい。ここで、pKaとは、酸がプロトンを解離する能力を示す指標である。pKaが小さいほど、低いpHにおいてプロトンを解離させる強い酸であることを示す。
担体には、比表面積20m2/g〜1000m2/g程度のカーボンが適する。具体的には、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブなどが好適である。また、担体であるカーボンの酸化による触媒劣化を抑制するため、一部分がグラファイト化されSP2成分の多いカーボン担体を使用してもよい。なお、触媒粒子を担持する担体はカーボンに限定されるものではない。
添加する還元補助剤としては、メタノール、エタノール、2−プロパノールおよびエチレングリコール等のアルコールを使用できる。アルコールの添加量は特に限定されないが、0.05〜10vol.%が適する。これらの還元補助剤は、少なくとも、錯化剤、Pt供給源およびRu供給源が存在する溶液中に添加する必要がある。上述したように、錯化剤はPtイオンとRuイオンの配位子として機能し、これらのイオンを安定化する作用を有している。このため、還元補助剤であるアルコールによってPtイオンとRuイオンとが電子線照射を行う前に還元されることを抑制するため、これらの還元補助剤は錯化剤、Pt供給源およびRu供給源が予め添加された溶液中に添加しなければならない。
次に、図2(c)に示すように、トレイ16にバイアル瓶15を載置する。
次に、図2(d)に示すように、電子線照射装置40にてバイアル瓶15に対して高強度の電子線を照射する。単位時間に照射する電子線の量は、0.01kGy/s以上10kGy/s以下が好ましい。また、0.1kGy/s以上5kGy/s以下がより好ましい。また、電子線の照射時間は、30秒以下であることが好ましい。溶液の温度上昇を抑えるため、電子線の照射時間は10秒以下であることがより好ましい。
電子線照射装置40の構成および動作について簡単に説明する。図2(d)に示すように、電子線照射装置40は電子線発生室20および照射室21を有する。また、電子線照射装置40はロータ23〜28およびベルト29からなる搬送機構を有する。なお、電子線発生室20と照射室21は金属薄膜31で隔てられている。
電子線発生室20内には、電子線発生源30が設けられる。照射室21には上述の搬送機構により被照射物が配置される。電子線発生源30から放出された電子は形成された電界に従って加速され、被照射物に照射される。このようにして被照射物に高強度の電子が照射される。
なお、還元反応を均一に行う必要性から、一度に被照射物の全体に電子線を照射させる照射方法が好ましい。
ここでは、バイアル瓶15が載置されたトレイ16を電子線照射装置40の搬送機構により照射室21の所定部分まで搬送する。そして、電子線発生源30により、バイアル瓶15の全体に対して電子線を照射させる。
電子線から直接的に電子が供給されることでバイアル瓶15内の液体中のPtイオンとRuイオンは瞬時に還元される。そして、カーボン担体にPt原子とRu原子が析出する(次の式(7)、(8)参照)。
H2PtCl6+4e-=Pt+2H++6Cl- ・・・・・・(7)
RuCl3+3e-=Ru+3Cl- ・・・・・・(8)
H2PtCl6+4e-=Pt+2H++6Cl- ・・・・・・(7)
RuCl3+3e-=Ru+3Cl- ・・・・・・(8)
次に図2(e)に示すように、バイアル瓶15内の溶液を洗浄、濾過する。そして、濾物(残渣)45をシャーレ46上に塗布し、ヒータ50内に配置して、濾物45を乾燥させる。
上述の手順により、本発明の実施の形態にかかるPtRu触媒が合成される。
従来の還元法では、PtイオンとRuイオンとの還元電位差からPtイオンが優先的に還元され、Ptコア/Ruシェル型のPtRu触媒が形成されやすい。しかし、上述したように電子線照射による還元法では両イオンの標準還元電位差の影響を受けにくく、PtイオンとRuイオンを略同時にカーボン担体に還元析出させることができる。これにより、Pt原子とRu原子とが十分に混合隣接されたPtRu触媒を合成することができる。
表1に、種々の還元法においてPtとRuイオンの還元に要する反応時間を比較して示す。アルコール還元法とγ線照射法では全てのPtイオンとRuイオンを還元するために要する時間は3時間であるが、電子線照射法ではその時間は3秒である。従って、電子線照射法では従来の還元法に比較して数千倍の極めて速い還元速度が得られる。電子線照射法ではこの極めて速い還元速度により、PtイオンとRuイオン間に存在する還元電位差の影響を受けにくく、Pt原子とRu原子が混合隣接したPtRu触媒を合成できると考えられる。また、電子線照射法では他の還元方法と比較して極めて短時間にPtイオンとRuイオンを還元させることができるため、製造時間を短縮させることも可能である。
このようにして合成された触媒は実施例にて後述するように、Pt原子とRu原子が十分に混合し、上述したBi-functional mechanismが効果的に機能してPtRu触媒のメタノール酸化活性を高めることができる。
なお、上述の製造方法によれば、PtとRu原子の混合を触媒粒子表面だけではなく、触媒粒子内部においても実現させることができる。燃料電池に使用される触媒は強酸性の環境で使用され、さらに触媒は分極されるため通常環境で化学的に安定なPtでさえ溶解する。本発明の製造方法によれば、触媒粒子の内部においてもPtとRu原子とが十分に混合されるため、長期間の使用によって触媒粒子が溶解しても触媒の活性を高水準に維持し、触媒の耐久性を高めることができる。
従来の還元法によってPtRu触媒を還元析出させると、PtイオンとRuイオンの還元電位差によりPtコア/Ruシュル構造が形成され、PtRu触媒のメタノール酸化活性を高めることはできない。
一方、本実施形態にかかるPtRu触媒の合成方法では、錯化剤、Ptイオン、Ruイオンおよび触媒を担持させる担体が存在する水溶液に電子線を照射し、担体上にPtRu触媒を瞬時に還元析出させる。これによりPtコア/Ruシェル構造の触媒の生成を抑制し、PtとRu原子が十分混合されたPtRu触媒を合成することができ、PtRu触媒のメタノール酸化活性を高めることができる。
以下、実施例により上述の実施形態における説明を具体的に例証する。
[実施例1]
容積100mlのバイアル瓶にイオン交換水50mlを加え、カーボン担体(Vulcan XC−72R)を33.3mg添加し、超音波を印加してカーボン担体を分散させた。その後、錯化剤として酒石酸を25.0mmol添加した。次に、六塩化白金酸六水和物(H2PtCl6・6H2O)12.5mmolと塩化ルテニウム三水和物(RuCl3・3H2O)12.5mmolとを添加した。次に、0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を加えて溶液のpHを略7に調整した。その後、還元補助剤であるイソプロピルアルコールを0.5ml添加した。次に、バイアル瓶をトレイに配置した。専用のコンベア(搬送機構)にトレイ載せ、電子線照射装置を用いて電子線照射を行った。電子線の照射線量は20kGyであり、単位時間当たりの電子線量は3kGy/sであった。電子線照射終了後、触媒を濾過洗浄し、80℃のオーブン(ヒータ)で乾燥した。
容積100mlのバイアル瓶にイオン交換水50mlを加え、カーボン担体(Vulcan XC−72R)を33.3mg添加し、超音波を印加してカーボン担体を分散させた。その後、錯化剤として酒石酸を25.0mmol添加した。次に、六塩化白金酸六水和物(H2PtCl6・6H2O)12.5mmolと塩化ルテニウム三水和物(RuCl3・3H2O)12.5mmolとを添加した。次に、0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を加えて溶液のpHを略7に調整した。その後、還元補助剤であるイソプロピルアルコールを0.5ml添加した。次に、バイアル瓶をトレイに配置した。専用のコンベア(搬送機構)にトレイ載せ、電子線照射装置を用いて電子線照射を行った。電子線の照射線量は20kGyであり、単位時間当たりの電子線量は3kGy/sであった。電子線照射終了後、触媒を濾過洗浄し、80℃のオーブン(ヒータ)で乾燥した。
[実施例2]
容積100mlのバイアル瓶にイオン交換水50mlを加え、カーボン担体(Vulcan XC−72R)を33.3mg添加し、超音波を印加してカーボン担体を分散させた。その後、錯化剤としてクエン酸を8.3mmol添加した。次に、六塩化白金酸六水和物(H2PtCl6・6H2O)12.5mmolと塩化ルテニウム三水和物(RuCl3・3H2O)12.5mmolとを添加した。次に、0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を加えて溶液のpHを略7に調整した。その後、還元補助剤であるイソプロピルアルコールを0.5ml添加した。次に、バイアル瓶をトレイに配置した。専用のコンベア(搬送機構)にトレイ載せ、電子線照射装置を用いて電子線照射を行った。電子線の照射線量は20kGyであり、単位時間当たりの電子線量は3kGy/sであった。電子線照射終了後、触媒を濾過洗浄し、80℃のオーブン(ヒータ)で乾燥した。
容積100mlのバイアル瓶にイオン交換水50mlを加え、カーボン担体(Vulcan XC−72R)を33.3mg添加し、超音波を印加してカーボン担体を分散させた。その後、錯化剤としてクエン酸を8.3mmol添加した。次に、六塩化白金酸六水和物(H2PtCl6・6H2O)12.5mmolと塩化ルテニウム三水和物(RuCl3・3H2O)12.5mmolとを添加した。次に、0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を加えて溶液のpHを略7に調整した。その後、還元補助剤であるイソプロピルアルコールを0.5ml添加した。次に、バイアル瓶をトレイに配置した。専用のコンベア(搬送機構)にトレイ載せ、電子線照射装置を用いて電子線照射を行った。電子線の照射線量は20kGyであり、単位時間当たりの電子線量は3kGy/sであった。電子線照射終了後、触媒を濾過洗浄し、80℃のオーブン(ヒータ)で乾燥した。
[比較例1]
比較例1では、PtRu触媒をアルコール還元法によって合成した。ビス(アセチルアセトナト)白金(II)1.69mmolとトリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)1.69mmolをそれぞれ100mlのエチレングリコールに溶解した。また、カーボン担体(Vulcan XC−72R)0.5gを100mlのエチレングリコールに分散させた。そして、カーボン担体を分散させたエチレングリコール溶液に、ビス(アセチルアセトナト)白金(II)を溶解させたエチレングリコール溶液と、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)を溶解させたエチレングリコール溶液とを加えた。次に、0.1規定の硫酸水溶液を滴下し、溶液のpHを略3に調整した。その後、窒素雰囲気下、200℃でこの溶液を攪拌しながら還流し、PtRu触媒をカーボン担体上に還元析出させた。反応終了後、触媒を濾過洗浄し、80℃のオーブン(ヒータ)で乾燥した。
比較例1では、PtRu触媒をアルコール還元法によって合成した。ビス(アセチルアセトナト)白金(II)1.69mmolとトリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)1.69mmolをそれぞれ100mlのエチレングリコールに溶解した。また、カーボン担体(Vulcan XC−72R)0.5gを100mlのエチレングリコールに分散させた。そして、カーボン担体を分散させたエチレングリコール溶液に、ビス(アセチルアセトナト)白金(II)を溶解させたエチレングリコール溶液と、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)を溶解させたエチレングリコール溶液とを加えた。次に、0.1規定の硫酸水溶液を滴下し、溶液のpHを略3に調整した。その後、窒素雰囲気下、200℃でこの溶液を攪拌しながら還流し、PtRu触媒をカーボン担体上に還元析出させた。反応終了後、触媒を濾過洗浄し、80℃のオーブン(ヒータ)で乾燥した。
LSV(Linear sweep voltammetry)により、合成されたPtRu触媒のメタノール酸化活性を評価した。1.5mol/lの硫酸水溶液中に25vol.%のメタノールを添加し、Ag/AgClを参照電極、Au線を対極に用い、35℃、窒素雰囲気中、5mV/sの電位走査速度でLSV測定を行った。
LSVの測定結果を図3に示す。比較のため、市販のPtRu触媒(田中貴金属社製、TEC61E54)の測定結果を併記した。図3から明らかなように、実施例1および2の電子線照射法によって合成したPtRu触媒は、市販PtRu触媒よりも高いメタノール酸化活性を有していることが分かる。一方、比較例1のメタノール還元法によって合成したPtRu触媒は、市販PtRu触媒と同程度のメタノール酸化活性を有する。従って、本発明による電子線照射還元法により合成したPtRu触媒は、市販のPtRu触媒を上回る高いメタノール酸化活性を有することが分かる。
本発明の技術的な範囲は、上述の実施形態、実施例に限定されない。PtRu触媒に、他の元素を混合させることも可能である。また、PtRu触媒の製造方法は、上述の方法に限定されるべきものではない。
1 セパレータ
2 集電層
3 触媒層
4 高分子電解質膜
5 触媒層
6 集電層
7 セパレータ
8 孔
9 孔
15 バイアル瓶
16 トレイ
20 電子線発生室
21 照射室
29 ベルト
30 電子線発生源
31 薄膜
40 電子線照射装置
45 濾物
46 シャーレ
50 ヒータ
100 セル
2 集電層
3 触媒層
4 高分子電解質膜
5 触媒層
6 集電層
7 セパレータ
8 孔
9 孔
15 バイアル瓶
16 トレイ
20 電子線発生室
21 照射室
29 ベルト
30 電子線発生源
31 薄膜
40 電子線照射装置
45 濾物
46 シャーレ
50 ヒータ
100 セル
Claims (7)
- 燃料電池の陽極触媒として用いられるPtRu触媒の製造方法であって、
担体を液体に分散させるステップと、
錯化剤を前記液体に添加するステップと、
Pt供給源とRu供給源を前記液体に添加するステップと、
前記担体、前記錯化剤、前記Pt供給源および前記Ru供給源が予め添加された前記液体に対して電子線を照射するステップと、
を備えるPtRu触媒の製造方法。 - 前記溶液のpHを調整するステップを更に備え、
前記pHを調整するステップが、前記担体、前記錯化剤、前記Pt供給源および前記Ru供給源を添加するステップの後に設けられる請求項1に記載のPtRu触媒の製造方法。 - 還元補助剤を前記液体に添加するステップを更に備え、
前記還元補助剤を添加するステップが、前記溶液のpHを調整するステップの後に設けられる請求項2に記載のPtRu触媒の製造方法。 - 単位時間当たりの電子線量が0.01kGy/s以上10kGy/s以下である請求項1乃至3の何れか一項に記載のPtRu触媒の製造方法。
- 請求項1乃至4の何れか一項に記載の製造方法により製造された燃料電池の陽極PtRu触媒。
- 少なくとも、陽極と、負極と、前記陽極と前記負極との間に間挿された固体高分子電解質膜を有する燃料電池であって、前記陽極は請求項5に記載の前記PtRu触媒を含む燃料電池。
- 陽極触媒層と、負極触媒層と、前記陽極触媒層と前記負極触媒層との間に間挿された固体高分子電解質膜とからなる膜電極接合体であって、前記陽極触媒層は請求項5に記載の前記PtRu触媒を含む膜電極接合体。
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JP2011136993A (ja) * | 2009-12-31 | 2011-07-14 | National Cheng Kung Univ | 白金錯体、その製造方法と応用 |
JP2012181961A (ja) * | 2011-02-28 | 2012-09-20 | Japan Atomic Energy Agency | 触媒層形成用組成物、及び、触媒層の製造方法 |
KR20180106558A (ko) * | 2017-03-21 | 2018-10-01 | 주식회사 알티엑스 | 전자빔을 이용한 연료전지용 촉매의 제조방법 |
WO2019031792A1 (ko) * | 2017-08-07 | 2019-02-14 | 주식회사 알티엑스 | 연료 전지용 촉매의 제조방법 |
KR20190079078A (ko) * | 2017-12-27 | 2019-07-05 | 주식회사 알티엑스 | 2성분계 연료전지용 촉매의 제조방법 |
KR20210052321A (ko) * | 2019-10-30 | 2021-05-10 | 부산대학교 산학협력단 | 연료전지용 이종금속나노입자-탄소 혼성 촉매, 이의 제조방법 및 이를 포함하는 연료전지 |
-
2008
- 2008-03-26 JP JP2008080345A patent/JP2009238442A/ja not_active Withdrawn
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