JP2009238326A - 垂直磁気記録媒体の製造方法および垂直磁気記録媒体 - Google Patents

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Abstract

【課題】十分な耐久性、信頼性を有する垂直磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【解決手段】基体110上に、磁気記録層122、媒体保護層126および潤滑層128をこの順に備える垂直磁気記録媒体100の製造方法において、潤滑剤を塗布した磁気ディスクに、10nm以下の押し込み深さによる押し込み硬さ試験を行う押し込み硬さ試験工程と、押し込み硬さ試験によって求められた弾性変形比が50〜85%である場合に潤滑剤で潤滑層を成膜する潤滑層成膜工程と、を含むことを特徴とする。
【選択図】図3

Description

本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体の製造方法および垂直磁気記録媒体に関する。
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径磁気ディスクにして、1枚あたり160GBを超える情報記録容量が求められるようになってきていて、このような要請にこたえるためには1平方インチあたり250GBitを超える情報記録密度を実現することが求められる。
HDD等に用いられる磁気ディスクにおいて高記録密度を達成するために、近年、垂直磁気記録方式の磁気ディスク(垂直磁気記録ディスク)が提案されている。従来の面内磁気記録方式は磁気記録層の磁化容易軸が基体面の平面方向に配向されていたが、垂直磁気記録方式は磁化容易軸が基体面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は面内記録方式に比べて磁性粒が微細化するほど反磁界(Hd)が大きくなって保磁力Hcが向上し、熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。
従来の磁気記録用磁気ディスクは、アルミニウムやガラスなどの基板と、磁気記録を行う磁気記録層と、磁気ディスクの信頼性を確保する目的で、カーボン製の媒体保護層(カーボン保護層)と潤滑層とで構成されている。
近年の高記録密度化にともない、磁気ヘッド・ディスク間の浮上量は低下している。例えば、磁気ヘッド浮上量の制御を安定化し、更なる低浮上量化を図るための技術の1つとして、DFH(Dynamic Flying Height)という技術が開発されている(例えば、非特許文献1)。DFHによれば、磁気ヘッドにヒータ素子を埋め込み、磁気ヘッドの動作時に、ヒータ素子を発熱させ、その熱によって磁気ヘッドが熱膨張し、磁気ディスクに向かってわずかに突出する。これにより、磁気ヘッドと磁気ディスク主表面との間に磁気的な間隙である磁気的スペーシングをその時にのみ小さくすることが可能である。すなわち、DFHとは、磁気ヘッドの磁気ディスクからの浮上量を低浮上量化することが可能な技術である。
明官、「モバイル2.5インチHDD」、雑誌FUJITSU、富士通株式会社、2007年1月、第58巻、第1号、p.10−15
しかし、DFHヘッドなどの技術により、更なる低浮上量化が図れたが、磁気ヘッドにはMR素子が搭載されていて、その固有の障害としてヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害を引き起こすという問題がある。
加えて、HDD装置が採用される環境も、乗用車への搭載(車載)に代表されるように、高温・高湿など、非常に厳しくなっている。かかる環境では、上記のような障害を引き起こさないまでも、間欠的な磁気ヘッド・ディスクの接触は、今後増大するものと想定される。
このような接触のダメージによって磁気ディスクに生じる変形は、その領域でのデータの読み込みを不能にし、信頼性にも重大な影響を与えてしまう。
本発明は、このような課題に鑑み、磁気ヘッド・ディスクの接触が生じても、十分な耐久性、信頼性を有する垂直磁気記録媒体の製造方法および垂直磁気記録媒体を提供することを目的としている。
上記課題を解決するために、発明者らは、垂直磁気記録媒体に微小な荷重がかかった場合における弾性・塑性変形に関する情報に着目した。かかる荷重を、接触の衝撃によって生じるものと仮定した場合、弾性変形する、すなわち、衝撃を受けても元に戻る性質を垂直磁気記録媒体が強く有していれば、上述のようなデータ読み込みエラーを生じないからである。一方、一旦変形すると元に戻らない、塑性変形する性質を垂直磁気記録媒体が強く有している場合は、媒体保護層、磁気記録層にも変形が生じ、読み込みエラーが生じるおそれが大きく、記録媒体の信頼性を損なうものと考えられる。
上記課題を解決するために、本発明の代表的な構成は、基体上に、磁気記録層、媒体保護層および潤滑層をこの順に備える垂直磁気記録媒体の製造方法において、媒体保護層の最表面を、3Pa以上の処理圧力で窒素プラズマ処理して成膜する媒体保護層成膜工程と、さらに潤滑層を成膜した垂直磁気記録媒体に、10nm以下の押し込み深さによる押し込み硬さ試験を行う押し込み硬さ試験工程と、押し込み硬さ試験によって求められた弾性変形比が50〜85%である場合に、その垂直磁気記録媒体を合格品と判定する判定工程と、を含むことを特徴とする。
上記のような媒体保護層の処理条件によって、弾性変形比が向上すると考えられている。そして、かかる微小な押し込み深さの押し込み硬さ試験において、弾性変形比が50〜85%であれば、製造上問題になるマイクロスクラッチに対する耐性を十分に有するものとみなせるからである。
上記課題を解決するために、本発明の他の代表的な構成は、基体上に、磁気記録層、媒体保護層および潤滑層をこの順に備える垂直磁気記録媒体の製造方法において、媒体保護層の最表面を、3Pa以上の処理圧力で窒素プラズマ処理して成膜する媒体保護層成膜工程と、さらに潤滑層を成膜した垂直磁気記録媒体に、50nm以下の押し込み深さによる押し込み硬さ試験を行う押し込み硬さ試験工程と、押し込み硬さ試験によって求められた弾性変形比が40〜80%である場合に、その垂直磁気記録媒体を合格品と判定する判定工程と、を含むことを特徴とする。
上記のような媒体保護層の処理条件によって、弾性変形比が向上すると考えられている。しかし、このような、より多くの押し込み深さの押し込み硬さ試験を行った場合、通常、塑性変形の比率が多くなる。それにも拘らず、依然として弾性変形比40〜80%を保つ垂直磁気記録媒体であれば、強い弾性を有し、読込みエラーを生じない、信頼性が高いものとみなすことができる。
本発明の他の代表的な構成は、基体上に、磁気記録層、媒体保護層および潤滑層をこの順に備える垂直磁気記録媒体において、媒体保護層は、3Pa以上の処理圧力で窒素プラズマ処理することにより成膜されていて、当該垂直磁気記録媒体は、10nm以下の押し込み深さによる押し込み硬さ試験によって求められる弾性変形比が50〜85%であることを特徴とする。
本発明の他の代表的な構成は、基体上に、磁気記録層、媒体保護層および潤滑層をこの順に備える垂直磁気記録媒体において、媒体保護層は、3Pa以上の処理圧力で窒素プラズマ処理することにより成膜されていて、当該垂直磁気記録媒体は、50nm以下の押し込み深さによる押し込み硬さ試験によって求められる弾性変形比が40〜80%であることを特徴とする。
上述した垂直磁気記録媒体の製造方法における技術的思想に対応する構成要素やその説明は、当該垂直磁気記録媒体にも適用可能である。
上記の潤滑剤はパーフロロポリエーテルとしてよい。パーフロロポリエーテルは、C−Fを基本として、間にOをはさんだフッ素系合成油であり、耐熱性、耐薬品性に優れ、高い粘度指数を有する。
以上のように、本発明によれば、DFHが採用されるなどの低浮上量化された垂直磁気記録媒体において、耐久性、信頼性が十分な垂直磁気記録媒体を製造可能である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
(実施形態)
本発明にかかる垂直磁気記録媒体の製造方法の実施形態について説明する。図1は本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気記録媒体100は、基体としてのディスク基体110、付着層112、第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114c、前下地層116、第1下地層118a、第2下地層118b、非磁性グラニュラー層120、第1磁気記録層122a、第2磁気記録層122b、連続層124、媒体保護層126、潤滑層128で構成されている。なお第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114cは、あわせて軟磁性層114を構成する。第1下地層118aと第2下地層118bはあわせて下地層118を構成する。第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122bとはあわせて磁気記録層122を構成する。
ディスク基体110は、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性のディスク基体110を得ることができる。
なお、ディスク基体110としてガラスに代えて、アルミニウムを用いてもよい。
ディスク基体110上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて付着層112から連続層124まで順次成膜を行い、媒体保護層126はCVD法により成膜することができる。この後、潤滑層128をディップコート法により形成することができる。
以下、各層の構成および製造方法について説明する。本実施形態では、生産性が高いインライン型成膜方法を用いている。
付着層112は非晶質の下地層であって、ディスク基体110に接して形成され、この上に成膜される軟磁性層114とディスク基体110との剥離強度を高める機能と、この上に成膜される各層の結晶グレインを微細化及び均一化させる機能を備えている。付着層112は、ディスク基体110がアモルファスガラスからなる場合、そのアモルファスガラス表面に対応させる為にアモルファスの合金膜とすることが好ましい。
付着層112としては、例えばCrTi系非晶質層、CoW系非晶質層、CrW系非晶質層、CrTa系非晶質層、CrNb系非晶質層から選択することができる。なかでもCrTi系合金膜は、微結晶を含むアモルファス金属膜を形成するので特に好ましい。付着層112は単一材料からなる単層でも良いが、複数層を積層して形成してもよい。例えばCrTi層の上にCoW層またはCrW層を形成してもよい。またこれらの付着層112は、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、又は酸素を含む材料によってスパッタを行うか、もしくは表面層をこれらのガスで暴露したものであることが好ましい。
軟磁性層114は、垂直磁気記録方式において記録層に垂直方向に磁束を通過させるために、記録時に一時的に磁路を形成する層である。軟磁性層114は第1軟磁性層114aと第2軟磁性層114cの間に非磁性のスペーサ層114bを介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することができる。これにより軟磁性層114の磁化方向を高い精度で磁路(磁気回路)に沿って整列させることができ、磁化方向の垂直成分が極めて少なくなるため、軟磁性層114から生じるノイズを低減することができる。第1軟磁性層114a、第2軟磁性層114cの組成としては、CoTaZrなどのコバルト系合金、CoCrFeBなどのCo−Fe系合金、[Ni−Fe/Sn]n多層構造のようなNi−Fe系合金などを用いることができる。
前下地層116は非磁性の合金層であり、軟磁性層114を防護する作用と、この上に成膜される下地層118に含まれる六方細密充填構造(hcp構造)の磁化容易軸をディスク垂直方向に配向させる機能を備える。前下地層116は面心立方構造(fcc構造)の(111)面がディスク基体110の主表面と平行となっていることが好ましい。また前下地層116は、これらの結晶構造とアモルファスとが混在した構成としてもよい。前下地層の材質としては、Ni、Cu、Pt、Pd、Zr、Hf、Nb、Taから選択することができる。さらにこれらの金属を主成分とし、Ti、V、Ta、Cr、Mo、Wのいずれか1つ以上の添加元素を含む合金としてもよい。例えばNiW、CuW、CuCrを好適に選択することができる。
下地層118はhcp構造であって、磁気記録層122のCoのhcp構造の結晶をグラニュラー構造として成長させる作用を有している。したがって、下地層118の結晶配向性が高いほど、すなわち下地層118の結晶の(0001)面がディスク基体110の主表面と平行になっているほど、磁気記録層22の配向性を向上させることができる。下地層の材質としてはRuが代表的であるが、その他に、RuCr、RuCoから選択することができる。Ruはhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、Coを主成分とする磁気記録層を良好に配向させることができる。
下地層118をRuとした場合において、スパッタ時のガス圧を変更することによりRuからなる2層構造とすることができる。具体的には、上層側の第2下地層118bを形成する際に、下層側の第1下地層118aを形成するときよりもArのガス圧を高くする。ガス圧を高くするとスパッタリングされるプラズマイオンの自由移動距離が短くなるため、成膜速度が遅くなり、結晶配向性を改善することができる。また高圧にすることにより、結晶格子の大きさが小さくなる。Ruの結晶格子の大きさはCoの結晶格子よりも大きいため、Ruの結晶格子を小さくすればCoのそれに近づき、Coのグラニュラー層の結晶配向性をさらに向上させることができる。
非磁性グラニュラー層120は非磁性のグラニュラー層である。下地層118のhcp結晶構造の上に非磁性のグラニュラー層を形成し、この上に第1磁気記録層122aのグラニュラー層を成長させることにより、磁性のグラニュラー層を初期成長の段階(立ち上がり)から分離させる作用を有している。非磁性グラニュラー層120の組成は、Co系合金からなる非磁性の結晶粒子の間に、非磁性物質を偏析させて粒界を形成することにより、グラニュラー構造とすることができる。特にCoCr−SiO、CoCrRu−SiOを好適に用いることができ、さらにRuに代えてRh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Au(金)も利用することができる。また非磁性物質とは、磁性粒(磁性グレイン)間の交換相互作用が抑制、または、遮断されるように、磁性粒の周囲に粒界部を形成しうる物質であって、コバルト(Co)と固溶しない非磁性物質であればよい。例えば酸化珪素(SiOx)、クロム(Cr)、酸化クロム(CrO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)を例示できる。
磁気記録層122は、Co系合金、Fe系合金、Ni系合金から選択される硬磁性体の磁性粒の周囲に非磁性物質を偏析させて粒界を形成した柱状のグラニュラー構造を有した強磁性層である。この磁性粒は、非磁性グラニュラー層120を設けることにより、そのグラニュラー構造から継続してエピタキシャル成長することができる。本実施形態では組成および膜厚の異なる第1磁気記録層122aと、第2磁気記録層122bとから構成されている。第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122bは、いずれも非磁性物質としてはSiO、Cr、TiO、B、Fe等の酸化物や、BN等の窒化物、B等の炭化物を好適に用いることができる。
連続層124はグラニュラー構造を有する磁気記録層122の上に、面内方向に磁気的に連続した層(連続層とも呼ばれる)である。連続層124は必ずしも必要ではないが、これを設けることにより磁気記録層122の高密度記録性と低ノイズ性に加えて、逆磁区核形成磁界Hnの向上、耐熱揺らぎ特性の改善、オーバーライト特性の改善を図ることができる。
なお連続層124として、単一の層ではなく、高い垂直磁気異方性かつ高い飽和磁化MSを示す薄膜(連続層)を形成するCGC構造(Coupled Granular Continuous)としてもよい。なおCGC構造は、グラニュラー構造を有する磁気記録層と、PdやPtなどの非磁性物質からなる薄膜のカップリング制御層と、CoBとPdとの薄膜を積層した交互積層膜からなる交換エネルギー制御層とから構成することができる。
媒体保護層126は、真空を保ったままカーボンをCVD法により成膜して形成することができる。媒体保護層126は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気記録層を防護するための保護層である。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に磁気記録層122を防護することができる。媒体保護層126の最表面には窒素処理を施した。
媒体保護層126は、CVD法に代えて、FCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)方式、IBD(Ion Beam Deposition)方式で成膜してもよい。
潤滑層128は、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により成膜することができる。PFPEは長い鎖状の分子構造を有し、媒体保護層126表面のN原子と高い親和性をもって結合する。この潤滑層128の作用により、垂直磁気記録媒体100の表面に磁気ヘッドが接触しても、媒体保護層126の損傷や欠損を防止することができる。
潤滑層128の素材として、より具体的には、Fomblin Z(「フォンブリン」は登録商標)系潤滑剤(Fomblin Z DOL、Fomblin Z TETRAOLなど)を用いた。図2は図1の潤滑層として用いることのできるFomblin Z系潤滑剤の化学構造式を示す図である。その潤滑剤分子に含まれる2種類の主鎖ユニット(n,mと添字のついた部分)の数により分子量(典型的には1000〜2000)が決定される。
図3は図1の垂直磁気記録媒体100に対し、押し込み深さ(変位量)による押し込み硬さ試験(押し込み硬さ試験工程)を行った結果得られた、負荷・除荷曲線を示すグラフである。図3において、負荷を加えると、右上方向の矢印で示すように、変位が生じ、負荷を除くと、左下方向の矢印で示すように、ある程度まで変位したものが元に戻る。押し込み深さが小さいほど、つまり、微小な負荷であるほど、2つの曲線は接近し、元に戻る度合いが強く、弾性変形の比率が大きくなる。
ここで、除荷曲線(左下方向の矢印)と、除荷曲線の最大押し込み深さ点から横軸に垂直に下ろした直線と、横軸(変位量)とで囲まれた、ハッチングされた領域の面積Welastを、弾性変形量(弾性変形仕事量)とする。一方、負荷曲線(右上方向の矢印)と、除荷曲線と、横軸とで囲まれた、クロスハッチングされた領域の面積Wplastを、塑性変形量(塑性変形仕事量)とする。
そして、弾性変形比={Welast/(Wplast+Welast)}×100(%)と定義する。すなわち、弾性変形比とは、変形仕事量全体に対する弾性変形仕事量の割合を意味する。10nm以下の押し込み深さによる押し込み硬さ試験を行い、この弾性変形比が50〜85%であれば、その垂直磁気記録媒体を合格品と判定してよい(判定工程)。
上記のような媒体保護層の処理条件によって、弾性変形比が向上すると考えられている。そして、かかる微小な押し込み深さの押し込み硬さ試験において、弾性変形比が50〜85%であれば、製造上問題になるマイクロスクラッチに対する耐性を十分に有するものとみなせるからである。
また、図示しないが、50nm以下の、より大きな押し込み深さによる押し込み硬さ試験において、弾性変形比が40〜80%であれば、その垂直磁気記録媒体を合格品と判定してもよい(判定工程)。
このような、より多くの押し込み深さの押し込み硬さ試験を行った場合、通常、塑性変形の比率が多くなる。それにも拘らず、依然として弾性変形比40〜80%を保つ垂直磁気記録媒体であれば、強い弾性を有し、読込みエラーを生じない、信頼性が高いものとみなすことができるからである。
以上の製造工程により、垂直磁気記録媒体100を得ることができる。以下に、実施例と比較例を用いて本発明の有効性について説明する。
(実施例)
実施例として、ディスク基体110上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、付着層112から連続層124まで順次成膜を行った。付着層112は、CrTiとした。軟磁性層114は、第1軟磁性層114a、第2軟磁性層114cの組成はCoCrFeBとし、スペーサ層114bの組成はRuとした。前下地層116の組成はfcc構造のNiW合金とした。下地層118は、第1下地層118aは高圧Ar下でRuを成膜し、第2下地層118bは低圧Ar下でRuを成膜した。非磁性グラニュラー層120の組成は非磁性のCoCr−SiOとした。磁気記録層122の組成は図1に示す通りとした。連続層124の組成はCoCrPtBとした。媒体保護層126はCVD法によりCおよびCNを用いて成膜し、媒体保護層の最表面には窒素処理を施した。潤滑層128はディップコート法によりPFPEを用いて成膜した。用いた潤滑剤は、Fomblin Z系の潤滑剤である。成膜後、一定温度で加熱処理を行った。
図4は、図1の媒体保護層126の最表面を窒素化した際、窒素化条件を様々に変更した結果、得られた弾性変形比(押し込み深さ10nmの押し込み硬さ試験による)を示すグラフである。すなわち、窒素化条件は、窒素プラズマでの処理圧力をそれぞれ1、3、5Paとし、処理電力をそれぞれ100、200Wに変化させた。
この結果、図4に示す通り、窒素プラズマでの処理圧力が高いほうが弾性変形が顕著であり、外部から加わった力に対して元通りに戻る傾向が強く、良好であることが判明した。とりわけ、処理圧力を3Pa以上とすると、50%以上の弾性変形比が得られている。一方、処理電力の高低と、得られる弾性変形比との間には、相関が認められなかった。すなわち、処理圧力が変化すると、処理電力が高いほうが弾性変形が顕著である場合もあれば、その逆の場合もあった。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、本実施形態では垂直磁気記録方式のディスクを用いたが、本発明は、面内磁気記録方式のディスクに用いることもできる。
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体の製造方法および垂直磁気記録媒体として利用することができる。
実施形態にかかる垂直磁気記録媒体の構成を説明する図である。 図1の潤滑層として用いられるFomblin Z系潤滑剤の化学構造式を示す図である。 図1の磁気ディスクに、押し込み深さ(変位量)による押し込み硬さ試験を行った結果得られた、負荷・除荷曲線を示すグラフである。 図1の媒体保護層の最表面を窒素化した際、窒素化条件を様々に変更した結果、得られた弾性変形比を示すグラフである。
符号の説明
100 …垂直磁気記録媒体
110 …ディスク基体
112 …付着層
114a …第1軟磁性層
114b …スペーサ層
114c …第2軟磁性層
116 …前下地層
118 …下地層
118a …第1下地層
118b …第2下地層
120 …非磁性グラニュラー層
122 …磁気記録層
122a …第1磁気記録層
122b …第2磁気記録層
124 …連続層
126 …媒体保護層
128 …潤滑層

Claims (5)

  1. 基体上に、磁気記録層、媒体保護層および潤滑層をこの順に備える垂直磁気記録媒体の製造方法において、
    前記媒体保護層の最表面を、3Pa以上の処理圧力で窒素プラズマ処理して成膜する媒体保護層成膜工程と、
    さらに潤滑層を成膜した当該垂直磁気記録媒体に、10nm以下の押し込み深さによる押し込み硬さ試験を行う押し込み硬さ試験工程と、
    前記押し込み硬さ試験によって求められた弾性変形比が50〜85%である場合に当該垂直磁気記録媒体を合格品と判定する判定工程と、
    を含むことを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
  2. 基体上に、磁気記録層、媒体保護層および潤滑層をこの順に備える垂直磁気記録媒体の製造方法において、
    前記媒体保護層の最表面を、3Pa以上の処理圧力で窒素プラズマ処理して成膜する媒体保護層成膜工程と、
    さらに潤滑層を成膜した当該垂直磁気記録媒体に、50nm以下の押し込み深さによる押し込み硬さ試験を行う押し込み硬さ試験工程と、
    前記押し込み硬さ試験によって求められた弾性変形比が40〜80%である場合に当該垂直磁気記録媒体を合格品と判定する判定工程と、
    を含むことを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
  3. 基体上に、磁気記録層、媒体保護層および潤滑層をこの順に備える垂直磁気記録媒体において、
    前記媒体保護層は、3Pa以上の処理圧力で窒素プラズマ処理することにより成膜されていて、
    当該垂直磁気記録媒体は、10nm以下の押し込み深さによる押し込み硬さ試験によって求められる弾性変形比が50〜85%であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
  4. 基体上に、磁気記録層、媒体保護層および潤滑層をこの順に備える垂直磁気記録媒体において、
    当該垂直磁気記録媒体は、50nm以下の押し込み深さによる押し込み硬さ試験によって求められる弾性変形比が40〜80%であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
  5. 前記潤滑剤はパーフロロポリエーテル(PFPE)であることを特徴とする3または4に記載の垂直磁気記録媒体。
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