図1は、実施例に係るバイオ燃料劣化判定装置を備えるエンジンの概略構成図である。実施例に係るバイオ燃料劣化判定装置1は、少なくともバイオ燃料を含有する燃料によって運転可能な内燃機関として設けられるエンジン10に備えられている。このエンジン10は、圧縮した状態の空気に燃料を供給することにより燃料を燃焼させる、いわゆるディーゼルエンジンとして設けられている。このエンジン10は、直列に配設された4つの気筒11を有しており、各気筒11には、燃焼室(図示省略)が接続されている。また、このエンジン10には、気筒11内に連通すると共に気筒11内に吸入される空気が流れる通路である吸気通路15と、気筒11内で燃料を燃焼させた後、気筒11内から排出される排気ガスが流れる排気通路16とが接続されている。これらの吸気通路15と排気通路16とは、気筒11の数に合わせてそれぞれ4つの通路に分岐しており、分岐した通路が4つの気筒11に対応し、気筒11に連通してエンジン10に接続されている。
また、各気筒11には、エンジン10の運転時に気筒11に対して燃料を供給可能な燃料供給手段であるメイン燃料インジェクタ21が配設されている。このメイン燃料インジェクタ21は、エンジン10の運転時に気筒11内に燃料を噴射することにより、気筒11に対して燃料を供給可能に設けられている。さらに、各気筒11には、気筒11内の圧力である筒内圧を検出する筒内圧検出手段である筒内圧センサ50が設けられている。この筒内圧センサ50は圧電素子を有しており、気筒11内の圧力に応じた電荷信号を出力可能に設けられている。筒内圧センサ50は、このように気筒11内の圧力に応じた電荷信号を出力することにより、筒内圧を検出可能に設けられている。
また、各気筒11に配設されるメイン燃料インジェクタ21は、全てコモンレール25に接続されている。また、コモンレール25は、燃料に圧力を付与してコモンレール25に燃料を供給するサプライポンプ26に機関燃料通路31を介して接続されており、サプライポンプ26は、燃料を貯留する燃料貯留手段である燃料タンク35にメイン燃料通路30を介して接続されている。サプライポンプ26と燃料タンク35とを接続するメイン燃料通路30には、燃料に含まれる不純物を除去する燃料フィルタ36が設けられている。
また、燃料タンク35には、当該燃料タンク35に貯留されている燃料のレベル、即ち燃料の貯留量を検出する燃料貯留量検出手段である燃料レベルセンサ37が設けられている。さらに、燃料タンク35には、当該燃料タンク35に貯留されている燃料に含まれているバイオ燃料の濃度を検出するバイオ燃料濃度検出手段であるバイオ燃料濃度センサ38が設けられている。また、コモンレール25と燃料タンク35とには、コモンレール25に供給された燃料のうち余剰燃料を燃料タンク35に戻す通路であり、一端がコモンレール25に接続され、他端が燃料タンク35に接続された通路であるリターン通路33が接続されている。
また、このエンジン10は、気筒11で吸入する空気を圧縮する過給手段であるターボチャージャ40を備えており、ターボチャージャ40が有するコンプレッサ41は吸気通路15に接続され、ターボチャージャ40が有するタービン42は排気通路16に接続されている。ターボチャージャ40は、タービン42が接続されている排気通路16を流れる排気ガスによってタービン42が作動し、タービン42の作動時の力がコンプレッサ41に伝達されてコンプレッサ41が作動することにより、吸気通路15を流れる空気をコンプレッサ41で圧縮可能に設けられている。
ターボチャージャ40のコンプレッサ41が接続される吸気通路15は、吸気通路15を流れる空気の流れ方向におけるコンプレッサ41の下流側に、コンプレッサ41で圧縮した空気を冷却するインタークーラ45が配設されている。さらに、吸気通路15には、インタークーラ45の下流側に、吸気通路15内を開閉可能なスロットルバルブ46が配設されている。また、吸気通路15には、コンプレッサ41の上流側に、吸気通路15を流れる空気の流量を検出可能な吸入空気量検出手段であるエアフロメータ47が設けられている。
また、ターボチャージャ40のタービン42が接続される排気通路16には、排気通路16を流れる排気ガスの流れ方向におけるタービン42の上流側に、排気ガスに添加する燃料を噴射する添加燃料供給手段である排気燃料添加インジェクタ22が設けられている。この排気燃料添加インジェクタ22は、遮断弁27を介してサプライポンプ26に接続された添加燃料通路32に接続されている。つまり、サプライポンプ26には遮断弁27が接続されており、遮断弁27には、一端が当該遮断弁27に接続され、他端が排気燃料添加インジェクタ22に接続された添加燃料通路32が接続されている。このように添加燃料通路32が接続された遮断弁27は、サプライポンプ26から排気燃料添加インジェクタ22への燃料の開放や遮断が可能に設けられている。
また、排気通路16には、タービン42の下流側に、下流方向に向かうに従って順に、吸蔵還元型NOx触媒を担体に担持したNSR(NOx Storage Reduction)触媒コンバータ60と、多孔質セラミック構造体にNOx吸蔵還元触媒が担持され構成されたDPNR(Diesel Particulate NOx Reduction)触媒コンバータ61と、酸化触媒コンバータ62とが配設されている。また、排気通路16には、NSR触媒コンバータ60とDPNR触媒コンバータ61との間、及びDPNR触媒コンバータ61の下流側に、排気通路16を流れる排気ガスの温度を検出する排気温検出手段である排気温センサ51が設けられている。また、DPNR触媒コンバータ61と酸化触媒コンバータ62との間には、排気ガスの成分より、空気と燃料との割合である空燃比を検出する空燃比検出手段である空燃比センサ52が設けられている。
さらに、排気通路16には、NSR触媒コンバータ60の上流側と、DPNR触媒コンバータ61の下流側とに両端部が接続された通路である差圧検出通路65が接続されており、この差圧検出通路65には、差圧センサ66が設けられている。この差圧センサ66は、NSR触媒コンバータ60の上流側の圧力と、DPNR触媒コンバータ61の下流側の圧力との差圧を検出可能な差圧検出手段として設けられている。
このように設けられる排気通路16と吸気通路15とには、エンジン10から排出された排気ガスの一部であり、再びエンジン10に吸気させる還流ガスであるEGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスが流れる通路であるEGR通路70が接続されている。詳しくは、EGR通路70は、両端部のうち一方の端部が、排気通路16におけるタービン42の上流側に接続されており、他方の端部が、吸気通路15におけるスロットルバルブ46の下流側に接続されている。これにより、EGR通路70は、排気通路16を流れる排気ガスの一部をEGRガスとして、排気通路16から吸気通路15に流すことができる。
このように設けられるEGR通路70には、EGRガスを浄化するEGR触媒コンバータ71と、EGR通路70を流れるEGRガスを冷却可能な冷却手段であるEGRクーラ72とが設けられている。このうち、EGRクーラ72は、エンジン10を循環し、車両の運転時にエンジン10を冷却する冷却媒体である冷却水(図示省略)と、EGRガスとの間で熱交換を行うことができるように形成されており、EGRクーラ72を通るEGRガスは、冷却水との間で熱交換を行うことにより温度が低下する。
また、EGR通路70には、EGRクーラ72が設けられている部分と吸気通路15に接続されている部分との間の部分、即ち、EGR通路70における吸気通路15に接続されている部分の近傍に、EGR通路70内を開閉可能なEGRバルブ73が配設されている。
これらのメイン燃料インジェクタ21、排気燃料添加インジェクタ22、サプライポンプ26、遮断弁27、燃料レベルセンサ37、バイオ燃料濃度センサ38、スロットルバルブ46、エアフロメータ47、筒内圧センサ50、排気温センサ51、空燃比センサ52、差圧センサ66、EGRバルブ73は、車両に搭載されると共に車両の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)80に接続されている。また、このECU80には、車両の運転席に設けられ、車両の各種情報を表示する表示装置75が接続されている。
図2は、図1に示すバイオ燃料劣化判定装置の要部構成図である。ECU80には、処理部81、記憶部100及び入出力部101が設けられており、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。また、ECU80に接続されているメイン燃料インジェクタ21、排気燃料添加インジェクタ22、サプライポンプ26、遮断弁27、燃料レベルセンサ37、バイオ燃料濃度センサ38、スロットルバルブ46、エアフロメータ47、筒内圧センサ50、排気温センサ51、空燃比センサ52、差圧センサ66、EGRバルブ73、表示装置75は、入出力部101に接続されており、入出力部101は、これらのメイン燃料インジェクタ21等との間で信号の入出力を行う。また、記憶部100には、バイオ燃料劣化判定装置1を制御するコンピュータプログラムが格納されている。この記憶部100は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、或いはこれらの組み合わせにより構成することができる。
また、処理部81は、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されており、少なくとも、スロットルバルブ46の開閉の制御をすることによりエンジン10の吸入空気量の制御が可能な吸入空気量制御手段であるスロットルバルブ制御部82と、エアフロメータ47での検出結果より運転中のエンジン10の吸入空気量を取得可能な吸入空気量取得手段である吸入空気量取得部83と、メイン燃料インジェクタ21から噴射する燃料の噴射量を制御することによりエンジン10への燃料の供給量を制御可能な燃料供給量制御手段である燃料噴射量制御部84と、を有している。
また、処理部81は、サプライポンプ26に接続されている遮断弁27の開閉の制御、及び排気燃料添加インジェクタ22から噴射する燃料の噴射量を制御することにより排気ガスの浄化の制御を行う排気浄化制御手段である排気浄化制御部85と、差圧センサ66での検出結果より排気通路16におけるNSR触媒コンバータ60の上流側とDPNR触媒コンバータ61の下流側との差圧を取得可能な差圧取得手段である差圧取得部86と、EGRバルブ73の開閉の制御を行うことによりEGRガスの流量を制御可能なEGRガス量制御手段であるEGRバルブ制御部87と、を有している。
また、処理部81は、筒内圧センサ50で検出した気筒11の筒内圧を取得する筒内圧取得手段である筒内圧取得部88と、筒内圧センサ50で検出し、筒内圧取得部88で取得した筒内圧に基づいて燃料の燃焼時における着火遅れを導出する着火遅れ導出手段である着火遅れ導出部89と、着火遅れ導出部89で導出した着火遅れが、バイオ燃料の劣化を判定する場合における着火遅れの基準値である基準着火遅れに対して所定以上短縮しているか否かを判定する着火遅れ判定手段である着火遅れ判定部90と、エンジン10の運転領域が着火遅れを導出する所定の領域である着火遅れ導出運転領域であるか否かを判定する運転領域判定手段である運転領域判定部91と、を有している。
また、処理部81は、着火遅れ判定部90で、着火遅れ導出部89で導出した着火遅れは基準着火遅れに対して所定以上短縮していると判定した場合に、バイオ燃料が劣化した場合における制御である燃料劣化時制御を行う燃料劣化時制御手段である燃料劣化時制御部92と、燃料劣化時制御部92が備えていると共に、燃料劣化時制御時にエンジン10を搭載する車両の運転者に対してバイオ燃料が劣化したことを伝達する燃料劣化伝達手段である燃料劣化伝達部93と、を有している。
また、処理部81は、燃料タンク35に燃料を給油したか否かを判定する給油判定手段である給油判定部95と、燃料タンク35に貯留されている燃料中のバイオ燃料の濃度に基づいてバイオ燃料が劣化したか否かの判定をするのに必要最低限な時間で、バイオ燃料の劣化の判定を明確に行うことのできる時間である計測時間を設定する計測時間設定手段である計測時間設定部96と、燃料タンク35に給油を行った直後に検出した筒内圧に基づいて基準着火遅れを着火遅れ導出部89で導出した後、計測時間設定部96で設定した計測時間を経過したか否かを判定する経過時間判定手段である経過時間判定部97と、を有している。
ECU80によって制御されるバイオ燃料劣化判定装置1の制御は、例えば、バイオ燃料濃度センサ38などによる検出結果に基づいて、処理部81が上記コンピュータプログラムを当該処理部81に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じてメイン燃料インジェクタ21などを作動させることにより制御する。その際に処理部81は、適宜記憶部100へ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。なお、このようにバイオ燃料劣化判定装置1を制御する場合には、上記コンピュータプログラムの代わりに、ECU80とは異なる専用のハードウェアによって制御してもよい。
この実施例に係るバイオ燃料劣化判定装置1は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。実施例に係るバイオ燃料劣化判定装置1が備えられるエンジン10は、例えば、菜種油をメチルエステル化したバイオ燃料であるRME(Rapeseed Methyl Ester)等の脂肪酸メチルエステルと軽油とが混合された燃料であるバイオ混合軽油によって運転可能になっている。このため、燃料タンク35には、エンジン10を運転する際における燃料として、バイオ混合軽油が貯留される。
このエンジン10の運転時には、車両の室内に設けられるアクセルペダル(図示省略)の開度であるアクセル開度に応じて、ECU80の処理部81が有するスロットルバルブ制御部82がスロットルバルブ46の開度を制御する。即ち、アクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサ(図示省略)の検出結果に応じて、スロットルバルブ制御部82がスロットルバルブ46の開度を制御する。これにより、吸気通路15にはスロットルバルブ46の開度に応じた空気が流れる。吸気通路15に空気が流れた場合、この空気の流量をエアフロメータ47で検出し、エアフロメータ47での検出結果をECU80の処理部81が有する吸入空気量取得部83で取得する。
ここで、この吸気通路15には、ターボチャージャ40のコンプレッサ41が接続されている。このコンプレッサ41は、エンジン10から排出される排気ガスによってターボチャージャ40のタービン42が作動した際の力により、作動可能に設けられている。コンプレッサ41が作動した際には、吸気通路15を流れる空気の流れ方向におけるコンプレッサ41の上流側の空気を吸引し、圧縮して下流側に流す。これにより、ターボチャージャ40の作動時におけるコンプレッサ41の下流側の吸気通路15には、大気圧よりも圧力が高くなった空気が流れる。
圧力が高くなった空気は吸気通路15を流れ、コンプレッサ41の下流側に配設されるインタークーラ45に流れる。空気を圧縮して圧力を高くした場合、温度が上昇するが、インタークーラ45は、インタークーラ45内を流れる圧縮空気とインタークーラ45の周囲を流れる空気との間で熱交換を行うことにより、インタークーラ45内を流れる空気の温度を下げる。これにより、インタークーラ45内を流れる空気の密度が高くなる。
インタークーラ45で冷却され、密度が高くなった空気は、さらに吸気通路15における下流側に流れる。スロットルバルブ46は、このインタークーラ45の下流に配設されており、吸気通路15を流れる空気の流量を調整するスロットルバルブ46は、ターボチャージャ40のコンプレッサ41で圧縮され、インタークーラ45で冷却された後の空気の流量を調整する。スロットルバルブ46で流量を調整した空気は、エンジン10に供給される。即ち、エンジン10は、ターボチャージャ40によって過給した状態で吸気する。
また、エンジン10の運転時には、サプライポンプ26が作動し、燃料タンク35内の燃料をコモンレール25に供給する。つまり、サプライポンプ26が作動することにより、燃料タンク35内の燃料がメイン燃料通路30を介してサプライポンプ26に吸引される。その際に、サプライポンプ26に吸引される燃料は、メイン燃料通路30に配設される燃料フィルタ36によって不純物が除去された後、サプライポンプ26に流れる。
サプライポンプ26に吸引された燃料は、サプライポンプ26で圧力が高められ、機関燃料通路31を通ってコモンレール25に供給される。このため、コモンレール25内の燃料は、高圧の状態になっている。また、各気筒11に配設されているメイン燃料インジェクタ21は、このコモンレール25に接続されているため、メイン燃料インジェクタ21には、コモンレール25から高圧の燃料が供給される。
このように、高圧の燃料が供給されるメイン燃料インジェクタ21は、ECU80の処理部81が有する燃料噴射量制御部84で制御可能になっている。つまり、燃料噴射量制御部84には、吸入空気量取得部83で取得した吸入空気量やアクセル開度などの運転状態に関する情報が伝達され、燃料噴射量制御部84は、伝達された運転状態に関する情報に応じてメイン燃料インジェクタ21を制御し、作動させる。これにより、メイン燃料インジェクタ21は、燃料噴射量制御部84での制御に応じた燃料を気筒11内に噴射する。
具体的には、燃料噴射量制御部84は、エンジン10の圧縮行程で気筒11内の空気が高圧になった時点で、運転状態に適した量の燃料をメイン燃料インジェクタ21から気筒11内に噴射させる。気筒11内に噴射された燃料は、圧縮することにより高温になった空気によって燃焼し、燃焼した後の排気ガスは、排気行程で気筒11内から排気通路16に排気される。排気通路16に排気された排気ガスは、排気通路16に接続されるターボチャージャ40のタービン42に流れ、ターボチャージャ40を作動させる。
ターボチャージャ40を作動させた後の排気ガスは、さらに排気通路16を流れ、NSR触媒コンバータ60を通過する。NSR触媒コンバータ60では、当該NSR触媒コンバータ60を通過する排気ガスを、気筒11内で燃焼させる燃料と空気との割合である空燃比をリッチとリーンとで繰り返し変化させて流すことにより、排気ガス中のNOx(窒素酸化物)を浄化する。
詳しくは、空燃比がリーンの場合、即ち、排気ガス中に多量の酸素が含まれている場合には、NSR触媒コンバータ60はNOxを吸蔵し、空燃比がリッチの場合、即ち、酸素濃度が低く、且つ、HC(炭化水素)などの還元成分が多量に含まれている場合には、NOxをNO2(二酸化窒素)、若しくはNO(一酸化窒素)に還元して放出する。NO2やNOとして放出されたNOxは、排気ガス中のHCやCO(一酸化炭素)と反応することによってさらに還元され、N2(窒素)になる。この場合、HCやCOは、NO2やNOを還元することにより酸化されて、H2O(水)やCO2(二酸化炭素)になる。即ち、NSR触媒コンバータ60は、NSR触媒コンバータ60を通過する排気ガス中のNOx、HC、COを浄化する。
NSR触媒コンバータ60で浄化された排気ガスは、さらに、NSR触媒コンバータ60の下流側に配設されるDPNR触媒コンバータ61を通過する。このDPNR触媒コンバータ61は、排気ガスがセラミックスの隙間を通る間に、多孔質セラミック構造体に担持されたNOx吸蔵還元触媒で酸化や還元を行うことで、無害なガスへと化学変化させて排出する。具体的には、DPNR触媒コンバータ61は、空燃比をリーンにした場合に、当該DPNR触媒コンバータ61を構成すると共にフィルターの役割を果たす多孔質セラミック構造体でPM(Particulate Matter:粒子状物質)を一時的に捕集すると同時に、NOxを吸蔵する際に生成される活性酸素と排気ガス中の酸素とにより酸化浄化する。また、空燃比をリーンにした場合には、DPNR触媒コンバータ61はNOxを一旦吸蔵し、空燃比をリッチにした場合に還元浄化する。また、空燃比をリッチにした場合には、DPNR触媒コンバータ61はNOxを還元浄化する際に生成される活性酸素によりPMを酸化浄化する。
NSR触媒コンバータ60やDPNR触媒コンバータ61は、このように空燃比を変化させることにより排気ガスを浄化するが、空燃比をリッチにする場合には、ECU80の処理部81が有する排気浄化制御部85で、サプライポンプ26に接続されている遮断弁27を開くと共に排気燃料添加インジェクタ22を作動させる。これにより、添加燃料通路32を介してサプライポンプ26から排気燃料添加インジェクタ22に燃料が供給され、排気燃料添加インジェクタ22から排気ガスに対して燃料を噴射する。このため、NSR触媒コンバータ60やDPNR触媒コンバータ61に流れる排気ガスは、空燃比がリッチの状態になる。
排気ガスの浄化は、空燃比をリッチやリーンにすることにより行うが、この空燃比の制御は排気通路16に設けられる空燃比センサ52や差圧検出通路65に設けられる差圧センサ66の検出結果等に基づいて行う。このうち、差圧センサ66は、差圧検出通路65が接続されている、排気通路16におけるNSR触媒コンバータ60の上流側とDPNR触媒コンバータ61の下流側との差圧を検出するが、差圧センサ66の検出結果は、ECU80の処理部81が有する差圧取得部86に伝達され、差圧取得部86で取得する。排気ガスの浄化を行うことを目的として空燃比を制御する際には、例えば、差圧取得部86で取得した差圧が排気浄化制御部85に伝達され、伝達された差圧が大きい場合には、排気燃料添加インジェクタ22から燃料を噴射し、排気ガスの空燃比をリッチにする。つまり、差圧が大きい状態とは、DPNR触媒コンバータ61で捕集したPMの量が多くなり、排気ガスが流れ難くなった状態であるため、この場合には排気ガスの空燃比をリッチにし、PMを酸化浄化する。
NSR触媒コンバータ60やDPNR触媒コンバータ61は、これらのように排気ガスを浄化するが、NSR触媒コンバータ60やDPNR触媒コンバータ61は、温度が比較的低い場合には、排気燃料添加インジェクタ22で噴射した燃料はNSR触媒コンバータ60やDPNR触媒コンバータ61をすり抜けてしまう場合がある。この場合、NSR触媒コンバータ60やDPNR触媒コンバータ61では排気ガスの浄化が困難になる場合があるが、すり抜けた燃料がDPNR触媒コンバータ61の下流に配設される酸化触媒コンバータ62に到達し、酸化触媒コンバータ62でこの燃料を用いて酸化浄化を行うことにより、排気ガスを浄化する。気筒11内から排出された排気ガスは、これらのNSR触媒コンバータ60、DPNR触媒コンバータ61、酸化触媒コンバータ62で浄化された後、大気に放出される。
また、気筒11内から排気通路16に排出された排気ガスの一部は、排気通路16に接続されているEGR通路70に流入し、EGRガスとして、EGR通路70における排気通路16に接続されている側の端部から、吸気通路15に接続されている側の端部に向けて流れる。
このEGR通路70には、EGR触媒コンバータ71が配設されており、EGR通路70を流れるEGRガスは、このEGR触媒コンバータ71を通過する際に浄化される。EGR触媒コンバータ71で浄化されたEGRガスは、EGR通路70を流れるEGRガスの流れ方向におけるEGR触媒コンバータ71の下流側に配設されるEGRクーラ72を通過する。その際に、EGRクーラ72は、EGRガスと冷却水との間で熱交換を行わせる。これにより、EGRガスは、温度が低下する。
EGRクーラ72によって温度が低下したEGRガスは、さらにEGR通路70を流れ、EGRバルブ73の方向に向かう。このEGRバルブ73は、ECU80の処理部81が有するEGRバルブ制御部87によって制御可能に設けられており、EGRバルブ制御部87は、EGRバルブ73を制御することによりEGRバルブ73の開度を調整する。
ここで、EGRバルブ73が設けられるEGR通路70は、吸気通路15に接続されているが、吸気通路15内を流れる空気とEGR通路70内を流れるEGRガスとでは、EGR通路70内を流れるEGRガスの方が、吸気通路15内を流れる空気よりも圧力が高くなっている。このため、吸気通路15とEGR通路70とが連通した状態では、EGR通路70内を流れるEGRガスは、吸気通路15内に流入する。従って、EGRバルブ制御部87によってEGRバルブ73を制御し、EGRバルブ73の開度を大きくした場合には、EGR通路70内を流れるEGRガスの吸気通路15内への流入量は多くなり、EGRバルブ73の開度を小さくした場合には、吸気通路15内へのEGRガスの流入量は少なくなる。エンジン10の運転時には、このようにEGRバルブ73の開度に応じたEGRガスが吸気通路15に流れ、エンジン10は、吸気通路15を流れる空気と共に、EGRガスを吸気する。
また、エンジン10の運転時には、気筒11に設けられている筒内圧センサ50で気筒11の筒内圧を検出する。この筒内圧センサ50は、各筒内圧センサ50が設けられている気筒11の筒内圧を、それぞれ独立して検出する。筒内圧センサ50で検出した筒内圧は、ECU80の処理部81が有する筒内圧取得部88で取得する。筒内圧取得部88で取得した筒内圧は、ECU80の処理部81が有する着火遅れ導出部89に伝達され、着火遅れ導出部89は、伝達された筒内圧に基づいて、燃料がメイン燃料インジェクタ21によって気筒11内に噴射されてから着火するまでの期間である着火遅れを導出する。さらに、ECU80の処理部81が有する着火遅れ判定部90は、エンジン10の運転領域が所定の領域の場合に、燃料タンク35に貯留されている燃料が劣化しているか否かを、着火遅れ導出部89で導出した着火遅れに基づいて判定する。
ここで、バイオ燃料の酸化劣化について説明する。実施例に係るバイオ燃料劣化判定装置1を備えるエンジン10は、バイオ混合軽油を燃料としているが、このバイオ混合軽油に含まれるバイオ燃料は、時間が経過するに従って酸化劣化する場合がある。このようにバイオ燃料が酸化劣化した場合、燃料に含まれる酸素が増加し、燃料中の酸素濃度が増加する。このため、酸化劣化したバイオ燃料でエンジン10を運転した場合、燃料中の酸素により気筒11内での燃料の燃焼が促進して燃料は気筒11内で燃焼し易くなる。即ち、酸化劣化したバイオ燃料でエンジン10を運転した場合には、燃料の着火性が向上し、気筒11内に噴射された燃料は、噴射されてから着火するまでの時間が短くるため、着火遅れが短縮する。
このため、燃料タンク35のバイオ燃料の濃度や燃料の種類を変更しない状態で、エンジン10の運転時における着火遅れが短縮した場合には、バイオ燃料は酸化劣化していると判断することができる。このように、着火遅れは、バイオ燃料は酸化劣化しているか否かの判定に用いることができる。従って、ECU80の処理部81が有する着火遅れ判定部90は、着火遅れ導出部89で導出した着火遅れが所定以上短縮している場合に、バイオ燃料は酸化劣化していると判定する。
また、バイオ燃料の酸化劣化は、このように着火遅れによって判定することができるが、エンジン10の燃焼状態は運転状態に応じて変化するため、着火遅れもエンジン10の運転状態によって変化する。このため、バイオ燃料の酸化劣化を判定することを目的として着火遅れの変化を検出する場合には、エンジン10の運転状態が同じ状態の場合における筒内圧に基づいて着火遅れを導出することにより、着火遅れの変化を検出することができる。従って、エンジン10の運転状態が同じ状態の場合における着火遅れを導出することにより、バイオ燃料の酸化劣化を判定することができる。
また、着火遅れは、エンジン10の運転状態によって、バイオ燃料が酸化劣化していない場合と酸化劣化した場合との差の大きさが異なっている。このため、バイオ燃料の酸化劣化を判定することを目的として着火遅れを導出する場合には、比較的低負荷の運転領域など、燃料が燃焼し難いことによりバイオ燃料が酸化劣化していない場合と酸化劣化した場合とで着火遅れの差が大きくなる運転領域が好ましい。例えば、気筒11が吸入するガス中のEGRガスの割合が高かったり、アイドリング時や低速定常運転時など低負荷領域でエンジン10の運転を行っていたりすることにより、燃焼温度が低い運転領域の場合には、燃料は燃焼し難くなる。このため、このような運転領域では、燃料の燃焼状態は燃料中の酸素濃度に応じて大きく変わるため、着火遅れも燃料中の酸素濃度に応じて大きな差が出る。
このため、バイオ燃料の酸化劣化を判定することを目的として着火遅れを導出する場合には、例えば、燃料が燃焼し難い運転領域であるアイドリング時における筒内圧に基づいて着火遅れを導出し、アイドル状態になる度に着火遅れを導出する。つまり、車両の運転中は、車両は車速を変化させながら走行をするが、エンジン10がアイドル状態になった場合には車速は0km/hになるので、アイドリング時にバイオ燃料の酸化劣化を判定する際には、車速が0km/hになった場合における筒内圧を検出し、検出した筒内圧に基づいて着火遅れを導出する。
即ち、車速が0km/hになる場合におけるエンジン10の運転領域を、筒内圧に基づいて着火遅れを導出する所定の領域である着火遅れ導出運転領域とし、この状態における筒内圧を筒内圧センサ50で検出して筒内圧取得部88で取得し、取得した筒内圧に基づいて着火遅れ導出部89で着火遅れを導出する。このため、着火遅れ導出部89は、エンジン10の運転領域が着火遅れ導出運転領域になる度に着火遅れを導出するので、車両走行中における着火遅れは、着火遅れ導出部89で複数回導出する。
着火遅れ導出部89で導出した着火遅れに基づいてバイオ燃料の酸化劣化を判定する場合には、導出した着火遅れが所定以上短縮した場合に、バイオ燃料は酸化劣化したと判定する。ECU80の処理部81が有する着火遅れ判定部90で、バイオ燃料は酸化劣化したか否かの判定を行う場合には、着火遅れ導出部89で複数回導出した着火遅れが、それぞれ着火遅れ判定部90に伝達される。着火遅れ判定部90では、着火遅れ導出部89で導出した着火遅れが、バイオ燃料の劣化を判定する場合における着火遅れの基準値である基準着火遅れに対して所定以上短縮しているか否かを判定する。
また、基準着火遅れは、燃料タンク35に給油を行った直後の筒内圧に基づいて導出した着火遅れになっており、燃料タンク35に給油を行う度に、給油直後の筒内圧に基づいて導出した着火遅れが基準着火遅れとして用いられる。即ち、燃料タンク35に給油を行う度に、給油直後の筒内圧に基づいて導出した着火遅れを基準着火遅れとして、ECU80の記憶部100に記憶しておく。
着火遅れ判定部90で、着火遅れ導出部89で導出した着火遅れは基準着火遅れに対して所定以上短縮しているか否かを判定する場合には、基準着火遅れと着火遅れ導出部89で導出した着火遅れとの差が、バイオ燃料が劣化したか否かの判定の閾値となる判定基準差よりも大きい場合に、着火遅れ導出部89で導出した着火遅れは基準着火遅れに対して所定以上短縮していると判定する。この判定により、基準着火遅れに対する着火遅れ導出部89で導出した着火遅れの低減分が、判定基準差よりも大きい場合には、着火遅れ導出部89で導出した着火遅れは基準着火遅れに対して所定以上短縮しており、バイオ燃料は酸化劣化していると判定する。
着火遅れ導出部89で導出した着火遅れは基準着火遅れに対して所定以上短縮していると判定された場合、即ち、バイオ燃料が酸化劣化していると判定された場合には、ECU80の処理部81が有する燃料劣化時制御部92で、バイオ燃料が劣化した場合における制御である燃料劣化時制御を行う。この燃料劣化時制御は、燃料劣化時制御部92が有する燃料劣化伝達部93によって、運転席に設けられている表示装置75の警告表示をONにして、運転者に対して燃料が酸化劣化している旨を伝達する。これにより、酸化劣化した燃料でエンジン10の運転を続けることを抑制する。
図3は、実施例に係るバイオ燃料劣化判定装置の処理手順を示すフロー図である。次に、実施例に係るバイオ燃料劣化判定装置1の制御方法、即ち、当該バイオ燃料劣化判定装置1の処理手順について説明する。実施例に係るバイオ燃料劣化判定装置1の処理手順では、まず、燃料を給油したか否かを判定する(ステップST101)。この判定は、ECU80の処理部81が有する給油判定部95で行う。この給油判定部95は、エンジン10の停止時における燃料タンク35内の燃料の貯留量を、燃料タンク35に設けられる燃料レベルセンサ37での検出結果より取得して、ECU80の記憶部100に記憶する。
給油判定部95で、燃料を給油したか否かを判定する際には、エンジン10の始動時に現在の燃料タンク35内の燃料の貯留量を燃料レベルセンサ37での検出結果より取得し、取得した現在の燃料の貯留量と、記憶部100に記憶されている燃料の貯留量、即ち、前回のエンジン10の停止時における燃料の貯留量とを比較する。この比較により、現在の燃料の貯留量が、前回のエンジン10の停止時における燃料の貯留量よりも一定量以上越えていれば、給油判定部95は、燃料を給油したと判定する。なお、この判定の基準になる燃料の一定量は、予めECU80の記憶部100に記憶されている。
また、給油判定部95での燃料を給油したか否かを判定は、これ以外の手法で行ってもよく、例えば、燃料の給油口(図示省略)が開閉されると共に燃料レベルセンサ37での検出した燃料の貯留量が増加した場合には、燃料を給油したと判定してもよい。給油判定部95での判定により、燃料を給油していないと判定された場合には、後述するステップST106に向かう。
給油判定部95での判定(ステップST101)により、燃料を給油したと判定された場合には、次に、運転者への警告表示をOFFにする(ステップST102)。この警告表示は、運転席に設けられている表示装置75を、ECU80の処理部81が有する燃料劣化伝達部93で制御することにより行う。燃料劣化伝達部93は、表示装置75を制御することにより、燃料が劣化していることを示す警告表示をOFFにする。これにより、運転者への警告表示をOFFにすることができ、運転者に対して燃料が劣化していないことを伝達する。
次に、エンジン10の運転領域は、着火遅れ導出運転領域であるか否かを判定する(ステップST103)。この着火遅れ導出運転領域であるか否かの判定は、ECU80の処理部81が有する運転領域判定部91で行う。着火遅れ導出運転領域であるか否かの判定を運転領域判定部91で行う場合には、車両を制御する場合において他の制御で用いる走行中の車両の走行状態やエンジン10の運転状態を運転領域判定部91で取得し、エンジン10の運転領域が着火遅れ導出運転領域であるか否かを判定する。
例えば、上述したように車速が0km/hになる場合におけるエンジン10の運転領域を着火遅れ導出運転領域とする場合には、0km/hを予めECU80の記憶部100に記憶しておき、運転領域判定部91は、取得した運転状態の車速が0km/hである場合に、現在の運転領域は着火遅れ導出運転領域であると判定する。この判定により、エンジン10の運転領域は着火遅れ導出運転領域ではないと判定した場合には、この処理手順から抜け出る。
運転領域判定部91での判定(ステップST103)により、エンジン10の運転領域は着火遅れ導出運転領域であると判定した場合には、次に、着火遅れの初期値Aを導出し、記憶する(ステップST104)。つまり、バイオ燃料が劣化しているか否かの判定に用いる基準着火遅れは、燃料タンク35に燃料の給油を行った直後の筒内圧に基づいて導出した着火遅れが基準着火遅れとして用いられる。このため、燃料タンク35に燃料を給油したと判定され、且つ、エンジン10の運転領域が着火遅れ導出運転領域であると判定された場合には、この状態の筒内圧を検出し、この筒内圧に基づいて導出した着火遅れが、基準着火遅れである初期値Aとして用いられる。
詳しくは、燃料タンク35に燃料を給油したと判定され、且つ、エンジン10の運転領域が着火遅れ導出運転領域であると判定された場合には、まず、この状態の筒内圧を筒内圧センサ50で検出し、検出結果をECU80の処理部81が有する筒内圧取得部88で取得する。筒内圧取得部88で取得した筒内圧は、ECU80の処理部81が有する着火遅れ導出部89に伝達され、着火遅れ導出部89では、伝達された筒内圧に基づいて着火遅れを導出する。着火遅れ導出部89で着火遅れを導出する際には、燃料噴射量制御部84で制御するメイン燃料インジェクタ21によって噴射する燃料の噴射タイミングと、筒内圧取得部88で取得した筒内圧の変化とより、燃料を噴射してから着火するまでの期間を検出し、着火遅れを導出する。これにより導出する着火遅れは、給油直後の着火遅れである着火遅れの初期値Aとして導出し、ECU80の記憶部100に記憶する。このように記憶した初期値Aが、バイオ燃料が劣化しているか否かの判定を行う際に用いる基準着火遅れとして用いられる。
次に、初期値Aの導出後、計測時間T以上経過したか否かを判定する(ステップST105)。この判定は、ECU80の処理部81が有する経過時間判定部97で行う。経過時間判定部97は、初期値Aを着火遅れ導出部89で導出して記憶部100に記憶した後、バイオ燃料が劣化したか否かの判定を明確に行うことのできる時間である計測時間Tが経過したか否かを判定する。この計測時間Tは、バイオ燃料が劣化したか否かの判定をするのに必要最低限な時間として、バイオ燃料の劣化が進行する単位で予め設定され、記憶部100に記憶されている。計測時間Tの設定は、バイオ燃料濃度センサ38で検出した燃料タンク35に貯留されている燃料中のバイオ燃料の濃度を、ECU80の処理部81が有する計測時間設定部96で取得し、取得したバイオ燃料の濃度に応じて計測時間設定部96で設定する。この設定は、例えば、バイオ燃料の濃度が濃くなるに従って計測時間Tが短時間になるように設定する。
なお、バイオ燃料の濃度は、バイオ燃料濃度センサ38による検出結果以外によって取得してもよく、例えば、空燃比センサ52により検出したある規定領域での空燃比の差、または、燃料の粘度・温度等の計測から、燃料中のバイオ燃料の濃度を推定してもよい。計測時間設定部96は、これらによりバイオ燃料の濃度を取得し、取得したバイオ燃料の濃度に基づいて設定した計測時間Tを記憶部100に記憶する。経過時間判定部97は、初期値Aを導出した後の時間が、この記憶部100に記憶された計測時間T以上経過したか否かを判定する。この判定により、初期値Aの導出後、計測時間T以上経過していないと判定された場合には、この処理手順から抜け出る。
経過時間判定部97での判定(ステップST105)により、初期値Aの導出後、計測時間T以上経過したと判定された場合には、次に、エンジン10の運転領域は、着火遅れ導出運転領域であるか否かを判定する(ステップST106)。この着火遅れ導出運転領域であるか否かの判定は、ステップST103での判定と同様に運転領域判定部91で行い、運転領域判定部91によってステップST103での判定方法と同様の方法で行う。この判定により、エンジン10の運転領域は着火遅れ導出運転領域ではないと判定した場合には、この処理手順から抜け出る。
運転領域判定部91での判定(ステップST106)により、エンジン10の運転領域は着火遅れ導出運転領域であると判定された場合には、次に、着火遅れの現状値Bを導出する(ステップST107)。つまり、現在のエンジン10の運転領域が着火遅れ導出運転領域であると判定された場合には、初期値Aとなる着火遅れを導出する場合(ステップST104)と同様に、この状態の筒内圧を筒内圧センサ50で検出して筒内圧取得部88で取得し、取得した筒内圧に基づいて着火遅れ導出部89で着火遅れを導出する。このようにして導出した着火遅れが、着火遅れの現状値Bとして用いられる。
次に、(初期値A−現状値B)>判定基準差Cであるか否かを判定する(ステップST108)。この判定は、着火遅れ導出部89で導出した着火遅れに基づいて、ECU80の処理部81が有する着火遅れ判定部90で行う。着火遅れ判定部90は、この判定を行う際には、ECU80の記憶部100に記憶されている初期値Aから現状値Bを減算し、この減算により算出された値が、燃料が劣化したか否かの判定の基準となる判定基準差Cより大きいか否かを判定する。即ち、判定基準差Cは、着火遅れが短縮した場合における閾値となっており、着火遅れ導出部89で導出した着火遅れに基づいてバイオ燃料が劣化しているか否かの判定をする際における基準値として、予めECU80の記憶部100に記憶されている。
このように、着火遅れ判定部90は、初期値Aから現状値Bを減算した値と判定基準差Cとを比較し、初期値Aから現状値Bを減算した値、即ち、初期値Aに対する現状値Bの低減分が、判定基準差Cより大きい場合には、現状値Bである現在の着火遅れが、初期値Aである基準着火遅れに対して所定以上短縮していると判定する。着火遅れ判定部90での判定により、A−B>Cではないと判定された場合には、この処理手順から抜け出る。
着火遅れ判定部90での判定(ステップST108)により、A−B>Cであると判定された場合には、次に、運転者への警告表示をONにする(ステップST109)。この警告表示は、表示装置75を、ECU80の処理部81が有する燃料劣化時制御部92及び燃料劣化時制御部92が有する燃料劣化伝達部93で制御することにより行う。燃料劣化時制御部92は、着火遅れ判定部90での判定によりA−B>Cであると判定された場合には、バイオ燃料が劣化した場合における制御である燃料劣化時制御を行い、燃料劣化伝達部93は、具体的な燃料劣化時制御として表示装置75を制御する。燃料劣化伝達部93で表示装置75を制御することにより燃料劣化時制御を行う場合には、表示装置75を制御して、燃料が劣化していることを示す警告表示をONにする。これにより、運転者への警告表示をONにすることができ、運転者に対して燃料が劣化していることを伝達する。
運転者は、表示装置75での警告表示がONになることにより、バイオ燃料が酸化劣化したことを認識できる。この場合、燃料タンク35に新たに燃料を給油したり、燃料タンク35内の燃料を早めに消費したり、燃料タンク35内の燃料を抜き取ったりすることにより、バイオ燃料が酸化劣化した状態でエンジン10を運転し続けることを抑制できる。
以上のバイオ燃料劣化判定装置1は、気筒11の筒内圧を筒内圧センサ50で検出し、検出した筒内圧に基づいて、燃料の燃焼時における着火遅れを着火遅れ導出部89で導出している。さらに、着火遅れ導出部89で導出した着火遅れが基準着火遅れに対して所定以上短縮していると着火遅れ判定部90で判定した場合に、燃料劣化時制御部92で燃料劣化時制御を行っている。ここで、バイオ燃料が酸化劣化した場合には、劣化の進行に伴って燃料中の酸素濃度が増加するが、酸素濃度が増加した場合、燃料は燃焼し易くなる。このため、気筒11内の燃料は燃焼行程で着火し易くなり、着火遅れが短縮される。バイオ燃料が酸化劣化した場合には、このように着火遅れが短縮されるため、換言すると、エンジン10の運転に用いられる燃料の種類が一定の状態で着火遅れが短縮された場合には、バイオ燃料は酸化劣化していると判断することができる。従って、エンジン10の運転中に筒内圧センサ50で検出した気筒11の筒内圧に基づいて着火遅れ導出部89で着火遅れを導出し、導出した着火遅れが基準着火遅れに対して所定以上短縮していると着火遅れ判定部90で判定した場合に燃料劣化時制御部92で燃料劣化時制御を行うことにより、バイオ燃料が酸化劣化していることを認識することができる。この結果、バイオ燃料の酸化劣化を検知することができる。
また、ECU80の処理部81が有する燃料劣化時制御部92は、燃料が劣化したことを運転者に伝達する燃料劣化伝達部93を備えているため、着火遅れ導出部89で導出した着火遅れが基準着火遅れに対して所定以上短縮していると判定された場合に燃料劣化時制御を行うことにより、バイオ燃料が劣化したことを運転者に伝達することができる。即ち、車両の運転席に設けられる表示装置75を燃料劣化伝達部93で制御し、表示装置75の警告表示をONにすることにより、燃料が劣化したことを運転者に伝達することができる。この結果、より確実にバイオ燃料の酸化劣化を検知することができる。また、このように燃料が劣化したことを運転者に伝達することにより、燃料タンク35内の燃料の交換を促すことができる。この結果、バイオ燃料が酸化劣化した状態で燃料タンク35内の燃料を使用し続けることを抑制できる。
また、ECU80の処理部81が有する着火遅れ判定部90は、運転領域判定部91によってエンジン10の運転領域は着火遅れ導出運転領域であると判定した場合に、着火遅れ導出部89で導出した着火遅れは基準着火遅れに対して所定以上短縮しているか否かの判定をしているので、基準着火遅れの短縮を判定する際の正確性を向上させることができる。つまり、エンジン10の運転中における着火遅れは、エンジン10の運転領域によって変化するため、一定の運転領域の場合における着火遅れを判定することにより、より正確に着火遅れの変化を検知することができる。この結果、より正確にバイオ燃料の酸化劣化を検知することができる。
また、着火遅れ導出部89で着火遅れを導出する運転領域である着火遅れ導出運転領域は、燃料が燃焼し難い運転領域であるため、燃料の燃焼状態は、燃料中の酸素濃度に依存する割合が高くなる。このため、着火遅れ導出運転領域では、酸素濃度によって着火遅れが大幅に変化するため、バイオ燃料が酸化劣化することにより燃料中の酸素濃度が増加した場合には、顕著に着火遅れが短縮する。従って、着火遅れ導出運転領域で着火遅れを導出し、着火遅れ導出運転領域における着火遅れが短縮したか否かを判定することにより、より確実にバイオ燃料が酸化劣化した場合における着火遅れの短縮を判定することができる。この結果、より確実にバイオ燃料の酸化劣化を検知することができる。
また、着火遅れ判定部90で、着火遅れ導出部89で導出した着火遅れは基準着火遅れに対して所定以上短縮しているか否かの判定を行う際に、基準着火遅れと着火遅れ導出部89で導出した着火遅れとの差が、判定基準差よりも大きい場合に、着火遅れ導出部89で導出した着火遅れは基準着火遅れに対して所定以上短縮していると判定している。詳しくは、基準着火遅れを初期値Aとし、筒内圧センサ50で検出した筒内圧に基づいて着火遅れ導出部89で導出した現在の着火遅れを現状値Bとし、判定基準差を判定基準差Cとした場合において、初期値Aから現状値Bを減算した値が判定基準差Cよりも大きい場合、即ち、(初期値A−現状値B)>判定基準差Cを満たしている場合に、着火遅れ導出部89で導出した着火遅れは基準着火遅れに対して所定以上短縮していると判定している。このように、着火遅れを判定する際に、判定基準差と比較して判定することにより、着火遅れが所定以上短縮したか否かを、より正確に判定することができる。この結果、より正確にバイオ燃料の酸化劣化を検知することができる。
また、基準着火遅れを、燃料タンク35に燃料を給油した場合における筒内圧に基づいて導出した着火遅れである初期値Aにするため、給油時の燃料に対する燃料の劣化を検知することができる。つまり、基準着火遅れを、燃料タンク35に燃料を給油した場合における着火遅れにすることにより、エンジン10の運転中における現在の着火遅れである現状値Bを、燃料タンク35への給油時の着火遅れと比較することができる。従って、筒内圧センサ50で検出した筒内圧に基づいて着火遅れ導出部89で導出した着火遅れに基づいて燃料の劣化を検知する際に、給油時の燃料に対する劣化を検知することができる。この結果、より確実にバイオ燃料の酸化劣化を検知することができる。
なお、上述したバイオ燃料劣化判定装置1では、車速が0km/hになる場合におけるエンジン10の運転領域を着火遅れ導出運転領域としているが、着火遅れ導出運転領域は複数設定されていてもよい。この場合、基準着火遅れは、複数の着火遅れ導出運転領域ごとに設定されているのが好ましい。例えば、車速が0km/h以外に、30km/hでの低速定常走行時や、気筒11が吸入するガス中のEGRガスの割合が高い運転状態など、低負荷領域になるエンジン10の運転領域を、それぞれ着火遅れ導出運転領域とし、それぞれの着火遅れ導出運転領域ごとに、独立した基準着火遅れを設定してもよい。このように基準着火遅れを、複数の着火遅れ導出運転領域ごとに設定することにより、燃料の劣化を判定する際における判定精度を高くすることができる。
つまり、気筒11内で燃料が燃焼する際の燃焼状態は、エンジン10の運転領域によって変化し、これに伴い着火遅れもエンジン10の運転領域によって変化するため、基準着火遅れを着火遅れ導出運転領域ごとに設定することにより、複数の運転領域で基準着火遅れと現在の着火遅れとを比較することができる。この結果、より正確にバイオ燃料の酸化劣化を検知することができる。
また、燃料が劣化していることを運転者に伝達する手段として、上述したバイオ燃料劣化判定装置1では、表示装置75の警告表示によって伝達しているが、伝達する手段はこれ以外の手段でもよい、例えば、燃料が劣化した場合には、車内に設けられるスピーカ(図示省略)から、警告音や音声によって運転者に対してバイオ燃料が劣化していることを伝達してもよい。
また、燃料劣化時制御部92による燃料劣化時制御として、上述したバイオ燃料劣化判定装置1では、表示装置75で警告表示を行うことにより運転者に対してバイオ燃料が劣化していることを伝達しているが、燃料劣化時制御は、これ以外の制御を行ってもよい。例えば、バイオ燃料が酸化劣化していると判定された場合における燃料劣化時制御として、メイン燃料インジェクタ21や排気燃料添加インジェクタ22での燃料噴射量を変更するなど、酸化劣化したバイオ燃料でエンジン10を運転した場合における不具合を低減する制御を行ってもよい。