実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係るパッシブラジエータ1の概略構成を示す背面図、図2は図1のA−A断面図である。本実施の形態1に係るパッシブラジエータ1は、振動体11と、電磁制動部12と、フレーム13とを有している。
振動体11は、振動板21と、エッジ22と、ダンパー23とを有している。振動板21は、平面形状が略円形状を呈している。振動板21の縦断面形状は、略円錐台形状(コーン形状)を呈している。
振動板21の材料としては、例えば、紙、繊維を用いた織布、繊維を用いた編み物、不織布、フェノール系樹脂等を含浸させた不織布、金属材料、合成樹脂、アクリル発泡体、合成樹脂と金属とからなるハイブリッド材などがある。金属材料には、例えば、アルミニウムやチタン、ベリリウム、マグネシウム、あるいはこれらの合金等がある。合成樹脂には、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルメタアクリレート、ポリカーボネイト、ポリアリレート、エポキシ樹脂、ポリサルホン、ウレタン結合を有するポリウレタン、ゴム等がある。また、発泡樹脂であるアクリル発泡体は、例えば、メタアクリル酸メチルと、メタアクリル酸と、スチレンと、無水マレイン酸と、メタアクリルアミドとを原料として形成され、公知の発泡樹脂も振動板21に用いることができる。ハイブリッド材は、例えば、ポリプロピレン等の合成樹脂とタングステン等の金属とからなる。
振動板21の外周縁(外周部)には、エッジ22が振動板21と一体に形成されている。エッジ22は、適度なコンプライアンス(剛性)を兼ね備えている。エッジ22は、平面形状が略円環形状を呈するとともに、縦断面形状がパッシブラジエータ1の前面側(音響放射方向)に突き出た略ロール形状を呈している。エッジ22の外周縁(外周部)は、後述するフレーム13を構成する第3層13cの内底部13caに接着剤等により固着されている。以上により、振動板21は、エッジ22を介してフレーム13に連結されている。すなわち、エッジ22は、振動板21をフレーム13に対し、弾性的に支持している。上記したように、エッジ22は振動板21と一体に形成されているので、エッジ22の材料は、上記した振動板21の材料と同一である。なお、振動板21とエッジ22とが別部材にて形成されていても良い。
振動板21を構成する略円盤形状を呈する底部21aの背面略中央には、後述する電磁制動部12を構成する導電部32の一端が接着剤等により固着されている。導電部32は、例えば、銅、アルミニウム、銀、亜鉛等の金属や常磁性体又はこれらの合金、炭素化合物、導電性高分子あるいは、これらの粒子をフィラーとした合成樹脂、導電性のある強磁性体など、導電性を有する材料からなる。導電部32は、略平板形状を呈した少なくとも1個の導電部材により構成されている。導電部32の一部は、後述する電磁制動部12を構成する磁気回路31が形成する磁界内へ延在している。
また、振動板21を構成する底部21aの外周には、ダンパー23の内周縁(内周部)が接着剤等により固着されている。ダンパー23は、平面形状が略円環形状を呈している。ダンパー23は、適度なコンプライアンス(剛性)を兼ね備えている。ダンパー23には、コルゲーションが形成されている。すなわち、ダンパー23の断面形状は、複数の凸部及び凹部(言い換えれば、曲線部と直線部)とを有している。ダンパー23は、例えば、繊維から構成される不織布にフェノール系樹脂等又はフェノール系樹脂と有機溶媒とからなる溶液などを含浸し、加熱成形により形成されている。
ダンパー23の外周縁(外周部)は、後述するフレーム13を構成する第2層13bの底板部13baの前面に接着剤等により固着されている。以上により、振動板21は、ダンパー23を介してフレーム13に連結されている。すなわち、ダンパー23は、振動板21をフレーム13に対し、弾性的に支持している。
これにより、ダンパー23は、パッシブラジエータ1の静止状態において、エッジ22とともに、振動板21をパッシブラジエータ1の所定位置に配置されるように、弾性的に支持している。ダンパー23及びエッジ22は、特に、後述する電磁制動部12を構成する磁気回路31の磁石41と磁石42との間に形成された磁気ギャップ(磁気間隙)G内に導電部32が配置されるように、振動板21及び導電部32を弾性的に支持している。
この場合、ダンパー23は、導電部32を磁石41及び42等に接触させない所定位置で弾性的に保持している。また、ダンパー23は、パッシブラジエータ1の作動状態においては、振動板21及び導電部32を振動方向(図1(b)に示すX方向)に沿って弾性的に支持する役目も担っている。
電磁制動部12は、磁気回路31と、上記した導電部32と、支持部33とを有している。磁気回路31は、所定距離隔てて対向して配置された磁石41及び42を有している。磁石41及び42は、例えば、希土類系(例えば、ネオジム系)、サマリウム・コバルト系、アルニコ系、フェライト系磁石等の永久磁石等からなる。磁石41及び42は、同一の略平板形状を呈しており、かつ、同一寸法である。磁石41及び42は、異なる磁極が対向するように配置されている。例えば、磁石41の磁石42と対向する面がN極に着磁されている場合には、磁石42の磁石41と対向する面がS極に着磁されている。そして、導電部32は、磁石41と磁石42との間に配置されている。
磁石41及び42は、支持部33により支持されている。支持部33は、環形状(枠形状)を呈している。図1の例では、支持部33は、平面形状が略ロ字形状を呈している。支持部33は、1個の部材で構成されていても良いし、複数の部材が接着剤等により固着されて構成されていても良い。磁石41及び42は、支持部33の対向する内側面に接着剤等により固着されている。この支持部33は、フレーム13に取り付けられている。図1の例では、支持部33は、フレーム13を構成する第1層13aの底板部13aaの内周縁背面(音響放射方向に対し反対側)に接着剤等により固着されている。
フレーム13は、例えば、鉄系金属、非鉄金属又はそれらの合金、合成樹脂などから構成されている。鉄系金属としては、例えば、純鉄、無酸素鋼又はケイ素鋼等がある。非鉄金属としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム又は亜鉛等がある。合成樹脂としては、例えば、ポリプロピレンなどのオレフィン系、ABS(アクリロニトリル・ブダジエン・スチレン)、ポリエチレンテレフタレート系などの熱可塑性樹脂に、補強用フィラーとしてガラス繊維又はフィブリル化したサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂を添加してなるものなどがある。フレーム13は、例えば、鉄系金属を絞り成形したり、非鉄金属又はそれらの合金をダイキャスト成形したり、合成樹脂を射出成形したりして形成されている。
フレーム13は、第1層13a、第2層13b及び第3層13cの3層が一体に構成されている。第1層13aの外径よりも第2層13bの外径が大きく、第2層13bの外径よりも第3層13cの外径が大きい。第1層13a及び第2層13bは、それぞれ断面形状が略台形状を呈している。一方、第3層13cは、略円筒形状を呈している。
第1層13aを構成する底板部13aaの略中央には、略円形状を呈する貫通孔13abが穿設されている。フレーム13は、この貫通孔13abにより背面側(音響放射方向に対し反対側)に開口している。底板部13aaの上記貫通孔13abとの境界に、上記した支持部33の一部前面(音響放射方向)が、例えば、接着剤等により固着されている。これにより、フレーム13は、上記磁気回路31を支持している。
第2層13bの側面には、平面形状が略円形状を呈する複数の開口部13bbがそれぞれ穿設されている。図1の例では、12個の開口部13bbが示されている。フレーム13は、第3層13cにおいて前面側(音響放射方向)に開口している。フレーム13は、第3層13cの内底部13ca及び第2層13bの底板部13baにおいて上記した振動体21を支持している。
図3は、上記した構成を有するパッシブラジエータ1を備えたスピーカシステムの概略構成を示す断面図である。このスピーカシステムは、上記したパッシブラジエータ1と、スピーカユニット2と、これらが取り付けられたキャビネット3とを備えている。
スピーカユニット2は、図4に示すように、磁気回路51と、フレーム52と、振動体53とを有している。磁気回路51は、ヨーク61とプレート63とにより磁石62を挟持する外磁型である。ヨーク61を構成する材料として、例えば、純鉄、無酸素鋼、ケイ素鋼等が挙げられるが、公知の磁性材料により構成することが可能である。ヨーク61は、平面形状が略円形状を呈しているとともに、断面形状が略逆T字形状を呈している。ヨーク61は、底板部61aと、柱部(センターポール)61bとが一体に形成されて構成されている。底板部61aは、平面形状が略円盤形状を呈している。柱部61bは、略円柱形状を呈し、底板部61aの略中央に略垂直に立設されている。底板部61aの外径は、例えば、磁石62の外径よりわずかに小さい。一方、柱部61bの外径は、後述するボイスコイルボビンの内径よりわずかに小さい。ヨーク61を構成する柱部61bは、後述する振動体53を構成するボイスコイルボビン73の内部に遊挿されている。また、ヨーク61を構成する底板部61aの外周縁の前面(音響放射方向)は、磁石62の背面に、例えば、接着剤等により固着されている。
磁石62は、例えば、上記した磁石41及び42と同一素材により構成されている。磁石62は、略円環形状を呈している。プレート63は、例えば、純鉄、無酸素鋼、ケイ素鋼等が挙げられるが、公知の磁性材料により構成することが可能である。プレート63は、略円環形状を呈している。磁石62の外径は、プレート63の外径よりわずかに小さい。磁石62とプレート63とは、互いの厚み方向の中心軸が重なるように、例えば、接着剤等により固着されている。
この磁気回路51において、スピーカユニット2の前面側(音響放射方向)のプレート63の前面には、フレーム52が、例えば、接着剤等により固着されている。フレーム52は、例えば、上記したフレーム13と同一素材により構成されている。
フレーム52は、第1層52a、第2層52b及び第3層52cの3層が一体に構成されている。第1層52aの外径よりも第2層52bの外径が大きく、第2層52bの外径よりも第3層52cの外径が大きい。第1層52a及び第2層52bは、それぞれ断面形状が略台形状を呈している。一方、第3層52cは、略円筒形状を呈している。
第1層52aを構成する底板部52aaの略中央には、略円形状を呈する貫通孔52abが穿設されている。フレーム52は、この貫通孔52abにより背面側(音響放射方向に対し反対側)に開口している。上記貫通孔52abの周縁に、上記したプレート63の前面(音響放射方向)が、例えば、接着剤等により固着されている。これにより、フレーム52は、上記磁気回路51を支持している。
第2層52bの側面には、図1を参照して説明した開口部13bbと同様に、平面形状が略円形状を呈する複数の開口部52bbがそれぞれ穿設されている。フレーム52は、第3層52cにおいて前面側(音響放射方向)に開口している。フレーム52は、第3層52cの内底部52ca及び第2層52bの底板部52baにおいて後述する振動体53を支持している。
振動体53は、振動板71と、エッジ72と、ボイスコイルボビン73と、ボイスコイル74と、ダンパー75と、センターキャップ76とを有している。振動板71は、平面形状が略円環形状を呈している。振動板71の縦断面形状は、略円錐台形状(コーン形状)を呈している。
振動板71は、例えば、上記した振動板21と同一素材により構成されている。振動板71の内周縁71aには、平面形状が略円形状を呈する貫通孔71aaが形成されている。貫通孔71aaには、略円筒形状を呈するボイスコイルボビン73の前端近傍外周面が接着剤等により固着されている。ボイスコイルボビン73の材料としては、例えば、有機繊維、無機繊維又は金属材料、樹脂等を採用することができる。具体的には、例えば、フェノール樹脂含浸ガラス繊維、ポリイミド樹脂含浸ガラス繊維等の樹脂材料を含浸した繊維や、アルミニウム、ジュラルミン等の金属箔、ABS、ポリイミド等の樹脂フィルム等をボイスコイルボビン73の材料として採用することができる。
ボイスコイルボビン73の後端近傍外周面には、図4に示すように、ボイスコイル74が巻き回されている。ボイスコイル74の両端は、それぞれボイスコイルボビン73及び振動板71に沿って引き出され、例えば振動板71の内周縁近傍において図示せぬ一対のリード線とそれぞれ電気的に接続されている。ヨーク61を構成する柱部61bと、プレート63との間には、磁気ギャップ(磁気間隙)Gが形成されている。図示せぬ一対のリード線は、例えば、複数の細い電線を撚り合せて形成された屈曲に強い錦糸線からなる。
センターキャップ76は、例えば、磁石62の内径に略等しい外径を有する球面板によって形成されている。振動板71の内周縁71a近傍には、ボイスコイルボビン73の前方をふさぐとともに、スピーカユニット2の前面側(音響放射方向)が凸形状となるように、センターキャップ76が接着剤等により固着されている。
一方、振動板71の外周縁には、エッジ72が振動板71と一体に形成されている。エッジ72は、適度なコンプライアンス(剛性)を兼ね備えている。エッジ72は、平面形状が略円環形状を呈するとともに、縦断面形状がスピーカユニット2の前面側(音響放射方向)に突き出た略ロール形状を呈している。エッジ72の外周縁は、フレーム52を構成する第3層52cの内底部52caに接着剤等により固着されている。以上により、振動板71は、エッジ72を介してフレーム52に連結されている。すなわち、エッジ72は、振動板71をフレーム52に対し、弾性的に支持している。上記したように、エッジ72は振動板71と一体に形成されているので、エッジ72の材料は、上記した振動板71の材料と同一である。なお、振動板71とエッジ72とが別部材にて形成されていても良い。
ダンパー75は、平面形状が略円環形状を呈している。ダンパー75は、適度なコンプライアンス(剛性)を兼ね備えている。ダンパー75には、コルゲーションが形成されている。すなわち、ダンパー75の断面形状は、複数の凸部及び凹部(言い換えれば、曲線部と直線部)とを有している。ダンパー75は、上記したダンパー23と同一素材により構成されている。ダンパー75の外周縁(外周部)は、フレーム52を構成する第2層52bの底板部52baの前面に接着剤等により固着されている。一方、ダンパー75の内周縁は、ボイスコイルボビン73の前端近傍外周面であって、振動板71の内周縁71aの固着箇所より後部に、接着剤等により固着されている。以上により、振動板71は、ダンパー75を介してフレーム52に連結されている。すなわち、ダンパー75は、振動板71をフレーム52に対し、弾性的に支持している。
図3に示すキャビネット3は、中空の矩形状に形成されている。キャビネット3の材料としては、例えば、木材、熱可塑性樹脂、シリコン樹脂、ゴムを含む樹脂材料、アルミニウム等の金属材料、多孔質材料(例えば、多孔質コンクリート)、セラミックス、古紙、パルプ、コルク、木屑や木粉等のセルロース系粉末、発泡剤、あるいはこれらを混合したものなどがある。キャビネット3は、前板3aに略円形状を呈する貫通孔3b及び3cがそれぞれ穿設されている。貫通孔3b周縁にはスピーカユニット2が取り付けられ、貫通孔3c周縁にはパッシブラジエータ1が取り付けられてスピーカシステムが構成されている。なお、キャビネット3の内面には、例えば、グラスウール等からなる吸音材を接着剤等により固着しても良い。
上記構成を有するスピーカシステムは、外部から音声信号(音声電流)が供給されると、この音声電流が図示せぬ一対のリード線を介してスピーカユニット2のボイスコイル74に流れる。したがって、磁気回路51を構成する磁石62に基づく磁束とボイスコイル74に流れた音声電流との間の電磁気力(ローレンツ力)に基づいて、スピーカユニット2の中心軸方向の駆動力がボイスコイル74に誘起される。この駆動力は、ボイスコイルボビン73を介して振動板71に伝達される。振動板71は、この駆動力の作用を受けて、エッジ72及びダンパー75に弾性支持されつつ、振動し、音声電流に応じた音波を前面(音響放射方向)にある空間及び背面にある空間に向けて放射する。
上記スピーカユニット2を構成する振動板71の背面から放射された音波は、その位相が振動板71の前面から放射された音波の位相に対して反転して、キャビネット3内の空間を伝達した後、当該スピーカユニット2を構成する振動板71の前面から放射された音波を強めるように、エッジ22及びダンパー23に弾性支持された、パッシブラジエータ1の振動板21を振動させる。この振動板21の、パッシブラジエータ1の中心軸方向の振動(往復運動)に応じて、導電部32は、磁石41と磁石42との間に形成されている磁界内を往復運動(振動)するが、導電部32に作用する磁力も変化する。この磁力の変化に対応して、導電部32に作用する磁力を一定に保持するために、導電部32に誘導起電力が発生し、このため導電部32に渦電流(誘導電流)が発生する。
この渦電流は、磁石41と磁石42との間(磁気ギャップ(磁気間隙)G内)の磁力と自己誘導作用して、電磁気力(ローレンツ力)を生じさせる。上記電磁気力の方向は、導電部32の振動による移動方向と反対方向であるので、パッシブラジエータ1には電気制動が生ずる。このパッシブラジエータ1に生ずる電気制動力は、導電部32の振動速度に比例している。
以上説明した電磁気力が導電部32に作用するので、導電部32を介してパッシブラジエータ1の振動を緩やかに制動させることが可能となる。また、導電部32が略平板形状を呈しているとともに、磁石41及び42も略平板形状を呈しているので、導電部32に磁力が作用する面積が比較的大きい。このため、電磁気力が比較的大きくなり、良好に導電部32又はパッシブラジエータ1に制動を作用させることが可能となる。
また、導電部32の電気抵抗率を調整すれば、制動効果を調整することができる。すなわち、銅など、電気抵抗率が小さい素材で導電部32を構成した場合には、電磁誘導が促進され、制動が掛かりやすくなる。したがって、本実施の形態1に係るパッシブラジエータ1は、その電気制動により低音域の過渡特性が著しく改良されるため、外部から供給される音声信号に対する低音域の追従性が著しく改良される。
パッシブラジエータは、一般に、所定の重さを有する振動板がエッジやダンパーなどのバネ性を有する支持系で支えられているという単純な構造のため、図5に曲線aで示すように、共振の鋭さを表すQ値が高過ぎて大振幅時の過振幅が問題であった。しかし、本実施の形態1に係るパッシブラジエータ1では、電磁制動部12を設けることによってパッシブラジエータ1の機械抵抗を増やし、これにより、図5に曲線bで示すように、Q値を低下させて過振幅を制御することができるとともに、共振帯域を拡大することができる。
また、このパッシブラジエータ1は、音声信号が印加されるスピーカユニットとほぼ同様な構造を有する従来のパッシブラジエータとは異なり、ボイスコイル、ボイスコイルボビン、ヨーク及びプレートを備えていない。したがって、パッシブラジエータ1は、従来のパッシブラジエータと比較して、構造が簡単であって、軽量化を図ることができ、安価に構成することができる。この結果、パッシブラジエータ1を備えたスピーカシステムも安価に構成することができる。また、このパッシブラジエータ1では、上記した第2の従来例のように、キャビネット3のパッシブラジエータ1の前面に、上記突出板を設ける必要がない。したがって、風きり音の発生を抑止することができるとともに、振動板21に作用する空気抵抗を調整する必要がない。
実施の形態2.
図6は、本発明の実施の形態2に係るパッシブラジエータ81の概略構成を示す断面図である。図6において、図2の各部に対応する部分には同一の符号を付け、その説明を省略する。図6に示すパッシブラジエータ81においては、図2に示す電磁制動部12に換えて、電磁制動部82が新たに設けられている。
電磁制動部82は、導電部83と、磁気回路84とを有している。導電部83は、導電部材85及び86から構成されている。導電部材85及び86は、例えば、上記した導電部32と同一素材により構成されている。導電部材85及び86は、略円環形状を呈している。導電部材85の外径は、導電部材86の外径より大きい。導電部材85及び86は、互いの中心軸が重なるように、振動板21を構成する底部21aの背面外周縁近傍に各一端が接着剤等により固着されている。導電部材85及び86の少なくとも一部は、後述する磁気回路84を構成するヨーク87の外周側部87bに取り囲まれている。
磁気回路84は、ヨーク87とプレート89とにより磁石88を挟持する内磁型である。ヨーク87は、例えば、上記したヨーク61と同一素材により構成されている。ヨーク87は、平面の全体形状が略円形状を呈している。ヨーク87は、底板部87aと、外周側部87bとが一体に形成されて構成されている。底板部87aは、平面形状が略円盤形状を呈している。外周側部87bは、底板部87aの外周縁(縁部)に略垂直に立設されている。
磁石88は、略円柱形状を呈している。磁石88は、例えば、上記した磁石41及び42並びに磁石62と同一素材により構成されている。プレート89は、略円柱形状を呈している。プレート89は、例えば、上記したプレート63と同一素材により構成されている。プレート89の外径は、磁石88の外径と略等しい。磁石88とプレート89とは、ヨーク87を構成する底板部87aの底面(音響放射方向)略中央に、互いの中心軸が重なるように、例えば、接着剤等により固着されている。ヨーク87を構成する外周側部87bと、プレート89との間には、磁気ギャップ(磁気間隙)Gが形成されている。
以上説明した構成を有する磁気回路84は、フレーム13に支持されている。すなわち、磁気回路84を構成するヨーク87の外周側部87bの前面(音響放射方向)が、フレーム13を構成する第1層13aの底板部13aaの背面(音響放射方向に対し反対側)に接着剤等により固着されている。
以上説明した構成を有するパッシブラジエータ81は、図3において、パッシブラジエータ1に換えてキャビネット3に取り付けられることにより、スピーカシステムが構成される。このスピーカシステムでは、外部から音声信号(音声電流)が供給されると、この音声電流が図示せぬ一対のリード線を介してスピーカユニット2のボイスコイル74に流れる。したがって、スピーカユニット2の振動板71は、上記した音声電流に応じた音波を前面(音響放射方向)にある空間及び背面にある空間に向けて放射する。
上記スピーカユニット2を構成する振動板71の背面から放射された音波は、その位相が振動板71の前面から放射された音波の位相に対して反転して、キャビネット3内の空間を伝達した後、当該スピーカユニット2を構成する振動板71の前面から放射された音波を強めるように、エッジ22及びダンパー23に弾性支持された、パッシブラジエータ1の振動板21を振動させる。この振動板21の、パッシブラジエータ81の中心軸方向の振動(往復運動)に応じて、導電部材85及び86は、ヨーク87を構成する外周側部87bとプレート89との間に形成されている磁界内を往復運動(振動)するが、導電部材85及び86に作用する磁力も変化する。この磁力の変化に対応して、導電部材85及び86に作用する磁力を一定に保持するために、導電部材85及び86に誘導起電力が発生し、このため導電部材85及び86に渦電流(誘導電流)が発生する。
この渦電流は、外周側部87bとプレート89との間(磁気ギャップ(磁気間隙)G内)の磁力と自己誘導作用して、電磁気力(ローレンツ力)を生じさせる。上記電磁気力の方向は、導電部材85及び86の振動による移動方向と反対方向であるので、パッシブラジエータ81には電気制動が生ずる。このパッシブラジエータ81に生ずる電気制動力は、導電部材85及び86の振動速度に比例している。以上説明した電磁気力が導電部材85及び86に作用するので、導電部材85及び86を介してパッシブラジエータ81の振動を緩やかに制動させることが可能となる。
導電部83を構成する導電部材85及び86の各電気抵抗率や個数を変更することにより、制動効果を調整することができる。すなわち、銅など、電気抵抗率が小さい素材で導電部材85又は86の一方又は両方を構成したり、導電部材の個数を多くしたりした場合には、電磁誘導が促進され、制動が掛かりやすくなる。したがって、本実施の形態2に係るパッシブラジエータ81は、その電気制動により低音域の過渡特性が著しく改善されるため、外部から供給される音声信号に対する低音域の追従性が著しく改善される。
また、本実施の形態2に係るパッシブラジエータ81では、電磁制動部82を設けることによってパッシブラジエータ81の機械抵抗を増やし、これにより、図5に曲線bで示すように、Q値を低下させて過振幅を制御することができるとともに、共振帯域を拡大することができる。
また、このパッシブラジエータ81は、音声信号が印加されるスピーカユニットとほぼ同様な構造を有する従来のパッシブラジエータとは異なり、ボイスコイル及びボイスコイルボビンを備えていない。したがって、パッシブラジエータ81は、従来のパッシブラジエータと比較して、構造が簡単であって、軽量化を図ることができ、安価に構成することができる。この結果、パッシブラジエータ81を備えたスピーカシステムも安価に構成することができる。また、このパッシブラジエータ81では、上記した第2の従来例のように、キャビネット3のパッシブラジエータ81の前面に、上記突出板を設ける必要がない。したがって、風きり音の発生を抑止することができるとともに、振動板21に作用する空気抵抗を調整する必要がない。
実施の形態3.
図7は本発明の実施の形態3に係るパッシブラジエータ91の概略構成を示す断面図、図8は図7のB−B断面図である。図7及び図8において、図6の各部に対応する部分には同一の符号を付け、その説明を省略する。図7及び図8に示すパッシブラジエータ91においては、図6に示す電磁制動部82に換えて、電磁制動部92が新たに設けられている。
電磁制動部92は、上記した導電部83と、磁気回路93とを有している。導電部83を構成する導電部材85及び86の少なくとも一部は、後述する磁気回路93を構成するヨーク94の柱部94bの一部を取り囲んでいる。
磁気回路93は、ヨーク94とプレート96とにより磁石95を挟持する外磁型である。ヨーク94は、例えば、上記したヨーク61及び87と同一素材により構成されている。ヨーク94は、平面形状が略円形状を呈しているとともに、断面形状が略逆T字形状を呈している。ヨーク94は、底板部94aと、柱部(センターポール)94bとが一体に形成されて構成されている。底板部94aは、平面形状が略円盤形状を呈している。柱部94bは、略円柱形状を呈し、底板部94aの略中央に略垂直に立設されている。
磁石95は、略円環形状を呈している。磁石95は、例えば、上記した磁石41及び42、磁石62並びに磁石88と同一素材により構成されている。プレート96は、略円環形状を呈している。プレート96は、例えば、上記したプレート63及び89と同一素材により構成されている。プレート96の外径及び内径は、磁石95の外径及び内径と略等しい。磁石95とプレート96とは、ヨーク94を構成する底板部94aの底面(音響放射方向)外周縁に、互いの中心軸が重なるように、例えば、接着剤等により固着されている。ヨーク94を構成する柱部94bと、プレート96との間には、磁気ギャップ(磁気間隙)Gが形成されている。
以上説明した構成を有する磁気回路93は、フレーム13に支持されている。すなわち、磁気回路93を構成するプレート96の前面(音響放射方向)が、フレーム13を構成する第1層13aの底板部13aaの背面(音響放射方向に対し反対側)に接着剤等により固着されている。
以上説明した構成を有するパッシブラジエータ91は、図3において、パッシブラジエータ1に換えてキャビネット3に取り付けられることにより、スピーカシステムが構成される。このスピーカシステムでは、外部から音声信号(音声電流)が供給されると、この音声電流が図示せぬ一対のリード線を介してスピーカユニット2のボイスコイル74に流れる。したがって、スピーカユニット2の振動板71は、上記した音声電流に応じた音波を前面(音響放射方向)にある空間及び背面にある空間に向けて放射する。
上記スピーカユニット2を構成する振動板71の背面から放射された音波は、その位相が振動板71の前面から放射された音波の位相に対して反転して、キャビネット3内の空間を伝達した後、当該スピーカユニット2を構成する振動板71の前面から放射された音波を強めるように、エッジ22及びダンパー23に弾性支持された、パッシブラジエータ1の振動板21を振動させる。この振動板21の、パッシブラジエータ91の中心軸方向の振動(往復運動)に応じて、導電部材85及び86は、ヨーク94を構成する柱部94bとプレート96との間に形成されている磁界内を往復運動(振動)するが、導電部材85及び86に作用する磁力も変化する。この磁力の変化に対応して、導電部材85及び86に作用する磁力を一定に保持するために、導電部材85及び86に誘導起電力が発生し、このため導電部材85及び86に渦電流(誘導電流)が発生する。
この渦電流は、柱部94bとプレート96との間(磁気ギャップ(磁気間隙)G内)の磁力と自己誘導作用して、電磁気力(ローレンツ力)を生じさせる。上記電磁気力の方向は、導電部材85及び86の振動による移動方向と反対方向であるので、パッシブラジエータ91には電気制動が生ずる。このパッシブラジエータ91に生ずる電気制動力は、導電部材85及び86の振動速度に比例している。以上説明した電磁気力が導電部材85及び86に作用するので、導電部材85及び86を介してパッシブラジエータ91の振動を緩やかに制動させることが可能となる。
導電部83を構成する導電部材85及び86の各電気抵抗率や個数を変更することにより、制動効果を調整することができる。すなわち、銅など、電気抵抗率が小さい素材で導電部材85又は86の一方又は両方を構成したり、導電部材の個数を多くしたりした場合には、電磁誘導が促進され、制動が掛かりやすくなる。したがって、本実施の形態3に係るパッシブラジエータ91は、その電気制動により低音域の過渡特性が著しく改善されるため、外部から供給される音声信号に対する低音域の追従性が著しく改善される。
また、本実施の形態3に係るパッシブラジエータ91では、電磁制動部92を設けることによってパッシブラジエータ91の機械抵抗を増やし、これにより、図5に曲線bで示すように、Q値を低下させて過振幅を制御することができるとともに、共振帯域を拡大することができる。
また、このパッシブラジエータ91は、音声信号が印加されるスピーカユニットとほぼ同様な構造を有する従来のパッシブラジエータとは異なり、ボイスコイル及びボイスコイルボビンを備えていない。したがって、パッシブラジエータ91は、従来のパッシブラジエータと比較して、構造が簡単であって、軽量化を図ることができ、安価に構成することができる。この結果、パッシブラジエータ91を備えたスピーカシステムも安価に構成することができる。また、このパッシブラジエータ91では、上記した第2の従来例のように、キャビネット3のパッシブラジエータ91の前面に、上記突出板を設ける必要がない。したがって、風きり音の発生を抑止することができるとともに、振動板21に作用する空気抵抗を調整する必要がない。
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、上述の各実施の形態では、振動板21は、縦断面形状がコーン形状を呈する例を示したが、これに限定されず、縦断面形状が前面側(音波の放射側)に突き出た略ドーム形状を呈していても良い。
また、上述の各実施の形態では、パッシブラジエータ1、81及び91並びにスピーカユニット2の平面形状が略円形状を呈している例を示したが、これに限定されず、パッシブラジエータ1、81及び91並びにスピーカユニット2の平面形状は略矩形状、略楕円状、あるいは、多角形状を呈していても良い。さらに、上述の各実施の形態では、パッシブラジエータ1、81及び91並びにスピーカユニット2の平面形状が略円形状を呈しているため、プレート63及び96、磁石62及び95並びに導電部材85及び86が略円環形状を呈し、磁石88及びプレート89が略円柱形状を呈している例を示したが、これに限定されない。例えば、パッシブラジエータ1、81又は91あるいはスピーカユニット2の平面形状が略矩形状を呈している場合には、プレート63又は96、磁石62又は95あるいは導電部材85又は86が略角環形状を呈していても良く、磁石88又はプレート89が略矩形状を呈していても良い。
また、上述の各実施の形態では、磁気回路51は、1個の略環形状を呈しているプレート63と、1個の略環形状を呈している磁石62とにより構成されている例を示し、磁気回路93は、1個の略環形状を呈しているプレート96と、1個の略環形状を呈している磁石95とにより構成されている例を示したが、これに限定されない。プレート63又は96、磁石62又は95のいずれか又はすべては、略円弧状又は略矩形状を呈している複数個のプレート用素材又は複数個の磁石で構成しても良い。
また、上述の各実施の形態では、ダンパー23及び75は、振動板21の底部21a及び振動板71の内周縁71aと同心円形状にコルゲーションが形成されている例を示したが、これに限定されず、ダンパー23又は75にはコルゲーションを形成しなくても良い
また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用することができる。
1…パッシブラジエータ、2…スピーカユニット、3…キャビネット、3a…前板、3b,3c…貫通孔、11,53…振動体、12,82,92…電磁制動部、13,52…フレーム、13a,52a…第1層、13aa,13ba,52aa,52ba…底板部、13ab,52ab…貫通孔、13b,52b…第2層、13bb,52bb…開口部、13c,52c…第3層、13ca,52ca…内底部、21,71…振動板、21a…底部、22,72…エッジ、23,75…ダンパー、31,51,84,93…磁気回路、32,83…導電部、33…支持部、41,42,62,88,95…磁石、61,87,94…ヨーク、61a,94a…底板部、61b,94b…柱部(センターポール)、63,89,96…プレート、71a…内周縁、71aa…貫通孔、73…ボイスコイルボビン、74…ボイスコイル、76…センターキャップ