JP2009228690A - 膨張黒鉛複合ガスケット材料及びその製造方法 - Google Patents

膨張黒鉛複合ガスケット材料及びその製造方法 Download PDF

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Tomonori Seki
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Abstract

【課題】 エンジンのシリンダーヘッドとブロック間の大きな動きに対しても十分追従でき、耐フロー性が優れた膨張黒鉛シートを複合したガスケット材料を提供する。
【解決手段】 膨張黒鉛シートと金属板を接着してなる複合ガスケット材料において、金属板とは反対側の膨張黒鉛シートの表面から、少なくとも50質量%のPTFEを含む樹脂を膨張黒鉛の空隙に含浸する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、主として内燃機関のシリンダーヘッドとシリンダブロック等の接合部をシールするために、金属板と、これに接着された膨張黒鉛シートからなる複合ガスケット材料に関するものであり、さらに詳しく述べるならば、膨張黒鉛シートを表面処理した複合ガスケット材料及びその製造方法に関するものである。
膨張黒鉛シートは、膨張黒鉛片の層状堆積物を連続的にロールなどにより加圧することによりシート状に成形されているので、膨張黒鉛片は相互に機械的に結合した状態で、シート状になっている。かかる膨張黒鉛シートを金属板にフェノール樹脂などの接着剤で貼付け、続いてエンジンシリンダーボアなどの総抜きを行い、最後にビード成形及び組合せを行うことによりガスケットを製作する(特許文献1:特開2007−170461号公報参照)。
特許文献2:特開昭60−191058号公報は、膨張黒鉛と合成樹脂やゴムの溶液又はエマルジョンとをスプレーし、スプレーにより堆積した材料を圧縮しているので、先の段落で説明した膨張黒鉛シートではないが、膨張黒鉛の可撓性、引張り強度を向上するために、膨張黒鉛に、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂またはシリコン変性樹脂などの樹脂、フッ素ゴムなどのゴムまたは無機材料を0.2 〜10重量%複合させることを提案している。
続いて、膨張黒鉛シートの特性を改良するための従来の提案を幾つか挙げる。
特許文献3:特開平7−118627号公報は、膨張黒鉛は鱗状黒鉛片の積層方向を拡開した隙間を有する構造体であり、この構造に起因して膨張黒鉛はフッ素樹脂などに比較して低締付面圧でのなじみ性が悪いので、シート状基材の主面側における膨張黒鉛の一部を、例えばブラストにより除去し、また必要により、ブラスト面にPTFEをコーティングすることによりなじみ性を改善することを提案している。
特許文献4:特開平9−40937号公報は、膨張黒鉛は、引張り強さ、圧縮強さ及び靭性が十分でなく、水、油などが侵入して膨潤するなどの問題があり、また、黒鉛シートの接着に使用している樹脂の影響により、修理などでガスケットを取り外す際に、シールフランジなどに膨張黒鉛が接着する問題もあるために、ガスケット材料の両面に形成された膨張黒鉛層にフッ素樹脂粉末を付着させることを提案している。フッ素樹脂粉末を付着させる方法としては、溶剤を使用すると、溶剤が膨張黒鉛の粒子間の絡み合いを弱めるので、フッ素樹脂エマルジョンを吹付ける方法は好ましくなく、フッ素樹脂微粉末又はフッ素樹脂の成型シートを微細化した粉末を直接吹付ける方法が好ましいと説明している。
特許文献5:特開2002−256083号公報は、液体が出入り可能な膨張黒鉛の気孔系を未硬化又は硬化した合成樹脂で満たしたシーリング要素に関し、合成樹脂としては、無溶媒で、低粘度を有し、貯蔵安定性が優れたアクリル樹脂が挙げられている。
膨張黒鉛シートには、シール部がへたったり、崩れて押し出される現象(フロー)があり、これを抑制するために、膨張黒鉛シートの密度のシール部を、エンジンに組み付けられた状態で1.85 〜 2.00g/cm3とすることを、本出願人らが特許文献6:特開2007―112940号公報で提案した。
特開2007−170461号公報 特開昭60−191058号公報 特開平7−118627号公報 特開平9−40937号公報 特開2002−256083号公報 特開2007−112940号公報 特開2005−114027号公報
上述のとおり、膨張黒鉛シートは膨張黒鉛片を連続的に加圧してシート状に成形しているために、膨張黒鉛を結合している力は化学的結合力ではない。このために、膨張黒鉛シートが、シリンダーヘッドとブロックの間に基板を介して挟み込まれた状態で、エンジンからの熱負荷を受けると、膨張黒鉛シートがブロックに貼り付いた場合ブロックの横方向の動きに追従できず、破断して、シール性が低下する。
さらに、膨張黒鉛シートの上記した結合力の故に、膨張黒鉛シートが粉末化して膨張黒鉛シートが接している相手部材に転写され、あるいは付着され易い。このために、抜き工程においては、膨張黒鉛シートの粉末が抜き型に転写、付着し、また、ビード成形工程においては、ビード型に膨張黒鉛シートの粉末が転写し、何れの場合も作業性が悪化するとともに膨張黒鉛シートの品質が低下することがある。
膨張黒鉛シートの基礎特性を見るためにスラスト評価を行った。この試験の結果、図1に示すように、表面処理を行わない従来の膨張黒鉛シートは短いサイクルで摩擦力が急上昇し、かつ流動(フロー)していることが分かった。この流動(フロー)は、膨張黒鉛シートがその中心孔の周りで、リング状にはみだし、その一部が三日月状に破断して、下治具の中心孔側に押し出される現象として、確認される。
また、膨張黒鉛シートも著しく摩滅しており、かつ摩擦力が増大している。
さらに、本発明者は従来提案されている表面処理を施した従来の膨張黒鉛シートについて検討したが、上記した流動(フロー)に十分に耐える性能が得られず、その原因については、次のように考察した。PTFEを単にコーティングしただけのものは、PTFEが残存している間は若干の耐フロー性が得られるが、PTFE簡単に摩耗してしまうために、そのPTFEが消失してしまうと十分な耐フロー性が得られない。また、表面処理後の膨張黒鉛シートは、単に摩擦係数が低いだけではなく、耐摩耗性をある程度有している必要がある。よって、低摩擦特性に優れたフッ素樹脂を単にコーティングしただけでは耐フロー性は十分ではない。
膨張黒鉛複合ガスケット材料に関するものではないが、本出願人は、特許文献7:特開2005−114027号公報において、エンジンの振動による動きに追従し、優れたシール性を有する金属ガスケットとして、熱可塑性エラストマーを、プライマー層を介して金属板に接着したガスケットを提案している。この作用は熱可塑性エラストマーがエンジンの振動に伴って滑らかに動くことにある。一方、特許文献3などで提案されているフッ素樹脂コーティングは樹脂の低摩擦特性を利用している。
これら技術を評価して、摩擦係数低下のみあるいはエンジン振動の追従性向上のみでは、十分な耐フロー性を達成することができないと判断した。また、特許文献6で提案された方法では、優れた耐フロー性が得られるが、アルミヘッド、およびオープンデッキ構造のブロックの場合、ヘッド、ブロック間の横方向の動きが大きくなり、その動きには追従できず、ガスケットが摩耗し、シール性の低下につながってしまう。
したがって、本発明は、前述のような大きなシリンダーヘッドとブロック間の大きな動きに対しても十分追従でき、耐フロー性が優れた膨張黒鉛シートを複合したガスケット材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
上記した目的を達成するために本発明は、膨張黒鉛シートと金属板を接着してなる複合ガスケット材料において、前記金属板とは反対側の膨張黒鉛シートの表面から,少なくとも50質量%のPTFEを含む樹脂を該膨張黒鉛の空隙に含浸したこと特徴とする複合ガスケット材料を提供するものである。
また、本発明に係る膨張黒鉛シートと金属板を接着してなる複合ガスケット材料の製造方法は、前記膨張黒鉛シートの何れかの面に、少なくとも50質量%がPTFE含む樹脂を含浸する工程、前記膨張黒鉛シートの反対面に接着用樹脂を塗布する工程、前記接着用樹脂を介して前記膨張黒鉛シートと前記金属板を接触させかつホットプレスする工程を有することを特徴とする。
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明において使用される、少なくとも50質量%のPTFEを含む樹脂含浸前の膨張黒鉛シートは通常のものであり、厚さが一般に0.5〜1.0mmで、好ましくは0.6〜0.8mmであり、密度が一般に0.1〜 0.8g/cm3、好ましくは0.12〜0.20g/cm3である。また、金属板は厚さが0.1 〜0.3 mmのSUS301など通常のものを使用する。
本発明に係る膨張黒鉛シートは上記金属板に接着されており、かつ好ましくは5〜10質量%の樹脂、すなわち、少なくとも50質量%のPTFEを含む樹脂(以下「樹脂」と略称する)が含浸されている。樹脂の割合が5質量%未満であると、摩擦係数が高くなり、耐フロー性改善の効果が少ない。さらに、樹脂が単に膨張黒鉛を被覆している状態では耐フロー性改善の効果は少ない。
金属板に接着した後膨張黒鉛シートを圧縮して、樹脂を含まない状態のシートの密度で好ましくは0.8〜 1.5g/cm3、より好ましくは0.3〜0.5g/cm3に高密度化するが、高密度化後にフッ素樹脂を含浸すると含浸効率が悪いので、上記した低密度の膨張黒鉛シートに樹脂の含浸を行うことが好ましい。その後、金属板に膨張黒鉛シートを接着する工程において好ましくは100〜200℃で、より好ましくは140〜160℃で熱圧縮を行なう。この状態では、膨張黒鉛シートの密度(樹脂を除いた密度)を1.0〜1.3g/cm3と高密度化することが好ましい。
PTFEとしては、ディスパージョン型フッ素樹脂を使用することができる ディスパージョン型として現在入手可能なものは、ダイキン工業株式会社商品名ポリフロンPTFE,三井・デュポンフロロケミカル株式会社銘柄31-JR,34-JR、旭ガラス株式会社商品名AD911, AD912, AD938などがある。PTFE以外の樹脂としては、やはりディスパージョン型の四フッ化エチレンー六フッ化プロピレン共重合体(ダイキン工業株式会社商品名ネオフロンFEP)などがある。また、さらに強度アップするために、架橋タイプのPTFE、またはPFA、FEPなどの熱可塑タイプのフッ素樹脂、またはエポキシ樹脂、ポリアミド イミド、芳香族ポリアミドなどの樹脂を1種類又は数種類添加しても良い。
樹脂の含浸法としては、樹脂と必要により希釈剤または増粘剤を混合して適当な粘度としたものをスプレーすることにより行うが、他の含浸手段としては滴下、スクレーパー、印刷などの方法がある。以下スプレーによる方法について説明する。
樹脂のスプレーは、膨張黒鉛シートにフェノール樹脂等の接着用樹脂を塗装した後あるいは塗装する前に行う。前者の場合は、膨張黒鉛シートに樹脂をスプレー含浸した後、50〜100℃で乾燥、350〜390℃で焼成をした後、裏面に接着剤を塗布し、その後接着剤を介して膨張黒鉛シートを金属板に熱プレスする。後者の場合は、膨張黒鉛シートに接着剤を塗布、乾燥し、反対面に樹脂をスプレー、乾燥し、その後接着剤を介して膨張黒鉛シートを金属板に接着する。この場合、樹脂と接着剤との焼成温度を合わせる必要があるため、耐熱性の接着剤又は、樹脂へエポキシ樹脂等を加えて低温で焼成できるように変成させる必要がある。その後は、従来と同様に総抜き、ビード成形などを行う。なお、樹脂をスプレーした後は、室温で樹脂を内部に浸透させるための熟成を行い、その後乾燥を行う。また膨張黒鉛シートの表面を樹脂が厚く盛り上がっている場合は、例えば乾燥後に軽く表面をスクレーパーなどで拭う。なお、本発明における含浸は、ごく薄い樹脂が膨張黒鉛表面に残存していることは許容される。また、PTFEは膨張黒鉛シートの内部にファブリック状の形で含浸されており、膨張黒鉛のシートと絡み合った状態となっている。
<作用>
一般的に述べて、PTFEと黒鉛はいずれも結晶が特定方向に容易に破壊する低摩擦係数材料であるが、両者の性能を対比すると、前者は低摩擦特性で、かつファブリック状に存在していることに特長があり、後者は耐摩耗性に特長がある。本発明の含浸膨張黒鉛シートでは、樹脂が膨張黒鉛シートの空孔部に絡みこんだ状態で含浸され,その他の樹脂が含浸されている場合は、この樹脂はPTFEを補強している。これらの膨張黒鉛とPTFEが摺動面及びその近傍直下に共存しているために、シリンダーヘッドとブロックの間で大きな動きがあっても、含浸構造がシートのかなり深い部分まで上記動きに対応するので、フローを有効に防止することができる。
図1は、本発明材料と従来のフッ素樹脂を含浸しない従来材との試験結果を示すグラフである。従来材では、短いサイクルにおいて摩擦力が上昇するが、本発明材はなじみ段階ではわずかに摩擦力が上昇するが、その後は、摩擦力は低く安定しており、この特性がフロー防止に寄与していると考えられる。一方、フッ素樹脂をコーティングした膨張黒鉛シートは初期サイクルでは摩擦係数が低いが、コーティングの摩耗が比較的早期に起こり、その後は摩擦力が急速に上昇する。
上記のとおり、フッ素樹脂と膨張黒鉛がエンジン部材との接触面に共存していると、膨張黒鉛の転写の面でも有利である。転写を再現するために、膨張黒鉛シートを金属板に挟み込み、150℃程度まで加温して放置後、金属板に付着する状況を観察した。
この結果、樹脂を含浸していない従来の膨張黒鉛シートでは、付着が認められたが、本発明材料は肉眼で観察して、ブロック表面の金属表面状態が、色彩変化、模様の形成、異物や粉の付着などの点で、試験前とまったく変化しなかった。この試験方法及び結果を評価すると、含浸された樹脂は離型性が優れているから、膨張黒鉛が相手材である締め付けブロックに移行しなくなったと考えられる。また、樹脂は金属板との熱圧着の際に高温で焼成されており、密着力が高まっていることも原因であると考えられる。
さらに、樹脂は膨張黒鉛シートの内部に浸透しているために、油やLLCが浸透し難く、性能劣化が抑えられる。また、樹脂が膨張黒鉛シートの間隙に充填されているだけであり、黒鉛片が連続的に接触してシート状を呈している構造自体は樹脂により遮断されないので、伝熱が黒鉛を通じて起こるために、含浸された樹脂による熱伝導率への影響はほとんどない。
実施例
厚さが0.7mm,比重0.16g/cm3の膨張黒鉛シートを用意した。PTFEとしては分散ディスパージョンPTFE(ダイキン工業株式会社社製品名―ポリフロンディスパージョン )を用意した。このPTFEディスパージョンを汎用スプレーガン(MEIJI社製FSF )により噴射した。噴射後、膨張黒鉛シートを室温で1時間放置した。この時点での膨張黒鉛シートの比重を測定したところ、0.4 g/cm3であった。したがって、PTFEの含浸量は8質量%であった。含浸後約60秒放置した後80℃で10分乾燥し、350℃で30分間の焼成を行った。
その後樹脂噴射面とは、反対面に接着剤としてフェノール樹脂を塗布し、塗布面を厚さが0.2mmのSUS301板に接触させ、その後150℃でホットプレスすることにより、全体の厚さが0.3mmの複合シートを製造した。ホットプレス後の膨張黒鉛の密度(含浸樹脂を除いた密度)は1.15g/cm3であった。
比較例
膨張黒鉛シートの比重を実施例と同じ値に合わせるように、連続圧下前の膨張黒鉛使用量とロール圧下量を多くして膨張黒鉛シートを製造した。さらに、実施例の方法において水ディスパージョンPTFEスプレーを省略した他は同じ工程及び条件で複合シートを製造した。
基礎的評価として、複合シート全体の強度、並びに膨張黒鉛シートの摩擦係数及び熱伝導率の測定を行なった。複合シートの強度は引張り試験機により測定した。
結果を次表に示す。
Figure 2009228690
これらの特性は、強度はほとんど同じであり、摩擦係数は実施例が比較例より低いことが分かる。
次に、中心に穴が開いた円形複合シート耐フロ性ーの評価を測定した。その結果、比較例は3サイクルで摩擦力が400kgfに上昇したが、実施例は初期なじみ後に110 kgfで安定していた。また、比較例は膨張黒鉛が、リング状にはみだし、その一部が三日月状にはがれてフロー減少が認められたが、実施例の試験片の形状はまったく変化しなかった。
以上説明したように、本発明のガスケット用複合シートでは、膨張黒鉛シートに樹脂を含浸する工程が必要になるが、これはガスケット製造中の作業であり、ガスケットをエンジンに組み付ける工程では通常の作業をすればよいので、自動車製造の生産性上有利であり、また、自動車走行中にガスケット表面が摩滅すると含浸された樹脂がガスケット表面に現れて黒鉛と相俟ってフローを防止するから、長期走行中の性能保障の面でも、本発明は非常に有益である。
摩擦力の試験結果を示すグラフである。

Claims (3)

  1. 膨張黒鉛シートと金属板を接着してなる複合ガスケット材料において、前記金属板とは反対側の膨張黒鉛シートの表面から、少なくとも50質量%のPTFEを含む樹脂を該膨張黒鉛の空隙に含浸したことを特徴とする膨張黒鉛複合ガスケット材料。
  2. 前記PTFE以外の樹脂が、PTFE以外の熱可塑性フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂及び芳香族ポリアミド樹脂から選択された少なくとも1種である請求項1記載の膨張黒鉛複合ガスケット材料。
  3. 膨張黒鉛シートと金属板を接着してなる複合ガスケット材料の製造方法において、前記膨張黒鉛シートの何れかの面に、少なくとも50質量%がPTFEを含む樹脂を含浸する工程、前記膨張黒鉛シートの反対面に接着用樹脂を塗布する工程、前記接着用樹脂を介して前記膨張黒鉛シートと前記金属板を接触させかつホットプレスする工程を有することを特徴とする膨張黒鉛複合ガスケット材料の製造方法。
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