JP2009228126A - 冷間加工性に優れる機械構造用鋼材および冷間加工部品 - Google Patents

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Abstract

【課題】加工中は良好な冷間加工性を示し、加工後は所定の硬度、強度を示す機械構造用鋼材および冷間加工部品の提供。
【解決手段】C、Si、Mn、P、S、AlおよびNを必須成分として含有し、残部はFeおよび不可避的不純物を含み、固溶状態としてのN:0.007%以上、且つ、CとNの含有量が0.3≧(10C+N)の関係を満足し、フェライト単相組織を形成し、フェライトの平均結晶粒径が10〜200μmの範囲であるとともに、Siと固溶状態のNとが下記式(1)の関係式を満足することを特徴とする。
10≦Si/Sol.N≦40 ・・・(1)
【選択図】なし

Description

本発明は、加工中は良好な冷間加工性を示し、加工後は所定の硬度、強度を示す機械構造用鋼材および冷間加工部品(冷間加工鋼部品)に関する。
近年、環境保護の観点から、自動車などの車両の燃費向上を目的として、自動車用の各種部品の軽量化に対する要求が益々高まっている。例えば、ボルト・ナット、ピニオンギヤ、ステアリングシャフト、バルブリフター、コモンレール等を製造するための冷間加工用鋼材に対して軽量化、即ち高強度化に対する要求が益々高まっている。この種の軽量化に応えるために、一般に、母材鉄に添加される各種合金元素の含有量を調整することにより、軽量化しても所要強度を確保できる方法が採用されている。一方、部品製造工程におけるCOの排出量削減のため、これまで熱間鍛造によって加工されていたクランクシャフト、コンロッド、トランスミッションギヤ等の部品の冷間鍛造化に関する要求も高まっている。
ところで、冷間加工(冷間鍛造)とは、通常、200℃以下の雰囲気における加工であり、この冷間加工は、熱間加工や温間加工に比較して生産性が高く、しかも寸法精度および鋼材の歩留まりがともに良好な利点がある。
しかし、このような冷間加工によって部品を製造する場合に問題となるのは、冷間加工された部品の強度を期待される所定値以上に確保するため、必然的に変形抵抗の高い鋼材を用いる必要があることである。ところが、使用する鋼材の変形抵抗が高いほど冷間加工用金型の寿命低下を招くばかりか、冷間加工時に割れが発生しやすい難点がある。
そこで、従来、鋼材を所定形状に冷間加工した後、焼入れ焼戻し等の熱処理を行うことにより、所定強度(硬度)が確保された高強度部品を製造する方法が実施されることもあった。しかし、冷間加工後の熱処理は、部品寸法がなかば必然的に変化するため、二次的に切削などの機械加工により修正する必要があり、熱処理やその後の加工が省略できるような解決策が望まれている。
そこで、冷間加工中における鋼材の変形抵抗を低減すると同時に、所定の強度を確保し、しかも生産性向上ならびに省エネルギ化を図るために、いくつかの対策が提案されている。例えば、特許文献1には、歪時効特性に優れた冷間鍛造用線材・棒鋼およびその製造方法について、低炭素鋼で固溶Cを利用して常温時効の進行を抑制し、歪時効による所定の時効硬化量を確保することが記載されている。また、特許文献2には、冷間加工性に優れた高強度鋼線または棒鋼、高強度成形品並びにそれらの製造方法について、平均粒径500nm以下でセメンタイトフリーのフェライト組織とすることが記載されている。
特開平10−306345号公報 特開2005−320630号公報
しかし、前記特許文献1で提案されている線材・棒鋼は、固溶C量によって歪時効を制御するものであり、また、特許文献2は、セメンタイトフリーのフェライト組織とすることによって高強度の鋼材を得ることを目的とするものである。そのため、従来、十分な冷間加工性、ならびに加工後は所要の硬度および強度を有する鋼材を得ることは困難であった。
そこで、本発明の課題は、加工中は良好な冷間加工性を示し、加工後は所定の硬度、強度を示す機械構造用鋼材およびその機械構造用鋼材を加工してなる冷間加工部品を提供することにある。
そこで、本発明者らは、前記課題を解決するため、鋼材に含まれる固溶Cと固溶Nが変形抵抗と静的ひずみ時効に及ぼす影響の違いに着目した。すなわち、固溶Cは変形抵抗を大きく増加させ、静的ひずみ時効にあまり寄与せず、一方、固溶Nは変形抵抗をあまり上げず、静的ひずみ時効を促進させることができることに着目した。また、パーライトは、変形中の加工硬化を増加させるため、鋼材の組織をフェライト単相とすることが望ましいことを知見した。さらに、鋼材を温間(100℃以上)で加工すると、Nの効果が薄れるため加工後の硬さが減少しやすいことに着目し、Siを含有させることによって、温間加工後の硬さの低下を抑制できること、また、SiはNと相互作用するので、固溶N量に応じたSiが必要であることを知見した。そこで、鋼材の化学成分(特にCとN)を所定範囲とし、Siと固溶Nが特定の関係を満足することで、良好な冷間加工性を確保し、加工後は必要な硬度、強度に強化できることを知見した。
すなわち、前記知見に基づいて、請求項1に係る発明の機械構造用鋼材は、質量%で、C:0.025%以下(0%を含まない)、Si:0.06〜0.6%、Mn:0.3〜1%、P:0.05%以下(0%を含まない)、S:0.05%以下(0%を含まない)、Al:0.01〜0.1%、N:0.008〜0.025%を必須成分として含有し、残部はFeおよび不可避的不純物を含み、固溶状態としてのN:0.007%以上、且つ、CとNの含有量が0.3≧(10C+N)の関係を満足し、フェライト単相組織を形成し、フェライトの平均結晶粒径が10〜200μmの範囲であるとともに、Siの含有量と固溶状態のNの含有量(Sol.N)とが下記式(1)の関係式を満足することを特徴とする。
10≦Si/Sol.N≦40 ・・・(1)
この機械構造用鋼材では、C、Si、Mn、P、S、AlおよびNを必須成分として含み、これらの成分を特定の量において含有するとともに、固溶状態としてのNを特定の量含み、また、CとNの含有量が0.3≧(10C+N)の関係を満足し、フェライト単相組織を形成し、フェライトの平均結晶粒径が10〜200μmの範囲であるとともに、Siの含有量と固溶状態のN(固溶N)が前記式(1)で表される関係を満足することによって、加工中は良好な冷間加工性を確保し、加工後は必要な硬度、強度を得ることができる。
請求項2に係る発明は、前記の機械構造用鋼材において、さらに、Cr:2%以下(0%を含まない)および/またはMo:2%以下(0%を含まない)を含有することを特徴とする。
この機械構造用鋼材では、Crは結晶粒界の強度を高めることにより鋼の変形能を向上させることができ、また、Moは、加工後の鋼材の硬さおよび変形能を増加させることができる。
請求項3に係る発明は、前記の機械構造用鋼材において、さらに、Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)およびV:0.2%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする。
この冷機械構造用鋼材では、Ti、NbおよびVは、Nとの親和力が強く、Nと共存してN化合物を形成し、鋼の結晶粒を微細化させるため、Ti、NbおよびVよりなる群から選ばれる少なくとも1種を前記特定の量含有させることによって、冷間加工後に得られる加工品の靱性を向上させ、また、耐割れ性を向上させることができる。
請求項4に係る発明は、前記の機械構造用鋼材において、さらに、B:0.005%以下(0%を含まない)を含有することを特徴とする。
この機械構造用鋼材では、Bは、Nとの親和力が強く、Nと共存してN化合物を形成し、鋼の結晶粒を微細化させるため、Bを前記特定の量含有させることによって、冷間加工後に得られる加工品の靱性を向上させ、また、耐割れ性を向上させることができる。
請求項5に係る発明は、前記の機械構造用鋼材において、さらに、Cu:5%以下(0%を含まない)、Ni:5%以下(0%を含まない)およびCo:5%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする。
この機械構造用鋼材では、Cu、NiおよびCoは、いずれも鋼材をひずみ時効させ、硬化させる作用があるため、Cu、NiおよびCoよりなる群から選ばれる少なくとも1種を前記特定の量含有することによって、加工後強度を向上させることができる。
請求項6に係る発明は、前記の機械構造用鋼材において、さらに、Ca:0.05%以下(0%を含まない)、REM:0.05%以下(0%を含まない)、Mg:0.02%以下(0%を含まない)、Li:0.02%以下(0%を含まない)、Pb:0.5%以下(0%を含まない)およびBi:0.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする。
この機械構造用鋼材では、Ca、REM、Mg、Li、PbおよびBiよりなる群から選ばれる少なくとも1種を前記特定の量含有することによって、被削性の向上を得ることができる。
請求項7に係る発明は、前記の機械構造用鋼材を100℃未満で冷間加工した後の部品強度と冷間加工時の最大変形抵抗の関係が(2)式を満たし、且つ、100℃以上で冷間加工した時に(3)式を満たすことを特徴とする冷間加工部品を提供するものである。
H≧(DR+175)/2.5 ・・・(2)
−H≧−15 ・・・(3)
式(2)または式(3)において、H:冷間加工後の部品強度(Hv)、DR:冷間加工時の最大変形抵抗(MPa)、H:100℃以上で加工した時の加工後硬さ(Hv)、H:室温で加工した時の加工後硬さ(Hv)である。
この冷間加工部品では、前記の機械構造用鋼材を冷間加工することによって、100℃未満で冷間加工した後の部品強度と冷間加工時の最大変形抵抗の関係が(2)式を満たし、且つ、100℃以上で冷間加工した時に(3)式を満たし、冷間加工時の変形抵抗が低減されるとともに、加工後は良好な強度および硬度を有するものである。
本発明の機械構造用鋼材は、冷間加工中における鋼材の変形抵抗が低減されるため、冷間加工用金型の寿命が長くなるとともに、割れが発生し難く、加工後に得られる部品は所定の強度および硬度を確保することができる。そのため、本発明の機械構造用鋼材は、生産性向上ならびに省エネルギ化に有効である。
また、本発明の冷間加工部品は、本発明の鋼材を用いて冷間加工したものであり、冷間加工時に割れが発生せず、歩留まりが向上し、また、所要の強度および硬度を示すものである。
以下、本発明の機械構造用鋼材(以下、「鋼材」ともいう)について詳細に説明する。
本発明の鋼材は、必須成分として、C、Si、Mn、P、S、Al、N、残部がFe及び不可避的不純物で構成され、さらに必要に応じて、他の成分を含有するものである。以下、本発明の鋼材を構成する各成分の含有量の数値範囲およびその数値範囲の限定理由について説明する。
鋼材中のC含有量:0.025質量%以下(0質量%を含まない)
Cは、鋼材の組織の形成に大きな影響を及ぼす元素であり、組織をフェライト単相組織とするために、極力低減する必要がある元素であり、過剰に含有すると、鋼材の組織中にパーライトが生成し、パーライトの加工硬化によって変形抵抗が過大となる虞がある。そこで、鋼材中のC含有量は、0.025質量%以下(0質量%を含まない)とすることが必要であり、好ましくは0.020質量%以下(0質量%を含まず)、特に好ましくは0.015質量%以下(0質量%を含まず)である。しかし、Cの含有量が極端に少ないと、鋼材の溶製中の脱酸が困難になるため、下限は、0.0005質量%以上とすることが好ましく、さらに好ましくは0.0008質量%以上、特に好ましくは0.001質量%以上である。
鋼材中のSi含有量:0.06〜0.6質量%
SiはNとの相互作用によって温間加工後の強度の低下を抑制する作用を有する元素である。この作用を発揮させるために、鋼材中のSi含有量は0.06質量%以上が必須であり、好ましくは0.07質量%以上、さらに好ましくは0.08質量%以上である。しかし、過剰に添加すると、固溶強化による加工時の変形抵抗の増加が顕著になるため、上限は0.6質量%以下とすることが必須であり、好ましくは0.55質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
鋼材中のMn含有量:0.3〜1質量%
Mnは、製鋼過程において脱酸および脱硫の作用を有する元素である。さらに鋼材中のNの含有量を高めた場合、加工中の発熱による動的ひずみ時効によって割れが発生しやすくなるが、Mnはその時の加工性を向上させ、割れを抑制する効果がある。これらの作用を発揮させるために、鋼材中のMn含有量は0.3質量%以上とすることが必須であり、好ましくは0.32質量%以上、さらに好ましくは0.35質量%以上である。また、Mn含有量が1質量%を超えると変形抵抗が過大となり、また、偏析による組織の不均一性が生じるので不適であり、好ましくは0.98質量%以下、好ましくは0.95質量%以下である。
鋼材中のP含有量:0.05質量%以下(0%を含まない)
Pは不可避の不純物元素であるが、これがフェライトに含有するとフェライト粒界に偏析して冷間加工性を劣化させ、また、フェライトを固溶強化して変形抵抗の増大の原因となる元素である。そこで、Pの含有量は冷間加工性の観点から極力低減することが望ましいが、極端な低減は製鋼コストの増加を招くため、工程能力を考慮して、0.05%以下(0%を含まない)、好ましくは0.03質量%以下(0%を含まない)である。
鋼材中のS含有量:0.05質量%以下(0%を含まない)
硫黄(S)もPと同様に不可避的不純物であり、FeSとして結晶粒界に膜状に析出し、加工性を劣化させる元素である。また、熱間脆性を引き起こす作用もある。そこで、変形能を向上させる観点から、本発明ではS含有量を0.05質量%以下(好ましくは0.03質量%以下)とする。ただし、S含有量を0にすることは工業上困難である。なお、Sは被削性を向上させる効果を有するため、被削性向上の観点からは、0.002質量%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.006質量%以上含有させることが推奨される。
鋼材中のAl含有量:0.01〜0.1質量%
Alは、製鋼過程において脱酸に有効な元素である。この脱酸の効果を得るために、鋼材中のAl含有量は0.01質量%以上とすることが必須であり、好ましくは0.015
質量%以上、さらに好ましくは0.02質量%以上である。また、Alの含有量が0.1質量%を超えると靭性を低下させ、割れが発生しやすくなるので不適であり、好ましくは0.09質量%以下、さらに好ましくは0.08質量%以下である。
鋼材中のN含有量:0.008〜0.025質量%
Nは加工後の静的ひずみ時効によって所定の強度を得るために重要な元素である。そこで、鋼材中のN含有量は、0.008質量%以上とすることが必須であり、好ましくは0.0085質量%以上、さらに好ましくは0.009質量%以上である。また、Nの含有量が0.025質量%を超えると静的ひずみ時効のほか、加工中の動的ひずみ時効の影響が顕著になり、変形抵抗が増加するので不適であり、好ましくは0.023質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以下である。
そして、固溶状態のN(固溶N)を所定含有量(以下、「固溶N量」という)とすることで、変形抵抗をあまり上げず、静的ひずみ時効を促進させることができる。冷間加工後に所要の強度を確保するためには、0.007質量%以上必要である。しかし、固溶N量が過剰になると、冷間加工性が劣化するため、好ましくは0.03質量%以下である。なお、鋼材中のNの含有量は0.025質量%以下であるので、実質的に固溶N量は0.025質量%を超えることはない。
なお、本発明における固溶N量は、JIS G 1228に準拠して、鋼材中の全N量から全N化合物の量を差し引いて求められる量である。この固溶N量の実用的な測定法を以下に例示する。
(a)不活性ガス融解法−熱伝導度法(全N量の測定)
供試材から切り出したサンプルをルツボに入れ、不活性ガス気流中で融解してNを抽出し、抽出物を熱伝導度セルに搬送して熱伝導度の変化を測定して全N量を求める。
(b)アンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法(全N化合物量の測定)
供試材から切り出したサンプルを、10%AA系電解液に溶解し、定電流電解を行って、鋼中の全N化合物量を測定する。用いる10%AA系電解液は、10%アセトン、10%塩化テトラメチルアンモニウム、残部メタノールからなる非水溶媒系の電解液であり、鋼表面に不働態皮膜を生成させない溶液である。
供試材のサンプル約0.5gを、この10%AA系電解液に溶解させ、生成する不溶解残渣(N化合物)を、穴サイズが0.1μmのポリカーボネート製のフィルタでろ過する。得られた不溶解残渣を、硫酸、硫酸カリウムおよび純銅製チップ中で加熱して分解し、分解物をろ液に合わせる。この溶液を、水酸化ナトリウムでアルカリ性にした後、水蒸気蒸留を行い、留出したアンモニアを希硫酸に吸収させる。さらに、フェノール、次亜塩素酸ナトリウムおよびペンタシアノニトロシル鉄(III)酸ナトリウムを加えて青色錯体を生成させ、吸光光度計を用いて吸光度を測定して全N化合物量を求める。
(a)の方法によって求められた全N量から、(b)の方法によって求められた全N化合物量を差し引いて固溶N量を求めることができる。
本発明の鋼材において、固溶Cは変形抵抗を大きく増加させ、静的ひずみ時効にあまり寄与せず、一方、固溶Nは変形抵抗をあまり上げず、静的ひずみ時効を促進させることができるため加工後の硬度を増加させることができる作用を有する。そのため、本発明の鋼材において、加工中の変形抵抗をあまり上げず、加工後の硬さを増加させるために、Cの含有量とNの含有量とは、(10C+N)≦0.3の関係を満足することが必須であり、好ましくは0.009≦(10C+N)≦0.28、さらに好ましくは0.01≦(10C+N)≦0.25である。0.3<(10C+N)では、CおよびNの量が過剰となり、変形抵抗が過大となる。
さらに、本発明の鋼材は、Siと固溶N量とが下記式(1)の関係式を満足するものである。一般に、100℃未満の温度域において、固溶Nを利用して静的ひずみ時効を促進させると、加工後の硬さが増加する。一方、100℃以上の温度領域では、固溶Nの効果が薄れるため、加工後の硬さが室温と比較して減少しやすい。そのため、最大変形抵抗/加工後硬さの指標で示されるバランスが劣化する。一方、Siは、この加工後硬さの低下を抑制する作用がある。そこで、本発明の鋼材においては、Siと固溶状態のNとが下記式(1)で表される関係を満足することで、良好な冷間加工性を確保し、加工後は必要な硬度、強度に強化できる。
10≦Si/Sol.N≦40 ・・・(1)
Si/Sol.Nが10未満の場合、Siは固溶Nによる硬化の減少を十分抑制することができず、バランスが劣化するため、Si/Sol.Nの下限は10以上であり、好ましくは11以上、さらに好ましくは12以上である。また、Si/Sol.Nが40を超える場合、Siの効果が飽和するだけでなく、Siの固溶強化作用によって変形抵抗の増大を招くため、Si/Sol.Nの上限は40であり、好ましくは35以下、さらに好ましくは30以下である。
本発明の鋼材は、前記の必須の成分(C、Si、Mn、P、S、Al、N)を含有し、残部は実質的にFeで形成されるものであり、さらに、製造原料、資材、製造設備などに起因して、不可避の不純物が鋼材中に含有される。
また、本発明の鋼材は、前記の必須の成分に加えて、さらに必要に応じて、(a)〜(e)のグループから選ばれる少なくとも1種を含有することができる。
(a)Crおよび/またはMo
(b)Ti、NbおよびVよりなる群から選ばれる少なくとも1種
(c)B
(d)Cu、NiおよびCoよりなる群から選ばれる少なくとも1種
(e)Ca、REM、Mg、Li、PbおよびBiよりなる群から選ばれる少なくとも1種
本発明の鋼材が、(a)Crおよび/またはMoを含む場合、その含有量は下記の範囲で選択される。また、CrおよびMoは、1種単独でまたは2種を同時に含有していてもよい。
鋼材中のCr含有量:2質量%以下(0質量%を含まない)
Crは結晶粒界の強度を高めることにより鋼の変形能を向上させる作用を有する元素であり、必要に応じて、好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%含有させることができる。しかし、Crを過剰に含有させると、変形抵抗が増大し、冷間加工性が低下する虞があるため、その含有量は、2質量%以下(0質量%を含まない)とすることが好ましく、さらに好ましくは1.5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。
鋼材中のMo含有量:2質量%以下(0質量%を含まない)
Moは、加工後の鋼材の硬さおよび変形能を増加させる作用を有する元素であり、必要に応じて、好ましくは0.04質量%以上、さらに好ましくは0.08質量%以上含有させることができる。しかし、Moを過剰に含有させると、冷間加工性が劣化する虞があるため、2質量%以下(0%を含まない)とすることが好ましく、さらに好ましくは1.5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。
鋼材中のTi、NbおよびVの含有量:0.2質量%以下(0質量%を含まない)
本発明の鋼材が、(b)Ti、NbおよびVよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する場合、Ti、NbおよびVは、1種単独でまたは2種以上を同時に含有していてもよい。これらのTi、NbおよびVは、Nとの親和力が強く、Nと共存してN化合物を形成し、鋼の結晶粒を微細化し、冷間加工後に得られる加工品の靱性を向上させ、また、耐割れ性を向上させる役割を有する元素である。本発明の鋼材が、Ti、NbおよびVよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する場合、Ti、NbまたはVのそれぞれの含有量は、Ti:0.2質量%以下(0質量%を含まない)、Nb:0.2質量%以下(0質量%を含まない)、V:0.2質量%以下(0質量%を含まない)とすることが好ましく、さらに好ましくはTi:0.001〜0.15質量%、Nb:0.001〜0.15質量%、V:0.001〜0.15質量%、特に好ましくはTi:0.002〜0.1質量%、Nb:0.002〜0.1質量%、V:0.002〜0.1質量%である。
鋼材中のBの含有量:0.005質量%以下(0質量%を含まない)
本発明の鋼材が、(c)Bを含有する場合、Bは、前記の(b)Ti、NbおよびVよりなる群から選ばれる少なくとも1種と同様に、Nとの親和力が強く、Nと共存してN化合物を形成し、鋼の結晶粒を微細化し、冷間加工後に得られ加工品の靱性を向上させ、また、耐割れ性を向上させる役割を有する元素である。そのため、本発明の鋼材が、Bを含有する場合、所要の固溶N量を確保して冷間加工後の強度を向上させることができることから、その含有量を0.005質量%以下(0質量%を含まない)とすることが好ましく、さらに好ましくは0.0001〜0.0035質量%、特に好ましくは0.0002〜0.002質量%である。
鋼材中のCu、NiおよびCoの含有量:5質量%以下(0質量%を含まない)
本発明の鋼材が、(d)Cu、NiおよびCoよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する場合、Cu、NiおよびCoは、1種単独でまたは2種以上を同時に含有していてもよい。これらのCu、NiおよびCoは、いずれも鋼材をひずみ時効させ、硬化させる作用があり、加工後強度を向上させるのに有効な元素である。本発明の鋼材が、これらのCu、NiまたはCoを含有する場合、これらのCu、NiおよびCoの含有量は、それぞれ0.1質量%以上とすることが好ましく、さらに好ましくは0.3質量%以上である。これらのCu、NiおよびCoの含有量が過剰であると、鋼材をひずみ時効および硬化させる効果、さらに、加工後強度を向上させる効果が飽和し、また、割れを促進させる虞があるため、それぞれ5質量%以下(0質量%を含まない)とすることが好ましく、さらに好ましくは4質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
鋼材中のCa、REM、Mg、Li、PbおよびBiの含有量
本発明の鋼材が、(e)Ca、REM、Mg、Li、PbおよびBiよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する場合、Ca、REM、Mg、Li、PbおよびBiは、1種単独でまたは2種以上を同時に含有していてもよい。これらのCa、REM、Mg、Li、PbおよびBiの含有量は、下記の範囲で選択される。
鋼材中のCaの含有量:0.05質量%以下(0質量%を含まない)
Caは、MnSなどの硫化化合物系介在物を球状化させ、鋼の変形能を高めるとともに、被削性の向上に寄与する元素である。本発明の鋼材が、Caを含有する場合、Caの含有量は、0.0005質量%以上とすることが好ましく、さらに好ましくは0.001質量%以上である。しかし、過剰に含有しても、その効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できないため、上限を0.05質量%以下(0質量%を含まない)とすることが好ましく、さらに好ましくは0.03質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以下である。
鋼材中のREMの含有量:0.05質量%以下(0質量%を含まない)
REMは、Caと同様にMnSなどの硫化化合物系介在物を球状化させ、鋼の変形能を高めるとともに、被削性の向上に寄与する元素である。本発明の鋼材が、REMを含有する場合、REMの含有量は、0.0005質量%以上とすることが好ましく、さらに好ましくは0.001質量%以上である。しかし、過剰に含有しても、その効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できないため、上限を0.05質量%以下(0質量%を含まない)とすることが好ましく、さらに好ましくは0.03質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以下である。
鋼材中のMg:0.02質量%以下(0質量%を含まない)
Mgは、Caと同様にMnSなどの硫化化合物系介在物を球状化させ、鋼の変形能を高めるとともに、被削性の向上に寄与する元素である。本発明の鋼材が、Mgを含有する場合、Mgの含有量は、0.0002質量%以上とすることが好ましく、さらに好ましくは0.0005質量%以上である。しかし、過剰に含有しても、その効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できないため、上限を0.02質量%以下(0%を含まない)とすることが好ましく、さらに好ましくは0.015質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以下である。
鋼材中のLi:0.02質量%以下(0質量%を含まない)
Liは、Caと同様にMnSなどの硫化化合物系介在物を球状化させ、鋼の変形能を高めることができ、また、Al系酸化物を低融点化して無害化して被削性の向上に寄与する元素である。本発明の鋼材が、Liを含有する場合、Liの含有量は、0.0002質量%以上とすることが好ましく、さらに好ましくは0.0005質量%以上である。しかし、過剰に含有しても、その効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できないため、上限を0.02質量%以下(0%を含まない)とすることが好ましく、さらに好ましくは0.015質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以下である。
鋼材中のPb:0.5質量%以下(0質量%を含まない)
Pbは、被削性を向上させるために有効な元素である。本発明の鋼材が、Pbを含有する場合、好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上を含有させることができる。しかし、過剰に含有させると、圧延疵の発生等の製造上の問題を生じるため、上限を0.5質量%以下(0質量%を含まない)とすることが好ましく、好ましくは0.4質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下である。
鋼材中のBi:0.5質量%以下(0質量%を含まない)
Biは、Pbと同様に、被削性を向上させるために有効な元素である。本発明の鋼材が、Biを含有する場合、好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上を含有させることができる。しかし、過剰に含有させても被削性向上の効果が飽和するため、上限を0.2質量%以下(0質量%を含まない)とすることが好ましく、好ましくは0.4質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下である。
また、本発明の鋼材の鋼組織は、フェライトの単相組織で構成される。このフェライトの単相組織を構成するフェライトの平均結晶粒径は、加工性を向上させるために、10〜200μmの範囲であることが必要である。フェライトの平均結晶粒径が、10μm未満であると、変形抵抗が高くなりすぎるため、下限は10μm以上であり、好ましくは12μm以上、さらに好ましくは15μm以上である。また、フェライトの平均結晶粒径が、200μmを超えると、靱性、疲労特性などが悪化するため、上限は200μm以下であり、好ましくは180μm以下、さらに好ましくは150μm以下である。
本発明の鋼材の製造は、必須成分として、C、Si、Mn、P、S、Al、N、残部がFe及び不可避的不純物で構成され、さらに必要に応じて、他の成分((a)Crおよび/またはMo、(b)Ti、NbおよびVよりなる群から選ばれる少なくとも1種、(c)B、(d)Cu、NiおよびCoよりなる群から選ばれる少なくとも1種、(e)Ca、REM、Mg、Li、PbおよびBiよりなる群から選ばれる少なくとも1種)をそれぞれ特定の成分組成で含む原料鋼を所望の径に成形できる方法であれば、いずれの方法にしたがって行ってもよい。例えば、前記成分を特定の成分組成で含む原料鋼を調製し、これをビレット溶製および熱間圧延により、適宜鋼片とする。そして、この鋼片を加熱して、所望径の鋼材に圧延することによって行うことができる。
また、本発明は、本発明の鋼材を冷間加工してなる冷間加工部品を提供するものである。この冷間加工部品は、本発明の鋼材を100℃未満で冷間加工した後の部品強度と冷間加工時の最大変形抵抗の関係が(2)式を満たし、且つ、100℃以上で冷間加工した時に(3)式を満たすものである。
H≧(DR+175)/2.5 ・・・(2)
−H≧−15 ・・・(3)
式(2)または式(3)において、H:冷間加工後の部品強度(Hv)、DR:冷間加工時の最大変形抵抗(MPa)、H:100℃以上で加工した時の加工後硬さ(Hv)、H:室温で加工した時の加工後硬さ(Hv)である。
この式(2)は、以下の理由に基づき構築したものである。
一般に、冷間加工後の部品強度を高めようとすると、冷間加工時の変形抵抗も高くなる。従来品においては、例えば、冷間加工後の部品強度が250Hv程度のものでは、最大変形抵抗は、約500〜550MPa程度であり、部品強度が300Hv程度のものでは、最大変形抵抗は、低くても650MPa程度であり、部品強度が350Hv程度のものでは、最大変形抵抗は、低くても750MPa程度である。本発明においては、このような従来品に比べ、変形抵抗を抑制しつつ、部品強度を高める、すなわち、従来品よりも、冷間加工後の部品強度と冷間加工時の変形抵抗とのバランスに優れた機械構造用部品を得ることを目的とする。そこで、実験的なデータに基づき、部品強度と変形抵抗の関係について検討を重ねた結果、機械構造用鋼材の成分組成や組織等を所定に規定し、この機械構造用鋼材から得られる機械構造用部品が式(2)を満足するように組成条件等を設定することで、従来品よりも、冷間加工後の部品強度と冷間加工時の変形抵抗とのバランスに優れた機械構造用部品となることから、このような関係式とした。なお、式(3)は加工時の加工温度が100℃以上となる場合では、さらに、式(3)の条件を満足することを実験的なデータにより必要とするために設定している。
この冷間加工部品の具体例としては、ボルト・ナット、ピニオンギヤ、ステアリングシャフト、バルブリフター、コモンレール、さらには、これまで熱間鍛造によって加工されていたクランクシャフト、コンロッド、トランスミッションギヤ等が挙げられる。本発明の鋼材は、冷間加工(冷間鍛造)によってこれらの冷間加工部品を製造する素材として有用である。これらの冷間加工部品は、軽量化しても所要の高強度を有するものである。
以下、本発明の実施例について、比較例と比較して具体的に説明する。
(実施例1、比較例1)
表1に記載の成分組成からなる鋼記号1A〜2Dの32種類の供試鋼を調製し、これらのそれぞれをビレット溶製および熱間圧延により155mm角の鋼片とした。この鋼片を950〜1100℃で加熱して、Φ12mmの丸棒に圧延した。さらに、この丸棒を切断して、中心部からφ10×15mm長さの試験片を切り出した。なお、鋼記号1Bの供試鋼を用いて製造した丸棒については、表1に示す熱処理を施した後に試験片を切り出した。
Figure 2009228126
注:元素成分の含有量の単位は、質量%である。
表1中の「N」はNの含有量を示し、「Sol.N」は、前記のJIS G 1228に準拠した方法によって測定された固溶状態のN量を示す値である。
各試験片を、容量1600トンのプレス装置を用いて冷間鍛造により試験片の端面を拘束した状態から圧縮加工した。冷間鍛造の条件は、加工ひずみ速度10/s、加工温度:室温〜400℃、圧縮率:80%とした。なお、加工ひずみ速度は、加工中(塑性変形中)のひずみ速度の平均値とした。なお、表2に示す圧縮率は[(1−L/L)×100(%)](L:加工前の試験片の長さ、L:加工後の試験片の長さ)を示す。
得られた各加工試験品について、実体顕微鏡により、倍率20倍で表面を観察して割れの有無を確認した。また、各加工品の加工条件、変形抵抗、割れの有無、および加工後の硬さを、表2に示す。
また、ビッカース硬さ試験機を用いて、荷重:1000g、測定位置:試験片断面のD/4位置中央部(D:部品直径)および測定回数:5回の条件で、各加工試験品のビッカース硬さ(Hv)を測定し、表2に示す。
これらの試験結果において、得られた加工試験品について割れがなく、しかもビッカース硬さに対して変形抵抗が低い場合(具体的には、前記式(2)に示す条件を満足する場合)を、冷間加工性に優れたものと判定して総合判定を「○」と表示した。一方、前記式(2)の条件を満足しない加工試験品について、割れが発生したものの総合判定を「×」と表示した。なお、一部の実施例および比較例において、部品強度(加工後硬さ)と最大変形抵抗との関係を図1に示す。図1において判定式は、式(2)を示している。
さらに、各加工品試料の組織をJIS G 0552に準拠して、フェライト結晶粒径を測定した。
まず、各加工品試料の表面を鏡面研磨した後、ナイタールで腐食する。次に、試料のD/4位置を顕微鏡で倍率100倍で観察し、写真撮影した。そして、切断法で任意断面積の結晶粒数を求め、フェライト結晶粒径(μm)に換算した。結果を表1に示す。
Figure 2009228126
表1および表2に示すとおり、C、Si、Mn、P、S、AlおよびNを必須成分として含み、これらの成分を前記に記載した特定の量において含有するとともに、固溶状態としてのNを特定の量含む鋼を用いて加工した鋼材において、また、CとNの含有量が0.3≧(10C+N)の関係を満足し、フェライト単相組織を形成し、フェライトの平均結晶粒径が10〜200μmの範囲であるとともに、Siの含有量と固溶状態のN(固溶N)が前記式(1)で表される関係を満足することによって、加工中は良好な冷間加工性を確保し、加工後は必要な硬度、強度を得ることができることが分かった。すなわち、本発明の実施例(1A、1B−1、1D、1H、1M、1N、1Q、1V〜1X、1Z〜2D)は、総合判定が○であり、得られた加工試験品について割れがなく、しかもビッカース硬さに対して低い変形抵抗を示し(具体的には、前記式(3)に示す条件を満足する)、優れた冷間加工性を示している。
これに対して、前記のいずれかの条件を満足しない比較例(1B−2、1B−3、1C、1E〜1G、1I〜1L、1O、1P、1R〜1U、1Y)は、冷間加工性に劣るものであることが分かる。
すなわち、比較例1Cは、C含有量が多く、かつC含有量およびN含有量が、0.3≧(10C+N)の条件を逸脱している例であり、変形抵抗が大きく、式(2)の条件を逸脱しビッカース硬さに対して大きい変形抵抗を示している。
比較例1Eは、Si含有量が多く、かつSiと固溶N量が、前記式(1)の条件を逸脱している例であり、加工後に割れが発生し、式(2)の条件を逸脱しビッカース硬さに対して大きい変形抵抗を示している。
比較例1B−2は、結晶粒径が小さく、かつ式(1)の条件を逸脱している例であり、ビッカース硬さに対して大きい変形抵抗を示している。
比較例1B−3は、結晶粒径が大きく、かつ式(1)の条件を逸脱している例であり、ビッカース硬さに対して大きい変形抵抗を示している。
比較例1Fは、Mn含有量が少ない例であり、前記式(1)の条件を逸脱している例であり、加工後に割れが発生し、式(2)の条件を逸脱しビッカース硬さに対して大きい変形抵抗を示している。
比較例1Gは、Si含有量が多い例であり、加工後の硬さが前記式(3)の条件を逸脱している。
比較例1Iは、Mn含有量が多い例であり、加工後に割れが発生し、式(2)の条件を逸脱しビッカース硬さに対して大きい変形抵抗を示している。
比較例1Jは、P含有量が多く、かつN含有量が少ない例であり、加工後に割れが発生し、式(2)の条件を逸脱しビッカース硬さに対して大きい変形抵抗を示している。
比較例1Lは、S含有量が多い例であり、加工後に割れが発生し、式(2)の条件を逸脱しビッカース硬さに対して大きい変形抵抗を示している。
比較例1Oは、Al含有量および固溶N量が多い例であり、式(2)の条件を逸脱しビッカース硬さに対して大きい変形抵抗を示している。
比較例1Rは、固溶N量が少ない例であり、式(2)の条件を逸脱しビッカース硬さに対して大きい変形抵抗を示している。
比較例1Sは、Siと固溶N量が、前記式(1)の条件を逸脱している例であり、加工後に割れが発生し、加工後の硬さが前記式(3)の条件を逸脱している。
比較例1Tは、N含有量が多い例であり、加工後に割れが発生し、式(2)の条件を逸脱しビッカース硬さに対して大きい変形抵抗を示している。
比較例1Uは、C含有量が多く、固溶N量が多く、かつC含有量およびN含有量が、0.3≧(10C+N)の条件を逸脱している例であり、加工後に割れが発生し、式(2)の条件を逸脱しビッカース硬さに対して大きい変形抵抗を示している。
表3に記載の成分組成からなる鋼記号2E〜2Sの15種類の供試鋼150kgを真空誘導炉で溶解し、それぞれを上面:φ245mm×下面:φ210mm×長さ:480mmのインゴットに鋳造した。次に、それぞれのインゴットを、鍛造(ソーキング:1250℃×3hr程度加熱、鍛造加熱:1000℃×1hr程度加熱)および切断し、一辺150mm×長さ680mmの四角材形状を経由して、φ80mmの丸棒に鍛造加工し、長さ100mm程度ごとに切断した。
得られた丸棒材(鍛造材)のD/4位置(試験片断面のD/4位置中央部(D:丸棒材の直径))からφ10mm×長さ15mmの試験片を切り出した。さらに、中央部分からは、それぞれφ20×長さ30mm、φ30mm×長さ45mmの試験片を切り出した。
得られた3種の試験片について、実施例1と同様にして、冷間鍛造による圧縮加工を行い、加工試験片を製造し、この加工試験片について、実体顕微鏡による表面割れの有無を確認するとともに、ビッカース硬さ(Hv)の測定を行って冷間加工性を評価した。また、各加工品試験片の加工条件、変形抵抗、割れの有無、および加工後の硬さを、表4および表5に示す。さらに、加工品試験片の組織におけるフェライト結晶粒径の測定を行った。結果を表3に示す。
Figure 2009228126
Figure 2009228126
Figure 2009228126
表3および表4に示すとおり、C、Si、Mn、P、S、AlおよびNを必須成分として含み、これらの成分を前記に記載した特定の量において含有するとともに、固溶状態としてのNを特定の量含む鋼を用いて加工した鋼材において、また、CとNの含有量が0.3≧(10C+N)の関係を満足し、フェライト単相組織を形成し、フェライトの平均結晶粒径が10〜200μmの範囲であるとともに、Siの含有量と固溶状態のN(固溶N)が前記式(1)で表される関係を満足することによって、加工中は良好な冷間加工性を確保し、加工後は必要な硬度、強度を得ることができることが分かった。すなわち、本発明の実施例(2E〜2N)は、総合判定が○であり、得られた加工試験品について割れがなく、しかもビッカース硬さに対して低い変形抵抗を示し(具体的には、前記式(3)に示す条件を満足する)、優れた冷間加工性を示している。
これに対して、前記のいずれかの条件を満足しない比較例(2O〜2S)は、冷間加工性に劣るものであることが分かる。
すなわち、比較例2Oは、Si含有量、Mn含有量およびN含有量が少なく、かつ固溶N量が少ない例であり、式(2)の条件を逸脱しビッカース硬さに対して大きい変形抵抗を示している。
比較例2Pは、C含有量が多く、かつC含有量およびN含有量が、0.3≧(10C+N)の条件を逸脱している例であり、加工後に割れが発生し、さらに、式(2)の条件を逸脱しビッカース硬さに対して大きい変形抵抗を示し、加工後の硬さが前記式(3)の条件を逸脱している。
比較例2Qは、C含有量が多く、かつCとNの含有量が0.3≧(10C+N)の関係を満足しない例であり、加工後に割れが発生し、加工後の硬さが前記式(3)の条件を逸脱している。
比較例2Rは、Si含有量が少なく、S含有量が多く、式(1)の条件を逸脱している例であり、加工後に割れが発生し、加工後の硬さが前記式(3)の条件を逸脱している。
比較例2Sは、N含有量および固溶N量が少なく、かつ式(1)の条件を逸脱している例であり、式(2)の条件を逸脱しビッカース硬さに対して大きい変形抵抗を示し、加工後の硬さが前記式(3)の条件を逸脱している。
本発明の一部の実施例および比較例において、部品強度と最大変形抵抗との関係を示すグラフ図である。

Claims (7)

  1. 質量%で、C:0.025%以下(0%を含まない)、Si:0.06〜0.6%、Mn:0.3〜1%、P:0.05%以下(0%を含まない)、S:0.05%以下(0%を含まない)、Al:0.01〜0.1%、N:0.008〜0.025%を必須成分として含有し、残部はFeおよび不可避的不純物を含み、固溶状態としてのN:0.007%以上、且つ、CとNの含有量が0.3≧(10C+N)の関係を満足し、フェライト単相組織を形成し、フェライトの平均結晶粒径が10〜200μmの範囲であるとともに、Siの含有量と固溶状態のNの含有量(Sol.N)とが下記式(1)の関係式を満足することを特徴とする冷間加工性に優れる機械構造用鋼材。
    10≦Si/Sol.N≦40 ・・・(1)
  2. さらに、Cr:2%以下(0%を含まない)および/またはMo:2%以下(0%を含まない)を含有することを特徴とする請求項1に記載の冷間加工性に優れる機械構造用鋼材。
  3. さらに、Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)およびV:0.2%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷間加工性に優れる機械構造用鋼材。
  4. さらに、B:0.005%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の冷間加工性に優れる機械構造用鋼材。
  5. さらに、Cu:5%以下(0%を含まない)、Ni:5%以下(0%を含まない)およびCo:5%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜4に記載の冷間加工性に優れる機械構造用鋼材。
  6. さらに、Ca:0.05%以下(0%を含まない)、REM:0.05%以下(0%を含まない)、Mg:0.02%以下(0%を含まない)、Li:0.02%以下(0%を含まない)、Pb:0.5%以下(0%を含まない)およびBi:0.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の冷間加工性に優れる機械構造用鋼材。
  7. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の機械構造用鋼材を100℃未満で冷間加工した後の部品強度と冷間加工時の最大変形抵抗の関係が(2)式を満たし、且つ、100℃以上で冷間加工した時に(3)式を満たすことを特徴とする冷間加工部品。
    H≧(DR+175)/2.5 ・・・(2)
    −H≧−15 ・・・(3)
    式(2)または式(3)において、H:冷間加工後の部品強度(Hv)、DR:冷間加工時の最大変形抵抗(MPa)、H:100℃以上で加工した時の加工後硬さ(Hv)、H:室温で加工した時の加工後硬さ(Hv)である。
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