JP2009228079A - 耐溶融金属脆化割れ性に優れたZn−Al−Mg系めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents

耐溶融金属脆化割れ性に優れたZn−Al−Mg系めっき鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】低降伏比型高強度溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板において、厳しい溶接条件であっても溶融金属脆化割れを安定して抑止できるものを提供する。
【解決手段】素地鋼板が、質量%でC:0.05〜0.25%、Si:1.5%以下、Mn:1〜2%、N:0.005%以下、Ti:3.43×N〜0.05%、B:0.0003〜0.01%、Cr:0.5〜2%、必要に応じてさらにNb:0.3%以下、V:1%以下、Mo:1%以下、Zr:1%以下の1種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物、Mn+1.29Cr≧2.05である組成を有し、素地鋼板がフェライト相+5体積%以上のマルテンサイト相からなり、素地鋼板のMn偏析が、Mn最大濃度(質量%)/Mn最小濃度(質量%)≦2を満たす範囲である、引張強さ590MPa以上、降伏比0.7未満のZn−Al−Mg系めっき鋼板。
【選択図】なし

Description

本発明は、厳しい溶接条件であっても溶融金属脆化割れを安定して抑止できる性質を備えた低降伏比型高強度溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板およびその製造方法に関する。
近年、自動車の構造部材や足回り部材等に、燃費や衝突安全性の向上のため、高強度鋼板が採用されるようになってきた。これらの用途では、プレス加工等により複雑な形状に加工できるよう、その高強度鋼板には良好な加工性が求められる。
一方、自動車車体の高防錆化の観点から、上記の部材は体側性に優れた鋼板で構成する必要がある。従来は溶融亜鉛めっき鋼板が主流であったが、より耐食性に優れた溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の適用も検討されている。
自動車の構造部材や足回り部材等は、めっき鋼板を溶接して組み立てられる場合が多い。この場合、溶接時にめっき層が鋼素地の一部とともに溶融する。これまでの調査によれば、一般的な亜鉛めっき鋼板に比べ、Zn−Al−Mg系めっき鋼板を使用した場合には、溶接熱影響部(HAZ)に微細な粒界割れが生じやすいことが経験的にわかっている。この割れは、溶接時に材料の膨張・収縮に伴って生じる引張応力に起因するものであり、溶融金属脆化割れと呼ばれる現象の一種である。溶接時に溶融したZn−Al−Mg系めっきの成分が、亜鉛めっきの場合よりも溶融金属脆化割れの感受性を増大させているものと考えられる。
従来から、亜鉛系めっき鋼材を溶接により構造部材として組み立てた場合、熱影響部に粒界割れが発生することは知られていた。一例として、特許文献1を挙げることができる。しかし、この例は、まず鋼材そのものを溶接により構造部材として組み立て、その構造部材を溶融亜鉛浴(450℃前後)の中にどぶ漬けめっきした時に発生する割れである。一方、Zn−Al−Mg系めっき鋼板をアーク溶接、スポット溶接等の溶接に供する場合には、溶接時にめっき層が鋼素地とともに溶融し、その後の冷却過程において熱影響部(HAZ)に粒界割れが発生する。この割れ発生のメカニズムは、溶接後の部材を亜鉛系めっき浴にどぶ漬けするときの割れ発生メカニズムとは異なると考えられる。
Zn−Al−Mg系めっき鋼板の耐溶融金属脆化割れ性を改善するため、これまで種々の検討がなされてきた。特許文献2、3には、下地鋼の金属組織をフェライトと、ベイナイト、パーライトあるいはマルテンサイトとの混合組織とし、結晶粒界を複雑化することによって溶融金属の粒界への侵入を抑制する手法が開示されている。特許文献4には、Ti、Nb、V、Mo、Zr等を添加した鋼板素材を用い、ピンニング作用のあるこれらの元素の析出物を分散させて溶接時のオーステナイト域における結晶粒の成長を抑制するとともに、これらの元素が溶接後に粒界に偏析する作用を利用することにより割れの防止を図る手法が開示されている。特許文献5には、Cr、Cu、Ni等がSiとともに濃化した強固で薄い皮膜が形成された下地鋼を使用することにより、鋼材表面の結晶粒界に溶融めっき金属が侵入することを抑制する手法が開示されている。
特開平10−96021号公報 特開2004−315847号公報 特開2004−315848号公報 特開2006−97129号公報 特開2006−89787号公報
上記各特許文献2〜5の手法はいずれも、Zn−Al−Mg系めっき鋼板の耐溶融金属脆化割れ性の向上に有効である。しかし、本発明者らの更なる調査によれば、実際の溶接施工においては、溶接条件によって、これらの文献の手法を採用しても溶融金属脆化割れを食い止めることができない場合があることがわかった。
本発明は、高強度、良好な加工性(低降伏比)、および良好な耐食性を兼ね備えた低降伏比型高強度溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板において、厳しい溶接条件であっても溶融金属脆化割れを安定して抑止できるものを提供することを目的とする。
高強度と、良好な加工性(低降伏比)を実現するためには、マトリクスがフェライト相とマルテンサイト相の2相で構成されるDual Phase(DP)鋼を採用することが有効である。降伏比が小さいDual Phase鋼は、プレス成形後のスプリングバックが小さく、形状凍結性に優れているためである。Dual Phaseの金属組織を得るためには、鋼中のMn量とCr量を規定するとともに、焼鈍温度からの冷却速度を規定することが重要である。
一方、溶融亜鉛めっき鋼板の溶融金属脆化割れは、結晶粒界にFe原子間結合力を高めるCが多量に存在すると抑制されることが知られている。しかし、溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板は溶融亜鉛めっき鋼板よりも溶融金属脆化割れに対する感受性が高いので、この手法のみでは溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の溶融金属脆化割れを抑制することは不可能である。そこで、発明者らは詳細な検討の結果、素地鋼板にTiとBを複合添加し、かつCrの含有量を一定以上に増量した鋼を採用することにより、厳しい溶接条件であっても溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の溶融金属脆化割れを安定して抑止できることを見出した。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明では、質量%でAl:3〜22%、Mg:1〜10%を含有し、さらにTi:0.1質量%以下、B:0.05質量%以下、Si:2%以下、Fe:2%以下の1種以上を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる溶融めっきを施しためっき鋼板において、素地鋼板(めっき原板)が、質量%でC:0.05〜0.25%、Si:1.5%以下、Mn:1.0〜2.0%、N:0.005%以下、Ti:3.43×N〜0.05%好ましくは「3.43×N」%以上0.05%未満、B:0.0003〜0.01%、Cr:0.5〜2.0%、必要に応じてさらにNb:0.3%以下好ましくは0.01〜0.3%、V:1.0%以下好ましくは0.05〜1.0%、Mo:1.0%以下好ましくは0.05〜1.0%、Zr:1.0%以下好ましくは0.05〜1.0%の1種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物、かつ下記(1)式を満たす組成を有し、素地鋼板のマトリクスがフェライト相+5体積%以上(例えば5〜50体積%)のマルテンサイト相からなり、素地鋼板のMn偏析が下記(2)式を満たす範囲であり、当該めっき鋼板の引張強さが590MPa以上、かつ降伏比が0.7未満である耐溶融金属脆化割れ性に優れたZn−Al−Mg系めっき鋼板が提供される。
Mn+1.29Cr≧2.05 ……(1)
Mn最大濃度(質量%)/Mn最小濃度(質量%)≦2 ……(2)
Tiの下限値:3.43×N、および(1)式の元素記号の箇所には、質量%で表される当該元素の含有量の値が代入される。
素地鋼板のMn偏析は、鋼板の圧延方向に垂直な断面(C断面)について、板厚中心から板厚表層までの領域に渡って板厚方向にEPMAによるライン分析を行い、そのときに検出されるMnの信号強度の最大と最小に対応する濃度(質量%)の比「Mn最大濃度(質量%)/Mn最小濃度(質量%)」の値によって(2)式を用いて評価する。
また、本発明では上記の耐溶融金属脆化割れ性に優れたZn−Al−Mg系めっき鋼板の製造方法として、上記規定の組成を有する鋼スラブに対して、熱間圧延、冷間圧延、連続溶融めっきラインでの焼鈍および溶融Zn−Al−Mg系めっきを順次行う工程において、熱間圧延での巻取温度を560℃以下とし、連続溶融めっきラインでは、750〜950℃で焼鈍した後、冷却中にパーライトが生成しない冷却速度(例えば少なくともAc1点以下までの平均冷却速度が5℃/sec以上)で冷却し、その後、溶融めっき浴に通板する製造方法が提供される。
本発明によれば、引張強さ590MPa以上の高強度、および降伏比0.7未満の高加工性を具備する溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板において、厳しい溶接条件であっても溶融金属脆化割れを安定して抑止できる性質を備えたものが提供可能になった。したがって本発明のめっき鋼板は、自動車の構造部材、足回り部材等の用途に特に好適である。
本発明では、めっき原板である素地鋼板として、C含有量が0.05〜0.25質量%であり、これにTi、BおよびCrを適量含有させた鋼を使用することにより、溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の溶接時における溶融金属脆化割れを防止する。以下、鋼組成における「%」は特に断らない限り質量%を意味する。
〔素地鋼板の組成〕
Cは、素材鋼板の高強度化に必要不可欠な元素である。含有量が0.05%未満では、590MPa以上の引張強度を得るのが困難であり、0.25%を超える添加は溶接性や延性を低下させるため、C含有量は0.05〜0.25%の範囲とする。
Siも、素材鋼板の高強度化に有効な元素である。しかも、高強度化に有効な他の元素に比べ添加量を増やしても加工性を劣化させにくいため、高強度化にとって有用な元素である。しかし、過剰に添加すると、溶融めっきラインでの加熱時に鋼板表面に酸化物を形成し、めっき性を阻害するので、添加量の上限を1.5%とする。0.01〜0.5%とすることがより好ましい。
Mnは、オーステナイト相を安定化させるとともに、焼鈍温度からの冷却時にパーライトの生成を抑制する作用を有し、Dual Phase組織に必要なマルテンサイトの生成に寄与する。含有量が1%未満ではパーライトの生成を安定して抑制することが難しいが抑制できず、590MPa以上の高強度を得る上で不利となる。一方、2.0%を超えると鋼中のMn濃度の最大値と最小値の差が増加しMn偏析が顕著となる。そのため、バンド状に生成するマルテンサイト量が増加し加し加工性が劣化する。このためMn含有量は1.0〜2.0%とする。ただし、MnはSiと同様にめっきラインで、加熱時に鋼板表面に酸化物を形成しめっき性を阻害しやすいので、1.8%以下とすることがより好ましい。
Tiは、窒素との親和性が高く、鋼中のNをTiNとして固定するため、Tiを添加することは耐溶融金属脆化割れ性を高めるB量を確保するうえで極めて有効である。鋼中のNをすべてTiにより固定するために必要な理論上のTi含有量は、質量%でNの3.43倍となる。ただし、過剰に添加してもその効果が飽和するだけでなく、加工性の低下や降伏比の上昇を招くので、Ti添加量の上限は0.05%とする。0.05%未満とすることがより好ましい。
また、TiはCrの粒界偏析を促進させる作用があることがわかった。このため、後述のCrによる耐溶融金属脆化割れ性の改善効果を高める上でも有効である。
Nは、鋼中に固溶Nとして残存するとBNが生成し、耐溶融金属脆化割れ性を高めるB量が減少することにつながる。そこで、その含有量はできるだけ低いほうが好ましく、上限を0.005%とする。このNは、前述したTiによってBNとして固定される。
Bは、本発明の骨子となる元素の一つであり、溶融金属脆化割れの抑制に有効な元素である。その作用は、Bが結晶粒界に偏析して原子間結合力を高めることによると考えられ、後述のCrと複合添加することにより溶融金属脆化割れを抑制できる。SIMS(二次イオン質量分析)による分析では、本発明の対象鋼を高温のオーステナイト域に加熱すると、Bはオーステナイト粒界に顕著に偏析することが確認されている。このようなBによる粒界強化機能を発揮させるには、前述のように、Nの低減やTiによるNの固定によって、BN形成に伴うBの消費を抑制して有効B量を確保することが重要である。その上で、B含有量(トータル量)は0.0003%以上を確保する必要があり、0.001%以上とすることがより好ましい。ただし、過剰のB添加はホウ化物を生成し加工性劣化の原因となるのでB含有量(トータル量)は0.01%以下に制限される。
Crは、高温でのオーステナイト粒界に偏析することにより、溶融金属脆化割れの抑制に顕著に寄与することがわかった。また、Mnと同様に焼入れ性を高める元素であり、焼鈍温度からの冷却時にパーライトの生成を抑制することで、Dual Phase組織に必要なマルテンサイトの生成に寄与する。
特許文献5に示されるように、従来、Zn−Al−Mg系めっき鋼板の素地鋼板として、CrとBを含有するものも存在した。しかし、そのような従来鋼を用いた場合、実際の溶接施工で溶融金属脆化割れが生じた事例が見られた。発明者らは詳細な研究の結果、従来鋼よりもCr含有量レベルを高めること、および、Tiを添加することによって、上記の問題が解消できることを突き止めた。具体的には、TiおよびBの添加量については上述の通りであり、Crの添加量については0.5%以上とすることが極めて有効であることがわかった。このようにTi、Bの添加とCrの増量によって耐溶融金属脆化割れ性が顕著に改善されるメカニズムについては、現時点で明確にはなっていないが、一定量以上のBとCrが同時に高温のオーステナイト粒界に偏析することによって、BとCrの相乗効果によって従来鋼の場合よりも粒界エネルギーが低下し、粒界における原子間結合力が高められ、その結果、溶融金属脆化割れに対する抵抗力が顕著に増大したものと推察される。ただし、過剰にCrを含有させると鋼材の加工性が低下し、また靭性にも悪影響を及ぼすので、Cr含有量は2.0%以下の範囲に制限される。
Mn+1.29Cr≧2.05 ……(1)
前述のとおり、MnとCrはどちらも焼入れ性を高める元素であり、その添加量が多いほどDual Phase組織が得られやすくなる。焼入れ性に及ぼす効果の大小は元素ごとに異なり、これまでに数多く調べられている。(1)式を満たす場合には、焼鈍温度からの鋼板の冷却速度を5℃/s以上とすればDual Phase組織を得ることができる。
Nb、V、Mo、Zrの各元素も、高温のオーステナイト粒界に偏析することにより溶融金属脆化割れを抑制する作用を有するので、必要に応じてこれらの1種以上を添加することができる。その効果はBおよびCrとの複合添加によって一層顕著になる。各元素の上記作用を十分に引き出すためには、質量%で、Nbは0.01%以上、Vは0.05%以上、Moは0.05%以上、Zrは0.05%以上の含有量を確保することが特に効果的である。ただし、これらの元素を過剰に添加しても溶融金属脆化割れの抑制効果は飽和し、鋼材の靭性や加工性の低下、製造コストの増大を招くので、これらの元素を添加する場合は、Nb:0.3%以下より好ましくは0.05%以下、V:1.0%以下より好ましくは0.2%以下、Mo:1.0%以下より好ましくは0.1%以下、Zr:1.0%以下より好ましくは0.1%以下の範囲で行う。
〔素地鋼板の組織〕
本発明の素地鋼板は、マトリクスがフェライト相+5体積%以上のマルテンサイト相からなるものである。マルテンサイト量が5体積%未満だと引張強さ590MPa以上の高強度を安定して得ることが難しくなる。また、マルテンサイト量が低下すると降伏比が増大し、マルテンサイト量が5体積%未満の場合には降伏比0.7未満の加工性を安定して得る上でも不利となる。溶融めっき前に行われる最終焼鈍においてパーライトが生じないように冷却する限り、マルテンサイトの生成量は鋼組成および焼鈍温度(高温域でのオーステナイト量)に依存する。したがって、マルテンサイト量の上限については鋼組成による制限を受けるので、特に規定する必要はない。上述の鋼組成では50体積%を超えるマルテンサイト量となることはほとんどなく、とりうる全てのマルテンサイト量において、良好な結果が期待される。発明者らの検討によれば、5〜50体積%のマルテンサイト量において良好な結果が得られることが実証されている。
〔素地鋼板のMn偏析〕
本発明の素地鋼板は、Mn偏析が下記(2)式を満たす範囲に抑えられたものである。
Mn最大濃度(質量%)/Mn最小濃度(質量%)≦2 ……(2)
Mn偏析が顕著となると、バンド状に生成するマルテンサイト量が増加し加工性、特に局部伸びと相関のある穴拡げや曲げ性が劣化する。Mn偏析の程度は、鋼中Mnの最大濃度と最小濃度(前述)の比で表され、その比が小さいほど穴拡げや曲げ等の加工性が良好となる。Mn偏析と加工性の関係を検討した結果、良好な加工性を安定して得るためには、Mn最大濃度と最小濃度の比が2以下、すなわち(2)式を満たすことが極めて有効であることがわかった。
このようなMn偏析の少ない素地鋼板を得るためには、Mn含有量を2%以下に制限することが極めて有効である。そのうえで後述の製造条件に従うことによって(2)式を満たすものを安定して得ることが可能になる。
〔めっき鋼板の機械的特性〕
本発明のめっき鋼板は、引張強さが590MPa以上、かつ降伏比が0.7未満の特性を有する。引張強さは圧延方向に直角方向の引張試験を行って求めることができる。この引張強さが590MPa以上であれば、自動車構造部材、足回り部材等に適用する上で効果的である。
一方、降伏比YRは、降伏強度YS(応力歪み曲線における降伏点での最大強度)と引張強さTSの比、YR=YS/TSで表される。降伏比が0.7を超えると、自動車構造部材、足回り部材等の種々の高強度部材用途において、プレス加工後の寸法精度や表面性状において安定して良好な結果を得ることが難しくなる。
〔熱間圧延での巻取温度〕
本発明に適用する素地鋼板は、一般的な鋼板製造ラインを用いて製造することができるが、上記のように降伏比の小さい鋼板を得るためには、熱延板焼鈍を省略する製造工程において、熱間圧延での巻取温度を低くすることが有効である。熱間圧延の最終パスを終えた後は、水冷などによって冷却条件をコントロールし、巻取温度を560℃以下とすることが望ましい。
〔焼鈍および冷却〕
本発明に適用する素地鋼板を得るためには、上記の組成範囲を満たすことに加え、めっき前に行われる最終焼鈍の条件が重要である。この焼鈍温度が750℃未満では、セメンタイトが完全に固溶しない。またオーステナイトが生成せず、溶融Zn−Al−Mgめっき鋼板となった状態で鋼板中のマルテンサイト量が減少し、590MPa以上の引張強度が得られない。一方、950℃を超えると、SiやMnの酸化物が鋼板表面に生成しやすくなり、めっき性が劣化する。そのため、めっき前に行われる最終焼鈍の焼鈍温度は750〜950℃とする。
また、焼鈍時の加熱温度からの冷却過程では、パーライト変態が生じないような速い冷却速度で冷却することが望ましい。具体的には、加熱保持温度から少なくともAc1以下の温度域まで平均冷却速度5℃/sec以上で冷却することにより、パーライトがないフェライト+マルテンサイトの複相組織を安定して得ることができる。5℃/sec未満の平均冷却速度であっても、パーライトの生じない組織が得られる場合はある。
〔溶融Zn−Al−Mg系めっき〕
本発明では、公知の溶融Zn−Al−Mg系めっきの手法を適用することができる。
めっき層中のAlは、めっき鋼板の耐食性を向上させる作用を有する。また、めっき浴中にAlを含有させることでMg酸化物系ドロス発生を抑制する作用もある。これらの作用を十分に得るには溶融めっきのAl含有量を3質量%以上とする必要があり、4質量%以上とすることがより好ましい。一方、Al含有量が22質量%を超えると、めっき層と素地鋼板との界面でFe−Al合金層の成長が著しくなり、めっき密着性が悪くなる。優れためっき密着性を確保するには15質量%以下のAl含有量とすることが好ましく、10質量%以下とすることがより好ましい。
めっき層中のMgは、めっき層表面に均一な腐食生成物を生成させて当該めっき鋼板の耐食性を著しく高める作用を呈する。その作用を十分に発揮させるには溶融めっきのMg含有量を1質量%以上とする必要があり、2質量%以上を確保することが望ましい。一方、Mg含有量が10質量%を超えると、Mg酸化物系ドロスが発生し易くなる弊害が大きくなる。より高品質のめっき層を得るには5質量%以下のMg含有量とすることが好ましく、4質量%以下とすることがより好ましい。
溶融めっき浴中にTi、Bを含有させると、溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板において斑点状の外観不良を与えるZn11Mg2相の生成・成長が抑制される。Ti、Bはそれぞれ単独で含有させてもZn11Mg2相の抑制効果は生じるが、製造条件の自由度を大幅に緩和させる上で、TiおよびBを複合で含有させることが望ましい。これらの効果を十分に得るには、溶融めっきのTi含有量は0.0005質量%以上、B含有量は0.0001質量%以上とすることが効果的である。ただし、Ti含有量が多くなりすぎると、めっき層中にTi−Al系の析出物が生成し、めっき層に「ブツ」と呼ばれる凹凸が生じて外観を損なうようになる。このため、めっき浴にTiを添加する場合は0.1質量%以下の含有量範囲とする必要があり、0.01質量%以下とすることが望ましい。また、B含有量が多くなりすぎると、めっき層中にAl−B系あるいはTi−B系の析出物が生成・粗大化し、やはり「ブツ」と呼ばれる凹凸が生じて外観を損なうようになる。このため、めっき浴にBを添加する場合は0.05質量%以下の含有量範囲とする必要があり、0.005質量%以下とすることが望ましい。
溶融めっき浴中にSiを含有させると、前記Fe−Al合金層の成長を抑制し、溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の加工性を向上させる作用を有する。また、めっき層中のSiは、めっき層の黒変化を防止し、表面の光沢性を維持する上でも有効である。このようなSiの作用を十分に引き出すためには溶融めっきのSi含有量を0.005質量%以上とすることが効果的である。ただし、過剰にSiを添加すると溶融めっき浴中のドロス量が多くなるので、めっき浴にSiを含有させる場合は2.0質量%以下の含有量範囲とする。
溶融めっき浴中には、素地鋼板を浸漬・通板する関係上、一般にはFeの混入が避けられない。Zn−Al−Mg系めっきにおいて、Feは概ね2質量%程度まで含有が許容される。めっき浴中には、その他の元素として例えば、Ca、Sr、Na、希土類元素、Ni、Co、Sn、Cu、Cr、Mnの1種以上が含まれていても構わないが、それらの合計含有量は1質量%以下であることが望ましい。
めっき付着量は、鋼板片面あたり20〜300g/m2の範囲で調整することが望ましい。めっき付着量の制御は、一般的な亜鉛めっき鋼板の製造に準じてガスワイピングノズルを用いて行うことができる。ワイピングガスやめっき層凝固時の雰囲気ガスは空気(大気)とすることができる。すなわち空冷方式が採用できる。なお、めっき浴温が550℃を超えると、浴からの亜鉛の蒸発が顕著になるため、めっき欠陥が発生しやすく、かつ浴表面の酸化ドロス量が増大するので好ましくない。
表1に示す鋼を溶製し、そのスラブを1250℃に加熱したのち抽出して、仕上げ圧延温度880℃、巻取温度460〜610℃で熱間圧延し、板厚2.4mmの熱延鋼帯を得た。熱延鋼帯を酸洗したのち冷間圧延に供し板厚1.4mmの冷延鋼帯を得た。これらの冷延鋼帯について、連続溶融めっきラインにて水素−窒素混合ガス中で焼鈍を行い、ガスジェット冷却により冷却速度をコントロールしてAc1点未満の約420℃まで冷却し、その後、鋼板表面が大気に触れない状態のまま下記の浴組成の溶融Zn−Al−Mg系めっき浴中に浸漬したのち引き上げ、ガスワイピング法(空気)にてめっき付着量を片面当たり約90g/m2に調整した溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板を得た。めっき浴温は約410℃であった。めっき層凝固時の冷却は空気冷却である。主な製造条件は表2、表3中に示してある。これらの表中に記載した焼鈍での冷却速度は、焼鈍温度(加熱温度)からAc1点未満の約420℃までの平均冷却速度である。なお、各素地鋼板のS含有量はいずれも0.03質量%以下である。
〔めっき浴組成〕
下記の「%」は質量%である。
Al:6%、Mg:3%、Ti:0.002%、B:0.0005%、Si:0.01%、Fe:0.1%、Zn:残部
Figure 2009228079
得られためっき鋼板からサンプルを切り出し、以下のようにして素地鋼板のマルテンサイト量、Mn偏析、機械的特性を調べた。また、マルテンサイト量、Mn偏析、機械的特性の全てが合格であると判定されたもの本発明例のものについては、さらに溶融金属脆化に起因する溶接最大割れ長さを評価するためスポット溶接、アーク溶接による溶接試験を行った。
〔マルテンサイト量〕
めっき鋼板の鋼素地部について圧延方向に垂直な断面(C断面)の金属組織観察を行い、画像解析によりマルテンサイト量を求めた。マルテンサイト量が5体積%以上のものを合格と判定した。
〔Mn偏析〕
前述の方法により、「Mn最大濃度(質量%)/Mn最小濃度(質量%)」の値を求めることにより評価した。その際、鋼帯の1/2位置(中央)および1/4位置2箇所の計3箇所について「Mn最大濃度(質量%)/Mn最小濃度(質量%)」の値を求め、その平均値を(2)式左辺に適用して、(2)式を満たすものをMn偏析が合格であると判定した。
〔機械的特性〕
試験片の長手方向が圧延方向に対し直角になるように採取したJIS 5号試験片を用い、JIS Z2241に準拠して引張強さTS、降伏強度YS、全伸び(破断伸び)T.ELを求めた。そして、降伏強度と引張強さから降伏比YRを、YR=YS/TSにより求めた。TSが590MPa以上、かつYRが0.7未満のものを機械的特性が合格であると判定した。
〔アーク溶接〕
めっき鋼板から100mm×75mmのサンプルを切り出し、これをアーク溶接による溶融金属脆化に起因する溶接最大割れ長さを評価するための試験片とした。
溶接試験は図1に示すような外観のボス溶接部材を作製する「ボス溶接」を行い、その溶接部断面を観察して割れの発生状況を調べる方法で行った。すなわち試験片3の板面中央部に直径20mm×長さ25mmの棒鋼からなるボス(突起)1を垂直に立て、このボス1を試験片3にアーク溶接にて接合した。溶接ワイヤは、YGW12を用い、溶接開始点からボスの周囲を1周して、溶接開始点を過ぎた後もさらにビードを重ねて少し溶接を進めたところで溶接終了とした。すなわち、溶接開始点と溶接終了点の間に溶接ビード6が重なるようにした。溶接条件は、溶接電流:217A、溶接電圧25V、溶接速度0.2m/min、シールドガス:CO2、シールドガス流量:20L/minとした。ボス1と試験片3と溶接ビード6からなる溶接後の部材をここでは「ボス溶接部材」と呼んでいる。
アーク溶接に際しては実験的に溶接割れを起こりやすくする目的で、図2に示すように試験片3を拘束した状態で行った。すなわち、試験片3を、120mm×95mm×板厚4mmの拘束板4(JISに規定されるSS400鋼材)の板面中央部に置き、予め試験片3の全周を拘束板4に溶接した。そして一体となった試験片3/拘束板4の接合体を水平な実験台5の上に2個のクランプ2によって固定し、この状態で上記のボス溶接を行った。本明細書ではこのような拘束状態で行うボス溶接を「拘束ボス溶接」と呼んでいる。この方法によれば、試験片3は拘束板4と全周溶接により一体となっていることから、ボス溶接時の入熱によって起こる膨張・収縮が拘束されるので、試験片3に作用する熱応力によってボス溶接時に溶接割れが生じやすくなり、溶接割れの明瞭な評価が可能になる。
拘束ボス溶接後に、ボス1の中心軸を通り、かつ前記の溶接ビードの重なり部分8を通る切断面9で、ボス1/試験片3/拘束板4の接合体を切断し、その切断面9について溶接ビード近傍の試験片3(すなわちめっき鋼板母材である素地鋼板)部分の金属組織を顕微鏡観察した。顕微鏡観察によって当該断面内の試験片3の部分に観測される割れについて、試験片3のボス溶接側の表面から割れの先端までの割れの長さを測定し、最も長い割れについての測定値を「最大割れ長さ」とした。溶接部の強度や疲労特性を考慮し、最大割れ長さが0.2mm以下のものを○(合格)、それ以外のものを×(不合格)とした。このような素地鋼板の割れはめっきがない場合には観察されず、これは「溶融金属脆化割れ」であると判断される。
〔スポット溶接〕
また、スポット溶接による溶融金属脆化割れの試験を行った。得られためっき鋼板から同様に100mm×75mmのサンプルを切り出し、このサンプルを2枚重ね合わせ、これを試験片としてスポット溶接による溶融金属脆化に起因する溶接最大割れ長さを評価するための試験を行った。
スポット溶接は、先端径6mmのDR型電極を用い、加圧力3.2kNを加えた状態でチリが発生する溶接電流10kAを供給する条件で行った。そして、アーク溶接による試験と同様に、溶接部の断面の金属組織を観察して割れの長さを測定した。ここでも、最大割れ長さが0.2mm以下のものを○(合格)、それ以外のものを×(不合格)とした。
これらの結果を表2、表3に示す。
Figure 2009228079
Figure 2009228079
表2からわかるように、本発明例のものは、マルテンサイト量、Mn偏析、機械的特性の全てが合格であると判定され、さらに耐溶融金属脆化割れ性についても優れていることが確認された。なお、本発明例の素地鋼板における金属組織はいずれもパーライトが観察されないものであり、マトリクスはマルテンサイト相の残部がフェライト相であった。
これに対し、表3の比較例No.21は素地鋼板のC含有量が低すぎたことによりマルテンサイト量が不足し、強度に劣った。No.22は(1)式を満たさなかったことから鋼の焼入れ性が悪く、パーライト変態が生じてマルテンサイトが生成しなかった。No.23はMn含有量が多すぎたことによりMn偏析が大きく、穴拡げや曲げ等において良好な加工性が期待できない。No.24は焼鈍温度が低すぎたので高温でのオーステナイト生成量が非常に少なく、結果的にマルテンサイト相はほとんど認められなかった。またNo.25は焼鈍後の冷却速度が遅すぎたためパーライト変態が生じ、マルテンサイト相の生成量が非常に少なかった。これらは、引張強さが低く、降伏比が高かった。No.26は熱間圧延での巻取温度が高すぎたことにより、降伏比が高かった。
次に、表1に示した鋼Dおよび鋼Hをベースに、それぞれCr量を変動させた鋼D1〜D4および鋼H1〜H5を溶製し、これらの鋼を素地鋼板に用いた溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板を作製した。鋼組成を表4に示す。製造条件は鋼D1〜D4は鋼Dと、また鋼H1〜H5は鋼Hとそれぞれ同一とした。各溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板について、実施例1に示した方法で、アーク溶接およびスポット溶接での耐溶融金属脆化割れ性を調べた。結果を表4に示す。表4中には鋼D、鋼Hも併せて記載してある。
Figure 2009228079
ボス溶接部材の形状を模式的に示した図。 拘束ボス溶接を行う際の試験片の拘束方法を模式的に示した断面図。
符号の説明
1 ボス
2 クランプ
3 試験片
4 拘束板
5 実験台
6 溶接ビード
7 試験片全周溶接部の溶接ビード
8 溶接ビードの重なり部分
9 切断面

Claims (3)

  1. 質量%でAl:3〜22%、Mg:1〜10%を含有し、さらにTi:0.1質量%以下、B:0.05質量%以下、Si:2%以下、Fe:2%以下の1種以上を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる溶融めっきを施しためっき鋼板において、素地鋼板が、質量%でC:0.05〜0.25%、Si:1.5%以下、Mn:1.0〜2.0%、N:0.005%以下、Ti:3.43×N〜0.05%、B:0.0003〜0.01%、Cr:0.5〜2.0%、残部Feおよび不可避的不純物、かつ下記(1)式を満たす組成を有し、素地鋼板のマトリクスがフェライト相+5体積%以上のマルテンサイト相からなり、素地鋼板のMn偏析が下記(2)式を満たす範囲であり、当該めっき鋼板の引張強さが590MPa以上、かつ降伏比が0.7未満である耐溶融金属脆化割れ性に優れたZn−Al−Mg系めっき鋼板。
    Mn+1.29Cr≧2.05 ……(1)
    Mn最大濃度(質量%)/Mn最小濃度(質量%)≦2 ……(2)
  2. 素地鋼板が、さらにNb:0.3%以下、V:1.0%以下、Mo:1.0%以下、Zr:1.0%以下の1種以上を含有する組成を有する請求項1に記載の耐溶融金属脆化割れ性に優れたZn−Al−Mg系めっき鋼板。
  3. 熱間圧延、冷間圧延、連続溶融めっきラインでの焼鈍および溶融Zn−Al−Mg系めっきを順次行う工程において、熱間圧延での巻取温度を560℃以下とし、連続溶融めっきラインでは、750〜950℃で焼鈍した後、冷却中にパーライトが生成しない冷却速度で冷却し、その後、溶融めっき浴に通板する請求項1〜3のいずれかに記載の耐溶融金属脆化割れ性に優れたZn−Al−Mg系めっき鋼板の製造方法。
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