JP2009226307A - セラミックフィルタ及びナノ濾過膜の製造方法 - Google Patents

セラミックフィルタ及びナノ濾過膜の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】欠陥が少なく、膜厚が薄く均一で、細孔の分布にシャープさがあるNF膜の製造方法、及びこのNF膜を用いたセラミックフィルタを提供する。
【解決手段】柱状形状をなし、柱状形状の両端面間を軸方向に貫通する複数の流路113を有するセラミックフィルタである。このセラミックフィルタは、複数の流路113のそれぞれの内壁に、クロスフロー濾過法により形成され、5nm以上の粗大細孔含有率が5%以下のNF膜142を備える。
【選択図】図3

Description

本発明は、ナノ濾過膜(NF膜)を有するセラミックフィルタ、及びこのセラミックフィルタの内部に設けられた複数の流路のそれぞれの内壁にNF膜を形成するNF膜の製造方法に関する。
従来から、多孔質基材上に限外濾過膜(UF膜)を成膜する方法は種々のものが知られている。例えば、チューブ形状、レンコン状、又は蜂の巣状の一体構造(モノリス)の多孔質基材の内表面に濾過成膜により多孔質膜を形成する方法も公知であり(特許文献1〜2を参照)、多孔質基材のゾル液が接触する内表面側より外表面側を低圧に保持することにより多孔質基材の内表面に成膜するものである。
「分画分子量(MWCO)」は、濾過膜が90%以上分離することのできる最小分子量として定義される。分画分子量の決定に際しては、平均分子量の異なる3種類以上の分子量標準物質(マーカー)を用い濾過装置で濾過したときの濃度比からそれぞれの阻止率を求め、図4に示すような確率対数紙上にプロットする。確率対数紙上で阻止率90%の分子量を算出し、分画分子量とされる。しかしながら、図4に示すように、Aの濾過膜とBの濾過膜とが、同じ分画分子量(MWCO)3,000g/molであっても分子量(MW)6000g/molの阻止率が、Bの濾過膜の方が高い。このとき、Bの濾過膜の方が「細孔の分布がシャープ」になっていると定義する。
特開平3−267129号公報 特開昭61−238315号公報
しかしながら、セル数が多く膜面積が大きいレンコン状や蜂の巣状の一体構造(モノリス)をなす多孔質基材に適応して平均細孔径が4nm以下のNF膜を作製しようとすると、5nm以上、或いは10nm以上の大きな細孔或いはクラック等の欠陥が発生し、細孔の分布がシャープでないため、所望の阻止特性が得られなかった。
本発明は、欠陥が少なく、膜厚が薄く均一で、細孔の分布にシャープさがあるNF膜の製造方法、及びこのNF膜を用いたセラミックフィルタを提供することを目的とする。
なお、本明細書では、「NF膜の細孔の分布にシャープさがある」とは、以下の内、どれか1つ以上を満たしたときとする:
(a)2つのNF膜を比較したとき、分子量6,000g/molの阻止率が高いNF膜の方を相対的に「シャープなNF膜」とする。
(b)分子量6,000g/molの阻止率が、98%以上となるNF膜の場合、そのNF膜を絶対的に「シャープなNF膜」と表現する。
(c)確率対数紙上に複数の阻止率をプロットして各阻止率を結んだとき、99%に向かって、略直線性があるNF膜の方を相対的に「シャープなNF膜」と表現する。
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は柱状形状をなし、柱状形状の両端面間を軸方向に貫通する複数の流路を有するセラミックフィルタに関する。即ち、第1の態様に係るセラミックフィルタは、複数の流路のそれぞれの内壁に、クロスフロー濾過法により形成され、5nm以上の粗大細孔含有率が5%以下のNF膜を備えることを特徴とする。
本発明の第2の態様は、(イ)柱状形状をなし、柱状形状の両端面間を軸方向に貫通する複数の流路を備えたセラミックエレメントを用意する工程と、(ロ)セラミックゾル原液を作製した後に、希釈用の溶媒としてイソプロピルアルコール、又はイソプロピルアルコールの水溶液をセラミックゾル原液に混合してセラミックゾルコート液を作製する工程と、(ハ)クロスフロー濾過法によりセラミックエレメントの複数の流路の内壁表面上にセラミックゾルコート液を付着させる工程と、(ニ)付着させる工程の後、恒温槽にセラミックエレメントを収納し、湿度45〜55%に制御して、セラミックゾルコート液を乾燥させて内壁表面上にセラミックゾルコート液を乾燥させた被膜を付着させる第1乾燥処理工程と、(ホ)第1乾燥処理工程の後、焼成温度まで10〜50℃/hの昇温速度でセラミックエレメントを昇温し、焼成温度で被膜を焼成の後、焼成温度から降温速度10〜50℃/hで降温する焼成工程とを含むナノ濾過膜の製造方法であることを要旨とする。
本発明によれば、欠陥が少なく、膜厚が薄く均一で、細孔の分布にシャープさがあるNF膜の製造方法、及びこのNF膜を用いたセラミックフィルタを提供することができる。
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
又、以下に示す本発明の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
(セラミックフィルタ)
図2に本発明の実施の形態に係るNF膜の製造方法によって得られたNF膜142を用いたセラミックフィルタ11fの一例を説明する。
本発明の実施の形態に係るセラミックフィルタ11fは、隔壁114により画成され軸方向の流体通路を形成する複数の流路(セル)113を有するレンコン状の一体構造(モノリス)を成している。本発明の実施の形態に係るセラミックフィルタ11fでは、流路(セル)113は円形断面を有し、その内壁面に、図3に示されたようなNF膜142が形成されている。NF膜142は、クロスフロー濾過法により形成され、5nm以上の粗大細孔含有率が5%以下のNF膜142であり、10nm以上の粗大細孔含有率が0.5%以下である。更に、NF膜142の分子量6,000g/molに対する阻止率が、98%以上である。
流路(セル)113は、六角断面や四角形断面を有するように形成しても良い。図2に示すような構造によれば、例えば、混合体を入口側端面から流路(セル)113に導入すると、その混合体を構成する一方が、流路(セル)113内壁に形成されたNF膜142において分離され、多孔質の隔壁114を透過してセラミックフィルタ11fの最外壁から排出されるため、混合体を分離することができる。つまり、セラミックフィルタ11fに形成されたNF膜142は、分離膜として利用することができる。
図3に示すように、本発明の実施の形態に係るセラミックフィルタ11fでは、細孔径が1〜10μmの精密濾過膜(MF膜)111上に細孔径が5〜10nmの限外濾過膜であるUF膜141が形成され、そのUF膜141上に細孔径が0.5〜4nmのNF膜142が形成されている。UF膜141としては、例えば、チタニアを採用することができる。NF膜142は、セラミックゾルをクロスフロー濾過法により積層した単層、又は多層構造であり、例えば、チタニアを採用することができる。以上のように、UF膜141上にNF膜142を形成した場合、UF膜141の膜表面が平滑で欠陥も少ないため、NF膜142が薄く、欠陥無く成膜することが可能となる。即ち高分離能、高透過速度、低コストのNF膜142が作製可能となる。
一方、UF膜141を形成せずにMF膜111上にNF膜142を形成した場合、MF膜111の表面の凸凹のため、表面を全てNF膜142で被覆するためにはセラミック層が厚膜となってしまい、低透過速度となる。又MF膜111の表面が凸凹であるため、NF膜142が不均質となりクラック等の欠陥が発生しやすい。即ち低分離性能となる。更にクラックを発生させないためには一度に薄くしか成膜できず、工程数が増え高コストの原因となる。したがって、MF膜111の表面にUF膜141を形成し、UF膜141の表面を下地膜としてNF膜142を形成することが望ましい。
UF膜141をNF膜142形成の下地膜として、UF膜141上にセラミック多孔質膜を形成すると、欠陥の少ないNF膜142、即ち高分離能のNF膜142を形成できる。
セラミックフィルタ11fの本体となるMF膜111は、押し出し成形等により多孔質材料からなるレンコン形状型フィルタエレメントとして形成されており、多孔質材料としては、耐食性と温度変化による濾過部の細孔径の変化が少ない点や充分な強度が得られる点から、例えば、アルミナを用いることができるが、アルミナ以外にコーディエライト、ムライト、炭化珪素等のセラミックス材料を使用することもできる。NF膜142を成膜する面(最表面層)は、細孔径が好ましくは5〜20nm、より好ましくは、5〜10nmの多数の細孔を有する多孔質体で形成されると良く、最表面層は、基材本体であっても良いが、図3の例においては、UF膜141が上記範囲の最表面層を形成している。
本発明のNF膜142は、UF膜141の内周面(内壁面)を下地膜として成膜するため、長さが50cm以上である比較的長尺のレンコン状の形状のMF膜111からなる多孔質基材を好適に用いることができる。
(クロスフロー濾過装置)
本発明の実施の形態に係るNF膜の製造方法に用いるクロスフロー濾過装置は、図1に示すように、セラミックエレメント11eを収納する成膜チャンバー12と、成膜チャンバー12の上流側となる底部フランジ123bに接続された上流側配管21aと、成膜チャンバー12の下流側となる上部フランジ123aに接続された循環液配管21eと、循環液配管21eにT分岐して接続されるエヤー抜きバルブ18及びリターン配管21fと、成膜チャンバー12の底部フランジ123bから分岐した第1減圧配管21gと、第1減圧配管21gに接続された真空トラップ16と、真空トラップ16に接続された第2減圧配管21h、第2減圧配管21hに接続された真空ポンプと、上流側配管21aにT分岐して接続されるドレイン配管21d及び供給配管21bと、ドレイン配管21dに接続されたドレインバルブ13と、供給配管21bに接続された循環ポンプ14と、循環ポンプ14に接続されたタンク配管21cと、タンク配管21cに接続された循環タンク15とを備える。循環ポンプ14により、コート液は底部フランジ123bからからフランジ123aに送液され、循環液配管21e及びリターン配管21fを介して、コート液が循環タンク15に戻る。この循環を行いながら、第1減圧配管21g、真空トラップ16及び第2減圧配管21hを介して、真空ポンプ17で真空吸引する。真空トラップ16に一定量のセラミックエレメント11eを濾過したコート液が貯まったら、循環ポンプ14を停止し、ドレインバルブ13を開けて、上流側配管21a及びドレイン配管21dを介して、コート液を排出する。真空ポンプ17による吸引を停止しても、残圧で余分に濾過されてしまうので、真空トラップ16に一定量のコート液が貯まった時点で、セラミックエレメント11eの1次側(循環側)のコート液を排出する。セラミックエレメント11eの1次側のコート液を排出させた後、ドレインバルブ13を閉じ、セラミックエレメント11eの2次側(濾過側)を真空で保持する。
成膜チャンバー12はセラミックエレメント11eを収納する円筒型の収納ケースであり、成膜チャンバー12の上部には円筒型の上部エレメント保持リング122aが、成膜チャンバー12の下部には円筒型の下部エレメント保持リング122bが設けられている。セラミックエレメント11eの釉薬部112aは、O−リング121aにより上部エレメント保持リング122aにより真空密閉状態で固定され、セラミックエレメント11eの釉薬部112bは、O−リング121bにより下部エレメント保持リング122bにより真空密閉状態で固定される。循環液配管21eには流量計F1が設けられ、コート液を送液する際の線速(送液速度)を監視し、制御する。又、成膜チャンバー12の上部には、圧力計P1が接続され、成膜チャンバーを減圧する圧力を監視し、制御する。
(NF膜の製造方法)
図1〜図3を用いて、本発明の実施の形態に係るNF膜の製造方法を説明する。なお、以下に述べるNF膜の製造方法は、一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により、実現可能であることは勿論である。NF膜142として、チタニア膜を形成する場合を例として説明する。
(イ)先ず、MF膜111からなるレンコン形状(外径30mm,セル内径3mm×37セル,長さ65〜1000mm)のセラミックエレメント11eを用意する。そして、セラミックエレメント11eの両端部を、図2に示すようにガラス質の被膜(釉薬部)112a,112bで釉薬シールをする。更に、圧縮空気でセラミックエレメント11eの流路113内のゴミを排出させた後、MF膜111からなるセラミックエレメント11eに設けられた流路(セル)113の内壁に、ディップ法、濾過成膜法、又はセラミックエレメント11eの上部より滴下してセル113の内側表面上を流動させる方法などにより、それぞれ細孔径が5〜10nmのUF膜141を形成する。
(ロ)本発明の実施の形態に係るNF膜の製造方法に用いるコート液は、先ず、セラミックゾル原液(以下、単に「ゾル原液」ともいう。)をイソプロピルアルコール(IPA)又はその水溶液で希釈して得る。ゾル原液は金属アルコキシド(例えば、チタンテトライソプロポキシド)と硝酸、又は塩酸の混合液を2〜10℃に保持しながら水と混合し、更に保持温度を10〜40℃にし、予め硝酸と混合しておいたIPAと混合して得られる。なお、ゾル原液は、0.1質量%〜1.2質量%、好ましくは、0.2質量%〜0.5質量%のチタニア(TiO)を含むゾル液である。
(ハ)そして、得られたゾル原液をイオン交換水(導電率で10μS/cm以下)で希釈し、希釈後のコート液中のIPA濃度が10質量%以下、好ましくは9質量%以下となるように調整し、コート液を得る。具体的には、イオン交換水を攪拌しながら、そこにゾル原液を少しずつ加えて、コート液を得る。コート液を得るために、約5分間程度攪拌する。希釈後のチタニア濃度は0.02〜0.2質量%が特に好ましい。濃度が0.02質量%以下の場合、膜が薄膜化しすぎるために目的の膜厚を得るまでの成膜回数が増え生産性が悪くなり、更に下地の影響を受けやすくなるために不均質となりクラック等の欠陥が発生しやすくなる。濃度が0.2質量%以上の場合、一度の成膜で得られる膜厚が大きくなり、クラックが発生しやすくなる。又、ここではセラミックゾルの成分としてチタニアを用いているが、チタニアの変わりにシリカ、ジルコニアの成分のゾルを用いることもできる。コート液には、PVA(ポリビニルアルコール)を0.1質量%〜0.2質量%の濃度の範囲で混合する。できれば、0.17質量%にする。PVAの濃度はTiO2の濃度0.083質量%に対し、上記の濃度とする。コート液中のIPA濃度は10%以下にする。本発明におけるコート液の作製方法は、セラミックゾル原液を先に作製し、それをイオン交換水で希釈するという2段プロセスであり、このようにゾル原液を作製後IPAで希釈してコート液を得ることにより、細孔径の小さい、具体的には、平均細孔径が4nm以下、又分子量が3000以下の物質を阻止するのに適したNF膜を作製することが可能となる。これに対し、セラミックゾル原液作製時に希釈溶媒として予めIPAを混合して所望の濃度のコート液を得る1段プロセスでは、凝集したゾル粒子が多くなり、粗大細孔の数が増えてしまうので好ましくない。攪拌終了後、2段プロセスで調合したコート液を例えばナイロン製で孔径10〜100μmの濾布で濾す。濾布は、直前に蒸留水で洗浄しておく。
(ニ)次に2段プロセスで調合したコート液をクロスフロー濾過法によりセラミックエレメント11eの流路(セル)113の内壁の表面上に付着させるために、セラミックエレメント11eを図1に示すクロスフロー濾過装置の成膜チャンバー12内に立てて設置する。クロスフロー濾過は、クロスフロー濾過装置の成膜チャンバー12内に設置したセラミックエレメント11eに下から上に送液する。送液速度は、例えば、φ3×37穴のセラミックエレメント11eの場合であれば、1L/分で循環させる(線速0.06m/s)ように流量計F1で制御する。循環液(コート液)の循環を行いながら、セラミックエレメント11eの2次側(濾過側)から第1減圧配管21g、真空トラップ16及び第2減圧配管21hを介して、真空ポンプ17で真空吸引する。真空圧は圧力計P1を用いて0.08MPa以上とし、例えば、長さ1m(膜面積0.35m2)のセラミックエレメント11eの場合、真空トラップ16に70〜150mL程度濾過液(コート液)が貯まったら、真空ポンプ17を停止し(実際には、真空ポンプ17を動作させながら、第2減圧配管21h中に設けたストップバルブ(図示省略)を閉じれば良い。)、セラミックエレメント11eの循環液(コート液)をドレインバルブ13を開けて、上流側配管21a及びドレイン配管21dを介して排出する。真空ポンプ17による吸引を停止しても、残圧で余分に濾過されてしまうので、30〜50mL程度濾過液(コート液)が貯まった時点で、セラミックエレメント11eの1次側(循環側)の循環液(コート液)をドレインバルブ13を開けて、排出する。セラミックエレメント11eの1次側(循環側)の循環液(コート液)を排出させた後、ドレインバルブ13を閉じ、真空ポンプ17を再度動作させ(実際には、真空ポンプ17を動作したまま維持しておき、第2減圧配管21h中に設けたストップバルブ(図示省略)を開ければ良い。)、セラミックエレメント11eの2次側(濾過側)の真空保持を約10分間行う。セラミックエレメント11eの真空保持が終了した後に、セラミックエレメント11eをクロスフロー濾過装置から取出す。
(ホ)クロスフロー濾過装置からセラミックエレメント11eを取出し、セラミックエレメント11eの残液を拭い取った後、セラミックエレメント11eを乾燥機(恒温槽)に収納し、乾燥機(恒温槽)を用いた第1乾燥処理を実施して、コート液を乾燥させ、コート液が乾燥した被膜をUF膜141の表面に付着させる。第1乾燥処理は、27〜33℃、湿度45〜55%、好ましくは湿度48〜52%に乾燥機の内部を制御して、12〜20時間行う。
(ヘ)更に、50〜60℃で湿度成り行き(湿度制御なし)で、5〜24時間程度の第2乾燥処理を加えて、コート液を乾燥させた被膜を更に乾燥させ、UF膜141の表面に密着させる。第2乾燥処理の乾燥時間を長くするほど、より高阻止率のNF膜142ができる。第2乾燥処理を省略してしまうと、NF膜142の分離性能が劣る。第2乾燥処理を省略した場合、10nm以上の粗大細孔がNF膜142に多く存在し、特に平均分子量7500のポリエチレングリコール(PEG)6000(和光純薬製)に対し、分画分子量20000g/molのUF膜141が99%の阻止率であるのにも関わらず、NF膜142のPEG6000に対する阻止率が92%程度に低下してしまう。このように、セラミックエレメント11eに第2乾燥処理を加えることで、99%以上のPEG6000に対する阻止率のNF膜142を得ることができるので、第2乾燥処理を実施することが好ましいが、目的によっては、第2乾燥処理を省略した可能である。
(ト)第2乾燥処理の終了後、10〜50℃/h、好ましくは、15〜30℃/h、例えば25℃/hの速度で400〜500℃、例えば450℃の焼成温度までセラミックエレメント11eを昇温し、焼成温度においてセラミックエレメント11eを保持時間を45分〜3時間、好ましくは1〜2.5時間程度保持して、コート液を乾燥させた被膜を焼成した後、10〜50℃/h、好ましくは、15〜30℃/h、例えば25℃/hでセラミックエレメント11eを室温まで冷却してNF膜142を得る。なお、セラミックエレメント11eが大きい場合、昇降温の速度は30℃/h以下の小さい値に設定するのが良い。昇温の速度を10℃/h未満の値にすることも可能であるが、工業的見地からは、生産効率が低下するので、昇温の速度を10℃/h未満にすることは現実的ではない。同様に、降温の速度を10℃/h未満の値にすることも可能であるが、工業的見地からは、生産効率が低下するので、降温の速度を10℃/h未満にすることは現実的ではない。
以上の工程により、セラミックエレメント11eのUF膜141を下地とし、そのUF膜141の表面上にセラミック多孔質膜であるNF膜142が形成され、図2に示した本発明の実施の形態に係るセラミックフィルタ11fが完成する。
本発明の実施の形態に係るNF膜の製造方法によれば、表1に、実施例の一部(実施例1〜8)を例示的に示すように、セラミックエレメント11eの焼成時の昇降温の速度を1〜50℃/hとすることで、10nm以上の粗大細孔が無く、細孔の分布にシャープさがあるNF膜142を得ることができる。
特に、本発明の実施の形態に係るNF膜の製造方法によれば、分画分子量(MWCO)が3000g/mol以下、具体的には、例えば分画分子量が1000〜2500g/molの分離性能を有し、例えば、有機溶媒中の分子量が数千程度の物質の除去にも適用することができ、細孔の分布にシャープさがあり、有機膜では耐蝕性という意味で使用困難な環境でも使用可能なNF膜の製造方法を提供することができる。電子分野などにおいて、例えば、半導体、液晶ガラス、フォトマスク等の製造工程で用いられる有機物質(例えば、平均粒子径が4nm以下で、分子量が3000g/mol以下であるレジストなど)とそれを剥離、洗浄するための各種溶剤(極めて高価であるために再利用が求められている)との加熱処理なしでの分離に適応可能である、細孔の分布にシャープさがあるNF膜を提供することができる。
Figure 2009226307
表1には、焼成処理時の昇温速度、焼成温度、保持時間及び降温速度、第1乾燥処理(乾燥1)時の乾燥温度、乾燥湿度、保持時間を、並びに第2乾燥処理(乾燥2)時の乾燥温度、保持時間を、それぞれ実施例1〜8及び比較例1〜4に付いて示し、UF膜141の表面上に形成されたセラミック多孔質膜の分画分子量をそれぞれ示した。表1からセラミックエレメント11eの焼成時の昇降温の速度を25℃/hとすること(実施例1〜8)で、分画分子量2000〜3500g/molのNF膜142が得られるが、焼成時の昇降温の速度が100℃/hの比較例1〜4では、分画分子量が4000〜6000g/molであることが分かる。
表1に実施例の一部を例示したように、セラミックエレメント11eの焼成時の昇降温の速度が100℃/hの場合は、PEGを分子量標準物質とした測定で分画分子量4,000g/mol程度であったが、本発明の実施の形態に係るNF膜の製造方法を用いることで、分画分子量3500g/mol以下、更には、分画分子量2000g/mol程度のNF膜142を得ることができることが分かる。これは、NF膜142の焼成温度、保持時間、昇降温の速度を上記の値に選定したことによって、5nm以上及び10nm以上の粗大な細孔が大きく減少したことによる。
又、従来は、10nm以上の粗大な細孔が存在したことにより、その部分を起点とした剥離により、耐蝕性に難があったが、本発明の実施の形態に係るNF膜の製造方法によれば、粗大細孔が大幅に減少したことにより耐蝕性も向上する。焼成時の昇降温の速度100℃/hで焼成した膜(実施例1,2,4)では、0.5%−NaOHに10日浸漬させたとき、膜の劣化により細孔径が大きくなる事で透水量が初期値の1.8倍になってしまうが、本発明の実施の形態に係るNF膜の製造方法によれば、5%未満の上昇に抑えること、若しくは上昇が見られないようにすることが可能となる。この原因は、焼成時の昇降温の速度100℃/hでセラミックエレメント11eをe焼成した場合はUF膜141上へNF膜142の接着強度が低いことによる。特に、NF膜142を、ディッピング法でセラミックエレメント11eに形成した場合は、その後のセラミックエレメント11eの乾燥方法によりUF膜141上へのNF膜142接着強度が低くなる。一方、本発明の実施の形態に係るNF膜の製造方法によれば、クロスフロー濾過における加圧により、UF膜141上に楔が入ったように接着されるため、耐蝕性が向上する。焼成の保持時間は1時間が最適であり、これを30分以下にすると、分画分子量6,000以上の膜となり、耐蝕性劣る。なお、保持時間を3時間以上、昇温速度を10℃/h以下にしても(実施例8参照。)、表1に示すように分画分子量が3500g/molとなり、耐蝕性共これ以上の効果は望めない。
表1から、第2乾燥処理(乾燥2)を実施しなければ、焼成時の昇降温の速度を10〜25℃/hとしても、分画分子量が3500g/molとなることが分かるので、第2乾燥処理(乾燥2)が重要であることは分かるが、分画分子量が3500g/molを目的とする場合は、第2乾燥処理(乾燥2)を省略できる。
表1から、第1乾燥処理時の乾燥温度は、27〜33℃が好ましく、乾燥温度を60℃にすると(比較例3)、焼成時の昇降温の速度を25℃/hとしても、分画分子量が5,000g/molの膜となることが分かる。乾燥温度を60℃以上にすると、膜面にクラックが発生しやすくなるからである。
ナノサイズの細孔径分布はナノパームメトリー法(例えば、日本膜学会編、『膜学実験法「人工膜編」』、2006年講習会テキスト(CD版)等参照。)による方法にて測定が可能であり、30分以下の保持時間で焼成したNF膜での分布は10nm以上の粗大細孔が3%存在するので、細孔の分布にシャープさが無い。一方、1時間の保持時間で焼成したNF膜では、10nm以上の粗大細孔が最悪でも0.5%以下、多くは測定限界以下(0%)となり、5nm以上の粗大細孔は5%以下となり、細孔の分布にシャープさがある。それぞれの膜に対し、PEGによる阻止率を測定し、確率対数紙にプロットすると、1時間保持では、線形性が得られるのに対し、15分保持ではPEG6000の部分で傾きが寝てしまうので、細孔の分布にシャープさが無い。このことから、10nm以上の粗大細孔が存在する場合、PEGの確率対数紙へのプロットだけからも、10nm以上の粗大細孔の存在を確認することができる。
以上のようにして得られた、内壁面に細孔の分布にシャープさがある薄膜状のNF膜142が形成されたセラミックフィルタ11fは、混合液体等を分離するフィルタとして好適に用いることができる。
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
例えば、上記の実施の形態の説明においては、ゾル原液として用いる金属アルコキシドとしてチタンテトライソプロポキシドを例に説明したが、これは、NF膜142としてチタニアを形成する場合についての例示であり、ゾル原液としては、アルミニウムイソプロポキシドやジルコニウムイソプロポキシド等の他の金属アルコキシドを用いても良い。アルミニウムイソプロポキシドをゾル原液として用いれば、NF膜142としてアルミナが、ジルコニウムイソプロポキシドを金属アルコキシドを用いれば、NF膜142としてジルコニアが形成されるが、これらの他の金属アルコキシドを用いた場合であっても、上記と同様な顕著な効果を奏することができることは、上記の説明から本発明の技術的思想を把握すれば、容易に理解できるであろう。
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
本発明の実施の形態に係るNF膜の製造方法に用いるクロスフロー濾過装置の概略を説明する模式図である。 本発明の実施の形態に係るセラミックフィルタの概略構造を説明する鳥瞰図である。 本発明の実施の形態に係るセラミックフィルタの概略構造を説明する断面図であり、MF膜上にUF膜が形成され、UF膜上にNF膜が形成された状態を示す。 4点の阻止率データをプロットした確率対数紙上で、Aの濾過膜とBの濾過膜とが、同じ分画分子量であっても、分子量6000の阻止率がBの濾過膜の方が高いので、Bの濾過膜の方を「細孔の分布がシャープ」であると定義することを示す図である。
符号の説明
11e…セラミックエレメント
11f…セラミックフィルタ
12…成膜チャンバー
13…ドレインバルブ
14…循環ポンプ
15…循環タンク
16…真空トラップ
17…真空ポンプ
18…バルブ
21a…上流側配管
21b…供給配管
21c…タンク配管
21d…ドレイン配管
21e…循環液配管
21f…リターン配管
21g…第1減圧配管
21h…第2減圧配管
111…MF膜
112a,112b…釉薬部
113…セル(流路)
114…隔壁
121a,121b…O−リング
122…成膜チャンバー
122a…上部エレメント保持リング
122b…下部エレメント保持リング
123a…フランジ
123a…上部フランジ
123b…底部フランジ
141…UF膜
142…NF膜

Claims (9)

  1. 柱状形状をなし、前記柱状形状の両端面間を軸方向に貫通する複数の流路を有するセラミックフィルタであって、
    前記複数の流路のそれぞれの内壁に、クロスフロー濾過法により形成され、5nm以上の粗大細孔含有率が5%以下のナノ濾過膜を備えることを特徴とするセラミックフィルタ。
  2. 前記ナノ濾過膜の10nm以上の粗大細孔含有率が0.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックフィルタ。
  3. 前記ナノ濾過膜の分子量6,000g/molに対する阻止率が、98%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセラミックフィルタ。
  4. 柱状形状をなし、前記柱状形状の両端面間を軸方向に貫通する複数の流路を備えたセラミックエレメントを用意する工程と、
    セラミックゾル原液を作製した後に、希釈用の溶媒としてイソプロピルアルコール、又はイソプロピルアルコールの水溶液を前記セラミックゾル原液に混合してセラミックゾルコート液を作製する工程と、
    クロスフロー濾過法により前記セラミックエレメントの前記複数の流路の内壁表面上に前記セラミックゾルコート液を付着させる工程と、
    前記付着させる工程の後、恒温槽に前記セラミックエレメントを収納し、湿度45〜55%に制御して、前記セラミックゾルコート液を乾燥させて前記内壁表面上に前記セラミックゾルコート液を乾燥させた被膜を付着させる第1乾燥処理工程と、
    前記第1乾燥処理工程の後、焼成温度まで10〜50℃/hの昇温速度で前記セラミックエレメントを昇温し、前記焼成温度で前記被膜を焼成の後、前記焼成温度から降温速度10〜50℃/hで降温する焼成工程
    とを含むことを特徴とするナノ濾過膜の製造方法。
  5. 前記第1乾燥処理時の後、湿度制御なしで、前記セラミックゾルコート液を更に乾燥させる第2乾燥処理工程を追加した後、前記焼成工程を実施することを特徴とする請求項4に記載のナノ濾過膜の製造方法。
  6. 前記第1乾燥処理時の乾燥温度が、27〜33℃であることを特徴とする請求項4又は5に記載のナノ濾過膜の製造方法。
  7. 前記第2乾燥処理時の乾燥温度が、50〜60℃であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のナノ濾過膜の製造方法。
  8. 前記焼成工程時の保持時間が45分〜3時間であることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載のナノ濾過膜の製造方法。
  9. 前記セラミックゾルコート液のイソプロピルアルコール濃度が10質量%以下であることを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載のナノ濾過膜の製造方法。
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