マルチキャリア伝送方式は、データを複数のサブキャリアに分けて並列伝送するものであり、シングルキャリア伝送に比べてシンボル期間を長くすることができることから、マルチパスによる伝送劣化を小さく抑えることができる。また、マルチキャリア伝送の効率的な実現手段であるOFDMは、直交化された複数のサブキャリアで信号伝送を行うため、周波数利用効率が高く、高速伝送も実現される。
マルチキャリア伝送方式(特にOFDM)は、地上波デジタルテレビや無線LANなどで実用化されており、さらに近年、携帯電話などの移動通信や高速無線データ通信の規格の一つであるWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access) への適用が進んでいる。なお、WiMAX(モバイルWiMAXを含む)は、IEEE802.16-2004/IEEE802.16eにより規格化されている。以下、伝送方式としてOFDMを用いた無線送信装置を例に説明する。
無線送信装置は、互いに直交するサブキャリア信号を逆高速フーリエ変換(IFFT)処理して各サブキャリア信号の周波数を多重化したOFDM変調信号を生成し、送信する。IFFT処理により生成されるOFDM変調信号は、ピーク成分を含んでおり、PAPR(Peak-to-Average Power Ratio)が大きくなる、すなわち平均送信電力と比較してピーク送信電力が著しく大きくなってしまう傾向にある。PAPRの大きい信号を送信する場合、信号増幅における送信信号の非線形歪みや近接チャネルへの電力漏洩を防止するために、無線送信装置に搭載される送信電力増幅器(以下、単に「増幅器」と称する)に対して、広いダイナミックレンジにわたる高い線形性が要求される。
しかし、増幅器の線形性と効率は一般に相反する特性であり、広いダイナミックレンジにわたって高い線形性を確保すると、電力効率が下がり、無線送信装置の消費電力が増大する。そのため、従来から、PAPRを抑制するために、ピーク送信電力を抑圧するピーク抑圧処理が実施されている。
また、ピーク成分を抑圧すると変調精度の劣化を伴うため、この変調精度の劣化を可能な限り抑えるピーク抑圧方式として、窓関数によるピーク抑圧方式が知られている。窓関数を用いたピーク抑圧方式は、抑圧レベルのしきい値を超えたピーク点に対して、(抑圧レベル/入力信号の包絡線のピーク値)となるような補正係数を乗算することで、ピーク点を抑圧レベルにまで落とす。その際、ピーク点が不連続となることを防ぐために、窓関数を補正係数として使用する。この窓関数の高さ(最高部のレベル)は、(抑圧レベル/入力信号の包絡線のピーク値)であって、開始点と終了点の大きさが1倍となる。この窓関数の最高部と入力信号のピーク点のタイミングを一致させて掛け合わせることで、前後を連続して滑らかに変化させながらピーク点を抑圧レベル(しきい値)にまで落とすことができる。
図1は、従来の無線送信装置における窓関数方式ピーク抑圧部の構成例を示す図である。図1の窓関数方式ピーク抑圧部10は、一例として、窓関数の窓幅の時間内に検出されるピーク点が4点まで処理可能なように4つの窓関数生成部13−1〜13−4(総称する場合は、窓関数生成部13と称する)を備える。ピーク点検出部11が、IFFTされた送信信号からしきい値を超えるピークレベルを有するピーク点を検出すると、割り当て部12は、処理が行われていない窓関数生成部13のうちの一つに該ピーク点を割り当てる。
窓関数生成部13のテーブル(LUT)134は、窓幅が異なる複数種類の窓関数を格納する。IFFTの周波数帯域幅及びサンプリングレートによって、ピーク成分を効果的に抑圧するための窓幅は異なるため、IFFTの周波数帯域幅及びサンプリングレートに応じて、窓関数の窓幅を変化させる必要がある。このため、ピーク抑圧処理に用いられる窓関数として、窓幅が異なる複数の窓関数が用意される。特に、WiMAXによる通信システム(WiMAXシステム)では、国毎に異なるさまざまな周波数帯域幅及びサンプリングレートに対応可能とするために、さまざまな条件に対応する窓幅の窓関数の計算結果を窓関数のテーブルとしてあらかじめ無線送信装置に設定し、その中から条件に合致した窓関数を選択して用いられている。
アドレス生成部133は、テーブルから全窓関数を読み出すための読出アドレスを生成し、テーブル134に記憶された窓関数を選択部135に出力させる。
窓幅決定部132には、あらかじめ窓幅が設定されており、選択部135は、窓幅設定部132に設定されている窓幅に対応する窓関数を選択して出力する。
窓関数高さ算出部131は、ピーク点のピークレベルを抑圧レベルに落とすのに必要な抑圧量(窓関数高さ)を算出する。乗算部136は、選択された窓関数と算出された抑圧量を乗算する。乗算部14は、窓関数生成部13−1と窓関数13−2の乗算部136からの出力を乗算し、各窓関数を合成する。乗算部15は、窓関数生成部13−3と窓関数13−4の乗算部136からの出力を乗算し、各窓関数を合成する。さらに乗算部16は、乗算部14と乗算部15の出力を乗算することで、窓関数生成部13−1〜13−4によって生成された窓関数すべてを乗算して合成する。これにより、窓幅の時間内に最大4点のピーク点すべてを抑圧するための窓関数が生成され、乗算部17に出力される。処理が割り当てられていない窓関数生成部13の乗算部136からの出力は1である。
乗算部17は、遅延部18により一定時間遅延した送信信号に乗算部15からの合成窓関数を乗算し、これにより、送信信号のピーク点が抑圧される。
なお、特許文献1は、ハニング窓関数により切り出されたデータのスペクトルピークを二次関数又はガウス関数により補間する処理について記載している。また、特許文献2は、A/D変換されたデータ系列に、二次関数を含む多項式で近似できる程度までゼロ系列を挿入してから、離散フーリエ変換し、これにより得られた振幅値のうち最大値付近の3つの値を用いて、二次関数の連立多項式を演算してビート信号の周波数を近似する処理について記載している。
特開平6−295855号公報
特開2005−337825号公報
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。しかしながら、かかる実施の形態が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
図2は、本実施の形態における無線送信装置の構成例を示す図である。ベースバンド処理部100で生成された送信信号は、RF処理部200に入力される。クリップ方式ピーク抑圧部20は、送信信号に含まれるピーク成分に対して、しきい値を超える部分を一律にクリップするクリップ方式によりピーク抑圧処理を行う。クリップ方式によりピーク抑圧処理を行うと、帯域外放射が発生するため、ローパスフィルタ(LPF)30により帯域制限処理を行う。帯域制限処理を行うと、クリップしたピークの振幅が増大して再度しきい値を超えるため、窓関数方式ピーク抑圧部40により再度ピーク抑圧が行われる。
本実施の形態における窓関数方式ピーク抑圧部40は、後述するように、検出されたピークに対して、変化点で連続するように3つの二次関数の曲線(二次曲線)を接続して生成される窓関数(以下、二次曲線窓関数と称する)を演算により求め、演算により求めた窓関数によりピーク抑圧処理を行う。
歪補償部50は、増幅器(AMP)400の出力特性の歪みを抑えるために、増幅器(AMP)400の歪み特性と逆の特性(歪補償係数)を送信信号に乗算する。増幅器には常に高い電力効率が求められるが、増幅器の線形性と効率は一般に相反する特性であり、線形性に劣る増幅器を使用し電力効率の向上を図るために、プリディストーション方式により歪を補償する。プリディストーション方式では、歪補償前の送信信号と復調されたフィードバック信号とを比較し、その誤差を用いて歪補償係数が算出、更新される。
歪補償された送信信号は、DAC300によりアナログ信号に変換され、増幅器400により増幅されてアンテナから送信される。
図3は、本実施の形態における窓関数方式ピーク抑圧部40の構成例を示す図である。窓関数方式ピーク抑圧部40のピーク点検出部41が、送信信号からピーク点を検出すると、窓関数高さ算出部42は、ピーク点のピークレベルを抑圧レベルに落とすのに必要な抑圧量に対応する窓関数高さHを算出する。窓関数高さHは、抑圧量に所定の補正係数を掛け合わせることで求められる。
窓幅設定部43には、あらかじめ窓幅Lが設定されており、窓幅設定部43は、設定された窓幅Lを出力する。あらかじめ用意された限られた数の窓関数の窓幅のいずれかを選択して設定する従来構成とは異なり、本実施の形態では、窓幅に応じた窓関数を演算により生成するので、窓幅決定部43は、IFFT(高速逆フーリエ変換)の周波数帯域幅やサンプリングレートに応じて求められる多様な窓幅を制限されることなく設定することができる。
二次曲線窓関数生成部44は、後述する構成及び動作により二次曲線窓関数を生成し、出力する。乗算部45は、遅延部46により一定時間遅延した送信信号に二次曲線窓関数部44により生成された窓関数を乗算し、これにより、送信信号のピークが抑圧される。
図4は、二次曲線窓関数生成部44により生成される窓関数を示す図である。本実施の形態の窓関数(二次曲線窓関数)は、3つの二次曲線が連続するように接続して生成される。例えば、以下の3つの二次曲線(1)、(2)、(3)により定義される。窓幅をLとする。
図4に示すように、変化点で連続するように3つの二次曲線を接続することで、二次曲線による窓関数を生成することができる。
図5は、二次曲線窓関数の周波数特性を示す図である。図5では、二次曲線窓関数の周波数特性(波形a、太実線)を評価するために、ハニング窓関数の周波数特性(波形b、点線)及びバートレット窓関数の周波数特性(波形c、細実線)も示される。
二次曲線窓関数の周波数特性は、ピーク抑圧処理のために通常用いられるハニング窓関数の周波数特性と比較して、十分実用的な特性を有している。また、バートレット窓関数は、比較的簡易な演算により求められる窓関数であるが、サイドローブが高く、ピーク抑圧処理には使用できない。本実施の形態では、ピーク抑圧処理に適した良好な周波数特性を有する二次曲線窓関数を簡易な演算回路により求める手法を提案する。
図6は、二次曲線窓関数の生成方法を説明する図である。二次曲線窓関数は、以下の条件を満たすデルタ関数(インパルス関数)Sを3回累積加算(三重積分)することで、生成される。時間tにおけるデルタ関数Sをδ(t-T)とした場合、時間T(T1、T2、T3、T4)は二次曲線の変化点に相当し、時間T1、T2、T3、T4において、パルス高hのパルスを発生させる。
窓関数の幅をL、ピーク点の頂点レベルの抑圧レベルに対する窓関数高さHとする場合、時間パラメータT(T
1、T
2、T
3、T
4)は及びパルス高パラメータh(h
1、h
2、h
3、h
4)は次式により与えられる。
図6(a)は、上記条件を満足するデルタ関数S(S1、S2、S3、S4)のタイミングチャートであり、時間T1、T2、T3、T4において、パルス高h1、h2、h3、h4のパルス(以下、パルスh1、h2、h3、h4と称する場合がある)が出力される。このとき、上式に従い、パルスh2はパルスh1の(-2)倍、パルスh3はパルスh1の2倍、パルスh4はパルスh1の(-1)倍である。
図6(b)は、図6(a)のδ関数Sを1クロック毎に累積加算した演算結果である。時間T1でパルスh1が出力され、その後時間T2までデルタ関数S1=0なので、T1≦t<T2区間の演算結果=h1となる。そして、時間T2でパルスh2=-2×h1が出力され、その後時間T3までデルタ関数S2=0なので、T2≦t<T3区間の演算結果=h1+h2=-h1となる。さらに、時間T3でパルスh3=2×h1が出力され、その後時間T4までデルタ関数S4=0なので、T3≦t<T4区間の演算結果=-h1+2h1=h1となる。そして、時間T4でパルスh4=-h1が出力され、時間T4における演算結果=h1-h1=0となる。
図6(c)は、図6(b)の演算結果をさらに1クロック毎に累積加算した演算結果である。図6(c)では、T1≦t<T2区間では、1クロック毎にパルス高h1が加算されていき、T2≦t<T3区間では、1クロック毎にパルス高h1が減算されていき(-h1が加算されていき)、T3≦t<T4区間では、再度1クロック毎にパルス高h1が加算されていく。これにより、図6(c)に示すような演算結果となる。
図6(d)は、図6(c)の演算結果をさらに1クロック毎に累積加算した演算結果であり、図示されるように、4つのデルタ関数S(S1、S2、S3、S4)を3回累積加算することで、二次曲線窓関数となる。
図7は、図6の二次曲線窓関数を生成する二次曲線窓関数生成部44の構成例を示す図である。二次曲線窓関数生成部44は、まずデルタ関数S1、S2、S3、S4を生成する。具体的には、パルス高算出部62は、窓関数の幅Lと窓関数高さHに基づいて、ピーク抑圧量に対応する基本パルス(h1)を上式に従って算出し、パルスh1を時間T1のタイミングで出力する(デルタ関数S1の出力)。
遅延部63は、パルスh1をL/4だけ遅延させ、演算器64が、パルスh1のパルス高を(-2)倍することで、パルスh2が時間T2のタイミングで演算器64から出力される(デルタ関数S2の出力)。
遅延部65は、遅延部63により遅延されたパルスh1をさらにL/2だけ遅延させ、演算器66は、パルスh1のパルス高を2倍することで、パルスh3が時間T3のタイミングで演算器66から出力される(デルタ関数S3の出力)。
遅延部67は、遅延部65により遅延されたパルスh1をさらにL/4だけ遅延させ、演算器68は、パルスh1のパルス高を(-1)倍することで、パルスh4が時間T4のタイミングで演算器68から出力される(デルタ関数S4の出力)。演算器64、66、68は加算器で構成可能である。
加算器69は演算器66の出力(パルスh3)と演算器68の出力(パルスh4)とを合成し、加算器70は加算器69の出力(パルスh3とh4)と演算器64(パルスh2)の出力とを合成し、加算器71は加算器70の出力(パルスh2とh3とh4)とパルス高算出部62(パルスh1)の出力とを合成して出力する。すなわち、加算器71は、時間T1、T2、T3、T4において、それぞれパルスh1、h2、h3、h4を出力する。図6(a)は加算器71の出力P1に相当する。
加算器71の出力P1は、累積加算器72に入力されて累積加算処理される。累積加算器72の出力P2は、累積加算器73に入力されて累積加算処理される。累積加算器73の出力P3は、累積加算器74に入力されて累積加算処理される。累積加算器72の出力P4が二次曲線窓関数となる。すなわち、加算器71の出力P1を3回累積加算することにより、二次曲線窓関数が生成される。累積加算器72の出力P2は図6(b)に相当し、累積加算器73の出力P3は図6(c)に相当し、累積加算器74の出力P4は図6(d)に相当する。
図7に示した本実施の形態における二次曲線窓関数生成部44は、乗算器を用いず加算器のみで演算を行うため、乗算器モジュール1つよりも小さい回路構成で実現可能であり、回路構成が簡素化され、演算負荷も極めて小さい。従来構成のように、限られた数の窓関数の演算結果をテーブルとして格納することなく、設定された窓幅の窓関数を演算により直接求めることができる。また、図7の構成例では、4クロック単位で窓幅設定可能である。
窓幅の時間内の複数のピーク点が検出される場合は、各ピーク点について、図7の構成による処理が進行し、最後段の累積加算器74の出力P4は、各ピーク点に対応する二次曲線窓関数が合成された窓関数となる。従って、本実施の形態における二次曲線窓関数生成部44は、窓幅の時間内に発生するピーク点の数に応じて回路を設ける必要はなく、しかも、ピーク点の数に制限はない。
図8は、窓幅の時間内に2つのピーク点が検出された場合の二次曲線窓関数を説明する図である。図8(a)は、各ピークに対して生成されたデルタ関数を示し、パルスh1-1、h2-1、h3-1、h4-1が第一のピークを抑圧する窓関数を生成するパルスであり、パルスh1-2、h2-2、h3-2、h4-2が第二のピークを抑圧する窓関数を生成するためのパルスである。これらのパルスを、上述と同様に、3回累積加算する。図8(b)は、1回目の累積加算処理による演算結果であり、図8(c)は、2回目の累積加算処理による演算結果であり、図8(d)は3回目の累積加算処理による演算結果である。図6と同様に、加算器71の出力P1の出力は図8(a)に相当し、累積加算器72の出力P2は図8(b)に相当し、累積加算器73の出力P3は図8(c)に相当し、累積加算器74の出力P4は図8(d)に相当する。図8(d)に示されるように、累積加算器72の出力P4は、2つのピークそれぞれに対応する二次曲線窓関数が合成された窓関数となる。
従って、本実施の形態では、窓幅内に発生が予想されるピーク点の数の窓関数生成部44を用意する必要はなく、一つの窓関数生成部44にて、複数のピーク点に対応可能となる。この点からも、回路規模を大幅に削減できる。そして、窓関数生成部自体の回路構成も簡素化されることと相俟って、従来の窓関数生成回路と比較して、回路規模を1/10程度まで縮小可能である。
本実施の形態における窓関数生成部は、無線送信装置のピーク抑圧処理に適用されるのみならず、窓関数を用いるさまざまな装置に適用可能である。
20:クリップ方式ピーク抑圧部、30:LPF、40:窓関数方式ピーク抑圧部、41:ピーク点検出部、42:窓関数高さ算出部、43:窓幅設定部、44:窓関数生成部、50:歪み補償部、62:パルス高算出部、63:遅延部、64:演算器、65:遅延部、66:演算器、67:遅延部、68:演算器、69:加算器、70:加算器、71:加算器、72:累積加算器、73:累積加算器、74:累積加算器、100:ベースバンド処理部、200:RF処理部、300:DAC、400:増幅器