JP2009217967A - 超電導線材用前駆体粉末および超電導線材前駆体粉末の製造方法、超電導線材 - Google Patents
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Abstract
【課題】 Bi2223超電導線材の臨界電流値を向上するために、Bi2223超電導相組織の配向性を向上させ、非超電導相を微細にすることができる前駆体粉末を提供する。
【解決手段】 スプレードライ法、フリーズドライ法、噴霧熱分解法等の液相法によって作製されたBi、Sr、Ca、Cuを含む複合酸化物粉末と金属Pb粉末が混合された粉末を超電導線材用前駆体粉末として用いBi2223超電導線材を製造する。本発明の前駆体粉末は、従来技術の前駆体粉末にくらべ、部分溶融温度が低下する。そのため非超電導相であるアルカリ土類酸化物の粗大化を抑える。
【選択図】 図1
【解決手段】 スプレードライ法、フリーズドライ法、噴霧熱分解法等の液相法によって作製されたBi、Sr、Ca、Cuを含む複合酸化物粉末と金属Pb粉末が混合された粉末を超電導線材用前駆体粉末として用いBi2223超電導線材を製造する。本発明の前駆体粉末は、従来技術の前駆体粉末にくらべ、部分溶融温度が低下する。そのため非超電導相であるアルカリ土類酸化物の粗大化を抑える。
【選択図】 図1
Description
本発明は、超電導ケーブル、超電導コイル、超電導変圧器、超電導電力貯蔵装置等の超電導応用機器に用いられる(BiPb)2Sr2Ca2Cu3O10±δ(δは0.1程度の数:以下Bi2223とする)相を含む超電導線材用前駆体粉末に関し、特にBi2223相が配向性よく生成する超電導線材用前駆体粉末に関する。
酸化物の焼結体が高い臨界温度で超電導特性を示すことが報告され、近年この超電導体を利用した超電導技術の実用化が促進されている。Bi2223超電導線材は、比較的安価で入手できる液体窒素等の冷却下でも高い臨界電流値を示す有用な線材である。
このようなBi2223超電導線材の製造方法は、たとえば特開2007−26773号公報(特許文献1)に記載されている。具体的には、(BiPb)2Sr2Ca1Cu2O8±δ(δは0.1に近い数:以下Bi2212と呼ぶ)相を主成分とする前駆体粉末を金属管に充填した後に、伸線加工して単芯材を形成する。その後に、単芯材を複数本束ねて金属管に挿入し、伸線加工して多芯構造の多芯材を形成する。その多芯材を1次圧延して、テープ状線材を形成する。続いて、テープ状線材に熱処理を行ない、Bi2212相をBi2223相に相変態させて1次線材を得る。次に、1次線材を2次圧延した後に、2回目の熱処理を行ない、最終的なBi2223酸化物超電導線材とする。
特許文献1に記載の前駆体粉末は、ビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウムおよび銅をそれぞれ含む酸化物粉末または炭酸塩粉末などを、(BiPb)2Sr2Ca2Cu3O10±δの組成となるよう配合、混合した後、焼成するような固相反応法で作製されている。この場合の出発原料はそれぞれの酸化物や炭酸塩の粉末であり、初期の配合段階から全ての元素が混合され、それを焼成するので、全ての元素はなんらかの複合酸化物として前駆体粉末中に存在している。
また、特開2006−45055号公報(特許文献2)には、液相法の一つである噴霧熱分解法による前駆体粉末の製法が記載されている。具体的には、ビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウムおよび銅を溶液中でイオン化する工程と、 前記溶液を高温雰囲気に噴射して溶媒を除去することにより、ビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウムおよび銅を含む粉末を製造する工程とを備えた、粉末の製造方法が記載されている。この場合も初期の溶液中に全ての元素が存在し、それを高温雰囲気に噴射するため、得られた粉末中、全ての元素はなんらかの複合酸化物の形態で前駆体粉末中に存在している。
上記の技術によっても、ある程度高い臨界電流値を有する超電導線材は得られる。しかしながら、今後の市場からのニーズを考えれば、さらなる臨界電流値の増大が望まれる。そこで本発明はより臨界電流値の高い超電導線材が実現できる超電導線材用前駆体粉末を提供する。
より具体的には、Bi2223超電導線材の臨界電流値を向上するために、非超電導相を微細にし、Bi2223超電導相組織の配向性を向上させる前駆体粉末を提供することである。
本発明は、Bi、Sr、Ca、Cuを含む酸化物粉末と金属Pb粉末からなることを特徴とする超電導線材用前駆体粉末である。
本発明において、前記金属Pb粉末の平均粒径が1μm以下であることが好ましい。
本発明において、前記Bi、Sr、Ca、Cuを含む酸化物粉末の平均粒径が1μm以下であることが好ましい。
本発明の超電導線材は、上記のいずれかに記載の超電導線材用前駆体粉末を用いて製造された、超電導線材である。
また本発明の超電導線材用前駆体粉末の製造方法は、Bi、Sr、Ca、Cuを含む酸化物粉末を作製する酸化物粉末作製工程と、金属Pb粉末を前記酸化物粉末と混合する混合工程からなるものである。
本発明の超電導線材用前駆体粉末を用いれば、非超電導相を微細にし、Bi2223超電導相組織の配向性を向上させる。これにより、高い臨界電流値を有するBi2223酸化物超電導線材を製造することが可能となる。
(実施の形態)
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の実施の形態における超電導線材用前駆体粉末の製造方法を示すフロー図である。図1では液相法によって超電導線材用前駆体粉末を製造する。まず工程(S1)において、Pbを除くBi2223超電導体を構成する元素(Bi、Sr、Ca、Cu)を含む材料を準備する。たとえばBi2O3、SrCO3、CaCO3、CuOの各材料粉末を準備してもよい。また、Bi(NO3)3、Sr(NO3)2、Ca(NO3)2、Cu(NO3)2、またはこれらの水和物を準備してもよい。
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の実施の形態における超電導線材用前駆体粉末の製造方法を示すフロー図である。図1では液相法によって超電導線材用前駆体粉末を製造する。まず工程(S1)において、Pbを除くBi2223超電導体を構成する元素(Bi、Sr、Ca、Cu)を含む材料を準備する。たとえばBi2O3、SrCO3、CaCO3、CuOの各材料粉末を準備してもよい。また、Bi(NO3)3、Sr(NO3)2、Ca(NO3)2、Cu(NO3)2、またはこれらの水和物を準備してもよい。
次に工程(S2)において、前工程で準備した材料を含む溶液を作製する。溶媒としては、材料の不動態を形成せず各材料を完全に溶解することができ、理論上炭素成分をゼロにできる、硝酸が好ましい。ただし溶媒は硝酸に限られるものではなく、硫酸、塩酸などの他の無機酸を用いてもよいし、シュウ酸、酢酸などの有機酸を用いてもよい。さらに、酸だけでなく、材料を溶解させることが可能な成分であれば、アルカリ溶液を用いてもよい。
たとえば、Bi:Sr:Ca:Cuの元素比率を1.8:2:2:3となるように、工程(S1)で準備した材料を調整して、硝酸水溶液に溶解させ、溶液中でイオン化させる。このときの溶液の温度は特に制限されるものではなく、ビスマスなどを十分に溶解させることができる温度であればよい。さらに、十分な溶解度を得るために、攪拌翼などで攪拌をしてもよい。
このように、各材料を溶液中で完全に溶解させることによって、鉛を除くBi2223超電導体を構成する各元素(ビスマス、ストロンチウム、カルシウムおよび銅)が、溶液中で原子レベルの微細混合されていることになる。このように原材料を一旦溶液中に溶解させ混合する方法を液相法と呼ぶ。液相法では、微細混合が可能なため後段の溶媒除去工程、熱処理工程後の粉末状態でも微細な粒径をもち、各元素が均一に分散した粉末が得やすい。液相法としてはゾル−ゲル法、共沈法も採用できる。
次に工程(S3)において、鉛を除くBi2223超電導体を構成する元素を含む材料の溶液から、溶媒を除去する。たとえば、スプレードライ法またはフリーズドライ法によって溶媒を除去し、複合硝酸塩からなる固体粉末を生成する。
次に工程(S4)において、鉛を除くBi2223超電導体を構成する元素を含む材料の複合硝酸塩を、例えば大気中700〜800℃、1〜10時間程度の条件で熱処理する。これにより複合硝酸塩は複合酸化物に変化する。この後、得られた粉末が凝集していれば、粉砕工程を施してもよい。
噴霧熱分解法を採用する場合は工程(S3)と工程(S4)はひとつの工程となる。すなわち、工程(S2)で得られた硝酸水溶液を、大気中800℃程度の温度に設定された炉中に直接噴霧し、脱硝酸処理と酸化物への変態反応処理を同時に行うことができる。
工程(S4)終了後に得られた粉末は鉛を除き、Bi2223超電導体を構成する元素(Bi、Sr、Ca、Cu)を含む酸化物となっている。具体的には、Bi2201相(Bi2Sr2Cu1O6+δ)やBi2212相(Bi2Sr2Ca1Cu2O8+δ)の超電導相、および非超電導相である(Ca,Sr)CuO2、(Ca,Sr)2CuO3、(Ca,Sr)14Cu24O41等のアルカリ土類酸化物から構成されている。
次に工程(S5)において、工程(S4)で得られたBi、Sr、Ca、Cuを含む酸化物粉末と金属Pb(鉛)粉末を混合する。これが本発明の超電導線材用前駆体粉末である。従来方法の前駆体粉末は全ての元素が酸化物となっているが、本発明の前駆体粉末においては、Pbは金属状態で存在する。Pbが金属状態でいる効果は後述する。
以下、本発明の超電導線材用前駆体をもちいた、超電導線材の製造について記述する。工程(S5)で得られた前駆体粉末を銀あるいは銀合金からなるパイプに充填する。前駆体粉末が充填された銀パイプを伸線し単芯素線とする。得られた単芯素線を複数本に切断し、別の銀あるいは銀合金パイプに挿入、集合し多芯母線とする。多芯母線を直径1mm程度まで伸線し多芯線とする。この多芯線を0.25mm程度の厚さに圧延(1次圧延)しテープ材とする。この段階まで前駆体粉末はBi、Sr、Ca、Cuを含む酸化物粉末と金属Pb(鉛)粉末が共存した形態である。得られたテープ材を例えば大気中、830〜850℃の温度で10〜50時間熱処理(1次熱処理)する。この熱処理によって、金属Pb粉末は周りの酸化物と反応し、目的とする(BiPb)2Sr2Ca2Cu3O10±δ(Bi2223相)が形成される。本発明の前駆体粉末はこのBi2223相形成時において効果を発揮する。1次熱処理されたテープ材は、厚さが0.23mm程度になるよう再圧延(2次圧延)され、たとえば大気圧下、または1〜50MPaの加圧雰囲気において830〜850℃の温度で10〜50時間熱処理(2次熱処理)が施される。この2次熱処理では、1次熱処理で生成したBi2223相同士を強固に結合させる。こうして最終的なBi2223超電導線材が得られる。
以下、本発明の超電導線材用前駆体粉末について詳細を記す。Bi2223超電導線材の臨界電流値を上げる方策として、最終的な超電導線材中の超電導フィラメントをできるだけBi2223相に単相化させること、すなわち非超電導相の存在をできる限り少なくすることがあげられる。また、非超電導相が存在したとしても、非超電導相の粒径をできるだけ小さくすることも方策の一つである。非超電導相の粒径の大きさはBi2223相の配向性に影響を与える。Bi2223結晶はa−b面方向(電流の流れやすい方向)に広がる板状結晶としてフィラメント内に生成する。図2はフィラメント内のBi2223結晶の並び方(配向性)を模式的に表わした図である。(a)は非超電導相が存在しない理想的な状態の図である。(b)は大きな非超電導相22が存在する状態の図である。(c)は小さな非超電導相22が存在する状態の図である。
図2(a)のように、電流の流れる方向と全てのBi2223結晶21のa−b面方向がそろっている場合、電流は流れやすく大きな臨界電流値が得られる。図2(b)のように、大きな非超電導相22が存在すると、それを囲むBi2223結晶21の整列度合い(配向性)が悪くなる。このような部分は電流が流れにくい。非超電導相22が存在したとしても、図2(c)のように非超電導相22が小さければ、Bi2223結晶21の整列乱れも小さいため、電流が比較的流れやすい。よって、非超電導相が存在したとしてもできる限りその粒径を小さくすることで、大きな臨界電流値が得られる。本発明の超電導線材用前駆体粉末は非超電導相の粒径を小さくし、Bi2223結晶の高配向化が実現できる前駆体粉末である。
非超電導相の粒径を小さくする方策として以下がある。前駆体粉末は1次熱処理工程の昇温過程において部分溶融(前駆体粉末中全ての化合物が溶けるのではなく、一部の化合物が溶融分解する)を起こす。この部分溶融が開始する温度(部分溶融温度)を低下させることが非超電導相の粒径を小さくする方策である。前記超電導線材の製造工程中、1次熱処理において大半のBi2223相が生成する。図3は1次熱処理パターンを模式的に表わした図である。超電導線材は室温から昇温され、部分溶融開始温度T1に到達する。このT1から前駆体粉末中に含まれるPb酸化物(例えば、Ca2PbO4、(BiPb)3Sr2Ca2Cu1Oz)の非超電導相が溶融しはじめる。この溶融物が液相となり前駆体粉末中に拡散する。従来技術の前駆体粉末においてはT1は約800℃である。このとき生成した液相は(Ca,Sr)CuO2、(Ca,Sr)2CuO3、(Ca,Sr)14Cu24O41等のアルカリ土類酸化物を分解しながら拡散する。さらに昇温し、温度がBi2223相生成開始温度T2(約820℃)に達すると、拡散した液相とBi2212相が反応し、Bi2223相へと変態する。この変態を充分におこさせるため、被熱処理体はT2とBi2223相生成上限温度T3(約850℃)ではさまれるBi2223相生成温度帯で一定時間保持される。このようにして、1次熱処理においてBi2223相が生成する。
部分溶融が起こるT1までの温度帯では、固相(粉末)同士で原子拡散が起こり、粉末同士が接合し大きな粒子となる。温度が高いほど大きな粒子に成長しやすい。Bi2212相と非超電導相が結合する場合は、後に互いが反応するため問題はない。アルカリ土類酸化物同士が結合し大きな粒子を形成(これを非超電導相の凝集と呼ぶ)すると、粒子が大きいため温度がBi2223相生成温度帯に到達しても、反応しきらず残ってしまうことがある。このため、図2(b)に示されるような状態になる。
非超電導相の凝集、特にアルカリ土類酸化物の粗大化を抑えるためには、部分溶融開始温度T1を低温側にシフトさせればよい。従来技術の前駆体粉末では、全ての元素が酸化物の形態となっているため、最も低い部分溶融温度を持つPb酸化物でもその部分溶融温度は約800℃である。この温度からアルカリ土類酸化物の分解が始まる。そこで本発明は、Pb酸化物の変わりに金属Pb粉末を前駆体粉末中に存在させ、部分溶融温度を低下させるものである。金属Pb単体の融点はPb酸化物の溶融温度よりかなり低い327℃である。実質的にはこの温度(327℃)から、前駆体粉末中に液相が多量に発生するのではないが、アルカリ土類酸化物の分解を伴った液相発生は750℃程度から始まることが実験によって判明した。よって従来の前駆体粉末においては、約800℃まで起こっていた非超電導相の凝集が約750℃までで終了することになる。そのため大きなアルカリ土類酸化物の発生を抑制できることが判った。
Bi、Sr、Ca、Cuを含む酸化物粉末は液相法によって作製することが好ましい。前記したように、液相法では微細混合が可能なため微細な粒径をもち、各元素が均一に分散した粉末が得やすい。その効果として、まず生成する粒径が小さいため、前駆体粉末中に含まれる、アルカリ土類酸化物(粗大化してほしくない)自体も粒径が小さい。元となる前駆体粉末中に粗大化したアルカリ土類酸化物が存在すると、金属Pb粉末で部分溶融温度を下げたとしても、粗大化を抑制する効果は減少してしまう。よってBi、Sr、Ca、Cuを含む酸化物粉末は液相法によって微細な粉末として形成されていることが好ましい。
また、微細な粉末であることは以下の別の観点で効果を持つ。この効果はBi、Sr、Ca、Cuを含む酸化物粉末、および金属Pb粉末いずれにも共通である。微細であるため、各粒子が均一に、すなわち平均的に分散して存在しやすい。これにより、フィラメント内でほぼ均一な部分溶融がおこる。不均一な部分溶融がおこるとフィラメント内で元素の濃度勾配ができ、これが意図せぬ反応を引き起こし、非超電導相の増加へと繋がる。よって、部分溶融がフィラメント内で同時に、かつ均一におこるよう各粒子は均一に分散していたほうがよい。また、粉末が微細であると、粉末全体の表面積が大きくなる。粉末状態では表面積が大きいほど化学的に活性となり、より低温で溶融しやすい。これらのため粉末は微細であることが重要である。具体的には、Bi、Sr、Ca、Cuを含む酸化物粉末、金属Pb粉末いずれも平均粒径が1μm以下であるとより効果的である。
ここで粉末の粒径について説明する。まず粉末の粒径はレーザ回折法で測定する。この測定から得られた粒度分布を体積基準でグラフ化し、そのグラフから読み取れるメディアン値を平均粒径として採用する。固相法で作製された粉末は、各元素の複合酸化物を形成するために、熱処理が施される。熱処理直後の粉末は上記測定で5〜10μmの粒径をもつ。この粒径は前駆体粉末として大きすぎるため、ボールミル等で粉砕して使用する。超電導線材製造に適した固相法による前駆体粉末の粒径の下限値は2〜3μmである。ボールミル等の粉砕により粉末の粒径自体を2μm以下にすることも可能であるが、そのように微細に粉砕してしまうと、粉末がアモルファス化され熱処理で形成した粉末とは性質の異なるものとなるため、前駆体には適さない粉末となってしまう。原理的には粉末の粒径は小さいほど超電導線材の性能向上に対して効果的である。そこで液相法を介せばアモルファス化していない粒径2μm以下、より好ましくは1μm以下の粒径を持つ微細複合酸化物粉末を得ることが可能である。
本発明の超電導用前駆体粉末を用いて超電導線材を作製すれば、高度な配向化組織をもち、高い臨界電流値を有する超電導線材を得ることができる。
以下、実施例に基づき、本発明をさらに具体的に説明する。
(比較例)
Bi2223相を構成する元素を含むように、Bi:Pb:Sr:Ca:Cuの比率が1.7:0.33:2.0:2.0:3.0、比重が1.4g/ccとなる硝酸塩水溶液を準備し、噴霧熱分解装置で、温度820℃に設定された筒状の炉中に、キャリアガス(圧縮空気)とともに噴霧して乾燥・脱硝酸処理して酸化物粉末を合成する。被熱処理体が炉中を通過する時間を平均10秒となるようキャリアガスの流速を調整する。得られた酸化物粉末は平均粒径0.7μmであった。この酸化物粉末を前駆体粉末として用い超電導線材を作製する。
Bi2223相を構成する元素を含むように、Bi:Pb:Sr:Ca:Cuの比率が1.7:0.33:2.0:2.0:3.0、比重が1.4g/ccとなる硝酸塩水溶液を準備し、噴霧熱分解装置で、温度820℃に設定された筒状の炉中に、キャリアガス(圧縮空気)とともに噴霧して乾燥・脱硝酸処理して酸化物粉末を合成する。被熱処理体が炉中を通過する時間を平均10秒となるようキャリアガスの流速を調整する。得られた酸化物粉末は平均粒径0.7μmであった。この酸化物粉末を前駆体粉末として用い超電導線材を作製する。
(実施例)
Bi2223相を構成する元素のうちPbを除いて、Bi:Sr:Ca:Cuの比率が1.7:2.0:2.0:3.0、比重が1.4g/ccとなる硝酸塩水溶液を準備し、噴霧熱分解装置で、温度820℃に設定された筒状の炉中に、キャリアガス(圧縮空気)とともに噴霧して乾燥・脱硝酸処理して酸化物粉末を合成する。酸化物粉末の粒径を変化させるために、キャリアガスの流速を調整し、被熱処理体が炉中を通過する時間を変え、いくつかの酸化物粉末を作製する。得られた粉末は次のとおりである。平均通過時間10秒(酸化物粉末A:平均粒径0.7μm)、平均通過時間15秒(酸化物粉末B:平均粒径0.9μm)、平均通過時間20秒(酸化物粉末C:平均粒径1.0μm)、平均通過時間30秒(酸化物粉末D:平均粒径1.2μm)、平均通過時間40秒(酸化物粉末E:平均粒径1.4μm)。
Bi2223相を構成する元素のうちPbを除いて、Bi:Sr:Ca:Cuの比率が1.7:2.0:2.0:3.0、比重が1.4g/ccとなる硝酸塩水溶液を準備し、噴霧熱分解装置で、温度820℃に設定された筒状の炉中に、キャリアガス(圧縮空気)とともに噴霧して乾燥・脱硝酸処理して酸化物粉末を合成する。酸化物粉末の粒径を変化させるために、キャリアガスの流速を調整し、被熱処理体が炉中を通過する時間を変え、いくつかの酸化物粉末を作製する。得られた粉末は次のとおりである。平均通過時間10秒(酸化物粉末A:平均粒径0.7μm)、平均通過時間15秒(酸化物粉末B:平均粒径0.9μm)、平均通過時間20秒(酸化物粉末C:平均粒径1.0μm)、平均通過時間30秒(酸化物粉末D:平均粒径1.2μm)、平均通過時間40秒(酸化物粉末E:平均粒径1.4μm)。
次に、平均粒径0.5μm、0.7μm、1.0μm、1.3μmを持つ4種の金属Pb粉末を用意し、上記で得られた酸化物粉末A、B、C、D、Eのいずれかと、組成比がBi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.7:0.33:2.0:2.0:3.0となるようボールミルを用いて混合する。酸化物粉末と金属Pb粉末の組み合わせは以下のとおりである。酸化物粉末Aと平均粒径1.0μmの金属Pb粉末(実施例1)、酸化物粉末Bと平均粒径1.0μmの金属Pb粉末(実施例2)、酸化物粉末Cと平均粒径1.0μmの金属Pb粉末(実施例3)、酸化物粉末Dと平均粒径1.0μmの金属Pb粉末(実施例4)、酸化物粉末Eと平均粒径1.0μmの金属Pb粉末(実施例5)、酸化物粉末Cと平均粒径0.5μmの金属Pb粉末(実施例6)、酸化物粉末Cと平均粒径0.7μmの金属Pb粉末(実施例7)、酸化物粉末Cと平均粒径1.3μmの金属Pb粉末(実施例8)の8種を用意し、これらを前駆体粉末として用い超電導線材を作製する。
上記により作製された比較例及び8種の実施例前駆体粉末を外径25mm、内径22mmの銀パイプに充填し、直径2.4mmまで伸線して単芯線を作製する。この単芯線を55本に束ねて外径25mm、内径22mmの銀パイプに挿入し、直径1.2mmまで伸線し、多芯(55芯)線材を得る。この多芯線を圧延し、厚み0.24mmのテープ状線材に加工する(1次圧延)。得られたテープ状線材を830℃で50時間、酸素分圧が8kPaで大気圧下の条件で熱処理する(1次熱処理)。
熱処理後のテープ状線材を切断し、その断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、非超電導相であるアルカリ土類酸化物((Ca,Sr)CuO2、(Ca,Sr)2CuO3、(Ca,Sr)14Cu24O41)結晶のサイズを測定した。測定方法は断面に表れたアルカリ土類酸化物結晶を任意に20個選び、その長い方向のサイズを結晶サイズとしてカウントし、それらの平均値を求めた。その結果を表1に示す。
次に1次熱処理後のテープ状線材に対し、厚みが0.22mmとなるよう再度圧延工程を施す(2次圧延)。再度圧延されたテープ状線材に対し、830℃で50時間、酸素分圧が8kPaで全圧30MPaの条件で熱処理を行ない最終的な超電導線材とする(2次熱処理)。得られた超電導線材の臨界電流値とBi2223結晶の配向性を評価した。臨界電流値は、温度が77Kで、自己磁場中において測定した。臨界電流値は、10−6V/cmの電界が発生したときの通電電流値とした。配向性は以下のように評価した。
超電導線材の銀被覆をはがし、超電導部分(フィラメント)にX線を照射し、そのX線反射からBi2223相(0.0.24)ピークのロッキングカーブを計測する。このロッキングカーブのFWHM(Full Width at Half Maximum:半波高全幅値)を配向度とする。FWHMの値が小さいほどBi2223相の配向性が良好であるといえる。臨界電流値およびFWHM値を表1に示す。
表1からわかるように、前駆体粉末において全元素が酸化物状態になっている比較例は、1次熱処理後に観察された非超電導相であるアルカリ土類酸化物の平均粒径が5.3μmと大きい。そのため2次熱処理後の最終超電導線材においても、Bi2223相ロッキングカーブのFWHMが16°と大きい、つまりBi2223相の配向性が悪いということである。これによって、臨界電流値も141Aの低い値となっている。一方、本発明の前駆体粉末を用いた実施例は、アルカリ土類酸化物の粒径が2.1〜3.3μmであり、FWHMも12°程度であり配向性も良い。その結果190A以上の高い臨界電流値を持つ。
実施例1から5を比較すると、酸化物粉末の粒径が1.0μm以下の線材で200A以上の臨界電流値を示している。これから、Bi、Sr、Ca、Cuを含む酸化物粉末の平均粒径は1μm以下が好ましいといえる。
同様に、実施例3、6、7、8を比較すると、金属Pb粉末の粒径が1.0μm以下の線材で200A以上の臨界電流値を示している。これから、金属Pb粉末の平均粒径が1μm以下が好ましいといえる。
今回開示された実施の形態および実施例は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
21 Bi2223結晶
22 非超電導相
22 非超電導相
Claims (5)
- Bi、Sr、Ca、Cuを含む酸化物粉末と金属Pb粉末からなることを特徴とする超電導線材用前駆体粉末。
- 前記金属Pb粉末の平均粒径が1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材用前駆体粉末。
- 前記Bi、Sr、Ca、Cuを含む酸化物粉末の平均粒径が1μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の超電導線材用前駆体粉末。
- 請求項1ないし3のいずれか1つに記載の超電導線材用前駆体粉末を用いて製造された、超電導線材。
- Bi、Sr、Ca、Cuを含む酸化物粉末を作製する酸化物粉末作製工程と、
金属Pb粉末を前記酸化物粉末とを混合する混合工程からなることを特徴とする超電導線材用前駆体粉末の製造方法。
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