JP2009209030A - ガラス物品 - Google Patents

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Abstract

【課題】特に焦げ付き汚れやスス汚れ等のガラス物品表面に強固に付着した汚れに対して、繰り返し洗浄を行っても磨耗による劣化が発生しにくいガラス物品を提供する。
【解決手段】結晶化ガラス板と、その表面に形成されたケイ素およびジルコニウムの複酸化物またはケイ素およびジルコニウムの酸化物の混合物を含む防汚性膜とを備えたガラス物品であって、防汚性膜におけるβ−OH含有量が1〜300/mmであることを特徴とするガラス物品。
【選択図】なし

Description

本発明は、使用時に高温となるガラス物品、具体的には、ラジエントヒータやハロゲンヒータを備えた赤外線加熱調理器、電磁加熱(IH)調理器、ガス調理器等に使用される調理器用トッププレートや、電子レンジの棚板、ストーブ用窓、防火窓などに好適なガラス物品に関する。
近年、家庭用や業務用の調理器として、ガスコンロを用いた従来のガス調理器等に代わって、またはこれとともに、ラジエントヒータやハロゲンヒータを用いた赤外線加熱調理器、ならびに電磁加熱調理器が用いられている。
これらの調理器に使用されるトッププレートには、耐熱性、美観性、清掃性等に優れているという理由から、結晶化ガラスを代表とする非金属系材料からなる耐熱性基板が使用されている。特に、結晶化ガラスは食材の油の付着または水垢等の汚れを比較的容易に洗浄することができ、調理器用トッププレートとして好適である。
また、調理器用トッププレートの他にも、電子レンジの棚板、ストーブ用窓、防火窓など、使用時に高温となるガラス物品には結晶化ガラス等の耐熱性基板が使用されている。
ところで、これらの調理器用トッププレート等のガラス物品の表面に対して、傷の保護や防汚性の付与を目的としてシリカ膜や樹脂膜などの親水性膜を形成する技術が一般的に知られている。しかしながら、シリカ膜はアルカリ性洗剤により劣化しやすく、樹脂膜は酸性またはアルカリ性洗剤により劣化しやすいという問題がある。そこで、各種洗剤に対する耐久性の高い親水性の防汚性膜として、ケイ素およびジルコニウムの複酸化物またはケイ素およびジルコニウムの酸化物の混合物を含む防汚性膜が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
国際公開第03/080744号公報
特許文献1には、前記防汚性膜が、洗濯槽、洗面器、バスタブ、排水孔周囲、水洗金具などの比較的低温の場所に適用可能であることが記載されている。一方、例えば調理器用トッププレートや電子レンジの棚板などは、調理時においてその加熱表面が非常に高温となるため、その部分に吹きこぼれや食材の油などが付着したまま長時間放置されると、焦げ付き汚れとなってしまう。また、ストーブ用窓の表面には、長期の使用によりスス汚れが付着しやすく、防火窓には火災時にスス汚れが付着しやすい。焦げ付き汚れやスス汚れは、これらのガラス物品表面に対して非常に強固に付着しているため、通常の汚れと比較して洗浄するのが困難である。ガラス物品表面に前述の防汚性膜を形成した場合、使用開始当初は比較的容易に汚れを除去することができるが、洗浄作業を繰り返し行うことにより膜表面が磨耗して、膜剥がれや許容し難い不当な傷が発生してしまう。防汚性膜表面にそのような不当な傷が形成されると、そこに汚れが詰まったり食い込んだりするため、ガラス物品の洗浄性低下の原因となる。
したがって、本発明は、特に焦げ付き汚れやスス汚れ等のガラス物品表面に強固に付着した汚れに対して、繰り返し洗浄を行っても磨耗による劣化が発生しにくいガラス物品を提供することを課題とする。
本発明者等は、従来の結晶化ガラスからなるガラス物品の表面に、特定のβ−OH量を有する、例えば主成分としてケイ素およびジルコニウムの酸化物を含有するシリカ−ジルコンリッチな親水性の防汚性膜を形成することにより、前記課題を解決することができることを見いだし、本発明として提案するものである。
すなわち、本発明のガラス物品は、結晶化ガラス板と、その表面に形成されたケイ素およびジルコニウムの複酸化物またはケイ素およびジルコニウムの酸化物の混合物を含む防汚性膜とを備えたガラス物品であって、防汚性膜におけるβ−OH含有量が1〜300/mmであることを特徴とする。
本発明における防汚性膜は、ケイ素とジルコニウムの複酸化物の膜またはケイ素とジルコニウムの酸化物の混合物を含む構成となっているため、ケイ素の架橋をジルコニウムが強化することにより、ケイ素酸化物単独またはジルコニウム酸化物単独の膜と比較して、酸およびアルカリなどに対する優れた耐久性が得られる。さらに、防汚性膜におけるβ−OH含有量が1〜300/mmであることにより、焦げ付き汚れやスス汚れ等の強固に付着した汚れに対する洗浄性が良好となる。同時に、繰り返し洗浄作業を行っても磨耗による劣化が発生しにくくなる。なおこの点に関しては、詳細なメカニズムについては現時点ではわかっていない。
一般にβ−OH量は、赤外線分光装置を用いて結晶化ガラスの赤外線吸収スペクトルを測定し、以下の式を用いて算出することができる。
β−OH量(/mm)={log(T3850/T3500)}/t
T3850:3850cm−1付近の透過率
T3500:3500cm−1付近の吸収帯の最低透過率
t :スペクトル測定時のガラス板厚(mm)
上記式より、結晶化ガラス板のβ−OH量(w)と防汚性膜形成結晶化ガラス板のβ−OH量(w)を算出し、さらに次式より防汚性膜におけるβ−OH量を求めることができる。
(防汚性膜におけるβ−OH量)=[w×(t+t)−w×t]/t
:結晶化ガラス板のβ−OH量
:防汚性膜形成結晶化ガラス板のβ−OH量
:結晶化ガラス板の厚み
:防汚性膜の厚み
本発明のガラス物品において、防汚性膜におけるβ−OH含有量は1〜150/mmであることが好ましい。
本発明のガラス物品において、防汚性膜の厚みは10〜100nmであることが好ましい。
本発明のガラス物品において、結晶化ガラス板はLiO−Al−SiO系結晶化ガラスからなることが好ましい。ここで、「LiO−Al−SiO系結晶化ガラス」とは、組成において、必須成分としてLiO、Al、SiOを含有する結晶化ガラスをいう。
本発明のガラス物品において、結晶化ガラス板の30〜750℃の温度範囲における熱膨張係数は、−10×10−7〜50×10−7/℃であることが好ましい。
本発明の調理器用トッププレートは、前記いずれかのガラス物品を用いてなることを特徴とする。
本発明のガラス物品の製造方法は、結晶化ガラス板にケイ素成分およびジルコニウム成分を含有する塗料を塗布し、350℃以上で加熱処理を行うことにより防汚性膜を形成することを特徴とする。
前記特許文献1には、対象物表面にケイ素成分およびジルコニウム成分を含有する塗料を塗布した後、100〜300℃という比較的低温で加熱処理することにより、塗料の硬化を促進させ、親水性の防汚性膜を得ることが記載されている。このようにして得られた防汚性膜は、前述したような、洗濯槽、洗面器、バスタブなどの比較的低温の場所においては所望の防汚性を発揮するが、調理器用トッププレートなど、使用時に高温となるガラス物品の表面に付着した焦げ付きやスス汚れ等の強固な汚れに対しては、繰り返しの洗浄作業を行うと磨耗により劣化しやすくなる。そこで、結晶化ガラス板にケイ素成分およびジルコニウム成分を含有する塗料を塗布した後、350℃以上という高温で加熱処理を行うことにより、防汚性膜におけるβ−OH量を調整し、ガラス物品の調理表面に優れた耐磨耗性を付与することが可能となる。
本発明のガラス物品の製造方法において、ケイ素成分およびジルコニウム成分を含有する塗料をスクリーン印刷により塗布することが好ましい。スクリーン印刷によれば、非常に薄く厚みが均一の防汚性膜を結晶化ガラス板表面に容易に形成することが可能となる。
本発明のガラス物品は、結晶化ガラス板と、その表面に形成されたケイ素およびジルコニウムの複酸化物またはケイ素およびジルコニウムの酸化物の混合物を含む防汚性膜を備えてなる。
本発明における防汚性膜に含まれる成分を化学式で表現すると、ケイ素およびジルコニウムの複酸化物は(SiO(ZrO、ケイ素およびジルコニウムの酸化物の混合物は(SiOと(ZrOで表される(m、nは1〜4の任意の数字、x+y=1)。
防汚性膜中におけるケイ素酸化物の含有量は、質量%で1〜90%であることが好ましく、5〜40%であることがより好ましい。ケイ素酸化物の含有量が1%未満であると、ガラス物品の洗浄性に劣る傾向があり、90%より多いと十分な耐アルカリ性が得られにくい。なお、ケイ素とジルコニウムの複酸化物の膜の場合は、ケイ素成分をケイ素酸化物に換算した場合の含有量が当該範囲を満たしていることが好ましい。
防汚性膜中におけるジルコニウム酸化物の含有量は、質量%で1〜95%であることが好ましく、60〜95%であることがより好ましい。ジルコニウム酸化物の含有量が1%未満であると耐アルカリ性が十分でなく、95%より多いとガラス物品の洗浄性に劣る傾向がある。なお、ケイ素とジルコニウムの複酸化物の膜の場合は、ジルコニウム成分をジルコニウム酸化物に換算した場合の含有量が当該範囲を満たしていることが好ましい。
防汚性膜中におけるケイ素酸化物とジルコニウム酸化物との割合は、質量比で10:1〜1:30であることが好ましく、3:7〜1:20であることが好ましい。なお、ケイ素とジルコニウムの複酸化物の膜の場合は、ケイ素成分をケイ素酸化物に、ジルコニウム成分をジルコニウム酸化物にそれぞれ換算した場合の割合が当該範囲を満たしていることが好ましい。ケイ素酸化物が当該割合より多くなる(または、ジルコニウム酸化物が当該割合より少なくなる)と、防汚性膜の十分な耐アルカリ性が得られにくい。一方、ケイ素酸化物が当該割合より少なくなる(または、ジルコニウム酸化物が当該割合より多くなる)と、ガラス物品の洗浄性に劣る傾向がある。
その他にも、必要に応じて、防汚性膜の親水性を調整するためにアルカリ金属や銀、防汚性膜の強度を向上させるためにアルミニウムやアルカリ土類などの2価の金属を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜添加しても構わない。これらの成分の防汚性膜に占める質量割合は、合量で0.1〜20%である。
本発明では、防汚性膜におけるβ−OH含有量は1〜300/mmであり、1〜150/mmであることが好ましく、10〜150/mmであることがより好ましく、50〜100/mmであることがさらに好ましい。防汚性膜におけるβ−OH含有量が1/mm未満であると、焦げ付き汚れやスス汚れ等の強固な汚れを十分に除去することが困難となる。一方、防汚性膜におけるβ−OH含有量が300/mmを超えると、耐摩耗性に劣り、繰り返しの清掃による膜表面の傷や剥がれの問題が生じやすくなる。
なお防汚性膜におけるβ−OH含有量は、例えば塗膜形成時の加熱処理温度を適宜設定することにより、調整することができる。
防汚性膜の厚みは10〜100nmであることが好ましく、20〜80nmであることがより好ましく、30〜80nmであることがさらに好ましく、40〜80nmであることが特に好ましく、30〜60nmであることが最も好ましい。防汚性膜の厚みが10nmよりも小さいと、防汚性膜の耐磨耗性に劣る傾向がある。一方、防汚性膜の厚みが100nmよりも大きいと、膜厚を均一に形成することが困難となり、また当該防汚性膜による干渉縞が目立ち外観上好ましくない。
防汚性膜表面の中心線平均粗さRaは0.20μm以下であることが好ましく、0.10μm以下であることがより好ましい。Raが0.20μmを超えると、表面の微小な凹凸に食い込んだ汚れを洗浄しにくくなる。なお、下限については特に限定されないが、現実的には0.01μm以上である。
なお、意匠性の観点からガラスおよび顔料等からなる装飾層を設けても構わない。
本発明における結晶化ガラス板としては、熱膨張係数が小さく、優れた耐熱衝撃性を有する点からLiO−Al−SiO系結晶化ガラスからなることが好ましい。
結晶化ガラス板の30〜750℃の温度範囲における熱膨張係数は、−10×10−7〜+50×10−7/℃であることが好ましい。このような熱膨張係数を有する結晶化ガラスとしては、質量%で、LiO 1〜7%、Al 10〜30%、SiO 50〜75%、MgO 0〜8%、ZnO 0〜10%、BaO 0〜8%、NaO 0〜7%、KO 0〜7%、TiO 1〜5%、TiO+ZrO 1〜10%、P 0〜10%、清澄剤 0.1〜3%の組成を含有し、内部にβ−石英固溶体結晶またはβ−スポジュメン結晶を析出してなる結晶化ガラスが適している。
特に、質量%で、LiO 3〜5%、Al 15〜25%、SiO 55〜70%、MgO 0〜5%、ZnO 0〜5%、BaO 0〜5%、NaO 0〜2%、KO 0〜2%、TiO 1.3〜3%、TiO+ZrO 2〜6%、P 0〜5%、清澄剤 0.1〜2%の組成を有し、内部にβ−石英固溶体結晶またはβ−スポジュメン結晶を析出してなる結晶化ガラスであることが好ましい。
なお清澄剤としては、As、Sb、SnOおよびClの群から選択された1種以上を含有することが好ましい。
結晶化ガラス板の色調は、例えば透明、白色、黒色などがあげられ、いずれであっても構わない。
本発明の調理器用トッププレートは、前記ガラス物品を用いてなるものである。本発明の調理器用トッププレートの表面には、五徳周辺部分の隆起部や、調理中の吹きこぼれがトッププレートの外周(あるいは外側)へ広がるのを防止することを目的とした隆起部または窪み部を有しても良い。
また、本発明において、調理器用トッププレートの端面の一部または全部には、意匠性等を目的としたベベル加工が施されても良い。
次に、本発明のガラス物品の製造方法について説明する。
本発明のガラス物品は、結晶化ガラス板にケイ素成分およびジルコニウム成分を含有する塗料を塗布し、加熱処理を行って防汚性膜を形成することにより製造される。塗料における各成分の原料は、溶液またはコロイド状のものを用いることが好ましい。
ケイ素成分の原料としては、各種ケイ酸アルカリ等の水溶性塩、コロイダルシリカ(シリカゾル)、ケイ酸エチルに代表される各種ケイ酸アルコキシドが好適である。アルコキシドを用いる場合、これらを水と触媒(酸またはアルカリ)の存在下において、一旦加水分解したゾルを用いると良好な皮膜が得られるため好適である。
ジルコニウム成分の原料としては、オキシ塩化ジルコニウムもしくはオキシ硝酸ジルコニウム等の水溶性塩、ジルコニウムテトラブトキシドのようなアルコキシドもしくはその加水分解物、またはジルコニアゾルを用いるのが好適である。
また、必要に応じて前述したその他の成分の原料も調製する。
これらの各原料を所定の割合になるようにあらかじめ秤量しておく。結晶化ガラス板表面に塗布しやすいように、各種有機溶媒を用いて塗料として調製することが好ましい。溶媒としては、水以外に、有機溶媒としてアルコール類、ケトン類等、水との相溶性が良好であるものが好適である。このとき、沈殿や凝結が生じないように酸を添加して適宜pHの調整や、水分量の調整を行うことが好ましい。
塗料中の固形分濃度については特に制限はないが、質量%で0.1〜10%とすることが好ましい。
塗料中のケイ素成分およびジルコニウム成分の割合は、酸化物換算(質量%)で、ケイ素の酸化物を0.1〜9%、ジルコニウムの酸化物を0.1〜9%とすることが好ましい。
塗料中のケイ素成分とジルコニウム成分の割合は、酸化物換算(質量比)で、10:1〜1:30であることが好ましく、3:7〜1:20であることがより好ましい。
以上のようにして調製した塗料を結晶化ガラス板に塗布する方法としては、スクリーン印刷、ディップ法、スプレー法、コーター法などの公知の手法を適用することができる。既述のように、なかでもスクリーン印刷によれば、非常に薄く厚みが均一の防汚性膜を結晶化ガラス板表面に容易に形成することが可能となる。具体的には、10〜100nmの防汚性膜を結晶化ガラス板表面に容易に形成することができる。
なお、スクリーン印刷により防汚性膜を形成する場合、エチルセルロースなどの増粘剤により塗料の粘度を適宜変化させることにより、膜厚を調整することができる。
例えば、増粘剤の量を多くして塗料の粘度を高く(例えば、20000〜30000Pa・s程度)することにより、防汚性膜の膜厚を厚く(例えば、30nm以上)することができる。ただし、この場合、その後の加熱処理工程で増粘剤が多量に揮発することにより防汚性膜の気孔率が高くなりやすく、膜強度に劣る傾向がある。そこで、後述するように、さらにリン酸イオンのような二価以上の無機陰イオンを含む水溶液を塗布して加熱処理を行うことにより、耐磨耗性を向上させることが可能となる。
一方、増粘剤の量を少なくして塗料の粘度を低く(例えば、500〜2000Pa・s程度)することにより、防汚性膜の膜厚を薄く(例えば、30nm以下)することができる。この場合、その後の加熱処理工程で揮発する増粘剤の量が少なく、防汚性膜の気孔率が低くなりやすいため、膜強度も比較的良好となる傾向がある。
結晶化ガラス板に塗布された塗料に対して加熱処理を行うことにより、防汚性膜を形成することができる。加熱処理の温度は350℃以上であり、500℃以上であることが好ましく、700℃以上であることがより好ましい。加熱処理の温度が350℃未満であると、得られる防汚性膜の耐磨耗性に劣る傾向がある。一方、加熱処理温度の上限は特に限定されないが、高すぎる場合はエネルギーロスにつながり、また他に装飾層を設ける場合は当該装飾層のクラックの原因となる。したがって、加熱処理温度は1000℃以下とすることが好ましく、950℃以下とすることがより好ましい。
加熱処理の時間は特に限定されず、例えば10〜30分の間で適宜選択すればよい。加熱処理の時間が短すぎる場合は、得られる防汚性膜の耐磨耗性に劣る傾向がある。一方、加熱時間が長すぎても特に問題はないが、さらなる効果は得られず、エネルギーロスの原因となる。
なお、形成された防汚性膜の表面に、さらに、例えばリン酸イオンのような二価以上の無機陰イオンを含む水溶液を塗布し、加熱処理を行うと耐磨耗性が向上する。これは、当該無機陰イオンが塗膜における水和反応を促進するためと考えられるが、詳細なメカニズムについては解明されていない。
この場合の加熱処理は150〜700℃で10〜30分程度行うことが好ましい。また、塗布方法は特に限定されず、既述の公知の手法が適用可能である。
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜3および比較例1、2)
まず、長辺寸法300mm、短辺寸法150mm、板厚0.4mmを有する日本電気硝子株式会社製の透明結晶化ガラス板N−0(30〜750℃の平均線熱膨張係数:−4×10−7/℃)の表面に、テトラエトキシシランおよびジルコニウムテトラブトキシドを含む溶液を用いて、スクリーン印刷により厚さ50nmのケイ素とジルコニウムの複酸化物からなる塗膜を形成した。次に、表1に記載の温度にて加熱処理を行って防汚性膜を形成し、調理器用トッププレートを得た。この防汚性膜中におけるケイ素酸化物とジルコニウム酸化物との割合は、質量比で1:9であった。なお、比較例2では防汚性膜を形成しなかった。
防汚性膜におけるβ−OH量は、既述の方法にしたがい、結晶化ガラス基板と防汚性膜形成結晶化ガラス基板のそれぞれにおけるβ−OH量から算出した。
調理器用トッププレートの汚れ落ち特性は、次のようにして評価した。得られた調理器用トッププレートの表面に市販の焼肉のタレおよび砂糖醤油を塗布し、電気炉にて350℃で30分間保持した。水で濡らした市販のタオルでガラス板の表面を拭き取り、洗浄性を次の基準にしたがって評価した。結果を表1に示す。
◎:汚れが容易に拭き取れた
○:汚れは拭き取れたが、容易ではなかった
×:汚れは拭き取れなかった
調理器用トッププレートの耐磨耗性は、次のようにして評価した。まず、長さ180〜280mm、幅40〜100mmに加工した試料を、耐磨耗性試験機の試料台上に固定した。次に、試料上にクレンザー(研磨剤)を滴下し、表面に透明フィルムを貼り付けた重り(50mm×90mm、重さ1300g)にて、100mmのストロークで1000往復の磨耗操作を行った。磨耗操作後の防汚性膜について次の基準にしたがって評価した。結果を表1に示す。
◎:膜表面にほとんど変化はみられなかった
○:膜表面に多少磨耗傷がみられたが使用には問題ない
△:多少膜厚にムラが発生したが使用可能なレベルである
×:膜剥がれが発生した
Figure 2009209030
表1から明らかなように、実施例1〜3の調理器用トッププレートは、焦げ付き汚れに対する汚れ落ち特性が良好であり、また優れた耐磨耗性を有することから繰り返しの洗浄操作に対しても良好な耐久性を有していることがわかる。特に、塗料を850℃で加熱処理して防汚性膜を形成した実施例1では、汚れ落ち性および耐摩耗性ともに非常に良好であった。
一方、塗料を250℃で加熱処理して防汚性膜を形成し、防汚性膜におけるβ−OH量が450/mmである比較例1では、汚れ落ち特性は良好であったが、耐磨耗性に劣り、繰り返しの洗浄操作に対して膜剥がれなどの問題が生じることがわかる。
以上説明したように、本発明のガラス物品は、特に、ラジエントヒータやハロゲンヒータを備えた赤外線加熱調理器、電磁加熱調理器およびガス調理器に使用される調理器用トッププレートとして好適である。なお、本発明における防汚性膜は、調理器用トッププレート以外にも、電子レンジの調理棚やストーブ用の耐熱ガラス、防火窓など、使用時に高温になるガラス部材の表面に好適に用いることができる。この場合、当該防汚性膜が表面に形成されてなるガラス物品は、焦げ付き汚れやススなどのガラス部材表面に強固に付着した汚れに対して、優れた汚れ落ち性と繰り返しの洗浄操作に対する優れた耐摩耗性を有する。

Claims (8)

  1. 結晶化ガラス板と、その表面に形成されたケイ素およびジルコニウムの複酸化物またはケイ素およびジルコニウムの酸化物の混合物を含む防汚性膜とを備えたガラス物品であって、防汚性膜におけるβ−OH含有量が1〜300/mmであることを特徴とするガラス物品。
  2. 防汚性膜におけるβ−OH含有量が1〜150/mmであることを特徴とする請求項1に記載のガラス物品。
  3. 防汚性膜の厚みが10〜100nmであることを特徴とする請求項1または2に記載のガラス物品。
  4. 結晶化ガラス板がLiO−Al−SiO系結晶化ガラスからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス物品。
  5. 結晶化ガラス板の30〜750℃の温度範囲における熱膨張係数が、−10×10−7〜50×10−7/℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガラス物品。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載のガラス物品を用いてなる調理器用トッププレート。
  7. 結晶化ガラス板にケイ素成分およびジルコニウム成分を含有する塗料を塗布し、350℃以上で加熱処理を行うことにより防汚性膜を形成することを特徴とするガラス物品の製造方法。
  8. ケイ素成分およびジルコニウム成分を含有する塗料をスクリーン印刷により塗布することを特徴とする請求項7に記載のガラス物品の製造方法。
JP2008201450A 2008-02-06 2008-08-05 ガラス物品の製造方法 Active JP5435395B2 (ja)

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