しかしながら、大画面のテレビに上記の多面体のスピーカを適用し、当該多面体スピーカを構成する各スピーカユニットに同位相・同振幅の同一の音声信号を供給して、それぞれのスピーカユニットにおいて同じ音声を再生する構成の場合、各スピーカユニットは、異なる方向を向いているため、それぞれのスピーカユニットから出力される音声は、各スピーカユニットから聴取者の位置までの距離が異なり、部屋の反射の影響などによって、結果として、聴取者には、異なる位相や振幅の音声として到達する。また、スピーカの指向特性によりスピーカの中心からはずれた位置になるほど高域の周波数特性が落ちる。
図11は、多面体スピーカにおいて再生される原音の波形と各スピーカユニットから出力される音の聴取位置における波形とそれらの合成波形のイメージを示す図である。図11(a)は原音の波形のイメージを示す図であり、図11(b)は正面のスピーカユニットから出力される音の聴取位置における波形のイメージを示す図であり、図11(c)は側面のスピーカユニットから出力される音の聴取位置における波形のイメージを示す図であり、図11(d)は背面のスピーカユニットから出力される音の聴取位置における波形のイメージを示す図であり、図11(e)は(b)〜(d)の波形を合成した波形のイメージを示す図である。図11(b)に示すとおり、正面のスピーカユニットから出力される音の波形は、聴取位置において、ほぼ原音と同じ波形を示しており、ほぼ原音に近い音となる。また、図11(c)および(d)に示すとおり、側面のスピーカユニットおよび背面のスピーカユニットから出力される音の波形は、指向特性の影響によって高域成分が劣化し、信号の立ち上がりがなまる。そして、聴取位置における音の波形、すなわち、図11(b)〜(d)の波形を合成した音の波形は、図11(e)に示すとおり、図11(a)に示す波形から大きく変化していることがわかる。図11では、スピーカユニットから聴取位置に直接到達する音の波形のイメージを示しているが、実際には、更に、壁や床からの反射音も聴取位置に到達する。
これにより、最終的に、聴取者の位置においては、壁や床からの反射音が合成されるため、異なる位相や振幅の音が合成されることとなる。したがって、波形のなまりはさらに悪化し、さらには、振幅の変動も生じることになり、音の明瞭性が失われ、聴取者にとって快適な音響環境を実現することができないという問題がある。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、複数のスピーカユニットを含んで構成されるスピーカによって音声を出力する場合において、聴取位置における音の明瞭性を損なうことなく、聴取者にとって快適な音響環境を実現させることが可能な音声再生装置、音声再生方法、音声再生システム、制御プログラム、および、コンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することにある。
本発明に係る音声再生装置は、複数のスピーカユニットからなる複数のスピーカを介して音声出力を制御する音声再生装置であって、上記スピーカごとに、上記複数のスピーカユニットの中から、音声を出力する複数のスピーカユニットを選択する選択手段と、上記スピーカごとに、上記選択手段によって選択された複数のスピーカユニットから出力される全ての音声の位相が、利用者の聴取位置において等しくなるように、それぞれのスピーカユニットへの音声信号の供給を遅延させる第1遅延手段を備えていることを特徴としている。
上記の構成によれば、音声再生装置は、複数のスピーカを介して音声を再生する。そして、各スピーカは、例えば、多面体スピーカなど、複数のスピーカユニットによって構成される。
また、上記の構成によれば、選択手段が、上記スピーカごとに、スピーカを構成するスピーカユニットの中から、音声を出力するスピーカユニットを複数選択する。ここで、選択手段は、音声を出力するスピーカユニットとして、スピーカを構成する全てのスピーカユニットを無条件に選択する構成でもよいし、予め定められた複数のスピーカユニットを選択する構成や予め定められた条件を満たす複数のスピーカユニットを選択する構成であってもよく、特に限定はされない。
また、上記の構成によれば、第1遅延手段は、上記スピーカごとに、選択手段によって選択された複数のスピーカユニットから出力される全ての音声の位相が、利用者の聴取位置において等しくなるように、それぞれのスピーカユニットへの音声信号の供給を遅延させる。例えば、聴取位置から最も遠いスピーカユニットから出力される音声が聴取位置に到達するタイミングにおいて、他のスピーカユニットから出力される音声も聴取位置に到達するように、スピーカユニットごとに供給する音声信号を遅延させる。あるいは、各スピーカユニットから出力される音声が、あらかじめ定められた遅延時間において聴取位置に到達するように、スピーカユニットごとに音声信号の供給を遅延させてもよく、特に限定はされない。
つまり、本発明に係る音声再生装置では、複数のスピーカユニットによって構成される1つのスピーカにおいて、選択手段によって選択された複数のスピーカユニットから出力される音声の位相は、利用者の聴取位置において全て同じになる。そのため、聴取位置には、1つのスピーカから、位相が異なる複数の音声が到達することはない。
これにより、聴取者の耳に到達する音圧波形のなまりを低減することができ、利用者は、明瞭な音質の音声を聴くことができるようになる。したがって、利用者にとって快適な音響環境を実現できる。
本発明に係る音声再生方法は、複数のスピーカユニットからなる複数のスピーカを介して音声を出力する音声再生方法であって、上記スピーカごとに、上記複数のスピーカユニットの中から、音声を出力する複数のスピーカユニットを選択する選択ステップと、上記スピーカごとに、上記選択手段によって選択された複数のスピーカユニットから出力される全ての音声の位相が、利用者の聴取位置において等しくなるように、それぞれのスピーカユニットへの音声信号の供給を遅延させる第1遅延ステップを含んでいることを特徴としている。
上記の構成によれば、本発明に係る音声再生装置と同様の作用効果を奏する。
本発明に係る音声再生装置では、上記選択手段によって上記スピーカごとに選択された複数のスピーカユニットから出力される音声の上記聴取位置における位相が、上記複数のスピーカ同士で全て等しくなるように、それぞれのスピーカユニットへの音声信号の供給を遅延させる第2遅延手段をさらに備えていることが好ましい。
換言すれば、上記複数のスピーカから任意に選択される2つの互いに異なるスピーカをそれぞれ第1および第2のスピーカとしたとき、上記選択手段によって上記第1のスピーカにおいて選択された複数のスピーカユニットから出力される音声の上記聴取位置における位相が、上記第2スピーカにおいて上記選択手段によって選択された複数のスピーカユニットから出力される音声の上記聴取位置における位相と全て等しくなるように、それぞれのスピーカユニットへの音声信号の供給を遅延させる第2遅延手段をさらに備えていることが好ましい。
上記の構成によれば、複数のスピーカユニットから成る複数のスピーカから音声が再生されるが、上記第2遅延手段は、各スピーカから出力される音声の位相が上記聴取位置において全て等しくなるように、選択手段によってスピーカごとに選択された各スピーカユニットへの音声信号の供給を遅延させる。つまり、第2遅延手段は、全てのスピーカから出力される音声の位相を、上記聴取位置において等しくする。そのため、聴取位置には、上記複数のスピーカから、位相が異なる複数の音声が到達することはない。
これにより、各スピーカから出力される音声について、聴取位置において、位相が異なる複数の音声が合成されることがないため、聴取者の耳に到達する音圧波形のなまりをさらに低減することができ、利用者は、明瞭な音質の音声を聴くことができるようになる。
本発明に係る音声再生装置では、上記スピーカごとに、上記選択手段によって選択された複数のスピーカユニットに供給される音声信号の大きさを、それぞれ個別に変化させる第1振幅調整手段をさらに備えていることが好ましい。
上記の構成によれば、第1振幅調整手段は、上記スピーカごとに、選択手段によって選択された複数のスピーカユニットに供給される音声信号の大きさを、それぞれ個別に変化させることが可能である。
これにより、例えば、スピーカユニットごとに、周波数特性の補正を行う場合、DACへ入力される補正後の音声信号がデジタル的にクリップしないように、個々のスピーカユニットへ供給される音声信号の利得を調整することが可能となる。したがって、デジタル的なクリップを防止して、大きなノイズの発生を抑制することができるため、利用者にとって快適な音響環境を実現できる。
本発明に係る音声再生装置では、上記選択手段によって上記スピーカごとに選択された複数のスピーカユニットから出力される音声の上記聴取位置における振幅の和が、上記複数のスピーカ同士で全て等しくなるように、それぞれのスピーカユニットに供給される音声信号の大きさを変化させる第2振幅調整手段をさらに備えていることが好ましい。
換言すれば、本発明に係る音声再生装置では、上記複数のスピーカから任意に選択される2つの互いに異なるスピーカをそれぞれ第1および第2のスピーカとしたとき、上記選択手段によって上記第1のスピーカから選択された複数のスピーカユニットから出力される音声の上記聴取位置における振幅の和が、上記第2スピーカから上記選択手段によって選択された複数のスピーカユニットから出力される音声の上記聴取位置における振幅の和と全て等しくなるように、それぞれのスピーカユニットへ供給する音声信号の大きさを変化させる第2振幅調整手段をさらに備えていることが好ましい。
上記の構成によれば、複数のスピーカユニットから成る複数のスピーカから音声が再生されるが、上記第2振幅調整手段は、各スピーカのスピーカユニットから出力される音声の振幅の和が上記聴取位置において全て等しくなるように、選択手段によってスピーカごとに選択された各スピーカユニットへの音声信号の供給を遅延させる。つまり、第2遅延手段は、全てのスピーカのスピーカユニットから出力される音声の振幅の和を、上記聴取位置において等しくする。そのため、聴取位置には、上記複数のスピーカからの総合的な出力が、各スピーカ同士で等しくなる。
これにより、各スピーカから出力される音声について、聴取位置において、総合的な出力が異なる複数の音声が合成されることがないため、聴取者の耳に到達する音圧波形のなまりをさらに低減することができ、利用者は、明瞭な音質の音声を聴くことができるようになる。
本発明に係る音声再生装置では、上記スピーカごとに、上記選択手段によって選択された複数のスピーカユニットから出力される全ての音声の振幅周波数特性が、利用者の聴取位置において、少なくとも可聴周波数帯域で略一定となるように、それぞれのスピーカユニットに供給される音声信号に補正特性を付与する周波数特性補正手段をさらに備えていることが好ましい。
上記構成によれば、上記周波数特性補正手段は、上記スピーカごとに、上記選択手段によって選択された複数のスピーカユニットから出力される全ての音声の振幅周波数が、利用者の位置において、少なくとも可聴周波数帯域で略一定となるように、それぞれのスピーカユニットに供給される音声信号に補正特性を付与する。周波数特性補正手段は、例えば、複数バンドのイコライザー(IIRフィルタ)として構成されて、音声信号に逆特性を付与する構成であってもよいし、あるいは、FIRフィルタとして構成されて、補正特性を表すフィルタ係数を音声信号に対して畳み演算を実行することによって周波数特性を補正する構成であってもよく、特に限定はされない。なお、全周波数帯域において、振幅周波数特性がフラットになる構成であってもよく、特に限定はされない。
これにより、スピーカを構成する各スピーカユニットから出力される音声は、聴取位置において、振幅周波数特性のピークやディップが打ち消され、フラットな振幅周波数特性となるため、聴取位置において、より原音に忠実に音声を再生できる。
本発明に係る音声再生装置では、上記選択手段は、上記スピーカごとに、上記聴取位置に近い順に、あらかじめ定められた数の複数のスピーカユニットを選択することが好ましい。
上記の構成によれば、上記選択手段は、上記スピーカごとに、上記聴取位置に近い順にあらかじめ定められた数の複数のスピーカユニットを選択する。ここで、選択手段によって選択されるスピーカユニットの数は、利用者によって毎回設定される構成であってもよい。また、選択されるスピーカユニットの数は、全てのスピーカにおいて同じであってもよいし、スピーカごとに異なってもよく、特に限定はされない。なお、スピーカユニットを聴取位置から近い順に選択する構成としては、例えば、同一音声信号に基づいて各スピーカユニットから出力した音声を聴取位置において測定し、その音声の振幅が大きい順に選択する構成であってもよいし、その音声の原信号に対する遅延量が小さい順に選択する構成であってもよく、特に限定はされない。
これにより、あらかじめ定められた数のスピーカユニットが選択されるため、全てのスピーカユニットが選択される場合に比較して、各スピーカユニットへ供給する音声信号の大きさを変化させる処理における負荷が軽減される。また、スピーカユニットは、聴取位置に近い順に選択されるため、全スピーカユニットが選択される場合に比較して、壁や床などによる反射の影響を低減できる。
本発明に係る音声再生装置は、複数のスピーカユニットからなるスピーカを介して音声を出力する音声再生装置であって、上記複数のスピーカユニットの中から、音声を出力する複数のスピーカユニットを選択する選択手段と、上記選択手段によって選択された複数のスピーカユニットから出力される全ての音声の位相が、利用者の聴取位置において等しくなるように、それぞれのスピーカユニットへの音声信号の供給を遅延させる遅延手段を備えていることを特徴としている。
上記の構成によれば、音声再生装置は、例えば、多面体スピーカなど、複数のスピーカユニットによって構成されるスピーカを介して音声を出力する。ここで、音声を出力するスピーカは複数には限定されない。
また、上記の構成によれば、選択手段が、スピーカを構成するスピーカユニットの中から、音声を出力するスピーカユニットを複数選択する。ここで、選択手段は、音声を出力するスピーカユニットとして、スピーカを構成する全てのスピーカユニットを無条件に選択する構成でもよいし、予め定められた複数のスピーカユニットを選択する構成や予め定められた条件を満たす複数のスピーカユニットを選択する構成であってもよく、特に限定はされない。
また、上記の構成によれば、第1遅延手段は、選択手段によって選択された複数のスピーカユニットから出力される全ての音声の位相が、利用者の聴取位置において等しくなるように、それぞれのスピーカユニットへの音声信号の供給を遅延させる。例えば、聴取位置から最も遠いスピーカユニットから出力される音声が聴取位置に到達するタイミングにおいて、他のスピーカユニットから出力される音声も聴取位置に到達するように、スピーカユニットごとに供給する音声信号を遅延させる。あるいは、各スピーカユニットから出力される音声が、あらかじめ定められた遅延時間において聴取位置に到達するように、スピーカユニットごとに音声信号の供給を遅延させてもよく、特に限定はされない。
つまり、本発明に係る音声再生装置では、複数のスピーカユニットによって構成される1つのスピーカにおいて、選択手段によって選択された複数のスピーカユニットから出力される音声の位相は、利用者の聴取位置において全て同じになる。そのため、聴取位置には、1つのスピーカから、位相が異なる複数の音声が到達することはない。
これにより、聴取者の耳に到達する音圧波形のなまりを低減することができ、利用者は、明瞭な音質の音声を聴くことができるようになる。したがって、利用者にとって快適な音響環境を実現できる。
本発明に係る音声再生方法は、複数のスピーカユニットからなるスピーカを介して音声を出力する音声再生方法であって、上記複数のスピーカユニットの中から、音声を出力する複数のスピーカユニットを選択する選択ステップと、上記選択ステップにおいて選択された複数のスピーカユニットから出力される全ての音声の位相が、利用者の聴取位置において等しくなるように、それぞれのスピーカユニットへの音声信号の供給を遅延させる遅延ステップとを含んでいることを特徴としている。
上記の構成によれば、本発明に係る音声再生装置と同様の作用効果を奏する。
本発明に係る音声再生装置では、上記選択手段によって選択された複数のスピーカユニットに供給される音声信号の大きさを、それぞれ個別に変化させる振幅調整手段をさらに備えていることが好ましい。
換言すれば、本発明に係る音声再生装置では、上記選択手段によって選択された複数のスピーカユニットから出力される全ての音声の振幅が、利用者の聴取位置において等しくなるように、それぞれのスピーカユニットに供給される音声信号の大きさを変化させる振幅調整手段をさらに備えていることが好ましい。
上記の構成によれば、振幅調整手段は、選択手段によって選択された複数のスピーカユニットに供給される音声信号の大きさを、それぞれ個別に変化させることが可能である。
これにより、例えば、スピーカユニットごとに、周波数特性の補正を行う場合、DACへ入力される補正後の音声信号がデジタル的にクリップしないように、個々のスピーカユニットへ供給される音声信号の利得を調整することが可能となる。したがって、デジタル的なクリップを防止して、大きなノイズの発生を抑制することができるため、利用者にとって快適な音響環境を実現できる。
本発明に係る音声再生装置では、上記選択手段によって選択された複数のスピーカユニットから出力される全ての音声の振幅周波数特性が、利用者の聴取位置において、少なくとも可聴周波数帯域で略一定となるように、それぞれのスピーカユニットに供給される音声信号に補正特性を付与する周波数特性補正手段をさらに備えていることが好ましい。
上記の構成によれば、上記周波数特性補正手段は、上記選択手段によって選択された複数のスピーカユニットから出力される全ての音声の振幅周波数が、利用者の位置において、少なくとも可聴周波数帯域で略一定となるように、それぞれのスピーカユニットに供給される音声信号に補正特性を付与する。周波数特性補正手段は、例えば、複数バンドのイコライザー(IIRフィルタ)として構成されて、音声信号に逆特性を付与する構成であってもよいし、あるいは、FIRフィルタとして構成されて、補正特性を表すフィルタ係数を音声信号に対して畳み演算を実行することによって周波数特性を補正する構成であってもよく、特に限定はされない。なお、全周波数帯域において、振幅周波数特性がフラットになる構成であってもよく、特に限定はされない。
これにより、1つのスピーカを構成する各スピーカユニットから出力される音声は、聴取位置において、振幅周波数特性のピークやディップが打ち消され、フラットな振幅周波数特性となるため、聴取位置において、より原音に忠実に音声を再生できる。
本発明に係る音声再生システムは、上記音声再生装置と、上記音声再生装置から出力された音声を収音し、収音した音声を電気的な受信信号に変換して、上記音声再生装置に出力するマイクとを含んでいることを特徴とする。
上記の構成によれば、上記音声再生装置は、上記スピーカに対して音声信号を供給する。そして、各スピーカユニットからは、スピーカに供給される上記音声信号に基づいて音声が出力される。さらに、各スピーカユニットから出力される音声をマイクが収音し、受信信号に変換して、上記音声再生装置に出力する。そして、上記音声再生装置は、上記マイクによって収音された各スピーカユニットからの音声の受信信号に基づいて、各スピーカユニットから出力される音声の聴取位置における振幅や遅延が同じになるように、音声出力を制御する。
これにより、聴取者の耳に到達する音圧波形のなまりを低減することができるため、利用者は明瞭な音質の音声を聴くことができる。したがって、本発明に係る音声再生システムによれば、利用者にとって快適な音響環境を実現できる。
また、上記音声再生装置は、コンピュータによって実現してもよい。この場合、コンピュータを上記各手段として動作させることにより上記音声再生装置をコンピュータにおいて実現する制御プログラム、およびその制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
本発明に係る音声再生装置は、複数のスピーカユニットからなる複数のスピーカを介して音声を出力する音声再生装置であって、上記スピーカごとに、上記複数のスピーカユニットの中から、音声を出力する複数のスピーカユニットを選択する選択手段と、上記スピーカごとに、上記選択手段によって選択された複数のスピーカユニットから出力される全ての音声の位相が、利用者の聴取位置において等しくなるように、それぞれのスピーカユニットへの音声信号の供給を遅延させる第1遅延手段を備えていることを特徴としている。
また、本発明に係る音声再生装置は、複数のスピーカユニットからなるスピーカを介して音声を出力する音声再生装置であって、上記複数のスピーカユニットの中から、音声を出力する複数のスピーカユニットを選択する選択手段と、上記選択手段によって選択された複数のスピーカユニットから出力される全ての音声の位相が、利用者の聴取位置において等しくなるように、それぞれのスピーカユニットへの音声信号の供給を遅延させる遅延手段を備えていることを特徴としている。
これにより、聴取位置には、1つのスピーカから、位相が異なる複数の音声が到達することがないため、聴取者の耳に到達する音圧波形のなまりを低減することができ、利用者は、明瞭な音質の音声を聴くことができるようになる。
本発明に係る音声再生装置1について、図1〜6を用いて説明すれば、以下のとおりである。
(音声再生装置1)
図1は、本発明に係る音声再生装置1の構成を示すブロック図である。図1に示すとおり、音声再生装置1は、入力端子2とアナログデジタルコンバータ(ADC)3と遅延回路4(第1遅延手段、第2遅延手段)と周波数補正部5(周波数特性補正手段)と利得調整部6(第1振幅調整手段、第2振幅調整手段)と選択回路7とデジタルアナログコンバータ(DAC)8とアンプ9とテスト信号生成回路11と遅延量検出部12と振幅検出部13とアナログデジタルコンバータ(ADC)14と制御部15とメモリ16とを含んで構成される。
遅延回路4は、遅延回路4a〜fを含んで構成される。周波数特性補正部5は、周波数特性補正部5a〜fを含んで構成される。利得調整部6は、利得調整部6a〜fを含んで構成される。DAC8は、DAC8a〜fを含んで構成される。アンプ9は、アンプ9a〜fを含んで構成される。
また、図1に示すとおり、音声再生装置1には、スピーカ17が接続される。スピーカ17は、スピーカユニット17a、17b、17c、17d、17、および17fを含んで構成される。なお、スピーカユニットの概観は、図2に示すとおり、六面体の形状であり、6つの各面にスピーカユニット17a〜fが配置されている。
図2は、音声再生システム100の構成を示す図である。図2に示すとおり、音声再生装置1は、スピーカ17、17’とマイク18と共に、音声再生システム100を構成している。本実施の形態では、音声再生装置1は、無線により音声信号をスピーカ17および17’に供給する。また、同様に、音声再生装置1は、無線によりマイク18からの音声信号を受信する。しかしながら、音声再生装置1は、スピーカ17、17’およびマイク18と、通信用のケーブルによって接続された構成であってもよく、特に限定はされない。また、本実施の形態では、音声再生装置1は、外部から音声信号が入力される構成であるが、コンパクトディスクやカセットテープの再生機能を備えた構成であってもよく、特に限定はされない。
本実施の形態では、音声再生システム100は、ステレオ再生システムとして構成されており、音楽再生装置1には、Lチャンネルのオーディオ信号とRチャンネルのオーディオ信号とが入力される。スピーカ17は、Lチャンネルのオーディオ信号に基づいて音声を出力し、スピーカ17’はRチャンネルのオーディオ信号に基づいて音声を出力する。また、マイク18は、スピーカ17および17’から出力される音声を収音して、電気的な音声信号に変換することができる。なお、本実施の形態では、六面体のスピーカ17を構成するスピーカユニット17a〜fには、同一のLチャンネル信号が供給される。同様にスピーカ17’を構成するスピーカユニット17’a〜fには、同一のRチャンネル信号が供給される。つまり、1つのスピーカにおいて、スピーカユニットごとに、異なるチャンネルの音声信号が供給される構成ではない。
以下に、音声再生装置1を構成する各部の機能の概要について説明する。なお、図1では、簡単のため、スピーカ17のみが示されており、Lチャンネルのオーディオ信号の音声再生を制御する構成についてのみ示されているが、音声再生装置1は、Rチャンネルのオーディオ信号の音声再生についても同様の構成によって制御する。
入力端子2は、外部からのオーディオ信号を音声再生装置1に入力するための端子である。ADC3は、入力端子2を介して入力されたアナログ信号であるLチャンネルのオーディオ入力信号を、Lチャンネルのデジタル信号(以下では、Lch信号と称する)に変換し、選択回路7に出力する。なお、音楽再生装置1では、Rチャンネルのオーディオ入力信号は、Rチャネルのデジタル信号(以下では、Rch信号と称する)に変換される。
また、音声再生装置1では、テスト信号生成回路11が生成するテスト信号に基づいてスピーカ17を介してテスト音声が再生される。このとき、テスト信号生成回路11は、テスト信号を選択回路7に出力する。なお、テスト信号を表すテスト信号データは、メモリ16に格納されており、制御部15によって、テスト信号生成回路11に供給される。また、本実施の形態では、テスト信号は、スピーカユニット17a〜fに時分割で供給される1つの信号として生成される。
選択回路7は、制御部15からの制御信号に基づき、ADC3からのLch信号とテスト信号生成回路11からのテスト信号とのいずれを出力するかを選択し、選択した信号を、遅延回路4に出力する。
遅延回路4は、Lch信号を遅延させて周波数特性補正部5に出力する。周波数特性補正部5は、Lch信号の周波数特性を補正して、利得調整部6に出力する。周波数特性補正部5は、所望の周波数特性が得られるように、Lch信号にフィルタを施し、特定の周波数領域におけるLch信号のゲインを調整する。利得調整部6は、Lch信号全体の利得を調整し、DAC8に出力する。DAC8は、選択回路7において、デジタル信号であるLch信号が選択された場合、アナログのLch信号に変換してアンプ9に出力する。また、DAC8は、デジタル信号であるテスト信号が選択された場合、アナログのテスト信号に変換してアンプ9に出力する。アンプ9は、Lch信号あるいはテスト信号を増幅し、スピーカ17に出力する。
なお、本実施の形態では、遅延回路4、周波数特性補正部5、利得調整部6、DAC8、および、アンプ9には、スピーカ17を構成するスピーカユニット17a〜fに対応して、遅延回路4a〜f、周波数特性補正部5a〜f、利得調整部6a〜f、DAC8a〜f、および、アンプ9a〜fが設けられており、各スピーカユニットには、それぞれ、対応する遅延回路4、周波数特性補正部5、利得調整部6、DAC8、および、アンプ9を介して、音声信号が供給される。
また、本実施の形態では、音声を出力するスピーカユニットの選択は、利得調整部6において、制御部15からの制御信号に応じて、利得を調整することにより実現する。例えば、スピーカユニット17aからのみ音声を出力させる場合には、スピーカユニット17b〜fに対応して設けられている利得調整部6において、利得を0に設定し、スピーカユニット17b〜fに供給される音声信号の大きさを0にする。すなわち、特許請求の範囲における選択手段は、利得調整部6と制御部15とによって実現される。なお、スピーカユニットの選択は、スピーカユニットごとに利得を調整する構成に限定されることはなく、制御部15からの制御信号に応じて、選択されていないスピーカユニットへの音声信号の供給そのものを停止するような専用の回路を用いた構成であってもよく、特に限定はされない。
また、アンプ9からテスト信号が出力される場合、スピーカユニット17a〜fに供給するテスト信号が1つの信号によって時分割で供給される構成となる。この場合、利得調整部6において、制御部15からの制御信号に基づいて、各スピーカユニットに対応するテスト信号が供給されているタイミングに応じて、テスト音声を出力するスピーカユニットを順次切り替える。
マイク18は、スピーカ17から出力されるテスト音声(すなわち、スピーカユニット17a〜fから順次出力されるテスト音声)を収音し、電気的な信号(以下では、受信信号と称する)に変換し、マイク用の入力インターフェース(図示せず)を介して、ADC14に出力する。ADC14は、上記の受信信号を、アナログ信号からデジタル信号に変換し、振幅検出部13に出力する。さらに、振幅検出部13は、スピーカユニット17a〜fから出力されて、マイク18によって収音されたテスト音声の受信信号うち、振幅の最大値を検出し、制御部15に検出結果を出力すると共に、受信信号を遅延量検出部12に出力する。また、遅延量検出部12は、各スピーカユニットからのテスト音声の受信信号について、テスト音声の原信号であるテスト信号に対する遅延量を検出し、制御部15に検出結果を出力する。本実施の形態では、遅延量検出部12と振幅検出部13と制御部15とは、マイクロコンピュータによって実現される。なお、遅延量検出部12と振幅検出部13とは、専用の回路として構成されてもよく、特に限定はされない。
そして、本発明に係る音声再生装置1は、スピーカ17を構成するスピーカユニット17a〜fのうち、音声を出力する複数のスピーカユニットを選択し、選択したスピーカユニットからの音声の位相が、聴取位置において等しくなるように制御する構成に特徴を有している。
また、本発明に係る音声再生装置1は、複数のスピーカユニットからなるスピーカを複数台用いて音声出力する場合に、振幅検出部13からの最大値の検出結果、あるいは、遅延量検出部12からの遅延量の検出結果に基づいて、遅延回路4におけるLch信号の遅延、周波数特性補正部5におけるLch信号の周波数特性の補正、および、利得調整部6におけるLch信号の利得の調整を行うことにより、スピーカ間の音声出力を制御する構成においても特徴を有している。
以下に、本発明に係る音声再生装置1の特徴的な構成について、より詳細に説明する。
(スピーカユニットの選択)
本発明に係る音声再生装置1では、音声を出力するスピーカユニットの選択を行う場合、テスト信号に基づいて各スピーカユニットからテスト音声を出力し、それをマイク18によって収音して得られる受信信号を用いて検出する。
図3は、スピーカユニットの選択について説明するための図であり、(a)はスピーカ17を構成する各スピーカユニット17a〜fに供給されるテスト信号の時間波形を示す図であり、(b)はマイク18における受信信号の時間波形を示す図である。
図3(a)、(b)の横軸は時間を示している。図3(a)に示すとおり、スピーカユニット17a〜fに供給される各テスト信号は、いずれも正弦波の1周期分であり、波形そのものは同一であるが、位相はスピーカユニット17a、17b、17c、17d、17e、17fに供給されるテスト信号の順に遅れている。すなわち、テスト信号に含まれる正弦波の1周期分は、時間的に、スピーカユニット17a、17b、17c、17d、17e、17fの順に供給される。また、上述のとおり、メモリ16には、テスト信号を表すテスト信号データが格納されているが、テスト信号データは、例えば、テスト信号そのものを表す音声信号データが圧縮されて記憶されてもよいし、あるいは、テスト信号の振幅や周波数などを表すパラメータとして記憶されていてもよく、特に限定はされない。
テスト音声が再生される場合、制御部15は、メモリ16からテスト信号データを読み出し、テスト信号生成回路11に供給する。そして、テスト信号生成回路11は、供給されたテスト信号データに基づいてテスト信号を生成する。例えば、テスト信号データが圧縮された音声信号データの場合には、テスト信号生成回路11は、デコード処理を行い、音声信号の伸張処理を行う。また、テスト信号データがパラメータの場合には、テスト信号生成回路11は、パラメータによって指定された波形の信号を生成する。
また、この場合、制御部15は、選択回路7に、テスト信号を出力することを指示する制御信号を供給する。これにより、選択回路7は、テスト信号を出力し、スピーカ17には、遅延回路4、周波数特性補正部5、利得調整部6、DAC8、および、アンプ9を介して、アナログのテスト信号が供給される。
なお、上述のとおり、スピーカユニット17a〜fに供給するテスト信号が1つの信号によって時分割で供給される構成であり、制御部15は、利得調整部6に対し、各スピーカユニットに対応するテスト信号が供給されているタイミングに応じて、テスト音声を出力するスピーカユニット以外の音声信号の利得を0にするように指示する制御信号を供給する。
また、テスト音声の再生は、ユーザが音声再生装置1に対して聴取を開始する操作を行ったことをきっかけに行われる構成であっても良いし、図示しないリモートコントローラなどを用いてユーザの操作に応じて行われる構成であってもよく、特に限定はされない。
さらに、スピーカユニット17a〜fは、図3(a)に示すテスト信号に基づいて、順次、テスト音声を出力する。そして、マイク18は、スピーカ17a〜fが出力するテスト音声を収音し、図3(b)に示す受信信号に変換する。図3(b)に示す受信信号は、マイク18が図2に示す位置に配置されている場合の例を示している。すなわち、図3(b)に示す受信信号は、マイク18がスピーカ17を構成するスピーカユニット17aの正面に配置されている場合の波形を示している。図3(b)に示すとおり、受信信号は、振幅の異なる正弦波の1周期分の波形を6つ含んでいる。図3(b)に示す各正弦波の1周期分の波形は、左から順に、スピーカユニット17a、17b、17c、17d、17e、17fから出力されたテスト音声に対応している。
ここで、上述のとおり、マイク18は、スピーカ17を構成するスピーカユニット17aの正面に配置されている。つまり、スピーカユニット17aは、ユーザの聴取位置であるマイク18の最も近くに位置している。一方、スピーカユニット17cは、スピーカ17において、マイク18に対して背面に位置しており、ユーザの聴取位置から最も離れたところに位置している。
そして、図3(b)に示すとおり、各スピーカユニットからのテスト音声に対応する受信信号の波形のうち、マイク18の最も近くに位置するスピーカユニット17aに対応する波形の振幅が最大となっており、マイク18から最も離れたところに位置するスピーカユニット17cに対応する波形の振幅が最小となっている。つまり、受信信号に含まれる波形のうち、振幅が最大の波形に対応するスピーカユニットが、ユーザの聴取位置であるマイク18の最も近くに位置していることがわかる。
本発明に係る音声再生装置1では、スピーカ17を構成する6つのスピーカユニット17a〜fのうち、音声を出力する複数のスピーカユニットが選択される。音声を出力する複数のスピーカユニットの選択は、例えば、無条件に、全てのスピーカユニット17a〜fが選択される構成であってもよい。あるいは、聴取位置に近い順に、予め定められた数の複数のスピーカユニットが選択される構成であってもよく、特に限定はされない。
聴取位置に近い順に、予め定められた数の複数のスピーカユニットが選択される構成について、より詳細に説明すれば次のとおりである。上述のとおり、本発明に係る音声再生装置1では、マイク18からの受信信号がADC14においてアナログ信号からデジタル信号に変換され、振幅検出部13に供給される。そして、振幅検出部13が、受信信号に含まれる波形の振幅を検出する。ここで、例えば、予め4つのスピーカユニットによって音声出力を行うことがメモリ16に記憶されている場合、振幅検出部13は、受信信号に含まれる波形のうち、振幅が大きい順に4つの波形を検出する。そして、振幅検出部13は、検出した4つの波形に対応するスピーカユニットを表すスピーカユニット検出情報を、制御部15に出力する。これにより、音楽再生装置1では、ユーザの聴取位置に近い順に4つのスピーカユニットが検出されることになる。
さらに、制御部15は、利得調整部6に対して、上記スピーカ検出情報によって指定される4つのスピーカユニットを、音声を出力するスピーカユニットとして選択することを指示する制御信号を出力する。換言すれば、制御部15は、利得調整部6に対して、上記スピーカ検出情報によって指定されていない2つのスピーカユニットに供給される音声信号の利得を0にすることを指示する制御信号を出力する。これにより、利得調整部6は、スピーカ検出情報によって指定されていない2つのスピーカユニットに供給される音声信号の利得を0とし、スピーカ検出情報によって指定されている4つのスピーカユニットからのみ音声が出力されることになる。
つまり、図3(b)に示す例では、振幅検出部13は、聴取位置に近い4つのスピーカユニットして、スピーカユニット17a、17b、17d、17eを検出する。そして、振幅検出部13は、スピーカユニット検出情報として、スピーカユニット17a、17b、17d、17eを表す情報を制御部15に出力する。さらに、制御部15は、利得調整部6に対して、上記スピーカ検出情報によって指定されていない2つのスピーカユニット17c、17fに供給される音声信号の利得を0にすることを指示する制御信号を出力する。そして、利得調整部6は、制御部15からの制御信号に従い、スピーカユニット17c、17fに供給される音声信号の利得を0にする。これにより、本実施の形態に係る音声再生装置1では、スピーカ17を構成するスピーカユニット17a〜fのうち、スピーカユニット17a、17b、17d、17eからのみ、音声が出力されることになる。
上記の構成は、受信信号に含まれる波形の振幅に基づいて、ユーザの聴取位置に最も近いスピーカユニットを検出する構成であるが、各スピーカユニットに供給されるテスト信号に対する受信信号の遅延量に基づいて、ユーザの聴取位置に近い順に複数のスピーカユニットを検出する構成とすることも可能である。この構成について、より詳細に説明すれば、以下のとおりである。
本発明に係る音声再生装置1では、マイク18からの受信信号がADC14においてアナログ信号からデジタル信号に変換された後、振幅検出部13に供給される。さらに、振幅検出部13は、上記の受信信号を遅延量検出部12に出力する。また、テスト信号生成回路11は、各スピーカユニットから出力されるテスト音声の原信号であるテスト信号を遅延量検出部12に出力する。
そして、遅延量検出部12は、各スピーカユニットから出力されるテスト音声の受信信号について、原信号のテスト信号に対する遅延量を検出する。この遅延量は、スピーカユニットとマイク18との距離が近い方が小さくなる。したがって、この遅延量が最小となる受信信号に対応するスピーカユニットが、マイク18の位置(すなわち、聴取位置)から最も近くに位置していることになる。
本実施の形態では、遅延量検出部12は、図3(a)に示す各スピーカユニットに供給されるテスト信号と、図3(b)に示す各スピーカユニットから出力されるテスト音声のマイク18における受信信号とを比較し、スピーカユニットごとにテスト信号に対する受信信号の遅延量を検出する。ここで、例えば、予め4つのスピーカユニットによって音声出力を行うことがメモリ16に記憶されている場合、遅延量検出部12は、遅延量の小さい順に4つのスピーカユニットを表すスピーカユニット検出情報を、制御部15に出力する。これにより、音声再生装置1では、ユーザの聴取位置に近い順に4つのスピーカユニットが検出されることになる。つまり、図3(b)に示す例では、スピーカユニット17a、17b、17d、17eの遅延量が小さいため、遅延量検出部12は、スピーカユニット検出情報として、スピーカユニット17a、17b、17d、17eを表す情報を、制御部15に出力する。
さらに、制御部15は、利得調整部6に対して、上記スピーカ検出情報によって指定されていない2つのスピーカユニット17c、17fに供給される音声信号の利得を0にすることを指示する制御信号を出力する。そして、利得調整部6は、制御部15からの制御信号に従い、スピーカユニット17c、17fに供給される音声信号の利得を0にする。これにより、本実施の形態に係る音声再生装置1では、スピーカ17を構成するスピーカユニット17a〜fのうち、スピーカユニット17a、17b、17d、17eからのみ、音声が出力されることになる。
なお、スピーカを構成するスピーカユニットのうち、音声を出力する複数のスピーカユニットを選択する構成として、他にも、例えば、遅延量検出部12において検出された遅延時間が予め定められた時間Xms以内のスピーカユニットを選択する構成がある。あるいは、振幅検出部13において検出された振幅(すなわち、音圧レベル)がXmv以上のスピーカを選択する構成であってもよい。さらには、上述したとおり、無条件に全てのスピーカユニットを選択する構成であってもよく、特に限定はされない。
また、図1および2に示す構成では、2台のスピーカを介して音声を出力する構成であるが、1台のスピーカを用いて音声を出力する構成であってもよいし、あるいは、3台以上のスピーカによって音声を出力する構成において適用可能であり、特に、限定はされない。
以下では、全てのスピーカユニットが選択された場合における音声再生装置1による音声出力の制御について説明する。
(複数のスピーカユニット間での調整)
上述したとおり、本実施の形態に係る音声再生装置1では1つのスピーカを構成する複数のスピーカユニットから音声が出力される。この場合、通常、聴取位置には、位相や周波数特性の異なる複数の音声が到達することになる。したがって、聴取位置において、位相や周波数特性が異なる複数の音声が合成されることとなり、聴取者の耳に到達する音圧波形はなまり、音声の明瞭性が損なわれる。
そこで、本発明に係る音声再生装置1では、同一の音声信号に基づいてスピーカ17を構成するスピーカユニット17a〜fから出力される音声の遅延や周波数特性が、聴取位置において等しくなるように、スピーカユニット間における音声出力の調整を行う。以下では、音声再生装置1において、上記のスピーカユニット間における音声出力の調整を行う構成について、より詳細に説明する。
上述したとおり、音声再生装置1では、図3(b)に示すマイク18からの受信信号は、ADC14を介してデジタル信号に変換されて、振幅検出部13に供給される。そして、振幅検出部13が、受信信号に含まれるスピーカユニット17a〜fに対応する各波形の振幅を検出し、制御部15に出力する。
また、音声再生装置1では、上述のとおり、マイク18からの受信信号が振幅値検出部13に供給されるが、さらに、振幅検出部13は、受信信号を遅延量検出部13に供給する。また、テスト信号生成回路11は、各スピーカユニットから出力されるテスト音声の原信号であるテスト信号を遅延量検出部12に出力する。
遅延量検出部12は、図3(a)に示す各スピーカユニットに供給されるテスト信号と、図3(c)に示す各スピーカユニットに対応する受信信号とを比較し、スピーカユニットごとにテスト信号に対する受信信号の遅延量を検出する。そして、遅延量検出部12は、スピーカユニット17a〜fのテスト信号に対する受信信号の遅延量を制御部15に出力する。
制御部15は、スピーカユニット17a〜fに対応する各受信信号の遅延量のうち、最大の遅延量を検出する。そして、検出した最大の遅延量と各受信信号の遅延量との差分値を算出し、メモリ16に書き込む。そして、制御部15は、スピーカユニット17a〜fから音声を出力する場合、上記差分値を用いて、聴取位置において、同一の音声信号に基づいてスピーカユニット17a〜fから出力される音声の位相が同一になるように調整を行う。
例えば、図3(b)に示すスピーカユニット17a〜fからの受信信号の遅延量が、それぞれ、0.1ms、0.25ms、0.4ms、0.25ms、0.2ms、0.3msとすると、制御部15は、スピーカユニット17cに対応する受信信号の遅延量0.4msを、最大の遅延量として検出する。そして、制御部15は、最大の遅延量0.4msと各スピーカユニットに対応する受信信号の遅延量との差分値を算出し、メモリ16に書き込む。この場合、スピーカユニット17a〜fに対応する各差分値は、それぞれ、0.3ms、0.15ms、0ms、0.15ms、0.2ms、0.1msである。そして、制御部15は、スピーカユニット17a〜fに音声信号を供給するタイミングを、それぞれ、上記差分値だけ遅らせる指示を表す制御信号を、各スピーカユニットに対応する遅延回路4a〜fに供給する。あるいは、制御部15は、スピーカユニット17a〜fに音声信号を供給するタイミングを、それぞれ、上記差分値にさらに一律の遅延時間を加えて遅らせる指示を表す制御信号を、各スピーカユニットに対応する遅延回路4a〜fに供給する構成であってもよく、特に限定はされない。その場合、例えば、一律の遅延時間を0.1msとすると、制御部15は、スピーカユニット17a〜fに音声信号を供給するタイミングを、それぞれ、0.4ms、0.25ms、0.1ms、0.25ms、0.3ms、0.2ms遅らせる指示を表す制御信号を、遅延回路4a〜fに供給する。
これにより、スピーカ17を構成するスピーカユニット17a〜fのうち、複数のスピーカユニットから出力される全ての音声は、聴取位置において、位相が全て同じになる。そのため、聴取位置において、1つのスピーカを構成する複数のスピーカユニットから出力される音声については、位相の異なる複数の音声が合成されることはないため、聴取者の耳に到達する音圧波形のなまりを低減することができ、利用者は、明瞭な音質の音声を聴くことができるようになる。
また、音声再生装置1では、同一の音声信号に基づいてスピーカ17を構成するスピーカユニット17a〜fから出力される音声の聴取位置における振幅周波数特性がフラット(略一定)となるように、スピーカユニット17a〜fに供給する音声信号を補正できる。以下に、音声再生装置1において振幅周波数特性をフラットにするための処理について説明する。
はじめに、音声再生装置1は、テスト信号に基づいてスピーカユニット17aから出力された音声をマイク18によって収音し、得られた受信信号から聴取位置における振幅周波数特性を測定する。より具体的には、例えば、テスト信号としてサイン波形の周波数スイープ信号をスピーカユニット17aに供給し、そのスイープ信号に基づいて出力される音声をマイク18によって収音し、得られた受信信号の振幅を振幅検出部13が検出していくことによって、聴取位置における音圧の周波数特性が得られる。通常、スピーカの特性や周辺の環境によって、ある周波数帯域の音圧は、上がったり、下がったりしており、振幅周波数特性はフラットにはなっておらず、ピークやディップを含む。なお、振幅周波数特性を測定する構成としてはスイープ信号以外のテスト信号を用いる構成であってもよく、特に限定はされない。
振幅検出部13は、検出した受信信号の振幅を制御部15に出力する。制御部15は、スピーカユニット17aから出力される音声の聴取位置における振幅周波数特性のデータをメモリ16に記憶する。また、制御部15は、テスト信号に基づいて測定した振幅周波数特性の逆特性のフィルタを算出する。
そして、外部から入力される音声信号に基づいてスピーカユニット17aから音声を出力する場合、制御部15は、周波数特性補正部5aに対して、算出した逆特性のフィルタを音声信号に対して適用することを指示する制御信号を供給する。周波数特性補正部5aは、複数バンドのイコライザー(IIRフィルタ)として構成されて、制御部15からの制御信号に応じて音声信号に逆特性を付与する構成であってもよいし、あるいは、FIRフィルタとして構成されて、制御部15から補正特性(すなわち逆特性)を表すフィルタ係数を取得し、音声信号に対して畳み演算を実行する構成であってもよく、特に限定はされない。また、周波数特性補正部5において、全周波数帯域の振幅周波数特性が補正される構成であってもよいし、可聴周波数帯域においてのみ振幅周波数特性が補正される構成であってもよく、特に限定はされない。
そして、スピーカユニット17aから出力される音声の振幅周波数特性を補正した後、スピーカユニット17b〜17fから出力される音声についても、同様の処理によって、振幅周波数特性を補正する。
これにより、スピーカユニット17a〜17fから出力される音声の聴取位置における振幅周波数特性の上がり下がり(すなわち、ピークやディップ)が打ち消され、周波数に対して平坦な音圧特性(すなわち振幅周波数特性)に補正することが可能となるため、聴取位置において、より原音に忠実に音声を再生できる。
また、音声再生装置1では、周波数特性補正部5において、振幅周波数特性を補正した後、利得調整部6において、利得を調整することが可能である。以下に、図4〜7を参照して、利得調整部6における利得の調整について説明する。
図4〜7示す例では、スピーカユニット17a〜17bのうち、音声を出力するスピーカユニットとして、3つのスピーカユニットが選択されている。図4(a)〜(c)は、選択された各スピーカユニットから出力される音声の聴取位置における振幅周波数特性を示す図である。周波数特性補正部5は、図4(a)〜(c)に示す振幅周波数特性に基づいて、各スピーカユニットに供給される音声信号に補正特性を付与して、聴取位置における振幅周波数特性をフラットにする。
図4(a)に示す振幅周波数特性は、高周波数領域における出力レベルが低いため、周波数特性補正部5において、高域の周波数領域における出力レベルを持ち上げる補正を行う。また、図4(b)に示す振幅周波数特性は、全周波数帯域において出力レベルが一定であるため、周波数特性補正部5において、補正は行われない。また、図4(c)に示す周波数特性は、中域の周波数領域における出力レベルが高いため、周波数特性補正部5において、中域の周波数領域における出力レベルを抑制する補正を行う。
図5(a)〜(c)は、図4(a)〜(c)に示す振幅周波数特性の逆特性の周波数特性である。図5(a)は、図4(a)の逆特性を示す図であり、図5(b)は、図4(b)の逆特性を示す図であり、図5(c)は、図4(c)の逆特性を示す図である。上述のとおり、制御部15は、テスト信号に基づいて測定した振幅周波数特性(すなわち、図4に示す周波数特性)の逆特性(すなわち、図5に示す周波数特性)に対応するフィルタを算出する。さらに、制御部15は、周波数特性補正部5に対して、算出した逆特性のフィルタを音声信号に対して適用することを指示する制御信号を出力する。
そして、周波数特性補正部5は、図4(a)〜(c)の振幅周波数特性に対応する各スピーカユニットに供給される各音声信号に対して、それぞれ、図5(a)〜(c)に示す逆特性の補正特性を付与するフィルタ処理を行う。
周波数特性補正部5において振幅周波数特性を補正した後、利得調整部6において利得を調整する場合、テスト信号に対して逆特性のフィルタ処理を施し、スピーカユニットから出力する。そして、スピーカユニットから出力される音声を、聴取位置においてマイク18によって収音し、得られた受信信号の振幅に基づいて振幅周波数特性を算出する。
図6(a)〜(c)は、周波数特性補正部5による補正後の音声の聴取位置における振幅周波数特性を示す図である。図6(a)は、図4(a)の補正後の振幅周波数特性を示す図であり、図6(b)は、図4(b)の補正後の振幅周波数特性を示す図であり、図6(c)は、図4(c)の補正後の振幅周波数特性を示す図である。図6(a)〜(c)に示すとおり、周波数特性補正部5において補正された音声の聴取位置における振幅周波数特性は、いずれもフラットな特性を示している。
ここで、制御部15は、図6(a)〜(c)に示す補正後の音声の出力レベルについて、DAC8においてアナログ信号への変換の可否を判定する。つまり、DAC8では、周波数特性補正部5からの音声信号を表すデジタル値をアナログ信号へ変換することになるが、周波数特性補正部5においてフィルタ処理が施された音声信号のデジタル値が、DAC8においてアナログ信号へ変換可能な最大の値を超えているか否かを判定する。
上記判定の結果、DAC8において扱える範囲を超えた、ダイナミックレンジに余裕のない音声信号の経路については、利得を下げるように利得調整部6を設定する。例えば、図6(a)の振幅周波数特性に対応する音声信号がDAC8において扱える範囲を超えている場合、制御部15は、図6(a)の振幅周波数特性に対応する音声信号のデジタル値がDAC8において扱える範囲内となるような利得を算出する。そして、制御部15は、図6(a)の振幅周波数特性に対応する音声信号が供給されるスピーカユニットの利得調整部6に対して、算出した利得を設定する指示を表す制御信号を出力する。
これにより、利得調整部6は、スピーカユニットに供給する音声信号の大きさを、DAC8においてアナログ信号へ変換可能な大きさに低減し、デジタル的なクリップを防止することができ、当該スピーカユニットからの音声再生におけるノイズを抑制することが可能となる。
図7(a)〜(c)は、利得調整部6からの出力の振幅周波数特性を示す図である。図7(a)〜(c)は、それぞれ、図6(a)〜(c)の振幅周波数特性に対応する音声信号の利得調整部6からの出力の振幅周波数特性を示す図である。図6(a)に示す周波数特性補正後の音声の出力レベルはDAC8において変換可能な値を超えているため、制御部15からの制御信号に基づいて利得調整部6における利得の調整がなされ、その結果、図7(a)に示すとおり出力レベルは低減されるため、デジタル的なクリップを防止できる。一方、図6(b)および(c)に示す周波数特性補正後の音声の出力レベルはDAC8において変換可能な範囲内であり、利得調整部6における利得の調整は行われない。したがって、図7(b)および(c)に示す振幅周波数特性は、図6(b)および(c)に示す振幅周波数特性と同じである。
(2個のスピーカ間での調整)
本発明に係る音声再生装置1は、上述のとおり、複数のスピーカユニットからなるスピーカにおいて、複数のスピーカユニットから出力される全ての音声の聴取位置における位相、および周波数特性が同じになるように、各スピーカユニットに供給する音声信号の大きさ、および遅延を制御する。さらに、本発明に係る音声再生装置1は、複数のスピーカユニットからなるスピーカを複数含んで構成される音声再生システムにおいて、スピーカ間の音声出力を制御する。
以下では、図2に示すステレオ音声再生システムを構成するスピーカ17と17’との間における音声出力を調整する構成について説明する。
図8は、図2に示すステレオ再生システムを構成するスピーカ17および17’と聴取者との位置関係を示す図である。図8に示すとおり、マイク18の設置位置(すなわち、聴取位置)は、スピーカ17の正面であり、スピーカ17’よりもスピーカ17に近い。なお、図8に示す聴取者の位置には、図2に示すとおりマイク18が設置される。
また、図2に示すとおり、スピーカ17および17’は、いずれも、6つのスピーカユニットによって構成される六面体スピーカである。そして、本発明に係る音声再生装置1は、スピーカ間の音声出力を調整する場合、テスト信号に基づいて各スピーカからテスト音声を出力し、それをマイク18によって収音して得られる受信信号を用いて、スピーカ間における音声出力を調整する。
このとき、音声再生装置1は、上述した方法によって、スピーカ17および17’のそれぞれについて、音声を出力する複数のスピーカユニットを選択し、スピーカごとに、選択した複数のスピーカユニットから出力される全ての音声の位相、および周波数特性が同じになるように各スピーカユニットに供給するテスト信号の遅延量を制御し、周波数特性の補正や利得の調整を行う。つまり、スピーカ間の音声出力の調整を行う場合、音声再生装置1では、先に、各スピーカにおいて選択された複数のスピーカユニットから出力される全ての音声の位相、および周波数特性が同じになるように、制御部15からの制御信号に基づいて、遅延回路4、利得調整部6、および周波数特性補正部5において、各スピーカユニットに供給する音声信号の利得や遅延量の設定、あるいは、補正特性の付与がなされる。そして、上記の設定が行われた状態で、テスト信号に基づいて各スピーカからテスト音声を出力し、それをマイク18によって収音して得られる受信信号を用いて、スピーカ間における音声出力を調整する。
図9は、2つのスピーカ間における音声出力の制御について説明するための図であり、(a)はスピーカ17および17’に供給されるテスト信号の時間波形を示す図であり、(b)はスピーカ17および17’から出力されたテスト音声のマイク18における受信信号の時間波形を示す図である。
図9(a)、(b)の横軸は時間を示している。図9(a)に示すとおり、スピーカ17および17’に供給される各テスト信号は、いずれも正弦波の1周期分であり、波形そのものは同一であるが、スピーカ17’に供給されるテスト信号は、スピーカ17に供給されるテスト信号に比べて、位相が遅れている。すなわち、テスト信号に含まれる正弦波の1周期分がスピーカ17’に供給されるタイミングは、スピーカ17に供給されるタイミングよりも遅れる。そして、音声信号再生装置1では、図9(a)に示す各スピーカに供給される音声信号は、各スピーカの音声を出力する複数のスピーカユニットに対して、スピーカユニットに応じた利得や遅延時間の調整がなされて供給される。つまり、音声信号再生装置1では、図9(a)に示す各スピーカに供給される音声信号に基づいて、各スピーカの音声を出力する複数のスピーカユニットに対して、それぞれ音声信号が供給される。なお、本実施の形態では、スピーカ17および17’において、音声を出力するスピーカユニットとして、全てのスピーカユニットが選択されている。すなわち、音声信号は、スピーカユニット17a〜fおよびスピーカユニット17’a〜fに供給される。また、図3におけるテスト信号の説明と同様、メモリ16には、テスト信号を表すテスト信号データが格納されている。
テスト音声が再生される場合、制御部15は、メモリ16からテスト信号データを読み出し、テスト信号生成回路11に供給する。そして、テスト信号生成回路11は、供給されたテスト信号データに基づいてテスト信号を生成する。
また、この場合、制御部15は、選択回路7に、テスト信号を出力することを指示する制御信号を供給する。これにより、選択回路7は、図9(a)に示すテスト信号を出力し、遅延回路4、周波数特性補正部5、利得調整部6、DAC8およびアンプ9には、順次音声信号が供給される。さらに、制御部15は、遅延回路4、周波数特性補正部5、利得調整部6に制御信号を供給し、スピーカユニット17a〜fに応じた利得や遅延時間の制御を行う。そして、スピーカユニット17a〜fには、DAC8およびアンプ9を介して、それぞれ、利得や遅延時間が調整された音声信号が供給される。そして、スピーカユニット17a〜fは、利得や遅延時間が調整された音声信号に基づいて、テスト音声を出力する。
なお、図1には、スピーカ17のみが示されているが、同様の構成によって、スピーカ17’にも同じテスト信号が供給される。そして、スピーカ17’からは、スピーカ17と同様にして、図9(a)に示すテスト音声に基づいて、テスト音声が出力される。
そして、マイク18は、スピーカ17および17’が出力するテスト音声を収音し、図9(b)に示す受信信号に変換する。図9(b)に示す受信信号は、図2に示すとおり、マイク18がスピーカ17’に比べてスピーカ17に近い位置に配置されている場合の例を示している。図9(b)に示すとおり、受信信号は、振幅の異なる正弦波の1周期分の波形を2つ含んでおり、それぞれ、スピーカ17および17’から出力されたテスト音声に対応している。
なお、テスト音声は、スピーカユニット17a〜fおよびスピーカユニット17’a〜fからそれぞれ出力されるが、聴取位置において、各スピーカユニットから出力されるテスト音声の位相は、スピーカごとに同じであるが、振幅はスピーカユニットごとに異なる。なお、図9(b)では、受信信号は、スピーカごとに1つだけ示しているが、図9(b)に示す受信信号号の振幅は、各スピーカを構成するスピーカユニット17a〜fからの音声の受信信号の振幅の和を示している。
以下の説明において、スピーカ17から出力される音声とは、スピーカユニット17a〜fから出力される音声のことを指し、スピーカ17’から出力される音声とは、スピーカユニット17’a〜fから出力される音声のことを指す。
上述のとおり、マイク18は、スピーカ17’に比べてスピーカ17に近い位置に設置されている。このため、図9(b)に示す例では、スピーカ17から出力されるテスト音声に対応する受信信号の振幅の和は、スピーカ17’から出力されるテスト音声に対応する受信信号の振幅の和に比べて大きい。また、スピーカ17のテスト信号に対する受信信号の遅延量は、スピーカ17’のテスト信号に対する受信信号の遅延量に比べて小さい。
このため、同一の音声信号に基づいて、2つのスピーカから出力される音声は、聴取位置において、位相や振幅の和が異なる。したがって、聴取位置において、位相や振幅の異なる音声が合成されることになるため、ユーザの耳に到達する音の波形はなまり、明瞭性が失われる。
そこで、本発明に係る音声再生装置1では、同一の音声信号に基づいてスピーカ17とスピーカ17’とから出力される音声の波形が、聴取位置において、総合的な出力が等しくなるように、スピーカ間における音声出力の調整を行う。以下では、音声再生装置1において、スピーカ間における音声出力の調整を行う構成について、より詳細に説明する。
マイク18は、スピーカ17および17’が出力するテスト音声を収音し、図9(b)に示す受信信号に変換する。なお、上述したとおり、図9(b)において、スピーカ17からの受信信号の振幅は、スピーカユニット17a〜fからの受信信号の振幅の和であり、スピーカ17’からの受信信号の振幅は、スピーカユニット17’a〜fからの受信信号の振幅の和である。
さらに、音声再生装置1では、マイク18からの受信信号がADC14においてアナログ信号からデジタル信号に変換された後、振幅値検出部13に供給される。そして、振幅値検出部13は、スピーカ17から出力されるテスト音声に対応する受信信号の振幅の和(スピーカ17からの受信信号の振幅の和と称す)と、スピーカ17’から出力されるテスト音声に対応する受信信号の振幅の和(スピーカ17’からの受信信号の振幅の和と称す)とを検出し、制御部15に出力する。
制御部15は、スピーカ17からの受信信号の振幅の和と、スピーカ17’からの受信信号の振幅の和との比率を算出し、メモリ16に書き込む。そして、制御部15は、スピーカ17および17’から音声を出力する場合、上記比率を用いて、聴取位置において、同一の音声信号に基づいてスピーカ17および17’から出力される音声の波形の振幅の和が同一になるように調整を行う。
例えば、図9(b)に示すスピーカ17からの受信信号の振幅の和が、スピーカ17’からの受信信号の振幅の和の4倍である場合、制御部15は、スピーカ17(すなわち、スピーカユニット17a〜f)に供給する音声信号のレベル値が、スピーカ17’(すなわち、スピーカユニット17’a〜f)に供給する音声信号のレベル値の1/4になるように、利得調整部6a〜fを制御する。より具体的には、Lch信号およびRch信号として、振幅が同一の音声信号が供給される場合、制御部15は、Lch信号の利得を調整する利得調整部6a〜fに対して、それぞれ、利得を現状の利得の1/4に設定する指示を表す制御信号を供給し、Rch信号の利得を調整する利得調整部(図示せず)に対しては、利得を1に設定する(すなわち、設定中の利得のままとする)指示を表す制御信号を供給する。あるいは、スピーカ17’に供給する音声信号のレベル値が、スピーカ17に供給する音声信号のレベル値の4倍になるように、制御部15が利得調整部6a〜fを制御する構成であってもよく、特に限定はされない。
これにより、スピーカ17および17’から出力される音声は、聴取位置において、振幅の和が等しくなる。このため、聴取位置において、振幅の和の異なる音声が合成されることがないため、聴取者の耳に到達する音圧波形のなまりを低減することができ、利用者は、明瞭な音質の音声を聴くことができるようになる。
また、音声再生装置1では、上述のとおり、マイク18からの受信信号が振幅値検出部13に供給されるが、さらに、振幅値検出部13は、受信信号を遅延量検出部12に供給する。また、テスト信号生成回路11は、各スピーカユニットから出力されるテスト音声の原信号であるテスト信号を遅延量検出部12に出力する。
遅延量検出部12は、図9(a)に示す各スピーカに供給されるテスト信号と、図9(b)に示す各スピーカから出力されるテスト音声のマイク18における受信信号とを比較し、スピーカごとにテスト信号に対する受信信号の遅延量を検出する。そして、遅延量検出部12は、スピーカ17のテスト信号に対する受信信号の遅延量(スピーカ17からの受信信号の遅延量と称す)と、スピーカ17’のテスト信号に対する受信信号の遅延量(スピーカ17’からの受信信号の遅延量と称す)とを制御部15に出力する。
制御部15は、スピーカ17からの受信信号の遅延量とスピーカ17’からの受信信号の遅延量との差分値を算出し、メモリ16に書き込む。そして、制御部15は、スピーカ17および17’から音声を出力する場合、上記差分値を用いて、聴取位置において、同一の音声信号に基づいてスピーカ17および17’から出力される音声の位相が同一になるように調整を行う。
例えば、図9(b)に示すスピーカ17からの受信信号の遅延量が、スピーカ17’からの受信信号の遅延量に比べて0.1ms小さい場合、制御部15は、スピーカ17’(すなわち、スピーカユニット17’a〜f)に音声信号を供給するタイミングに対して、0.1ms遅れてスピーカ17(すなわち、スピーカユニット17a〜f)に音声信号を供給するように、遅延回路4a〜fを制御する。より具体的には、Lch信号およびRch信号として、位相が同一の音声信号が供給される場合、制御部15は、Lch信号の遅延を調整する遅延回路4a〜fに対し、それぞれ、現状の遅延時間から更に0.1ms遅延させてLch信号を供給する指示を表す制御信号を供給し、Rch信号の遅延を調整する遅延回路(図示せず)に対しては、Rch信号を現状の遅延時間から遅延させない指示を表す制御信号を供給する。あるいは、遅延回路4a〜fに対して、それぞれ、スピーカユニット17a〜fに供給するLch信号を、現状の遅延時間から更に0.2ms遅延させる指示を表す制御信号を供給し、Rch信号の遅延を調整する遅延回路(図示せず)に対して、スピーカユニット17’a〜fに供給するRch信号を現状の遅延時間から更に0.1ms遅延させる指示を表す制御信号を供給する構成であってもよく、特に限定はされない。
これにより、スピーカ17および17’から出力される音声は、聴取位置において、位相が等しくなる。このため、聴取位置において、位相の異なる音声が合成されることがないため、聴取者の耳に到達する音圧波形のなまりを低減することができ、利用者は、明瞭な音質の音声を聴くことができるようになる。
なお、本実施の形態では、スピーカ間における音声出力の調整について、スピーカごとに各スピーカユニット間の音声出力の調整を行う場合と同様、遅延回路4a〜fにおいてスピーカユニットごとに音声信号の供給を遅延させ、利得調整部6a〜fにおいてスピーカユニットごとに音声信号の大きさを変化させる構成であるが、スピーカ単位に音声信号の供給を遅延させ、スピーカ単位に音声信号の大きさを変化させる手段を別途備えた構成であってもよく、特に限定はされない。
なお、上述のとおり、音声再生装置1では、周波数特性については、スピーカごとに、スピーカを構成する全てのスピーカユニットから出力される音声の聴取位置における振幅周波数特性がフラットになるように調整されている。つまり、スピーカ17から出力される音声の聴取位置における振幅周波数特性、および、スピーカ17’から出力される音声の聴取位置における振幅周波数特性は、いずれも略一定である。
本実施の形態では、2個の六面体スピーカによる音声出力を制御する構成について説明したが、本発明に係る音声再生装置1によって制御されるスピーカは2個に限られない。例えば、音声再生装置1は、2個の六面体スピーカによる音声出力を制御する場合と同様の方法によって、6個の六面体スピーカによる音声出力を制御する構成であってもよい。
図10は、6個の六面体スピーカによって音声を再生する場合の様子を示す図であり、(a)は、1つのスピーカにおいて、複数のスピーカユニットが選択されることを示す図であり、(b)は、6個の各スピーカにおいて、複数のスピーカユニットから音声が出力されていることを示す図である。
図10に示す構成では、左チャンネル(Lch)、センターチャンネル(Cch)、右チャンネル(Rch)、右サラウンドチャンネル(RSch)、サブウーハーチャンネル(SW)、および、左サラウンドチャンネル(LSch)の各音声信号を出力するスピーカが用意されている。
6個の六面体スピーカによって音声を出力する場合においても、2個の六面体スピーカによって音声を出力する場合と同様、音声再生装置1は、各六面体スピーカについて、六面体スピーカを構成するスピーカユニットのうち、音声を出力する複数のスピーカユニットを選択する。
図10(a)に示す例では、破線で囲まれているLchの音声信号を出力する六面体スピーカにおいて、矢印によって表される音声を出力するスピーカユニットが、音声を出力するスピーカとして選択されたことを示している。
そして、音声再生装置1は、Lchの音声信号を出力する六面体スピーカの各スピーカユニットから出力される音声の位相および周波数特性が、聴取位置において、全て同じになるように、各スピーカユニットに供給する音声信号の遅延量を調整し、補正特性を付与する。
さらに、音声再生装置1は、Cch、Rch、RSch、SW、および、LSchの音声信号を出力する各六面体スピーカについても、順次、音声を出力する複数のスピーカユニットを選択する。
これにより、図10(b)に示すとおり、6個の各スピーカにおいて、スピーカを構成する6つのスピーカユニットのうち、複数のスピーカユニットから音声が出力されることになる。
そして、音声再生装置1は、Cch、Rch、RSch、SW、および、LSchの音声信号を出力する各六面体スピーカについても同様に、スピーカごとに、複数のスピーカユニットから出力される音声の位相および周波数特性が、聴取位置において、全て同じになるように、各スピーカユニットに供給する音声信号の遅延量を調整し、補正特性を付与する。
さらに、音声再生装置1は、テスト音声(すなわち、テスト信号)を用いて、6個の六面体スピーカについて、スピーカ間における音声出力の調整を行う。すなわち、音声再生装置1は、2個の六面体スピーカにおける音声出力を制御する場合と同様の方法によって、ユーザの聴取位置において、各六面体スピーカから出力される音声の波形について、振幅の和(すなわち、音圧)や原信号からの遅延量(すなわち、位相差)や周波数特性が同じになるように、6個の六面体スピーカからの音声出力を調整する。例えば、6個の六面体スピーカから出力されるテスト音声の聴取位置における振幅の和を算出し、当該振幅の和に合わせて、各スピーカ(すなわち、スピーカユニット)に供給する音声信号の大きさを変化させることによって、各スピーカからの音声の振幅を調整する。また、例えば、6個の六面体スピーカから出力されるテスト音声の聴取位置における遅延時間のうち、最大の遅延時間に合わせて、各スピーカ(すなわち、スピーカユニット)への音声信号の供給を遅延させることによって、聴取位置における各スピーカからの音声の位相を調整する。
また、本発明に係る音声再生装置1は、六面体のスピーカを制御する構成に限定されることはなく、複数のスピーカユニットを含んで構成される各種のスピーカを制御することが可能であり、特に限定はされない。
なお、本発明の構成について、以下のように表現することも可能である。
また、本発明の構成では、1つの筐体に音の放射方向を変えた複数個のスピーカユニットを組み込み、かつ、各々のスピーカユニットを独立に駆動し、音圧や周波数特性も独立に制御することで、視聴位置に最適な音質環境を実現する。
また、本発明の構成では、上記、各々のスピーカユニットから個々にテスト信号を出力し、視聴位置に置かれた集音用マイクによって検出した信号の振幅を求めることで、どのスピーカユニットが視聴者の方向を向いているかを検出する。
また、本発明の構成では、上記の方法で求めたスピーカユニットと視聴者の位置関係から各スピーカユニットに供給する信号の振幅や位相、周波数特性を決める。
また、本発明の構成では、上記の方法で調整済みの「複数個のスピーカユニットを組み込んだ筐体」が2個以上存在する場合、再度テスト信号を加え筐体間の音量バランスと遅延を視聴位置で最適になるよう調整する。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
最後に、音声再生装置に含まれる各ブロック、特に遅延量検出部12、振幅検出部13、および、制御部15は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
すなわち、音声再生装置は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである音声再生装置の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記音声再生装置に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
また、音声再生装置を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。