JP2009204900A - 光学素子の反射防止構造、その反射防止構造を備えた光学素子および反射防止構造の加工方法 - Google Patents

光学素子の反射防止構造、その反射防止構造を備えた光学素子および反射防止構造の加工方法 Download PDF

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Abstract

【課題】テラヘルツ波長域の広い周波数領域に対応し、高い透過率特性を備えた反射防止構造、その反射防止構造を備えた光学素子および反射防止構造の加工方法を提供する。
【解決手段】光学基材の表面に、底辺から上面までの高さH、上面の正方形の辺の長さT、底面の正方形の辺の長さBの台形状の四角錐台より成り、アスペクト比(H/P)が1.5以上の多数の微細構造の突起10Bが、使用波長以下のピッチPでアレイ状に配列して、テラヘルツ波長域に好適に用いることができる反射防止構造が形成されている。
【選択図】図3

Description

本発明は、光学素子の反射防止構造、特にテラヘルツ波長域に好適に用いることができる反射防止構造、その反射防止構造を備えた光学素子および反射防止構造の加工方法に関する。
従来、さまざまな用途で用いられている光学素子は、表面反射による戻り光を減少させ、且つ透過光を増加させるために、光学機能面に反射防止処理を施したり、反射防止構造を形成したりしている。
一般的な反射防止処理として、光学素子の光学機能面に真空蒸着あるいはスパッタリングなどの成膜方法を用いて単層の誘電体薄膜を形成したり、低屈折率層と高屈折率層を交互に積層した誘電体多層膜を形成したりする方法が行われている。このような反射防止膜は、波長依存性が大きく、しかも入射角が大きくなると反射防止性能が低減するという入射角依存性を有している。また、広い波長域の光、例えば可視光波長域に対応する場合であっても、数十層におよぶ多層膜を形成する必要がある。
これに対して、光学素子の光学機能面に、使用波長以下の周期でアスペクト比(周期に対する高さの比)が1以上の微細な凹凸形状をアレイ状に配列して、屈折率を連続的に変化させることによって光の反射を抑制する反射防止構造、すなわちモスアイ構造は、不要な回折光が発生せずに高い反射防止効果が得られると共に、波長依存性や入射角依存性の課題を解消することができる。
今までに、可視光波長域に対応した反射防止構造または反射防止構造を形成した光学素子が、数多く提案されている。
例えば、凸部がいわゆる台形形状を成して、その天頂部が平面または曲面より成る反射防止構造を有する光学素子(特許文献1参照)。あるいは、底面に平行な断面積が、底面からの距離の増加にしたがって単調に減少し、その減少率が底面からの距離が小さい程大きい凸部を備えた回折格子(特許文献2参照)。さらに、アスペクト比が1以上の六角錐形状を単位として、光の波長以下のピッチでアレイ状に配列されており、六角錐形状が、各底辺の六角形の外接円が2次元の細密構造をなし、且つ隣接する六角形の頂点同士が接するように配列された無反射構造(特許文献3参照)などが提案されている。
一方、近年のテラヘルツ光源の登場により、テラヘルツ光源を用いた各種機器の開発が急がれており、テラヘルツ波長域(周波数300GHz〜周波数3THz程度)に対応した反射防止構造、およびその反射防止構造を備えた光学素子の出現が望まれている。
こうしたテラヘルツ周波数帯の光(電磁波)に対応した反射防止構造を、前記した従来の誘電体多層膜を用いて形成しようとすると、膜厚が数百μm程度にまで達する。これに対応するためには、高速成膜装置が必要となる(例えば、特許文献4参照)。したがって、テラヘルツ周波数帯に対応する反射防止には、モスアイ構造を利用するのが好ましいと言える。
特開2005−173457号公報(図1) WO2004/031815 特開2006−171229号公報 特開2004−109827号公報
しかしながら、特許文献1〜特許文献3に示される反射防止構造および光学素子は、いずれも可視光波長域に対応したものであり、近年、急速に注目されつつあるテラヘルツ波長域の広い周波数領域に対応し、高い透過率特性を備えた反射防止構造およびその反射防止構造を備えた光学素子の出現が望まれている。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本適用例に係る反射防止構造は、光学基材の表面に多数の微細構造の突起を使用波長以下の周期でアレイ状に配列して形成した反射防止構造であって、前記使用波長がテラヘルツ波長域であり、前記突起が台形状のn角錐台より成り、nが以下の一般式(1)で表される値であることを特徴とする。
3≦n≦6…(1)
これによれば、光学基材の表面に形成された反射防止構造が、台形状のn角錐台より成り、nが前記一般式(1)で表される値の多数の微細構造の突起が、使用波長以下の周期でアレイ状に配列して形成されていることにより、台形状のn角錐台より成る突起を光学基材の表面に隙間なく形成すると共に、アスペクト比の高い反射防止構造が安定して得られ、テラヘルツ波長域(周波数300GHz〜周波数3THz程度)の広い周波数領域に対応した高い透過率特性を備えた反射防止構造を得ることができる。
[適用例2]
上記適用例に係る反射防止構造であって、前記n角錐台のアスペクト比が、以下の一般式(2)で表される値であるのが好ましい。
1.5<H/P…(2)
但し、Hは前記n角錐台の底面から頂点までの高さ、Pは周期を表す。
これによれば、反射防止構造を形成する多数の台形状のn角錐台(3≦n≦6)のアスペクト比が、前記一般式(2)で表される値であることによって、テラヘルツ波長域の広い周波数領域に対応し、高い透過率特性を備えた反射防止構造が得られる。
[適用例3]
上記適用例に係る反射防止構造であって、前記n角錐台が、以下の一般式(3)の関係を満足するのが好ましい。
h/H=0.5の時、0.3<s<0.7…(3)
但し、Hは前記n角錐台の底面から頂点までの高さ、hは前記n角錐台の底面から媒質の断面までの高さであり、sは高さhにおける前記n角錐台の媒質の断面の面積と単位面積との比であり、当該単位面積とは前記n角錐台の最大形成領域の面積である。
これによれば、反射防止構造を形成する多数の台形状のn角錐台(3≦n≦6)が、前記一般式(3)の関係を満足することによって、n角錐台の側面における不要な回析光の発生を抑制し、テラヘルツ波長域の広い周波数領域に対応した高い透過率特性を備えた反射防止構造が得られる。
[適用例4]
上記適用例に係る反射防止構造であって、前記n角錐台の天頂部が、n角形の平面または曲面であるのが好ましい。
これによれば、反射防止構造を形成する多数の台形状のn角錐台(3≦n≦6)の天頂部が、n角形の平面または曲面であることによって、天頂部における不要な回析光の発生をより抑制して、より高い透過率特性を備えた反射防止構造が得られる。
[適用例5]
上記適用例に係る反射防止構造であって、互いに隣り合う前記n角錐台の底面間に、二つの前記底面の端点同士を結ぶV溝またはU溝を有するのが好ましい。
これによれば、反射防止構造を形成する多数の台形状のn角錐台(3≦n≦6)が、互いに隣り合うn角錐台の底面間に、二つの底面の端点同士を結ぶV溝またはU溝を有することによって、平面部における急激な屈折率変化による反射を抑制して、より高い透過率特性を備えた反射防止構造が得られる。
[適用例6]
本適用例に係る光学素子は、上記適用例に係る反射防止構造が、光学機能面に形成されて、テラヘルツ波長域の光線を透過することを特徴とする。
これによれば、上記した反射防止構造が、光学基材の少なくとも光学機能面となる領域に形成されて、テラヘルツ波長域(周波数300GHz〜周波数3THz程度)の光線を透過する光学素子を得ることができる。光学素子として、水晶、アモルファス石英、ゲルマニウム、シリコン、酸化マグネシウムなどの光学基材より成る各種レンズ、偏光子、検光子フィルタなどが挙げられる。
[適用例7]
本適用例に係る反射防止構造の加工方法は、テラヘルツ波長域の光線を透過する光学素子となる光学基材の表面に、nの数が以下の一般式(4)で表される値の台形状のn角錐台より成る多数の微細構造の突起を、使用波長以下の周期でアレイ状に形成する反射防止構造の加工方法であって、前記光学基材にフェムト秒レーザ光を照射して前記光学基材の内部に前記n角錐台の底面に沿う形状の改質領域を形成するレーザ加工工程と、エッチング液中に浸漬してエッチングを行うエッチング工程と、を備えるのが好ましい。
3≦n≦6…(4)
この加工方法によれば、光学基材にフェムト秒レーザ光を照射して光学基材の内部にn角錐台の底面に沿う形状の改質領域を形成するレーザ加工工程と、エッチング液中に浸漬してエッチングを行うエッチング工程とを備えることによって、テラヘルツ波長域の広い周波数領域に対応し、高い透過率特性を備えた反射防止構造を容易に加工することができる。
[適用例8]
本適用例に係る反射防止構造の加工方法は、テラヘルツ波長域の光線を透過する光学素子となる光学基材の表面に、nの数が以下の一般式(5)で表される値の台形状のn角錐台より成る多数の微細構造の突起を、使用波長以下の周期でアレイ状に形成する反射防止構造の加工方法であって、前記光学基材の表面に、表面から順に金属膜、レジスト膜を形成し、前記レジスト膜に光又は電子ビームを照射して多数の前記n角錐台の上面形状を描画した後、ウエットエッチングしてエッチングマスクを形成するエッチングマスク形成工程と、ドライエッチングを行うエッチング工程と、を備えるのが好ましい。
3≦n≦6…(5)
この加工方法によれば、光学基材の表面に、表面から順に金属膜、レジスト膜を形成し、レジスト膜に電子ビームを照射して多数のn角錐台の上面形状を描画した後、ウエットエッチングしてエッチングマスクを形成するエッチングマスク形成工程と、を備えることによって、テラヘルツ波長域の広い周波数領域に対応し、高い透過率特性を備えた反射防止構造を容易に加工することができる。
[適用例9]
本適用例に係る反射防止構造の加工方法は、テラヘルツ波長域の光線を透過する光学素子となる光学基材の表面に、nの数が以下の一般式(6)で表される値の台形状のn角錐台より成る多数の微細構造の突起を、使用波長以下の周期でアレイ状に形成する反射防止構造の加工方法であって、前記光学基材の表面に感光性フィルムをラミネートして、前記光学基材の表面に多数の前記n角錐台の上面形状に相似した形状の前記感光性フィルムのマスクを形成するマスキング工程と、前記感光性フィルムでマスキングされた前記光学基材の表面に、研磨剤を噴射するブラスト工程と、を備えるのが好ましい。
3≦n≦6…(6)
この加工方法によれば、光学基材の表面に感光性フィルムをラミネートして、光学基材の表面に多数のn角錐台の上面形状に相似した形状の感光性フィルムのマスクを形成するマスキング工程と、感光性フィルムでマスキングされた光学基材の表面に、研磨剤を噴射するブラスト工程と、を備えることによって、テラヘルツ波長域の広い周波数領域に対応し、高い透過率特性を備えた反射防止構造を容易に加工することができる。
[適用例10]
本適用例に係る反射防止構造の加工方法は、テラヘルツ波長域の光線を透過する光学素子となる光学基材の表面に、nの数が以下の一般式(7)で表される値の台形状のn角錐台より成る多数の微細構造の突起を、使用波長以下の周期でアレイ状に形成する反射防止構造の加工方法であって、前記光学基材の表面にアレイ状に配列されて互いに隣り合う二つの前記n角錐台の側面に相似した形状が先端部に向かって形成されたブレードを、回転しながら、前記ブレードまたは前記光学基材のZ方向の送りと、形成する前記n角錐台の底面形状に沿う平面方向に移動するのが好ましい。
3≦n≦6…(7)
この加工方法によれば、光学基材の表面にアレイ状に配列されて互いに隣り合う二つのn角錐台の側面に相似した形状が先端部に向かって形成されたブレードを、回転しながらブレードまたは光学基材のZ方向の送りと、形成するn角錐台の底面形状に沿う平面方向に移動することによって、テラヘルツ波長域の広い周波数領域に対応し、高い透過率特性を備えた反射防止構造を容易に加工することができる。
本実施形態に係る光学素子は、光学機能面に反射防止構造を有し、テラヘルツ波長域の光を透過する光学素子である。光学素子の光学機能面には、透過する光の波長よりも短いピッチの微細な突起(凸部)がアレイ状に配列した反射防止構造が形成されている(図8参照)。
先ず、反射防止構造について説明する。
従来より、広い波長域の光に対して反射防止効果を得るためには、突起が錘形状であるのが好ましいとされている。
図1は、反射防止構造を形成する四角錘形状の突起を模式的に示す斜視図である。なお、図1には、アレイ状に配列された突起の内、二個のみを図示する。
図1において、突起10Aは、底面が正方形で頂点の高さHの四角錘形状から成り、図示しないが同形状の多数の突起10Aが、互いの底面形状の正方形の4辺方向にピッチPでアレイ状に配列して形成されている。なお、アレイ状に配列された微細な突起の底面形状が正方形であれば、光学基材の表面に隙間なく形成することができる。
図2は、図1に示す突起が四角錘形状の反射防止構造における規格化波長と透過率との関係を示すグラフである。なお、透過率は0(ゼロ)次光における値であり、光学基材として水晶を用い、水晶のテラヘルツ波長域における屈折率を、2.108とした場合のシミュレーションに基づく演算結果である。
図2に示すグラフは、横軸に規格化波長を示し、縦軸に透過率(%)を示す。なお、本実施形態における規格化波長とは、光の波長λに対するピッチPとの比を表し、「λ/P」を示す。
したがって、規格化波長は、波長λに比例してピッチPを小さくすれば同じ値を示す。例えば、1THz(テラヘルツ)における波長λは300μmであり、ピッチPを波長λよりも短い50μmとした場合の規格化波長は6.0であり、ピッチPを100μmとした場合の値は、3.0となる。
グラフ中に示す曲線a1は、四角錘形状の突起10Aにおける「高さ(H)/ピッチ(P)」、すなわち突起10Aのアスペクト比が1.0における分光透過率特性を示す。同様に、曲線a2はアスペクト比1.5、曲線a3はアスペクト比2.0、曲線a4はアスペクト比2.5における分光透過率特性を示す。
図2において、いずれの曲線に示す透過率特性も、規格化波長の値が2.0付近から急激に上昇して100%に限りなく近い値を示すが、アスペクト比(H/P)が大きい程、広い規格化波長(λ/P)範囲に対して高い透過率で推移する。
例えば、規格化波長6.0(1THzに該当)における透過率は、アスペクト比1.0(曲線a1)において、92%程度でありアスペクト比1.5(曲線a2)以上のアスペクト比において、95%以上の高い値を示す。また、透過率95%以上の規格化波長(λ/P)の幅は、アスペクト比1.0(曲線a1)〜アスペクト比2.5(曲線a4)の順に、略2、略4、略6、略8である。
なお、反射防止構造としては、短波長側と長波長側との間の対応可能な周波数領域が、少なくとも短波長側の周波数に対して3倍程度の範囲を備えているのが好ましい。すなわち、所定の透過率以上の規格化波長(λ/P)の範囲(短波長側の限界と長波長側の限界の比)が3以上備えているのが好ましい。したがって、突起10Aのアスペクト比(H/P)は、少なくとも1.5以上であるのが好ましいと言える。
しかしながら、微細な四角錘形状の突起10Aは、先端部が鋭く尖っているために、形状バラツキが発生し易く、しかも加工性の面からも課題を有する。
これらに対応するためには、四角錘形状の天頂部が四角の平面または曲面であるのが好ましい。すなわち、突起形状が台形状の四角錐台であるのが好ましい。以後、台形状の四角錐台を台形形状と表す。
図3は、反射防止構造を形成する台形形状の突起を模式的に示す斜視図である。なお、図3には、アレイ状に配列された突起の内、三個のみを図示し、図1に示す突起10Aと同様に、同形状の多数の突起10Bが、互いの底面形状の正方形の4辺方向にピッチPでアレイ状に配列して形成されている。
図3において、突起10Bは、図1に示した底面が正方形の四角錘形状の天頂部を、底面に平行な面で切断した態様の、台形状の四角錐台を成している。以後、台形状の四角錐台を台形形状と表す。
そして、突起10Bは、底辺から台形形状の天頂部までの高さ、すなわち底辺から上面までの高さH、上面の正方形の辺の長さT、底面の正方形の辺の長さB、より成る台形形状を形成している。なお、高さhは、底面から底面に平行な媒質の断面までの高さであり、これについては後述する。
図4は、図3に示す突起が台形形状の上辺における規格化波長と透過率との関係を示すグラフであり、図5は、突起が台形形状の底辺における規格化波長と透過率との関係を示すグラフである。なお、透過率は0(ゼロ)次光における値であり、光学基材として水晶を用い、台形形状のアスペクト比(H/P)2.0の場合のシミュレーションに基づく演算結果である。
図4および図5に示すグラフは、図2と同様に、横軸に規格化波長を示し、縦軸に透過率(%)を示す。
図4のグラフ中に示す曲線b1は、上面の正方形の一辺の長さTのピッチPに対する比「T/P」の値が0(ゼロ)、すなわち台形形状の平面が存在しない四角錘形状を成した状態の分光透過率特性を示す。したがって、曲線b1は、前記図2における曲線a3と同じ線図である。
なお、「T/P」の値は、大きくなるに従って台形形状の側面が垂直方向に向かって変位する。以後において、T/Pの値をT/PまたはRTと表す。
曲線b2はRT=0.2、曲線b3はRT=0.4、曲線b4はRT=0.6、曲線b5はRT=0.8における分光透過率特性を示す。なお、分光透過率の各曲線は、図2の場合と同様の方法でのプロット点を結んだ線図である。
図4において、台形形状の突起10Bで形成された反射防止構造は、RT=0(曲線b1)からRT=0.6(曲線b4)の間において、RTの値が大きくなるに従って、より広い規格化波長(λ/P)範囲に対応することが可能な分光透過率特性を示すが、RT=0.8(曲線b5)の場合には、RT=0.4(曲線b4)と同程度の規格化波長(λ/P)範囲に対応しているが、その間、低い透過率で推移する。
例えば、RT=0(曲線b1)〜RT=0.6(曲線b4)において、透過率95%以上の規格化波長(λ/P)の幅は、RT=0(曲線b1)〜RT=0.6(曲線b4)の順に、略6、略8、略10、略11であり、規格化波長範囲(広い周波数領域)が大幅に拡大する。したがって、必要に応じてアスペクト比(H/P)を2.0よりも低く設定することも可能であり、より加工し易い反射防止構造が得られる。
このことから、台形形状の突起10Bにおける上面の辺の長さTのピッチPに対する比、RT=T/Pの値が0.1〜0.7程度であると、四角錘形状の突起10Aで形成された反射防止構造に比べて、広い規格化波長範囲(広い周波数領域)に対応した高い透過率特性が得られる。なお、より好ましいRT=T/Pの値は、0.3〜0.7程度の範囲であり、より広い周波数領域に対応することができる。なお曲線として図示しないRT=0.3およびRT=0.7における分光透過率特性は、曲線b2(RT=0.2)と曲線b3(RT=0.4)、および曲線b5(RT=0.8)と曲線b4(RT=0.6)との略中間に位置する曲線を描く。
一方、図5のグラフ中に示す曲線c1は、底面の正方形の辺の長さBのピッチPに対する比「B/P」が1.0、すなわち互いに隣り合う台形形状の突起10Bの長さBの辺が、隙間ないようにして形成された状態の分光透過率特性を示す。
なお、「B/P」の値は、小さくなるに従って互いに隣り合う台形形状の底面の最端位置間に平面部が発生し、その平面領域が大きくなる。以後において、B/Pの値をB/PまたはRBと表す。
曲線c2はRB=0.8、曲線c3はRB=0.6、曲線c4はRB=0.4における分光透過率特性を示す。なお、分光透過率の各曲線は、図2および図3の場合と同様の方法でのプロット点を結んだ線図である。
図5において、台形形状の突起10Bで形成された反射防止構造は、RB=1.0(曲線c1)からRB=0.4(曲線c4)に向かって、RBの値が小さくなるに従って透過率が低下すると共に、規格化波長範囲(周波数領域)が大幅に狭くなる。
例えば、透過率95%以上の規格化波長(λ/P)の幅は、RB=1.0(曲線c1)およびRB=0.8(曲線c2)において略6、RB=0.6(曲線c3)において略3であるが、互いに隣り合う突起10Bは、台形形状の底辺同士間に隙間がないようにして配置して平面部ができる限り小さいことが好ましいと言える。
次に、こうした結果に基づいて、台形形状の突起10Bの単位面積に対する面積比について説明する。
図6は、図3に示す台形形状の突起の規格化高さと上面の面積比との関係を示すグラフである。図7は、図3に示す台形形状の突起の規格化高さと底面の面積比との関係を示すグラフである。
なお、本実施形態における規格化高さとは、底辺から台形形状の天頂部までの高さHに対する底面に平行な底辺から高さhとの比を表し、「h/H」の値である(図3参照)。また、単位面積とは、ピッチPでアレイ状に配列されて形成された突起10Bの、一個あたりの最大形成領域の面積、すなわちピッチPの二乗の値である。面積比は、その単位面積に対する高さhにおける媒質の断面の占有割合である。
図6および図7に示すグラフは、横軸に規格化高さ(h/H)を示し、縦軸にそれぞれの面積比を示す。すなわち、台形形状の突起の上面および底面の面積比が高さによってどのように推移するかを示す。
図6において、上面面積が単位面積に達した状態が面積比1.0(100%)であり、底面に平行な底辺からの高さhが底辺から突起の天頂部までの高さHに一致した状態が規格化高さ1.0である。
図6のグラフ中に示す各曲線は、図4に示した曲線b1〜曲線b5の場合と同様に、上面の正方形の一辺の長さTのピッチPに対する比「T/P=RT」の値に対応した線図であり、曲線d1はRT=0、曲線d2はRT=0.2、曲線d3はRT=0.4、曲線d4はRT=0.6、曲線d5はRT=0.8における面積比の推移を示す。
図6に示すように、RT=0(曲線d1)は、当然のことながら面積比1.0と規格化高さ1.0との間をカーブしながら結んだ線図を示す。そしてRTの値が大きくなるに従って、規格化高さ(h/H)に対する面積比が大きくなる推移を示す。
こうした線図において、前記図3に示す規格化波長と透過率との関係において、広い周波数領域に対応するための好ましいRT=T/Pの値は、0.3〜0.7程度の範囲であることから、台形形状の上面における好ましい面積比は、例えば、規格化高さ(h/H)0.5の時に、0.3〜0.7程度の範囲であると言える。
なお、図示しないRT=0.3およびRT=0.7の曲線は、曲線d1(RT=0)と曲線d2(RT=0.2)との略中間、および曲線b5(RT=0.8)と曲線b4(RT=0.6)との略中間に位置する曲線を描く。よって、好ましい面積比sは、例えば、規格化高さ(h/H)0.5の時に、「0.3<s<0.7」であると言える。
一方、図7において、台形形状の突起の規格化高さと底面の面積比との関係は、底面面積が単位面積に達した状態が面積比1.0(100%)であり、底面に平行な底辺から高さhが底辺から台形形状の天頂部までの高さHに一致した状態が規格化高さ1.0である。
図7のグラフ中に示す各曲線は、図5に示した曲線c1〜曲線c4の場合と同様に、底面の正方形の一辺の長さBのピッチPに対する比「B/P=RB」の値に対応した線図であり、曲線e1はRB=1.0、曲線e2はRB=0.8、曲線e3はRB=0.6、曲線e4はRB=0.4における面積比の推移を示す。
図7に示すように、RB=1.0(曲線e1)は、面積比1.0と規格化高さ1.0との間をカーブしながら結んだ線図を示す。そしてRBの値が小さくなるに従って、規格化高さ(h/H)に対して面積比が小さくなる線図を示す。
したがって、台形形状の底面における面積比は、前記図5に示す規格化波長と透過率との関係からも、台形形状の底面面積が単位面積(最大形成領域の面積)に限りなく近く、隣り合う台形形状の底辺間に形成される平面部ができる限り小さいことが好ましいと言える。
以上に説明した結果から、光学素子の光学機能面に、透過する光の波長よりも短いピッチの微細な突起がアレイ状に配列された反射防止構造は、アスペクト比(H/P)が少なくとも1.5以上であり、且つ台形形状の突起10Bにおける単位面積(最大形成領域の面積)に対する媒質の断面の面積比sが、例えば、規格化高さ(h/H)0.5の時に、0.3<s<0.7の範囲であること、さらに台形形状の底面面積が単位面積に限りなく近く、台形形状の底辺間に形成される平面部ができる限り小さいことによって、広い周波数領域に対応した高い透過率特性が得られる。
こうした反射防止構造が、光学基材の少なくとも光学機能面となる領域に形成されて、テラヘルツ波長域(周波数300GHz〜周波数3THz程度)の光線を透過する光学素子が得られる。
図8は、本実施形態に係る光学素子を模式的に示す斜視図であり、図9は、突起断面部を(図8中に斜線領域αで示す)含む光学素子の部分拡大断面図である。
図8において、光学素子1は、光学基材の少なくとも光学機能面となる領域に多数の台形形状の突起10Bが、透過する光の波長よりも短いピッチPでアレイ状に配列して形成されている。
形成された多数の台形形状の突起10Bは、前記した以下に示す条件を備えているのが望ましく、こうした条件を単独又は/及び複数、満足すれば、各構成寸法値は、所望のピッチPや使用周波数域などに基づいて適宜設定することができる。
(1)アスペクト比(H/P)が少なくとも1.5以上であること。
(2)台形状の形状の突起10Bにおける単位面積(最大形成領域の面積)に対する媒質の断面の面積比sが、例えば、規格化高さ(h/H)0.5の時に、「0.3<s<0.7」であること。
(3)台形形状の底面の面積が単位面積に限りなく近く、台形形状の底辺同士間に形成される平面部ができる限り小さいこと。
例えば、台形形状の突起10Bの天頂部の形状に関して言えば、図9に示すように、正方形の平面を備えた突起10Bであっても良いし、突起10B1に示すように、平面と二つの円弧R2のアール面とを含むような形状であっても良い。さらに、突起10B2に示すように、円弧R1より形成される曲面であっても良い。天頂部にこうした形状であることによって、天頂部における不要な回析光の発生をより抑制して、より高い透過率特性が得られる。
また、互いに隣り合う台形形状の底辺の長さB(底面)間に平面部が形成される場合には、隣り合う互いの底辺の長さB(底面)の端点同士を結ぶV溝(断面がV字形状の溝、図中に斜線部βで示す)、またはU溝(断面がU字形状の溝、図中に斜線部γで示す)などが形成されているのが好ましい。これにより、平面部における急激な屈折率変化による反射を抑制して、より高い透過率特性が得られる。
テラヘルツ波長域に適用した光学素子1としては、各種レンズ、偏光子、検光子フィルタなどが挙げられる。例えば、レンズとしては、レンズ面に半球形状や超半球形状を有する基板レンズなどの特殊レンズにも適用することができる。また、光学素子1の光学基材としては水晶、アモルファス石英、ゲルマニウム、シリコン、酸化マグネシウムなどが挙げられる。
そして、光学素子1は、テラヘルツ発振器、テラヘルツ放射顕微鏡、テラヘルツ検出器、テラヘルツ分光器などの機器に搭載して、郵便物検査、医薬品検査、所持品検査などの非破壊検査に利用することができる。
以上の実施形態において、台形形状(台形状の四角錐台)の突起10Bの底面が正方形の場合で説明したが、これに限定されない。底面の形状が正六角形または正三角形の台形形状の突起で有っても良い。すなわち、台形状の六角錐台または台形状の三角錐台の突起で有っても良い。
図10は、本実施形態に係る反射防止構造の別の突起形状の底面配置を示す平面図であり、図11は、本実施形態に係る反射防止構造のさらに別の突起形状の底面配置を示す平面図である。
図10において、反射防止構造を形成する突起の底面の形状が正六角形11を成し、互いに隣り合う六角形の各辺同士が接するように配置されている。反射防止構造は、この正六角形を底面とする台形状の六角錐台の多数の突起が、ピッチP(図示せず)で周期的に配列して形成される。
また、図11において、反射防止構造を形成する突起の底面の形状が正三角形12を成し、互いに隣り合う三角形の各辺同士が接するように配置されている。反射防止構造は、この正三角形を底面とする台形状の三角錐台の多数の突起が、ピッチP(図示せず)で周期的に配列して形成される。
こうした突起の底面の形状が正六角形11または正三角形12であることにより、底面の形状が正方形の場合と同様に、単位面積に対する面積、すなわち面積比を最も大きくすることができる。
なお、反射防止構造を形成する突起の底面の形状が、正六角形11や正三角形12より成る台形状の六角錐台または三角錐台の場合であっても、前記した台形形状(台形状の四角錐台)の場合と同様の条件を、突起の形状に係らず適用することができる。
次に、反射防止構造の加工方法について説明する。
本実施形態の反射防止構造は、大きなピッチPの台形形状の突起で構成されるので、可視光域や近赤外線域に用いられる超微細な反射防止構造に比べて各種の加工方法を用いて容易に加工することができる。また、突起の形状が不規則に形成されることもない。
加工方法としては、研削加工法、ブラスト加工法、エッチング加工法、レーザ加工法などを用いて加工することができる。以下、こうした加工方法の内のいくつかを、光学基材として水晶板を用いて説明する。
[レーザ加工]
反射防止構造のレーザ加工は、レーザ加工工程において、光学基材としての水晶板に、レーザ加工装置を用いてレーザアブレーション加工を行った後、エッチング工程において、エッチング処理を施して、台形形状の多数の突起が形成される。
レーザ加工装置は、フェムト秒(10-15秒)のパルス幅のレーザ光LBを射出するレーザ光源20、レーザ光LBを集光する集光レンズ21、水晶板30を載置してレーザ光LBの光軸と直交する平面内のX軸方向およびY軸方向と、X軸およびY軸方向に直交するZ軸方向へ移動する機能を有するステージ移動部、これらの各構成要素を制御する制御部などを備えている(後述する図12参照)。
レーザ光源20は、例えば、波長800nm、パルス幅100fs(フェムト秒)レーザ光LBを、繰り返し率1KHz程度でパルス発振して照射する機能を有する。集光レンズ21は、例えば開口数0.8程度の対物レンズから成る。
図12(a)〜図12(c)は、レーザアブレーション加工による台形形状の突起形成の態様を示す光学基材の部分断面図である。
先ず、レーザ加工工程では、図12(a)において、レーザ光LBの集光点40の位置を、加工線30d上の水晶板30内部に調節する。レーザ光LBの集光点40の位置は、面30bにできる限り近い位置に設定される。例えば、面30bと集光点40との距離δが20μm程度になるように位置調節する。
そして、加工線30d上にレーザ光LBを照射しながら、水晶板30をレーザ光LB(集光レンズ21)に対して相対移動することによって、水晶板30の内部に多数の改質領域41が形成される。水晶板30のレーザ光LB(集光レンズ21)に対する相対移動は、加工線30dのY軸方向に沿って移動する。
集光点40では、多光子吸収によって改質領域41が形成される。改質領域41は、集光点40における性質(屈折率、透過率、光吸収率、結晶性など)が母材(水晶)と異なる状態に変態した変質領域であり、集光点40のZ軸方向に沿って長手方向を有する針状に形成される。
これは、レーザ光LBのパルス幅が極めて小さいフェムト秒(10-15秒)であることで、極短時間にレーザ光LBのエネルギーが水晶板30内に集中し、集光されたレーザ光LBの多数の光子が、水晶板30の電子との相互作用で吸収される。いわゆる多光子吸収の現象が生じる。多光子吸収は、レーザ光LBのエネルギーが熱に変換される前に、極短時間の間に行われ、熱の発生をほとんど伴わない。また、多光子吸収は、レーザ光LBを集光させた水晶板30の内部のみに作用させることができ、水晶板の面30a,30bには、影響を及ぼさない。
そして、図12(b)に示すように、水晶板30の厚み方向(+Z軸方向)に繰り返し相対移動して、水晶板30の加工線30dに沿う厚み方向の内部に、多層に並設された改質領域41が連続的に形成される。相対移動ピッチおよび相対移動回数は、形成する多数の台形形状の突起の底辺から頂点までの高さH(図3および図9参照)に応じて適宜設定される。引き続き、全ての加工線30dに沿って同様にレーザ照射・走査が行われて、水晶板30の面30b上に、形成する突起形状に対応した多数の改質領域41が形成される。
その後、多数の改質領域41が形成された水晶板30は、改質領域41のエッチングを行うエッチング処理が行われる(エッチング工程)。
エッチング処理は、例えばフッ化水素(HF)10%濃度のフッ化水素酸の溶液より成るエッチング液中に水晶板30を2時間程度浸漬するウエットエッチングが行われる。
これにより、水晶板30の母材(水晶)と改質領域41のエッチングレートが異なることにより、改質領域41がエッチングされる。具体的には、改質領域41のエッチングレートは、母材の水晶のエッチングレートよりも高い状態となり、改質領域41を除く他の領域のエッチングが遅く進行する。また、改質領域41では、X軸方向に除去される速度よりもZ軸方向に除去される速度の方が速い。
この結果、図12(c)に示すように、水晶板30内に面30bを底辺とする略V字状の断面形状を有する溝30cが形成される。形成された溝30cの一方の面は、台形形状の突起の一つの側面を構成する。
こうした加工線30dの平面形状を、多数の台形形状の突起の底面形状に対応した形状とすることで、突起の底面の形状が、正方形、正六角形または正三角形より成る多数の台形状の四角錐台、六角錐台または三角錐台が形成された反射防止構造が形成される。
[エッチング加工]
反射防止構造のエッチング加工は、光学基材としての水晶板の表面に、エッチングマスク形成工程と、エッチング処理を施すエッチング工程によって、台形形状の多数の突起が形成される。
エッチングマスク形成工程では、先ず、水晶板の表面に、スパッタリング法を用いて金属膜としてのCr膜を0.1μm程度の厚みで形成する。このCr膜は、エッチング処理を行う際にマスクとして機能する。そして、Cr膜の表面にスピンコート法を用いて熱可塑性樹脂、例えばPMMA(ポリメタクリル酸メチル)より成るレジスト膜を形成する。
そして、Cr膜上に形成されたレジスト膜に、光又は電子ビームを照射して、形成する反射防止構造の台形形状の上面形状を描画する。これにより,光又は電子ビームが照射された描画部分が化学反応に対して可溶となる。
そして、ウエットエッチング法により、描画部分のレジスト膜およびレジスト膜の下層に形成されたCr膜をエッチングして、水晶板の表面に多数の台形形状の上面形状が形成されたCr膜よりなるポジ型エッチングマスクが形成される。
そして、エッチング工程に移行する。
エッチング工程では、エッチングマスクが形成された水晶板をドライエッチング装置を用いてエッチング処理を行う。
エッチング処理は、ドライエッチング装置内にフロンR23(CHF3)およびO2ガスを導入して行われる。このエッチング処理により、水晶板の表面に、多数の台形形状の突起よりなる反射防止構造が形成される。
なお、光学基材形成されたレジスト膜に,光又は電子ビームを照射して、正方形、正六角形または正三角形の上面形状を描画することによって、突起の底面の形状が正方形、正六角形または正三角形より成る多数の台形状の四角錐台、六角錐台または三角錐台を形成することができる。
[ブラスト加工]
反射防止構造のブラスト加工は、光学基材としての水晶板の表面に、マスキング工程でマスクを形成した後に、ブラスト工法により台形形状の多数の突起が形成される。
マスキング工程は、先ず、水晶板の表面に感光性ドライフィルムをラミネートする。そして、感光性ドライフィルムの上面に、予め作製した、反射防止構造の台形形状の上面形状以外の領域を除去するように形成されたマスクを重ね合わせて、感光性ドライフィルムの露光を行う。露光は、露光装置を用いて、マスク上に紫外線が照射される。
そして、現像を行う。現像は、感光性ドライフィルムの露光が行われた水晶板を、現像装置内に投入して、露光された感光性ドライフィルム上に現像液をスプレイノズルから噴射して行う。現像液としては、例えば、濃度0.1%〜0.3%程度で、液温が30℃程度の炭酸ナトリウム水溶液を用いる。これにより、水晶板の表面に、形成される反射防止構造の台形形状の上面形状に相似した形状の多数の感光性ドライフィルムが残存する。
そして、酸性水溶液によるリンスおよび乾燥を行った後、ブラスト工程に移行する。
ブラスト工程では、感光性ドライフィルムが現像された水晶板を、マイクロブラスト装置を用いて、ブラスト加工が行われる。
ブラスト加工は、マイクロブラスト装置を用いて、感光性ドライフィルムが現像された水晶板の表面に、ブラストノズルから圧縮空気と共に研磨剤を噴射して、残存する感光性ドライフィルム以外の領域の水晶板を脆性破壊原理により除去する。そして、研磨剤の噴射制御をすることによって、水晶板の表面に多数の台形形状の突起よりなる反射防止構造が形成される。
なお、研磨剤としては、炭化ケイ素、アルミナ、ガラスビーズあるいはステンレスパウダーなどが挙げられる。また、研磨剤の粒度は、形成する多数の台形形状の突起のアスペクト比(底辺から頂点までの高さH/ピッチP)を考慮して適宜選定することができるが、台形形状の底面面積が単位面積(最大形成領域の面積)に限りなく近い形状を得るためには、JIS1998に規定された#1000〜#6000(粒子径:2μm〜11.5μm)程度の微粉を用いるのが好ましい。
[研削加工]
研削加工は、可視光域や近赤外線域に用いられる超微細な反射防止構造に適用することは困難であるが、本実施形態の反射防止構造が大きなピッチPの台形形状の突起で構成されていることによって可能となる加工方法である。
反射防止構造の研削加工は、ブレードとしてのマイクロブレードを備えたダイシング装置を用いて、光学基材としての水晶板の表面に多数の溝入れを行って、台形形状の多数の突起を形成する。
研削加工に用いるマイクロブレードは、例えば鋳鉄、コバルトなどを主成分とする金属ボンド材と、粒度が#3000(粒子径:4μm)〜#6000(粒子径:2μm)程度のダイヤモンドを焼結したメタルボンドより成り、マイクロブレードの刃先には、アレイ状に配列されて互いに隣り合う二つの台形形状の突起の側面に相似した形状が先端部に向かって形成されている。
加工方法は、ダイシング装置に取り付けたマイクロブレードを、回転速度30,000rpm程度で回転しながら、マイクロブレードまたは光学基材を、形成する突起のアスペクト比に応じた繰り返し回数のZ方向の送りと、形成する台形形状の底面形状に沿う平面方向に、移動することによって、水晶板の表面に多数の台形形状の突起よりなる反射防止構造が形成される。したがって研削加工は、アレイ状に形成される複数の台形形状の底面形状が、複数の一直線で構成される正四角形および正三角形の反射防止構造に用いるのが効果的である。
なお、研削加工の際に、マイクロブレードの目つぶれや目詰まりによる研削性能の低下に対して、一定時間毎にマイクロブレードのドレッシングを行う必要がある。
こうしたマイクロブレードの目つぶれや目詰まりに対応するためには、ダイシング装置に代えて、電解インプロセスドレッシング(ELID:ELectrolytic In-process Dressing)システムを搭載したレシプロ形態の研削装置を用いることもできる。ELID法を用いると、マイクロブレードの金属ボンド材みを選択的に除去し、効果的、且つ自動的にマイクロブレードのドレッシングを行うことができる。
反射防止構造を形成する四角錘形状の突起を模式的に示す斜視図。 突起が四角錘形状の規格化波長と透過率との関係を示すグラフ。 反射防止構造を形成する台形形状の突起を模式的に示す斜視図。 台形形状の突起の上辺における規格化波長と透過率との関係を示すグラフ。 台形形状の突起の底辺における規格化波長と透過率との関係を示すグラフ。 台形形状の突起の規格化高さと上面の面積比との関係を示すグラフ。 台形形状の突起の規格化高さと底面の面積比との関係を示すグラフ。 本実施形態に係る光学素子を模式的に示す斜視図。 突起断面部を含む光学素子の部分拡大断面図。 本実施形態に係る反射防止構造の別の突起形状の底面配置を示す平面図。 本実施形態に係る反射防止構造のさらに別の突起形状の底面配置を示す平面図。 (a)〜(c)は、レーザアブレーション加工による台形形状の突起形成の態様を示す光学基材の部分断面図。
符号の説明
1…光学素子、10A…四角錘形状の突起、10B,10B1,10B2…四角錐台の突起、11…正六角形の底面形状、12…正三角形の底面形状、B…底面の辺の長さ、H…底辺から天頂部までの高さ、h…底面に平行な底辺からの高さ、P…ピッチ、T…上面の辺の長さ、β…V溝、γ…U溝。

Claims (10)

  1. 光学基材の表面に多数の微細構造の突起を使用波長以下の周期でアレイ状に配列して形成した反射防止構造であって、
    前記使用波長がテラヘルツ波長域であり、
    前記突起が台形状のn角錐台より成り、nが以下の一般式(1)で表される値であることを特徴とする反射防止構造。
    3≦n≦6…(1)
  2. 請求項1に記載の反射防止構造であって、
    前記n角錐台のアスペクト比が、以下の一般式(2)で表される値であることを特徴とする反射防止構造。
    1.5<H/P…(2)
    但し、Hは前記n角錐台の底面から頂点までの高さ、Pは周期を表す。
  3. 請求項1に記載の反射防止構造であって、
    前記n角錐台が、以下の一般式(3)の関係を満足することを特徴とする反射防止構造。
    h/H=0.5の時、0.3<s<0.7…(3)
    但し、Hは前記n角錐台の底面から頂点までの高さ、hは前記n角錐台の底面から媒質の断面までの高さであり、sは高さhにおける前記n角錐台の媒質の断面の面積と単位面積との比であり、当該単位面積とは前記n角錐台の最大形成領域の面積である。
  4. 請求項1に記載の反射防止構造であって、
    前記n角錐台の天頂部が、n角形の平面または曲面であることを特徴とする反射防止構造。
  5. 請求項1に記載の反射防止構造であって、
    互いに隣り合う前記n角錐台の底面間に、二つの前記底面の端点同士を結ぶV溝またはU溝を有することを特徴とする反射防止構造。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の反射防止構造が、光学機能面に形成されて、テラヘルツ波長域の光線を透過する光学素子。
  7. テラヘルツ波長域の光線を透過する光学素子となる光学基材の表面に、nの数が以下の一般式(4)で表される値の台形状のn角錐台より成る多数の微細構造の突起を、使用波長以下の周期でアレイ状に形成する反射防止構造の加工方法であって、
    前記光学基材にフェムト秒レーザ光を照射して前記光学基材の内部に前記n角錐台の底面に沿う形状の改質領域を形成するレーザ加工工程と、
    エッチング液中に浸漬してエッチングを行うエッチング工程と、
    を備えた反射防止構造の加工方法。
    3≦n≦6…(4)
  8. テラヘルツ波長域の光線を透過する光学素子となる光学基材の表面に、nの数が以下の一般式(5)で表される値の台形状のn角錐台より成る多数の微細構造の突起を、使用波長以下の周期でアレイ状に形成する反射防止構造の加工方法であって、
    前記光学基材の表面に、表面から順に金属膜、レジスト膜を形成し、前記レジスト膜に光又は電子ビームを照射して多数の前記n角錐台の上面形状を描画した後、ウエットエッチングしてエッチングマスクを形成するエッチングマスク形成工程と、
    ドライエッチングを行うエッチング工程と、
    を備えた反射防止構造の加工方法。
    3≦n≦6…(5)
  9. テラヘルツ波長域の光線を透過する光学素子となる光学基材の表面に、nの数が以下の一般式(6)で表される値の台形状のn角錐台より成る多数の微細構造の突起を、使用波長以下の周期でアレイ状に形成する反射防止構造の加工方法であって、
    前記光学基材の表面に感光性フィルムをラミネートして、前記光学基材の表面に多数の前記n角錐台の上面形状に相似した形状の前記感光性フィルムのマスクを形成するマスキング工程と、
    前記感光性フィルムでマスキングされた前記光学基材の表面に、研磨剤を噴射するブラスト工程と、
    を備えた反射防止構造の加工方法。
    3≦n≦6…(6)
  10. テラヘルツ波長域の光線を透過する光学素子となる光学基材の表面に、nの数が以下の一般式(7)で表される値の台形状のn角錐台より成る多数の微細構造の突起を、使用波長以下の周期でアレイ状に形成する反射防止構造の加工方法であって、
    前記光学基材の表面にアレイ状に配列されて互いに隣り合う二つの前記n角錐台の側面に相似した形状が、先端部に向かって形成されたブレードを、回転しながら、前記ブレードまたは前記光学基材のZ方向の送りと、形成する前記n角錐台の底面形状に沿う平面方向に移動する反射防止構造の加工方法。
    3≦n≦6…(7)
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