JP2009185370A - 高張力溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents

高張力溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】延性と穴拡げ性とを両立させた高張力高延性溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.08〜0.25%、Si:1.5%以下、Mn:1.0〜2.6%、Al:1.5%以下、P:0.1%以下、S:0.1%以下、N:0.020%以下、かつ、SiとAlとの関係が、1.2%≦[Si]+[Al]≦1.8%([Si]:Siの質量%、[Al]:Alの質量%)を満足し、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、鋼組織として残留γ相を5体積%以上含み、機械特性値の関係が、TS×El≧18000(TS:引張強度(MPa)、El:全伸び(%))かつTS×λ≧35000(TS:引張強度(MPa)、λ:穴拡げ率(%))である。
【選択図】なし

Description

本発明は、自動車、建築、電気機器等用の部材として主に使用される高張力鋼板の中で、成形性、具体的には延性および穴拡げ性に優れる、特に高張力溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造法に関する。
近年、自動車の技術分野においては、車体を軽量化させつつ衝突安全性を確保するための開発が盛んに行われている。車体を軽量化すべく鋼板厚を薄くすると、成形性のよい軟質な鋼板では安全性を維持できなくなってしまうため、強度を高めた高張力鋼板の需要が高まっている。
しかしながら、強度が高くなると、一般的には、延性の低下および穴拡げ性の低下が発生しやすくなってしまう。このため、従来の高張力鋼板では部品加工時に割れが発生しやすく、部品設計の自由度を高めることができなかった。そこで、高強度でありながら、延性および穴拡げ性に優れた鋼板が必要とされている。
ここで、鋼におけるSi含有量を多くすることは、強度および延性のバランスを向上させる観点から非常に有効であり、さらに、フェライト生成元素のAlとオーステナイト生成元素のMnとを多量に含有させた、残留オーステナイトのTRIP効果を利用する高延性高張力熱延鋼板や冷延鋼板が開発されている。
このようなTRIP効果によって延性改善を図る鋼板は、塑性加工においてマルテンサイトを発生させることで延性を確保しているが、この生成するマルテンサイトは穴拡げ加工における応力集中源となってしまう場合があり、この場合には良好な穴拡げ性を得にくい。このため、穴拡げ性は自動車の足回り部品、補強備品を中心に、重要な特性の一つであるにも関わらず、穴拡げ性を延性と両立させた鋼板はこれまで得られていなかった。
さらに、耐食性および外観の向上という市場の要求に応えて部材の表面処理鋼板化が進んでおり、現在では、多くの部材に亜鉛めっき鋼板が用いられている。しかし、通常の溶融亜鉛めっき工程では、Si含有量が多い鋼板をめっき基材として用いる場合には、通常の還元性の雰囲気下でもSiの酸化物が鋼板表面に濃化し、めっき濡れ性の低下、およびその結果としてめっき密着性の低下を招いてしまう。したがって、通常のSi添加鋼ではめっき密着性の劣化が懸念され、高い耐食性が求められる用途への適用は進んでいない。その一方で、欧州における車体の20年保証防錆の動きのように、耐食性の要求は年々厳しくなっており、十分な耐食性を有する高張力溶融めっき鋼板の開発が切実に望まれている。
以上述べたように、成形性に優れた、特に延性と穴拡げ性とを高いレベルで両立させた高張力溶融亜鉛めっき鋼板は実用化されていないのが現状である。
特許文献1では、Si、Al添加型の残留γ型高強度鋼板が開示されている。実施例には引張強度TS(MPa)×全伸びEl(%)が開示されているが、部品加工に重要な穴拡げ率に関してはなんら言及されておらず、部品加工性に優れているかは不明である。
特許文献2には溶融亜鉛めっきの製造条件と特性の関係が詳細に開示されているが、上記公開特許公報と同様にTS×Elの改善のための溶融亜鉛めっきの製造条件であり、穴拡げ率を向上させるとの観点で好適な製造方法についてなんら検討がなされていない。
特開2003−105486号 特開平11−131145号
以上述べたように成形性、特に強度−延性バランスの指標である引張強度TSと全伸びElとの積:TS×El値と、強度−穴拡げバランスの指標である引張強度TSと穴拡げ率λとの積:TS×λ値とを、高いレベルで両立させるとの課題を効率よく解決できる技術は未だ開示されておらず、高張力鋼板の適用を推進する上で、これらの課題の解決が求められていた。
本発明の目的は、この課題を解決し、成形性に優れた引張強さ590MPa以上の高張力溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記問題点を解決するため、成分および製造条件が鋼板の材質に及ぼす影響を詳細に調査した結果、以下の知見を得た。
(a)TRIP効果による高延性を実現するためには、鋼板中の残留γ量が体積%で5%以上であることが必要である。
(b)5体積%以上の残留γ量を実現するためには、鋼板の化学組成において、SiおよびAlの質量%の和を所定の範囲以上に制御する必要がある。
(c)さらに、次の2条件を満足する鋼板が良好な延性と穴拡げ性を両立しうる:
TS×El≧18000(TS:引張強度(MPa)、El:全伸び(%))、
TS×λ≧35000(TS:引張強度(MPa)、λ:穴拡げ率(%))。
(d)残留γ相が分解してフェライト相および炭化物となると、この炭化物が応力集中源となって穴拡げ性を低下させる。
(e)また、合金元素濃度が他の領域と異なるバンド状組織が生成したり、フェライトがバンド状となったり、硬質化したベイナイトが生成したりすると、やはり応力集中が発生して穴拡げ性が低下する。
(f)上記特性を有する鋼板を安定的に製造する方法における特に重要な管理温度は次のとおりである:
ア)仕上温度、
イ)巻取温度、
ウ)均熱温度、
エ)合金化処理温度。
上記の知見に基づき次の発明を完成するに至った。
(1) 質量%で、C:0.08〜0.25%、Si:1.5%以下、Mn:1.0〜2.6%、Al:1.5%以下、P:0.1%以下、S:0.1%以下およびN:0.020%以下を含有し、かつ、SiとAlとの関係が、1.2%≦[Si]+[Al]≦1.8%([Si]:Siの質量%、[Al]:Alの質量%)を満足し、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、残留γ相を5体積%以上含有する鋼組織を有し、さらに、機械特性値の関係が、
TS×El≧18000(TS:引張強度(MPa)、EL:全伸び(%))
かつ
TS×λ≧35000(TS:引張強度(MPa)、λ:穴拡げ率(%))
であることを特徴とする高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
(2)前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ni:1.0%以下を含有する、上記(1)に記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
(3)前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Cu:0.5%以下を含有する、上記(1)または(2)に記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
(4)化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下およびV:0.2%以下からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有する、上記(1)から(3)のいずれかに記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
(5)前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Co:1.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、およびB:0.01%以下からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有する、上記(1)から(4)のいずれかに記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
(6)前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.01%以下を含有する、上記(1)から(5)のいずれかに記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
(7)上記(1)から(6)のいずれかに記載の化学組成を有するスラブに、仕上温度:Ar点〜(Ar点+80℃)、巻取温度:450〜700℃の熱間圧延を施して熱間圧延鋼板となし、前記熱間圧延鋼板に酸洗および冷間圧延を施して冷間圧延鋼板となし、前記冷間圧延鋼板に、二相共存温度域で30秒以上保持し、次いで3℃/s以上の冷却速度で350〜600℃の低温保持温度域まで冷却して前記低温保持温度域で5秒以上保持し、さらに溶融亜鉛めっきする、連続溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
ここで、「二相共存温度域」とは、フェライト(α)/オーステナイト(γ)の二相が共存するAc点〜Ac点の温度域である。
なお、上記(7)に記載される製造方法で規定される条件のうち、二相共存温度域に保持した後の冷却における冷却速度、およびそのときの狙い冷却温度の一つ以上を次のように変更してもよい;
焼鈍後の冷却における冷却速度:5〜30℃/s、
焼鈍後の冷却における狙い冷却温度:450〜550℃。
(8)前記連続溶融亜鉛めっき処理が、前記溶融亜鉛めっきで得られた鋼板に対して、さらに580℃以下の合金化処理温度で合金化処理を行うものであることを特徴とする上記(7)記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
本発明によれば、成形性に優れた、特に良好な延性と穴拡げ性とを兼ね備えた、引張り強さ590MPa以上の高張力溶融亜鉛めっき鋼板が提供される。この鋼板は、自動車、建築、電気機器等用の部材、特に自動車における、足回り周辺の構造部材や補強備品用の部材として極めて有益である。
以下に、本発明の最良の形態や製造条件の範囲およびこれらの設定理由について説明する。なお、本明細書において、化学組成を表す「%」は、特にことわりが無い限り「質量%」である。
1.化学組成
まず、本実施形態に係る鋼の化学組成について説明する。
C:本実施形態に係る鋼は、残留γ相を生成させることにより強度−延性バランスを向上させるため、Cを必須元素とする。Cの含有量は狙いとする強度により調整され、本実施形態に係る鋼が狙いとする590MPa以上の引張強度を達成するためには、少なくとも0.08%以上が必要である。好ましくは0.10%以上である。一方、上限は、自動車の足回り部品や補強備品を典型的な用途として想定しているため、スポット溶接性の観点から0.25%以下とする。好ましくは0.20%以下である。
Si:Siは、後述するAlと同様にフェライト形成元素であり、オーステナイト中にCを濃縮させてオーステナイトの安定度を調整することにより、TRIP効果を発現させて高延性を得るのに重要な元素である。しかしながら、鋼板表層に偏析しやすい易酸化元素であるため、含有量が多い場合にはめっきのぬれ性が極度に低下する。したがって、Si含有量は1.5%以下とする。
Al:Alは、脱酸材としても用いられると同時に、Siと同様に、フェライト形成元素であり、オーステナイト中にCを濃縮させてオーステナイトの安定度を調整することにより、TRIP効果を発現させて高延性を得るのに重要な元素である。しかしながら、過剰に含有させてもその効果は飽和してしまい、しかも、DCバット溶接時などに溶融金属界面に介在物としてAlが析出して溶接強度を著しく低下させる。したがって、Al含有量は1.5%以下とする。
SiとAlとの含有量の和:前述のように、SiおよびAlはフェライト形成元素であり、残留γを安定化させるには必須元素であるが、上記C含有量の範囲で、残留γ量を5体積%以上とするには、これらの元素の含有量の総和が1.2%以上必要であり、好ましくは1.3%以上である。一方、その和が1.8%超では効果が飽和し、むしろ、SiおよびAlそれぞれの含有量が多い場合に懸念される悪影響(めっき性の低下、溶接強度の低下)が顕在化するおそれが高まってしまう。したがって、SiおよびAlの含有量の和における上限を1.8%以下とする。経済性をも考慮する1.7%以下とすることが好ましい。
Mn:Mnは、鋼板の強度を高めるだけでなく、さらにオーステナイトの安定化に作用する元素であるため、本実施形態に係る鋼において重要な元素である。また、高温からの冷却中に炭化物の生成を抑制し穴拡げ率を向上させる効果がある。この効果を発揮させるためには少なくとも1.0%以上のMnの含有が必要であり、狙いとする強度に応じてこの範囲でMnの含有量を変更すればよい。一方、Mn含有量の上限は、穴拡げ性に悪影響を及ぼすバンド状組織の形成を抑制する観点や、さらには脆化や経済性の観点から2.6%以下とする。好ましい上限は2.5%以下である。
P:P含有量は0.1%以下とする。Pは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であって、極力低い方が好ましい。特に0.1%を超えて含有されると鋼板のスポット溶接性を著しく劣化させ、かつ延性を劣化させる。したがって、P含有量の上限は0.1%以下であり、好ましくは0.05%以下である。
S:Sも不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であって、極力低い方が好ましい。特に0.1%を超えて含有されると、オーステナイト安定化元素として含有されるMnを析出物(MnS)として消費してしまい、特性に大きな影響を与える。また、この析出物は、穴拡げ加工時に応力集中源となって鋼板の穴拡げ性を低下させる。したがって、S含有量の上限は0.1%以下であり、好ましくは0.01%以下である。
N:Nは、その含有量が0.02%を超えるとAlNとして消費されるAlの量が多くなり、上述したAlの効果が小さくなって鋼板の基本的な特性が低下してしまう。さらに、生成したAlNに起因する延性の劣化が顕在化しやすくなる。したがって、N含有量の上限は0.02%以下であり、好ましくは0.01%以下である。
以上が本実施形態に係る鋼板の化学組成における必須成分であって、次の元素(Ni、Cu、Ti、Nb、V、Co、Cr、MoおよびB)は任意成分である。
Ni:Niは、Mnと同様にオーステナイト形成元素であると同時に、鋼板の強度、めっき密着性および溶融亜鉛に対するぬれ性を向上させる元素である。しかも、Feよりも酸化しにくい元素であるので、鋼板表層に濃化し、Siの酸化によるめっき密着性およびぬれ性の低下を抑制する。しかしながら、1.0%を超えて含有させても上記効果は飽和し、いたずらにコスト増加を招く。このため、Ni含有量は1.0%以下とする。経済性をも考慮すると好ましくは0.8%以下である。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Ni含有量を0.1%以上とすることが好ましい。
Cu:Cuは、Siの表層濃化を抑制してめっき性を向上させる作用を有する。しかしながら、過剰な含有は熱間割れやリサイクル性の観点から好ましくない。このため、Cu含有量は0.5%以下とする。上記作用による効果を確実に得るにはCu含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
Ti、Nb、V:これらの元素は鋼板の強度を向上させるだけでなく、溶融亜鉛めっきの合金化処理を行う場合には合金化速度を向上させるため有効な元素である。しかしながら、過剰の含有はTiCなどの析出物を大量に析出させる。こうした析出物は延性の劣化をもたらすだけでなく同時に穴拡げ性の劣化を招く。また、めっき層中のFe%を増加させる作用も有するため、パウダリング性を劣化させる。したがって、TiおよびNbを含有させる場合には0.1%以下とする。Vについては、TiやNbと比較すると同一量含有させた場合の効果が小さいため、含有量は0.2%以下とする。
Co、Cr、Mo、B:高温からの冷却過程で生成する可能性のあるパーライトは穴拡げ性に悪影響を及ぼすが、これらの元素はパーライトの生成を抑制するために有効な元素である。しかしながら、過剰に含有させても効果は飽和するだけであり、経済的観点から好ましくない。したがって、Co、CrおよびMoについてはそれぞれ1.0%以下、Bについては0.01%以下とする。これらの元素のうち1種または2種以上を含有させることにより上記効果が得られる。上記効果をより確実に得るには、Coについてはその含有量を0.001%以上、CrおよびMoについてはそれぞれの含有量を0.01%以上、Bについてはその含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。
Ca:Caは、介在物の形態を制御して穴拡げ性を向上させる作用を有する。しかしながら、0.01%超含有させてもその効果は飽和して経済的に不利となる。このため、Caを含有させる場合には、その含有量を0.01%以下とする。一方、上記作用をより確実に発生させるためには、その含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。
上記以外の成分はFeおよび不純物である。
2.鋼組織
次に、本実施形態に係る鋼板の鋼組織について説明する。
(1)残留γ相
本実施形態に係る鋼板は、前述のように、TRIP効果によって優れた延性を発現させ、次式を満たしている;
TS×El≧18000(TS:引張強度(MPa)、El:全伸び(%))。
このため、鋼板内にγ相が残留していることが必要であり、この残留γ相の体積率は少なくとも5体積%以上であり、好ましくは、8体積%以上である。一方、この残留γ相が過剰に多い場合には、γ相から生成するマルテンサイトの体積率が多くなり、穴拡げ性に悪影響を及ぼす可能性が懸念される。したがって、上限は20体積%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは15体積%以下である。
なお、この残留γ相が多く残留する傾向を示す化学組成からなる鋼板であっても、その残留γ相が不安定な場合、具体的には残留γ相に固溶する炭素濃度が低い場合には、例えば製造過程における熱処理(具体例としては合金化処理)において残留γ相が分解し、α相と炭化物とを形成することが懸念される。生成した炭化物は応力集中点となって穴拡げ性が著しく低下させ、鋼板として次式を満たすことが不可能となってしまう;
TS×λ≧35000(TS:引張強度(MPa)、λ:穴拡げ率(%))。
このように、残留γ相の安定性が上式を満たすために重要であるから、製造過程においても、可能な限りγ相に炭素が濃縮されるような条件を採用することが好ましい。
例えば、焼鈍工程において、ベイナイトが形成されるように冷却すると、ベイナイトが成長するにつれて残留するγ相の炭素濃度が高まり、残留γ相が安定化する。
以上のように、本実施形態に係る鋼板の鋼組織の好ましい態様は、主相(体積率が最大のもの)がフェライトであって、第二相(主相以外のもの)がベイナイトおよび5体積%以上の残留γ相である。主相と第二相との体積率については特には制限されない。
(2)バンド状の組織
本実施形態に係る鋼板は、上記のような穴拡げ性を確保する観点から、バンド状の組織を有さないことが好ましい。バンド状の組織が形成されると、その部分が応力集中源となってしまい、穴拡げ性が低下してしまうためである。バンド状の組織としては、合金元素、例えばMnなどが帯状に偏析したものや、熱間圧延の過程でフェライトが生成し、これが歪みを受けてバンド状の組織となるものなどが例示される。
3.製造方法
本実施形態に係る鋼板は、上記のような化学組成や鋼組織上の特徴を有し、上記の2式で規定される機械特性を有するのであれば、製造方法には特に限定されない。ただし、次のような製造方法を採用すれば、本実施形態に係る鋼板を効率的に、かつ安定的に得ることが実現される。
(1)熱間圧延処理
ア)粗圧延まで
上記の化学組成を有する鋼を常法により鋳造し、あるいはさらに分塊圧延し、得られたスラブを粗圧延する。スラブは常法により加熱して粗圧延されたのち、仕上圧延に供されるが、連続鋳造により得られたスラブを直送する場合や分塊圧延後のスラブを速やかに粗圧延に供する場合のように、鋳造もしくは分塊圧延後のスラブ温度が高く、後述する仕上圧延における仕上温度が確保できる場合には、スラブ加熱を省略して粗圧延しても構わない。また、薄スラブCCなど公知の方法により薄い鋳片が得られる場合には、粗圧延を省略しても構わない。
イ)仕上圧延
本実施形態に係る高張力鋼板を製造する際の熱間圧延鋼板は、穴拡げ性を劣化させるバンド状の組織を生じさせないように、極力均一な鋼組織を備えたものとすることが好ましい。
仕上温度を、Ar点に満たない温度領域とすると、バンド状の組織が形成されてしまうことが懸念される。この組織は冷間圧延および連続溶融亜鉛めっき処理後にも影響して不均一な鋼組織を形成するため、穴拡げ性の劣化をもたらす。したがって、仕上温度はAr点以上とすることが好ましい。一方、仕上圧延後のフェライト変態を促進して鋼組織の均一化を図る観点からは、仕上圧延においてオーステナイトに導入する圧延歪み量が多い程好ましいので、仕上温度はより低温とすることが好ましい。したがって、仕上温度は(Ar点+80℃)以下とすることが好ましい。
なお、仕上圧延において、前述の仕上温度を鋼材の全長にわたって確保するように、必要に応じて補助加熱手段を用いることが望ましい。鋼材が長い場合には、圧延途中で鋼材温度が低下し、熱間圧延の後期などにおいて上記の仕上温度の下限(Ar点)が確保されないおそれがある。このような場合には仕上圧延の入側で補助的に再加熱を施すのがよい。この補助再加熱方法は限定されないが、仕上圧延の入側における鋼材の温度分布に応じて加熱量の制御が容易である電磁誘導加熱方式が好ましい。 ウ)巻取温度
巻取温度で決定される鋼組織は、その後の冷間圧延および連続溶融亜鉛めっき処理を経て得られる溶融亜鉛めっき鋼板の鋼組織、すなわち機械特性に大きく影響する。このため、巻取温度の制御は重要である。
具体的には、巻取温度は高めにするのが好ましい。巻取温度を高めることによって、鋼板内の微視的な炭素濃度分布にばらつきが発生しやすくなる。この微視的に炭素濃度が高い領域は、冷間圧延後の連続溶融亜鉛めっき処理において、二相共存温度域で保持する際に速やかにオーステナイト変態し、フェライト相からのCの排出とオーステナイト相へのCの濃縮が促進される。さらに、低温保持温度域で保持する際におけるベイナイト変態も促進され、ベイナイト組織からのCの排出とオーステナイト相へのCの濃縮が促進される。その結果、より安定な残留γ相が形成される。また、ベイナイト組織からのCの排出も促進されてベイナイト組織がより軟質となり、隣接するフェライト相との硬度差も小さくなるので、穴拡げ性も向上する。
逆に、巻取温度が低い場合には、最終製品におけるベイナイト組織の硬度が高くなる。このような硬質のベイナイトが生成すると隣接するフェライト相との硬度差が大きくなり、この硬質相が応力集中点となって穴拡げ性の低下要因となる。
なお、巻取温度が低くなると熱間圧延鋼板におけるベイナイトの硬質化も招き、これにより後続する冷間圧延が困難になるという製造上の問題も生じる。
上記のような問題を回避しうる温度として、巻取温度は450℃以上とすることが好ましい。
一方、巻取温度の上限は700℃以下が好ましい。巻取温度を過度に高くすると、鋼板の表面が脱炭し表面品質が劣化してしまう。この観点から、巻取温度は680℃以下とするのが特に好ましい。
(3)酸洗・冷間圧延処理
上記熱間圧延工程により得られた熱間圧延鋼板は、酸洗により脱スケール処理されたのちに冷間圧延が施され冷間圧延鋼板とされる。酸洗および冷間圧延は常法で構わない。しかしながら、冷間圧延における圧下率を過度に大きくすると、加工硬化により板破断が生じ、生産能率が低下する。したがって、冷間圧延における圧下率は45%以上85%以下が好ましい。
(4)連続溶融亜鉛めっき処理における熱処理
本実施形態に係る鋼板を実現するためには、フェライト(α)/オーステナイト(γ)の二相共存温度域で30秒以上保持することが好ましい。この工程により、フェライトからのCの排出とオーステナイトへのCの濃縮が促進される。具体的には、還元性雰囲気中でAc点〜Ac点の二相共存温度域に加熱して、30秒以上保持する。特に好ましい保持時間は60秒以上である。このときの還元性雰囲気としては、水素が1〜30体積%、残部が窒素および不可避的な微量の水分からなることが好ましく、その水分量は、露点として−60〜0℃の範囲であればよい。特に好ましいのは、水素が2〜15体積%、残部が窒素および不可避的な微量の水分であって、その水分量が、露点として−50〜0℃の範囲である場合である。保持時間の上限は、特に規定する必要はないが、長時間の保持は生産性の低下や連続溶融亜鉛めっき設備の長大化を招くので、600秒以下とすることが好ましく、300秒以下とすることがさらに好ましい。また、上述したように二相共存温度域で保持すればよいのであり、二相共存温度域内で昇温や降温などの温度変化があっても構わない。さらにまた、二相共存温度域で保持する前に、一旦Ac点超の温度域まで加熱しても構わない。
上記二相共存温度域での保持に続く冷却工程は次のように行うことが好ましい。本実施形態に係る鋼板は最終製品において所定量の残留γ相を含有させるため、二相共存温度域からの冷却途中でのパーライトの生成を避ける必要がある。そこで、350〜600℃の低温保持温度域まで、3℃/s以上、特に好ましくは5℃/s以上の冷却速度で冷却する。冷却速度の上限は特に規定する必要はないが、実用的には40℃/s以下とすることが好ましく、30℃/s以下とすることがさらに好ましい。なお、低温保持温度域を450℃〜550℃とすると、この温度が亜鉛めっき浴の温度域でもあるので、熱効率の観点から特に好ましい。このようにして、パーライト生成を回避しつつ冷却し、低温保持してベイナイトを生成させることにより、γ相中のC濃度を高め、常温までの冷却過程においてα相と炭化物とに分解しないようにγ相を安定化させる。また、ベイナイトからのCの排出を促進させ、ベイナイトをより軟質にして穴拡げ性を向上させる。したがって、この低温保持の時間が短すぎるとベイナイトの生成が不十分となるので5秒以上とする。低温保持の時間の上限は特に規定する必要はないが、過度に長いと生産性が著しく低下したり、連続溶融亜鉛めっき設備の長大化を招いたりするので120秒以下とすることが好ましい。
(5)連続溶融亜鉛めっき処理における溶融亜鉛めっき処理
溶融亜鉛めっき処理は常法にしたがって行えばよい。めっき後に合金化処理をする場合には、合金化処理温度を580℃以下にすることが好ましい。合金化処理温度が580℃を超えると、安定化したγ相がα相と炭化物とに分解し、鋼板の特性として延性と穴拡げ性とが極端に低下する傾向がある。先に述べたように、熱間圧延の条件、特には巻取条件によって連続溶融亜鉛めっき処理における熱処理後のベイナイトの硬さを制御することが可能であるから、合金化処理温度を580℃以下に制御しつつ熱間圧延の条件を適切に設定することで、所望のTS×λを得ることが実現される。
なお、めっき処理以降は通常の冷却条件にて冷却を行えばよい。このとき、Nおよび工業用ガスを用い冷却を行ってもよいし、さらに通常のミスト冷却を行ってもよい。
(6)その他の処理
上記以外の製造工程については公知の方法によって製造すればよい。例えば焼鈍後には、表面粗度調整や平坦矯正を目的として、公知の方法により調質圧延を施しても構わない。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
1.合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造
表1および表2に示す実施例の製造条件を説明する。
Figure 2009185370
Figure 2009185370
表1に示す化学組成を有するスラブを、1100℃〜1350℃に加熱して粗圧延を行って粗バーとなし、前記粗バーに誘導加熱装置を用いた補助加熱を適宜施して仕上圧延を行い、得られた熱間圧延鋼板をコイル状に巻き取った。仕上温度および巻取温度を表2に示す。
このようにして製造された板厚3.2mmの熱間圧延鋼板を、酸洗し、板厚が1.6mmになるまで冷間圧延を実施した。
続いて、冷間圧延された鋼板を次の条件で熱処理した。
均熱温度:表2参照
均熱雰囲気:10%H−90%N、露点−30℃
均熱時間:120秒
冷却速度:20℃/s(ガス冷却)
低温保持温度: 表2参照
低温保持時間:30秒
低温保持雰囲気:7〜12%H−88〜93%N、露点−30℃
上記の低温保持温度で所定時間保持した後、溶融亜鉛めっき浴の浴温460℃とほぼ同等の温度まで冷却し、付着量が30〜50g/mの範囲になるように制御しながら溶融亜鉛めっきを行った。
引き続いて、表1に示される合金化処理温度で、めっき層中のFe濃度が10%になるように種々合金化処理時間を調整しつつ、合金化処理を行った。その後、20℃/sの冷却速度で250℃以下に冷却し、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得た。
得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、スキンパスを行って平坦度などの微調整を行った。
2.評価
得られた種々の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の評価は次のようにして行った。
めっき母材の鋼組織は、鋼板断面を光学顕微鏡、SEMおよびX線回折装置により分析して、得られた光学顕微鏡画像、電子顕微鏡画像、および結晶構造データに基づいて組織の評価を行った。
TS:引張強度およびEl:全伸び率の機械特性は、JIS Z2201 に規定される5号試験片を用い、JIS Z2241 に準拠して引張試験を実施して求めた。
また、穴拡げ率は、日本鉄鋼連盟規格(規格番号JFS T1001)に規定されている方法に従って実施した。
結果を表2に併せて示す。本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板は、優れた強度−延性バランスのみならず優れた強度−穴拡げバランスをも備えている。

Claims (8)

  1. 質量%で、C:0.08〜0.25%、Si:1.5%以下、Mn:1.0〜2.6%、Al:1.5%以下、P:0.1%以下、S:0.1%以下およびN:0.020%以下を含有し、
    かつ、SiとAlとの関係が、1.2%≦[Si]+[Al]≦1.8%([Si]:Siの質量%、[Al]:Alの質量%)を満足し、
    残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、
    残留γ相を5体積%以上含有する鋼組織を有し、
    さらに、機械特性値の関係が、
    TS×El≧18000(TS:引張強度(MPa)、El:全伸び(%))
    かつ
    TS×λ≧35000(TS:引張強度(MPa)、λ:穴拡げ率(%))
    であることを特徴とする高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
  2. 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ni:1.0%以下を含有する、請求項1に記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
  3. 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Cu:0.5%以下を含有する、請求項1または2に記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
  4. 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下およびV:0.2%以下からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1から3のいずれかに記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
  5. 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Co:1.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、およびB:0.01%以下からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1から4のいずれかに記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
  6. 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.01%以下を含有する、請求項1から5のいずれかに記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
  7. 請求項1から6のいずれかに記載の化学組成を有するスラブに、仕上温度:Ar点〜(Ar点+80℃)、巻取温度:450〜700℃の熱間圧延を施して熱間圧延鋼板となし、前記熱間圧延鋼板に酸洗および冷間圧延を施して冷間圧延鋼板となし、前記冷間圧延鋼板に、二相共存温度域で30秒以上保持し、次いで3℃/s以上の冷却速度で350〜600℃の低温保持温度域まで冷却して前記低温保持温度域で5秒以上保持し、さらに溶融亜鉛めっきする、連続溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  8. 前記連続溶融亜鉛めっき処理が、前記溶融亜鉛めっきで得られた鋼板に対して、さらに580℃以下の合金化処理温度で合金化処理を行うものであることを特徴とする請求項7記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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