JP2009183249A - バイオエタノールの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来の方法よりも優れたバイオエタノールの製造方法を提供する。
【解決手段】結晶性セルロースからエタノールを製造する方法であって、
(1)結晶性セルロースを、以下の条件:
反応物中結晶性セルロース濃度:10〜20%(w/v)、
反応温度:250〜370℃、
反応圧力:30〜40MPa、かつ
反応時間:1〜2秒
で亜臨界水処理する工程、および
(2)上記(1)で得られた生成物を、セルラーゼを表層に提示した酵母を用いて加水分解及び発酵させる工程
を含む、方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、結晶性セルロースからバイオエタノールを製造する方法に関する。
近年、化石燃料に替わる燃料源として、植物材料から製造したバイオエタノールが注目を集めている。バイオエタノールは、空気中の二酸化炭素が固定化された植物材料に由来するため燃焼させても地球上の二酸化炭素を増加させることにはならない点で、有用なものである。例えば、米国等ではエタノール混合ガソリンが使用されており、日本でも導入され始めている。
バイオエタノールは、サトウキビ・テンサイなどの糖質原料や、トウモロコシ・小麦などデンプン質原料から微生物発酵を経て生産されるが、これらは食用資源でもある。将来の世界的食料不足が懸念される近年では、廃材や食物性残渣など非食用炭素源からのエタノール生産技術が求められ、開発が進められている。
非食用炭素源とされている籾殻や稲ワラ、間伐材等のセルロース系廃バイオマスは、現在殆ど廃棄又は焼却されているが、これらを有効利用できれば、将来の国内におけるバイオエタノール需要に大きく貢献できると考えられる。セルロースは多数のグルコース分子がβ−グルコシド結合により直鎖状に重合した天然高分子である。セルロースは化学的に非常に安定で、強固な構造となっているため、分解が非常に困難である。したがって、工業的な利用には手間やエネルギーがかかることが問題となっており、現実には実現性に乏しい。
セルロースやヘミセルロースを含むバイオマスに対して酸処理や超臨界処理を施し、発酵微生物が資化できるグルコースにまで原料処理をおこなう手法も考案されているが、これらは強酸あるいは高温・高圧を必要とするなど、設備面への過負荷や、高エネルギーコストが問題点として挙げられている。
一方、セルロースやヘミセルロースなどを本来資化できない発酵微生物に対して、分子生物学的手法を用いて機能改変を施し、非食料炭素源からの直接エタノール発酵を目指した研究が行われているが、未だ、実験室での研究レベルを脱してはいない。
ここで、亜臨界状態の水を用いて加水分解することにより、セルロースなどの高分子化合物から有用な構成単位分子を回収する方法が報告されている(特許文献1)。しかしながらこれまでに知られている亜臨界水処理のセルロース分解能は反応物の2〜10重量%ほどで、効率の改善が望まれていた。
また、亜臨界水処理と機能改変した酵母とを組み合わせて、効率よくかつ環境を汚染することなくバイオエタノールを製造する方法については、今まで報告はない。
特許第3042076号公報
本発明は、結晶性セルロースを、効率良くかつ簡便に分解して発酵し、バイオエタノールを製造することができる方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために本発明者らは研究を重ね、結晶性セルロースを超臨界水または亜臨界水と混合して、特定の条件で亜臨界水処理することにより得られた生成物(主な成分は非結晶性セルロースとセロオリゴ糖など)を、セルラーゼを表層に提示した酵母で加水分解し及び発酵させることによって、非常に効率よくバイオエタノールを得られることを見出した。
以上の知見等に基づき、本発明者らは本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
項1.結晶性セルロースからエタノールを製造する方法であって、
(1)結晶性セルロースを、以下の条件:
反応物中結晶性セルロース濃度:10〜20%(w/v)、
反応温度:250〜370℃、
反応圧力:30〜40MPa、かつ
反応時間:1〜2秒
で亜臨界水処理する工程、および
(2)上記(1)で得られた生成物を、セルラーゼを表層に提示した酵母を用いて加水分解及び発酵させる工程
を含む、方法。
項2.前記セルラーゼがエンドグルカナーゼ及び/又はβ−グルコシダーゼである、項1記載の方法。
項3. セルラーゼを表層に提示した酵母が、下記の(a)及び(b)のポリヌクレオチドが染色体に組み込まれ、β−グルコシダーゼとエンドグルカナーゼとを表層に共提示する清酒酵母である項1記載の方法:
(a) 5’末端側から順に、酵母細胞で機能する分泌シグナル配列、β−グルコシダーゼをコードする配列、及び細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列を含むポリヌクレオチド
(b) 5’末端側から順に、酵母細胞で機能する分泌シグナル配列、エンドグルカナーゼをコードする配列、及び細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列を含むポリヌクレオチド。
項4. (a)のポリヌクレオチドが、β−グルコシダーゼをコードする配列と、細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間に、6〜90塩基長のリンカーが介在したものであり、
(b)のポリヌクレオチドが、エンドグルカナーゼをコードする配列と、細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間に、6〜90塩基長のリンカーが介在したものである、
項3に記載の方法。
項5. (a)および/または(b)の分泌シグナル配列が2つ以上の分泌シグナル配列の組み合わせである、項3又は4に記載の方法。
項6. (a)および/または(b)の分泌シグナル配列が2種以上の分泌シグナル配列の組み合わせである、項3〜5のいずれかに記載の方法。
項7. (a)の分泌シグナル配列が、分泌されるβ−グルコシダーゼが本来有する分泌シグナル配列と異なる分泌シグナル配列との組み合わせである項3〜6のいずれかに記載の方法。
項8. (a)の分泌シグナル配列が、(1)アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来β−グルコシダーゼ(BGL7)の分泌シグナル配列とアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来β−グルコシダーゼ(BGL1)の分泌シグナル配列との組み合わせ、又は(2)BGL7の分泌シグナル配列とリゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)由来グルコアミラーゼ(GlaR)の分泌シグナル配列との組み合わせである、項3〜7のいずれかに記載の方法。
項9. (b)の分泌シグナル配列が、エンドグルカナーゼが本来有する分泌シグナル配列とアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来エンドグルカナーゼ(CelA)の分泌シグナルとの組み合わせである、項3〜8のいずれかに記載の方法。
項10. (b)の分泌シグナル配列がCelAの分泌シグナル配列とアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来エンドグルカナーゼ(CelB)の分泌シグナル配列との組み合わせである、項3〜9のいずれかに記載の方法。
項11. (a)及び/又は(b)のヌクレオチドが、複数コピー染色体に組み込まれた項3〜10のいずれかに記載の方法。
項12. 細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列が、酵母のα−アグルチニンのC末端から320ないしは600個のアミノ酸をコードする配列である項3〜11のいずれかに記載の方法。
本発明の製造方法によれば、高濃度の結晶性セルロース(廃材などの非食用炭素源、植物性バイオマスなど)を可溶化して高濃度のバイオエタノールを生産することが可能となる。本発明の方法は、非食用炭素源からエタノールを製造する従来の方法と比べて、設備への過負担や高エネルギーコストを回避して、非常に効率よくバイオエタノールを得ることが可能となる。さらに、本発明の方法によれば、濃硫酸処理などの薬品処理を行う必要もなくなるので、環境保護の観点からも優れた利点を有している。したがって、本発明は産業利用上極めて有用である。
さらに、本発明の製造方法において用いる特殊な酵母は自己増殖する酵素剤と言えるので、初発の酵素投入量を減らすことができ、ランニングコストを低減できる。また、酵素剤では反応後回収することはできないが、本発明で用いる酵素は遠心分離などで容易に回収でき、次反応に使えるため有利である。
<結晶性セルロース>
本発明において、バイオエタノールの原料となる「結晶性セルロース」とは、バイオマス由来のセルロース、とりわけ植物由来のセルロースであって、通常のセルラーゼが分解できないほど結晶性の高いものを意味する。これらのセルロースは、懸濁状であっても、パウダー状であってもよい。
本発明において用いられるバイオマスとしては、例えば、籾殻や稲わらなどの農作物非食用部、または間伐材などの木質廃材などが挙げられ、本願発明の結晶性セルロースには、これらバイオマスの粉砕物由来のセルロースも含まれる。粉砕の方法としては特に限定はなく、ローターミルを用いた粉砕方法などの一般的な粉砕方法を用いることができる。
「結晶性セルロース」とは、より具体的には、例えば、平均重合度100以上、相対結晶化度(総重量に対するI型結晶形態の重量)50%以上のセルロースなどが挙げられる。ここで、I型結晶形態とはセルロース分散体を乾燥して得られた乾燥セルロース試料を粉状に粉砕し錠剤に成形し、線源Cu-Kαで反射法で得た広角X線回折図において、(110)面ピークに帰属される2θ=15.0℃を示すセルロースを指す。
<亜臨界水処理(工程1)>
本発明において、超臨界水とは、臨界点以上、つまり374℃、22.1MPa以上の温度・圧力の状態にある水のことをいう。また、亜臨界水とは臨界点より少し低い温度の臨界点近傍の水のことであり、およそ150〜370℃の高温・高圧状態の水をいう。
本発明の方法は、上述した結晶性セルロース(基質)を、超臨界水または亜臨界水と接触させて亜臨界水処理する工程を含む。基質を含む反応物と接触させる水は、超臨界水または亜臨界水単独であってもよいし、それらの混合物であってもよい。基質を含む反応物に接触させる超臨界水および/または亜臨界水の量は、基質を含む反応物を超臨界水および/または亜臨界水に接触させる反応部が、下記に示す処理(反応)条件となるような量であれば、特に限定はされない。
本発明の方法においては、基質を含む反応物を超臨界水および/または亜臨界水に接触させる反応部が、以下の亜臨界水処理条件:
1.反応物中結晶性セルロース濃度:10〜20%(w/v)、
2.反応温度:250〜370℃、
3.反応圧力:30〜40MPa、かつ
4.反応時間:1〜2秒
となるように調節して、結晶性セルロースを加水分解する。
「反応物中結晶性セルロース濃度」とは、超臨界水および/または亜臨界水と混合した後の反応物中の結晶性セルロース(基質)の濃度である。
また、「反応温度」および「反応圧力」についても、基質を超臨界水および/または亜臨界水と接触させる反応部における温度および圧力をさす。
「反応時間」とは、基質を含む反応物を超臨界水および/または亜臨界水に接触させる時間をさす。
亜臨界水処理をした後は、加水分解反応を止めるため、得られた生成物を速やかに常温(約30℃)まで冷却する。
<加水分解および発酵(工程2)>
次に、上記亜臨界水処理で得られた生成物を基質として、セルラーゼを表層に提示した酵母を用いて、加水分解および発酵し、エタノールを製造する。
以下、本発明の方法において用いる「セルラーゼを表層に提示した酵母(以下、スーパー酵母ともいう)」、並びに当該酵母を用いた加水分解および発酵について詳細に説明する。
(I)清酒酵母
本発明の清酒酵母は、上記の(a)及び(b)のポリヌクレオチドが染色体に組み込まれ、β-グルコシダーゼとエンドグルカナーゼとを表層に共提示する清酒酵母である。この清酒酵母は、β-グルコシダーゼ、及びエンドグルカナーゼが、それぞれ、細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域を介して細胞膜に結合したものとなる。
分泌シグナル配列
分泌シグナル配列は、分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド配列である。分泌シグナルペプチドは、ペリプラズムを含む細胞外に分泌される分泌性タンパク質のN末端に通常結合しているペプチドである。このペプチドは、生物間で類似した構造を有しており、20個程度のアミノ酸からなり、N末端付近に塩基性アミノ酸配列を有し、その後に疎水性アミノ酸を多く含んでいる。分泌シグナルは、通常、分泌性タンパク質が細胞内から細胞膜を通過して細胞外へ分泌される際にシグナルペプチダーゼにより分解されることにより除去される。
本発明においては、β-グルコシダーゼ及びエンドグルカナーゼを酵母の細胞外に分泌させることができる分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド配列であれば、どのようなものでも用いることができ、その起源は問わない。例えば、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)等のグルコアミラーゼの分泌シグナルペプチド配列、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)のグルコアミラーゼの分泌シグナルペプチド配列、酵母(Saccharomyces cerevisiae)のα−またはa−アグルチニンの分泌シグナルペプチド配列、酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来のα因子の分泌シグナルペプチド配列等を好適に用いることができる。特に、分泌効率の点で、リゾプス・オリゼ由来グルコアミラーゼの分泌シグナルペプチド配列が好ましい。また、アスペルギルス・オリゼ由来グルコアミラーゼの分泌シグナルペプチド配列も好ましい。
分泌シグナル配列の由来は特に制限されないが、β-グルコシダーゼ及びエンドグルカナーゼと機能的又は構造的に近似するタンパク質由来であることが好ましく、糖加水分解酵素由来であることが好ましい。また、分泌シグナル配列は、β-グルコシダーゼ又はエンドグルカナーゼを酵母細胞外に分泌させる能力を有する限り、既知の分泌シグナル配列に、アミノ酸の置換、付加、欠失、削除等の任意の変異が加えられていてもよい。
より好ましい分泌シグナル配列としては、グルコアミラーゼの分泌シグナル配列、β-グルコシダーゼの分泌シグナル配列、エンドグルカナーゼの分泌シグナル配列、エキソグルカナーゼの分泌シグナル配列を挙げることができる。さらに、グルコアミラーゼの分泌シグナル配列の中ではリゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)由来GlaRの分泌シグナル配列が好ましい。β-グルコシダーゼの分泌シグナル配列の中ではアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来のβ-グルコシダーゼ(BGL1)及びβ-グルコシダーゼ(BGL7)の分泌シグナル配列が好ましい。エンドグルカナーゼの分泌シグナル配列としては、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来のエンドグルカナーゼ、CelA又はCelBの分泌シグナル配列が好ましい。
分泌シグナル配列は、既知の分泌シグナル配列をそのまま用いることもできるが、2個以上の分泌シグナル配列を組み合せて用いることも可能である。2個以上の分泌シグナル配列の組み合せは、複数の配列を連続的に繋ぎ合わせても良く、また各シグナル配列間に制限酵素部位などの短い配列を挿入して連結してもよい。
β-グルコシダーゼを酵母細胞外に分泌させるための分泌シグナル配列は、好ましくは2個〜5個の分泌シグナル配列の組み合せであり、より好ましくは2個〜3個の分泌シグナル配列の組み合せである。分泌シグナル配列の組み合わせは、同一の分泌シグナル配列を2個以上組み合せても良いが、異なる分泌シグナル配列の組み合わせが好ましい。より好ましくは、酵母細胞外に分泌される酵素が本来有する分泌シグナル配列と他の分泌シグナル配列との組み合わせである。ここで、他の分泌シグナル配列とは、分泌される酵素が本来有する分泌シグナル配列とは異なる配列を有する任意の分泌シグナル配列を意味する。
β-グルコシダーゼを酵母細胞外に分泌させるための分泌シグナル配列の組み合わせは、上記のような分泌シグナル配列を任意に組み合せて使用することができ、好ましい組み合わせとしては、例えば、GlaRの分泌シグナル配列とBGL1の分泌シグナル配列、GlaRの分泌シグナル配列とBGL7の分泌シグナル配列、GlaRの分泌シグナル配列とCelAの分泌シグナル配列、GlaRの分泌シグナル配列とCelBの分泌シグナル配列、BGL1の分泌シグナル配列とBGL7の分泌シグナル配列、BGL1の分泌シグナル配列とCelAの分泌シグナル配列、BGL1の分泌シグナル配列とCelBの分泌シグナル配列、BGL7の分泌シグナル配列とCelAの分泌シグナル配列、BGL7の分泌シグナル配列とCelBの分泌シグナル配列、CelAの分泌シグナル配列とCelBの分泌シグナル配列等の組み合わせを挙げることが出来る。より好ましい組み合わせとしては、GlaRの分泌シグナル配列とBGL7の分泌シグナル、BGL1の分泌シグナル配列とBGL7の分泌シグナル配列の組み合わせである。
エンドグルカナーゼを酵母細胞外に分泌させるための分泌シグナル配列としては、分泌されるエンドグルカナーゼが本来有する分泌シグナル配列とCelAの分泌シグナル配列との組み合わせが好ましい。例えば、エンドグルカナーゼCelBを分泌させる場合、CelBの分泌シグナル配列とCelAの分泌シグナル配列との組み合わせが好ましい。
分泌される酵素が本来有する分泌シグナル配列と異種の分泌シグナル配列とを組み合せる場合、各分泌シグナル配列の並びはいずれがN末端側であってもよいが、遺伝子組み換え操作における取扱い上、異種の分泌シグナル配列をN末端側とすることが好ましい。分泌シグナル配列をコードした塩基配列とプロモーター配列とは、連続的に繋がっていてもよく、各種の制限酵素認識配列などの短い配列を介して繋がっていることが好ましい。制限酵素認識配列としては、例えば、EcoRI(GAATTC)、SalI(GTCGAC)、HindIII(AAGCTT)、KpnI(GGTACC)、PstI(CTGCAG)、SacI(GAGCTC)、XhoI(CTCGAG)、SmaI(CCCGGG)、NotI(GCGGCCGC)より好ましくは、プロモーター配列と分泌シグナル配列コード領域とは、SalI認識配列を介して連結している。
細胞表層局在タンパク質
細胞表層局在タンパク質は、細胞表層に固定化され又は付着ないしは接着してそこに局在するタンパク質であればよく、公知のものを制限なく使用できる。
細胞膜に局在するタンパク質としては、膜貫通タンパク質や細胞表層局在タンパク質が挙げられる。膜貫通タンパク質は、疎水性アミノ酸領域部分で脂質二重膜を貫通しているタンパク質であり、受容体タンパク質に多く見られる。一方、細胞表層局在タンパク質としては、脂質で修飾されたタンパク質が知られており、この脂質が膜成分と共有結合することにより細胞膜に固定される。その他に、固定化の機構が明らかにされていない細胞表層局在タンパク質もあり、本発明方法ではそれらも使用できる。細胞表層局在タンパク質としては、後述する各種GPIアンカリングタンパク質やBGL2などが知られている。BGL2は、酵母のβ-グルコシダーゼで細胞壁に強く結合することは分かっているが、その機構は不明のタンパク質である。また、BGL2は、GPIアンカリングタンパク質に共通するモチーフは有さない。
GPIアンカリングタンパク質
細胞表層局在タンパク質の代表例として、GPI(glycosylphosphatidylinositol:エタノールアミンリン酸-6マンノースα−1,2マンノースα−1,6マンノースα−1,4グルコサミンα−1,6イノシトールリン脂質を基本構造とする糖脂質)アンカリングタンパク質を挙げることができる。GPIアンカリングタンパク質は、そのC末端に糖脂質であるGPIを有しており、このGPIが細胞膜中のPI(phosphatidylinositol)と共有結合することによって細胞膜表面に結合する。
GPIアンカリングタンパク質のC末端へのGPIの結合は以下のようにして行われる。即ち、GPIアンカリングタンパク質は、転写及び翻訳の後、N末端側に存在する分泌シグナルの作用により小胞体内腔に分泌される。GPIアンカリングタンパク質のC末端又はその近傍の領域には、GPIアンカーがGPIアンカリングタンパク質と結合する際に認識されるGPIアンカー付着シグナルと呼ばれる領域が存在する。小胞体内腔及びゴルジ体において、このGPIアンカー付着シグナル領域が切断され、新たに生じるC末端にGPIが結合する。
GPIが結合したタンパク質は、分泌小胞により細胞膜まで運ばれ、GPIが細胞膜のPIに共有結合することにより、細胞膜に固定される。さらに、ホスファチジルイノシトール依存性ホスホリパーゼC(PI-PLC)によりGPIアンカーが切断され、細胞壁に組み込まれることにより細胞壁に固定された状態で、細胞表面に提示される。
本発明では、GPIアンカリングタンパク質の細胞膜結合領域であるGPIアンカー付着シグナル領域を含む、通常C末端の領域をコードするポリヌクレオチドを好適に用いることができる。この細胞膜結合領域は、GPIアンカー付着シグナル領域を含んでいればよく、融合タンパク質の酵素活性を阻害しない限り、その他GPIアンカリングタンパク質のどのような部分を含んでいてもよい。
GPIアンカリングタンパク質は、酵母細胞で機能するタンパク質であればよく、公知のGPIアンカリングタンパク質を制限なく使用できる。公知のGPIアンカリングタンパク質としては、例えば、酵母の性凝集タンパク質であるα−又はa−アグルチニン、Flo1タンパク質、大腸菌の外膜タンパク質OmpA(Georgiou,G.et.al.Trends Biotechnol.,11,6-10,1993) 、大腸菌マルトーストランスポーターLamB、大腸菌鞭毛タンパク質flagellin、枯草菌細胞壁溶解酵素CwlB等が挙げられる。
特に、酵母のα−アグルチニンを好適に使用できる。α−アグルチニンのC末端側から320ないしは600個のアミノ酸からなる領域(即ち、C末端から320個のアミノ酸からなる領域、C末端から321個のアミノ酸からなる領域、……C末端から599個のアミノ酸からなる領域、又はC末端から600個のアミノ酸からなる領域)を用いることが好ましく、C末端側から320個のアミノ酸からなる領域をコードするポリヌクレオチド配列を用いることがより好ましい。α−アグルチニンのC末端側から320個のアミノ酸からなる配列には、4カ所の糖鎖結合部位が存在する。GPIアンカーがPI-PLCにより切断された後、この糖鎖と細胞壁を構成する多糖類とが共有結合することにより、α−アグルチニンの細胞壁への固定を増強する。α−アグルチニンをコードするDNAの塩基配列は日本DNAデータバンクにおいてCAA89526のアクセッション番号で登録されている。
本発明では、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列とGPIアンカー付着シグナル配列が、別々の起源から調製されたものであってもよい。
β-グルコシダーゼ・エンドグルカナーゼ
β-グルコシダーゼは、セロオリゴ糖又はアグリコンとβ-D-グルコースとの間のβ-グルコシド結合を加水分解する酵素である。本発明のβ-グルコシダーゼとしては特に起源は限定されないが、例えばAspergillus oryzae 、Aspergillus aculeatus、Saccharomycopsis fibuligera、Bacillus circulans、Clostridium thermocellum、Thermotoga maritima、Ruminococcus albus起源のものを挙げることができる。より好ましくは、安全性の点で、Aspergillus oryzaeのβ-グルコシダーゼが好ましい。Aspergillus oryzaeのβ-グルコシダーゼ遺伝子の配列は日本DNAデータバンクにおいてBAE54829のアクセッション番号で登録されている。
エンドグルカナーゼは、セルロースのβ-グルコシド結合を加水分解し、グルコースやセロオリゴ糖を生成する酵素である。本発明のエンドグルカナーゼとしては特に起源は限定されないが、例えばAspergillus oryzae、Aspergillus kawachi、Bacillus subtilis、Streptomyces halstedii、Trichoderma reesei 、Ruminococcus albus、Fusarium oxysporumを挙げることができる。より好ましくは、安全性の点で、Aspergillus oryzaeのエンドグルカナーゼが好ましい。Aspergillus oryzaeのエンドグルカナーゼ遺伝子の配列は日本DNAデータバンクにおいてBAA22589のアクセッション番号で登録されている。
β-グルコシダーゼ、及びエンドグルカナーゼは、実用できるだけの活性を維持している限り、その一部のアミノ酸配列からなるものであってもよい。
リンカー
本発明では、β-グルコシダーゼ遺伝子とその下流の細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間、及びエンドグルカナーゼ遺伝子とその下流の細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間に、リンカーが存在することが好ましい。上記位置にリンカーを介在させることにより、菌体重量当たりの各酵素活性が向上する。なお、「リンカー」とは、リンカーペプチドをコードするポリヌクレオチドを意味する。
菌体重量当たりのβ-グルコシダーゼ活性、ひいてはセルロース分解速度、及びエタノール生成速度を向上させるために、β-グルコシダーゼ遺伝子とその下流の細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間のリンカー長は、6〜90塩基程度が好ましく、15〜30塩基程度がより好ましい。即ち、本発明の清酒酵母の表層に提示されたβ-グルコシダーゼと細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域との間のリンカーペプチドの長さは、2〜30アミノ酸残基程度が好ましく、5〜10アミノ酸残基程度がより好ましい。
菌体重量当たりのエンドグルカナーゼ活性、ひいてはセルロース分解速度、及びエタノール生成速度を向上させるために、エンドグルカナーゼ遺伝子とその下流の細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間のリンカー長は、6〜90塩基程度が好ましく、42〜69塩基程度がより好ましい。即ち、本発明の清酒酵母の表層に提示されたエンドグルカナーゼと細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域との間のリンカーペプチドの長さは、2〜30アミノ酸残基程度が好ましく、14〜23アミノ酸残基程度がより好ましい。
リンカーペプチドの配列は特に限定されないが、親水性を高めるために、非電荷型で芳香環を含まないアミノ酸からなる配列が好ましい。また、リンカーペプチドに柔軟性を持たせる上で、分子量180以下の比較的嵩の小さいアミノ酸が好ましい。このようなアミノ酸として、例えばグリシン、アラニン、バリン、セリン、スレオニン、システインなどが挙げられる。中でも、菌体重量当たりの酵素活性を向上させる上で、セリンとグリシンとからなる配列が好ましい。
(a)及び(b)のポリヌクレオチドにおいて、分泌シグナル配列とβ-グルコシダーゼ遺伝子又はエンドグルカナーゼ遺伝子との間には、分泌シグナルペプチドによる融合タンパク質の分泌を阻害しない程度であれば、任意のオリゴヌクレオチド配列が挿入されていてもよい。一般に30塩基程度までの挿入配列が許容される。
マルチコピー
本発明の清酒酵母は、染色体中に、β-グルコシダーゼ遺伝子、及び/又はエンドグルカナーゼ遺伝子を複数コピー含んでいることが好ましい。これにより、細胞表層にこれらの酵素が高密度に提示されたものとなる。但し、酵母自身の細胞壁のβ-(1,4)グルカンやβ-(1,6)グルカンを分解しないようにするため、上記各遺伝子のコピー数の上限は、通常6程度とすればよい。
本発明で使用する清酒酵母の作製方法
本発明の清酒酵母は、例えば、染色体組み込み型の発現ベクターへ上記(a)及び(b)のポリヌクレオチドがそれぞれのプロモーターにより発現するように挿入し、そのプラスミドを用いて清酒酵母を形質転換することにより得ることができる。発現ベクターは、酵母の自律複製配列を含んでいないものであれば、通常、酵母の染色体DNA組込み型のものとなる。
プロモーターは、酵母細胞で機能できるものであればよく、特に限定されない。例えば、酵母SED1プロモーター(特開2003-265177号)、GAPDHプロモーター(特公平07-24594)、PGK1プロモーター(EMBO J.(1982),1,603- Tuite,M.F. et al)、ADH1プロモーター(Nature(1981),293,717- Hitzeman,R.A.et al)などが挙げられる。これらのプロモーターは、酵母細胞において高いプロモーター活性を示す。
工業スケールで培養する場合は、様々な成分が溶け込んだ反応系、即ち高浸透圧環境となる場合が多い。また、実験室で培養する場合と較べて、温度やpHを厳密に制御することが難しく、またコスト等の面で栄養リッチな培養液を使用し難い。この点、酵母SED1プロモーターは、通常の培養条件で高い転写活性を示すだけでなく、高温、高浸透圧又は低浸透圧、貧栄養状態、アルコールの存在などの各種ストレス環境下においても安定した高いプロモーター活性を示し、pHの変動による影響も受け難い点で、特に好ましいものである。
プロモーターは、高いプロモーター活性を示していれば、その全領域であってもよく、その一部の領域であってもよい。
またβ-グルコシダーゼ遺伝子、及びエンドグルカナーゼ遺伝子の発現を調節するために、プロモーターの他に、オペレーター、エンハンサー、ターミネーター等も含んでいればよい。ターミネーターとしては、ADH1(アルデヒドデヒドロゲナーゼ)ターミネーター、GAPDH(グリセルアルデヒド3’-リン酸デヒドロゲナーゼ)ターミネーター等が挙げられる。
GAPDHプロモーターを備える発現ベクターであって、酵母染色体DNAに組み込まれるものとしては、pICAS1(京都大学大学院農学研究科の植田充美教授より分譲)等が挙げられる。SED1プロモーター、PGK1プロモーター、又はADH1プロモーターを含む発現ベクターは、これらのプロモーターをPCRにより増幅してプラスミドpRS406(Stratagene社)に連結することにより作製できる。
プロモーターと分泌シグナル配列との間には、プロモーターによる融合タンパク質の発現を阻害しない範囲で任意のヌクレオチド配列が挿入されていてもよい。
染色体中にβ-グルコシダーゼ遺伝子、エンドグルカナーゼ遺伝子が複数コピー組み込まれた清酒酵母は、例えば、(a)と(b)との双方を含む発現ベクターであって、互いに異なるマーカー(例えば、薬剤耐性遺伝子、URA3、TRP1、LEU2、LYS2等)を含むものを複数用いて清酒酵母を形質転換することにより得ることができる。また、(a)と(b)との双方を含む発現ベクターであって選択マーカーとして薬剤耐性遺伝子を含むものを使用して清酒酵母を形質転換し、段階的又は漸次的に変化させた薬剤濃度で選択することによっても、この発現ベクターが複数導入された形質転換体を容易に選択できる。また、発現ベクター中に挿入する各遺伝子の数を設定することにより、宿主に導入する各遺伝子の数を決めることもできる。
宿主に導入された各遺伝子のコピー数は、形質転換体が分泌する酵素の活性測定、各遺伝子に特異的なプローブを用いたゲノムサザンハイブリダイゼーション、各遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCRなどにより確認することができる。
得られた酵母の細胞表層にβ-グルコシダーゼ及びエンドグルカナーゼが固定されていることは、常法により確認できる。例えば、被験酵母に、これらのタンパク質に対する抗体と、FITCのような蛍光標識2次抗体またはアルカリフォスファターゼのような酵素標識2次抗体等とを作用させる方法、これらのタンパク質に対する抗体とビオチン標識2次抗体とを反応させた後さらに蛍光標識ストレプトアビジンを作用させる方法などが挙げられる。また、アンカータンパクのN末端側にFLAGタグを挿入した場合は、FLAGタグ抗体を用いることでより簡便に細胞表層に局在化していることを確認できる。
<宿主>
本発明では、実用酵母の中でも、高い発酵能と高いエタノール耐性を有し、遺伝学的にも安定した清酒酵母を用いる。一般に、微生物にとってエタノールは有毒である。エタノール発酵する酵母も例外ではなく、エタノール濃度が8%(v/v)を超えると自身が生産したエタノールにより徐々に死滅してしまう。ここで、清酒酵母はエタノール濃度が20%にも達する清酒モロミで長年選抜及び育種されてきた株であり、一般的な酵母に比べ極めて高いエタノール耐性を持っている。
清酒酵母としては、日本醸造協会頒布の「きょうかい酵母」およびこれらを親株とした突然変異株などが挙げられる。また他にも、清酒醸造で使用されている酵母であればいずれも有用である。形質転換マーカーとして栄養要求性遺伝子を用いる場合は、これら清酒酵母に突然変異などの手法を用いて栄養要求性を付与した株を用いればよく、そのような栄養要求性としてはウラシル要求性、トリプトファン要求性、ロイシン要求性、ヒスチジン要求性、リシン要求性などが挙げられる。清酒酵母にウラシル・リシン要求性を付与した例としては「きょうかい9号酵母」を宿主として突然変異法により取得したSaccharomyces cerevisiae GRI-117-UKが挙げられる。
(II)エタノールの製造方法
工程(1)亜臨界水処理による生成物の分解・発酵は、反応容器内の反応液中に酵母を懸濁した状態で行うことができる。また、カラムのような反応容器内に酵母を充填したバイオリアクターを用いて行うこともできる。また、反応は連続式、回分式(バッチ式)又は半回分式のいずれの方式で行ってもよい。
反応液中には、工程(1)によって得られた生成物(基質)のみ含まれていてもよく、又はこれに加えてpH調整のための緩衝剤や酵母の生存に必要な公知の物質が含まれていてもよい。さらには、過分解物を除去するために活性炭を加えてもよい。
工程(2)における反応開始時の基質濃度は、通常5〜25重量%程度とすることが好ましく、10〜20重量%程度とすることがより好ましい。上記濃度範囲であれば、効率的にエタノールを生成することができるとともに、反応液の粘度が上がって攪拌や温度制御等が難しくなったり、反応液の浸透圧が上がって酵母の死滅や増殖阻害が生じたりすることがない。
反応に用いる酵母量は、通常、1mlの基質当たりOD660=5unit〜60unitであり、好ましくは1mlの基質当たりOD660=10unit〜30unitである。
反応温度は、清酒酵母が保持する各酵素が活性を示す温度であればよく、通常28〜32℃程度とすればよい。
反応液中の各成分濃度を、例えば、ガスクロマトグラフィーやHPLCなどを用いて経時的にモニターすることにより、セルロースの追加量、反応時間、pH調整剤の添加量などを決定すればよい。上記の温度範囲であれば、8〜60時間程度の反応により、反応液中にエタノールが生成する。
実施例
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<装置概要>
図1は本発明を実施するための装置例を示す概略説明図である。本装置は基質供給部とサンプル回収部に存在するシリンジ管を複数化することで、連続処理が可能な構造になっている。この装置を用いて本発明方法を実施し、本発明の効果を確認した。
なお、処理条件等の検討にはセルロースの中でも最も構造が強固で分解が難しい「結晶セルロース(Avicel:Fluka社製)」を植物性バイオマスのモデル基質として用い、最後に絞り込んだ条件でリアルバイオマス(籾殻/稲ワラ)を処理し、開発したプロセスの妥当性を検証した。
<亜臨界水処理サンプルの分析方法>
亜臨界水処理サンプルはHPLC分析(カラム:sugar KS-801、検出器:RI、泳動層:H2O、流速: 1ml/min、カラム温度:80℃、インジェクション量:100μl、分析時間20min)により、サンプルに含まれる糖や過分解物の組成/量を分析した。この分析条件におけるクロマトチャートと各成分の1%(w/v)標準品が示すピーク面積を図2に示す。本分析法を用いて亜臨界水処理サンプルを評価し、処理条件の最適化を進めた。
製造例1
1.スーパー酵母I
β−グルコシダーゼ・エンドグルカナーゼを含む発現ベクターの構築
(A) 常法に従って、高活性プロモーター(SED1プロモーター)を取得した。簡単に述べると、5'-GCGggatccTTGGATATAGAAAATTAACGTAAGG-3'(配列番号1:Psed-F)及び5'-CCGgaattcCTTAATAGAGCGAACGTATTTTATT-3'(配列番号2:Psed-R)の2つのプライマーを用いて、酵母Saccharomyces cerevisiae X2180-1A(ATCC Number: 204647)の染色体DNAを鋳型としてPCRを行った。PCRの条件としては、94℃/1分−52℃/1分−72℃/2分のサイクルを30回繰り返した。
ここで、配列番号1:Psed-Fには、後にpRS406への挿入目的として制限酵素KpnIの認識配列を、また、制限酵素処理を効率化するためのエキストラ配列を付与している。配列番号2:Psed-Rについても、同様の目的で制限酵素EcoRI認識配列およびエキストラ配列を付与している。制限酵素認識配列は小文字で記載してある。
得られたPCR産物をスピンカラム(キアゲン社製、PCR Purification Kit)により精製後、制限酵素KpnIとEcoRIとで消化して、KpnIとEcoRI断片を得た。このKpnIとEcoRI断片には、SED1遺伝子のプロモーター領域が含まれている。配列表の配列番号:3(Psed-seq)にその配列を示す。
(B) 常法に従って、Rhizopus oryzaeのグルコアミラーゼの分泌シグナル配列を取得した。簡単に述べると、5'-GCGgaattcATGCAACTGTTCAATTTGCCATTGA-3'(配列番号4:sig-F)5'-ggggttaacgtcgacgatctccgcgGCAGAAACGAGCAAAGAAAAGTAAG -3'(配列番号5:sig-R)を合成し、これらをプライマーとして、グルコアミラーゼ遺伝子が挿入されているプラスミド pICAS1(Appl Environ Microbiol. 64 4857-61 (1998))を鋳型としてPCRを行った。PCRの条件としては、94℃/1分−52℃/1分−72℃/30秒のサイクルを30回繰り返した。
ここで、配列番号4:sig-Fには、後にpRS406への挿入目的として制限酵素EcoRIの認識配列を、また、制限酵素処理を効率化するためのエキストラ配列を付与している。配列番号5:sig-Rの設計には、後に目的の遺伝子配列を挿入させるため、制限酵素SalIおよびHpaIの認識部位を付与し、また、pRS406への挿入前の制限酵素処理を簡便にする目的で、制限酵素SmaI消化後配列を配列の末端に付与した。制限酵素認識配列は小文字で記載してある。
得られたPCR産物をスピンカラム(キアゲン社製、PCR Purification Kit)により精製後、制限酵素EcoRIで切断し、EcoRI-SmaI断片を得た。このEcoRI断片にはグルコアミラーゼ分泌シグナル配列が含まれている。配列表の(配列番号6:sig-seq)にその配列を示す。
(C) α-アグルチニンのC末端の一部をコードする配列及びGPIアンカー付着シグナル配列を有する遺伝子(320アミノ酸)を有する配列を取得するため、酵母Saccharomyces cerevisiae X2180-1Aから、常法により染色体DNAを単離し、5'- gggGctcgagCGCCAAAAGCTCTTTTATCTCAA -3'(配列番号7:GPI-F)および5'-AAGGAAAAAAgcggccgcTTTGATTATGTTCTTTCTATTTGAATG -3'(配列番号8:GPI-R)の2つのプライマーを用いて、PCRを行った。PCRの条件としては、94℃/1分−52℃/1分−72℃/2分のサイクルを30回繰り返した。
ここで、配列番号7:GPI-Fの設計には、後に目的のリンカー配列を挿入させるため、制限酵素XhoIの認識部位を付与し、またpRS406への挿入前の制限酵素処理を簡便にする目的で、制限酵素SmaI消化後配列を配列の末端に付与した。配列番号8:GPI-Rには、後にpRS406への挿入目的として制限酵素NotIの認識配列を、また、制限酵素処理を効率化するためのエキストラ配列を付与している。制限酵素認識配列は小文字で記載してある。
得られたPCR産物をスピンカラム(キアゲン社製、PCR Purification Kit)により精製後、制限酵素NotIで消化して、SmaI-NotI断片を得た。このSmaI-NotI断片には、α-アグルチニンのC末端から320アミノ酸をコードする配列と、3'非コード領域の466bpとを含んでおり、この配列中にGPIアンカー付着シグナル配列が含まれている。配列表の配列番号9:GPI-seqにその配列を示す。
(D) 酵母表層提示発現に用いる基本ベクターとして、(A)で得られた高活性プロモーターと(B)で得られた分泌シグナル配列と(C)GPIアンカー付着シグナルを含むDNA断片を、常法に従い、それぞれpRS406中のマルチクローニングサイト、KpnI-EcoRIサイト、EcoRI-SmaIサイト、SmaI-NotIサイトに順次挿入し、プラスミドpK113を得た。
(E) 常法に従って、Aspergillus oryzaeのβ-グルコシダーゼ遺伝子のcDNAを取得した。簡単に述べると、まず、Aspergillus oryzae O-1013株(平成9年11月20日付で産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター 中央第6)にFERM P-16528として寄託済み)から全RNAを抽出し、ついで、オリゴdTセルロースを用いてPoly(A)+RNAを取得した。
次にPoly(A)+RNAを鋳型とし、GIBCO BRL社のRT-PCR KITを用いて逆転写反応を行い、cDNA混合物を取得した。即ち、5'-ACGCgtcgacATGAAGCTTGGTTGGATCGAGGTGG-3'(配列番号10:B-F)及び5'-aacCCTGGGCCTTAGGCAGCGACGCCTGGAGCGGCAG-3'(配列番号11:B-R)を合成し、これをプライマーとして、先ほどのcDNA混合物を鋳型にPCRした。PCRは、50℃/30分−94℃/2分の後、94℃/1分−52℃/1分−72℃/2分のサイクルを30回繰り返す条件で行った。
ここで、配列番号10:B-Fには、後に遺伝子のN末端を分泌シグナル配列と融合させるために翻訳開始コドンATGの直前に制限酵素SalIの認識配列を、また、制限酵素処理を効率化するためのエキストラ配列を付与している。配列番号11:B-Rには、後に遺伝子のC末端と、α-アグルチニンC末断片のN末端とを融合させるため翻訳終止コドンを除去し、また、pK113への挿入前の制限酵素処理を簡便にする目的で、制限酵素HpaI消化後配列を配列の末端に付与した。制限酵素認識配列は小文字で記載してある。
得られたPCR産物をスピンカラム(キアゲン社製、PCR Purification Kit)により精製後、制限酵素SalIで切断し、約2.6kbpのβ-グルコシダーゼ遺伝子cDNA断片を得た。配列表の(配列番号12:B-cDNA)にその配列を示す。
(F) 得られた目的のDNAをプラスミドpK113のSalIとSmaI切断部位に挿入して、目的のプラスミドpK113-BGL7を得た。
(G) エンドグルカナーゼ遺伝子についても、(E)と同様の手順に従い、5'-GTAAgtcgacATGATCTGGACACTCGCTC-3'(配列番号13:C-F)および5'-CCCAgttaacCATGCCTGTAGGTAGATCCA-3'(配列番号14:C-R)を用いて、約1.3kbpのエンドグルカナーゼ遺伝子cDNA断片を作製した。続いて、エンドグルカナーゼ遺伝子配列内部に存在していたSalI制限酵素サイトは、5'-TTCGATGTtGAtGCCTCCACCCTC-3'(配列番号15:C-dS1F)、5'-GTGGAGGCaTCaACATCGAAGGTGAAT-3'(配列番号16:C-dS1R)、5'-GAAAAACTGTtGAtTCAATCACAAAGGACT-3'(配列番号17:C-dS2F)、および、5'-TTGTGATTGAaTCaACAGTTTTTCCTCCAG-3'(配列番号18:C-dS2R)のプライマーを用いて常法に従いアミノ酸配列を保持したまま破壊した。配列表の(配列番号19:C-cDNA)にその配列を示す。配列番号19において、塩基置換を施した部分を小文字で示す。
(H) 得られた目的のDNAをプラスミドpK113のSalIとSmaI切断部位に挿入して、目的のプラスミドpK113-celBを得た。
リンカーの挿入
上記で得たプラスミド(pK113-BGL7)において、β-グルコシダーゼ遺伝子とα-アグルチニンのC末端領域をコードする配列との間に存在する制限酵素XhoIの認識部位を制限酵素XhoIで切断し、そこへ合成した18塩基(6アミノ酸;リンカーL6)のリンカーを挿入することで、リンカーが挿入されたプラスミド、pK113-BGL7(L6)を作製した。
また、上記で得たプラスミド(pK113-celB)において、同様の手法にてプラスミドpK113-celB(L18)を作製した。
各リンカーの塩基配列、及びこれに対応するリンカーペプチドのアミノ酸配列は以下の通りである。pK113-BGL7およびpK113-celBへの挿入の際には、両端にXhoI制限酵素処理後配列を付加した形でセンス鎖およびアンチセンス鎖にあたる塩基配列を作製し、それらをアニーリングすることで、各プラスミドへの挿入断片を作製した。
<リンカーL6>
塩基配列:GGTTCTTCAGGTGGTTCG(配列番号20)
アミノ酸配列:GSSGGS(配列番号21)
<リンカーL18>
塩基配列:
GGTTCTTCAGGTGGTTCGAGTGGTTCTTCAGGTGGTTCTGGTGGATCTGGTTCG(配列番号22)
アミノ酸配列:GSSGGSSGSSGGSGGSGS(配列番号23)
形質転換
これらのプラスミドを用いて、清酒酵母きょうかい9号を公知の手法、より具体的には、「酵母遺伝子実験マニュアル(丸善株式会社)P.9〜P.17」に表記されている手法に従い変異処理して、ウラシル要求性とリシン要求性を併せ持つ、GRI−117−UK株を形質転換した(月桂冠株式会社保有)。本株を宿主とし、酢酸リチウム法にてpK113-BGL7(L6)、及びpK113-celB(L18)をそれぞれ形質転換し、染色体中に2コピーのβ-グルコシダーゼ遺伝子が挿入された清酒酵母と、染色体中に2コピーのエンドグルカナーゼが挿入された清酒酵母を作製した。
これらの酵母を等量混合して、スーパー酵母Iとした。
製造例2
2.スーパー酵母II
(1)プラスミドの構築
製造例1で得たプラスミド(pK113-BGL7)において、β-グルコシダーゼ遺伝子の分泌シグナル配列を替えた数種類のプラスミドを調製した。詳しくはAspergillus oryzae由来β-グルコシダーゼ(BGL1、BGL7)及びRhizopus oryzae由来グルコアミラーゼ(GlaR)の分泌シグナル配列を1個、ないしは2個連結したものを調製した。この際、翻訳開始コドン直前の制限酵素サイトをEcoRIからSalIに変更した。それぞれの分泌シグナル配列は製造例1と同様の手順に従い、A. oryzaeのPoly(A)+RNAもしくはプラスミドpNGB1を鋳型としてPCR法により取得し、BGL7プロ配列に連結した。そして、分泌シグナル配列を置換したプラスミド、pK113-BGL7(d7)、pK113-BGL7(d1V7)、pK113-BGL7(dR7)を作製した。なお、製造例1で取得したプラスミド(pK113-BGL7)は、GlaRの分泌シグナル配列とBGL7の分泌シグナル配列を有するが、翻訳開始コドン直前の制限酵素サイトがEcoRIである。
また、製造例1のプラスミド(pK113-celB)も同様に、エンドグルカナーゼ遺伝子の分泌シグナル配列を替えた数種類のプラスミドを調製した。詳しくはAspergillus oryzae由来エンドグルカナーゼ(CelA、CelB)及びRhizopus oryzae由来グルコアミラーゼ(GlaR)の分泌シグナル配列を1個、ないしは2個連結したものを調製した。この際、翻訳開始コドン直前の制限酵素サイトをEcoRIからSalIに変更した。それぞれの分泌シグナル配列は製造例1と同様の手順に従い、A. oryzaeのPoly(A)+RNAもしくはプラスミドpNGB1を鋳型としてPCR法により取得し、celB成熟配列に連結した。そして、分泌シグナル配列を置換したプラスミド、pK113-celB (dB)、pK113-celB (dB2B)、pK113-celB (dB)、pK113-celB (dA2B)、pK113-celB (dRB)、を作製した。なお、製造例1で取得したプラスミド(pK113-celB)は、GlaRの分泌シグナル配列とCelBの分泌シグナル配列を有するが、翻訳開始コドン直前の制限酵素サイトがEcoRIである。
各分泌シグナルの名称:構成要素、塩基配列、及びこれに対応するアミノ酸配列は以下の通りである。
<β-グルコシダーゼ>
dR7:GlaRの分泌シグナル配列とBGL7の分泌シグナル配列を連結、ATGCAACTGTTCAATTTGCCATTGAAAGTTTCATTCTTTCTCGTCCTCTCTTACTTTTCTTTGCTCGTTTCTGCTGCTGAAATTATGAAACTTGGTTGGATCGAGGTGGCCGCATTGGCGGCTGCCTCAGTAGTCAGTGCCAAG(配列番号24)、MQLFNLPLKVSFFLVLSYFSLLVSAAEIMKLGWIEVAALAAASVVSAK(配列番号25)
<エンドグルカナーゼ>
dA2B:CelAの分泌シグナル配列とCelBの分泌シグナル配列を連結、ATGAAGCTCTCATTGGCACTTGCTACGCTCGTGGCCACAGCATTCAGTCAAGAGATGATCTGGACACTCGCTCCCTTTGTGGCACTCCTGCCACTGGTAACTGCCCAG(配列番号26)、MKLSLALATLVATAFSQEMIWTLAPFVALLPLVTAQ(配列番号27)
リンカーの挿入
(1)プラスミドの構築
開始コドン直前の配列がSalI認識配列でGlaRの分泌シグナルとBGL7の分泌シグナルとを連結し、さらにβ-グルコシダーゼとα-アグルチニンとの間に6アミノ酸残基からなるリンカーペプチドを介在させたプラスミドpK113-BGL7(dR7-L6)を常法に従い作製した。
同様に、リンカー長と分泌シグナル配列を共に最適化したエンドグルカナーゼを発現するプラスミドを作製した。詳しくは、開始コドン直前の配列がSalI認識配列でCelAの分泌シグナルとCelBの分泌シグナルとを連結し、さらにエンドグルカナーゼとα-アグルチニンとの間に18アミノ酸残基からなるリンカーペプチドを介在させたプラスミドpK113-celB(dA2B-L18)を常法に従い作製した。
(2)形質転換
製造例1と同様に行い、染色体中に2コピーのβ-グルコシダーゼ遺伝子が組み込まれた清酒酵母と、染色体中に2コピーのエンドグルカナーゼが組み込まれた清酒酵母を作製した。
これらの酵母を等量混合して、スーパー酵母IIとした。
試験例1.
<亜臨界水処理サンプルの発酵方法>
発酵試験は、取得した亜臨界水処理サンプルをpH5に調整し、製造例1および2で得られたスーパー酵母を加えて行った。この際、過分解物が多いサンプルには活性炭を10%(w/v)添加したものを用いた。発酵サンプルはガスクロマトグラフィー分析し、生成したエタノールを定量した。
発酵に用いる酵母量について検討(OD660nm=10〜60unit)した結果、「菌体が多い場合は時間当たりのアルコール生産性は良いが、培養コストは高くなり」、「少ないときは発酵中にグルコースが増殖のエネルギーとして消費されるため、エタノール濃度は低下する」ことが分かった(図3)。そして、添加する酵母は1mlの亜臨界水処理サンプル当たりOD660=20unitが適当だと考えられた。
<基質を亜臨界水処理する際の最適条件>
目標としている10%(w/v)エタノール生産を行うには、20%(w/v)結晶セルロースを可溶化する必要がある。(EtOH比重:0.8、化学量論的変換率(2EtOH/Glc):0.514、加水分解による重量増加:1.11、発酵歩留まり0.8、として計算)。
改良した装置において様々な条件下で、25〜30%(w/v)結晶セルロースから可溶化させ(表1参照:実施例1〜17、比較例1〜10)、セロオリゴ糖を含む高濃度可溶化セルロースを安定して連続的に生産することに成功した。これにより、実用的なエタノール生産が可能なサンプルを調製することができた。ここで不溶性成分は、非結晶化しているが糖鎖長が長いため水不溶性を示すセルロースだと考えられた。
本発明の方法の処理条件から外れた条件では、過分解物や未分解物が多くなり、反応条件の評価は低かった。
<スーパー酵母を用いた発酵試験>
次に本サンプルを発酵試験に用いた。その結果を表1(実施例1〜17)に示す。
Figure 2009183249
実施例1〜6については、10%(w/v)活性炭で処理した結果、スーパー酵母Iは5.1%(v/v)のエタノールを生成した(実施例1)。一方、親株(清酒酵母、上述のGRI−117−UK株)のエタノール濃度は2.9%(v/v)であった。このことからスーパー酵母Iは亜臨界水処理サンプルから親株以上のエタノールが生成可能であることが証明された。なお、ここで親株がエタノールを生産したのは、サンプル中にある程度のグルコースが存在しており、親株はこのグルコースを資化してエタノールを生産したものと考えられる。この時の処理条件は「基質濃度25%(w/v)、温度/圧力:310℃/30MPa、流速:亜臨界水20 ml/min、基質セルロース懸濁液20ml/min、反応時間2秒」であった。この結果から、スーパー酵母はグルコース以外に酵母が本来資化できないセロオリゴ糖からエタノール発酵できることが確認できた。この時のエタノール収率は0.57であり、発酵歩留まりを0.8とした時の変換率は70%を達成した。さらに発酵後の不溶性成分量を調べたところ、スーパー酵母は親株と比較しても不溶性成分が減っていることが分かった(図5)。この結果はスーパー酵母が不溶性成分も、エタノール発酵の基質にできることを示している。
スーパー酵母は自己増殖する酵素剤と言えるので、初発の酵素投入量を減らすことができ、ランニングコストを低減できる。また、酵素剤では反応後回収することはできないが、スーパー酵素は遠心分離などで容易に回収でき、次反応に使える。
スーパー酵母が不溶性成分も資化できることが明らかになったため、処理条件を再調整(図4:実施例1→実施例10→実施例11)し、過分解物(褐色成分)をほとんど含まない高濃度可溶化セルロースの回収に成功した(図4、実施例11)。この時の処理条件は「基質濃度30%(w/v)、温度/圧力:360℃/32MPa、流速:亜臨界水20 ml/min、基質セルロース懸濁液27.5ml/min、反応時間1秒」であった。回収サンプルのHPLCによる糖組成解析から、実施例1に対して実施例14及び実施例15は、過分解物が少なくオリゴ糖を多く含むことを確認した(図4)。
次に本サンプルを発酵試験に用いた。実施例14は糖度が高く、高エタノール発酵が期待されたが、活性炭非添加の発酵では、殆どエタノールを生成しなかった。しかし、実施例1よりも少ない 2.5%(w/v)の活性炭を添加することで、良好にエタノール発酵することを確認した。一方、実施例15では、活性炭非添加の発酵を実現し3.78%(v/v)のエタノール生産できた。その時のエタノール収率は30.5%であった。また、実施例10及び実施例11は、HPLCや糖度が示す可溶成分含量の割には実施例1よりも高いエタノール生産が出来ており、このことから不溶性成分がエタノール発酵の基質となったことを確認できた。
これらの結果をまとめたものを、表2に示す。
Figure 2009183249
<亜臨界水処理サンプルの不溶性成分のみを用いたエタノール発酵>
スーパー酵母が不溶性成分も資化できることが明らかになったため、実施例14と実施例15の不溶性成分をリン酸緩衝液で洗浄したのち発酵試験に用いた(図6)。この際、活性炭は添加せず、発酵7日目(図6中の矢印)に初期投入量と等量の沈殿物を追加し、発酵経過を観察した。その結果、実施例14、実施例15共に、不溶性成分だけでもエタノール生産が確認できた。
清酒醸造において20%を超えるエタノール発酵を行なっているが、そこには多くの技術ノウハウがある。その一つに、“段仕込み“があり、米・米麹を数回に分けて発酵タンクに入れることで、高濃度エタノール発酵を実現している。発酵性のある沈殿であれば、清酒醸造の“段仕込み”のように添加することで、このように最終エタノール濃度を高めることができる。バイオエタノール生産では、製品化前のエタノール濃縮工程に投入するエネルギーも課題の一つであり、発酵段階でエタノール濃度を高めることが出来れば、下流工程の負荷軽減につながる。本結果から過分解物の発生危険を冒してまで全てを可溶化する必要はなく、発酵性のある状態でとどめるという亜臨界水処理の方向性が示された。
試験例2.
<リアルバイオマスからのエタノール発酵>
1.選定理由
平成14年12月に策定した「バイオマス・ニッポン総合戦略」では、対象バイオマスの一つとして“籾殻”や“稲ワラ“などの、農作物非食用部を挙げており、その量は1300万トンと試算されている。稲ワラは農地での焼却等、肥料としての利用価値があるが、籾殻は構造が堅固なことから分解が難しく、田畑にまいたとしても堆肥化に3年〜5年かかるといわれている。籾殻は年間200万トン発生し、利用(堆肥・飼料)されているのは30%程度であり、残りの70%は廃棄されている。籾殻のセルロース含量は約32%で、エタノールに換算すると約32万kLが廃棄されていることになる。発酵を可能状態にするための前処理や、発酵過程での歩留まり等のロスを考慮しても、将来の国内におけるバイオエタノール需要に大きく貢献できる量である。
籾殻に注目したもう一つの大きな理由として、集積インフラがすでに存在していることが挙げられ、これはほかのバイオマスにはない大きな利点である。籾殻は日本の主要農作物である“米”の副産物であり、既存の精米施設所で、まとまった量が発生する仕組みが既に存在している。建築廃材等からのバイオエタノール生産も開始されているが、新たに収集のためのインフラを導入・実現することは、生産コストを如何に下げるかが根本的命題であるバイオエタノール生産にとっては大きなディスアドバンテージである。また、次項目で述べるが、集積時の籾殻の形態も破砕工程に大変適している。
これらの理由から、籾殻/稲ワラをリアルバイオマスに選定した。
2.粉砕処理
リアルバイオマスからのエタノール発酵のモデル基質として、籾殻と稲ワラを選択した。籾殻の粉砕は、ローターミル(Retsch社製)で行い、0.5mm孔、0.12mm孔スクリーンを用いて2工程で処理し、微粉末まで粉砕した。籾殻は水分含量が少なく、乾燥などの前処理を必要とすることなく短時間で簡便に粉末化することができた。一方、稲ワラは長尺であるため、ハサミで裁断後、ローターミルにより粉末化した。
3.亜臨界水処理
粉砕した籾殻、稲ワラのスラリーを作製したが、結晶セルロースと同様で、高濃度では粘土状になった。本装置では籾殻で約30%(w/v)、稲ワラで約16%(w/v)まで処理可能であった。両バイオマススラリーを、32MPa、亜臨界水供給ポンプ速度40ml/min、バイオマススラリー供給ポンプ速度40ml/min(処理濃度は、籾殻で15%(w/v)、稲ワラで8%(w/v)となる)で、亜臨界水処理を行なった。亜臨界水処理前後の外観(図7)及びHPLC分析の結果(図8)を示した。
サンプル外観は褐変しており、結晶セルロースであれば過分解物が多く派生していると危惧したが、HPLC分析の結果から、実施例15サンプルよりも過分解物は少なく、methylglyoxal以外はほとんど発生していなかった。一方、籾殻/稲ワラどちらの亜臨界水処理サンプルにもセロオリゴ糖が含まれることを確認した。さらに両サンプルのグルコース濃度を測定した結果、籾殻サンプルは0%(w/v)、稲ワラは0.01%( w/v)であった。このことから開発プロセス(処理条件)を用いれば、リアルバイオマスに含まれるセルロースをエタノール発酵可能なセロオリゴ糖に分解できることが証明された。
4.スーパー酵母によるエタノール発酵
HPLC解析の結果から、籾殻はRBM_M2、稲ワラはRBM_W2がセロオリゴ糖を多く含むと判断し、発酵試験のサンプル(それぞれ実施例18および19)とした。亜臨界水処理サンプルをpH5に調整し、2種類のスーパー酵母IIをそれぞれOD660=10unit(総菌体量: OD660=20unit)になるように加えた。また、活性炭を、0、1、2g加えてエタノール生産量との関連を検討した。(表3、図9)この時、親株(GRI−117−UK株)をOD660=20unitになるよう加えた系を比較対照として用意した。
その結果、籾殻サンプル(実施例18)から0.12%(v/v)、稲ワラサンプル(実施例19)から0.15%(v/v)のエタノール発酵ができた。発酵は24時間以内に終了しており、それ以降のエタノールの増加はみられなかった。今回のサンプルでは、どちらも活性炭添加は不要であった。逆に過剰な活性炭使用はエタノール生産量の低下につながった。生成したエタノール濃度は稲ワラを用いた方が高かったが、稲ワラの組成はセルロース45%、ヘミセルロース30%といわれており、籾殻(セルロース32%)よりも糖質を多く含んでいることが理由と考えられた。一方、親株は籾殻、稲ワラ共にエタノールは検出されず、亜臨界水処理とスーパー酵母の組み合わせがリアルバイオマスからのエタノール発酵においても有効であることが証明できた。
Figure 2009183249
以上の結果から、実用的エタノール生産に適用可能な「高濃度植物性バイオマス(セルロース)から非結晶セルロースを生成する装置と処理条件の確立」に成功した。非結晶セルロースは自然の酵母では資化できないが、スーパー酵母を用いることで、直接エタノール発酵することを実現した。
本プロセスでは(従来技術が目指していた)単糖までの分解が不要なため、処理条件が穏和である。このことは過分解物の発生抑制や亜臨界水処理にかかるエネルギーの低減につながるため、本発明はコストパフォーマンスに優れたプロセスであると言える。
図1は、本発明の方法において用いることのできる一実施態様の装置概要図である。 図2は、結晶性セルロース亜臨界水処理サンプルのHPLC分析と1%(w/v)標準品のピーク面積を示すグラフである。 図3は、試験例1における、エタノール発酵に用いる酵母量について検討(OD660nm=10〜60unit)を示すグラフである。 図4は、試験例1における、25%(w/v)結晶セルロースを様々な条件で亜臨界水処理したときの糖/過分解物組成の変化を示すグラフである。 図5は、試験例1における、亜臨界処理サンプルの不溶性成分の資化性を示した写真である。 図6は、試験例1における、亜臨界水処理サンプルの不溶性成分のみを用いたエタノール発酵の結果を示すグラフである。 図7は、試験例2における、籾殻と稲ワラの亜臨界処理前後の外観を示す写真である。 図8は、試験例2における、籾殻と稲ワラの亜臨界水処理サンプルの糖/過分解物量を示すグラフである。 図9は、試験例2における、籾殻と稲ワラの亜臨界水処理サンプルからのエタノール発酵を示すグラフである。

Claims (4)

  1. 結晶性セルロースからエタノールを製造する方法であって、
    (1)結晶性セルロースを、以下の条件:
    反応物中結晶性セルロース濃度:10〜20%(w/v)、
    反応温度:250〜370℃、
    反応圧力:30〜40MPa、かつ
    反応時間:1〜2秒
    で亜臨界水処理する工程、および
    (2)上記(1)で得られた生成物を、セルラーゼを表層に提示した酵母を用いて加水分解及び発酵させる工程
    を含む、方法。
  2. 前記セルラーゼがエンドグルカナーゼ及び/又はβ−グルコシダーゼである、請求項1記載の方法。
  3. セルラーゼを表層に提示した酵母が、下記の(a)及び(b)のポリヌクレオチドが染色体に組み込まれ、β−グルコシダーゼとエンドグルカナーゼとを表層に共提示する清酒酵母である請求項1記載の方法:
    (a) 5’末端側から順に、酵母細胞で機能する分泌シグナル配列、β−グルコシダーゼをコードする配列、及び細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列を含むポリヌクレオチド
    (b) 5’末端側から順に、酵母細胞で機能する分泌シグナル配列、エンドグルカナーゼをコードする配列、及び細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列を含むポリヌクレオチド。
  4. (a)のポリヌクレオチドが、β−グルコシダーゼをコードする配列と、細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間に、6〜90塩基長のリンカーが介在したものであり、
    (b)のポリヌクレオチドが、エンドグルカナーゼをコードする配列と、細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間に、6〜90塩基長のリンカーが介在したものである、
    請求項3に記載の方法。
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