JP2009179848A - 容器用鋼板とその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】クロメート処理に替わる表面処理を行った場合でも、優れた耐食性および製缶加工性を実現することが可能な、新規かつ改良された容器用鋼板とその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の容器用鋼板は、鋼板20の少なくとも片面に化成処理皮膜層30を有し、化成処理皮膜層30は、最表面に位置しフェノール樹脂が偏在するフェノール樹脂層38と、フェノール樹脂層38の鋼板20側に位置しジルコニウムのリン酸塩が偏在するリン酸層34と、リン酸層34の鋼板20側に位置しジルコニウムの酸化物を主成分とする酸化物層32と、を有し、フェノール樹脂層38は、化成処理皮膜層30の全膜厚に対して表層から10%以内の厚み部分に偏在し、リン酸層34は、化成処理皮膜層30の全膜厚に対して表層から40%以内の厚み部分に偏在し、酸化物層32は、化成処理皮膜層30の全膜厚に対して表層から40%〜100%の厚み部分に偏在する。
【選択図】図1

Description

本発明は、容器用鋼板とその製造方法に関し、特に、耐食性及び製缶加工性に優れた容器用鋼板とその製造方法に関する。
金属容器は、飲料用や食品用の容器として、古くから用いられている。この金属容器の鋼材として、主に、ニッケル(Ni)めっき鋼板、スズ(Sn)またはSn系合金めっき鋼板が用いられており、これらのめっき鋼板の防錆効果を高めるために、従来から6価クロム酸塩等を用いたクロメートによる防錆処理が広く行われている。さらに、必要に応じて、耐有機溶剤性、耐指紋性、耐傷つき性、潤滑性等を付与することを目的として、クロメート処理皮膜の上に、有機樹脂からなる被覆層が形成されてきた(例えば、特許文献1参照。)。
他方、近年、環境問題の高まりを背景に、3価のクロムは無害であるものの6価のクロムは有害であるという点に注目が集まり、従来からNiめっき鋼板、SnまたはSn系合金めっき鋼板に施されていたクロメート処理そのものの省略を図ろうとする動きがある。クロメート処理により形成される処理皮膜は、それ自身で高度の耐食性および塗装密着性を有するものであるため、このようなクロメート処理を行わない場合には、これらの性能が著しく低下することが予想される。
そのため、Niめっき鋼板、SnまたはSn系合金めっき鋼板表面に対して行うクロメート処理に使用するクロムの使用量の削減や、クロメート処理に替わる防錆処理を施すにもかかわらず、良好な耐食性および塗装密着性を有する防錆層を形成することが要求されるようになってきた。
上記の課題を解決するために、例えば、Snめっき鋼板に、リン酸イオンおよびシランカップリング剤を含有する化成処理液に浸漬または当該化成処理液を塗布し乾燥させる処理方法(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。
また、上記のような浸漬や塗布による表面処理方法だけでなく、例えば、Snめっき鋼板を、リン酸塩化合物を使用した電解反応によって表面処理する方法(例えば、特許文献3参照。)や、Al材を、チタン系化合物を使用した電解反応によって表面処理する方法(例えば、特許文献4参照。)等が開示されている。
さらに、電解反応を利用する方法だけでなく、アルミニウム系、亜鉛系、鉄系およびマグネシウム系基材(例えば、特許文献5参照)や、SnやSn系合金めっき鋼材(例えば、特許文献6参照)を、ジルコニウム(Zr)含有化合物及びフッ素含有化合物を含む化成処理材によりカソード電解処理する方法も開示されている。
特開2000−239855号公報 特開2004−60052号公報 特開2000−234200号公報 特開2002−194589号公報 特開2005−23422号公報 特開2005−325402号公報
しかしながら、特許文献2に記載の方法は、化成処理液への浸漬や塗布・乾燥という処理であるため、生産性が悪いという問題があった。
また、特許文献3〜6に記載の方法は、表面処理皮膜を、電解反応やカソード電解処理により形成するものであるが、これらの文献に記載の方法を用いたとしても、十分な耐食性および密着性を実現することは困難であった。
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、クロメート処理に替わる表面処理を行った場合でも、優れた耐食性および製缶加工性を実現することが可能な、新規かつ改良された容器用鋼板とその製造方法を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、表面処理皮膜である化成処理皮膜の耐食性および製缶加工性の向上を図るためには、化成処理皮膜からなる化成処理皮膜層の有する層構造が重要であることに想到した。
そこで、本発明者は、化成処理皮膜層の層構造について鋭意研究を重ねた結果、化成処理皮膜を低温電解処理により形成することで、好適な皮膜構造を有する化成処理皮膜が得られ、これにより優れた耐食性および製缶加工性が得られることを見いだした。
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、本発明がその要旨とするところは、以下の通りである。
(1) 鋼板の少なくとも片面に、ジルコニウムの酸化物、ジルコニウムのリン酸塩、及びフェノール樹脂の混合物を含む化成処理皮膜層を有し、前記化成処理皮膜層は、最表面に位置し、前記フェノール樹脂が偏在するフェノール樹脂層と、前記フェノール樹脂層の前記鋼板側に位置し、前記ジルコニウムのリン酸塩が偏在するリン酸層と、前記リン酸層の前記鋼板側に位置し、前記ジルコニウムの酸化物を主成分とする酸化物層と、を有し、前記フェノール樹脂層は、前記化成処理皮膜層の全膜厚に対して、表層から10%以内の厚み部分に偏在しており、前記リン酸層は、前記化成処理皮膜層の全膜厚に対して、表層から40%以内の厚み部分に偏在しており、前記酸化物層は、前記化成処理皮膜層の全膜厚に対して、表層から40%〜100%の厚み部分に偏在していることを特徴とする、容器用鋼板。
(2) 前記化成処理皮膜層は、金属ジルコニウム量で1mg/m〜9mg/mのジルコニウムを含有することを特徴とする、(1)に記載の容器用鋼板。
(3) 前記化成処理皮膜層は、リン量で0.5mg/m〜8mg/mのリン酸を含有することを特徴とする、(1)または(2)に記載の容器用鋼板。
(4) 前記化成処理皮膜層は、炭素量で0.1mg/m〜5mg/mのフェノール樹脂を含有することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の容器用鋼板。
(5) 前記鋼板と前記化成処理皮膜層との間に、少なくともニッケルまたはスズを含む下地めっき層が形成されることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の容器用鋼板。
(6) 前記下地めっき層は、ニッケルめっき層であり、前記ニッケルめっき層は、金属ニッケル量で150mg/m〜1000mg/mのニッケルを含有することを特徴とする、(5)に記載の容器用鋼板。
(7) 前記下地めっき層は、スズめっき層であり、前記スズめっき層は、金属スズ量で560mg/m〜5600mg/mのスズを含有することを特徴とする、(5)に記載の容器用鋼板。
(8) 前記鋼板は、当該鋼板表面にニッケルめっきまたは鉄−ニッケル合金めっきを施した下地ニッケル層が形成され、当該下地ニッケル層上に施されたスズめっきの一部と前記下地ニッケル層の一部または全部とが合金化された島状スズを含むスズめっき層が形成されためっき鋼板であり、前記めっき鋼板は、金属ニッケル量で5〜150mg/mのニッケルと、金属スズ量で300〜3000mg/mのスズと、を含有することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の容器用鋼板。
本発明によれば、化成処理皮膜層が、当該化成処理皮膜層の表層側に位置し、ジルコニウムのリン酸塩が偏在しているリン酸層と、化成処理皮膜層の鋼板側に位置し、ジルコニウムの酸化物を主成分とする酸化物層と、を備えるため、クロメート処理に替わる表面処理を行った場合でも、優れた耐食性および製缶加工性を実現することが可能である。
(第1の実施形態)
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
[本実施形態に係る容器用鋼板の構成について]
まず、本発明の第1の実施形態に係る容器用鋼板の構成について、図1を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る容器用鋼板10の構成を説明するための説明図である。
本実施形態に係る容器用鋼板10は、図1(a)に示したように、原板として使用される鋼板20と、この鋼板20の少なくとも片面に形成される化成処理皮膜層30と、を含む。
(鋼板20について)
本実施形態で使用される原板は、特に規制されるものではなく、容器材料として通常使用される鋼板を用いることが可能である。また、鋼板の製造方法や材質に関しても特に規制されるわけではなく、例えば、通常の鋼片製造工程から熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延等の工程を経て製造されたものを使用することが可能である。
また、図1(b)に示したように、上記の鋼板20の表面に、例えば金属からなる下地めっき層40が形成されてもよい。下地めっき層40を形成する方法は、公知の技術を使用することが可能であるが、例えば、電気めっき法、真空蒸着法またはスパッタリング法等を用いることが可能である。なお、本実施形態に係る下地めっき層40を形成する方法は、上記の例に規制されない。
(下地めっき層40について)
<例1:Niめっき層>
鋼板20の表面に形成される下地めっき層40として、例えば、Niめっき層を形成することが可能である。Niめっき層は、鋼板20の塗料密着性、フィルム密着性、耐食性、溶接性を確保するために設けられる。Niは、高耐食金属であるため、本実施形態に係る鋼板20の表面にNiめっき層を形成することにより、本実施形態に係る容器用鋼板10の耐食性を、向上させることが可能である。上記のNiめっき層を形成する方法は特に規制されるものではなく、公知技術を利用することが可能であるが、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法等の方法や、電気めっき法や無電解めっき法等の湿式めっき法等を用いることが可能である。また、Niと鋼板中のFeとを合金化させFe−Ni合金めっき層を設けてもよい。
Niによる合金層の塗料密着性、フィルム密着性、耐食性、溶接性向上効果は、めっきされるNiの量、すなわち、Niめっき層中の金属Ni量が例えば10mg/m以上であれば発現し、Niめっき層中の金属Ni量が多くなるほどNiめっき層の塗料密着性、フィルム密着性、耐食性、溶接性向上効果は増加する。また、10mg/mの金属Ni量で塗料密着性、フィルム密着性、耐食性、溶接性向上効果は発現するものの、十分な耐食性を得るために、Niめっき層中のNi含有量は、例えば150mg/m以上であることがさらに好ましい。
また、Niめっき層中のNi含有量は、例えば1000mg/m以下であることが好ましい。これは、Niめっき層中のNi含有量が1000mg/m超過の場合には、塗料密着性、フィルム密着性、耐食性、溶接性向上効果が飽和するだけでなく、Niは高価な金属であるために、1000mg/m超過のNiをめっきすることは、経済的に不利だからである。
なお、本実施形態に係るNiめっき層は、Niめっき層中のNi含有量が上記の150mg/m以上1000mg/m以下の範囲であれば、純Niにより形成されていてもよく、また、Ni合金により形成されていてもよい。また、機械的強度を向上させる目的で、鋼板に対して窒化処理が施されていてもよく、このような場合でも、鋼板の厚みが薄くなっても潰れや変形が生じにくくなるといった窒化処理により得られる効果は、低減しない。
また、上記のNiめっき層を形成した後に、耐食性の更なる向上を目的として拡散層を形成するための加熱処理を行ってもよい。更に、例えば、拡散めっき法によりNiめっき層を形成する場合には、鋼板表面上にNiをめっきした後で、焼鈍炉において拡散層を形成するための拡散処理が行われるが、この拡散処理の前後または拡散処理と同時に、窒化処理を行ってもよい。
<例2:NiとSnとを含む複合めっき層>
また、鋼板20の表面に形成される下地めっき層40の他の例として、例えば、NiとSnとを含む複合めっき層を挙げることができる。この複合めっき層は、鋼板20の表面に形成され、金属Ni量が例えば5〜150mg/mであるNiもしくはFe−Ni合金からなるNiめっき層と、このNiめっき層上に形成され、金属Sn量が例えば300〜3000mg/mであるSnめっき層とを含む。このSnめっき層は、溶融溶錫処理により少なくとも一部がNiめっき層中のNiと合金化され、島状に形成される。
上記のNiもしくはFe−Ni合金からなるNi系のめっき層は、塗料密着性、フィルム密着性、耐食性、溶接性を確保するために形成される。Niは、高耐食金属であるため、Niめっきすることにより、溶融溶錫処理時に形成されるFeとSnとを含む合金層の耐食性を、向上させることが可能である。Niによる合金層の塗料密着性、フィルム密着性、耐食性、溶接性向上効果は、Niめっき層における金属Ni量が5mg/m以上となる時点から発現し始め、Ni含有量が多くなるほど合金層の耐食性向上効果は増加する。そのため、Niめっき層における金属Ni量は、例えば5mg/m以上であることが好ましい。
また、Niめっき層中の金属Ni量は、例えば150mg/m以下であることが好ましい。これは、Niめっき層中の金属Ni量が150mg/m超過の場合には、塗料密着性、フィルム密着性、耐食性、溶接性向上効果が飽和するだけでなく、Niは高価な金属であるために、150mg/m超過のNiをめっきすることは、経済的に不利だからである。
また、Ni拡散めっきを行う場合には、Niめっきをした後に、焼鈍炉で拡散処理が行われ、Ni拡散層が形成されるが、Ni拡散処理の前後あるいは同時に、窒化処理を行なっても良い。窒化処理を行なった場合でも、本実施形態におけるNiメッキ層としてのNiの効果および窒化処理層の効果を、共に奏することができる。
NiめっきおよびFe−Ni合金めっきの方法としては、例えば、一般的に電気めっき法において行なわれている公知の方法を利用することが可能である。
上記のNi系めっきの後に、Snめっきが行なわれる。なお、本明細書における「スズめっき」とは、金属スズによるめっきだけでなく、金属スズに不可逆的不純物が混入したものや、金属スズに微量元素が添加したものも含む。Snめっきの方法は、特に規制されるわけではないが、例えば、公知の電気めっき法を用いることが好ましく、溶融したSnに鋼板を浸漬してめっきする方法等を用いてもよい。
上記のSnめっきによるSnめっき層は、耐食性と溶接性を確保するために形成される。Snは、それ自体が高い耐食性を有していることから、金属スズとしても、また、以下で説明する溶融溶錫処理によって形成される合金としても、優れた耐食性および溶接性を発揮する。
Snの優れた耐食性は、金属Sn量が300mg/m以上から顕著に向上し、Snの含有量が多くなるほど、耐食性の向上の度合いも増加する。従って、Snめっき層における金属Sn量は、例えば、300mg/m以上であることが好ましい。また、耐食性向上効果は、金属Sn量が3000mg/m超過となると飽和するため、経済的な観点から、Sn含有量は、例えば3000mg/m以下であることが好ましい。
また、電気抵抗の低いSnは軟らかく、溶接時に電極間でSnが加圧されることにより広がり、安定した通電域を確保できることから、特に優れた溶接性を発揮する。この優れた溶接性は、金属Sn量が100mg/m以上あれば発揮される。また、上記の優れた耐食性を示す金属Sn量の範囲では、この溶接性の向上効果は、飽和することはない。そのため、優れた耐食性および溶接性を確保するためには、金属Sn量を例えば300mg/m以上3000mg/m以下とすることが好ましい。
上記のようなSnめっきの後に、溶融溶錫処理が行なわれる。溶融溶錫処理を行なう目的は、Snを溶融して下地の鋼板20や下地金属(例えば、Niめっき層)と合金化させ、Sn−FeまたはSn−Fe−Ni合金層を形成させ、合金層の耐食性を向上させるとともに、島状のSn合金を形成させることにある。この島状のSn合金は、溶融溶錫処理を適切に制御することで形成することが可能である。
上記のような処理を行なうことで、金属スズが存在しない塗料およびフィルム密着性の優れたFe−NiまたはSn−Fe−Ni合金めっき層が露出するめっき構造(すなわち、「島」状のSn合金の周囲に、「海」部分に相当するFe−Ni合金またはSn−Fe−Ni合金めっき層が形成されためっき構造)を有する鋼板を製造することができる。
<例3:Snめっき層>
鋼板20の表面に形成される下地めっき層40の更に別の例として、例えば、鋼板20の表面に金属Sn量が560mg/m〜5600mg/m程度であるSnめっき層を挙げることができる。Snは、上記のように、優れた加工性、溶接性および耐食性を有するが、Snめっきのみで十分な耐食性を得るためには、金属Sn量を例えば560mg/m以上とすることが好ましい。また、金属Sn量が増加するほど耐食性は向上するが、Snめっき単独の場合は、金属Sn量が5600mg/mを超過すると、耐食性向上効果は飽和する。そのため、経済的な観点から、Snめっきを単独で用いる場合には、金属Sn量を5600mg/m以下とすることが好ましい。また、上記の場合と同様に、Snめっき後に溶融溶錫処理を行なうことにより、鋼板中のFeとFe−Sn合金層を形成することができ、耐食性および表面外観の向上(鏡面外観)のより一層の向上を図ることが可能である。
上記のNiめっき層、複合めっき層またはSnめっき層等の下地めっき層40は、鋼板20の両面に形成されていてもよく、製造コスト削減等の観点から鋼板20の一方の面(片面)のみに形成されていてもよい。なお、上記の下地めっき層40を鋼板20の片面にのみ形成する場合には、下地めっき層40は、本実施形態に係る化成処理皮膜層30が形成されない側の鋼板20の面に形成すればよい。鋼板の一方の面にのみ下地めっき層40が形成されている鋼板20を製缶加工する場合には、例えば、下地めっき層40が形成されている面が容器の内面となるように加工することが好ましい。
<下地めっき層中の各成分の測定方法について>
ここで、上記下地めっき層中の金属Ni量および金属Sn量は、例えば、蛍光X線法によって測定することができる。この場合、金属Ni量既知のNi付着量サンプルを用いて、金属Ni量に関する検量線をあらかじめ特定しておき、この検量線を用いて相対的に金属Ni量を特定する。金属Sn量の場合も同様にして、金属Sn量既知のSn付着量サンプルを用いて、金属Sn量に関する検量線をあらかじめ特定しておき、この検量線を用いて相対的に金属Sn量を特定する。
(化成処理皮膜層30について)
本実施形態に係る化成処理皮膜層30は、図1に示したように、上記のような鋼板20または下地めっき層40上に形成される。化成処理皮膜層30は、当該化成処理皮膜層30を形成する成分として、例えば、Zr成分、リン酸成分およびフェノール樹脂成分を有する。
上記のZr成分、リン酸成分およびフェノール樹脂成分がそれぞれ単独でZr皮膜、リン酸皮膜およびフェノール樹脂皮膜として形成された場合、耐食性や密着性に関してある程度の効果は認められるものの、十分な実用性能は発揮できない。しかしながら、本実施形態に係る化成処理皮膜層30のように、化成処理皮膜層30をZr成分とリン酸成分とフェノール樹脂成分が複合した複合皮膜とすることで、優れた実用性能を発揮することが可能である。さらに、皮膜量が少ない範囲においては各々の皮膜の特性を補完しあうため、Zr皮膜、リン酸皮膜、フェノール樹脂皮膜の3種類を複合した皮膜の性能がより安定して発揮される。
<Zr成分について>
本実施形態に係る化成処理皮膜層30に含まれるZr成分は、耐食性および密着性、特に、加工密着性を向上させる機能を有する。本実施形態に係るZr成分は、例えば、酸化ジルコニウムやリン酸ジルコニウムの他に、水酸化ジルコニウム、フッ化ジルコニウム等といった複数のZr化合物から構成される。このようなZr成分は、耐食性および密着性、特に、加工密着性に優れるため、化成処理皮膜層30に含有されるZr成分の量が多くなるほど、容器用鋼板10の耐食性および密着性、特に、加工密着性が向上することとなる。
具体的には、化成処理皮膜層30として鋼板20または各種の下地めっき層40上に付着するZr成分の付着量が金属Zr量に換算して1mg/m以上となると、実用上問題ないレベルの耐食性と塗装等密着性が確保される。一方、Zr成分の付着量の増加に伴い、耐食性及び塗装等密着性の向上効果も増加するが、Zr成分の付着量が金属Zr量に換算して9mg/mを超えると、Zr成分に由来する皮膜が厚くなりすぎるため、化成処理皮膜自体の密着性が(主に凝集破壊起因により)低下するとともに、電気抵抗が上昇して溶接性が低下する。また、Zr成分の付着量が金属Zr量で9mg/mを超えると、化成処理皮膜の付着ムラが外観ムラとなって発現することがある。従って、本実施形態に係る容器用鋼板10においては、Zr成分の付着量(すなわち、Zrの含有量)は、金属Zr量で1mg/m〜9mg/mとすることが好ましい。より好ましくは、Zr成分の付着量は、金属Zr量で2mg/m〜6mg/mである。Zr成分の付着量を2mg/m〜6mg/mの範囲とすることにより、レトルト後の耐食性が確保できるとともに、微細な付着ムラを低減することができる。
<リン酸成分について>
また、上記の化成処理皮膜層30は、上述したジルコニウム成分に加えて、1種または2種以上のリン酸化合物で形成されたリン酸成分をさらに含む。
本実施形態に係るリン酸成分は、耐食性および密着性、特に、加工密着性を向上させる機能を有する。本実施形態に係るリン酸成分は、下地(鋼板、Niめっき層、複合めっき層、Snめっき層)やジルコニウム成分と反応して形成されるリン酸鉄、リン酸ニッケル、リン酸スズ、リン酸ジルコニウム等の1種のリン酸化合物、又はこれら2種以上のリン酸化合物からなる複合成分から構成される。このようなリン酸成分は、耐食性および密着性、特に、加工密着性に優れるため、形成されるリン酸成分の量が多くなるほど、容器用鋼板10の耐食性および密着性が向上することとなる。
具体的には、化成処理皮膜層30におけるリン酸成分の付着量がP量に換算して0.5mg/m以上となると、実用上問題ないレベルの耐食性と塗装等密着性が確保される。一方、リン酸成分の付着量の増加に伴い、耐食性及び塗装等密着性の向上効果も増加するが、リン酸成分の付着量がP量に換算して8mg/mを超えると、リン酸成分に由来する皮膜が厚くなりすぎるため、化成処理皮膜自体の密着性が(主に凝集破壊起因により)低下するとともに、電気抵抗が上昇して溶接性が低下する。また、リン酸成分の付着量がP量で8mg/mを超えると、化成処理皮膜の付着ムラが外観ムラとなって発現することがある。従って、本実施形態に係る容器用鋼板10においては、リン酸成分の付着量は、P量で0.5/m〜8mg/mとすることが好ましい。より好ましくは、リン酸成分の付着量は、P量で1mg/m〜5mg/mである。リン酸成分の付着量を1mg/m〜5mgの範囲とすることにより、レトルト後の耐食性が確保できるとともに、微細な付着ムラを低減することができる。
<フェノール樹脂成分について>
また、上記の化成処理皮膜層30は、上述したジルコニウム成分、リン酸成分に加えて、フェノール樹脂成分をさらに含む。本実施形態に係るフェノール樹脂成分としては、例えば、下記化学式1のようなN,N−ジエタノールアミン変性した水溶性フェノール樹脂である(リン酸の存在下にて、アンモニウム塩として溶液中(水中)に存在していると推定している)。
・・・(化学式1)
本実施形態に係るフェノール樹脂成分は、密着性、特に、加工密着性を向上させる機能を有する。フェノール樹脂自体が有機物であることから、有機物を原料とする塗料やラミネートフィルムと非常に優れた密着性を有している。フェノール樹脂自体が有機物であることから塗料やラミネートフィルムと非常に優れた密着性を有している。特に、表面処理層が大きく変形するような加工を受ける場合、表面処理層自体がその加工により凝集破壊され、密着性が劣化する場合があるが、フェノール樹脂は、Zr皮膜やリン酸皮膜の加工密着性を著しく向上させる効果を有している。したがって、形成されるフェノール樹脂成分の量が多くなるほど、容器用鋼板10の密着性が向上することとなる。
具体的には、化成処理皮膜層30におけるフェノール樹脂成分の付着量がC量に換算して0.1mg/m以上となると、実用上問題ないレベルの密着性が確保される。一方、フェノール樹脂成分の付着量の増加に伴い、密着性の向上効果も増加するが、フェノール樹脂成分の付着量がC量に換算して5mg/mを超えると、フェノール樹脂成分に由来する皮膜が厚くなりすぎるため、化成処理皮膜自体の密着性が低下するとともに、電気抵抗が上昇して溶接性が低下する。また、フェノール樹脂成分の付着量がC量で5mg/mを超えると、化成処理皮膜の付着ムラが外観ムラとなって発現することがある。したがって、本実施形態に係る容器用鋼板10においては、フェノール樹脂成分の付着量は、C量で0.1mg/m〜5mg/mとする必要がある。好ましくは、フェノール樹脂成分の付着量は、C量で0.3mg/m〜4mg/mである。フェノール樹脂成分の付着量を0.3mg/m〜4mg/mの範囲とすることにより、微細な付着ムラ(付着による黄変)を低減することができる。
<化成処理皮膜層中の各成分含有量の測定方法について>
本実施形態に係る化成処理皮膜層30中に含有される金属Zr量、P量は、例えば、蛍光X線分析等の定量分析法により測定することが可能である。一方、C量は、TOC(全有機体炭素計)を用い、鋼板中に存するC量を差し引くことにより測定する事が可能である。
<化成処理皮膜層30の皮膜構造について>
続いて、図2を参照しながら、本実施形態に係る化成処理皮膜層30の皮膜構造について、詳細に説明する。図2は、本実施形態に係る化成処理皮膜層30の皮膜構造を説明するための説明図である。
本実施形態に係る化成処理皮膜層30は、化成処理皮膜層30を構成する成分であるZrの酸化物とZrのリン酸塩との機能分担を図ったものであり、Zrの酸化物とZrのリン酸塩とフェノール樹脂との混合物を含む化成処理皮膜層30が、Zrの酸化物が主成分である酸化物層と、Zrのリン酸塩が偏在しているリン酸層と、フェノール樹脂が偏在しているフェノール樹脂層と、を備える。
本実施形態に係る化成処理皮膜層30の皮膜構造は、図2に示したように、鋼板20側に位置する酸化物層32と、化成処理皮膜層30の酸化物層32の表層側に位置するリン酸層34と、酸化物層32とリン酸層34との間に位置し、Zrの酸化物とZrのリン酸塩とが共存する共存層36と、化成処理皮膜層30の最表層に位置するフェノール樹脂層38と、から構成される。
ここで、化成処理皮膜層30の厚みを100%とし、表層を0%深さ、鋼板20と接する部分を100%深さとした場合に、フェノール樹脂層38は化成処理皮膜30の表層の0%深さから10%深さ以内の厚み部分に主に偏在しており、リン酸層34は化成処理皮膜30の表層の0%深さから40%深さ以内の厚み部分に主に偏在しており、一方、酸化物層32は化成処理皮膜30の40%深さから鋼板20と接する部分、換言すれば、化成処理皮膜層30の厚みの最下部である100%深さ部分に主に偏在していることが好ましい。なお、Zrの酸化物とZrのリン酸塩とが共存する共存層36は、同様の表記で、20%深さから60%深さ部分となる。
また、本実施形態における化成処理層の全膜厚み、各層の厚み、またその厚みの比は、基本的に、後述するX線光電子分光分析(X‐ray photoelectron spectroscopy:XPS)におけるSiO換算値に基づき、各々の数値を特定する事が可能である。すなわち、本実施形態に係る各層の厚みの測定方法は、当方法を用いて得られた値に限定される。
上述のような意味から、各々の絶対値は、厳密な意味での正確な値を示すものではないが、化成処理皮膜層30の皮膜構造は、図2に示したように、鋼板20側に位置する酸化物層32と、化成処理皮膜層30の表層側に位置するリン酸層34と、酸化物層32とリン酸層34との間に位置し、Zrの酸化物とZrのリン酸塩とが共存する共存層36と、化成処理皮膜層30の最表層に位置するフェノール樹脂層38と、から構成されるという、本実施形態における各層の皮膜層形成位置や皮膜層の配置順序が本質的に変わることはない。
酸化物層32は、上述のように、Zrの酸化物が主成分である層である。ここで、Zrの酸化物とは、ZrO・nHOで表される酸化ジルコニウム・n水和物であってもよく、ZrOで表される酸化ジルコニウム無水物であってもよい。この酸化物層32は、図2に示したように、鋼板20の表面および表面近傍に存在する。酸化物層32は、緻密なマトリックスを形成すると推定され、優れた耐食性と、化成処理皮膜層30と鋼板20との間の密着性とを発揮する。この酸化物層32は、化成処理皮膜層30の表層から深さ方向に約40〜100%の厚み部分に偏在していること、特に、鋼板20の表面に偏在している事を必須とする。酸化物層32が鋼板20表面に偏在していない場合、酸化物層32が分担する機能である優れた耐食性と、化成処理皮膜層30と鋼板20との間の密着性とが著しく損なわれる。好ましくは、酸化物層32は、表層から深さ方向に約40%の部分辺りから存在し、鋼板20の最表面には確実に存在する。なお、酸化物層32には、上記のジルコニウムの酸化物以外に、10%以内で例えばZrのリン酸塩が存在していてもよく、他の化合物、例えば微量なフェノール樹脂成分が存在していてもよい。
リン酸層34は、上述のように、Zrのリン酸塩が偏在している層、すなわち、化成処理皮膜層30内でZrのリン酸塩が多く存在している層である。ここで、Zrのリン酸塩とは、Zr(PO・mHO、Zr(HPO32・nH2O等で表されるリン酸ジルコニウム・mあるいはn水和物である。このリン酸層34は、図2に示したように、化成処理皮膜層30の表層および表層近傍に存在する。リン酸層34は、優れた耐食性と、化成処理皮膜層30と当該化成処理皮膜層30上に形成されうる塗料やフィルムとの間の密着性、特に、加工密着性とを発揮する。このリン酸層34は、化成処理皮膜層30の表層から深さ方向に、最表層から40%の厚み部分に偏在していること、特に、化成処理皮膜30の最表層に偏在している事を必須とする。リン酸層34が最表層に偏在していない場合、リン酸層34が分担する機能である優れた耐食性と、化成処理皮膜層30と当該化成処理皮膜層30上に形成されうる塗料やフィルムとの間の密着性とが著しく損なわれる。好ましくは、リン酸層34は、表層はもちろんのこと深さ方向に約40%の部分までに存在する。なお、リン酸層34には、上記のジルコニウムのリン酸塩以外に、10%以内で例えばZrの酸化物が存在していてもよく、他の化合物が存在していてもよい。
共存層36は、上述のように、酸化物層32とリン酸層34との間に位置する層であり、上記のZrの酸化物と、Zrのリン酸塩とが共存している層である。ここで、酸化物層32と共存層36との界面、および、共存層36とリン酸層34との界面は、それぞれ明確に存在するわけではなく、酸化物層32から共存層36へと連続的に層構造が変化している。また、共存層36とリン酸層34との界面についても、共存層36からリン酸層34へと連続的に層構造が変化している。なお、共存層36には、上記のジルコニウムの酸化物およびジルコニウムのリン酸塩以外に、他の化合物、例えば微量なフェノール樹脂成分が存在していてもよい。
本実施形態に係る化成処理皮膜層30に上記のようなリン酸層34と共存層36とが存在するということは、Zrのリン酸塩がある分布をもって化成処理皮膜層30中に存在しているということであって、リン酸層34中に化成処理皮膜層30に存在しているZrのリン酸塩の多くが存在しており、共存層36から酸化物層32となるに従って、Zrのリン酸塩の存在割合が小さくなっていくことを示している。
フェノール樹脂層38は、上述のように、化成処理皮膜層30の最表層に位置する層であり、フェノール樹脂が偏在している層、すなわち、化成処理皮膜層30内でフェノール樹脂が多く存在している層である。このフェノール樹脂層38は、化成処理皮膜30の最表層に膜状あるいは点在的に存在し、フェノール樹脂の有する被酸化性に起因する優れた耐食性と製缶工程の後工程で付与される塗料、フィルムとの密着性、特に、加工密着性を発揮する。このフェノール樹脂層38は、化成処理皮膜層30の表層から深さ方向に、最表層から10%以内の厚み部分に偏在していること、特に、化成処理皮膜層30の最表層に偏在している事を必須とする。フェノール樹脂層38が最表層に偏在していない場合、フェノール樹脂層38が分担する機能である優れた耐食性と、化成処理皮膜層30と当該化成処理皮膜層30上に形成されうる塗料やフィルムとの間の密着性とが損なわれる。好ましくは、フェノール樹脂層38は、表層はもちろんのこと深さ方向に約10%の部分までに存在する。なお、フェノール樹脂層38には、上記のフェノール樹脂以外に、例えばZrの酸化物やZrのリン酸塩が存在していてもよく、他の化合物が存在していてもよい。
本実施形態に係る化成処理皮膜層30が、上述のようなおおよそ3層からなる層構造を有することは、例えば、X線光電子分光分析(X‐ray photoelectron spectroscopy:XPS)による化成処理皮膜層の深さ方向分析を含む組成状態分析の結果からも明らかである。
図3A〜図3Eは、本実施形態に係る化成処理皮膜層30のXPSスペクトルの測定結果の一例である。図3Aは、化成処理皮膜層30中のZrに、図3Bは、化成処理皮膜層30中のリン(P)に、図3Cは、化成処理皮膜層30中の炭素(C)に、図3Dは、化成処理皮膜層30中の酸素(O)に、図3Eは、化成処理皮膜層30中の窒素(N)に、それぞれ着目したXPSスペクトルの測定結果である。また、図3A〜図3Eに記載されている1nm〜22nmの数字は、化成処理皮膜層30の表層を0nmとした場合にXPSスペクトルが着目している化成処理皮膜層30の深さ(SiO換算値)を表している。なお、図3A〜図3Eは、化成処理皮膜層30が約17nm(TEM観察による実測値)形成されている場合のXPSスペクトルである。
XPSスペクトルは、以下の表1に示した測定装置および測定条件により測定を行なった。なお、得られたXPSスペクトルの解析には、MultiPak V.8.0(Ulvac−phi社製)を用いた。また、結合エネルギーがC1s=284.8eVとなるように得られたXPSスペクトルのエネルギー補正を行った。以下、XPSデータが示す深さは、全てSiO2換算したものである。
ここで、本実施形態において、「存在」するとは、XPS分析で得られたスペクトルチャート(shirley法にてベースラインを設定、narrow scan)に対して、同スペクトルチャート中に存在する最大ノイズ高さに対して、1.5倍以上の高さを有するピークを示すものについて、対応する元素種が「存在」すると定義している。
また、本実施形態において、「偏在」するとは、XPS分析で得られたスペクトルチャート(shirley法にてベースライン補正、narrow scan)に対して、同スペクトルチャート中に存在する最大ノイズ高さに対して、2倍以上の高さを有するピークを示すものについて、対応する元素種が「偏在」すると定義している。
ここで、Zrに着目したXPSスペクトルである図3Aを参照すると、0nm(すなわち、化成処理皮膜層30の表層)を測定しているスペクトルから約14nmの深さを観測しているスペクトルまでには、Zrに起因するピークが明瞭に観測されている。これは、化成処理皮膜層30の表層から約14nm近傍までは、Zrが存在していることを示しており、約14nmよりも深いところでは、ZrはXPSの測定限界以下の濃度でしか存在していないことを示している。これより、同皮膜の厚みは約14nmである事を示している。
炭素(C)に着目したXPSスペクトルである図3Cを参照すると、0nm(すなわち、化成処理皮膜層30の表層)を観測しているスペクトルから約1nmの深さを観測しているスペクトルまでには、Cに起因するピークが観測されている。これは、化成処理皮膜層30の最表面に、ほとんどのフェノール樹脂が存在していることを示しており(最表層は皮膜表面の有機物汚れを含む)、約2nmよりも深いところでは、CはXPSの測定限界以下の濃度でしか存在していないことを示している。
次に、窒素(N)に着目したXPSスペクトルである図3Eを参照すると、0nm(すなわち、化成処理皮膜層30の表層)を観測しているスペクトルから約1nmの深さを観測しているスペクトルまでには、フェノール樹脂由来のNに起因するピークが観測されている。これは、化成処理皮膜層30の最表面に、ほとんどのフェノール樹脂が存在していることを示しており(最表層は皮膜表面の有機物汚れを含む)、約2nmよりも深いところでは、NはXPSの測定限界以下の濃度でしか存在していないことを示している。
また、リン(P)に着目したXPSスペクトルである図3Bを参照すると、0nm(すなわち、化成処理皮膜層30の表層)を観測しているスペクトルから約4nmの深さを観測しているスペクトルまでには、リン酸イオンを表す明確なピークが観測されている。しかしながら、約6nmの深さを観測しているスペクトルでは、リン酸イオンに起因するピークの強度は、バックグラウンドの強度とほぼ同程度となっており、リン酸イオンに起因するピークは、観測されていない。この測定結果は、図3Bに示した化成処理皮膜層30では、表層から約4nm近傍まではリン酸イオンが存在しており、約6nmよりも深いところでは、リン酸イオンはXPSの測定限界以下の濃度でしか存在していないことを示している。
さらに、酸素(O)に着目したXPSスペクトルである図3Dに着目すると、0nmを測定しているスペクトルから約4nmの深さを観測しているスペクトルまでには、Zrのリン酸塩のOに起因するピークが明瞭に観測されている。一方、2〜4nm近傍から14nm近傍までにはZrの酸化物のOに由来するピークが観測されている。これは、化成処理皮膜層30の表層から約4nm近傍までは、Zrのリン酸塩が存在していることを示しており、約4nmよりも深いところでは、Zrのリン酸塩は、XPSの測定限界以下の濃度でしか存在していないことを示している。また、化成処理皮膜層30の表層から約4nm近傍から14nm近傍までは、Zrの酸化物が存在していることを示しており、約14nmよりも深いところでは、Zrの酸化物は、XPSの測定限界以下の濃度でしか存在していないことを示している。
上述の図3(a)、図3(b)、図3(c)、図3(d)および図3(e)に示したXPSスペクトルの測定結果は、本測定例の化成処理皮膜層30においては、表層から約1nm近傍(換言すると、本サンプルの場合、皮膜の表層から7%程度)までにはほとんどのフェノール樹脂が存在しており、表層から約4nm近傍(換言すると、本サンプルの場合、皮膜の表層から28%程度)までには、Zrのリン酸塩が多く存在しており、4nm〜14nm(換言すると、28%〜100%程度)程度のところではZrの酸化物が主成分として存在していることを示している。
このように、本実施形態に係る化成処理皮膜層30は、Zrの酸化物、Zrのリン酸塩およびフェノール樹脂が均一に存在しているわけではなく、ほとんどのフェノール樹脂が化成処理皮膜層30の最表層近傍に偏在し、Zrのリン酸塩が、特定の分布を有して化成処理皮膜層30中に存在し、化成処理皮膜層30の表層と表層近傍に偏在している。かかる皮膜構成を有することにより、本実施形態に係る容器用鋼板10は、優れた耐食性および製缶加工性を有する。
[化成処理皮膜層の製造方法について]
以上、本実施形態に係る容器用鋼板10の構成について説明したが、続いて、かかる容器用鋼板10を製造するための製造方法について、詳細に説明する。
本実施形態に係る容器用鋼板10の製造方法は、鋼板20に対して低温陰極電解処理を行い、鋼板の少なくとも片面に、上述の化成処理皮膜層30を形成するものである。
本実施形態に係る化成処理皮膜層30は、上述のように、鋼板20側から順に、酸化物層32/共存層36/リン酸層34/フェノール樹脂層38という、おおよそ3層の皮膜層からなる層構造を有する。このような皮膜構造を形成するために、Zrイオン、リン酸イオンおよびフェノール樹脂を溶解させた酸性溶液を用いて、鋼板20や下地めっき層40が形成された鋼板20に対して陰極電解処理を行う。陰極電解処理を用いることで、上記のような層構造を有する化成処理皮膜層30を、1回の工程で形成することができる。
ここで、鋼板20上に化成処理皮膜層30を形成する方法として、上記の陰極電解処理以外に、鋼板20を化成処理液に浸漬する方法も考えられる。しかしながら、この浸漬処理による方法では、化成処理皮膜層の下地となる鋼板や下地層がエッチングされ、各種の皮膜が形成されることとなるため、化成処理皮膜層の付着量が不均一となり、上記のような層構造を有する化成処理皮膜層30は形成されにくい。また、化成処理皮膜層30の形成に要する処理時間も長くなるため、工業生産的には不利である。
他方、陰極電解処理による方法では、強制的な電荷移動および鋼板界面での水素発生による表面正常化と水素イオン濃度(pH)上昇による付着促進効果もあいまって、均一な皮膜が0.01秒〜数秒程度の短時間で形成される。そのため、陰極電解処理による方法は、工業的には極めて有利な方法である。従って、本実施形態に係る化成処理皮膜層30の形成には、陰極電解処理による方法を利用することが必要である。
陰極電解処理により上記の化成処理皮膜層30を形成するためには、所定の割合でZr成分、リン酸成分およびフェノール樹脂成分が溶解した化成処理液を準備することが必要である。具体的には、化成処理液として、酸性溶液中にジルコニウムイオンを100ppm〜7500ppmと、リン酸イオンを50ppm〜5000ppmと、質量平均分子量が5000程度である低分子量のフェノール樹脂を10ppm〜1500ppm含有させたものを用いればよい。また、必要に応じて、化成処理液中に、他の成分を添加してもよい。
また、化成処理皮膜層30を形成するための化成処理液のpHは、3.1〜3.7の範囲が好ましく、より好ましくは3.5前後である。また、化成処理液のpHの調整には、必要に応じて、硝酸あるいはアンモニア等を加えてもかまわない。
(陰極電解処理の実施条件について)
本実施形態に係る陰極電解処理においては、陰極電解処理に用いる化成処理液の液温を例えば10℃〜40℃として、電解処理を行うこと(低温陰極電解処理)が必要である。このように、40℃以下という低温で陰極電解処理を行うことにより、粒径が非常に細かい粒子により形成された、緻密で均一な皮膜組織の形成が可能となる。また、液温が10℃未満である場合には、皮膜の形成効率が悪く、夏場など外気温が高い場合に化成処理液の冷却が必要となり、経済的ではない。また、液温が40℃超過である場合には、形成される皮膜組織が不均一であり、欠陥、割れ、マイクロクラック等が発生して緻密な皮膜形成が困難となり、腐食等の起点となるため好ましくない。
また、陰極電解処理により化成処理皮膜層30を形成するにあたっては、電解電流密度を、例えば0.05A/dm〜50A/dmとすることが好ましい。電流密度が0.05A/dm未満である場合には、化成処理皮膜層30の付着量の低下を招き、安定的な皮膜の形成が困難となり、耐食性や製缶加工性が低下するため、好ましくない。また、電流密度が50A/dm超過の場合には、化成処理皮膜層の付着量が所要量を超え、かつ、飽和することとなり、場合によっては、電解化成処理後の水洗等による洗浄工程で付着不十分な皮膜が洗い流される(剥離する)など、経済的ではない。また、陰極電解処理に用いる化成処理液の液温の上昇を招き、本実施形態に係る低温陰極電解を維持するために、化成処理液の冷却が必要となるため、好ましくない。
また、上記陰極電解処理は、0.01秒〜5秒の通電時間で行われることが好ましい。通電時間が0.01秒未満の場合には、皮膜付着量の低下を招き、耐食性や塗装密着性等が低下することがある。一方、通電時間が5秒を超える場合には、皮膜付着量が所要量を超え、かつ、付着量が飽和してしまい、場合によっては、電解化成処理後の水洗等による洗浄工程で付着不十分な皮膜が洗い流される(剥離する)など経済的ではなく、また、電解処理液の温度の上昇を招き、上述した低温陰極電解処理の温度条件を維持するために電解処理液の冷却という余分な処理が必要となる場合がある。
上記のような電解電流密度及び通電時間で陰極電解処理を行うことにより、鋼板20の表面に適切な付着量の皮膜を形成することができる。従って、例えば、化成処理液中に所定濃度以上のZrイオンが含まれていれば、金属Zr量で1mg/m〜9mg/mの付着量のZrを含む化成処理皮膜を形成することができ、化成処理液中に所定濃度以上のリン酸イオンが含まれていれば、P量で0.5mg/m〜8mg/mの付着量のリン酸を含む化成処理皮膜を形成することができ、化成処理液中に所定濃度以上のフェノール樹脂が含まれていれば、C量で0.1mg/m〜5mg/mの付着量のフェノール樹脂を含む化成処理皮膜を形成することができる。
また、少なくとも片面に下地めっき層40が形成された鋼板20に対して、上述の低温陰極電解処理を行ってもよい。この場合には、化成処理皮膜層30は、下地めっき層40上に形成されることとなる。
なお、本実施形態に係る化成処理皮膜層30の形成にあたっては、低温陰極電解処理に用いる酸性溶液中に、更にタンニン酸を添加してもよい。酸性溶液中にタンニン酸を添加することで、上記の処理中にタンニン酸が鋼板の鉄(Fe)と反応することとなり、鋼板の表面にタンニン酸鉄の皮膜を形成する。このタンニン酸鉄の皮膜は、耐錆性および密着性を向上させるため、必要に応じて、タンニン酸を添加した酸性溶液中で、化成処理皮膜層30の形成を行ってもよい。
また、化成処理皮膜層30の形成に用いられる酸性溶液の溶媒としては、例えば、水(蒸留水)等を使用することができるが、本実施形態に係る酸性溶液の溶媒は、上記のものに規制されず、溶解する材料や形成方法および化成処理皮膜層30の形成条件等に応じて、適宜選択することが可能である。
また、化成処理液では、例えば、HZrFのようなZr錯体をZrの供給源として使用することが可能である。上記のようなZr錯体中のZrは、カソード電極界面におけるpHの上昇によりZr4+となって化成溶液中に存在することとなる。このようなZrイオンは、化成処理液中で更に反応し、ZrOやZr(PO、Zr(HPO32等といった化合物となって、Zr皮膜を形成することが可能となる。さらに、化成処理液のpHを調整するために、例えば硝酸あるいはアンモニア等を添加してもよい。
なお、本実施形態に係る化成処理皮膜層30の層構造は、陰極電解処理を行なう処理槽中において電極間に鋼板を1回通過させた場合(1パス処理)だけでなく、複数回通過(電解処理)させた場合(多パス処理)であっても、同様に形成される。
以上説明したように、本実施形態に係る容器用鋼板10は、鋼板20の少なくとも片面に、Zrの酸化物とZrのリン酸塩とフェノール樹脂との混合物を含む化成処理皮膜層30を有し、この化成処理皮膜層30は、化成処理皮膜層30の最表面に位置しフェノール樹脂が偏在するフェノール樹脂層38と、フェノール樹脂層38の鋼板20側に位置しジルコニウムのリン酸塩が偏在するリン酸層34と、リン酸層34の鋼板20側に位置しジルコニウムの酸化物を主成分とする酸化物層32と、を有する。本実施形態に係る化成処理皮膜層30は、低温陰極電解処理によって、鋼板20側から順に酸化物層32/共存層36/リン酸層34/フェノール樹脂層38という層構造を形成することにより、優れた耐食性および密着性を示し、ひいては優れた製缶加工性を示すことができる。また、本実施形態に係る化成処理皮膜層30は、低温陰極電解処理法により形成されるため、緻密で均一な皮膜を形成することが可能であり、容器用鋼板10の外観も良好である。
以下に、実施例および比較例を示しながら、本発明に係る容器用鋼板10について、更に説明を行う。なお、以下に示す実施例は、本発明のあくまでも一具体例であって、本発明が以下に示す実施例に規制されるわけではない。
<鋼板の作製>
まず、以下に示す方法で、化成処理皮膜層30を形成させる鋼板20を作製した。
(A1)下地めっき層が存在しない鋼板の製造方法
冷間圧延後、焼鈍及び調圧した厚さが0.17〜0.23mmの鋼基材(鋼板)の両面を、脱脂及び酸洗した鋼板を作製した。
(A2)Niめっき層が存在する鋼板の製造方法
冷間圧延後、焼鈍及び調圧した厚さが0.17〜0.23mmの鋼基材(鋼板)を、脱脂及び酸洗した後、その両面に、ワット浴を使用してNiめっきを施し、Niめっき鋼板を作製した。
(A3)Niめっき層が存在する鋼板の製造方法
冷間圧延した厚さが0.17〜0.23mmの鋼基材(鋼板)の両面に、ワット浴を使用してNiめっきを施した後、焼鈍を行ってNi拡散層を形成させ、更に、脱脂及び酸洗を行い、Niめっき鋼板を作製した。
なお、得られたNiめっき鋼板の金属ニッケルの付着量は、蛍光X線法にて測定した。
(A4)Niめっき+Snめっき層(島状Sn合金層)を有する鋼板の製造方法(I)
冷間圧延後、焼鈍及び調圧した厚さが0.17〜0.23mmの鋼基材(鋼板)を、脱脂及び酸洗した後、その両面に、硫酸−塩酸浴を用いてFe−Ni合金めっきを施し、引き続き、フェロスタン浴を用いてSnめっきを施し、その後、溶融溶錫処理を行い、島状Sn合金層を有するNi、Snめっき鋼板を作製した。
(A5)Niめっき+Snめっき層(島状Sn合金層)を有する鋼板の製造方法(II)
冷間圧延した厚さが0.17〜0.23mmの鋼基材(鋼板)の両面に、ワット浴を用いて両面にNiめっきを施し、焼鈍時にNi拡散層を形成させ、脱脂、酸洗後、フェロスタン浴を用いてSnめっきを施し、その後、溶融溶錫処理を行い、島状Sn合金層を有するNi、Snめっき鋼板を作製した。
(A6)Snめっき層を有する鋼板の製造方法
冷間圧延後、焼鈍及び調圧した厚さが0.17〜0.23mmの鋼基材(鋼板)を、脱脂及び酸洗した後、その両面に、フェロスタン浴を用いてSnをめっきし、その後、溶融溶錫処理を行い、Sn合金層を有するSnめっき鋼板を作製した。
なお、得られた鋼板の金属ニッケル,金属スズの付着量は、蛍光X線法にて測定した。
<化成処理皮膜層の形成>
次に、上述した(A1)〜(A6)の方法で作製した鋼板の表面(両面)に、以下の表2に示す成分の化成処理液を用いて、陰極電解処理により化成処理皮膜層30を形成した。なお、化成処理液の液温は30℃、pHは3.5で、電解電流密度は、1.0〜3.0A/dmであった(下記(B1)〜(B3)参照)。
(B1):蒸留水にフッ化Zr、リン酸及びフェノール樹脂を溶解させた処理液中に、上記(A1)〜(A6)の方法で作製しためっきレス鋼板、めっき鋼板を浸漬して陰極電解処理した後、水洗して乾燥させた。
(B2):蒸留水にフッ化Zr、リン酸及びタンニン酸を溶解させた処理液中に、上記(A1)〜(A6)の方法で作製しためっきレス鋼板、めっき鋼板を浸漬して陰極電解処理した後、水洗して乾燥させた。
(B3):蒸留水にフッ化Zrを溶解させた処理液中に、上記(A1)〜(A6)の方法で作製しためっきレス鋼板、メッキ鋼板を浸漬して陰極電解処理した後、水洗して乾燥させた(比較例)。
上述の方法で作製した各容器用鋼板10について、化成処理皮膜層30中の金属Zr量、P量およびC量を、蛍光X線を用いた定量分析法により測定した。
<性能評価方法>
続いて、上述の方法で作製した各容器用鋼板10を試験材とし、各試験材について、耐食性、耐錆性、加工性、溶接性、塗料密着性、フィルム密着性および外観について、評価を行った。以下、その具体的な評価方法および評価基準について、説明する。
(1)耐食性
実施例及び比較例の各試験材の一方の面に、エポキシ−フェノール樹脂を塗布した後、200℃の温度条件下で30分間保持することにより焼付を行った。そして、この樹脂を塗布した部分に鋼基材に達する深さのクロスカットを入れたものを、クエン酸(1.5質量%)−食塩(1.5質量%)の混合液からなる試験液に、45℃の温度条件下で72時間浸漬し、洗浄及び乾燥した後、テープ剥離試験を行い、クロスカット部における塗膜(エポキシ−フェノール樹脂膜)の下の腐食状況及び平板部の腐食状況で評価した。その結果、塗膜の下で腐食が認められなかったものを◎、塗膜の下に実用上問題ない程度の僅かな腐食が認められたものを○、塗膜の下に微小な腐食が認められたもの又は平板部に僅かな腐食が認められたものを△、塗膜の下に著しい腐食が認められたもの又は平板部に腐食が認められたものを×とした。
(2)耐錆性
実施例及び比較例の各試験材に対して、湿度が90%の環境に2時間保持と、湿度が40%の環境に2時間保持とを繰り返し行うサイクル試験を2ヶ月間行い、錆の発生状況を評価した。その結果、発錆が全くなかったものを◎、実用上問題ない程度の極僅かな発錆があったものを○、僅かな発錆があったものを△、大部分で発錆していたものを×とした。
(3)加工性
実施例及び比較例の各試験材の両面に、厚さが20μmのPETフィルムを200℃でラミネートした後、絞り加工及びしごき加工による製缶加工を段階的に行い、その成型性で評価した。その結果、破断、疵の発生が無く成型性が極めて良好であったものを○、破断、疵の発生が若干確認されたものを△、加工途中で破断が生じて加工不能となったものを×とした。
(4)溶接性
実施例及び比較例の各試験材を、ワイヤーシーム溶接機を使用し、溶接ワイヤースピード80m/分の条件で、電流を変更して溶接し、十分な溶接強度が得られる最小電流値(4000A以下)と、塵及び溶接スパッタ等の溶接欠陥が目立ち始める最大電流値(5000A以上)とからなる適正電流範囲の広さから総合的に評価した。その結果、同電流値範囲より広く溶接性が極めて良好であったものを○、前記範囲よりも狭いものを△、溶接不能であったものを×とした。
(5)塗料密着性
実施例及び比較例の各試験材の一方の面に、エポキシ−フェノール樹脂を塗布した後、200℃の温度条件下で30分間保持することにより焼付を行った。そして、この樹脂を塗布した部分に、鋼基材に達する深さの切込みを、1mm間隔で碁盤目状に形成した後、この部分に粘着テープを貼り付けて剥離する碁盤目剥離試験を実施した。その結果、剥離が全くなかったものを◎、実用上問題無い程度の極僅かな剥離があったものを○、僅かな剥離があったものを△、大部分が剥離したものを×とした。
(6)フィルム密着性
実施例及び比較例の各試験材の両面に、厚さが20μmのPETフィルムを200℃でラミネートした後、絞りしごき加工を行って缶体を作製し、この缶体に対して、125℃で30分間のレトルト処理を行い、その際のフィルムの剥離状況で評価した。その結果、剥離が全くなかったものを◎、実用上問題が無い程度の極僅かな剥離が生じていたものを○、僅かな剥離が生じていたものを△、大部分で剥離が生じていたものを×とした。
(7)外観
実施例及び比較例の各試験材を目視で観察し、Zr皮膜、リン酸皮膜及びフェノール樹脂皮膜に発生したムラの状況で評価した。その結果、全くムラがなかったものを◎、実用上問題がない程度の極僅かなムラがあったものを○、僅かなムラが発生したものを△、著しくムラが発生していたものを×とした。
(8)島状Sn状況
Ni系めっきの後にSnめっきを行った場合の島状Sn状況を光学顕微鏡にて表面を観察し、島状Sn状況を評価した。全体的に島が形成されているものを○、部分的に島が形成されていない部分があるものを△、島形成されていないものを×とした。
(9)Zrのリン酸層の偏在状況
化成処理皮形成後、XPS分析を行い、化成処理皮膜の全厚みに対して、表層から40%以内の厚み部分にZrのリン酸層が偏在している皮膜構成であれば○、同層が偏在していない場合には×、とした。
(10)Zrの酸化物層の偏在状況
化成処理皮形成後、XPS分析を行い、化成処理皮膜の全厚みに対して、表層から40%〜100%の部分にZrの酸化物層が偏在している皮膜構成であれば○、同層が偏在していない場合には×、とした。
(11)フェノール樹脂層の偏在状況
化成処理皮形成後、XPS分析を行い、化成処理皮膜の全厚みに対して、表層から10%以内の厚み部分にフェノール樹脂層が偏在している皮膜構成であれば○、同層が偏在していない場合には×、とした。
皮膜付着量は、Zr、P量については蛍光X線にて定量分析を行い、C付着量については全炭素量測定法により求めた。なお、C付着量については、上記表2中のB2にて電解処理して得られたサンプルについては、フェノール樹脂由来のCとタンニン酸由来のCとを区別せず、総C量を記した。
以上の結果を下記表3に示す。なお、下記表3には、実施例及び比較例の各試験材における金属Ni量、金属Sn量及び各皮膜の含有量も併せて示す。また、下記表3に示す金属Ni量および金属Sn量は、蛍光X線測定法により求めた値であり、各皮膜の含有量は、蛍光X線での定量分析により求めた値である。
上記表3に示すように、リン酸層、酸化物層およびフェノール樹脂層の偏在が確認され、Zr含有量、P含有量、C含有量が本発明の範囲内に属する実施例1〜29については、上記(1)〜(11)の評価はいずれも良好な結果を示した。
一方、上記表3における比較例1〜11に示したように、リン酸層、酸化物層またはフェノール樹脂層の偏在が確認されなかったもの、あるいは、Zr含有量やP含有量やC含有量が本発明の範囲外にあるものは、上記(1)〜(11)の評価が実施例1〜29よりも劣るものとなった。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
本発明の好適な実施形態に係る容器用鋼板の構成を説明するための説明図である。 同実施形態に係る化成処理皮膜層を説明するための説明図である。 同実施形態に係る化成処理皮膜層のXPSスペクトルの測定結果である。 同実施形態に係る化成処理皮膜層のXPSスペクトルの測定結果である。 同実施形態に係る化成処理皮膜層のXPSスペクトルの測定結果である。 同実施形態に係る化成処理皮膜層のXPSスペクトルの測定結果である。 同実施形態に係る化成処理皮膜層のXPSスペクトルの測定結果である。
符号の説明
10 容器用鋼板
20 鋼板
30 化成処理皮膜層
32 酸化物層
34 リン酸層
36 共存層
40 下地めっき層

Claims (8)

  1. 鋼板の少なくとも片面に、ジルコニウムの酸化物、ジルコニウムのリン酸塩、及びフェノール樹脂の混合物を含む化成処理皮膜層を有し、
    前記化成処理皮膜層は、
    最表面に位置し、前記フェノール樹脂が偏在するフェノール樹脂層と、
    前記フェノール樹脂層の前記鋼板側に位置し、前記ジルコニウムのリン酸塩が偏在するリン酸層と、
    前記リン酸層の前記鋼板側に位置し、前記ジルコニウムの酸化物を主成分とする酸化物層と、
    を有し、
    前記フェノール樹脂層は、前記化成処理皮膜層の全膜厚に対して、表層から10%以内の厚み部分に偏在しており、
    前記リン酸層は、前記化成処理皮膜層の全膜厚に対して、表層から40%以内の厚み部分に偏在しており、
    前記酸化物層は、前記化成処理皮膜層の全膜厚に対して、表層から40%〜100%の厚み部分に偏在していることを特徴とする、容器用鋼板。
  2. 前記化成処理皮膜層は、金属ジルコニウム量で1mg/m〜9mg/mのジルコニウムを含有することを特徴とする、請求項1に記載の容器用鋼板。
  3. 前記化成処理皮膜層は、リン量で0.5mg/m〜8mg/mのリン酸を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の容器用鋼板。
  4. 前記化成処理皮膜層は、炭素量で0.1mg/m〜5mg/mのフェノール樹脂を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の容器用鋼板。
  5. 前記鋼板と前記化成処理皮膜層との間に、少なくともニッケルまたはスズを含む下地めっき層が形成されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の容器用鋼板。
  6. 前記下地めっき層は、ニッケルめっき層であり、
    前記ニッケルめっき層は、金属ニッケル量で150mg/m〜1000mg/mのニッケルを含有することを特徴とする、請求項5に記載の容器用鋼板。
  7. 前記下地めっき層は、スズめっき層であり、
    前記スズめっき層は、金属スズ量で560mg/m〜5600mg/mのスズを含有することを特徴とする、請求項5に記載の容器用鋼板。
  8. 前記鋼板は、
    当該鋼板表面にニッケルめっきまたは鉄−ニッケル合金めっきを施した下地ニッケル層が形成され、当該下地ニッケル層上に施されたスズめっきの一部と前記下地ニッケル層の一部または全部とが合金化された島状スズを含むスズめっき層が形成されためっき鋼板であり、
    前記めっき鋼板は、金属ニッケル量で5〜150mg/mのニッケルと、金属スズ量で300〜3000mg/mのスズと、を含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の容器用鋼板。


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