JP2009166027A - 石油汚染土壌の浄化方法 - Google Patents

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【課題】本発明は、微生物による分解が困難である多環芳香族化合物などの石油成分により汚染された土壌を比較的短時間で効率的に浄化できる方法、および当該方法で用いる浄化剤と菌を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る石油汚染土壌の浄化方法は、石油汚染土壌へS133株(NITE P−461)を添加することを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、石油汚染土壌の浄化方法、および当該方法で用いる浄化剤と菌に関するものである。
石油の精製工場や備蓄基地、コールタールの製造工場や石炭の処理工場などの敷地内や周辺部では石油成分により土壌が汚染されており、その跡地を住宅地などとして有効利用できない場合がある。また、原油タンカーの座礁事故などによって、沿岸が汚染されることもある。石油や原油には低沸点化合物や比較的親水性の高い化合物など、自然に分解され易い成分も含まれているが、多環芳香族化合物など非常に分解され難い成分も含まれている。かかる成分は長く環境に残留して生物に悪影響を与えるので問題となっている。
難分解性の石油成分に汚染された土壌の処理方法としては、例えば、活性炭等を用いた吸着方法、加熱による熱分解法、汚染土壌の不溶化処理法など、様々な化学的または物理的な処理方法がある。しかし近年では、より穏和な条件で安価に実施でき、省エネルギーの観点からも優れている微生物による処理方法(バイオレメディエーション)の開発が盛んである。
例えば非特許文献1と2では、多環芳香族化合物の分解能を有する細菌として、Arthrobacter属菌やAcidovorax属菌などが特定されている。しかしこれら細菌は、汚染土壌の抽出物や汚染土壌の懸濁液を処理可能なものとして見出されているが、実際における汚染土壌の浄化処理を考慮すれば、膨大な汚染土壌から汚染物質を抽出したり或いは汚染土壌をスラリー化した上で処理することは不可能である。よって、特別なスラリー化工程を経ることなく菌を散布等するのみで汚染土壌を浄化することが好ましいが、これら先行技術文献で見出された菌がかかる浄化処理が可能なほど浄化能に優れるとは限らない。
一方、非特許文献3には、汚染された土壌を固体状態のまま処理することにより、多環芳香族炭化水素の分解能を有するSphingomonas属菌等を見出している。しかし、多環芳香族炭化水素を十分に分解するには6ヵ月以上の時間を要している。効率的な浄化処理のためには、より短期間で石油成分を十分に分解できる浄化能に優れた菌が求められている。
ところで、特許文献1にはPolyporus属菌を使って汚染物質を処理する方法が記載されている。しかし特許文献1に記載の方法は、有機溶媒中に分散した逆ミセルの内部にラッカーゼ含有物を内包させ、当該ラッカーゼにより有機溶媒中の汚染物質を処理するものである。よって、汚染土壌の浄化に当該方法を適用する場合、汚染土壌から汚染物質を抽出した上で有機溶媒に添加したり、有機溶媒に汚染土壌を懸濁させる必要がある。この様な方法は、広範囲にわたる大量の汚染土壌を処理する方法としては到底採用できない。その上、Polyporus属菌は多数例示されたラッカーゼ産生菌の一つとして挙げられているのみであり、しかも例示された菌は逆ミセル中に内包させて用いるとされている。しかし逆ミセル中の菌がラッカーゼを産生し、有機溶媒中の汚染物質を効率的に処理できるとは考え難い。実際、特許文献1の実施例で逆ミセル中に内包されているのは市販のラッカーゼのみであり、菌を内包させた例は全く開示されていない。
H.I. ATAGANAら,ウォーター・エアー・アンド・ソイルポリューション(Water, Air, and Soil Pollution),第141巻,第233〜246頁(2002年) Mikael Erikssonら,アプライド・アンド・エンバイロメンタル・マイクロバイオロジー(Applied and Environmental Microbiology),第69巻、第1号,第275〜284頁(2003年) Marc Vinasら,アプライド・アンド・エンバイロメンタル・マイクロバイオロジー(Applied and Environmental Microbiology),第71巻、第11号,第7008〜7018頁(2005年) 特開2003−52367号公報
上述した様に、石油成分などにより汚染された土壌の範囲や量は、一般的に莫大なものであることから、石油成分の抽出や汚染土壌のスラリー化を前提とした浄化処理技術は実用的でない。一方、汚染土壌を固体状態のままでも浄化できる細菌も知られてはいたが、十分に浄化できるまでには長時間を要するものであった。
そこで本発明が解決すべき課題は、微生物による分解が困難である多環芳香族化合物などの石油成分により汚染された土壌を比較的短時間で効率的に浄化できる方法、および当該方法で用いる浄化剤と菌を提供することにある。
本発明者らは、多環芳香族化合物などを効率的に分解できる微生物を探索したところ、従来、バイオレメディエーションで主に用いられている細菌類ではなく、担子菌類に属するもので石油成分の分解能に極めて優れる菌株であるS133株を見出して、本発明を完成した。
本発明に係る石油汚染土壌の浄化方法は、石油汚染土壌へS133株(NITE P−461)を添加することを特徴とする。なお、本発明方法では石油汚染土壌をスラリー化したり汚染物質を抽出する必要はなく、石油汚染土壌へS133株を散布するのみで土壌を浄化することができる。
上記方法においては、さらにS133株の栄養源、界面活性剤、またはこれらの混合物を添加することが好ましい。栄養源はS133株の生育を活発化させ、ひいては石油成分の分解を促進することができる。栄養源としては、例えば、植物材料(代表的には、パルプなどの植物材料破砕物)が例示される。また、界面活性剤は、固体状の土壌から疎水性の高い石油成分を脱離し易くしてS133株による分解を促進することによって、より効率的な土壌浄化処理が可能になると考えられる。
界面活性剤を用いる場合、その添加量は、石油汚染土壌に対して0.05質量%以上、1.0質量%以下とすることが好ましい。当該量が0.05質量%以上であればその効果は十分確実に発揮できる一方で、1.0質量%を超えると菌の生育が一部阻害される場合があり得、浄化効率がかえって低下するおそれがある。
本発明に係る石油汚染土壌の浄化剤は、S133株を含むことを特徴とする。また、本発明はS133株に関する。
本発明に係るS133株は、多環芳香族化合物などバイオレメディエーションによる処理が難しい石油成分に汚染された土壌を、スラリー化したり石油成分を抽出したりせずとも比較的短時間で浄化することができる。よって本発明は、石油を用いる工場の跡地の浄化処理などにおいて、膨大かつ広大な汚染土壌を効率的に浄化処理できるものとして、産業上極めて有用である。
本発明に係るS133株は、下記の通り寄託機関に寄託されている。
(i) 寄託機関の名称およびあて名
名称: 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
あて名: 日本国 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8
(ii) 寄託日: 平成19年(2007年)11月28日
(iii) 受領番号: NITE AP−461
(iv) 受託番号: NITE P−461
S133株を麦芽エキス寒天培地上で生育させ光学顕微鏡を用いて観察した形態的特徴は、以下の通りである。即ち、白色でハニカム状の直径2〜10cm程度のかさを有する担子菌であり、柄は1〜8cm程度と比較的短い。かさにおけるハニカムの大きさは、1〜6mm程度である。その胞子は、白色で楕円形のものであり、その大きさは7〜15×2〜5μm程度である。S133株は倍地上で白色の菌糸として生育し、この菌糸にはクランプコネクションが見られる。以上の形態的特徴から、S133株はPolyporus属に属する担子菌であると判断した。また、S133株は好気性である。
S133株を20℃、25℃、30℃および35℃で培養したところ、いずれの温度でも生育したが、最も良好に生育したのは30℃であった。よって、S133株を培養する際の温度やS133株により石油成分を分解する際の温度は、20℃以上、35℃以下程度が好適である。
S133株を麦芽エキス液体培地で培養したところ、培地にはマンガンペルオキシダーゼ活性、リグニンペルオキシダーゼ活性、ラッカーゼ活性およびジオキシゲナーゼ活性が認められた。よって、S133株による石油成分の分解能には、これら酵素のうち少なくとも1つが関与している可能性がある。
本発明に係るS133株は、置換基を有さず極めて分解され難い多環芳香族化合物であるクリセンを効率良く分解できることが実験的に確認されている。また、本発明者らによる知見によれば、S133株は1,2−ジオキシゲナーゼなどを活発に発現する。S133株は、これら酵素によりクリセンを酸化しつつその炭素−炭素結合を切断していき、水酸基やカルボキシル基などの親水性基を有するベンゼン化合物に導き、最終的に二酸化炭素まで分解する。よってS133株は、クリセンと同様の多環芳香族化合物であるテンタレン、インデン、ナフタレン、アズレン、フルオレン、フェナレン、フェナンスレン、アントラセン、トリフェニレン、ピレン、ベンゾピレン、ナフタセン、ペリレンなども分解できると考えられる。またS133株は、ベンゼン、アルキルフェノール類、ハロゲン化フェノール類、ビスフェノール類、ダイオキシン類といった化合物も同様に分解し得る。
なお、本発明においてS133株が分解し得る石油成分は、原油や石油に含まれ得るものであれば原油由来のものや石油由来のものに限定されないものとする。例えばクリセンなどの多環芳香族化合物は山火事によっても発生する。その一方で、かかる多環芳香族化合物は自然には分解され難い。よって、本発明で処理すべき石油成分は、原油や石油に含まれる成分であれば、その起源は問わないものとする。なお、一般的に精製前の石油を特に原油というが、本発明では石油と原油を特に区別しないものとする。原油には、原油を用いた石油製品(例えば、重油、ガソリン、灯油、軽油など)も含まれる。
本発明に係るS133株は極めて優れた石油成分分解能を有することから、石油汚染土壌をスラリー化したり汚染土壌中の石油成分を抽出しなくても、石油汚染土壌へS133株を添加してS133株と石油汚染土壌を接触させるのみで石油成分を分解することができる。
しかも本発明によれば、上述した種々の石油成分を高濃度に含む汚染土壌を効率よく分解することができる。本発明によって処理可能な石油汚染土壌の濃度は、S133株を、好ましくは後記する栄養源や界面活性剤などと併用したり、当該菌株式の培養期間を長くするなどして高めることができ、おおむね、20,000〜50,000ppm程度の汚染土壌を処理することができる。
S133株と石油汚染土壌を接触させる方法は常法に従えばよい。例えば、S133株を液体培地で培養した場合には、その培養液を石油汚染土壌に散布すればよい。或いは、S133株は担子菌であるので、菌床となり得る植物残渣を用いて培養したS133株を石油汚染土壌に散布してもよい。
石油汚染土壌に散布すべきS133株の液体培地は、希釈してもよい。また、当該液体培地のpHは、S133株の至適pHに合わせて4.5〜6程度に調整することが好ましい。
S133株を培養するために用いる植物残渣としては、木屑、おが屑、鋸屑、米糠、おから、油粕、大豆粕などを挙げることができる。
S133株を石油汚染土壌に添加する場合には、S133株の栄養源や界面活性剤も添加することが好ましい。栄養源はS133株の生育を活発化し、ひいては石油成分の分解能を活性化することができる。また、界面活性剤は、脂溶性が高く親水性の低い石油成分を固体状の土壌から脱離させてS133株の生育環境に存在し易くし、分解を促進する作用を有する。
S133株の栄養源としては、昭和産業社製の「しいたけの里」など担子菌の栄養源として市販されているものを用いてもよいし、グルコースなどの炭素源;ポリペプトンなどの窒素源;マグネシウム塩やマンガン塩などの微量元素源;クエン酸などのpH調整剤などを適宜選択して用いてもよい。また、S133株の栄養源として、植物材料も好ましく用いられ、代表的には、植物繊維の破砕物(パルプ)が挙げられる。S133株は、白色腐朽菌に属するPolyporus属の一種であり、植物などの木材中のリグニン分解能力を有しているからである。パルプの原料としては、白色腐朽菌が利用できるものであれば特に限定されないが、針葉樹や広葉樹などの木材、綿、麻、ケナフ、バガスなどが挙げられる。具体的には、例えば、カポックの木を用いたカポックパルプ、綿の実に付着する短毛(綿クズ)を用いたリンターパルプ、綿の紡績から出る繊維(綿ボロ)を利用したラグパルプ、麻を原料としたリネンパルプなどが代表的に例示される。また、古紙パルプ(再生紙)を利用しても良い。
栄養源の添加量は、S133株の量などに応じて適宜調整すればよいが、一般的には栄養源の量は多いほどS133株の生育は良好であり、石油成分の分解効率は向上する。その一方で、植物材料の天然素材を除く炭素源や窒素源などの栄養源が多過ぎると環境への悪影響が懸念される。以上を考慮して、添加する栄養源の量は、処理対象である石油汚染土壌に対して5〜30質量%程度にすることが好ましい。
使用する界面活性剤としては、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤など特に制限されないが、S133株への悪影響が少ないことから非イオン界面活性剤が好適である。非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。より具体的には、Tween20、Tween60、Tween80を用いることができる。
界面活性剤は、S133株の生育環境に対する石油成分の分散性を向上させることの他、炭素源となるなどS133株の生育を促進する可能性もある。しかし、界面活性剤の量が多過ぎるとかえってS133株の生育に悪影響を与え得る。そこで、界面活性剤の添加量は、処理すべき石油汚染土壌に対して0.05質量%以上、1.0質量%以下程度にすることが好ましく、0.1質量%以上、0.75質量%以下程度にすることがより好ましい。
処理対象である石油汚染土壌は、採掘した上で容器に挿入し、S133株や栄養源などを添加し、S133株が良好に生育できるように温度や湿度を調整してもよい。しかし、土壌汚染は広範囲に及ぶことが多く、処理すべき土壌を逐一採掘するとかえって処理効率が低下し得る。よって、石油汚染土壌にそのままS133株を添加してもよい。なお、S133株は25℃で十分に生育することから、日本国内であれば、S133株は温度調節せずとも常温で石油成分を分解できると考えられる。但し、湿度は比較的高く保つべきであるので、適時水を散布するなどすべきである。
S133株の添加量は、汚染土壌の汚染状態などに応じて適宜調整すればよい。
本発明者らによる知見によれば、S133株による石油汚染土壌の処理中は、遮光した方が効率が良い。よって、石油汚染土壌にS133株を添加した後は、ブルーシート等で被覆するなどして照射光量を抑えることが好ましい。
本発明に係る石油汚染土壌の浄化剤は、S133株を含むことを特徴とする。より具体的には、上述した通り、本発明の浄化剤はS133株を含む液体培地であってもよいし、S133株を生育させた木屑などの菌床であってもよい。また、栄養源や界面活性剤などを含むものであってもよい。
本発明に係る石油汚染土壌の浄化剤は、液体培地や菌床上などでS133株を十分に生育させたものであってもよいし、或いは生育させたものを冷蔵保存したものであってもよい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
なお、以下における「%」は、全て「質量%」である。
実施例1 S133株の単離
蒸留水(100mL)に麦芽(20g/L)、グルコース(20g/L)、ポリペプトン(1g/L)および寒天(20g/L)を添加した。さらに、当該混合物(20ml)に、雑細菌や酵母などの繁殖を抑制するためにクロラムフェニコール(6mg)またはベニミル(6mg)を加え、麦芽エキス寒天培地を調製した。別途、1%のTween80を含むジメチルホルムアミドの1%クリセン溶液を調製した。上記麦芽エキス寒天培地(20ml)上に、上記クリセン溶液(1ml)を添加して均一になるように広げた。
愛媛大学農学部構内およびその近縁から採取した124種の土壌(乾燥重量で1g)を滅菌水(9mL)に懸濁し、攪拌した後に10分間静置した。次いで、各上澄液(1mL)を上記麦芽エキス寒天培地に添加し、暗所にて25℃で2週間培養した。培地上に生育してきた87種の菌をそれぞれ採取し、同様の麦芽エキス寒天培地にて25℃で7日間培養した。生育速度の速い菌を7種採取し、同様の操作をもう一度繰り返すことによって、特にクリセン存在下における生育が活発であった担子菌であるS133株を単離した。
得られたS133株を顕微鏡により観察したところ、中央に窪みがある平らで白色のカサを有し、その表面には褐色の鱗片が存在するものであった。柄は中心生であり、胞子は白色で長楕円形であった。これらはPolyporus属菌の形態学的特徴であることから(今関六也ら編、「日本のキノコ」山と渓谷社、第450〜451頁(1988年);およびTomas Laessoe著,「DORLIG KINDERSLEY −HANDBOOKS− MUSHROOMS」,Dorling Kindersley Ltd.,LONDON,204,pp.202〜210(1998年)を参照)、S133株はPolyporus属菌と同定した。
実施例2 S133株による石油汚染土壌の浄化(その1)
(1) クリセン汚染土壌の調製
愛媛大学農学部附属農場から採取した土壌を3mmのメッシュで篩い分けし、120℃で2時間滅菌した。別途、1%のTween80を含むジメチルホルムアミドに1ppmの濃度でクリセンを添加した。上記滅菌土壌(乾燥重量で200g)に上記クリセン溶液(2mL)を加えた。また、比較のために、滅菌処理を行っていない土壌に対して、同様に上記クリセン溶液を添加した。いずれも土壌中のクリセン濃度は1ppmである。
(2) 石油汚染土壌の浄化処理
プラスチックバックに、木粉(乾燥重量で200g)と栄養源(昭和産業社製、「しいたけの里」、木粉に対する乾燥重量で15%)を加え、さらに水を加えて含水率を60%に調整した。これをオートクレーブにより121℃で2時間滅菌した後、上記実施例1で単離したS133株を接種し、暗所にて25℃で30日間培養した。
上記(1)で調製した石油汚染土壌に対して、栄養源として、実験例1−しいたけの里のみ(15%)、実験例2−ポリペプトンのみ(15%)、実験例3−グルコース(15%)、実験例4−しいたけの里+グルコース(各7.5%)、実験例5−しいたけの里+ポリペプトン(各7.5%)(各5%)を添加した。さらに、上記培養物を15%となるように加え、よく混合した後、暗所にて25℃で培養した。また、比較のために、滅菌処理を行っていないクリセン添加土壌を実験例6とし、当該土壌に栄養源としてしいたけの里(15%)を添加した土壌を実験例7として、同様に実験を行った。
(3) クリセン分解率の測定
培養開始から15日間および30日間経過後に土壌の一部を採取し、ジクロロメタンで16時間ソックスレー抽出した。抽出液を減圧濃縮後、内部標準液である4−クロロビフェニールを加え、シリカゲルカラムで精製した。ジクロロメタンで溶出する画分を濃縮後、GC−MSにより残留クリセンを定量した。GC−MSの条件は、以下の通りである。
カラム: ジーエルサイエンス社製のTC−1 (長さ30m×内径0.25mm)
キャリヤーガス: ヘリウム
昇温条件: 80℃で2分間保持→200℃まで20℃/分で昇温→260℃まで7.5℃/分で昇温→260℃で4分間保持
カラム流速: 1.5mL/分
注入口温度: 260℃
イオン化電圧: 70eV
処理前のクリセン量から、分解率を算出した。結果を表1に示す。
Figure 2009166027
表1の通り、土壌に存在する菌のみでは、栄養源を添加しても、石油に含まれる多環芳香族化合物であるクリセンを分解することはできない(実験例6および7)。一方、本発明に係るPolyporus属菌であるS133株を添加した場合、クリセンを30日間で約70%以上分解できることが証明された。
実施例3 S133株による石油汚染土壌の浄化(その2)
上記実施例2において、各栄養源の代わりに界面活性剤であるTween80を石油汚染土壌に対して0.05%加えた例(実験例8)、0.25%加えた例(実験例9)、0.5%加えた例(実験例10)、0.75%加えた例(実験例11)でも同様の実験を行った。結果を表2に示す。
Figure 2009166027
表2の通り、界面活性剤であるTween80を加えた場合、栄養源を添加しなくても、30日間という比較的短期間でクリセンを十分に分解できた。しかし、界面活性剤の添加量が0.5%の場合をピークとして、それ以上添加した場合には分解率は低下した。これは、過剰な界面活性剤により菌の生育が一部阻害されることによる可能性がある。よって、S133株と共に界面活性剤を添加すれば石油成分を効率的に分解できるが、その量が過剰であるとかえって分解率が低下することが分かった。
実施例4 S133株による石油汚染土壌の浄化(その3)
本実施例では、実施例2および3で用いた石油汚染土壌(クリセン濃度1ppm)よりも高濃度の石油汚染土壌(C重油濃度15000ppm)を用いたときの分解効率を調べた。C重油は、動粘度によって分類された3種の重油であり、軽油のほか90%以上が残渣油である。
(1) C重油汚染土壌の調製
愛媛大学農学部附属農場から採取した土壌を3mmのメッシュで篩い分けし、120℃で2時間滅菌した。別途、C重油(3g)[重油規格(JISK2205)の3種1号に相当するC重油であり、太陽石油株式会社製のC重油]をヘキサン(15mL)に溶解させ、20%のC重油溶液を調製した。上記滅菌土壌(乾燥重量で200g)に上記C重油溶液(15mL)を加えた。土壌中のC重油濃度は15000ppmである。
(2) 石油汚染土壌の浄化処理
プラスチックバックに、木粉(乾燥重量で200g)と栄養源(昭和産業社製、「しいたけの里」、木粉に対する乾燥重量で15%)を加え、さらに水を加えて含水率を60%に調整した。これをオートクレーブにより121℃で2時間滅菌した後、上記実施例1で単離したS133株を接種し、暗所にて25℃で30日間培養した。
上記(1)で調製した石油汚染土壌に対して、栄養源として、実験例12−カポックパルプ(三木特種製紙(株)から提供されたカポックパルプ、15%)、実験例13−リンターパルプ(三木特種製紙(株)から提供されたリンターパルプ、15%)を添加した。さらに、上記培養物を15%となるように加え、よく混合した後、暗所にて25℃で培養した。また、栄養源を添加せずに上記培養物(15%)のみを添加したものを同様に培養したものを実験例14とした。比較のために、市販のバクテリア浄化剤(バイオジェネシステクノロジー社製のオイルスポンジ)、15%)を添加した土壌を実験例15として、同様に実験を行った。
(3) C重油分解率の測定
C重油の分解率を、Mishraらの方法(In Situ Bioremediation Potential of an Oily Sludge−Degrading Bacterial Consortium,Sanjeet Mishra,Jeevan Jyot,Ramesh Chander Kuhad,Banwari, Lai,Current Microbiology,Vol.43,328−335(2001))を参考にして測定した。ここでは、C重油量[全石油炭化水素(total petroleum hydrocarbon、TPH)の量]およびC重油を構成する下記成分の分解率の両方を測定した。
炭化水素(alkane fraction)
芳香族化合物
窒素、硫黄および酸素を含む化合物(NSO)
アスファルト(asphaltene)
測定方法の概要は以下のとおりである。まず、培養開始から30日間および60日間経過後に土壌の一部を採取し、ヘキサン、ジクロロメタン、およびクロロホルムで順次抽出した。それぞれの抽出液を合わせて濃縮し、抽出物を得た。一方、C重油汚染土壌(菌株の添加なし)の一部を採取し、上記と同様にして、ヘキサン、ジクロロメタン、およびクロロホルムで順次抽出した各抽出液を合わせて濃縮し、抽出物を得た。このようにして得られた各抽出物の重量を比較し、全石油炭化水素部(TPH)の分解率を算出した。
さらに、各抽出物にヘキサンを加え、ヘキサン可溶部と不溶部に分けた。このうちヘキサン可溶部をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけ、ヘキサン、トルエン、およびクロロホルム:メタノール(1:1)で順次溶出した。このようにして得られたヘキサン溶出部は炭化水素を、トルエン溶出部は芳香族化合物を、クロロホルム:メタノール(1:1)溶出部は窒素、硫黄および酸素を含む化合物(NSO)並びにアスファルテンを、それぞれ含む。このうち炭化水素および芳香族化合物の分解率は、ヘキサン溶出部およびトルエン溶出部をガスクロマトグライー(GC)で分析し、処理前後のそれぞれの溶出物のピーク面積を比較して算出した。GC条件は、以下の通りである。また、NSOおよびアスファルトの分解率は、クロロホルム:メタノール(1:1)可溶部およびアスファルトからなるヘキサン不溶部を合わせたものの重量を測定し、処理前後の重量を比較して算出した。
カラム: ジーエルサイエンス社製のTC−5(長さ30m×内径0.25mm)
キャリヤーガス: ヘリウム
昇温条件: 80℃〜240℃まで5℃/分で昇温→240℃で30分間保持
カラム流速: 1.5mL/分
注入口温度: 300℃
TPH、炭化水素、芳香族化合物、並びにNSOおよびアスファルトの分解率を、表3〜表6に、それぞれ示す。
Figure 2009166027
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表3のTPH分解率の結果から明らかなように、栄養源としてパルプ材を添加した実験例12および13では、パルプの種類にかかわらず、15000ppmの極めて高濃度の重油を、約2ヶ月間の比較的短期間で効率よく分解できることが確認された(実験例12で約93%、実験例13で約82%)のに対し、市販のバクテリア添加剤を用いた実験例15では、約2ヶ月間経過後でもせいぜい約66%しか分解されなかった。
同様の傾向は、C重油を構成する各成分についても認められた(表4〜表6を参照)。すなわち、市販のバクテリア添加剤を用いた実験例15に比べて、S13株にパルプ材を添加した実験例12および13では、各成分の分解率が上昇し、分解が特に困難であったNSOおよびアスファルトについても、約2ヶ月間経過後で半分以上を分解することができた。
以上の結果より、本発明法は、従来法では短時間の高い分解処理が困難であった高濃度汚石油汚染土壌を十分に浄化できる技術として極めて有用であることが十分実証された。

Claims (6)

  1. 石油汚染土壌へS133株(NITE P−461)を添加することを特徴とする石油汚染土壌の浄化方法。
  2. さらに、S133株の栄養源、界面活性剤、またはこれらの混合物を添加する請求項1に記載の方法。
  3. 界面活性剤を、石油汚染土壌に対して0.05質量%以上、1.0質量%以下添加する請求項2に記載の方法。
  4. 前記栄養源は植物材料である請求項2または3に記載の方法。
  5. S133株(NITE P−461)を含むことを特徴とする石油汚染土壌の浄化剤。
  6. S133株(NITE P−461)。
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