JP2009128655A - 可視光領域で利用可能な二色性固体偏光素子及びその製造方法 - Google Patents

可視光領域で利用可能な二色性固体偏光素子及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】近赤外域から紫外域に至る光を対象とした二色性の固体偏光素子において、高耐熱性、高透過率、高消光比を併せてもたせること。また、その二色性固体偏光素子を安価に作製するための製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る固体偏光素子は、近紫外光から可視光を経て赤外光にわたる光波領域の全域若しくは一部において透明な固体材料と;前記固体材料の中に配向分散された金属ナノロッドとを備える。そして、前記金属ナノロッドはタリウムからなる。また、前記金属ナノロッドは互いに独立し、その長軸を同一の方向に揃えて配向分散されていることを特徴とする。
【選択図】図2

Description

本発明は、例えば液晶プロジェクタ、光ヘッドおよび光通信用デバイスなど、高いエネルギー密度の光を利用する光学系に利用可能な二色性固体偏光素子及びその製造法に関する。
特に、可視光領域を含む光波領域において有効な特性を有する事を特徴とする二色性固体偏光素子及びその製造法に関する。
偏光素子は、光の偏光面を揃える機能を有する素子で、光学系に広く利用される。近年、光学系を利用する装置の性能向上および小型化を実現するために、光学系を伝搬する光のエネルギー密度は大きくなるために、新たな技術課題が生じている。ここでは、液晶プロジェクタを具体例として、技術背景を説明する。
映像情報、パソコン情報などを表示するための表示装置に関しては、大画面化、高精細化、高輝度化などの表示機能の向上が求められると同時に装置の小型化、薄型化、低消費電力化などが求められている。
近年、大画面且つ薄型の表示装置に関する技術革新が急速に進み、従来のブラウン管方式のディスプレイは、大型液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイおよび投射型ディスプレイなどによって置き換えられつつある。特に、数十インチ以上の大画面ディスプレイの分野では、投射型ディスプレイが広く利用されている。液晶プロジェクタは、既にプレゼンテーション用途の標準機器として定着している。また、リア型プロジェクションディスプレイは大画面テレビション装置として広く普及している。
標準的液晶プロジェクタの構造(例えば、特許文献1を参照。)を、図1を用いて説明する。光源4から出射された無偏光白色光は偏光変換素子7で直線偏光に変換される。次に、ダイクロイックミラー9、10によって3原色光(赤(R)、緑(G)、青(B))に分解される。分解されたRGB光は、それぞれに対応して設けられた液晶パネル2R、2G、2Bに導かれる。それぞれの液晶パネルの入射側には 偏光子1R、1G、1Bが、出射側には偏光子3R、3G、3Bが設けられている。透過光量は、液晶スイッチにより映像信号に対応した階調に制御される。次に、色合成ダイクロイックプリズム17によって白色光に合成され、拡大カラー画像としてスクリーン19に投写される。
ここで用いられる液晶パネルの大きさは、対角線長で約1cmから数cmであり、スクリーン上に1000〜10000倍の面積に拡大投影される。投影スクリーン上で必要な輝度を実現するために、高輝度光源から液晶パネルに至る光学系の光路上に配置された各光学素子には、高いエネルギー密度の光が入射する。本発明に係る固体偏光素子は、液晶プロジェクタの主要光学部品である偏光素子に関係する。
液晶プロジェクタ装置に使用されている偏光子の過熱損傷という第一の技術課題について説明する。液晶プロジェクタ装置等の機器において現在多用されている偏光板は、有機高分子系二色性偏光フィルムである。このフィルムは、一軸伸長された鎖状構造有機ポリマーの分子鎖に沿ってヨウ素系物質或いは染料分子などの光吸収性材料を1次元状に吸着させ、その結果生ずる光吸収の異方性(二色性)に基づく偏光機能を利用したものである。この偏光機能は、無偏光入射光のうちその電場ベクトルが偏光フィルムの分子軸に平行な成分は吸収され、垂直成分は透過することによって発現している。従って、液晶パネルの入射側及び出射側の偏光板では光吸収のため温度が上昇し、その使用上限温度である約60℃を容易に超え損傷に至ることがある。
そこで、液晶パネルや有機系偏光素子の温度上昇を防ぐための種々の技術が発明、提案されている。偏光フィルムを支持し同時に放熱効果を高めるために、例えば、高い熱伝導率をもつ単結晶サファイア基板を用い、技術(特許文献2)や、単結晶水晶基板を用いる技術(特許文献3、特許文献4)が開示されている。また、現行機器では、冷却効果を高めて熱損傷を防ぐために、偏光子放熱基板及び液晶パネルを強制風冷している(特許文献5)。さらに、偏光板及び液晶パネルに液体冷却構造を張り合わせる技術の開示もある(特許文献6)。
上記の冷却技術は、いずれも部品点数が増大し、装置を複雑化し、消費電力を増大させ、且つ製造及び保守コストを上昇させる。例えば、単結晶基板は一般に高価であるとともに、光学的異方性結晶であるため、その加工及び組み付けの経費が大きくなる。
熱安定性が高い無機材料を用いた偏光子としては、異なる原理に基づく数種類のものが実用に供されている。例えば、グラントムソン、グランテーラーなどの複屈折プリズム偏光子、金属細線と誘電体が交互に周期配列しているワイヤグリッド偏光子、金属薄膜と誘電体薄膜が交互に且つ周期的に積層された積層型偏光子、又は金、銀もしくは銅の非球形金属微粒子が分散した二色性偏光ガラスがある。これらは、以下に述べる理由で液晶プロジェクタ用の偏光板には不適当或いは不十分である。
すなわち、グラントムソン及びグランテーラー偏光子は、ともに光学的異方性をもつ単結晶から作られたプリズムを利用する。従って、その製造工程が高コスト要因となっており、大量生産商品の部品として使用することは難しい。
また、ワイヤグリッド偏光子を応用する技術の開示がある(特許文献7)。ここでは、通常は電波領域で使用されるワイヤグリッド偏光子を可視光領域まで高周波化するための素子構造及び作製法が開示されている。この技術の応用には、実用上二つの問題点がある。
第一の問題点は次の通りである。ワイヤグリッド偏光子を応用する技術では、ガラス等の透明基板上に、望ましくは誘電体薄層を介してアルミニウムや銀などの微細ストライプの格子を形成する。可視光領域で有効なp波の透過率を実現するためには、隣接するストライプ間の間隔(周期)、ストライプの幅並びに厚さ、及びストライプ間の誘電体層部位の形状並びに厚さのすべてについて、10nmオーダーでの制御が必要である。この精度の実現には、現在の最先端技術のひとつであるLSIの製造と同等以上の精細なプロセス技術が必要である。
第二の問題点は、ワイヤグリッド型偏光子の原理に関係する。即ち、この素子では、p波は透過させ、s波を反射させることにより偏光分離を実現している。従って液晶プロジェクタ用の偏光素子としての応用では、反射波を吸収させ迷光を低減させるための付加的な光学設計が要求される。
ガラス中に均一に或いは表面の近傍に分散する形状異方性を有する金、銀もしくは銅の金属微粒子(以下金属ナノロッドという)の二色性を利用する偏光子も存在する。金属ナノロッドの二色性発生機構は表面プラズモン共鳴として理解されている(非特許文献1)。表面プラズモンの理論によると、負の誘電率を有する金属ナノロッドはその誘電率とナノロッドの形状(長軸方向の長さと短軸方向の長さの比で表現される)に依存する共鳴周波数の光に対して鋭い共鳴現象を生じる。
共鳴現象が実現する為に必至な条件は、金属が利用する光の波長帯域で負の誘電率を持つことである。金、銀もしくは銅は500nmより長い波長領域に於いて負の誘電率を持つ。従って、波長1.3μmから1.5μmの光を用いる光通信用デバイスに適用するガラス偏光子は上記の金属ナノロッドの性質を利用して実現される。しかし、これらの金属は青もしくは紫外領域の波長に対しては負の誘電率を持つことは無い。このため、金、銀もしくは銅のナノロッドからなる偏光子の利用波長領域が制限される。その結果、金、銀もしくは銅のナノロッドからなる偏光子は、液晶プロジェクタ用の偏光素子のように、可視光領域で機能を実現する事が要求される偏光素子には採用出来ない。
上記の金、銀もしくは銅の光学的な性質を回避するために、アルミニウムを利用する技術が提案されている(特許文献11)。アルミニウムはその活性な化学的な性質から、ガラスと化学反応を起こし酸化アルミニウムに変化するために、従来の金、銀もしくは銅を利用した偏光子のようにガラス内部にナノロッドを安定に形成する事は難しい。この為、開示された技術では金属ナノロッドを作成するために、電子ビームリソグラフィー技術、X線リソグラフィー技術、或いは光リソグラフィー技術を適用する技術が開示されている。しかし、これらの技術の利用は偏光子の製造コストを上げる事になるので、家庭用もしくはビジネス用の表示装置の部品として適用することは非常に難しい。
上記の提案と同様、金、銀および銅以外の金属のナノロッドを利用して青領域の光に対し有効な偏光子の技術が特許文献12に開示されている。しかしながら、この文献にはそのアイディアを実現する有効な実施例が記述されていない為に発明として不完全であり、工業製品として実用に供する事が出来ない。
特開2004−77850号公報 特開2000−206507号公報 特開2003−322848号公報 特開2003−228058号公報 特開2004−340990号公報 特開2002−287244号公報 特開2000−147253号公報 特開2007−178977 S.LinkおよびM.A.El−Sayed、J.Phys.Chem.B103(1999)8410〜8426ページ
これまで述べたように、光学系特に液晶プロジェクタおよびリア型液晶投射型ディスプレイで使用される偏光子には、その高性能化、小型化、低価格化を実現するために、可視光領域で使用可能な高耐熱性二色性偏光素子が求められている。
本発明の目的は、近赤外域から紫外域に至る光を対象とした二色性の固体偏光素子において、高耐熱性、高透過率、高消光比を併せてもたせることである。また、その二色性固体偏光素子を安価に作製するための製造方法を提供することである。
本発明の開示する二色性固体偏光素子は、その基本原理として従来の銀微粒子、金微粒子もしくは銅微粒子からなる偏光ガラスと同様金属微粒子の表面プラズマ共鳴現象を利用する。先に述べたように、上記の金属微粒子を利用した偏光子で可視光領域の性能が実現出来なかった理由は、可視域に吸収を有する金、銀、銅の光学的な性質にある。従って、この問題を解決し、可視全域用のガラス偏光子を実現するためには下記の4つの要件を満足する金属元素を探すことが必要となる。
本発明者は、上記の指針に従って探索、研究を行い、上記要件を満たす金属としてタリウムを見出し、この金属を利用し耐熱性に優れた可視光用の二色性偏光子を実現した。
(1)青の波長領域もしくは近紫外領域で負の誘電率を持ち表面プラズマ共鳴吸収能が大きいこと。
(2)ガラス中でイオン及び金属ナノ粒子の固有基本吸収が紫外域に存在し、可視域に吸収を持たないこと。(ナノ粒子の固有基本吸収;Tl 340nm、Ag 410〜420nm)
(3)ガラス中の酸素と弱い結合を作り、容易に金属ナノ粒子として析出させることができ、かつ粒径制御が可能であること。
(4)ガラスの延伸により容易に析出金属ナノ粒子の一軸配向伸張が可能であること。
本発明の第1の態様に係る固体偏光素子は、近紫外光から可視光を経て赤外光にわたる光波領域の全域若しくは一部において透明な固体材料と;前記固体材料の中に配向分散された金属ナノロッドとを備える。そして、前記金属ナノロッドはタリウムからなり、前記金属ナノロッドは互いに独立し、その長軸を同一の方向に揃えて配向分散されていることを特徴とする。
本発明の第2の態様に係る固体偏光素子の製造方法は、アルカリ酸化物を含有する板状ガラスをタリウム塩を含む溶融塩に浸漬またはタリウム塩を含むペーストを塗布して(ガラスの転移温度マイナス100℃)より高い温度で熱処理し前記板ガラス中のアルカリイオンをタリウムイオンで置換してガラス中にタリウムイオンを導入するイオン交換工程と;前記板状ガラスを、(ガラスの転移温度マイナス150℃)より高い温度で還元熱処理して金属タリウム微粒子を析出させる微粒子析出工程と;前記板状ガラスを、ガラス屈伏点温度よりも高い温度で一軸延伸し、前記タリウム微粒子をナノロッド形状に変形させ且つ配向させる一軸延伸工程とを含むことを特徴とする。
本発明の第3の態様に係る固体偏光素子の製造方法は、酸化タリウムを含むガラスを溶解するガラス作製工程と;前記ガラスを、(ガラス転移点温度マイナス150℃)より高い温度で還元熱処理してガラス中に金属タリウム微粒子を析出させる微粒子析出工程と;前記ガラスを板状に加工する工程と;前記板状ガラスを、ガラス屈伏点温度よりも高い温度で一軸延伸し、前記タリウム微粒子をナノロッド形状に変形させ且つ配向させる一軸延伸工程とを含むことを特徴とする。
本発明において好ましくは、固体偏光素子の偏光波長領域を360nmから少なくとも1600nmとする。
また、前記金属ナノロッドは、長軸に垂直な断面における最大径φが0.3nmから20nmであり、軸長Lが2nmから200nmとすることが好ましい。
また、前記金属ナノロッドは、軸長L/最大径φで示されるアスペクト比が2以上であることが好ましい。
更に、前記金属ナノロッドは、粒径5nmから200nmの金属タリウム粒子を延伸してなり、軸長L/最大径φで示されるアスペクト比が2以上であることが好ましい。
発明を実施する第一の形態として、板状のガラスを出発原材料とする製造技術を説明する。
第1のステップとしてLi、Na、K等のアルカリイオンを含むガラス板を原材料として準備する。
第2のステップとして、このガラス板を適当な温度のタリウム塩を含む溶融塩に浸漬し、溶融塩中のタリウムイオンとガラス中のアルカリのイオン交換を行う。溶融塩としては硝酸塩、硫酸塩およびこれらの混合塩が適しており、溶融塩の系および組成はイオン交換温度と溶融塩の融点との兼ね合いで決められる。タリウム塩濃度は高い方がよいが、イオン交換の温度、時間にも依るが10wt%程度でもイオン交換は達成可能である。フッ化物や塩化物の塩も使用できるが雰囲気制御が必要であり大気中での処理には不適である。イオン交換温度は高いほど交換速度が速く、短時間で交換層が厚くなるので高い方がよいが、ガラス板の変形防止の観点からガラス屈伏点以下が、そして処理時間の観点からガラス転移点マイナス150℃以上の温度が好ましい。この結果、ガラス表面からタリウムイオンが浸透し、ガラス表面層にタリウムイオンリッチの領域が形成される。
第3のステップとして、この板状ガラスを水素気流中で熱処理してガラス中のタリウムイオンを金属タリウムに還元すると同時にイオン交換層中に金属タリウムの微粒子を析出させる。還元気体としては、水素ガスの他にホーミングガスや一酸化炭素ガスなども使用できる。また、還元熱処理温度については高いほどガスの拡散速度が速く短時間で還元層を厚くできるので還元という観点からは高い方がよいが、上限はガラス板の変形防止上、ガラス屈伏温度以下、そして下限はガスの拡散速度からガラス転移点マイナス100℃以上が好ましい。また、還元温度が高くなると析出金属タリウムの粒径が大きくなり易いので還元熱処理条件は還元層厚と析出金属タリウム粒径の観点から決められる。
第4のステップとして、この金属タリウム微粒子を含有するガラス板を一軸延伸加工する。この工程で、金属微粒子は伸長され非球体の金属ナノロッドが形成される。金属タリウムの融点は304℃でガラス板の延伸温度では液滴であり容易に伸長することができる。(銀の融点:962℃)
第5のステップとして、処理後のガラスの表面の平滑性を向上させるもしくは反射防止膜を形成するなどの表面処理を行う場合もある。溶融塩中に浸漬するイオン交換プロセスは熔融塩の代わりにタリウム塩を含むペーストなど(有機金属)をガラス表面に塗布し、熱処理する工程によって置き換える事も可能である。
発明を実施する第二の形態として、酸化タリウムを利用する二色性固体偏光素子の製造技術を説明する。よく知られているように、酸化タリウムは酸化物ガラス中に溶解する性質を持つ。
第1のステップとして酸化タリウムを含有するガラスを公知のガラス溶解技術で作製する。
第2のステップとして、このガラスを板状のガラスに加工する。
第3ステップ以降の工程は、上記の第一の形態で述べた第3工程以降と同一であるが、第3ステップの水素気流中加熱還元工程においては、ガラス中に均一に溶解しているタリウムイオンがガラス表面から金属タリウムに還元されていくと同時に還元層に金属タリウム微粒子として析出する。
以下、本発明について、実施例を用いて更に具体的に説明する。
本発明を実施する第一の形態であるイオン交換法の実施例として、板状のアルカリ含有酸化物ガラス(或は市販の板ガラス)を出発原材料とする製造方法及びその方法で作製した偏光素子の特性について説明する。
(実施例1)
2mm厚の市販の板ガラス(DESAG社製商品名B270スーパーホワイト)を60×200×2mmサイズに加工する。板ガラスの組成は重量%で、SiO2:71.10、Al2O3:1.47、Fe2O3:0.07、TiO2:0.03、CaO:8.91、MgO:4.04、Na2O:13.10、K2O:0.83、SO3:0.24である。また、板ガラスの諸特性は、屈折率nd:1.5230、アッベ数vd:58.5、転移点:533℃、歪点:511℃、徐冷点:541℃、軟化点:724℃、熱膨張係数:94×10−7/℃(20〜300℃の平均)、密度:2.55g/cm3、ヤング率:71.5kN/mm2、ポアソン比:0.219、剛性率:29.3kN/mm2、ヌープ硬度:542(HK100)である。
次に、このガラス板をステンレス容器内に550℃で溶解されている25Tl2SO4、39K2SO4−36ZnSO4
(wt%)組成の溶融塩中に2時間浸漬してガラス中のNaイオンを溶融塩中のTlイオンで交換処理した。
このイオン交換処理ガラス板を水洗して溶融塩をきれいに洗い落とした後、550℃の還元炉で水素ガスを約1.5リットル/分の割合でフローさせながら2時間還元熱処理した。還元熱処理前後のガラスの透過スペクトルを図2線図(1)及び(2)に示した。
還元熱処理前のイオン交換ガラスではタリウムはイオン状態で存在するため着色を呈しないがこの還元熱処理によって平均粒径が90nmの金属タリウム微粒子が生成してガラスは線図(2)に示すように可視光を吸収して濃い黒褐色に着色した。この着色の原因がガラス表面層中に析出した金属タリウム微粒子によるものである事は透過電子顕微鏡およびX線回折によって確認した。また、還元熱処理によって金属タリウム微粒子が析出して着色したガラスを延伸温度の620℃で5時間、大気中で熱処理しても酸化によるガラスの分光スペクトルの変化は認められなかった。
この着色ガラス板を延伸炉内に垂直にセットして620℃に昇温し、ガラス板の送り速度2.5mm/min、延伸ガラステープの引取り速度100mm/minでガラス板送り速度と延伸ガラステープの引取り速度との物量収支バランスを取りつつ、ガラス板を定速で下方へ送りながら引張り荷重約23kgf(延伸張力300kgf/cm2)で延伸し、幅15mm、肉厚0.5mmのガラステープを得た。延伸荷重は一定になるように主としてガラス加熱温度によって制御した。
こうして作製したガラステープの偏光特性、即ち伸長金属タリウムナノロッドの長軸に垂直な偏光(P偏光)および平行な偏光(S偏光)の透過スペクトルと消光比スペクトルを各々、図2の線図(3)(P偏光透過率)、線図(4)(S偏光透過率)および線図(5)(消光比)に示した。
なお、消光比は、分光光度計を用いて測定した透過スペクトルから各波長におけるP偏光およびS偏光の透過率T⊥%とT⊥%から次式により算出した。
消光比(dB)=10×log10(T⊥%/T‖%)
延伸前の金属タリウム球状粒子が伸長されて幅が狭く、長細いナノロッド形状になるが、これによって図2の線図(3)、(4)に示したように、紫外から赤外領域の広い波長領域においてP偏光に対しては吸収、散乱が弱まって透過率が上昇し、逆にS偏光に対しては吸収、散乱が強まり、透過率は顕著に低くなった。この結果として、このガラステープは線図(5)に示すように可視域は勿論、紫外、赤外を含む広い波長域に亘って偏光性を示した。
このような偏光性は互いに独立したアスペクト比が約1:10の金属タリウムナノロッドがその長軸を同一の方向に揃えて配向分散していることによって生じたものであることを電子顕微鏡で確認した。
(実施例2)
本実施例は実施例1と同様に本発明を実施する第一の形態であるイオン交換法の実施例であるが、溶融塩組成およびイオン交換と還元の条件が異なる。
実施例1と同じガラス板を450℃の25TlNO3−75NaNO3 (wt%)の組成から成る硝酸塩溶融塩に8時間浸漬した後、500℃の還元炉で水素ガスを毎分1.5リッター流しながら1時間還元処理した。
次に、この還元熱処理によって平均粒径が約20nmの金属タリウム粒子が析出して褐色に着色した板ガラスを実施例−1より延伸温度を5℃下げて615℃で、引張り荷重約38kgf(延伸張力500kgf/cm2)で延伸し、幅15mm、肉厚0.5mmのガラステープを得た。
この延伸ガラステープでは伸長タリウム粒子のアスペクト比は約1:15で、図3に示すように実施例1より長波長側の偏光帯域が狭まる一方、紫外から可視短波長域のP偏光透過率および消光比は高くなり、可視短波長の青色光域のP偏光透過率が50%以上で消光比は20dB以上であった。
次に、発明を実施する第二の形態である酸化タリウム含有ガラスを利用する二色性固体偏光素子の製造方法とこの方法で作製した偏光素子の特性について説明する。
(実施例3)
板ガラスの公表組成をベースにTl2Oを導入したSiO2 71.5、Al2O3
1.5、CaO 9.0、MgO 4.1、Na2O 13.2、Tl2O
0.8 (wt%)/100.1の組成からなるガラスを、容量300ccの白金るつぼを用いて1400℃で熔解、攪拌均質化後、約300mm×70mmサイズの板状に成形した。
徐冷後、この板状ガラスから280×60×2.5mmの板を切出し、これを研磨して2mm厚の板ガラスを作製した。
次に、この板ガラスを600℃の還元炉で水素ガスを約1.5リットル/分の割合でフローさせながら5時間還元熱処理した。還元熱処理前のガラスではタリウムはイオン状態で存在するため着色を呈しないがこの還元熱処理によって平均粒径が60nmの金属タリウム微粒子が生成してガラスは実施例1(図2線図(2))よりはやや薄いが同様に可視光を吸収して濃い黒褐色に着色した。
この着色の原因もまたガラス表面層中に析出した金属タリウム微粒子によるものである事を透過電子顕微鏡およびX線回折によって確認した。
この着色ガラス板を延伸炉内に垂直にセットして600℃に昇温してガラス板を送り速度2.5mm/minで下方へ送りながら引張り荷重約27kgf(延伸張力350kgf/cm2)で延伸し、幅15mm、肉厚0.5mmのガラステープを得た。
こうして作製したガラステープの偏光特性、伸長金属タリウムナノロッドの長軸に垂直な偏光(P偏光)の透過スペクトルと消光比スペクトルを図4に示した。このガラステープは紫外から赤外領域の広い波長領域においてP偏光を透過し、可視域は勿論、紫外、赤外を含む広い波長域に亘って偏光性を有することがわかる。
このような偏光性がイオン交換法による実施例1および実施例2と同様にガラス中に互いに独立した伸長金属タリウムナノロッドが、その長軸を同一の方向に揃えて配向分散して生じたものであり、アスペクト比が約1:12であることを電子顕微鏡で確認した。
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲に示された技術的思想の範疇において変更可能なものである。
本発明が適用可能な液晶プロジェクタの構造を示す概略図である。 実施例1のガラスおよびガラス偏光子の分光光学特性を示すグラフである。 実施例2のガラス偏光子の分光光学特性を示すグラフである。 実施例3のガラス偏光子の分光光学特性を示すグラフである。

Claims (5)

  1. 近紫外光から可視光を経て赤外光にわたる光波領域の全域若しくは一部において透明な固体材料と;
    前記固体材料の中に配向分散された金属ナノロッドとを備え、
    前記金属ナノロッドはタリウムからなり、
    前記金属ナノロッドは互いに独立し、その長軸を同一の方向に揃えて配向分散されていることを特徴とする固体偏光素子。
  2. 偏光波長領域が360nmから少なくとも1600nmであることを特徴とする請求項1に記載の固体偏光素子
  3. 前記金属ナノロッドは、粒径5nmから200nmの金属タリウム粒子を延伸してなり、軸長L/最大径φで示されるアスペクト比が2以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体偏光素子
  4. アルカリ酸化物を含有する板状ガラスをタリウム塩を含む溶融塩に浸漬またはタリウム塩を含むペーストを塗布して(ガラスの転移温度マイナス100℃)より高い温度で熱処理し前記板ガラス中のアルカリイオンをタリウムイオンで置換してガラス中にタリウムイオンを導入するイオン交換工程と;
    前記板状ガラスを、(ガラスの転移温度マイナス150℃)より高い温度で還元熱処理して金属タリウム微粒子を析出させる微粒子析出工程と;
    前記板状ガラスを、ガラス屈伏点温度よりも高い温度で一軸延伸し、前記タリウム微粒子をナノロッド形状に変形させ且つ配向させる一軸延伸工程とを含むことを特徴とする請求項1,2又は3に記載の固体偏光素子の製造方法。
  5. 請求項1に記載の固体偏光素子の製造方法において、
    酸化タリウムを含むガラスを溶解するガラス作製工程と;
    前記ガラスを、(ガラス転移点温度マイナス150℃)より高い温度で還元熱処理してガラス中に金属タリウム微粒子を析出させる微粒子析出工程と;
    前記ガラスを板状に加工する工程と;
    前記板状ガラスを、ガラス屈伏点温度よりも高い温度で一軸延伸し、前記タリウム微粒子をナノロッド形状に変形させ且つ配向させる一軸延伸工程とを含むことを特徴とする請求項1,2または3に記載の固体偏光素子の製造方法。
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