JP2009114169A - 防虫鋼板 - Google Patents

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安平 坂本
Susumu Sato
佐藤  進
Kazumi Jiromaru
和三 治郎丸
Kazunobu Yamahata
一延 山畠
芳朗 ▲柳▼田
Yoshiro Yanagida
Isamu Nitta
勇 新田
Makoto Miyamoto
真 宮本
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Abstract

【課題】加工性と溶接性とを損なうことなく、優れた耐食性と優れた昆虫忌避性とを兼備する防虫鋼板を提供する。
【解決手段】鋼板、好ましくは亜鉛系めっき鋼板を基板とし、該鋼板の少なくとも片方の表面に、腐食抑制剤と忌避剤と、あるいはさらに潤滑剤とを含有する樹脂組成物からなり、鋼板表面の単位面積あたりに付着している質量で、0.3〜4g/m2有する樹脂被覆層を被成する。忌避剤は、ピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分の少なくとも1種と、沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルの少なくとも1種との混合物とすることが好ましく、忌避剤を鋼板表面の単位面積あたりに付着している質量で0.002〜0.4g/m2含有することが好ましい。これにより、加工性、溶接性を低下させることなく、耐食性、およびゴキブリ等の昆虫を忌避する昆虫忌避性を顕著に向上させることができる。
【選択図】 なし

Description

本発明は、ゴキブリをはじめとする、人に不快感を抱かせる昆虫(不快害虫)、あるいは衛生上、害を及ぼす昆虫(衛生害虫)等の忌避機能を有する防虫鋼板に関する。
家電製品、自動車部品、建築部材等では、意匠性や、さらには防錆性、耐食性、耐熱性等の向上を目的として、予め表面に塗装を施した塗装鋼板が使用されるようになっている。近年、家電製品等では、機器内で発生する熱に誘引されて、機器内にゴキブリをはじめとする昆虫(害虫)が侵入して、様々な被害を発生させる場合が多い。例えば、機器内に侵入した昆虫が、機器内のプリント回路基板上での絶縁不調や導通不良を発生させる場合がある。このような被害を防ぐために、プリント回路基板に昆虫の忌避剤を塗布等して昆虫の侵入防止を図る対策が提案されている。しかし、このような方法では、忌避剤を充分な量とすることができず、また昆虫が基板に接触することが避けられず、昆虫の忌避という効果を充分に期待できないという問題があった。
このような問題に対して、例えば、特許文献1には、冷間圧延鋼板表面に、樹脂層、害虫忌避材または害虫忌避材を含む層を順次形成した塗装鋼板(プレコート鋼板)が提案されている。このような塗装鋼板を、例えばシャーシに加工し、そのシャーシ上にプリント回路基板を設置すれば、昆虫(害虫)が回路に接触することがなく、昆虫(害虫)が原因で生じる回路の接触、導通不良等の故障の発生はなくなるとしている。
特開平11−300884号公報
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、鋼板表面に多量の樹脂層や害虫忌避成分を含有する層を設ける必要があり、絶縁性が高く溶接性が低下するという問題や、加工時に樹脂層が剥離しやすく、加工性が低下するという問題や、厳しい腐食環境においては耐食性が不足するという問題もあった。
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、成形加工時の樹脂層の剥離もなく、良好な加工性と、導電性が優れた良好な溶接性と、優れた耐食性とを有し、さらにゴキブリ等の害虫を寄せ付けない優れた昆虫忌避性とを兼備する防虫鋼板を提供することを目的とする。
本発明者らは、加工性、溶接性を損なうことなく、耐食性と昆虫忌避性とをともに向上させるための方策について鋭意検討した。その結果、めっき鋼板の表面に、忌避剤と腐食抑制剤、あるいはさらに潤滑剤とを含有する、特定厚さの樹脂組成物からなる樹脂被覆層を被成することにより、加工性と溶接性とを損なうことなく、優れた耐食性と昆虫忌避性とを兼備する防虫鋼板が得られるという知見を得た。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)鋼板の少なくとも片方の表面に、腐食抑制剤と忌避剤とを含有する樹脂組成物からなる樹脂被覆層を、鋼板表面の単位面積あたりに付着している質量で、0.3〜4g/m2有することを特徴とする防虫鋼板。
(2)(1)において、前記樹脂被覆層が、前記忌避剤を、鋼板表面の単位面積あたりに付着している質量で、0.002〜0.4g/m2含有することを特徴とする防虫鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記忌避剤が、ピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分の少なくとも1種と、沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルの少なくとも1種との混合物であることを特徴とする防虫鋼板。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記樹脂被覆層がさらに、潤滑剤を含有することを特徴とする防虫鋼板。
本発明によれば、加工性、溶接性を損なうことなく、優れた耐食性とゴキブリ等の昆虫を寄せ付けない優れた昆虫忌避性を有する防虫鋼板を安定して製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明になる防虫鋼板を、電気機器のプリント基板、配線基板、内箱等に利用すれば、昆虫の侵入による、基板の接点等における絶縁不良等の故障を低減でき、装置の故障というトラブルを大幅に低減できるという効果がある。
本発明の防虫鋼板の基板は、鋼板であればよく、とくにその種類を限定する必要はないが、耐食性の観点からは、表面にめっき処理、化成処理、PVD、CVD、表面熱処理、樹脂コーティング等が施された表面処理鋼板とすることが好ましい。表面処理鋼板としては、なかでも、亜鉛めっき鋼板または亜鉛合金めっき鋼板、例えば溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミ二ウム合金(Zn−5mass%Al)めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミ二ウム合金(Zn−55mass%Al)めっき鋼板、電気亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板などの、亜鉛系めっき鋼板や、アルミめっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、ステンレス鋼板等、の鋼板とすることがより好ましい。
本発明の防虫鋼板では、上記した基板の少なくとも片方の表面に、樹脂組成物からなる樹脂被覆層を有する。なお、両方の表面に設けてもよいことはいうまでもない。本発明では、基板表面に形成される樹脂被覆層は、表面の単位面積当たりに付着している質量で、0.3〜4g/m2とする(平均厚みで0.3〜4μmとする)。付着量が、0.3 g/m2未満では、耐食性、および昆虫の忌避効果、あるいはさらに潤滑性が不十分となる。一方、4g/m2 を超えて付着すると、樹脂被覆層の絶縁抵抗が高くなり、溶接性が低下する。このため、樹脂被覆層の付着量は0.3〜4g/m2に限定した。なお、好ましくは0.5〜4g/m2(平均厚みで0.5〜4μm)である。
本発明の防虫鋼板では、樹脂被覆層を形成するための樹脂組成物は、樹脂に、忌避剤と腐食抑制剤と、あるいはさらに潤滑剤と、を含有する。
使用する樹脂はとくに限定する必要はなく、忌避剤と腐食抑制剤と、あるいはさらに潤滑剤とを、均一に分散または溶解できるものであればよい。このような樹脂としては、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、スチレン樹脂等が例示できる。これら樹脂は単独、あるいは複合して使用してもなんら問題はない。なお、使用する腐食抑制剤によっては、特定の樹脂を使用する必要がある場合がある。
樹脂組成物中の忌避剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、0.01〜20質量部とすることが好ましい。樹脂組成物中の忌避剤の含有量が、0.01質量部未満では、所望の昆虫忌避効果が確保できなくなる。一方、20質量部を超えて多くなると、均一な塗布が困難となり、鋼板表面に均一な樹脂被覆層の形成ができにくくなる。なお、より好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは1〜10質量部である。なお、ここでいう樹脂、忌避剤等の含有量は、乾燥後における含有量(固形分)を意味する。以下、腐食抑制剤、潤滑剤においても同様とする。
本発明で使用する忌避剤は、ピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分の少なくとも1種と、沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルの少なくとも1種との混合物とすることが好ましい。昆虫忌避成分単独でも、忌避効果が生じるが、多価アルコールの脂肪酸エステルと複合して含有することにより所望の忌避効果の向上が顕著となる。昆虫忌避成分と多価アルコールの脂肪酸エステルとを複合含有することにより、昆虫忌避成分が樹脂被覆層表面にブリードしやすくなり、少量の昆虫忌避成分と薄い潤滑樹脂層でも、昆虫忌避効果が向上するものと考えられる。
昆虫忌避成分の主成分である「ピレスロイド系化合物」としては、例えば、α−シアノ−3−フェノキシベンジル(+)シス/トランス−2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロぺニル)シクロプロンカルボキシラート、α−シアノ−3−フェノキシベンジル(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−(1,2,2,2−テトラブロモエチル)シクロプロパンカルボキシラート、(S)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−〔2−(2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエトキシカルボニル)ビニル〕シクロプロパンカルボキシラート、(RS)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1RS,3RS)−3−(2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートが挙げられる。昆虫忌避成分として、これら化合物を単独、あるいは適宜組み合わせて使用してもよい。
また、「沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステル」としては、トリグリセリド、多価アルコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等が好ましい。なお、これらは、単独または2種以上を複合して混合してもよい。
なお、トリグリセリドの好ましい具体例としては、ヤシ油、ククイナツ油、サフラワー油、アカデミアナッツ油、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリド、トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリド等が例示できる。
また、多価アルコール脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、トリイソステアリン酸ジグリセリル、ジカプリン酸プロピレングリコール、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール、トリ2−エチルへキサン酸トリメチロールプロパン等が例示できる。
また、グリセリン脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、モノワンデシレングリセリル、モノイソステアリン酸グリセリル、ジオレイン酸グリセリル等が例示できる。
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、モノオレイン酸ジグリセリル、モノイソステアリン酸ジグリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、モノラウリン酸ヘキサグリセリル、モノミリスチン酸ヘキサグリセリル、ポリリシノレイン酸ヘキサグリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、ジイソステアリン酸デカグリセリル、ポリリシノレイン酸デカグリセリル等が例示できる。
また、ソルビタン脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、モノラウリン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン等が例示できる。
また、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、モノステアリン酸POE(6)ソルビタンが例示できる。また、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、モノラウリン酸POE(6)ソルビット、テトラオレイン酸POE(30)ソルビット等が例示できる。また、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、モノラウリン酸ポリエチレングリコール(10EO)、ジイソステアリン酸ポリエチレングリコール等が例示できる。
なお、昆虫忌避成分と多価アルコールの脂肪酸エステルとを混合する場合の混合比は、質量比で1:1〜1:10とすることが好ましく、特に1:1〜1:5とすることがより好ましい。
また、本発明で使用する樹脂組成物には、さらに腐食抑制剤を含有する。使用する腐食抑制剤の種類はとくに限定する必要はないが、樹脂組成物に均一に分散でき、しかも樹脂や忌避剤を劣化させないものとすることが肝要となる。腐食抑制剤の含有量は、固形分として樹脂100質量部に対し、0.1〜7質量部とすることが好ましい。0.1質量部未満では、所望の防錆効果が期待できない。一方、7質量部を超えて含有すると、防錆効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となる。なお、より好ましくは0.5〜6質量部である。
このような腐食抑制剤としては、チオカルボニル化合物、バナジウム酸化合物、グアニジン化合物、シリカ粒子、リン酸化合物、バルブメタル化合物、モリブデン酸素酸塩等が好ましく、本発明で使用する樹脂組成物では、これらを単独または複合して含有できる。
ここで、チオカルボニル化合物は、一般的にはチオカルボニル基を有する化合物をいうが、更に、水溶液中や酸又はアルカリの存在する条件においてチオカルボニル基含有化合物を放出することのできる化合物をも含むことができ、樹脂被覆層に含有することにより、防錆効果を顕著に向上させる作用を有する。チオカルボニル化合物の樹脂被覆層の含有量は、樹脂100質量部に対し、0.1〜6質量部とすることが好ましい。
なお、チオカルボニル化合物を含有させる場合には、樹脂を、水溶性または水分散性のアクリルオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、およびこれらの混合、あるいは共重合したものとすることが好ましい。また、1価金属と2価金属で中和されたアイオノマー樹脂、アンモニアあるいはアミンで中和されたアイオノマー樹脂の混合としてもよい。
チオカルボニル化合物としては、チオ尿素及びその誘導体、チオアミド化合物、チオアルデヒド化合物、カルボチオ酸類、チオ炭酸類等が例示できる。
チオ尿素の誘導体としては、例えば、メチルチオ尿素、ジメチルチオ尿素、エチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素、ジフェニルチオ尿素、チオペンタール、チオカルバジド、チオカルバゾン類、チオシアヌル酸類、チオヒダントイン、2−チオウラミル、3−チオウラゾールなどが挙げられる。
チオアミド化合物としては、例えば、チオホルムアミド、チオアセトアミド、チオプロピオンアミド、チオベンズアミド、チオカルボスチリル、チオサッカリンなどが挙げられる。
チオアルデヒド化合物としては、チオホルムアルデヒド、チオアセトアルデヒドなどが挙げられる。
カルボチオ酸類としては、チオ酢酸、チオ安息香酸、ジチオ酢酸などが挙げられる。
チオ炭酸類としては、チオクマゾン、チオクモチアゾン、チオニンブル−J、チオビロン、チオピリン、チオベンゾフェノンなどが挙げられる。
また、腐食抑制剤としてのバナジウム酸化合物は、鋼板表面に不動態被膜を形成して耐食性(防錆性)を向上させるとともに、樹脂被覆層に存在するバナジウム酸イオンが、腐食部位に作用して腐食反応を抑制する効果がある。このような効果は、固形分で樹脂100質量部に対し、0.1質量部以上の含有で顕著となるが、6質量部を超えて含有しても、効果が飽和し経済的に不利となる。
なお、バナジウム酸化合物としては、例えば、バナジウム酸アンモニウム、バナジウム酸ナトリウム、バナジウム酸カリウムなどが挙げられ、これらを、単独または複合して含有することができる。
また、腐食抑制剤としてのリン酸化合物は、樹脂被膜のミクロポアを少なくして、塩素イオン等の有害イオンを効率よく遮断し、防錆性を向上させる作用を有する。このような効果は、リン酸イオンとして固形分で樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上の含有で顕著となるが、6質量部を超える含有は、かえって防錆性を低下させる。
なお、リン酸化合物としては、オルトリン酸、メタリン酸等のリン酸類や、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸亜鉛のリン酸塩類などが挙げられ、これらを、単独または複合して含有することができる。とくに、リン酸亜鉛及び/又はリン酸アンモニウムとすることが好ましい。なお、リン酸亜鉛及び/又はリン酸アンモニウムとさらにカルシウム化合物を複合添加することにより、さらなる防錆効果の向上が得られる。また、リン酸塩は、水に対し溶解度が小さく飽和水溶液が不安定となるため水溶液の安定のために、オキシカルボン酸化合物とともに水溶液に添加することが好ましい。オキシカルボン酸化合物としては、例えば、酒石酸、マロン酸、クエン酸、乳酸、グルコール酸等が挙げられる。
また、腐食抑制剤としてのシリカ粒子は、樹脂被覆層中に含有することにより、防錆作用を著しく促進させるとともに、被膜の乾燥性、耐擦傷性、密着性等をも改善する。このような効果は、固形分で樹脂100質量部に対し、0.1質量部以上の含有で顕著となるが、6質量部を超える含有は、防錆性向上の効果が飽和し経済的に不利となるうえ、被膜が硬くなりすぎ、被膜割れ、剥離などが発生しかえって防錆性(耐食性)を低下させる。
なお、シリカ粒子としては、平均粒径が0.01〜0.5μm程度のコロイダルシリカ、ヒュームドシリカ等、市販のものが挙げられ、これらを、単独または複合して含有することができる。
腐食抑制剤としてのグアニジン化合物は、鋼板表面に吸着しやすく、しかも酸化能力も優れているため、鋼板表面を不動態化させることができ、耐食性向上に有効に作用する。このような効果は、固形分で樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上の含有で顕著となるが、6質量部を超えて含有しても、防錆性向上の効果が飽和し経済的に不利となるうえ、樹脂組成物がゲル化し塗布不能となる。
なお、グアジニン化合物としては、グアニジン、アミノグアニジン、グアニルチオ尿素、1,3−ジ−o−トリルグアニジン、1−o−トリルビグアミド、1,3−ジフェニルグアニジンなどが挙げられる。これらを、単独または複合して含有することができる。
腐食抑制剤としてのバルブメタル化合物は、被膜中に含有され、下地めっき層が露出した被膜の欠陥部に溶出しめっき層を酸化し、めっき層成分とバルブメタル化合物を再析出させ、欠陥部を自己修復する作用を有し、耐食性を向上させる。このような効果は、固形分で樹脂100質量部に対し、1質量部以上の含有で認められる。一方、6質量部を超えて含有しても、防錆性向上の効果が飽和し経済的に不利となる。
なお、バルブメタル化合物としては、バルブメタルの酸化物、水酸化物、リン酸塩、酸素酸塩等が挙げられるが、6価のMo,W、5価のV等の酸化物、酸素酸塩が好ましい。例えば、モリブデン酸素酸塩を、アミン類、4A族金属の酸素酸塩とともに、樹脂被覆層に含有すると、耐黒変性が向上し、長期間美麗な表面状態を維持でき、耐食性が向上する。なお、モリブデン酸素酸塩としては、六価モリブデン酸素酸塩、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸アルカリ金属塩等がある。また、アミン類としては、脂肪族アミン、脂環族アミン、アルカノールアミン等が挙げられる。4A族金属としては、Ti、Zr、Hf等が挙げられる。
なお、樹脂被覆層の密着性を向上させる目的で、樹脂組成物には上記した腐食抑制剤に加えて、シランカップリング剤を添加してもよい。
また、本発明で使用する樹脂組成物には、さらに潤滑剤を含有してもよい。使用する潤滑剤の種類はとくに限定する必要はないが、樹脂組成物に均一に分散でき、しかも樹脂や忌避剤を劣化させないものとすることが肝要となる。このような潤滑剤としては、ポリエチレン系ワックス、フッ素系パウダー、アクリル系ビーズ、二硫化モリブデン等の固形潤滑剤等が例示できる。樹脂組成物中における潤滑剤の配合量は、樹脂100質量部に対し、1〜10質量部とすることが好ましい。1質量部未満では充分な潤滑性を付与することができない。一方、10質量部を超えると、樹脂被覆層と鋼板表面との密着性が低下する。なお、樹脂被覆層中の潤滑剤の含有量は樹脂被覆層全量に対する質量%で1〜5%とすることが好ましい。
本発明の防虫鋼板の樹脂被覆層形成に用いる樹脂組成物は、樹脂に、前記した忌避剤、前記した腐食抑制剤、あるいはさらに前記した潤滑剤を含有するが、さらにその他の成分として、顔料、分散剤、レベリング剤、ワックス、骨材等を含有してもよい。これらその他の成分は、本発明の効果を阻害しない範囲であればよく、樹脂100質量部に対し、50質量部以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
このような配合の樹脂組成物を用いて形成された樹脂被覆層においては、忌避剤(昆虫忌避成分と多価アルコールの脂肪酸エステルとの混合)の含有量は、該表面の単位面積当たりに付着している質量で、0.002〜0.4g/m2とすることが好ましい。なお、樹脂被覆層中の忌避剤の含有量は、樹脂被覆層全量に対する質量%で1〜10%とすることが好ましい。樹脂被覆層中の忌避剤の含有量が、0.002g/m2未満では、充分な昆虫忌避効果が得られない。一方、0.4g/m2を超えて多量に含有すると、樹脂被覆層の潤滑性、密着性が低下する。なお、より好ましくは0.01〜0.4 g/m2 、さらに好ましくは0.01〜0.2 g/m2 、なお好ましくは0.2〜0.3 g/m2である。
つぎに、本発明の防虫鋼板の好ましい製造方法について説明する。
まず基板を用意する。本発明では、基板に使用する鋼板はとくに限定する必要はないが、表面処理鋼板である、亜鉛系めっき鋼板や、アルミめっき鋼板、ニッケルめっき鋼板とすることが好ましくまた、ステンレス鋼板等の鋼板としてもよい。
そして、上記したように、樹脂、忌避剤、腐食抑制剤、あるいはさらに潤滑剤、および必要によりその他の成分を配合し、それらを、水または有機溶剤に溶解または分散させエマルジョンとした塗布用溶液(樹脂組成物を含有する溶液)を用意する。
用意した塗布用溶液を、基板表面に、所望の付着量となるように塗布する。塗布方法は、通常のスプレー、バーコータ、ロールコータ、浸漬等の方法がいずれも適用できる。ついで、塗布された鋼板は、加熱炉に装入され、表面に樹脂被覆層を形成する。使用する加熱炉は、通常の高周波誘導炉、熱風炉等がいずれも適用できる。なお、加熱炉の雰囲気温度は300℃以下とすることが好ましい。300℃を超える温度では、忌避剤が蒸散し、潤滑樹脂層中に残存しにくくなる。加熱炉の雰囲気温度は、より好ましくは250℃以下である。なおこの際、基板(鋼板)の最高加熱温度は概ね80℃以上となるようにすることが好ましい。加熱炉の雰囲気温度を300℃以上としてもよいが、その場合、加熱時間を1〜5秒程度と短時間とする必要がある。加熱時間を短時間とすることにより、製造効率が向上するとともに、基板(鋼板)の最高到達温度が80〜100℃程度となるため、忌避剤もほとんど蒸散しない。
基板として、溶融亜鉛めっき鋼板AA(鋼帯:0.35mm厚、1200mm幅;めっき付着量:20g/ m2)を用意した。基板から試験板を採取し、該試験板に、表1に示す配合組成の塗布用溶液を、バーコータを用いて塗布し、ついで熱風乾燥機を用いて、雰囲気温度:240℃で4秒間乾燥し、基板表面に樹脂被覆層を形成した。鋼板の最高到達温度は100℃であった。
塗布用溶液の作製には、樹脂として、
記号(A);ウレタン系樹脂水系エマルジョン(商品名:ス-パーフレックス110、第一製薬株式会社製、固形分濃度:30質量%)、または
記号(B);アクリル系樹脂エマルジョン(商品名:ポリゾールAP-6720、昭和高分子株式会社製、固形分濃度:44質量%)
を用いた。
また、腐食抑制剤としては、
記号(イ);チオカルボニル化合物(チオ尿素)、
記号(ロ);リン酸化合物(ロ1:リン酸アンモニウム、ロ2:リン酸亜鉛)、
記号(ハ);シリカ粒子(コロイダルシリカ:スノーテックスN 日産化学工業製)、
記号(ニ);バナジウム酸化合物(バナジウム酸アンモニウム)、
記号(ホ);グアニジン化合物(1−o−トリルビグアミド)、
記号(ヘ);バルブメタル化合物(モリブデン酸アンモニウム)
を用いた。
また、昆虫忌避成分としては、
記号(a);α−シアノ−3−フェノキシベンジル(+)シス/トランス−2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロぺニル)シクロプロンカルボキシラート、または
記号(b);(S)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−〔2−(2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエトキシカルボニル)ビニル〕シクロプロパンカルボキシラート
を用いた。また、多価アルコールの脂肪酸エステルとしては、
記号(o);トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリド、または
記号(p)ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、または
記号(q)テトライソステアリン酸ペンタエリスリット
を用いた。
また、潤滑剤は、ポリエチレンワックス(商品名:ケミパールW-100、三井化学株式会社製、固形分濃度:40質量%)を用いた。
なお、塗布用溶液中の各々の添加量は、樹脂エマルジョンへの添加量を調整して、溶液全量に対する質量%で、腐食抑制剤濃度が0.5〜5質量%、昆虫忌避成分の濃度が0.01〜5質量%、多価アルコールの脂肪酸エステルの濃度が0.2〜4質量%、潤滑剤濃度が1質量%、となるようにそれぞれ調整した。なお、腐食抑制剤、昆虫忌避成分、多価アルコールの脂肪酸エステルのうちの少なくとも1種を添加しない場合も実施し、比較例とした。なお、樹脂被覆層を形成しない試験板も用意した。
基板表面に上記した樹脂被覆層を形成した各試験板から、試験片を採取して、樹脂被覆層の付着量、忌避剤の付着量、摂食忌避試験、溶接性試験、加工性試験、腐食試験を実施した。各試験の試験方法はつぎのとおりである。
(1)樹脂被覆層の付着量測定
試験板から、100×100mmの大きさの試験片を切り出し、その試験片の質量を秤量したのち、アセトンで樹脂被覆層を剥離除去して、再度試験片を秤量した。得られた樹脂被覆層の剥離前後の質量差を樹脂被覆層の付着量とした。
(2)忌避剤の付着量測定
試験板から、100×100mmの大きさの試験片を切り出し、その試験片をアセトンに浸漬し、忌避剤を抽出し、ガスクロマトグラフィーで、昆虫忌避成分、多価アルコールの脂肪酸エステルを定量し、その合計を忌避剤の付着量とした。
(3)摂食忌避試験
試験板から、100×100mmの大きさの試験片を2枚切り出し、摂食忌避試験1、摂食忌避試験2を実施した。なお、樹脂被覆層を形成しない試験板からも同様の試験片を2枚採取した。
(3−1)摂食忌避試験1
直径:600mm、円周上の壁の高さが100mmである円形のバット10を、床上に水平に設置し、図1に示すように、その略中央にシェルター4と水5を置いた。そして、シェルター4の周りに、樹脂被覆層を形成した試験片1および樹脂被覆層を形成しない試験片(めっき鋼板(基板)のまま)2をそれぞれ2枚ずつ、シェルター4を中心として対角となるように、配置した。さらに各試験片のうえにそれぞれ餌3を5g置いた。なお、シェルター4は、上面を覆った箱状で、大きさ:100×100mm×高さ10mmの厚紙製で、4面に30×40mmの入口41を設けたものである。
このように配置されたバット10内に、チャバネゴキブリの雌と雄を、それぞれ50匹を放ち、室温で48時間放置した。放置後、餌の重量を測定し、下記(1)式により摂食忌避率を算出した。
摂食忌避率(%)={(試験片2上の餌の減少量−試験片1上の餌の減少量)/試験片2上の餌の減少量}×100 ‥‥(1)
(3−2)摂食忌避試験2
樹脂被覆層を形成した試験片1と樹脂被覆層を形成しない試験片2とを、温度:50℃、相対湿度75%の雰囲気中に4ヶ月間放置したのち、摂食忌避試験1と同様の試験を実施し、同様に、摂食忌避率を算出した。
(4)溶接性試験
試験板から、100×200mmの大きさの試験片を2枚切り出した。そして、これら2枚の試験片の表面を合わせて、スポット溶接機で連続スポット溶接を実施し、連続打点数を求めた。なお、連続打点数は、1対の電極で正常なナゲット(溶接ビード)が形成できなくなり、鋼板と電極とが溶着するまでの溶接回数をいうものとする。連続スポット溶接の条件は次のとおりとした。
電極:Cr−Cu電極(CF型:6mmφ)、
溶接電流:9500A、
加圧力:250kg/cm2
溶接時間:8サイクル(50Hz)
(5)加工性試験
試験板から、50×200mmの大きさの試験片を切り出した。そして、その試験片の表面にカッターナイフで1mm角の碁盤目を100個導入し、ついで碁盤目部をエリクセン試験機で6mm押し出す、押出加工を加えた。そして該押出加工部に、セロハンテープを貼りそして引き離して、被膜(樹脂被覆層)の剥離状況を観察し、被膜の剥離なしを◎、1〜5個の碁盤目で被膜が剥離を○、6〜10個の碁盤目で被膜が剥離を△、11個以上の碁盤目で被膜が剥離を×、とする基準で加工性を評価した。
(6)腐食試験
試験板から、60×80mmの大きさの試験片を切り出した。そして、その試験片の裏面と端面をシールして、JIS Z 2371の規定に準拠して、雰囲気温度:35℃で、5%NaCl水溶液を吹き付ける塩水噴霧試験を実施し、168時間後の錆の発生率で耐食性を評価した。錆なしを◎、錆発生面積が10%未満を○、錆発生面積が10%以上30%未満を△、錆発生面積が30%以上を×とした。
得られた結果を表2に示す。
Figure 2009114169
Figure 2009114169
本発明例は、溶接性、加工性を損なうことなく、優れた耐食性および優れた昆虫忌避効果を保持していることがわかる。
摂食忌避試験用器具の配置の概略を示す平面概略図である。 摂食忌避試験用器具のシェルターの概略図である。
符号の説明
1 表面に樹脂被覆層を形成した試験片
2 表面に樹脂被覆層を形成しない試験片
3 餌
4 シェルター
41 入口
5 水
10 バット

Claims (4)

  1. 鋼板の少なくとも片方の表面に、腐食抑制剤と忌避剤とを含有する樹脂組成物からなる樹脂被覆層を、鋼板表面の単位面積あたりに付着している質量で、0.3〜4g/m2有することを特徴とする防虫鋼板。
  2. 前記樹脂被覆層が、前記忌避剤を、鋼板表面の単位面積あたりに付着している質量で、0.002〜0.4g/m2含有することを特徴とする請求項1に記載の防虫鋼板。
  3. 前記忌避剤が、ピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分の少なくとも1種と、沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルの少なくとも1種との混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の防虫鋼板。
  4. 前記樹脂被覆層がさらに、潤滑剤を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の防虫鋼板。
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