図1は、本発明の一実施例に係る車両用制動装置を表す概略構成図、図2は、本実施例の車両用制動装置におけるペダルストロークに対する目標出力油圧及び目標反力を表すグラフ、図3は、本実施例の車両用制動装置における制動力制御を表すフローチャート、図4は、本実施例の車両用制動装置におけるストローク制御を表すフローチャートである。
本実施例の車両用制動装置において、図1に示すように、シリンダ11は、基端部が開口して先端部が閉塞した円筒形状をなし、内部に入力ピストン12と加圧ピストン13が同軸上に配置されて軸方向に沿って移動自在に支持されている。シリンダ11の基端部側に配置された入力ピストン12は、基端部に操作部としてのブレーキペダル14の操作ロッド15が連結されており、乗員によるブレーキペダル14の操作により操作ロッド15を介して移動可能となっている。また、入力ピストン12は、先端部外周面がシリンダ11の内周面に圧入または螺合して固定された支持部材16の小径部16aの内面により移動自在に支持されると共に、円盤形状をなすフランジ部17が支持部材16の大径部16bの内面に移動自在に支持されている。そして、入力ピストン12は、フランジ部17が支持部材16の小径部16aの端面に当接すると共に、フランジ部17がシリンダ11の内周面に圧入または螺合して固定された支持部材18の端面に当接することで、その移動ストロークが規制されている。また、入力ピストン12は、支持部材18と操作ロッド15のフランジ部15aとの間に張設された付勢スプリング19によりフランジ部17が支持部材18に当接する位置に付勢支持されている。
シリンダ11の先端部側に配置された加圧ピストン13は断面がコ字形状をなし、外周面がシリンダ11の内周面に移動自在に支持されている。そして、加圧ピストン13は、前後の端面がシリンダ11と支持部材16に当接することでその移動ストロークが規制されると共に、シリンダ11との間に張設された付勢スプリング20により加圧ピストン13が支持部材16に当接する位置に付勢支持されている。従って、入力ピストン12と加圧ピストン13とは、所定間隔(ストローク)S0をもって離間した状態で保持されており、乗員がブレーキペダル14を操作し、入力ピストン12が所定ストロークS0だけ前進すると、加圧ピストン13に当接してこれを押圧することができる。
このようにシリンダ11内に入力ピストン12と加圧ピストン13が同軸上に移動自在に配置されることで、入力ピストン12における移動方向一方、つまり、入力ピストン12と加圧ピストン13との間に第1圧力室R1が形成されると共に、入力ピストン12における移動方向他方、つまり、入力ピストン12のフランジ部17と支持部材18との間に第2圧力室R2が形成され、また、シリンダ11と加圧ピストン13との間に第3圧力室R3が形成されている。また、支持部材16と入力ピストン12のフランジ部17との間に反力室R4が形成されている。そして、第1圧力室R1と第2圧力室R2とは、入力ピストン12内に形成された操作力吸収手段としてのL字形状をなす連通路21により連通されている。
また、加圧ピストン13内には、調圧弁22が収容されている。即ち、加圧ピストン13には、中空形状をなすハウジング23が嵌合して固定されており、このハウジング23内の中央部にはリング形状をなすフランジ24が形成されている。そして、ハウジング23内の一方側(図1にて左側)にポペット弁25が軸方向に沿って移動自在に支持されており、付勢部材としての圧縮スプリング26により先端部がフランジ24に当接した位置に付勢支持されている。また、加圧ピストン13には、第1圧力室R1とハウジング23の第5圧力室R5とを貫通する可動子としての荷重伝達子27が軸方向に沿って移動自在に支持されており、圧縮スプリング28によりポペット弁25と離間する方向に付勢され、先端側のフランジ部29が加圧ピストン13に当接した位置に支持されている。更に、加圧ピストン13に、第1圧力室R1と第5圧力室R5とを連通する連通孔30が形成されている。そして、荷重伝達子27は、先端部が第1圧力室R1側に突出しており、この荷重伝達子27の先端部に対向して、入力ピストン12の先端部、つまり、連通路21の開口端が位置しており、この連通路21がオリフィス(縮径部)として機能する。
従って、乗員がブレーキペダル14を操作し、入力ピストン12が前進すると、座部31が荷重伝達子27の先端部に密着することで、連通路21を閉止することができる。そして、入力ピストン12が更に前進すると、入力ピストン12が荷重伝達子27を押圧して移動し、この荷重伝達子27を介してポペット弁25を押圧し、移動することができる。
油圧ポンプ32はモータ33が駆動することで油圧を供給可能であり、配管34を介してリザーバタンク35に連結されると共に、配管36を介してアキュムレータ37に連結されている。アキュムレータ37は第1油圧供給配管38によりシリンダ11に形成された第1供給ポート39を介して第2圧力室R2に連結されている。そして、この第1油圧供給配管38に第1リニア弁40が配置されると共に、第1油圧供給配管38からリザーバタンク35に連結される第1油圧排出配管41に第2リニア弁42が配置されている。この第1リニア弁40と第2リニア弁42は、流量調整式の電磁弁であり、第1リニア弁40は非通電時に閉止状態(ノーマルクローズ)にあり、第2リニア弁42は非通電時に開放状態(ノーマルオープン)にある。
また、アキュムレータ37は第2油圧供給配管43によりシリンダ11に形成された第2供給ポート44を介して加圧ピストン13内の調圧弁22に連結されている。即ち、シリンダ11に対してリング形状をなす所定の第1隙間45を介して加圧ピストン13が嵌合し、加圧ピストン13に対してリング形状をなす所定の第2隙間46を介してハウジング23が嵌合しており、第2供給ポート44は第1隙間45に連通し、第1、第2隙間45,46は加圧ピストン13に形成された第1連通ポート47により連通し、第2隙間46は第2連通ポート48にハウジング23内のポペット弁25側の空間と連通している。そして、第5圧力室R5と連通孔30により調圧弁22と第1圧力室とを接続する第3油圧供給ラインが構成されている。
更に、アキュムレータ37に比べて低容量のアキュムレータ49は反力油圧供給配管50により反力供給ポート51を介して反力室R4に連結されており、この反力油圧供給配管50からリザーバタンク35に連結される反力油圧排出配管52に切換弁53が配置されている。
一方、シリンダ11に第1排出ポート54が形成されると共に、その両側にワンウェイシール55が装着され、加圧ピストン13に第2排出ポート56が形成されており、第3圧力室R3は第1、第2排出ポート54,56を介して第2油圧排出配管57によりリザーバタンク35に連結されている。
前輪FR,FL及び後輪RR,RLには、それぞれブレーキ装置(図示略)を作動させるホイールシリンダ58FR,58FL,58RR,58RLが設けられており、調圧手段としてのABS(Antilock Brake System)59により作動可能となっている。そして、第1油圧供給配管38における第1リニア弁40より下流側に第1油圧吐出配管61が連結され、この第1油圧吐出配管61はABS59に連結され、後輪RR,RLのホイールシリンダ58RR,58RLに油圧を供給可能となっている。また、第3圧力室R3に形成された吐出ポート62には第2油圧吐出配管63が連結され、この第2油圧吐出配管63はABS59に連結され、前輪FR,FLのホイールシリンダ58FR,58FLに油圧を供給可能となっている。
このABS59において、第1油圧吐出配管61は、2つの分岐配管64,65に分岐され、第1分岐配管64は後輪RRのホイールシリンダ58RRに接続され、第1増圧弁66が配置される一方、第2分岐配管65は後輪RLのホイールシリンダ58RLに接続され、第2増圧弁67が配置されている。そして、第1、第2分岐配管64,65から分岐して第1油圧排出配管41に連結される第1、第2排出配管68,69には、第1、第2減圧弁70,71が配置されている。また、第2油圧吐出配管63は、2つの分岐配管72,73に分岐され、第3分岐配管72は前輪FRのホイールシリンダ58FRに接続され、第3増圧弁74が配置される一方、第4分岐配管73は前輪FLのホイールシリンダ58FLに接続され、第4増圧弁75が配置されている。そして、第3、第4分岐配管72,73から分岐して第1油圧排出配管41に連結される第3、第4排出配管76,77には、第3、第4減圧弁78,79が配置されている。更に、第1油圧供給配管38から第2油圧吐出配管63に連結される第3油圧供給配管80が設けられ、この第3油圧供給配管80に流量調整弁としての第3リニア弁81が配置されており、この第3リニア弁81は流量調整式の電磁弁であり、非通電時に閉止状態(ノーマルクローズ)にある。
なお、シリンダ11と入力ピストン12と加圧ピストン13と調圧弁22等の要部には、Oリング82が装着されて油圧の漏洩を防止している。
このように構成された本実施例の車両用制動装置にて、電子制御ユニット(ECU)91は、ブレーキペダル14から入力ピストン12に入力される操作量(ペダルストローク)に応じた制御油圧を設定(制御油圧設定手段)し、この設定された制御油圧を入力ピストン12及び加圧ピストン13に作用させることで制動油圧を発生(油圧供給手段)させ、ABS59によりホイールシリンダ58FR,58FL,58RR,58RLを作動して前輪FR,FL及び後輪RR,RLに制動力を作用させるようにしている。また、ABS59は、各増圧弁66,67,74,75及び減圧弁70,71,78,79を開閉制御することで、ホイールシリンダ58FR,58FL,58RR,58RLに作用する制動油圧を車輪ごとに調圧している。
この場合、本実施例では、第2リニア弁42により設定された制御油圧を入力ピストン12の第1圧力室R1及び第2圧力室R2に供給することで、入力ピストン12及び加圧ピストン13に作用させ、第3圧力室R3からホイールシリンダ58FR,58FLに対する制動油圧を発生させるようにしている。また、この第2リニア弁42により設定された制御油圧をホイールシリンダ58RR,58RLに対する制動油圧として作用させるようにしている。
そして、本実施例では、ブレーキペダル14から入力ピストン12に入力された操作力を吸収し、入力ピストン12の押圧力を加圧ピストン13に伝達不能とすると共に、この押圧力を操作反力としてブレーキペダル14に作用させないようにしている。この場合、前述したように、操作力吸収手段を、第1圧力室R1と第2圧力室R2とを連通する連通路21と、入力ピストン12と加圧ピストン13との所定間隔S0により構成している。各種電磁弁の異常発生時には、ブレーキペダル14からの操作力により、入力ピストン12が加圧ピストン13を直接押圧すると共に調圧弁22を作動させ、適正な制動油圧を発生させるようにしている。
即ち、ブレーキペダル14には、このブレーキペダル14のペダルストロークSpを検出するストロークセンサ(操作ストロークセンサ)92と、ブレーキペダル14のペダル踏力Fpを検出する踏力センサ(操作力センサ)93とが設けられており、検出したペダルストロークSpとペダル踏力FpをECU91に出力している。また、第1油圧吐出配管61及び第2油圧吐出配管63には、制動油圧を検出する第1圧力センサ94及び第2圧力センサ95が設けられている。第1圧力センサ94は、第1油圧吐出配管61を通して後輪RR,RLのホイールシリンダ58RR,58RLへ供給される制動油圧Prを検出し、検出結果をECU91に出力している。一方、第2圧力センサ95は、第3圧力室R3から第2油圧吐出配管63を通して前輪FR,FLのホイールシリンダ58FR,58FLへ供給される制動油圧Pfを検出し、検出結果をECU91に出力している。
更に、アキュムレータ37からの第1油圧供給配管38に第3圧力センサ96が設けられており、この第3圧力センサ96は、アキュムレータ37に蓄圧されたアキュムレータ圧Paccを検出し、検出結果をECU91に出力している。また、ホイールシリンダ58FR,58FL,58RR,58RLに第4圧力センサ97a,97b,97c,97dが設けられており、この第4圧力センサ97a,97b,97c,97dは、各ホイールシリンダ58FR,58FL,58RR,58RLのホイールシリンダ圧Pwa,Pwb,Pwc,Pwdを検出し、検出結果をECU91に出力している。更に、前輪FR,FL及び後輪RR,RLには、それぞれ車輪速センサ98が設けられており、検出した各車輪速度をECU91に出力している。
従って、ECU91は、図2に示すように、ストロークセンサ92が検出したペダルストロークSpに基づいて目標出力油圧Prtを設定し、第1、第2リニア弁40,42の開度を調整する一方、第1圧力センサ94が検出した制動油圧Prをフィードバックし、目標出力油圧Prtと制動油圧Prとが一致するように制御している。この場合、ECU91は、ペダルストロークSpに対する目標出力油圧Prtのマップを有しており、このマップに基づいて各リニア弁40,42を制御する。つまり、制動油圧Prは、ペダルストロークSpと予め設定された両者の関数マップに基づいて設定される。なお、制動油圧Pf≒制動油圧Prであり、Pr=fSp(fはストローク−油圧の関数)となる。また、初期ペダルストロークSp0は、後述する所定のストロークS0であってもよく、異なる値に設定してもよい。
また、本実施例では、マスタシリンダに対して油圧を供給するための油圧供給源と、ABS59に対して油圧を供給するための油圧供給源とを共用化している。即ち、上述したように、アキュムレータ37からの第1油圧供給配管38がシリンダ11の第1供給ポート39(第2圧力室R2)に連結されると共に、第1油圧供給配管38が第3リニア弁81を有する第3油圧供給配管80を介してABS59の第2油圧吐出配管63に連結されている。そして、ABS59にて、制動油圧Pfを調圧(減圧)したときに、第2油圧吐出配管63から減圧弁78,79を通してリザーバタンク35に排出された排出油量に応じて、第3リニア弁81の開度及び開時間を設定することで、第1油圧供給配管38から第3油圧供給配管80を通して第2油圧吐出配管63に所定の油量を戻し、制動油圧Pfの不足を防止している。
ここで、本実施例の車両用制動装置におけるECU91による制動力制御について、図3のフローチャートに基づいて説明する。ECU91による制動力制御において、図3に示すように、まず、ステップS1では、ECU91が、第3圧力センサ96が検出したアキュムレータ圧Paccを取得する。そして、ステップS2では、第3圧力センサ96が検出したアキュムレータ圧Paccが予め設定された所定の第1アキュムレータ圧Pacc1以上かどうかを判定する。ここで、現在の第1アキュムレータ圧Pacc1以上であれば、ステップS3で、油圧ポンプ32のモータ33を停止する。一方、現在の第1アキュムレータ圧Pacc1以上でないときは、ステップS4にて、現在のアキュムレータ圧Paccが予め設定された所定の第2アキュムレータ圧Pacc2以下かどうかを判定する。ここで、現在のアキュムレータ圧Paccが第2アキュムレータ圧Pacc2以下であれば、ステップS5で、油圧ポンプ32のモータ33を駆動する。
そして、ステップS6にて、ストロークセンサ92が検出したペダルストロークSpを取得する。続いて、ステップS7では、第1圧力センサ94が検出した制動油圧Prと、第2圧力センサ95が検出した制動油圧Pfを取得する。ステップS8にて、ペダルストロークSpに基づいて予め設定されたマップを用いて目標出力油圧Prtを演算する。そして、ステップS9にて、算出した目標出力油圧Prtに基づいて第1、第2リニア弁40,42の開度を調整する。このとき、制動油圧Prをフィードバックし、目標出力油圧Prtと制動油圧Prとが一致するように制御する。
具体的に説明すると、本実施例の車両用制動装置において、図1に示すように、電源としてのバッテリが正常状態にあって、ECU91により、第1リニア弁40及び第2リニア弁42を正常に開閉操作及び開度調整操作可能であるとき、乗員がブレーキペダル14を踏むと、その操作力により入力ピストン12が前進(図1にて左方へ移動)する。このとき、入力ピストン12は前進するが、加圧ピストン13との間には所定のストロークS0が設けられているため、加圧ピストン13を直接押圧することはなく、第1圧力室R1の作動油が連通路21を通して第2圧力室R2に流れる。そのため、入力ピストン12がフリー状態となり、第1圧力室R1から入力ピストン12を介してブレーキペダル14に反力が作用することはないが、アキュムレータ49から反力油圧配管50を通して反力室R4に反力油圧が作用しており、ブレーキペダル14には適正な反力が付与される。
このように乗員がブレーキペダル14を踏むと、入力ピストン12が前進するため、ストロークセンサ92はペダルストロークSpを検出し、ECU91は、このペダルストロークSpに基づいて目標出力油圧Prtを設定する。そして、ECU91は、この目標出力油圧Prtに基づいて第1、第2リニア弁40,42の開度を調整し、第1油圧供給配管38から第1油圧吐出配管61を通してABS59に所定の制御油圧を作用させると共に、第2圧力室R2に所定の制御油圧を作用させる。
すると、この制御油圧が制動油圧PrとしてABS59に作用し、増圧弁66,67及び減圧弁70,71で調圧された後にホイールシリンダ58RR,58RLに作用し、後輪RR,RLに対して乗員のブレーキペダル14の操作力に応じた制動力を発生させることができる。また、第1油圧供給配管38から第2圧力室R2に作用した制御油圧は、連通路21を通して第1圧力室R1に作用し、第3圧力室R3から第2油圧吐出配管63に所定の制動油圧Pfが作用する。そして、この制動油圧PfがABS59の増圧弁74,75及び減圧弁78,79で調圧された後にホイールシリンダ58FR,58FLに作用し、前輪FR,FLに対して乗員のブレーキペダル14の操作力に応じた制動力を発生させることができる。
このとき、ブレーキペダル14の操作力により入力ピストン12が前進し、第2圧力室R2に所定の制御油圧が作用するとき、第1圧力室R1と第2圧力室R2が同圧となるため、入力ピストン12は加圧ピストン13や調圧弁22の荷重伝達子27に接触することはなく、第2油圧供給配管43と調圧弁22の第5圧力室R5はポペット弁25により遮断された状態に維持される。そして、入力ピストン12と加圧ピストン13が所定の間隔を有したまま移動し、第1排出ポート54と第2排出ポート56が遮断されると、加圧ピストン13の移動により第3圧力室R3が加圧されることとなり、第1圧力室R1に作用する制御油圧に応じて第1圧力室R1と第3圧力室R3との油圧がバランスすることで、各油圧吐出配管61,63に流れる制動油圧Pr,Pfはほぼ同等のものとなる。
なお、本実施例では、入力ピストン12の第1受圧面積(先端部の面積)が、加圧ピストン13の第2受圧面積(先端部の面積)よりも小さく設定しており、所定のサーボ比が確保されている。また、各リニア弁40,42により第1圧力室R1に最大制御油圧が作用したとき、第1圧力室R1から調圧弁22の第5圧力室R5に作用する最大油圧によりポペット弁25が開放しないように、圧縮スプリング26の付勢力が下記数式を満足するように設定されている。
(ポペット弁のシール面積)×(リニア弁の最大制御油圧)<(圧縮スプリング26の付勢力)
また、マスタシリンダ及びABS59で制動油圧Pr,Pfが適正な油圧に制御されて各ホイールシリンダ58RR,58RL,58FR,58FLに作用することで、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに対して所定の制動力を発生させるとき、ABS59にて、減圧弁78,79を開閉して制動油圧Pfを減圧すると、第2油圧吐出配管63の作動油がこの減圧弁78,79を通してリザーバタンク35に排出され、この第2油圧吐出配管63における作動油が不足してしまう。そのため、本実施例では、このとき、第2油圧吐出配管63からの排出油量に応じて、第3リニア弁81の開度及び開時間を調整することで、第1油圧供給配管38から第3油圧供給配管80を通して第2油圧吐出配管63に所定の油量を戻している。
この場合、例えば、前輪FR,FLにおける減圧油量(排出油量)を推定し、推定した減圧油量を加算することで、全体の減圧油量を演算し、減圧油量に対して戻し油量係数を乗算して必要流量を設定し、この必要油量に基づいて第3リニア弁81のリニア開度を求め、第3リニア弁81を駆動する。すると、ABS59の制御中に、減圧弁78,79を通して第2油圧吐出配管63からリザーバタンク35に排出された排出油量とほぼ同量の作動油が、第3リニア弁81の開度に応じて第1油圧供給配管38から第3油圧供給配管80を通して第2油圧吐出配管63に戻される。
一方、本実施例の車両用制動装置において、図1に示すように、バッテリがダウンした状態にあって、ECU91により第1リニア弁40及び第2リニア弁42の開閉操作及び開度調整操作が不能となったとき、第1リニア弁40は閉止状態で、第2リニア弁42は開放状態で停止する。このとき、乗員がブレーキペダル14を踏むと、その操作力により入力ピストン12が前進するが、加圧ピストン13との間には所定のストロークS0が設けられているため、加圧ピストン13を直接押圧することはなく、前述と同様に、第1圧力室R1の作動油が連通路21を通して第2圧力室R2に流れる。そして、第2圧力室R2の油圧は、第1供給ポート39から第1油圧排出配管41を通してリザーバタンク35に排出されるため、入力ピストン12は加圧ピストン13や調圧弁22の荷重伝達子27に接触するまで移動することができる。
入力ピストン12がストロークS0だけ移動して先端部が調圧弁22の荷重伝達子27に接触すると、座部31が荷重伝達子27の先端部に密着することで連通路21を閉止し、第1圧力室R1とリザーバタンク35との連通が遮断される。そして、入力ピストン12が更に前進すると、入力ピストン12が荷重伝達子27を押圧して移動し、この荷重伝達子27を介してポペット弁25を押圧して移動することで、第2油圧供給配管43と第5圧力室R5とが連通される。すると、アキュムレータ37の油圧が第2油圧供給配管43から第2供給ポート44、第1隙間45、第1連通ポート47、第2隙間46、第2連通ポート48、ポペット弁25を通して第5圧力室R5に作用し、更に、連通孔30を通して第1圧力室R1に作用する。
従って、入力ピストン12及び加圧ピストン13が接触したまま前進すると、アキュムレータ37の油圧が第1圧力室R1に作用することで、加圧ピストン13の前後面の圧力差からこの加圧ピストン13が前進(図1にて左方)する。この加圧ピストン13の前進により第3圧力室R3が加圧されることで、この第3圧力室R3から第2油圧吐出配管63に所定の制動油圧Pfが作用することとなる。そして、この制動油圧PrがABS59を介してホイールシリンダ58FR,58FLに作用し、前輪FR,FLに対して乗員のブレーキペダル14の操作力に応じた制動力を発生させることができる。
そして、乗員がブレーキペダル14の踏み込みを停止(保持)すると、入力ピストン12の座部31が荷重伝達子27に接触して連通路21を閉止した状態のまま、荷重伝達子27によるポペット弁25の押圧が解除され、第2油圧供給配管43と第5圧力室R5とが遮断される。そのため、第1圧力室R1と第3圧力室R3とが密閉状態となり、ABS59に吐出する制動油圧Pfを保持することができる。
また、乗員がブレーキペダル14の踏み込みを戻すと、入力ピストン12の座部31が荷重伝達子27から離間して連通路21を開放するため、第1圧力室R1の油圧が連通路21を通して第2圧力室R2に流れ、第1供給ポート39から第1油圧排出配管41を通してリザーバタンク35に排出される。一方、ブレーキペダル14を戻すと、入力ピストン12が後退すると共に、加圧ピストン13が付勢スプリング20の付勢力により後退するため、第3圧力室R3の油圧は第2排出ポート56から第2油圧排出配管57を通ってリザーバタンク35に排出される。そのため、第1圧力室R1と第3圧力室R3の油圧を減圧することで、ABS59に吐出する制動油圧Pfを減圧することができる。
ところで、本実施例の車両用制動装置にて、バッテリが正常状態にあっても、ABS59により制御油圧が増減制御されるとき、入力ピストン12が加圧ピストン13に当接することがあり、この場合、乗員がブレーキペダルを踏み込むと、入力ピストン12を介して加圧ピストン13を直接押圧することとなり、ブレーキペダル14のペダルストロークが大きくなったり、踏力が大きくなったりして、乗員は、ブレーキペダル操作に違和感を感じてしまう。
そのため、本実施例では、入力ピストン12と加圧ピストン13との当接を判定(当接判定手段)し、制御手段としてのECU91は、入力ピストン12と加圧ピストン13との当接判定結果に基づいて流量調整弁としての第3リニア弁81を制御、具体的には、第3リニア弁81の開度を調整することで、加圧ピストン13を押し戻し、ブレーキペダル14によるペダルストロークや踏力を補正し、乗員がブレーキペダル操作に違和感を感じないようにしている。
この場合、ECU91は、入力ピストン12の移動距離が入力ピストン12と加圧ピストン13との離間距離S0以上であるとき、入力ピストン12と加圧ピストン13とが当接したものと判定する。また、ECU91は、踏力センサ93が検出したペダル踏力Fpと、ストロークセンサ92が検出したペダルストロークSpとの関係が正規に対応していないとき、入力ピストン12と加圧ピストン13とが当接したものと判定する。また、ECU91は、加圧ピストン13により発生する制動油圧Pfに対して、前輪FR,FLのホイールシリンダ58FR,58FLに発生するホイールシリンダ圧Pwa,Pwbが高いとき、入力ピストン12と加圧ピストン13とが当接したものと判定する。
ここで、本実施例の車両用制動装置におけるECU91によるストローク制御について、図4のフローチャートに基づいて説明する。ECU91によるストローク制御において、図4に示すように、まず、ステップS11にて、ECU91は、現在、ABS制御中であるかどうか、つまり、増圧弁66,67,74,75及び減圧弁70,71,78,79が開度制御されているかどうかを判定する。ここで、ABS制御中であると判定されたら、ステップS12にて、入力ピストン12のストローク(移動距離)が入力ピストン12と加圧ピストン13との離間距離S0以上であるかどうかを判定する。実際には、離間距離S0にブレーキペダル14のペダル比を乗算することで、離間距離S0をペダルストロークに換算して離間ストロークSp0を算出し、ストロークセンサ92が検出した現在のペダルストロークSpがこの離間ストロークSp0を超えているかどうかを判定する。
このステップS12にて、現在のペダルストロークSpが離間ストロークSp0を超えていると判定されたら、ステップS13にて、ブレーキペダル14の踏力とストロークとが正規に対応しているかどうかを判定する。即ち、入力ピストン12が加圧ピストン13に当接した状態で、乗員がブレーキペダル14を踏み込むと、第3圧力室R3の油圧が加圧ピストン13及び入力ピストン12を介してブレーキペダル14に反力として直接作用するため、踏力センサ93が検出したペダル踏力Fpが増加する。また、このとき、ブレーキペダル14の反力が大きくなることから、乗員はブレーキペダル14を十分に踏み込めずに、ストロークセンサ92が検出したペダルストロークSpが減少傾向となる。そのため、このステップS13では、ペダル踏力Fpをストロークに換算したストローク換算値F(fp)からペダルストロークSpを減算した値が予め設定された規定値(正の値)より大きいかどうかを判定する。
ここで、ペダル踏力Fpのストローク換算値F(fp)からペダルストロークSpを減算した値が規定値より大きいと判定されたら、ステップS14にて、加圧制御圧(制動油圧)Pfに対して、マスタ圧(ホイールシリンダ圧Pw)が高く発生しているかどうかを判定する。実際には、第4圧力センサ97a,97bが検出したホイールシリンダ圧Pwa,Pwbを平均してホイールシリンダ圧Pwを求め、このホイールシリンダ圧Pwから第2圧力センサ95が検出した制動油圧Pfを減算した値が、予め設定された規定値(0に近い正の値)より大きいかどうかを判定する。
ここで、ホイールシリンダ圧Pwから制動油圧Pfを減算した値が規定値より大きいと判定されたら、ステップS15にて、カウンタCに1を加算する。そして、ステップS16にて、カウンタの初回値がC=1であるかどうかを判定し、ここで、C=1であると判定されたら、入力ピストン12が加圧ピストン13に当接したものと判定し、ステップS17にて、目標ペダルストロークSpabsをストロークセンサ92が検出したこのときのペダルストロークSpに設定する。一方、ステップS16にて、カウンタの初回値がC=1でないと判定されたら、目標ペダルストロークSpabsをペダルストロークSpに設定せずにステップS18に移行する。
そして、ステップS18にて、設定した目標ペダルストロークSpabsからストロークセンサ92が検出した現在のペダルストロークSpを減算した値が予め設定された規定値(0に近い正の値)より小さいかどうかを判定する。ここで、目標ペダルストロークSpabsから現在のペダルストロークSpを減算した値が規定値より小さいと判定されたら、ステップS19にて、規定の流量にてインライン加圧する。
即ち、目標ペダルストロークSpabsから現在のペダルストロークSpを減算した値が規定値より小さいと判定されたということは、現在のペダルストロークSpが目標ペダルストロークSpabsを超えてしまったということであり、乗員がブレーキペダル14を踏み過ぎていると判断することができる。従って、ECU91は、目標ペダルストロークSpabsから現在のペダルストロークSpを減算した値に応じて第3リニア弁81の開度及び開時間を調整し、第1油圧供給配管38から第3油圧供給配管80を通して第2油圧吐出配管63に所定の油量を供給する。すると、第2油圧吐出配管63に供給された油圧が第3圧力室R3に作用し、この第3圧力室R3が加圧されることで加圧ピストン13を後退させ、乗員によるブレーキペダル14の踏み過ぎを補正することができる。
一方、ステップS18にて、目標ペダルストロークSpabsから現在のペダルストロークSpを減算した値が規定値より小さいと判定されたら、何もしないでこのルーチンを抜ける。即ち、ECU91は、設定した目標ペダルストロークSpabsに基づいて第1、第2リニア弁40,42の開度及び開時間を調整する。
また、上述したステップS11にて、ABS制御中でないと判定されたり、ステップS12にて、現在のペダルストロークSpが離間ストロークSp0を超えていないと判定されたり、ステップS13にて、ペダル踏力Fpのストローク換算値F(fp)からペダルストロークSpを減算した値が規定値より大きくないと判定されたり、ステップS14にて、ホイールシリンダ圧Pwから制動油圧Pfを減算した値が規定値より小さいと判定されたら、何もしないでこのルーチンを抜ける。
このように本実施例の車両用制動装置にあっては、シリンダ11内に入力ピストン12と加圧ピストン13を移動自在に支持すると共に、入力ピストン12により加圧ピストン13を押圧可能とし、入力ピストン12にブレーキペダル14を連結し、入力ピストン12の前後の圧力室R1,R2を連通路21により連通し、ブレーキペダル14の操作量に応じた制御油圧を第1、第2リニア弁40,42により第2圧力室R2に供給可能とすると共に、この制御油圧並びに加圧ピストン13が移動することで発生する制御油圧により各ホイールシリンダ58FR,58FL,58RR,58RLに作用させるようにしている。
従って、ECU91は、ペダルストロークSpに応じた目標出力油圧Prtを設定し、この目標出力油圧Prtに基づいて第1圧力室R1に制御油圧を作用させることで、第1油圧吐出配管61に所定の制動油圧Prを出力すると共に、第3圧力室R3から第2油圧吐出配管63に所定の制動油圧Pfを出力し、この制動油圧Pr,PfをABS59を介して各ホイールシリンダ58FR,58FL,58RR,58RLに作用させ、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに対して乗員のブレーキペダル14の操作力に応じた適正な制動力を発生させることができる。
また、本実施例の車両用制動装置では、マスタシリンダに対して油圧を供給するための油圧供給源と、ABS59に対して油圧を供給するための油圧供給源とを共用化している。即ち、アキュムレータ37からの第1油圧供給配管38がシリンダ11の第1供給ポート39(第2圧力室R2)に連結されると共に、第1油圧供給配管38が第3リニア弁81を有する第3油圧供給配管80を介してABS59の第2油圧吐出配管63に連結されている。従って、ABS59にて、制動油圧Pfを減圧したとき、第2油圧吐出配管63から減圧弁78,79を通してリザーバタンク35に排出された排出油量に応じて、第3リニア弁81の開度及び開時間を設定することで、第1油圧供給配管38から第3油圧供給配管80を通して第2油圧吐出配管63に所定の油量を戻し、制動油圧Pfの不足を防止することができる。
その結果、マスタシリンダに対する油圧供給源とABS59に対する油圧供給源を油圧ポンプ32及びアキュムレータ37として共用化することで、構造の簡素化並びに製造コストの低減を図ることができると共に、適正な制動力を確保して高精度な制動力制御を可能とすることができる。
また、本実施例の車両用制動装置では、加圧ピストン13により加圧される第3加圧室R3を第2油圧吐出配管63によりABS59を連結すると共に、アキュムレータ37を第1油圧供給配管38、第3油圧供給配管80、第2油圧吐出配管63によりABS59に連結し、第3油圧供給配管80に第3リニア弁81を設けて構成し、ECU91は、入力ピストン12と加圧ピストン13との当接を判定し、その当接判定結果に基づいて第3リニア弁81の開度及び開時間を調整するようにしている。
従って、乗員によるブレーキペダル14の踏み込み操作により、入力ピストン12が加圧ピストン13に当接したとき、ECU91は、第3リニア弁81の開度及び開時間を調整することで、アキュムレータ37の油圧が第1油圧供給配管38、第3油圧供給配管80、第2油圧吐出配管63を通してシリンダ11の第3加圧室R3に作用することとなり、この油圧により加圧ピストン13が正規の位置に戻される。そのため、ブレーキペダル14によるペダルストロークや踏力の変動が抑制され、制動操作の操作性を向上してドライバビリティを向上することができる。
この場合、ECU91は、3つの条件が成立したときに、入力ピストン12が加圧ピストン13に当接したと判定している。即ち、入力ピストン12の移動距離が入力ピストン12と加圧ピストン13との離間距離S0以上であり、且つ、ペダル踏力FpとペダルストロークSpとの関係が正規に対応しておらず、且つ、加圧ピストン13により発生する制動油圧Pfに対してホイールシリンダ58FR,58FLに発生するホイールシリンダ圧Pwa,Pwbが高いときに、入力ピストン12と加圧ピストン13とが当接したものと判定している。従って、入力ピストン12と加圧ピストン13との当接を高精度に判定することができる。
なお、入力ピストン12と加圧ピストン13との当接判定条件は、上記3つの条件が成立した場合に限るものではない。例えば、ペダル踏力FpとペダルストロークSpとの関係が正規に対応しないことだけを条件としたり、加圧ピストン13により発生する制動油圧Pfに対してホイールシリンダ58FR,58FLに発生するホイールシリンダ圧Pwa,Pwbが高いことだけを条件としてもよい。また、入力ピストン12の移動距離が入力ピストン12と加圧ピストン13との離間距離S0以上であることを条件として加えることで、当接判定精度を向上することができる。