この発明に係る被粘着物取扱治具に粘着保持される被粘着物は、例えば、小型器具、小型機械要素及び小型電子部品等の小型部品が挙げられ、被粘着物には、これらの小型部品を製造可能な小型部品用部材、例えば、小型器具用部材、小型機械要素用部材及び小型電子部品用部材等も含まれる。したがって、この発明においては、小型部品と小型部品用部材とは明確に区別される必要はない。これらの小型部品の中でも、この発明に係る被粘着物取扱治具には、小型部品及び小型部品用部材が特に好ましく粘着保持される。これらの被粘着物の形状は、特に限定されないが、この発明に係る被粘着物取扱治具が粘着保持するのに好適な被粘着物として、柱状の小型部品及び/又は柱状の小型部品用部材等が挙げられ、より具体的には、角柱体若しくは円柱体、一端部に鍔を有する角柱体若しくは円柱体、及び/又は、両端部に鍔を有する角柱体若しくは円柱体等の小型部品及び/又は小型部品用部材等が挙げられる。例えば、被粘着物の一例として、その軸長が0.4mm以上1.6mm以下の角柱体又は円柱体等の小型部品用部材等が挙げられる。このような形状を成す小型電子部品及び/又は小型電子部品用部材等として、具体的には、例えば、コンデンサチップ(チップコンデンサとも称されることがある。)、インダクタチップ、抵抗体チップ等の完成品若しくは未完成品等、及び/又は、これらを製造可能な部材等が挙げられる。
この発明に係る被粘着物取扱治具の一実施例である被粘着物取扱治具を、図面を参照して、説明する。この被粘着物取扱治具1Aは、図1に示されるように、治具本体2Aと、治具本体2Aの表面に設けられた、表面に被粘着物を粘着保持することのできる弾性部材3A(図1(a)において図示しない。)と、この弾性部材3Aの表面に設けられる薄層シート4Aとを備えて成る。
図1に示されるように、前記治具本体2Aは、後述する弾性部材3Aを保持又は支持する。この治具本体2Aは、弾性部材3Aを保持又は支持することができる限り種々の設計変更に基づく各種の形態にすることができる。例えば、この治具本体2Aは、図1に示されるように、方形を成す盤状体に形成されている。治具本体2Aにおける寸法の一例として、例えば、120mm×120mm×0.5mm(厚さ)の寸法を挙げることができる。
治具本体2Aは、弾性部材3Aを保持又は支持可能な厚さを有していればよいが、この治具本体2Aは平滑な表面を有しているのがよく、さらに、均一な厚さを有しているのがよい。この治具本体2Aは、弾性部材3Aを形成する面に、弾性部材3Aとの密着性を向上させるために、プライマー処理、コロナ処理、エッチング処理及び/又はプラズマ処理等が施されるのが好ましい。
治具本体2Aは、弾性部材3Aを保持又は支持可能な材料で形成されていればよく、例えば、ステンレス鋼及びアルミニウム等の金属製プレート、アルミニウム箔及び銅箔等の金属箔、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリ塩化ビニル等の樹脂フィルム又は樹脂板、和紙、合成紙及びポリエチレンラミネート紙等の紙、並びに、布、ガラス繊維及びガラス板等のセラミックス、並びに、ガラスエポキシ樹脂板等の複合材料等を挙げることができる。さらに、治具本体2Aとして、シート状物を複数積層して成る積層体とすることもできる。これらの治具本体2Aは、金属、樹脂又はセラミックスからなる硬質材料で形成されるのが好適である。
前記弾性部材3Aは、被粘着物の一平面に接して、多数の被粘着物を粘着により保持することができるように設計され、例えば、図1に示されるように、治具本体2Aの表面に方形を成す盤状体に成形されている。弾性部材3Aにおける寸法の一例として、例えば、110mm×110mm×1.5mm(厚さ)の寸法を挙げることができる。弾性部材3Aは、後述する粘着力を有する粘着性材料、又は、この粘着性材料の硬化物で形成されるのがよい。
弾性部材3Aは、被粘着物を粘着保持することのできる粘着力を有している。具体的には、弾性部材3Aは、通常、1〜50g/mm2の粘着力を有しているのがよく、7〜50g/mm2の粘着力を有しているのがよい。
ここで、弾性部材3Aの粘着力は、以下のようにして求める。以下の粘着力の測定方法は、出願人により案出されたので、信越ポリマー法と称する。まず、弾性部材3Aを水平に固定する吸着固定装置(例えば、商品名:電磁チャック、KET−1530B、カネテック(株)製)又は真空吸引チャックプレート等と、測定部先端に、直径10mmの円柱を成したステンレス鋼(SUS304)製の接触子を取り付けたデジタルフォースゲージ(商品名:ZP−50N、(株)イマダ製)とを備えた荷重測定装置を用意する。次いで、この荷重測定装置における吸着固定装置又は真空吸引チャックプレート上に弾性部材3Aを固定し、測定環境を21±1℃、湿度50±5%に設定する。次いで、20mm/minの速度で弾性部材3Aの被測定部位に接触するまで前記荷重測定装置に取り付けられた前記接触子を下降させ、次いで、この接触子を被測定部位に所定の荷重で被測定部に対して垂直に3秒間押圧する。ここで、前記所定の荷重を25g/mm2に設定する。次いで、180mm/minの速度で前記接触子を被測定部位から引き離し、このときに前記デジタルフォースゲージにより測定される引き離し荷重を読み取る。この操作を、被測定部位の複数箇所で行い、得られる複数の引き離し荷重を算術平均し、得られる平均値を弾性部材3Aの粘着力とする。なお、この測定方法は、手動で行ってもよいが、例えば、テストスタンド(例えば、商品名:VERTICAL MODEL MOTORIZED STAND シリーズ、(株)イマダ製)等の機器を用いて、自動で行ってもよい。
弾性部材3Aは、通常、被粘着物を粘着保持する表面の硬度(JIS K6253[デュロメータE])が、5〜60程度であるのが好ましく、5〜30であるのがより好ましい。被粘着物を粘着保持する弾性部材3Aの表面が前記硬度の範囲内にあると、弾性部材3Aの表面に載置された被粘着物を押圧したときに、弾性部材3Aの表面に設けられた薄層シート4Aの孔5Aからのぞく弾性部材3Aの表面の一部がわずかに隆起して、被粘着物の一平面に均等に接触して、被粘着物をより一層強固に粘着保持することができる。
弾性部材3Aは、被粘着物を粘着保持する表面、すなわち、薄層シート4Aが設けられる表面が平滑であるのが好ましく、具体的には、例えば、前記表面の十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)が5μm以下であるのが好ましく、1μm以下であるのがさらに好ましく、0.5μm以下であるのが特に好ましい。弾性部材3Aの前記表面の十点平均粗さRzが前記範囲内であると、弾性部材3Aの前記表面に薄層シート4Aを平坦に設けることができ、その結果、粘着保持する被粘着物を実質的に垂直な起立状態で粘着保持することができると共に、被粘着物取扱治具1Aの振動及びその他の原因により被粘着物が倒れることも粘着保持位置のずれも防止することができる。十点平均粗さRzは、カットオフ0.8mm、測定長さ2.4mm等の条件で測定する。弾性部材3Aにおける表面の十点平均粗さRzは、例えば、弾性部材3Aを形成する際に用いる金型における製品部形成面のブラスト処理等により調整することができる。
弾性部材3Aは、0.05〜2mm程度の厚さを有するのが好ましい。この弾性部材3Aの厚さが0.05mm未満であると、弾性部材3Aの機械的強度が低下し、弾性部材3Aの耐久性が十分でないことがあり、一方、2mmを越えると、弾性部材3Aが弾性変形しにくくなり、被粘着物を弾性部材3Aから容易に取り外すことができなくなることがある。
弾性部材3Aは、接着剤層若しくはプライマー層によって、弾性部材3Aの粘着力によって、又は、固定具等によって、治具本体2Aの表面に固定されていればよく、被粘着物取扱治具1Aにおいて、弾性部材3Aは、接着剤層若しくはプライマー層を介して、治具本体2Aの表面に固定されている。
図1に示されるように、薄層シート4Aは、弾性部材3Aの粘着性を有する表面に設けられ、被粘着物の粘着保持及び脱離に寄与する。この薄層シート4Aは、被粘着物の粘着保持及び脱離に寄与することができる限り種々の設計変更に基づく各種の形態にすることができる。例えば、この薄層シート4Aは、図1に示されるように、方形を成す盤状体に形成されている。薄層シート4Aにおける寸法の一例として、例えば、115mm×115mmの寸法を挙げることができる。
薄層シート4Aは、図1に示されるように、複数の孔5Aが穿孔されている。この孔5Aは、弾性部材3Aに粘着保持される複数の被粘着物の配列パターンと同様のパターンに配列形成されている。換言すると、被粘着物は薄層シート4Aに穿孔された孔5Aの上に配置される。孔5Aがこのように配列形成されていると、弾性部材3Aの表面に粘着保持されるときに弾性部材3Aに臨む被粘着物の一平面(仮想被粘着面と称することがある。)が孔5Aの上部に位置し、仮想被粘着面の一部と孔5Aからのぞく弾性部材3Aの表面とが接触して、被粘着物が粘着保持される。
薄層シート4Aに穿孔される孔5Aは、孔5Aからのぞく弾性部材3Aの表面で被粘着物を粘着保持することができるように、被粘着物の質量、弾性部材3Aの粘着力等を考慮して、その開口面積が調整される。具体的には、孔5Aは、仮想被粘着面よりも小さな開口面積に調整される。孔5Aの開口面積が大きすぎると、薄層シート4Aの強度が低下すると共に被粘着物が強固に弾性部材3Aに粘着保持され、薄層シート4Aを弾性部材3Aから剥離するときに、薄層シート4Aが破断することがある。この発明において、孔5Aの開口面積は、被粘着物を所望のように粘着保持すると共に、必要時に、薄層シート4Aが破断することなく被粘着物を所望のように弾性部材3Aから取り外すことができる点で、弾性部材3Aの粘着力が1〜50g/mm2の場合には、被粘着物の仮想被粘着面に対して、50〜90%であるのが好ましく、70〜85%であるのが特に好ましい。
薄層シート4Aに穿孔される孔5Aの形状(開口部)は、特に限定されず、図1に示されるように、円形であってもよく、また、楕円形、多角形、不定形等であってもよい。
薄層シート4Aは、孔5Aからのぞく弾性部材3Aの表面が孔5Aの上方に配置された被粘着物の仮想被粘着面の一部に接触することのできるように、弾性部材3Aの硬度等を考慮して、その厚さが薄く調整されている。具体的には、薄層シート4Aの厚さは、通常、50μm以下に調整され、好ましくは30μm以下に調整され、特に好ましくは15μm以下に調整される。薄層シート4Aの厚さの下限値は、特に限定されないが、薄層シート4Aを形成する材料等の強度を考慮して適宜調整され、例えば、12μm程度に調整される。
薄層シート4Aにおける被粘着物が配置される側の表面は非粘着性とされている。この側の表面が非粘着性とされていると、被粘着物を被粘着物取扱治具1Aから取り外すときに、取り外した被粘着物が転倒しても薄層シート4Aに粘着することがなく、被粘着物の脱離が容易になる。ここで、非粘着性は、粘着力を有していない場合、及び、それ単独では被粘着物を粘着保持することができない程度の小さな粘着力を有している場合が含まれる。それ単独では被粘着物を粘着保持することができない程度の小さな粘着力は、例えば、前記測定方法における粘着力が1(g/mm2)未満である。
薄層シート4Aは、ある程度の強度を有し、容易に変形(延伸)しない材料で形成されればよく、このような材料として、例えば、ポリエステル、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン等の樹脂が挙げられる。これらの材料の中でも、薄層シート4Aを破損させずに弾性部材3Aから引き剥がせること、及び、作製容易性等を考慮すると、ポリエステルが好ましい。
薄層シート4Aは、薄層シート4Aの少なくとも一部が弾性部材3Aの端縁から突出するように、弾性部材3Aに設けられている。薄層シート4Aをこのように設けるには、例えば、弾性部材3Aの表面に設ける薄層シート4Aの位置をずらす方法、薄層シート4Aが弾性部材3Aに設けられたときに、薄層シート4Aの少なくとも一部が弾性部材3Aの端縁から突出する程度の大きさに薄層シート4Aを形成する方法等が挙げられる。このように弾性部材3Aに設けられた換言すると積層された薄層シート4Aは、弾性部材3Aの粘着力によって、弾性部材3Aの表面に粘着される。
この発明に係る被粘着物取扱治具を構成する薄層シートの別の一実施例である薄層シート4Bは、図2に示されるように、孔5Bにおける開口部の形状が正方形であること以外は、前記薄層シート4Aと基本的に同様に形成されている。すなわち、薄層シート4Bは、開口部が正方形である複数の孔5Bを有し、孔5Bはその開口面積が被粘着物の弾性部材3A(図2において図示しない。)に臨む一平面よりも小さく調整されている。
この発明に係る被粘着物取扱治具を構成する薄層シートの別の一実施例である薄層シート4Cは、図3(理解しやすいように、厚さを厚く図示している。)に示されるように、被粘着物が配置される領域に被粘着物を位置決めする配置穴5Dを有すること以外は、前記薄層シート4Aと基本的に同様に形成されている。すなわち、薄層シート4Cは、複数の孔5Cと、孔5Cそれぞれと中心を共有し、被粘着物が配置される領域に被粘着物を位置決めする複数の配置穴5Dとを有し、孔5Cはその開口面積が被粘着物の弾性部材3A(図2において図示しない。)に臨む一平面よりも小さく調整されている。この薄層シート4Cは、その厚さ方向に、孔5Cと配置穴5Dとが直列に形成されているから、孔5Cの軸線方向長さが薄層シート5Cの厚さよりも短くなり、配置穴5Dに配置された被粘着物の仮想被粘着面に、孔5Cからのぞく弾性部材3Aの表面がより一層強固に密着して、被粘着物をより一層強固に粘着保持することができる。
配置穴5Dの深さは、特に限定されないが、あまりに深いと、薄層シート4Cの強度が低下して、被粘着物を取り外すときに、薄層シート4Cが破断することがあるので、薄層シート4Cの強度等を考慮して、適宜調整される。配置穴5Dの深さは、例えば、薄層シート4Cの厚さに対して、20〜50%程度に調整される。
配置穴5Dにおける開口部の形状は、特に限定されず、例えば、被粘着物の仮想粘着面と同じ形状であるのがよい。
この発明に係る被粘着物取扱治具は、治具本体の表面に弾性部材を形成し、弾性部材の表面に薄層シートを設けて、製造される。治具本体の表面に弾性部材を形成する方法としては、例えば、治具本体の表面に前記粘着性材料を塗工し、治具本体と弾性部材とを一体成形する方法、また、後述する粘着性材料を金型等で成形してシート状成形体を作製し、このシート状成形体を治具本体の表面に、プライマー層又は接着剤層で、貼り付ける方法等を採用することができる。
粘着性材料の成形は、例えば、弾性部材が後述する付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物で形成される場合には、通常、80〜130℃で3〜40分加熱することにより、硬化される。また、弾性部材が後述する過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物で形成される場合には、通常、100〜150℃で5〜20分加熱することにより、硬化される。なお、このようにして硬化された付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物及び過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物は、さらに、170〜220℃、2〜10時間の条件で二次加熱されてもよい。
薄層シートは、前記材料を用いて、通常の方法、例えば、各種成形方法、二軸延伸等により、薄層体を成形し、この薄層体に複数の孔を通常の方法で穿孔して製造することができる。また、薄層シートは、複数の孔を形成可能な成形ピン等を備えた成形金型に前記材料を注入し、注入された前記材料を硬化することにより、製造することができる。また、薄層シート4Cは、例えば複数の孔5Cを持つ第1のシートと、前記孔5Cと同じパターンで配列された複数の孔5Dを持つ第2のシートとを、それぞれの孔5C及び5Dの中心が一致するように、位置決めして貼り合わせることにより、製造することができる。
次に、この発明に係る被粘着物取扱治具の第1の使用方法を、前記被粘着物取扱治具1Aを例にして、説明する。第1の使用方法は、例えば、複数の被粘着物を搬送、収納、検査等するために、一旦粘着保持された被粘着物を取り外すときに、この発明に係る被粘着物取扱治具を使用する方法である。
第1の使用方法に用いられる被粘着物取扱治具1Aは、図1に示されるように、弾性部材3Aよりも大きな寸法に形成された薄層シート4Aと弾性部材3Aとが中心を共有し、弾性部材3Aの各端縁から薄層シート4Aの各端縁が突出した状態に、構成されている。
この被粘着物取扱治具1Aに被保持物、例えば、コンデンサチップ9を保持するには、図4(a)に示されるように、薄層シート4A上に、複数のコンデンサチップ9を、薄層シート4Aに穿孔された孔5Aの配列パターンと同じパターンで起立状態に配列する。コンデンサチップ9をこのような状態に配列する手段は、特に限定されず、例えば、コンデンサチップ9が通過可能な複数の貫通孔が一列に配設された板状の整列具等を用いる方法等が好適に採用される。
次いで、この配列状態を維持しつつ、例えば、平坦な板状部材等を用いて、複数のコンデンサチップ9それぞれにおける自由端を、コンデンサチップ9の軸線方向から弾性部材3Aに向かって押圧する。そうすると、図4(a)に示されるように、薄層シート4Aはその厚さが薄いから、弾性部材3Aとコンデンサチップ9との間に薄層シート4Aが介在していても、孔5Aからのぞく弾性部材3Aの表面とコンデンサチップ9における軸線方向の底面(仮想粘着面)とが接触して、コンデンサチップ9は弾性部材3Aの粘着力により粘着保持される。
このようにして、粘着保持されたコンデンサチップ9を取り外すには、図4(b)に示されるように、弾性部材3Aの端縁から突出している薄層シート4Aの端縁を例えば挟持して、例えば、薄層シート4Aを上方に向かって弾性部材3Aから剥離する。そうすると、薄層シート4Aは、その端縁側から剥離され、薄層シート4Aの剥離に伴って、薄層シート4A上に配置されているコンデンサチップ9の仮想被粘着面が孔5Aからのぞく弾性部材3Aの表面から剥離される。このようにして、薄層シート4Aを介して弾性部材3Aに粘着保持されているコンデンサチップ9を剥離することができる。
このように、この発明に係る被粘着物取扱治具は、弾性部材の表面に設けられた薄層シートの孔からのぞく弾性部材の表面で薄層シート上に配置された被粘着物を粘着保持することができる。そして、この発明に係る被粘着物取扱治具は、被粘着物取扱治具に粘着保持されている被粘着物を、単に、薄層シートを弾性部材から剥離するだけで、掻き取り部材等を用いなくても、薄層シートを介して弾性部材に粘着保持された被粘着物を弾性部材から取り外すことができる。したがって、この発明に係る被粘着物取扱治具によれば、被粘着物を所望のように粘着保持することができるにもかかわらず、必要時には、弾性部材3Aを損傷させることなく被粘着物を取り外すことのできる被粘着物取扱治具を提供することができる。
次に、この発明に係る被粘着物取扱治具の別の使用方法を、前記被粘着物取扱治具1Aを例にして、説明する。第2の使用方法は、例えば、治具本体と弾性部材とを備えた保持治具に粘着保持した状態で製造されたコンデンサチップ9を、保持治具から取り外すときに、前記保持治具とは別に、この発明に係る被粘着物取扱治具を、使用する方法である。
第2の使用方法に用いられる被粘着物取扱治具1Aは、図1に示されるように、弾性部材3Aよりも大きな寸法に形成された薄層シート4Aと弾性部材3Aとが中心を共有し、弾性部材3Aの各端縁から薄層シート4Aの各端縁が突出した状態に、構成されている。
第2の使用方法に用いられる保持治具1Bは、図5に示されるように、治具本体2Bと弾性部材3Bとを備え、薄層シートを備えていない以外は、被粘着物取扱治具1Aと基本的に同様に構成されている。
なお、被粘着物取扱治具1Aにおける弾性部材3Aは、コンデンサチップ9の仮想被粘着面に作用する粘着力が、保持治具1Bにおける弾性部材3Bがコンデンサチップ9の被粘着面に作用する粘着力よりも大きくなるように、調整されている。換言すると、被粘着物取扱治具1Aにおける弾性部材3Aの粘着力と孔5Aの開口面積との積が、保持治具1Bにおける弾性部材3Bの粘着力とコンデンサチップ9における被粘着面の面積との積よりも大きくなるように、弾性部材3Aの粘着力及び弾性部材3Bの粘着力、並びに、孔5Aの開口面積が調整されている。
保持治具1Bに粘着保持されているコンデンサチップ9を被粘着物取扱治具1Aに移し替えるには、例えば、図6に示されるように、保持治具1Bと被粘着物取扱治具1Aとを、弾性部材3Bと弾性部材3Aとが対面するように、対向配置し、コンデンサチップ9を介して、保持治具1Bと被粘着物取扱治具1Aとを押圧する。そうすると、コンデンサチップ9における弾性部材3Aに接する仮想被粘着面に作用する粘着力が大きいから、コンデンサチップ9は保持治具1Bの弾性部材3Bから、被粘着物取扱治具1Aの弾性部材3Aに転写される。このようにして移し替えられたコンデンサチップ9は、第1の使用方法と同様にして、薄層シート4Aを弾性部材3Aから剥離することにより、取り外される。このようにして、被粘着物取扱治具1Aに粘着保持されているコンデンサチップ9を脱離させることができる。
この発明における被粘着物取扱治具は、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、薄層シートをメッシュ状に形成し、孔をスリット状にしてもよい。
この発明に係る被粘着物取扱治具を構成する弾性部材、及び、この発明に係る被粘着物取扱治具の第2の使用方法に使用される保持治具を構成する弾性部材を形成する前記粘着性材料としては、例えば、フッ素系樹脂又はフッ素系ゴム、フッ素系樹脂又はフッ素系ゴムを含有するフッ素系組成物、シリコーン樹脂又はシリコーンゴム、シリコーン樹脂又はシリコーンゴムを含有するシリコーン組成物、ウレタン系エラストマー、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合エラストマー等の各種エラストマー等が挙げられる。この中でも、シリコーンゴム、及び/又は、シリコーンゴムを含有する付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物及び過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物が好ましい。
前記付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物としては、シリコーン生ゴム(a)と、架橋成分(b)と、粘着力向上剤(c)と、触媒(d)と、シリカ系充填材(e)とを含有する粘着性組成物を挙げることができる。
前記シリコーン生ゴム(a)としては、(R2SiO2/2)単位(Rは、炭化水素基を表す。)を含み、置換基を有していてもよいポリジメチルシロキサンの長鎖重合体等であればよく、例えば、付加反応により架橋可能なポリオルガノシロキサンを用いることができ、より具体的には、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンを用いることができ、特に、下記(1)式で示されるアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンを好適に用いることができる。
R1 (3−a)XaSiO−(R1XSiO)m−(R1 2SiO)n−SiR1 (3−b)Xb (1)式
ただし、(1)式中、R1は脂肪族不飽和結合を有することのない1価の炭化水素基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、Xはアルケニル含有有機基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、aは0〜3の整数、bは0〜3の整数、mは0以上の整数、nは100以上の整数であり、a、b及びmは同時に0とはならない。
前記式(1)において、R1としては、炭素数1〜10の前記炭化水素基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の直鎖又は分岐アルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基等が挙げられ、特にメチル基、フェニル基が好ましい。また、Xで示されるアルケニル基含有有機基としては、炭素数2〜10のアルケニル基含有有機基が好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基等の炭素二重結合含有炭化水素基、アクリロイルプロピル基、アクリロイルメチル基、メタクリロイルプロピル基、メタクリロイルメチル基等の(メタ)アクリロイルアルキル基、シクロヘキセニルメチル基、シクロヘキセニルエチル基、シクロヘキセニルプロピル基等のシクロアルケニルアルキル基、ビニルオキシプロピル基等を挙げることができる。
シリコーン生ゴム(a)は、オイル状、粘土状の性状を有していてもよく、その粘度は25℃において50mPa・s以上であるのが好ましく、特に100mPa・s以上であるのが好ましい。
シリコーン生ゴム(a)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
前記架橋成分(b)は、前記シリコーン生ゴム(a)と架橋反応可能な成分であり、例えば、1分子中にSi原子に結合したH原子を少なくとも2個以上、好ましくは3個以上有するSiH結合含有ポリオルガノシロキサン(以下、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと称することもある。)を用いることができる。
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、直鎖状、分枝状、環状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの中から適宜に選択して使用することができ、例えば、下記(2)式又は(3)式で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを好適例として挙げることができる。
HcR1 (3−c)SiO−(HR1SiO)x−(R1 2SiO)y−SiR1 (3−d)Hd (2)式
前記(2)式及び(3)式において、R1は前記と同様の1価の炭化水素基であり、同一であっても異なっていてもよい。また、c及びdは0〜3の整数、x、y及びsは0以上の整数、rは1以上の整数であり、c、d及びxは同時に0とはならず、さらに、x+y≧0である。また、r+s≧3、好ましくは8≧r+s≧3である。
これらのオルガノハイドロジェンポリシロキサンの中でも、オイル状の性状を有し、粘度が25℃において1〜5000mPa・sであるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが好ましい。
架橋成分(b)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
架橋成分(b)の配合割合は、適宜に選択可能であるが、前記シリコーン生ゴム(a)がアルケニル基を含有すると共に、前記架橋成分(b)がSiH結合を含有する場合には、シリコーン生ゴム(a)中のアルケニル基に対する架橋成分(b)中のSiH結合のモル比が0.5〜20であるのが好ましく、特に1〜15の範囲であるのが好ましい。このモル比が0.5未満では、後述する硬化後の架橋密度が低くなり、弾性部材の形状を保持しにくくなることがある。一方、前記モル比が20を超えると、得られる弾性部材の粘着力が低下することがある。
前記粘着力向上剤(c)は、粘着力を向上するために配合される成分であり、例えば、ポリオルガノシロキサンを用いることができ、特に、R2 3SiO1/2単位及びSiO2単位(ただし、R2は脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基である。)を含有するものを好適に用いることができる。ここで、R2としては、炭素数1〜10の置換基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の直鎖又は分岐アルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基等を例示でき、特にメチル基、フェニル基が好ましい。
粘着力向上剤(c)は、一般的に粘着性をより高度に確保するために、シリコーン生ゴム(a)及び架橋成分(b)とともに架橋反応を生じない、又は、生じ難い構造を有するものが好ましい。
粘着力向上剤(c)としてポリオルガノシロキサンを用いる場合は、R2 3SiO1/2単位/SiO2単位のモル比が0.6〜1.7となるものが好ましい。このモル比が0.6未満では、弾性部材の粘着性が高くなり過ぎ、又はシリコーン生ゴム(a)と相溶し難くなって、シリコーン生ゴム(a)と粘着力向上剤(c)とが分離して粘着性を発現しなくなることがある。一方、前記モル比が1.7を超えると弾性部材の粘着力が低下することがある。
なお、このポリオルガノシロキサンは、Si原子に結合するOH基を含有していてもよく、その場合、OH基含有量が0〜4.0モル%であるのが好ましい。
Si原子に結合するOH基を含有するものを用いる場合、前記シリコーン生ゴム(a)として、下記(4)式に示されるポリオルガノシロキサンを含有するときには、前記シリコーン生ゴム(a)と粘着力向上剤(c)とが一部縮合反応物を形成していてもよい。
(OH)R1YSiO−(R1XSiO)p−(R1 2SiO)q−SiR1 2(OH) (4)式
ただし、(4)式中、R1は脂肪族不飽和結合を有することのない1価の前記炭化水素基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、YはR1又はアルケニル基含有有機基である。Xはアルケニル含有有機基である。また、pは1以上の整数、qは100以上の整数である。1価の炭化水素基及びアルケニル基含有有機基は前記したのと同様である。
前記シリコーン生ゴム(a)と前記粘着力向上剤(c)との縮合反応物を形成するには、トルエン等の溶剤に溶解したシリコーン生ゴム(a)及び粘着力向上剤(c)の混合物を、アルカリ性触媒の存在下で、室温乃至還流下で反応させればよい。
粘着力向上剤(c)は、一種単独で用いても、二種以上を混合して用いてもよい。
粘着力向上剤(c)は、シリコーン生ゴム(a)/粘着力向上剤(c)の質量比として20/80〜80/20の範囲で用いるのが好ましく、特に、30/70〜70/30とするのが好適である。この範囲を超えて粘着力向上剤(c)が少ないと粘着性が不足しやすくなり、一方、多いと弾性部材が硬くなるとともに弾性力が強く、弾性部材が変形し難くなり、何れにおいても、小型電子部品を粘着保持しにくくなることがある。
前記触媒(d)は、主として、前記シリコーン生ゴム(a)と前記架橋成分(b)との架橋反応を促進する触媒であり、通常、ハイドロサイレーションの触媒として使用されるものであればよく、例えば、白金化合物等が挙げられる。白金化合物としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物等が挙げられる。
触媒(d)の配合割合は、前記シリコーン生ゴム(a)と前記架橋成分(b)との合計質量に対し、白金成分として1〜5,000ppmとするのが好ましく、特に5〜2,000ppmとすることが好適である。配合割合が1ppm未満では硬化性が低下して架橋密度が低くなって弾性部材の粘着力が低下することがあり、一方、5,000ppmを超えると処理浴の使用可能時間が短くなる場合がある。
前記シリカ系充填材(e)は、前記各成分とともに添加され、弾性部材の機械的強度を補強するとともに、弾性部材を構成する成分、特に、粘着性を付与する粘着力向上剤(c)を粘着層に分散させて、小型電子部品の確実な粘着保持に寄与する成分である。
シリカ系充填材(e)としては、シリカ、石英紛、珪藻土等が挙げられるが、好ましくはシリカである。好適なシリカとしては、BET法により測定されるその比表面積が50m2/g以上、好ましくは100〜400m2/gのシリカを挙げることができる。このような比表面積を有するシリカが付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物に含まれていると、弾性部材の引っ張り強度等の機械的強度を向上させることができるとともに粘着性を付与する成分が脱離し難くなり、微細な削りカスやのり残りが生じ難くなる。なお、比表面積が400m2/gを超えると、付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物の流動特性が低下することがあり、弾性部材の製造に時間がかかるとともにコストが増大することがある。
シリカ系充填材(e)としては、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ等の乾式法により合成されたシリカ、沈降シリカ、シリカゲル等の湿式法により合成されたシリカを挙げることができる。これらの中でも、前記比表面積を有するシリカを得やすい点で、ヒュームドシリカ、沈降シリカが好ましい。
シリカ系充填材(e)は、一種単独で用いても、二種以上を混合して用いてもよい。また、必要に応じて、シリカ系充填材(e)の表面を、例えば、オルガノポリシロキサン、オルガノポリシラザン、クロロシラン、アルコキシシラン等の表面処理剤で処理したものを用いてもよい。
シリカ系充填材(e)の配合割合は、前記シリコーン生ゴム(a)と前記粘着力向上剤(c)との合計100質量部に対して、1〜30質量部とするのが好ましく、5〜20質量部とするのがより好ましい。配合割合が1質量部未満であると、弾性部材の強度が低下して、十分な効果が得られ難くなり、また、使用時に微細な削りカスやのり残りが発生しやすくなることがある。一方、配合割合が30質量部を超えると、弾性部材の粘着力が低下することがある。
さらに、この発明では、前記シリコーン生ゴム(a)から前記シリカ系充填材(e)の他に、適宜、任意成分を添加することが可能である。
例えば、前記成分を混合する時の架橋反応を抑制するための反応制御剤を添加することができる。この反応制御剤としては、例えば、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサノール、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ブチン、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ペンチン、3,5−ジメチル−3−トリメチルシロキシ−1−ヘキシン、1−エチニル−1−トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2−ジメチル−3−ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン等が挙げられる。
この反応制御剤を添加する場合、その配合割合は、前記シリコーン生ゴム(a)と前記粘着力向上剤(c)との合計100質量部に対して、0〜5.0質量部とすることができ、特に0.05〜2.0質量部とするのが好ましい。この反応制御剤の配合割合が5.0質量部を超えると粘着性組成物の硬化時に硬化し難くなることがある。
また、この反応制御剤の他にも、適宜、任意成分を添加することが可能であり、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルジフェニルシロキサン等の非反応性のポリオルガノシロキサン、塗工の際の粘度を下げるための溶剤として、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、ヘキサン、オクタン、イソパラフィン等の脂肪族系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶剤、又はこれらの混合溶剤、染料、顔料等を使用することができる。
前記シリコーン生ゴム(a)、架橋成分(b)、粘着力向上剤(c)、触媒(d)及びシリカ系充填材(e)を含有する組成物としては、適宜製造してもよく、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、前記シリカ系充填材(e)を含有しない組成物である信越化学工業株式会社製の商品名「KE1214」、「X−40−3098」等の「X−40系」及び「X−34−632A/B」等の「X−34系」組成物等が入手可能である。
前記過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物は、シリコーン生ゴム(a)と、粘着力向上剤(c)と、シリカ系充填材(e)と、有機過酸化物(f)とを含有する粘着性組成物を挙げることができる。
前記ゴムシリコーン生ゴム(a)としては、(R2SiO2/2)単位(Rは、炭化水素基を表す。)を含み、置換基を有していてもよいポリシロキサンの長鎖重合体等であればよく、例えば、ポリジメチルシロキサン、その置換体等が挙げられる。このシリコーン生ゴム(a)の性状、粘度等は、前記付加反応硬化型粘着性組成物に含有されるシリコーン生ゴム(a)と基本的に同様である。シリコーン生ゴム(a)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物に含有される粘着力向上剤(c)及びシリカ系充填材(e)は、それぞれ、前記付加反応硬化型粘着性組成物に含有される粘着力向上剤(c)及びシリカ系充填材(e)と基本的に同様である。
過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物に含有される有機過酸化物(f)は、主として、シリコーン生ゴム(a)同士を、又は、シリコーン生ゴム(a)と粘着力向上剤(c)とを架橋させる硬化剤であり、例えば、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、ジ−t−ブチルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類等が挙げられる。有機過酸化物(f)としては、ジアシルパーオキサイド類が好ましく、ベンゾイルパーオキサイドが特に好ましい。
有機過酸化物(f)の配合割合は、シリコーン生ゴム(a)と粘着力向上剤(c)との合計質量に対し、0.2〜5.0質量部とするのが好ましく、特に0.5〜2.5質量部とすることが好適である。配合割合が、0.2質量部未満では硬化性が低下して架橋密度が低くなって粘着層の粘着力が低下することがあり、一方、5.0質量部を超えると、粘着性組成物によって形成されるゴム弾性部材の硬度が高くなり、粘着力が低下するという欠点が生じる場合がある。
過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物には、さらに、シリコーン生ゴム(a)、粘着力向上剤(c)、シリカ系充填材(e)及び前記有機過酸化物(f)の他に、適宜、任意成分を添加することが可能である。任意成分としては、前記付加反応硬化型粘着性組成物で例示した成分が挙げられる。
このような過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物としては、適宜製造してもよく、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、前記有機過酸化物(f)を含有しない組成物である、信越化学工業株式会社製の商品名「KR−101−10」、「KR−120」、「KR−130」及び「KR−140」等が入手可能である。