JP2009102562A - ディーゼルエンジン用燃料油組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】脂肪酸アルキルエステル燃料をディーゼルエンジン用燃料油に用いる軽油基材に混合して使用する際に問題となる、曇り点以上の温度での貯蔵における燃料油中への結晶析出を抑制したディーゼルエンジン用燃料油組成物を提供すること。
【解決手段】(a)10容量%留出温度が180〜235℃、90容量%留出温度が280〜350℃の蒸留性状を有し、硫黄分が10質量ppm以下であり、飽和分が70〜86容量%、芳香族分が14〜30容量%であり、アニリン点が45〜87℃で、かつ、カウリブタノール価が20〜60である軽油基材に、(b)カウリブタノール価が65〜100である脂肪酸アルキルエステルを0.1〜5.0質量%混合してなるディーゼルエンジン用燃料油組成物。
【選択図】なし

Description

本発明は、ディーゼルエンジン用燃料油組成物に関する。更に詳しくは、曇り点以上の温度での貯蔵における燃料油中への結晶析出が抑制された脂肪酸アルキルエステルの混合されているディーゼルエンジン用燃料油組成物に関する。
近年、地球温暖化問題に対応するため、自動車より排出されるCOを削減すべく、ハイブリット車等に代表されるような燃費改善によるCO削減のための新技術の開発・導入が盛んに行われている。CO削減の取組みは、自動車業界のみならず、石油業界でも盛んに行われており、特に二酸化炭素削減プロトコル、いわゆる京都議定書において、CO排出がゼロカウントとされるバイオマス由来の燃料を代替燃料として用いることが検討されている。その中でもバイオディーゼル燃料は、ガソリンエンジンに対するディーゼルエンジンの熱効率の優位性(CO排出量の優位性)、ならびに植物油を原料とすることから、再生可能なエネルギー源であること、廃食油などの廃棄物を燃料に変換できることから、廃棄物削減が可能となることなどの特徴も相俟って、社会的な注目度もかなり高まってきている。
しかしながら、現在のバイオディーゼル燃料の主流である、種々の動植物油又は廃食油の油脂をアルキルエステル化して得られる脂肪酸アルキルエステル燃料には、様々な問題が存在する。
例えば、含有する脂肪酸アルキルエステルの組成が、飽和脂肪酸アルキルエステルを多く含むものの場合、低温性能に劣り、冬季などの低温環境下で使用する際にはディーゼル車の燃料ラインなどに設置されているフィルターを閉塞させるためエンジンへの燃料供給を阻害し、正常な運転を妨げる可能性がある。
また、含有する脂肪酸アルキルエステルの組成が、不飽和脂肪酸アルキルエステルを多く含むものの場合、上記飽和脂肪酸アルキルエステルを多く含むものの場合と異なり、軽油と遜色ない低温性能を有するものもあるが、熱や光による分解・重合が起こりやすくなり、夏季などの高温環境下や、エンジンよりの輻射熱により燃料温度が著しく高くなる場合には、不飽和脂肪酸アルキルエステル由来の分解物・重合物によりトラブルを発生する可能性がある。
更に、脂肪酸アルキルエステル製造の原料となる動植物油又は廃食油の油脂が、アルキルエステル製造時に未反応、もしくは反応が不完全であるため残留するトリグリセリドやジグリセリド、モノグリセリドなどの脂肪酸グリセリドや、トリグリセリドのアルキルエステル化が完全になされた際に生成するグリセリン、脂肪酸アルキルエステル製造プロセスで使用されるアルキルアルコール、触媒として用いられるカリウムなどのアルカリ金属類は、燃料タンクや、燃料ライン、更にはエンジン部材に対し悪影響をもたらすため、軽油代替燃料としての使用に関しては、燃料性状のみならず、様々な品質項目において注視が必要であり、単純なる軽油代替燃料としての使用は好ましくない。
このような脂肪酸アルキルエステル燃料を使用するにあたり、上記したような脂肪酸アルキルエステル燃料の懸念材料を払拭するため、種々の添加剤(BDF用低温流動性向上剤、酸化防止剤等)の開発や、軽油への混合技術に関する技術検討が進められてきた。特に軽油へ適宜混合し使用する方法は、盛んに検討されており(例えば、特許文献1、特許文献2参照)、脂肪酸アルキルエステルの軽油への混合は、脂肪酸アルキルエステル単独で使用した場合に比べCO削減の観点からは若干劣るものの、燃料品質を維持しつつ、かつCO削減も可能となる最も現実的な利用法といえる。
上記のような技術的背景から、脂肪酸アルキルエステルは軽油へ混合することにより、それ自体の低温性能・安定性・精製度の問題を薄めることが可能となり、かつ、5%以下の低濃度の混合であれば、ほぼ問題ないレベルとできることが明らかになった。
特開2005−23136号公報 特開2006−233224号公報
ところで、本発明者らも、上記のような脂肪酸アルキルエステルの軽油混合利用を検討していたが、その際に、脂肪酸アルキルエステル混合軽油組成物において、脂肪酸アルキルエステル由来の結晶が冬季には十分達し得る温度である10℃における燃料油中で析出する現象が起こる場合があることを確認した。
従来の軽油では、ワックス析出による低温流動性の評価として曇り点を使用しており、曇り点以上の温度ならば、長期貯蔵したとしてもワックス結晶が析出した例はなく、曇り点は結晶析出に関し信頼のおける値であった。しかしながら、前記の脂肪酸アルキルエステル混合軽油組成物においては、曇り点以上の温度であっても脂肪酸アルキルエステル由来の結晶析出が貯蔵時の燃料油中で恒常的に発生するのであれば、例えばSSタンクよりの燃料ラインにあるフィルターを閉塞させる恐れがあるほか、燃料油の低温性能に関しても、貯蔵した燃料を用いた場合には、流動点や目詰まり点などの低温性能に関する試験結果より予想される実用性能を下回る可能性があることが容易に想像される。しかしながら、この現象に関する報告は未だなされておらず、そのため、この現象に係る問題を解決すべく検討を実施した例や、知見は存在していない。
本発明の目的は、上記のような技術的な背景から、脂肪酸アルキルエステル燃料をディーゼルエンジン用燃料油に用いる軽油基材に混合して使用する際に問題となる、曇り点以上の温度での貯蔵における燃料油中への結晶析出、特に、ディーゼル車輌の燃料タンクと比較して、外気の影響による温度変化が小さい製油所のタンクやSSの地下タンクにおいても、冬季には十分達し得る温度である10℃での結晶析出を抑制したディーゼルエンジン用燃料油組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、ディーゼルエンジン用燃料油組成物を様々な角度から分析し、鋭意検討を行った結果、曇り点以上の温度での貯蔵における燃料油中への結晶析出は、炭素数16、炭素数18以上の重質な飽和脂肪酸アルキルエステルと、それを生産する際に副生成物として発生するグリセリド類の相互作用に起因することをつきとめ、軽油基材と混合する脂肪酸アルキルエステル及びグリセリド類の種類を、上記重質な飽和脂肪酸アルキルエステル及びグリセリド類を極力含まないものとすることで、曇り点以上の温度での貯蔵における燃料油への結晶析出の抑制が可能である、本発明のディーゼルエンジン用燃料油組成物の発明に至った。すなわち、本発明は、以下に示す特徴を有するディーゼルエンジン用燃料油組成物を提供するものである。
(1)(a)10容量%留出温度が180〜235℃、90容量%留出温度が280〜350℃の蒸留性状を有し、硫黄分が10質量ppm以下であり、飽和分が70〜86容量%、芳香族分が14〜30容量%であり、アニリン点が45〜87℃で、かつ、カウリブタノール価が20〜60である軽油基材に、(b)カウリブタノール価が65〜100である脂肪酸アルキルエステルを0.1〜5.0質量%混合してなることを特徴とするディーゼルエンジン用燃料油組成物。
(2)前記脂肪酸アルキルエステルが、動植物油又は廃食油を含む油脂を原料として製造されたことを特徴とする上記(1)に記載のディーゼルエンジン用燃料油組成物。
本発明のディーゼルエンジン用燃料油組成物は、脂肪酸アルキルエステルが混合されているにかかわらず、曇り点以上の温度、特に10℃での貯蔵における燃料油中への結晶析出が抑制される。そして、流動点や、目詰まり点などの低温性能が優れている。
以下、発明の詳細を記載する。
本発明におけるディーゼルエンジン用燃料油組成物に含有される脂肪酸アルキルエステルの量は、0.1〜5.0質量%、好ましくは0.5〜5.0質量%である。脂肪酸アルキルエステル含有量が5.0質量%以下であれば、脂肪酸アルキルエステルを燃料として使用した際に問題となる、酸化安定性、低温流動性への懸念がなく、かつ、含酸素燃料であることから、ディーゼル機関における燃焼状態を改善し、粒子状物質(PM)等を低減することができる。
本発明の脂肪酸アルキルエステルを混合したディーゼルエンジン用燃料油組成物における軽油基材の蒸留性状は、10容量%留出温度が180〜235℃、好ましくは183〜230℃、90容量%留出温度が280〜350℃、好ましくは315〜350℃である。
10容量%留出温度が180℃以上であれば、ディーゼルエンジン用燃料油組成物として適切な引火点、動粘度を保つことができ、235℃以下であれば、適度な揮発性を有することから、燃焼室内での空気との混合が促進され、不均一混合燃焼に由来する粒子状物質(PM)等を低減することができる。また、90容量%留出温度が280℃以上であれば、動粘度を適切に保つことができ、350℃以下であればディーゼルエンジン用燃料油組成物中の重質成分、特に芳香族分を低いレベルに抑えることができ、燃焼性を良好に保つことができる。
また、本発明の脂肪酸アルキルエステルを混合したディーゼルエンジン用燃料油組成物における軽油基材に含まれる硫黄分は、10質量ppm以下、好ましくは8質量ppm以下である。
硫黄分を10質量ppm以下とすることで、エンジンから排出される粒子状物質(PM)の成分であるサルフェートの排出量が少なくなり、排ガス後処理装置の性能に対する影響も小さくなる。
なお、本発明における、蒸留性状はJIS K 2254の常圧法蒸留試験、硫黄分はJIS K 2541の微量電量滴定式酸化法により、それぞれ測定できる。
本発明の脂肪酸アルキルエステルを混合したディーゼルエンジン用燃料油組成物における軽油基材の飽和分は、70〜86容量%、好ましくは72〜85容量%、芳香族分は14〜30容量%、好ましくは15〜28容量%である。この芳香族分の内、2環芳香族類含有量は好ましくは5.0容量%以下、より好ましくは3.0容量%以下、3環以上の多環芳香族類の含有量は好ましくは1.0容量%以下、より好ましくは0.5容量%以下であることが好ましい。
芳香族分を14〜30容量%とすることにより、ディーゼルエンジン用燃料油組成物の溶解性を適切に保つことが可能となり、低温時に析出することで、フィルター閉塞の原因となるn−パラフィンの析出開始温度(曇り点)を低いレベルとすることができ、かつ、自動車の燃料系統に使用されるゴムパッキンの膨潤を適度に保つことを可能とし、燃料漏れなどのトラブルを回避できる。また、飽和分を70〜86容量%、芳香族分を14〜30容量%、特に2環、3環以上の多環芳香族を低レベルに抑えることにより、燃焼時にPM及びNOxの排出量を低減できる。
なお、ここでの組成割合は、JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法(HPLC)」に基づいて求められる。
本発明の脂肪酸アルキルエステルを混合したディーゼルエンジン用燃料油組成物における軽油基材のアニリン点は、45〜87℃、好ましくは50〜85℃である。
アニリン点が87℃以下であれば、ディーゼルエンジン用燃料油組成物の溶解力を適切に保つことが可能となる。また、各種ゴムを用いたシール材の観点からも、ゴム膨潤を適度にすることでシール性を確保することが可能となる。アニリン点が45℃以上であれば、軽油の成分中で、特にアニリン点を低くするに寄与の大きい芳香族分を上記のような適切な範囲に保つことが可能となるため、燃焼時のPM及びNOx排出量を低減できる。
なお、ここでのアニリン点は、JISK 2256「石油製品アニリン点及び混合アニリン点試験方法」に準拠して求められる。
本発明の脂肪酸アルキルエステルを混合したディーゼルエンジン用燃料油組成物における軽油基材のカウリブタノール価は、20〜60、好ましくは22〜55である。
カウリブタノール価が20以上であれば、ディーゼルエンジン用燃料油組成物に添加される種々の高分子量の添加剤を確実に溶解せしめ、製油所よりの出荷から、ユーザーの自動車に給油されるまでの各種フィルター、ならびに自動車の燃料系統にある各種フィルターをストレスなく通油させることができ、かつ、添加剤がフィルターでトラップされることもないため、調製初期と同等の品質を使用期間中維持することができる。また、曇り点以上の温度で長時間保管された際に生じる結晶の析出を抑制することができる。また、カウリブタノール価が60以下であれば、軽油基材の成分中で、特にカウリブタノール価上昇に寄与の大きいナフテン分、芳香族分を上記のような適切な範囲に保つことが可能となるため、燃焼時のPM及びNOx排出量を低減できる。
ここでのカウリブタノール価は、炭化水素の相対的溶解力を示すもので、カウリブタノール価が高いほど、樹脂溶解性が高いことを示す。本発明におけるカウリブタノール価の測定法は、ASTM D 1133に準拠し、下記の方法により求めることができる。
すなわち、天然カウリ樹脂とブチルアルコールで調製した標準カウリブタノール溶液20±0.1gを200ミリリットル(以下、「mL」と記す)の三角フラスコにとり、この三角フラスコを25±1℃に保った水溶液に浸す。次に、先ずトルエンをビュレットに採り、上記の三角フラスコ内に滴定する。終点は、フラスコの下に印刷活字を置き、活字の字画が不鮮明になったときとする。同様に、トルエンとn−ヘプタンとの混合液(容量割合でトルエン25:n−ヘプタン75)についても滴定する。そして、カウリブタノール価測定対象油(以下、「試料」と言う)をビュレットにとり、同様の操作で滴定する。カウリブタノール価は、下記数1の式によって算出する。
《数1》
カウリブタノール価=[〔65(C−B)〕/〔A−B〕] + 40
A:滴定に要したトルエンの量(mL)
B:滴定に要したn−ヘプタン・トルエン混合液の量(mL)
C:滴定に供した試料の量(mL)
なお、上記のカウリブタノール価の測定法において、標準カウリブタノール溶液は、トルエンで滴定したときカウリブタノール価が100〜110で、容量割合でトルエン25:ヘプタン75の混合液で滴定したときカウリブタノール価が40になるように予め調整しておく。
本発明におけるディーゼルエンジン用燃料油組成物に混合する脂肪酸アルキルエステルは、モノ、ジ、トリグリセリドの合計含有量が好ましくは0.01質量%以上5.0質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上4.5質量%以下であり、その内、ジグリセリドが好ましくは0質量%以上1.5質量%以下、より好ましくは0質量%以上1.0質量%以下であり、トリグリセリドが好ましくは0質量%以上1.5質量%以下、より好ましくは0質量%以上1.0質量%以下である。また、カウリブタノール価が65〜100、好ましくは65〜95である。
カウリブタノール価が上記の範囲である脂肪酸アルキルエステルを生産する際に副生成物として発生するグリセリド類は、融点が低く、かつ、そり際のミリスチン酸アルキルエステル、パルミチン酸アルキルエステル以上の重質な飽和脂肪酸アルキルエステルの生成量も少ないので、重質な飽和脂肪酸アルキルエステルと相互作用を起こさないため、曇り点以上での貯蔵における結晶析出の面では問題ないと考えられるが、現時点で詳細は不明であって、燃料油製品としての品質の観点から、上記の範囲内であることが好ましい。即ち、グリセリド類の存在は、ディーゼル車輌の燃料フィルター閉塞や、燃焼不良による排ガス悪化などの影響を与えることから、上記の範囲内であることが好ましい。
なお、ここでのグリセリド量は、EN14105「Fat and oil derivatives - Fatty Acid Methyl Ester(FAME) − Determination of free and total glycerol and mono−, di−, triglyceride contents」に準拠し測定できる。
本発明におけるディーゼルエンジン用燃料油組成物に混合する脂肪酸アルキルエステルのカウリブタノール価は上記のように65〜100であるが、カウリブタノール価が65以上であれば、脂肪酸アルキルエステル中の組成がミリスチン酸アルキルエステル、及びパルミチン酸アルキルエステル(両アルキルエステルの構造については、後記の脂肪酸アルキルエステル代表例の表1を参照)などの比較的重質で、かつ飽和な脂肪酸アルキルエステルが少ないことを示しており、つまりは脂肪酸アルキルエステル自体の溶解度が高いことから、軽油基材と混合した際に発生する溶解度の低下に伴うスラッジの発生や、添加剤等の溶解性低下による通油性の低下を抑制することができる。カウリブタノール価が100以下であれば、軽油基材と混合した後の各種ゴムを用いたシール材のゴム膨潤を適度にすることでシール性を確保することができる。
なお、ここでのカウリブタノール価は、前記の通りのASTM D 1133に基づいて求められる。
本発明におけるディーゼルエンジン用燃料油組成物に混合されている脂肪酸アルキルエステルは、動植物油、廃食油などの油脂を原料としていることが好ましい。
動植物油および廃食油などの油脂を原料とした脂肪酸アルキルエステルは、硫黄分を含まないため、軽油基材に混合することにより、ディーゼルエンジン用燃料油組成物中の硫黄分をより低レベルに抑えることが可能となり、エンジンから排出される粒子状物質(PM)の成分であるサルフェートの排出量を少なくし、排ガス後処理装置の性能に対する影響も小さくなり好ましい。また、パーム油、ナタネ油、大豆油、ココナツ油等の植物油系油脂の利用は、再生可能エネルギーと位置付けられていることから、国際間の二酸化炭素削減プロコトル(京都議定書)においてはカーボンニュートラルな燃料であるとされ、二酸化炭素排出量削減の観点からも好ましく、その中でも、ヤトロファに代表される非食料系の植物油の使用は、食料と燃料の競合による食料問題の観点や、荒地などでの栽培も可能なことから、荒地の緑地化という観点において、より好ましい。
原料油脂からの脂肪酸アルキルエステル製造のための反応方法及び精製については、一般的なアルカリ金属を用いたアルカリ触媒法、有機酸などの酸触媒を用いた酸触媒法、リパーゼ酵素を用いたリパーゼ法などがあるが、本発明において用いられる脂肪酸アルキルエステルは、反応・精製法を問わない。
本発明で使用される脂肪酸アルキルエステルのアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などの、異性体を含む各種アルキル基である。下記表1に、上記アルキル基が結合した脂肪酸アルキルエステルの代表例を示す。ただし、本発明において、使用される脂肪酸アルキルエステルの種類は、下記代表例に限定されるものではない。
本発明で使用される脂肪酸アルキルエステル及び原料に使用される油脂の脂肪酸の分析は、ガスクロマトグラフ(GC)を用いて行うことが可能である。
本発明におけるディーゼルエンジン用燃料油組成物の15℃における密度は、0.70〜0.86g/cm、好ましくは0.75〜0.86g/cmであることが好ましい。15℃における密度が0.70〜0.86g/cmの範囲であれば、軽油の使用を前提に設計されたディーゼル車に対し、ディーゼル燃焼時の着火性を維持し、適切な燃焼状態を保つことができるため好ましい。
なお、15℃における密度はJISK 2249の密度試験方法及び密度・質量・容量換算表により測定することができる。
本発明におけるディーゼルエンジン用燃料油組成物の30℃動粘度は、1.700〜6.000mm/s、好ましくは2.000〜5.800mm/sであることが好ましい。30℃における動粘度が1.700〜6.000mm/sであれば、軽油の使用を前提に設計されたディーゼル車に対し、燃料供給ポンプの磨耗や、燃料自体の流動性の面で適切に使用することが可能であるため好ましい。
なお、30℃における動粘度はJISK 2283の動粘度試験方法及び粘度指数算出方法により測定することができる。
本発明におけるディーゼルエンジン用燃料油組成物の引火点は、45〜100℃、好ましくは45〜95℃であることが好ましい。この範囲内ならば、火気による引火の危険性が低く、一般車はもちろんのこと、特にディーゼルエンジンの使用率が高く、かつ使用現場での給油の機会が多い重機等を取り扱う際にも好ましい。
なお、引火点は、JIS K 2265−3の引火点の求め方−第3部:ペンスキーマルテンス密閉法により測定することができる。
本発明のディーゼルエンジン用燃料油組成物に用いる軽油基材は、種々の石油留分から、蒸留によりその蒸留性状を調整し、水素化脱硫、芳香族抽出処理等の処理によりその組成を調整し、上記本発明に規定する性状を満たすようにして製造することができる。本発明の燃料油組成物は、JIS規格に定められている軽油の、特1号、1号、2号、3号、特3号のいずれにも適用可能である。本発明の燃料油組成物に用いる軽油基材の製造方法は、上記本発明に規定する性状を満たす限りにおいて特に制限されない。例えば、原油の常圧蒸留で得られた軽油留分や、灯油留分と軽油留分の混合物や、重油を接触分解、水素化脱硫、水素化分解処理、脱アロマ処理及びコーカー等で重質油分をアップグレーディング等した後に分留される軽油留分など種々の留分を用いて製造することができる。そして、本発明のディーゼルエンジン用燃料油組成物は、上記のようにして得られる本発明に規定する性状を満たす軽油基材に、上記のような本発明に規定する性状を満たす脂肪酸アルキルエステルを、上記のような比率で混合して製造することができる。
本発明のディーゼルエンジン用燃料油組成物には、低温流動性向上剤を10〜1000容量ppm、好ましくは50〜700容量ppm添加することが好ましい。低温流動性向上剤を10容量ppm以上添加することにより、目詰まり点(CFPP)や流動点(PP)を改善することができ好ましい。また低温流動性向上剤の添加量が1000容量ppm以下であることにより、添加剤自体の凝集等を防ぐことができ好ましい。
本発明において使用する低温流動性向上剤は、種々のものが使用でき、その例として、アルケニルコハク酸イミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アルキルアクリレート共重合体、ポリエチレングリコール誘導体等の共重合ポリマー、塩素化ポリエチレン、ポリアルキルアクリレート等のポリマーが挙げられる。これらの低温流動性向上剤は、1種単独で用いても良いし、2種以上を組合せて用いても良い。
本発明のディーゼルエンジン用燃料油組成物においては、潤滑性向上剤を、必要に応じて添加しても、しなくても良く、添加する場合は、一般に500質量ppm以下、好ましくは300質量ppm以下とする。
一般的に、脂肪酸アルキルエステル、及びグリセリド類は、潤滑性向上効果を有しており、特に炭素数16、炭素数18などの飽和脂肪酸、飽和脂肪酸エステル及びグリセリド類は潤滑性向上剤の主成分として使用されている。したがって、脂肪酸アルキルエステルを混合したディーゼルエンジン用燃料油組成物には、石油学会試験法 JPI−5S−50−98:軽油−潤滑性試験法(HFRR試験)に代表されるような潤滑性能評価試験において十分な潤滑性を示すのであれば、必ずしも潤滑性向上剤を添加する必要はない。しかし、脂肪酸アルキルエステル混合軽油を製品として調製する際には、潤滑性向上剤が添加された製品軽油をベースにして、それに脂肪酸アルキルエステルを混合して調製するのが現実的である。その場合には、結晶析出要因となる飽和脂肪酸、飽和脂肪酸エステル及びグリセリド類が、ベースに用いた製品軽油に添加されている潤滑性向上剤の分多くディーゼルエンジン用燃料油組成物に含有されることになるが、潤滑性向上剤の添加量を500質量ppm以下とすることにより、曇り点以下の温度、特に10℃における結晶析出を抑制することが可能となり、製品の脂肪酸アルキルエステル混合軽油のフィルタビリティーの観点から好ましい。
また、本発明のディーゼルエンジン用燃料油組成物には、必要に応じて、その他各種の添加剤を適宜配合することができる。このような添加剤としては、セタン価向上剤、界面活性剤、防腐剤、防錆剤、泡消剤、清浄剤、酸化防止剤、色相改善剤、など公知の燃料添加剤が挙げられる。これらを一種又は数種組合せて添加することができる。
次に、本発明を実施例、比較例により更に具体的に説明する。なお本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。
実施例、比較例において、引火点、蒸留性状、硫黄分、30℃動粘度は、JIS K 2204に定められる方法に準拠して測定を行った。その他に、15℃密度は、JIS K 2249、曇り点は、JIS K 2269、アニリン点は、JIS K 2256により測定を行った。
飽和分、芳香族分の割合と、芳香族分の環数別割合は、JPI-5S-49-97に基づいて測定を行った。HPLCの装置構成及び分析条件を以下に示す。
装置:Agilent 1100 Series(ALS:G1329A, Bin Pump: G1312A, Degasser: G1379A, Rid: G1362A, Colcom: G1316A)
移動相:n−ヘキサン
流量:1.0ml/min
カラム:硝酸銀含浸シリカカラム(4.6mml.D.*70mmL. センシュー科学製AgNO−1071−Y)
アミン修飾カラム(4.0mml.D.*250mmL. 2本 センシュー科学製 LICHROSORB−NH
カラム温度:35℃
試料濃度:10vol%
注入量:5μl
パラフィン類含有量ならびにナフテン類の含有量は、下記方法により求めた。
まず試料をHPLCにより飽和分と芳香族分とに分画後、飽和分についてGC−MSによりタイプ分析を行った。ここで得られた分析結果を基に、ASTM D 2786に従って解析を行い、飽和分中のパラフィン類と、ナフテン類の含有割合を求めた。また、ここで得られた飽和分中の環数別ナフテン類の割合を、上記のように求めた飽和分割合に乗ずることで、ナフテン類の含有量を求めた。
分析条件を下記に示す。
装置:HP−6890 HP5973 四重極質量分析計
カラム:DB−1:30m×0.25mmI.D.×0.25μm
オーブン温度:40℃(1min)→10℃/min→280℃(5min)
注入口温度:43℃ Oven track mode ON
インターフェース温度:300℃
キャリアガス:He:55KPaConstant flow mode ON
Solvent Delay:4.5min
質量範囲:50〜500 Threshold=100 Sampling♯3
イオン化電圧:70eV
注入方法:オンカラム注入 1.0μl
n−パラフィン含有量は、ガスクロマトグラフィ(GC)により測定を行った。以下に測定条件を示す。
・軽油基材とディーゼルエンジン用燃料油組成物について
装置:5890 series2(Agilent Technologies)
カラム:Ultra 1 (Agilent) Crosslinked Methyl Silicone Gum、50m×0.20mmI.D.
膜厚0.33μm
検出器:FID
オーブン温度:60℃(0min)−(6℃/min)→ 340℃(10min) Run 56.7min
注入口:On−column
注入口温度:オーブントラックモード(オーブン温度+3℃)
検出器温度:350℃
キャリアガス:He 280kPa (定圧) 1.3mL/min 線速度29.7cm/sec(at 60℃)
メイクアップガス:He
FID燃焼ガス:H 30 mL/min, Air 400mL/min
注入量:0.2μl
定量法:内標準法(内標準物質:フタル酸ジブチルエステル)
〔ディーゼルエンジン用燃料油組成物の調製〕
実施例1〜3、比較例1〜3
表2に示した性状の軽油基材、及び表3に示した性状の脂肪酸アルキルエステルを用い、これらの軽油基材と脂肪酸アルキルエステルを表4に示した配合比で混合し、ディーゼルエンジン用燃料油組成物を調製した。得られた燃料油組成物の性状を表4に示した。
〔貯蔵時の結晶析出試験〕
実施例、比較例で得られた燃料油組成物を用いて、貯蔵時の結晶析出試験を行った。この試験は下記の手順により実施した。
試験燃料100mLをスクリュー瓶に採取し、50℃にて1時間加熱する。1時間経過後、サンプルを室温にて30分放冷する。放冷した後、10℃に保たれた恒温槽に静置し、12時間毎に結晶の析出を目視にて確認する。そして、10℃における貯蔵において、1ヶ月経過後の液中に結晶の析出が確認されなければ「○」と、結晶の析出が確認されれば「×」と判定した。
上記結晶析出試験の判定結果を表4に示した。
なお、本試験は脂肪酸アルキルエステルに由来する結晶析出を1ヶ月貯蔵したもので確認するものであり、曇り点の測定は実施例、比較例で得られた燃料油組成物を調合後、JIS K 2269に準拠し測定したものである。
上記結晶析出試験における10℃で1ヶ月貯蔵後の、実施例1で得られた燃料油組成物を図1として、比較例2、3で得られた燃料油組成物を図2として、比較例1で得られた燃料油組成物の結晶を図3としてそれぞれ示した。
表4に示したように、実施例1〜3で得られた燃料油組成物においては、10℃における1ヶ月間の貯蔵試験において、結晶の析出は確認されず、混合する軽油基材、脂肪酸アルキルエステルの適切な調製により、結晶析出が抑制されていることがわかる。
一方、比較例1で得られた燃料油組成物においては、軽油基材へ混合する脂肪酸アルキルエステルのカウリブタノール価が低く、軽油基材へ混合後の溶解度が適切な値を維持できなかったことから、結晶の析出が発生したことが確認できる。比較例2で得られた燃料油組成物においては、脂肪酸アルキルエステル混合量が10質量%と多すぎることから、結晶の析出が確認された。比較例3で得られた燃料油組成物においては、ベースとなる軽油基材の性状、特にカウリブタノール価やアニリン点などの、燃料油の溶解性を示すパラメーターが低いため、出来上がりの溶解度を適切な値に維持できず、結晶の析出を抑制できていない。
結晶析出試験における10℃で1ヶ月貯蔵後の実施例1で得られた燃料油組成物である。 結晶析出試験における10℃で1ヶ月貯蔵後の比較例2、3で得られた燃料油組成物である。 結晶析出試験における10℃で1ヶ月貯蔵後の比較例1で得られた燃料油組成物の結晶である。

Claims (2)

  1. (a)10容量%留出温度が180〜235℃、90容量%留出温度が280〜350℃の蒸留性状を有し、硫黄分が10質量ppm以下であり、飽和分が70〜86容量%、芳香族分が14〜30容量%であり、アニリン点が45〜87℃で、かつ、カウリブタノール価が20〜60である軽油基材に、
    (b)カウリブタノール価が65〜100である脂肪酸アルキルエステルを0.1〜5.0質量%混合してなることを特徴とするディーゼルエンジン用燃料油組成物。
  2. 前記脂肪酸アルキルエステルが、動植物油又は廃食油を含む油脂を原料として製造されたことを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジン用燃料油組成物。
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