本発明は、高品位音場再生の為の球形スピーカーシステムに関する。
エジソンによる蓄音機の発明以来、高品位音場再生を目的としたさまざまな分野(ソフト、プレーヤー、アンプ、スピーカーなど)の技術進歩には目覚しいものがある。その最たる目的は、コンサートホールやスタジオなどで収録された原音を、あたかも自宅のリビングルームにその奏者を招いたかの如く、忠実に再生する事にあり、奏者の技量や録音現場の音響特性までも、音の入り口から出口まで全く修飾されない再現性があってこそ、その先の芸術性を語ることが出来ると、本発明者は思う。
収録された音の電気信号をアンプで増幅し、スピーカーから音という運動エネルギーとして放射する。つまり、スピーカー部では電気エネルギーから運動エネルギーへの変換が行われる。この2つの事象の違うエネルギーの変換装置としてのスピーカーシステムに於いて、ことスピ−カーユニットに関して言えば、磁界内の電流に働くローレンツ力を応用した旧態然とした方式(ダイナミック型)が今もなお主流となる一方、スピーカーユニットを搭載する筺体については、方式では平面バッフルから始まり、密閉型、バスレフ型、ホーン型、等など、その外形では古典的な立方体から始まり、タワー型、砲弾型、球形(近似球形を含む)等など、より高品位な音、すなわち、より正確な原音再生を目指して、様々な方式が考案されてきた。
「音」の基本を考えた時、自然界の音の多くは、無指向性・点音源の特性を持っていると言われている。虫の声然り、小鳥のさえずり然り、非常に小さな点(理論上、質量・体積を持たない概念上の点)から前・後・左・右・上・下360度全ての方向に均一に放射される球面波として拡散して行く。一部の、ホーン形状を持つ楽器(トランペット、サックス等)でさえ、その本来の音源はマウスピースやリードと言う点音源であり、そこから拡がるべき球面波をホーン作用で増幅・方向付けして放射しているに過ぎず、結局その楽器の出口から発せられる音波は球面波となって拡がって行く。つまり、理想的な高品位原音再生の音源には、点音源が相応しい。
点音源には、1)全方向に同じ波面を伝播する、2)放射インピーダンスに乱れがない、3)キャビネットによる回折が無い、4)平板状音源に近づいた時に起こる近距離音場の問題がない、などの優れた特徴があり、歪感のないクリヤな再生音を、まるでそこにスピーカーが存在しないかの如く、自然に、高品位に再生する。
また、実際にCDやDVDに収録された音は、音源そのものの音ではなく、ある1点(ステレオ録音の場合は2点)に到達した直接音と間接音が混ざり合った物だが、それを再生する場合、その1点に到達した全ての音を点音源から全方位に放出する事で、収録時の音場が再現される。このとき、スピーカーシステムの位置は、収録時の奏者の位置ではなく、収録用のマイクロホンの位置であり、収録時のリスナーの位置により近く、再生する際に聴取距離の制限を強いられがちなリビングなどのリスニングルームに於いて、より近接聴取が可能となる点でも、点音源からの全方位無指向性のスピーカーシステムは、高品位音場再生に適したシステムであると言える。
然るに、理論上の点音源・全方位無指向性スピーカーシステムを具現化するには、現行のスピーカーユニットでは困難(現時点で実用に値する、質量:0・体積:0なる発音体は存在しない)な為、様々な方法で点音源に近いスピーカーシステムが作られてきた。
現実的には、点音源と言う理想に最も近い方法として「呼吸球」と言う名称で60年以上前から音響に携わる開発者たちの一つの目標とも言える技術がある。非常に小さい体積の球体を膨張・収縮させる事で、球面波を発生させる方法で、理論上、その球体の半径をr[cm]とするとその球面波はr/34000[秒]前にその球体の中心にある仮想点音源から発せられた音としてみなす事が出来る。
最近の実用例としては、直径10[cm]足らずの正12面体の全ての面を振動板(発音体)としてドライブするスピーカーユニット(特許文献1参照)を使ったスピーカーシステムが新しく、こと中・高音域に関しては、理想である点音源や呼吸球に近い球面波特性を実現しているが、その小ささゆえ低音域については十分な音圧を得ることが出来ないようで、別途ウーハーなる低音域専用のスピーカーユニットを添えることでその不足を補っている。この場合、指向性を殆ど無視できる低音域とはいえ、低音の出所が球体以外の為、中・高音と低音との位相のつながりに問題が起き、別途その対策が必要となろう。
これ以外にも古くから、球形の筺体に複数個のスピーカーユニットを放射状に取り付け同相駆動する事で呼吸球に近い効果を期待する方法(図1参照)を採るスピーカーシステムが発売された。前述の12面体全面駆動のものには及ばないものの、点音源・呼吸球方式のメリットを充分備えてはいたが、やはり低音域の再生能力に不足があり、到底「高品位音場再生」に域には達しておらず、店内BGMや場内拡声用としての用途に使われる程度だった。
特開2005−123893号公報
本発明者は、近似点音源・呼吸球方式のスピーカーシステムの実現に当たり、前述の特許文献1のようにスピーカーユニットそのものからの開発を必要とせず、既存のスピーカーユニットを使用することで、スピーカーユニットそのものの開発コストや製造コストを抑えられる方式として、球形の筺体に複数個のスピーカーユニットを放射状に取り付け同相駆動する事で図1に示すような呼吸球に近い効果を期待する方法を採り発展させる。
具体的には、前・後・左・右・上・下全方向に満遍なく高音(一般にスピーカーユニットは高い周波数ほどサービスエリアが狭まる傾向にある)をサービスする為、8個以上の偶数個のスピーカーユニットを球形筺体の中心部に点対称に、球形筺体表面に均等に配置し同相駆動する。使用スピーカーユニット数は多いほど、その球形スピーカーシステムの出力波形は球面波に近づくうえ、有効振動板面積・振動板等価重量共に単純に使用スピーカーユニット個数倍となり、低音再生能力も能率も向上する。但し、使用するスピーカーユニットはそれ単体でも、できるだけ再生周波数帯域が広く周波数特性がフラットな、小型・高性能なフルレンジ型を選びたい。何故なら、本発明実施の結果得られる、それ自体が固有の音色を持たない筺体は、補強した低域部分を除いては、その使用スピーカーユニットの裸特性をそのまま露呈するシビアさを有すうえ、再生周波数帯域をネットワークで分割して数種の専用ユニットに各帯域を受け持たせるマルチウエイ方式では、ネットワークによる位相のずれが生じ、呼吸球方式の必須条件である全スピーカーユニットの真の同相駆動が難しくなるからである。一般に、スピーカーユニット振動板が小さいほど高域特性(帯域特性、指向特性ともに)の面で有利であり、逆に振動板が小さいほど不利な低域特性(帯域特性、能率ともに)の面に対しては、その使用スピーカーユニットの数を多くする事で賄う事が出来る。
従来の球形スピーカーシステムの低音不足の原因の一つに、単に球形筺体の内容積不足が上げられる。低音をより豊かに再生するには、筺体の内容積を使用するスピーカーユニットが求める充分な大きさにしたいところであるが、点音源・呼吸球方式のメリットをより活かす為には、筺体は出来るだけ小さくしたい。筺体が大きくなるほどスピーカーユニット取り付け面(バッフル面)の曲率は小さくなり平面バッフルに近くなる為、綺麗な球面波を形成する妨げとなるほか、実用に於いても、聴取スペースや設置方法の面から、スピーカーシステム自体は小型・軽量に越した事はない。
また、もし、球形筺体に充分な内容積を与えたとしても、同一内容積の、球形以外の筺体(立方体筺体など)に同一のユニットを取り付けたスピーカーシステムと比べると、球形筺体のスピーカーシステムの低音再生能力は劣る。その低音不足のもう一つの原因を、当発明者は「球形筺体内に発生する定在波」に求めた。
一般に、スピーカーシステムの筺体内に平行面が存在すると定在波が発生し、忠実な再生を妨げる。定在波は一種の共振であり、容易に減衰しないばかりでなく、周波数とその平行面間距離によっては増幅(発振)する事もある。多くのスピーカーシステムに採用されている立方体の筺体の場合、その内部に3対の平行面が存在し、そこに3方向の定在波を発生する。これをキャンセルする方法として筺体内部に吸音材を貼り付けたり、筺体そのものを平行面の無い異形立方体としたりする。
一方、球形筺体の場合その内面は、理論上微小な平行面の対が無限に存在するとみなせる。球形筺体の表面に球体の中心に点対称に取り付けられた複数かつ偶数個のスピーカーユニットの振動板背面から同相・同時に発せられた音波は、筺体内に於いて、図2(b)に示すように、筺体中心点からの球面波の如き強力な定在波4を発生する。この定在波4が、各スピーカーユニットの振動板に干渉し、その動きを抑制する事で、前面から放射される音波すなわちリスナーの聴取音に及ぼす悪影響は想像に難くなく、殆どの既存の球形スピーカーシステムはその筺体内部に大量の吸音材を詰め込む事によってその定在波の減衰・消滅を図る。しかし、この手法は筺体の容積を、吸音材の体積分ほど減らす事となり、外形を少しでも小さくしたい球形スピーカーシステムとしては、低音域再生能力の点で不利な要因となる為、避けたい手法と言える。
また、スピーカーユニットを球形筺体のまさに中心部に点対称に配置することによって更にプラスアルファーのメリットを生む。相背対するスピーカーユニット同士で、その振動板の振動による筺体への反動を互いに打ち消しあうため、筺体そのものは振動せず、特別強固な設置台を必要としなくなる。スピーカーシステムの設置方法に自由度が増し、結果、設置台のデザインの自由度も広がり、ワイヤーなどで天井から吊り下げて使用することも可能となる(図5(b)、(c)参照)。但し、球形筺体内部に於いて、相背対するスピーカーユニット同士は、図2(b)に示すように、それぞれの振動板背面から真後方に放射され直接相手の振動板に到達する背面波、即ち直接背面波5a〜5dを受け、互いの振動板に干渉する事で振動を抑制し低域再生を妨げたり、不要振動させて再生音を歪ませたりする事になるので、お互いが直接背面波を受けないよう対策を考ずる必要がある。
以上の理由から、複数かつ偶数個のスピーカーユニットを球形または略球形の筺体のまさに中心部に点対称かつ筺体表面に均等に配置し同相駆動する近似的点音源・呼吸球スピーカーシステムにおいて、相背対するスピーカーユニット同士の振動板背面からの直接背面波による干渉を妨げ、かつ、球形筺体内部で発生する定在波を効率よく減衰・消滅させることが、高品位音場再生用スピーカーとして求められる、小型・高音質の球形スピーカーシステムを実現するための課題であり、本発明はこの課題を解決すべくなされたものである。
本発明は、使用するスピーカーユニットの性能や球形筺体の大きさによる筺体内容積の制約度合いに応じ、以下の3種の形態を特徴とする。
球形又は略球形の筺体の表面に複数かつ偶数個のスピーカーユニットを前記筺体の中心に点対称かつ前記筺体表面に均等に配置して同相駆動するスピーカーシステムであって、前記スピーカーユニット単体が充分な低音再生能力を有し、かつ、前記筺体内容積が前記スピーカーユニットの求める筺体容積を充分に満たす大きさである場合は、基本的構造は請求項1に謳うように、前記筺体の内部の中心に、多面体の剛体を有する球形スピーカーシステムとする(図3(a)参照)。
この時、前記多面体の剛体は、請求項2に謳うように、前記スピーカーユニット単体の有効振動板面積と略同一の投影面積を持つ大きさとする。
球形又は略球形の筺体の表面に複数かつ偶数個のスピーカーユニットを前記筺体の中心に点対称かつ前記筺体表面に均等に配置して同相駆動するスピーカーシステムであって、前記スピーカーユニット単体が充分な低音再生能力を有し、かつ、前記筺体内容積の使用スピーカーユニット個数分の1の容積が、前記スピーカーユニット単体が求める容積を充分に満たす大きさである場合は、基本的構造は請求項3に謳うように、前記筺体内容積が前記スピーカーユニット毎に同容積になるよう、前記筺体中心を通る平面で前記筺体内部を仕切った隔壁を持つ球形スピーカーシステムとする(図3(b)参照)。
球形又は略球形の筺体の表面に複数かつ偶数個のスピーカーユニットを前記筺体の中心に点対称かつ前記筺体表面に均等に配置して同相駆動するスピーカーシステムであって、前記スピーカーユニット単体が充分な低音再生能力を有せず、かつ、前記筺体内容積が前記スピーカーユニットの求める筺体内容積を充分に満たす大きさでない場合は、基本的構造は請求項4に謳うように、前記筺体の略中心(正中心からの偏位を前記筺体の平均直径の10パーセント以内とする)に入り口を位置し、前記筺体表面に出口を持つ音響ポートを有する球形スピーカーシステムとする(図3(c)参照)。
球形スピーカーシステムの球形筺体内面の全てが無数の微小な平行面の集まりであるゆえに筺体内で中心に向かい集約・発散を繰り返す定在波に対して、請求項1に謳うように筺体内の中心に置いた多面体の剛体が、無数の平行面を多面体剛体の面数と同じ数の微小な平行面のみとすることで多面体の剛体に到達した背面波を反射・撹拌し、且つ、筺体中心への集約を妨げる障害物として働き、定在波の発生を効果的に抑止する(図3(a)参照)。
更に、その多面体剛体を、請求項2に謳うような、各スピーカーユニットの振動板面積に近い投影面積を持つ大きさとすることで、各スピーカーユニットの背面波が相背対するスピーカーユニットに直接到達する直接背面波の経路を遮る事となり、相背対するスピーカーユニット同士の干渉を防ぐ。
請求項3に謳う方法は、請求項1・2に謳う方法よりも更に徹底して定在波の発生と相背対するスピーカーユニット同士の干渉を防ぐ方法である。球形筺体内容積を各スピーカーユニットに均等に、且つ、筺体中心に点対称になるよう隔壁で完全に分離する事は、隔壁自体の体積分ほど筺体内容量が減ってしまい、より小さいことが望ましい球形スピーカーシステムにとっては、請求項1・2に謳う方法と比して不利となるが、完全に独立した多角錐形の筺体を持つスピーカーシステムを放射状且つ点対称に寄せ集めたようなその構造は、球形ゆえに発生する定在波も相背対するスピーカーユニット同士の直接背面波による干渉も皆無とすることが出来る(図3(b)参照)。
請求項4に謳う方法は、筺体内の略中心に開口部を位置する音響ポートそのものが定在波の発生や相背対するスピーカーユニット同士の直接背面波による干渉を妨げる障害物として、請求項1且つ2に謳う方法に於ける多面体の剛体と同じ役割を果たす。更に、各スピーカーユニットからの背面波の音響エネルギーが集中する筺体中心部から、利用したい低域部分のエネルギーだけを音響ポートより筺体外部へ位相反転して導き出すことで、筺体内部の不要な音響エネルギーの一部を有益な低音補強成分として再生音に活用する事となる。よって、減衰・消滅すべき筺体内の背面波エネルギーは、請求項1且つ2、又は請求項3に謳う方法による球形スピーカーシステムよりも更に小さくなり、より容易に減衰・消滅を図ることが出来る(図3(c)参照)。
以上、本発明により、球形又は略球形の筺体の表面に複数かつ偶数個のスピーカーユニットを前記筺体中心に点対称かつ前記筺体表面に均等に配置して同相駆動するスピーカーシステムであって、求められる筺体内容積に応じて、請求項1且つ2、又は請求項3、又は請求項4に謳う形態を特徴とする球形スピーカーシステムは、従来の球形スピーカーシステムの欠点である低音不足の原因となっていた筺体内に発生する定在波を効率よく減衰・消滅させ、相背対するスピーカーユニット同士の干渉を妨げる事で、従来の球形スピーカーシステムに比して小型でありながら低音域までも豊かに再生し、高品位音場再生を可能とする球形スピーカーシステムを実現した。
球形又は略球形の筺体の表面に複数かつ偶数個のスピーカーユニットを前記筺体中心に点対称かつ前記筺体表面に均等に配置して同相駆動する近似的点音源・呼吸球方式の球形スピーカーシステムを製作するとき、そのスピーカーユニット単体が充分な低音再生能力を有し、かつ、筺体内容積がそのスピーカーユニットが求める容積を充分に満たす大きさの筺体の場合、筺体の基本構造は請求項1に謳う方法を採る(図3(a)参照)。
図2に於いて、2a〜2d各スピーカーユニットの振動板の背面から放射された背面波3a〜3dは筺体内壁に反射し、筺体が球形ゆえに筺体中心点に向かって集約、筺体内壁に向かって拡散を繰り返し、その内部で、あたかも中心点より発せられた球面波の如き定在波4を形成する。この定在波4は、球形筺体の内面に理論上微小な平行面の対が無限に存在するがゆえに発生するが、その全ての微小平行面の対の中点である球形筺体のまさに中心に、図3(a)に示すように、面の数が少ない多面体、例えば面の数が最小である正4面体の剛体7を置いた場合、理論上、球形筺体内部での平行面は微小な4対、すなわち実質4点のみとなり、正4面体の剛体7に到達・反射された反射波は乱反射され撹拌される為、定在波として共振することなく筺体内面に貼られた少量の吸音材6により効率良く減衰し、消滅する。
この場合の多面体の剛体7の大きさは、球形筺体の中心部での定在波の集約を阻害する目的にはごく小さい物でよいが、各スピーカーユニットの振動板背面から相背対するスピーカーユニットの振動板に到達する直接背面波5a〜5dが互いの振動板に干渉するのを遮る為には、請求項2に謳うように、各スピーカーユニットの振動板の面積に近い投影面積を持つ大きさのものとする必要がある。また、その多面体の剛体7の体積はそのまま球形筺体内容積のロスとなる為、なるべく小さいことが望ましい。よって、面数が少なく、投影面積の割に占有体積が小さい多面体として、4面体が相応しい。但し、その多面体の剛体7が背面波3a〜3dや、定在波4や、直接背面波5a〜5dの反動により振動しないよう、筺体中心部に固定する方法には、相応な強度が必要である。
更に、使用するスピーカーユニットの特性によっては、図4(a)に示すように、この筺体にバスレフダクト11を設けて位相反転型とすることで、一般のスピーカーシステム同様の低音域補強を施す事もできる。
位相反転型とは、使用スピーカーユニットの固有定数と、筺体内容積と、筺体内外を繋ぐバスレフダクトの開口面積と長さとで決まる特定周波数(補強したい低音域)でのヘルムホルツ共振を利用してスピーカーユニット振動板の背面から筺体内に放射された音波の位相を反転させ、振動板前面からの音波の位相に揃えて、筺体外へバスレフダクトを通じて放出する事により、使用ユニット本来の低音再生能力を補強する仕組みであり、現代のスピーカーシステムには非常にポピュラーな方式である。
球形又は略球形の筺体の表面に複数かつ偶数個のスピーカーユニットを前記筺体中心に点対称かつ前記筺体表面に均等に配置して同相駆動する近似的点音源・呼吸球方式の球形スピーカーシステムを製作するとき、そのスピーカーユニット単体が充分な低音再生能力を有し、かつ、筺体内容積の使用スピーカーユニット個数分の1の容積が、その使用スピーカーユニットが求める容積を充分に満たす大きさの筺体の場合、筺体の基本的構造は請求項3に謳う方法を採る(図3(b)参照)。
図3(b)に示すように、筺体内部で強固な隔壁8によりスピーカーユニット毎に均等に仕切られた構造は、まさしく、使用スピーカーユニット個数分の独立したスピーカーシステムを点対称かつ放射状に寄せ集めた構造であり、球形スピーカーシステムのメリットを備えつつも、相背対するスピーカーユニット同士の直接背面波5a〜dによる干渉は全くなく、定在波についても、たとえばスピーカーユニットを8個使用する場合、3枚の互いに直行する平面と、球面を8等分した曲面とで囲まれた各個室には平行な面は存在せず、定在波は発生しない。各スピーカーユニットの後方の直角三角錐の頂点に向かい放射された背面波3a〜3dは各個室内面に貼られた吸音材6によって効率よく減衰され消滅する。
更に、この方法に於いても、使用するスピーカーユニットの特性によっては、図4(b)に示すように、この筺体にバスレフダクト11を設けて位相反転型とすることで、一般のスピーカーシステム同様の低音域補強を施す事もできる。このとき、バスレフダクト11は各スピーカーユニットに対応する球形筺体内の各個室に、全て同一の特性のもの(長さ・開口面積)をそれぞれ設ける必要がある。すなわち、使用スピーカーユニット個数分の独立した位相反転型スピーカーシステムを点対称かつ放射状に寄せ集めた構造である。
球形又は略球形の筺体の表面に複数かつ偶数個のスピーカーユニットを前記筺体中心に点対称かつ前記筺体表面に均等に配置して同相駆動する近似的点音源・呼吸球方式の球形スピーカーシステムを製作するとき、そのスピーカーユニット単体が充分な低音再生能力を有せず、かつ、そのスピーカーユニットの求める筺体内容積を充分に満たす大きさを与えられない場合、筺体の基本的構造は請求項4に謳う方法を採る(図3(c)参照)。
本発明は、基本的には一般の位相反転型スピーカーシステムに類似した構造であり、前述の位相反転型としてのヘルムホルツ共振による低音域補強効果も利用するが、特に、図3(c)に示すように、音響ポート9の筺体内側の開口部の位置を球形筺体の略中心部に置くことを特徴とする。球形筺体の表面に筺体中心に点対称かつ筺体表面に均等に取り付け同相駆動する複数かつ偶数個の各スピーカーユニットの、振動板背面から真後方に放射された直接背面波5a〜5dは、みな一様に球形筺体内中心部に向かい、それぞれ相背対するスピーカーユニットからの直接背面波と球形筺体内中心部でぶつかり合う為、結果的には全てのスピーカーユニットの振動板背面からの真後方への直接背面波5a〜5dは球形筺体内中心部に集約・圧縮される。この1点に凝縮された高密度の音響エネルギーを、直近に置いた音響フィルターとして振舞う(補強したい周波数をヘルムホルツ共振計算から導き出された開口面積と長さをもつ)音響ポート9の入り口に導入することで、背面波のうち、補強に使いたい周波数(低域)の音響エネルギーの多くを位相反転して球形筺体外面の音響ポート9の出口から吐き出し、通常の位相反転型を遥かに凌ぐ低音増強効果を得られる。また、球形筺体内中心部に位置する音響ポート9の入り口は、各スピーカーユニットの振動板背面から真後方に放射された直接背面波5a〜5dが相背対するスピーカーユニットにダイレクトに到達する経路を塞ぐように位置する為、相背対するスピーカーユニット同士の干渉を防ぐ。更に、球形筺体内に於いて定在波を形成してしまうはずの球形筺体内面からの反射波も、直接波の段階で音響ポート9によりその音響エネルギーの多くを消費したうえ、球形筺体内中心部に位置する音響ポート9の入り口が球形筺体内壁からの反射波の集約を妨げる障害物として働き、反射波を撹拌することで反射波の共振である定在波の減衰・消滅を促す事となり、結果、球形筺体内面の吸音材6の量も少なく済み、筺体そのものをより小さくする事が出来る。
但し、この方法の場合、音響ポート9には、単に音響フィルターとしての役割だけでなく、筺体内中心部に集約する直接背面波5a〜5dの反射板としての役割も持たせる為、それ自身が振動しないよう充分な機械強度を持たせる必要がある。更に、音響ポート9内を流れる空気の流量・流速は共に、従来の位相反転型のバスレフダクト内のそれを遥かに凌ぐ大きなものとなる為、音響ポート9内面を鏡面研磨し、出入り口に滑らかなアールを取る等、風切音の対策が不可欠である。
さらに、使用するスピーカーユニットの特性によっては、図4(c)に示すように、必要に応じて前記音響ポート9を複数にすることも出来る。
ここで、請求項4記載の、音響ポート9の入り口の位置について、球形筺体正中心からの偏位を筺体直径の10パーセント以内とする理由は、請求項4に謳う方法による「一般の位相反転型の効果以外の低音域補強効果」が顕著に期待できる誤差範囲であり、この範囲を超えてしまうと、位相反転型としての効果以外の低音域補強効果は期待できないからであり、実験により導き出したものである。
本発明者は、本発明の効果を実証すべく、以下の試作機を製作し、試聴した。
米国オーラサウンド社製1インチフルレンジスピーカーユニットNSW1−205−8Aを8個使用し、2個ずつ直列に繋いだもの4セットを並列に繋ぎ、スピーカーシステム全体のインピーダンスを4[オーム]とした。
スピーカーユニット単体での最低共振周波数は220[ヘルツ]と高く、低音再生能力が極めて低いので、筺体の基本構成は請求項3に記載される発明に係る形態とする。
筺体の製作には、本発明者が別途発明した高性能(高強度且つ高精度)且つ高意匠的付加価値を持つ筺体を奢る。板厚15[mm]、一辺4.2[cm]の正6角形花梨無垢板材20個、一辺4.2[cm]の正5角形桜無垢板材12個を組み合わせ、切頂20面体を組み立てた後、表面の各角を高さ約5[mm]削り落とし、更に表面全体を滑らかになるよう削ってほぼ球形とした(図5(a)参照)。筺体外型寸法は平均直径約184[mm]となり、筺体内中心部に入り口を置く音響ポートの長さは必然的に92[mm]となる。内容積は約1.8[リットル](スピーカーユニット、補強リブ、吸音材など内容物の体積を引いたもの)となり、理論計算によるシミュレーションにより最適と思われるヘルムホルツ共振周波数を82[ヘルツ]とすると、音響ポートの開口直径は25[mm]となった。
完成した試作機の再生音は、図6に於いて、点線で示すユニット単体の周波数特性はもちろんの事、2点破線で示す単に位相反転型としての計算上の低音補強値を、実線で示すように大幅に超えた低音補強効果を得ることが出来、中・高音域も球形スピーカーシステムのメリットである濃密な情報量と自然な音の広がりを遺憾なく発揮し、まさに高品位音場再生を実現した。
世のオーディオ愛好者の間でもハイエンドクラスと認められる高音質を目指した結果、より小型で、より明瞭かつ上質な音を広範囲にサービス出来る本発明による球形スピーカーシステムは、単に、ホールなどでの拡声用途に於いても多くのメリットを持つ。特に、明瞭な再生音を全方位にサービスできる本機は、従来の単一指向性の拡声装置よりも遥かに少ない設置数で事足りる。
球形の筺体に複数個のスピーカーユニットを放射状に取り付け同相駆動する事で呼吸球に近い効果を期待する方法を採るスピーカーシステムの、動作原理を表した図である。
球形筺体内に於ける各スピーカーユニットの背面波の伝わり方(a)と、定在波と各スピーカーユニット背面からの直接波の振る舞い(b)を表した図である。
(a)は、請求項1、2に記載される発明に係る形態を実施した構造の球形スピーカーシステムの動作原理を表した図であり、(b)、(c)はそれぞれ請求項3、4に記載される発明に係る形態を実施した構造の球形スピーカーシステムの動作原理を表した図である。
(a)は、請求項1、2に記載される発明に係る形態を実施した構造の位相反転型球形スピーカーシステムの動作原理を表した図であり、(b)は、請求項3に記載される発明に係る形態を実施した構造の位相反転型球形スピーカーシステムの動作原理を表した図である。また、(c)は、請求項4に記載される発明に係る形態を実施した構造に於いて、音響ポートを複数(2個)備えた球形スピーカーシステムの動作原理を表した図である。
請求項4に記載される発明に係る形態を実施した球形スピーカーシステムの試作機の外観を(a)に、実際の設置例を(b)、(c)に示したイメージ図である。
請求項4に記載される発明に係る形態を実施した構造で試作した球形スピーカーシステムの、周波数応答特性を示したグラフである。破線はスピーカーユニット単体の実データであり、1点破線は同容積の従来の密閉型立方体筺体に8個のスピーカーユニットを取り付けたもの、2点破線は同容積の従来の位相反転型立方体筺体に8個のスピーカーユニットを取り付けたもののシミュレーション値であり、実線は試作した球形スピーカーシステムを実試聴して聴感による周波数応答特性をグラフ化した図である。
符号の説明
1 球形筺体
2a、2b、2c、2d スピーカーユニット
3a、3b、3c、3d 背面波
4 定在波
5a、5b、5c、5d 直接背面波
6 吸音材
7 多面体(正4面体)の剛体
8 隔壁
9 音響ポート
10 低音補強成分
11 バスレフダクト
12a,12b 設置台取り付け金具の受け金具
13 天吊り金具の受け金具
14a、14b 設置台取り付け金具
15 天吊り金具
16 天吊り用鎖
球形又は略球形の筺体の表面に複数かつ偶数個のスピーカーユニットを前記筺体の中心に点対称かつ前記筺体表面に均等に配置して同相駆動するスピーカーシステムであって、前記スピーカーユニット単体が充分な低音再生能力を有し、かつ、前記筺体内容積が前記スピーカーユニットの求める筺体容積を充分に満たす大きさである場合は、基本的構成は請求項1に謳うように、前記筺体の内部に前記スピーカーユニットからの背面波の減衰を促し、相背対する前記スピーカーユニット間の直接背面波による相互干渉を抑止する手段を備え、前記手段は、前記筺体の内部の中心に、前記筺体内面のいずれの面とも平行になる面を1つも持たない向きに固定された多面体の剛体であることを特徴とする球形スピーカーシステムとする(図3(a)参照)。
この時、前記多面体の剛体は、請求項2に謳うように、前記スピーカーユニット単体の有効振動板面積と略同一の投影面積である大きさとする。
球形又は略球形の筺体の表面に複数かつ偶数個のスピーカーユニットを前記筺体の中心に点対称かつ前記筺体表面に均等に配置して同相駆動するスピーカーシステムであって、前記スピーカーユニット単体が充分な低音再生能力を有し、かつ、前記筺体内容積の使用スピーカーユニット個数分の1の容積が、前記スピーカーユニット単体が求める容積を充分に満たす大きさである場合は、基本的構成は、前記筺体内容積が前記スピーカーユニット毎に同容積になるよう、前記筺体中心を通る平面で前記筺体内部を仕切った隔壁を持つ球形スピーカーシステムとする(図3(b)参照)。
球形又は略球形の筺体の表面に複数かつ偶数個のスピーカーユニットを前記筺体の中心に点対称かつ前記筺体表面に均等に配置して同相駆動するスピーカーシステムであって、前記スピーカーユニット単体が充分な低音再生能力を有せず、かつ、前記筺体内容積が前記スピーカーユニットの求める筺体内容積を充分に満たす大きさでない場合は、基本的構成は請求項3に謳うように、前記筺体の内部に前記スピーカーユニットからの背面波の減衰を促し、相背対する前記スピーカーユニット間の直接背面波による相互干渉を抑止する手段を備え、前記手段は、前記筺体の内部の略中心に入り口を位置し、前記筺体表面に出口を持つ音響ポートである球形スピーカーシステムとする(図3(c)参照)。
図3(b)に示す構成は請求項1に謳う方法の発展例とも言える例であり、その方法は、請求項1・2に謳う方法よりも更に徹底して定在波の発生と相背対するスピーカーユニット同士の干渉を防ぐ方法である。球形筺体内容積を各スピーカーユニットに均等に、且つ、筺体中心に点対称になるよう隔壁で完全に分離する事は、隔壁自体の体積分ほど筺体内容量が減ってしまい、より小さいことが望ましい球形スピーカーシステムにとっては、請求項1・2に謳う方法と比して不利となるが、完全に独立した多角錐形の筺体を持つスピーカーシステムを放射状且つ点対称に寄せ集めたようなその構造は、球形ゆえに発生する定在波も相背対するスピーカーユニット同士の直接背面波による干渉も皆無とすることが出来る(図3(b)参照)。
請求項3に謳う方法は、筺体内の略中心に開口部を位置する音響ポートそのものが定在波の発生や相背対するスピーカーユニット同士の直接背面波による干渉を妨げる障害物として、請求項1且つ2に謳う方法に於ける多面体の剛体と同じ役割を果たす。更に、各スピーカーユニットからの背面波の音響エネルギーが集中する筺体中心部から、利用したい低域部分のエネルギーだけを音響ポートより筺体外部へ位相反転して導き出すことで、筺体内部の不要な音響エネルギーの一部を有益な低音補強成分として再生音に活用する事となる。よって、減衰・消滅すべき筺体内の背面波エネルギーは、請求項1且つ2に謳う方法による球形スピーカーシステムよりも更に小さくなり、より容易に減衰・消滅を図ることが出来る(図3(c)参照)。
以上、本発明により、球形又は略球形の筺体の表面に複数かつ偶数個のスピーカーユニットを前記筺体中心に点対称かつ前記筺体表面に均等に配置して同相駆動するスピーカーシステムであって、求められる筺体内容積に応じて、請求項1且つ2、又は請求項3に謳う形態を特徴とする球形スピーカーシステムは、従来の球形スピーカーシステムの欠点である低音不足の原因となっていた筺体内に発生する定在波を効率よく減衰・消滅させ、相背対するスピーカーユニット同士の干渉を妨げる事で、従来の球形スピーカーシステムに比して小型でありながら低音域までも豊かに再生し、高品位音場再生を可能とする球形スピーカーシステムを実現した。
図2に於いて、2a〜2d各スピーカーユニットの振動板の背面から放射された背面波3a〜3dは筺体内壁に反射し、筺体が球形ゆえに筺体中心点に向かって集約、筺体内壁に向かって拡散を繰り返し、その内部で、あたかも中心点より発せられた球面波の如き定在波4を形成する。この定在波4は、球形筺体の内面に理論上微小な平行面の対が無限に存在するがゆえに発生するが、その全ての微小平行面の対の中点である球形筺体のまさに中心に、図3(a)に示すように、面の数が少ない多面体、例えば面の数が最小である正4面体の剛体7を置いた場合、理論上、球形筺体内部での平行面は微小な4対、すなわち実質4点のみとなり、正4面体の剛体7に到達・反射された背面波は乱反射され撹拌される為、定在波として共振することなく筺体内面に貼られた少量の吸音材6により効率良く減衰し、消滅する。
球形又は略球形の筺体の表面に複数かつ偶数個のスピーカーユニットを前記筺体中心に点対称かつ前記筺体表面に均等に配置して同相駆動する近似的点音源・呼吸球方式の球形スピーカーシステムを製作するとき、そのスピーカーユニット単体が充分な低音再生能力を有し、かつ、筺体内容積の使用スピーカーユニット個数分の1の容積が、その使用スピーカーユニットが求める容積を充分に満たす大きさの筺体の場合、筺体の基本的構造は下記の方法を採る(図3(b)参照)。
球形又は略球形の筺体の表面に複数かつ偶数個のスピーカーユニットを前記筺体中心に点対称かつ前記筺体表面に均等に配置して同相駆動する近似的点音源・呼吸球方式の球形スピーカーシステムを製作するとき、そのスピーカーユニット単体が充分な低音再生能力を有せず、かつ、そのスピーカーユニットの求める筺体内容積を充分に満たす大きさを与えられない場合、筺体の基本的構造は請求項3に謳う方法を採る(図3(c)参照)。
本発明は、基本的には一般の位相反転型スピーカーシステムに類似した構造であり、前述の位相反転型としてのヘルムホルツ共振による低音域補強効果も利用するが、特に、図3(c)に示すように、音響ポート9の筺体内側の開口部の位置を球形筺体の略中心部に置くことを特徴とする。球形筺体の表面に筺体中心に点対称かつ筺体表面に均等に取り付け同相駆動する複数かつ偶数個の各スピーカーユニットの、振動板背面から真後方に放射された直接背面波5a〜5dは、みな一様に球形筺体内中心部に向かい、それぞれ相背対するスピーカーユニットからの直接背面波と球形筺体内中心部でぶつかり合う為、結果的には全てのスピーカーユニットの振動板背面からの真後方への直接背面波5a〜5dは球形筺体内中心部に集約・圧縮される。この1点に凝縮された高密度の音響エネルギーを、直近に置いた音響フィルターとして振舞う(補強したい周波数をヘルムホルツ共振計算から導き出された開口面積と長さをもつ)音響ポート9の入り口に導入することで、背面波のうち、補強に使いたい周波数(低域)の音響エネルギーの多くを位相反転して球形筺体外面の音響ポート9の出口から吐き出し、通常の位相反転型を遥かに凌ぐ低音増強効果を得られる。また、球形筺体内中心部に位置する音響ポート9の入り口は、各スピーカーユニットの振動板背面から真後方に放射された直接背面波5a〜5dが相背対するスピーカーユニットにダイレクトに到達する経路を塞ぐように位置する為、相背対するスピーカーユニット同士の干渉を防ぐ。更に、球形筺体内に於いて定在波を形成してしまうはずの各スピーカーユニットからの背面波も、直接波の段階で音響ポート9によりその音響エネルギーの多くを消費したうえ、球形筺体内中心部に位置する音響ポート9の入り口が球形筺体内壁からの反射波の集約を妨げる障害物として働き、反射波を撹拌することで反射波の共振である定在波の減衰・消滅を促す事となり、結果、球形筺体内面の吸音材6の量も少なく済み、筺体そのものをより小さくする事が出来る。
ここで、請求項3記載の、音響ポート9の入り口の位置について、「筺体の内部の略中心」とは、具体的には球形筺体正中心からの偏位を筺体直径の10パーセント以内とするべきであり、その理由は、請求項3に謳う方法による「一般の位相反転型の効果以外の低音域補強効果」が顕著に期待できる誤差範囲であり、この範囲を超えてしまうと、位相反転型としての効果以外の低音域補強効果は期待できないからであり、実験により導き出したものである。
球形の筺体に複数個のスピーカーユニットを放射状に取り付け同相駆動する事で呼吸球に近い効果を期待する方法を採るスピーカーシステムの、動作原理を表した図である。
球形筺体内に於ける各スピーカーユニットの背面波の伝わり方(a)と、定在波と各スピーカーユニット背面からの直接波の振る舞い(b)を表した図である。
(a)は、請求項1、2に記載される発明に係る形態を実施した構造の球形スピーカーシステムの動作原理を表した図であり、(c)は請求項3に記載される発明に係る形態を実施した構造の球形スピーカーシステムの動作原理を表した図である。
(a)は、請求項1、2に記載される発明に係る形態を実施した構造の位相反転型球形スピーカーシステムの動作原理を表した図であり、(c)は、請求項3に記載される発明に係る形態を実施した構造に於いて、音響ポートを複数(2個)備えた球形スピーカーシステムの動作原理を表した図である。
請求項3に記載される発明に係る形態を実施した球形スピーカーシステムの試作機の外観を(a)に、実際の設置例を(b)、(c)に示したイメージ図である。
請求項3に記載される発明に係る形態を実施した構造で試作した球形スピーカーシステムの、周波数応答特性を示したグラフである。破線はスピーカーユニット単体の実データであり、1点破線は同容積の従来の密閉型立方体筺体に8個のスピーカーユニットを取り付けたもの、2点破線は同容積の従来の位相反転型立方体筺体に8個のスピーカーユニットを取り付けたもののシミュレーション値であり、実線は試作した球形スピーカーシステムを実試聴して聴感による周波数応答特性をグラフ化した図である。
この時、前記多面体の剛体は、請求項2に謳うように、前記スピーカーユニット単体の有効振動板面積と略同一の投影面積を有するものとする。
以上、本発明により、球形又は略球形の筺体の表面に複数かつ偶数個のスピーカーユニットを前記筺体中心に点対称かつ前記筺体表面に均等に配置して同相駆動するスピーカーシステムであって、請求項1且つ2に謳う形態を特徴とする球形スピーカーシステムは、従来の球形スピーカーシステムの欠点である低音不足の原因となっていた筺体内に発生する定在波を効率よく減衰・消滅させ、相背対するスピーカーユニット同士の干渉を妨げる事で、従来の球形スピーカーシステムに比して小型でありながら低音域までも豊かに再生し、高品位音場再生を可能とする球形スピーカーシステムを実現した。
図3(b)では、筺体内部で強固な隔壁8によりスピーカーユニット毎に均等に仕切られた構造は、まさしく、使用スピーカーユニット個数分の独立したスピーカーシステムを点対称かつ放射状に寄せ集めた構造であり、球形スピーカーシステムのメリットを備えつつも、相背対するスピーカーユニット同士の直接背面波5a〜dによる干渉は全くなく、定在波についても、たとえばスピーカーユニットを8個使用する場合、3枚の互いに直行する平面と、球面を8等分した曲面とで囲まれた各個室には平行な面は存在せず、定在波は発生しない。各スピーカーユニットの後方の直角三角錐の頂点に向かい放射された背面波3a〜3dは各個室内面に貼られた吸音材6によって効率よく減衰され消滅する。但し、隔壁自体の体積分ほど筺体内容量が減ってしまい、より小さいことが望ましい球形スピーカーシステムにとっては、請求項1・2に謳う方法と比して不利となる。
図3(c)では、球形筺体の表面に筺体中心に点対称かつ筺体表面に均等に取り付け同相駆動する複数かつ偶数個の各スピーカーユニットの、振動板背面から真後方に放射された直接背面波5a〜5dは、みな一様に球形筺体内中心部に向かい、それぞれ相背対するスピーカーユニットからの直接背面波と球形筺体内中心部でぶつかり合う為、結果的には全てのスピーカーユニットの振動板背面からの真後方への直接背面波5a〜5dは球形筺体内中心部に集約・圧縮される。この1点に凝縮された高密度の音響エネルギーを、直近に置いた音響フィルターとして振舞う(補強したい周波数をヘルムホルツ共振計算から導き出された開口面積と長さをもつ)音響ポート9の入り口に導入することで、背面波のうち、補強に使いたい周波数(低域)の音響エネルギーの多くを位相反転して球形筺体外面の音響ポート9の出口から吐き出し、通常の位相反転型を遥かに凌ぐ低音増強効果を得られる。また、球形筺体内中心部に位置する音響ポート9の入り口は、各スピーカーユニットの振動板背面から真後方に放射された直接背面波5a〜5dが相背対するスピーカーユニットにダイレクトに到達する経路を塞ぐように位置する為、相背対するスピーカーユニット同士の干渉を防ぐ。更に、球形筺体内に於いて定在波を形成してしまうはずの各スピーカーユニットからの背面波も、直接波の段階で音響ポート9によりその音響エネルギーの多くを消費したうえ、球形筺体内中心部に位置する音響ポート9の入り口が球形筺体内壁からの反射波の集約を妨げる障害物として働き、反射波を撹拌することで反射波の共振である定在波の減衰・消滅を促す事となり、結果、球形筺体内面の吸音材6の量も少なく済み、筺体そのものをより小さくする事が出来る。
本発明者は、本発明の効果を実証すべく、以下の試作機を製作し、試聴した。
米国オーラサウンド社製1インチフルレンジスピーカーユニットNSW1−205−8Aを8個使用し、2個ずつ直列に繋いだもの4セットを並列に繋ぎ、スピーカーシステム全体のインピーダンスを4[オーム]とした。
スピーカーユニット単体での最低共振周波数は220[ヘルツ]と高く、低音再生能力が極めて低いので、低音域補強のためのバスレフダクト(音響ポート)を備えた、図3(c)に示す構成を採る。
球形の筺体に複数個のスピーカーユニットを放射状に取り付け同相駆動する事で呼吸球に近い効果を期待する方法を採るスピーカーシステムの、動作原理を表した図である。
球形筺体内に於ける各スピーカーユニットの背面波の伝わり方(a)と、定在波と各スピーカーユニット背面からの直接波の振る舞い(b)を表した図である。
(a)は、請求項1、2に記載される発明に係る形態を実施した構造の球形スピーカーシステムの動作原理を表した図であり、(c)は、低音域補強の為のバスレフダクト(音響ポート9)の球形筺体内側の開口部が、球形筺体内の略中心に位置する構造の球形スピーカーシステムの動作原理を表した図である。
(a)は、請求項1、2に記載される発明に係る形態を実施した構造の位相反転型球形スピーカーシステムの動作原理を表した図であり、(c)は、図3(c)の低音域補強の為のバスレフダクト(音響ポート9)を複数(2個)にした位相反転型球形スピーカーシステムの動作原理を表した図である。
図3(c)に示される形態を実施した球形スピーカーシステムの試作機の外観を(a)に、実際の設置例を(b)、(c)に示したイメージ図である。
図3(c)に示される形態を実施した構造で試作した球形スピーカーシステムの、周波数応答特性を示したグラフである。破線はスピーカーユニット単体の実データであり、1点破線は同容積の従来の密閉型立方体筺体に8個のスピーカーユニットを取り付けたもの、2点破線は同容積の従来の位相反転型立方体筺体に8個のスピーカーユニットを取り付けたもののシミュレーション値であり、実線は試作した球形スピーカーシステムを実試聴して聴感による周波数応答特性をグラフ化した図である。