以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は複リンク型のピストンクランク機構を備えるレシプロ式エンジンの概略構成図で、複リンク型のピストンクランク機構に本発明の揺動リンク構造を適用している。図1はエンジンをフロントからみた図(エンジンフロントビュー)で、図1左側にはピストン9が上死点位置より下死点位置へと動く途中での状態(中間行程)を、また、図1右側にはピストン9が下死点位置にある状態をそれぞれ示している。
複リンク型のピストンクランク機構を備えるレシプロ式エンジンそのものは、例えば特開2001−227367号公報等によって公知となっているので、公知になっている複リンク型ピストンクランク機構を備えるレシプロ式エンジン(この公知になっているレシプロ式エンジンを、以下「先行エンジン」という。)の概要を先に説明する。
なお、先行エンジンは図28に示したように、シリンダ軸線Sがクランクシャフト2の回転中心Oより、エンジンをフロントから見て左右方向にオフセットしていないものであるのに対して、後述するように、本実施形態ではシリンダ軸線Sがクランクシャフト2の回転中心Oより、エンジンをフロントから見て右方向のオフセットを有すると共に、ピストン9の下死点近傍位置において、スラスト力が、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心Oより遠い側のシリンダ10aに作用するようにしている点が先行エンジンと相違する。
図1において、クランクシャフト2には、エンジン本体の一部を構成するシリンダブロック1内の主軸受(図示しない)に回転可能に支持されるクランクジャーナル3が各気筒毎に設けられている。各クランクジャーナル3は、その軸心Oがクランクシャフト2の軸心(回転中心)と一致しており、クランクシャフト2の回転軸部を構成している。
また、クランクシャフト2は、軸心Oから偏心して各気筒毎に設けられたクランクピン4と、クランクピン4をクランクジャーナル3へ連結するクランクアーム4aと、軸心Oに対してクランクピン4と反対側に配置され、主としてピストン運動の回転1次振動成分を低減するカウンターウェイト4bとを有している。クランクアーム4aとカウンターウェイト4bとは、この実施形態では一体的に形成されている。
そして本実施形態では、各気筒毎に形成されたシリンダ10に摺動可能に嵌合するピストン9と、上記のクランクピン4とが、複数のリンク部材、すなわちアッパーリンク6(第1のリンク)とロアーリンク5(第2のリンク)とにより機械的に連携されている。アッパーリンク6の上端側は、ピストン9に固定的に設けられたピストンピン8(第1のピン)に、軸心Oc周りに相対回転可能に外嵌している。また、アッパーリンク6の下端側とロアーリンク5の、ほぼ二等分された一方の本体5aとは、両者を挿通するアッパーピン7(第2のピン)によって、軸心Od周りに相対回転可能に連結されている。
ロアーリンク5は、クランクピン4を挟持するように、2つの本体5a,5bを取付けて構成されており、この挟持部分でクランクピン4と軸心Oe周りに相対回転可能に装着されている。ほぼ2等分された他方のロアーリンク本体5bとコントロールリンク11(第3のリンク)の上端側とは、両者を挿通するコントロールピン12(第3のピン)によって軸心Of周りに相対回転可能に連結されている。
このコントロールリンク11の下端側は、シリンダブロック1に回動可能に支持される偏心カム部14を有するコントロールシャフト13に、その軸心Ob周りに揺動可能に外嵌,支持されている。すなわち、コントロールシャフト13の外周には偏心カム部14が回転可能に設けられており、偏心カム部14の軸心Oaは、コントロールシャフト13の軸心Obに対して所定量偏心している。この偏心カム部14は、ウォームギア15を介して圧縮比制御アクチュエータ16によって、機関の運転状態に応じて回動制御されるとともに、任意の回動位置で保持されるようになっている。
このような構成により、クランクシャフト2の回転に伴って、クランクピン4,ロアーリンク5,アッパーリンク6及びピストンピン8を介してピストン9がシリンダ10内を昇降するとともに、ロアーリンク5に連結するコントロールリンク11が、下端側の揺動軸心Obを支点として揺動する。
また、上記の圧縮比制御アクチュエータ16により偏心カム部14を回動制御することにより、コントロールリンク11の揺動軸心となるコントロールシャフト13の軸心Obが偏心カム部14の軸心Oa周りに回転し、つまりコントロールリンク11の揺動中心位置Obがエンジン本体(及びクランクシャフト回転中心O)に対して移動する。これにより、ピストン9の行程が変化して、エンジンの各気筒の圧縮比が可変制御される。
このようにピストン9を複数のリンク部材を介してクランクシャフト2により駆動する複リンク型のピストンクランク機構を備えるレシプロ式エンジン、つまり先行エンジンを前提として、本実施形態では、シリンダ軸線Sをクランクシャフト2の回転中心Oより、エンジンをフロントから見て左右方向に所定量オフセットする。オフセットの方向はエンジンをフロント側から見てクランクシャフト2の回転方向が時計回りの場合に、右方向である。
また、このとき、ピストン9下死点位置近傍においてピストン9の慣性力に起因するスラスト力が、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2から遠い側(図1で右側)のシリンダ10aに作用するようにする。
図1においてカウンターウェイト4bの最外径の軌跡(クランクシャフト2の回転中心Oを中心とする円となる)をTで書き入れている。2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心Oより近い側(図1で左側)のシリンダ10bの下端まで、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心Oより遠い側(図1で右側)のシリンダ10aの下端と同じに下方に延長したのでは、近い側のシリンダ10bがカウンターウェイト4bと干渉してしまうので、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心Oより近い側のシリンダ10bの下端10dは、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心Oより遠い側のシリンダ10aの下端10cよりも下方に短く設定されている。言い換えると、シリンダ10のスラスト側の2つの下端は同じ位置にはなく、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心より遠い側のシリンダ10aの下端10cが、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心より近い側のシリンダ10bの下端10dに比べて、下方に延長されている。
このように、2つあるスラスト側のうちクランクシャフト2の回転中心Oより遠い側のシリンダ10aの下端10cが、クランクシャフト2の回転中心Oより近い側のシリンダ10bの下端10dよりも下方に延長されていると、クランクシャフト2の回転中心Oより遠い側のシリンダ10aにおける下死点近傍位置でのピストン摺動面が、クランクシャフト2の回転中心Oより近い側のシリンダ10bにおける下死点近傍位置でのピストン摺動面より大きくなる。
また、図2右側の2つの図に示したように、ピストン上死点位置でのピストン冠面9mとクランクシャフト2の回転中心Oとの間の上下方向距離を変えることなく、図2左側の2つの図に示す標準エンジンよりもピストン下死点位置を下げようとすれば、ピストン下死点近傍位置において、ピストン9のスカート部がカウンターウェイト4bと干渉してしまうので、この干渉を避けるためピストン9のスカート部を次のように形成する。
これについて、図3〜図6を参照して説明すると、図3はエンジンをフロントから見て、ピストンピン軸に直交する平面で切ったときのピストン9の縦断面図、図4はエンジンを右方向からみて、ピストンピン軸を含む平面で切ったときのピストン9の縦断面図、図5はピストン9の一部を切り欠いて示す斜視図、図6はピストン9の側面図である。
ピストン9は、アルミニウム合金を用いて一体に鋳造されたものであって、比較的厚肉な円盤状をなすピストン頭部21の外周面に、複数本、例えば3本のピストンリング溝22が形成され、ピストン9のスラスト−反スラスト方向となる周方向の一部には、上記外周面から円筒面に沿って延びるように、スカート部23が形成されている。このスカート部23は、図6に示すように、ピストンピン8と直交する方向から見た投影形状が略矩形状をなし、そのピストンピン軸方向に沿った幅Lは、ピストンピン8の全長と略等しいか、あるいはピストンピン8の全長よりも短いものとなっている。つまり、スカート部23は、周方向の非常に小さな範囲に設けられている。
また、上記ピストン9(第1部材)の中心部つまり円盤状をなすピストン頭部21の裏面中心部に、二股部分が図4に示すように鉛直下方に伸びて形成されており、この二股部分に一対のピンボス部24,25(軸受部)を有している。ピストン9の二股部分の間にはロアーリンク6(第2部材)の上端ピンボス部31(軸受部)がはまりこむ空間が設けられている。ピストン9の二股部分に設けている一対のピンボス部24,25は、ピストンピン8の両端部を支持するものである。この実施形態では、一対のピンボス部24,25に円筒状に形成されるピン孔26,27の内径はピストンピン8の外径よりも極く僅か小さく、ピストンピン8が後述するように圧入されるようになっている。上記ピン孔26,27の内周には、ピストンピン軸方向に沿った油溝28,29が形成されている。
一方、アッパーリンク6(第2部材)は鋼製のものであり、上端、下端の2つのピンボス部31,32と、これらを支持するロッド部35とから構成されている。図7に示すように、ピストン9側の一端(上端)に、ピンボス部31(軸受部)が短い円筒状に形成され、この上端ピンボス部31にピストンピン8の中央部が回転自在に嵌合するピン孔32が貫通形成されている。このピン孔32には後述する図8(B)に示すようにリング状のブッシュ41が収納され、ブッシュ41の内径はピストンピン8の外径よりも極く僅か大きく、ピストンピン8との間に所定のクリアランスが生じるようになっている。
また、ロアーリンク5と連結されるアッパーリンク6の他端(下端)にも、図7に示すようにピストン9側の上端部と同様に、アッパーピン7の中央部を支持する下端ピンボス部33(軸受部)が形成されている。この下端ピンボス部33は、ロアーリンク本体5a側に形成される一対のピンボス部61,62(後述する)の間に挟まれた形となり、アッパーピン7の中央部に嵌合する。このような構成は、ピストンピン8、アッパーピン7の潤滑の上で有利となる。
ここで、ピストンピン8が受ける荷重とアッパーピン7が受ける荷重とは基本的に等しいので、ピストンピン8とアッパーピン7とは、互いに等しい径とすることができる。従って、例えば、アッパーリンク6の上下ピンボス部31、33を全く対称に構成することが可能である。
図8(B)は、上記ピストン9と上記アッパーリンク6とを、ピストンピン8によって連結した組付状態を示している。一対のピンボス部24,25を含むピストン9の二股部分の間に挟まれるように、アッパーリンク6のピンボス部31が位置し、ピストンピン8の両端部をピストン9の二股部分側が支持し、かつピストンピン8の中央部にアッパーリンク6のピンボス部31が回転自在に嵌合する。これら3つのピンボス部24,25,31およびピストンピン8からなるピストン9とアッパーリンク5との揺動リンク連結構造のピストンピン軸方向の寸法(図6のL1)は、ピストン9ないしはシリンダ10の直径に比べて、かなり小さなものとなっている。
そして、ピストン9が下死点近傍にあるときに、ピストンピン8を保持した一対のピンボス部24,25の側方を、カウンターウェイト4bの最外径部が通過するようになっている(図8(B)では左側方を通過するカウンターウェイト4bのみを示す)。
また、図8(B)から明らかなように、スカート部23も小型化されていることから、上記のようにカウンターウェイト4bが一対のピンボス部24,25の側方を通過する際に、スカート部23と干渉することはない。このようにスカート部23を小型化すると、その剛性を大きく確保することは困難であるが、複リンク式ピストン−クランク機構においては、ピストン9を傾けようと作用するサイドスラスト荷重は、一般の単リンク式ピストン−クランク機構の場合よりも小さくなるので、スカート部23は最小の大きさで済む。具体的には、ピストン9に最大燃焼圧が作用するのは、膨張行程の前半であり、ピストン頭部21が最大荷重を受けることになるが、このとき、アッパーリンク6は、垂直に近い姿勢であり、シリンダ10の軸線に対する傾きが非常に小さい。特に、単リンク式ピストン−クランク機構の場合のコネクティングロッドの姿勢に比べて、シリンダ10の軸線に対する傾きを、より小さくすることが可能である。従って、サイドスラスト荷重が低減し、スカート部23の小型化が可能となる。これについてさらに述べると、図27に示したように上記アッパーピン7の運動軌跡を楕円とすることで、ピストンピン8を中心とするアッパーリンク6の揺動角度が小さくなりアッパーリンク6の揺動角速度が小さくなる。アッパーリンク6に作用する燃焼荷重は、通常、圧縮上死点後10〜20deg程度で最大となり、その後、シリンダ内圧が低くなるまで荷重を受け続ける。その間、アッパーピン7の軌跡が楕円形状であれば、アッパーリンク6が殆ど角度変化しない状態で荷重を受けるため、ピストンピン8との摺動速度が小さくなり(殆どゼロ)、これによってサイドスラスト荷重を低減できるのである。
なお、前述したように、ピストン9とアッパーリンク6との連結部と、アッパーリンク6とロアーリンク5との連結部とは、最大荷重である燃焼ガス圧力による荷重レベルは基本的に同じであるため、同一の仕様で問題はない。慣性荷重に関しては、後者の方がアッパーリンク6の慣性力の分だけ増大するが、ロアーリンク5はアッパーリンク6と共に鋼製の部品であるので、ピストン9がアルミニウム合金製であることを考慮すると、何ら支障はなく、むしろ都合がよいものとなる。
図8(A)には、ピストン9とアッパーリンク6との従来装置の連結方法、つまりフルフロート形式の連結方法を、ピストン9とアッパーリンク6との連結部分に適用したところを参考までに示す。従来装置の連結方法では、一対のピンボス部24,25のピン孔26,27の内面とピストンピン8の外面との間に所定のクリアランスが設けられるので、一対のピンボス部24,25と、アッパーリンク6のピンボス部31とを貫通してピストンピン8を収納した後に、ピストンピン8の両側に設けられている抜け止めクリップ溝42,43に、図示しない抜け止め用スナップリングを装着することにより、ピストンピン8がピストンピン軸方向に抜け落ちることがないようにされる。しかしながら、従来装置の連結方法だと、抜け止めクリップ溝42,43を一対のピンボス部24,25に作らなければならない分だけ一対のピンボス部24,25のピストンピン軸方向幅が厚くなってしまい、一対のピンボス部24,25の側方をカウンターウェイト4bが通る空間を確保できなくなる。こうした場合に、本発明の実施形態では図8(B)に示したように、一対のピンボス部24,25のピン孔26,27にピストンピン8を圧入する構成とすることで、フルフロート形式(一対のピンボス部24,25に対してピストンピン8が回転可能)に必要なピンの抜け止め用スナップリングを廃止し、これによりピストン9の二股部分に設けている一対のピンボス部24,25のピストンピン軸方向幅を抑制することにしたものである。
さて、ピストン9(第1部材)の二股部分に設けている一対のピンボス部24,25(軸受部)にピストンピン8を圧入する作業時にピストンピン8との摩擦による荷重が、一対のピンボス部24,25を含むピストン9の二股部分に作用してピストン9の二股部分が大きく撓んだのではエンジン実動時のピストン9とアッパーリンク6との連結状態が不良となるおそれがある。そこで、一対のピンボス部24,25にピストンピン8を圧入する際には、ピストン9の二股部分が撓むのを防ぐため、冶具を用いてピストン9の二股部分を支えることが考えられるのであるが、ピストンピン圧入作業時に毎回冶具を使うのでは、ピストンピンの圧入作業時の工数がかかってしまう。ピストン9、アッパーリンク6、ピストンピン8の各仕様が異なる度に上記の治具を作成するのも工数の増加に結びつく。
そこで本発明では、ピストンピン圧入作業時にピストン9の二股部分が撓むことを、構成部品であるアッパーリンク6を用いて防止し、ピストンピン圧入作業時の工数を低減することとする。また、ピストン9の二股部分を撓ませない簡単な圧入作業方法を採用することで、軸受幅低減によるピストン軽量化およびエンジン全長低減を狙う。
具体的に、本発明の第1実施形態の要部であるピストン9とアッパーリンク6との揺動リンク連結構造を、図9、図10を参照して説明すると、図9はエンジン実働時のピストン9とアッパーリンク6との組付状態を、図10はピストンピン圧入作業時のピストン9とアッパーリンク6との組付状態をそれぞれ示している。詳細には図9(A)、図10(A)は、エンジンを後ろからみたときのピストン9及びアッパーリンク6の概略構成図である。また、図9(B)は図9(A)のX−X線に沿ってみたときのピストン9及びアッパーリンク6の断面図を、図10(B)は図10(A)のY−Y線に沿ってみたときのピストン9及びアッパーリンク6の断面図を示している。ただし、ピストンピン8は示していない。
図9(B)に示したように、エンジン実動時に、一対のピンボス部24,25を含む、ピストン9の二股部分の付け根側(上側)はピストンピン軸方向幅が相対的に広く、これに対してピストン9の二股部分の先端側(下側)はピストンピン軸方向幅が相対的に狭く、付け根側と先端側との間の中間部分は滑らかにつながるように、ピストン9の二股部分のうちアッパーリンク6の上端ピンボス部31に対面する側の面を、ピストンピン周方向(上下方向)に対して所定の角度(例えばA)だけ傾いた斜面51、52で形成する。これに対応して、アッパーリンク6の上端ピンボス部31の先端側(上側)はピストンピン軸方向幅が相対的に狭く、アッパーリンク6の上端ピンボス部31のロッド部35側(下側)はピストンピン軸方向幅が相対的に広く、先端側と本体側の間の中間部分は滑らかにつながるように、ピンボス部31のピストンピン軸方向の両側を、ピストンピン周方向(上下方向)に対して上記所定の角度(A)と同じ角度だけ傾いた斜面53、54で形成し、一対のピンボス部24,25を含むピストン9の二股部分のうち、アッパーリンク6の上端ピンボス部31に対面する側の面と、アッパーリンク6の上端ピンボス部31との間に、つまり斜面51と53の間及び斜面52と54の間にアッパーリンク6が揺動し得る範囲でピストンピン軸方向の所定のクリアランスが生じるようにする。これにより、エンジン実動時には、一対のピンボス部24,25を含むピストン9の二股部分と、アッパーリンク6の上端ピンボス部31との間にピストンピン軸方向のクリアランスが生じるため、ピストン9とアッパーリンク6との間に摩擦が生じない。
また、上端ピンボス部31のロッド部35側(下側)のピストンピン軸方向の幅は、後述する図12に示した場合より広くし、上端ピンボス部31の先端側(上側)のピストンピン軸方向の幅は、図12に示した場合より狭くする。後述する図15において図示矢印のような燃焼荷重が下向きに作用したとき、これの反作用として図9(B)において燃焼荷重が上向きに作用するのであるが、アッパーリンク6の上端ピンボス部31を、このようにロッド35部側と先端側とでピストンピン軸方向幅の異なる軸受部とすることで、大きな荷重を受けるロッド35部側の軸受面積が大きくなっているため、図12に示した場合よりアッパーリンク6の軸受負荷容量が向上する。
一方、図10(A)に示したように、実施形態の複リンク式ピストン−クランク機構においてはエンジン実動中のアッパーリンク6がピストン軸に対して片側(図で右側)に振れるリンクジオメトリ(リンク形状)であるため、図示の姿勢を仮にエンジン実働時の最大揺動姿勢とすると、ピストンピン8の圧入作業に際して、エンジン実働時の最大揺動姿勢を外れた圧入作業姿勢にアッパーリンク6をセットする。つまり、エンジン実働時の最大揺動姿勢よりも反時計方向にさらに所定の角度だけ回動した姿勢にアッパーリンク6をセットしたときには、図10(B)に示したように、一対のピンボス部24,25を含むピストン9の二股部分と、アッパーリンク6の上端ピンボス部31との間にピストンピン軸方向のクリアランスが存在しなくなるように、ピストン9の二股部分のうちアッパーリンク上端ピンボス部31に対面する側の面を、ピストンピン周方向(上下方向)に対して所定の角度(例えばB)だけ傾いた斜面56,57で形成する。この場合に、所定の角度(B)は前記所定の角度(A)と等しいか近いものとする。このピストンピン圧入作業姿勢(つまり図10(A)に示すピストンピン圧入作業姿勢)でピストン9の二股部分のうちピストンピン軸方向外側の面(上端ピンボス部31に対面しない側の面)の一方を当て部材(図示しない)に当接した後、ピストンピン8を一対のピン孔26,27に圧入するのであれば、アッパーリンク6の上端ピンボス部31が、ピストン9の二股部分を支持する治具として働くことになり、ピストンピン圧入作業時の摩擦により、一対のピンボス部24,25を含むピストン9の二股部分が撓むことが避けられる。
ピストンピン8の圧入作業を完了した後には、アッパーリンク6の姿勢を図9に示すエンジン実働時の姿勢に戻す。これにより、エンジン実動時には、一対のピンボス部24,25を含むピストン9の二股部分と、アッパーリンク6の上端ピンボス部31との間にピストンピン軸方向の所定のクリアランスが生じるため、ピストン9とアッパーリンク6との間に摩擦が生じない。
このように、本発明の第1実施形態では、ピストン9の二股部分の内面(二股部分のうちアッパーリンク6の上端ピンボス部31に対面する側の面)に、エンジン実動時(アッパーリンク6を稼動範囲内の姿勢にした場合)とピストンピン圧入作業時(アッパーリンク6を稼動範囲外の姿勢にした場合)とで2つの異なる角度の斜面51,53、52,57を形成することで、ピストンピン圧入作業のためアッパーリンク6(他方の部材)を稼動範囲外の姿勢にした場合にピストン9(第1部材)とアッパーリンク6(第2部材)とがピストンピン軸方向に当接し、アッパーピン6を稼動範囲内の姿勢に戻した場合にピストン9とアッパーリンク6との当接が外れる構成としたものである。
ここで、「ピストンピン軸方向に当接する」とは、アッパーリンク6(第2部材)がピストン9(第1部材)の二股部分に軽く圧入された状態となっているかまたはピストン9(第1部材)の二股部分とアッパーリンク6(第2部材)との間にピストンピン軸方向の微小な隙間がある状態をいう。この「ピストンピン軸方向に当接する」との定義は後述する第2、第3の実施形態でも同じである。
また、第1実施形態は、アッパーリンク6が、エンジン実働時の最大揺動姿勢を外れた圧入作業姿勢にある場合に(アッパーリンク6を稼働範囲外の姿勢にした場合に)、ピストン9の二股部分とアッパーリンク6とが嵌合することによってピストン9の二股部分とアッパーリンク6とがピストンピン軸方向に当接するものであるが、ピストン9の二股部分とアッパーリンク6との嵌合面である斜面53,54と斜面56,57のうち少なくとも一方(アッパーリンク6側の斜面53,54だけ、ピストン9の二股部分側の斜面56,57だけあるいはアッパーリンク6側の斜面53,54及びピストン9の二股部分側の斜面56,57の両方)を機械加工する。
さらに、第1実施形態(後述する第2、第3の実施形態についても)では、ピストン9(第1部材)とアッパーリンク6(第2部材)のうちクランクシャフト軸心からの重心位置が遠い方の部材であるピストン9を、ピストンピン圧入作業を行う前に機械加工しておく。
次に、図11は第2実施形態のピストンピン圧入作業時のピストンとアッパーリンクとの組付状態を示す概略構成図、図12は第2実施形態のエンジン実働時のピストンとアッパーリンクとの組付状態を示す概略構成図で、図11(A)は第1実施形態の図10(A)と、図12は第1実施形態の図10(B)と置き換わるものである。また、図11(B)は、図11(B)のZ−Z線に沿ってみたときのピストン9及びアッパーリンク6の断面図である。ただし、第2実施形態でもピストンピン8は示していない。
図12に示したようにエンジン実動時に、第2実施形態では一対のピンボス部24,25を含むピストン9の二股部分の付け根側(上側)から先端側(下側)までピストンピン軸方向幅が同じとなるように、これに対応して、アッパーリンク6の上端ピンボス部31の先端側(上側)から本体側(下側)までも、ピストンピン軸方向の幅が同じになるように形成し、一対のピンボス部24,25を含むピストン9の二股部分と、アッパーリンク6の上端ピンボス部31との間に、アッパーリンク6が揺動し得る範囲でピストンピン軸方向の所定のクリアランスが生じるようにしている。
一方、図11(B)に示したように、アッパーリンク6を、エンジン実働時の最大揺動姿勢を外れたピストンピン圧入作業姿勢にした場合に、第2実施形態では、ピストン9の二股部分とアッパーリンクロッド部35との間のクリアランスが無くなるように、一対のピンボス部24,25からアッパーリンクロッド部35に向けて突出する一対のリブ51,52を、一対のピンボス部24,25を含むピストン9の二股部分と一体に設けている。このため、ピストンピン圧入作業時にアッパーリンク6がピストン9の二股部分を支持する治具として働くことになり、第1実施形態と同様に、一対のピンボス部24,25を含むピストン9の二股部分の倒れ(ボス倒れ)を抑制することが可能となる。
また、ピストンピン8の圧入作業を完了した後に、アッパーリンク6をエンジン実働時の姿勢に戻したときには、アッパーリンクロッド部35は一対のリブ51,52から外れ、図12に示したように、一対のピンボス部24,25を含むピストン9の二股部分と、アッパーリンク6の上端ピンボス部31との間にピストンピン軸方向の所定のクリアランスが生じることとなり、一対のリブ51,52がピストン9とアッパーリンク6との連結状態を阻害することはない。
このように、第2実施形態では、ピストンピン圧入作業時にのみ利用できる撓み防止用リブ51,52を、一対のピンボス部24,25を含むピストン9の二股部分と一体に設けることで、ピストンピン圧入作業のためアッパーリンク(他方の部材)を稼動範囲外の姿勢にした場合にピストン9とアッパーリンク6とがピストンピン軸方向に当接し、アッパーピン6を稼動範囲内の姿勢に戻した場合にピストン9とアッパーリンク6との当接が外れる構成としたものである。なお、図11では一対のリブ51,52をピストン9の二股部分の側に設けているが、一対のリブ51,52をアッパーリンク6の側に設けてもかまわない。
また、一対のリブ51,52はピストンピン8の圧入作業完了後には不要となるので、削り去ることにより、ピストン9の重量増加を避けることができる。また、その切削加工において気筒間の重量バランスを調整することが可能となる。
図11(A)ではエンジン実働時の最大揺動姿勢よりもさらに反時計方向に回動させた位置をピストンピン圧入作業姿勢とし、アッパーリンク6が振れる側(右側)の位置に一対のリブ51,52を設けているが、ピストンピン圧入作業姿勢及び一対のリブ51,52の位置はこれに限られるものでない。たとえば、図11(A)において、図示の圧入作業姿勢と左右対称となる位置までアッパーリンク6を時計方向に回動させた姿勢をピストンピン圧入作業姿勢とし、同じく図示のリブ51,52と左右対称となる位置に一対のリブを設けることが考えられる。
この実施形態を第3実施形態とすれば、第3実施形態は、エンジン実動中のアッパーリンク6がピストン軸に対して片側に振れる(図11(A)ではアッパーリンク6がピストン軸に対して右側に振れているが、これはエンジンを後ろから見ているためであり、エンジンをフロントから見た場合には、図1に示したように、エンジン実動中のアッパーリンク6はピストン軸に対して左側に振れる)リンクジオメトリ(リンク形状)である場合に、ピストン9の二股部分に一体に設ける一対のリブを、このエンジン実動中のアッパーリンク6が片側(図11(A)では右側、図1では左側)に振れる側と逆の側(図11(A)では左側、図1では右側)に設けるものである。
第2、第3の実施形態では、一対のリブ51,52をピストン9の二股部分側に設けているが、アッパーリンク6側に設けてもかまわない。
次に、図13は図8(B)に示した2つの部材の揺動リンク連結方法と同じ連結方法でアッパーリンク6(第2部材)とロアーリンク本体5a(第1部材)とを連結した組付状態を示している。すなわち、ロアーリンク本体5aには、二股部分が鉛直上方に伸びて形成されており、この二股部分に一対のピンボス部61,62(軸受部)を有している。ロアーリンク本体5aの二股部分の間にはアッパーリンク6の下端ピンボス部33(軸受部)がはまりこむ空間が設けられている。ロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対のピンボス部61,62は、アッパーピン7の両端部を支持するものである。この実施形態では、一対のピンボス部61,62に円筒状に形成されるピン孔63,64の内径はアッパーピン7の外径よりも極く僅か小さく、アッパーピン7が圧入されるようになっている。また、アッパーリンク6の下端ピンボス部33のピン孔34にはリング状のブッシュ65が収納され、ブッシュ65の内径はアッパーピン7の外径よりも極く僅か大きく、アッパーピン7との間に所定のクリアランスが生じるようになっている。この結果、一対のピンボス部61,62を含むロアーリンク本体5aの二股部分の間に挟まれるように、アッパーリンク6の下端ピンボス部33が位置し、アッパーピン7の両端部をロアーリンク本体5aの二股部分側が支持し、かつアッパーピン7の中央部にアッパーリンク6の下端ピンボス部33が回転自在に嵌合している。
このように、ロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対のピンボス部61,62のピン孔63,64にアッパーピン7を圧入する構成とすることで、フルフロート形式(ロアーリンク本体5aの一対のピンボス部61,62に対してアッパーピン7が回転可能)に必要なピンの抜け止め用スナップリングを廃止し、これによりロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対のピンボス部61,62のピストンピン軸方向幅を抑制することができている。
さて、図13に示したロアーリンク本体5aとアッパーリンク6との揺動リンク連結構造においても、ロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対のピンボス部61,62にアッパーピン7を圧入する作業時にアッパーピン7との摩擦による荷重が、一対のピンボス部61,62を含むロアーリンク本体5aの二股部分に作用してロアーリンク本体5aの二股部分が大きく撓むおそれがある。図14はアッパーピン7を一方のピンボス部61のピン孔63への圧入を終えて他方のピンボス部62のピン孔64への圧入を行おうとしている途中の状態を示し、上側の二股部分に撓み(ボス倒れ)が生じていることがわかる。そこで、一対のピンボス部61,62にアッパーピン7を圧入する際には、一対のピンボス部61,62を含ロアーリンク本体5aの二股部分が撓むのを防ぐため、冶具を用いてロアーリンク本体5aの二股部分を支持することが考えられるのであるが、アッパーピン圧入作業時に毎回冶具を使うのでは、アッパーピンの圧入作業時の工数がかかってしまう。ロアーリンク本体5a、アッパーリンク6、アッパーピン7の各仕様が異なる度に上記の治具を作成するのも工数の増加に結びつく。
そこで第4実施形態では、アッパーピン圧入作業時にロアーリンク本体5aの二股部分が撓むことを、構成部品であるアッパーリンク6を用いて防止し、アッパーピン圧入作業時の工数を低減することとする。
具体的に、第4実施形態の要部であるロアーリンク本体5aとアッパーリンク6との揺動リンク連結構造を、図15〜図17を参照して説明すると、図15、図16はエンジン実働時のロアーリンク本体5aとアッパーリンク6との組付状態を、図17はアッパーピン圧入作業時のロアーリンク本体5aとアッパーリンク6との組付状態を示している。ただし、図16(A)、図17(A)はエンジンを後ろからみたときのロアーリンク本体5a及びアッパーリンク6の概略構成図、図16(B)は図16(A)のX−X線に沿ってみたときのロアーリンク本体5a及びアッパーリンク6の断面図を、図17(B)は図7(A)のY−Y線に沿ってみたときのロアーリンク本体5a及びアッパーリンク6の断面図を示している。ただし、図16、図17においてアッパーピン7は示していない。
図15、図16(B)に示したように、エンジン実動時に、一対のピンボス部61,62を含むロアーリンク本体5aの二股部分の先端側(上側)は相対的にアッパーピン軸方向の幅が狭く、これに対してロアーリンク本体5aの二股部分の付け根側(下側)は相対的にアッパーピン軸方向の幅が広く、先端側と付け根側の間の中間部分は滑らかにつながるように、ロアーリンク本体5aの二股部分のうちアッパーリンク6の下端ピンボス部33に対面する側の面を、アッパーピン周方向(上下方向)に対して所定の角度(例えばC)だけ傾いた斜面71、72で形成する。これに対応して、アッパーリンク6の下端ピンボス部33のロッド部35側(上側)は相対的にアッパーピン軸方向の幅が広く、下端ピンボス部33の先端側(下側)は相対的にアッパーピン軸方向の幅が狭く、ロッド部35側と先端側の間の中間部分は滑らかにつながるように、下端ピンボス部33のアッパーピン軸方向の両側を、アッパーピン周方向(上下方向)に対して上記所定の角度(C)と同じ角度だけ傾いた斜面73、74で形成し、一対のピンボス部61,62を含むロアーリンク本体5aの二股部分と、アッパーリンク6の下端ピンボス部33との間に、つまり斜面71と73の間及び斜面72と74の間にアッパーリンク6が揺動し得る範囲でアッパーピン軸方向の所定のクリアランスが生じるようにする。これにより、エンジン実動時には、一対のピンボス部61,62を含むロアーリンク本体5aの二股部分と、アッパーリンク6の下端ピンボス部33との間にアッパーピン軸方向のクリアランスが生じるため、ロアーリンク本体5aとアッパーリンク6との間に摩擦が生じない。
また、下端ピンボス部33のロッド部35側(上側)のアッパーピン軸方向の幅は、図13に示した場合より広くし、下端ピンボス部33の先端側(下側)のアッパーピン軸方向の幅は、図13に示した場合より狭くする。図15において図示矢印のような燃焼荷重が下向きに作用するのであるが、アッパーリンク6の下端ピンボス部33を、このようにロッド35部側と先端側とでアッパーピン軸方向幅の異なる軸受部とすることで、大きな荷重を受けるロッド35部側の軸受面積が大きくなっているため、図13に示した場合よりアッパーリンク6の軸受負荷容量が向上する。
一方、図17(A)に示したように、アッパーピン7の圧入作業に際して、エンジン実働時の最大揺動姿勢を外れた圧入作業姿勢にアッパーリンク6をセットしたときには、図17(B)に示したように、一対のピンボス部61,62を含むロアーリンク本体5aの二股部分と、アッパーリンク6の下端ピンボス部33との間にアッパーピン軸方向のクリアランスが存在しなくなるように、ロアーリンク本体5aの二股部分のうちアッパーリンク6の下端ピンボス部33に対面する側の面を、アッパーピン周方向(上下方向)に対して所定の角度(例えばD)だけ傾いた斜面76,77で形成する。この場合に、所定の角度(D)は前記所定の角度(C)と等しいか近いものとする。このアッパーピン圧入作業姿勢(つまり図17に示すアッパーピン圧入作業姿勢)でロアーリンク本体5aの二股部分のうちアッパーピン軸方向外側の面(下端ピンボス部33に対面しない側の面)の一方を当て部材(図示しない)に当接した後、アッパーピン7を一対のピン孔63,64に圧入するのであれば、アッパーリンク6の下端ピンボス部33が、ロアーリンク本体5aの二股部分を支持する治具として働くことになり、アッパーピン圧入作業時の摩擦により、一対のピンボス部61,62を含むロアーリンク本体5aの二股部分が撓むことが避けられる。
アッパーピン7の圧入作業を完了した後には、アッパーリンク6の姿勢を図15、図16に示すエンジン実働時の姿勢に戻す。これにより、エンジン実動時には、一対のピンボス部61,62を含むロアーリンク本体5aの二股部分と、アッパーリンク6の下端ピンボス部33との間にアッパーピン軸方向の所定のクリアランスが生じるため、ロアーリンク本体5aとアッパーリンク6との間に摩擦(フリクション)が発生せず、スカッフも摩耗も起こらない。
このように、第4実施形態では、ロアーリンク本体5aの二股部分の内面(二股部分のうちアッパーリンク6の下端ピンボス部33に対面する側の面)に、エンジン実動時(アッパーリンク6を稼動範囲内の姿勢にした場合)とアッパーピン圧入作業時(アッパーリンク6を稼動範囲外の姿勢にした場合)とで2つの異なる角度の斜面71,76、72,77を形成することで、アッパーピン圧入作業のためアッパーリンク6(他方の部材)を稼動範囲外の姿勢にした場合にロアーリンク本体5aとアッパーリンク6とがアッパーピン軸方向に当接し、アッパーピン6を稼動範囲内の姿勢に戻した場合にロアーリンク本体5aとアッパーリンク6との当接が外れる構成としたものである。
ここで、「アッパーピン軸方向に当接する」とは、アッパーリンク6(第2部材)がロアーリンク本体5a(第1部材)の二股部分に軽く圧入された状態となっているかまたはロアーリンク本体5a(第1部材)の二股部分とアッパーリンク6(第2部材)との間にアッパーピン軸方向の微小な隙間がある状態をいう。この「アッパーピン軸方向に当接する」との定義は後述する第5〜第8の実施形態でも同じである。
また、第4実施形態は、アッパーリンク6がエンジン実働時の最大揺動姿勢を外れた圧入作業姿勢にある場合に(アッパーリンク6を稼働範囲外の姿勢にした場合に)、ロアーリンク本体5aの二股部分とアッパーリンク6とが嵌合することによってロアーリンク本体5aの二股部分とアッパーリンク6とがアッパーピン軸方向に当接するものであるが、ロアーリンク本体5aの二股部分とアッパーリンク6との嵌合面である斜面73,74と斜面76,77のうち少なくとも一方(アッパーリンク6側の斜面73,74だけ、ロアーリンク本体5aの二股部分側の斜面76,77だけあるいはアッパーリンク6側の斜面73,74及びロアーリンク本体5aの二股部分側の斜面76,77の両方)を機械加工する。
さらに、第4実施形態(後述する第5、第6、第7、第8の実施形態についても)では、ロアーリンク本体5a(第1部材)とアッパーリンク6(第2部材)のうちクランクシャフト軸心からの重心位置が遠い方の部材であるアッパーリンク6を、アッパーピン圧入作業を行う前に機械加工しておく。
次に、図18、図19は第5、第6の実施形態のアッパーピン圧入作業時のロアーリンク本体5aとアッパーリンク7との組付状態を示す概略構成図、図20は第5、第6の実施形態のエンジン実働時のロアーリンク本体5aとアッパーリンク7との組付状態を示す概略構成図である。ただし、第5、第6の実施形態におけるアッパーリンク6の圧入作業姿勢は図17(A)とは異なっている。
これら第5、第6の実施形態では、図20に示したようにエンジン実動時に、一対のピンボス部61,62を含むロアーリンク本体5aの二股部分の先端側(上側)から付け根側(下側)までアッパーピン軸方向幅が同じとなるように、これに対応して、アッパーリンク6の下端ピンボス部33のロッド部35側(上側)から先端側(下側)まで、アッパーピン軸方向幅が同じになるように形成し、一対のピンボス部61,62を含むロアーリンク本体5aの二股部分と、アッパーリンク6の下端ピンボス部33との間に、アッパーリンク6が揺動し得る範囲でアッパーピン軸方向の所定のクリアランスが生じるようにしている。
一方、図18に示したように、第5実施形態では、ロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対のピンボス部61,62と、二股部分の付け根との間に一対の延長部67,68が設けられており、アッパーリンク6が、エンジン実働時の最大揺動姿勢を外れたアッパーピン圧入作業姿勢にあるとき、ロアーリンク本体5aとアッパーリンクロッド部35との間にクリアランスが無くなるように、アッパーリンクロッド部35から一対の延長部の内面67a,68aに向けて突出する一対のリブ81、82をアッパーリンクロッド部35と一体に設けている。このため、アッパーピン圧入作業時にアッパーリンク6が、ロアーリンク本体5aの二股部分を支持する治具として働くことになり、第4実施形態と同様に、一対のピンボス部61,62を含むロアーリンク本体5aの二股部分の倒れ(ボス倒れ)を抑制することが可能となる。
アッパーピン7の圧入作業を完了した後に、アッパーリンク6をエンジン実働時の姿勢に戻したときには、アッパーリンクロッド部35に一体に設けている一対のリブ81,82はロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対の延長部67,68から外れ、図20に示したように、一対のピンボス部61,62を含むロアーリンク本体5aの二股部分と、アッパーリンク6の上端ピンボス部31との間にアッパーピン軸方向の所定のクリアランスが生じることとなり、アッパーリンクロッド部35に一体に設けている一対のリブ81,82が、ロアーリンク本体5aとアッパーリンク6との連結状態を阻害することはない。
このように、第5実施形態では、アッパーピン圧入作業時にのみ利用できる撓み防止用リブ81,82を、アッパーリンクロッド部35と一体に設けることで、アッパーピン圧入作業のためアッパーリンク6(他方の部材)を稼動範囲外の姿勢にした場合にロアーリンク本体5aとアッパーリンク6とがアッパーピン軸方向に当接し、アッパーピン6を稼動範囲内の姿勢に戻した場合にロアーリンク本体5aとアッパーリンク6との当接が外れる構成としたものである。なお、図18では一対のリブ81,82をアッパーリンク6の側に設けているが、一対のリブ81,82をロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対の延長部67,68側に設けてもかまわない。
また、一対のリブ81,82はアッパーピン圧入作業完了後には不要となるので、削り去ることにより、アッパーリンク6の重量増加を避けることができる。また、その切削加工において気筒間の重量バランスを調整することが可能となる。
ただし、図18から明らかなように、アッパーリンク6がアッパーピン圧入作業姿勢にある場合に、ロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対のピンボス部61,62のうちアッパーリンク6の下端ピンボス部33と対面する側の面61a,62aと、アッパーリンク6の下端ピンボス部33のアッパーピン軸方向端面36,37との間には、アッパーピン軸方向のクリアランスが存在するので、このクリアランス分だけはロアーリンク本体5aの二股部分が撓むことを避けることができない。
そこで、図19に示したように、第6実施形態では、アッパーリンク6がエンジン実働時の最大揺動姿勢を外れたアッパーピン圧入作業姿勢にある場合に、アッパーリンクロッド部35に設けている一対のリブ81,82のアッパーピン軸方向端面81a,82aと、アッパーリンク6の下端ピンボス部33のアッパーピン軸方向端面36,37と、ロアーリンク本体5aの二股部分の内面(一対のピンボス部61,62のうちアッパーリンク6の下端ピンボス部33と対面する側の面61a,62a及び一対の延長部67,68のうちアッパーリンクロッド部35と対面する側の面67a,68a)とがすべて同一平面となるようにする。すなわち、アッパーリンク6がエンジン実働時の最大揺動姿勢を外れたアッパーピン圧入作業姿勢にある場合に、アッパーリンクロッド部35と一体に設けている一対のリブ81,82のアッパーピン軸方向端面81a,82aと、ロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対の延長部67,68の内面67a,68aとの間だけでなく、アッパーリンク6の下端ピンボス部33のアッパーピン軸方向端面36,37と、ロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対のピンボス部61,62の内面61a,62aとの間にもクリアランスがなくなるように、アッパーリンク6と、ロアーリンク本体5aの二股部分の内面とを形成する。
このように、アッパーリンクロッド部35に設けている一対のリブ81,82のアッパーピン軸方向端面81a,82aと、アッパーリンク6の下端ピンボス部33のアッパーピン軸方向端面36,37と、ロアーリンク本体5aの二股部分の内面(61a,62a,67a,68a)とを同一平面とすることで、アッパーリンクロッド部35に設けている一対のリブ81,82のみならず、アッパーリンクロッド部35に設けている一対のリブ81,82からアッパーリンク6の下端ピンボス部33のアッパーピン軸方向端面36,37までの剛性でもって、一対のピンボス部61,62を含むロアーリンク本体5aの二股部分を支持するため、第5実施形態に比べて剛性が高く、ロアーリンク本体5aの二股部分の撓みを抑制できる。
また、アッパーリンク6の機械加工上、下端ピンボス部33のアッパーピン軸方向端面36,37の一方と一対のリブ81、82のアッパーピン軸方向端面81a,82aの一方とを一回で機械加工することが可能となるため、第5実施形態よりもアッパーリンク6の加工工程を低減できる。
なお、第6実施形態でも、アッパーピン圧入作業完了後に、一対のリブ81,82を削り去ることにより、アッパーリンク6の重量増加を避けることができる。また、その切削加工において気筒間の重量バランスを調整することが可能となる。
次に、図21、図22は第7実施形態の、図21、図23、図24は第8実施形態のアッパーピン圧入作業時のロアーリンク本体5aとアッパーリンク6との組付状態を示す概略構成図で、図21は第5実施形態の図18と置き換わるものである。また、図22、図23は図21のX−X線に沿った断面図である。図24はエンジンを後ろからみたときのロアーリンク本体5a及びアッパーリンク6の概略構成図で、第4実施形態の図17(A)と置き換わるものである。
図22に示したように、第7実施形態では、アッパーリンク6がエンジン実働時の最大揺動姿勢を外れたアッパーピン圧入作業姿勢にある場合に、アッパーリンクロッド部35に設けている一対のリブ81,82のアッパーピン軸方向端面が、アッパーピン軸方向に直交する面に対し所定の角度傾いた斜面81b,82bで形成されており、この一対の斜面81b,82bの一部がロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対の延長部67,68の間にはまりこんで当接し、一対の斜面81b,82bの残りはロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対の延長部67,68の間にはまりこめないようにしている。言い替えると、一対のリブ81,82のアッパーピン軸方向端面間のアッパーピン軸方向最大長さ(幅)が、一対の延長部67,68の間のアッパーピン軸方向間隔より大きくなるようにしている。
上記図18において、一対のリブ81,82のアッパーピン軸方向端面81a,82a間のアッパーピン軸方向幅や、ロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対の延長部67,68の内面67a,68a間のアッパーピン軸方向の間隔は、製作バラツキによりバラツクため、第5実施形態のように、アッパーリンク6が、エンジン実働時の最大揺動姿勢を外れたアッパーピン圧入作業姿勢にある場合に、一対のリブ81,82のアッパーピン軸方向端面81a,82aと、ロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対の延長部67,68の内面67a,68aとの間にクリアランスがなくなるようにするには、アッパーピン軸方向端面81a,82a間のアッパーピン軸方向幅と、ロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対の延長部67,68の内面67a,68aの間のアッパーピン軸方向間隔とをロアーリンク本体5aの二股部分、アッパーリンク6の制作時に厳しく管理することが必要となるのであるが、第7実施形態によれば、アッパーリンクロッド部35に設けている一対のリブ81,82のピン軸方向端面がアッパーピン軸方向に直交する面に対して傾斜する斜面81b,82bで形成されているので、アッパーリンク6がエンジン実働時の最大揺動姿勢を外れたアッパーピン圧入作業姿勢にある場合に、アッパーリンクロッド部35に設けている一対のリブ81,82の寸法やロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対の延長部67,68の内面間の寸法が製作バラツキによりバラツクことがあっても、寸法バラツキを吸収して、アッパーリンクロッド部35に設けている一対のリブ81,82と、ロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対の延長部67,68の内面67a,68aとの間のクリアランスをなくすことが可能となり(クリアランスがなくなるまで一対のリブ81,82を一対の延長部67,68の内面67a,68aの間にはめ込めばよい)、一対のピンボス部61,62を含むロアーリンク本体5aの二股部分が撓むこと(ボス倒れ)を抑制できる。
次に、図23に示したように、第8実施形態は、アッパーリンクロッド部35に設けている一対のリブ81,82のアッパーピン軸方向端面を、段付きの面とするものである。すなわち、図23において、アッパーリンク6がエンジン実働時の最大揺動姿勢を外れたアッパーピン圧入作業姿勢にある場合に、アッパーリンクロッド部35に設けている一対のリブ81,82のアッパーピン軸方向端面が、アッパーピン軸方向に直交する面と平行な一対の第1端面81c,82cと、同じくアッパーピン軸方向に直交する面と平行な一対の第2端面81d,82dとからなり、これら一対の2つの端面81c,81dと82c,82dとは一対の段付き部81e,82eでつながれている。ここで、一対の第1端面81c,82cの間のアッパーピン軸方向幅は、ロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対の延長部67,68の内面66,67の間のアッパーピン軸方向間隔とほぼ等しく、かつ一対の第2端面81d,82dの間のアッパーピン軸方向幅は、ロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対の延長部67,68の内面66a,67aの間のアッパーピン軸方向間隔よりも大きくしている。
また、図24に示したように、アッパーリンク6がエンジン実働時の最大揺動姿勢を外れたアッパーピン圧入作業姿勢にある場合に、一対の段付き部81e,82eをロアーリンク本体5aの二股部分の側面5cに当接させた状態で図示矢印方向に滑らせたときたとき、アッパーリンク6の下端ピンボス部33のピン孔34と、ロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対のピンボス部のピン孔63,64とが一致するように、一対の段付き部81e,82eの位置や角度を設定している。
このように、第8実施形態では、アッパーリンク6がエンジン実働時の最大揺動姿勢を外れたアッパーピン圧入作業姿勢にある場合に、ロアーリンク本体5aの二股部分と、アッパーリンクロッド部35に設けている一対のリブ81,82の一部(一対の第1端面81c,82c)とが嵌合することによってロアーリンク本体5aの二股部分とアッパーリンク6とがアッパーピン軸方向に当接するとき、このロアーリンク本体5aの二股部分とアッパーリンク6との間のアッパーピン軸方向のクリアランスを無くし、アッパーリンクロッド部35に設けている一対のリブ81,82の残り(一対の第2端面81d,82d)はロアーリンク本体5aの二股部分と嵌合しないでロアーリンク本体5aの二股部分にアッパーピン軸方向に直交する方向から当接しているので、第5実施形態の作用効果に加えて、アッパーリンク6がエンジン実働時の最大揺動姿勢を外れたアッパーピン圧入作業姿勢にある場合に、アッパーリンクロッド部35に設けている一対のリブ81,82によりロアーリンク本体5aとアッパーリンク6の間の相対位置を規制することが可能となることから、ロアーリンク本体5aの二股部分に設けている一対のピンボス部61,62のピン孔63,64と、アッパーリンク6の下端ピンボス部33のピン孔34との両ピン孔中心を合わせることが容易になり、ロアーリンク本体5aとアッパーリンク6との組付性が向上する。
なお、第7、第8の実施形態においても、アッパーピン圧入作業完了後に、上記一対のリブ81,82を削り去ることにより、アッパーリンク6の重量増加を避けることができる。また、その切削加工において気筒間の重量バランスを調整することが可能となる。
次に、ロアーリンク5のもう一つの片側を構成するロアーリンク本体5bは、コントロールピン12によりコントロールリンク11とも連結されているので、このロアーリンク本体5bとコントロールリンクとの連結部に、ロアーリンク5の一方の片側を構成するロアーリンク本体5aとアッパーリンク6との連結部と同様の構成を設けている。これを図25を参照して説明すると、図25は第9実施形態のコントロールリンク11との連結部に設けられる、ロアーリンク本体5b(第2部材)の二股部分の斜視図である。すなわち、ロアーリンク本体5bには、二股部分が鉛直上方に伸びて形成されており、この二股部分に一対のピンボス部91,92(軸受部)を有している。ロアーリンク本体5bの二股部分の間にはコントロールリンク(第2部材)の一端(図1で上端)のピンボス部(軸受部)がはまりこむ空間が設けられている。ロアーリンク本体5bの二股部分に設けている一対のピンボス部91,92は、コントロールピン12の両端部を支持するものである。ロアーリンク本体5bの二股部分に設けている一対のピンボス部91,92に円筒状に形成されるピン孔93,94の内径はコントロールピン12の外径よりも極く僅か小さく、コントロールピン12が圧入されるようになっている。また、コントロールリンクの一端(図1で上端)のピンボス部のピン孔にはリング状のブッシュが収納され、ブッシュの内径はコントロールピンの外径よりも極く僅か大きく、コントロールピンとの間に所定のクリアランスが生じるようになっている。この結果、一対のピンボス部91,92を含むロアーリンク本体5bの二股部分の間に挟まれるように、コントロールリンクの一端(図1で上端)のピンボス部が位置し、コントロールピンの両端部をロアーリンク本体5bの二股部分の側が支持し、かつコントロールピンの中央部にコントロールリンクの一端(図1で上端)のピンボス部が回転自在に嵌合している。
さて、こうしたロアーリンク本体5bとコントロールリンクとの揺動リンク連結構造においても、ロアーリンク本体5bの二股部分に設けている一対のピンボス部91,92にコントロールピン12を圧入する作業時にコントロールピン12との摩擦による荷重が、一対のピンボス部91,92を含むロアーリンク本体5bの二股部分に作用してロアーリンク本体5bの二股部分が大きく撓むおそれがある。
そこで第9実施形態では、コントロールピン圧入作業時にロアーリンク本体5bの二股部分が撓むことを、構成部品であるコントロールリンク11を用いて防止し、コントロールピン圧入作業時の工数を低減することとする。
具体的に説明すると、図25に示したように、ロアーリンク本体5bの二股部分に設けている一対のピンボス部91,92と二股部分の付け根との間に一対の延長部95,96が設けられており、コントロールリンクがエンジン実働時の最大揺動姿勢を外れたコントロールピン圧入作業姿勢にあるとき、ロアーリンク本体5bとコントロールリンクロッド部との間にクリアランスが無くなるように、ロアーリンク本体5bの二股部分に設けている一対の延長部95,96の内面95a,96aからコントロールリンクロッド部に向けて突出する一対のリブ97,98を、ロアーリンク本体5bの二股部分に設けている一対の延長部95,96(の付け根)と一体に設けている。このため、コントロールピン圧入作業時にコントロールリンクがロアーリンク本体5bの二股部分を支持する治具として働くことになり、一対のピンボス部91,92を含むロアーリンク本体5bの二股部分の倒れ(ボス倒れ)を抑制することが可能となる。
コントロールピンの圧入作業を完了した後に、コントロールリンクをエンジン実働時の姿勢に戻したときには、コントロールリンクは、ロアーリンク本体5bの二股部分に設けている一対のリブ97,98から外れ、一対のピンボス部91,92を含むロアーリンク本体5bの二股部分と、コントロールリンクの一端(図1で上端)のピンボス部との間にコントロールピン軸方向の所定のクリアランスが生じることとなり、ロアーリンク本体5bの二股部分に設けている一対のリブ97,98が、ロアーリンク本体5bとコントロールリンクとの連結状態を阻害することはない。
このように、第9実施形態では、コントロールピン圧入作業時にのみ利用できる撓み防止用リブ97,98を、ロアーリンク本体5bと一体に設けることで、コントロールピン圧入作業のためコントロールリンク(他方の部材)を稼動範囲外の姿勢にした場合にロアーリンク本体5bとコントロールリンクとがコントロールピン軸方向に当接し、コントロールリンクを稼動範囲内の姿勢に戻した場合にロアーリンク本体5bとコントロールリンクとの当接が外れる構成としたものである。なお、図25では一対のリブ97,98をロアーリンク本体5bの二股部分に設けているが、一対のリブ97,98をコントロールリンク11の側に設けてもかまわない。
また、実施形態では、ロアーリンク5がロアーリンク本体5aとロアーリンク本体5bの2つに分割され、この分割された2部品をボルトによって締結する構成であり、コントロールピン12付近のロアーリンク構造体に雌ねじが切られている場合に、燃焼荷重が作用したとき、ロアーリンク本体5bの二股部分が図26に示すように変形する。この変形によって、ロアーリンク締結ボルト101と、ロアーリンク本体5bに形成している雌ねじとの噛み合い先端部ネジ底に圧縮応力が発生するのであるが、第9実施形態によれば、上記のようにロアーリンク本体5bの二股部分の付け根に一対のリブ97,98を設けるので、この変形を抑制でき、ネジ底応力変動を低減することができる。従って、このような効果が得られるので、第9実施形態では、コントロールピン圧入作業完了後に一対のリブ97,98を削り去ることはしない。
また、第9実施形態では、ロアーリンク本体5b(第1部材)とコントロールリンク11(第2部材)のうちクランクシャフト軸心からの重心位置が遠い方の部材であるコントロールリンクを、コントロールピン圧入作業を行う前に機械加工しておく。
ここで、上述した9つの実施形態の作用効果をまとめて説明する。
第1から第9までのいずれか一つの実施形態(請求項1、20に記載の発明)によれば、二股部分に軸受部(図9〜図12の一対のピンボス部24,25、図15〜図21の一対のピンボス部61,62、図25、図26の一対のピンボス部91,92)を有する第1部材(図9〜図12のピストン9、図15〜図21のロアーリンク本体5a、図25、図26のロアーリンク本体5b)と、軸受部(図9〜図12のピンボス部31、図15〜図21のピンボス部33、図25、図26のコントロールリンクの一端に設けられるピンボス部)を有し第1股部材の二股部分に介装される第2部材(図9〜図12のアッパーリンク6、図15〜図21のアッパーリンク6、図25、図26のコントロールリンク)と、第1部材の軸受部に圧入され、第2部材の軸受部を通り、第1部材と第2部材とを連結するピン(図9〜図12のピストンピン8、図15〜図21のアッパーピン7、図25、図26のコントロールピン)とを備え、第1部材または第2部材のうち一方の部材(図9〜図12のピストン9、図15〜図21のロアーリンク本体5a、図25、図26のロアーリンク本体5b)に対して他方の部材(図9〜図12、図15〜図21のアッパーリンク6、図25、図26のコントロールリンク)が所定の稼働範囲で揺動する揺動リンク構造において、他方の部材(図9〜図12のアッパーリンク6、図15〜図21のアッパーリンク6、図25、図26のコントロールリンク)を稼動範囲外の姿勢(圧入作業姿勢)にした場合に第1部材の二股部分と第2部材とがピン軸方向に当接し(図10、図11、図17、図18、図19、図21参照)、他方の部材を稼動範囲内の姿勢(エンジン実動時の揺動姿勢)に戻した場合に第1部材の二股部分と第2部材との当接が外れる(図9、図12、図15、図16、図20参照)構成としたので、他の部材を稼働範囲外の姿勢にした場合には、構成部品である第2部材がピン圧入作業時に第1部材の二股部分を支持する治具として働くことになり、ピンの圧入作業を確実に行わせることができる。これにより、ピンの圧入作業時に、ピンと、第1部材の軸受部との摩擦によって二股部分が撓むことを防止できる。一方、他方の部材を稼動範囲内の姿勢に戻した場合には、第1部材の二股部分と第2部材との当接が外れるので、一方の部材に対して他方の部材が所定の稼働範囲で揺動し得ることとなる。すなわち、第1部材の二股部分と第2部材とが直接摺動することがないので、フリクションの増加を抑制できる。また、ピンの第1部材の軸受部への圧入により、ピンと第1部材の軸受部との間が摺動面ではなくなるため、潤滑上の問題が回避され、かつピン抜け止め防止用のCリングやサークリップが不要となるため、第1部材の軸受部のピン軸方向幅を低減できる。
他方の部材(図9〜図12のアッパーリンク6、図15〜図21のアッパーリンク6、図25、図26のコントロールリンク)を稼動範囲外の姿勢(圧入作業姿勢)にした場合に、第2部材が第1部材の二股部分にぴったりはまる(当接する)のが理想であるものの、実際には製作バラツキがあるためにそのようなことは難しいのであるが、第1から第9までのいずれか一つの実施形態(請求項2、21に記載の発明)によれば、「ピン軸方向に当接する」とは、第2部材(図9〜図12のアッパーリンク6、図15〜図21のアッパーリンク6、図25、図26のコントロールリンク)が第1部材(図9〜図12のピストン9、図15〜図21のロアーリンク本体5a、図25、図26のロアーリンク本体5b)の二股部分に軽く圧入された状態となっているかまたは第1部材の二股部分と第2部材との間にピン軸方向の微小な隙間がある状態をいうので、製作バラツキがあっても、第2部材と第1部材の二股部分とのピン軸方向隙間を理想に近づけることができる。
第1、第4の実施形態(請求項3に記載の発明)によれば、他方の部材(図9、図10、図15〜図17のアッパーリンク6)を稼働範囲外の姿勢(圧入作業姿勢)にした場合に第1部材(図9、図10のピストン9、図15〜図17のロアーリンク本体5a)の二股部分と第2部材(図9、図10のアッパーリンク6、図15〜図17のアッパーリンク6)とが嵌合することによって第1部材の二股部分と第2部材とがピン軸方向に当接するとき、第1部材の二股部分と第2部材との嵌合面(図10(B)の一対の斜面53,54と一対の斜面56,57、図17(B)の斜面73,74と斜面76,77)のうち、少なくとも一方を機械加工するので、第1部材の二股部分と第2部材との嵌合面のうち少なくとも一方の寸法精度が、その一方を機械加工以外で加工する場合より高い分だけ確実に、ピン圧入作業時に第1部材の二股部分の倒れを抑制できる。
第1、第4の実施形態(請求項4に記載の発明)によれば、他方の部材(図9、図10、図15〜図17のアッパーリンク6)を稼働範囲外の姿勢(圧入作業姿勢)にした場合に、第1部材の軸受部(図9、図10の一対のピンボス部24,25、図15〜図17の一対のピンボス部61,62)及び第2部材の軸受部(図9、図10のピンボス部31、図15〜図17のピンボス部33)のピン軸方向厚さを、ピン周方向に、第1部材の軸受部のうち第2部材の軸受部に対向する側の面(図10(B)の斜面56,57、図17(B)の斜面76,77)と、第2部材の軸受部端面(図10(B)の斜面53,54、図17(B)の斜面73,74)との間にクリアランスがなくなるように変化させ、かつ他方の部材(図9、図10、図15〜図17のアッパーリンク6)を稼働範囲内の姿勢(エンジン実動時の揺動姿勢)に戻した場合に、第1部材の軸受部及び第2部材の軸受部のピン軸方向厚さを、ピン周方向に、第1部材の軸受部のうち第2部材の軸受部に対向する側の面(図9(B)の斜面51,52、図16(B)の斜面71,72)と、第2部材の軸受部端面(図9(B)の斜面53,54、図16(B)の斜面73,74)との間に所定のクリアランスを保ちつつ変化させるので、他方の部材を稼働範囲外の姿勢にした場合に、第2部材が第1部材の二股部分を支持する治具として働くことになり、第1部材の軸受部にピンを圧入する作業を行う際の二股部分の倒れを防止できる。
第1、第4の実施形態(請求項5に記載の発明)によれば、他方の部材(図9、図10、図15〜図17のアッパーリンク6)を稼働範囲内の姿勢(エンジン実動時の揺動姿勢)にした場合に第2部材の軸受部(図9、図10の一対のピンボス部31、図15〜図17の一対のピンボス部33)を、ピン軸(図9、図10のピストンピン軸、図15〜図17のアッパーピン軸)を中心として荷重が加わる側(図9、図10で下側、図15〜図17で上側)と、それとは逆の荷重が加わらない側(図9、図10で上側、図15〜図17で下側)との2つに分けたとき、荷重が加わる側の軸受部のピン軸方向厚さを、荷重が加わらない側の軸受部のピン軸方向厚さより厚くするので、荷重が加わる側の軸受部に加わる圧力を、ピン軸を中心として荷重が加わる側とそれとは逆の荷重が加わらない側とでピン軸方向厚さが一定である場合より小さくすることができる。
第5から第8までのいずれか一つの実施形態(請求項6に記載の発明)によれば、他方の部材(図18〜図21のアッパーリンク6)を稼働範囲外の姿勢(圧入作業姿勢)にした場合に、第1部材の二股部分と第2部材とが嵌合することによって第1部材(図18〜図21のロアーリンク本体5a)の二股部分と第2部材(図18〜図21のアッパーリンク6)とがピン軸方向(アッパーピン軸方向)に当接するとき、第1部材の二股部分と第2部材との間のピン軸方向のクリアランスを無くするリブ(図18、図19、図21の一対のリブ81,82)を第2部材(アッパーリンク6)が有するので、ピン圧入作業時にはリブを有する第2部材が第1部材の二股部分を支持する治具として働くことになり、ピンと第1部材の軸受部との摩擦によって二股部分が撓むことを防止できる。
また、第5から第8までのいずれか一つの実施形態によれば、ピンの圧入作業完了後に第2部材のリブ(図18、図19、図21の一対のリブ81,82)の大半を削除加工するので、第2部材の重量増加を避けることができる。また、その切削加工において気筒間のリンク重量バラツキを低減できる。
第2、第9の実施形態(請求項7に記載の発明)によれば、他方の部材(図11のアッパーリンク6、図25において図示しないコントロールリンク)を稼働範囲外の姿勢(圧入作業姿勢)にした場合に、第1部材(図11のピストン9、図25のロアーリンク5b)の二股部分と第2部材(図11のアッパーリンク6、図25において図示しないコントロールリンク)とが嵌合することによって第1部材の二股部分と第2部材とがピン軸方向に当接するとき、第1部材の二股部分と第2部材との間のピン軸方向(図11のピストンピン軸方向、図25のコントロールピン軸方向)のクリアランスを無くするリブ(図11の一対のリブ51,52、図25の一対のリブ97,98)を第1部材(図11のピストン9、図25のロアーリンク本体5b)が有するので、ピン圧入作業時には第2部材が第1部材の二股部分を支持する治具として働くことになり、ピンと第1部材の軸受部との摩擦によって第1部材の二股部分が撓むことを防止できる。また、リブ(図11の一対のリブ51,52、図25の一対のリブ97,98)によって第1部材の強度を向上できる。
第6実施形態(請求項8に記載の発明)によれば、第1部材(図19のロアーリンク本体5a)の二股部分の付け根側に軸受部でない延長部(図19の一対の延長部68,69)を有すると共に、第2部材(図19のアッパーリンク6)には軸受部でない本体部分(図19のロッド部35)と、この本体部分からピン軸方向に突出するリブ(図19の一対のリブ81,82)とを有し、他方の部材(図19のアッパーリンク6)を稼働範囲外の姿勢(圧入作業姿勢)にした場合に、第1部材の延長部(図19の一対の延長部68,69)と第2部材の本体部分(図19のロッド部35)から突出するリブ(図19の一対のリブ81,82)とが嵌合することによって第1部材の二股部分と第2部材とがピン軸方向に当接するとき、第2部材の軸受部及びリブのピン軸方向端面(図19のアッパーピン軸方向端面36,37及びアッパーピン軸方向端面81a,82a)と、第1部材の二股部分に設けている軸受部及び延長部のうち第2部材と対面する側の面(図19の面61a,62a及び面67a,68a)とが同一平面であるので、他方の部材を稼働範囲外の姿勢にした場合に、第1部材の二股部分に設けている延長部と、第2部材の本体部分から突出するリブとが嵌合したときの、第1部材の二股部分と第2部材との抵触面積が増え、リブのみならずリブを含んだ第2部材全体の剛性によって、ピン圧入作業時に第1部材の二股部分に作用する力を受けることが可能となり、第1部材の二股部分が撓むことを防止できる。
第7実施形態(請求項9に記載の発明)によれば、第1部材(図21のアッパーリンク6)のリブ(図21の一対の81,82)のピン軸方向端面がピン軸方向に直交する面に対して傾斜する斜面(図22の斜面81b1,82b)であるので、第1部材の二股部分の内面(図22の面67a,68a)間の間隔や、第1部材のリブに寸法バラツキがあっても、第1部材の二股部分と第2部材との間のピン軸方向のクリアランスを吸収してゼロにすることが可能となり、第1部材の二股部分が撓むことを防止できる。
第8実施形態(請求項10に記載の発明)によれば、第1部材(図21のロアーリンク本体5a)の二股部分と第2部材(図21のアッパーリンク6)のリブの一部(図23の一対の第1端面81c,82c)とが嵌合することによって第1部材の二股部分と第2部材とがピン軸方向(図21のアッパーピン軸方向)に当接するとき、第1部材の二股部分と第2部材との間のピン軸方向のクリアランスを無くし、リブの残り(図23の一対の第2端面81d,82d)は第1部材の二股部分と嵌合しないで第1部材の二股部分にピン軸方向に直交する方向から当接しているので(図23参照)、第1部材の二股部分と嵌合しないリブの残りによって第1部材と第2部材の間の相対位置を規制することが可能となることから(図24参照)、第1部材の二股部分の軸受部(図21の一対のピンボス部61,62)と第2部材の軸受部(図21のピンボス部33)とのピン孔中心を合わせることが容易になり、第1部材と第2部材の組付性が向上する。
第1、第2の実施形態(請求項13に記載の発明)によれば、往復動エンジンのピストン9とピストンピン8を介して一端が連結されるアッパーリンク6と、このアッパーリンク6にアッパーピン7を介して揺動可能に連結されると共にクランクピン4に回転可能に装着されるロアーリンク5と、このロアーリンク5とコントロールピン12を介して揺動可能に連結されると共にシリンダブロック1に設けられた支点中心に揺動するコントロールリンク11とを備え(図1参照)、第1部材はピストン9、第2部材はアッパーリンク6、第1部材と第2部材とを連結するピンはピストンピン8であるので(図9〜図12参照)、ピストン9の二股部分の軸受部(図9〜図12の一対のピンボス部24,25)にピストンピン8を圧入してピストン9とアッパーリンク6とを連結する場合に、ピストン9の二股部分の倒れを防止できる。また、ピストン9の二股部分の軸受部が摺動面でなくなるので潤滑上の問題が回避されることや、ピストンピン抜け止め用のCリングまたはサークリップが不要となるため、ピストン9の二股部分の軸受部のピストンピン軸方向幅を、ピストン9の二股部分の軸受部が摺動面であるフルフロート形式の場合より低減できる。
図1に示したようにエンジン実動中のアッパーリンク6がピストン軸に対して片側(図1で左側)に振れるリンクジオメトリ(リンク形状)である場合には、ピストン9とアッパーリンク6とを合わせた全体の重心位置が、ピストンピン8に対して荷重を受けるスラスト側(図1で左側)に位置するため、ピストン9が上死点付近の燃焼荷重を受ける際に、回転慣性力がスラスト側でピストンスカートの下側部分からピストンスカートをシリンダ壁(図1でシリンダ10b)に衝突させる方向に作用してピストン打音が発生するのであるが、第3実施形態(請求項14に記載の発明)によれば、エンジン実動中のアッパーリンク6がピストン軸に対して片側に振れるリンクジオメトリである場合に、ピストン9のリブを、エンジン実動中のアッパーリンク6が片側に振れる側(図11で右側、図1で左側)と逆の側(図11で左側、図1で右側)に設けるので、ピストン9とアッパーリンク6を合わせた全体の重心位置が、ピストン9のリブの重さの分だけピストンピン8側に移動することになり、その分回転慣性力が小さくなり、シリンダ壁(図1でシリンダ10b)へのピストン打音を低減できる。
第1、第2の実施形態(請求項15に記載の発明)によれば、アンチスラスト側(図9(B)、図10(B)、図12の左右方向)のピストンスカートの幅をスラスト側(図9(A)、図10(A)、図11の左右方向)より狭くし、かつピストン9の二股部分の軸受部(図9〜図12の一対のピンボス部24,25)及びアッパーリンク6の軸受部(図9〜図12のピンボス部31)のピストンピン軸方向幅をピストン9直径より小さくするので、下死点でのピストン9とカウンターウェイト4bとの干渉を防止できるため(図8(B)参照)、ピストン9下死点位置を低く設定することが可能となりコンパクトかつロングストロークを実現できる。その一方で、ピストン9の二股部分の軸受部のピストンピン軸方向厚さが小さくなり、ピストンピン圧入作業時にピストン9の二股部分の撓み方向の剛性が低くなるのであるが、第1、第2の実施形態(請求項15に記載の発明)によれば、他方の部材(図9〜図12のアッパーリンク6)を稼動範囲外の姿勢(圧入作業姿勢)にした場合にピストン9とアッパーリンク6とがピストンピン軸方向に当接するので、ピストン9の二股部分の軸受部のピストンピン軸方向厚さが小さくなっても、アッパーリンク6によってピストン9の二股部分が支えられ、ピストン9の二股部分が撓むことを防止できる。
第1、第2の実施形態(請求項16に記載の発明)によれば、最大の燃焼荷重発生時にピストンピン8を中心とするアッパーリンク6の角速度が略ゼロになるリンクジオメトリ(リンク形状)であるので(図27参照)、アッパーリンク6とピストンピン8の相対速度が低減され、アッパーリンク摺動面の耐スカッフ性、耐焼付性が向上する。
第1、第2の実施形態(請求項17に記載の発明)によれば、アッパーピン7の運動軌跡は、ピストン運動方向(図27で上下方向)を長軸とし、これに直交する方向を短軸とする楕円であるので(図27参照)、ピストンピン8を中心とするアッパーリンク6の揺動角が、アッパーピン7の運動軌跡が円に近い形状の場合より小さくなり、その分ピストンピン8を中心とするアッパーリンク6の角速度が小さくなり、ピストンピン8とアッパーリンク6の間の摺動速度が低減され、負荷容量が向上する。このため、アッパーリンク6の軸受部(図9〜図12のピンボス部31)のピストンピン軸方向幅を低減させることが可能となり、それに伴って、アッパーリンク6の軸受部のピストンピン軸方向幅とピストン9の二股部分の軸受部(図9〜図12の一対のピンボス部24,25)のピストンピン軸方向幅とを合わせた全体としても、ピストンピン軸方向幅を小さくすることが可能となり、ピストン9の二股部分の軸受部を、余裕を持ってクランクシャフト2の隣り合うカウンターウェイト4bの間の間隔内に納めることができる。
第4から第9までのいずれか一つの実施形態(請求項18に記載の発明)によれば、ピストン9とピストンピン8を介して一端が連結されるアッパーリンク6と、このアッパーリンク6にアッパーピン7を介して揺動可能に連結されると共にクランクピン4に回転可能に装着されるロアーリンク5と、このロアーリンク5とコントロールピン12を介して揺動可能に連結されると共にシリンダブロック1に設けられた支点中心に揺動するコントロールリンク11とを備え、第1部材はロアーリンク5とアッパーリンク6のいずれか一方(図15〜図21のロアーリンク本体5a)、第2部材は第1部材でない残りのリンク(図15〜図21のアッパーリンク6)、第1部材と第2部材とを連結するピンはアッパーピン7であるか、または、第1部材はロアーリンク5とコントロールリンクのいずれか一方(図25のロアーリンク本体5b)、第2部材は第1部材でない残りのリンク(コントロールリンク)、第1部材と第2部材とを連結するピンはコントロールピンであるので、ロアーリンク5とアッパーリンク6のいずれか一方(第1部材)に設けられる二股部分の軸受部にアッパーピン7を圧入してロアーリンク5とアッパーリンク6とを連結する場合やロアーリンク5とコントロールリンク11のいずれか一方(第1部材)に設けられる二股部分の軸受部にコントロールピン12を圧入してロアーリンク5とコントロールリンク11とを連結する場合に、第1部材の二股部分の倒れを防止できる。
第1から第9までのいずれか一つの実施形態(請求項19に記載の発明)によれば、第1部材と第2部材のうちクランクシャフト軸心からの重心位置が遠い方の部材(図9〜図12のピストン9、図15〜図21のアッパーリンク6、図25において図示しないコントロールリンク)を機械加工するので、機械加工された方の部材の重量が機械加工以外で加工する場合より軽くなる(機械加工のほうが機械加工以外より寸法精度が良いため)分だけクランクシャフト2への慣性入力が低減し、クランクシャフト2の強度を向上できる。さらに、機械加工された方の部材の寸法精度が機械加工以外で加工する場合より高くなる分だけ確実に、ピン圧入作業時の第1部材の二股部分の倒れを抑制することができる。
第5から第8までのいずれか一つの実施形態(請求項23に記載の発明)によれば、他方の部材(図18〜図21のアッパーリンク6)を稼働範囲外の姿勢(圧入作業姿勢)にした場合に、第1部材(図18〜図21のロアーリンク本体5a)の二股部分と第2部材(図18〜図21のアッパーリンク6)とが嵌合することによって第1部材の二股部分と第2部材とがピン軸方向に当接するとき、第1部材の二股部分と第2部材との間のピン軸方向のクリアランスを無くするリブ(図18、図19、図21の一対のリブ81,82)を第2部材が有し、ピンの圧入完了後にこのリブを削る(リブの大半を削除加工する)ので、第2部材の重量増加を避けることができる。また、その切削加工において第1部材と第2部材とからなる揺動リンク部品間の重量バラツキ(気筒間の揺動リンク連結構造の重量バラツキ)を低減できる。
第2実施形態(請求項24に記載の発明)によれば、他方の部材(図11のアッパーリンク6)を稼働範囲外の姿勢(圧入作業姿勢)にした場合に、第1部材(図11のピストン9)の二股部分と第2部材(図11のアッパーリンク6)が嵌合することによって第1部材の二股部分と第2部材とがピン軸方向に当接するとき、この第1部材の二股部分と第2部材との間のピン軸方向のクリアランスを無くするリブ(図11の一対のリブ51,52)を第1部材が有し、ピンの圧入完了後にこのリブを削るので、第1部材の重量が軽くなるほか、第1部材と第2部材とからなる揺動部品間の重量バラツキを調整できる。
上記第5、第6、第7、第8の実施形態のバリエーションとして、他方の部材(図18〜図21のアッパーリンク6)を稼働範囲外の姿勢(圧入作業姿勢)にした場合に、第1部材(図18〜図21のロアーリンク本体5a)の二股部分と第2部材(図18〜図21のアッパーリンク6)とが嵌合することによって第1部材の二股部分と第2部材とがピン軸方向に当接するとき、第1部材の二股部分と第2部材との嵌合面を、ピン(図18〜図21において図示しないアッパーピン)を圧入する前に削ることが考えられる(第10実施形態)。この第10実施形態(請求項22に記載の発明)によれば、他方の部材(図18〜図21のアッパーリンク6)を稼働範囲外の姿勢にした場合に、第1部材(図18〜図21のロアーリンク本体5a)の二股部分と第2部材(図18〜図21のアッパーリンク6)とが嵌合することによって第1部材の二股部分と第2部材とがピン軸方向に当接するとき、第1部材の二股部分と第2部材との嵌合面を、前記ピンを圧入する前に削るので、第1部材の二股部分と第2部材との嵌合面の寸法精度が高くなり、より確実に第1部材の二股部分の倒れを抑制することができる。
実施形態では、本発明の揺動リンク連結構造を複リンク型ピストンクランク機構を備えるエンジンに適用した場合について述べたが、これに限定されるものでなく、本発明の揺動リンク連結構造を単リンク型ピストンクランク機構を備えるエンジンに適用することもできる。例えば、第1部材を往復動エンジンのピストン、第2部材をこのピストンとクランクシャフトを連結するコンロッド、第1部材と第2部材とを連結するピンをピストンピンとする(第11実施形態)。この第11実施形態(請求項11に記載の発明)によれば、第1部材は往復動エンジンのピストン、第2部材はこのピストンとクランクシャフトを連結するコンロッド、第1部材と第2部材とを連結するピンはピストンピンであるので、ピストンに設けられる軸受部にピストンピンを圧入してピストンとコンロッドとを連結する場合に、ピストンの二股部分の倒れを防止できる。
また、第1部材を往復動エンジンのピストン、第2部材をこのピストンとクランクシャフトを連結するコンロッド、第1部材と第2部材とを連結するピンをピストンピンとし、かつエンジン実動中のコンロッドがピストン軸に対して片側に振れるリンクジオメトリ(リンク形状)である場合に、ピストンのリブを、エンジン実動中のコンロッドが片側に振れる側と逆の側に設ける(第12実施形態)。
エンジン実動中のコンロッドがピストン軸に対して片側に振れるリンクジオメトリ(リンク形状)である場合には、ピストンとコンロッドを合わせた全体の重心位置がピストンピンに対して、荷重を受けるスラスト側に位置するため、ピストンが上死点付近の燃焼荷重を受ける際に、回転慣性力がスラスト側でピストンスカートの下側部分からピストンスカートをシリンダ壁に衝突させる方向に作用してピストン打音が発生するのであるが、第12実施形態(請求項12に記載の発明)によれば、エンジン実動中のコンロッドがピストン軸に対して片側に振れるリンクジオメトリである場合に、ピストンのリブは、エンジン実動中のコンロッドが片側に振れる側と逆の側に設けるので、ピストンとコンロッドを合わせた全体の重心位置が、ピストンが有するリブの重さの分だけピストンピン側に移動することになり、その分回転慣性力が小さくなり、ピストン打音を低減できる。